ゲスト
(ka0000)
嫁入りの行列
マスター:江口梨奈

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/01 07:30
- 完成日
- 2014/07/08 03:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
こっちの村もあっちの村も大半が親戚だという、とある田舎のこの地方には、結婚式にちょっとした風習があった。
花嫁は豪華に飾られた輿に乗り、その後ろを花嫁の一族が行列を作って、賑やかに花婿の家を目指すのだ。迎え入れた花婿の家ではその後、一晩中、両家揃って飲めや歌えのどんちゃん騒ぎとなり、翌朝には空の輿に土産物を、花婿家の威信にかけてどっさり乗せて帰して、婚礼が終わるのである。
さて、間もなく、スター家の長女、キラリ・スターの嫁入りの日である。花婿は、山一つ挟んで隣の村の、ソラノ・ムーン。もちろん風習のことも承知で、ぜひ親族皆で集まってくれ、と待ちかまえている。スター家たちも、相手の村は輿を担いで歩いても2時間とかからない距離なので、そのくらいなら爺さん婆さんも行列に参加出来るぞと、それはそれは楽しみにしていた。
けれど厄介なことに、しばらく前から、2つの村を繋ぐ道の途中に、ヴォイドが現れているらしい。背丈は人の大きさほどだが、その丈より長い腕を引きずるようにして歩く、奇怪な姿の化け物が2・3匹うろついていたという話をいくつも聞いた。
「何ちゅうこっちゃ、せっかくキラリの嫁入りやというのに」
もちろん父親は悔しがっていた。そんな道でのんびり行列などして、万が一のことがあればせっかくの婚礼が台無しだ。かといって違う道を選べば、こちらは凹凸の激しい狭い山道だ、倍の時間はかかる。そんな距離は年寄りはおろか、若い親族たちも歩きたくないだろう。
「けど、仕方ないやんか。キラリにもしものことがあったら、ムーンの人らにも申し訳がたたん」
母親も溜息をついた。輿をこれでもかと豪華に飾り付け、何ヶ月も前から仕立てていた衣装を着せ、うちの娘は三国一の花嫁だぞと胸を張りたかったのに。
「せやな、キラリを無事にあちらさんに届けるのが、第一やな」
まったく、何でこんな平和な田舎に出てくるんだ、と両親はヴォイドを恨んだ。
さて、そうなれば次は、どうやってキラリを連れて行くか、だ。
安全のためには、遠回りの道を馬を駆らせれば済む、歩けば半日でも、馬なら小一時間とかからないはずだ。けれど、ひらひらした花嫁衣装で馬など乗れず、素っ気ない格好をさせなければならない。
「せめて、花嫁衣装ぐらい着せてやりたいわ」
「となると、馬車か何かに乗せなアカンやろ。ヴォイドが出るっちゅぅからな、ハンターにでも頼まんと、とても行かれへんぞ」
と、そんな話をしていたら、その時偶然に家を訪れた甥が目の色を変えた。
「おっちゃん、ハンターを呼ぶンかいな?」
「いや、まだどうしようか考えてるとこで……」
「わー、ハンターが来るんやったら、ヴォイドなんか怖ぁないんちゃう?」
すると、また別の親戚が通りがかって、騒ぎを聞きつけた。
「何や、それやったら、安心して嫁入り行列出来るやんか。うちの爺さん、キラリちゃんの花嫁姿が見られん言うて、がっかりしとったんよ」
「何、何? ハンター来るのん? ほな大丈夫やんか。そんなら、他のみんなにも声、かけとくわなー」
あれよあれよと、親戚中に話が広まり、キラリの花嫁行列に加わろうと集まった親戚は、なんと30人。
さあ、輿は飾られ、衣装も完成した。
花嫁は豪華に飾られた輿に乗り、その後ろを花嫁の一族が行列を作って、賑やかに花婿の家を目指すのだ。迎え入れた花婿の家ではその後、一晩中、両家揃って飲めや歌えのどんちゃん騒ぎとなり、翌朝には空の輿に土産物を、花婿家の威信にかけてどっさり乗せて帰して、婚礼が終わるのである。
