ゲスト
(ka0000)
【王国展】謂れ無き戦い、栄光の行方
マスター:ムジカ・トラス
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/15 19:00
- 完成日
- 2015/03/22 16:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
王国展覧会会場の、一角。熱気あふれる中で、一層濃い熱気に包まれた場所に、フォーリ・イノサンティ(kz0091)は居た。流麗な文字が彫られた鉄看板を掲げた受付に立つ人物――若者だが、日に焼け、筋骨隆々な青年に、フォーリは会釈をひとつして、口を開いた。
「武具の受け取りに来たのですが」
「フォーリさん、ッスね?」
「ええ」
フォーリ・イノサンティは戦士だが、その前に聖職者であった。青年がすぐに訪問客に察しがついたのも宜なるかな。このブースをカソック姿で現れる者は稀なのだろう。
――『グラズヘイム・シュバリエ』。
グラズヘイムの名を関するその一団は、職人集団の名であった。武具職人スタードリンカーとその弟子達の手からなる武具は、その質の良さ故に王国騎士の多くに愛用されている。国内で最大のシェアを掴んだ彼らは、名実ともに当代随一の武具職人達であった。
例えば、騎士団長であるエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)の甲冑は、スタードリンカー自らが鎚を振るった品である。その事実こそがグラズヘイム・シュバリエの名を広く知らしめたか、今ではスタードリンカーの元には多くの職人が集い、多くの弟子が集まり、広大な鍛冶場を構える程になっていた。
平素ならばエクラ教会の職人に自らの武具を依頼するフォーリであったが、此度は違った。そのグラズヘイム・シュバリエに、フォーリは防具を依頼していたのであった。
●
「……これは、見事ですね」
誂えられた防具を試着すると、驚くほどに体に馴染んだ。胸甲、肩当て、そこから、蛇腹に整えられた袖が伸びる。その蛇腹の外側を、無骨な装甲が覆っていた。
肩口の動きも、その可動性を阻害しない程度に隙間があるために問題ない。普段は戦鎚を扱うが、長物を扱う時の事も配慮されている、のだろう。
「そうっしょ? うちの親方、ホントにもー、まじスゲェっスから!」
「騎士団の方が入れ込むのも無理はないですね……なるほど」
――この出来であれば、武器を頼むのも良いかもしれません、ね。
特注品、それも、スタードリンカーに発注するとなれば莫大な費用が掛かるが、『今の』フォーリにとっては瑣末なことだ。
「ありがとうございます。それで――」
その時、だ。
「フォーリ様……フォーリ様ではないですか!?」
声が、届いた。
グラズヘイム・シュバリエの、隣のブースからだ。ちょうど、フォーリが通ったのとは別な方角ではあったのだが――見慣れた、エクラの意匠を掲げた、そこは。
『聖堂教会』の、ブースだった。
――これは……。
防具の質に弾んでいた心が、急速に渋くなっていく。
そこに居たのは、紅顔の少年だ。エクラ教徒の――由は知らぬが、フォーリにとっては見慣れた、巡礼者の装いをしている。
「…………おや、教会も出展していたのですね」
絞りだすようにそういったフォーリであったが。
「フォーリ様は、なぜ、そちらに?」
少年は、誤魔化されなかった。驚愕よりも、絶望に似た表情に、何故か――いや、理由は分かりきっているのだが、フォーリの胸が痛む。
「それは――」
男の本能というべきか、反射的に言い訳を探す、のだが、妻子ありし頃から清廉潔白を旨に生きてきたフォーリの舌はうまく回らなかった。すると、傍らから声があがった。
「そりゃァ」
ぽん、とフォーリの肩に手をおいて、青年が言う。なるほど、よく見ると顔立ちは整っている。こういう場の処理に慣れているのかもしれない。救いの手か、と祈り手をきろうとしたフォーリだったが。
「うちの親方に防具を発注したからに決まってンじゃねェか」
「な……んだ、と……?」
わなわなと口元を震わせる少年の姿に、フォーリは深くため息をついた。
まるで浮気現場を目撃されたような心地だった。尤も、フォーリは浮気などしたことはないのだが。
●
それからは早かった。激昂した少年が青年に噛み付いた。もちろん比喩なのだが、青年は青年でそれを真っ向から見下し、批判した。
「てめェは分かってねェかもしれねェが、武具防具ってやつァ命をあずけるもンなんだよ! 中途半端な品に預けられるわけねェだろ!」
「言うに事欠いて、教会の品が、中途半端ですって……!?」
「そうは言ってねェけどよ」
へ、と青年は薄く笑って、フォーリを見た。
「まァ、そうかも知れねえな。いや、知らねェけども」
「………………っ!!」
「何事です?」
「ああ……いや」
この場の責任者だろうか。大層な騒ぎっぷりに駆けつけた司祭にフォーリが事情を説明する、と、司祭は少年の姿を見て微笑ましそうに頷き始めた。
「……あの子のああいう所を見るのは久しぶりですね……」
「……そう、ですか」
止めないのか。止めないか。止めないな。明らかに好きものの目つきをしている司祭に、フォーリは落胆を抱いた。
詳しく話を聞いた。
なぜ聖堂教会が出展しているか、というと、問い合わせが相次いだから、という。
王国南西部の教会が出展するとなったことが知れた後、内外から『そも教会は出展しないのか』、と。
聖堂教会にも少なくない職人がいる。長き巡礼を支えるためであったり、催事のためであったり、そして――聖堂戦士団のために、職人はその技を磨き、振るってきた。
王国に寄り添いながら存在してきた教会だ。その歴史は長い。千年の時の中で積み上げてきた蓄積や、伝説に残る品を有する教会にも、需要はあったのだ。なればこそ、『グラズヘイム・シュバリエ』と隣接するのも頷ける話だった。
そして、隣接していたがゆえに。
「もともと、敵愾心があった、のですね……」
「はは。あの子もまだ幼子であったということですなあ……」
そういった事情も知れた、その頃だ。
「決闘だ…………ッ!!!!」
「上等だクルァッ!! かかってこいやァッ!!」
そういう事になった。
●
もちろん、少年と青年をステゴロさせるわけにも行かず、さりとて収まりもつかず、何かしらの決着を要する事となった。
――結果として、代理を立てての決闘となった。
「いやぁ……本当に申し訳ありません……」
騒ぎを聞きつけて集まっていたハンター達が、その『代役』だ。
フォーリの参戦は不適として、審判および救護を担う事となった。できることなら帰りたいのだが、状況がそれを許さなかった。
ルールは簡単。
それぞれのチームに分かれて、相手を斃す。
最後に一人でも残っていたチームが勝者――である。
ハンター達それぞれで強さが違う? クラスは? 武具の優劣はどうなったの?
