ゲスト
(ka0000)
帝国公認アイドル文化研究交流会、開催っ!
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/01 19:00
- 完成日
- 2014/07/05 04:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●部隊発足! おめでとう!
ゾンネンシュトラール帝国第一師団、兵営。
磨き抜かれた石造りの廊下を、足早に一人の男が進む。
ひるがえる軍服は彼が軍人であることを表し、胸元の徽章は彼がその中でも兵長の地位にあることを表す。軍人にしては細身の体、けれど背負った魔導銃の使い込まれぶりと手入れの良さが、歴戦の猛者であると物語る。銃の腕前一つで成り上がった、という評価は、帝国においては侮蔑ではなく褒め言葉だ。
しかし、今彼の手にあるのは、魔導銃ではなく丸めて持った一枚の紙。
一つの扉の前で、男は足を止めた。一瞬の躊躇も見せず、扉を勢い良く開く。部屋の中には机が並び、思い思いに机に向かっていた者達が勢い良く振り向いた。ほとんどが、軍人のサポートを任される文官達である。
「クレーネウス兵長、もしかして……」
「ああ!」
クレーネウス兵長と呼ばれた男は、大きく頷いて手に持っていた紙をばしりと広げて見せた。
大きく書かれた『承認』の文字が、一同の目に入りどよめきを産む。
「帝国歌舞戦闘部隊、通称アイドル部隊! 陛下の承認をいただきこれより正式発足とする!」
「わあああああああああああああああああ!!」
歓声が弾け、部屋の中の全員が手を叩きあい、喜びをあらわにする。
「これで、クレーネウス兵長も立派な部隊長ですね!」
「ああ、長かった……長い戦いの日々だった……しかしこれで! 俺の理想の! アイドルを! プロデュースできる!」
再び歓声。思わず感涙を拭うクレーネウス。
まだ少年の面影を残した一際若い文官が、笑顔で口を開く。
「ところで兵長。アイドルって、何ですか?」
――全員の、時が止まった。
●皇帝と側近の日常的バトル
そして数日後、皇帝陛下の執務室にて。
「アイドル文化研究交流会ィ?」
第一師団長にして皇帝の右腕であるオズワルド(kz0027)が眉をひそめる隣で、ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)はしごく満足げであった。
「うむ。先日承認された第一師団の帝国歌舞戦闘部隊からの申請だな。仕事の速い奴はいいものだ」
「そこだけは同感だ。なぁ陛下」
ぱしぱしと溜まった書類の山を叩くオズワルド。ヴィルヘルミナの手はさっきから申請書類を眺めて止まりっぱなしだ。
「ふむ、それではさっさと仕事をしよう。さて承認」
「おいこら! 第一師団のイベントを第一師団長に無断で承認するな!」
「君が第一“師団長”なら私は皇帝だ。“騎士皇”、すなわち一番偉い」
「承認したらこのイベントに仕事サボって遊びに行くだろうが」
微笑を浮かべて返事をしない皇帝。
睨み付けるオズワルド。
「しかし、だ。これは一挙両得というものではないかなオズワルド」
「あぁ?」
表情を険しくしながらも、ならば言え、と言いたげに促すオズワルドに、ヴィルヘルミナは指を立ててみせる。
「まず1つ。せっかく発足した部隊を遊ばせておくのはいかにももったいない。戦場で兵士達を鼓舞し、歌と踊りによって楽しませ、戦意を高揚させるというこの部隊の目的を果たすためには、いかにしてそれを為すか研究するというこのイベントは必要不可欠だ」
「……筋は通ってるな」
渋面を崩さぬまま頷くオズワルドに、ヴィルヘルミナは頷いてから2本目の指を立ててみせる。
「次に、これは帝都の民に対してもいい娯楽になる。何でも歌や踊り、それに演劇など『あいどる』の活動に含まれそうなことなら何でもやっていいそうだし、様々な地域からやってきたハンター達の舞台を見られる機会とあれば、いい気晴らしになるはずだ。好評ならば定例化してもいいしな」
「……なるほどなァ」
表情をやや緩めて、考え込むオズワルド。やり遂げた笑みを浮かべるヴィルヘルミナ。
やがて、ふっと息を吐いて、オズワルドが肩をすくめる。
「承認してもいいが、遊びに行くんじゃねぇぞ」
ヴィルヘルミナは、それはそれは麗しい笑みを浮かべて頷いた。
「ああ、もちろん。『遊びには』いかないさ」
●そして、ハンターズソサエティにて。
ハンターズソサエティに、可愛らしく歌い踊る女の子が描かれたポスターが貼られたのは、その翌日のことである。
「帝国公認アイドル文化研究交流会!
帝都バルトアンデルスの中央広場にて、是非ともアイドル文化を披露してほしい!
老若男女、ジャンル問わず!
娯楽に植えた帝都民と、帝国第一師団歌舞戦闘部隊が君を待っている!
※今回のイベントは、帝国歌舞戦闘部隊によるアイドル文化の研究・調査を目的としています」
なんだか主目的がおまけのように書かれている気もするが。
「歌舞音曲に自信があったり、この辺りの知識に詳しい方ならば、オススメかもしれませんね。出演料も出るそうですよ」
ハンターズソサエティの受付のお姉さんは、そう言ってにっこり笑ってから。
「……ところで、アイドルって何でしょうね?」
きょとん、と首を傾げるのだった。
●???
帝国第一師団の兵営にも、同じポスターが貼られていた。
きらめく瞳に可愛らしいポーズ、大きな女の子の絵の前に、通りかかった少女が足を止める。
「……アイドル文化研究交流会?」
ふわりとした炎色の髪と、大きな緑の瞳が印象的な少女だった。
左右の腰に挿した二振りの剣。軍服に身を包んではいるが、まだ地位を得ていない、訓練兵だ。
「ふぅん……良くわからないけれど、歌舞ですから歌や踊りの催し物なのでしょうね。帝国にしては、文化的と言えますかしら」
不遜に呟いてこくりと首を傾げた少女は、ひらりと身を翻す。
「お休みの日ですし、行ってみようかしら……ああでも、まずは訓練ですわね。次は……」
忙しげな足音が、石造りの廊下に響いた。
ゾンネンシュトラール帝国第一師団、兵営。
磨き抜かれた石造りの廊下を、足早に一人の男が進む。
ひるがえる軍服は彼が軍人であることを表し、胸元の徽章は彼がその中でも兵長の地位にあることを表す。軍人にしては細身の体、けれど背負った魔導銃の使い込まれぶりと手入れの良さが、歴戦の猛者であると物語る。銃の腕前一つで成り上がった、という評価は、帝国においては侮蔑ではなく褒め言葉だ。
しかし、今彼の手にあるのは、魔導銃ではなく丸めて持った一枚の紙。
一つの扉の前で、男は足を止めた。一瞬の躊躇も見せず、扉を勢い良く開く。部屋の中には机が並び、思い思いに机に向かっていた者達が勢い良く振り向いた。ほとんどが、軍人のサポートを任される文官達である。
「クレーネウス兵長、もしかして……」
「ああ!」
クレーネウス兵長と呼ばれた男は、大きく頷いて手に持っていた紙をばしりと広げて見せた。
大きく書かれた『承認』の文字が、一同の目に入りどよめきを産む。
「帝国歌舞戦闘部隊、通称アイドル部隊! 陛下の承認をいただきこれより正式発足とする!」
「わあああああああああああああああああ!!」
歓声が弾け、部屋の中の全員が手を叩きあい、喜びをあらわにする。
「これで、クレーネウス兵長も立派な部隊長ですね!」
「ああ、長かった……長い戦いの日々だった……しかしこれで! 俺の理想の! アイドルを! プロデュースできる!」
再び歓声。思わず感涙を拭うクレーネウス。
まだ少年の面影を残した一際若い文官が、笑顔で口を開く。
「ところで兵長。アイドルって、何ですか?」
――全員の、時が止まった。
●皇帝と側近の日常的バトル
そして数日後、皇帝陛下の執務室にて。
「アイドル文化研究交流会ィ?」
第一師団長にして皇帝の右腕であるオズワルド(kz0027)が眉をひそめる隣で、ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)はしごく満足げであった。
「うむ。先日承認された第一師団の帝国歌舞戦闘部隊からの申請だな。仕事の速い奴はいいものだ」
「そこだけは同感だ。なぁ陛下」
ぱしぱしと溜まった書類の山を叩くオズワルド。ヴィルヘルミナの手はさっきから申請書類を眺めて止まりっぱなしだ。
「ふむ、それではさっさと仕事をしよう。さて承認」
「おいこら! 第一師団のイベントを第一師団長に無断で承認するな!」
「君が第一“師団長”なら私は皇帝だ。“騎士皇”、すなわち一番偉い」
「承認したらこのイベントに仕事サボって遊びに行くだろうが」
微笑を浮かべて返事をしない皇帝。
睨み付けるオズワルド。
「しかし、だ。これは一挙両得というものではないかなオズワルド」
「あぁ?」
表情を険しくしながらも、ならば言え、と言いたげに促すオズワルドに、ヴィルヘルミナは指を立ててみせる。
「まず1つ。せっかく発足した部隊を遊ばせておくのはいかにももったいない。戦場で兵士達を鼓舞し、歌と踊りによって楽しませ、戦意を高揚させるというこの部隊の目的を果たすためには、いかにしてそれを為すか研究するというこのイベントは必要不可欠だ」
「……筋は通ってるな」
渋面を崩さぬまま頷くオズワルドに、ヴィルヘルミナは頷いてから2本目の指を立ててみせる。
「次に、これは帝都の民に対してもいい娯楽になる。何でも歌や踊り、それに演劇など『あいどる』の活動に含まれそうなことなら何でもやっていいそうだし、様々な地域からやってきたハンター達の舞台を見られる機会とあれば、いい気晴らしになるはずだ。好評ならば定例化してもいいしな」
「……なるほどなァ」
表情をやや緩めて、考え込むオズワルド。やり遂げた笑みを浮かべるヴィルヘルミナ。
やがて、ふっと息を吐いて、オズワルドが肩をすくめる。
「承認してもいいが、遊びに行くんじゃねぇぞ」
ヴィルヘルミナは、それはそれは麗しい笑みを浮かべて頷いた。
「ああ、もちろん。『遊びには』いかないさ」
●そして、ハンターズソサエティにて。
ハンターズソサエティに、可愛らしく歌い踊る女の子が描かれたポスターが貼られたのは、その翌日のことである。
「帝国公認アイドル文化研究交流会!
