心の代償

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/03/24 22:00
完成日
2015/03/31 02:23

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「どうして……何も見つからないの?」
 強烈な違和感があった。
 あの日、エルフハイム付近を通過する歪虚CAMを止める為に器が発動させたという大規模浄化術式。
 そしてその媒体として使われたという“浄化の楔”。出現した四霊剣、不変の剣妃オルクス。
 ハイデマリー・アルムホルムは知っていた。あの術式の存在も、あの楔の存在も。
 しかしそれは“教えられた”わけではなかった。彼女が求め、望み、研究を重ねる中で見えていた一つの未来の可能性。
「師匠……あなたは本当に……」
 嘗て男は言った。“そんなものはとっくに過去にしてきた”と。
 機械仕掛けの浄化の楔とも言うべき道具が机の端に転がっている。目を向けながら女はそっと本を閉じた。
 結界術を使い、闇の楔とも言うべき杖を持つオルクス。
 器の少女の存在と、歪虚を消し去るという大規模浄化術。
 そして由来の知れぬ男が語った浄化の力。
「導き出される結論は……」
 “だとしても”。
 あれだけの力。帝国が、錬金術士組合が知らない筈がない。
 記録していない筈がない。前例がない筈がない。なのに何も見つからない。
 どんな書物を紐解いても、どれだけ人に聴きこんでも、誰も知らない。
 そもそも、ゾンネンシュトラール帝国の起こりとエルフハイムに関する資料は大幅な欠落を有している。
 それはあの革命戦争で失われたと聞いた。だが本当にそうなのか?
 口伝でならば可能だった筈。知っている者がいたとしてもおかしくない筈。
「隠したのは……誰?」
 頭を掻き立ち上がる。そういえば何日も風呂に入っていない。
 億劫ながらにワイシャツのボタンを外し、ズボンを脱ぎながら歩いていると、ふと郵便受けにある便箋が目に止まった。
 手紙なんて錬金術士組合からしか来ない。だがその便箋は組合の物ではない。
 眼鏡がなくてぼやける文字に目を凝らし、女は訝しげに封を切った。