細かいことは解説を参照してほしい。だが、少年と青年にとっても、突発的に湧き上がった催しを見に来た『観客』にとっても、互いの優劣などもはや些事。ただ自分が賭けたチームが勝てばいい。
今。戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
職人の誇りを背負ったハンター達が、その武技を競う――!
王国展覧会会場の、一角。熱気あふれる中で、一層濃い熱気に包まれた場所に、フォーリ・イノサンティ(kz0091)は居た。流麗な文字が彫られた鉄看板を掲げた受付に立つ人物――若者だが、日に焼け、筋骨隆々な青年に、フォーリは会釈をひとつして、口を開いた。
「武具の受け取りに来たのですが」
「フォーリさん、ッスね?」
「ええ」
フォーリ・イノサンティは戦士だが、その前に聖職者であった。青年がすぐに訪問客に察しがついたのも宜なるかな。このブースをカソック姿で現れる者は稀なのだろう。
――『グラズヘイム・シュバリエ』。
グラズヘイムの名を関するその一団は、職人集団の名であった。武具職人スタードリンカーとその弟子達の手からなる武具は、その質の良さ故に王国騎士の多くに愛用されている。国内で最大のシェアを掴んだ彼らは、名実ともに当代随一の武具職人達であった。
例えば、騎士団長であるエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)の甲冑は、スタードリンカー自らが鎚を振るった品である。その事実こそがグラズヘイム・シュバリエの名を広く知らしめたか、今ではスタードリンカーの元には多くの職人が集い、多くの弟子が集まり、広大な鍛冶場を構える程になっていた。
平素ならばエクラ教会の職人に自らの武具を依頼するフォーリであったが、此度は違った。そのグラズヘイム・シュバリエに、フォーリは防具を依頼していたのであった。
●
「……これは、見事ですね」
誂えられた防具を試着すると、驚くほどに体に馴染んだ。胸甲、肩当て、そこから、蛇腹に整えられた袖が伸びる。その蛇腹の外側を、無骨な装甲が覆っていた。
肩口の動きも、その可動性を阻害しない程度に隙間があるために問題ない。普段は戦鎚を扱うが、長物を扱う時の事も配慮されている、のだろう。
「そうっしょ? うちの親方、ホントにもー、まじスゲェっスから!」
「騎士団の方が入れ込むのも無理はないですね……なるほど」
――この出来であれば、武器を頼むのも良いかもしれません、ね。
特注品、それも、スタードリンカーに発注するとなれば莫大な費用が掛かるが、『今の』フォーリにとっては瑣末なことだ。
「ありがとうございます。それで――」
その時、だ。
「フォーリ様……フォーリ様ではないですか!?」
声が、届いた。
グラズヘイム・シュバリエの、隣のブースからだ。ちょうど、フォーリが通ったのとは別な方角ではあったのだが――見慣れた、エクラの意匠を掲げた、そこは。
『聖堂教会』の、ブースだった。
――これは……。
防具の質に弾んでいた心が、急速に渋くなっていく。
そこに居たのは、紅顔の少年だ。エクラ教徒の――由は知らぬが、フォーリにとっては見慣れた、巡礼者の装いをしている。
「…………おや、教会も出展していたのですね」
絞りだすようにそういったフォーリであったが。
「フォーリ様は、なぜ、そちらに?」
少年は、誤魔化されなかった。驚愕よりも、絶望に似た表情に、何故か――いや、理由は分かりきっているのだが、フォーリの胸が痛む。
「それは――」
男の本能というべきか、反射的に言い訳を探す、のだが、妻子ありし頃から清廉潔白を旨に生きてきたフォーリの舌はうまく回らなかった。すると、傍らから声があがった。
「そりゃァ」
ぽん、とフォーリの肩に手をおいて、青年が言う。なるほど、よく見ると顔立ちは整っている。こういう場の処理に慣れているのかもしれない。救いの手か、と祈り手をきろうとしたフォーリだったが。
「うちの親方に防具を発注したからに決まってンじゃねェか」
「な……んだ、と……?」
わなわなと口元を震わせる少年の姿に、フォーリは深くため息をついた。
まるで浮気現場を目撃されたような心地だった。尤も、フォーリは浮気などしたことはないのだが。
●
それからは早かった。激昂した少年が青年に噛み付いた。もちろん比喩なのだが、青年は青年でそれを真っ向から見下し、批判した。
「てめェは分かってねェかもしれねェが、武具防具ってやつァ命をあずけるもンなんだよ! 中途半端な品に預けられるわけねェだろ!」
「言うに事欠いて、教会の品が、中途半端ですって……!?」
「そうは言ってねェけどよ」
へ、と青年は薄く笑って、フォーリを見た。
「まァ、そうかも知れねえな。いや、知らねェけども」
「………………っ!!」
「何事です?」
「ああ……いや」
この場の責任者だろうか。大層な騒ぎっぷりに駆けつけた司祭にフォーリが事情を説明する、と、司祭は少年の姿を見て微笑ましそうに頷き始めた。
「……あの子のああいう所を見るのは久しぶりですね……」
「……そう、ですか」
止めないのか。止めないか。止めないな。明らかに好きものの目つきをしている司祭に、フォーリは落胆を抱いた。
詳しく話を聞いた。
なぜ聖堂教会が出展しているか、というと、問い合わせが相次いだから、という。
王国南西部の教会が出展するとなったことが知れた後、内外から『そも教会は出展しないのか』、と。
聖堂教会にも少なくない職人がいる。長き巡礼を支えるためであったり、催事のためであったり、そして――聖堂戦士団のために、職人はその技を磨き、振るってきた。