帝都バルトアンデルスの中央広場にて、是非ともアイドル文化を披露してほしい!
老若男女、ジャンル問わず!
娯楽に植えた帝都民と、帝国第一師団歌舞戦闘部隊が君を待っている!
※今回のイベントは、帝国歌舞戦闘部隊によるアイドル文化の研究・調査を目的としています」
なんだか主目的がおまけのように書かれている気もするが。
「歌舞音曲に自信があったり、この辺りの知識に詳しい方ならば、オススメかもしれませんね。出演料も出るそうですよ」
ハンターズソサエティの受付のお姉さんは、そう言ってにっこり笑ってから。
「……ところで、アイドルって何でしょうね?」
きょとん、と首を傾げるのだった。
●???
帝国第一師団の兵営にも、同じポスターが貼られていた。
きらめく瞳に可愛らしいポーズ、大きな女の子の絵の前に、通りかかった少女が足を止める。
「……アイドル文化研究交流会?」
ふわりとした炎色の髪と、大きな緑の瞳が印象的な少女だった。
左右の腰に挿した二振りの剣。軍服に身を包んではいるが、まだ地位を得ていない、訓練兵だ。
「ふぅん……良くわからないけれど、歌舞ですから歌や踊りの催し物なのでしょうね。帝国にしては、文化的と言えますかしら」
不遜に呟いてこくりと首を傾げた少女は、ひらりと身を翻す。
「お休みの日ですし、行ってみようかしら……ああでも、まずは訓練ですわね。次は……」
忙しげな足音が、石造りの廊下に響いた。
リプレイ本文
帝国公認アイドル文化研究交流会。
これは――もしかすると、いい機会なのかもしれない。
そう思ったアナスタシア・B・ボードレール(ka0125)は、同じ依頼を請けた時音 ざくろ(ka1250)に、アイドルについての手ほどきを頼むことにした。
(アナスタシアは女の子だし、少女アイドルの事だけでいいよね)
そう思ってざくろは、レクチャーを開始する。ざくろの今回の目的は、皆にアイドル文化と元気を贈ること。これはもちろんその一環だ。
「元気に歌って踊って、見る人を楽しませるお仕事、と。分かりました」
一緒にステージに昇る約束をして、アナスタシアが衣装の用意を請け負って。
それが当日、自分の首を絞めることにざくろはまだ気付いていない。
「皆さんが輝かしく歌い踊るために準備を進めなければなりませんわ」
そう言ってイルミナル(ka0649)は必死に準備を進めたが、それは難航を極めていた。
地球のステージで一般的な演出はほぼ科学力の産物。魔導が技術の多くを占める以上、火薬やドライアイスなど、演出の必須品の用意は至難だ。
「こ、これは何とか準備出来たんですが……」
ようやく、当日の朝のことだった。
頼んでいたものが、大きな木箱で大量に運び込まれてくる。中に入っているのは、やや大きめの赤と青のバトンだ。
模擬戦に使っていると聞いて、軽く振ってみる。見た目ほど重くはなく、サイリウム代わりに振っても危なくはないだろう。
「ありがとうございます、これで盛り上げて見せますわ」
そう言って笑ったイルミナルに、帝国歌舞戦闘部隊員はにこりと頷いて。
「いえ、こちらこそ。ご紹介いただいた舞台装置のお話、次回以降に何とか生かせるように頑張ってみます」
またご協力をと、頭を下げた。
そして、帝国公認アイドル文化研究交流会の幕は開く。
「そういやリアルブルーにも色々いたなぁアイドルグループ」
柊 真司(ka0705)が、きょろりと興味深げに辺りを見渡した。
彼は客としての参加だが、アイドルとして参加するのはリアルブルー人に限らない。
クリムゾンウェスト出身者に、エルフの姿もちらほら。ドワーフの参加者は今回いないが、客の中にはそれなりに混じっているようだ。
「アイドル、か。いろんなものをこちらに持ち込みすぎだと思うんだが」
榊 兵庫(ka0010)は、その中に飲み込まれつつ、ひょいと肩を竦めて呟いた。
「ところで、アイドルってなんだい?」
「ちょっと押さないでよー!」
「お、あの子可愛いな」
「うひょおおお転移以来だ! 愛しの俺のミナちゃんのコンサート前日に転移して以来だうおおおおお!」
おい今明らかにリアルブルー人混ざってたぞ。
「アイドルってなんでしょう?」
そしてその中に混ざって、メトロノーム・ソングライト(ka1267)は辺りを見渡しながら歩く。
「普段歌っているようなので大丈夫、とは言われましたけれど、やはり蒼世界で隆盛を誇る歌文化に興味がありますね」
なぜなら歌うことが、彼女に残された唯一の望みであれば。
歩を進める。アイドルという、大きな渦に向かって。
「アイドルの研究とか、帝国も面白いこと考えるね」
そんな彼女の後姿をちらと見て、フワ ハヤテ(ka0004)がくいと帽子のつばを上げた。
「まあ折角のお祭だし、楽しませてもらおうかな……アイドルとやらもよく分からないし、ついでに見物してこよう」
さらにこの喧騒へ、渦の中へ、もう1人。
「こちらの世界の娯楽が増えるのは悪い事じゃないし、楽しませて貰おう」
そしてまたエールやつまみを手に踏み込む1人。
「あいどるが何かはわからないけど、武名名高い帝国軍の催し物とあれば、きっと何か得られるものがあるはず……」
そう、ポスターのふりふりひらひら衣装に惹かれた訳ではない。断じてない。
マファルダ・ベルルーティ(ka2311)が歩む。研鑽を、鍛錬を、それに役立つものをと求めて。
「せっかくのお祭だし、たまにはこういうのもいいよな」
気分転換をと骨休めを兼ねて、と、楽しげに歩き出すまた1人――。
「戦士を鼓舞する歌か……琥珀と一緒なら歌える気がするや、一緒に頑張ろう!」
腰当て、脛当てといった武具の上に上着を羽織り、ぎゅっと陽炎は髪を結い上げていた。
その許嫁である琥珀姫が身に着けるのは、愛用の竜胆柄の着物にフリルの可愛らしいミニスカート。太ももの半ばまで覆う足袋との間に覗く、白い太ももが眩しい。
「歌を剣に! 戦う貴方を奮い立たせる旗となります!」
その勇ましい言葉と姿に、帝都の民と共に見に来ていた軍人達が盛り上がる。戦を思わせる出し物に歓喜するのは、やはり軍事国家らしいところだ。
コン、と琥珀姫の下駄が鳴り、激しいダンスと共に歌が始まる。
「迫る闇を切り払え、我らの歌を剣に乗せて」
「竦む足を奮い立たせ 我らの音を追い風として」
琥珀姫の澄んだ高音を支えるように優しく歌っていた陽炎が、さっと身を翻してターン。そのまま、力強く歌い上げる。
「求めるのなら鎧ともなろう!」
「汝の明日を護るべく!」
その力強さに負けぬ声で、琥珀姫は強く声を上げた。
盛り上がりを増す観客席に、琥珀姫は扇子と手を振ってコールを促す。ライブに慣れたリアルブルーの出身者が口にしたコールが、帝都の民の間に広がっていく。
「我らは汝と共にある」
「共に!」
「掲げた誓いを果たすまで!」
「誓おう!」
そのコールを心地良く受けながら、さっと陽炎は琥珀姫を掬い上げるように姫抱きにした。
ぱちりと瞳を瞬かせただけで、琥珀姫はクールな笑顔で歌を続ける。楽しげに歌い上げる、陽炎と共に。
「我らは汝の朋となる」
「ヒュー!」
「その身奮い続ける限り――!」
「ワアアアアアアアアアアアアアア!」
歓声。
手を振る2人。
――――すっこーん!
