ゲスト
(ka0000)
王国、石材、大鷲、弁当、船下り
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/16 19:00
- 完成日
- 2015/03/23 21:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
歪虚ベリアルの襲撃により、多かれ少なかれ混乱を来したグラズヘイム王国の諸地方において、その影響が殆どなかった──いや、むしろ、特需に沸いた地域があった。
それは王国北東部──国土の殆どが平地がちな王国領内において、ほぼ唯一の山岳地帯である。
大湖を中心に二つの大河を擁するこの地方は、崖がちな地形故に他国との交易こそ大規模には発展してこなかったものの…… 古の昔より、多くの鉱山や採掘場を持つ『石の地方』としても知られてきた。
事変後、ベリアル襲撃の被害を受けた王都ではその復旧に多くの資材を必要としており。
そして、当然の事ながら。その需要の中には城壁や建築物の構成材たる石材も含まれていた。
石丁場にて切り出された岩石は石工によって石材に加工され、背負子によって川辺まで運ばれ、王都の横を流れる大河を用いて船で輸送されている。
丁場の石工も、荷運びの歩荷も、輸送する船員も、艀の作業員も、それに関わる皆が皆、降って湧いた特需に沸いた。
あまりに発注が多かった為、加工前の岩石を塊のまま木ゾリで引いて川まで運び、筏で王都に送ったりもした。
忙しくなれば当然、人手も足りなくなる。かといって、この特需も永遠に続くわけでもない。それは丁場の主たちも分かり切っていた。
そこで、彼らは期限付きで臨時に人を雇うことにした。ハンターズソサエティにも手を回して、体力自慢の覚醒者たちも雇った。
覚醒者たちの中には、リアルブルー出身の者もいた。
その事実がまさか、面倒ごとの種になろうとは── その時点においては、誰にも分からないことだった。
●
「ここ、王国北東部には、大山鷹──と翻訳された──と呼ばれる大きな鳥類がいる」
グラズヘイム王国北東部。岩石を筏に載せる為の、臨時に増設された船着場で── 河川による石材輸送を担う中型帆船の責任者は、集まったハンターたちに対してその厳しい表情を崩さぬまま、改めて依頼内容の説明を行っていた。
(異世界の人間たちがしでかした『不始末』の『火消し』を、その同類たるハンターたちに頼らねばならんとは……)
その事実に釈然としないものを感じながら、だが、船主はその感情を押し殺す。
──今、最優先すべきことは、状況の速やかなる改善である。……稼げる内に稼ぐ。商機は逃さない。事態を解決することは、自分たちだけでなく関係者の全てにその恩恵をもたらすのだから。
彼は心の中だけで溜め息を吐くと、ハンターたちに対して状況の説明を再開した。
「猛禽──即ち、肉食性の鳥であり、遥か空から獲物を狙う『大空の狩人』だ。獰猛ではあるが、一応、飼育可能な猛禽であり、鷹匠に使われることもある。好奇心が強いのか、大河を船が航行しているとすれすれまで降下して来て、暫く船と併走して飛んだりもする。そう言う意味では、我々にとっては身近な、見慣れた、人懐っこい鳥……だった」
大山鷹はこれまで船上の人間を襲ったりはしなかった。己の縄張りの端まで空を併走した後、川風に乗って山へと帰っていくのが常だった。その習性から、川を下る船員たちには大山鷹を『見送り鳥』と呼んでありがたがる者も大勢いた。
だが、そんな微笑ましい事情は変わってしまった。
彼らは人を襲うようになった。
人間を獲物にするようなことはなかったが、人が持つ食料を襲うようになっていた。
「始まりは、異世界の覚醒者たちだ。何を考えたのか、彼らは、川面まで下りて来た大山鷹に向かって、広げていた弁当の一部を放ったのだ」
『大空の狩人』らしく、大山鷹はその放られた餌を空中で咥え取った。それが面白かったのか、覚醒者たちは喝采してますます鷹に餌を放った。
その結果、大山鷹は人を恐れなくなった。人が持つ弁当を、得やすい餌と認識してしまった。船員たちが船上や筏の石上で弁当を広げていると、大山鷹はそれを掠め取る様になった。弁当を隠すとその背を襲うようになった。弁当を持たずにいても、まるで催促するかのように構わず襲撃して来るようになった。
「見ろ」
船主は彼方の空を指差した。
川岸に面した山の上。空中に円を描くようにしながら、大型の鳥が複数、優雅に、悠々と滑空している……
「本来はそれぞれに縄張りを持ち、孤高を保っていた大空の狩人たちが、今では容易く手に入る餌を求めて屯っている……」
どこか寂しそうな表情で呟いた船主は…… 己の感傷を振り払うように実務的な顔でハンターたちに向き直った。
「襲撃者の存在は、石材の水上輸送に既に害を及ぼし始めている。臨時雇いの作業員たちはすっかりこちらには来なくなった。熟練の水夫たちにも怪我をする者が絶えない」
故に、と船主は言葉を続けた。
ハンターたちには船に乗り込んでもらう。船の護衛がその任だ。襲撃して来る大山鷹を追い払い、人と荷を守るのだ。
