ゲスト
(ka0000)
怪我なく終えたい毛玉戦
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/17 12:00
- 完成日
- 2015/03/24 21:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「まるで髪の毛の塊だな……」
「そ、そうですね」
王国内のとある街で、自警団の隊長は厳しい顔をしていた。
その後ろで控える自警団員達は、隊長の言葉に震え声で答える。
この街の近郊に、化け物が出たという一報を受けてやってきていた。
街道の脇に広がる草原に、確かに化け物は存在していた。
全身を黒い体毛で覆い隠し、わさわさと動きまわる。
触手のように、毛を動かしながら移動しているようだった。
「これは我々では対処できまい。専門家を呼ばなくてはな」
「そ、そうですね」
隊員は隊長の意見一つ一つに答えるのも、一苦労といった声色である。
訝しげな隊長の視線に、表情を引き締める。
「どうしたというのだ、皆?」
隊長が問いかけるが、全員が首を振り、異口同音に「なんでもありません」と告げる。
街に危険が迫っているのに、緊張感がないと隊長は嘆息した。
毛玉な雑魔を見つめる隊長のてっぺん、いわゆる頭はしっかりと毛があった。
ただし、あからさまにカツラである。
「報告してくれたものに、怪我がなくてよかった」
「怪我なかったですからね」
「毛はあるだろう?」
というやりとりを街で行ったのも、隊員たちの声色がおかしい要因の1つであった。
ぶっちゃければ、笑いをこらえていた。
それはもう、必死に笑いをこらえているのだ。
少し強い風が吹けば、隊長の髪の毛は雑魔のごとく揺れ動くのだから。
「あいつの能力を少しでも知りたいところだが……危険すぎるか」
「報告してくれた行商人によれば、毛針を飛ばしていたようにも見えたとのことです」
「毛を……飛ばすのか」
しんみりとした口調で隊長が告げるものだから、余計に隊員たちは息が詰まる。
一刻も早く、この危機から脱するべく、隊員たちは手を尽くす。
「ですから、近づくだけでも危険と言えます。ここは、ハンターたちに速やかに依頼を出しましょう」
「そうだな」
うんうんと隊長が頷くたびに、カツラが揺れる。
よく落ちないものだと誰しも感心するが、決して表情に出さないよう務めていた。
「戻るとしよう」
「そうですね」
名残惜しそうに雑魔を眺め、隊長は隊員たちを引き連れる。
その視線を知ってか知らずか、雑魔たちは風に体毛をゆらゆらと揺らしていた。
ある隊員は、はたと気づく。
その髪の毛の内部に……なにもないことを……。
●
「正気足りてますか?」
等と申すハンターオフィスのスタッフがいた。
一つ咳払いして、今回の依頼内容をまとめると、
「街の外に名状しがたい毛玉が現れたので討伐してこいとのことです」
身も蓋もなかった。
おそらくは、歪虚化にあたって何らかの変質が起きたのだろうという。
スライムがいるのだから、こうしたものがいてもおかしくはない。
「空洞ということですが、おそらく本体が毛自身なので倒せるはずです」
自警団の隊長のような方は辛い依頼かもしれない、と平気で言うこのスタッフである。
「さて、この依頼、受けてくれますか?」
「まるで髪の毛の塊だな……」
「そ、そうですね」
王国内のとある街で、自警団の隊長は厳しい顔をしていた。
その後ろで控える自警団員達は、隊長の言葉に震え声で答える。
この街の近郊に、化け物が出たという一報を受けてやってきていた。
街道の脇に広がる草原に、確かに化け物は存在していた。
全身を黒い体毛で覆い隠し、わさわさと動きまわる。
触手のように、毛を動かしながら移動しているようだった。
「これは我々では対処できまい。専門家を呼ばなくてはな」
「そ、そうですね」
隊員は隊長の意見一つ一つに答えるのも、一苦労といった声色である。
訝しげな隊長の視線に、表情を引き締める。
「どうしたというのだ、皆?」
隊長が問いかけるが、全員が首を振り、異口同音に「なんでもありません」と告げる。
街に危険が迫っているのに、緊張感がないと隊長は嘆息した。
毛玉な雑魔を見つめる隊長のてっぺん、いわゆる頭はしっかりと毛があった。