「何をしているのです貴方は!」
「ひゃぐっ!」
扇子で思いっきり琥珀姫にはたかれて、最後の余興のように響いた陽炎の声に、どっと明るい笑いが弾けた。
「歌を剣に、戦う貴方を奮い立たせる旗に……いいフレーズだ」
クレーネウスは頷いて、メモ帳にペンを走らせる。
「衣装も歌も良かったですねー。あれが、アイドルというものですか」
拍手しながら頷き合う部隊員達。
「んむ、うははにはははふほもひひょひほほはは」
「だが、アイドルというのは様々、アイドルグループというのも様々……ところで誰だい口に物を入れて話してるのは」
振り向いたクレーネウスの目に映ったのは、オムライスを頬張る紅い唇、それより紅い波打つ髪。なんかすごいオーラ。
「へっ、へへへへへ陛下っ!?」
「ごくん。ルミナちゃんだ」
「あっはいルミナちゃん。お仕事は」
「仕事だぞ? 『イベントにおける住民感情を確認するための視察』だ」
「あっ了解しました! 頑張ってくださいルミナちゃん!」
「うむ」
鷹揚に頷いて、オムライスを頬張り去っていくルミナちゃん。
「ひはひひゃっはひ、ひもはほひひは……」
同刻、皇帝陛下執務室。
『仕事です。どう見ても仕事です。完全に完膚なきまでに仕事です。だから探さないで下さい』
そんな文面が書かれた手紙が、槍ごとぶっすりと壁に突き刺さったのは、また別のお話である。
で、なんでルミナちゃんがこんなことになっていたかというと。
「お歌は上手くないけど、お料理と踊るのは得意だよ!」
メイド服にネコミミカチューシャ、それに尻尾をちょこんとつけた、シルフェ・アルタイル(ka0143)が風のように舞う。
けれど彼女が舞台にするのは屋台。手にするのはフライパン。
フライパンを跳ねあげれば、ぱぁっと野菜が色とりどりに舞い上がり、再びフライパンに戻っていく。
玉ねぎトウモロコシに自家製ベーコン、刻んだトマトでご飯を赤く染め、ぽんっと放ってお皿の上に見事山盛り。
ふわふわオムレツのフライパンを冷ます時は、布巾に置く代わりにくるくる回って。
鍋の中のリアルブルー直伝『でみぐらすそーす』は、蓋をぽんと取ればいい香り。
「全部一緒に食べたら絶対笑顔になるよ! 食べてみてね!!」
そう言って次々に差し出す皿は、あっという間に売れていく。
人混みと喧騒にくらついた頭を休めようと露店を訪れたフワも、楽しそうに皿を受け取っていた。
さらにその後ろには、ルミナちゃんも混ざっている。
「ふむ、見たことのない料理だな。凄まじく手が込んでいる」
そもそも皇帝の一番のご馳走が塩振った芋の国である。
オムライスなんて最高級どころか想像もできないお洒落だ。
「……うむ! 旨いな」
ふわとろのオムレツ、トマトライス、デミグラスソースのハーモニーに声を上げたルミナちゃんは、しかし、と考え込んで。
「そうだ、芋を入れよう」
「いも?」
「うむ、それがいい。米に混ぜるといいな」
そう言って颯爽と去って行き、さっきの顛末になったわけである。
でもってクレーネウスの方は、新たな客人に捕まっていた。
「初めまして、私は夕影風音と申します」
「あ、はい、今日はありがとう。では」
「ああ、待って、話を聞いて! 実は今日は、部隊長さんにアイドル候補を二名紹介したくて来たんです!」
笑顔で写真を2枚取り出す夕影 風音(ka0275)。思わず足を止めるクレーネウス。
「私の弟と妹です! もうすっごく可愛いでしょ!? 若くて元気一杯で、何より可愛いんです!」
ずずい。
写真と共に風音が前に出る。
「どうですか? 二人をスカウトしてみませんか? アイドルとして!」
いいなぁと写真を見つめてから、ちょっと困ったようにクレーネウスは笑って。
「申しわけないが、メインとなるアイドルは、帝国軍のために働く以上、ハンターではいけないんだ」
「そうですか……」
しゅんとする風音に、しかし、と再び口を開いて。
「私達はアイドルについては素人、レッスンをお願いしたり、舞台でアイドルをサポートしてもらう必要もあると思う。その時は、どうか弟さんと妹さんにはぜひアイドルを支援する依頼を請けてもらいたい」
「はい!」
ぱぁっと顔を輝かせ、風音は丁寧に頭を下げて、スキップせんばかりに帰って行くのだった。
「うひひひひひひっ! 毒々沼冥々っ! 毒々沼冥々だぜ野郎共っ!!」
ドキツいメイクに大人なリップ、ゴシックパンクの衣装に鎖があちこちにじゃらり、毒々沼 冥々(ka0696)はびしりと客席に指を突きつける。
「どうだいどうだい、僕ってばゲロかわいいだろおー?」
「ウヒョオオオオオオ!」
「う、うひょー?」
最初は唖然とした帝都の群集であったが。
「お、リアルブルーの人かい。こりゃどう楽しめばいいんだね」
中年の男性に困ったように声を掛けられ、兵庫は振り返ってとりあえず酒瓶を差し出す。
「おう、まぁ呑まないかい」
「いいねぇ」
さらに周りの皆にエールを、そしてつまみを。
そして、ちょっとしたアドバイスを。
「少々奇抜で、こちらでは馴染こそ薄いかもしれないが、まあ、酒場の吟遊詩人や旅芸人の舞台なんかと本質は変わらない者だから、な」
「なるほど……」
「せっかくのお祭り騒ぎなんだ。酒を片手に楽しもうじゃないか」
「うむ、そうしよう」
聞こえた声が男のものから若い女になったので、驚いて振り向く。
「あ、いただきます」
皿の上から干し肉を攫っていったルミナちゃんが、では楽しませてもらおうと頷いて。
「今日も僕のこと愛してるかいッ!?」
「イエエエエ!」
リアルブルー出身のハンターが中心になって声を上げれば、皆がそれに続いて。
「人生を愛してるかいッ!!」
「ウオオオオオオオ!」
既にもう、一体となって叫ぶ。
「折角の僕・オンステージだ! 派手派手にイクぜ!」
「ワアアアアアアアアアア!!」
ギターを派手に掻き鳴らす。それでいながら飛んで回って跳ねて奏でて歌って笑う!
「愉しめよ音楽を! 感じろよ魂を! 盛り上がれよふぁっき」
おっとしばらくお待ちください。
「騒げえええええええ!!」
「ウオオオオオオオ!!」
叫ぶように歌いながら興奮のるつぼの観客席にダイブ!
「さぁ! ステージに昇れ! 僕は客で客は僕、良く分かんなきゃ歌えばわかる!」
「グオオオオオオ!!」
ステージに殺到し、押し合いながら歌う。踊る。ギターが掻き鳴らされれば、手拍子が飛び交う。
客も自分もゲロッゲロに愉しむのが彼女の流儀。そしてゲロカワアイドル毒々沼冥々!
「うひひひひっ! さあ楽しもうぜ――!?」
「アイドルってつまり、みんなに元気や活力を与える存在、だろ?」
ノラ(ka0976)が楽しげに笑って、ステージに昇る。
どうせやるなら、男にも女にもカッコいいと思ってもらえるパフォーマンスがしたい、と。
「それじゃ、始めようぜ!」
奏で歌うのはアップテンポの曲。ノリが良く、初めて聞いた人でも手拍子を送れるような。
ステージいっぱいにノラの身体が跳ね回る。故郷であるイタリアの歌の意味を知る者はいないが、喝采が、口笛が、手拍子がノラの歌を彩る。
それは、きっと彼のハートがみんなに音楽を伝えるから!
最後はリボルバーを抜いて、空に向かって――空砲の銃声。静寂。そして――大歓声!
「グラーツィエ! ありがとーう!」
観客達と一緒に、盛り上がって元気をあげられる。
ノラはまさに今、そんなアイドルに違いなかった。
「武器の使い方は……早抜きの参考になった」
マファルダが、ノラの舞台を反芻しながら呟く。
「ダンスは剣の動きの参考になるし、こういう衣装でもしっかり動けるのは参考になるな」
……あの衣装も。というか猫耳? も?
そして彼女は、次の舞台へとてくてくと歩き出す――。
「リアルブルー人のコハクならきっと『アイドル』に詳しいはず!」
そう言い放つアズロ・シーブルー(ka0781)に引っ張られてきた胡珀(ka0803)は、実はアイドルそんなに詳しくないんだけどな、と困ったように頬を掻く。
「こういうのがリアルブルーでは人気なんだよね?」
「あ、こういうのなら確か着けてた人が……特定の場所でしか見られなかった気がしなくも……?」
そう言いながら、ハンター支給品の揃いの猫耳を着けて。
ステージに飛び出していく。アズロの手にはタンバリン、胡珀の手にはカスタネット。
打楽器の伴奏による歌という異色の組み合わせに、客席が軽くざわめく。
けれどカスタネットの涼やかな音が響き、タンバリンの音が華やかにそれを彩れば、観客は興味津々でそれに聞き入った。
(コハクのカスタネットすごいな~。絶妙なリズムに木の奏でる音の澄み具合も心地良いな。これは僕も頑張らないとね)
すっとアズロは息を吸い、そっと歌い始める。
「花々の囁き 風の息吹 雨は海と森と共に歌い 生命は星を旅する♪」
自然への愛を――胡珀にそっと視線を向けながら。
「灯は強く 優しく 時を奏でる♪」
音程のない美しい音だけを背景に奏でる即興歌。思うままに、綴り、謡い、心を込めて。
(アズロの歌声心地いいなぁ……いつも聴かせてもらってるけど、今日は一段と上手いよ)
他の演奏者を邪魔せぬよう少しだけ控えめに、けれど澄んだ音色を響かせながら、胡珀がほうと息を吐く。
(でも、さっきからこっち見てるけどなんでだろう……? 俺の顔にご飯粒でもついてるのかな?)
