ゲスト
(ka0000)
【王国展】練筋協会の願い
マスター:小宮山

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2015/03/09 22:00
- 完成日
- 2015/03/25 07:40
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
システィーナ・グラハム(kz0020)王女の執務室。王城のほぼ中枢にあるそこは、この季節においても調度品や暖炉によって暖かく整えられている。そこに、ぽつり、と声が零れた。
「ハンターの皆さまに向けて、王国観光庁の設立……?」
「ええ」
システィーナ王女の声であった。応じた鈍く低い声は、セドリック・マクファーソン(kz0026)大司教。
「現状、復興が進んでいるとはいえ、先日のベリアルの侵攻の傷は、決して小さくはありません」
「そう、ですね。民も、傷ついています」
システィーナの理解に、セドリックは微かに笑みを浮かべた。
「その通りです、殿下。この国には余力がある。故に、土地も、経済も、時が経てば癒えましょう。ですが――民の心に刻まれた傷は、生半な事では癒えません」
「……そこで、観光庁、ですか? ハンターの皆さまが、どう関わるのです?」
「彼らの存在そのものが、王国の治安や防衛――そして経済に、深く関わります。安全の担保によって、民草に安堵を抱かせる。現状ですとその重要性は、言を 俟ちません。その点でハンターに対して王国の内情を詳らかにし、また、国民が広くハンターの存在と意義を知ることは現状では十分に価値あることです」
「そう、ですね……ハンターの皆さまが、この国の民にとって救いになり得る」
手を合わせて、王女はにこやかに笑んだ。華やぐ声で、言う。
「作りましょう、王国観光庁!」
「ええ、ではそのように。ああ、それと――」
少女の喝采に、セドリックの聖人の笑みが返った。
「観光を扱う以上、民草にとっても近しい組織でなくてはなりません。そこで、システィーナ王女。貴女の出番となります」
「は、はい」
「貴女に、観光庁の代表をして頂きます」
「……ふぇ?」
「早速、催し物の段取りをしておきましょう。王女の名の下に各地に通達し、商会、職人、その他諸々の団体を応召し、展覧会を執り行う――」
「え、ぇ?」
「詳細は後日、識者を集めて会議を行いますので、それまでにお考えをお纏めください……それでは、私はこれで」
「え……?」
――戸を閉じたセドリックの背中を、少女のか細い悲鳴が叩いた。
●
「依頼を出したいのだが、いいかな?」
野太い声にハンターオフィス窓口の受付嬢は目前の珍客に目を白黒させる。
何故なら、彼女の目の前には赤茶けたボールに乗ったユグディラしか目に入っていないからだ。
「えっと、あの……」
視点を変えてみよう。
ハンターオフィスのカウンター前には2メートルを超えるかというスキンヘッドで筋肉隆々の大男が、カウンターの上に頭だけを出し、その上にユグディラを乗せているのである。
大男にとってはただのお茶目なのだが、客観的に見るとあからさまに怪しい、というか、ただの不審者だった。
にゅっとカウンター下から顔を出し、無駄に白い歯で暑苦しい笑顔を振りまきながら、その男は話を続ける。
「俺の名はサムソン・コールマン。王国謹製錬金術協会の代表者だ。錬筋協会の方が通りがいいかな?」
「あぁ、練筋協会の代表さんでしたか。依頼を出したい、との事ですが、どの様な依頼を?」
王国謹製錬金術協会。通称「練筋協会」。
王国をより豊かにする為、依頼されればご近所の鍋の修理から、プレートアーマーの新造までなんでもやってのける。所謂「下町の何でも屋」に近いものがある。
錬金術協会と名が付いているのは代表者であるサムソンが覚醒者であり、アルケミストである事以外にあまり関連性は無い。元々が鉄工所なのもあり、錬金術に不慣れなサムソンの座右の銘が「錬金術で足りなければ筋肉で補えばいい」だからである。