 森の浄化は器の使命の一つだ。
 それ以外を目的として森を出る事はない。その使命は常に複数の巫女と護衛を伴い果たされる。例えどんな些事であっても。
「器は問題なく機能しているようですね」
 顔を布で隠した白装束の巫女が呟く。その視線の先では厚いヴェールで覆われた器が大樹に両手を翳していた。
 打ち込まれた楔に光が集まり、それは器に吸い込まれているように見える。ジエルデは目を細め、僅かに頷く。
「当然でしょう」
「六式結界の中核となって尚、“歪虚病”に侵されないとは驚きです」
「誰から聞いたのかしら?」
 巫女がびくりと肩を震わせる。ジエルデの横顔は鋭く冷たく、視線だけが巫女を貫く。
「六式は、非常に負担の大きい術ですから……それに浄化対象が大きければ大きいだけ、反動は増すと……」
 たじろぐ巫女を追求はしなかった。誰から聞いたかはどうでもいい事だし、人の口に戸は立てられない。
 恐れているのだ。浄化を司る巫女でさえも、あの器の少女が闇に蝕まれるその時を。
 器に何人もの巫女が着くのはあれを守る為だが、それ以上に器が闇に堕ちた時、“処理”する必要があるからだ。
 歪虚CAMの浄化、更にオルクスと至近距離で面した事で巫女達は危惧していた。器が汚染される事を。
「そして……私も」
 役目を終えた器は鎖で繋がれた手を降ろし大樹を見上げる。森に潜んでいた闇の気配は消え去り、清らかな風が吹き――。
「うしろ」
 器が言葉を発した事に驚く間もなく振り返ると、そこには草木の影から顔を覗かせる骸骨の姿があった。
「歪虚……どうしてこんなところに!?」
 護衛についたエルフ達が矢を放ち剣を抜く。戦闘は始まったが所詮は雑魔、大した相手ではない。
「器を守護します。陣形を……」
 そう指示を出そうとしたジエルデの目の前で、先ほどまで言葉を交わしていた巫女が銃声に倒れた。
 頬についた血を指先で拭い、咄嗟に器を抱きかかえ跳ぶ。再び銃声が轟き、負傷した護衛が短く悲鳴を上げた。
「銃器……!?」
 見れば森に紛れる為か、迷彩柄の外套を纏った人影が此方に銃を向けている。雑魔と人間が挟撃したかのような形だ。
 ジエルデは杖から光を放ち、巫女達を銃撃から庇う。闇には強い守護だが、物理攻撃には脆い。
「総員撤退! 歪虚側から離脱します!」
「歪虚に近づくのですか!?」
「人間とやりあうよりマシよ!」
 銃弾が結界を突き抜けジエルデの脇腹を貫く。傷口を抑えながら女は杖の先端に光球を作り敵陣に投げた。
「走りなさい!」
 何故だとかどうしてだとかそんな事はどうでもいい。今は守る事を優先する。
 撤退を開始するが巫女の中には銃声に怯え身動きが取れない者もいる。頭を両手で抱え、震えながら涙を浮かべていた。
 舌打ちするジエルデ。と、その前に立ち塞がったのは器だった。
「ひと、ともだち。なかよくしましょう」
「馬鹿ッ!!」
 素で絶叫した刹那、銃弾が器を貫いた。大きくのけぞる少女。しかしぐんっと上体を戻し。
「いたい」
 と呟くと、何故か狙撃手が吹っ飛んだ。
 器は青白い光を纏いゆらゆら揺れる。その様子に巫女は戰くように這いずって後退した。
「ひぃっ、器が……!」
「いいから逃げなさい!」
 銃弾が空中で弾ける。少女は儀式で傷跡だらけになった両手を前に差し伸べる。
「ともだちともだちともだち」
 ぞっとした表情で逃げ出す巫女。こんな状態の器を見た事はなかった。
「とととももだちちだだもも」
 銃弾は明らかに器を狙っている。だが攻撃は通じず、器は壊れたラジオのように呻いている。
「ひてい。いたみ。きょうふ」
 白い光が弾け、ジエルデは吹き飛ばされた。器を中心に周囲が抉れている。
 ヴェールから解き放たれた少女は長い前髪の合間からうっすら笑みを作る。
「やめなさい!」
 その時、別の銃声が轟いた。ハイデマリーは銃を構えたまま走り、木の根を飛び越え発砲する。
「どういう状況……!?」
 反撃の弾丸に眉を潜め、木の影に隠れる。ハンターの一人が器を指差すと女は言った。
「あれは……浄化の器? またなの?」
 直感的に感じる。あれは今止めておかないと不味い事になると。
 器はハンターにも目を向け、きりきりと首を傾げる。その笑顔は氷のように冷たかった。