ただし、あからさまにカツラである。
「報告してくれたものに、怪我がなくてよかった」
「怪我なかったですからね」
「毛はあるだろう?」
というやりとりを街で行ったのも、隊員たちの声色がおかしい要因の1つであった。
ぶっちゃければ、笑いをこらえていた。
それはもう、必死に笑いをこらえているのだ。
少し強い風が吹けば、隊長の髪の毛は雑魔のごとく揺れ動くのだから。
「あいつの能力を少しでも知りたいところだが……危険すぎるか」
「報告してくれた行商人によれば、毛針を飛ばしていたようにも見えたとのことです」
「毛を……飛ばすのか」
しんみりとした口調で隊長が告げるものだから、余計に隊員たちは息が詰まる。
一刻も早く、この危機から脱するべく、隊員たちは手を尽くす。
「ですから、近づくだけでも危険と言えます。ここは、ハンターたちに速やかに依頼を出しましょう」
「そうだな」
うんうんと隊長が頷くたびに、カツラが揺れる。
よく落ちないものだと誰しも感心するが、決して表情に出さないよう務めていた。
「戻るとしよう」
「そうですね」
名残惜しそうに雑魔を眺め、隊長は隊員たちを引き連れる。
その視線を知ってか知らずか、雑魔たちは風に体毛をゆらゆらと揺らしていた。
ある隊員は、はたと気づく。
その髪の毛の内部に……なにもないことを……。
●
「正気足りてますか?」
等と申すハンターオフィスのスタッフがいた。
一つ咳払いして、今回の依頼内容をまとめると、
「街の外に名状しがたい毛玉が現れたので討伐してこいとのことです」
身も蓋もなかった。
おそらくは、歪虚化にあたって何らかの変質が起きたのだろうという。
スライムがいるのだから、こうしたものがいてもおかしくはない。
「空洞ということですが、おそらく本体が毛自身なので倒せるはずです」
自警団の隊長のような方は辛い依頼かもしれない、と平気で言うこのスタッフである。
「さて、この依頼、受けてくれますか?」
リプレイ本文
●
依頼を受けたハンターたちは、街道の上で屯していた。
「あれが、例の化け物だ。見るからに髪の毛だろう?」
案内役を自ら買って出てくれた自警団長が告げる。
指差す先に、髪の毛の塊が五つ、群れをなしてるのが見えた。
「確かに……空気の精霊の気配を感じる」
その空気とはどの意味なのか。
ハニーラヴァ・ベア(ka3793)が毛玉を望みながらいう。
「なるほど、カツラの雑魔ね」
ばっさりと言い切ったのは、ティラ・ンダイハ(ka2699)である。
後ろにいた紅緒(ka4255)が、思わず団長の顔色を伺う。
「なにかね?」
「なんでもないわ」
思ったより胆力はあるのか、顔色は変わっていない。
団長は残るつもりらしく、じっと毛玉を捉えていた。
どうしたものかと紅緒が思っていると、
「とりあえず、おまえは危ないから離れててくれよ?」
狙ったのか、天然なのか。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が忠告してくれた。
「では、報告を待つとしよう」
しかし、完全に離れるわけでもない。
いつでも場を離れられるようにしつつ、見守る体勢をとっていた。
「忍法髪芝居かよ」
ライトノベルで見聞きした技名を思わず呟くのは、雪村 練(ka3808)である。
お布団を身にまとう奇っ怪な人物である。
敵を望み見るため、にゅーっと二本足で立ち上がった。
「あたし氏が二本足で立っている光景……珍百景登録なるか。だめ?」
「何処見て言ってるの?」
虚空に語る練を、天竜寺 舞(ka0377)が一瞥する。
すぐに視線は毛玉へと戻し、ちょっと気持ち悪いかもとつぶやく。
「どこのB級ホラーだっての」
夢に出てきそうな物体に、舞は毒づいた。
「たしかに珍妙な雑魔もいたものじゃな」
興味深けに呟くのは、クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)だ。
「魔術的な観点から見れば非常に興味があるが……ふむ」
思案顔でクラリッサは毛玉を眺める。魔女を名乗っている以上、追究してみたくなる。
「毛玉っていうか……ケセランパサランみたいなヤツなんなぁ?」
「なるほどのう。そういう考え方もあるのう」
