ゲスト
(ka0000)
ときめきの案内人(女性編)
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/21 15:00
- 完成日
- 2015/03/27 05:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
巡りあわせとは本当に不思議なものだ。
帝国を軽く巡り野菜を仕入れ終わった食品商のミネアはピースホライズンに再び戻ってきた。街のメインゲートを潜り抜ければ歓楽街特有の浮いた空気が周りを漂う。
見るたびに人の顔も違えば、流行の服も変わっている。この街は留まるということを知らない。だから先日偶然に出会った人と、また出会う、なんていうのはここでは本当に奇跡のような出会いなのだと思う。
「やぁ、また会ったね」
そう。特にこの人とは。
「シャイネさん、先日はありがとうございました。色んな人と仲良くできて本当に楽しかったです!」
バレンタイン商戦用のチョコ作りをハンターと一緒にしたらどうかな? と教えてくれた彼のために、ミネアは御者台から降りて深々とお辞儀をした。
「こちらこそ、たくさんのチョコを準備してくれて本当に助かったよ。良い売れ行きだったね」
「おかげさまで。地方の人に渡す分がなくなりそうで本当に困っちゃいましたよ」
ミネアはそう言って荷馬車に積んだ箱を見せた。ピースホライズンを出るときにはチョコ満載の可愛らしい箱は今やジャガイモで埋まっている。地方の人も喜んで少し入荷量をサービスしてくれたらしい。
「それは大変だったね。大事な人には渡せたのかい?」
「だーかーらー、そんな人いませんって。今は仕事が楽しいんですっ。それに、この荷馬車の代金まだ払い終えていないし、家の仕送りもしなくちゃならないし、今年姉さんが結婚する予定だし、弟は学校入るって言ってるし。行商してたら好きな人いても一緒にいられないし。恋なんて今考える気も起きないです」
先日のお礼にと、ジャガイモをいくつか押し付けるついでにミネアは愚痴も押し付けていった。出稼ぎも楽じゃない。とため息つきで。
「真面目なんだね、君は。献身の精神は素晴らしいけれど、自分の気持ちを押し殺しちゃいけないよ」
シャイネの手は押し付けたジャガイモではなく、ミネアの頭に添えられた。
「あ、あのっ!?」
思わず赤面するミネアにシャイネは少しばかり顔を近づけて微笑んだ。柔和ないつもの微笑み。
「じゃあ僕が恋を教えてあげようか?」
ミネアの脳が音を立てて固まった。奥底で言葉があれこれ出てこようとするが、小さな湧き水の様で真白い頭の中を駆け巡るほどではない。
こ、恋って。鯉の間違いではなくて!?
アホだ。自分で思わずツッコミが入る。でもそうでもしないと自我が崩壊してしまう。
「ああああ、あ、あの。いいい、いきなり何を……ああ、あたしはっ、だだだ、だから」
「恋すると世界は変わるよ。同じものを見ても、同じものを聞いたとしても、光り輝いているように思える。仕事も、これから出会う人も、きっとそんな輝く君の顔が見れることを喜ぶんじゃないかい?」
半分くらい聞き取れなかった。何言ってるのか耳は反応しても頭がついてこずに、ミネアは「はぁ」と生返事をするのが精いっぱいだった。
いや、確かにシャイネさんは綺麗だし、よく気がついてくれる人だし、優しいし。で、でも、自分なんかよりもっと良い人なんてたくさん知ってるはずだ。それなのに、そーれーなーのーにー。
「ああ、良かった。それじゃ早速会場を探さないとね。たくさんの人が集まれるような大きな場所となると……」
え、会場?
……お見合い?
「やっぱりお見合いはイベントごとに含まれるだろうから……」
視界の白さが急激に抜けて、ミネアはきょとんとした顔で嬉しそうに独り言をのたまうシャイネの顔を見た。
「ハンターオフィスには連絡しておくよ。良い人がたくさん集まるといね」
「……はい?」
何故か想像だにしなかった単語を挙げ連ねられ、ミネアの中で疑問符が飛び交った。この人は一体何を言っているのだろう。
「合コンさ。前に街コンもあったし、また新たな男女の出会いをする場を作るのもいいかなと思ったんだ。バレンタインも終わって新たな絆を求める人もいるだろうし、花見や……夏の海に行く相手を見つけたいと思う人も増えているかもしれない。素敵な相手が見つかるよ、きっと」
シャイネはずっと変わらず柔和な笑みを浮かべていた。しかし、先の瞬間とは違って、ミネアにはもう天使のような笑顔にはとても見えなかった。むしろドス黒い悪魔が潜んでいるのではないかと。
「また後で連絡するよ」
意気揚々とジャガイモを持って立ち去るシャイネ。
ミネアはただただ呆然とそれを見送る事しかできなかった。
帝国を軽く巡り野菜を仕入れ終わった食品商のミネアはピースホライズンに再び戻ってきた。街のメインゲートを潜り抜ければ歓楽街特有の浮いた空気が周りを漂う。
見るたびに人の顔も違えば、流行の服も変わっている。この街は留まるということを知らない。だから先日偶然に出会った人と、また出会う、なんていうのはここでは本当に奇跡のような出会いなのだと思う。
「やぁ、また会ったね」
そう。特にこの人とは。
「シャイネさん、先日はありがとうございました。色んな人と仲良くできて本当に楽しかったです!」
バレンタイン商戦用のチョコ作りをハンターと一緒にしたらどうかな? と教えてくれた彼のために、ミネアは御者台から降りて深々とお辞儀をした。
「こちらこそ、たくさんのチョコを準備してくれて本当に助かったよ。良い売れ行きだったね」
「おかげさまで。地方の人に渡す分がなくなりそうで本当に困っちゃいましたよ」
ミネアはそう言って荷馬車に積んだ箱を見せた。ピースホライズンを出るときにはチョコ満載の可愛らしい箱は今やジャガイモで埋まっている。地方の人も喜んで少し入荷量をサービスしてくれたらしい。
「それは大変だったね。大事な人には渡せたのかい?」
「だーかーらー、そんな人いませんって。今は仕事が楽しいんですっ。それに、この荷馬車の代金まだ払い終えていないし、家の仕送りもしなくちゃならないし、今年姉さんが結婚する予定だし、弟は学校入るって言ってるし。行商してたら好きな人いても一緒にいられないし。恋なんて今考える気も起きないです」
先日のお礼にと、ジャガイモをいくつか押し付けるついでにミネアは愚痴も押し付けていった。出稼ぎも楽じゃない。とため息つきで。
「真面目なんだね、君は。献身の精神は素晴らしいけれど、自分の気持ちを押し殺しちゃいけないよ」
シャイネの手は押し付けたジャガイモではなく、ミネアの頭に添えられた。
「あ、あのっ!?」
思わず赤面するミネアにシャイネは少しばかり顔を近づけて微笑んだ。柔和ないつもの微笑み。
「じゃあ僕が恋を教えてあげようか?」
ミネアの脳が音を立てて固まった。奥底で言葉があれこれ出てこようとするが、小さな湧き水の様で真白い頭の中を駆け巡るほどではない。
こ、恋って。鯉の間違いではなくて!?
アホだ。自分で思わずツッコミが入る。でもそうでもしないと自我が崩壊してしまう。
「ああああ、あ、あの。いいい、いきなり何を……ああ、あたしはっ、だだだ、だから」
「恋すると世界は変わるよ。同じものを見ても、同じものを聞いたとしても、光り輝いているように思える。仕事も、これから出会う人も、きっとそんな輝く君の顔が見れることを喜ぶんじゃないかい?」
半分くらい聞き取れなかった。何言ってるのか耳は反応しても頭がついてこずに、ミネアは「はぁ」と生返事をするのが精いっぱいだった。
いや、確かにシャイネさんは綺麗だし、よく気がついてくれる人だし、優しいし。で、でも、自分なんかよりもっと良い人なんてたくさん知ってるはずだ。それなのに、そーれーなーのーにー。
「ああ、良かった。それじゃ早速会場を探さないとね。たくさんの人が集まれるような大きな場所となると……」
え、会場?
……お見合い?
