ゲスト
(ka0000)
実験畑の研究日誌5頁目―街道編―
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/03 22:00
- 完成日
- 2015/04/13 01:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ジェオルジへ農具の売り込みに。
うちの鍛冶場で焼いた鋼は頑丈で、どんな土だって上手く耕す。
荷馬車に満載の鍬の行き先は、農業都市ジェオルジのおっきな市場。と、ちょっとコネのある北の畑。なんでも、実験畑と呼ばれているらしい。
工場都市フマーレを発つ商人の馬車は、ジェオルジへ向かう街道の入り口で止められた。
最近この辺りでゴブリンや歪虚の出没が目立つらしい。せめて護衛を付けてくれ、とのことだった。
商人は出立を一日遅らせてハンターオフィスに掛け合った。
『荷馬車の護衛、ジェオルジまで、片道』
●
集まったハンター達に商人は自己紹介を兼ねて、行き先と積荷を改めて告げた。
「何度も通っている道だ。大したことないと思うんだがな」
笑いながら荷馬車を走らせ、がたごとと街道を行く。
春先の晴れた空はとても綺麗だ。
商人は話し好きな質なのか、道中ハンター達に彼是と話し掛けてきた。蹄の音に、積荷の揺れる音に、車輪の音に紛れながらも穏やかに、朗らかに。
商人の目的地はジェオルジの市場の一つで、長く懇意にしている所らしい。そこへ詰んでいる鍬の殆どを卸してくる。
そして、もう1箇所。ジェオルジ北部の実験畑。ルーベン・ジェオルジが出資し、魔術と農業の研究をしている畑や研究施設がある場所だと楽しげに話す。
「面白いよなぁ、魔術を農業にってぇのは、さ……まあ、魔法で土が耕されりゃあ、俺等の商売は上がっちまうなぁ」
豪快に笑いながら。そして、そういえば、と手綱を揺らしながら。
「前にもその実験畑に特注のスコップを届けたことがあってなぁ――そんとき小耳に挟んだんだが……おっと」
緩んでいた手綱を引いて馬を止めた。
桑の実を潰したような紫色のローブを纏った何ものかが、ゆらゆらと陽炎の様に漂いながら近付いてくる。
派手なローブを除けば、それは疲れた旅歩きの姿にも見えたが、深く被ったフードの隙間から覗いた口は、大凡人間のそれとは異なっていた。
深く切れ込んだ三日月型の暗闇の中歯車が回り、発条が跳ねる。そして、高く低く女性的でもあり男性的でもある様々な音を継ぎ接ぎした歪な声で話し掛けてきた。
「アラアラァ、こんにちワ? 僕は、急いで、いるのですヨ」
ゆらゆらと商人の男が止めた馬車に近付く足は、人のそれよりもずっと速い。
「急いでいるのです、が、それハ、玩具、ですネ」
ローブの袖が持ち上がる。僅かに除いたのは白磁の陶器のような作り物めいた白い指先。かたかたと強張った動きで持ち上がったその腕の先がはらりと解ける。
白い手から放たれたのは、木彫りの甲虫。地面に落ちる寸前にそれは膨れて、歪んだマテリアルの本性を晒す。
濁った大粒の目玉が商人とハンターを眺める。長いバネの触覚を揺らし、鋭い爪と細く硬い骨をゴムで繋いだ脚で這って、飛び上がる。羽ばたくことも無く、背負った玉虫色の甲に陽光を映し、地面から僅かに浮き上がって、ふらふらと前進してくる。
「僕の、玩具と、交換、しましョ」
きゃきゃ、と幼い笑い声がどこからともなく響いてきた。
ローブの歪虚を囲むように甲虫の歪虚がゆらりと並び、目玉を蠢かして、玩具と称された荷馬車を眺めた。
●
先程、ローブの歪虚が去った実験畑。
