ゲスト
(ka0000)
夢より出る、炎の錬成
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/13 12:00
- 完成日
- 2015/03/17 01:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
紫煙が空に舞い浮かぶ。
「くそ……あと少し、あと少しなのに」
何度目か分からない言葉を口にした。しかし、鬱屈した感情が高ぶり、今回のは少し大き目だったのかもしれない。問い返されることを期待していない独り言がオウム返しに問う声が男の耳に届いた。
「あと、少し?」
「え、ああ。すまない。ちょっと仕事で煮詰まってて、ね……」
男は声の主を確認してぴたりと止まった。
少女だった。真夜中の公園には似つかわしくない、いや、幻想的という意味ならとてもよく似合う。身なりは裕福そうではない、むしろ貧乏な印象を与えるが、その抜けるような肌の白さは月明かりによく映えた。昼ではけっして見られない美しさだと感じた。
「夢を追いかけるって大変ですよね」
少女は羨ましそうな目をこちらに向けると、少し悲しそうにため息をついた。
ああ。夢に破れたのだろうか。それが現実なのだ。金がなければ満足に食うこともできない。夢はいずれ離れ、現実の辛酸をなめて生きていく。男は少女の横顔を見て、ふとそう考えた。
パトロン達も業を煮やし始めている。自分がこの少女のように人を羨むようになるのもそう遠くない未来かもしれない。
どうせもう誰かに知られても構わないような研究だ。煮詰まったそれをどうにかできるような天才は錬魔院にすらいやしないだろうという心と、藁をもすがる想いが彼女を吸い寄せた。
「夢を掴むって本当大変さ。雲をつかむような話だ。だけどね。俺はあと少しで掴めそうなんだよ」
宝石の錬成。
錬金術師が永遠の命、賢者の石を至高の命題として捉えた場合、そのステップとして時間によって変化しない黄金や宝石の研究対象に取り組む者は少なくない。
真夜中の公園を一人ぼつりぼつりとあるく男は小さな粒の宝石から大きな一つの結晶を作ることを目標とし、もう年単位の時間をかけてそれに取り組んでいた。宝石とてこの世の物質。融点を超える高温を与えれば、液状になり、それを冷やし固めれば、大きな結晶にできる。理論は完成し、リアルブルーの書物によってそれは実現可能と彼らは推測していた。
その為に帝国内を駆けずり回り、もう一度だけ、これが最終試練なのだとパトロンから資金を集めてきたのだ。しかし、それでも結果は成功にいたらず、早幾年。
男は少女が理解できるかどうかもあまり考えず、とにかく悩みを打ち明けると、彼女は熱心に聞いてくれた。言葉の意味の半分は理解できていなかっただろう。だが長い時間をかけても彼女は時間を気にすることもなければ、嫌がる素振りもせず、ただただ聞き入ってくれた。
「熱を集める方法も大変だが、最終的にその熱を受け止める器がないんだ。宝石を溶かすには2000度もの高熱を数時間持続させなきゃならない。どんな器もまず溶けてしまうんだよ」
「私の大好きな本にはこんな言葉があります。『奇跡は心血注いだ呼びかけにこそ応えてくれる。最適な時、最適な場所、最適な機会を通じて』。今日出会えたのも神のおぼしめしだと思います」
誰もが難解で答えようのない命題に口を閉ざし、または茶を濁すようなセリフを言ったものだが、彼女の言葉は決してそんな類のものではなかった。真正面から男を見据える目には力を感じた。
「私なりにできることで良ければお手伝いいたします。ですから、諦めないでください。夢は、叶えるためにあるんです」
それ以後、彼女は男の家の前に本を置くようになった。宝石の本、リアルブルーの工学系の本。どこかの伝承を聞いてきたのかその走り書きのメモなど。そしていつも焼きたてのパンをそっと添えて。時には研究所に顔を出しては笑顔を届けてくれたし、男が研究に行き詰まればまた耳を貸してくれた。
そんなパトロンのような協賛者ではなく、理解者が現れたということは男に大きな変化をもたらした。
「宙空での錬成だ!!」
男が飛び上がって少女にその報告をした。
「いいか、器が熱に耐えられないのが今回の一番の問題だった。だから宝石の原石を風の力で巻き上げ、空中でエネルギーを受けさせ液状化する。下に落ちるころには冷却されて大きな結晶が生まれる!」
「やりましたね!」
「いいや、まだだ。空中で錬成するには器に入れるより膨大なエネルギーが必要なんだ。液状化するまでの間、風を生み続けなければならないし、風で冷却される以上の熱を与え続けるにはマテリアルのコントロールが上手な機導士や魔術師が何人もいる。だけど見ててくれ。この錬成は絶対に成功できる!」
改めて男は少女を見た。名はブリュンヒルデと聞いた。