「やっぱりお見合いはイベントごとに含まれるだろうから……」
視界の白さが急激に抜けて、ミネアはきょとんとした顔で嬉しそうに独り言をのたまうシャイネの顔を見た。
「ハンターオフィスには連絡しておくよ。良い人がたくさん集まるといね」
「……はい?」
何故か想像だにしなかった単語を挙げ連ねられ、ミネアの中で疑問符が飛び交った。この人は一体何を言っているのだろう。
「合コンさ。前に街コンもあったし、また新たな男女の出会いをする場を作るのもいいかなと思ったんだ。バレンタインも終わって新たな絆を求める人もいるだろうし、花見や……夏の海に行く相手を見つけたいと思う人も増えているかもしれない。素敵な相手が見つかるよ、きっと」
シャイネはずっと変わらず柔和な笑みを浮かべていた。しかし、先の瞬間とは違って、ミネアにはもう天使のような笑顔にはとても見えなかった。むしろドス黒い悪魔が潜んでいるのではないかと。
「また後で連絡するよ」
意気揚々とジャガイモを持って立ち去るシャイネ。
ミネアはただただ呆然とそれを見送る事しかできなかった。
リプレイ本文
●
「ご準備はよろしいですか? 間もなく大ホール開場します」
女性控室に声をかけに来たのはこのホールの給仕を務める三つ編みの女性だった。この声にミネアは我に返り「ありがとう」と言うと、参加者一同を振り返った。そこには準備の整った女性たちの姿は百花繚乱。
「フォーマルな服装をしたのって、割と久しぶりなのよ。こんなに動き難かったかしら?」
足回りのさばけ具合を何度も確認するリリア・ノヴィドール(ka3056)を見てミコト=S=レグルス(ka3953)も自分もちゃんと似合っているのか少し不安になって髪に手をやる。
「うう、幼馴染に見せようと思ってるんだけど、ちゃんとできてるかな」
「良く似合ってるよ」
髪に編み込んだ赤と金のリボンの結び目をリシャーナ(ka1655)が直すのを見ててリュカ(ka3828)は微笑んだ。おめかしするメンバーとは対照的に普段通りの少し緑の香りが漂う衣装。リシャーナの淡いラベンダーのドレスと横に並ぶと森の艶やかさを思わせた。
「もったいないわ! せっかく綺麗なお肌してるのに」
女性陣の中でひときわ輝きを放つ長身のヲトメ、日浦・知々田・雄拝(ka2796)はリュカを見て深いため息をつく。
「いやいや常在戦場というのでござるよ。いつでも本気モードということにござる」
シオン・アガホ(ka0117)がそう言ってフォローしたが、それはそれで違う気がする。ドレスワンピース姿のエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は思わず笑みをこぼした。
「あら、エヴァだって描きたいもの見つけたら格好お構いなしに絵の具広げるでしょ?」
淡い色のミニドレスで着飾ったイオ・アル・レサート(ka0392)の言葉にエヴァを胸に矢を受けたような動きでのけぞった。
「服も演出の一つですからね。もう一歩踏み出したいときの手助けになるかもしれません」
落ち着いた色合いのワンピースに銀のブレスレットを身に着けた日下 菜摘(ka0881)は穏やかにそう言って場をなだめた。
「ああっ、もう時間がっ! とりあえず、会場に移動してくださーい」
ミネアは時計を見てあたふたと全員を大ホールに押しやって行った。
●
「シオン! あそこにおサムライがいるでござるよ」
「なんと!」
給仕の娘からドリンクサービスでワイングラスを受け取ったミィリア(ka2689)がシオンに指さしたその先には、羽織袴の青年が立っていた。和服だ和服。ジャパンだ。サムライだ!
「リアルブルーの出身でござろうか……これは大チャンスでござる!」
シオンも目を輝かせて、思い切って和服の男の元に駆け寄る。……あれ、ミィリアがついてこない。
「ミィリア殿ぉ!」
「す、すまぬ。後でそちらに……ミィリアにお酒欲しいでござるー! このワインはお酒じゃない~!!」
ウェルカムドリンクは少々健康的な飲み物だったようでドワーフのミィリアにはショックだったらしい。
仕方ない。シオンは思い切って一人で駈け出した。
「おサムライ殿!」
壁際でどう楽しんだものかと悩んでいた和服青年はその第一声にひっくり返りそうになっていた。
●
「えー、ジャパン料理はないのでござるか!?」
話が盛り上がってきたところでシオンがすっとんきょうな声を上げた。ここは西洋料理が主で和食は取り扱ってないらしい。
「ジャパン……リアルブルーの食べ物のようですね」
すぐ隣にいた企業戦士張りのスーツを着こなした男性が思わず何事かと見やるのと同時に、彼と話し込んでいたレラ”シンデレラ”ゼゾッラ(ka3250)は彼に軽く説明した。貧乏生活のため仕事に従事し続けるレラは男性と話しながらも、周りの状況の把握に抜かりはない。
「できる社員としては、是非叶えてあげたいところだね」
男はやや気取って言うと、レラも微笑んで同意した。
「作ってみましょうか。私、料理は自信あるんです」
家事仕事はお手の物。バイト先から借りてきたワンピースの腕をまくり始める。といってもクリムゾンウェスト育ちのレラには日本食は耳にしても目にしたことはない。スーツの彼は早速リサーチに取り掛かる。
「彼女の求める最高のジャパン料理を準備してあげようじゃないか」
「え、ジャパン料理? 困ったな、あたしもあんまり食べたことないんだけど。生まれは砂漠だし、勤務地は宇宙だったし」
アーシュラ・クリオール(ka0226) は問いかけられて困った顔をしたが、訳を聞いてアーシュラはレラに微笑んだ。
「へぇ、他の人の為に頑張ってるんだ。優しいんだね」
屈託のない笑顔にレラは少々畏まってお辞儀する。
「そんなことありません。ただ……せっかく色んなお料理を楽しみにされていたのに残念な気持ちでこのパーティーを終わらせてあげたくないと……」
「そっかぁ。それなら、そっち出身の人に聞けばいいんじゃないかな。ジャパンの人は髪や肌がきれいな人が多いんだ。あの人とか。おーい」
アーシュラはアペリティフワインのボトルを持ってお酌して回っていた日下 菜摘(ka0881)に声をかけた。
「ジャパン料理? ああ、日本食ですか。そうですね。海に囲まれた国ですから食材は魚が多いですね。新鮮な魚を切り身にしてご飯と合わせるスシとか」
医者や聖導士としてではなく、日本出身として声をかけられたことに少し驚きつつも、男にお酌して微笑む。
「なるほど。魚の切り身……任せてください」
●
「やあ、日下さんじゃないか、前に依頼で一緒になったんだけど覚えているかな?」
レラがジャパン料理に取り掛かるのを見ていた日下に男が声をかけた。
「自分の役目を果たしたまでです」
「お、知り合いなんだ。あたしはアーシュラだよ。よろしくね」
アーシュラは男がリアルブルー式の挨拶を見せたことで、ロッソの同乗者であることに気が付いた。
「何してるんだい?」
「ほら、見てみて。レラさんの和食だって」
レラは人に見られながらの調理に少し照れながら、カルパッチョに使っていた魚をナイフを入れ、ライスを整えて切り身の下に滑り込ませた。テーブルに置いていた調味料やカルパッチョに使っていた具材で彩りを揃える。
「出来ました。ピースホライズン風おスシです」
レラの料理の手早さとアドリブ感満載の動きに参加者から拍手が巻き起こる。
「すごいね、こりゃみんなに食べてもらわないと。僕が取り分けるよ」
日下とアーシュラが話しかけてきた男が取り皿をもってみんなに取り分けて配ってくれる。
「わお。ジェントルマン!」
アーシュラはウィンク一つして、喜んでその皿を受け取った。男はそのまま会話を続けようとするが。
「へぇ、その皮のブレスレット素敵だね!」
アーシュラの視線は隣のドワーフが身に着けていた革細工に移っていた。料理を取り分けてくれた男に内心ゴメン。と言いながら。
「こういうの好きなのか? 趣味でやっているんだよ。いいだろ」
アーシュラに褒められて悪い気はしていないドワーフ。
「あたしの半居候先でもさ、こういうの作っているんだよね。熊でも鰐でも骨すら残さず全部使い切っちゃうんだもん」
アーシュラは半ば住み着いている辺境部族のことを話した。あそこにも男はたくさんいるが。
……やっぱ家族だよね。あそこは。
急に言葉を失ったアーシュラを不思議そうに見つめるドワーフの視線に気づいて、アーシュラは首を振った。
「ごめんごめん……って、あれ?」
我に返ったアーシュラの代わりに、今度はドワーフの眼が点になっていた。視線の先にいるのはアルカ・ブラックウェル(ka0790)だ。
「お前、家から出るときはそんなカッコじゃなかっただろ!?」
「へへー、どう?」
アルカは同居人の彼の驚く顔を存分に楽しんで破顔するとゴシックドレスの十重のスカートをつまんであげて見せた。
「いや、そりゃ……驚くけど。その、うん。可愛いし……」
どもるドワーフの顔とそのセリフが聞きたくて。アルカは少し赤面した。
期待してた反応で期待してた通りの言葉だけど。
言われるとやっぱ嬉しい。
「へへ、ありがと」
●
「ほら、君にも。どうだい?」
先ほど料理を取り分けていた男はベリト・アルミラ(ka4331)の元にやってきていた。
「わらわは魔女じゃぞ。リンゴンベリーや、百歩譲ってカンタレーラならまだしもスシなど……」
魔女のイメージどうすればいいんですか。
まだまだ肩肘の張っている自分に思わず肩をおとす。魔女らしくあろうとする使命感がどうしても出てきてしまう。
やや撃沈気味の男にため息をつきながら、ベリトは周りを見回した。皆うまく打ち解けている様子だ。
「あ……」
そんな中で、少し人の輪から外れている女性フィーナ・ウィンスレット(ka3974)を見つけた。黒いケープにドレスをまとい、透き通った緑の瞳でじっと手にした本に筆を走らせる姿は魔の香りを感じる。ベリトと同じ魔女の香り。
「ほう、魔術書か」
ベリトが声をかけるとフィーナはにっこりと微笑み、いいえ。と囁いた。
「『どさくさに紛れてぶち殺すリスト』です。先ほどその本はなんだ、錬金術の依頼書を熱心に見てたね、と慣れなれしく話しかけてきた挙句、内容を教えて差し上げましたら明らかに不実(ドン引き)な態度をとった御仁がいらっしゃいましたので、加えるべきかどうか検討しております」
わらわもドン引きじゃ。
魔女という言葉にも色々あるとベリトは実感した。
●
「あ、あの、大丈夫!?」
七夜・真夕(ka3977)は真っ青な顔をした褐色の青年がたたらを踏んだを見て、慌てて声をかけた。
「嫌な予感はしてたんだ……」
ぶつぶつ呟く青年に体を貸して倒れこまないように助ける七夜に気付いたのか、青年はようやく我に返り七夜を見つめてきた。
「悪酔いでもしたの?」
「いや、ちょっと悪い物を見たせいさ。だけど……」
バターン!