「王国展ってーのがあるだろう? アレでな、一応俺の所でも商品を作ったんだが……やっぱハンターから意見聴取して作った物も必要なんじゃねーかって思ってな?」
「……はぁ」
「あーつまり、ウチの商品開発に付き合ってくれるハンターを募集したいってー事だ」
「成る程、商品開発のお手伝いですね」
「おぅ。済まんな、よろしく頼む。詳細はこの紙っ切れに書いておいたからよ。サインが必要な所だけ教えてくれ。チマチマしたのはしょうに合わねぇんだわ」
「あ、ではこことここに……」
──
「──というわけでだ。ハンター諸君にはウチの店に来てもらったってー訳だ」
サムソンが暑苦しい笑顔でハンター達を迎え入れ、飲み物を用意する。
「やって欲しい事は、とりあえず今回の王国展に出品してわかったんだが、矢張り使うモンの意見が反映された物の方がいいだろうって事でな」
「諸君が使いたい、あれば便利と思う武具を教えて欲しいという事だ。勿論、そのまま出せる訳じゃぁねえ。俺の会社のアレンジも加わるし、出来上がりが若干変わっちまうのは了承してくれ」
依頼内容を話しながら、ハンター達の前に数種類のよく冷えたピッチャーを並べていく。
「と、これはサービスだ。ウチの会社で作った新製品のプロテインだ。左からバニラ、バナナ、ストロベリー、ココア、グレープフルーツ、と。好きなだけ飲んでくれ」
目の前に並んだ大量のプロテインドリンク、無駄に暑苦しいマッチョ、そして工房の隅で鎧を着ようと四苦八苦している三匹のユグディラ。(サイズがユグディラサイズなので、恐らくサムソンが作った物なのだろう)
「今んとこパッとしねえ王国だけどよ、この王国展を起点に徐々に盛り上げていきたいんだわ。だからまあ、よろしく頼むわ!!」
ガッハッハと体を揺らしてサムソンが笑うと、その声に驚いてユグディラが飛び上がるのだった。
リプレイ本文
「さて、諸君。もう一度言うぞ? 見ての通り、ウチは鍛冶屋に毛が生えたようなもんだ。俺には毛がないけどな」
クスリと出来ない言葉から始まったサムソンの言葉。
「つまりだ。材料はほぼ金属!! たまに木と革と布!! そしてだ。ウチの武具はクセが強くてな。諸君の思い描く物の斜め上になる可能性が高いことを、最初に謝っておく。済まん!!」
しょっぱなから不安になるコメントから始まったこの提案会議、どうなるのだろうか。
「じゃあボクから!」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が元気に挙手をした。
「よし、意見を聞こう」
「リアルブルーにある普通の刃と櫛状の峰をもつ剣、なんだけど……」
「おう。いわゆるソードブレイカーってーヤツだな? 一般的に出回っちゃいねーが、多分クリムゾンウェストにもあると思うぜ」
ハンターに供給されていない特殊な武器は、クリムゾンウェストにも沢山あるだろう。なんせ未開の地が多い世界である。
「ボクは短剣サイズのものはもちろん使ってみたいけど、それだと比較的細身の武器にしか対応できない……大剣受け止めようものなら、こっちが壊れるしね。なので、その辺でも受け止められる様な幅広のロングソードあたりのサイズも合わせて、いろんなサイズがあると嬉しいよね」
「一理ある……が、ソードブレイカーの構造上、大剣の斬撃を受け止めるには相当刃の厚みを持たせないと、どのみち強度負けしちまうぜ? もちろん重量もマシマシだ。それでもいいなら検討してみよう」
「次に、蹴り技に使える脛当て、かな」
「蹴り技に、か。ふむ」
サムソンが腕組みをしながら思案する。
「ぶん殴る為の装備は結構あるけど、蹴り技を補助するようなものってあんまりないよなーって」