さて、間もなく、スター家の長女、キラリ・スターの嫁入りの日である。花婿は、山一つ挟んで隣の村の、ソラノ・ムーン。もちろん風習のことも承知で、ぜひ親族皆で集まってくれ、と待ちかまえている。スター家たちも、相手の村は輿を担いで歩いても2時間とかからない距離なので、そのくらいなら爺さん婆さんも行列に参加出来るぞと、それはそれは楽しみにしていた。
けれど厄介なことに、しばらく前から、2つの村を繋ぐ道の途中に、ヴォイドが現れているらしい。背丈は人の大きさほどだが、その丈より長い腕を引きずるようにして歩く、奇怪な姿の化け物が2・3匹うろついていたという話をいくつも聞いた。
「何ちゅうこっちゃ、せっかくキラリの嫁入りやというのに」
もちろん父親は悔しがっていた。そんな道でのんびり行列などして、万が一のことがあればせっかくの婚礼が台無しだ。かといって違う道を選べば、こちらは凹凸の激しい狭い山道だ、倍の時間はかかる。そんな距離は年寄りはおろか、若い親族たちも歩きたくないだろう。
「けど、仕方ないやんか。キラリにもしものことがあったら、ムーンの人らにも申し訳がたたん」
母親も溜息をついた。輿をこれでもかと豪華に飾り付け、何ヶ月も前から仕立てていた衣装を着せ、うちの娘は三国一の花嫁だぞと胸を張りたかったのに。
「せやな、キラリを無事にあちらさんに届けるのが、第一やな」
まったく、何でこんな平和な田舎に出てくるんだ、と両親はヴォイドを恨んだ。
さて、そうなれば次は、どうやってキラリを連れて行くか、だ。
安全のためには、遠回りの道を馬を駆らせれば済む、歩けば半日でも、馬なら小一時間とかからないはずだ。けれど、ひらひらした花嫁衣装で馬など乗れず、素っ気ない格好をさせなければならない。
「せめて、花嫁衣装ぐらい着せてやりたいわ」
「となると、馬車か何かに乗せなアカンやろ。ヴォイドが出るっちゅぅからな、ハンターにでも頼まんと、とても行かれへんぞ」
と、そんな話をしていたら、その時偶然に家を訪れた甥が目の色を変えた。
「おっちゃん、ハンターを呼ぶンかいな?」
「いや、まだどうしようか考えてるとこで……」
「わー、ハンターが来るんやったら、ヴォイドなんか怖ぁないんちゃう?」
すると、また別の親戚が通りがかって、騒ぎを聞きつけた。
「何や、それやったら、安心して嫁入り行列出来るやんか。うちの爺さん、キラリちゃんの花嫁姿が見られん言うて、がっかりしとったんよ」
「何、何? ハンター来るのん? ほな大丈夫やんか。そんなら、他のみんなにも声、かけとくわなー」
あれよあれよと、親戚中に話が広まり、キラリの花嫁行列に加わろうと集まった親戚は、なんと30人。
さあ、輿は飾られ、衣装も完成した。
リプレイ本文
●キラリ
幾重にも縫いつけられた真っ白いレースと、色とりどりの花で飾られた衣装を身に纏ったキラリ・スターが両親に付き添われ玄関から出てきたとき、周りに集まった親族たちからワッと歓声があがった。「綺麗やでぇ」「嫁に出すンが勿体無いわ」と、口々に花嫁を褒め称える。その後ろから、これまた支度を調えたハンターが顔を見せると、更に歓声は大きくなった。
「ハンターや! 本物のハンターや!!」
「ちょっとぉ、この人、リアルブルーの人やんか」
「いやー。別嬪さんやん。ま、キラリちゃんほどじゃないけどな」
「べっぴん、って……」
褒められて喜んでいいのか悪いのか、時音 ざくろ(ka1250)は顔を赤くした。
「そこは素直に喜んでおくべきじゃ」
困惑した様子が露骨に表に出たのか、クワッサリー(ka1388)が肘で小突く。今日はめでたい日だ、厭みや嫉みを口にするものなどいない、発せられた言葉は全て好意なのだ。というより、褒められて困るというのがクワッサリーには信じられない。
「ざくろも、別嬪だぞ。こんな花嫁衣装、着とうはないかえ?」
「まあ、素敵な結婚は少し憧れちゃうな……って、いや、ざくろは男、男! お嫁さん貰う方だからっ」