リプレイ本文

「なんだこの状況は? まるであの時の焼き直しじゃねえか」
 木の幹から身を乗り出すように銃を構え引き金を引くジルボ(ka1732)。反撃の弾丸が木を削る音に片目を瞑り呟く。
 彼にとってこの状況は二度目。隣で銃を持つハイデマリーも同じ既視感を覚えていた。
「アンタと組むと退屈しないねー、まったく」
「私のせいじゃない……とは言い切れないか」
「一回目は偶然だとしても、二回目は流石にねぇ。誰かの差金なのか、そうでなきゃアンタが疫病神なのか」
 二人は顔を見合わせ、同時に身を乗り出し発砲。襲撃者達も物陰に隠れているので直ぐ始末は出来ないが、牽制には成功している。
「今の内だな。フェリア、一丁派手に頼むぜ!」
 J・D(ka3351)の声を合図にフェリア(ka2870)は杖を振るい、茂みや木に隠れた襲撃者達に当たりをつけ、スリープクラウドを放つ。
 効果の程はともかく、煙幕代わりにもなる。その間に仲間達は射線上を通過し一気に器や巫女達へ距離を詰めた。
「この子が器……噂には聞いていたけれど」
「まずは非戦闘員を避難させなければ……」
 神妙な面持ちで器を眺めるモニカ(ka1736)。フランシスカ(ka3590)も共に走るが、決して軽くない程度の負傷を負っていた。
「こんな状況です。人手は必要ですが、決して無理はなさらぬよう」
「死ぬつもりはありませんよ。私を信じてくれる方々の為にも」
 こなゆき(ka0960)はフランシスカの答えを確かめるように頷くと、後方でエルフ兵を襲うスケルトン達へと距離を詰めた。
「助太刀致します」
 エルフ兵と鍔迫り合いするスケルトンを側面から刀で薙ぎ払い構え直す。
「人間……? 何故我々を助ける?」
「理由がなければ人助けは出来ませんか?」
 そんな事を言っている間に別の個体が襲いかかる。こなゆきは鉄扇でその攻撃を弾き、エルフ兵が剣で骸骨を斬りつけた。
「今は迷ったり議論している暇はない筈です」
 幸い雑魔の力はそこまで強力ではなく、エルフ兵の練度は高い。数で劣るが、こなゆきの力があればなんとか渡り合える。
 その間にフェリアとフランシスカは怯える巫女達に駆け寄るが、巫女はそんな二人にも恐怖しているようだった。
「ひっ、人間……こ、こないで!」
 フランシスカの視界の端には既に銃で頭を撃ちぬかれ死んでいる巫女の姿がある。目を細め、改めて生存者と向かい合う。
「このままではあなた達も危険です。我々が安全な場所まで誘導しますから」
 しかし巫女は震える両手で短剣を構える。フランシスカは落ち着いた様子で首を横に振り。
「敵も器も我々がなんとかします。大丈夫……私が信じる仲間達です。この程度の相手に負けはしません」
「あなた達人間のせいで器が暴走して……! 終わりよ! もう何もかも!」
 ふと、違和感を覚えた。人間に対して怯えているのもそうだが、本当に巫女が恐れているのは器のようだ。
「ジエルデ様だって、器が闇に染まったら手の打ちようもないわ……! 皆死ぬのよ!」
「大丈夫。守りますから落ち着いて。ね?」
 フェリアは覚醒の力で光の翼を広げ巫女に手を伸ばす。しかしかえって巫女は恐怖したように後退した。
「ひっ」
 フェリアが怖い、というよりは翼を恐れているかのようだ。光の翼。実体の無い、幻影の翼に……。
「きゃっ! いた……痛い!」
 モニカの悲鳴が聞こえたのはその時だ。器を庇うように背を向けて立っていたモニカへ器が片手を伸ばしていた。
 だがそれだけで、手がモニカへ触れているわけではない。なのに肩を強く握り締められたような痛みがあった。
「ともだち?」
「何? な……ひゃっ!?」
 急に身体が背後に引っ張られる。器はモニカに触れていないが、背後からがっちりと拘束されている感覚があった。
「や、め……どうし、て……こんな……うああっ!?」
 力が強すぎて肉の表面が裂け、骨が軋む。首を掴まれ息も絶え絶えなモニカの悲鳴にJ・Dは振り返り。
「なんだァ!? 何がどうなってやがる!?」
「J・D、敵がまだ残ってる!」
「わァってるよ、ったく……邪魔だ!」
 あまりモタモタしていられない。危険を承知でジルボと共に襲撃者達へ駆け寄ると、スリープクラウドの効果から免れた相手を銃で撃ちぬいていく。
「余所見をしている場合ではありませんよ」
 狼狽えるエルフ兵に注意しつつ骸骨を攻撃するこなゆき。背後は気になるが、ここで敵を通すわけにも行かなかった。