「だが、それは依頼の表層──真の目的の一面に過ぎない」
続く船主のその言葉に、ハンターたちが怪訝な顔をする。
船主は言った。──依頼の真の目的は、彼らが二度と河川を行き来する船を襲うことがないようにすることだ、と──
「被害を出さないだけなら簡単な話だ。鷹が寄ってきたら餌を与え続ければいい。……だが、それではダメだ。連中は再びやって来る。際限なく繰り返す」
二度と船を襲わせない為には、大山鷹に再度、人間は怖い存在なんだと思い知らせなければならない。
「大山鷹は頭の良い鳥だ。同じ過ちは二度と繰り返さない。故に、人間が危険な存在だと知れば、襲い掛かってくることはなくなるだろう。何度も、何度も…… 連中があきらめるまで、繰り返し、それを教え込む必要がある」
その為に君らを雇ったのだ、と船主は言った。
「方策は任せる。依頼の最低条件は船の護衛だ。それを果たしてくれただけでも報酬は払う。だが、出来得るなら、私の言った真の目的についても少しは考えてみてくれ」
それは王国北東部──国土の殆どが平地がちな王国領内において、ほぼ唯一の山岳地帯である。
大湖を中心に二つの大河を擁するこの地方は、崖がちな地形故に他国との交易こそ大規模には発展してこなかったものの…… 古の昔より、多くの鉱山や採掘場を持つ『石の地方』としても知られてきた。
事変後、ベリアル襲撃の被害を受けた王都ではその復旧に多くの資材を必要としており。
そして、当然の事ながら。その需要の中には城壁や建築物の構成材たる石材も含まれていた。
石丁場にて切り出された岩石は石工によって石材に加工され、背負子によって川辺まで運ばれ、王都の横を流れる大河を用いて船で輸送されている。
丁場の石工も、荷運びの歩荷も、輸送する船員も、艀の作業員も、それに関わる皆が皆、降って湧いた特需に沸いた。
あまりに発注が多かった為、加工前の岩石を塊のまま木ゾリで引いて川まで運び、筏で王都に送ったりもした。
忙しくなれば当然、人手も足りなくなる。かといって、この特需も永遠に続くわけでもない。それは丁場の主たちも分かり切っていた。
そこで、彼らは期限付きで臨時に人を雇うことにした。ハンターズソサエティにも手を回して、体力自慢の覚醒者たちも雇った。
覚醒者たちの中には、リアルブルー出身の者もいた。
その事実がまさか、面倒ごとの種になろうとは── その時点においては、誰にも分からないことだった。
●
「ここ、王国北東部には、大山鷹──と翻訳された──と呼ばれる大きな鳥類がいる」
グラズヘイム王国北東部。岩石を筏に載せる為の、臨時に増設された船着場で── 河川による石材輸送を担う中型帆船の責任者は、集まったハンターたちに対してその厳しい表情を崩さぬまま、改めて依頼内容の説明を行っていた。
(異世界の人間たちがしでかした『不始末』の『火消し』を、その同類たるハンターたちに頼らねばならんとは……)
その事実に釈然としないものを感じながら、だが、船主はその感情を押し殺す。
──今、最優先すべきことは、状況の速やかなる改善である。……稼げる内に稼ぐ。商機は逃さない。事態を解決することは、自分たちだけでなく関係者の全てにその恩恵をもたらすのだから。
彼は心の中だけで溜め息を吐くと、ハンターたちに対して状況の説明を再開した。
「猛禽──即ち、肉食性の鳥であり、遥か空から獲物を狙う『大空の狩人』だ。獰猛ではあるが、一応、飼育可能な猛禽であり、鷹匠に使われることもある。好奇心が強いのか、大河を船が航行しているとすれすれまで降下して来て、暫く船と併走して飛んだりもする。そう言う意味では、我々にとっては身近な、見慣れた、人懐っこい鳥……だった」
大山鷹はこれまで船上の人間を襲ったりはしなかった。己の縄張りの端まで空を併走した後、川風に乗って山へと帰っていくのが常だった。その習性から、川を下る船員たちには大山鷹を『見送り鳥』と呼んでありがたがる者も大勢いた。
だが、そんな微笑ましい事情は変わってしまった。
彼らは人を襲うようになった。
人間を獲物にするようなことはなかったが、人が持つ食料を襲うようになっていた。
「始まりは、異世界の覚醒者たちだ。何を考えたのか、彼らは、川面まで下りて来た大山鷹に向かって、広げていた弁当の一部を放ったのだ」
『大空の狩人』らしく、大山鷹はその放られた餌を空中で咥え取った。それが面白かったのか、覚醒者たちは喝采してますます鷹に餌を放った。
その結果、大山鷹は人を恐れなくなった。人が持つ弁当を、得やすい餌と認識してしまった。船員たちが船上や筏の石上で弁当を広げていると、大山鷹はそれを掠め取る様になった。弁当を隠すとその背を襲うようになった。弁当を持たずにいても、まるで催促するかのように構わず襲撃して来るようになった。
「見ろ」
船主は彼方の空を指差した。
川岸に面した山の上。空中に円を描くようにしながら、大型の鳥が複数、優雅に、悠々と滑空している……
「本来はそれぞれに縄張りを持ち、孤高を保っていた大空の狩人たちが、今では容易く手に入る餌を求めて屯っている……」
どこか寂しそうな表情で呟いた船主は…… 己の感傷を振り払うように実務的な顔でハンターたちに向き直った。