「そりゃあんまり一般的じゃねぇからなぁ……だがまあ、需要があるなら作るのが職人ってもんだ。話じゃイマイチ形をイメージできないんでな、ちょいとこっちの紙に書いてくんねーか」
差し出された紙とペンを受け取り、アルトが脚甲の図を描き始める。
「んじゃまあ、描いてもらってる間に次の話も聞いて行くか。じゃあ、お前さんはどんなものを考えてる?」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)を指差し、サムソンが問いかける。
「ん……個人的にこういうのが欲しいというので良ければ」
「かまやしねえよ。一人でも欲しいやつがいるなら、似たようなやつも何人かはいるだろ」
ガハハと笑いながらサムソンが先を促す。
「形状は双剣、片方が攻撃特化で、もう片方が防御特化のようなものが良いですね」
「ふむ。アルトのソードブレイカーの案と合わせる事も出来るな」
「それもアリだとおもいます。受け側の形状はやや短めで幅広の刀身、攻撃側は切れ味に重きを置いた感じでイメージしていましたけど。どちらも共通してマテリアルの親和性を──」
ユーリの話を聞いていたサムソンが、申し訳無さそうな顔で話を遮った。
「ああ、ちょっとスマン。マテリアル関係はちょいと俺の方が修行中でな。その辺は少し待ってくれるか。形にする時には何とか出来る……様に努力する」
いかんせん鍛冶屋に毛が生えた程度の練筋協会では、マテリアルの親和性を高める云々には技術や知識で足りない部分が多い。
「では、私の意見は以上ですね。御一考お願いします」
「おう、ありがとよ!」
「さて……次は、と」
ぐるりとメンバーを見回して、一点で目が止まる。
視線の先に居たのは鎧の装着で四苦八苦していたユグディラと戯れていた黒の夢(ka0187)だ。
「肉球ぷーにぷーにぷー……にゃっ♪」
「そこのユグディラと遊んでるの。話を聞かせてもらえるか?」
「おー、我輩の番なのなー♪」
弄っていたユグディラを抱えたままサムソンの元へと歩み寄る。
「我輩が考えるのは、ぱんちゅ型投擲武器なのな!」
「……は?」
瞬間、場の空気が固まる。
「街で囲まれたらぽーいするの、サムソンちゃんはしないー? その為のぱんちゅなのなー」
「ぱんちゅってパンツの事か? いや、しねぇよ。何だそれ……他に欲しいヤツが居るのか……?」
ぐるりと場のメンバーを見回すサムソンだが、目が合いそうになるメンバーはことごとく目を逸らす。
「流石にオーダーメイドはちょっとなぁ……」
毛の無い頭をポリポリと掻きながら困った表情を浮かべる。
「掴みはオッケーなのなー♪ 次は猫じゃらし型魔術具なのな!」
「魔術具自体の性能は保証出来ないが、ぱんちゅよりは現実的か。詳しく話してくれるか?」
「魔法を使う旅に猫が召喚できるかもしれない杖なのな! こういう……こういう……こういうの!」
どこから出したのか、猫じゃらしを抱いていたユグディラで説明し始める。
「まてまてまてまて! 流石に召喚は無理だ。猫じゃらし型、というのならまだ何とかしよう」
「ちぇー。じゃあ後は、王国エンブレムのー──」
「ストップだ。王国エンブレムに関わる物は、残念ながらうちではちょっと無理かもしれん。武具を作ってるのはうちだけじゃないからな。だが、話は上に通しておこう」
サムソンは黒の夢の話を聞きながら手早くメモを取ると、何やら判子を押して脇に押しやる。
「あとなー」
「まだあるのかよ……」
「大事なところだけは隠れてるというか、それだけが取り柄みたいな軽い鎧が欲しいのなー。あと、鎧とローブが一緒になった魔術師用鎧なのな!」
「前者は支給品のビキニアーマーの紐の調整で何とかしてくれ……後者はやっとうちで作れそうな物だな」
「えへへー、これが我輩のあれば嬉しいのとっておき!」
「最初から言ってくれ……」
心底疲れた顔で書き留めると、サムソンは次のメンバーに目をやる。
