クルセイダーの葛藤

マスター:秋風落葉

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/03/28 09:00
完成日
2015/03/31 07:41

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ロザリア=オルララン。
 愛称はロザリー。
 クルセイダーとして常に仲間をバックアップする彼女は、いつしか『聖女』という二つ名で呼ばれるようになった。
 今日も、彼女とその仲間達は戦いの渦中にいる。
 敵は武装したゴブリンとホブゴブリン。
 とはいえ、戦いはもはや終盤だ。敵は前衛の戦士達に蹴散らされ、残りわずか。
 そんな折、ロザリーはふと、心ここにあらずという状態になる。彼女の中に浮かぶのは、今現在の戦いの軌跡だ。
 後衛に立ち、常に支援魔法を切らさない。先程も仲間へと『プロテクション』を飛ばしたばかりだ。
 いつもの自分だ。
 皆から期待されている『聖女』としての自分だ。
 しかし、このままでいいのだろうか?
「危ない! ロザリーさん!」
 戦場で思考の海に沈んだロザリーに、仲間の戦士が声を限りに叫ぶ。
 武装したホブゴブリンが最後の一矢を報いんと、か弱そうな一人の少女へと襲い掛かったのである。てだれの戦士ですら捉えかねない必死の斬撃。
 狙われたロザリーは悲鳴をあげる。
「きゃあああああああ!!(ストラァァァィクブロウ!!)」
 歓喜に満ち満ちた悲鳴を。
 ロザリーは敵の攻撃をあっさりと回避し、おまけにカウンターの一撃を見舞う。
 ごすっ。
 という剣呑な音を立てて、ロザリーのメイスはホブゴブリンの頭にめり込んだ。信じられないほどの距離をすっとび、地面へと倒れる亜人。ホブゴブリンは絶命したのか、少しの痙攣の後ぴくりとも動かなくなった。
 あまりのことに、一瞬場は静まり返った。ゴブリン達の最後の一体が撃破され、本来ならば仲間同士で勝利をねぎらう場面であるはずなのだが。
 いち早くロザリーの元に駆けつけようとしていた男は目を点にして立ち止まり、ホブゴブリンが飛んでいった方向とロザリーの顔とを交互に見る。ロザリーへと向ける瞳の中にはかすかな恐怖の色があった。武装したホブゴブリンを一撃で倒すなど、それなりに鍛錬を積んだ自分ですら経験がなかったからだ。
 ロザリーは慌てて取り繕う。
「び、びっくりしましたわ。ぐ、偶然うまい具合に命中したようです。お、恐ろしかったですわ……」
 かぼそい声を出す聖女に、仲間達はようやく笑みを浮かべた。
「な、なあんだ。偶然か……そ、そりゃそうだよな!」
「そ、そうそう。ロザリーさんがあんな凄腕のエンフォーサーみたいな一撃を出せる訳ないし!」
「そうよね! なんてったって、ロザリーさんは『聖女』なんだから!」
 ロザリーはくすぐったそうな笑みを浮かべる。
「もう……恥ずかしいのですから、その二つ名はやめてくださいな」
 笑顔で、ぶんっ! とメイスについた血糊を払うロザリー。
 その『聖女』に似つかわしくない行為に、やはり仲間達は一瞬言葉を失う。しかも、その動作が明らかに自然に身についたものにしか思えなかったからなおさらだ。
「……? ……はっ!」
 ロザリーは自分が何をしたか気付き、慌ててメイスへと視線を向けた。
「お、恐ろしいですわ。ホブゴブリンの血がこんなにべっとり……は、早く屋敷に帰って洗い落とさないと……」
 メイスについた汚れを怯えた瞳で見つめるロザリー。それにより仲間達は、さっきのは気のせいだったかと安堵の吐息を漏らすのだった。