「襲撃者の存在は、石材の水上輸送に既に害を及ぼし始めている。臨時雇いの作業員たちはすっかりこちらには来なくなった。熟練の水夫たちにも怪我をする者が絶えない」
故に、と船主は言葉を続けた。
ハンターたちには船に乗り込んでもらう。船の護衛がその任だ。襲撃して来る大山鷹を追い払い、人と荷を守るのだ。
「だが、それは依頼の表層──真の目的の一面に過ぎない」
続く船主のその言葉に、ハンターたちが怪訝な顔をする。
船主は言った。──依頼の真の目的は、彼らが二度と河川を行き来する船を襲うことがないようにすることだ、と──
「被害を出さないだけなら簡単な話だ。鷹が寄ってきたら餌を与え続ければいい。……だが、それではダメだ。連中は再びやって来る。際限なく繰り返す」
二度と船を襲わせない為には、大山鷹に再度、人間は怖い存在なんだと思い知らせなければならない。
「大山鷹は頭の良い鳥だ。同じ過ちは二度と繰り返さない。故に、人間が危険な存在だと知れば、襲い掛かってくることはなくなるだろう。何度も、何度も…… 連中があきらめるまで、繰り返し、それを教え込む必要がある」
その為に君らを雇ったのだ、と船主は言った。
「方策は任せる。依頼の最低条件は船の護衛だ。それを果たしてくれただけでも報酬は払う。だが、出来得るなら、私の言った真の目的についても少しは考えてみてくれ」
リプレイ本文
鳴り響く鐘の音が、出発の時を告げた。
解かれる舫。推進役たる先頭の船に展帆される三角帆── 帆に風はらんだ小型帆船が徐々に桟橋から離れ始め…… 同時に、ロープで繋がれた筏の荷──人の身よりも大きな岩石の上に立った水夫たちが、長い棒で川底を突いて筏を河岸から引き離す。
やがて、最後尾、制動役の船が艀から離れ…… 『船団』は無事、川の流れに乗った。大河は悠久の調べと人の言う。その遥かなる調べをなぞる様に、ハンターたちを乗せた運搬船は大湖から王都へ続く川面をとうとうと流れ往く。
「海、湖、そして、大河…… おんなじ船旅と言ってもまた違った趣があるもんだよね!」
先頭を往く船の舷側から行き交う船を眺めながら、時音 ざくろ(ka1250)はその胸に大きく吸い込んだ。
アイ・シャ(ka2762)もまた舷側から空を見上げた。柔らかく降り注ぐ日差しに眩しそうに手をかざし…… どこか温かな蒼い空や日の光を浴びて純白に染まった雲が広がる光景の中に、小さく、船団を追って飛ぶマウントホーク──大山鷹たちの姿を見つける。
「嬢ちゃんは、鳥が好きかい?」
「はいっ! 出来得るなら一羽、お持ち帰りしたいくらい大好きですよっ!」
出発時の忙しさも一段落してハンターたちの様子を見に来た船長に、アイは勢い込んでそう答えた。邪気のないきらきらとした瞳で空を見上げ…… ふとその表情に影を差す。
「それだけに、此度の事は色々と残念です……」
沈んだ声。船長もまた「そうだな……」と重い声音で息を吐いた。 ──我々が『見送り鳥』と呼んだ大山鷹は、もういなくなってしまった。たとえ我々を襲わなくなったとしても、もう船と共に水面を飛ぶことはないだろう……
「ざくろ、日本にいた時に同じ様な話を聞いたことあるよ…… 餌を上げたことで食べ物狙いに来るようになった猿の話とか……」
「自然との付き合い方ってのは、その土地のもん以外にゃ分からん加減ってのがあるからなぁ」
船長とアイへ振り返るざくろ。昇降口からよっと身を乗り出して上がって来たジャンク(ka4072)が続く。
そこへ、しつこく言い寄ってくる船員たちをいつもの様に厄介払いして来た守原 由有(ka2577)が加わる。ハンターたちの集合は偶然ではなかった。お昼時──即ち、大山鷹の襲撃の時間が来るその前に、方針を確認すべく集まることになっていたのだ。
「そうなった原因があたしらの同業とは…… 本当に申し訳ないよ」
「だが、その尻拭いで俺たちゃこうして金が稼げる。……ま、いい迷惑も飯の種、ってぇのもまた因果な話だが」
生真面目な由有の謝罪をジャンクが肩を竦めてまぜっ返す。
由有は眉をひそめて苦笑しながら、船長へと向き直った。
見送り鳥だった頃、船と『併走』していた時の、船からの距離を訊く。なぜ、と問い返す船長に由有は答えた。
「踏み込んではいけない間合いを覚えさせる為だよ。怖いけど親しみもある鳥のようだし…… なるべく元の生態に近くしたいんだ」
船長は目を丸くした。このハンターたちは今回の依頼に関してそんな事まで考えているというのか。
「このままじゃあ、船員たちも大山鷹も、不幸な遭遇を繰り返すことになっちゃうもん。原因を作ったのがハンターなら、それを止めるのもハンターの使命だよ!」
なんということはない、といった調子で告げるざくろ。ジャンクもまたそんなこったと嘆息する。
そんな中、ストゥール(ka3669)は一人、難しい顔をした。
「ふむ…… では、今回の任務は『戦闘』の枠には当たらんことになるのだな。単に排除であったならば……」
「楽だった?」
「いや、私が楽しい……はずだったのだが、まあ、それは言っても詮無きことよ」