王国に寄り添いながら存在してきた教会だ。その歴史は長い。千年の時の中で積み上げてきた蓄積や、伝説に残る品を有する教会にも、需要はあったのだ。なればこそ、『グラズヘイム・シュバリエ』と隣接するのも頷ける話だった。
そして、隣接していたがゆえに。
「もともと、敵愾心があった、のですね……」
「はは。あの子もまだ幼子であったということですなあ……」
そういった事情も知れた、その頃だ。
「決闘だ…………ッ!!!!」
「上等だクルァッ!! かかってこいやァッ!!」
そういう事になった。
●
もちろん、少年と青年をステゴロさせるわけにも行かず、さりとて収まりもつかず、何かしらの決着を要する事となった。
――結果として、代理を立てての決闘となった。
「いやぁ……本当に申し訳ありません……」
騒ぎを聞きつけて集まっていたハンター達が、その『代役』だ。
フォーリの参戦は不適として、審判および救護を担う事となった。できることなら帰りたいのだが、状況がそれを許さなかった。
ルールは簡単。
それぞれのチームに分かれて、相手を斃す。
最後に一人でも残っていたチームが勝者――である。
ハンター達それぞれで強さが違う? クラスは? 武具の優劣はどうなったの?
細かいことは解説を参照してほしい。だが、少年と青年にとっても、突発的に湧き上がった催しを見に来た『観客』にとっても、互いの優劣などもはや些事。ただ自分が賭けたチームが勝てばいい。
今。戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
職人の誇りを背負ったハンター達が、その武技を競う――!
リプレイ本文
●
戦場もかくや、というほどの熱気が満ちていた。
「すみません……」
その中心で、フォーリはハンター達に沈鬱な表情で詫びた。
「好きで参加しているのですから、お気遣いなく」
「ああ」
その言葉に、セレン・コウヅキ(ka0153)がそう言うと、得物の具合を確認していたライガ・ミナト(ka2153)が続いた。
「重要な技術交流のチャンスでもあるしな」
「ええ……鍛えぬかれた技と武具、王国騎士の戦いをお見せします」
少女と見紛うほどに小柄なユナイテル・キングスコート(ka3458)の言葉に、ライガは愉しげな笑みを落とす。
「いやー、あたしは暴れられるんだったらそれだけで歓迎! だけどな!」
不穏な空気を快活に笑い飛ばすのはリーゼリッタ(ka4399)。辺境から出て間もないのだろうが堂々と煙草を蒸す様は堂に入っている。
「……模擬戦、みたいなものですよね?」
不安を覚えたか、全身を防具で覆ったジョージ・ユニクス(ka0442)が恐る恐る言うと、
「おう、解ってるぜ!」
女は快活に笑って、紫煙を吐き出すのであった。
「あまり……怪我はしてほしくないですけど、ね」
熱気に苦笑する櫻井 悠貴(ka0872)だが、言いながらもその手は銃の整備に余念ない。手を抜く、というのは出来ない性分なのだろう。沸き立つその場で、一人、静かな目でフォーリと聖堂教会のスタッフを見つめる者がいた。エリー・ローウェル(ka2576)だ。グラズヘイム・シュバリエから借り受けた大剣。丁寧に鍛造された刀身に触れながら、視線を切る。次の瞬間には、朗らかに笑う少女がそこにいた。
「せっかくのお祭りですし、たくさんの人を沸かせたいですね!」
「そう言っていただけると」
「仮にもシスターとして聖堂教会さんばかりにいい顔を……させ……」
「?」
苦笑して陳謝するフォーリに調子よく答えようとしたエリーだったが。
「な、なんでもないです!」
強引にそう言って話題を打ち切った。
●
セレン、ジョージ、逢見 千(ka4357)、リーゼリッタが聖堂教会の代理。残るライガ、悠貴、エリー、ユナイテルがグラムヘイズ・シュバリエの代理となった。
会場の熱狂は最高潮に達している。各々が両サイドにわかれた頃合いになり、エリーが大剣を振り回すのが良くなかった。グラズヘイム・シュバリエの面々は拳を掲げて絶叫し、観客もそれに応じている。
兎角、舞台は整った。
フォーリが手を掲げ――振り下ろす。
動き出しは、同時に刻まれた。
●
教会側。最初に疾走を開始したのはジョージだった。全速力の移動で間合いを詰め、千が続いた。
「中央付近での接触になりそうですね」
やや後方から、己の立ち位置を定めるべく周囲を見渡したセレン。この戦場、銃撃ならば大凡どこからでもカバーできる。となれば、肝要なのは『相手方』の動きだ。
千が微かに振り向いた。視線の先にはリーゼリッタ。巨斧を掲げる彼女の歩みは遅い。遅い、のだが、喜色満面でこれから訪れる闘争に期待を漲らせているのは想像に難くない。同じものを見て、セレンは頷いてみせた。千の視線が外れ、ジョージのやや後方へと足を速める。
――全ては、相対するシュバリエ側の動きを見てのことだった。
シュバリエ側は、エリーとユナイテルの出足が遅くライガが先行する形。その身には悠貴の機導術が施されていた。
「手抜きは良くないですし……ね」
開始前にひっそりと術を紡いでいたのであった。そして、眼前には、エリーとユナイテルの背中。機導術を紡ぐかどうか、逡巡した。同時には掛けられず、また、効果時間も限られているが故に、優先順位がある。
――悩んだ末に、最前を往くライガに重ねて支援を施した。
前衛の後方に位置取りをする事を思えば、多少進み足が遅くなっても構わない、という判断だ。セレンと似て非なるが、結果は一緒だった。
次いで。
喝采が、湧いた。
舞台中央。日本刀を構えたライガが、ジョージと相対を果たしていた。
●
「こういう相手には」