「そうだったかのう?」
「そうですっ!」
ざくろの反応を面白がるクワッサリー。
「うわー、これが輿? すごく豪華だね~♪」
家の前に停められた花嫁の乗り物を見て星垂(ka1344)は心のままの感想を述べた。正確には、少々大げさに。余裕があるところを見せなければ、参列者たちが緊張してしまう。……この賑やかな親族たちに、それは杞憂であったかもしれないが。しかしそんな小芝居が必要ないほど、風習に従って作られた輿は確かに見事なものである。
「とても綺麗だけど、寝心地は悪そうだね」
「眠いのか?」
「ん~~……、まあ……」
輿には藤の花のように下げられた金属片の飾りが四方に付けられており、動くたびにシャラシャラと音がする。これではうるさくてとても眠れやしないだろうと考えるミウ・ミャスカ(ka0421)と、その彼女の猫っぽい性格をよく知っている猫友達のオウカ・カゲツ(ka0830)。ミウが欠伸をしているのは不真面目なのではなく、これがいつもの彼女なのだ。
「ねーねー早く行こうよぉ!」
皆が準備万端整っているのに、あちこちでワイワイと話が弾んでなかなか動きそうになく、しびれを切らして猫野 小梅(ka1626)がせっつく。
「せやなあ、花婿さんも待っとるやろうしなあ」
ようやっと、参列者たちが年長者の順に並びだして、出発しようかという流れになった。輿を先頭に、花嫁の両親、本家の親族、分家。歳の順に、最後は子供たち、と行儀良く並んだ列の人らの左手首に付けられた白い布も、これまた行儀良く並ぶ。
「では、窮屈になるだろうけど、なるべく広がらず、この間隔を保ってくれ。な?」
ヴァイス(ka0364)が指示を出す。
皆の手首に付けられた布は、ヴァイスのアイデアだ。これに触れるとヴォイドに遭遇したときも恐怖を抑えられる聖なる布である……ということになっている。ヴァイスが一番恐れているのは、この群衆が恐慌をきたしてしまうことだ。それを落ち着かせるために、このまじないが多少でも役に立てばよいのだが。
「ご安心下さい、我々が必ず無事に送り届けます」
近衛 惣助(ka0510)がトランシーバーの周波数をもう一度確認する。感度は良好だ。
惣助と星垂、それに小梅が先に行き、行列の右前方にヴァイス、左前方がミウ。ざくろとクワッサリーは中ほどに並んで歩き、オウカが子供たちを追う形で最後尾についた。
「ほな、キラリちゃん、いよいよやで」
父親に手を添えられて、キラリが輿に乗る。従兄の若い衆がそれを持ち上げると、シャラン、と一際小気味よい音がした。
●花嫁行列
「山登りって、気持ちいいね~」
小梅が鼻歌をうたいだすのも無理はない。それほど、のどかな雰囲気なのだ。
「せっかく晴れの舞台なんだから、何も起こらないといいのにね」
このまま何事もなくムーン家に着けば、それに越したことはない。この道を選んだ時点で多少の覚悟はしてあるといえ、キラリの花嫁衣装が血なまぐさくなっては可哀相だ。
好天に恵まれ、風も心地よい。年寄りたちの膝も快調で、行列はぐんぐん進んでいく。
しかし、長くここに住んでいる老人いわく、普段にはもっと人通りがあるという。せっかくの花嫁行列が誰にも見てもらえないのは物足りない。もっと自慢したいのにねえ、と伯母たちがこぼした。時々すれ違うのは、鳥や野鼠やバッタぐらいだ、なんとも見せ甲斐の無い。
「お呼びでないものが、来たようです!」
その最たるものの邪悪な気配を感じ取ったオウカの頭に黒い猫の耳が生え、尻尾が現れた。
「うわっ、変身した! 猫だ、猫!!」
「なにそれ、すっげーー!!」
初めて目の当たりにするハンターの覚醒する瞬間に、子供たちが目を輝かせる。
「飛び出すでないぞ、じっとしておれ」
本物の猫耳と比べれば、動かない猫耳カチューシャのクワッサリーなど地味なものだが、とんでもない。子供たちの視線は彼女の喉元に釘づけだ。人間の喉が赤く光るなんて!
