ゲスト
(ka0000)
グレイトフルレスキュー
マスター:有坂参八

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/03 09:00
- 完成日
- 2014/07/06 22:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
嵐の様に唐突に、急激に、歪虚の一団は来襲した。
物語の舞台は、森の深くに拓かれた、とある小さな村。
現れたるは、死者の軍勢。腐り果てた肉を五体に僅かにこびりつかせた、歩く骸骨の群れ。
それは旧い時代の剣や斧を手に、目につく全てを破壊した。
慈悲という言葉さえ知らぬかのような苛烈な攻撃に、建物は倒され、畑は踏み荒らされ、家畜は一切の躊躇無く殺された。
彼等が村を蹂躙する様は、それを見た者の言によれば、知性というよりは本能的で、決まりきった作業の様だったという。
その日、招集されたハンター達への依頼は、村から避難する住人達の護衛、誘導だった。
不幸中の幸いは、対処の初動が早かったことだ。圧倒的な数の歪虚の出現に対して、即座に村を捨てて避難を始めた村人達の人的被害は、極めて小さなものに留まっていた。
今の所、村人の犠牲者は一人として出ていない。安全確保の目処が立ち、ハンター達が漸く大きく息をついた、その時だった。
「お願い、ガウを助けて! まだ、まだお家の中にいるの!」
曇天に響く叫び声は、幼い少女のものだった。
その不穏な内容の言葉に、ハンター達は何事かと少女に尋ねた。
「……私の、犬、なんです。でも、でも! 大切な、友達なの!」
狩人の罠で後ろ脚の一本を失った犬、家に取り残されてしまった、臆病だけど優しい、ただひとりの友達、家族の居ない自分の……少女がやっとの事で紡いだ言葉を整理すれば、事情はそんな所であった。
「お願い、あの子だけなの、あの子しか……」
涙ながらに嘆願する少女を、ハンター達は見つめた。
歳の頃は十かそこらか、伸ばし放題の髪は手入れもされず、つぎはぎだらけの服を着て、靴さえ履いていない。
その外見と、村人達の悉くが彼女の願いを黙って振り払っていたことは、果たして完全に無関係だろうか。
そしてハンター達は、それぞれが自らに問う。これからの、行動を。
村人達の退去は、最高の形で成功しつつある……人的被害の極限、という意味に限っては。
だが村そのものは、既に歪虚共の手に陥ちた。戻れば、骸骨軍団の手厚い歓迎を受けるのは間違いない。
取り残されたのは犬一頭。その命は、ここに居るハンター達のそれと吊り合うのだろうか。
もしも……
もしも、だ。
その答えが『やる』であるのなら。
猶予は、許されない。いま、この一秒、一瞬たりとも。
……さあ、どうする?
物語の舞台は、森の深くに拓かれた、とある小さな村。
現れたるは、死者の軍勢。腐り果てた肉を五体に僅かにこびりつかせた、歩く骸骨の群れ。
それは旧い時代の剣や斧を手に、目につく全てを破壊した。
慈悲という言葉さえ知らぬかのような苛烈な攻撃に、建物は倒され、畑は踏み荒らされ、家畜は一切の躊躇無く殺された。
彼等が村を蹂躙する様は、それを見た者の言によれば、知性というよりは本能的で、決まりきった作業の様だったという。
その日、招集されたハンター達への依頼は、村から避難する住人達の護衛、誘導だった。
不幸中の幸いは、対処の初動が早かったことだ。圧倒的な数の歪虚の出現に対して、即座に村を捨てて避難を始めた村人達の人的被害は、極めて小さなものに留まっていた。
今の所、村人の犠牲者は一人として出ていない。安全確保の目処が立ち、ハンター達が漸く大きく息をついた、その時だった。
「お願い、ガウを助けて! まだ、まだお家の中にいるの!」
曇天に響く叫び声は、幼い少女のものだった。
その不穏な内容の言葉に、ハンター達は何事かと少女に尋ねた。
「……私の、犬、なんです。でも、でも! 大切な、友達なの!」
狩人の罠で後ろ脚の一本を失った犬、家に取り残されてしまった、臆病だけど優しい、ただひとりの友達、家族の居ない自分の……少女がやっとの事で紡いだ言葉を整理すれば、事情はそんな所であった。
「お願い、あの子だけなの、あの子しか……」
涙ながらに嘆願する少女を、ハンター達は見つめた。
歳の頃は十かそこらか、伸ばし放題の髪は手入れもされず、つぎはぎだらけの服を着て、靴さえ履いていない。
その外見と、村人達の悉くが彼女の願いを黙って振り払っていたことは、果たして完全に無関係だろうか。
そしてハンター達は、それぞれが自らに問う。これからの、行動を。
村人達の退去は、最高の形で成功しつつある……人的被害の極限、という意味に限っては。
だが村そのものは、既に歪虚共の手に陥ちた。戻れば、骸骨軍団の手厚い歓迎を受けるのは間違いない。
取り残されたのは犬一頭。その命は、ここに居るハンター達のそれと吊り合うのだろうか。
もしも……
もしも、だ。
その答えが『やる』であるのなら。
猶予は、許されない。いま、この一秒、一瞬たりとも。
……さあ、どうする?