リアルブルーで戦乙女と呼ばれる伝承と同じ名前である彼女が彼の元に現れたというのはまるで神話の中に自分が迷い込んだような錯覚を与えた。
だからこそ感じるのだ。成功を。
稀代の実験が始まろうとしている。ハンターオフィスに寄せられたのはその人員募集であった。
「くそ……あと少し、あと少しなのに」
何度目か分からない言葉を口にした。しかし、鬱屈した感情が高ぶり、今回のは少し大き目だったのかもしれない。問い返されることを期待していない独り言がオウム返しに問う声が男の耳に届いた。
「あと、少し?」
「え、ああ。すまない。ちょっと仕事で煮詰まってて、ね……」
男は声の主を確認してぴたりと止まった。
少女だった。真夜中の公園には似つかわしくない、いや、幻想的という意味ならとてもよく似合う。身なりは裕福そうではない、むしろ貧乏な印象を与えるが、その抜けるような肌の白さは月明かりによく映えた。昼ではけっして見られない美しさだと感じた。
「夢を追いかけるって大変ですよね」
少女は羨ましそうな目をこちらに向けると、少し悲しそうにため息をついた。
ああ。夢に破れたのだろうか。それが現実なのだ。金がなければ満足に食うこともできない。夢はいずれ離れ、現実の辛酸をなめて生きていく。男は少女の横顔を見て、ふとそう考えた。
パトロン達も業を煮やし始めている。自分がこの少女のように人を羨むようになるのもそう遠くない未来かもしれない。
どうせもう誰かに知られても構わないような研究だ。煮詰まったそれをどうにかできるような天才は錬魔院にすらいやしないだろうという心と、藁をもすがる想いが彼女を吸い寄せた。
「夢を掴むって本当大変さ。雲をつかむような話だ。だけどね。俺はあと少しで掴めそうなんだよ」
宝石の錬成。
錬金術師が永遠の命、賢者の石を至高の命題として捉えた場合、そのステップとして時間によって変化しない黄金や宝石の研究対象に取り組む者は少なくない。
真夜中の公園を一人ぼつりぼつりとあるく男は小さな粒の宝石から大きな一つの結晶を作ることを目標とし、もう年単位の時間をかけてそれに取り組んでいた。宝石とてこの世の物質。融点を超える高温を与えれば、液状になり、それを冷やし固めれば、大きな結晶にできる。理論は完成し、リアルブルーの書物によってそれは実現可能と彼らは推測していた。
その為に帝国内を駆けずり回り、もう一度だけ、これが最終試練なのだとパトロンから資金を集めてきたのだ。しかし、それでも結果は成功にいたらず、早幾年。
男は少女が理解できるかどうかもあまり考えず、とにかく悩みを打ち明けると、彼女は熱心に聞いてくれた。言葉の意味の半分は理解できていなかっただろう。だが長い時間をかけても彼女は時間を気にすることもなければ、嫌がる素振りもせず、ただただ聞き入ってくれた。
「熱を集める方法も大変だが、最終的にその熱を受け止める器がないんだ。宝石を溶かすには2000度もの高熱を数時間持続させなきゃならない。どんな器もまず溶けてしまうんだよ」
「私の大好きな本にはこんな言葉があります。『奇跡は心血注いだ呼びかけにこそ応えてくれる。最適な時、最適な場所、最適な機会を通じて』。今日出会えたのも神のおぼしめしだと思います」
誰もが難解で答えようのない命題に口を閉ざし、または茶を濁すようなセリフを言ったものだが、彼女の言葉は決してそんな類のものではなかった。真正面から男を見据える目には力を感じた。
「私なりにできることで良ければお手伝いいたします。ですから、諦めないでください。夢は、叶えるためにあるんです」
それ以後、彼女は男の家の前に本を置くようになった。宝石の本、リアルブルーの工学系の本。どこかの伝承を聞いてきたのかその走り書きのメモなど。そしていつも焼きたてのパンをそっと添えて。時には研究所に顔を出しては笑顔を届けてくれたし、男が研究に行き詰まればまた耳を貸してくれた。
そんなパトロンのような協賛者ではなく、理解者が現れたということは男に大きな変化をもたらした。
「宙空での錬成だ!!」
男が飛び上がって少女にその報告をした。
「いいか、器が熱に耐えられないのが今回の一番の問題だった。だから宝石の原石を風の力で巻き上げ、空中でエネルギーを受けさせ液状化する。下に落ちるころには冷却されて大きな結晶が生まれる!」
「やりましたね!」
「いいや、まだだ。空中で錬成するには器に入れるより膨大なエネルギーが必要なんだ。液状化するまでの間、風を生み続けなければならないし、風で冷却される以上の熱を与え続けるにはマテリアルのコントロールが上手な機導士や魔術師が何人もいる。だけど見ててくれ。この錬成は絶対に成功できる!」
改めて男は少女を見た。名はブリュンヒルデと聞いた。
リアルブルーで戦乙女と呼ばれる伝承と同じ名前である彼女が彼の元に現れたというのはまるで神話の中に自分が迷い込んだような錯覚を与えた。
だからこそ感じるのだ。成功を。