鳴り続けていた警鐘が止み、研究者等の殆どが屋内への退避を終えた中、襲撃を受けている畑とはいくらか離れた場所に立てられた研究棟の一室で、折れたスコップを手に溜息を吐く研究者が1人。
特注だと言われたそれを折ってしまい、新しい物を依頼したのが先日。そして、今日辺りに届くと知らせを受けていた。
窓からもぴりぴりと不穏な気配が伝わってくる。
彼は、とても良い物を作ってくれるから。
どうかどうか、無事であってくれと祈る。
ジェオルジへ農具の売り込みに。
うちの鍛冶場で焼いた鋼は頑丈で、どんな土だって上手く耕す。
荷馬車に満載の鍬の行き先は、農業都市ジェオルジのおっきな市場。と、ちょっとコネのある北の畑。なんでも、実験畑と呼ばれているらしい。
工場都市フマーレを発つ商人の馬車は、ジェオルジへ向かう街道の入り口で止められた。
最近この辺りでゴブリンや歪虚の出没が目立つらしい。せめて護衛を付けてくれ、とのことだった。
商人は出立を一日遅らせてハンターオフィスに掛け合った。
『荷馬車の護衛、ジェオルジまで、片道』
●
集まったハンター達に商人は自己紹介を兼ねて、行き先と積荷を改めて告げた。
「何度も通っている道だ。大したことないと思うんだがな」
笑いながら荷馬車を走らせ、がたごとと街道を行く。
春先の晴れた空はとても綺麗だ。
商人は話し好きな質なのか、道中ハンター達に彼是と話し掛けてきた。蹄の音に、積荷の揺れる音に、車輪の音に紛れながらも穏やかに、朗らかに。
商人の目的地はジェオルジの市場の一つで、長く懇意にしている所らしい。そこへ詰んでいる鍬の殆どを卸してくる。
そして、もう1箇所。ジェオルジ北部の実験畑。ルーベン・ジェオルジが出資し、魔術と農業の研究をしている畑や研究施設がある場所だと楽しげに話す。
「面白いよなぁ、魔術を農業にってぇのは、さ……まあ、魔法で土が耕されりゃあ、俺等の商売は上がっちまうなぁ」
豪快に笑いながら。そして、そういえば、と手綱を揺らしながら。
「前にもその実験畑に特注のスコップを届けたことがあってなぁ――そんとき小耳に挟んだんだが……おっと」
緩んでいた手綱を引いて馬を止めた。
桑の実を潰したような紫色のローブを纏った何ものかが、ゆらゆらと陽炎の様に漂いながら近付いてくる。
派手なローブを除けば、それは疲れた旅歩きの姿にも見えたが、深く被ったフードの隙間から覗いた口は、大凡人間のそれとは異なっていた。
深く切れ込んだ三日月型の暗闇の中歯車が回り、発条が跳ねる。そして、高く低く女性的でもあり男性的でもある様々な音を継ぎ接ぎした歪な声で話し掛けてきた。
「アラアラァ、こんにちワ? 僕は、急いで、いるのですヨ」
ゆらゆらと商人の男が止めた馬車に近付く足は、人のそれよりもずっと速い。
「急いでいるのです、が、それハ、玩具、ですネ」
ローブの袖が持ち上がる。僅かに除いたのは白磁の陶器のような作り物めいた白い指先。かたかたと強張った動きで持ち上がったその腕の先がはらりと解ける。
白い手から放たれたのは、木彫りの甲虫。地面に落ちる寸前にそれは膨れて、歪んだマテリアルの本性を晒す。
濁った大粒の目玉が商人とハンターを眺める。長いバネの触覚を揺らし、鋭い爪と細く硬い骨をゴムで繋いだ脚で這って、飛び上がる。羽ばたくことも無く、背負った玉虫色の甲に陽光を映し、地面から僅かに浮き上がって、ふらふらと前進してくる。
「僕の、玩具と、交換、しましョ」
きゃきゃ、と幼い笑い声がどこからともなく響いてきた。
ローブの歪虚を囲むように甲虫の歪虚がゆらりと並び、目玉を蠢かして、玩具と称された荷馬車を眺めた。
●
先程、ローブの歪虚が去った実験畑。
鳴り続けていた警鐘が止み、研究者等の殆どが屋内への退避を終えた中、襲撃を受けている畑とはいくらか離れた場所に立てられた研究棟の一室で、折れたスコップを手に溜息を吐く研究者が1人。
