狐と帰ろう―復―!

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/03/22 07:30
完成日
2015/04/01 10:08

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 うーん、良い天気、もう春ですね。そう空に向かって両腕を掲げて思い切り伸びをした途端、髪を巻き上げ上着をはためかせながら一陣の風が吹き抜けていく。
「ひぅっ、ま、まだ全然寒いじゃ無いですかぁ」
 ジェオルジ北部の山の麓に作られた、ルーベン・ジェオルジの所有する畑の一部を管理運営し、「魔術をもっともーっと、農業に役立てよう」を、モットーに活動する農業魔術研究機関。
 通称、「実験畑」。
 その実験畑で、「ちょっとした依頼にも、ハンターさんの手を!」と、自発的な営業活動に勤しむハンターオフィス受付嬢、自称ハンターの案内人は今日も忙しなく歩き回っていた。
 行き交う研究生に声を掛け、ポップな書体でカラフルなポスターを何枚も張っていく。

 「実験畑」に幾つも並んだ畑には、その名の通り、実験段階の――まだ実用に足りない、あるいはその効果が保証されない――新しい作物が幾種類も風に揺れている。所属の研究生や招聘された博士、あるいは職員の拠点となる本部棟を南端に据え、畑と畑の間に立てられた管理棟や、新種の実験を行う研究棟が点在している。
 さて。畑群の一つには、ここ「実験畑」のオーナーでもあるルーベンが特に手を掛けている畑群がある。
 「ルーベンさんの実験畑」と呼ばれる区画が、それ、である。


 粗方のポスターを貼り終えた案内人が、食堂で調達した実験畑産山菜のキッシュにぱくつきながら広場のベンチに座って芽を出し始めた畑や、青い茎を揺らす畑を眺めていた。
 ある青年が1人、彼女の装いを目に留めて近付いてくる。
「ハンターオフィスの方ですか? お仕事ご苦労様です」
 慇懃な程頭を下げた青年に、思わず噎せながらキッシュの残りを嚥下して案内人はベンチから跳ねる様に立ち上がった。
「はいっ! 以前もこちらで幾つかお仕事を頂きまして」
 そうですか、と青年は穏やかに頷いて、座ったままで構わないとベンチを示す。
 案内人の隣に掛けると、青年はモナ・カルヴィーノと名乗り、ルーベンに雇われた研究者の助手と言う身分と、その研究者が栽培し、通常のものよりも大分時期を外しながら、先日漸く収穫した作物について話した。

 リアルブルーから持ち込まれた防護服に着想を得た。特に、消防士、火消しとして働いていた方々から話を聞き、彼らに制服を提供していた方々にもお世話になりまして。
 防火の魔術を綿自体に配合する綿花なのですが、種自体に魔術を施して栽培しその綿花を紡いで布を作ることにより、既成の服に防火魔術を施すよりも魔術的なコストや汚染を減らせるという画期的な作物です。
 防火の能力は参考にさせて貰ったものよりも格段に高く仕上がりましたが、反面、収穫量は通常の綿花の3パーセント程度で、且つ非常に脆く、通常のものと混紡した上で手紡ぎでなんとか糸を作れるという切れやすさです。
 加えて水にも弱く、綿花の状態では濡れれば溶けてしまいます。
 しかし、そうやって作った試作の布はハンカチ程度の大きさで、暖炉にくべても暖炉の薪が燃え尽きるまで、焦げの1つも付きませんでした。水に浸けても溶けることなく、何度もその炎を防ぎました。
 生産の手間は掛かります。
 しかし、実用が叶えば、いずれ非常に役立つものと……今は力を持つ方々に縋り、怯えるしか無い歪虚から身を守る魁けにもなろうかと思っております。

 モナ膝の上に乗せた手は試作品というハンカチを握り小刻みに震えていた。
 綿花、ですか……と案内人は呟いた。
 そして、ぽんっと手を打つ。
「丁度、今向こうの山の方に、フマーレの紡績工場の方来てるんです。その工場は、何度かハンターさんのお手伝いもさせて貰いましたし、その綿花をどうにか出来るかも知れません」
 話だけでも如何でしょうか?
 案内人が尋ねるとモナはぱちくりと瞬いて、師とルーベンに相談するとその場を辞した。