シュルヴィ・フォグ(ka4289)の感想に、クラリッサは感心する。
不思議ちゃんやね、と告げるシュルヴィも毛玉の実体が気になるようだ。
「迷惑かけへんように頑張るんよ。よろしゅーね」
シュルヴィは弓矢を取り出して、クラリッサたちに告げる。
それを受けて、それぞれ武器を構えていく。
「いつまでも観察しているわけには、いかないしな。行くぜ!」
「それじゃあ、カツラパーティ……じゃなくてカツラの雑魔討伐開始よ!」
ボルディアとティラが口々に、発破をかける。
その声――特にティラの言葉にクラリッサや紅緒たちは少し離れた位置にいる団長を見やるのだった。
●
「――明時に匂い散らせよ水芙蓉。深泥に開け花が如くに」
紅緒がすらりと言霊を口にする。
古代日本の女傑を見に宿らせ、狼牙棒を構える。水芙蓉とは睡蓮のことだが、美女の異名のことでもあった。
「建速女の足も……っと」
動物霊の力を借り、素早く立ち回れるようにして前へ行く。
「わりと固まってるみたいね」
舞が遠くに見える毛玉たちを、しっかりと捉えて告げる。
どうやら、それほど距離は開いていないらしい。
それならばと、クラリッサが眠気を誘う霧を放つ。
「ふむ、効いておるようじゃな」
あからさまに動きが止まった毛玉も見える。
中には接近するティラや舞たちへ向かおうとする毛玉も居るが、数は減った。
クラリッサ自身も射程を見極めつつ、移動する。
「せーの!」と掛け声を上げて、缶ビールを舞は投げた。
べたつきから動きが鈍くなることを期待したが、吸収するように毛玉からぬるみが消える。
「ありゃ」
どうやら、あまり効き目はないらしい。ならば、ばっさりと切り落とすだけだ。
あるいは燃やすかとクラリッサが、炎の精霊力を舞の剣へと宿す。
眠りの霧に耐えたのは、二体。そこへ、ハニーラヴァとティラも接敵する。
「これくらい艶々としたカツラなら、ボルちゃんも似合うかもね」
「歪虚を被る趣味はねーよ!」
間近で見ながらティラが叩く軽口に、ボルディアは答える。
その間にも、毛玉から放たれた触手をティラは素早い足取りで避けていた。
「毛針っ!?」
不意に紅緒が声を上げた。避けたところに硬化した毛が針のように、刺さっていた。
同じくハニーラヴァも毛針を避けて、
「気高き、疾きウサギの精霊、その真の速さを貸し与えたまえ!」
うさぎの精霊を足に宿す。
続けて、槍の射程内に毛玉を収めると、
「我ら部族親しみし戦いの精霊よ、今こそ戦いの時、力を貸し与えたまえ!」
鼓舞するように鳴子を打ち鳴らし、闘いに心を踊らす。
距離を保ちつつ、毛玉を睨む。
「それじゃ、一発、撃ち抜くとするかー」
もぞもぞと蠢きながら、練が一条の光を放つ。
まっすぐに放たれた光は、線上にいた毛玉をジュッと焼ききる。
「よう見えるわー。狙っていくでー」
野生の精霊力を宿した瞳で、毛玉を捉える。
練の攻撃に合わせるように、はなたれた矢は毛玉の中心をすり抜けていった。
が、はらりと毛が舞った所を見ればダメージはあるらしい。
「シュルヴィにも炎を与えてやるかのう」
「クラリッサ姉さん、おおきにー」
眠気がとれてきたのか、毛玉たちの動きが再び活性化する。
うごめく触手ならぬ、触毛を避けつつティラが準備動作なしに斬りかかる。
スパッと切り払った剣は、炎の力を宿していた。
「焦げ臭いわね」
焦げた髪の匂いが、辺りに漂い、紅緒は鼻をひくつかせる。
毛針を避けながら、後ろへ向かおうとする毛玉を益良女の腕を放つ。
狼牙棒が唸り、毛玉を突き飛ばす。
「偉大なる祖先、ランニングエルク。その若き頃の力を我が武器に宿らせたまえ!」
その隙を狙い、ハニーラヴァが槍を思いっきり振り切る。
ばっさりと切り落とされた毛が、風に舞う。
「危なっ……くっ」
ティラの声が聞こえたと思ったら、上空から毛針が降ってきた。
防ぐ手が間に合わず、ガリっと身を削っていく。
「いつつ」
一歩引いて戦場を見渡す。
舞が一匹目の毛玉に、とどめを刺したところだった。
塊が解け、さらさらと崩れていくのがわかる。
そこから距離をとって、紅緒とハニーラヴァが長物を構えていた。
さらに後方では、ボルディア、練。並ぶようにして、クラリッサとシュルヴィが攻撃のタイミングを見計らう。
