ゲスト
(ka0000)
【不動】自由と因果と混迷と
マスター:剣崎宗二

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2015/03/16 09:00
- 完成日
- 2015/03/17 06:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「――満足したか? ディーン」
「あぁ、この任務も捨てたもんじゃねぇ。まだ体が熱くなってるぜ!!」
「そうか。ならさっさと戻って来い。おっさんもそんなに長く待ってられる訳じゃないからな」
「はいよ」
どこかへの通信を終えたらしきアレクサンドルが、明け方の空を見上げる。
元より、義理人情のために手を出したような物。準備も余りしておらず、それ故にハンターたちに一本、取られてしまった。
CAMは無事に戦線を突破し、前線での殲滅に参加したのだ。
聞けば、交戦した軍勢は、その火力とハンターたちの猛攻の前に潰走したようだが――
「このまま引き下がるのも――ねぇ」
考える。次の一手をどうするべきか。何も得られずに退くのも癪ではあるが、借りを一つ返したと考えればそれもまた『可』。だが――
「おっと、誰かやってきたかな?」
足音に気づき、アレクサンドルが顔を上げる。
『仕込み』はしてある。気づかれやすい場所で待つ以上、それは当然の行動だ。
後は、『何が来たか』に応じて発動すればいいだけだが――
●混迷の場
その頃。ハンターオフィスには、十三魔が一人、アレクサンドルの発見の連絡が伝わっていた。
「――どうしますか?」
ガルヴァンが、ハンターたちに問いかける。
とある集落の付近の墓地。墓石に腰掛けるように座っていた人影が、ハンターオフィスの手配書にあった人像と一致したと言うのだ。
発見されたのはアレクサンドルだけだが、彼の部下であるはずのディーンが、そちらに向かっていると言う情報もある。別段依頼者にはリクエストは無かったが、ナナミ河撃滅戦が完全に完了していない以上、アレクサンドルの干渉による悪影響の可能性を出来るだけ減らしたい、そんなハンターオフィスの思惑がそこにはあった。
かくして、集まったハンターたちに、全ては委ねられたのであった。
「あぁ、この任務も捨てたもんじゃねぇ。まだ体が熱くなってるぜ!!」
「そうか。ならさっさと戻って来い。おっさんもそんなに長く待ってられる訳じゃないからな」
「はいよ」
どこかへの通信を終えたらしきアレクサンドルが、明け方の空を見上げる。
元より、義理人情のために手を出したような物。準備も余りしておらず、それ故にハンターたちに一本、取られてしまった。
CAMは無事に戦線を突破し、前線での殲滅に参加したのだ。
聞けば、交戦した軍勢は、その火力とハンターたちの猛攻の前に潰走したようだが――
「このまま引き下がるのも――ねぇ」
考える。次の一手をどうするべきか。何も得られずに退くのも癪ではあるが、借りを一つ返したと考えればそれもまた『可』。だが――
「おっと、誰かやってきたかな?」
足音に気づき、アレクサンドルが顔を上げる。
『仕込み』はしてある。気づかれやすい場所で待つ以上、それは当然の行動だ。
後は、『何が来たか』に応じて発動すればいいだけだが――
●混迷の場
その頃。ハンターオフィスには、十三魔が一人、アレクサンドルの発見の連絡が伝わっていた。
「――どうしますか?」
ガルヴァンが、ハンターたちに問いかける。
とある集落の付近の墓地。墓石に腰掛けるように座っていた人影が、ハンターオフィスの手配書にあった人像と一致したと言うのだ。
発見されたのはアレクサンドルだけだが、彼の部下であるはずのディーンが、そちらに向かっていると言う情報もある。別段依頼者にはリクエストは無かったが、ナナミ河撃滅戦が完全に完了していない以上、アレクサンドルの干渉による悪影響の可能性を出来るだけ減らしたい、そんなハンターオフィスの思惑がそこにはあった。
かくして、集まったハンターたちに、全ては委ねられたのであった。
リプレイ本文
●話し合いの為に