特注だと言われたそれを折ってしまい、新しい物を依頼したのが先日。そして、今日辺りに届くと知らせを受けていた。
窓からもぴりぴりと不穏な気配が伝わってくる。
彼は、とても良い物を作ってくれるから。
どうかどうか、無事であってくれと祈る。
リプレイ本文
●
横一列に並んでハンター達に向かう甲虫の歪虚。その後ろに佇む紫色のローブは陶器の指先をひらひらと揺らし、ハンター達を指して嗤う。
「玩具は、玩具ニ。獲ってきて、もらいましョ」
三日月に切れ込む歪虚の口から稚い笑い声の響く中、甲虫たちがハンターを狙う。
「商人さん、安心してそこでじっとしてて……ざくろ達が、商人さんにも荷馬車にも絶対近づかせないから!」
宝石を散りばめた剣を翻し、長い刀身を容易く操りながら時音 ざくろ(ka1250)は甲虫の至近まで走り出る。結わえた漆黒の髪を揺らしながら振り返り、依頼人に任せてと言うような笑みを向ける。
華やぐ少女めいた笑みを閉ざして歪虚へ向き直ると、凜と涼しく口角を吊り上げて敵を見据えた。少年の顔でそれを睨みながら、剣の石に光を映しきらきらと鮮やかなそれを揺らして誘う。
「せっかくの丈夫な鍬ですもの。折らないで無事運び届けて喜ばせてあげましょー」
ノアール=プレアール(ka1623)も商人に声を掛けてから、数歩前に足を進めた。その蒼い瞳が淡く、次第に鋭く光を帯びて、虹彩が歯車の様相を呈する。マテリアルに彩られる瞳で敵を見詰めると、白い杖を振り翳した。
一般人に戦わせるわけにはいかないからと微笑を浮かべ、背後の馬車を感知しながら、庇う様に立ち位置を定める。
「まず、足止めですヨ」
歪な声が響くと同時に、並んだ甲虫から放たれた粘液が時音の盾とノアールの膝下に絡みついた。
ノアールは構わずに杖を歪虚に正対するロニ・カルディス(ka0551)の背に向ける。
「でも、メインは攻撃なのよねー」
杖に飾られた機導の歯車を回して流れ込むマテリアルを得て、ロニは彼の丈程の槍を1匹の甲虫に突き付けてその目玉を貫く。
「その交換レートではとても了承できないな」
怒気を孕み低く落とす声は穂先で目玉を爆ぜさせた甲虫では無く、弾けた発条や歯車の散る向こう側で笑い続ける人型の歪虚に向けられている。
片手で操る槍を構え直し、盾を前に甲虫の前進を阻み馬車を庇う。
警戒する耳を劈く銃声が響き、ロニに抑えられていた甲虫が、その目の前で硬い甲羅ごと射抜かれた。銃弾に千切られた裂け目からパーツを零し、ゴムで繋いだ細い足が暫し地面を引っ掻いてから土塊に変わる。
「まずは数を減らさねぇと」
大振りな銃を片腕に、銃床を肩に据えてグリップを離さず。リアサイトを片目で覗き込んで銃口で次を探りながら、柊 真司(ka0705)が告げる。柊が足を進めた土を踏む音を添えて狙いを向けられた甲虫の、黒く歪な目玉がぐるりと回転した。
最前線の1匹が落とされて陣形が崩れた甲虫が、更に前進する。馬車の近くで銃を構えたミオレスカ(ka3496)の十分な射程にも1匹潜り込んできた。
小柄な身で銃を取り、両手で構えてそれを狙う。
戦ぐ風に揺れた髪が光を帯び、感覚を研ぎ澄ませて狙う程、その光が虹の色を鮮やかに放つ。
この身を呈することになっても、馬車に突撃はさせません……そう唇を結び、胸中に誓った。
「隠れていてください。大丈夫です、私達が、守ります」
迫る甲虫を撃ち抜きながら、抑えた声で言う。
「無機物の歪虚化だね。その力、知ってるんだよ」
ミオレスカと共に馬車を庇う弓月 幸子(ka1749)の声に、甲虫たちの後ろでローブの影が揺れる。ローブの陰る暗い口の中で歯車が回り、低い声が、そうですか、と鳴る。