リプレイ本文
●決断
…ほんの、僅かに。
少女の嘆願に対して、那月 蛍人(ka1083)は迷いを見せた。
彼の脳裏を過ったのは、故郷リアルブルーで自らを襲った、禍々しいヴォイドの姿。
逃げるしかできなかった……あの時は。
だが、今は、違う。
「……わかった、ガウは必ず無事に連れてくるからな」
しゃがみ込み、少女と目線の高さを合わせて放った言葉は、自分自身への決意でもあった。
「やろう。これで依頼完了では、この子が救われない」
そう口にしたのは、小さな少女に見えた筈のドワーフ。
だが次の瞬間に目をやれば、成長した艶やかな女戦士の姿がそこにある。覚醒したイレーヌ(ka1372)の視線は、既に村の奥深くに注がれていた。
「ま、戦いっつー行為に見合った報酬をもらえるんなら、なんも問題ないっすよ」
その隣でぽそりと呟いたのは、エルフの少女、アリア・フォルツァンド(ka1451)。
みすぼらしい成りの少女は言葉を詰まらせたが……アリアは、構わず続けた。
「最高の笑顔を用意しておくっすよ。それが、報酬っす」
その言葉に、少女の表情は未だ不安げなまま。
しかしそれこそが、彼女が命を懸ける理由だ。そこに敵も、目的も、関わりなく。
その場に居合わせたハンターは八人。
誰一人として、ガウを助ける事を拒んだ者は居なかった。
決断は下した。後は、実行するだけだ。
●突入
村に入った矢先、二体の骸骨が家屋の陰から現れた。
咄嗟、八人のハンターは別の家屋の陰に身を隠す。
目的はガウを救助する事だ。全てを相手取る必要も、余裕も無い。
「別の道にももう三体居る。やっぱり……数が多いね」
物陰から頭半分だけを出し、橙色の瞳を凝らしながら告げたのはイェルバート(ka1772)だ。両の手に弓と矢を携えているが、これで手を出すのはまだ早い。
「気まぐれに巡回しているだけなら、やりようはある」
そう言って、朱華(ka0841)が道の先に拳大の石を投げた。ころころと転がる石が視界に入ると、骸骨達はその石を、親鳥を追うヒヨコの様に追いかけていく。
「今だ、行こう」
朱華の合図でハンター達は、制止した石を眺め続ける骸骨の背後を通り過ぎる。
「うっわぁ。相当頭悪ィみてーですね」
花灯 (ka0769)が、獣の様な耳をぴこぴこと動かしつつ、率直な感想を漏らした。
ハンター達が事前に村人から聞いておいた話の通りだ。骸骨達には聴覚さえ無く、単純に視界に入った動体だけを襲う。但し、生物と無生物は区別しているようだ……と、村人達は語っていた。
「問題は数だ。一度も戦わずに、やり過ごせるかどうか」
そう言ったのは、バレル・ブラウリィ(ka1228)。今も周囲から聞こえる骸骨達の足音に、元より鋭い三白眼を更に細めた。
状況に飛び込みはしたものの、身を取り巻く危険と、得られるものとが吊り合うのか……バレル自身は、まだ折り合いを付けきれていない。
「たかが犬……でも、それがわかってて、俺はここにいるんだよな……」
その小さな呟きが、隣を行く少女に聞こえたのだろう。レナ・クラウステル(ka1953)は、飾り耳を揺らしながら振り返り……バレルの瞳を見上げた。
「犬とか人とか、危険とか…きっと小さな事だよ。大切な家族なら助けてあげないと、ね」
……家族と会えない辛さは、知ってるから。
纏ったポンチョの端を握りしめながら紡いだ最後の言葉は、バレルだけが聞き取れた。バレルは何も答えないが、しかし雑念を振り払ったかの様に、周囲を警戒し始める。
ハンター達が村の外周沿いに進路を取ったのは、そのレナの判断だ。
多少回り道ではあるが、村の中央を突っ切るよりは骸骨達に遭遇する確率は低い筈……と、そう期待したが、それでも完璧な安全はありえない。
始めの三度までは、こちらが先に敵を見つけて上手くやり過ごすことが出来たが、四度目の遭遇で事故が起こった。
ハンター達が入り込もうとした家屋の陰、そこに佇んでいた骸骨と、突如至近距離で鉢合わせたのだ。
『……!』
「……!」
刹那の判断。
骸骨が斧を振り被るより先に、バレルはバスタードソードを突き上げて相手の姿勢を崩す。
次いで、一歩後ろから警戒を行っていた朱華が飛びだし、骸骨の足を切り払った。赤い火の粉の様な光が散り、骨だけの身体が崩れ落ちる。