「――という訳だが、『人間の敵』を討滅する為に、協力してもらえないだろうか」
そう、作戦開始のしばらく前に、天ヶ瀬 焔騎(ka4251)は、ガルヴァンに持ちかけた。
――そして今。
ガルヴァンを伴って、四人のハンターたちは、墓石の上に座るアレクサンドルと相対していた。
「やれやれ、この人数か。おっさんも随分と嘗められた物だねぇ」
にこやかに笑いながらも、隙を見せないように腕を組むアレクサンドルに対し、一歩前に出たのは、十色 エニア(ka0370)。
「あなたが……叔父様先生、ね? わたしたちは、戦いに来たわけじゃないから」
●トレード・オフ
「さて、先生……『仕込み』はしているんじゃない?」
にこやかに、彼は問いかける。
「ああ、鋭いね」
「立場が逆だったら、同じ事してると思わない?」
「まぁしているだろうね。四対一の状態で尚も相手が逃げない、となれば、それは何か、数の差を覆せる仕掛けか、または実力を用意している……と言う事だろうね。戦いに来たわけではないのなら、関係はないがね」
それは、彼の仕掛けが『数の有利を覆す物』――『Life to the Lifeless』である事を認めるのと同時に、エニアが言外に要求していた『仕掛けを解除する』と言う事に対し、『そちらの方が人数が多いから保険として必要。戦わないならば起動しない』と言う理由を以って拒否したと言う事でもある。
「貴方と、また会えた事を光栄に思います。……また、ゲームとやらはしないのですか?」
エニアの隣から話しかけたのは、ヴォルテール=アルカナ(ka2937)。相変わらず、敵であっても、その物腰は柔らかである。
「ああ、丁度おっさん、今はその事を考えていたよ。……って事は、今回はCAMを取り戻しに来たのかい?あいにくアレはもうおっさんの手元には――」
「いえ、今回はただの宣戦布告。やられっぱなしというのは性に合わないので…今度のゲームで勝ったら、その顔殴らせていただきます」
「ほう……?」
柔らかな物言いにも関わらず、その宣言に、アレクサンドルは興味を持ったかのように、ヴォルテールに視線を向ける。
「マフォジョやCAMは関係なく……俺の狙いは、ただそれのみ。しつこいもので。追わせていただきますよ?宜しくお願いしますね」
「ああ、届くのならばいくらでも殴らせてやるさ。『届くなら』、な」
お互い、笑みを浮かべているにも関わらず、ここまで『火花が散る』と言う言葉が似合う状況もあるまい。
「流石にわたしは先生にこの状態でまともにやりあうのは厳しいと思うからね。だから――」
エニアがアレクサンドルに持ちかけた交渉は、簡単に言えばこうだ。
ハンターたちは、逃げずに全力でディーンに挑む。若しもディーンが五体満足で帰ってこれなかったなら、アレクサンドルは今回の件について手を引く事。
「ディーンが若し私たちを倒せたなら大幅に強化されるから、悪い話じゃないと思うんだけどな」
「それは……ここに居る四人が、参戦しないって事かな?」
「え……?」
「そもそも、坊やは一つ、勘違いをしている。 ……ディーンの『血狂い』はそう長持ちするもんじゃない。でなけりゃ、前に大量の村人を惨殺した彼が相手に、あんたたちがあの作戦で、生きて帰れる可能性はなかっただろうね」
苦笑いするアレクサンドル。
「坊や。説得という物は、相手にとって『ベストと思えるような』解決策を提示して、初めて成立する。坊やたちも参戦するんだったら――」
その目つきが、少し変わる。
「若しもディーンの血狂いが永続したとして――おっさんがディーンと力を合わせてあんたらを撃退して、その後空き時間で近くの村でも襲った方が、楽かつ大量の力が得られるとは思わないかな?」
「……あんたが引かずに、敵対するつもりなら、こっちにも考えはある」
空気は既に一触即発。その中で、キール・スケルツォ(ka1798)が、アレクサンドルに接近し、小さい声で語りかける。
「墓場に仕掛けとくらぁ、あんたの考える事は『それ』か。なら、俺もまた死人を食い物にさせてもらってもいいんだが」
ピクリと、アレクサンドルの眉が動く。