 狐の微睡む箱を抱え、山を下りて帰途に就いた阪井紡績社員第一号、エンリコ・アモーレ。
 彼の荷馬車に満載された綿花の麻袋に紛れて一つ、一抱え程の大きさの黒い袋。
 社長宛の信書と共に託された重要な品だ。
 新書を懐に、袋は他の麻袋に紛れ込ませ。目覚めた狐が箱から飛び出し荷台に飛び乗ってきゅうと鳴いた。

「とてもとても重要で、貴重で、とにかく大事な物だそうです。ですので、街道の入り口でハンターさんに待機して貰ってます。無事に届けて下さいね」
 暫し実験畑に残るという案内人に見送られ、エンリコは夜明の道を街道へと馬車を走らせる。畑を抜け日が昇りきる前に合流したハンター達、案内人とモナから子細を伝えられた彼らに改めて挨拶を。
 そして、馬車は走り出した。

 早朝から急げば夜には帰り着ける距離。しかし日没前に降り出した雨が、濡らせない荷を積む馬車の進行を遮った。仮設の天幕の中、雨音は激しくなり……

 べちゃ、べちゃ、と泥を踏む足音が聞こえた。

リプレイ本文


 ぱたぱたと天幕を叩く雨音が次第に高鳴っていく。頭上で溜まった雨水が時折ざっと音を立てて、杯を返すように地面に零れる。馬を止めて積荷を確かめると、乾いた麻布と内に詰めた柔らかな綿花の弾力にエンリコはほっと息を吐いた。
「急いだことが裏目に出ちゃいましたね……」
 マリアンナ・バウアール(ka4007)が雨音を聞きながら、荷台に凭れて外を覗っている。天気は、少なくとも夜の内には回復しそうにない。
 エンリコも早く上がれと祈るように雨を眺めていると、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が、膝に抱えた箱の中を覗き込んだ。
「――悪戯狐、元気でやってるか?」
 元気づけるような声に、首肯を1つ返して雨に冷えた手で箱を差し出すエンリコよりも、その箱から顔を覗かせた狐の方がエヴァンスに飛びつこうと前足を暴れさせる。
「こいつですか? 元気にしてま――っと、大人しくして……」
 外に出ようとする狐を腕で押さえて、エンリコは困ったように眉を垂れた。
 狐と2人の様子に、イレス・アーティーアート(ka4301)がよかったと微笑む。
「狐さんとエンリコさんが離れ離れにならないでよかった……狐さんはエンリコさんがお好きなように見えましたもの」
 一度は山に返されそうになった狐は、それを躊躇わせる企みに手を貸してくれた彼女達にふさふさと尻尾を揺らして見せた。
「はい……ジオラさんも、天川さんも、この前はありがとうございました。不安ですけど、何とか頑張ってみようかなって」
 狐を箱に抑えながら、エンリコがイレスと、ジオラ・L・スパーダ(ka2635)、天川 麗美(ka1355)に目礼を、はしゃぐ狐にすぐに視線は逸れてしまったが送る。
「寄生虫が心配ですから、連れて帰るなら獣医に見て貰わないといけませんね……あと、手洗いは絶対に必要です」
 穏やかに通る声に、エンリコは思わず抱えた箱と体ごと、そちらへ向けた。
 クオン・サガラ(ka0018)は狐を一瞥すると、一度頷き飼い主となるだろうエンリコへ視線を移した。
「まあ……一度人間になついてしまった狐を連れて帰る事には反対はしませんが……」
「詳しいんですか……っ! 獣医さんと、手洗い、ですね」
 それから、と食い気味に尋ねる腕の中、警戒されているらしい、と察した狐は尻尾を抱いて丸くなった。

 狐が箱の中で襤褸を遊ぶ音が微かに、隣の呼吸の音、微かな風の音を聞いている。そんな雨音の中で、確かに人間では無い何かの足音が迫っていた。
「この先は、より慎重に進みましょう。でも、まずは……」
 マリアンナが鞭を取る。手を離せば解けるようにくるりくるりと巻き直して、きしりと皮を軋ませてしっかり握り締めた。
「安心しな、俺が護衛についた以上は荷物もお前らもしっかり守ってやるからよ。期待してな!」
 エヴァンスが剣を肩に振り返ると、口角を上げて歯を覗かせる。湿気て張り付いた髪を掻き上げて、コートの襟を立てる。
「行ってくる」
 箱の中で頭を起こした狐に指先を揺らし、ジオラはジャケットのファスナーを引き上げた。
 クオンと天川が静かに銃を取り装填して弾倉を叩く。銃口は未だ下げて、探る視線を走らせる。
 手負いの身でイレスもエンリコの側で盾を構えた。