と、続いて別の男が今度はぶっ倒れる。褐色の青年はとりあえず大丈夫だと踏んだ七夜はごめんなさい、と一言述べて離れると倒れた仮面の男に移動する。
「うわ、ひどい怪我じゃない!」
「はは、少し緊張してたようだ」
なんとか椅子に腰かけ休む男は七夜は顔を覚えていたし七夜も顔見知りだった。転移して間もない七夜は彼と再会できたのは少し嬉しいと思ったが。
彼はこんなところに参加してていいのかと思うような状態だった。本気で重体患者だ。
「この中にお医者さん、お医者さんはいませんかー!?」
七夜はすぐさま立ち上がり、大きな声で呼びかけた。
「はい、医者です。どうかされましたか?」
慌てて日下が駆けつけてきた。眼鏡を上げて状況を把握すると日下はすぐさま男の手当てにかかった。
「処置は済んでいるようですが、心拍数が上昇した結果、傷口が開いてしまったようですね。包帯を……」
素早く何でも屋を自称する青年がどこからともなく包帯を手渡され、処置は素早く行われる。
「すごい……いいなぁ、ちょっと羨ましいな」
七夜は自分の力では彼の傷を癒せないことに羨ましくもあった。転移者となって覚醒という力を得たが、それでもすべてを望み通りにすることはできないのだ。
そんな七夜に日下はにこりと笑った。
「私も同じことを思う事はありますよ。だからみんながいる。協力しあうことに意味があるんじゃないでしょうか」
日下はそう言うと処置を終えて、ふっと息を吐いた。
私にもできないことはある。
視線を遠くに飛ばし、日下はそう心の中で呟いた。
●
「ミコ! 合コンなんて聞いてな」
「えへへ、こういうのも悪くないでしょ?」
パーティーでしかできないこともあるし。ミコトは裾の広がるドレスを片手で持ち、くるりと一回転。
それを見て幼馴染は目を奪われてしまった。
「びっくりしたよ。本当に、似合ってるよ。髪も素敵だね」
「へへ……ありがとう」
「良かったわね」
「あなたがヘアセットしてくれたおかげだよ!」
横で優雅にほほ笑むリシャーナにドレスがシワ依るのも気にせず、ぎゅーっと抱きしめた後、続いてミコトはケイルカ(ka4121)にも同じようにハグ。
「一緒に選んだかいがあった私も嬉しいよ!」
ケイルカのピンクのドレスもミコトと一緒に選んだものだ。ミコトのドレスであってもやっぱり褒められると、我がことのように嬉しい。
「お、お姫様が二人。いいねぇ。おっさんならずとも、絵に収めたくなる衝動にかられるね」
黒のジャケットに赤シャツの男がそんな二人に称賛の声を上げると、星型のハーブ入りオムレットの皿を差し出した。ミコトは嬉しそうにありがとう、と言ったが、ケイルカは卵からちょこんと顔を出していたキノコを見て鳥肌を立てた。
「ふぇっ、き、キノコ無理……ごめんなさい。私にはそんな呪いがかかっているのよ」
相手に悪い気を起こさないよう精いっぱいの笑顔を浮かべてケイルカは言った。そして話題をなんとか変えようと彼の言葉にピンときたことを伝えてみた。
「あの、あのっ。もしかして、絵を描かれていたりするんですか? 私も絵をかいたり、あ、楽器を演奏するのも好きなんですよ!」
「いやぁ、見るのは好きだけどね」
「あら、ケイルカは音楽の得意なのね」
おっさんと自称する男よりも反応したのは皆の話を聞いていたリシャーナの方だった。
「私は酒場で歌うお仕事をしているのよ」
是非聞いてみたいな、という男にリシャーナは快諾した。
「あ、それならね。他に歌える人や笛吹ける人も知ってる!」
ケイルカはそう言うと、おーい。と兄妹で何やら会話をしていたエステル・クレティエ(ka3783)とレアチーズケーキとバナナケーキの二刀流で食べ歩いていたエテ(ka1888)を呼んだ。
「兄様ってば、『エシィには口は負けるけど』って、もう……恥ずかしいんだから。あ、ごめんなさい。ええとなんでしょうか」
「ここのケーキは全部美味しいのね、ティラミスが絶品です~」
それぞれの場所で交流や食べ物を満喫していた二人だが、ケイルカとリシャーナの提案を聞くと、みるみる間に目を輝せ、大きく頷いた。
「それじゃ、どんな曲をする……?」
即興演奏隊はひっそり作戦会議を始めた。
●
「っぷはー! 最高でござる!」
ドワーフ用のビールが入っていたジョッキをドンっとテーブルに置いて、ミィリアはようやく人心地をつけた。横では同じように黒豹を思わせる男もビールをおろし、また刀を下げた貴族風の男は開いたジョッキをテーブル隅に追いやり、青のメッシュが入ったドワーフが新たなビールを8杯注文した。
もはや合コンなんざ関係ないといわんばかりの飲み会場だ。
「相変わらずのうわばみだな……ドワーフの長老だってこんな飲まない、はずだ」
もはや貴族風の男は潰れ始めているが、ミィリアは何のことやらわからず首を傾げた。
「ミィリアは長老ではないでござる! なんてったってまだ28……。ってこれは秘密!」
秘密になってない。
それにしても男4人がかりでもミィリアの勢いは止まらない。そんなうわばみのガチ会場に新たな挑戦者が現れた。
「そこで私達と勝負です!」
エリー・ローウェル(ka2576)だった。その手には果実酒のゼリー。
「ふ、ここでの出会いが、いずれ戦場で背中を預け合う。その為には今ここで全力を見せ合うのも悪くない」
常胎ギィ(ka2852)も蜂蜜クレープを持って参戦だ。
酒も好きだけど、甘い物も大好きなミィリアは万歳で二人の参戦を歓迎した。
「やったー! 受けて立つでござるよ! みんなもどう?」
酒の共に甘い物ぉ? 戦慄する者もいたが、ここで引き下がるわけにはいかない。男も徹底にやるぞーと答えてくれた。
「ふふ、立てば雄々しき、座れば可憐。食べ飲みする姿はなんとやらだね」
「なんとやら……えーと、底なし沼とかでござるか?」
ギィの褒め言葉にミィリアが小首を傾げてそう言うと、男数名が吹き出しそうになった。
「ま、酒もさもかく飯もタダなんだ。酒だけじゃもったいないよな」
「ではこのグリル・ド・チキンというのを頼もう。とりわけもできるみたいだが……人数分でいいな?」
ギィの発言にみんな笑った。
食べ物から、どんな戦いをしてきたのか、修行は? など話題はあちらこちらにフラフラより道しながら盛り上がる。
●
「よーし、これで行きましょう」
エステルは立ち上がると、荷物から横笛を取り出した。
「お、一曲ご披露か?」
スーツにサングラス姿の男、自己紹介から着ぐるみを準備していた男が輝くスマイルでエステルにそう問いかけた。
「ええ、今からちょっと歌の披露しようかなって思っているのよ」
「そっか、それじゃみんなに聞いてもらえるようにしなきゃな。ここは俺の出番だぜ!」
男はそう言うと、変身した。
着ぐるみ、おーん! 確かにそれだけで、周囲の人間の眼は釘づけになる。歌唄いのメンバーも。
「冬眠ハンター熊、歌うぜ曲は、春のクマ!!」
キレのいい動きでくまさんが踊り出す。
「あらあら、パルパルも踊りたいですの?」
それを見たチョココ(ka2449)が踊りたそうにしているパルムを追いかけていたが着ぐるみ男を見上げて会釈すると、やおら歌いだした。
「あら、くまさーん♪ ありがとう♪ お礼に踊りましょー、ですのー」
「お、いいぜ。一緒に踊ろう!」
「はい、今日の合コンの参加者であるパルパルですの。是非よろしくお願いしますわね」
えー、そっちなの!?