「マフォジョの嬢ちゃんとテメェが写った写真、見させてもらったぜ。可愛かったよなぁ?物好きに話せばどうなるこったろぉなぁ?」
次の瞬間。
「Life to Lifeless……『Wake up and Destroy All』!!」
万力が如く力で、キールの首が掴まれるのと共に、墓場から次々と死体が起き上がり、一斉にハンターたちとガルヴァンに襲い掛かった。
●Rage Combat
――こと軍隊に於いては、人質による脅迫に屈しないというのは最早慣例になっている。何故ならば、一度屈せば、以降も延々と脅され続ける事が目に見えているからだ。
元々軍の関係者でもあったアレクサンドルには良くわかっていた。故に、彼の選択肢は――
「――ならば貴様をこの場で叩き潰すしかないな……!」
一斉に死者たちが、周囲の他のハンターを分断すると共に。アレクサンドルは逆手でトドメを刺すべく『爪』を構える。
ノーモーションからの強襲。行き成り近距離で『掴まれた』キールが逃げるには、もう遅い。
「ちっ、離しやがれ……!」
銃口をアレクサンドルに向けるキース。
「それがおっさんに効くと思うか?」
嗤うアレクサンドル。彼には、遠距離攻撃に特に有効な能力がある。
「ああ、だから本命は――こっちだぜ!」
銃床が、アレクサンドルの胸に直撃する。
「その程度か」
メスの『爪』で、衝撃が殺される。元々受けには適していない武器だ。行えた事すら、アレクサンドルの技量による物だろう。ノーダメージとは行くまい。
だが、それだけで十分。爪で引っ掛けるように強引にライフルを弾き飛ばし、突きで心臓を狙う。
「待ってたぜ!」
武器を飛ばされて空いた手。キールは強引に突き出されたメスを掴み、奪い取る。逆に、払うように、アレクサンドルの首を狙う。
「Life to the Lifeless!」
メスは、直接この堕落者の肌に触れていた。
メスは、無機物である。
――それは手を斬り、抜けて動き出し、一斉にキールの心臓に向かって飛翔する。
「はっ――」
突き刺さるメス。掴みのダメージも合わさり、キールは意識を手放しそうになっていた。
「殺させはしません……!」
殴りかかる死者たちに構わず、接近するヴォルテール。
全ての癒しの光をキールに注ぎ込み、強引に傷を癒合させてメスの進行を止める。
だが、メスが歪虚化した以上、それは持続的に肉を割きながら進むという事であり、ヴォルテールは死者たちの連撃に耐えながら常に癒しの光を注ぐ事を余儀なくされた。
「――邪魔だ」
アレクサンドルの直接攻撃がヴォルテールを直撃するのと、障害を突破したガルヴァンがメスを粉砕するのは、ほぼ同時であった。掛けられた加護も願いも、消耗しきってしまっているのだ。
死者たちの殲滅には成功した。だが、エニアの交渉内容からハンターたちの狙いを察知したアレクサンドルはディーンの方へと既に向かい、焔騎はその後を追った。エニアとガルヴァンは、瀕死の重傷を負ったキールとヴォルテールを、医療施設に運んでいた。
●Death to the Killer
「ヒャッハーハハハ!楽しいなぁ!!」
一方その頃。ディーンへの襲撃を行った班も、予定通り、彼と遭遇していた。
ディーンはハンターたちの接近を知らず、ハンターたちは有る程度隠密の力を有しているディーンの探索を行わなかったため、鉢合わせのような遭遇になってしまったが。
接近する影。
「本来ならば、正面切ってなど愚策に過ぎんが――とは言え、俺自身、搦め手と言うのは不得手でな。これもまぁ、試練として挑ませて貰おうか」
炎と雷を纏い、銃を構え。弥勒 明影(ka0189)が、殺人鬼――ディーン・キルの中距離へと、接近する。
と同時に、
「さてと、かの有名な『凶殺悪鬼』とこうして刃を交えれる機会が来るとは思いませんでしたが……」
構えるのは長の振動刀と、短の振動ナイフ。
振動の騒音によって、ディーンの放つ騒音を相殺しながら、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)はディーンへと肉薄する。
「へっ、早速来たか……!」