そして、声を発したティラは舞とハニーラヴァの間で毛に絡め取られていた。
舞が向かってこようとするのを、目で止めた。
「もう、ムダ毛はさっさと消えなさい」
ティラは手を引いて、毛をピンと張ってナイフを振るう。
力なく緩んだ毛を振り落として、ティラはハニーラヴァに視線を送る。
「大丈夫? 間に合わなくて、ごめんね」
「まだまだいける。もう一度、攻めこむよ」
祖霊……戦士としてならした玄祖父の霊を武器に込めて振り下ろす。
だが、毛玉はぬめりとした名状しがたい動きですり抜ける。
「当たらねぇ。標準が ズレ てんのかー」
別の毛玉を狙っていた練も、声を上げる。
練は前衛の死角やフリーになっている毛玉を狙っていた。
「囲っているのだから、逃げ場はないわ。落ち着いて倒すわよ」
シュルヴィと同じく、紅緒もはじめはケセランパサランかと思えた。
しかし、近づけば近づくほど気持ちが悪い。
ケセランパサランに見えたのは、気のせいだったと思えた。
「初陣だもの、首級を挙げてみせるわよ」
狼牙棒を握り直し、目の前の毛玉に睨みを利かせるのだった。
●
戦列を整えるべく、クラリッサは再び眠りを誘う霧を放つ。
「さて、半々といったところかのう」
さらに炎を仲間に焚き付け、自らも炎の矢を放つ。
もちろん、狙うのは眠りに落ちていない毛玉だ。
「しかし……」
炎を受けて、一瞬で燃え上がる。
当たった箇所が焦げ付き、失敗したパーマのように縮れていた。
「毛玉は大人しゅうコロコロしとけばええんよ?」
シュルヴィがそういいながら、放った矢も炎の力を借りて毛玉を燻す。
チリヂリに焦がされ、散り散りに切り払われ、もろく崩れる毛玉……。
「しかし……」と再びクラリッサは呟く。
「いくら雑魔とはいえ、こう見ているだけでも自分の精神面にちょっと来るものがあるのう」
髪は女の命とは、よくいうものだ。
ただの毛玉とはいえ、艶の良い黒々とした長い毛である。
どうしても意識してしまうが、気にしても詮無きことでもある。
「なんか変な形なっとうよ!」
シュルヴィの声にクラリッサが声を上げる。
精霊の力を宿しなおしたシュルヴィの目には、膨れ上がり、触手のように毛を伸ばす毛玉の姿があった。
ティラを捕縛する直前に見せたのと、同じ動きだ。
「またくるのじゃ!」
クラリッサが前衛に忠告を発する。
「こういうホラーは、本当に勘弁よっと」
跳躍を混じえて、舞は触手をかわす。
そのまま赤い光のたなびく刃を振り上げ、唐竹割りに毛玉を切断する。
間髪入れず、銃声が響く。
「ああ、間違っても背中から撃ったりはしねぇから、安心して斬りかかってろよ」
銃声の主はボルディアだった。射程内まで飛び込み、引き金を引く。
毛玉はボルディアの銃弾から逃れるように、蠢くがその先にティラが回りこんでいた。
「カツラの化け物から、エクステの化け物まで抜けちゃったみたいね」
肉薄したティラがそんな軽口を叩く。
確かに、焦げ落ちた毛は崩れ、幾重の斬撃ですっかりカットされていた。
「最後は何か残るのかしらね、ボルちゃん?」
「俺に聞くなって」
ノーモーションで繰り出した刃が、雑魔に引導を渡す。
毛玉はもろくも崩れ去り、
「跡形も残らなかったわね」
とティラに言わしめたのだった。
ティラが団長に聞こえてはいけないことを声に出していた頃。
紅緒とハニーラヴァも、担当する毛玉を追い込んでいた。
なお、残り二匹はまだ風に揺られている。
二人と同じ相手へ、練もタクトを向ける。
「あ、裏側の撮影はご遠慮くださ―い」
相変わらず、どこに向かって言っているのか……。
お布団の中から声を出し、練は機導砲を放つ。
「んー、すっぽ抜けていくなー」
攻撃を避けられた練は、そう愚痴る。
ダウナーな響のある声は、風の音にちょうどよく消されていた。
「危ないわよ。もう少し距離を……」
ハニーラヴァに警句を発しながら、紅緒は毛針を避ける。
近づこうとする毛玉に歩調を合わせるように、狼牙棒を振りかざす。
「天拳槌を食らいなさい!」
強力な一撃を食らい、毛玉が大きく揺らめく。
重ねるようにハニーラヴァも槍を振り下ろす。
かたや部族の祖霊を宿すハニーラヴァ、そして、悪勢の棟梁を名乗り一族を背負う紅緒。
二人の攻撃が交差し、毛玉の勢いが衰える。
「往生際が、悪いわ!」