「もう一体いる」バレルの側面をカバーする様に立ちつつ、朱華。
「セーフティ・ファースト……で、行きたかったんだがな」
バレルは倒れた骸骨の後ろから襲いかかってきたもう一体の剣を、自分の剣で受けとめた。
よろめいた骸骨を狙うのは、黄金の瞳を輝かせた蛍人。
「通してもらうぞ……!」
握ったロザリオからホーリーライトが放たれ、骸骨をバラバラに粉砕する。
この場に聖導士が三人も居た事は、ハンター達にとって幸運だった。治癒によって戦列が安定するだけでなく、闇の眷属である骸骨達にはホーリーライトが大きな効果を発揮したのだ。
二体の骸骨を片付けた後には大きな局面も無く、やがてハンター達は、件の少女の家の前に辿り着いた。
「んじゃ、行ってくるです! ガウは絶対絶対絶対助けてくる! です!」
辛抱堪らず、家に駆け込む花灯。少女の懇願に対して、真っ先に頷いていたのは彼女だ。
同じくガウの保護を担うイレーヌも、後に続く。バレルはその護衛として、家の玄関で二人を待つ形となった。
そして、残った者達は……
「さぁ、こっからが勝負っすね」
アリアが大きく一息ついて、しゃん、と錫杖の音を響かせた。
振り返れば、ハンター達の右と左から現れた、二つの集団。それぞれ骸骨が四体ずつ。
挟撃された形となるが、ここが目的地である以上、姿を観られる事はほぼ不可抗力。そして、この状況での対応も、予め決めてある。
駆け出したのは、朱華、蛍人、アリア、イェルバート、レナの五人。
「貴方達の相手は、こっち」
それまでの彼女とは、打って変わって淡々とした抑揚で呟くレナ。ファイアアローの詠唱を瞬く間に終え、掌に凝縮した光と熱を解き放つ。
高度なマテリアルの集中を伴って放たれた炎の矢が、骸骨の一体を吹き飛ばした。
「バレルさん。二人と、ガウを……お願い」
イェルバートは、その場に残るバレルに視線を送る。バレルは「行け」と言わんばかり、小さく、確かに、頷いた。
その視線に後押される様にイェルバートも骸骨達に向き直る。
正念場と判っていてはいたが、不思議と、恐れる感情は無かった。
ハンターになる自分なら、諦めていたかもしれない。
……でも。
(今は、ほんの少しだけ、戦える力があるハズだから)
或いは、あの小さな家に取り残されたガウの境遇が、自分自身の過去と重なったのか……しかしイェルバートは回想を止め、目の前の敵に集中する。彼の瞳の輝きはいつの間にか橙から、煌々とした金色へと変化していた。
「……よし」
アルケミストデバイスを取り出し、文字盤の幾つかを、瞬間的に叩き終える。
デバイスの指令に呼応して、その数センチ先の空間に生まれた光は、膨張し、爆ぜ、前方に向けて放出される。伸びた光は迷いなく真っ直ぐに……不浄の骸を貫いた。
『しゃんーーーーしゃんーーーーしゃんーーーーー』
イェルバートのすぐ隣では、アリアがくるりくるりと舞うようにして錫杖を振るっていた。
錫杖についた輪の澄んだ音色が、一つの調を形作るかの様に鳴り響く。
「……さあ、聖霊様と観客一同。フォルツァンドの戦場神楽をご観覧あれ」
アリアの口上と、錫杖の音に呼応するかの様に律動し、骸骨へ襲いかかるホーリーライト。
同じ聖導士であっても、蛍人のそれとも、イレーヌのそれとも様式の異なる法術。彼女のそれは即ち、聖霊へと奉る聖なる音劇を以って完成する。
「これらを滅するのは次の機会っす。取り敢えずは時間を稼ぐっすよ」
前線で攻撃を引き付ける朱華にヒールを飛ばしつつ、少女の家から遠ざかる様に移動していく。
そうして残った三人とガウの安全を確保する、というのが、当初の作戦だ。
(とはいえ、これはいつまで保つか……)
朱華は目の前の骸骨を蹴って押し退け、周囲を見渡す。敵を引きつけるのもいいが、その後いかに脱出するかが、最大の課題だ。
骸骨達に数で圧倒的に劣る以上、囲まれては堪らない……のだが、五人で八体の敵を一度に相手にしては、その数を減らすだけでも一苦労となる。
倒す必要は無い。だが、敵の性質上、振り切るのは容易ではない。また、一度見つかってしまえば物を投げて囮にする様な手も通用しない。
「くそ、新手だ!」