着ぐるみ男はひっくり返った。
●
「熊と妖精のダンス……」
合コンって本当賑やかなのん。笛と合唱が流れる中、ぽかんと見つめていたのはミィナ・アレグトーリア(ka0317)だった。
「フェアリーテイルを模した舞踏劇なのかの。故郷でもああした踊りをすることがあるのじゃ。太陽も沈まぬからな、妖精の国ともよく言われる」
「へぇ、夢の国みたいんね~」
ベリトが話す故郷のスウェーデンはミィナにとっては本当に不思議な場所のようであった。リアルブルーってもしかして、そういうほんわかしたところなんかなぁ?
「スウェーデンは研究者の土壌をよく育む環境であったことは事実ですね。そういう意味ではこのクリムゾンウェストは知を活かせる良い場所ですよ」
学者風の男にそう言われて、ベリトは嬉しそうにした。
「ご存知で?」
「文献でなら……ああ、すみません。嬉しくて」
彼は学者として今、魔術師をしているらしく。職業魔女で、今は正真正銘の魔術師となったベリトとはなんだか気が合いそう。魔術や研究についての話題に花が咲く。
その横でミィナはリアルブルー出身らしい女顔の青年が持ってきた木彫りの人形にミィナは目を移した。なんとも愛らしい。
「気になる? 木彫りって結構面白いものだよ?」
「これ、手作りなのん? すごいんねぇ。うちはお菓子作りやったらできるんやけど」
あ、そうだ。と思い出して、ミィナはアルカディアコンフェイトを取り出した。折角なんだし食べてもらわなきゃ。
ミィナははいっ、はいっ、次々と渡していき、そして次の人で立ち止まった。
「お菓子作りできるんだ、私も作るのも食べるのも好きなの」
気にしてた人だ。本当に男性か女性かぱっと見た目では分からないその人は、ミィナのお菓子を笑顔と両手で受け取ってくれた。
ミィナにはわかる。さっきまでの暗いものを引きずってた顔。今、お菓子を受け取ってふと緩んだ顔にミィナは微笑んだ。
「その笑顔が良いのん」
「残念だった?」
馴染めていなければ声をかけてやるか、と菓子をもらう順番を待っていた赤髪の青年にイオはくすす、と笑った。
「そんなことないさ。代わりにあんたと話せるチャンスをもらったんだからな」
赤髪の青年はワイングラスを上げて、乾杯の合図をするとイオも合わせるように乾杯をしたが、ミリア・コーネリウス(ka1287) の強い視線を感じてクスクスと笑った。
「ぐぬぬ……」
「イオは美人だからね」
グリル・ド・チキンを骨ごと噛み千切りそうな勢いで見つめるミリアに褐色の肌の青年が横でぼやく。どうやらイオの知人らしい。
「だからって、あんなデレデレしちゃって……」
「じゃあさ、こっちも見せつけてやったら、彼もこっちを向いてくれるんじゃないかな?」
褐色の青年は甘い香りが漂わせながら、ミリアに囁きかけた。が、青年はミリアの後ろにいるエヴァの存在に気付くと目つきが若干悪くなったようだった。
エヴァは一生懸命微笑んで手を振るも、ガン無視態勢。
かっちーん。
「ぐぇっ」
エヴァはドレスワンピースにも拘わらず、だだーっと走るとラリアットから腕ひしぎのコンボを炸裂させる。
悪くないよね?
「あらら、ダメよ。女の子なんだからぁ」
Non=Bee(ka1604)が慌てて止めに入るが、腕ひしぎのままに笑って、トライフを指さし、Go! Go!! と合図する。
「まあ、一気に迫れって?」
Nonは褐色の頬を染めて、照れて首を振った。
「そうよ、そうよ。今日の為に香水変えたんでしょ? 私、判るんだからっ。あの子だって今がチャンスって言ってくれてるのよ?」
日浦がNonの背中からグイグイと肘で押す。
「そうね。今年のワインは歪虚の影響で最高になったもの。この機会を逃せば、最高の彼氏と最高のお酒を一緒にすることはできないものね!」
「おい、まて、やめ……」
褐色の青年が断末魔を上げた。
「異性間でのやり取りでは知力がもっぱら利用されますが、その上で武力を利用する場合もある、と」
フィーナは珍しい現象をニコニコ書き留めていた。
「楽しそうだね」
「ええ、もちろんです」
周りに誰もいないフィーナに声をかけたギィは、黒い聖母のような彼女にとても興味をもったのであった。
●
「すっごい、綺麗な音だね!」
歌が終わって戻ってきたエステルを一番に褒めて迎えてくれたのはキャンディーブーケを差し出してくれた兄の友人だった。もちろん、兄も、兄が懇意にしている辺境の男も、そして言葉に独特の訛りがある燕尾服の青年もみんな拍手して迎えてくれた。
「エステル、本当にすごかったね。あ、ボクね、お兄さんにもお世話になっていたんだ。ね、友達になってよ」
男性だけでなく、アルカも本当に感激したようでキャンディーブーケを持つエステルの手をしっかと両手で握り、アルカは嬉しそうに話しかけた。
「え? 私と? ありがとうございます」
こくこくと頷くエステル。もう周りからあれやこれやと声をかけられて、ちょっと対応が追いつかない。
「なんか横笛を聞くと……思い出しちゃうのね」
そんな中、リリアは少しだけはにかんだ顔をした。それに気づいてリュカも頷いた。
「恋の果ての話だったね。……この大勢の中からまた恋が育まれるのかもしれないが。その結実を目の当たりにすると、それが良いことなのか。そう悩むのは私も同じだ」
二人はシトロンと蜂蜜の飲料に目を落とし、何とも言えない顔をしていた。それに気づいてか辺境の男が声をかけてくる。彼もまた同じ結末を見てきた人間だ。違う所と言えば今日は目が醒めるような赤いスーツ姿であることか。
「大丈夫か? 食べ過ぎなら良い薬があるぞ」
彼はエテから勧められたバナナケーキの皿を手にしてそう尋ねてきた。
二人は彼を見て顔を見合わせた。……なんともご機嫌な事。
「もー、女の子にそんな顔させちゃダメでしょ」
海商を務める少年は辺境の男の背を軽くつつかれ、背を正す辺境の彼。そのかいあってか、二人の話の内容に気づいたようだった。
「前を向かなければ、彼にも彼女にも顔向けができんだろう。大切なのは今ここにあることの奇跡を喜ぶことじゃあないかね」
二人は苦笑した。最適解のようにも聞こえるし、なんとも都合のいい言葉にも聞こえる。
君はどうだったのだろう? リュカは聞きたくなったが、それはここでは憚られるような気がした。
「ね、ね? ケイルカさんとエテさんがお絵かきを披露しているの」
破顔して笑う二人に七夜が声をかけた。彼女の言葉通り、向こうでは燕尾服の青年とお揃いのウサギ、それから木彫りのウサギの絵のスケッチを披露していた。
「ふむ、行ってみようか」
リュカの言葉に七夜は嬉しそうに笑った。
つなぐべき縁はここにある。それは間違いなさそうだ。道中でエステルの兄を見つけた七夜は、彼にもすぐ挨拶し、同行者を増やしていく。持ち前の好奇心が人の輪を紡いでいく。
森の中ではない光景だ。こんな力強さがあれば、我々ももう少しは違っていただろうに。
リュカは眩しそうに七夜を見つめていた。
●
「ああ、見失っちゃった」
人ごみの中でミリアはオロオロしながら辺りを見回すが、兄貴と呼ぶ義兄の姿を見つけ出せない。
こんな時は焦ってはダメだ。やるべきことは心と腰を落ち着けて。
「こっちにローストビーフ!!」
思いっきり分厚いので! とオーダーした。
「よう、嬢ちゃん! 楽しめてるか」
「もっち!」
肉汁滴り落ちるローストビーフの塊をフォークで突き刺して男の言葉に反射的に威勢よく答えたものの、本当はそんなに落ち着いているわけでもない。
とりあえず食べて食べて落ち着いたら、もっかい探す!
