ゲスト
(ka0000)
【不動】愚者の行進
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/02 07:30
- 完成日
- 2015/04/07 06:24
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●咆哮と戯言
ナナミ河撃滅戦での勝利。そしてそれに続く聖地の奪還作戦。その大義に人類は沸く。
開拓地『ホープ』には次々に人と物が運び込まれ着々と準備が進んでいた。
そんな中、ホープの東部に位置するナナミ河の河口付近にで怠惰の歪虚の目撃情報が上がった。
聖地奪還作戦上では範囲外となる場所なのだが、そのまま放置する訳にもいかない。
先に報告を受けた辺境の部族達が戦士を集め、その討伐に向かうこととなった。
広大な荒野で土煙を上げながら十数名の部族の戦士達が馬を走らせる。
数時間も走ったところで正面に大岩が転がる岩場が見えてきた。
そこで戦闘を走る戦士の一人が声を上げる。
「正面の岩場に敵。怠惰の歪虚だ!」
おそらく其処が怠惰の歪虚達の休息地だったのだろう。こちらの馬の走る音が聞こえたのか、一匹の歪虚がその岩場の入り口から顔を覗かせていた。
そしてこちらを視認するなりガラガラな声で雄叫びを上げる。その声に応えるようにして岩場から更に二体の巨人が姿を現した。
「数は三体。倒せぬ敵ではない。行くぞっ!」
戦士達もまた雄叫びを上げ、手にした武器を構え突撃を開始する。
人を目にした怠惰の歪虚達は石斧を手に接近してくる。それに対して戦士達は一斉に弓を掃射、そして左右二手に分かれるようにして展開する。
攻防は戦士達が有利に見える。現在負傷者はゼロ。歪虚にはまだ小さな傷しか与えられていないが確実にその体力を削っていく。
その様はまさに狩りのようで、獲物である怠惰の歪虚を撹乱しながら徐々に弱らせていく手法は熟練の戦士達の腕の良さが分かる。
そうこうしている間に、一体の怠惰の歪虚が膝をついた。馬ごと駆け寄った一人の戦士がその足に戦槌を叩きつけたのだ。
苦悶の声を上げつつ倒れる巨人に戦士達は次々に弓を射掛けていく。
「よし、このまま――」
一体目が落ちる。そう思った時だった。
――グオオオォォッ!
膝をついていた巨人が一際大きな咆哮をあげた。
周囲の空気をビリビリと振るわせるその怒号は周囲の他の音の一切を吹き飛ばし、肌に刺す様な痛みを与えながら通り過ぎる。
その瞬間、馬達が突然恐慌状態に陥った。訓練された軍馬であるはずの馬達が今の咆哮を受けてパニックになり暴れまわり、またはその場で立ち尽くしてしまう。
更に、残りの二体の巨人もそれに呼応するように咆哮を上げた。音と共に衝撃波が二度走り、その周囲にいた馬達は軒並み恐慌状態に陥ってしまう。
そして棒立ちになってしまった馬に乗る戦士に巨大な石の塊が投げつけられた。
「しまっ――」
その戦士は言葉を最後まで発する間も無く、馬ごと石に押し潰される。
他の戦士達も同じように石斧の餌食になったり、馬が言うことを聞かず振り落とされて落馬し怪我をするものも出始めた。
「おのれ、能力持ちかっ」
この場の指揮をしていた戦士が顔色を変えて呟く。
恐慌に陥ってしまった馬達は半数。まだ立て直せるか? 指揮官の戦士は戦闘の続行か、撤退かを悩む。
と、その時正面にある岩場からもう一体、巨人が現れた。その巨人は黒い襤褸切れを羽織っており、その手には棍棒……いや、それにしては細く長い杖のようなものを手にしていた。
その巨人は指揮官の戦士を見ると、その杖を向け、言葉を口にした。
『ノロワレロ』
それは確かに人の言葉であり、そして呪いの言葉だった。
それを受けた途端、指揮官の戦士の体が石になったかのように固まり身動きが取れなくなる。
手綱を手にしていた手も動かなくなり、馬からずり落ちるようにして地面に落ちた。
「おい、どうした? おいっ!」
「ぐっ、あ……何が、あった?」
指揮官の戦士は痛みのおかげか動くようになった体で何とか立ち上がる。
その足取りはおぼつかなく、近くで立ち止まっていた愛馬に掴まって立ってるのがやっとだった。
「これ以上は不味い。一旦退こう!」
既に形勢は逆転。戦士達は巨人に追われ何とか攻撃を避けているだけで、放たれる矢は一本も無い。
指揮官の戦士はその様子を確認し、歯を食いしばりながら何とか声を戦場に響かせる。
「撤退だ! 全員退けぇ!」
●とあるテントにて
開拓地『ホープ』に立てられた仮設のプレハブ小屋にハンター達が集められた。
そこで待っていたのはハンターオフィスの職員が一人。資料らしい紙束を手にハンター達に一礼する。
「緊急の依頼です」
オフィス職員は簡潔に現在の状況を説明する。
事は歪虚発見の報を受け、撃退に向かった部族の戦士達が壊走したことから始まる。
当初は怠惰眷属の群からはぐれた歪虚であると思われたが、それが特殊個体であることが判明。