「今の器に近づいては駄目! あなた達も逃げなさい!」
 傷を自己治癒したジエルデが杖を振るい叫ぶが、モニカが囚われた状態ではそうもいかない。
「そういう事ですか」
 フランシスカが納得したように呟いたのは、器の背中から無数の腕が伸び、モニカを捕らえているのが見えたからだ。
 覚醒変化というよりはそういう術なのか。なるほど、背中から伸びる無数の腕はまるで翼のようだ。
「ジエルデ、こりゃどうすればいいんだ!?」
「あなたは……」
 ジルボの声にジエルデは眉を潜め。
「元に戻れるかどうかは賭けです。戻れないのなら……」
 ジエルデは剣のような形状をした自らの杖に目を向ける。
「巫女さんよ。あんたサン、あのお嬢ちゃんは大事かい?」
 J・Dの言葉にジエルデは何とも言えない視線を返す。
「見た所、見殺しにしてえ様にも思えねえ。俺達も同じさ。ここは一つ、俺達にも手伝わせちゃァもらえねえか」
 ジエルデは答えあぐねているようだった。というより、どうしたらいいのかわからないというのが正しい。
 過去にこうなった事はある。“その個体”はどうにもならなかった。
「器の暴走は、人を知ろうとしている部分にあるのではないでしょうか?」
「確かに、友達と言っていましたね」
 フェリアの声にフランシスカが頷く。しかし巫女は達は失笑し。
「友達? 出来るわけないでしょ、あんな化け物と!」
 フランシスカが睨むと巫女は怯えたように黙り込むが、その場にいるエルフ達にとってそれが共通認識だった。
 エルフ兵も怯えている。巫女も恐怖する。神々しく悍ましいその怪物の姿に……。
「いたみ。いたみ。痛み……」
 モニカに背後から頬を寄せた器は無表情に目を細め。
「モニカは好きじゃないのよ。誰かに汚染を押し付けてそれで綺麗にしたつもりなんて何の解決にもなってない」
 驚いたモニカが目を見開く。それはモニカではなく器の口から流暢に流れたのだ。
「お友達が沢山、羨ましい。モニカもお友達になりたいのよ」
「あなたは……モニカ……じゃ、ないっ」
「お友達。モニカのお友達。モニカのもの」
 歪に笑うと同時、幻影の腕がジルボとフランシスカ両名へ向かい、その腕を掴みあげた。
「うおっ、マジか!?」
「ぐっ!」
 フランシスカは元々の傷もあり、強い痛みを感じる。同時にモニカとジルボも悲鳴を上げた。
「いってぇ!? なんだよこれ!」
「皆一つになりましょう」
 引き寄せられる二人。J・Dは混乱しつつも襲撃者の相手を続行する。
「ジルボ!」
「よせJ・D! こいつ、心の繋がりを狙ってやがる! お前も取り込まれるぞ!」
 歯ぎしりするJ・D。モニカは脂汗を浮かべながらきつく目を瞑り。
「この痛み、フランなの……?」
 フランシスカも胸を片手で抑え、痛みに堪えていた。
「これは……寂しさ……?」
 次の瞬間、唐突に拘束が解除された。器は衝撃に弾かれるように背後に飛び、仰向けに倒れている。
「一つの生命に沢山の心。何故?」
 スケルトンを倒し終えたエルフ兵達だが、器には近づけない。こなゆきは刀を鞘に収めると放り出し、器へ駆け寄る。
 同じくフェリアも器へと走りだしていた。倒れた少女を抱き起こし、優しく笑いかける。
「大丈夫。貴方に危害は加えません。私は貴方と仲良くしたいだけ。彼らとは違います」
「武器や痛みで他人と接する事だけが、友達になる方法ではありませんよ」
 そんな二人も取り込もうとする器の光へフランシスカは膝をつき、血を流しながら叫んだ。
「それは守るための力! あなたのともだちを護るための力でしょう!? 大切なものを傷つける前に……大切な誰かを失う前に! 目を覚ましなさい!」
 切迫した状況の中、突然ハーモニカの音色が流れ出した。それは地べたに引き倒されたジルボのものだ。
 器はじっとジルボを見ていた。“触手”から解かれたこなゆきとフェリアが息をつくと、モニカは器の少女に手を差し伸べる。
「痛みや恐怖、傷つける事だけが繋がりじゃない。大丈夫。モニカも……“俺”も、君の友達だよ」
 器の瞳に、モニカの身体から触手を引き剥がした少年が宿る。
 傷つけない触れ方がわからなかった。誰も触れてくれなかったから。だけど今はわかる。
 恐る恐る伸ばした指先がモニカに触れる。
「……なのよっ」
 その笑顔を真似するように微笑んだ後、糸が切れたように器は意識を失った。