呟き、刀を青眼に構えると滑るように踏み込んだ。ジョージは防戦に徹するつもりか。柔らかく重心を落とすのが見て取れる。
――面白い。
そんな感慨を抱いて、ライガは引き出されるように前に出ていた。技術交流の時間だ。つまり遠慮はいらない。互いに。
踏み込みと同時、肘を返して股間へと切っ先をつけて切り上げた。寸止めをするつもりだったが――やめた。結果は手応えとして返ってくる。
ジョージの剣とライガの刀が、噛み合う。
「っく、……」
踏み込みに合わせて軽く身を引いたジョージが、短く呻く。強化と、得物の鋭さだけライガに分がある。
「受けるか」
「真っ向勝負なら、望むところです……!」
ライガは笑み、ジョージは気炎を上げた。
少年のその意気が、ライガを更に掻き立て――た、その時だ。
「ライガ!」
後方から、ユナイテルの声が響いた。ライガの体が反射だけで動く。続いて、音と、先ほどまでいた場所を掠めるように銃弾が貫いた。
「チ、ィ!」
零れた舌打ちは、セレンの奇襲に対して……では、無い。『体』が、乱れていたことに対してだ。そして、眼前にはショートソードを手に苛烈に踏み込むジョージ、そして。
「先ずは火力を減らしておかないと、ね」
千が居た。薄白の髪が、少女自身の機動で揺れている。手には特殊剣。
ジョージ、そして滑るように前に出た少女に対応すべく、ライガは無理やりに地を踏みしめる。
「ッ……!」
振り下ろされた剣戟を、左右二本の刀で受ける、が。
それでも――眼前の二人も、片腕でさばける相手ではなかった。やむを得まい。そういう『作戦』だったから。
二振りの閃撃に、ライガは後方へと弾かれた。
●
「私はユナイテル・キングスコート! 推して参る!」
着地したライガの傷を見て、ユナイテルは声を張った。そうして、眼前、ジョージへと向かって盾を構えて、往く。
「……はい、お相手します!」
構えから知れる正統なる盾と剣の術理に、ジョージが強く、応じた。そうして、装甲に身を固めた者同士が高く、激突。
「と、」
――ライガをやるか、それとも。
剣戟を交わす二人を他所に逡巡する千。思考した、そこに。
「させません! 私が相手です!」
そこに、大剣を携えたエリーが高らかに言う。視線や立ち振舞いから、教会側の戦術が見て取れた。となれば、自由を許すわけには行かない。大剣を大きく振りかざしながら、千へと突撃をかける。
「狙うのは無理、だね」
真っ向からの相対に、千は嘯きながら得物を構えた。
同時。エリーの後方から響いた銃声に、千の視線が逸れる。悠貴がセレンを牽制すべく放った銃撃だった。会場の狭さ故に、距離を離そうにも悠貴の射程から逃れることは難しい。互いが互いを間合いに捉える形になっている。
千は小さく、息を吐いた。
――先手はとったけど、押しきれなかった、か。
「……あとはあっち任せ、かな」
その、言葉の先。リーゼリッタとライガが相対を果たしていた。
「わりィ、遅れた! や、分かってたけど!」
とはしゃぐリーゼリッタに目を向けたライガは、
「斧術、か」
口中の血を吐き捨てると、身を低くして疾走。傷ついた身体だがそれを感じさせぬ足運びにリーゼリッタは笑みを深める。痛撃を見舞われたライガは後が無い事を自覚していた。故に、横合いから射撃し得るセレンを警戒しての機動。
相対するリーゼリッタは。
「喰らえ、ギガースアックス改ギガースハンマー……っ!」
気勢と共に、巨大な斧を横薙ぎに振るった。轟と、会場全体の音を払うかのような殲撃を、更に潜るようにしてライガは踏み込む。
「疾……ッ!」
短い呼気と共に、剣閃を放つ。脇腹へと直撃する、寸前。ライガは刃を止めると、剣撃の勢いのまま間合いを外す。脇腹を抑えたリーゼリッタの横顔には笑み。それを見て、ライガも笑った。
「続けよう」
「おう……!」
●
彼方此方で剣戟、銃声が鳴る。
エリーは大剣を構えながら、千の剣閃を往なす。
「……っと!」
下段、膝元を払うように振るわれた剣戟を受け止める。間合いを詰めようとする千に対して、エリーは大剣の間合いを置くべく細かく足を運ぶ。
「嫌らしい、ですね……!」
それでも、千は踏み込んでくる。取り回しがしにくい場所を目掛けて振るわれる刃にエリーが呻くと、千は、
「でしょ?」
と、微かな笑みと共に告げていた。
――もう少しだけ。
その笑みと攻勢を前に、エリーは胸中で呟く。まだ早い、と。冷静な計算で、そう判じていた。
ジョージとユナイテルも、互いに守りを固めた戦いぶりだ。それ故に、戦場には膠着が生まれている。
前衛達の闘争を挟んでセレンと相対している悠貴は周囲を見渡しながら、小さく唇を噛んだ。
――支援をする余裕が、ないですね……。
お互い様だとは悠貴も解っているのだが、満足な動きが取りにくい。機導術を施そうとすると、セレンが自由になってしまう。前衛が狙い打たれる形になってしまうことは目に見えていた。
「先手を取られた事が響いていますね……」
一手が遅れ、こちらの動きが縛られる。
でも。
「勝負事だから、やっぱり勝ちはほしいんです……!」
だからこそ悠貴は、この膠着の上で踊る事を選んだ。危険だが、それを押してセレンと撃ち合う事を。
遠く、銃撃の間合いのセレンは悠貴の意図を汲んだか、頷きを返して見せた。
――決着がつくとすれば互いのどちらかが銃弾に倒れるか、前衛の被害が決定的になるその時だと、夫々に理解した上で、二人は銃撃を交わす。
●
「ハァァ……ッ!」
「――!」
円盾を掲げるユナイテルの気勢と共に振るわれた宝剣を、ジョージはガントレットで受けた。剣撃が装甲を通して衝撃として伝わってくる。
――痛い、けど……!