周囲に居る存在を恐慌させる咆哮や、さらには何らかの方法によって意識を低迷させる能力を持っており、非覚醒者では歯が立たなかったのだ。
「特に黒い襤褸切れを纏ったこの個体は謎が多く、その外にも何らかの能力を持っている可能性があります」
ハンター達に手渡された紙には、遠目に写したらしい襤褸切れを纏った巨人が写っていた。
聖地奪還作戦の為、これ以上の被害は見過ごせない。また同時にこれ以上の時間も、戦力も割くことができない。
これに失敗すれば周辺の町や村、もしかすればホープへの攻撃を許すことになりかねないのだ。
「説明は以上です。どうかご武運を」
オフィス職員に見送られ、ハンター達はすぐさま出撃の準備に取り掛かった。
ナナミ河撃滅戦での勝利。そしてそれに続く聖地の奪還作戦。その大義に人類は沸く。
開拓地『ホープ』には次々に人と物が運び込まれ着々と準備が進んでいた。
そんな中、ホープの東部に位置するナナミ河の河口付近にで怠惰の歪虚の目撃情報が上がった。
聖地奪還作戦上では範囲外となる場所なのだが、そのまま放置する訳にもいかない。
先に報告を受けた辺境の部族達が戦士を集め、その討伐に向かうこととなった。
広大な荒野で土煙を上げながら十数名の部族の戦士達が馬を走らせる。
数時間も走ったところで正面に大岩が転がる岩場が見えてきた。
そこで戦闘を走る戦士の一人が声を上げる。
「正面の岩場に敵。怠惰の歪虚だ!」
おそらく其処が怠惰の歪虚達の休息地だったのだろう。こちらの馬の走る音が聞こえたのか、一匹の歪虚がその岩場の入り口から顔を覗かせていた。
そしてこちらを視認するなりガラガラな声で雄叫びを上げる。その声に応えるようにして岩場から更に二体の巨人が姿を現した。
「数は三体。倒せぬ敵ではない。行くぞっ!」
戦士達もまた雄叫びを上げ、手にした武器を構え突撃を開始する。
人を目にした怠惰の歪虚達は石斧を手に接近してくる。それに対して戦士達は一斉に弓を掃射、そして左右二手に分かれるようにして展開する。
攻防は戦士達が有利に見える。現在負傷者はゼロ。歪虚にはまだ小さな傷しか与えられていないが確実にその体力を削っていく。
その様はまさに狩りのようで、獲物である怠惰の歪虚を撹乱しながら徐々に弱らせていく手法は熟練の戦士達の腕の良さが分かる。
そうこうしている間に、一体の怠惰の歪虚が膝をついた。馬ごと駆け寄った一人の戦士がその足に戦槌を叩きつけたのだ。
苦悶の声を上げつつ倒れる巨人に戦士達は次々に弓を射掛けていく。
「よし、このまま――」
一体目が落ちる。そう思った時だった。
――グオオオォォッ!
膝をついていた巨人が一際大きな咆哮をあげた。
周囲の空気をビリビリと振るわせるその怒号は周囲の他の音の一切を吹き飛ばし、肌に刺す様な痛みを与えながら通り過ぎる。
その瞬間、馬達が突然恐慌状態に陥った。訓練された軍馬であるはずの馬達が今の咆哮を受けてパニックになり暴れまわり、またはその場で立ち尽くしてしまう。
更に、残りの二体の巨人もそれに呼応するように咆哮を上げた。音と共に衝撃波が二度走り、その周囲にいた馬達は軒並み恐慌状態に陥ってしまう。
そして棒立ちになってしまった馬に乗る戦士に巨大な石の塊が投げつけられた。
「しまっ――」
その戦士は言葉を最後まで発する間も無く、馬ごと石に押し潰される。
他の戦士達も同じように石斧の餌食になったり、馬が言うことを聞かず振り落とされて落馬し怪我をするものも出始めた。
「おのれ、能力持ちかっ」
この場の指揮をしていた戦士が顔色を変えて呟く。
恐慌に陥ってしまった馬達は半数。まだ立て直せるか? 指揮官の戦士は戦闘の続行か、撤退かを悩む。
と、その時正面にある岩場からもう一体、巨人が現れた。その巨人は黒い襤褸切れを羽織っており、その手には棍棒……いや、それにしては細く長い杖のようなものを手にしていた。
その巨人は指揮官の戦士を見ると、その杖を向け、言葉を口にした。
『ノロワレロ』
それは確かに人の言葉であり、そして呪いの言葉だった。
それを受けた途端、指揮官の戦士の体が石になったかのように固まり身動きが取れなくなる。
手綱を手にしていた手も動かなくなり、馬からずり落ちるようにして地面に落ちた。
「おい、どうした? おいっ!」
「ぐっ、あ……何が、あった?」
指揮官の戦士は痛みのおかげか動くようになった体で何とか立ち上がる。
その足取りはおぼつかなく、近くで立ち止まっていた愛馬に掴まって立ってるのがやっとだった。
「これ以上は不味い。一旦退こう!」
既に形勢は逆転。戦士達は巨人に追われ何とか攻撃を避けているだけで、放たれる矢は一本も無い。
指揮官の戦士はその様子を確認し、歯を食いしばりながら何とか声を戦場に響かせる。
「撤退だ! 全員退けぇ!」
●とあるテントにて
開拓地『ホープ』に立てられた仮設のプレハブ小屋にハンター達が集められた。
そこで待っていたのはハンターオフィスの職員が一人。資料らしい紙束を手にハンター達に一礼する。
「緊急の依頼です」
オフィス職員は簡潔に現在の状況を説明する。