トドメの一撃を放ったのは、紅緒だった。
祖霊の力を宿し放たれる天拳槌は、毛玉を突き崩し、崩壊させた。
「ぎゃー」
息をつかぬ間に、練の叫び声が聞こえてきた。
紅緒とハニーラヴァが振り向けば、眠りから覚めた毛玉が布団を追いかけていた。
何を書いているのかわからないと思うが、そうなる。
駆け寄る二人の目の前で、練が機導剣を放つ。
「ふふん、あたし様を抜けると思ったのか」
わざと選んでいるとしか思えない言葉選びで、偉そうにいう。
「射撃は苦手だが、機導サーベルはとくいちゅうのとくいさ」
「だったら、何で声を上げたのよ」と紅緒が視線を送る。
距離を取るように後ずさりながら、練は「まー引き立て役は必要だしな」と虚空に告げるのだった。
「そろそろ終わりじゃろう」
様子を眺めていたクラリッサが炎の矢を放ちながら呟く。
数で勝り、当初の予定通り二体の毛玉は囲われていた。
ハンターの攻撃をかわし切ることはできず、毛玉は文字通り刈られるのであった。
●
「おう、毛玉の雑魔はきっちり退治しといたぜ!」
「カツラの雑魔じゃないかしら」
団長のところへ戻り、報告するボルディアにティラが口を挟む。
その視線はちらちらと団長の頭に向いていた。
「どっちでもいいだろ。毛の一本一本に至るまで全て、一つ残らず根絶やしにしておいた」
本当に気持ち悪い毛玉だった、俺の尻尾とは大違いだと軽口を叩く余裕も見せる。
一方で団長はどこか、余裕がなさそうな顔をしていた。
「お疲れちゃんやね」
団長から少し離れて、シュルヴィは皆に声をかけていた。
紅緒を始め、数人は団長への報告にハラハラしていた。
「え、いや、戦闘中のセリフとか聞こえてるわけねえし。ははは」
「だから、誰に言っているのよ」
どこかに報告するような練に、紅緒が視線を送る。
「ま、何じゃ……デリケートな問題じゃからのう」
特別何も言うことはない、とクラリッサはしらを切る。
舞は気落ちしているように見える団長に、
「そういえばビールのリンスって実は髪の毛にいいんだって。健康な髪の毛を作ってくれるらしいよ」
さりげなく、教えるのだった。
シュルヴィがそこへ近づいてくる。
「お土産なんよ? ご利益ありそやろー」
とたまたま残っていた毛の束を一つ手渡す。
もう一つ持っているものは、
「みんなにみせんねん」と楽しげに語る。
「そんなの喜ぶヤツ……ってどうした、団長?」
ボルディアが訝しげにしていると、唐突に団長が笑い声をあげた。
あらら、どうしたのかしら、とティラもきょとんとする。
「団長、ありのままの男性も魅力的じゃぞ?」
慌ててクラリッサがフォローに回るが、「大丈夫だ」と笑い声を収める。
本当に大丈夫なのかしら、と紅緒が視線を送る中、団長は去っていった。
「その後団長がどうなったのかは、別のお話?」
くわっと練がそんなことを呟くのだった。
依頼を受けたハンターたちは、街道の上で屯していた。
「あれが、例の化け物だ。見るからに髪の毛だろう?」
案内役を自ら買って出てくれた自警団長が告げる。
指差す先に、髪の毛の塊が五つ、群れをなしてるのが見えた。
「確かに……空気の精霊の気配を感じる」
その空気とはどの意味なのか。
ハニーラヴァ・ベア(ka3793)が毛玉を望みながらいう。
「なるほど、カツラの雑魔ね」
ばっさりと言い切ったのは、ティラ・ンダイハ(ka2699)である。
後ろにいた紅緒(ka4255)が、思わず団長の顔色を伺う。
「なにかね?」
「なんでもないわ」
思ったより胆力はあるのか、顔色は変わっていない。
団長は残るつもりらしく、じっと毛玉を捉えていた。
どうしたものかと紅緒が思っていると、
「とりあえず、おまえは危ないから離れててくれよ?」
狙ったのか、天然なのか。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が忠告してくれた。
「では、報告を待つとしよう」
しかし、完全に離れるわけでもない。
いつでも場を離れられるようにしつつ、見守る体勢をとっていた。
「忍法髪芝居かよ」
ライトノベルで見聞きした技名を思わず呟くのは、雪村 練(ka3808)である。
お布団を身にまとう奇っ怪な人物である。
敵を望み見るため、にゅーっと二本足で立ち上がった。