引けない。痛みを堪えながら、ショートソードを振るった。
避けることよりも、適切に受ける事に注力するジョージは、すでに打ち身だらけとなっていた。
――でも、それはユナイテルさんも同じはず。
正々堂々、真っ向からの打ち合いだ。そのことが、少年にとっては少しばかり清々しい。愚直な自分に、向き合ってくれている、という感覚。
だからこそ、というべきか。ジョージはさらに踏み込む。痛みも、何もかも恐れることなく。
「……っ」
その時。ユナイテルの舌打ちが、耳に届いた。
同時に耳に届いたのは、鈍く、重い音と。
銃声、だった。
●
リーゼリッタとライガの間で交わされた数合。それらを踏み越えるように、リーゼリッタの巨斧が、直上へと掲げられる。
「ハッハァ!」
快活に笑ったリーゼリッタは巨斧を掲げたまま、『踏込』んだ。これまでよりもなお早く、なお、鋭く。
布で刃を巻いているとはいえ、当たり所が悪ければ致死の一撃。それを前にして――ライガは笑った。
「避けられんな、これは」
会心の殲撃。なればこそ、回避の見込みはあるべくもなかった。
「死ねぇ!!」
充足し過ぎて血の気が溢れたリーゼリッタの巨斧が振られ――瞬後。ライガの身が、後方へと高く、舞った。
一方、エリーと千の相対にも動きがあった。
防戦に徹していたエリー。彼女が掲げる大剣が、微かに揺れる。
疾と、高く短い呼気が走った。大剣の揺らぎに隙を見出した千の特殊剣が、滑りこむように伸びていき――。
その時だ。銃声が、響いたのは。
「……ッ!」
乾いた音と共に、銃弾が千の眼前を抜けていく。
威嚇するつもり、だったのだろう。瞬後には間合いを外した千に、エリーは満足気だ。
――ミスディレクション。
望んだ戦い方に、エリーは手応えを感じていた。
「行きます!」
そのままに、空いた距離を踏み抜き、往く。
「……当たったら痛そうだね」
大剣と拳銃。その両方を見据えて、千は呟いた。
――でも。大丈夫、かな。
一瞬だけ逸れた視線の先には、リーゼリッタ。弾き飛ばされたライガは――恐らく自ら飛ばされたのだろう、傷は思っていた以上に軽いが、フォーリがすでに治療を開始している。
セレンは悠貴を抑えているし、ユナイテルとジョージの戦いは拮抗している。
故に。
「この戦い――私達の勝ち、だよ」
●
趨勢はもはや決していた。火力に優れるリーゼリッタが残ったこと。そして、教会側の面々が崩れなかった事が、決定的だった。
次に落ちたのはリーゼリッタから一番近い位置に居たユナイテル。次いで、悠貴の銃弾がセレンの手を撃ち抜きはしたが、次の瞬間には無事な手で抜いた拳銃による銃撃で、互いに退場。
――興奮に包まれた会場の中、防御に徹していたエリーの肩をフォーリが叩くまで、そう時間はかからなかった。
●
「疲れました……」
歓声が止まぬ中、鎧姿のまま座り込んだジョージはそのまま荒く息を吐いた。真っ向からの戦闘に、心身共に疲弊していた。
「私の負け、ですね」
性分なのだろう。生真面目に汗を拭うユナイテルがジョージに言うと、「え、いや、でもあれはリーゼリッタさんが……!」と慌てふためいていた。当のリーゼリッタは煙草を付加してこの上なく満足気にくつろいでいる。
兜をかぶったままの少年の焦り顔を想像したか。ユナイテルはまたいつか仕合ましょう、と微笑と共にそう告げた。
「くうぅ…………悔しいです……」
最後は徹底的に攻め立てられたエリーは、同じように座り込んで困憊の身を休めている。隣に立つ千が柔軟体操をしながら「やっぱり剣は使いにくかったなぁ」などと言っているのはさておき、今回の敗戦は彼女にとっては二重の意味で口惜しさが勝った。”教会”に敗れたこと。そして、手が届きそうだった何か。
そんなエリーを他所に、ライガは満足気である。
「色々見れてよかったけどなー」
「ライガさんはそうでしょうけどね……」
これまでにも戦闘狂いなところを眼にした事があるエリーは渋い顔だった。
「お疲れ様でした」
銃弾による傷を受けたセレンと悠貴の治療をしながら、フォーリが言う。詫びの気配を感じて、セレンと悠貴は苦笑した。
「いえ……司祭さまもお疲れ様です。武具くらい自分に馴染む良いものが欲しいのに立場がそれを許さないのですから大変ですね」
「あまり、お気になさらず――」
優しげに言う二人。
「ありがとうございます……ですが、聖堂教会の質が悪いわけでは、ないのですよ?」
冗談めかした言葉に、二人の口元から笑みが零れた。
「そうかもしれませんが……お互いの悪い点を非難し合うよりライバルとして優れた点を認め合っていいと思います」
「――仰るとおり」
喝采はやまない。聖堂教会の少年は跪き感涙しながら神に祈りを捧げている。
「ですが、未熟な頃は、衝突こそが糧になるものです。迂遠よりも直向に在る事を知るのも、大事な事ですから……」