襲い掛かるディーン。実力を測るためか。その剣筋は真っ直ぐ。
「ならば……そこですっ!」
双刀を、ディーンの刃の上に滑らせ、そのまま彼に向かわせる。襲い来た刃は自身の刃の振動、そして圧力で僅かにずらし。交差するような、一閃。
「っ!?」
僅かな驚愕の後、ディーンの体にはX字の傷が刻まれる。
「いいねぇ。そう言う事か…!」
刃が、手甲に変化する。これなら刃を滑らせる『武器渡り』は使えない、という事か。
「ですが、その程度で!」
直接ディーンの胴を狙う、振動の双刃。だがディーンは強引に刃の柄に近い部分を手甲を以って『掴む』事で、停止させる。刃が振動している以上、ダメージはあるだろう。だが目の前の狂人は、それを気にするような性格ではない。
「オラよ!」
引っ張るようにして距離を近づけてからの強烈な頭突き。意識を刈り取られそうになる。
「今援護するのじゃ!」
比較的に後衛に位置していたヴィルマ・ネーベル(ka2549)が、風の刃を練りだす。
(「Blessed be the Lord my strength――」)
誰の教えだったか。そこに込められた願いは、必殺。
集中に集中を重ね、濃度を増した、風の刃。
「存分に切り刻んでやるのじゃよ。我の友の思いの乗った魔法攻撃、とくと味わうがいい」
「へっ、味わうさ。――こいつも一緒だがな!!」
頭突きによって怯んだユーリを、ディーンは射線上へと、押し込む。
――ヴィルマは、できるだけ『味方が借刀殺に使われ無い様なタイミングを見て』攻撃を放とうとしていた。故にディーンの注意がユーリに向いた瞬間を狙った。だが、それはディーンの高まった危険察知能力により、探知されていた。
借刀殺自体、『敵の攻撃を見てから発動する』リアクションスキルなのだ。それが確実に使われないタイミングとは、どのような物があるのだろうか?そもそも、果たして攻撃前に、確認できるのだろうか?
風の刃は、ユーリとディーンを同時に切り刻む。借刀殺の性能上、受けた傷は、盾にされたユーリの方が深い。
追撃をためらうハンターたち。だが、それはディーンが攻撃を止めるという事ではない。拳打でユーリを吹き飛ばし、ディーンは次の目標――攻撃を行ったヴィルマへと向かう。
チュイン。
弾がディーンの足を打ち抜く。
「おっと、そうはさせないよ」
木の陰から狙撃を行ったのは、壬生 義明(ka3397)。狙撃手はその場に留まらず、直ぐに次のポイントへと移動する。
尚もディーンは負傷にも構わずヴィルマに向かって前進するが、僅かに速力は落ちる。その隙に道を阻んだのは、刃を抜いた明影。
無数の剣閃が、ディーンの行く手を阻む。
「めんどくせぇ……!」
手甲で刃を受け流す。キン、という連続した音と共に、手甲が光を放ち始めている。
「もう一発、ってね」
別のポイントから、放たれる銃弾。
「待ってたぜぇ!」
その機を逃さず、すかさずディーンは、明影を射線上に引きずり込む。
「っ」
弾丸は、明影の左肩を打ち抜き、ディーンにも着弾する。即座にディーンが、光り輝く手甲を振り上げる。
「食らいやがれぇぇ!」
ドン。
地面を叩くと共に巻き上がる炎が、明影を木に叩き付ける。防具はマント一枚。銃弾と爆撃の連打には、少し荷が重かった。
だが、明影が離れたと言う事は、即ち――
「今度こそ外さぬぞ!」
集中を重ねた風の刃が、再度、四方からディーンに襲い掛かった。首に刻まれる傷は少なからず。そこからは血が体力と共に流れ出していた。
借刀殺はダメージを完全には防がない。ディーンの体力も、削れてきてはいる。
更にダメ押しすべく、ヴィルマが魔力を練った瞬間。その背後に、メスが突き刺さった。
●Final Destination
「危なかったのじゃ……!」
誰かの祈りが通じたのか、ヴィルマは致命傷は負っていない。アレクサンドルの奇襲に対して追撃しようとしたディーンを止めたのは、しかし同様に追いついてきた焔騎。
「俺達に負けるのが「怖くない」なら、ボスの前で、その力を示してみせるんだな……」
振るう槍は、武器を刃に戻し、引っ込めたディーンの胴に突き刺さる。