蛍人が叫んだ。同時に目の前の骸骨にハンマーを振り降ろし、防御に使われた骨の腕もろともに叩き伏せる。
その後ろからは、新たに三体の骸骨。
「きりがないな……!」
レナにプロテクションを掛けてから、額の汗を拭う蛍人。そのレナは、いつの間にか使用限界を迎えたファイアアローの代わりにウィンドスラッシュで骸骨を攻撃する。
僅かに、スケルトンの攻撃の間隔が、緩んだ。
その隙に陽動班は囲みを突破し、少女の家から遠ざかる様に移動していく。
後のことは、残った三人に託して。
●救出
家の中は、少女の言っていた通りの状況となっていた。
居間に入ってすぐに、ガウは見つかった。少女の言葉通り、彼は自身の寝床であろう薄汚れた数枚の毛布の中に頭をつっこみ、その体を震わせていた。
いきなりに近づけば、錯乱させ望まぬ結果を引き起こすかもしれない。
花灯とイレーヌは黙したまま、視線だけで意思を交わし、方針を決める。
「ガウ」
イレーヌが、彼の名前を呼ぶ。ガウは震えながら、毛布の反対側から微かに頭を出し、潤んだ瞳を見せた。
「助けに来たぞ、もう大丈夫だ」
距離を保ち、できる限り低くしゃがみ込み、手をさしのべるイレーヌ。
だが、ガウは、掠れた声で呻きながら、動こうとしない。
今、村で何が起こっている事、その危険を、本能が理解しているのだろう。
「……っ」
花灯はガウに駆け寄りたい衝動を堪えて自身も屈み、ポケットに入れていた物を床に並べ始めた。
持ってきたのは水と、肉、それに……依頼者の少女の手ぬぐいだ。
少しでも警戒を解ける様にと、ガウの家族にして親友の持ち物を預かってきた、花灯の意図は当たった。ガウは鼻を蠢かせてぴくりと反応し、迷うような仕草を見せる。
「俺やみんなが命をかけて守るから大丈夫です。だから……」
「おいで、お前の友達が心配しているぞ」
能う限り、穏やかに呼びかける。
やがてガウは戸惑いながらも、微かな少女の匂いを手繰る様に、少しずつ二人の元へ近づいてきた。
顎を撫で上げる様に手を延ばすと、ガウは僅かに緊張しながらもそれを、受け入れる。
それまで表情を崩さなかったイレーヌが、僅かに一瞬、頬を緩めた。
「……信じてくれたんだな。ありがとう」
つられて花灯も緊張を解いて破顔すると、ガウが一声、ひゃん、と軽やかに鳴いた。
ガウを毛布に包んで抱く花灯とイレーヌが少女の家を出ると、外で周囲を警戒していたバレルは陽動班のレナと連絡を取った。
『了解……こっちは今、広場で戦ってるから……』
トランシーバーから聞こえるレナの声には、荒々しい吐息が混じっていた。
そのまま脱出するか、一度合流するかーーハンター達は多少揺れたが、一度合流する方針を選んだ。村を巡回する敵は想像以上に数が多く、分散したままでは危険すぎると判断したのだ。
「帰るまでが遠足だ。緩むなよ……」
バレルが先導して安全を確保し、次いでガウを抱えて忍び足の花灯、殿に背後を警戒するイレーヌと続き、かろうじて骸骨を避けながら広場へと進んでいく。
救助班が村のほぼ中央に位置する広場に辿りついた時、陽動班は未だ立ちはだかる三体の骸骨と戦っている最中だった。
囮を担った彼等は大きく消耗していたが、花灯に抱えられたガウを眼にし、それぞれが安堵の表情を浮かべる。
「何が何でも、この子を無事に送り届けないといけないっすね」
脱出の目処が立ち、アリアを始め蛍人、イレーヌが負傷者の傷を治癒する。
それでも足りない分は、各々がマテリアルヒーリングで補った。
「すぐにでも移動しよう。また集まってこられたら堪らない」
体勢を立て直しつつも朱華は前線に立ち続け、骸骨達を相手取っている。鍔競り合いになった敵の膝を踏み抜く様にして蹴り砕き、転倒させた。
「なるべく、敵の少ない道を取りたいけど……」
「いや……そう上手くは、いかないみたいだね」
レナを尻目にイェルバートは、再び金色の目を凝らす。
村の入り口へ戻る道から新手、四体の骸骨が、向かってくるのが見える。更に、隊列の背後からも足音。
「……時間がない。一点突破するしかないかな」と、蛍人。
「もう少しだから、頑張ろう……!」レナは、最後のウィンドスラッシュの詠唱準備に入る。
「今度は私が盾になる。続いてくれ」