良い日、だったのかもしれませんね、と。狂騒を他所に、フォーリはそう締めた。
戦場もかくや、というほどの熱気が満ちていた。
「すみません……」
その中心で、フォーリはハンター達に沈鬱な表情で詫びた。
「好きで参加しているのですから、お気遣いなく」
「ああ」
その言葉に、セレン・コウヅキ(ka0153)がそう言うと、得物の具合を確認していたライガ・ミナト(ka2153)が続いた。
「重要な技術交流のチャンスでもあるしな」
「ええ……鍛えぬかれた技と武具、王国騎士の戦いをお見せします」
少女と見紛うほどに小柄なユナイテル・キングスコート(ka3458)の言葉に、ライガは愉しげな笑みを落とす。
「いやー、あたしは暴れられるんだったらそれだけで歓迎! だけどな!」
不穏な空気を快活に笑い飛ばすのはリーゼリッタ(ka4399)。辺境から出て間もないのだろうが堂々と煙草を蒸す様は堂に入っている。
「……模擬戦、みたいなものですよね?」
不安を覚えたか、全身を防具で覆ったジョージ・ユニクス(ka0442)が恐る恐る言うと、
「おう、解ってるぜ!」
女は快活に笑って、紫煙を吐き出すのであった。
「あまり……怪我はしてほしくないですけど、ね」
熱気に苦笑する櫻井 悠貴(ka0872)だが、言いながらもその手は銃の整備に余念ない。手を抜く、というのは出来ない性分なのだろう。沸き立つその場で、一人、静かな目でフォーリと聖堂教会のスタッフを見つめる者がいた。エリー・ローウェル(ka2576)だ。グラズヘイム・シュバリエから借り受けた大剣。丁寧に鍛造された刀身に触れながら、視線を切る。次の瞬間には、朗らかに笑う少女がそこにいた。
「せっかくのお祭りですし、たくさんの人を沸かせたいですね!」
「そう言っていただけると」
「仮にもシスターとして聖堂教会さんばかりにいい顔を……させ……」
「?」
苦笑して陳謝するフォーリに調子よく答えようとしたエリーだったが。
「な、なんでもないです!」
強引にそう言って話題を打ち切った。
●
セレン、ジョージ、逢見 千(ka4357)、リーゼリッタが聖堂教会の代理。残るライガ、悠貴、エリー、ユナイテルがグラムヘイズ・シュバリエの代理となった。
会場の熱狂は最高潮に達している。各々が両サイドにわかれた頃合いになり、エリーが大剣を振り回すのが良くなかった。グラズヘイム・シュバリエの面々は拳を掲げて絶叫し、観客もそれに応じている。
兎角、舞台は整った。
フォーリが手を掲げ――振り下ろす。
動き出しは、同時に刻まれた。
●
教会側。最初に疾走を開始したのはジョージだった。全速力の移動で間合いを詰め、千が続いた。
「中央付近での接触になりそうですね」
やや後方から、己の立ち位置を定めるべく周囲を見渡したセレン。この戦場、銃撃ならば大凡どこからでもカバーできる。となれば、肝要なのは『相手方』の動きだ。
千が微かに振り向いた。視線の先にはリーゼリッタ。巨斧を掲げる彼女の歩みは遅い。遅い、のだが、喜色満面でこれから訪れる闘争に期待を漲らせているのは想像に難くない。同じものを見て、セレンは頷いてみせた。千の視線が外れ、ジョージのやや後方へと足を速める。
――全ては、相対するシュバリエ側の動きを見てのことだった。
シュバリエ側は、エリーとユナイテルの出足が遅くライガが先行する形。その身には悠貴の機導術が施されていた。
「手抜きは良くないですし……ね」
開始前にひっそりと術を紡いでいたのであった。そして、眼前には、エリーとユナイテルの背中。機導術を紡ぐかどうか、逡巡した。同時には掛けられず、また、効果時間も限られているが故に、優先順位がある。
――悩んだ末に、最前を往くライガに重ねて支援を施した。
前衛の後方に位置取りをする事を思えば、多少進み足が遅くなっても構わない、という判断だ。セレンと似て非なるが、結果は一緒だった。
次いで。
喝采が、湧いた。
舞台中央。日本刀を構えたライガが、ジョージと相対を果たしていた。
●
「こういう相手には」
呟き、刀を青眼に構えると滑るように踏み込んだ。ジョージは防戦に徹するつもりか。柔らかく重心を落とすのが見て取れる。
――面白い。
そんな感慨を抱いて、ライガは引き出されるように前に出ていた。技術交流の時間だ。つまり遠慮はいらない。互いに。
踏み込みと同時、肘を返して股間へと切っ先をつけて切り上げた。寸止めをするつもりだったが――やめた。結果は手応えとして返ってくる。
ジョージの剣とライガの刀が、噛み合う。
「っく、……」
踏み込みに合わせて軽く身を引いたジョージが、短く呻く。強化と、得物の鋭さだけライガに分がある。
「受けるか」
「真っ向勝負なら、望むところです……!」
ライガは笑み、ジョージは気炎を上げた。
少年のその意気が、ライガを更に掻き立て――た、その時だ。