ミリアは運ばれてきたローストビーフをがっつり食べ始める。
「お前、ここにきても飯ばっかり食ってんのかよ!」
「い、いいだろ! 好きなんだから!!」
いない、いないと探していた義兄が背後から姿を現した。顔を赤らめて抗議するミリアに義兄は聞いたか聞いていないのか。ミリアのフォークを奪い取りそのまま口に運んだ。
「きゃあっ! それって間接キスよ! もーう、大胆なんだからぁ」
その様子を見ていたNonの言葉にミリアの顔は一気に最高潮、いやいや、真っ赤っかになった。
●
「……あの」
選択肢ってどこで出てくるんだよ!? とか隅っこで叫んでいるのをたしなめたり、さらにいや、ここは剣舞で。とか収拾がつかなくなっている仲の良い三兄弟に思い切って足を運んだエリーの言葉に、うち二人は固まった。
「おおお、おう!」
「二人とも……」
一番上がたしなめるのをエリーは微笑んでいた。そのことは前から知っていることだし。それよりこうして話せることができたのが嬉しいのだから。ただ……話が続きそうになくて、エリーもさてどうしてものかと笑顔に隠れて悩んでいた。
そんな硬直した事態をみかねてか、ミィナが長兄を中心に見据えてにこーっとほほ笑んだ。
「出てる食事では何がオススメなん?」
「そうですね。隠れメニューだと言われるデコレーションレアチーズケーキなどはいかがでしょうか、レディ・ミィナ」
れ、れで、ぃ!?
ミィナは予想外の丁寧な扱いに少しばかり硬直した。向こうも向こうでまたやってしまったとか言っている。
「あ、あや。あ、あはは。そうなんね~。うち甘い物好きなんよ」
「あ、私も甘い物大好き。さっきはミィリアちゃんと甘い物対決してたんだけど……皆さんは甘い物、食べます?」
「甘い物も辛い物もなんでもオッケーさ!」
エリーが振った話題に、なんだかあらかじめ用意していたような言葉で次男が語る。目の焦点あってないけれど。
「うち、お菓子作りできるんよ。もう全部渡しちゃったけれど。頑張ればジョーナマガシ? も作れそうなんよ~」
「あら、お菓子で作る芸術品と謳われるものよね。凄いわね~。是非その腕を見せていただきたいわ」
長兄はそう言うと、ガチガチに固まる下二人を差し置いてミィナと移動していく。
「あ、それじゃ、一緒にお菓子作り、見ましょうか」
お菓子を見ている限りなら女性の気に当てられて困ることもないだろう。エリーは柔らかい口調でそういった。
●
「ハイ、ミネア。気になる人のところにはいかなくていいの?」
イオが声をかけた時、ミネアは黙々と隅っこでジュースをがぶ飲みしていた。
「だぁってー、どうせあたしにかこつけて他の人とお知り合いになりたいだけじゃないの。あたしなんて、あたしなんて」
ぶちぶち、とミネアは不満を零す。
「きっと、そんなことないヨー。みんな出会いを求めテいるのは一緒ダヨ☆ 気持ちと行動デ、結果は変わっテくるヨ」
「そうだよ。何事もやってみなきゃね!」
「何言ってるんですか、あの吟遊詩人さんがたくさんチョコを買ってくれたんですよ。買うなら縁のある人のところから。ってきっと気持ちは通じますよ!」
燕尾服の青年や海商の少年にそう背中を押され、エステルがミネアを励ます。
「ミネアさま、こういう時は突撃あるのみですわー☆」
チョココはパルパルと一緒に応援のダンス。
ここまでしてくれたら、ミネアとしても行かないわけには。
皆に励まされてミネアはシャイネに向かって歩いて行ったが。
「あれ……シャイネさんどこかな?」
探してみれば廊下のところでエステルの兄と何やら話している。
「あ……」
話しかけようとした瞬間、兄からシャイネを逃がさないように、音を立てるほどの勢いで壁に手を突き、何やら話し声。
「心配なんだよ! ……今は、無理でもさ」
「今の言葉、覚えておくよ♪」
シャイネは笑って兄にそう言っていた。
……ミネアは硬直した。何やら話しているが、それ以上の事はよく聞き取れない。しかし、そんなものなくともこの状況で他に想像できるものなどない。
その日からしばらくミネアは男性が並んで歩く姿に対してひどく過敏に反応するようになったとか、ならなかったとか。
とにもかくにも、人々が交錯する合コンは最後まで和やかに過ぎていくのであった。
「ご準備はよろしいですか? 間もなく大ホール開場します」
女性控室に声をかけに来たのはこのホールの給仕を務める三つ編みの女性だった。この声にミネアは我に返り「ありがとう」と言うと、参加者一同を振り返った。そこには準備の整った女性たちの姿は百花繚乱。
「フォーマルな服装をしたのって、割と久しぶりなのよ。こんなに動き難かったかしら?」
足回りのさばけ具合を何度も確認するリリア・ノヴィドール(ka3056)を見てミコト=S=レグルス(ka3953)も自分もちゃんと似合っているのか少し不安になって髪に手をやる。
「うう、幼馴染に見せようと思ってるんだけど、ちゃんとできてるかな」
「良く似合ってるよ」
髪に編み込んだ赤と金のリボンの結び目をリシャーナ(ka1655)が直すのを見ててリュカ(ka3828)は微笑んだ。おめかしするメンバーとは対照的に普段通りの少し緑の香りが漂う衣装。リシャーナの淡いラベンダーのドレスと横に並ぶと森の艶やかさを思わせた。
「もったいないわ! せっかく綺麗なお肌してるのに」
女性陣の中でひときわ輝きを放つ長身のヲトメ、日浦・知々田・雄拝(ka2796)はリュカを見て深いため息をつく。
「いやいや常在戦場というのでござるよ。いつでも本気モードということにござる」
シオン・アガホ(ka0117)がそう言ってフォローしたが、それはそれで違う気がする。ドレスワンピース姿のエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は思わず笑みをこぼした。
「あら、エヴァだって描きたいもの見つけたら格好お構いなしに絵の具広げるでしょ?」
淡い色のミニドレスで着飾ったイオ・アル・レサート(ka0392)の言葉にエヴァを胸に矢を受けたような動きでのけぞった。
「服も演出の一つですからね。もう一歩踏み出したいときの手助けになるかもしれません」
落ち着いた色合いのワンピースに銀のブレスレットを身に着けた日下 菜摘(ka0881)は穏やかにそう言って場をなだめた。
「ああっ、もう時間がっ! とりあえず、会場に移動してくださーい」
ミネアは時計を見てあたふたと全員を大ホールに押しやって行った。
●
「シオン! あそこにおサムライがいるでござるよ」
「なんと!」
給仕の娘からドリンクサービスでワイングラスを受け取ったミィリア(ka2689)がシオンに指さしたその先には、羽織袴の青年が立っていた。和服だ和服。ジャパンだ。サムライだ!