「人を笑顔にするためのはずのもので人を泣かせる。それは絶対に許さないんだよ」
魔方陣をあしらう手袋の指が甲虫を指し、剣の形の魔術具から炎を纏う矢が放たれた。
ほっそりとした少女の体が幾らか大人びて、鋭くなった双眸がじっとその軌跡を見詰める。
●
早早と1匹の手駒を完全に砕かれ、もう1匹も深手を負わされ。人型の歪虚はローブを揺らして大袈裟に考え込む振りを見せた。
「アラアラァ、もっと丈夫な、玩具ガ、いりました、ネ」
幼子から老人まで、誰と知れない継ぎ接ぎした声に歯車の回る音が混じる。
「まア、それハ、次。次ですネ」
傷を得た歪虚は留まるまま、残りは前進し、ハンター達に鋭い爪を持つ脚を伸ばした。
隙間を詰めて正面に来た1匹を、ロニは盾でいなして槍で貫く。
「馬車の陰に隠れろ、敵の視界に入らないように――ここは、抜かせない」
振り払う槍が甲虫の首を裂く。パーツ共に溢れた黒い霧と液体は地面に染みて、風に流されて散っていく。足下まで転がってきた黒い歯車を踏みつぶすと、それは音も無く崩れて土に混じった。
ロニの声に商人が一度顔を覗かせたが、近くで守る弓月とミオレスカが頷いて、馬車ごと商人の姿を甲虫から隠すように間を詰める。盾に弾かれる爪の音が後方まで響いた。
「うん。危ないから外には顔を出さないでね」
弓月がざらりと地面を踏みしめ、その甲虫へ炎の矢を落とし、合わせるようにミオレスカも銃を構え、マテリアルを込めて放つ。
そして瞬時に振り返り、商人がその身を完全に隠していることを確かめてから、次の敵へ銃口を向ける。
「ざくろの玩具の方が楽しいよ!」
時音がきらりと剣の光を甲虫へ、その向こうのローブへと飛ばして誘う。荷馬車よりもこちらを狙えと誘い、引き付けられた1匹が爪を伸ばす。
爪を立てに受け、かたかたと鳴らしながら抑えきると、その背中に温もりを感じた。
「もう動けそうね。次は、私も叩きますよー」
粘液を引き剥がし、ノアールが杖を時音に向けて彼の攻撃を支えるエネルギーを流す。
デバイスを介し、時音の剣が強く輝いて甲虫を貫く。
ノアールは手元で杖を持ち直し、足に絡む名残を振り払うと、その切っ先を時音を狙う甲虫へ向けた。
「さてと――お邪魔虫も減ったことだし親玉狙いといくぜ」
傷を負って藻掻いていた歪虚に留めを刺し、柊は銃口を甲虫から逸らす。回りの動きを眺めながら足を運び、ひっくり返って歯車を覗かせる三日月の口へ狙いを付けた。
既に3匹の甲虫はその姿を土塊に変え、残り4匹。1匹は深手を負い、3匹とも前に出ているロニや時音を狙っているが、その盾と鎧に阻まれ、爪を弾かれている。
ここで攻勢に転じ、逃すまいとローブを睨んだ。
「随分頑丈、抜けそうニ、ない、ですネ。でも、そちらハ手薄?」
右の指をくるくると甲虫を引かせて馬車の背後を狙わせる。
その動きに抜かせまいと、ミオレスカと弓月が馬車に積めて構える。
足止めの解けたノアールと時音も、攻撃に転じる機を覗い、ロニの穂先は進んでくる甲虫をぶれずに狙う。
その中で、柊の銃口は鮮やかな紫に狙いを据える。
「アラァ、僕、ガ、狙い、ですカ。そうですカ」
ローブの歪虚が左の手を持ち上げる。作り物の指が硬い動きでローブの袖から覗き、握っていたその指を痙攣するように広げると、閃光が走り地面からその姿を覆い隠す煙が舞った。
歪虚を狙っていた柊の放った銃弾は、遮られた視界を構わず煙を裂いて突き進む。
一筋の鉛玉は逃走を謀った歪虚が深く被ったフードを破り、その頬の位置へ罅を入れながら素顔を晒させた。
「親玉だろ、逃がさねぇよ」