イレーヌは自らにプロテクションを施し花灯の……ガウの真ん前に立った。
その背中を見つめながら、花灯は腕の中の命を庇うように身を屈め、地を駆けるものの力を自らに宿す。
「かすり傷ひとつつけさせねーぞです……!」
そして前と後ろから襲い来る骸骨達。
ハンター達は、誰からともなく、駈け出した。
●帰還
村の入り口が見えるか見えないかの場所で、少女は微動だにせず、ハンター達の、親友の帰りを待ち続けていた。
やがて村の中から、豆粒の様な人影の群が見えた。
その正体を見極めんと、少女は目を凝らす……までも、無かった。
聞こえたのだ。自分を呼ぶ、愛しい友の声が。
少女の姿が遠目に見えるや、ガウはヒャウン、ヒャウンとしきりに吠えだした。花灯が苦笑しながら彼を地面におろしてやると、ガウはよたよたと、しかし懸命に少女の元に駆け寄っていく。
「ガウ! ガウ!」
少女が涙を流しながらガウを抱き締めるのを見て、ハンター達はようやく、肩の荷が降りた様に息をついた。
皆、傷だらけでも誰一人欠けることは無く……何よりも、肝心のガウは無傷だった。
「ご主人と再会できて、よかったね」
イェルバートに撫でられると、ガウはこれまでとは打って変わって、元気に犬らしく吠えて応えた。
蛍人とレナはガウと少女を取り囲んではしゃぎ、朱華やバレル、イレーヌはそれぞれ少し離れた所から、その光景を見守る様にして佇んでいた。
「ほんとうに、ありがとうございました」
最後に深々と頭を下げ、少女はガウと共に去っていった。村人達と共に、帝国の要塞にいくという。
彼女とガウがこれからどうなるかは、判らないが……少なくとも、彼女は笑っていた。
その事実の意味を、ハンター達は知っている。
報酬でも無く、名誉ですら無く。
少女を見送りながら、アリアはその笑顔を脳裏に刻み−−最後に小さく、満足気な吐息を漏らした。
…ほんの、僅かに。
少女の嘆願に対して、那月 蛍人(ka1083)は迷いを見せた。
彼の脳裏を過ったのは、故郷リアルブルーで自らを襲った、禍々しいヴォイドの姿。
逃げるしかできなかった……あの時は。
だが、今は、違う。
「……わかった、ガウは必ず無事に連れてくるからな」
しゃがみ込み、少女と目線の高さを合わせて放った言葉は、自分自身への決意でもあった。
「やろう。これで依頼完了では、この子が救われない」
そう口にしたのは、小さな少女に見えた筈のドワーフ。
だが次の瞬間に目をやれば、成長した艶やかな女戦士の姿がそこにある。覚醒したイレーヌ(ka1372)の視線は、既に村の奥深くに注がれていた。
「ま、戦いっつー行為に見合った報酬をもらえるんなら、なんも問題ないっすよ」
その隣でぽそりと呟いたのは、エルフの少女、アリア・フォルツァンド(ka1451)。
みすぼらしい成りの少女は言葉を詰まらせたが……アリアは、構わず続けた。
「最高の笑顔を用意しておくっすよ。それが、報酬っす」
その言葉に、少女の表情は未だ不安げなまま。
しかしそれこそが、彼女が命を懸ける理由だ。そこに敵も、目的も、関わりなく。
その場に居合わせたハンターは八人。
誰一人として、ガウを助ける事を拒んだ者は居なかった。
決断は下した。後は、実行するだけだ。
●突入
村に入った矢先、二体の骸骨が家屋の陰から現れた。
咄嗟、八人のハンターは別の家屋の陰に身を隠す。
目的はガウを救助する事だ。全てを相手取る必要も、余裕も無い。
「別の道にももう三体居る。やっぱり……数が多いね」
物陰から頭半分だけを出し、橙色の瞳を凝らしながら告げたのはイェルバート(ka1772)だ。両の手に弓と矢を携えているが、これで手を出すのはまだ早い。
「気まぐれに巡回しているだけなら、やりようはある」
そう言って、朱華(ka0841)が道の先に拳大の石を投げた。ころころと転がる石が視界に入ると、骸骨達はその石を、親鳥を追うヒヨコの様に追いかけていく。
「今だ、行こう」
朱華の合図でハンター達は、制止した石を眺め続ける骸骨の背後を通り過ぎる。
「うっわぁ。相当頭悪ィみてーですね」
花灯 (ka0769)が、獣の様な耳をぴこぴこと動かしつつ、率直な感想を漏らした。