「じゃあ、お前さん。次頼めるか」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)の方に視線をやり、サムソンは問いかける。
「さて、アイデアか。ふむ、武器なら……私、猟撃士じゃろ? つまりは弓や銃を得物としてるのじゃが、やはり接近される恐れはあり、武器を取り出すには手間がかかり隙ができる」
「ふむ、一理ある」
頷きながらサムソンは先を促す。
「それでじゃ。長銃の先に剣を付けたい。銃剣じゃな。これが欲しい」
「なるほど。これは欲しいという奴が沢山いそうだ。銃剣付きの銃としては少し難しいかもしれんが、銃の先に付ける短剣としてなら簡単でもある。ま、重さはどうしても重くなっちまうが」
「そうじゃの、軽さと硬度の兼ね合いが肝心か」
「ははは、重くするのは得意なんだがなぁ!」
体を揺らして声を上げるサムソン。
部屋の端では黒の夢がユグディラを抱えて昼寝中である。笑い声に慣れてきたのか、今度は飛び上がることは無かった様だ。
「他には信号弾とか照明弾とかはどうじゃろ? 通信が使えない広域に伝えねがならない状況もあるじゃろうし、夜間戦闘もあるしの。色も数種類あると良いかもしれん」
「ふむ、信号弾に照明弾か。大規模作戦の時には重宝しそうだな。これはうちで作るよりは上に持ちかけた方が良さそうでもあるな。黒の夢の件と一緒に伝えておこう」
サムソンはサラサラっと書き留めた書類に判子をドスンと押し、脇に押しやる。
「作るものが決まったら私にも少し手伝わせておくれよ。これでもドワーフの端くれ。力仕事も手先もお任せあれじゃ。単純に新しいものができるのを見てみたいのもあるがな?」
「ああ、その時はまた依頼を出すよ。都合があったら頼む」
「さて、あと二人か……じゃあ、お前さん、王国を盛り上げる装備案を頼む」
クリスティン・ガフ(ka1090)の話を促すサムソン。
「まあ、王女が某陛下みたいに前で戦う訳にもいかんしな」
「おっと、その話はそこまでだ」
シッと口前に人差し指を立て周囲を伺う様にサムソンが話を止める。
「……では、私からは3点意見を出そう」
「一つ目だが、現状、騎馬で片手手綱時は小竜程度で大半の射撃武器が役に立たん。なので、騎馬で片手撃ちを想定した片手弓か補助する篭手を希望したい」
「つまり、弩か。ふむ」
「死活問題故、ゆくゆくは3連装の片手弓位まで開発を努力してほしいな」
「ハードルあげるねぇ……」
「言うだけはタダだからな。続けて二つ目だ」
「現状、騎兵用の槍はあるが、対になる腕固定型の騎兵用盾が全くない故に元から腕固定型専用の盾が欲しい」
少し思案して、サムソンが答える。
「重量装備なら任せとけ──と、言いたい所だが、ふむ。なんちゃら専用ってのは難しいが、騎兵にも使える盾ってー形になるかもしれないな」
「ふむ。では三つ目だ。基本的に巨人とかガルドブルムとか大きい歪虚と白兵でやりあうならストッピングパワーが必須故、重量武器が要る」
徐に立ち上がり覚醒して武器を抜こうとするクリスティンを見て、サムソンは慌てて止める。
「まてまてまて! 何するつもりだよ!」
「少し演舞をな」
「やめてくれ……店ん中で武器振り回されるなんて御免だぜ。演舞は絶対必要なのか?」
「ふむ。なら話だけで済まそう」
覚醒を解いたクリスティンにサムソンは安堵したため息をつきながら、話の続きを待つ。
「どこまで話したか……重量武器が必要のくだりか。現状は小細工で誤魔化す形のこのような間に合わせの武器が目立つ」
自身の武器に目をやりながらクリスティンは続ける。
「相手が慣れる事も考慮して白兵でやるならば覚醒者用に扱いやすさも考えて製作した3m級の剣が要る。加えて、妙な癖も無く、柄と剣の割合は3対7位の装飾がない機能美重視、立ち回りは筋肉で補えばいい。以上の3点を併せ持つ太く硬く大きい武器は話題性もあるのではないか?」