「ああああああああああああああああああ!!! 駄目でしたわ!」
 大きな館の一室で。
 野獣のような叫びと共に、大きなうさぎのぬいぐるみに拳がめりこんだ。
 まさしくホブゴブリンさえ一撃でのしてしまうパンチを繰り出しているのはもちろん、聖女ロザリーその人であった。
 彼女は私物であるぬいぐるみのお腹にドスッ……ドスッ……、と重いパンチを何度も叩きこむが、その憂いが晴れた様子はない。
「ああ……やはり無理なのでしょうか? 『聖女』の仮面を脱ぎ捨てるのは?」
 先日、ロザリーはとある戦いに仮面を被り、ローズマリーという偽名を名乗って参加した。それは、『聖女』として後衛で常にバックアップを行い続ける自分に耐えられなくなり、誰にも気付かれないところで存分にメイス片手に暴れまわりたかったからである。
 もっとも、その時パーティーを組んだ仲間達は、戦いが終わる頃には彼女の正体にほとんど気付いていたのだが。
「ああ……しかし、あの時はたしかに『ヒール』を……となると、やはりそれがわたくしの本来の姿なのでしょうか? 前線でメイスを振るっていた自分こそが、まさしく仮面を被っていた存在であったと?」
 自問自答を繰り返すロザリー。
 偽名で戦いに望んでいた時、彼女は『ヒール』をはじめとする支援スキルを身につけていなかった。それなのに仲間が傷ついた時、彼女は咄嗟に『ヒール』を行おうとしたのである。
「ならば……でも……しかし!」
 ベッドの傍らに両膝をついてシーツへと顔を埋めてしまうロザリー。しばらく唸っていたが、やがて。
「そ、そうですわ。前衛で戦いつつ回復を行えばいいのです! 攻撃は最大の防御です! 守る為に前に出る必要があるのです!」
 突然顔を上げ、元気よく叫ぶロザリー。
「でもやはり受け入れられる自信が……」
 脳裏に今日の仲間達の怯えた瞳を思い出し、また彼女は俯く。
 今日の戦いではこっそり準備しておいた『ストライクブロウ』を皆の前で披露し、『聖女』だけど戦えるんです! と可愛くアピールしようと思っていたのである。
 それなのに、返ってきたのは恐怖に塗れた視線。
 いったい何がいけなかったのだろう、と沈思黙考すること数分。
「はっ!! そうですわ!! いいことを思いつきましたわ!!」
 そしてもう一度顔を上げ、彼女は今度こそ満面の笑みを浮かべた。


「よろしいでしょうか?」
「? は、はい!?」
 顔をあげた受付嬢は、目の前にいた人物の美しさに驚いた。
 ここは古都アークエルスにあるハンターオフィス。
 ロザリーはいつも拠点にしている王都のハンターオフィスではなく、今まで自分が訪れたことのないオフィスへと足を運んでいた。もちろん、自分を知る者に会わないようにと考えてのことである。
 そう。誰も知らない所で、戦闘も援護もこなせるクルセイダーとして新たにでびゅーしようと考えたのだ。
 ロザリーは形のよい唇を開く。今日、彼女は仮面をつけてはいない。
「わたくし、仲間を募集しておりますの……クルセイダーとして」
「クルセイダーですか! やはり、回復はお手の物で?」
「……ええと、回復もほんの少しできなくもないような気がしなくもないですが、どちらかというと前線で戦うことを得意としておりますわ」
「なるほど。ちょうど今、やっかいそうな依頼が入ったところなんです」
 笑顔で手元の資料をめくる受付嬢を前に、ロザリーはメイスの柄を握り締める。
 その敵は自分を満足させてくれるのだろうか。ああ、戦いを想像するだけで血湧き肉踊る!
(……あ、あら? ち、違いますわ。きちんと援護もしないと……)