ハンター達が事前に村人から聞いておいた話の通りだ。骸骨達には聴覚さえ無く、単純に視界に入った動体だけを襲う。但し、生物と無生物は区別しているようだ……と、村人達は語っていた。
「問題は数だ。一度も戦わずに、やり過ごせるかどうか」
そう言ったのは、バレル・ブラウリィ(ka1228)。今も周囲から聞こえる骸骨達の足音に、元より鋭い三白眼を更に細めた。
状況に飛び込みはしたものの、身を取り巻く危険と、得られるものとが吊り合うのか……バレル自身は、まだ折り合いを付けきれていない。
「たかが犬……でも、それがわかってて、俺はここにいるんだよな……」
その小さな呟きが、隣を行く少女に聞こえたのだろう。レナ・クラウステル(ka1953)は、飾り耳を揺らしながら振り返り……バレルの瞳を見上げた。
「犬とか人とか、危険とか…きっと小さな事だよ。大切な家族なら助けてあげないと、ね」
……家族と会えない辛さは、知ってるから。
纏ったポンチョの端を握りしめながら紡いだ最後の言葉は、バレルだけが聞き取れた。バレルは何も答えないが、しかし雑念を振り払ったかの様に、周囲を警戒し始める。
ハンター達が村の外周沿いに進路を取ったのは、そのレナの判断だ。
多少回り道ではあるが、村の中央を突っ切るよりは骸骨達に遭遇する確率は低い筈……と、そう期待したが、それでも完璧な安全はありえない。
始めの三度までは、こちらが先に敵を見つけて上手くやり過ごすことが出来たが、四度目の遭遇で事故が起こった。
ハンター達が入り込もうとした家屋の陰、そこに佇んでいた骸骨と、突如至近距離で鉢合わせたのだ。
『……!』
「……!」
刹那の判断。
骸骨が斧を振り被るより先に、バレルはバスタードソードを突き上げて相手の姿勢を崩す。
次いで、一歩後ろから警戒を行っていた朱華が飛びだし、骸骨の足を切り払った。赤い火の粉の様な光が散り、骨だけの身体が崩れ落ちる。
「もう一体いる」バレルの側面をカバーする様に立ちつつ、朱華。
「セーフティ・ファースト……で、行きたかったんだがな」
バレルは倒れた骸骨の後ろから襲いかかってきたもう一体の剣を、自分の剣で受けとめた。
よろめいた骸骨を狙うのは、黄金の瞳を輝かせた蛍人。
「通してもらうぞ……!」
握ったロザリオからホーリーライトが放たれ、骸骨をバラバラに粉砕する。
この場に聖導士が三人も居た事は、ハンター達にとって幸運だった。治癒によって戦列が安定するだけでなく、闇の眷属である骸骨達にはホーリーライトが大きな効果を発揮したのだ。
二体の骸骨を片付けた後には大きな局面も無く、やがてハンター達は、件の少女の家の前に辿り着いた。
「んじゃ、行ってくるです! ガウは絶対絶対絶対助けてくる! です!」
辛抱堪らず、家に駆け込む花灯。少女の懇願に対して、真っ先に頷いていたのは彼女だ。
同じくガウの保護を担うイレーヌも、後に続く。バレルはその護衛として、家の玄関で二人を待つ形となった。
そして、残った者達は……
「さぁ、こっからが勝負っすね」
アリアが大きく一息ついて、しゃん、と錫杖の音を響かせた。
振り返れば、ハンター達の右と左から現れた、二つの集団。それぞれ骸骨が四体ずつ。
挟撃された形となるが、ここが目的地である以上、姿を観られる事はほぼ不可抗力。そして、この状況での対応も、予め決めてある。
駆け出したのは、朱華、蛍人、アリア、イェルバート、レナの五人。
「貴方達の相手は、こっち」
それまでの彼女とは、打って変わって淡々とした抑揚で呟くレナ。ファイアアローの詠唱を瞬く間に終え、掌に凝縮した光と熱を解き放つ。
高度なマテリアルの集中を伴って放たれた炎の矢が、骸骨の一体を吹き飛ばした。
「バレルさん。二人と、ガウを……お願い」
イェルバートは、その場に残るバレルに視線を送る。バレルは「行け」と言わんばかり、小さく、確かに、頷いた。
その視線に後押される様にイェルバートも骸骨達に向き直る。
正念場と判っていてはいたが、不思議と、恐れる感情は無かった。
ハンターになる自分なら、諦めていたかもしれない。
……でも。
(今は、ほんの少しだけ、戦える力があるハズだから)
或いは、あの小さな家に取り残されたガウの境遇が、自分自身の過去と重なったのか……しかしイェルバートは回想を止め、目の前の敵に集中する。彼の瞳の輝きはいつの間にか橙から、煌々とした金色へと変化していた。