「太く硬く大きいてーのは確かにロマンだけどよ、身の丈の1.5倍から2倍ある武器もロマンだけどよ……流石にそりゃロマンすぎらぁな。身の丈の1.5倍から2倍の重量の鉄の塊の重量を想像できるか? 作るにゃあ作れるが……まぁ、そこを何とか使える様に作るのが俺らの仕事か……」
諦めたようにため息をついたサムソンは、メモを取る。
「さて、最後は……道化師のねーちゃん、頼むぜ?」
最後にサムソンはハーレキン(ka3214)の話を促す。
「はい! 武器のアイデアですね! マジシャンやピエロとしてのアイデアを出しますよ!」
「ふむ……じゃあ、鍛冶屋で作れそうな物をピックアップしてくれるか?」
「えーっとですね、じゃあ一つ目はカード投げナイフです! カード投げできゅうりを切れる芸人さんは結構いますけど、もっと丈夫な素材で刃物としてカードを作れば芸人の自衛になるかも? 投げナイフより遠くまで飛ばしやすそうですし」
「あー、大道芸でよく見るアレを、雑魔や歪虚相手にも使える素材のものでーって事か。それなら作れるな」
マジシャンと聞いて突拍子も無いものが飛び出るかと思って身構えたサムソンは、安心して答える。
「次にアピアリングケーンです! バネの力で所謂『出現する杖』ですが、リアルブルーで使われている警棒の延長線で『攻撃力はかなり低いけど手の中に隠せるほど小さく、出現させると長い、意表を突く』武器とかよいかも。こけおどしだけでも芸人の自営になります」
「大道芸の種明かしをされてる気分になるな……いやまあ、大体想像はつくんだが」
苦笑しながらサムソンが言うと申し訳なさそうに笑いながら話を続けた。
「へへへ……何かすいません。三つ目はジャグリングナイフです! 読んで字のごとく、ジャグリング用に重心を変えた大きめのナイフなんですけど。ジャグリング用は普通刃を落とすけど、鋭利なままだとそのまま戦えますし」
「これはすぐにも作れそうな物だな。ただまあ、需要があるかといえば難しい所なんだが……」
「とりあえず、全員の意見は聞けたか? 何事もためしてみるもんさな。やってみてダメなら没にすりゃいい。よし、これから忙しくなるな……!!」
ぐぐっと伸びをして一息つくと、アルトから声がかかった。
「ところで、このサービスのプロテインは定期購入や一括購入割引とかあるかな? 戦闘スタイル的に筋肉が肥大しすぎるのも困るけど、ある程度は確保しときたいんだよね」
「それな。もっとみんな拒否すると思ったんだが、飲むもんだな……」
「アレだ。プロテインはただのタンパク質だからな。筋肉増強剤って訳じゃねえし、飲んだからマッチョになる訳じゃないから安心しな。これらは商品化される前提のもんじゃあねえが、希望者がいればその内ショップに並ぶかもな」
ニッと白い歯を見せてサムソンが返答した。
しかし、プロテインの需要はあるのだろうか。
筋肉のキレと美しさを求める人種はあまり多くはないとは思うのだが、サムソンは何やらサラサラと書き留め、ドスンと判子を押したのだった。
クスリと出来ない言葉から始まったサムソンの言葉。
「つまりだ。材料はほぼ金属!! たまに木と革と布!! そしてだ。ウチの武具はクセが強くてな。諸君の思い描く物の斜め上になる可能性が高いことを、最初に謝っておく。済まん!!」
しょっぱなから不安になるコメントから始まったこの提案会議、どうなるのだろうか。
「じゃあボクから!」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が元気に挙手をした。
「よし、意見を聞こう」
「リアルブルーにある普通の刃と櫛状の峰をもつ剣、なんだけど……」
「おう。いわゆるソードブレイカーってーヤツだな? 一般的に出回っちゃいねーが、多分クリムゾンウェストにもあると思うぜ」
ハンターに供給されていない特殊な武器は、クリムゾンウェストにも沢山あるだろう。なんせ未開の地が多い世界である。