リプレイ本文


 ロザリア=オルララン。愛称はロザリー。
 彼女は新たなハンターとしての一歩を踏み出すため、古都アークエルスにあるハンターオフィスの扉を開いた。先刻受けた依頼を共に解決する仲間が揃ったとの連絡を受けたのだ。
 入って来たロザリーを見て、一人が呟く。
「おや、おや。確かキミは……『聖女』と音に聞く……」
「ななななんのことでしょう!? せせせ『聖女』などという言葉に全く聞き覚えがありませんわ!」
 最初の一歩から彼女の目論見は崩壊した。
 シャルロット=モンストルサクレ(ka3798)はそれきり、興味をなくしたかのようにロザリーからふっと視線を逸らした。彼女はロザリーのことを知っていたが、実際興味を覚えているわけではない。
(彼女が聖女足ることは肯定しよう。だが私にとっての『聖女』は、我が愛しき友唯一人なのだから)
 ロザリーは慌てて他の仲間達を見渡し、今度は見覚えのある顔を見つけると、やはり忙しなく明後日の方を向いた。
(前回の一件で大分吹っ切ったと思ってたんだが、まだまだ迷いがあるのか。まあ、そう簡単に生き方が変えられるのなら世話ないか。今回は納得出来るまで付き合ってやろうじゃないか)
 Anbar(ka4037)はかつて、ロザリーと共に依頼をこなしたことがある。とはいえ、その時ロザリーはローズマリーという偽名を名乗り、さらに仮面を被っていた。もちろん、その正体はすぐに露見していたのだが。
「すげぇ美人さんっす! ケケケ、金の匂いもするしお近づきになりたいっすね~!」
 神楽(ka2032)は言葉通りロザリーに近づき、
「神楽っす! よろしくっすよ~!」
 と気さくに挨拶をした。神楽の鋭い嗅覚の通り、ロザリーは裕福な家の生まれである。
「前衛ならもう少し防具が必要じゃないっすか? なんでこれが終わったら一緒に防具買いにいかないっすか?」
 ロザリーの格好を見ながら吐き出された言葉が、ロザリーを思ってのことなのか別の下心があるのかは不明だ。
「アステリアと申します。拙いところもあると思いますが、ぱぁんとよろしくお願いします」
 アステリア・セリーフィア(ka4496)が仲間達に軽く会釈し、その隣で八代 遥(ka4481)も集まった面々に自己紹介を済ませた。
(初依頼なので緊張しますね……戦うのが前提ですし、皆さんの足を引っ張らないように精一杯がんばらないと)
 遥は仲間達の顔を見回し、心中で一人決意を固める。とはいえ、リアルブルー出身の彼女には縁の無かった、遺跡という場所に行けることをこっそりと楽しみにしているのだが。
 奇しくも遥とアステリアの二人は、今回が初めて受ける依頼となる。
「あの、私も回復とかあまり得意じゃなくて。武器を振るうのも得意って程じゃないですけど……同じ道の先輩として、ぱぁんと色々教えて貰えると嬉しいですロザリー様」
 クルセイダーであるアステリアがロザリーにアドバイスを求め、話しかける。ロザリーも笑顔でそれに応えた。
「遺跡の中に居たとか、ふつーの獣じゃなさそー、です」
「遺跡に現れた獣の退治か、特に注意する事はなさそうだが油断せずいくかな」
 八城雪(ka0146)、柊 真司(ka0705)がそれぞれ呟いた通り、今回の依頼の目的は遺跡に突如現れた獣の掃討だ。伝え聞く話では、全身が真っ黒の豹のような外観だという。
 急ぎの依頼ということもあり、最低限の打ち合わせを手早く済ませるハンター達。やがて各々の行動も決まり、ハンター達は立ち上がる。
「致命的な選択でなければ大丈夫だろ。どうせなら気持ちよくお仕事こなそう!」
 八島 陽(ka1442)の言葉に皆頷いた。
 現場へ向かうための早馬はすでに準備されている。ハンター達はやがて馬上の人となり、遺跡へと駆けつけた。