絡み合った視線に、アズロは高らかに歌い上げた。
「愛を あなたに愛を――あなたと愛を♪」
拍手。歓声。胡珀は元気に、アズロは優しげに手を振ってそれに応える。
――後ろの方でおねーさん達が頬を染めたりメモ帳を取り出して熱心に何か書き付けたりしていたのは秘密だ。
「みんな――! ジュウベエちゃんのステージに来てくれてあっりがとー!!」
ハートの眼帯に黒とピンクのちょっと煽情的な衣装、それに肩からかけたギター。
盛り上がる観客達に向けて、クリムゾンウェストの、特に帝国の民に親しませた歌を高らかに歌い上げるのはJyu=Bee(ka1681)だ。
リズムはアイドルらしく、ノリよくアレンジ。歌い、踊り、ギターをかき鳴らす。ステップを踏んだと思えば指が弦の上を走り、歌声が重なっていく。
2曲目が終わり、3曲目の準備かと思われたところで――現れたのは、歪虚を模した人形。
ギターを背中に回し、烏枢沙摩の名を持つ刀を抜く。
攻めの構え!
踏み込み!
そして強打強打強打強打強打強打!
びっくりする観客達の前で、粉になる人形。
「大丈夫、皆の力が集まれば、歪虚なんて全く怖くないんだから!」
一瞬の間をおいて――大喝采。
「んー、こういうイベントに関してはやっぱり俺はやるより観るのがいいなぁ」
いいもん見れたし、と真司も満足げに頷き、口笛と拍手を送る。
3曲目も見事に歌い上げ、ステージを飛び降りたJyuは笑顔を振りまきながらみんなと握手を交わしていく。
「あっ、あの、サインお願いします!」
色紙を差し出した観客にも、大きなハートマーク付きで見事なサインを描いてみせる。
「……いいな、あの殺陣。どこかで使いたいな」
「でもあれって、アイドルなんですか?」
「うむ、ほら歌って踊って戦えるアイドルだからな」
「なるほど」
ちゃっかりサインをもらって握手までしてから、クレーネウスと部隊員達は次の出し物に備えるのだった。
「アイドル……素敵ね!」
リアルブルー出身のアマリ・ユーナ (ka0218)から、アイドルについて教わったアマービレ・ミステリオーソ(ka0264)は嬉しそうに瞳を輝かせた。
歌を何よりも愛し、サルバトーレ・ロッソの転移をきっかけに新たな音楽を知るべくエルフの集落を後にした彼女だ。
どこのステージでも、知らない歌が、新たな歌が、素敵なハーモニーを作っているこの場所で。
自分が、アイドルとしてステージに昇って新しい音楽を奏でるなんて!
「アイドル……それは誰もが一度が夢見るもの! 私とて例外じゃないわ!」
三段フリルのミニスカート、白と赤の衣装にコウモリの髪飾りを付けたアマリが、ひらりとステージに飛び出していく。
「情熱的に行くわ!」
ギターを明るく掻き鳴らすアマリに続いて、アマービレが軽やかにステージに躍り出る。色違いお揃いのスカートはレースパニエでふわりとしたシルエット、彼女のテーマカラーは白と青。金の髪に桔梗が揺れて。
ユニット名は『dolce☆diva』。
奏でる歌は、エルフに伝わる美しい曲を、リアルブルー風に明るく華やかにアレンジ。
和音が広がり、歌が届く。軽やかなダンスが、花開くように繰り広げられる。
客席が温まって来たところで、ステージに横付けの階段から、左右に分かれて2人は客席へと飛び出した。
アマービレが最初に手を取ったのは、最前列にいた炎色の髪の少女。驚いたように見開いた翠の瞳に微笑んで、くるりと一緒にターンする。
「一緒に歌って!」
「……え、ええ!」
一瞬戸惑った少女は、けれど頷いてたどたどしく歌を合わせる。嬉しそうに笑ったアマービレは、次の観客と一緒にステップ。
「はーい、私達をよろしくね!」
アマリがコードを長く掻き鳴らし、音が消えるまでの間にさっと手を出して観客のみんなと握手する。
アイドルに営業は悪化せない、親しみやすさも大切だから。
戦闘部隊の研究でもあるから、ハンターや軍人に対して親しみを持ってもらえたら嬉しいと。
アマリとアマービレは目を合わせ、歌と踊りの渦を作っていく――。
「あーいいなぁスカウトしたいなぁ。帝国軍人になってくれないかなぁ」
幸せそうにその渦に巻き込まれながら、クレーネウスは呟く。
「駄目ですよ、ハンターは中立が基本ですから。諦めて帝国軍の中から中心になれそうな子探さないと」
部下にそうツッコミを入れられ、うーんと唸るクレーネウスは――ふと、炎色の髪の少女をじっと見つめる。
「三等兵だな。訓練兵だろうな若そうだし」
「よくここからわかりますね」
「今日見た軍人の中では一番可愛いな」
「そして俺の話聞いてませんね」
もはや慣れた顔の部下の前に、白いもふもふが現れた!
「もふっ!?」
「かわいいもふもふくま~♪」
しろくま(ka1607)である。
良く見たらしろくまの着ぐるみであることがわかる。
「もふもふしろくまぬいぐるみ、もふもふしろくま耳のカチューシャ、それにもふもふしろくまパペットもあるくま~♪」
「あ、可愛い」
部隊員の中の女性達が、しろくまを囲んで商品の品定めを始める。気付けばハンターも混じっている。
「もふもふくまーありがとうございましたくま~♪」
たくさん商品が売れて、とりあえずなんだかよくわからないけど『もふもふ教』を布教しに来たしろくまは大歓喜。
(くっくっく……これが罠とも知れず買っていってくれるくまー! これを手に取ったが最後! もふもふの魅力にメロメロになるくま!)
……まぁ、ある意味ね。
間違ってはいないかもしれない。
「はわわ、紅いしこれ女の子用?」
「はい。私は青にしました」
アナスタシアに手渡されたのは、フリルたっぷりの可愛らしい女の子用の衣装であった。
ざくろさん16歳。おとこのこ。
男物を着て格好よく決めるつもりだったので、ちょっとだけざくろは泣きたくなった。
でももう着るしかないもんね。
「ざくろ、限界までやりますよ!」
「うん! 舞台の上では笑顔だもん!」
ステージに飛び出した2人は、きらっきらの笑顔で観客席に手を振って。
「みんな、元気かなっ? ピュアアルケミーだよっこれからよっろしくー!」
一切の躊躇なく言い切りきゃるんなポーズでウィンク。ちゃんと聞いた内容通り。
「みんな、今日はざくろ達のために集まってくれてありがとう!」
可愛い女の子(に見える)2人の登場に、わぁっと客席に歓喜が走る。
「聴いてください、恋の無限機導!」
2人で作るハートマーク。もう片手にはアルケミストデバイス。
歌って、踊って、ステージ中を跳ね回る。きらきら輝くように、アルケミストデバイスからの輝きを光の帯のようにまとって。
「ラブ☆オブ☆エターナルアルケミア――無限機導! いえい!」
最後のフレーズを声を揃えて歌い上げ、さっと2人腕を広げる。光の剣が手に現れ、振り下ろすと翼のような残像を描いて消えていく。
盛大な拍手の中、己も手を叩きながらルミナちゃんは満足げに頷く。
「うむ、ナサニエルには逆立ちしてもできん芸当だな。やったとしても愛らしさが足りん」
こういうアイドルも素晴らしいな、と呟いたルミナちゃん、多分仕事を忘れている。
「アイドルか……詳しくは分からないが、要は男女ともにフリフリの服を着て歌って踊って観客を楽しませる奴の事だな」
もしかしたらざくろの舞台を見て、ヴァイス(ka0364)は最初から持っていたその認識を、非常に深めてしまったかもしれない。
特注のアイドル衣装はフリルたっぷり、黒を基調としたとても可愛らしいものである。
着慣れていないので少々恥ずかしいが、そういう文化もあるから全く違和感は感じない。おかしいとも思わない。
ヴァイスさん身長180cm、体重90kg。
そんな彼が舞台袖からどん、と登場した時の、驚きはかくや。
最前列のお姉さんなんか、『素晴らしい』と呟いて失神したくらい……いや、それは例外かもしれない。
しかし、そんな彼が踊れば、ひらりと舞うフリルと共にステージを、さらには客席を圧倒する。
アカペラで歌い上げるクリムゾンウェストの馴染みの曲は、張りのある声でどこまでも届く。
整った美貌は、激しい動きと時折思い出したように客席に向ける笑顔に、美しさ、そして色気すらも感じさせた。
ダン、とステージを踏んで最後の決めポーズを取った時――笑う者は、誰もいない。
交錯するのは大きな歓声と口笛、感激の声だった。
「ヒラヒラしてて可愛いですっ」
紅と蒼のツートンカラーの舞台衣装も華やかに。
紅の世界と蒼の世界、両方の出身者が集まって作り上げるアイドルユニット『クリムゾンブルー』。
「『あいどる』って歌ったり踊ったりするって話だけど、それってお祭りとどこが違うのかしら?」
「あいどる? って皆を幸せにする人達だって聞きました!」
きょとんと首を傾げる天川 麗美(ka1355)に、Uisca Amhran(ka0754)が紫の瞳を輝かせる。リアルブルー出身者から聞いたアイドル像は想像もあいまって、Uiscaの中で非常にきらびやかなイメージを作り上げていた。
そのアイドルに一歩近づけることが、嬉しくて仕方ないUiscaである。
「要は踊り子の事なのだろう? 大王たるもの舞踏や演奏程度、容易くこなしてやろうではないか!」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が、小さな身体を大きく反らして胸を張る。この舞台が決まってから練習したギターは、優れた音感を生かして簡単な曲ならかなり上手く弾けるくらいまでに上達した。
リアルブルーの実家が芸能の家だったから舞台に立ったことはあるけれど、と日本舞踊をたしなんでいた天竜寺 舞(ka0377)は楽しげに頷いて。
「アイドルなんて初めてだからドキドキするね♪」
くるりと優雅に回ればツートンカラーのワンピースが、紫も入れた三色が美しく混ざったように見える。
「せっかくの機会だから、みんなで楽しまなきゃソンよね」
麗美も長い黒髪を軽くかき上げ、そろそろかな、と舞台を見る。
ちょうど、前の出し物が終わったところ。
「お疲れ様ー!」
「あ、次なんだね。頑張って!」
軽く出演者同士挨拶を交わして、ついにステージへ――!