「あたし氏が二本足で立っている光景……珍百景登録なるか。だめ?」
「何処見て言ってるの?」
虚空に語る練を、天竜寺 舞(ka0377)が一瞥する。
すぐに視線は毛玉へと戻し、ちょっと気持ち悪いかもとつぶやく。
「どこのB級ホラーだっての」
夢に出てきそうな物体に、舞は毒づいた。
「たしかに珍妙な雑魔もいたものじゃな」
興味深けに呟くのは、クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)だ。
「魔術的な観点から見れば非常に興味があるが……ふむ」
思案顔でクラリッサは毛玉を眺める。魔女を名乗っている以上、追究してみたくなる。
「毛玉っていうか……ケセランパサランみたいなヤツなんなぁ?」
「なるほどのう。そういう考え方もあるのう」
シュルヴィ・フォグ(ka4289)の感想に、クラリッサは感心する。
不思議ちゃんやね、と告げるシュルヴィも毛玉の実体が気になるようだ。
「迷惑かけへんように頑張るんよ。よろしゅーね」
シュルヴィは弓矢を取り出して、クラリッサたちに告げる。
それを受けて、それぞれ武器を構えていく。
「いつまでも観察しているわけには、いかないしな。行くぜ!」
「それじゃあ、カツラパーティ……じゃなくてカツラの雑魔討伐開始よ!」
ボルディアとティラが口々に、発破をかける。
その声――特にティラの言葉にクラリッサや紅緒たちは少し離れた位置にいる団長を見やるのだった。
●
「――明時に匂い散らせよ水芙蓉。深泥に開け花が如くに」
紅緒がすらりと言霊を口にする。
古代日本の女傑を見に宿らせ、狼牙棒を構える。水芙蓉とは睡蓮のことだが、美女の異名のことでもあった。
「建速女の足も……っと」
動物霊の力を借り、素早く立ち回れるようにして前へ行く。
「わりと固まってるみたいね」
舞が遠くに見える毛玉たちを、しっかりと捉えて告げる。
どうやら、それほど距離は開いていないらしい。
それならばと、クラリッサが眠気を誘う霧を放つ。
「ふむ、効いておるようじゃな」
あからさまに動きが止まった毛玉も見える。
中には接近するティラや舞たちへ向かおうとする毛玉も居るが、数は減った。
クラリッサ自身も射程を見極めつつ、移動する。
「せーの!」と掛け声を上げて、缶ビールを舞は投げた。
べたつきから動きが鈍くなることを期待したが、吸収するように毛玉からぬるみが消える。
「ありゃ」
どうやら、あまり効き目はないらしい。ならば、ばっさりと切り落とすだけだ。
あるいは燃やすかとクラリッサが、炎の精霊力を舞の剣へと宿す。
眠りの霧に耐えたのは、二体。そこへ、ハニーラヴァとティラも接敵する。
「これくらい艶々としたカツラなら、ボルちゃんも似合うかもね」
「歪虚を被る趣味はねーよ!」
間近で見ながらティラが叩く軽口に、ボルディアは答える。
その間にも、毛玉から放たれた触手をティラは素早い足取りで避けていた。
「毛針っ!?」
不意に紅緒が声を上げた。避けたところに硬化した毛が針のように、刺さっていた。
同じくハニーラヴァも毛針を避けて、
「気高き、疾きウサギの精霊、その真の速さを貸し与えたまえ!」
うさぎの精霊を足に宿す。
続けて、槍の射程内に毛玉を収めると、
「我ら部族親しみし戦いの精霊よ、今こそ戦いの時、力を貸し与えたまえ!」
鼓舞するように鳴子を打ち鳴らし、闘いに心を踊らす。
距離を保ちつつ、毛玉を睨む。
「それじゃ、一発、撃ち抜くとするかー」
もぞもぞと蠢きながら、練が一条の光を放つ。
まっすぐに放たれた光は、線上にいた毛玉をジュッと焼ききる。
「よう見えるわー。狙っていくでー」
野生の精霊力を宿した瞳で、毛玉を捉える。
練の攻撃に合わせるように、はなたれた矢は毛玉の中心をすり抜けていった。
が、はらりと毛が舞った所を見ればダメージはあるらしい。
「シュルヴィにも炎を与えてやるかのう」
「クラリッサ姉さん、おおきにー」
眠気がとれてきたのか、毛玉たちの動きが再び活性化する。
うごめく触手ならぬ、触毛を避けつつティラが準備動作なしに斬りかかる。
スパッと切り払った剣は、炎の力を宿していた。
「焦げ臭いわね」
焦げた髪の匂いが、辺りに漂い、紅緒は鼻をひくつかせる。
毛針を避けながら、後ろへ向かおうとする毛玉を益良女の腕を放つ。