 微かな音を頼りに茂みに飛び込んだジオラ、その側をマリアンナが射程を保って追う。2人から距離を取り、木に身を寄せながらエヴァンスが忍ぶ。木に背を預け、暗闇に慣らす目で周囲を覗いながら身長に奥へと進んでいく。先の方で光の点滅を見た。ジオラのライトが灯されて、消され、また灯る。
 誘う光の逆側を警戒しながら、エヴァンスはトランシーバーを肩と頬で支えながら馬車と依頼人を守る3人へ連絡を取る。

「向こうからも、こっちは見えにくいと思うけど……」
「ああ。これで誘われてくれれば良いんだが」
 雨が髪や頬を濡らしては体力を削って行くようにさえ感じる。冷え切った暗がりの中、茂みを払い、踏み抜く音を立てて進むマリアンナの目がこちらを、ライトを明滅させるジオラを覗う黒い固まりの中、虚ろな色で不気味に揺れる2つの光を見つけた。
「……っ――他には」
 息を飲みながら、鞭を解く。攻撃の構えを取りながら、研ぎ澄ます警戒を周囲に放つ。
 一度伏せて開いたマリアンナの瞳には動物の祖霊、その尖った瞳孔の独特な光が宿る。
 ジオラの腕が揺れた。ライトの光が流れるように枯れ枝を、茂る低木の隙間を、煙るような雨粒を繋ぎ、ずんぐりと歪むその輪郭を映した。
 照らし出されたそれに向かって、ジオラは咄嗟に銃を抜き、放つ。
「出たな――っ」
 片手をライトで塞いだままの不安定な光の中、泥を踏む足音を立てて迫るそれを狙い切れない鉛が腹の辺りを掠めるがその接近は止まらない。
 ライトを離して抜刀、柄を握る手に獣の腕の幻影が重なり、雨を弾く深い毛並みが白い肌を覆っていく。
 黒い固まり、歪んだゴブリンの成れの果てがその爪を届かせる前に、獣の力で突き出された鋩子が喉を捕らえ、体を裂いた。濁った悲鳴を上げてその雑魔が泥濘む地面に崩れる。
 その声に引き寄せられたように更に4つの目がこちらを向いた。マリアンナの鞭が翻る。雨を割って振り抜かれた大蛇の鱗。雑魔は濁る音で鳴きながら、その鞭を迂回するように揺れた。
 朽ちかけの雑魔に刀身を深く突き立てると、ジオラも新手へ視線を向ける。
「次は、2匹か?」
「はい……この目で、見える範囲には」
 人のそれよりも視力の高い両の眼で確かめる。マリアンナは振り抜いた鞭を引き付けて構え直し、柄を握り締めた。ジオラも刀身に纏った淀みを雨に晒して振り払うと、切っ先をその内の1匹へ向ける。

 今は無事だと天幕を守る3人との連絡を保ちながら、エヴァンスは茂みの奥へ進んでいく。
 濡れたコートを深く掻き合わせ、剣を構えて周囲を覗う。側に、1匹。己の間合いまでは後3歩。
 気取られぬように慎重な一歩を踏むと、濡れた落ち葉を踏み散らして、振りかぶった大剣を叩き付けるように、その脳天から振り下ろした。
 柄を握る両手に、至る腕にマテリアルの熱を感じ、熱いと言わんばかりに、は、と笑うような息を吐く唇が弧を描いている。真二つに割れた雑魔が土に溶けるとその向こう側を眺める瞳は、艶めいた琥珀に染まって爛爛と輝く。
「先ずは、1匹……っと」
 高揚の中、視界の端を過ぎった2つの影。闇に慣れてきた目でその行き先を追うと、払った剣を担ぎ直して、その行き先へと足を急かす。