「わああああああああああ!!」
赤と青のバトンが揺れる中、ディアドラがギターを構え、麗美がキーボード代わりのオルガンの鍵盤に手を置き、視線を交わし頷き合って……ミュージック、スタート!
楽器を担当する二人の中央に、踊りを中心とする舞が位置して全体に統一感を与えるバックダンスを繰り広げる。Uiscaもくるりとスカートを翻してターンしてから、にこりと笑って息を吸い――、
「さぁおいでよ Welcome to world♪ そう行こう Let's go together♪」
紅と蒼の世界の出会い、そして出来上がる世界を描いた新曲、『キミたちとボクらのクリムゾンブルー』。
Uiscaの可愛らしいダンスを、舞がひらりとバックダンスで盛り上げる。
「さぁおいでよ 君と一緒に♪」
さっと腕を広げれば、鍵盤に指を滑らせた麗美が、コードをかき鳴らしたディアドラが、Uiscaと視線を交わして口を開く。
「紅の陽光 君と一緒に♪」
クリムゾンウェストの出身であるディアドラと麗美が、元気よく声を合わせる。
楽器から一瞬手を離して、中央に向けて腕を広げれば、舞が軽く腰を落とし、日舞を意識した踊りと共に口を開く。
「蒼の闇夜 語らおう♪」
リアルブルーの蒼を込めた歌詞を、高らかに。
そしてここからは、息を合わせたユニゾン!
「交わる心 出会えた奇跡♪ ふたつの色に彩られた世界で 紡がれる物語♪」
ディアドラが可愛らしいポーズを決めてにっこり。麗美が鍵盤を叩きながらさらりと黒髪を揺らしてウィンク。舞が高めに脚を上げ、スカートの裾から健康的な太ももを覗かせる。
(実家に知れたら怒られそう♪)
そう思い、くすりと舞は思わず笑みを漏らす。
「きゃーディアドラちゃーん」
イルミナルが全力で、赤いバトンを大きく振って。周りの観客達も、思い思いにバトンを振って、あるいは手拍子で歓迎する。
息を合わせたダンスと歌に、喝采が頂点まで高まったところで。
「君も一緒に ユメ見よう――♪」
最後の和音が、長く伸ばした声と一緒に響き渡り――消えた瞬間。
歓声と拍手、バトンを打ち鳴らす音、そして紅と蒼が客席にわっと躍る。
それに応えて、ありがとうと手を振って。
さらに握手にサインにと、4人の少女は忙しく、けれど楽しげにファンの期待に応えるのだった。
メトロノームは、観客席で人の波に揉まれながら、音楽に、踊りに、衣装にパフォーマンスに。
ただただ、酔っていた。
まさにアイドル、という姿。
自分には想像すらできない表現の自由さ。明るさ。
さらには、遥かな領域へと至った者の放つオーラ。
驚きだった。身体が震えるほどだった。
感激と興奮に震える手を握り締め、メトロノームはステージへと上がる。ハープをそっと傾け、静かな旋律を鳴らす。
湧き立つようなイベントの高揚が、優しい音に包まれて。
穏やかな余韻へと誘うのは、ハープの音と共に伸びてゆく柔らかな歌声。
「吟遊詩人や大道芸人が集団で芸を披露したり、ファンの子にサービスするものか……」
宣伝やプロパガンダに利用できそうだよね、とフワはそっと顎に手を当てて頷く。
アイドルについての、彼なりの見解だ。そしてそれは、帝国においてはおそらくそう遠くはない。
けれど――やはりアイドルは、歌やダンスを楽しみ、そして楽しさを伝える存在でもあるのだろう。
「ふたつの色に 彩られた世界で 紡がれる物語……」
そろそろ蒼の闇に彩られかけた空の下、人気の少なくなった広場を、マファルダが帰途に就こうと歩く。
歌を口にしているのは、無意識だろうか。
「君も一緒に ユメ見よう……」
2つの声が重なる。ふとマファルダが横を見ると、そこにはじっと広場を見つめて佇む少女。
夕日はもう沈みかけたのに、炎色の髪は夕焼け色に見えた。
「……あ」
声が重なったことに気付いたのか、慌てたように少女はぺこりと頭を下げて。
「ぶしつけなことをしましたわ……あ、私も帰らなければ。ごめんあそばせ!」
慌てて駆けて行く背中を、マファルダはじっと見送った。
アイドル。
その言葉一つ、そっと胸の中に収めて。
これは――もしかすると、いい機会なのかもしれない。
そう思ったアナスタシア・B・ボードレール(ka0125)は、同じ依頼を請けた時音 ざくろ(ka1250)に、アイドルについての手ほどきを頼むことにした。
(アナスタシアは女の子だし、少女アイドルの事だけでいいよね)
そう思ってざくろは、レクチャーを開始する。ざくろの今回の目的は、皆にアイドル文化と元気を贈ること。これはもちろんその一環だ。
「元気に歌って踊って、見る人を楽しませるお仕事、と。分かりました」
一緒にステージに昇る約束をして、アナスタシアが衣装の用意を請け負って。
それが当日、自分の首を絞めることにざくろはまだ気付いていない。
「皆さんが輝かしく歌い踊るために準備を進めなければなりませんわ」
そう言ってイルミナル(ka0649)は必死に準備を進めたが、それは難航を極めていた。
地球のステージで一般的な演出はほぼ科学力の産物。魔導が技術の多くを占める以上、火薬やドライアイスなど、演出の必須品の用意は至難だ。
「こ、これは何とか準備出来たんですが……」
ようやく、当日の朝のことだった。
頼んでいたものが、大きな木箱で大量に運び込まれてくる。中に入っているのは、やや大きめの赤と青のバトンだ。
模擬戦に使っていると聞いて、軽く振ってみる。見た目ほど重くはなく、サイリウム代わりに振っても危なくはないだろう。
「ありがとうございます、これで盛り上げて見せますわ」
そう言って笑ったイルミナルに、帝国歌舞戦闘部隊員はにこりと頷いて。
「いえ、こちらこそ。ご紹介いただいた舞台装置のお話、次回以降に何とか生かせるように頑張ってみます」
またご協力をと、頭を下げた。
そして、帝国公認アイドル文化研究交流会の幕は開く。
「そういやリアルブルーにも色々いたなぁアイドルグループ」
柊 真司(ka0705)が、きょろりと興味深げに辺りを見渡した。
彼は客としての参加だが、アイドルとして参加するのはリアルブルー人に限らない。
クリムゾンウェスト出身者に、エルフの姿もちらほら。ドワーフの参加者は今回いないが、客の中にはそれなりに混じっているようだ。
「アイドル、か。いろんなものをこちらに持ち込みすぎだと思うんだが」
榊 兵庫(ka0010)は、その中に飲み込まれつつ、ひょいと肩を竦めて呟いた。
「ところで、アイドルってなんだい?」
「ちょっと押さないでよー!」
「お、あの子可愛いな」
「うひょおおお転移以来だ! 愛しの俺のミナちゃんのコンサート前日に転移して以来だうおおおおお!」
おい今明らかにリアルブルー人混ざってたぞ。
「アイドルってなんでしょう?」
そしてその中に混ざって、メトロノーム・ソングライト(ka1267)は辺りを見渡しながら歩く。
「普段歌っているようなので大丈夫、とは言われましたけれど、やはり蒼世界で隆盛を誇る歌文化に興味がありますね」
なぜなら歌うことが、彼女に残された唯一の望みであれば。
歩を進める。アイドルという、大きな渦に向かって。
「アイドルの研究とか、帝国も面白いこと考えるね」
そんな彼女の後姿をちらと見て、フワ ハヤテ(ka0004)がくいと帽子のつばを上げた。
「まあ折角のお祭だし、楽しませてもらおうかな……アイドルとやらもよく分からないし、ついでに見物してこよう」
さらにこの喧騒へ、渦の中へ、もう1人。
「こちらの世界の娯楽が増えるのは悪い事じゃないし、楽しませて貰おう」
そしてまたエールやつまみを手に踏み込む1人。
「あいどるが何かはわからないけど、武名名高い帝国軍の催し物とあれば、きっと何か得られるものがあるはず……」
そう、ポスターのふりふりひらひら衣装に惹かれた訳ではない。断じてない。