「お待ちしておりました! ただ、もう扉が!」
 ハンター達が遺跡の奥へとたどり着いた時、調査員の言葉通り、扉がその原形を失いつつあるところであった。ハンター達は調査団を下がらせ、戦闘準備に入る。
 陽はアステリアに『防性強化』を、ロザリーはシャルロットに『プロテクション』をかけた。
「いざって言う時は、癒しを任せたぜ、姐さん。俺も前線で暴れさせて貰うからな」
 Anbarはロザリーへと声をかけ、言葉通り前へと出る。雪達もそれぞれの配置についた。
 ついに扉が破られ、豹形の生き物が飛び出してきた。ハンター達が持つ光源より生まれる影と同化するのではないかというほどに、その色彩は真っ黒だ。
(獣は雑魔なのか、それともどこからか遺跡内に迷い込んだ生物なのか? いずれにしても撃破するのは同じだが)
 敵の姿を見た陽は心の中で呟いた。
 Anbarは一番に突っ込み、ボルテクスアックスを振るう。『闘心昂揚』の加護下にあったその一撃は見事に命中した。しかし、やわな敵なら致命傷となりそうだったその刃は、獣を両断するには至らない。
 獣は牙の生える顎でAnbarを狙う。彼はその咬み付きをからくも回避した。
「どこから来たのかは存じませんが……ごめんなさい、討たせて貰います」
 遥の放った『マジックアロー』が手負いの獣へと飛翔する。光の矢は彼女の狙い通り命中し、黒い豹は石畳に倒れた。
(まずは一体か)
 真司は倒した敵の数をカウントする考えだ。敵の総数が事前に聞いていた情報と違う可能性も考慮して。
 残る獣達は見かけ通りの俊敏さでハンター達を囲むように動く。戦場となった部屋は広く、陽が想定していた通りに乱戦模様となる。
「一撃で仕留めてやるから、ちょっとじっとしてろ、です」
 雪は動く敵を見据えて呟いたが、獣は散開し、ハンター達へと突っ込んできた。
「くらえ!」
 真司のアサルトライフルが火を吹いた。それは一体に傷を負わせるものの、獣の動きは止まらない。
「ち、しゃーない。俺が相手っす!」
「大丈夫大丈夫あれはカボチャあれはカボチャ」
 やや後衛よりであった神楽とアステリアはそれぞれ武器を構え、襲ってくる敵を迎え撃つ態勢だ。もちろんロザリーも黒豹の正面に立つ。
 シャルロットもロザリーをサポートするかのように、彼女の側に近づく。
「私はこちら、キミはそちら。さぁおいで、私はここだよ影豹君」
 獣達はハンター達へと襲い来る。
 最初に対象となったのは神楽。黒い豹は神楽へと爪を振ったものの、それを神楽はうまく受け流した。
「これくらいどうってことないっす! ……ちょ、かすり傷っす! もったいないからもっと傷ついてから使うっす!」
 『ヒール』の行使に入ったロザリーを慌てて止める神楽。しかし、制止が間に合わず、神楽の受けた傷は全て回復した。彼の言葉通り、ほんのかすり傷だったのである。
「……あ」
 ロザリーが間の抜けた声を漏らす。そんなロザリーを狙おうとする一匹の豹。
 シャルロットの持つ剣が、ロザリーの間隙を助けるかのように振られた。それは命中こそしなかったが、黒い獣を飛びのかせることに成功する。