構わん、と鷹揚に頷きながら、皆の方針を受け入れるストゥール。うんうん、と頷きながら、リーラ・ウルズアイ(ka4343)は酒の入った水筒を傾けた。吐いた息が酒臭い。が、当人には全く酔った様子は見られなかった。外見は少女であるとは言えそこはエルフ。見た目通りの年齢ではないということか……
●
太陽が天の頂へと昇り、昼が──刻限がやって来た。
襲撃を前に、ハンターたちは3班に分かれて配置についた。
先頭の船には由有とざくろ。メインマストの檣楼に由有が上がり、大弓「吼天」──キラキラと白銀に輝く長射程の長弓──を手にしたざくろは船尾に立って、曳航される筏たちを広範に射程に収める。
船団中央の筏にはストゥールとジャンクの2人が岩の上に座り込み、棒持ちの水夫たちと共にこれ見よがしに弁当を広げ。最後尾の船の船首付近でも同様にリーラとアイが食事を始める。
「水夫たちに統一された制服でもあればよかったのにねぇ。いわゆるセーラー(水兵)服とか」
(また飲んでる……)
チーズをつまみにちびちびとウイスキーを傾けながら、リーラが残念そうに呟く。
「その服を着た人間が乗っている船は危険と認識させる為だ」(ジャンク)
「船員さんに見える人=船員さんの格好をした自分たちから懲らしめられれば、頭の良い鷹さんは『船員さん』を警戒するようになるんじゃないかな」(由有)
……だが、船員たちに特に制服はなかった。おまけに武器も殆ど無かった。水夫たちも申し訳程度に幾つか銃を買ってはみたものの、素人がおいそれと当てられるような相手でもない。
「まず、お尋ねしたいのですが、大山鷹は船を無差別に襲っているのですか──?」
先程、船長にそう尋ねた時のことをアイは思い出した。船長の答えはNoだった。鷹は餌をくれた船のみを──即ち、石材運搬船だけを狙って襲撃しているという。
(特徴的な船団ですものね…… となれば、運搬船に乗ってる人間は危険、と学習させればいいでしょうか)
思考するアイの横で、リーラが「悪酔いした……」と胸を押さえた。酒に、ではない。セーラー服姿になったハンターたちを想像してみたのだが、アイ、自分、ストゥール、ざくろ(似合っちゃうのが困りどころ)、由有(そろそろ厳しいか?)ときた後、思わずジャンクや船長、マッチョな水夫たちまで想像してしまったのだ。
「はぁ~…… 願うことならこのまま景色を眺めて飲んでいたいところですけど……」
(めげない方ですね……)
揃って空を見上げるリーラとアイ。大空には4羽の大山鷹──まずはその内の1羽が高度を下げ、船のすぐ側──黒目が判別できるくらいの距離まで近づいてきて、併走を開始する。
「まだ攻撃しないでください。併走は許します。反撃はこちらを攻撃した時だけ…… 目的なく攻撃しても『躾』にはならないです」
銃を手にした水夫たちにアイがそう声を掛ける。鷹は目が良い。格好だけだが、今後の為にも『武器を持った人間=怖い』と認識してもらう必要がある。
「可能な限り堂々としておけよ。常から乗ってるあんたらが奴を『恐れていない』と思わせることが肝心なんだ。なに、襲われたらその時は俺らが守ってやるからよ」
中央の筏──
一見、のんきな態で食事を続けながら、ジャンクが緊張の色を隠せずにいる若い水夫に飄々と語りかける。
鷹はチラとその様子を確認すると、先頭の船まで飛んでいってから再び空へと戻っていった。
「本当にすぐ側まで飛んで来るのね……」
檣楼からそれを見送りながら由有が呟く。餌を投げて届く距離── 併走の距離を訊ねた由有に、船長はそう答えていた。その事実を目の当たりにし、改めて申し訳ない気持ちになる。
その由有の傍らには、風を受けクルクルと回る鉄片── ストゥールが鏡代わりに結び付けていったものだ。キラキラと光を反射するそれは、反撃の象徴だ。これまでとは違うということ。これをつけた船に手を出せばタダでは済まぬと言う証──
「さて、原因はこちらにあるので遺憾だけど…… ちょっと調子に乗りすぎた大山鷹には痛い目にあってもらって目を醒ましてもらいましょうか」
告げるリーラ。再上昇した大山鷹は、改めて降下を始めていた。
今度は攻撃の為の降下だ。高度を速度へ転換しながら一直線に突っ込んでくる鷹。目標は、障害物の少ない筏、弁当が広げられた岩の上──
「威嚇射撃、用~意!」
号令が飛び、岩の上の水夫が2人、鷹へ向かって銃を構えた。そんな彼らを背に庇うようにしながら膝射姿勢を取るジャンク。その横で、ストゥールは立ったまま「来るか」と不敵な笑みを浮かべ、防性を強化しつつ銃を構える。
「危ねぇぞ? 姿勢も安定しねぇし……」
「堂々とせねばならんのだろう?」
言う間にも距離を詰める鷹。接近を告げる檣楼の由有の声に、ざくろは矢を番えた弦をゆっくりと引き絞る。
「お願い…… 山へお帰り!」
降下する鷹の進路。その前方へ放るように威嚇の為の矢を放つ。放たれた矢は天に吼えるが如く大きな音を立てながら鷹の眼前を横切った。驚き、翼を翻す鷹。岩上からも敢えて狙いを外した銃撃がバンバンと撃ち鳴らされ。その頭上を、攻撃を中断した鷹が物凄い速さで飛び過ぎて行く。