「ボクは短剣サイズのものはもちろん使ってみたいけど、それだと比較的細身の武器にしか対応できない……大剣受け止めようものなら、こっちが壊れるしね。なので、その辺でも受け止められる様な幅広のロングソードあたりのサイズも合わせて、いろんなサイズがあると嬉しいよね」
「一理ある……が、ソードブレイカーの構造上、大剣の斬撃を受け止めるには相当刃の厚みを持たせないと、どのみち強度負けしちまうぜ? もちろん重量もマシマシだ。それでもいいなら検討してみよう」
「次に、蹴り技に使える脛当て、かな」
「蹴り技に、か。ふむ」
サムソンが腕組みをしながら思案する。
「ぶん殴る為の装備は結構あるけど、蹴り技を補助するようなものってあんまりないよなーって」
「そりゃあんまり一般的じゃねぇからなぁ……だがまあ、需要があるなら作るのが職人ってもんだ。話じゃイマイチ形をイメージできないんでな、ちょいとこっちの紙に書いてくんねーか」
差し出された紙とペンを受け取り、アルトが脚甲の図を描き始める。
「んじゃまあ、描いてもらってる間に次の話も聞いて行くか。じゃあ、お前さんはどんなものを考えてる?」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)を指差し、サムソンが問いかける。
「ん……個人的にこういうのが欲しいというので良ければ」
「かまやしねえよ。一人でも欲しいやつがいるなら、似たようなやつも何人かはいるだろ」
ガハハと笑いながらサムソンが先を促す。
「形状は双剣、片方が攻撃特化で、もう片方が防御特化のようなものが良いですね」
「ふむ。アルトのソードブレイカーの案と合わせる事も出来るな」
「それもアリだとおもいます。受け側の形状はやや短めで幅広の刀身、攻撃側は切れ味に重きを置いた感じでイメージしていましたけど。どちらも共通してマテリアルの親和性を──」
ユーリの話を聞いていたサムソンが、申し訳無さそうな顔で話を遮った。
「ああ、ちょっとスマン。マテリアル関係はちょいと俺の方が修行中でな。その辺は少し待ってくれるか。形にする時には何とか出来る……様に努力する」
いかんせん鍛冶屋に毛が生えた程度の練筋協会では、マテリアルの親和性を高める云々には技術や知識で足りない部分が多い。
「では、私の意見は以上ですね。御一考お願いします」
「おう、ありがとよ!」
「さて……次は、と」
ぐるりとメンバーを見回して、一点で目が止まる。
視線の先に居たのは鎧の装着で四苦八苦していたユグディラと戯れていた黒の夢(ka0187)だ。
「肉球ぷーにぷーにぷー……にゃっ♪」
「そこのユグディラと遊んでるの。話を聞かせてもらえるか?」
「おー、我輩の番なのなー♪」
弄っていたユグディラを抱えたままサムソンの元へと歩み寄る。
「我輩が考えるのは、ぱんちゅ型投擲武器なのな!」
「……は?」
瞬間、場の空気が固まる。
「街で囲まれたらぽーいするの、サムソンちゃんはしないー? その為のぱんちゅなのなー」
「ぱんちゅってパンツの事か? いや、しねぇよ。何だそれ……他に欲しいヤツが居るのか……?」
ぐるりと場のメンバーを見回すサムソンだが、目が合いそうになるメンバーはことごとく目を逸らす。
「流石にオーダーメイドはちょっとなぁ……」
毛の無い頭をポリポリと掻きながら困った表情を浮かべる。
「掴みはオッケーなのなー♪ 次は猫じゃらし型魔術具なのな!」
「魔術具自体の性能は保証出来ないが、ぱんちゅよりは現実的か。詳しく話してくれるか?」
「魔法を使う旅に猫が召喚できるかもしれない杖なのな! こういう……こういう……こういうの!」
どこから出したのか、猫じゃらしを抱いていたユグディラで説明し始める。
「まてまてまてまて! 流石に召喚は無理だ。猫じゃらし型、というのならまだ何とかしよう」
「ちぇー。じゃあ後は、王国エンブレムのー──」