稀代の実験が始まろうとしている。ハンターオフィスに寄せられたのはその人員募集であった。
リプレイ本文
レイオニールの研究所は部屋中央に据えられた円形の台座には錬成用の魔法陣が描かれており、その台座にはいくつものコードがまるでツタのように延びていた。それらは無数の計器類につながっていたり、または天井にまで伸び、マテリアルが稼働しているのを示すようにぼんやりとした明かりを点けるのに役立っている。
コードは脈打つように青白く輝く。光の粒子が規則的なリズムでコードを奔っていくのが見える。コードの終端、いや先端を握っているハンター達の手からトクリ、トクリと光は生まれ、この部屋全体を脈動させる。
「覚醒終了まで、あと10分……流量、問題なし」
「マテリアル貯蔵量28%」
マテリアルを送り込む役ではないハンター達が計器やまた仲間の顔色を見つつ経過報告をする。マテリアルを維持して放出するのには精神力もかなり必要だ。詠唱する、もしくは自らのマテリアルを転化しているハンターの顔には汗がにじむ。
「マテリアルの蓄充には鉱物マテリアルなどを併用し、熱や風として利用したマテリアルは回収して再利用を検討した方が良いでしょうね」
レイレリア・リナークシス(ka3872)は先ほどまでの錬成に参加していた疲れを紅茶とパンで癒しながら、そう言った。
「なるほど、それは一理あるな。熱も風も上昇していくからそこにタービンを配置してみよう」
「休憩の時は、休憩に集中すべきですよ。追い込みなのではやる気持ちはわかりますが」
結樹 ハル(ka3796)はレイレリアに渡したものと同じ食べ物をレイオニールにも渡した。
「そう言えば、ブリュンヒルデさんは来ないの?」
メリーベル(ka4352)の問いかけにも生返事するレイオニールだったが、結城に優しく指摘されてようやく我に返った。
「ああ、あの子はちょっと人見知りの気があるようだな。他の人間といる時は決まって入り口に差し入れを置いてくだけなんだ」
今はそれでいいかもしれない。
メリーベルは雑多な部屋の中を見回してそう言った。爆発物や溶解液など多種多様な危険物がある上に、自分たちが往来しているのだ。何かの拍子で大災害になる可能性だってある。
結城は昨晩のブリュンヒルデからの差し入れに置いてあった図書をめくった。ブリュンヒルデが差し入れた本は科学の本から魔導書、錬金術書など多岐にわたっているが、今回のそれはリアルブルーのおとぎ話だった。カーバンクルというルビーを額につけた生物についての伝承だ。
「ルビーってリアルブルーでもマテリアルとしての活用されていたのかな? ってこの伝承を見ると思うよね」
この伝承に強く興味を持っているのはマチルダ・スカルラッティ(ka4172)だ。このカーバンクルは富と名声を与える存在だと言われている。これがマテリアルに関する視点から考えるとなるほど色んな思索が広がる。
「ルビーの合成とはいうけれど……、私達のマテリアルが精錬された結晶よね」
マテリアルの結晶。それを自分たちで生み出せるとしたら。
マチルダの身体がワクワクでいっぱいになる。使い切ったマテリアルも自然と充填されるような気分。
「ほら、マチルダさん。まだ休憩中ですよ」
「いけないいけない」
結城に抑えられて、マチルダはふるふると首を振った。
「にしても、錬成でできたルビーはとても綺麗な結晶ですね」
他のメンバーがブリュンヒルデからの差し入れの文献に目を落とす中、レイレリアはレイオニールの研究ノートに目を落としていた。実験としてルビーを実際に溶かした時の資料では器に使った土器と融和してしまったルビーの結晶があった。天然ルビーにはない鮮やかな赤。
綺麗すぎる。
レイレリアは一目見てそう思った。宝石の美しさは幾多もの不純物をも内包し、複雑な輝きを作るものだが、錬成のルビーは混じり気が一切なく、宝石特有の目を奪われるような魔力を感じなかった。
「魔術具や法具、機械の部品といった他の利用法も考えた方がいいかもしれませんね」
「意図的に不純物を混ぜることで様々に性質は変化する。この錬成の利点はそこだと思うけどね。可能性は無限大」
レイレリアの言葉に対し、単一素材に様々な物質を混ぜることで硬度を上げたり粘度を増したりすることができる。とメリーベルは付け足すように反論した。
リアルブルーの鍛冶師としての経験がにそう言わせるのだ。
その言葉にレイオニールが瞳を輝かせたが、突如、鬼百合(ka3667)から悲鳴のような声が上がる。
「そ、そろそろ限界でさ! まだっすかねぇ!?」
「ああっ、すみません。経過時間過ぎてました! 」
結城は慌ててそう言うと、終了の合図を飛ばし、マチルダが準備しておいた休憩室への扉を開けた。
●
「マテリアルを貯蓄するのはいいけれど、これじゃ1回こっきりの勝負だな。変換した風や熱を逃がさないような仕組みを考えるべきじゃねぇか?」