「リアルブルーの出身でござろうか……これは大チャンスでござる!」
シオンも目を輝かせて、思い切って和服の男の元に駆け寄る。……あれ、ミィリアがついてこない。
「ミィリア殿ぉ!」
「す、すまぬ。後でそちらに……ミィリアにお酒欲しいでござるー! このワインはお酒じゃない~!!」
ウェルカムドリンクは少々健康的な飲み物だったようでドワーフのミィリアにはショックだったらしい。
仕方ない。シオンは思い切って一人で駈け出した。
「おサムライ殿!」
壁際でどう楽しんだものかと悩んでいた和服青年はその第一声にひっくり返りそうになっていた。
●
「えー、ジャパン料理はないのでござるか!?」
話が盛り上がってきたところでシオンがすっとんきょうな声を上げた。ここは西洋料理が主で和食は取り扱ってないらしい。
「ジャパン……リアルブルーの食べ物のようですね」
すぐ隣にいた企業戦士張りのスーツを着こなした男性が思わず何事かと見やるのと同時に、彼と話し込んでいたレラ”シンデレラ”ゼゾッラ(ka3250)は彼に軽く説明した。貧乏生活のため仕事に従事し続けるレラは男性と話しながらも、周りの状況の把握に抜かりはない。
「できる社員としては、是非叶えてあげたいところだね」
男はやや気取って言うと、レラも微笑んで同意した。
「作ってみましょうか。私、料理は自信あるんです」
家事仕事はお手の物。バイト先から借りてきたワンピースの腕をまくり始める。といってもクリムゾンウェスト育ちのレラには日本食は耳にしても目にしたことはない。スーツの彼は早速リサーチに取り掛かる。
「彼女の求める最高のジャパン料理を準備してあげようじゃないか」
「え、ジャパン料理? 困ったな、あたしもあんまり食べたことないんだけど。生まれは砂漠だし、勤務地は宇宙だったし」
アーシュラ・クリオール(ka0226) は問いかけられて困った顔をしたが、訳を聞いてアーシュラはレラに微笑んだ。
「へぇ、他の人の為に頑張ってるんだ。優しいんだね」
屈託のない笑顔にレラは少々畏まってお辞儀する。
「そんなことありません。ただ……せっかく色んなお料理を楽しみにされていたのに残念な気持ちでこのパーティーを終わらせてあげたくないと……」
「そっかぁ。それなら、そっち出身の人に聞けばいいんじゃないかな。ジャパンの人は髪や肌がきれいな人が多いんだ。あの人とか。おーい」
アーシュラはアペリティフワインのボトルを持ってお酌して回っていた日下 菜摘(ka0881)に声をかけた。
「ジャパン料理? ああ、日本食ですか。そうですね。海に囲まれた国ですから食材は魚が多いですね。新鮮な魚を切り身にしてご飯と合わせるスシとか」
医者や聖導士としてではなく、日本出身として声をかけられたことに少し驚きつつも、男にお酌して微笑む。
「なるほど。魚の切り身……任せてください」
●
「やあ、日下さんじゃないか、前に依頼で一緒になったんだけど覚えているかな?」
レラがジャパン料理に取り掛かるのを見ていた日下に男が声をかけた。
「自分の役目を果たしたまでです」
「お、知り合いなんだ。あたしはアーシュラだよ。よろしくね」
アーシュラは男がリアルブルー式の挨拶を見せたことで、ロッソの同乗者であることに気が付いた。
「何してるんだい?」
「ほら、見てみて。レラさんの和食だって」
レラは人に見られながらの調理に少し照れながら、カルパッチョに使っていた魚をナイフを入れ、ライスを整えて切り身の下に滑り込ませた。テーブルに置いていた調味料やカルパッチョに使っていた具材で彩りを揃える。
「出来ました。ピースホライズン風おスシです」
レラの料理の手早さとアドリブ感満載の動きに参加者から拍手が巻き起こる。
「すごいね、こりゃみんなに食べてもらわないと。僕が取り分けるよ」
日下とアーシュラが話しかけてきた男が取り皿をもってみんなに取り分けて配ってくれる。
「わお。ジェントルマン!」
アーシュラはウィンク一つして、喜んでその皿を受け取った。男はそのまま会話を続けようとするが。
「へぇ、その皮のブレスレット素敵だね!」
アーシュラの視線は隣のドワーフが身に着けていた革細工に移っていた。料理を取り分けてくれた男に内心ゴメン。と言いながら。
「こういうの好きなのか? 趣味でやっているんだよ。いいだろ」
アーシュラに褒められて悪い気はしていないドワーフ。
「あたしの半居候先でもさ、こういうの作っているんだよね。熊でも鰐でも骨すら残さず全部使い切っちゃうんだもん」
アーシュラは半ば住み着いている辺境部族のことを話した。あそこにも男はたくさんいるが。
……やっぱ家族だよね。あそこは。
急に言葉を失ったアーシュラを不思議そうに見つめるドワーフの視線に気づいて、アーシュラは首を振った。
「ごめんごめん……って、あれ?」
我に返ったアーシュラの代わりに、今度はドワーフの眼が点になっていた。視線の先にいるのはアルカ・ブラックウェル(ka0790)だ。
「お前、家から出るときはそんなカッコじゃなかっただろ!?」
「へへー、どう?」
アルカは同居人の彼の驚く顔を存分に楽しんで破顔するとゴシックドレスの十重のスカートをつまんであげて見せた。
「いや、そりゃ……驚くけど。その、うん。可愛いし……」
どもるドワーフの顔とそのセリフが聞きたくて。アルカは少し赤面した。
期待してた反応で期待してた通りの言葉だけど。
言われるとやっぱ嬉しい。
「へへ、ありがと」
●
「ほら、君にも。どうだい?」
先ほど料理を取り分けていた男はベリト・アルミラ(ka4331)の元にやってきていた。
「わらわは魔女じゃぞ。リンゴンベリーや、百歩譲ってカンタレーラならまだしもスシなど……」
魔女のイメージどうすればいいんですか。
まだまだ肩肘の張っている自分に思わず肩をおとす。魔女らしくあろうとする使命感がどうしても出てきてしまう。
やや撃沈気味の男にため息をつきながら、ベリトは周りを見回した。皆うまく打ち解けている様子だ。
「あ……」
そんな中で、少し人の輪から外れている女性フィーナ・ウィンスレット(ka3974)を見つけた。黒いケープにドレスをまとい、透き通った緑の瞳でじっと手にした本に筆を走らせる姿は魔の香りを感じる。ベリトと同じ魔女の香り。
「ほう、魔術書か」
ベリトが声をかけるとフィーナはにっこりと微笑み、いいえ。と囁いた。
「『どさくさに紛れてぶち殺すリスト』です。先ほどその本はなんだ、錬金術の依頼書を熱心に見てたね、と慣れなれしく話しかけてきた挙句、内容を教えて差し上げましたら明らかに不実(ドン引き)な態度をとった御仁がいらっしゃいましたので、加えるべきかどうか検討しております」
わらわもドン引きじゃ。
魔女という言葉にも色々あるとベリトは実感した。
●
「あ、あの、大丈夫!?」
七夜・真夕(ka3977)は真っ青な顔をした褐色の青年がたたらを踏んだを見て、慌てて声をかけた。
「嫌な予感はしてたんだ……」
ぶつぶつ呟く青年に体を貸して倒れこまないように助ける七夜に気付いたのか、青年はようやく我に返り七夜を見つめてきた。
「悪酔いでもしたの?」
「いや、ちょっと悪い物を見たせいさ。だけど……」
バターン!
と、続いて別の男が今度はぶっ倒れる。褐色の青年はとりあえず大丈夫だと踏んだ七夜はごめんなさい、と一言述べて離れると倒れた仮面の男に移動する。
「うわ、ひどい怪我じゃない!」
「はは、少し緊張してたようだ」
なんとか椅子に腰かけ休む男は七夜は顔を覚えていたし七夜も顔見知りだった。転移して間もない七夜は彼と再会できたのは少し嬉しいと思ったが。
彼はこんなところに参加してていいのかと思うような状態だった。本気で重体患者だ。
「この中にお医者さん、お医者さんはいませんかー!?」
七夜はすぐさま立ち上がり、大きな声で呼びかけた。
「はい、医者です。どうかされましたか?」
慌てて日下が駆けつけてきた。眼鏡を上げて状況を把握すると日下はすぐさま男の手当てにかかった。
「処置は済んでいるようですが、心拍数が上昇した結果、傷口が開いてしまったようですね。包帯を……」
素早く何でも屋を自称する青年がどこからともなく包帯を手渡され、処置は素早く行われる。
「すごい……いいなぁ、ちょっと羨ましいな」
七夜は自分の力では彼の傷を癒せないことに羨ましくもあった。転移者となって覚醒という力を得たが、それでもすべてを望み通りにすることはできないのだ。
そんな七夜に日下はにこりと笑った。
「私も同じことを思う事はありますよ。だからみんながいる。協力しあうことに意味があるんじゃないでしょうか」
日下はそう言うと処置を終えて、ふっと息を吐いた。
私にもできないことはある。
視線を遠くに飛ばし、日下はそう心の中で呟いた。
●
「ミコ! 合コンなんて聞いてな」
「えへへ、こういうのも悪くないでしょ?」