ジャンクは追い撃ちを禁じた。『攻撃すると手痛い反撃が待っている』と覚えさせる──だが、同時に『様子見だけなら何もしない』とも理解させる必要がある。
「また来るぞ」
呟く船長。大山鷹はもう銃声程度では怯まない。
ここでは鷹を射程に捉えられない──由有は移動を決心した。昇降用の網を滑る様に下り、次の矢を番えるざくろの横を駆け抜けながら『運動強化』。船と筏との高低差を利用して船尾から一気に飛び移り。ざんぶと揺れる岩上を走り、筏と筏に渡された2本の移動用ロープを伝って中央へと向かう。
上昇を終えた鷹は再攻撃の為に改めて降下を開始した。今度は曲線を描きながらの降下。更に別の1羽も降下を始め…… こちらの目標はもう一つの弁当──最後尾の船の船首だ。
「この魔法で少しは頭を冷やしなさい」
黄金色のワンドを振り、眼前に発生せしめた球状の水を降下してくる鷹へと撃ち出すリーラ。アイもまたチャクラム──戦輪を取り出すと、指先でクルクル回した後に前方へと投射する。
回避の出来なかった鷹の頭に、まず高圧の水球が直撃した。突然の冷たさと衝撃に慌てて姿勢を立て直す鷹。その直後、接近する戦輪を目の当たりにして慌てて上空へと離脱する。
一方、筏方面の鷹の急降下攻撃はジャンクたちに襲い掛かった。それを盾で受け凌ぐストゥール。そのままクルリと回転して羽ばたきながら鉤爪で攻撃を仕掛けてくる鷹を盾でぶん殴り。すかさず2人して反撃の銃撃を叩き込む。
胴と翼に被弾した大山鷹はその痛撃に一声鳴くと、壊れた紙飛行機の様に宙を滑って川面へ落ちた。
あっ、と叫んで舷側に走るアイ。救助は、と訊ねるリーラにふるふると首を横に振る。
「遠すぎます。ここからじゃ拾い上げられません…… そして、水鳥ではない大山鷹は、水に落ちたら飛び上がれません……」
唇を噛み締めるアイ。……泣いちゃうかな、とリーラは思ったが、そんなことはなかった。スッと目を細め、無表情のまま戦輪を摘むアイ。そのまま躊躇うことなくそれを鷹へと投擲し、水面で暴れるその首を切り裂いて一思いに止めを刺す……
仲間に犠牲が出た事実を認識したのか── 上空で待機していた残りの大山鷹が一斉に降下を開始した。
大山鷹にとって、それは遊戯のようなものであったのかもしれない── だが、その瞬間、襲撃は彼等にとって命がけの『狩り』へと変わった。
ハンターたちも反撃する。なるべく殺したくはないが、それも人を傷つけようとするなら話は別だ。
降下してくる鷹へ向けて迎撃の投射を撃ちかけるハンターたち。射程に入る直前、突然、1羽がその翼を翻し。直後、横合いから降下して来た別の鷹がハンターたちの『隙』をついて弁当のおかずを掻っ攫う。岩の上にぶちまけられる弁当。さらに別の1羽が肉料理を引っ掴んで上昇していき…… 囮役となった最初の1羽もそれに続こうとして、横合いから飛び出して来た由有の体当たりに捕まった。普通、人に飛ぶ鳥を捕まえることなどできない。が、飛んで来るルートが──弁当へ飛んで来ると分かっていれば話は別だ。
由有は暴れる鷹を胸中に抱え込むと、床へと押さえつけながら『エレクトリックショック』で麻痺させた。
「確保~。捕まえたなら確保して~」
てとてとと筏へ渡りながら声を上げるリーラ。先にロープを渡ったアイは動かなくなった鷹へと駆け寄ると、麻袋で頭を覆った後、両足を縄で縛って拘束した。風切り羽も切ろうと刃を取り出しもしたが、それはリーラに止められた。『見せしめ』の為に暫し拘束こそするが、折を見て放つ、と彼女は言った。──勿論、人間は怖い生き物だと散々、思い知らせた後になるが。
●
捕まった鳥は先頭の船まで運ばれ、そこで縄に繋がれた。
電撃による麻痺が解けた後、威嚇の声を上げながら翼をばたつかせて暴れる鷹。上空へ退避した2羽は暫く船の上を回っていたが、やがてこの場を離れ、山の方へと飛び去っていく。
「……餌を取られてしまったな」
「ああ。予定通りにな」
その去っていく鷹を見上げて言う船長に、ジャンクは淡々と呟いた。どういうことだ、と訊ね返す船長にジャンクは無言で餌を──大山鷹たちが取っていった弁当の方だ──摘むと、それを捕まった鷹へと放ってやった。
それを咥え取った鷹が、カハッ! と吐き出し悶絶する。
「こんなこともあろうかと! あらかじめ奪われる用にまずい食べ物を用意していたんだよ! ざくろたちの世界の──リアルブルーの香辛料をこれでもかってまぶした唐揚げをね!」
「辛味を感じるのは味覚でなく痛覚らしいからな…… アレを巣に持ち帰って食べた連中もこれと同じような事になる。『人間の食べ物には危ないものがある』って思わせられりゃ御の字だ」
悶絶する鷹の前で、まともな方の肉団子を口に放って見せるジャンク。飛んでいく大山鷹を見やりながら、ざくろもまた笑って見せた。
「ざくろたちがずっと船に乗っていられるわけじゃないから…… 痛い目見た上に美味しい食べ物もないってなったら、また昔に戻るかな、って。頭の良い鳥らしいし……」
捕らえた鷹は、近くの床を棒で叩いたり銃撃で跳弾させたりして散々怖い目に遭わせた後、まだ縄張りに帰れる内に縄を解いて空へと放った。
「少しは頭冷えたかしら? 人の食べ物を奪おうとするとこういう目に遭うのよ~?」」