休憩室で毛布にうずもれながらもアクアレギア(ka0459)は錬成魔法陣の設計図を眺めていた。
「それ、確かに僕も考えていた。マテリアルを効率よく利用する方法は一考の余地があるねー。僕は『集中』することで一時的な熱量を上げようかなって考えていたんだけど。ええと、熱量と原石の形態変化の相関グラフはどこかでみたんだけどな」
アシェ・ブルゲス(ka3144)は精神力を使い切って重たくなった体を引きずりながら、机の上に置いていた書類をめくっていく。
「これじゃないですかね。ですが、低温の時に高熱を与えると破裂して気泡が入るって報告があるみたいです」
ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)はアシェに探し求めていた書類を渡しながら、本人はブリュンヒルデが持ってきたリアルブルーの工学に関する文献を見つめていた。その横では鬼百合が目を輝かせていた。蓄充中では帽子を目深にかぶり見ることのできなかった知的好奇心に満ちた少年の目がしっかと見える。
「これ前から読みたいって思ってた本でさぁ! まさか読めるとは思わなかったんですぜぃ!!」
「ああ、俺には必要ないから、持って行っていいよ。本は好きなのかい?」
机で錬成魔法陣の再設計を行いながらかけられたレイオニールの言葉に鬼百合は歓喜した。
「そりゃもー、べんきょーになりまさ! でもそれよかっすね、読んだ分だけ人の役に立てることができるのが嬉しーんでさ! オレ、おっちゃんの夢、叶えてやりてぇなぁって!」
「ははは、嬉しいな。その為にもアクアレギアやレイレリアの言っていたようなマテリアルの効率的な利用法は重要な問題だ。今からじゃそれほど時間はとれないかもしれないが、循環システムの設計をするぞ」
その言葉に休憩している面々は応、と答えた。
「材料はたくさんある。熱や風を横に逃がさないように壁を作ろうと思うんだ。こういうの得意だからやらせてくれないかな?」
アシェは廃材置き場にあった鋼板やら壁材などを手に微笑んだ。
「俺はいいハンターに出会えたな。是非よろしく頼むよ!」
「そう思うなら、後は任せとけよ。おっさん、ここ数日寝てすらいないだろ」
嬉しそうにするレイオニールの口に、アクアレギアはチョコレートを突っ込んだ。
「もが……っ!?」
「上にタービンつけて、使った熱と風に再利用する方法考えてんだろ? たたき台の設計図は俺様が作ってやるから、後で確認しな。そしておっさんは寝ろ。本番でぶっ倒れられたら困るからな」
アクアレギアは自分より大きなレイオニールであっても見下すような目でそう言った。
「そうですよ。これからが本番なんですからね」
ラシュディアの微笑みにレイオニールは何かしら反論をしようとしたが、疲労した身体は嫌も応もなく、無理やり毛布に寝かしつけられる。しばらくは「いや、やはりダメだ」とか言っていたが、不眠の末の身体はすぐ眠りの中に落ちていった。
「手間かけさせやがるぜ」
アクアレギアの言葉にラシュディアは苦笑いを浮かべて、読みかけていた文献のページを再び開けた。
「それにしても、ブリュンヒルデさんはどこからこの本を見つけてきたんでしょうね?」
「貴族のツテがあるのかもしれないね。図書館管理っぽくもないし、本屋で取り扱っている分類でもないしねー」
アシェはねじまがったパイプにコードを通しながら鬼百合が読んでいる本の表紙をちらりと返し見た。革張りのそれはどこかに大事に保管されていた証拠だ。その視線に気づいてか鬼百合は顔をふとあげてため息をつく。
「そっかー、これ借り本なんですねぃ。はあ、こんなところでべんきょーがずっとできたらいいんですがねぇ」
「この技術が確立したらそれを伝えるために弟子とるかもしれませんよ?」
「弟子!? やりてーんでさ!」
アシェの言葉に鬼百合が一にも二にもなく手を上げた。レイオニールは眠りについている横で、彼の弟子が決まりつつあった。
●
錬成魔法陣を囲むように壁が作られ、天井部には新たな装置がつけられた。一段と物々しくなった魔法陣に向けて、全員が所定の位置に立つ。
「それでは、錬成を開始する」
レイオニールの言葉に合わせて、一同はパシリッと手を合わせた。気合いを入れる為、また全力を尽くした先の奇跡を願う為。しかし思いは一つだ。
「天に舞う風よ。祖より下り、また還れ……」
マチルダの詠唱と共に、魔法陣に置かれた幾粒かのルビーの原石が舞い上がる。
「タービン、稼働開始だ」
アクアレギア設計のタービンが低いうなり声と共に動き始める。
「燃え上がるんですぜぃ。……火花は灯に、火は炎に」
帽子を目深にかぶった鬼百合の手の動きと共に、魔法陣の空中に炎が生まれる。
「温度観測。320度……370…… ……500。アシェさんお願いします」