「引っ込めるその一瞬、隙だらけだ」
「んな事、百も承知だぜ」
両の拳を突き出し、焔騎の両肩に当てる。
そのまま袖から伸ばされる刃が、焔騎の肩を貫通する。
「ならばこのまま打ち砕いてくれよう……俺は貴様に引導をくれてやる志士、天ヶ瀬だ――!」
両腕を封じられ、最早武器は扱えない。だがそれでも意地で放たれる、無数の影弾。一発目は見事にディーンを打ち抜くが、
「――『Stop』」
二発目は、空中で停止する。
「おいおい、おっさんを忘れては困るねぇ?」
アレクサンドルが、手をかざしていた。
そのまま、両手を広げるように。ディーンは焔騎を斬った。
「…参ったねぇ」
最後に残った義明が、倒れる。ディーンの手にあるのは、銃。弾丸を空中に設置した黒刃に『跳弾』させ、尚も隠れ続ける義明を打ち抜いたのだった。
「このまま斬るか――」
「やめておけディーン。お前の状態も良くない。ここで最後に噛まれちゃ面倒だ」
●The Verdict
アレクサンドルは、空を見上げる。
マフォジョ族長に、アレを伝えた以上。聖地の安全は守られるだろう。そもそも族長がそのような事を許すはずはない。アレは単なる挑発であるのは、今ならば分かる。
「……コケにしてくれちゃって。おっさんも、ちょっと本気を出さなきゃいけないみたいだね」
今回の一件は、普段のらりくらりとしていた彼の逆鱗に触れたといっていい。
――動き出したのだ。十三魔が一人が、真に。
一方、別のどこかで、ガルヴァン・マフォジョもまた、空を見上げる。
(「――その男がさっき話した内容を教えよう。――精々、ハンターたちの『交渉材料』に使われないよう、気をつけるのだな」)
ガルヴァンには、最後にアレクサンドルが放った、捨て台詞が気になっていた。
歪虚に組する者が放った言葉だ。信憑性は低い。だが、キールが彼に聞こえないよう何かを話していたのも、また事実。
(「警戒するに越した事はありませぬな」)
それがマフォジョの教えに完全にはそぐわぬ事は分かっていても、ガルヴァンは、リスクを犯すわけには行かなかった。
聖域の警備を強化し、己の許可なしでは何者たりとも出入りできぬよう禁じた。
――例えそれが、ハンターたちだったとしても。
「――という訳だが、『人間の敵』を討滅する為に、協力してもらえないだろうか」
そう、作戦開始のしばらく前に、天ヶ瀬 焔騎(ka4251)は、ガルヴァンに持ちかけた。
――そして今。
ガルヴァンを伴って、四人のハンターたちは、墓石の上に座るアレクサンドルと相対していた。
「やれやれ、この人数か。おっさんも随分と嘗められた物だねぇ」
にこやかに笑いながらも、隙を見せないように腕を組むアレクサンドルに対し、一歩前に出たのは、十色 エニア(ka0370)。
「あなたが……叔父様先生、ね? わたしたちは、戦いに来たわけじゃないから」
●トレード・オフ
「さて、先生……『仕込み』はしているんじゃない?」
にこやかに、彼は問いかける。
「ああ、鋭いね」
「立場が逆だったら、同じ事してると思わない?」
「まぁしているだろうね。四対一の状態で尚も相手が逃げない、となれば、それは何か、数の差を覆せる仕掛けか、または実力を用意している……と言う事だろうね。戦いに来たわけではないのなら、関係はないがね」
それは、彼の仕掛けが『数の有利を覆す物』――『Life to the Lifeless』である事を認めるのと同時に、エニアが言外に要求していた『仕掛けを解除する』と言う事に対し、『そちらの方が人数が多いから保険として必要。戦わないならば起動しない』と言う理由を以って拒否したと言う事でもある。
「貴方と、また会えた事を光栄に思います。……また、ゲームとやらはしないのですか?」
エニアの隣から話しかけたのは、ヴォルテール=アルカナ(ka2937)。相変わらず、敵であっても、その物腰は柔らかである。
「ああ、丁度おっさん、今はその事を考えていたよ。……って事は、今回はCAMを取り戻しに来たのかい?あいにくアレはもうおっさんの手元には――」
「いえ、今回はただの宣戦布告。やられっぱなしというのは性に合わないので…今度のゲームで勝ったら、その顔殴らせていただきます」