 雪は攻撃を回避したばかりの黒豹を狙った。得物がうなりをあげて落ち、獣の胴体に痛烈な打撃を与える。しかし、敵の動きはまだ止まらない。
 気を取り直したロザリーはメイスを手に一歩前へと出る。
「し、失礼しました。この失態は敵を討つことで帳消しにしてみせますわ!」
「ロザリーさんは援護には向いてないんすかね」
「えっ?」
「……なんで嬉しそうな顔してるんすか!?」
 神楽の言葉になぜか喜びの表情を浮かべるロザリー。
「だらっしゃぁぁぁぁッ! オラァァッ!!」
 そんな会話が行われている隣でアステリアが、先程までの物腰からは想像できない声を発し、フレイルを振り回した。当たるかと見えた鉄球は、機敏に動いた黒豹により空を切る。
 陽は機導剣で別の一体を狙い、光の刃でその胴体を穿った。怒れる獣は牙を剥くが、シェルバックラーをかざして陽はそのあぎとから身を守る。真司が咄嗟に使用した『防御障壁』も合わさり、獣は陽にほとんど傷を負わせることはできなかった。
 獣の一体が今度はロザリーを狙い、飛び掛る。
 しかしロザリーはそれをステップで回避し、返しの一撃を叩き込む。
「ストラァァァィクブロウ!!」
 ロザリーの全力の打撃を獣はまともにくらい、すっ飛んだ。傷を負っていた敵はそのまま動かなくなる。
「オメー、中々やる、です」
 それを見た雪がロザリーの戦い方を称賛し、自分は強く一歩を『踏込』んだ。
(エンフォーサーとしちゃ、前衛で体張る仕事で、負けるわけにゃいかねー、です)
 上段に構えられる長大な武器、ルーサーンハンマー。遺跡の天井を掠める辺りまでそれは振り上げられ、やがて処刑人の剣のように振り下ろされた。雪が操るスキル、『渾身撃』である。
 雪の側にいた黒豹はその攻撃を避けることはできず、絶命した。
(あと三体!)
 真司は心の中でカウントしつつ、まだ動く敵を狙う。遥も八卦鏡「止水」をかざし、光る矢を放った。二人の砲火が獣を捉え、真司は倒した敵の数に新たな一体を追加した。
 Anbarは斧を振るい、獣の足を切り裂いた。シャルロットも動きの鈍った敵へと『踏込』と『強打』を併用し、剣を叩き込む。
「キミの瞳へ最期に映るのは、果たして闇か或いは私か。さぁ、思う存分旅路を終えてくれたまえ」
 シャルロットの言葉の通りか、黒豹は彼女を見据えながら、その命を終えた。
 陽は最後に残る獣を狙い、エレクトリックショックを試みた。彼の目論見である行動阻害の効果こそは与えられなかったものの、もはや敵の命は風前の灯だ。
 そこに襲い掛かるアステリアのフレイル。
「朕は激怒したぞこのカボチャ野郎めがぁ!!」
『ストライクブロウ』により強化された鉄の塊は獣の頭を捉え、最後に残った魔物は彼女の口癖通りに『ぱぁんと』撲殺された。
「やった、出来ました! ――あの、皆様。変な顔をしてどうしたんですか? あ、怪我してる方の回復もしなくちゃですね」
 アステリアは何か言いたげな仲間達を見回し、柔和に微笑む。彼女の笑顔が、この戦いが終わったことを告げていた。