マファルダ・ベルルーティ(ka2311)が歩む。研鑽を、鍛錬を、それに役立つものをと求めて。
「せっかくのお祭だし、たまにはこういうのもいいよな」
気分転換をと骨休めを兼ねて、と、楽しげに歩き出すまた1人――。
「戦士を鼓舞する歌か……琥珀と一緒なら歌える気がするや、一緒に頑張ろう!」
腰当て、脛当てといった武具の上に上着を羽織り、ぎゅっと陽炎は髪を結い上げていた。
その許嫁である琥珀姫が身に着けるのは、愛用の竜胆柄の着物にフリルの可愛らしいミニスカート。太ももの半ばまで覆う足袋との間に覗く、白い太ももが眩しい。
「歌を剣に! 戦う貴方を奮い立たせる旗となります!」
その勇ましい言葉と姿に、帝都の民と共に見に来ていた軍人達が盛り上がる。戦を思わせる出し物に歓喜するのは、やはり軍事国家らしいところだ。
コン、と琥珀姫の下駄が鳴り、激しいダンスと共に歌が始まる。
「迫る闇を切り払え、我らの歌を剣に乗せて」
「竦む足を奮い立たせ 我らの音を追い風として」
琥珀姫の澄んだ高音を支えるように優しく歌っていた陽炎が、さっと身を翻してターン。そのまま、力強く歌い上げる。
「求めるのなら鎧ともなろう!」
「汝の明日を護るべく!」
その力強さに負けぬ声で、琥珀姫は強く声を上げた。
盛り上がりを増す観客席に、琥珀姫は扇子と手を振ってコールを促す。ライブに慣れたリアルブルーの出身者が口にしたコールが、帝都の民の間に広がっていく。
「我らは汝と共にある」
「共に!」
「掲げた誓いを果たすまで!」
「誓おう!」
そのコールを心地良く受けながら、さっと陽炎は琥珀姫を掬い上げるように姫抱きにした。
ぱちりと瞳を瞬かせただけで、琥珀姫はクールな笑顔で歌を続ける。楽しげに歌い上げる、陽炎と共に。
「我らは汝の朋となる」
「ヒュー!」
「その身奮い続ける限り――!」
「ワアアアアアアアアアアアアアア!」
歓声。
手を振る2人。
――――すっこーん!
「何をしているのです貴方は!」
「ひゃぐっ!」
扇子で思いっきり琥珀姫にはたかれて、最後の余興のように響いた陽炎の声に、どっと明るい笑いが弾けた。
「歌を剣に、戦う貴方を奮い立たせる旗に……いいフレーズだ」
クレーネウスは頷いて、メモ帳にペンを走らせる。
「衣装も歌も良かったですねー。あれが、アイドルというものですか」
拍手しながら頷き合う部隊員達。
「んむ、うははにはははふほもひひょひほほはは」
「だが、アイドルというのは様々、アイドルグループというのも様々……ところで誰だい口に物を入れて話してるのは」
振り向いたクレーネウスの目に映ったのは、オムライスを頬張る紅い唇、それより紅い波打つ髪。なんかすごいオーラ。
「へっ、へへへへへ陛下っ!?」
「ごくん。ルミナちゃんだ」
「あっはいルミナちゃん。お仕事は」
「仕事だぞ? 『イベントにおける住民感情を確認するための視察』だ」
「あっ了解しました! 頑張ってくださいルミナちゃん!」
「うむ」
鷹揚に頷いて、オムライスを頬張り去っていくルミナちゃん。
「ひはひひゃっはひ、ひもはほひひは……」
同刻、皇帝陛下執務室。
『仕事です。どう見ても仕事です。完全に完膚なきまでに仕事です。だから探さないで下さい』
そんな文面が書かれた手紙が、槍ごとぶっすりと壁に突き刺さったのは、また別のお話である。
で、なんでルミナちゃんがこんなことになっていたかというと。
「お歌は上手くないけど、お料理と踊るのは得意だよ!」
メイド服にネコミミカチューシャ、それに尻尾をちょこんとつけた、シルフェ・アルタイル(ka0143)が風のように舞う。
けれど彼女が舞台にするのは屋台。手にするのはフライパン。
フライパンを跳ねあげれば、ぱぁっと野菜が色とりどりに舞い上がり、再びフライパンに戻っていく。
玉ねぎトウモロコシに自家製ベーコン、刻んだトマトでご飯を赤く染め、ぽんっと放ってお皿の上に見事山盛り。
ふわふわオムレツのフライパンを冷ます時は、布巾に置く代わりにくるくる回って。
鍋の中のリアルブルー直伝『でみぐらすそーす』は、蓋をぽんと取ればいい香り。
「全部一緒に食べたら絶対笑顔になるよ! 食べてみてね!!」
そう言って次々に差し出す皿は、あっという間に売れていく。
人混みと喧騒にくらついた頭を休めようと露店を訪れたフワも、楽しそうに皿を受け取っていた。
さらにその後ろには、ルミナちゃんも混ざっている。
「ふむ、見たことのない料理だな。凄まじく手が込んでいる」
そもそも皇帝の一番のご馳走が塩振った芋の国である。
オムライスなんて最高級どころか想像もできないお洒落だ。
「……うむ! 旨いな」
ふわとろのオムレツ、トマトライス、デミグラスソースのハーモニーに声を上げたルミナちゃんは、しかし、と考え込んで。
「そうだ、芋を入れよう」
「いも?」
「うむ、それがいい。米に混ぜるといいな」
そう言って颯爽と去って行き、さっきの顛末になったわけである。
でもってクレーネウスの方は、新たな客人に捕まっていた。
「初めまして、私は夕影風音と申します」
「あ、はい、今日はありがとう。では」
「ああ、待って、話を聞いて! 実は今日は、部隊長さんにアイドル候補を二名紹介したくて来たんです!」
笑顔で写真を2枚取り出す夕影 風音(ka0275)。思わず足を止めるクレーネウス。
「私の弟と妹です! もうすっごく可愛いでしょ!? 若くて元気一杯で、何より可愛いんです!」
ずずい。
写真と共に風音が前に出る。
「どうですか? 二人をスカウトしてみませんか? アイドルとして!」
いいなぁと写真を見つめてから、ちょっと困ったようにクレーネウスは笑って。
「申しわけないが、メインとなるアイドルは、帝国軍のために働く以上、ハンターではいけないんだ」
「そうですか……」
しゅんとする風音に、しかし、と再び口を開いて。
「私達はアイドルについては素人、レッスンをお願いしたり、舞台でアイドルをサポートしてもらう必要もあると思う。その時は、どうか弟さんと妹さんにはぜひアイドルを支援する依頼を請けてもらいたい」
「はい!」
ぱぁっと顔を輝かせ、風音は丁寧に頭を下げて、スキップせんばかりに帰って行くのだった。
「うひひひひひひっ! 毒々沼冥々っ! 毒々沼冥々だぜ野郎共っ!!」
ドキツいメイクに大人なリップ、ゴシックパンクの衣装に鎖があちこちにじゃらり、毒々沼 冥々(ka0696)はびしりと客席に指を突きつける。
「どうだいどうだい、僕ってばゲロかわいいだろおー?」
「ウヒョオオオオオオ!」
「う、うひょー?」
最初は唖然とした帝都の群集であったが。
「お、リアルブルーの人かい。こりゃどう楽しめばいいんだね」
中年の男性に困ったように声を掛けられ、兵庫は振り返ってとりあえず酒瓶を差し出す。
「おう、まぁ呑まないかい」
「いいねぇ」
さらに周りの皆にエールを、そしてつまみを。
そして、ちょっとしたアドバイスを。
「少々奇抜で、こちらでは馴染こそ薄いかもしれないが、まあ、酒場の吟遊詩人や旅芸人の舞台なんかと本質は変わらない者だから、な」
「なるほど……」
「せっかくのお祭り騒ぎなんだ。酒を片手に楽しもうじゃないか」
「うむ、そうしよう」
聞こえた声が男のものから若い女になったので、驚いて振り向く。
「あ、いただきます」
皿の上から干し肉を攫っていったルミナちゃんが、では楽しませてもらおうと頷いて。
「今日も僕のこと愛してるかいッ!?」
「イエエエエ!」
リアルブルー出身のハンターが中心になって声を上げれば、皆がそれに続いて。
「人生を愛してるかいッ!!」
「ウオオオオオオオ!」
既にもう、一体となって叫ぶ。
「折角の僕・オンステージだ! 派手派手にイクぜ!」
「ワアアアアアアアアアア!!」
ギターを派手に掻き鳴らす。それでいながら飛んで回って跳ねて奏でて歌って笑う!