事は歪虚発見の報を受け、撃退に向かった部族の戦士達が壊走したことから始まる。
当初は怠惰眷属の群からはぐれた歪虚であると思われたが、それが特殊個体であることが判明。
周囲に居る存在を恐慌させる咆哮や、さらには何らかの方法によって意識を低迷させる能力を持っており、非覚醒者では歯が立たなかったのだ。
「特に黒い襤褸切れを纏ったこの個体は謎が多く、その外にも何らかの能力を持っている可能性があります」
ハンター達に手渡された紙には、遠目に写したらしい襤褸切れを纏った巨人が写っていた。
聖地奪還作戦の為、これ以上の被害は見過ごせない。また同時にこれ以上の時間も、戦力も割くことができない。
これに失敗すれば周辺の町や村、もしかすればホープへの攻撃を許すことになりかねないのだ。
「説明は以上です。どうかご武運を」
オフィス職員に見送られ、ハンター達はすぐさま出撃の準備に取り掛かった。
リプレイ本文
●岩場での決闘
開拓地『ホープ』。そこから東に数時間馬を走らせた場所に小さな岩場があった。
その岩場の中で一番大きな岩。その上で屈む体勢を取っていた八原 篝(ka3104)はその視界に四つの大きな人影を捉えていた。
「こちら篝。来たよ。まっすぐこっちに向かってる」
「了解だ。こっちも準備にかかる」
ヴァイス(ka0364)は返事をしたトランシーバーを懐に仕舞い、近くに居た仲間に目配せをする。
接敵まで残り数分。ハンター達は緊張と共に戦意をじわじわと高めていった。
岩と岩が重なり合いそこに出来た谷間。幅数メートルほどあるそこに巨人達が足を踏み入れた。
浅黒い肌をした巨人――ゲブリュル二体が先を進み、その少し後ろにもう一体のゲブリュルと襤褸切れを纏ったフルーホが続く。
四体の歪虚が岩場の中間に差し掛かったその時、ハンター達は一気に物陰から飛び出した。
「手負いの一体……彼方ですね」
先頭を進んでいた一体のゲブリュルに上泉 澪(ka0518)は大太刀を抜刀し、その足先に上段から叩きつける。
硬い。だが刃が通らないほどではない。具足を切り裂いてその傷口から黒い血の様な何かがどろりと流れる。
「それじゃあ俺はお前だ!」
ヴァイスは先頭を進んでいたもう一体のゲブリュルへ肉薄する。手にしている機械の取り付けられた刀は低い振動音を辺りに響かせる。振りぬいた刀は具足を切り裂いて足首に小さな傷を作った。
奇襲は成功し先手は取った。だが歪虚達もそのまま棒立ちで斬られてくれる訳ではない。
手にした石斧を振り上げて足元に居るハンター達目掛けてそれを振り下ろす。
澪とヴァイスはそれぞれの武器を構えそれを受ける。だがそもそもの体格が違いすぎる一撃。まともには受けてはいけない。
澪は受けた斧を受け流すようにして逸らし地面へと叩きつけさせ、ヴァイスは後ろに飛ぶことによってその衝撃を軽減する。
「お二人とも、大丈夫ですか?」
後ろに控えていた伊勢・明日奈(ka4060)は後ろに下がったヴァイスに駆け寄り、手にしたロッドに淡い光を点しそれをヴァイスへと向ける。
「なに、腕が痺れた程度だ。だがありがとよ」
「いえ、私が一番役に立てるのはこれですから」
明日奈はそう言って微笑む。ヴァイスもそれに応えるように笑みを作ると、刀を一度振るいまたゲブリュルへと向かった。
一方後方にいたもう一体のゲブリュルの前にはイーディス・ノースハイド(ka2106)が立ちふさがっていた。
奇襲で一撃を与えはしたが足に一つの傷を作った程度だ。巨人にとってはその程度ではただのかすり傷にすぎないだろう。
「本当にタフな相手だね」
またもう一振り、振り下ろされた石斧をイーディスは盾で受け止める。受け流すでもなく、飛び退くでもなく。ただ真正面から受け止めて、受けきって見せた。
そしてその隙を突き、一発の弾丸がゲブリュルの頬を撃ち抜いた。ゲブリュルは傷口を押さえながら野太い悲鳴を上げる。
「汚い悲鳴だな」
薄茶色のマントを頭から被った男――アーヴィン(ka3383)は膝撃ちの体勢から眼下で呻くゲブリュルを岩場の上から見下ろす。
そのアーヴィンの隣を赤い影が通り抜けた。
「帝国民、APV所属! メリエ、突撃します!」
機械仕掛けの刀を構えたメリエ・フリョーシカ(ka1991)が岩上から飛び降りた。
狙いはゲブリュルの頭。そこに向けて刀を思い切り突き立てる。
しかし痛みに暴れるゲブリュルの所為で狙いが逸れ、その刀はゲブリュルの背中に突き刺さった。
「外れたっ。でも、このままぁ!」
突き刺さった刀を軸にゲブリュルの背に足を着け、そのまま地面に向かってその背を蹴った。それと同時に腕の力を限界まで引き出し、突き刺さっている刀でその背にある骨と肉を大きく裂く。
ゲブリュルは背に手を回しながら届かぬ傷口の痛みに悶え苦しんでいる。と、急にゲブリュルは背を急に丸める。次の瞬間には天に向かって大口を開けて咆えた。
周囲の大気がビリビリと振るえそれは衝撃となってハンター達の体を突き抜ける。
「すっごい大声。耳が痛い」
「けど耐えられないほどではないさ」