 盾と自身の背後に依頼人の青年と、箱の中で今は大人しく丸まっている狐を庇いながら、イレスは傷付いた体を竦めて周囲へ警戒を走らせる。
 少しでもこちらの警戒を知らせるようにとライトを幾つか灯すが、箱の中の狐が煩げに藻掻いただけで、微かに聞こえていた足音の様子も変わらない。
「怖いですね、何か……その」
 箱を抱えてエンリコがぽつりと零す。
 その声に振り返って、クオンが静かに、と指を立てる。天幕の境に佇んで、茂みと街道の先と交互に視線を向けながら、時には耳を澄ませて雨音に紛れる足音を探る。
 別の方向へライトを向けながら、天川も励ますように微笑んで見せた。
 イレスが通信を受け取る。発見と撃破の報せだった。こちらの無事を伝えて通信を終えようとしたその時、ふと胸裏がざわめいた。こっちだと言うように赤い瞳の影がちらつく。
 向けば、そこには。
「前方から、3匹ですか……偵察の方が大方引きうけてくれたようです」
 クオンが銃口を擡げ、軽く足を開いて構える。射程との距離を計って、リアサイトを覗いた。
「いつでも、防御できますよぉ……」
 天川もイレスとエンリコを振り返って告げると、起動の音を立ててマテリアルを巡らせる大型の銃を、クオンへじりじりと距離を詰めていく敵へと向ける。
「もちろん、攻撃も。ですよぉ」
 イレスは今切れたばかりのトランシーバーを慌てて繋いだ。
「――――こちら、雑魔3匹です」

 誘うように動き、現れた2匹へマリアンナが鞭を振るう。祖霊を下ろす鞭に揺らぐようにその幻影が一瞬浮かんで、食い付かんとする動きで雑魔へ迫った。1匹はその鞭が捕らえたが、もう1匹が爪を立て牙を剥きながら彼女へ飛び掛かる。
 獣の咆哮が響いた。
 刀を大袈裟に振りかぶり、その喉から口唇へ獣の幻影を纏って白く鋭い牙を剥き、ジオラが雑魔へ声を放つ。
 こっちへ来い。誘うように声を上げて、刃を揺らすと、竦んだ雑魔は泥を跳ねさせながらゆっくりと、もう1匹の側を離れ、怯懦に竦む爪を揺らす。
 咆哮が止む瞬間、跳ねる様に飛び掛かったその爪が手甲の隙を突くように腕を一筋裂いた。軽い一撃に揺れた柄を握り直し、ジオラはその雑魔を睨み付ける。
 そこへ、知った気配が迫るのを感じた。
「――お前自身の運の悪さと嘆くんだな」
 エヴァンスの大剣が雑魔の腹を割る。ジオラが刀を振り下ろすと、十字に斬られた雑魔が土塊に変わって泥濘に溶けた。
「ま、ゴブリンに後悔の念があるかどうか知らねぇが」
「ああ。残り何匹か……侮らずに慎重に行こう」
 今ここには残り1匹。2人が視線を向けると、マリアンナの鞭が撓りその体を捕らえて引き倒す。ジオラが袈裟に振り上げた刃を叩き付けると二つに割れた土塊に変わった。
 それを見届けてマリアンナが鞭を束ねる。
「この辺りには……もう見当たりません。雨で匂いも音も遮られてる。視界もそんなに良くないからかしら」
 だろうなと頷き、ジオラも被る雨水を払いながら辺りを見回した。
 追った敵の始末とその通信を終え、また別方向へと向かい掛けたエヴァンスの手元でトランシーバーがノイズ混じりの声を響かせるが、天幕の襲撃を伝えた声は3人にクリアに届いた。
『――こちら、雑魔3匹です』
 ジオラは天幕へ走りながらライトの光を向け、吠える声を立てて誘う。マリアンナとエヴァンスは残って、これ以上の敵が天幕へ向かわないようにと警戒を強めた。
 ジオラの声が遠くなると、茂みに紛れた足音が聞こえた。