『惣助、戻れ。おでましじゃぞい』
トランシーバーから流れた声に、惣助は強張る。姿は見えないが、確かに、招かれざる客が発する違和感がある。いよいよか、とざわめく一行は、皆、しぜんと左手首の布を触っていた。そして、待っていた。
これからハンターとヴォイドの戦いが始まるのを。
「みんな、ざくろの後ろに!」
「皆、邪魔しちゃなんねェ。避けとけ、避けとけ」
「俺、一番前ー」
「兄ちゃん、ずるいー。あたしも見たいーー」
「あんたら、ジッとしなさい!」
なんと有難い、一同は全く混乱することなく、ざくろの指示を聞いている。窮屈な行列はますます窮屈に、ぎゅっと一塊になって留まった。が、視線は一様に、どこから化け物が現れるのかキョロキョロと動いている。
「…………上!!」
オウカの耳がピンと立つ。頭上の枝に何かがぶら下がっている、それに気付いたと同時に『何か』は体を揺すった反動そのままに、オウカにとびかかってきた。
「なんの! ……レキ、力を!」
黒猫レキを憑依させたオウカは、『地を駆けるもの』で難なく避ける。
「にゃーん、オウカさん、さすがー」
対照的に白い猫の姿になったミウが、がら空きになったヴォイドの真正面に、日本刀『烏枢沙摩』を構えて飛び込む。この世の穢れを払う者の名を冠せられた刀が突き立てられ、ヴォイドは後ろにのけぞった。
「にゃにゃにゃあーん、負けてられないにゃー!」
白黒猫に置いて行かれてなるものかと、やはり猫の姿の小梅がとどめの一撃を加えんと、精霊の力を借りる。
「にゃっ?」
「にゃにゃにゃ?」
ヴォイドは、2本の長い腕を、まるで関節など無いかのように、ミウに絡みつかせると、刀ごと強引に引き離し、向かってくる小梅に叩きつけた。しかしそこは猫、二人とも足からきっちり着地する。
「軽業師みたいだ、かっこいいー」
「にゃ~。どうも~」
観客に手を振る小梅。短いしっぽがぴこぴこ揺れる。
「ほれ、皆が見ておるぞ。もっと格好いいところをみせてやれ」
言うが早いか、クワッサリーの魔導銃が轟音をたてる。発射された弾丸は、よろめくヴォイドの顔面に穴をあけた。
『キャキャキャキャキャキャ!』
『キイ、ギイ、ギイイイイイ!!!』
猿の鳴き声のような甲高い音がこだました。ガサ、ガサと頭上の木が揺れ、何枚かの葉が落ちてくる。2つの影が枝から枝へ飛び移っているのが分かった。
「高いところにいれば、届かないと思ってるのか?」
惣助が猟銃を構える。側頭部に感じる痛みに一瞬、顔をしかませながら、『遠射』により伸びた射程に捉えた影に向かって引き金をひく。
『ギャッ』
短い悲鳴が聞こえ、影のひとつがバランスを崩して落ちてくるのが見えた。
「もう一つも頼むぞ」
「任せておけ」
まずはひとつ。着地点に待ちかまえたヴァイスは、背丈ほどもあるグレートソードを軽々と掲げている。燃え立つような勇ましい姿に黄色い声援が上がったが、今のヴァイスはそれに勿体無くも応えなかった。
(叩き潰してやる)
両足に力がこもる。だが、今まさに剣の届く位置へ来ようかというヴォイドは、途中の別の枝に捕まり、腕の力だけで体を宙に浮かせた。
「チッ」
しかし落胆はしていない。視界に、星垂が駆けるのが見えたからだ。星垂は身軽な動きでヴォイドの掴む枝に登り、そこを持つ手を正確に狙い、日本刀を振り下ろす。手首だけを残し、ヴォイドはまたも落ちた。
「待ちくたびれたぜ」
ハンターなら誰でもそうであるように、ヴァイスもまた、魔を滅することに躊躇はしない。2体目のヴォイドはこうして消滅した。
「もう一つはどこ、惣助さん?」
「あそこだ、が。追えるか、星垂?」
銃口は見失うことなく、残るヴォイドを捉えているが、高いところからこちらの様子を伺っている。
「挟み撃ちにするにゃ♪」