パーティーでしかできないこともあるし。ミコトは裾の広がるドレスを片手で持ち、くるりと一回転。
それを見て幼馴染は目を奪われてしまった。
「びっくりしたよ。本当に、似合ってるよ。髪も素敵だね」
「へへ……ありがとう」
「良かったわね」
「あなたがヘアセットしてくれたおかげだよ!」
横で優雅にほほ笑むリシャーナにドレスがシワ依るのも気にせず、ぎゅーっと抱きしめた後、続いてミコトはケイルカ(ka4121)にも同じようにハグ。
「一緒に選んだかいがあった私も嬉しいよ!」
ケイルカのピンクのドレスもミコトと一緒に選んだものだ。ミコトのドレスであってもやっぱり褒められると、我がことのように嬉しい。
「お、お姫様が二人。いいねぇ。おっさんならずとも、絵に収めたくなる衝動にかられるね」
黒のジャケットに赤シャツの男がそんな二人に称賛の声を上げると、星型のハーブ入りオムレットの皿を差し出した。ミコトは嬉しそうにありがとう、と言ったが、ケイルカは卵からちょこんと顔を出していたキノコを見て鳥肌を立てた。
「ふぇっ、き、キノコ無理……ごめんなさい。私にはそんな呪いがかかっているのよ」
相手に悪い気を起こさないよう精いっぱいの笑顔を浮かべてケイルカは言った。そして話題をなんとか変えようと彼の言葉にピンときたことを伝えてみた。
「あの、あのっ。もしかして、絵を描かれていたりするんですか? 私も絵をかいたり、あ、楽器を演奏するのも好きなんですよ!」
「いやぁ、見るのは好きだけどね」
「あら、ケイルカは音楽の得意なのね」
おっさんと自称する男よりも反応したのは皆の話を聞いていたリシャーナの方だった。
「私は酒場で歌うお仕事をしているのよ」
是非聞いてみたいな、という男にリシャーナは快諾した。
「あ、それならね。他に歌える人や笛吹ける人も知ってる!」
ケイルカはそう言うと、おーい。と兄妹で何やら会話をしていたエステル・クレティエ(ka3783)とレアチーズケーキとバナナケーキの二刀流で食べ歩いていたエテ(ka1888)を呼んだ。
「兄様ってば、『エシィには口は負けるけど』って、もう……恥ずかしいんだから。あ、ごめんなさい。ええとなんでしょうか」
「ここのケーキは全部美味しいのね、ティラミスが絶品です~」
それぞれの場所で交流や食べ物を満喫していた二人だが、ケイルカとリシャーナの提案を聞くと、みるみる間に目を輝せ、大きく頷いた。
「それじゃ、どんな曲をする……?」
即興演奏隊はひっそり作戦会議を始めた。
●
「っぷはー! 最高でござる!」
ドワーフ用のビールが入っていたジョッキをドンっとテーブルに置いて、ミィリアはようやく人心地をつけた。横では同じように黒豹を思わせる男もビールをおろし、また刀を下げた貴族風の男は開いたジョッキをテーブル隅に追いやり、青のメッシュが入ったドワーフが新たなビールを8杯注文した。
もはや合コンなんざ関係ないといわんばかりの飲み会場だ。
「相変わらずのうわばみだな……ドワーフの長老だってこんな飲まない、はずだ」
もはや貴族風の男は潰れ始めているが、ミィリアは何のことやらわからず首を傾げた。
「ミィリアは長老ではないでござる! なんてったってまだ28……。ってこれは秘密!」
秘密になってない。
それにしても男4人がかりでもミィリアの勢いは止まらない。そんなうわばみのガチ会場に新たな挑戦者が現れた。
「そこで私達と勝負です!」
エリー・ローウェル(ka2576)だった。その手には果実酒のゼリー。
「ふ、ここでの出会いが、いずれ戦場で背中を預け合う。その為には今ここで全力を見せ合うのも悪くない」
常胎ギィ(ka2852)も蜂蜜クレープを持って参戦だ。
酒も好きだけど、甘い物も大好きなミィリアは万歳で二人の参戦を歓迎した。
「やったー! 受けて立つでござるよ! みんなもどう?」
酒の共に甘い物ぉ? 戦慄する者もいたが、ここで引き下がるわけにはいかない。男も徹底にやるぞーと答えてくれた。
「ふふ、立てば雄々しき、座れば可憐。食べ飲みする姿はなんとやらだね」
「なんとやら……えーと、底なし沼とかでござるか?」
ギィの褒め言葉にミィリアが小首を傾げてそう言うと、男数名が吹き出しそうになった。
「ま、酒もさもかく飯もタダなんだ。酒だけじゃもったいないよな」
「ではこのグリル・ド・チキンというのを頼もう。とりわけもできるみたいだが……人数分でいいな?」
ギィの発言にみんな笑った。
食べ物から、どんな戦いをしてきたのか、修行は? など話題はあちらこちらにフラフラより道しながら盛り上がる。
●
「よーし、これで行きましょう」
エステルは立ち上がると、荷物から横笛を取り出した。
「お、一曲ご披露か?」
スーツにサングラス姿の男、自己紹介から着ぐるみを準備していた男が輝くスマイルでエステルにそう問いかけた。
「ええ、今からちょっと歌の披露しようかなって思っているのよ」
「そっか、それじゃみんなに聞いてもらえるようにしなきゃな。ここは俺の出番だぜ!」
男はそう言うと、変身した。
着ぐるみ、おーん! 確かにそれだけで、周囲の人間の眼は釘づけになる。歌唄いのメンバーも。
「冬眠ハンター熊、歌うぜ曲は、春のクマ!!」
キレのいい動きでくまさんが踊り出す。
「あらあら、パルパルも踊りたいですの?」
それを見たチョココ(ka2449)が踊りたそうにしているパルムを追いかけていたが着ぐるみ男を見上げて会釈すると、やおら歌いだした。
「あら、くまさーん♪ ありがとう♪ お礼に踊りましょー、ですのー」
「お、いいぜ。一緒に踊ろう!」
「はい、今日の合コンの参加者であるパルパルですの。是非よろしくお願いしますわね」
えー、そっちなの!?
着ぐるみ男はひっくり返った。
●
「熊と妖精のダンス……」
合コンって本当賑やかなのん。笛と合唱が流れる中、ぽかんと見つめていたのはミィナ・アレグトーリア(ka0317)だった。
「フェアリーテイルを模した舞踏劇なのかの。故郷でもああした踊りをすることがあるのじゃ。太陽も沈まぬからな、妖精の国ともよく言われる」
「へぇ、夢の国みたいんね~」
ベリトが話す故郷のスウェーデンはミィナにとっては本当に不思議な場所のようであった。リアルブルーってもしかして、そういうほんわかしたところなんかなぁ?
「スウェーデンは研究者の土壌をよく育む環境であったことは事実ですね。そういう意味ではこのクリムゾンウェストは知を活かせる良い場所ですよ」
学者風の男にそう言われて、ベリトは嬉しそうにした。
「ご存知で?」
「文献でなら……ああ、すみません。嬉しくて」
彼は学者として今、魔術師をしているらしく。職業魔女で、今は正真正銘の魔術師となったベリトとはなんだか気が合いそう。魔術や研究についての話題に花が咲く。
その横でミィナはリアルブルー出身らしい女顔の青年が持ってきた木彫りの人形にミィナは目を移した。なんとも愛らしい。
「気になる? 木彫りって結構面白いものだよ?」
「これ、手作りなのん? すごいんねぇ。うちはお菓子作りやったらできるんやけど」
あ、そうだ。と思い出して、ミィナはアルカディアコンフェイトを取り出した。折角なんだし食べてもらわなきゃ。
ミィナははいっ、はいっ、次々と渡していき、そして次の人で立ち止まった。
「お菓子作りできるんだ、私も作るのも食べるのも好きなの」
気にしてた人だ。本当に男性か女性かぱっと見た目では分からないその人は、ミィナのお菓子を笑顔と両手で受け取ってくれた。
ミィナにはわかる。さっきまでの暗いものを引きずってた顔。今、お菓子を受け取ってふと緩んだ顔にミィナは微笑んだ。
「その笑顔が良いのん」
「残念だった?」
馴染めていなければ声をかけてやるか、と菓子をもらう順番を待っていた赤髪の青年にイオはくすす、と笑った。
「そんなことないさ。代わりにあんたと話せるチャンスをもらったんだからな」
赤髪の青年はワイングラスを上げて、乾杯の合図をするとイオも合わせるように乾杯をしたが、ミリア・コーネリウス(ka1287) の強い視線を感じてクスクスと笑った。
「ぐぬぬ……」
「イオは美人だからね」
グリル・ド・チキンを骨ごと噛み千切りそうな勢いで見つめるミリアに褐色の肌の青年が横でぼやく。どうやらイオの知人らしい。
「だからって、あんなデレデレしちゃって……」
「じゃあさ、こっちも見せつけてやったら、彼もこっちを向いてくれるんじゃないかな?」
褐色の青年は甘い香りが漂わせながら、ミリアに囁きかけた。が、青年はミリアの後ろにいるエヴァの存在に気付くと目つきが若干悪くなったようだった。
エヴァは一生懸命微笑んで手を振るも、ガン無視態勢。
かっちーん。
「ぐぇっ」
エヴァはドレスワンピースにも拘わらず、だだーっと走るとラリアットから腕ひしぎのコンボを炸裂させる。
悪くないよね?