狼牙棒が唸り、毛玉を突き飛ばす。
「偉大なる祖先、ランニングエルク。その若き頃の力を我が武器に宿らせたまえ!」
その隙を狙い、ハニーラヴァが槍を思いっきり振り切る。
ばっさりと切り落とされた毛が、風に舞う。
「危なっ……くっ」
ティラの声が聞こえたと思ったら、上空から毛針が降ってきた。
防ぐ手が間に合わず、ガリっと身を削っていく。
「いつつ」
一歩引いて戦場を見渡す。
舞が一匹目の毛玉に、とどめを刺したところだった。
塊が解け、さらさらと崩れていくのがわかる。
そこから距離をとって、紅緒とハニーラヴァが長物を構えていた。
さらに後方では、ボルディア、練。並ぶようにして、クラリッサとシュルヴィが攻撃のタイミングを見計らう。
そして、声を発したティラは舞とハニーラヴァの間で毛に絡め取られていた。
舞が向かってこようとするのを、目で止めた。
「もう、ムダ毛はさっさと消えなさい」
ティラは手を引いて、毛をピンと張ってナイフを振るう。
力なく緩んだ毛を振り落として、ティラはハニーラヴァに視線を送る。
「大丈夫? 間に合わなくて、ごめんね」
「まだまだいける。もう一度、攻めこむよ」
祖霊……戦士としてならした玄祖父の霊を武器に込めて振り下ろす。
だが、毛玉はぬめりとした名状しがたい動きですり抜ける。
「当たらねぇ。標準が ズレ てんのかー」
別の毛玉を狙っていた練も、声を上げる。
練は前衛の死角やフリーになっている毛玉を狙っていた。
「囲っているのだから、逃げ場はないわ。落ち着いて倒すわよ」
シュルヴィと同じく、紅緒もはじめはケセランパサランかと思えた。
しかし、近づけば近づくほど気持ちが悪い。
ケセランパサランに見えたのは、気のせいだったと思えた。
「初陣だもの、首級を挙げてみせるわよ」
狼牙棒を握り直し、目の前の毛玉に睨みを利かせるのだった。
●
戦列を整えるべく、クラリッサは再び眠りを誘う霧を放つ。
「さて、半々といったところかのう」
さらに炎を仲間に焚き付け、自らも炎の矢を放つ。
もちろん、狙うのは眠りに落ちていない毛玉だ。
「しかし……」
炎を受けて、一瞬で燃え上がる。
当たった箇所が焦げ付き、失敗したパーマのように縮れていた。
「毛玉は大人しゅうコロコロしとけばええんよ?」
シュルヴィがそういいながら、放った矢も炎の力を借りて毛玉を燻す。
チリヂリに焦がされ、散り散りに切り払われ、もろく崩れる毛玉……。
「しかし……」と再びクラリッサは呟く。
「いくら雑魔とはいえ、こう見ているだけでも自分の精神面にちょっと来るものがあるのう」
髪は女の命とは、よくいうものだ。
ただの毛玉とはいえ、艶の良い黒々とした長い毛である。
どうしても意識してしまうが、気にしても詮無きことでもある。
「なんか変な形なっとうよ!」
シュルヴィの声にクラリッサが声を上げる。
精霊の力を宿しなおしたシュルヴィの目には、膨れ上がり、触手のように毛を伸ばす毛玉の姿があった。
ティラを捕縛する直前に見せたのと、同じ動きだ。
「またくるのじゃ!」
クラリッサが前衛に忠告を発する。
「こういうホラーは、本当に勘弁よっと」
跳躍を混じえて、舞は触手をかわす。
そのまま赤い光のたなびく刃を振り上げ、唐竹割りに毛玉を切断する。
間髪入れず、銃声が響く。
「ああ、間違っても背中から撃ったりはしねぇから、安心して斬りかかってろよ」
銃声の主はボルディアだった。射程内まで飛び込み、引き金を引く。
毛玉はボルディアの銃弾から逃れるように、蠢くがその先にティラが回りこんでいた。
「カツラの化け物から、エクステの化け物まで抜けちゃったみたいね」
肉薄したティラがそんな軽口を叩く。
確かに、焦げ落ちた毛は崩れ、幾重の斬撃ですっかりカットされていた。
「最後は何か残るのかしらね、ボルちゃん?」
「俺に聞くなって」
ノーモーションで繰り出した刃が、雑魔に引導を渡す。
毛玉はもろくも崩れ去り、
「跡形も残らなかったわね」
とティラに言わしめたのだった。
ティラが団長に聞こえてはいけないことを声に出していた頃。
紅緒とハニーラヴァも、担当する毛玉を追い込んでいた。
なお、残り二匹はまだ風に揺られている。
二人と同じ相手へ、練もタクトを向ける。