ラシュディアの声に合わせて、アシェが頷き噴き上がるマテリアルに力をこめる。風と炎に満ちる魔法陣の空間が赤く輝き始める。マテリアルがアシェの力に強く感応し始めている証拠だ。壁越しでもその熱風が錬成に取り掛かる一同に襲い掛かる。途端に汗が噴き出てくる。
「マテリアルの流量がやや多いですね。7%絞ります。変換、しっかりやってね」
メリーベルがアルケミストデバイスを通してコントロールしているタンクのマテリアルの放出を抑える。噴き出た汗によって金髪と頬が絡みつくが、メリーベルは顔色一つ変えることなく、ただ流量計だけ眺める。転換作業は他の魔術師に任せるしかない。背を「預ける」というか「預かる」のはあまりない感覚だったが、不思議と悪くはない。
「ルビー自体が赤く輝き始めています。側面熱射、開始します。炎よ立ち上りて壁となれ……」
「リサイクルマテリアル、稼働」
ラシュディアが壁に流れるマテリアルを利用して炎のエネルギーに変えて放射し始める。錬成魔法陣の中はもはや直視できないほどの輝きに満ち、またその熱でゆらゆらと揺れて見えた。
「風量、増加。熱による対流が生まれています。マテリアルで風の流れを調整いたします。天の怒り、海の悲しみ。世は常に動乱なり、風もまた道理。摂理に従い渦巻け……」
レイレリアは炎が踊る様子を見て、すぐさまマテリアルを風に転化するよう詠唱する呪文を変えた。それと同時に結城が入れ替わるようにして、アルケミストデバイスを展開し、マテリアルを熱源にする作業の補佐に入る。
「温度3300。風の勢いが強すぎる。宝石が熱射地点からぶれ始めている」
レイオニールが鋭く叫んだが、3000度を超える熱がどれほどの風を生んでいるのか誰も経験などしたこともない。マチルダやレイレリアが微調整しようにも魔法陣内のマテリアルが強すぎてコントロールが至難の上に、輝きで網膜すら焼き付くほどの明るさでは具体的にどうなっているのか視認すらできない。
「強く感じよ。この世界は、我が身に通ず」
アシェは一旦、集中を解くと、すぐさまその言葉を発した。詠唱ではない。集中する時に使う基礎瞑想法の文言だ。連携率を高めようという動きだが、それに気づいた魔術師達の英断により互いのマテリアルの力と共感し始める。
「思惟する故に、世界は知覚す。知覚する我によりて世界を弑(しい)す。我は無上の一にありて世界に偏在する那由多にあり」
普段は周囲のマテリアルと自身のマテリアルを同調させ、魔力を強める技だが、その基本である同調だけを使い魔術師同士のマテリアルコントロールが均一化していくと、機導士達はそれぞれにデバイスに表示されたマテリアルの計算量を調節する。
「エレクトリックショックの応用だ。それに従って道ができればマテリアルを受けた宝石はそのライン上に収束するはずだ」
「了解」
アクアレギアの言葉に合わせて、結城が答え、その間のコントロールはメリーベルが引き受ける。
全員の意識が魔法陣の中に集中する中、魔法陣に轟音と共に大きな光の柱が立ち上る。
詠唱が。デバイスの駆動が最高潮に達する。
幾粒もの赤い塊は輝く光の中で、次第にその形を失い、やがて一つにまとまっていく。
真紅の球体が光の中で生まれた。
●
「すっげ……。麦粒みたいな石が、こんな塊になるんですねぃ」
錬成魔法陣に送り込まれたマテリアルの輝きが失われた後に残ったのは、球状のルビーそのものであった。空中で溶解し、再結晶化した為か真球であり、加工する必要もなくそれは輝いていた。といってもビー玉程度の大きさではあったが。
「やった、できた、できたぞ!! 宝石を生み出したんだ!!!」
レイオニールは両の腕を天に翳して叫んだ。
十年以上もの研究が実を結んだのだ。その咆哮を誰もが微笑んで見つめていた。
「やったっすねぇ! おっちゃん、オレ、弟子になりたいんでさ!! と、と……」
奇跡を起こしたレイオニールに鬼百合がそう言った。心に秘めた事だったが、しまったちょっと気持ちが逸りすぎたか。
思った通りレイオニールは鬼百合の頭をこつん、と叩いた。ああ、ダメだったか。
「弟子だなんて何言ってる。助手でいてくれよ! パートナーだよ!」
「さぁさ、感動をかみしめるのは伝えるべき人に伝えてからじゃないですかね?」
鬼百合を抱きしめるレイオニールをクスリと笑って、結城はそっと囁いた。それに気が付いてレイオニールはコクリと頷いた。
「そうそう、応援してくれたお礼をしなきゃね、と思うんだけど、どうかな?」
アシェもそう口添えすると、レイオニールはハンターの顔を見た。
「実験ノートはちゃんとつけておくので大丈夫。考察付きでね」
メリーベルが慈愛の笑みを浮かべる。
「費用対効果を考えるとこれからが本番ですよ。宝石の具体的な利用法とか……まあ報告も大切なお仕事ですね」
レイレリアは魔法陣に落ちた細かい屑宝石を集めながら、ちらりとだけ視線を送った。
「ありがとう……」
レイオニールはそう言って、走り出した。
ブリュンヒルデの元へ。