機械音を伴って柊へ向けた顔は人間のそれでは無く、陶器の頭の眼窩の部分にスコープと歯車をはめ込んだもの。陰っていたフードが無くなると、三日月の口の中で回る歯車がよく見えた。
次弾こそ、その頭を飛ばそうと、柊は下がり過ぎない距離を保ち狙いを付ける。金の瞳の瞳孔が殺意に竦んだ。
回り込もうとする甲虫を弾き、ロニは近くに残った1匹と正対する。
時音と対峙する手負いのものが1匹と、ノアールの方へ、馬車を守る2人の方へ迫るものがそれぞれ1匹ずつ。
ローブの歪虚が策を講じたようだが、馬車には届いていないようだ。
「こちらだ。来い」
穂先で誘い、盾でいなす。柔らかそうな腹を叩く隙を探り、爪や牙の攻撃を鎧で封じる。
「外は堅くても、内部まではそうもいくまい?」
槍を下げてマテリアルを込めた盾で殴るように脇を叩くと、藻掻いた甲虫が足を止める。槍を引き寄せて足を払い、地面に這ったそれを見下ろす。
藻掻き呻く口から粘液と唸るような音が零れた。
「これを倒したら、ざくろも前に出るよ!」
盾から滴っていた粘液も消えた。これ以上近付けまいと、時音は至近に迫って剣を据える。
「雷を纏い唸れ魔法剣……電撃ショック!」
剣の触れた瞬間、足をばたつかせて動きを止めた甲虫を置き、時音は前を睨む。柊の銃の射線を量り、剣を構えるとその歪虚を挟む位置へと走り出した。
「邪魔しないでほしいものねー」
ノアールが静かに杖を構える。歯車の装飾にマテリアルを集め、こちらに顔を向けたローブの歪虚を一瞥するが、先ずは今動きを止めた甲虫を落としきる。
叩き付けるようにマテリアルの光を落とすと、硬い殻ごと割られた甲虫が地面に腑のようなパーツを散らし黒く散っていく。
「さあ、次はどこかしらー?」
朗らかに言いながら、バトンのように回した杖の先には既に次の光が集まっている。
探る様に甲虫へ視線を向け、馬車から離すように誘って揺らす。
大きく迂回し馬車へ走った甲虫は1匹。けれど回りきる前に炎に弾かれる。
「気になるけど……ここを抜かれるわけにはいかないんだよ」
弓月が胸元に目をあしらったペンダントトップを揺らし、炎を放った剣を向ける。
「ボクのターン」
攻撃の手番。消えた炎の下で藻掻いた甲虫の爪は僅かに届かない。炎に抗う動きのままで、細い足に平たいゴムで繋がれた爪を揺らしている。
中空を掻いていたそれは地面を捕らえると、黒い目玉で彼女を眺めた。
その目玉を片方、ミオレスカの放った鉛が弾く。
ぽん、と軽く爆ぜたその中からは粘度の高い黒い液体と淀んだ霧が溢れ、地面には歯車と発条、この歪虚のパーツらしい諸々の部品が零れ落ちた。
「遠くにいるみんなも、護ってくれています」
思い出すように伏せた目をゆっくりと開き、澄んだ緑の瞳で真っ直ぐに狙いを据え、マテリアルを込めて撃ち抜く銃弾が弾く。
「……だから、負けません」
銃口から零れる煙が流れる。見回せば殆どの甲虫は沈黙し、地面に這って黒い液体や霧を吐き出すばかりになっている。
それらを従えていたローブの歪虚も不利を十分に悟り、逃走を始めていた。
●
まだ動けたらしい1匹が馬車へ走る、ロニは対峙していた甲虫を盾で抑えながら槍を翳す。胸に仕舞ったロザリオを介し、槍の穂先から影を放ち甲虫の進行を妨げる。
「こちらだと、言ったはずだ」
横目にその甲虫を睨む。2匹を抑えた足が地面に沈み膝が震えた。
槍が軋む前に放たれた炎の矢、ノアールが杖を構えて口角を上げた。
「動くのは、後1匹ですからねー」
杖を振るい、先を見詰める。
弓月とミオレスカも馬車へ迫っていた甲虫に留めを刺して、警戒しながら前へ走った。
「絶対逃がさない……」
時音がローブの歪虚に向かって剣を向ける。狙いを据えた先に向かって、マテリアルをエネルギーに変換し、その切っ先から光を放つ。