「流石にびびったぜ……無事か相棒?」
 服の中に隠れていたパルムに声をかけるジルボ。パルムは完全に怯えていたようだが、今は落ち着いている。
「こんなお嬢ちゃんが、あれだけの力をなあ」
 眠る少女にJ・Dは憐れむような声を漏らす。器は無力化されたのに、エルフ達は全く近づいてこない。
「器は私が責任を持って連れ帰ります。あなた達は先に帰還しなさい」
 ジエルデの言葉に反論はなかった。巫女達は泣きながら森の中を走り、兵士と共に姿を消した。
「命を落とした仲間もそのままですか」
 死んだ巫女の前で十字を切るフランシスカ。こなゆきは小さく息をつき。
「こんな少女に穢れを押し付け“器”と呼び、同胞を手に掛ける重荷を背負わせ“巫女”という。こんな有り様が正しいとは思えません」
 ジエルデは器の少女を抱き起こし、その頬を撫でる。
「森の為、種族の為に必要だったのなら、その重荷は皆が平等に背負うべき物だった筈です。そして皆でより良い方法を模索していくべきではなかったのでしょうか?」
「……私達は臆病な生き物よ。皆が同じ痛みを、恐怖を抱えていたら社会を形成出来ない。多くを救う為に仕方ない事なの」
「だからって、それで皆が何もしなかったら何も変わらないのよっ!」
 両手の拳を握り締め叫ぶモニカ。
「貴女自身はどうしたいの!? ねえ、器を助けたくないの!?」
「あなた達に……何がわかるの?」
 顔を上げたジエルデは大粒の涙を零していた。大の大人が子供のように泣く姿に、モニカも驚く。
「助けたいに決まってるでしょ」
「なら、助ける努力をしようよ! 少なくとも貴女はそれが不可能な立場じゃない!」
「助けようとした! 助けようとしたわ! 何回も何回も! でも出来なかった!」
 眠る器を抱きしめ、ぼろぼろ涙を零しながら女は叫ぶ。
「何人も駄目にしちゃった。助けようとしたのに。私に力なんてない。たった一人を救う力さえも……」
 言葉を失ったモニカの肩をJ・Dがそっと叩く。その時、器がゆっくりと瞼を開き身体を起こした。
「泣いてるの?」
 ジエルデは驚き、涙を両手で拭って仏頂面を作ると、何事もなかったかのように距離を取る。
「お嬢ちゃん、ケガァしちまっているンじゃねえのかい。痛ェだろう?」
「平気。もう修理した」
 確かに器に傷はない。J・Dは腰を降ろし、ニッカリ笑う。
「お嬢ちゃん、友達が欲しいンだろ? 友達と何がしてえんだい?」
 俯く器。ジルボは咳払いし。
「何かを訴えかけるのは悪い事じゃないんだぜ。器だろうが巫女さんだろうが、もうちっと必死に生きようとしてもバチは当たんね~よ」
 とは言え器には特に願いはないようだった。考える事もできないというべきか。
「ハイデマリー。身体の中に溜まっている穢れを軽減する方法は、ある? 今はなくても、可能性として」
「手っ取り早いのは、他に移す事だけど」
「それじゃ今やってるのと同じなのよっ」
「難しい話だけど……まあ、考えてみるわ。誰も確かめていないのなら、可能性は否定出来ない」
 そんな話をしていた所へ、フェリアが襲撃者の死体を引きずってきた。
 騒動の途中で生き残りは逃げたようだが、死体は放置されていた。
「お話中すみません。これを見てください」
 襲撃者の顔を覆う布を取り払うと、全員が驚いた。
「人間ではなく……エルフ?」
 こなゆきの言う通り、襲撃者は人間ではなかった。同族であるはずのエルフだったのだ。
「この状況が偶然でない事は明らかですが……」
「ヤケに手が込んでるよな。どうやら俺達をからかって楽しんでる奴が居るらしい」
「そんな……まさか……」
 愕然とするジエルデ。ジルボは頬を掻き。