コードは脈打つように青白く輝く。光の粒子が規則的なリズムでコードを奔っていくのが見える。コードの終端、いや先端を握っているハンター達の手からトクリ、トクリと光は生まれ、この部屋全体を脈動させる。
「覚醒終了まで、あと10分……流量、問題なし」
「マテリアル貯蔵量28%」
マテリアルを送り込む役ではないハンター達が計器やまた仲間の顔色を見つつ経過報告をする。マテリアルを維持して放出するのには精神力もかなり必要だ。詠唱する、もしくは自らのマテリアルを転化しているハンターの顔には汗がにじむ。
「マテリアルの蓄充には鉱物マテリアルなどを併用し、熱や風として利用したマテリアルは回収して再利用を検討した方が良いでしょうね」
レイレリア・リナークシス(ka3872)は先ほどまでの錬成に参加していた疲れを紅茶とパンで癒しながら、そう言った。
「なるほど、それは一理あるな。熱も風も上昇していくからそこにタービンを配置してみよう」
「休憩の時は、休憩に集中すべきですよ。追い込みなのではやる気持ちはわかりますが」
結樹 ハル(ka3796)はレイレリアに渡したものと同じ食べ物をレイオニールにも渡した。
「そう言えば、ブリュンヒルデさんは来ないの?」
メリーベル(ka4352)の問いかけにも生返事するレイオニールだったが、結城に優しく指摘されてようやく我に返った。
「ああ、あの子はちょっと人見知りの気があるようだな。他の人間といる時は決まって入り口に差し入れを置いてくだけなんだ」
今はそれでいいかもしれない。
メリーベルは雑多な部屋の中を見回してそう言った。爆発物や溶解液など多種多様な危険物がある上に、自分たちが往来しているのだ。何かの拍子で大災害になる可能性だってある。
結城は昨晩のブリュンヒルデからの差し入れに置いてあった図書をめくった。ブリュンヒルデが差し入れた本は科学の本から魔導書、錬金術書など多岐にわたっているが、今回のそれはリアルブルーのおとぎ話だった。カーバンクルというルビーを額につけた生物についての伝承だ。
「ルビーってリアルブルーでもマテリアルとしての活用されていたのかな? ってこの伝承を見ると思うよね」
この伝承に強く興味を持っているのはマチルダ・スカルラッティ(ka4172)だ。このカーバンクルは富と名声を与える存在だと言われている。これがマテリアルに関する視点から考えるとなるほど色んな思索が広がる。
「ルビーの合成とはいうけれど……、私達のマテリアルが精錬された結晶よね」
マテリアルの結晶。それを自分たちで生み出せるとしたら。
マチルダの身体がワクワクでいっぱいになる。使い切ったマテリアルも自然と充填されるような気分。
「ほら、マチルダさん。まだ休憩中ですよ」
「いけないいけない」
結城に抑えられて、マチルダはふるふると首を振った。
「にしても、錬成でできたルビーはとても綺麗な結晶ですね」
他のメンバーがブリュンヒルデからの差し入れの文献に目を落とす中、レイレリアはレイオニールの研究ノートに目を落としていた。実験としてルビーを実際に溶かした時の資料では器に使った土器と融和してしまったルビーの結晶があった。天然ルビーにはない鮮やかな赤。
綺麗すぎる。
レイレリアは一目見てそう思った。宝石の美しさは幾多もの不純物をも内包し、複雑な輝きを作るものだが、錬成のルビーは混じり気が一切なく、宝石特有の目を奪われるような魔力を感じなかった。
「魔術具や法具、機械の部品といった他の利用法も考えた方がいいかもしれませんね」
「意図的に不純物を混ぜることで様々に性質は変化する。この錬成の利点はそこだと思うけどね。可能性は無限大」
レイレリアの言葉に対し、単一素材に様々な物質を混ぜることで硬度を上げたり粘度を増したりすることができる。とメリーベルは付け足すように反論した。
リアルブルーの鍛冶師としての経験がにそう言わせるのだ。
その言葉にレイオニールが瞳を輝かせたが、突如、鬼百合(ka3667)から悲鳴のような声が上がる。
「そ、そろそろ限界でさ! まだっすかねぇ!?」
「ああっ、すみません。経過時間過ぎてました! 」
結城は慌ててそう言うと、終了の合図を飛ばし、マチルダが準備しておいた休憩室への扉を開けた。
●
「マテリアルを貯蓄するのはいいけれど、これじゃ1回こっきりの勝負だな。変換した風や熱を逃がさないような仕組みを考えるべきじゃねぇか?」
休憩室で毛布にうずもれながらもアクアレギア(ka0459)は錬成魔法陣の設計図を眺めていた。
「それ、確かに僕も考えていた。マテリアルを効率よく利用する方法は一考の余地があるねー。僕は『集中』することで一時的な熱量を上げようかなって考えていたんだけど。ええと、熱量と原石の形態変化の相関グラフはどこかでみたんだけどな」
アシェ・ブルゲス(ka3144)は精神力を使い切って重たくなった体を引きずりながら、机の上に置いていた書類をめくっていく。