「ライガ!」
後方から、ユナイテルの声が響いた。ライガの体が反射だけで動く。続いて、音と、先ほどまでいた場所を掠めるように銃弾が貫いた。
「チ、ィ!」
零れた舌打ちは、セレンの奇襲に対して……では、無い。『体』が、乱れていたことに対してだ。そして、眼前にはショートソードを手に苛烈に踏み込むジョージ、そして。
「先ずは火力を減らしておかないと、ね」
千が居た。薄白の髪が、少女自身の機動で揺れている。手には特殊剣。
ジョージ、そして滑るように前に出た少女に対応すべく、ライガは無理やりに地を踏みしめる。
「ッ……!」
振り下ろされた剣戟を、左右二本の刀で受ける、が。
それでも――眼前の二人も、片腕でさばける相手ではなかった。やむを得まい。そういう『作戦』だったから。
二振りの閃撃に、ライガは後方へと弾かれた。
●
「私はユナイテル・キングスコート! 推して参る!」
着地したライガの傷を見て、ユナイテルは声を張った。そうして、眼前、ジョージへと向かって盾を構えて、往く。
「……はい、お相手します!」
構えから知れる正統なる盾と剣の術理に、ジョージが強く、応じた。そうして、装甲に身を固めた者同士が高く、激突。
「と、」
――ライガをやるか、それとも。
剣戟を交わす二人を他所に逡巡する千。思考した、そこに。
「させません! 私が相手です!」
そこに、大剣を携えたエリーが高らかに言う。視線や立ち振舞いから、教会側の戦術が見て取れた。となれば、自由を許すわけには行かない。大剣を大きく振りかざしながら、千へと突撃をかける。
「狙うのは無理、だね」
真っ向からの相対に、千は嘯きながら得物を構えた。
同時。エリーの後方から響いた銃声に、千の視線が逸れる。悠貴がセレンを牽制すべく放った銃撃だった。会場の狭さ故に、距離を離そうにも悠貴の射程から逃れることは難しい。互いが互いを間合いに捉える形になっている。
千は小さく、息を吐いた。
――先手はとったけど、押しきれなかった、か。
「……あとはあっち任せ、かな」
その、言葉の先。リーゼリッタとライガが相対を果たしていた。
「わりィ、遅れた! や、分かってたけど!」
とはしゃぐリーゼリッタに目を向けたライガは、
「斧術、か」
口中の血を吐き捨てると、身を低くして疾走。傷ついた身体だがそれを感じさせぬ足運びにリーゼリッタは笑みを深める。痛撃を見舞われたライガは後が無い事を自覚していた。故に、横合いから射撃し得るセレンを警戒しての機動。
相対するリーゼリッタは。
「喰らえ、ギガースアックス改ギガースハンマー……っ!」
気勢と共に、巨大な斧を横薙ぎに振るった。轟と、会場全体の音を払うかのような殲撃を、更に潜るようにしてライガは踏み込む。
「疾……ッ!」
短い呼気と共に、剣閃を放つ。脇腹へと直撃する、寸前。ライガは刃を止めると、剣撃の勢いのまま間合いを外す。脇腹を抑えたリーゼリッタの横顔には笑み。それを見て、ライガも笑った。
「続けよう」
「おう……!」
●
彼方此方で剣戟、銃声が鳴る。
エリーは大剣を構えながら、千の剣閃を往なす。
「……っと!」
下段、膝元を払うように振るわれた剣戟を受け止める。間合いを詰めようとする千に対して、エリーは大剣の間合いを置くべく細かく足を運ぶ。
「嫌らしい、ですね……!」
それでも、千は踏み込んでくる。取り回しがしにくい場所を目掛けて振るわれる刃にエリーが呻くと、千は、
「でしょ?」
と、微かな笑みと共に告げていた。
――もう少しだけ。
その笑みと攻勢を前に、エリーは胸中で呟く。まだ早い、と。冷静な計算で、そう判じていた。
ジョージとユナイテルも、互いに守りを固めた戦いぶりだ。それ故に、戦場には膠着が生まれている。
前衛達の闘争を挟んでセレンと相対している悠貴は周囲を見渡しながら、小さく唇を噛んだ。
――支援をする余裕が、ないですね……。
お互い様だとは悠貴も解っているのだが、満足な動きが取りにくい。機導術を施そうとすると、セレンが自由になってしまう。前衛が狙い打たれる形になってしまうことは目に見えていた。
「先手を取られた事が響いていますね……」
一手が遅れ、こちらの動きが縛られる。
でも。
「勝負事だから、やっぱり勝ちはほしいんです……!」
だからこそ悠貴は、この膠着の上で踊る事を選んだ。危険だが、それを押してセレンと撃ち合う事を。
遠く、銃撃の間合いのセレンは悠貴の意図を汲んだか、頷きを返して見せた。
――決着がつくとすれば互いのどちらかが銃弾に倒れるか、前衛の被害が決定的になるその時だと、夫々に理解した上で、二人は銃撃を交わす。
●
「ハァァ……ッ!」
「――!」
円盾を掲げるユナイテルの気勢と共に振るわれた宝剣を、ジョージはガントレットで受けた。剣撃が装甲を通して衝撃として伝わってくる。
――痛い、けど……!