「あれは決してお前の玩具なんかじゃない!」
歪虚の口の中、音を探すように歯車が回る。
「玩具、ですヨ」
体を傾けると光は紫のローブを焦がし、その袖を僅かに焼き切った。
そして、焦げを払うように伸びた腕を、一発の銃弾が弾き飛ばした。球体の肩と肘と手首、細い鋼鉄の上腕、陶器の前腕と手、ローブを引きちぎり舞い上がった作り物の腕は、それを弾いた柊の前にぽとりと落ちた。
「ア。アラアラァ……これは、これハ、しくじりましたネ、残念。玩具、欲しかったんですガ」
罅の入った頭を傾け、集まってきたハンター達を見回して、残った腕でフードの切れ端を引っ張り上げた。そして、人形の回るように背を向けると、迫ってきた時と同じように、ゆらゆらと陽炎の様に、しかし、人が歩いているとは思えない速さで滑るように地面を駆った。
「待てっ!」
残弾が切れるまで放たれた銃弾がローブに幾つも穴を開けたが、その歩みは止まらなかった。
●
ロニは最後に残った甲虫に槍を突き立て、馬車と周囲の安全を確かめる。
盾を引き槍を構えて前へ目を向けるが、既にローブの歪虚は逃げたようだ。
逃走を図っただろう街道の先を眺めて、それから馬車を一瞥する。馬車の側に付いていたミオレスカも先を気にしているようだ。
「向こうは大丈夫だろうか?」
「研究所の方ですよね」
作物が気になると、今は言っている余裕は無さそうですがと肩を竦め、商人に声を掛ける。一先ず去ったらしい襲撃に安堵して頷きながら、商人も行き先のことを気にしているようだ。
弓月が側に戻ってくる。マテリアルを込めた名残か、ペンダントが淡く明滅していた。
「泣かせる人を作らない……だから倒したかったんだよ」
届かなかった炎の矢、柄を握り締めた剣を下ろし、唇を結び項垂れる。
「あなたに戦わせることにならなくてよかったわ……ジェオルジまでもう少しね。無事運び届けて喜ばせてあげましょー」
杖を下ろしてノアールが息を整える。行き先や逃げた歪虚を気に掛けながら、馬車に凭れて鍬を撫でる。冷たい鉄の感触に、折れなくて良かったと目を細めた。
少し経って、柊と時音が戻ってきた。
森の中を確認したがと言いながら柊は首を横に揺らす。既に歪虚の姿は無かったらしい。
「再襲撃は無さそうだが、どこに逃げやがった……っ」
負った肩から振り下ろした銃身が空気を薙ぐ。街道の先を睨みながら踏みつけた歪虚の腕だった残骸は、既に跡形無く塵となって風に土に溶けていく。
「…………待ってる人が居る……」
俯いて、足を重く引きずるように戻ってきた時音の唇から小さな声が零れた。
「商人さんの農具を待ってる人が居る……だから」
「そうだな、進むか」
盾を負い、槍を構え直してロニが街道を見据えた。
歪虚が去った今重要なのは、彼と荷を安全に届けることだと。
横一列に並んでハンター達に向かう甲虫の歪虚。その後ろに佇む紫色のローブは陶器の指先をひらひらと揺らし、ハンター達を指して嗤う。
「玩具は、玩具ニ。獲ってきて、もらいましョ」
三日月に切れ込む歪虚の口から稚い笑い声の響く中、甲虫たちがハンターを狙う。
「商人さん、安心してそこでじっとしてて……ざくろ達が、商人さんにも荷馬車にも絶対近づかせないから!」
宝石を散りばめた剣を翻し、長い刀身を容易く操りながら時音 ざくろ(ka1250)は甲虫の至近まで走り出る。結わえた漆黒の髪を揺らしながら振り返り、依頼人に任せてと言うような笑みを向ける。
華やぐ少女めいた笑みを閉ざして歪虚へ向き直ると、凜と涼しく口角を吊り上げて敵を見据えた。少年の顔でそれを睨みながら、剣の石に光を映しきらきらと鮮やかなそれを揺らして誘う。