地を駆ける精霊の力を宿せる4人が、ヴォイドに劣らない早さで木に登っていく。追っ手に気付き、ヴォイドも移動するが、四方はすでに抑えられている。
「!! やばッ!」
ヴォイドは追っ手から逃れるために選んだ道は、地上だった。それも、キラキラと輝く輿の屋根を。
「いかせないっ!!」
誰一人、傷つけさせはしない……咄嗟に、ざくろはヴォイドに体当たりをする。ヴォイドは弾き飛んだが、ざくろは勢いが衰えず、行列の上にダイブした。
「よいしょーーー!!」
皆の腕がクッションのようにざくろの体を包む。
「あとちょっとやで、頑張ってや、おねえちゃん!」
そのまま誤解を否定する間もなく、胴上げの要領で放り出されるざくろ。
「そーれ、あと1匹、あと♪ いっぴき♪」
「あっと、いっぴきッ♪ あっと、いっぴきッ♪」
声援は手拍子を伴い、観衆の興奮も最高潮だ。
これに応えられなければ、ハンターではない。
覚醒者たちの華麗な舞が終わり、再び平穏な街道が取り戻されたとき、観客は割れんばかりの拍手でこれを讃えたのだった。
●ムーン家
村の入り口には人だかりが出来ていた。その中央には煌びやかに着飾られた若い男が。男……ソラノは輿に近づき、花嫁に手をさしのべた。キラリはその手をとり、はにかんで、ゆっくりと久しぶりの地面に足を降ろした。
「やあ、めでたいめでたい。樽を持ってこい、片っ端から開けろ!!」
新郎新婦がまだ席に座ってもいないのに、あちこちから樽の栓が開けられる音がした。
「ハンターさんも、お疲れさまでっしゃ。さあ、飲んでくらっしゃい、食べてくらっしゃい」
「ほれほれ、聞かせて下しゃあ、どうやって化け物を退治したんじゃろか?」
「ああ、これはうちの自慢の料理や。おーい、どんどんお注ぎしてやってや」
スター家とムーン家、両方の親族に加えてハンター達の揃った、大人数の宴会だ。広間に入りきれずに表にはみ出した者もいる。更には近所の人たちも集まって、まごうことなき、どんちゃん騒ぎである。
小梅はよそわれる料理を片っ端から平らげて、ヴァイスは美人の酌に鼻の下を伸ばしている。惣助は周りを、リアルブルー人が珍しいという村人に囲まれて質問攻めにあっており、ざくろは地球と変わらない大家族の温かさを肌で感じている。星垂はキラリ達に畏まって祝辞を述べようとしたが、皆の笑い声にかき消されてしまった。ミウはとうに力尽きてオウカの膝枕で寝ているし、クワッサリーはマイペースに食べ続けていた。
賑やかな宴会は、いつまでもいつまでも続いている。
さあ、明日は平和になった道を、一人分だけ寂しくなった行列で帰ろう。
幾重にも縫いつけられた真っ白いレースと、色とりどりの花で飾られた衣装を身に纏ったキラリ・スターが両親に付き添われ玄関から出てきたとき、周りに集まった親族たちからワッと歓声があがった。「綺麗やでぇ」「嫁に出すンが勿体無いわ」と、口々に花嫁を褒め称える。その後ろから、これまた支度を調えたハンターが顔を見せると、更に歓声は大きくなった。
「ハンターや! 本物のハンターや!!」
「ちょっとぉ、この人、リアルブルーの人やんか」
「いやー。別嬪さんやん。ま、キラリちゃんほどじゃないけどな」
「べっぴん、って……」
褒められて喜んでいいのか悪いのか、時音 ざくろ(ka1250)は顔を赤くした。
「そこは素直に喜んでおくべきじゃ」
困惑した様子が露骨に表に出たのか、クワッサリー(ka1388)が肘で小突く。今日はめでたい日だ、厭みや嫉みを口にするものなどいない、発せられた言葉は全て好意なのだ。というより、褒められて困るというのがクワッサリーには信じられない。
「ざくろも、別嬪だぞ。こんな花嫁衣装、着とうはないかえ?」
「まあ、素敵な結婚は少し憧れちゃうな……って、いや、ざくろは男、男! お嫁さん貰う方だからっ」
「そうだったかのう?」
「そうですっ!」
ざくろの反応を面白がるクワッサリー。