「あ、裏側の撮影はご遠慮くださ―い」
相変わらず、どこに向かって言っているのか……。
お布団の中から声を出し、練は機導砲を放つ。
「んー、すっぽ抜けていくなー」
攻撃を避けられた練は、そう愚痴る。
ダウナーな響のある声は、風の音にちょうどよく消されていた。
「危ないわよ。もう少し距離を……」
ハニーラヴァに警句を発しながら、紅緒は毛針を避ける。
近づこうとする毛玉に歩調を合わせるように、狼牙棒を振りかざす。
「天拳槌を食らいなさい!」
強力な一撃を食らい、毛玉が大きく揺らめく。
重ねるようにハニーラヴァも槍を振り下ろす。
かたや部族の祖霊を宿すハニーラヴァ、そして、悪勢の棟梁を名乗り一族を背負う紅緒。
二人の攻撃が交差し、毛玉の勢いが衰える。
「往生際が、悪いわ!」
トドメの一撃を放ったのは、紅緒だった。
祖霊の力を宿し放たれる天拳槌は、毛玉を突き崩し、崩壊させた。
「ぎゃー」
息をつかぬ間に、練の叫び声が聞こえてきた。
紅緒とハニーラヴァが振り向けば、眠りから覚めた毛玉が布団を追いかけていた。
何を書いているのかわからないと思うが、そうなる。
駆け寄る二人の目の前で、練が機導剣を放つ。
「ふふん、あたし様を抜けると思ったのか」
わざと選んでいるとしか思えない言葉選びで、偉そうにいう。
「射撃は苦手だが、機導サーベルはとくいちゅうのとくいさ」
「だったら、何で声を上げたのよ」と紅緒が視線を送る。
距離を取るように後ずさりながら、練は「まー引き立て役は必要だしな」と虚空に告げるのだった。
「そろそろ終わりじゃろう」
様子を眺めていたクラリッサが炎の矢を放ちながら呟く。
数で勝り、当初の予定通り二体の毛玉は囲われていた。
ハンターの攻撃をかわし切ることはできず、毛玉は文字通り刈られるのであった。
●
「おう、毛玉の雑魔はきっちり退治しといたぜ!」
「カツラの雑魔じゃないかしら」
団長のところへ戻り、報告するボルディアにティラが口を挟む。
その視線はちらちらと団長の頭に向いていた。
「どっちでもいいだろ。毛の一本一本に至るまで全て、一つ残らず根絶やしにしておいた」
本当に気持ち悪い毛玉だった、俺の尻尾とは大違いだと軽口を叩く余裕も見せる。
一方で団長はどこか、余裕がなさそうな顔をしていた。
「お疲れちゃんやね」
団長から少し離れて、シュルヴィは皆に声をかけていた。
紅緒を始め、数人は団長への報告にハラハラしていた。
「え、いや、戦闘中のセリフとか聞こえてるわけねえし。ははは」
「だから、誰に言っているのよ」
どこかに報告するような練に、紅緒が視線を送る。
「ま、何じゃ……デリケートな問題じゃからのう」
特別何も言うことはない、とクラリッサはしらを切る。
舞は気落ちしているように見える団長に、
「そういえばビールのリンスって実は髪の毛にいいんだって。健康な髪の毛を作ってくれるらしいよ」
さりげなく、教えるのだった。
シュルヴィがそこへ近づいてくる。
「お土産なんよ? ご利益ありそやろー」
とたまたま残っていた毛の束を一つ手渡す。
もう一つ持っているものは、
「みんなにみせんねん」と楽しげに語る。
「そんなの喜ぶヤツ……ってどうした、団長?」
ボルディアが訝しげにしていると、唐突に団長が笑い声をあげた。
あらら、どうしたのかしら、とティラもきょとんとする。
「団長、ありのままの男性も魅力的じゃぞ?」
慌ててクラリッサがフォローに回るが、「大丈夫だ」と笑い声を収める。
本当に大丈夫なのかしら、と紅緒が視線を送る中、団長は去っていった。
「その後団長がどうなったのかは、別のお話?」
くわっと練がそんなことを呟くのだった。
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相談卓 クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659) 人間(リアルブルー)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/03/17 01:11:26 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/13 23:35:10 |