「ストップだ。王国エンブレムに関わる物は、残念ながらうちではちょっと無理かもしれん。武具を作ってるのはうちだけじゃないからな。だが、話は上に通しておこう」
サムソンは黒の夢の話を聞きながら手早くメモを取ると、何やら判子を押して脇に押しやる。
「あとなー」
「まだあるのかよ……」
「大事なところだけは隠れてるというか、それだけが取り柄みたいな軽い鎧が欲しいのなー。あと、鎧とローブが一緒になった魔術師用鎧なのな!」
「前者は支給品のビキニアーマーの紐の調整で何とかしてくれ……後者はやっとうちで作れそうな物だな」
「えへへー、これが我輩のあれば嬉しいのとっておき!」
「最初から言ってくれ……」
心底疲れた顔で書き留めると、サムソンは次のメンバーに目をやる。
「じゃあ、お前さん。次頼めるか」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)の方に視線をやり、サムソンは問いかける。
「さて、アイデアか。ふむ、武器なら……私、猟撃士じゃろ? つまりは弓や銃を得物としてるのじゃが、やはり接近される恐れはあり、武器を取り出すには手間がかかり隙ができる」
「ふむ、一理ある」
頷きながらサムソンは先を促す。
「それでじゃ。長銃の先に剣を付けたい。銃剣じゃな。これが欲しい」
「なるほど。これは欲しいという奴が沢山いそうだ。銃剣付きの銃としては少し難しいかもしれんが、銃の先に付ける短剣としてなら簡単でもある。ま、重さはどうしても重くなっちまうが」
「そうじゃの、軽さと硬度の兼ね合いが肝心か」
「ははは、重くするのは得意なんだがなぁ!」
体を揺らして声を上げるサムソン。
部屋の端では黒の夢がユグディラを抱えて昼寝中である。笑い声に慣れてきたのか、今度は飛び上がることは無かった様だ。
「他には信号弾とか照明弾とかはどうじゃろ? 通信が使えない広域に伝えねがならない状況もあるじゃろうし、夜間戦闘もあるしの。色も数種類あると良いかもしれん」
「ふむ、信号弾に照明弾か。大規模作戦の時には重宝しそうだな。これはうちで作るよりは上に持ちかけた方が良さそうでもあるな。黒の夢の件と一緒に伝えておこう」
サムソンはサラサラっと書き留めた書類に判子をドスンと押し、脇に押しやる。
「作るものが決まったら私にも少し手伝わせておくれよ。これでもドワーフの端くれ。力仕事も手先もお任せあれじゃ。単純に新しいものができるのを見てみたいのもあるがな?」
「ああ、その時はまた依頼を出すよ。都合があったら頼む」
「さて、あと二人か……じゃあ、お前さん、王国を盛り上げる装備案を頼む」
クリスティン・ガフ(ka1090)の話を促すサムソン。
「まあ、王女が某陛下みたいに前で戦う訳にもいかんしな」
「おっと、その話はそこまでだ」
シッと口前に人差し指を立て周囲を伺う様にサムソンが話を止める。
「……では、私からは3点意見を出そう」
「一つ目だが、現状、騎馬で片手手綱時は小竜程度で大半の射撃武器が役に立たん。なので、騎馬で片手撃ちを想定した片手弓か補助する篭手を希望したい」
「つまり、弩か。ふむ」
「死活問題故、ゆくゆくは3連装の片手弓位まで開発を努力してほしいな」
「ハードルあげるねぇ……」
「言うだけはタダだからな。続けて二つ目だ」
「現状、騎兵用の槍はあるが、対になる腕固定型の騎兵用盾が全くない故に元から腕固定型専用の盾が欲しい」
少し思案して、サムソンが答える。
「重量装備なら任せとけ──と、言いたい所だが、ふむ。なんちゃら専用ってのは難しいが、騎兵にも使える盾ってー形になるかもしれないな」
「ふむ。では三つ目だ。基本的に巨人とかガルドブルムとか大きい歪虚と白兵でやりあうならストッピングパワーが必須故、重量武器が要る」
徐に立ち上がり覚醒して武器を抜こうとするクリスティンを見て、サムソンは慌てて止める。
「まてまてまて! 何するつもりだよ!」
「少し演舞をな」