脱兎?の如く飛び去る鷹へ向かって水筒片手に言葉を送るリーラ。……こうやって地道に、気長にやっていくしかないんだろうな、と船長がしみじみ呟く。
依頼は終了した。が王都までまだ何日かは船旅は続く。
のんびりしようとしたハンターたちに、船長が告げた。
「ついでだから最後まで仕事を手伝ってもらおうか。……何かって? 決まってる。石材の荷揚げを、だよ」
解かれる舫。推進役たる先頭の船に展帆される三角帆── 帆に風はらんだ小型帆船が徐々に桟橋から離れ始め…… 同時に、ロープで繋がれた筏の荷──人の身よりも大きな岩石の上に立った水夫たちが、長い棒で川底を突いて筏を河岸から引き離す。
やがて、最後尾、制動役の船が艀から離れ…… 『船団』は無事、川の流れに乗った。大河は悠久の調べと人の言う。その遥かなる調べをなぞる様に、ハンターたちを乗せた運搬船は大湖から王都へ続く川面をとうとうと流れ往く。
「海、湖、そして、大河…… おんなじ船旅と言ってもまた違った趣があるもんだよね!」
先頭を往く船の舷側から行き交う船を眺めながら、時音 ざくろ(ka1250)はその胸に大きく吸い込んだ。
アイ・シャ(ka2762)もまた舷側から空を見上げた。柔らかく降り注ぐ日差しに眩しそうに手をかざし…… どこか温かな蒼い空や日の光を浴びて純白に染まった雲が広がる光景の中に、小さく、船団を追って飛ぶマウントホーク──大山鷹たちの姿を見つける。
「嬢ちゃんは、鳥が好きかい?」
「はいっ! 出来得るなら一羽、お持ち帰りしたいくらい大好きですよっ!」
出発時の忙しさも一段落してハンターたちの様子を見に来た船長に、アイは勢い込んでそう答えた。邪気のないきらきらとした瞳で空を見上げ…… ふとその表情に影を差す。
「それだけに、此度の事は色々と残念です……」
沈んだ声。船長もまた「そうだな……」と重い声音で息を吐いた。 ──我々が『見送り鳥』と呼んだ大山鷹は、もういなくなってしまった。たとえ我々を襲わなくなったとしても、もう船と共に水面を飛ぶことはないだろう……
「ざくろ、日本にいた時に同じ様な話を聞いたことあるよ…… 餌を上げたことで食べ物狙いに来るようになった猿の話とか……」
「自然との付き合い方ってのは、その土地のもん以外にゃ分からん加減ってのがあるからなぁ」
船長とアイへ振り返るざくろ。昇降口からよっと身を乗り出して上がって来たジャンク(ka4072)が続く。
そこへ、しつこく言い寄ってくる船員たちをいつもの様に厄介払いして来た守原 由有(ka2577)が加わる。ハンターたちの集合は偶然ではなかった。お昼時──即ち、大山鷹の襲撃の時間が来るその前に、方針を確認すべく集まることになっていたのだ。
「そうなった原因があたしらの同業とは…… 本当に申し訳ないよ」
「だが、その尻拭いで俺たちゃこうして金が稼げる。……ま、いい迷惑も飯の種、ってぇのもまた因果な話だが」
生真面目な由有の謝罪をジャンクが肩を竦めてまぜっ返す。
由有は眉をひそめて苦笑しながら、船長へと向き直った。
見送り鳥だった頃、船と『併走』していた時の、船からの距離を訊く。なぜ、と問い返す船長に由有は答えた。
「踏み込んではいけない間合いを覚えさせる為だよ。怖いけど親しみもある鳥のようだし…… なるべく元の生態に近くしたいんだ」
船長は目を丸くした。このハンターたちは今回の依頼に関してそんな事まで考えているというのか。
「このままじゃあ、船員たちも大山鷹も、不幸な遭遇を繰り返すことになっちゃうもん。原因を作ったのがハンターなら、それを止めるのもハンターの使命だよ!」
なんということはない、といった調子で告げるざくろ。ジャンクもまたそんなこったと嘆息する。
そんな中、ストゥール(ka3669)は一人、難しい顔をした。
「ふむ…… では、今回の任務は『戦闘』の枠には当たらんことになるのだな。単に排除であったならば……」
「楽だった?」
「いや、私が楽しい……はずだったのだが、まあ、それは言っても詮無きことよ」
構わん、と鷹揚に頷きながら、皆の方針を受け入れるストゥール。うんうん、と頷きながら、リーラ・ウルズアイ(ka4343)は酒の入った水筒を傾けた。吐いた息が酒臭い。が、当人には全く酔った様子は見られなかった。外見は少女であるとは言えそこはエルフ。見た目通りの年齢ではないということか……
●
太陽が天の頂へと昇り、昼が──刻限がやって来た。
襲撃を前に、ハンターたちは3班に分かれて配置についた。
先頭の船には由有とざくろ。メインマストの檣楼に由有が上がり、大弓「吼天」──キラキラと白銀に輝く長射程の長弓──を手にしたざくろは船尾に立って、曳航される筏たちを広範に射程に収める。
船団中央の筏にはストゥールとジャンクの2人が岩の上に座り込み、棒持ちの水夫たちと共にこれ見よがしに弁当を広げ。最後尾の船の船首付近でも同様にリーラとアイが食事を始める。
「水夫たちに統一された制服でもあればよかったのにねぇ。いわゆるセーラー(水兵)服とか」
(また飲んでる……)
チーズをつまみにちびちびとウイスキーを傾けながら、リーラが残念そうに呟く。