引けない。痛みを堪えながら、ショートソードを振るった。
避けることよりも、適切に受ける事に注力するジョージは、すでに打ち身だらけとなっていた。
――でも、それはユナイテルさんも同じはず。
正々堂々、真っ向からの打ち合いだ。そのことが、少年にとっては少しばかり清々しい。愚直な自分に、向き合ってくれている、という感覚。
だからこそ、というべきか。ジョージはさらに踏み込む。痛みも、何もかも恐れることなく。
「……っ」
その時。ユナイテルの舌打ちが、耳に届いた。
同時に耳に届いたのは、鈍く、重い音と。
銃声、だった。
●
リーゼリッタとライガの間で交わされた数合。それらを踏み越えるように、リーゼリッタの巨斧が、直上へと掲げられる。
「ハッハァ!」
快活に笑ったリーゼリッタは巨斧を掲げたまま、『踏込』んだ。これまでよりもなお早く、なお、鋭く。
布で刃を巻いているとはいえ、当たり所が悪ければ致死の一撃。それを前にして――ライガは笑った。
「避けられんな、これは」
会心の殲撃。なればこそ、回避の見込みはあるべくもなかった。
「死ねぇ!!」
充足し過ぎて血の気が溢れたリーゼリッタの巨斧が振られ――瞬後。ライガの身が、後方へと高く、舞った。
一方、エリーと千の相対にも動きがあった。
防戦に徹していたエリー。彼女が掲げる大剣が、微かに揺れる。
疾と、高く短い呼気が走った。大剣の揺らぎに隙を見出した千の特殊剣が、滑りこむように伸びていき――。
その時だ。銃声が、響いたのは。
「……ッ!」
乾いた音と共に、銃弾が千の眼前を抜けていく。
威嚇するつもり、だったのだろう。瞬後には間合いを外した千に、エリーは満足気だ。
――ミスディレクション。
望んだ戦い方に、エリーは手応えを感じていた。
「行きます!」
そのままに、空いた距離を踏み抜き、往く。
「……当たったら痛そうだね」
大剣と拳銃。その両方を見据えて、千は呟いた。
――でも。大丈夫、かな。
一瞬だけ逸れた視線の先には、リーゼリッタ。弾き飛ばされたライガは――恐らく自ら飛ばされたのだろう、傷は思っていた以上に軽いが、フォーリがすでに治療を開始している。
セレンは悠貴を抑えているし、ユナイテルとジョージの戦いは拮抗している。
故に。
「この戦い――私達の勝ち、だよ」
●
趨勢はもはや決していた。火力に優れるリーゼリッタが残ったこと。そして、教会側の面々が崩れなかった事が、決定的だった。
次に落ちたのはリーゼリッタから一番近い位置に居たユナイテル。次いで、悠貴の銃弾がセレンの手を撃ち抜きはしたが、次の瞬間には無事な手で抜いた拳銃による銃撃で、互いに退場。
――興奮に包まれた会場の中、防御に徹していたエリーの肩をフォーリが叩くまで、そう時間はかからなかった。
●
「疲れました……」
歓声が止まぬ中、鎧姿のまま座り込んだジョージはそのまま荒く息を吐いた。真っ向からの戦闘に、心身共に疲弊していた。
「私の負け、ですね」
性分なのだろう。生真面目に汗を拭うユナイテルがジョージに言うと、「え、いや、でもあれはリーゼリッタさんが……!」と慌てふためいていた。当のリーゼリッタは煙草を付加してこの上なく満足気にくつろいでいる。
兜をかぶったままの少年の焦り顔を想像したか。ユナイテルはまたいつか仕合ましょう、と微笑と共にそう告げた。
「くうぅ…………悔しいです……」
最後は徹底的に攻め立てられたエリーは、同じように座り込んで困憊の身を休めている。隣に立つ千が柔軟体操をしながら「やっぱり剣は使いにくかったなぁ」などと言っているのはさておき、今回の敗戦は彼女にとっては二重の意味で口惜しさが勝った。”教会”に敗れたこと。そして、手が届きそうだった何か。
そんなエリーを他所に、ライガは満足気である。
「色々見れてよかったけどなー」
「ライガさんはそうでしょうけどね……」
これまでにも戦闘狂いなところを眼にした事があるエリーは渋い顔だった。
「お疲れ様でした」
銃弾による傷を受けたセレンと悠貴の治療をしながら、フォーリが言う。詫びの気配を感じて、セレンと悠貴は苦笑した。
「いえ……司祭さまもお疲れ様です。武具くらい自分に馴染む良いものが欲しいのに立場がそれを許さないのですから大変ですね」
「あまり、お気になさらず――」
優しげに言う二人。
「ありがとうございます……ですが、聖堂教会の質が悪いわけでは、ないのですよ?」
冗談めかした言葉に、二人の口元から笑みが零れた。
「そうかもしれませんが……お互いの悪い点を非難し合うよりライバルとして優れた点を認め合っていいと思います」
「――仰るとおり」
喝采はやまない。聖堂教会の少年は跪き感涙しながら神に祈りを捧げている。
「ですが、未熟な頃は、衝突こそが糧になるものです。迂遠よりも直向に在る事を知るのも、大事な事ですから……」
良い日、だったのかもしれませんね、と。狂騒を他所に、フォーリはそう締めた。
依頼結果
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相談卓 逢見 千(ka4357) 人間(リアルブルー)|14才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/03/15 18:09:36 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/11 23:03:28 |