「……よし」
アルケミストデバイスを取り出し、文字盤の幾つかを、瞬間的に叩き終える。
デバイスの指令に呼応して、その数センチ先の空間に生まれた光は、膨張し、爆ぜ、前方に向けて放出される。伸びた光は迷いなく真っ直ぐに……不浄の骸を貫いた。
『しゃんーーーーしゃんーーーーしゃんーーーーー』
イェルバートのすぐ隣では、アリアがくるりくるりと舞うようにして錫杖を振るっていた。
錫杖についた輪の澄んだ音色が、一つの調を形作るかの様に鳴り響く。
「……さあ、聖霊様と観客一同。フォルツァンドの戦場神楽をご観覧あれ」
アリアの口上と、錫杖の音に呼応するかの様に律動し、骸骨へ襲いかかるホーリーライト。
同じ聖導士であっても、蛍人のそれとも、イレーヌのそれとも様式の異なる法術。彼女のそれは即ち、聖霊へと奉る聖なる音劇を以って完成する。
「これらを滅するのは次の機会っす。取り敢えずは時間を稼ぐっすよ」
前線で攻撃を引き付ける朱華にヒールを飛ばしつつ、少女の家から遠ざかる様に移動していく。
そうして残った三人とガウの安全を確保する、というのが、当初の作戦だ。
(とはいえ、これはいつまで保つか……)
朱華は目の前の骸骨を蹴って押し退け、周囲を見渡す。敵を引きつけるのもいいが、その後いかに脱出するかが、最大の課題だ。
骸骨達に数で圧倒的に劣る以上、囲まれては堪らない……のだが、五人で八体の敵を一度に相手にしては、その数を減らすだけでも一苦労となる。
倒す必要は無い。だが、敵の性質上、振り切るのは容易ではない。また、一度見つかってしまえば物を投げて囮にする様な手も通用しない。
「くそ、新手だ!」
蛍人が叫んだ。同時に目の前の骸骨にハンマーを振り降ろし、防御に使われた骨の腕もろともに叩き伏せる。
その後ろからは、新たに三体の骸骨。
「きりがないな……!」
レナにプロテクションを掛けてから、額の汗を拭う蛍人。そのレナは、いつの間にか使用限界を迎えたファイアアローの代わりにウィンドスラッシュで骸骨を攻撃する。
僅かに、スケルトンの攻撃の間隔が、緩んだ。
その隙に陽動班は囲みを突破し、少女の家から遠ざかる様に移動していく。
後のことは、残った三人に託して。
●救出
家の中は、少女の言っていた通りの状況となっていた。
居間に入ってすぐに、ガウは見つかった。少女の言葉通り、彼は自身の寝床であろう薄汚れた数枚の毛布の中に頭をつっこみ、その体を震わせていた。
いきなりに近づけば、錯乱させ望まぬ結果を引き起こすかもしれない。
花灯とイレーヌは黙したまま、視線だけで意思を交わし、方針を決める。
「ガウ」
イレーヌが、彼の名前を呼ぶ。ガウは震えながら、毛布の反対側から微かに頭を出し、潤んだ瞳を見せた。
「助けに来たぞ、もう大丈夫だ」
距離を保ち、できる限り低くしゃがみ込み、手をさしのべるイレーヌ。
だが、ガウは、掠れた声で呻きながら、動こうとしない。
今、村で何が起こっている事、その危険を、本能が理解しているのだろう。
「……っ」
花灯はガウに駆け寄りたい衝動を堪えて自身も屈み、ポケットに入れていた物を床に並べ始めた。
持ってきたのは水と、肉、それに……依頼者の少女の手ぬぐいだ。
少しでも警戒を解ける様にと、ガウの家族にして親友の持ち物を預かってきた、花灯の意図は当たった。ガウは鼻を蠢かせてぴくりと反応し、迷うような仕草を見せる。
「俺やみんなが命をかけて守るから大丈夫です。だから……」
「おいで、お前の友達が心配しているぞ」
能う限り、穏やかに呼びかける。
やがてガウは戸惑いながらも、微かな少女の匂いを手繰る様に、少しずつ二人の元へ近づいてきた。
顎を撫で上げる様に手を延ばすと、ガウは僅かに緊張しながらもそれを、受け入れる。
それまで表情を崩さなかったイレーヌが、僅かに一瞬、頬を緩めた。
「……信じてくれたんだな。ありがとう」
つられて花灯も緊張を解いて破顔すると、ガウが一声、ひゃん、と軽やかに鳴いた。
ガウを毛布に包んで抱く花灯とイレーヌが少女の家を出ると、外で周囲を警戒していたバレルは陽動班のレナと連絡を取った。