「これじゃないですかね。ですが、低温の時に高熱を与えると破裂して気泡が入るって報告があるみたいです」
ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)はアシェに探し求めていた書類を渡しながら、本人はブリュンヒルデが持ってきたリアルブルーの工学に関する文献を見つめていた。その横では鬼百合が目を輝かせていた。蓄充中では帽子を目深にかぶり見ることのできなかった知的好奇心に満ちた少年の目がしっかと見える。
「これ前から読みたいって思ってた本でさぁ! まさか読めるとは思わなかったんですぜぃ!!」
「ああ、俺には必要ないから、持って行っていいよ。本は好きなのかい?」
机で錬成魔法陣の再設計を行いながらかけられたレイオニールの言葉に鬼百合は歓喜した。
「そりゃもー、べんきょーになりまさ! でもそれよかっすね、読んだ分だけ人の役に立てることができるのが嬉しーんでさ! オレ、おっちゃんの夢、叶えてやりてぇなぁって!」
「ははは、嬉しいな。その為にもアクアレギアやレイレリアの言っていたようなマテリアルの効率的な利用法は重要な問題だ。今からじゃそれほど時間はとれないかもしれないが、循環システムの設計をするぞ」
その言葉に休憩している面々は応、と答えた。
「材料はたくさんある。熱や風を横に逃がさないように壁を作ろうと思うんだ。こういうの得意だからやらせてくれないかな?」
アシェは廃材置き場にあった鋼板やら壁材などを手に微笑んだ。
「俺はいいハンターに出会えたな。是非よろしく頼むよ!」
「そう思うなら、後は任せとけよ。おっさん、ここ数日寝てすらいないだろ」
嬉しそうにするレイオニールの口に、アクアレギアはチョコレートを突っ込んだ。
「もが……っ!?」
「上にタービンつけて、使った熱と風に再利用する方法考えてんだろ? たたき台の設計図は俺様が作ってやるから、後で確認しな。そしておっさんは寝ろ。本番でぶっ倒れられたら困るからな」
アクアレギアは自分より大きなレイオニールであっても見下すような目でそう言った。
「そうですよ。これからが本番なんですからね」
ラシュディアの微笑みにレイオニールは何かしら反論をしようとしたが、疲労した身体は嫌も応もなく、無理やり毛布に寝かしつけられる。しばらくは「いや、やはりダメだ」とか言っていたが、不眠の末の身体はすぐ眠りの中に落ちていった。
「手間かけさせやがるぜ」
アクアレギアの言葉にラシュディアは苦笑いを浮かべて、読みかけていた文献のページを再び開けた。
「それにしても、ブリュンヒルデさんはどこからこの本を見つけてきたんでしょうね?」
「貴族のツテがあるのかもしれないね。図書館管理っぽくもないし、本屋で取り扱っている分類でもないしねー」
アシェはねじまがったパイプにコードを通しながら鬼百合が読んでいる本の表紙をちらりと返し見た。革張りのそれはどこかに大事に保管されていた証拠だ。その視線に気づいてか鬼百合は顔をふとあげてため息をつく。
「そっかー、これ借り本なんですねぃ。はあ、こんなところでべんきょーがずっとできたらいいんですがねぇ」
「この技術が確立したらそれを伝えるために弟子とるかもしれませんよ?」
「弟子!? やりてーんでさ!」
アシェの言葉に鬼百合が一にも二にもなく手を上げた。レイオニールは眠りについている横で、彼の弟子が決まりつつあった。
●
錬成魔法陣を囲むように壁が作られ、天井部には新たな装置がつけられた。一段と物々しくなった魔法陣に向けて、全員が所定の位置に立つ。
「それでは、錬成を開始する」
レイオニールの言葉に合わせて、一同はパシリッと手を合わせた。気合いを入れる為、また全力を尽くした先の奇跡を願う為。しかし思いは一つだ。
「天に舞う風よ。祖より下り、また還れ……」
マチルダの詠唱と共に、魔法陣に置かれた幾粒かのルビーの原石が舞い上がる。
「タービン、稼働開始だ」
アクアレギア設計のタービンが低いうなり声と共に動き始める。
「燃え上がるんですぜぃ。……火花は灯に、火は炎に」
帽子を目深にかぶった鬼百合の手の動きと共に、魔法陣の空中に炎が生まれる。
「温度観測。320度……370…… ……500。アシェさんお願いします」
ラシュディアの声に合わせて、アシェが頷き噴き上がるマテリアルに力をこめる。風と炎に満ちる魔法陣の空間が赤く輝き始める。マテリアルがアシェの力に強く感応し始めている証拠だ。壁越しでもその熱風が錬成に取り掛かる一同に襲い掛かる。途端に汗が噴き出てくる。
「マテリアルの流量がやや多いですね。7%絞ります。変換、しっかりやってね」
メリーベルがアルケミストデバイスを通してコントロールしているタンクのマテリアルの放出を抑える。噴き出た汗によって金髪と頬が絡みつくが、メリーベルは顔色一つ変えることなく、ただ流量計だけ眺める。転換作業は他の魔術師に任せるしかない。背を「預ける」というか「預かる」のはあまりない感覚だったが、不思議と悪くはない。