「ほう……?」
柔らかな物言いにも関わらず、その宣言に、アレクサンドルは興味を持ったかのように、ヴォルテールに視線を向ける。
「マフォジョやCAMは関係なく……俺の狙いは、ただそれのみ。しつこいもので。追わせていただきますよ?宜しくお願いしますね」
「ああ、届くのならばいくらでも殴らせてやるさ。『届くなら』、な」
お互い、笑みを浮かべているにも関わらず、ここまで『火花が散る』と言う言葉が似合う状況もあるまい。
「流石にわたしは先生にこの状態でまともにやりあうのは厳しいと思うからね。だから――」
エニアがアレクサンドルに持ちかけた交渉は、簡単に言えばこうだ。
ハンターたちは、逃げずに全力でディーンに挑む。若しもディーンが五体満足で帰ってこれなかったなら、アレクサンドルは今回の件について手を引く事。
「ディーンが若し私たちを倒せたなら大幅に強化されるから、悪い話じゃないと思うんだけどな」
「それは……ここに居る四人が、参戦しないって事かな?」
「え……?」
「そもそも、坊やは一つ、勘違いをしている。 ……ディーンの『血狂い』はそう長持ちするもんじゃない。でなけりゃ、前に大量の村人を惨殺した彼が相手に、あんたたちがあの作戦で、生きて帰れる可能性はなかっただろうね」
苦笑いするアレクサンドル。
「坊や。説得という物は、相手にとって『ベストと思えるような』解決策を提示して、初めて成立する。坊やたちも参戦するんだったら――」
その目つきが、少し変わる。
「若しもディーンの血狂いが永続したとして――おっさんがディーンと力を合わせてあんたらを撃退して、その後空き時間で近くの村でも襲った方が、楽かつ大量の力が得られるとは思わないかな?」
「……あんたが引かずに、敵対するつもりなら、こっちにも考えはある」
空気は既に一触即発。その中で、キール・スケルツォ(ka1798)が、アレクサンドルに接近し、小さい声で語りかける。
「墓場に仕掛けとくらぁ、あんたの考える事は『それ』か。なら、俺もまた死人を食い物にさせてもらってもいいんだが」
ピクリと、アレクサンドルの眉が動く。
「マフォジョの嬢ちゃんとテメェが写った写真、見させてもらったぜ。可愛かったよなぁ?物好きに話せばどうなるこったろぉなぁ?」
次の瞬間。
「Life to Lifeless……『Wake up and Destroy All』!!」
万力が如く力で、キールの首が掴まれるのと共に、墓場から次々と死体が起き上がり、一斉にハンターたちとガルヴァンに襲い掛かった。
●Rage Combat
――こと軍隊に於いては、人質による脅迫に屈しないというのは最早慣例になっている。何故ならば、一度屈せば、以降も延々と脅され続ける事が目に見えているからだ。
元々軍の関係者でもあったアレクサンドルには良くわかっていた。故に、彼の選択肢は――
「――ならば貴様をこの場で叩き潰すしかないな……!」
一斉に死者たちが、周囲の他のハンターを分断すると共に。アレクサンドルは逆手でトドメを刺すべく『爪』を構える。
ノーモーションからの強襲。行き成り近距離で『掴まれた』キールが逃げるには、もう遅い。
「ちっ、離しやがれ……!」
銃口をアレクサンドルに向けるキース。
「それがおっさんに効くと思うか?」
嗤うアレクサンドル。彼には、遠距離攻撃に特に有効な能力がある。
「ああ、だから本命は――こっちだぜ!」
銃床が、アレクサンドルの胸に直撃する。
「その程度か」
メスの『爪』で、衝撃が殺される。元々受けには適していない武器だ。行えた事すら、アレクサンドルの技量による物だろう。ノーダメージとは行くまい。
だが、それだけで十分。爪で引っ掛けるように強引にライフルを弾き飛ばし、突きで心臓を狙う。
「待ってたぜ!」
武器を飛ばされて空いた手。キールは強引に突き出されたメスを掴み、奪い取る。逆に、払うように、アレクサンドルの首を狙う。
「Life to the Lifeless!」
メスは、直接この堕落者の肌に触れていた。
メスは、無機物である。