若干頭が揺さぶられた感じは残るがメリエとイーディスはゲブリュルの咆哮に耐えきってみせた。
だが、そこで二人に急激な不快感が襲う。それは体の異常ではなく、己の本能が何か不味いと告げている合図だと瞬時に気づいた。
『ウゴクナ』
しわがれ声が聞こえた。その声の主であるフルーホはこちらに向けて杖を向けている。
次の瞬間にはメリエとイーディスは体が強張り、まるで錆び付いた機械のように体の自由が利かなくなる。
「くっ、体が……」
「これが、呪いか!」
その隙を狙うようにしてゲブリュルが石斧を振り上げるが、それを振り下ろす前にその腕を弾丸が貫く。
「呪いか。実際に目にしてみると厄介だな」
ゲブリュルの腕を撃ち抜いたアーヴィンはフルーホへと一度視線を向ける。するとフルーホもこちらへと視線を向けており、そして同時に杖も此方へ向けようとしていた。
「ちぃっ!」
『シビレロ』
言葉はほぼ同時。行動は一瞬早くアーヴィンが動いた。地面を転がるようにして移動したアーヴィンはすぐさま自分の体の状態を確認する。
両足と右腕は動く。だが左腕が痺れている。どうやら呪いの効果範囲から左腕だけ逃れられなかったらしい。
狙いを外したフルーホは、また目前にいるメリエとイーディスに視線を戻しまた杖を向ける。呪いを重複させ更に動けなくさせる魂胆なのだろう。
だが、それを放つ前にフルーホの視界に赤い何かが迫っていた。それは着弾すると同時に弾け、フルーホの頭を打ち上げる。
「ヤレヤレ、二人とも大丈夫かね? 意志を強く持ちたまえ」
呪いの所為で体の動かない二人の前にいつの間にか久延毘 大二郎(ka1771)が立っていた。
乱入者である大二郎に傍にいたゲブリュルは狙いを定め踏み潰そうと足を持ち上げるが、突然そのゲブリュルの頭を覆うように青白い雲状のガスが現れる。
そのガスはゲブリュルの意識を蝕み強制的に眠りへと誘い、その膝を折らせた。
その間に呪いが解けたのかメリエとイーディスの体が自由を取り戻す。
「サンキュー、助かったよ」
「何、礼なら後でいいよ。まずは彼らを倒してしまおう」
大二郎が黄金色の杖を振るうとマテリアルの残滓が周囲に散った。
●最後の咆哮
ハンターと歪虚の戦いが始まって数十分。たった4匹の歪虚相手ではあるがそのタフさは並大抵のものではなかった。
「……行け!」
篝の放った弾丸が突き出した岩の先端を跳ね返り、ゲブリュルの死角からその背中を捉える。
弾丸が突き破った肌からは黒い血が流れるが、まるで堪えている様子がない。
「もうっ。いい加減に倒れてくれないかなっ!」
既に数え切れないほどの傷は作っている。だがそれでも尚目の前の歪虚はその活動を停止しない。
と、ゲブリュルが篝に視線を向けたかと思うと力を溜めるように少し前かがみになる。
「っ! 来るよ!」
篝が身構えると同時にゲブリュルの咆哮が周囲の空間を揺らす。既に何度も受けたその声は慣れるようなものではない。
だが、何度も見ていればそこに生まれる隙も看破することが出来る。
咆哮の終わり際を狙い、澪が地面を蹴って一気に接近する。目の前のゲブリュルの具足は何度も切り裂かれた所為で既に防具としての機能を失っている。
その壊れた防具の隙間を狙い、澪が地面と並行に構えた大太刀が滑るようにしてつま先から踵までの肉を切り裂いた。
切り裂かれた痛みに咆えるゲブリュル。そして足の力を失ったのかバランスを崩して横向きに転倒し地面に強か体を打ちつける。
勿論そこを狙わない手はない。翻した澪の太刀ががら空きの脇腹を縦に大きな傷を作る。
さらにもう一撃、それを狙おうとしたした所でもう一体のゲブリュルが澪を掴もうと腕を伸ばす。
「おっと、その手を引っ込めて貰おうか!」
その腕が澪に届く前にヴァイスの振るう刃がそれを妨害する。だが切り裂かれているにも関わらずその腕を横薙ぎに振るいヴァイスの体を弾き飛ばした。
「げほっ。骨の一、二本いったなこりゃ」
岩肌に叩きつけられた体を起こしたヴァイスは胸元を押さえる。咳き込んだ口元からは血が零れた。
そこに追撃をかけようとゲブリュルが迫るが、その間にロッドを構えた明日奈が立ちはだかった。
ゲブリュルは目の前に現れた小柄の人間にあっさり標的を変え、明日奈に向けて石斧を振るった。
「やらせませんっ!」
振り下ろされた斧を明日奈はロッドで受ける。勿論だがその体格差から力で勝てる訳もなく、弾かれて明日奈もまた岩に叩きつけられた。
「つぅ、ま、まだ……」
明日奈はふらふらと立ち上がりロッドを構える。そこにゲブリュルは声を上げながら走りこんでくるが、その前にそれを阻止するかのように銃声が響いた。
横殴りにされたようにゲブリュルは頭を振りその場で蹈鞴を踏む。
「てめえらは獣と同じだ。獣なら獣らしく人に狩られろ」
岩場の上から見下ろすアーヴィンが吐き捨てるように告げる。そして二度、三度と引き金を引きゲブリュルの背中に風穴を増やす。
「お前はそろそろ倒れろ!」
ヴァイスが駆け、膝をつくゲブリュルの体を足場にして飛び登り、その喉元を真横に掻っ捌いた。ゲブリュルは喉元を押さえながら前のめりに倒れ伏す。