「さすがはハンターですね!」
 手当ての終わったハンター達の下へ、調査団の面々が駆け寄ってきた。彼らは口々にハンター達の戦いぶりを称賛する。
「遺跡内を探索して、何であの獣がいたのかを調べてみたいのですが、構いませんか?」
 遥が調査団に尋ねた。もちろん敵が残っていないかの確認が主だが、彼女の瞳は隠しようもない好奇心で輝いている。
「そうですね。新たに見つかったその部屋以外は探索されつくしておりますが、それでもよろしければ」
「ワクワクしますね!」
 アステリアも嬉しそうだ。他の仲間達も特に反対する者はなく、しばらく彼らは遺跡の中を調査、もしくは探検した。
 幸か不幸か、新たな敵の姿はなく、ハンター達は調査団に見送られつつ遺跡を後にした。

「あー、やっぱ外の空気は澱んでなくていいね!」
 一番に出てきた陽が遺跡を出て大きく伸びをする。彼の後ろから続々とハンター達が光の下へと歩み出てきた。
 真司は後ろを振り向き、メンバーの中にいるロザリーに声をかける。
「お疲れさん。聖女って聞いてたが中々どうして勇ましいじゃねぇか。助かったぜ」
「ありがとうございます……ただ、あまり援護を的確に行えたとは……」
 かすり傷を負っただけの神楽に、いつもの癖で咄嗟に『ヒール』を行ってしまったことを気に病んでいるのか、ロザリーの表情は少しだけ陰りがあった。真司はそんな彼女を見て言葉を続ける。
「敵をぶん殴る聖女ってのも戦女神的な感じでいいと思うんだが、価値観の違いか? 少なくても俺は好きに動いていいと思うぜ、嫌々やってたんじゃ辛いだろ?」
 ロザリーの後ろからまた一人、ハンターが遺跡から外へと出てくる。
「前線で勇ましく戦う姐さんも、仲間の為に癒しを施す姐さんもどちらも姐さんの一面でしかない。自ら為したいようにしつつ、為すべき事を為す、それで良いんじゃないのか? 『聖女』なんて持ち上げている奴らは自分たちが見たいものしか見ていないんだからさ。そんな奴らは姐さんの方から見限ってやる事だな」
 ロザリーと二度目の戦いを共にしたAnbarの言葉だ。
 そこに神楽が駆け寄ってくる。
「凄ぇっす! ロザリーさん!! 避けて一撃必殺だから防具なんていらなかったんすね!!」
 彼の手が、荷物を入れた袋をなぜかまさぐる。
「もう防具は動きやすさ優先でこれでいいんじゃないっすかね?」
 神楽が取り出したのはビキニアーマーであった。胸と腰回りしか覆っていない、露出度の高いアレである。
「……あ、ありがとうございます」
 ロザリーは笑顔と共にそれを受け取ったが、彼女の笑みは明らかに引きつっていた。
「何悩んでんだか知らねーけど、規律に五月蠅い軍隊じゃねーんだから、好きな様にやりゃー、良い、です。ハンターなんて、変わり者の集まりみてーなもん、です」
 雪も思うところがあったのか、ロザリーに語りかける。
「それぞれが、自分のやり方で、自分の出来る事で協力し合うのが、ハンターなんじゃねーか、です」
「……なるほど」
 仲間達の言葉を受けて憂いがなくなりつつあるのか、ロザリーの顔は段々と晴れていく。
 遺跡から最後に出てきたのはアステリア。彼女は足を止めた。仲間達も彼女の方を振り向き、同様に立ち止まる。
「皆さん、今日はありがとうございました。ロザリー様も凄く格好良くて、尊敬しちゃいました。また色々教えて下さい」
「アステリアさんもあれは良い一撃でしたわ。わたくしもより一層腕を磨きますね」
 ロザリーはそう言うと、改めて仲間達に向き直った。
「わたくしからも皆さんにお礼を言わせてください。今日の戦いは良い経験となりましたわ。また機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたしますね」
 ハンター達はやがて元の街に戻り、別れを惜しみつつもそれぞれの日常に戻っていった。


 カランカラン。
 ドアベルが鳴り、一人の女性が入ってくる。建物の中にいた者達は振り向き、驚きの表情と共に立ち上がった。
「ロ、ロザリーさん! 姿を見せないから心配してましたよ!」
 ここは王都イルダーナのハンターオフィス。ロザリーがいつも利用していた場所だ。ロザリーとよくパーティーを組んでいた男女が彼女の側に集まる。なお、ロザリーはビキニアーマーは身につけていなかった。
「ご心配をおかけしたようで申し訳ありません。本日からまたよろしくお願いします」
「は、はい! 喜んで!」
「ただ、一つだけお伝えしておきたいことがありますの……」
 ロザリーはそう言うと、メイスの柄を掴み、正面に掲げた。
「わたくし、今後は基本的に前衛に立ち、敵をぶん殴ってぶん殴ってぶん殴りまくるつもりですの……あ、もちろん援護もきちんといたします!」
 『聖女』は鈍器を手に、にこりと笑った。

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参加者一覧

  • バトル・トライブ
    八城雪(ka0146
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽(ka1442
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • ラ・ピュセルの微笑み
    シャルロット=モンストルサクレ(ka3798
    人間(紅)|23才|女性|闘狩人
  • 願いに応える一閃
    Anbar(ka4037
    人間(紅)|19才|男性|霊闘士
  • 猛炎の奏者
    八代 遥(ka4481
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師

  • アステリア・セリーフィア(ka4496
    エルフ|23才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/03/26 23:51:07
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/03/24 11:14:22