「やめてくれ……店ん中で武器振り回されるなんて御免だぜ。演舞は絶対必要なのか?」
「ふむ。なら話だけで済まそう」
覚醒を解いたクリスティンにサムソンは安堵したため息をつきながら、話の続きを待つ。
「どこまで話したか……重量武器が必要のくだりか。現状は小細工で誤魔化す形のこのような間に合わせの武器が目立つ」
自身の武器に目をやりながらクリスティンは続ける。
「相手が慣れる事も考慮して白兵でやるならば覚醒者用に扱いやすさも考えて製作した3m級の剣が要る。加えて、妙な癖も無く、柄と剣の割合は3対7位の装飾がない機能美重視、立ち回りは筋肉で補えばいい。以上の3点を併せ持つ太く硬く大きい武器は話題性もあるのではないか?」
「太く硬く大きいてーのは確かにロマンだけどよ、身の丈の1.5倍から2倍ある武器もロマンだけどよ……流石にそりゃロマンすぎらぁな。身の丈の1.5倍から2倍の重量の鉄の塊の重量を想像できるか? 作るにゃあ作れるが……まぁ、そこを何とか使える様に作るのが俺らの仕事か……」
諦めたようにため息をついたサムソンは、メモを取る。
「さて、最後は……道化師のねーちゃん、頼むぜ?」
最後にサムソンはハーレキン(ka3214)の話を促す。
「はい! 武器のアイデアですね! マジシャンやピエロとしてのアイデアを出しますよ!」
「ふむ……じゃあ、鍛冶屋で作れそうな物をピックアップしてくれるか?」
「えーっとですね、じゃあ一つ目はカード投げナイフです! カード投げできゅうりを切れる芸人さんは結構いますけど、もっと丈夫な素材で刃物としてカードを作れば芸人の自衛になるかも? 投げナイフより遠くまで飛ばしやすそうですし」
「あー、大道芸でよく見るアレを、雑魔や歪虚相手にも使える素材のものでーって事か。それなら作れるな」
マジシャンと聞いて突拍子も無いものが飛び出るかと思って身構えたサムソンは、安心して答える。
「次にアピアリングケーンです! バネの力で所謂『出現する杖』ですが、リアルブルーで使われている警棒の延長線で『攻撃力はかなり低いけど手の中に隠せるほど小さく、出現させると長い、意表を突く』武器とかよいかも。こけおどしだけでも芸人の自営になります」
「大道芸の種明かしをされてる気分になるな……いやまあ、大体想像はつくんだが」
苦笑しながらサムソンが言うと申し訳なさそうに笑いながら話を続けた。
「へへへ……何かすいません。三つ目はジャグリングナイフです! 読んで字のごとく、ジャグリング用に重心を変えた大きめのナイフなんですけど。ジャグリング用は普通刃を落とすけど、鋭利なままだとそのまま戦えますし」
「これはすぐにも作れそうな物だな。ただまあ、需要があるかといえば難しい所なんだが……」
「とりあえず、全員の意見は聞けたか? 何事もためしてみるもんさな。やってみてダメなら没にすりゃいい。よし、これから忙しくなるな……!!」
ぐぐっと伸びをして一息つくと、アルトから声がかかった。
「ところで、このサービスのプロテインは定期購入や一括購入割引とかあるかな? 戦闘スタイル的に筋肉が肥大しすぎるのも困るけど、ある程度は確保しときたいんだよね」
「それな。もっとみんな拒否すると思ったんだが、飲むもんだな……」
「アレだ。プロテインはただのタンパク質だからな。筋肉増強剤って訳じゃねえし、飲んだからマッチョになる訳じゃないから安心しな。これらは商品化される前提のもんじゃあねえが、希望者がいればその内ショップに並ぶかもな」
ニッと白い歯を見せてサムソンが返答した。
しかし、プロテインの需要はあるのだろうか。
筋肉のキレと美しさを求める人種はあまり多くはないとは思うのだが、サムソンは何やらサラサラと書き留め、ドスンと判子を押したのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/08 22:10:34 |