「うわー、これが輿? すごく豪華だね~♪」
家の前に停められた花嫁の乗り物を見て星垂(ka1344)は心のままの感想を述べた。正確には、少々大げさに。余裕があるところを見せなければ、参列者たちが緊張してしまう。……この賑やかな親族たちに、それは杞憂であったかもしれないが。しかしそんな小芝居が必要ないほど、風習に従って作られた輿は確かに見事なものである。
「とても綺麗だけど、寝心地は悪そうだね」
「眠いのか?」
「ん~~……、まあ……」
輿には藤の花のように下げられた金属片の飾りが四方に付けられており、動くたびにシャラシャラと音がする。これではうるさくてとても眠れやしないだろうと考えるミウ・ミャスカ(ka0421)と、その彼女の猫っぽい性格をよく知っている猫友達のオウカ・カゲツ(ka0830)。ミウが欠伸をしているのは不真面目なのではなく、これがいつもの彼女なのだ。
「ねーねー早く行こうよぉ!」
皆が準備万端整っているのに、あちこちでワイワイと話が弾んでなかなか動きそうになく、しびれを切らして猫野 小梅(ka1626)がせっつく。
「せやなあ、花婿さんも待っとるやろうしなあ」
ようやっと、参列者たちが年長者の順に並びだして、出発しようかという流れになった。輿を先頭に、花嫁の両親、本家の親族、分家。歳の順に、最後は子供たち、と行儀良く並んだ列の人らの左手首に付けられた白い布も、これまた行儀良く並ぶ。
「では、窮屈になるだろうけど、なるべく広がらず、この間隔を保ってくれ。な?」
ヴァイス(ka0364)が指示を出す。
皆の手首に付けられた布は、ヴァイスのアイデアだ。これに触れるとヴォイドに遭遇したときも恐怖を抑えられる聖なる布である……ということになっている。ヴァイスが一番恐れているのは、この群衆が恐慌をきたしてしまうことだ。それを落ち着かせるために、このまじないが多少でも役に立てばよいのだが。
「ご安心下さい、我々が必ず無事に送り届けます」
近衛 惣助(ka0510)がトランシーバーの周波数をもう一度確認する。感度は良好だ。
惣助と星垂、それに小梅が先に行き、行列の右前方にヴァイス、左前方がミウ。ざくろとクワッサリーは中ほどに並んで歩き、オウカが子供たちを追う形で最後尾についた。
「ほな、キラリちゃん、いよいよやで」
父親に手を添えられて、キラリが輿に乗る。従兄の若い衆がそれを持ち上げると、シャラン、と一際小気味よい音がした。
●花嫁行列
「山登りって、気持ちいいね~」
小梅が鼻歌をうたいだすのも無理はない。それほど、のどかな雰囲気なのだ。
「せっかく晴れの舞台なんだから、何も起こらないといいのにね」
このまま何事もなくムーン家に着けば、それに越したことはない。この道を選んだ時点で多少の覚悟はしてあるといえ、キラリの花嫁衣装が血なまぐさくなっては可哀相だ。
好天に恵まれ、風も心地よい。年寄りたちの膝も快調で、行列はぐんぐん進んでいく。
しかし、長くここに住んでいる老人いわく、普段にはもっと人通りがあるという。せっかくの花嫁行列が誰にも見てもらえないのは物足りない。もっと自慢したいのにねえ、と伯母たちがこぼした。時々すれ違うのは、鳥や野鼠やバッタぐらいだ、なんとも見せ甲斐の無い。
「お呼びでないものが、来たようです!」
その最たるものの邪悪な気配を感じ取ったオウカの頭に黒い猫の耳が生え、尻尾が現れた。
「うわっ、変身した! 猫だ、猫!!」
「なにそれ、すっげーー!!」
初めて目の当たりにするハンターの覚醒する瞬間に、子供たちが目を輝かせる。
「飛び出すでないぞ、じっとしておれ」
本物の猫耳と比べれば、動かない猫耳カチューシャのクワッサリーなど地味なものだが、とんでもない。子供たちの視線は彼女の喉元に釘づけだ。人間の喉が赤く光るなんて!