――それは手を斬り、抜けて動き出し、一斉にキールの心臓に向かって飛翔する。
「はっ――」
突き刺さるメス。掴みのダメージも合わさり、キールは意識を手放しそうになっていた。
「殺させはしません……!」
殴りかかる死者たちに構わず、接近するヴォルテール。
全ての癒しの光をキールに注ぎ込み、強引に傷を癒合させてメスの進行を止める。
だが、メスが歪虚化した以上、それは持続的に肉を割きながら進むという事であり、ヴォルテールは死者たちの連撃に耐えながら常に癒しの光を注ぐ事を余儀なくされた。
「――邪魔だ」
アレクサンドルの直接攻撃がヴォルテールを直撃するのと、障害を突破したガルヴァンがメスを粉砕するのは、ほぼ同時であった。掛けられた加護も願いも、消耗しきってしまっているのだ。
死者たちの殲滅には成功した。だが、エニアの交渉内容からハンターたちの狙いを察知したアレクサンドルはディーンの方へと既に向かい、焔騎はその後を追った。エニアとガルヴァンは、瀕死の重傷を負ったキールとヴォルテールを、医療施設に運んでいた。
●Death to the Killer
「ヒャッハーハハハ!楽しいなぁ!!」
一方その頃。ディーンへの襲撃を行った班も、予定通り、彼と遭遇していた。
ディーンはハンターたちの接近を知らず、ハンターたちは有る程度隠密の力を有しているディーンの探索を行わなかったため、鉢合わせのような遭遇になってしまったが。
接近する影。
「本来ならば、正面切ってなど愚策に過ぎんが――とは言え、俺自身、搦め手と言うのは不得手でな。これもまぁ、試練として挑ませて貰おうか」
炎と雷を纏い、銃を構え。弥勒 明影(ka0189)が、殺人鬼――ディーン・キルの中距離へと、接近する。
と同時に、
「さてと、かの有名な『凶殺悪鬼』とこうして刃を交えれる機会が来るとは思いませんでしたが……」
構えるのは長の振動刀と、短の振動ナイフ。
振動の騒音によって、ディーンの放つ騒音を相殺しながら、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)はディーンへと肉薄する。
「へっ、早速来たか……!」
襲い掛かるディーン。実力を測るためか。その剣筋は真っ直ぐ。
「ならば……そこですっ!」
双刀を、ディーンの刃の上に滑らせ、そのまま彼に向かわせる。襲い来た刃は自身の刃の振動、そして圧力で僅かにずらし。交差するような、一閃。
「っ!?」
僅かな驚愕の後、ディーンの体にはX字の傷が刻まれる。
「いいねぇ。そう言う事か…!」
刃が、手甲に変化する。これなら刃を滑らせる『武器渡り』は使えない、という事か。
「ですが、その程度で!」
直接ディーンの胴を狙う、振動の双刃。だがディーンは強引に刃の柄に近い部分を手甲を以って『掴む』事で、停止させる。刃が振動している以上、ダメージはあるだろう。だが目の前の狂人は、それを気にするような性格ではない。
「オラよ!」
引っ張るようにして距離を近づけてからの強烈な頭突き。意識を刈り取られそうになる。
「今援護するのじゃ!」
比較的に後衛に位置していたヴィルマ・ネーベル(ka2549)が、風の刃を練りだす。
(「Blessed be the Lord my strength――」)
誰の教えだったか。そこに込められた願いは、必殺。
集中に集中を重ね、濃度を増した、風の刃。
「存分に切り刻んでやるのじゃよ。我の友の思いの乗った魔法攻撃、とくと味わうがいい」
「へっ、味わうさ。――こいつも一緒だがな!!」
頭突きによって怯んだユーリを、ディーンは射線上へと、押し込む。
――ヴィルマは、できるだけ『味方が借刀殺に使われ無い様なタイミングを見て』攻撃を放とうとしていた。故にディーンの注意がユーリに向いた瞬間を狙った。だが、それはディーンの高まった危険察知能力により、探知されていた。
借刀殺自体、『敵の攻撃を見てから発動する』リアクションスキルなのだ。それが確実に使われないタイミングとは、どのような物があるのだろうか?そもそも、果たして攻撃前に、確認できるのだろうか?