「愉しめよ音楽を! 感じろよ魂を! 盛り上がれよふぁっき」
おっとしばらくお待ちください。
「騒げえええええええ!!」
「ウオオオオオオオ!!」
叫ぶように歌いながら興奮のるつぼの観客席にダイブ!
「さぁ! ステージに昇れ! 僕は客で客は僕、良く分かんなきゃ歌えばわかる!」
「グオオオオオオ!!」
ステージに殺到し、押し合いながら歌う。踊る。ギターが掻き鳴らされれば、手拍子が飛び交う。
客も自分もゲロッゲロに愉しむのが彼女の流儀。そしてゲロカワアイドル毒々沼冥々!
「うひひひひっ! さあ楽しもうぜ――!?」
「アイドルってつまり、みんなに元気や活力を与える存在、だろ?」
ノラ(ka0976)が楽しげに笑って、ステージに昇る。
どうせやるなら、男にも女にもカッコいいと思ってもらえるパフォーマンスがしたい、と。
「それじゃ、始めようぜ!」
奏で歌うのはアップテンポの曲。ノリが良く、初めて聞いた人でも手拍子を送れるような。
ステージいっぱいにノラの身体が跳ね回る。故郷であるイタリアの歌の意味を知る者はいないが、喝采が、口笛が、手拍子がノラの歌を彩る。
それは、きっと彼のハートがみんなに音楽を伝えるから!
最後はリボルバーを抜いて、空に向かって――空砲の銃声。静寂。そして――大歓声!
「グラーツィエ! ありがとーう!」
観客達と一緒に、盛り上がって元気をあげられる。
ノラはまさに今、そんなアイドルに違いなかった。
「武器の使い方は……早抜きの参考になった」
マファルダが、ノラの舞台を反芻しながら呟く。
「ダンスは剣の動きの参考になるし、こういう衣装でもしっかり動けるのは参考になるな」
……あの衣装も。というか猫耳? も?
そして彼女は、次の舞台へとてくてくと歩き出す――。
「リアルブルー人のコハクならきっと『アイドル』に詳しいはず!」
そう言い放つアズロ・シーブルー(ka0781)に引っ張られてきた胡珀(ka0803)は、実はアイドルそんなに詳しくないんだけどな、と困ったように頬を掻く。
「こういうのがリアルブルーでは人気なんだよね?」
「あ、こういうのなら確か着けてた人が……特定の場所でしか見られなかった気がしなくも……?」
そう言いながら、ハンター支給品の揃いの猫耳を着けて。
ステージに飛び出していく。アズロの手にはタンバリン、胡珀の手にはカスタネット。
打楽器の伴奏による歌という異色の組み合わせに、客席が軽くざわめく。
けれどカスタネットの涼やかな音が響き、タンバリンの音が華やかにそれを彩れば、観客は興味津々でそれに聞き入った。
(コハクのカスタネットすごいな~。絶妙なリズムに木の奏でる音の澄み具合も心地良いな。これは僕も頑張らないとね)
すっとアズロは息を吸い、そっと歌い始める。
「花々の囁き 風の息吹 雨は海と森と共に歌い 生命は星を旅する♪」
自然への愛を――胡珀にそっと視線を向けながら。
「灯は強く 優しく 時を奏でる♪」
音程のない美しい音だけを背景に奏でる即興歌。思うままに、綴り、謡い、心を込めて。
(アズロの歌声心地いいなぁ……いつも聴かせてもらってるけど、今日は一段と上手いよ)
他の演奏者を邪魔せぬよう少しだけ控えめに、けれど澄んだ音色を響かせながら、胡珀がほうと息を吐く。
(でも、さっきからこっち見てるけどなんでだろう……? 俺の顔にご飯粒でもついてるのかな?)
絡み合った視線に、アズロは高らかに歌い上げた。
「愛を あなたに愛を――あなたと愛を♪」
拍手。歓声。胡珀は元気に、アズロは優しげに手を振ってそれに応える。
――後ろの方でおねーさん達が頬を染めたりメモ帳を取り出して熱心に何か書き付けたりしていたのは秘密だ。
「みんな――! ジュウベエちゃんのステージに来てくれてあっりがとー!!」
ハートの眼帯に黒とピンクのちょっと煽情的な衣装、それに肩からかけたギター。
盛り上がる観客達に向けて、クリムゾンウェストの、特に帝国の民に親しませた歌を高らかに歌い上げるのはJyu=Bee(ka1681)だ。
リズムはアイドルらしく、ノリよくアレンジ。歌い、踊り、ギターをかき鳴らす。ステップを踏んだと思えば指が弦の上を走り、歌声が重なっていく。
2曲目が終わり、3曲目の準備かと思われたところで――現れたのは、歪虚を模した人形。
ギターを背中に回し、烏枢沙摩の名を持つ刀を抜く。
攻めの構え!
踏み込み!
そして強打強打強打強打強打強打!
びっくりする観客達の前で、粉になる人形。
「大丈夫、皆の力が集まれば、歪虚なんて全く怖くないんだから!」
一瞬の間をおいて――大喝采。
「んー、こういうイベントに関してはやっぱり俺はやるより観るのがいいなぁ」
いいもん見れたし、と真司も満足げに頷き、口笛と拍手を送る。
3曲目も見事に歌い上げ、ステージを飛び降りたJyuは笑顔を振りまきながらみんなと握手を交わしていく。
「あっ、あの、サインお願いします!」
色紙を差し出した観客にも、大きなハートマーク付きで見事なサインを描いてみせる。
「……いいな、あの殺陣。どこかで使いたいな」
「でもあれって、アイドルなんですか?」
「うむ、ほら歌って踊って戦えるアイドルだからな」
「なるほど」
ちゃっかりサインをもらって握手までしてから、クレーネウスと部隊員達は次の出し物に備えるのだった。
「アイドル……素敵ね!」
リアルブルー出身のアマリ・ユーナ (ka0218)から、アイドルについて教わったアマービレ・ミステリオーソ(ka0264)は嬉しそうに瞳を輝かせた。
歌を何よりも愛し、サルバトーレ・ロッソの転移をきっかけに新たな音楽を知るべくエルフの集落を後にした彼女だ。
どこのステージでも、知らない歌が、新たな歌が、素敵なハーモニーを作っているこの場所で。
自分が、アイドルとしてステージに昇って新しい音楽を奏でるなんて!
「アイドル……それは誰もが一度が夢見るもの! 私とて例外じゃないわ!」
三段フリルのミニスカート、白と赤の衣装にコウモリの髪飾りを付けたアマリが、ひらりとステージに飛び出していく。
「情熱的に行くわ!」
ギターを明るく掻き鳴らすアマリに続いて、アマービレが軽やかにステージに躍り出る。色違いお揃いのスカートはレースパニエでふわりとしたシルエット、彼女のテーマカラーは白と青。金の髪に桔梗が揺れて。
ユニット名は『dolce☆diva』。
奏でる歌は、エルフに伝わる美しい曲を、リアルブルー風に明るく華やかにアレンジ。
和音が広がり、歌が届く。軽やかなダンスが、花開くように繰り広げられる。
客席が温まって来たところで、ステージに横付けの階段から、左右に分かれて2人は客席へと飛び出した。
アマービレが最初に手を取ったのは、最前列にいた炎色の髪の少女。驚いたように見開いた翠の瞳に微笑んで、くるりと一緒にターンする。
「一緒に歌って!」
「……え、ええ!」
一瞬戸惑った少女は、けれど頷いてたどたどしく歌を合わせる。嬉しそうに笑ったアマービレは、次の観客と一緒にステップ。
「はーい、私達をよろしくね!」
アマリがコードを長く掻き鳴らし、音が消えるまでの間にさっと手を出して観客のみんなと握手する。
アイドルに営業は悪化せない、親しみやすさも大切だから。
戦闘部隊の研究でもあるから、ハンターや軍人に対して親しみを持ってもらえたら嬉しいと。
アマリとアマービレは目を合わせ、歌と踊りの渦を作っていく――。
「あーいいなぁスカウトしたいなぁ。帝国軍人になってくれないかなぁ」
幸せそうにその渦に巻き込まれながら、クレーネウスは呟く。
「駄目ですよ、ハンターは中立が基本ですから。諦めて帝国軍の中から中心になれそうな子探さないと」
部下にそうツッコミを入れられ、うーんと唸るクレーネウスは――ふと、炎色の髪の少女をじっと見つめる。
「三等兵だな。訓練兵だろうな若そうだし」
「よくここからわかりますね」
「今日見た軍人の中では一番可愛いな」
「そして俺の話聞いてませんね」
もはや慣れた顔の部下の前に、白いもふもふが現れた!
「もふっ!?」
「かわいいもふもふくま~♪」
しろくま(ka1607)である。
良く見たらしろくまの着ぐるみであることがわかる。
「もふもふしろくまぬいぐるみ、もふもふしろくま耳のカチューシャ、それにもふもふしろくまパペットもあるくま~♪」
「あ、可愛い」
部隊員の中の女性達が、しろくまを囲んで商品の品定めを始める。気付けばハンターも混じっている。
「もふもふくまーありがとうございましたくま~♪」
たくさん商品が売れて、とりあえずなんだかよくわからないけど『もふもふ教』を布教しに来たしろくまは大歓喜。
(くっくっく……これが罠とも知れず買っていってくれるくまー! これを手に取ったが最後! もふもふの魅力にメロメロになるくま!)