「まずは一匹!」
「いや、そっちは二匹目よ」
篝の声にそちらを見れば、倒れているゲブリュルの前で篝は丁度ハンドガンの弾装を交換しているところだった。そしてその背の上に居る澪がその首筋から太刀を引き抜いているところだった。
二体のゲブリュルが倒される少し前、後方でも激戦が繰り広げられていた。
「斬って傷が付くなら、殺せない道理なし。いずれ十三魔の首の刈り取る時を前に、恐れる道理なし!」
メリエは己の戦意を鼓舞する為なのか早口に言葉を捲くし立て、それと共に手にした刀でゲブリュルと切り結ぶ。
打ち合わせた斧を構えなおしたゲブリュルは胸元を膨らませる。それに何をするか察したメリエは大地を蹴ってゲブリュルから少しでも離れる。
爆弾が爆発したような咆哮を受け肌に痛みが走るが意識に混乱はない。だがメリエは弾かれたようにもう一度その場から離脱する。
『ノロイアレ』
フルーホの戯言と共に振るった杖から呪いが放たれる。メリエは辛うじてその範囲から逃れるが大分距離を離されてしまった。
「全く、しつこくて陰湿な巨人だなっ!」
そんな体勢の崩れているメリエに向かってゲブリュルが突っ込んでくるが、それをカバーするようにイーディスが立ちはだかる。
振り下ろされた石斧を盾で受け止めるが、勢いのついたその攻撃はイーディスを後ろへと押しやる。地面には削られた足跡が1メートル近く作られた。
「私は英雄の盾。その程度で砕けると思わないことだね」
イーディスがそのまま盾を打ち上げれば、ゲブリュルの受けていた斧を弾き上げる。
「フム、そろそろ君が出す騒音にもうんざりしてきたところだ。そろそろその口を閉じてくれないか?」
そこにすかさず大二郎の放つ風の刃が飛び、ゲブリュルの喉元を裂いた。ゲブリュルはぼたぼたと落ちる黒い血をせき止めるように手で押さえるが指の隙間からどんどん溢れ出して行く。
「よし、トドメを――」
うずくまるゲブリュルに刀を振り上げたメリエだったが、次の瞬間不思議な浮遊感を味わう。
「なっ!?」
気づけばすぐ傍までフルーホが近づいてきていたのだ。杖の持っていない手をメリエにかざしていた。
そして気づいたときにはメリエの足は地を離れ、何かに強力な力でそのかざされたフルーホの手の中へと引き寄せられていた。
「くっ、放せぇ!」
メリエを捕らえたフルーホはそのまま彼女の体を握り潰そうと力を籠める。メリエの体のあちこちから骨の軋む音が鳴るが、彼女はそれに渾身の力で抗おうとする。
「フム、物体の吸引か? まさか歪虚がテレキネシスを使うとは」
「感心している場合ではないよ!」
イーディスが駆け寄ろうとするが、横合いから接近してきたものに咄嗟の判断で盾を構える。イーディスの体は激しい衝撃と共に体は跳ね飛ばされ地面を転がった。
「やれやれ、君も大概しつこいね」
喉元を裂かれているのにも関わらず斧を振るったゲブリュルを大二郎は目をやや細めて睨みつける。そして杖を持つ手とは逆の手に持つ拳銃をゲブリュルの頭に向けてその引き金を引いた。
「早く放せっていうんだ!」
その間に掴まれている手の指に僅かに隙間を作ったメリエはその指に刀を突き刺した。
フルーホはその攻撃に僅かに顔を顰め、腕を大きく振るうと手にしていたメリエを投げつけた。
「メリエ殿!」
投げ出されたメリエが地面に叩きつけられる前にイーディスがその体を受け止める。鎧で固めたイーディスの体とぶつかることになったが、そのまま受身もとれず地面に激突するよりはマシだろう。
「メリエ殿、大丈夫かな?」
「痛ぁ! よくもやったなこの木偶の坊! 頭のてっぺんから爪先まで全部ばらばらに引き裂いてやる!」
「ああ、大丈夫のようだね」
痛む腕を押さえながら咆えるメリエにイーディスは無事だということを確認する。
フルーホは喚くメリエを一瞥しこの戦況を眺める。視界の奥では二体の仲間が地面に倒れ伏している。こちらに残っている一体も既に満身創痍だ。であれば、取るべき行動は恐らく人間でも同じだろう。
『ノロワレロ』
「芸がないな。そもそもそんな子供の悪口の様な言葉で、私がそう何度も呪われると思っているのかね?」
これまでの戦闘で何度か呪いを受けはしたが、その意志の元で金縛りを回避した大二郎は杖を向ける。先端から放たれた赤い光がフルーホに迫るが、それが届く前に振るわれた石斧がそれを叩き落した。
そしてゲブリュルはそのまま道を塞ぐようにして立ちふさがる。
「おい、まさか……」
大二郎が眉を顰めた瞬間、視界に映るゲブリュルの奥で翻る襤褸切れが見えた。
「ちぃっ! 逃がすか!」
メリエもそれに気づき走るが、それを妨害する為かゲブリュルは石斧で地面を横薙ぎに抉って土と石を広範囲に飛ばし、周囲に土埃を立てる。
「殿のつもりかな。死を覚悟してるようだし厄介だね」
イーディスの言葉に応えるようにゲブリュルは大きく息を吸い込み、雄叫びを上げる。
これまで以上に強烈な咆哮は岩場を揺らし、ハンター達の体を僅かながらに硬直させる。