「あらら、ダメよ。女の子なんだからぁ」
Non=Bee(ka1604)が慌てて止めに入るが、腕ひしぎのままに笑って、トライフを指さし、Go! Go!! と合図する。
「まあ、一気に迫れって?」
Nonは褐色の頬を染めて、照れて首を振った。
「そうよ、そうよ。今日の為に香水変えたんでしょ? 私、判るんだからっ。あの子だって今がチャンスって言ってくれてるのよ?」
日浦がNonの背中からグイグイと肘で押す。
「そうね。今年のワインは歪虚の影響で最高になったもの。この機会を逃せば、最高の彼氏と最高のお酒を一緒にすることはできないものね!」
「おい、まて、やめ……」
褐色の青年が断末魔を上げた。
「異性間でのやり取りでは知力がもっぱら利用されますが、その上で武力を利用する場合もある、と」
フィーナは珍しい現象をニコニコ書き留めていた。
「楽しそうだね」
「ええ、もちろんです」
周りに誰もいないフィーナに声をかけたギィは、黒い聖母のような彼女にとても興味をもったのであった。
●
「すっごい、綺麗な音だね!」
歌が終わって戻ってきたエステルを一番に褒めて迎えてくれたのはキャンディーブーケを差し出してくれた兄の友人だった。もちろん、兄も、兄が懇意にしている辺境の男も、そして言葉に独特の訛りがある燕尾服の青年もみんな拍手して迎えてくれた。
「エステル、本当にすごかったね。あ、ボクね、お兄さんにもお世話になっていたんだ。ね、友達になってよ」
男性だけでなく、アルカも本当に感激したようでキャンディーブーケを持つエステルの手をしっかと両手で握り、アルカは嬉しそうに話しかけた。
「え? 私と? ありがとうございます」
こくこくと頷くエステル。もう周りからあれやこれやと声をかけられて、ちょっと対応が追いつかない。
「なんか横笛を聞くと……思い出しちゃうのね」
そんな中、リリアは少しだけはにかんだ顔をした。それに気づいてリュカも頷いた。
「恋の果ての話だったね。……この大勢の中からまた恋が育まれるのかもしれないが。その結実を目の当たりにすると、それが良いことなのか。そう悩むのは私も同じだ」
二人はシトロンと蜂蜜の飲料に目を落とし、何とも言えない顔をしていた。それに気づいてか辺境の男が声をかけてくる。彼もまた同じ結末を見てきた人間だ。違う所と言えば今日は目が醒めるような赤いスーツ姿であることか。
「大丈夫か? 食べ過ぎなら良い薬があるぞ」
彼はエテから勧められたバナナケーキの皿を手にしてそう尋ねてきた。
二人は彼を見て顔を見合わせた。……なんともご機嫌な事。
「もー、女の子にそんな顔させちゃダメでしょ」
海商を務める少年は辺境の男の背を軽くつつかれ、背を正す辺境の彼。そのかいあってか、二人の話の内容に気づいたようだった。
「前を向かなければ、彼にも彼女にも顔向けができんだろう。大切なのは今ここにあることの奇跡を喜ぶことじゃあないかね」
二人は苦笑した。最適解のようにも聞こえるし、なんとも都合のいい言葉にも聞こえる。
君はどうだったのだろう? リュカは聞きたくなったが、それはここでは憚られるような気がした。
「ね、ね? ケイルカさんとエテさんがお絵かきを披露しているの」
破顔して笑う二人に七夜が声をかけた。彼女の言葉通り、向こうでは燕尾服の青年とお揃いのウサギ、それから木彫りのウサギの絵のスケッチを披露していた。
「ふむ、行ってみようか」
リュカの言葉に七夜は嬉しそうに笑った。
つなぐべき縁はここにある。それは間違いなさそうだ。道中でエステルの兄を見つけた七夜は、彼にもすぐ挨拶し、同行者を増やしていく。持ち前の好奇心が人の輪を紡いでいく。
森の中ではない光景だ。こんな力強さがあれば、我々ももう少しは違っていただろうに。
リュカは眩しそうに七夜を見つめていた。
●
「ああ、見失っちゃった」
人ごみの中でミリアはオロオロしながら辺りを見回すが、兄貴と呼ぶ義兄の姿を見つけ出せない。
こんな時は焦ってはダメだ。やるべきことは心と腰を落ち着けて。
「こっちにローストビーフ!!」
思いっきり分厚いので! とオーダーした。
「よう、嬢ちゃん! 楽しめてるか」
「もっち!」
肉汁滴り落ちるローストビーフの塊をフォークで突き刺して男の言葉に反射的に威勢よく答えたものの、本当はそんなに落ち着いているわけでもない。
とりあえず食べて食べて落ち着いたら、もっかい探す!
ミリアは運ばれてきたローストビーフをがっつり食べ始める。
「お前、ここにきても飯ばっかり食ってんのかよ!」
「い、いいだろ! 好きなんだから!!」
いない、いないと探していた義兄が背後から姿を現した。顔を赤らめて抗議するミリアに義兄は聞いたか聞いていないのか。ミリアのフォークを奪い取りそのまま口に運んだ。
「きゃあっ! それって間接キスよ! もーう、大胆なんだからぁ」
その様子を見ていたNonの言葉にミリアの顔は一気に最高潮、いやいや、真っ赤っかになった。
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「……あの」
選択肢ってどこで出てくるんだよ!? とか隅っこで叫んでいるのをたしなめたり、さらにいや、ここは剣舞で。とか収拾がつかなくなっている仲の良い三兄弟に思い切って足を運んだエリーの言葉に、うち二人は固まった。
「おおお、おう!」
「二人とも……」
一番上がたしなめるのをエリーは微笑んでいた。そのことは前から知っていることだし。それよりこうして話せることができたのが嬉しいのだから。ただ……話が続きそうになくて、エリーもさてどうしてものかと笑顔に隠れて悩んでいた。
そんな硬直した事態をみかねてか、ミィナが長兄を中心に見据えてにこーっとほほ笑んだ。
「出てる食事では何がオススメなん?」
「そうですね。隠れメニューだと言われるデコレーションレアチーズケーキなどはいかがでしょうか、レディ・ミィナ」
れ、れで、ぃ!?
ミィナは予想外の丁寧な扱いに少しばかり硬直した。向こうも向こうでまたやってしまったとか言っている。
「あ、あや。あ、あはは。そうなんね~。うち甘い物好きなんよ」
「あ、私も甘い物大好き。さっきはミィリアちゃんと甘い物対決してたんだけど……皆さんは甘い物、食べます?」
「甘い物も辛い物もなんでもオッケーさ!」
エリーが振った話題に、なんだかあらかじめ用意していたような言葉で次男が語る。目の焦点あってないけれど。
「うち、お菓子作りできるんよ。もう全部渡しちゃったけれど。頑張ればジョーナマガシ? も作れそうなんよ~」
「あら、お菓子で作る芸術品と謳われるものよね。凄いわね~。是非その腕を見せていただきたいわ」
長兄はそう言うと、ガチガチに固まる下二人を差し置いてミィナと移動していく。
「あ、それじゃ、一緒にお菓子作り、見ましょうか」
お菓子を見ている限りなら女性の気に当てられて困ることもないだろう。エリーは柔らかい口調でそういった。
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「ハイ、ミネア。気になる人のところにはいかなくていいの?」
イオが声をかけた時、ミネアは黙々と隅っこでジュースをがぶ飲みしていた。
「だぁってー、どうせあたしにかこつけて他の人とお知り合いになりたいだけじゃないの。あたしなんて、あたしなんて」
ぶちぶち、とミネアは不満を零す。
「きっと、そんなことないヨー。みんな出会いを求めテいるのは一緒ダヨ☆ 気持ちと行動デ、結果は変わっテくるヨ」
「そうだよ。何事もやってみなきゃね!」
「何言ってるんですか、あの吟遊詩人さんがたくさんチョコを買ってくれたんですよ。買うなら縁のある人のところから。ってきっと気持ちは通じますよ!」
燕尾服の青年や海商の少年にそう背中を押され、エステルがミネアを励ます。
「ミネアさま、こういう時は突撃あるのみですわー☆」
チョココはパルパルと一緒に応援のダンス。
ここまでしてくれたら、ミネアとしても行かないわけには。
皆に励まされてミネアはシャイネに向かって歩いて行ったが。
「あれ……シャイネさんどこかな?」
探してみれば廊下のところでエステルの兄と何やら話している。
「あ……」
話しかけようとした瞬間、兄からシャイネを逃がさないように、音を立てるほどの勢いで壁に手を突き、何やら話し声。
「心配なんだよ! ……今は、無理でもさ」
「今の言葉、覚えておくよ♪」
シャイネは笑って兄にそう言っていた。
……ミネアは硬直した。何やら話しているが、それ以上の事はよく聞き取れない。しかし、そんなものなくともこの状況で他に想像できるものなどない。
その日からしばらくミネアは男性が並んで歩く姿に対してひどく過敏に反応するようになったとか、ならなかったとか。
とにもかくにも、人々が交錯する合コンは最後まで和やかに過ぎていくのであった。
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中継カメラですっ? ミコト=S=レグルス(ka3953) 人間(リアルブルー)|16才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/03/21 05:40:32 |
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女性側控え室っ? ミコト=S=レグルス(ka3953) 人間(リアルブルー)|16才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/03/21 11:26:29 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/21 08:04:11 |