『惣助、戻れ。おでましじゃぞい』
トランシーバーから流れた声に、惣助は強張る。姿は見えないが、確かに、招かれざる客が発する違和感がある。いよいよか、とざわめく一行は、皆、しぜんと左手首の布を触っていた。そして、待っていた。
これからハンターとヴォイドの戦いが始まるのを。
「みんな、ざくろの後ろに!」
「皆、邪魔しちゃなんねェ。避けとけ、避けとけ」
「俺、一番前ー」
「兄ちゃん、ずるいー。あたしも見たいーー」
「あんたら、ジッとしなさい!」
なんと有難い、一同は全く混乱することなく、ざくろの指示を聞いている。窮屈な行列はますます窮屈に、ぎゅっと一塊になって留まった。が、視線は一様に、どこから化け物が現れるのかキョロキョロと動いている。
「…………上!!」
オウカの耳がピンと立つ。頭上の枝に何かがぶら下がっている、それに気付いたと同時に『何か』は体を揺すった反動そのままに、オウカにとびかかってきた。
「なんの! ……レキ、力を!」
黒猫レキを憑依させたオウカは、『地を駆けるもの』で難なく避ける。
「にゃーん、オウカさん、さすがー」
対照的に白い猫の姿になったミウが、がら空きになったヴォイドの真正面に、日本刀『烏枢沙摩』を構えて飛び込む。この世の穢れを払う者の名を冠せられた刀が突き立てられ、ヴォイドは後ろにのけぞった。
「にゃにゃにゃあーん、負けてられないにゃー!」
白黒猫に置いて行かれてなるものかと、やはり猫の姿の小梅がとどめの一撃を加えんと、精霊の力を借りる。
「にゃっ?」
「にゃにゃにゃ?」
ヴォイドは、2本の長い腕を、まるで関節など無いかのように、ミウに絡みつかせると、刀ごと強引に引き離し、向かってくる小梅に叩きつけた。しかしそこは猫、二人とも足からきっちり着地する。
「軽業師みたいだ、かっこいいー」
「にゃ~。どうも~」
観客に手を振る小梅。短いしっぽがぴこぴこ揺れる。
「ほれ、皆が見ておるぞ。もっと格好いいところをみせてやれ」
言うが早いか、クワッサリーの魔導銃が轟音をたてる。発射された弾丸は、よろめくヴォイドの顔面に穴をあけた。
『キャキャキャキャキャキャ!』
『キイ、ギイ、ギイイイイイ!!!』
猿の鳴き声のような甲高い音がこだました。ガサ、ガサと頭上の木が揺れ、何枚かの葉が落ちてくる。2つの影が枝から枝へ飛び移っているのが分かった。
「高いところにいれば、届かないと思ってるのか?」
惣助が猟銃を構える。側頭部に感じる痛みに一瞬、顔をしかませながら、『遠射』により伸びた射程に捉えた影に向かって引き金をひく。
『ギャッ』
短い悲鳴が聞こえ、影のひとつがバランスを崩して落ちてくるのが見えた。
「もう一つも頼むぞ」
「任せておけ」
まずはひとつ。着地点に待ちかまえたヴァイスは、背丈ほどもあるグレートソードを軽々と掲げている。燃え立つような勇ましい姿に黄色い声援が上がったが、今のヴァイスはそれに勿体無くも応えなかった。
(叩き潰してやる)
両足に力がこもる。だが、今まさに剣の届く位置へ来ようかというヴォイドは、途中の別の枝に捕まり、腕の力だけで体を宙に浮かせた。
「チッ」
しかし落胆はしていない。視界に、星垂が駆けるのが見えたからだ。星垂は身軽な動きでヴォイドの掴む枝に登り、そこを持つ手を正確に狙い、日本刀を振り下ろす。手首だけを残し、ヴォイドはまたも落ちた。
「待ちくたびれたぜ」