そして土煙が晴れた頃には、フルーホの姿は消えてなくなっていた。残ったのはハンター達と、死に掛けのゲブリュルが一体だけ。
「……さっきのが遺言ってことでいいな。全然伝わってないけどな!」
振動を開始した刀を強く握り締め、メリエは残ったゲブリュルの胸を一突きにした。
開拓地『ホープ』。そこから東に数時間馬を走らせた場所に小さな岩場があった。
その岩場の中で一番大きな岩。その上で屈む体勢を取っていた八原 篝(ka3104)はその視界に四つの大きな人影を捉えていた。
「こちら篝。来たよ。まっすぐこっちに向かってる」
「了解だ。こっちも準備にかかる」
ヴァイス(ka0364)は返事をしたトランシーバーを懐に仕舞い、近くに居た仲間に目配せをする。
接敵まで残り数分。ハンター達は緊張と共に戦意をじわじわと高めていった。
岩と岩が重なり合いそこに出来た谷間。幅数メートルほどあるそこに巨人達が足を踏み入れた。
浅黒い肌をした巨人――ゲブリュル二体が先を進み、その少し後ろにもう一体のゲブリュルと襤褸切れを纏ったフルーホが続く。
四体の歪虚が岩場の中間に差し掛かったその時、ハンター達は一気に物陰から飛び出した。
「手負いの一体……彼方ですね」
先頭を進んでいた一体のゲブリュルに上泉 澪(ka0518)は大太刀を抜刀し、その足先に上段から叩きつける。
硬い。だが刃が通らないほどではない。具足を切り裂いてその傷口から黒い血の様な何かがどろりと流れる。
「それじゃあ俺はお前だ!」
ヴァイスは先頭を進んでいたもう一体のゲブリュルへ肉薄する。手にしている機械の取り付けられた刀は低い振動音を辺りに響かせる。振りぬいた刀は具足を切り裂いて足首に小さな傷を作った。
奇襲は成功し先手は取った。だが歪虚達もそのまま棒立ちで斬られてくれる訳ではない。
手にした石斧を振り上げて足元に居るハンター達目掛けてそれを振り下ろす。
澪とヴァイスはそれぞれの武器を構えそれを受ける。だがそもそもの体格が違いすぎる一撃。まともには受けてはいけない。
澪は受けた斧を受け流すようにして逸らし地面へと叩きつけさせ、ヴァイスは後ろに飛ぶことによってその衝撃を軽減する。
「お二人とも、大丈夫ですか?」
後ろに控えていた伊勢・明日奈(ka4060)は後ろに下がったヴァイスに駆け寄り、手にしたロッドに淡い光を点しそれをヴァイスへと向ける。
「なに、腕が痺れた程度だ。だがありがとよ」
「いえ、私が一番役に立てるのはこれですから」
明日奈はそう言って微笑む。ヴァイスもそれに応えるように笑みを作ると、刀を一度振るいまたゲブリュルへと向かった。
一方後方にいたもう一体のゲブリュルの前にはイーディス・ノースハイド(ka2106)が立ちふさがっていた。
奇襲で一撃を与えはしたが足に一つの傷を作った程度だ。巨人にとってはその程度ではただのかすり傷にすぎないだろう。
「本当にタフな相手だね」
またもう一振り、振り下ろされた石斧をイーディスは盾で受け止める。受け流すでもなく、飛び退くでもなく。ただ真正面から受け止めて、受けきって見せた。
そしてその隙を突き、一発の弾丸がゲブリュルの頬を撃ち抜いた。ゲブリュルは傷口を押さえながら野太い悲鳴を上げる。
「汚い悲鳴だな」
薄茶色のマントを頭から被った男――アーヴィン(ka3383)は膝撃ちの体勢から眼下で呻くゲブリュルを岩場の上から見下ろす。
そのアーヴィンの隣を赤い影が通り抜けた。
「帝国民、APV所属! メリエ、突撃します!」
機械仕掛けの刀を構えたメリエ・フリョーシカ(ka1991)が岩上から飛び降りた。
狙いはゲブリュルの頭。そこに向けて刀を思い切り突き立てる。
しかし痛みに暴れるゲブリュルの所為で狙いが逸れ、その刀はゲブリュルの背中に突き刺さった。
「外れたっ。でも、このままぁ!」
突き刺さった刀を軸にゲブリュルの背に足を着け、そのまま地面に向かってその背を蹴った。それと同時に腕の力を限界まで引き出し、突き刺さっている刀でその背にある骨と肉を大きく裂く。
ゲブリュルは背に手を回しながら届かぬ傷口の痛みに悶え苦しんでいる。と、急にゲブリュルは背を急に丸める。次の瞬間には天に向かって大口を開けて咆えた。
周囲の大気がビリビリと振るえそれは衝撃となってハンター達の体を突き抜ける。
「すっごい大声。耳が痛い」
「けど耐えられないほどではないさ」
若干頭が揺さぶられた感じは残るがメリエとイーディスはゲブリュルの咆哮に耐えきってみせた。
だが、そこで二人に急激な不快感が襲う。それは体の異常ではなく、己の本能が何か不味いと告げている合図だと瞬時に気づいた。
『ウゴクナ』
しわがれ声が聞こえた。その声の主であるフルーホはこちらに向けて杖を向けている。
次の瞬間にはメリエとイーディスは体が強張り、まるで錆び付いた機械のように体の自由が利かなくなる。
「くっ、体が……」
「これが、呪いか!」
その隙を狙うようにしてゲブリュルが石斧を振り上げるが、それを振り下ろす前にその腕を弾丸が貫く。