「その服を着た人間が乗っている船は危険と認識させる為だ」(ジャンク)
「船員さんに見える人=船員さんの格好をした自分たちから懲らしめられれば、頭の良い鷹さんは『船員さん』を警戒するようになるんじゃないかな」(由有)
……だが、船員たちに特に制服はなかった。おまけに武器も殆ど無かった。水夫たちも申し訳程度に幾つか銃を買ってはみたものの、素人がおいそれと当てられるような相手でもない。
「まず、お尋ねしたいのですが、大山鷹は船を無差別に襲っているのですか──?」
先程、船長にそう尋ねた時のことをアイは思い出した。船長の答えはNoだった。鷹は餌をくれた船のみを──即ち、石材運搬船だけを狙って襲撃しているという。
(特徴的な船団ですものね…… となれば、運搬船に乗ってる人間は危険、と学習させればいいでしょうか)
思考するアイの横で、リーラが「悪酔いした……」と胸を押さえた。酒に、ではない。セーラー服姿になったハンターたちを想像してみたのだが、アイ、自分、ストゥール、ざくろ(似合っちゃうのが困りどころ)、由有(そろそろ厳しいか?)ときた後、思わずジャンクや船長、マッチョな水夫たちまで想像してしまったのだ。
「はぁ~…… 願うことならこのまま景色を眺めて飲んでいたいところですけど……」
(めげない方ですね……)
揃って空を見上げるリーラとアイ。大空には4羽の大山鷹──まずはその内の1羽が高度を下げ、船のすぐ側──黒目が判別できるくらいの距離まで近づいてきて、併走を開始する。
「まだ攻撃しないでください。併走は許します。反撃はこちらを攻撃した時だけ…… 目的なく攻撃しても『躾』にはならないです」
銃を手にした水夫たちにアイがそう声を掛ける。鷹は目が良い。格好だけだが、今後の為にも『武器を持った人間=怖い』と認識してもらう必要がある。
「可能な限り堂々としておけよ。常から乗ってるあんたらが奴を『恐れていない』と思わせることが肝心なんだ。なに、襲われたらその時は俺らが守ってやるからよ」
中央の筏──
一見、のんきな態で食事を続けながら、ジャンクが緊張の色を隠せずにいる若い水夫に飄々と語りかける。
鷹はチラとその様子を確認すると、先頭の船まで飛んでいってから再び空へと戻っていった。
「本当にすぐ側まで飛んで来るのね……」
檣楼からそれを見送りながら由有が呟く。餌を投げて届く距離── 併走の距離を訊ねた由有に、船長はそう答えていた。その事実を目の当たりにし、改めて申し訳ない気持ちになる。
その由有の傍らには、風を受けクルクルと回る鉄片── ストゥールが鏡代わりに結び付けていったものだ。キラキラと光を反射するそれは、反撃の象徴だ。これまでとは違うということ。これをつけた船に手を出せばタダでは済まぬと言う証──
「さて、原因はこちらにあるので遺憾だけど…… ちょっと調子に乗りすぎた大山鷹には痛い目にあってもらって目を醒ましてもらいましょうか」
告げるリーラ。再上昇した大山鷹は、改めて降下を始めていた。
今度は攻撃の為の降下だ。高度を速度へ転換しながら一直線に突っ込んでくる鷹。目標は、障害物の少ない筏、弁当が広げられた岩の上──
「威嚇射撃、用~意!」
号令が飛び、岩の上の水夫が2人、鷹へ向かって銃を構えた。そんな彼らを背に庇うようにしながら膝射姿勢を取るジャンク。その横で、ストゥールは立ったまま「来るか」と不敵な笑みを浮かべ、防性を強化しつつ銃を構える。
「危ねぇぞ? 姿勢も安定しねぇし……」
「堂々とせねばならんのだろう?」
言う間にも距離を詰める鷹。接近を告げる檣楼の由有の声に、ざくろは矢を番えた弦をゆっくりと引き絞る。
「お願い…… 山へお帰り!」
降下する鷹の進路。その前方へ放るように威嚇の為の矢を放つ。放たれた矢は天に吼えるが如く大きな音を立てながら鷹の眼前を横切った。驚き、翼を翻す鷹。岩上からも敢えて狙いを外した銃撃がバンバンと撃ち鳴らされ。その頭上を、攻撃を中断した鷹が物凄い速さで飛び過ぎて行く。
ジャンクは追い撃ちを禁じた。『攻撃すると手痛い反撃が待っている』と覚えさせる──だが、同時に『様子見だけなら何もしない』とも理解させる必要がある。
「また来るぞ」
呟く船長。大山鷹はもう銃声程度では怯まない。
ここでは鷹を射程に捉えられない──由有は移動を決心した。昇降用の網を滑る様に下り、次の矢を番えるざくろの横を駆け抜けながら『運動強化』。船と筏との高低差を利用して船尾から一気に飛び移り。ざんぶと揺れる岩上を走り、筏と筏に渡された2本の移動用ロープを伝って中央へと向かう。
上昇を終えた鷹は再攻撃の為に改めて降下を開始した。今度は曲線を描きながらの降下。更に別の1羽も降下を始め…… こちらの目標はもう一つの弁当──最後尾の船の船首だ。
「この魔法で少しは頭を冷やしなさい」
黄金色のワンドを振り、眼前に発生せしめた球状の水を降下してくる鷹へと撃ち出すリーラ。アイもまたチャクラム──戦輪を取り出すと、指先でクルクル回した後に前方へと投射する。
回避の出来なかった鷹の頭に、まず高圧の水球が直撃した。突然の冷たさと衝撃に慌てて姿勢を立て直す鷹。その直後、接近する戦輪を目の当たりにして慌てて上空へと離脱する。