「ルビー自体が赤く輝き始めています。側面熱射、開始します。炎よ立ち上りて壁となれ……」
「リサイクルマテリアル、稼働」
ラシュディアが壁に流れるマテリアルを利用して炎のエネルギーに変えて放射し始める。錬成魔法陣の中はもはや直視できないほどの輝きに満ち、またその熱でゆらゆらと揺れて見えた。
「風量、増加。熱による対流が生まれています。マテリアルで風の流れを調整いたします。天の怒り、海の悲しみ。世は常に動乱なり、風もまた道理。摂理に従い渦巻け……」
レイレリアは炎が踊る様子を見て、すぐさまマテリアルを風に転化するよう詠唱する呪文を変えた。それと同時に結城が入れ替わるようにして、アルケミストデバイスを展開し、マテリアルを熱源にする作業の補佐に入る。
「温度3300。風の勢いが強すぎる。宝石が熱射地点からぶれ始めている」
レイオニールが鋭く叫んだが、3000度を超える熱がどれほどの風を生んでいるのか誰も経験などしたこともない。マチルダやレイレリアが微調整しようにも魔法陣内のマテリアルが強すぎてコントロールが至難の上に、輝きで網膜すら焼き付くほどの明るさでは具体的にどうなっているのか視認すらできない。
「強く感じよ。この世界は、我が身に通ず」
アシェは一旦、集中を解くと、すぐさまその言葉を発した。詠唱ではない。集中する時に使う基礎瞑想法の文言だ。連携率を高めようという動きだが、それに気づいた魔術師達の英断により互いのマテリアルの力と共感し始める。
「思惟する故に、世界は知覚す。知覚する我によりて世界を弑(しい)す。我は無上の一にありて世界に偏在する那由多にあり」
普段は周囲のマテリアルと自身のマテリアルを同調させ、魔力を強める技だが、その基本である同調だけを使い魔術師同士のマテリアルコントロールが均一化していくと、機導士達はそれぞれにデバイスに表示されたマテリアルの計算量を調節する。
「エレクトリックショックの応用だ。それに従って道ができればマテリアルを受けた宝石はそのライン上に収束するはずだ」
「了解」
アクアレギアの言葉に合わせて、結城が答え、その間のコントロールはメリーベルが引き受ける。
全員の意識が魔法陣の中に集中する中、魔法陣に轟音と共に大きな光の柱が立ち上る。
詠唱が。デバイスの駆動が最高潮に達する。
幾粒もの赤い塊は輝く光の中で、次第にその形を失い、やがて一つにまとまっていく。
真紅の球体が光の中で生まれた。
●
「すっげ……。麦粒みたいな石が、こんな塊になるんですねぃ」
錬成魔法陣に送り込まれたマテリアルの輝きが失われた後に残ったのは、球状のルビーそのものであった。空中で溶解し、再結晶化した為か真球であり、加工する必要もなくそれは輝いていた。といってもビー玉程度の大きさではあったが。
「やった、できた、できたぞ!! 宝石を生み出したんだ!!!」
レイオニールは両の腕を天に翳して叫んだ。
十年以上もの研究が実を結んだのだ。その咆哮を誰もが微笑んで見つめていた。
「やったっすねぇ! おっちゃん、オレ、弟子になりたいんでさ!! と、と……」
奇跡を起こしたレイオニールに鬼百合がそう言った。心に秘めた事だったが、しまったちょっと気持ちが逸りすぎたか。
思った通りレイオニールは鬼百合の頭をこつん、と叩いた。ああ、ダメだったか。
「弟子だなんて何言ってる。助手でいてくれよ! パートナーだよ!」
「さぁさ、感動をかみしめるのは伝えるべき人に伝えてからじゃないですかね?」
鬼百合を抱きしめるレイオニールをクスリと笑って、結城はそっと囁いた。それに気が付いてレイオニールはコクリと頷いた。
「そうそう、応援してくれたお礼をしなきゃね、と思うんだけど、どうかな?」
アシェもそう口添えすると、レイオニールはハンターの顔を見た。
「実験ノートはちゃんとつけておくので大丈夫。考察付きでね」
メリーベルが慈愛の笑みを浮かべる。
「費用対効果を考えるとこれからが本番ですよ。宝石の具体的な利用法とか……まあ報告も大切なお仕事ですね」
レイレリアは魔法陣に落ちた細かい屑宝石を集めながら、ちらりとだけ視線を送った。
「ありがとう……」
レイオニールはそう言って、走り出した。
ブリュンヒルデの元へ。
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相談卓 レイレリア・リナークシス(ka3872) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/03/12 23:55:29 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/10 11:16:07 |