……まぁ、ある意味ね。
間違ってはいないかもしれない。
「はわわ、紅いしこれ女の子用?」
「はい。私は青にしました」
アナスタシアに手渡されたのは、フリルたっぷりの可愛らしい女の子用の衣装であった。
ざくろさん16歳。おとこのこ。
男物を着て格好よく決めるつもりだったので、ちょっとだけざくろは泣きたくなった。
でももう着るしかないもんね。
「ざくろ、限界までやりますよ!」
「うん! 舞台の上では笑顔だもん!」
ステージに飛び出した2人は、きらっきらの笑顔で観客席に手を振って。
「みんな、元気かなっ? ピュアアルケミーだよっこれからよっろしくー!」
一切の躊躇なく言い切りきゃるんなポーズでウィンク。ちゃんと聞いた内容通り。
「みんな、今日はざくろ達のために集まってくれてありがとう!」
可愛い女の子(に見える)2人の登場に、わぁっと客席に歓喜が走る。
「聴いてください、恋の無限機導!」
2人で作るハートマーク。もう片手にはアルケミストデバイス。
歌って、踊って、ステージ中を跳ね回る。きらきら輝くように、アルケミストデバイスからの輝きを光の帯のようにまとって。
「ラブ☆オブ☆エターナルアルケミア――無限機導! いえい!」
最後のフレーズを声を揃えて歌い上げ、さっと2人腕を広げる。光の剣が手に現れ、振り下ろすと翼のような残像を描いて消えていく。
盛大な拍手の中、己も手を叩きながらルミナちゃんは満足げに頷く。
「うむ、ナサニエルには逆立ちしてもできん芸当だな。やったとしても愛らしさが足りん」
こういうアイドルも素晴らしいな、と呟いたルミナちゃん、多分仕事を忘れている。
「アイドルか……詳しくは分からないが、要は男女ともにフリフリの服を着て歌って踊って観客を楽しませる奴の事だな」
もしかしたらざくろの舞台を見て、ヴァイス(ka0364)は最初から持っていたその認識を、非常に深めてしまったかもしれない。
特注のアイドル衣装はフリルたっぷり、黒を基調としたとても可愛らしいものである。
着慣れていないので少々恥ずかしいが、そういう文化もあるから全く違和感は感じない。おかしいとも思わない。
ヴァイスさん身長180cm、体重90kg。
そんな彼が舞台袖からどん、と登場した時の、驚きはかくや。
最前列のお姉さんなんか、『素晴らしい』と呟いて失神したくらい……いや、それは例外かもしれない。
しかし、そんな彼が踊れば、ひらりと舞うフリルと共にステージを、さらには客席を圧倒する。
アカペラで歌い上げるクリムゾンウェストの馴染みの曲は、張りのある声でどこまでも届く。
整った美貌は、激しい動きと時折思い出したように客席に向ける笑顔に、美しさ、そして色気すらも感じさせた。
ダン、とステージを踏んで最後の決めポーズを取った時――笑う者は、誰もいない。
交錯するのは大きな歓声と口笛、感激の声だった。
「ヒラヒラしてて可愛いですっ」
紅と蒼のツートンカラーの舞台衣装も華やかに。
紅の世界と蒼の世界、両方の出身者が集まって作り上げるアイドルユニット『クリムゾンブルー』。
「『あいどる』って歌ったり踊ったりするって話だけど、それってお祭りとどこが違うのかしら?」
「あいどる? って皆を幸せにする人達だって聞きました!」
きょとんと首を傾げる天川 麗美(ka1355)に、Uisca Amhran(ka0754)が紫の瞳を輝かせる。リアルブルー出身者から聞いたアイドル像は想像もあいまって、Uiscaの中で非常にきらびやかなイメージを作り上げていた。
そのアイドルに一歩近づけることが、嬉しくて仕方ないUiscaである。
「要は踊り子の事なのだろう? 大王たるもの舞踏や演奏程度、容易くこなしてやろうではないか!」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が、小さな身体を大きく反らして胸を張る。この舞台が決まってから練習したギターは、優れた音感を生かして簡単な曲ならかなり上手く弾けるくらいまでに上達した。
リアルブルーの実家が芸能の家だったから舞台に立ったことはあるけれど、と日本舞踊をたしなんでいた天竜寺 舞(ka0377)は楽しげに頷いて。
「アイドルなんて初めてだからドキドキするね♪」
くるりと優雅に回ればツートンカラーのワンピースが、紫も入れた三色が美しく混ざったように見える。
「せっかくの機会だから、みんなで楽しまなきゃソンよね」
麗美も長い黒髪を軽くかき上げ、そろそろかな、と舞台を見る。
ちょうど、前の出し物が終わったところ。
「お疲れ様ー!」
「あ、次なんだね。頑張って!」
軽く出演者同士挨拶を交わして、ついにステージへ――!
「わああああああああああ!!」
赤と青のバトンが揺れる中、ディアドラがギターを構え、麗美がキーボード代わりのオルガンの鍵盤に手を置き、視線を交わし頷き合って……ミュージック、スタート!
楽器を担当する二人の中央に、踊りを中心とする舞が位置して全体に統一感を与えるバックダンスを繰り広げる。Uiscaもくるりとスカートを翻してターンしてから、にこりと笑って息を吸い――、
「さぁおいでよ Welcome to world♪ そう行こう Let's go together♪」
紅と蒼の世界の出会い、そして出来上がる世界を描いた新曲、『キミたちとボクらのクリムゾンブルー』。
Uiscaの可愛らしいダンスを、舞がひらりとバックダンスで盛り上げる。
「さぁおいでよ 君と一緒に♪」
さっと腕を広げれば、鍵盤に指を滑らせた麗美が、コードをかき鳴らしたディアドラが、Uiscaと視線を交わして口を開く。
「紅の陽光 君と一緒に♪」
クリムゾンウェストの出身であるディアドラと麗美が、元気よく声を合わせる。
楽器から一瞬手を離して、中央に向けて腕を広げれば、舞が軽く腰を落とし、日舞を意識した踊りと共に口を開く。
「蒼の闇夜 語らおう♪」
リアルブルーの蒼を込めた歌詞を、高らかに。
そしてここからは、息を合わせたユニゾン!
「交わる心 出会えた奇跡♪ ふたつの色に彩られた世界で 紡がれる物語♪」
ディアドラが可愛らしいポーズを決めてにっこり。麗美が鍵盤を叩きながらさらりと黒髪を揺らしてウィンク。舞が高めに脚を上げ、スカートの裾から健康的な太ももを覗かせる。
(実家に知れたら怒られそう♪)
そう思い、くすりと舞は思わず笑みを漏らす。
「きゃーディアドラちゃーん」
イルミナルが全力で、赤いバトンを大きく振って。周りの観客達も、思い思いにバトンを振って、あるいは手拍子で歓迎する。
息を合わせたダンスと歌に、喝采が頂点まで高まったところで。
「君も一緒に ユメ見よう――♪」
最後の和音が、長く伸ばした声と一緒に響き渡り――消えた瞬間。
歓声と拍手、バトンを打ち鳴らす音、そして紅と蒼が客席にわっと躍る。
それに応えて、ありがとうと手を振って。
さらに握手にサインにと、4人の少女は忙しく、けれど楽しげにファンの期待に応えるのだった。
メトロノームは、観客席で人の波に揉まれながら、音楽に、踊りに、衣装にパフォーマンスに。
ただただ、酔っていた。
まさにアイドル、という姿。
自分には想像すらできない表現の自由さ。明るさ。
さらには、遥かな領域へと至った者の放つオーラ。
驚きだった。身体が震えるほどだった。
感激と興奮に震える手を握り締め、メトロノームはステージへと上がる。ハープをそっと傾け、静かな旋律を鳴らす。
湧き立つようなイベントの高揚が、優しい音に包まれて。
穏やかな余韻へと誘うのは、ハープの音と共に伸びてゆく柔らかな歌声。
「吟遊詩人や大道芸人が集団で芸を披露したり、ファンの子にサービスするものか……」
宣伝やプロパガンダに利用できそうだよね、とフワはそっと顎に手を当てて頷く。
アイドルについての、彼なりの見解だ。そしてそれは、帝国においてはおそらくそう遠くはない。
けれど――やはりアイドルは、歌やダンスを楽しみ、そして楽しさを伝える存在でもあるのだろう。
「ふたつの色に 彩られた世界で 紡がれる物語……」
そろそろ蒼の闇に彩られかけた空の下、人気の少なくなった広場を、マファルダが帰途に就こうと歩く。
歌を口にしているのは、無意識だろうか。
「君も一緒に ユメ見よう……」
2つの声が重なる。ふとマファルダが横を見ると、そこにはじっと広場を見つめて佇む少女。
夕日はもう沈みかけたのに、炎色の髪は夕焼け色に見えた。
「……あ」
声が重なったことに気付いたのか、慌てたように少女はぺこりと頭を下げて。
「ぶしつけなことをしましたわ……あ、私も帰らなければ。ごめんあそばせ!」
慌てて駆けて行く背中を、マファルダはじっと見送った。
アイドル。
その言葉一つ、そっと胸の中に収めて。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/29 18:21:12 |
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【相談卓】時代はアイドル♪ Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/07/01 00:25:13 |