 たん、と雨を裂いた鉛が地面に落ちる。雑魔の爪先を砕いたそれが、仄かに纏う火薬の匂いはすぐに流れた。近づき倦ねているその足を狙いもう一発。
「こちらはわたしが引き受けます。近付かせません」
 クオンが天川へ視線を向け、狙いを外さぬままに告げる。
「分かりましたぁ、任せて下さいねぇ」
 もう1匹、足を進めようとする雑魔を狙って銃を担ぐ天川が応じる。牽制に放つ銃弾はその雑魔の足を薄く削いだ。
「こっちも、近付かないで下さいねぇ……」
「これの外には出たくないですね……ここを狙われると厄介です」
 3匹目の雑魔の前にもクオンが鉛を落とすが、射程から外れて逃れるそれを削ることはない。残弾を撃ちきってロードに引鉄を緩めながら、視線は敵を外さない。
 リロードの隙に1匹が足を引きずりながら詰めてきたが、そこを狙うと射程外へ逃れていく。
 膠着の中、こちらへ伸びるライトの光の線と、獣のそれにしては優しげな咆哮を聞いた。
「ジオラさんですねぇ。……向こう、大丈夫でしょうか」
 天川が2匹の間へ散らす様に銃弾を撃ち込む。光と声に釣られて1匹が茂みに向かう合間に、重い銃弾を装填し直す。
 見えていた雑魔の影が茂みに消えると、イレスはトランシーバーを取った。
「――1匹、そちらへ向かったようです」
 足を撃たれた手負いが2匹残った状態となる。
 射程を保てる天川はそのまま1匹に狙いを定め、引鉄に指を掛ける。片目を瞑りリアサイトを覗き込むと、その銃の大きさに相応の反動に備えて地面を踏みしめた。
 高い銃声が谺する中、クオンは天幕から飛び出して残りの1匹を射程に捕らえる。その一撃で腹を抉った雑魔が尚も爪を立てて迫ろうとする頭部を抑えると、表情一つ変えぬままマテリアルを電撃に換えてその動きを封じる。
 半歩足を引いて動きの止まったその頭に鉛を打ち込むと銃を下ろした。
「さっきのは……いや、追わない方が良さそうです」
 天幕の内へ戻り、馬車を寄せた茂みを、雑魔の現れた辺りから街道まで、引鉄から指を解かずに見回して言う。
 クオンの横で雑魔を撃ち抜いた天川もほっと息を吐いて銃口を下げる。
「――こちらは、無事です。――麗美さんと、クオンさんが――はいっ」
 イレスが通信を終えると、ジオラが茂みから丁度戻ってきた。既に土塊に変わった雑魔の骸を二つ見つけると、安堵したのか足を真っ直ぐ馬車に向ける。
「無事か……良かった」
「はい。そちらへ逃げた1匹も、エヴァンスさんとマリアンナさんが倒してくれたみたいです」
 トランシーバーを握ったままのイレスが伝えると、ジオラも笑んで窮屈に引き上げたファスナーを緩める。
「向こうは、大分静かになった……暫くこっちを警戒しようか」
 吠え草臥れた喉をさすって、獣の幻影を解く。感覚だけは澄ませて茂みの向こうを覗った。


 こちらへ逃げたと伝えられた雑魔へライトの光を向ける。浮き上がる黒いそれの動きをマリアンナが鞭で封じ、エヴァンスがマテリアルを込めた全力で切り伏せる。
 これで本当に最後だろうかと見回していると、天幕の方も無事だというイレスの声がトランシーバーに届いた。こちらの状況を伝え、一旦戻ることにした。
 2人が天幕まで戻ると雨足は大分緩み、視界を遮る程ではなくなっていた。
 街道を抜けるまで警戒は解けないだろうが、雑魔の足音らしき音は聞こえなくなっている。
 全員が揃うと強張っていたエンリコの顔がふと緩んだ。箱の中の狐も前足を縁に掛けて顔を見せる。
 まだ隠れていた方が良いとジオラはその頭を一撫でして、すぐ傍らで見張りに戻る。
 そういえば、と天川が狐をつついてエンリコを呼ぶ。
「この狐ちゃんのお名前、なんて言うんですかぁ?」
「……ああ、まだ決まってないんです。帰ったら、付けてやらないと」
 逃がすつもりだったからと箱を覗く。当の狐は天川の言葉を喜ぶように尻尾をふさふさと揺らしていた。
「大変なことになるのはこれからですよ。しばらくの間は、連れ出すのも慎んで下さい」
 気遣わしげなクオンの言葉に、慌てて箱を塞ごうとするエンリコの腕の隙間から身を捩って飛び出すと、狐はハンター達の肩を伝い、くるりと跳ねて中空で身を翻し、笑うように鳴いて見せた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 心の友(山猫団認定)
    天川 麗美(ka1355
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • ビューティー・ヴィラン
    ジオラ・L・スパーダ(ka2635
    エルフ|24才|女性|霊闘士

  • マリアンナ・バウアール(ka4007
    人間(紅)|18才|女性|霊闘士
  • 青き瞳の槍使い
    イレス・アーティーアート(ka4301
    人間(紅)|21才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
天川 麗美(ka1355
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/03/22 07:30:13
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/03/20 06:53:00