一方、筏方面の鷹の急降下攻撃はジャンクたちに襲い掛かった。それを盾で受け凌ぐストゥール。そのままクルリと回転して羽ばたきながら鉤爪で攻撃を仕掛けてくる鷹を盾でぶん殴り。すかさず2人して反撃の銃撃を叩き込む。
胴と翼に被弾した大山鷹はその痛撃に一声鳴くと、壊れた紙飛行機の様に宙を滑って川面へ落ちた。
あっ、と叫んで舷側に走るアイ。救助は、と訊ねるリーラにふるふると首を横に振る。
「遠すぎます。ここからじゃ拾い上げられません…… そして、水鳥ではない大山鷹は、水に落ちたら飛び上がれません……」
唇を噛み締めるアイ。……泣いちゃうかな、とリーラは思ったが、そんなことはなかった。スッと目を細め、無表情のまま戦輪を摘むアイ。そのまま躊躇うことなくそれを鷹へと投擲し、水面で暴れるその首を切り裂いて一思いに止めを刺す……
仲間に犠牲が出た事実を認識したのか── 上空で待機していた残りの大山鷹が一斉に降下を開始した。
大山鷹にとって、それは遊戯のようなものであったのかもしれない── だが、その瞬間、襲撃は彼等にとって命がけの『狩り』へと変わった。
ハンターたちも反撃する。なるべく殺したくはないが、それも人を傷つけようとするなら話は別だ。
降下してくる鷹へ向けて迎撃の投射を撃ちかけるハンターたち。射程に入る直前、突然、1羽がその翼を翻し。直後、横合いから降下して来た別の鷹がハンターたちの『隙』をついて弁当のおかずを掻っ攫う。岩の上にぶちまけられる弁当。さらに別の1羽が肉料理を引っ掴んで上昇していき…… 囮役となった最初の1羽もそれに続こうとして、横合いから飛び出して来た由有の体当たりに捕まった。普通、人に飛ぶ鳥を捕まえることなどできない。が、飛んで来るルートが──弁当へ飛んで来ると分かっていれば話は別だ。
由有は暴れる鷹を胸中に抱え込むと、床へと押さえつけながら『エレクトリックショック』で麻痺させた。
「確保~。捕まえたなら確保して~」
てとてとと筏へ渡りながら声を上げるリーラ。先にロープを渡ったアイは動かなくなった鷹へと駆け寄ると、麻袋で頭を覆った後、両足を縄で縛って拘束した。風切り羽も切ろうと刃を取り出しもしたが、それはリーラに止められた。『見せしめ』の為に暫し拘束こそするが、折を見て放つ、と彼女は言った。──勿論、人間は怖い生き物だと散々、思い知らせた後になるが。
●
捕まった鳥は先頭の船まで運ばれ、そこで縄に繋がれた。
電撃による麻痺が解けた後、威嚇の声を上げながら翼をばたつかせて暴れる鷹。上空へ退避した2羽は暫く船の上を回っていたが、やがてこの場を離れ、山の方へと飛び去っていく。
「……餌を取られてしまったな」
「ああ。予定通りにな」
その去っていく鷹を見上げて言う船長に、ジャンクは淡々と呟いた。どういうことだ、と訊ね返す船長にジャンクは無言で餌を──大山鷹たちが取っていった弁当の方だ──摘むと、それを捕まった鷹へと放ってやった。
それを咥え取った鷹が、カハッ! と吐き出し悶絶する。
「こんなこともあろうかと! あらかじめ奪われる用にまずい食べ物を用意していたんだよ! ざくろたちの世界の──リアルブルーの香辛料をこれでもかってまぶした唐揚げをね!」
「辛味を感じるのは味覚でなく痛覚らしいからな…… アレを巣に持ち帰って食べた連中もこれと同じような事になる。『人間の食べ物には危ないものがある』って思わせられりゃ御の字だ」
悶絶する鷹の前で、まともな方の肉団子を口に放って見せるジャンク。飛んでいく大山鷹を見やりながら、ざくろもまた笑って見せた。
「ざくろたちがずっと船に乗っていられるわけじゃないから…… 痛い目見た上に美味しい食べ物もないってなったら、また昔に戻るかな、って。頭の良い鳥らしいし……」
捕らえた鷹は、近くの床を棒で叩いたり銃撃で跳弾させたりして散々怖い目に遭わせた後、まだ縄張りに帰れる内に縄を解いて空へと放った。
「少しは頭冷えたかしら? 人の食べ物を奪おうとするとこういう目に遭うのよ~?」」
脱兎?の如く飛び去る鷹へ向かって水筒片手に言葉を送るリーラ。……こうやって地道に、気長にやっていくしかないんだろうな、と船長がしみじみ呟く。
依頼は終了した。が王都までまだ何日かは船旅は続く。
のんびりしようとしたハンターたちに、船長が告げた。
「ついでだから最後まで仕事を手伝ってもらおうか。……何かって? 決まってる。石材の荷揚げを、だよ」
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 7人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ジャンク(ka4072) 人間(クリムゾンウェスト)|53才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/03/16 06:57:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/11 21:33:50 |