ハンターなら誰でもそうであるように、ヴァイスもまた、魔を滅することに躊躇はしない。2体目のヴォイドはこうして消滅した。
「もう一つはどこ、惣助さん?」
「あそこだ、が。追えるか、星垂?」
銃口は見失うことなく、残るヴォイドを捉えているが、高いところからこちらの様子を伺っている。
「挟み撃ちにするにゃ♪」
地を駆ける精霊の力を宿せる4人が、ヴォイドに劣らない早さで木に登っていく。追っ手に気付き、ヴォイドも移動するが、四方はすでに抑えられている。
「!! やばッ!」
ヴォイドは追っ手から逃れるために選んだ道は、地上だった。それも、キラキラと輝く輿の屋根を。
「いかせないっ!!」
誰一人、傷つけさせはしない……咄嗟に、ざくろはヴォイドに体当たりをする。ヴォイドは弾き飛んだが、ざくろは勢いが衰えず、行列の上にダイブした。
「よいしょーーー!!」
皆の腕がクッションのようにざくろの体を包む。
「あとちょっとやで、頑張ってや、おねえちゃん!」
そのまま誤解を否定する間もなく、胴上げの要領で放り出されるざくろ。
「そーれ、あと1匹、あと♪ いっぴき♪」
「あっと、いっぴきッ♪ あっと、いっぴきッ♪」
声援は手拍子を伴い、観衆の興奮も最高潮だ。
これに応えられなければ、ハンターではない。
覚醒者たちの華麗な舞が終わり、再び平穏な街道が取り戻されたとき、観客は割れんばかりの拍手でこれを讃えたのだった。
●ムーン家
村の入り口には人だかりが出来ていた。その中央には煌びやかに着飾られた若い男が。男……ソラノは輿に近づき、花嫁に手をさしのべた。キラリはその手をとり、はにかんで、ゆっくりと久しぶりの地面に足を降ろした。
「やあ、めでたいめでたい。樽を持ってこい、片っ端から開けろ!!」
新郎新婦がまだ席に座ってもいないのに、あちこちから樽の栓が開けられる音がした。
「ハンターさんも、お疲れさまでっしゃ。さあ、飲んでくらっしゃい、食べてくらっしゃい」
「ほれほれ、聞かせて下しゃあ、どうやって化け物を退治したんじゃろか?」
「ああ、これはうちの自慢の料理や。おーい、どんどんお注ぎしてやってや」
スター家とムーン家、両方の親族に加えてハンター達の揃った、大人数の宴会だ。広間に入りきれずに表にはみ出した者もいる。更には近所の人たちも集まって、まごうことなき、どんちゃん騒ぎである。
小梅はよそわれる料理を片っ端から平らげて、ヴァイスは美人の酌に鼻の下を伸ばしている。惣助は周りを、リアルブルー人が珍しいという村人に囲まれて質問攻めにあっており、ざくろは地球と変わらない大家族の温かさを肌で感じている。星垂はキラリ達に畏まって祝辞を述べようとしたが、皆の笑い声にかき消されてしまった。ミウはとうに力尽きてオウカの膝枕で寝ているし、クワッサリーはマイペースに食べ続けていた。
賑やかな宴会は、いつまでもいつまでも続いている。
さあ、明日は平和になった道を、一人分だけ寂しくなった行列で帰ろう。
依頼結果
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相談卓 ヴァイス・エリダヌス(ka0364) 人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/07/01 06:29:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/26 17:55:23 |