『了解……こっちは今、広場で戦ってるから……』
トランシーバーから聞こえるレナの声には、荒々しい吐息が混じっていた。
そのまま脱出するか、一度合流するかーーハンター達は多少揺れたが、一度合流する方針を選んだ。村を巡回する敵は想像以上に数が多く、分散したままでは危険すぎると判断したのだ。
「帰るまでが遠足だ。緩むなよ……」
バレルが先導して安全を確保し、次いでガウを抱えて忍び足の花灯、殿に背後を警戒するイレーヌと続き、かろうじて骸骨を避けながら広場へと進んでいく。
救助班が村のほぼ中央に位置する広場に辿りついた時、陽動班は未だ立ちはだかる三体の骸骨と戦っている最中だった。
囮を担った彼等は大きく消耗していたが、花灯に抱えられたガウを眼にし、それぞれが安堵の表情を浮かべる。
「何が何でも、この子を無事に送り届けないといけないっすね」
脱出の目処が立ち、アリアを始め蛍人、イレーヌが負傷者の傷を治癒する。
それでも足りない分は、各々がマテリアルヒーリングで補った。
「すぐにでも移動しよう。また集まってこられたら堪らない」
体勢を立て直しつつも朱華は前線に立ち続け、骸骨達を相手取っている。鍔競り合いになった敵の膝を踏み抜く様にして蹴り砕き、転倒させた。
「なるべく、敵の少ない道を取りたいけど……」
「いや……そう上手くは、いかないみたいだね」
レナを尻目にイェルバートは、再び金色の目を凝らす。
村の入り口へ戻る道から新手、四体の骸骨が、向かってくるのが見える。更に、隊列の背後からも足音。
「……時間がない。一点突破するしかないかな」と、蛍人。
「もう少しだから、頑張ろう……!」レナは、最後のウィンドスラッシュの詠唱準備に入る。
「今度は私が盾になる。続いてくれ」
イレーヌは自らにプロテクションを施し花灯の……ガウの真ん前に立った。
その背中を見つめながら、花灯は腕の中の命を庇うように身を屈め、地を駆けるものの力を自らに宿す。
「かすり傷ひとつつけさせねーぞです……!」
そして前と後ろから襲い来る骸骨達。
ハンター達は、誰からともなく、駈け出した。
●帰還
村の入り口が見えるか見えないかの場所で、少女は微動だにせず、ハンター達の、親友の帰りを待ち続けていた。
やがて村の中から、豆粒の様な人影の群が見えた。
その正体を見極めんと、少女は目を凝らす……までも、無かった。
聞こえたのだ。自分を呼ぶ、愛しい友の声が。
少女の姿が遠目に見えるや、ガウはヒャウン、ヒャウンとしきりに吠えだした。花灯が苦笑しながら彼を地面におろしてやると、ガウはよたよたと、しかし懸命に少女の元に駆け寄っていく。
「ガウ! ガウ!」
少女が涙を流しながらガウを抱き締めるのを見て、ハンター達はようやく、肩の荷が降りた様に息をついた。
皆、傷だらけでも誰一人欠けることは無く……何よりも、肝心のガウは無傷だった。
「ご主人と再会できて、よかったね」
イェルバートに撫でられると、ガウはこれまでとは打って変わって、元気に犬らしく吠えて応えた。
蛍人とレナはガウと少女を取り囲んではしゃぎ、朱華やバレル、イレーヌはそれぞれ少し離れた所から、その光景を見守る様にして佇んでいた。
「ほんとうに、ありがとうございました」
最後に深々と頭を下げ、少女はガウと共に去っていった。村人達と共に、帝国の要塞にいくという。
彼女とガウがこれからどうなるかは、判らないが……少なくとも、彼女は笑っていた。
その事実の意味を、ハンター達は知っている。
報酬でも無く、名誉ですら無く。
少女を見送りながら、アリアはその笑顔を脳裏に刻み−−最後に小さく、満足気な吐息を漏らした。
依頼結果
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わんこ救出作戦会議室 バレル・ブラウリィ(ka1228) 人間(リアルブルー)|21才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/07/03 07:56:01 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/29 06:33:29 |