「やられっぱなしも気分が悪いだろ? お互い情報を吐き出してスッキリしようじゃないの」
 ジルボは自分達が何故ここにやってきたのかを説明した。
 その中でジエルデとハイデマリーは互いに見つめ合う。この邂逅は、二人に焦点があたっているように思えるからだ。
「私に心当たりはありませんが……エルフハイムも一枚岩ではありません。積極的に歪虚と一つになろうとする勢力まであります」
「エルフは歪虚を恐れているのでは?」
「その恐れを克服する為のシステムが器である事を鑑みれば、おかしな事ではないでしょう? 生物は恐怖に克つ為に手段は選ばない」
 ジエルデの鋭い口ぶりにこなゆきは思案する。フェリアは頷き。
「何にせよ、このままというわけにも行かないでしょう。真相の究明は必要です」
「私も自分なりに調べてみます。長老会の一人として、無視できない事実ですから」
 ジエルデに対し、ハイデマリーはどこか上の空だった。
 ハンター達の治療にもジエルデは協力した。お陰でなんとか皆自力で帰還できそうだ。
「救助には感謝します。しかし、私達には私達の成すべき事がある」
「無くした後に、ああすればよかったって思っても……その時には、すでに手遅れ、なのよ」
 モニカの言葉に目を伏せ、ジエルデは背を向ける。その後に続くように器は歩き出し。
「さよなら」
 一瞬だけ振り返り、そう告げた。
「アンタ、もっと色々訊かなくてよかったのか?」
 ジルボの声にハイデマリーは視線を返し。
「ええ。大体なんとなく察しはついたから」
「ハイデマリー……器を助けてあげて」
 ふっと笑みを返し、モニカの頭を撫でるハイデマリー。
「やるだけはやってみるわ」
 こうしてハンター達は森を後にした。この場所で起きた事の意味を、それぞれの胸に問いながら……。



「ああ。器ちゃんもジエルデも無事だ。俺の出る幕はナシ。生き残った連中は、予定通り始末しといた」
 森の中、逃げ延びた襲撃者達が死んでいた。首をおかしな方向にねじ曲げられ、全員が拳の一撃で即死している。
「わーってるよ。この辺の雑魔も倒しといた。なんで俺ばっかこんな役割……」
 ぶつくさ言いながら人影は去っていく。その手には人間が作った道具であるカメラが握られていた。

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MVP一覧

  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボka1732

重体一覧

参加者一覧

  • アイドルの優しき導き手
    こなゆき(ka0960
    人間(紅)|24才|女性|霊闘士
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • 【騎突】芽出射手
    モニカ(ka1736
    エルフ|12才|女性|猟撃士
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • 幸福な日々を願う
    フローラ・ソーウェル(ka3590
    人間(紅)|20才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
J・D(ka3351
エルフ|26才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/03/24 20:33:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/03/19 09:23:43