風の刃は、ユーリとディーンを同時に切り刻む。借刀殺の性能上、受けた傷は、盾にされたユーリの方が深い。
追撃をためらうハンターたち。だが、それはディーンが攻撃を止めるという事ではない。拳打でユーリを吹き飛ばし、ディーンは次の目標――攻撃を行ったヴィルマへと向かう。
チュイン。
弾がディーンの足を打ち抜く。
「おっと、そうはさせないよ」
木の陰から狙撃を行ったのは、壬生 義明(ka3397)。狙撃手はその場に留まらず、直ぐに次のポイントへと移動する。
尚もディーンは負傷にも構わずヴィルマに向かって前進するが、僅かに速力は落ちる。その隙に道を阻んだのは、刃を抜いた明影。
無数の剣閃が、ディーンの行く手を阻む。
「めんどくせぇ……!」
手甲で刃を受け流す。キン、という連続した音と共に、手甲が光を放ち始めている。
「もう一発、ってね」
別のポイントから、放たれる銃弾。
「待ってたぜぇ!」
その機を逃さず、すかさずディーンは、明影を射線上に引きずり込む。
「っ」
弾丸は、明影の左肩を打ち抜き、ディーンにも着弾する。即座にディーンが、光り輝く手甲を振り上げる。
「食らいやがれぇぇ!」
ドン。
地面を叩くと共に巻き上がる炎が、明影を木に叩き付ける。防具はマント一枚。銃弾と爆撃の連打には、少し荷が重かった。
だが、明影が離れたと言う事は、即ち――
「今度こそ外さぬぞ!」
集中を重ねた風の刃が、再度、四方からディーンに襲い掛かった。首に刻まれる傷は少なからず。そこからは血が体力と共に流れ出していた。
借刀殺はダメージを完全には防がない。ディーンの体力も、削れてきてはいる。
更にダメ押しすべく、ヴィルマが魔力を練った瞬間。その背後に、メスが突き刺さった。
●Final Destination
「危なかったのじゃ……!」
誰かの祈りが通じたのか、ヴィルマは致命傷は負っていない。アレクサンドルの奇襲に対して追撃しようとしたディーンを止めたのは、しかし同様に追いついてきた焔騎。
「俺達に負けるのが「怖くない」なら、ボスの前で、その力を示してみせるんだな……」
振るう槍は、武器を刃に戻し、引っ込めたディーンの胴に突き刺さる。
「引っ込めるその一瞬、隙だらけだ」
「んな事、百も承知だぜ」
両の拳を突き出し、焔騎の両肩に当てる。
そのまま袖から伸ばされる刃が、焔騎の肩を貫通する。
「ならばこのまま打ち砕いてくれよう……俺は貴様に引導をくれてやる志士、天ヶ瀬だ――!」
両腕を封じられ、最早武器は扱えない。だがそれでも意地で放たれる、無数の影弾。一発目は見事にディーンを打ち抜くが、
「――『Stop』」
二発目は、空中で停止する。
「おいおい、おっさんを忘れては困るねぇ?」
アレクサンドルが、手をかざしていた。
そのまま、両手を広げるように。ディーンは焔騎を斬った。
「…参ったねぇ」
最後に残った義明が、倒れる。ディーンの手にあるのは、銃。弾丸を空中に設置した黒刃に『跳弾』させ、尚も隠れ続ける義明を打ち抜いたのだった。
「このまま斬るか――」
「やめておけディーン。お前の状態も良くない。ここで最後に噛まれちゃ面倒だ」
●The Verdict
アレクサンドルは、空を見上げる。
マフォジョ族長に、アレを伝えた以上。聖地の安全は守られるだろう。そもそも族長がそのような事を許すはずはない。アレは単なる挑発であるのは、今ならば分かる。
「……コケにしてくれちゃって。おっさんも、ちょっと本気を出さなきゃいけないみたいだね」
今回の一件は、普段のらりくらりとしていた彼の逆鱗に触れたといっていい。
――動き出したのだ。十三魔が一人が、真に。
一方、別のどこかで、ガルヴァン・マフォジョもまた、空を見上げる。
(「――その男がさっき話した内容を教えよう。――精々、ハンターたちの『交渉材料』に使われないよう、気をつけるのだな」)
ガルヴァンには、最後にアレクサンドルが放った、捨て台詞が気になっていた。
歪虚に組する者が放った言葉だ。信憑性は低い。だが、キールが彼に聞こえないよう何かを話していたのも、また事実。
(「警戒するに越した事はありませぬな」)
それがマフォジョの教えに完全にはそぐわぬ事は分かっていても、ガルヴァンは、リスクを犯すわけには行かなかった。
聖域の警備を強化し、己の許可なしでは何者たりとも出入りできぬよう禁じた。
――例えそれが、ハンターたちだったとしても。
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【相談卓】暗躍阻止? 十色・T・ エニア(ka0370) 人間(リアルブルー)|15才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/03/16 08:19:30 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/13 00:34:04 |