「呪いか。実際に目にしてみると厄介だな」
ゲブリュルの腕を撃ち抜いたアーヴィンはフルーホへと一度視線を向ける。するとフルーホもこちらへと視線を向けており、そして同時に杖も此方へ向けようとしていた。
「ちぃっ!」
『シビレロ』
言葉はほぼ同時。行動は一瞬早くアーヴィンが動いた。地面を転がるようにして移動したアーヴィンはすぐさま自分の体の状態を確認する。
両足と右腕は動く。だが左腕が痺れている。どうやら呪いの効果範囲から左腕だけ逃れられなかったらしい。
狙いを外したフルーホは、また目前にいるメリエとイーディスに視線を戻しまた杖を向ける。呪いを重複させ更に動けなくさせる魂胆なのだろう。
だが、それを放つ前にフルーホの視界に赤い何かが迫っていた。それは着弾すると同時に弾け、フルーホの頭を打ち上げる。
「ヤレヤレ、二人とも大丈夫かね? 意志を強く持ちたまえ」
呪いの所為で体の動かない二人の前にいつの間にか久延毘 大二郎(ka1771)が立っていた。
乱入者である大二郎に傍にいたゲブリュルは狙いを定め踏み潰そうと足を持ち上げるが、突然そのゲブリュルの頭を覆うように青白い雲状のガスが現れる。
そのガスはゲブリュルの意識を蝕み強制的に眠りへと誘い、その膝を折らせた。
その間に呪いが解けたのかメリエとイーディスの体が自由を取り戻す。
「サンキュー、助かったよ」
「何、礼なら後でいいよ。まずは彼らを倒してしまおう」
大二郎が黄金色の杖を振るうとマテリアルの残滓が周囲に散った。
●最後の咆哮
ハンターと歪虚の戦いが始まって数十分。たった4匹の歪虚相手ではあるがそのタフさは並大抵のものではなかった。
「……行け!」
篝の放った弾丸が突き出した岩の先端を跳ね返り、ゲブリュルの死角からその背中を捉える。
弾丸が突き破った肌からは黒い血が流れるが、まるで堪えている様子がない。
「もうっ。いい加減に倒れてくれないかなっ!」
既に数え切れないほどの傷は作っている。だがそれでも尚目の前の歪虚はその活動を停止しない。
と、ゲブリュルが篝に視線を向けたかと思うと力を溜めるように少し前かがみになる。
「っ! 来るよ!」
篝が身構えると同時にゲブリュルの咆哮が周囲の空間を揺らす。既に何度も受けたその声は慣れるようなものではない。
だが、何度も見ていればそこに生まれる隙も看破することが出来る。
咆哮の終わり際を狙い、澪が地面を蹴って一気に接近する。目の前のゲブリュルの具足は何度も切り裂かれた所為で既に防具としての機能を失っている。
その壊れた防具の隙間を狙い、澪が地面と並行に構えた大太刀が滑るようにしてつま先から踵までの肉を切り裂いた。
切り裂かれた痛みに咆えるゲブリュル。そして足の力を失ったのかバランスを崩して横向きに転倒し地面に強か体を打ちつける。
勿論そこを狙わない手はない。翻した澪の太刀ががら空きの脇腹を縦に大きな傷を作る。
さらにもう一撃、それを狙おうとしたした所でもう一体のゲブリュルが澪を掴もうと腕を伸ばす。
「おっと、その手を引っ込めて貰おうか!」
その腕が澪に届く前にヴァイスの振るう刃がそれを妨害する。だが切り裂かれているにも関わらずその腕を横薙ぎに振るいヴァイスの体を弾き飛ばした。
「げほっ。骨の一、二本いったなこりゃ」
岩肌に叩きつけられた体を起こしたヴァイスは胸元を押さえる。咳き込んだ口元からは血が零れた。
そこに追撃をかけようとゲブリュルが迫るが、その間にロッドを構えた明日奈が立ちはだかった。
ゲブリュルは目の前に現れた小柄の人間にあっさり標的を変え、明日奈に向けて石斧を振るった。
「やらせませんっ!」
振り下ろされた斧を明日奈はロッドで受ける。勿論だがその体格差から力で勝てる訳もなく、弾かれて明日奈もまた岩に叩きつけられた。
「つぅ、ま、まだ……」
明日奈はふらふらと立ち上がりロッドを構える。そこにゲブリュルは声を上げながら走りこんでくるが、その前にそれを阻止するかのように銃声が響いた。
横殴りにされたようにゲブリュルは頭を振りその場で蹈鞴を踏む。
「てめえらは獣と同じだ。獣なら獣らしく人に狩られろ」
岩場の上から見下ろすアーヴィンが吐き捨てるように告げる。そして二度、三度と引き金を引きゲブリュルの背中に風穴を増やす。
「お前はそろそろ倒れろ!」
ヴァイスが駆け、膝をつくゲブリュルの体を足場にして飛び登り、その喉元を真横に掻っ捌いた。ゲブリュルは喉元を押さえながら前のめりに倒れ伏す。
「まずは一匹!」
「いや、そっちは二匹目よ」
篝の声にそちらを見れば、倒れているゲブリュルの前で篝は丁度ハンドガンの弾装を交換しているところだった。そしてその背の上に居る澪がその首筋から太刀を引き抜いているところだった。
二体のゲブリュルが倒される少し前、後方でも激戦が繰り広げられていた。
「斬って傷が付くなら、殺せない道理なし。いずれ十三魔の首の刈り取る時を前に、恐れる道理なし!」
メリエは己の戦意を鼓舞する為なのか早口に言葉を捲くし立て、それと共に手にした刀でゲブリュルと切り結ぶ。
打ち合わせた斧を構えなおしたゲブリュルは胸元を膨らませる。それに何をするか察したメリエは大地を蹴ってゲブリュルから少しでも離れる。
爆弾が爆発したような咆哮を受け肌に痛みが走るが意識に混乱はない。だがメリエは弾かれたようにもう一度その場から離脱する。
『ノロイアレ』
フルーホの戯言と共に振るった杖から呪いが放たれる。メリエは辛うじてその範囲から逃れるが大分距離を離されてしまった。
「全く、しつこくて陰湿な巨人だなっ!」
そんな体勢の崩れているメリエに向かってゲブリュルが突っ込んでくるが、それをカバーするようにイーディスが立ちはだかる。
振り下ろされた石斧を盾で受け止めるが、勢いのついたその攻撃はイーディスを後ろへと押しやる。地面には削られた足跡が1メートル近く作られた。
「私は英雄の盾。その程度で砕けると思わないことだね」
イーディスがそのまま盾を打ち上げれば、ゲブリュルの受けていた斧を弾き上げる。
「フム、そろそろ君が出す騒音にもうんざりしてきたところだ。そろそろその口を閉じてくれないか?」
そこにすかさず大二郎の放つ風の刃が飛び、ゲブリュルの喉元を裂いた。ゲブリュルはぼたぼたと落ちる黒い血をせき止めるように手で押さえるが指の隙間からどんどん溢れ出して行く。
「よし、トドメを――」
うずくまるゲブリュルに刀を振り上げたメリエだったが、次の瞬間不思議な浮遊感を味わう。
「なっ!?」
気づけばすぐ傍までフルーホが近づいてきていたのだ。杖の持っていない手をメリエにかざしていた。
そして気づいたときにはメリエの足は地を離れ、何かに強力な力でそのかざされたフルーホの手の中へと引き寄せられていた。
「くっ、放せぇ!」
メリエを捕らえたフルーホはそのまま彼女の体を握り潰そうと力を籠める。メリエの体のあちこちから骨の軋む音が鳴るが、彼女はそれに渾身の力で抗おうとする。
「フム、物体の吸引か? まさか歪虚がテレキネシスを使うとは」
「感心している場合ではないよ!」
イーディスが駆け寄ろうとするが、横合いから接近してきたものに咄嗟の判断で盾を構える。イーディスの体は激しい衝撃と共に体は跳ね飛ばされ地面を転がった。
「やれやれ、君も大概しつこいね」
喉元を裂かれているのにも関わらず斧を振るったゲブリュルを大二郎は目をやや細めて睨みつける。そして杖を持つ手とは逆の手に持つ拳銃をゲブリュルの頭に向けてその引き金を引いた。
「早く放せっていうんだ!」
その間に掴まれている手の指に僅かに隙間を作ったメリエはその指に刀を突き刺した。
フルーホはその攻撃に僅かに顔を顰め、腕を大きく振るうと手にしていたメリエを投げつけた。
「メリエ殿!」
投げ出されたメリエが地面に叩きつけられる前にイーディスがその体を受け止める。鎧で固めたイーディスの体とぶつかることになったが、そのまま受身もとれず地面に激突するよりはマシだろう。
「メリエ殿、大丈夫かな?」
「痛ぁ! よくもやったなこの木偶の坊! 頭のてっぺんから爪先まで全部ばらばらに引き裂いてやる!」
「ああ、大丈夫のようだね」
痛む腕を押さえながら咆えるメリエにイーディスは無事だということを確認する。
フルーホは喚くメリエを一瞥しこの戦況を眺める。視界の奥では二体の仲間が地面に倒れ伏している。こちらに残っている一体も既に満身創痍だ。であれば、取るべき行動は恐らく人間でも同じだろう。
『ノロワレロ』
「芸がないな。そもそもそんな子供の悪口の様な言葉で、私がそう何度も呪われると思っているのかね?」
これまでの戦闘で何度か呪いを受けはしたが、その意志の元で金縛りを回避した大二郎は杖を向ける。先端から放たれた赤い光がフルーホに迫るが、それが届く前に振るわれた石斧がそれを叩き落した。
そしてゲブリュルはそのまま道を塞ぐようにして立ちふさがる。
「おい、まさか……」
大二郎が眉を顰めた瞬間、視界に映るゲブリュルの奥で翻る襤褸切れが見えた。
「ちぃっ! 逃がすか!」
メリエもそれに気づき走るが、それを妨害する為かゲブリュルは石斧で地面を横薙ぎに抉って土と石を広範囲に飛ばし、周囲に土埃を立てる。
「殿のつもりかな。死を覚悟してるようだし厄介だね」
イーディスの言葉に応えるようにゲブリュルは大きく息を吸い込み、雄叫びを上げる。
これまで以上に強烈な咆哮は岩場を揺らし、ハンター達の体を僅かながらに硬直させる。
そして土煙が晴れた頃には、フルーホの姿は消えてなくなっていた。残ったのはハンター達と、死に掛けのゲブリュルが一体だけ。
「……さっきのが遺言ってことでいいな。全然伝わってないけどな!」
振動を開始した刀を強く握り締め、メリエは残ったゲブリュルの胸を一突きにした。
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/04/01 19:07:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/30 09:37:17 |