「せっかくの丈夫な鍬ですもの。折らないで無事運び届けて喜ばせてあげましょー」
ノアール=プレアール(ka1623)も商人に声を掛けてから、数歩前に足を進めた。その蒼い瞳が淡く、次第に鋭く光を帯びて、虹彩が歯車の様相を呈する。マテリアルに彩られる瞳で敵を見詰めると、白い杖を振り翳した。
一般人に戦わせるわけにはいかないからと微笑を浮かべ、背後の馬車を感知しながら、庇う様に立ち位置を定める。
「まず、足止めですヨ」
歪な声が響くと同時に、並んだ甲虫から放たれた粘液が時音の盾とノアールの膝下に絡みついた。
ノアールは構わずに杖を歪虚に正対するロニ・カルディス(ka0551)の背に向ける。
「でも、メインは攻撃なのよねー」
杖に飾られた機導の歯車を回して流れ込むマテリアルを得て、ロニは彼の丈程の槍を1匹の甲虫に突き付けてその目玉を貫く。
「その交換レートではとても了承できないな」
怒気を孕み低く落とす声は穂先で目玉を爆ぜさせた甲虫では無く、弾けた発条や歯車の散る向こう側で笑い続ける人型の歪虚に向けられている。
片手で操る槍を構え直し、盾を前に甲虫の前進を阻み馬車を庇う。
警戒する耳を劈く銃声が響き、ロニに抑えられていた甲虫が、その目の前で硬い甲羅ごと射抜かれた。銃弾に千切られた裂け目からパーツを零し、ゴムで繋いだ細い足が暫し地面を引っ掻いてから土塊に変わる。
「まずは数を減らさねぇと」
大振りな銃を片腕に、銃床を肩に据えてグリップを離さず。リアサイトを片目で覗き込んで銃口で次を探りながら、柊 真司(ka0705)が告げる。柊が足を進めた土を踏む音を添えて狙いを向けられた甲虫の、黒く歪な目玉がぐるりと回転した。
最前線の1匹が落とされて陣形が崩れた甲虫が、更に前進する。馬車の近くで銃を構えたミオレスカ(ka3496)の十分な射程にも1匹潜り込んできた。
小柄な身で銃を取り、両手で構えてそれを狙う。
戦ぐ風に揺れた髪が光を帯び、感覚を研ぎ澄ませて狙う程、その光が虹の色を鮮やかに放つ。
この身を呈することになっても、馬車に突撃はさせません……そう唇を結び、胸中に誓った。
「隠れていてください。大丈夫です、私達が、守ります」
迫る甲虫を撃ち抜きながら、抑えた声で言う。
「無機物の歪虚化だね。その力、知ってるんだよ」
ミオレスカと共に馬車を庇う弓月 幸子(ka1749)の声に、甲虫たちの後ろでローブの影が揺れる。ローブの陰る暗い口の中で歯車が回り、低い声が、そうですか、と鳴る。
「人を笑顔にするためのはずのもので人を泣かせる。それは絶対に許さないんだよ」
魔方陣をあしらう手袋の指が甲虫を指し、剣の形の魔術具から炎を纏う矢が放たれた。
ほっそりとした少女の体が幾らか大人びて、鋭くなった双眸がじっとその軌跡を見詰める。
●
早早と1匹の手駒を完全に砕かれ、もう1匹も深手を負わされ。人型の歪虚はローブを揺らして大袈裟に考え込む振りを見せた。
「アラアラァ、もっと丈夫な、玩具ガ、いりました、ネ」
幼子から老人まで、誰と知れない継ぎ接ぎした声に歯車の回る音が混じる。
「まア、それハ、次。次ですネ」
傷を得た歪虚は留まるまま、残りは前進し、ハンター達に鋭い爪を持つ脚を伸ばした。
隙間を詰めて正面に来た1匹を、ロニは盾でいなして槍で貫く。
「馬車の陰に隠れろ、敵の視界に入らないように――ここは、抜かせない」
振り払う槍が甲虫の首を裂く。パーツ共に溢れた黒い霧と液体は地面に染みて、風に流されて散っていく。足下まで転がってきた黒い歯車を踏みつぶすと、それは音も無く崩れて土に混じった。
ロニの声に商人が一度顔を覗かせたが、近くで守る弓月とミオレスカが頷いて、馬車ごと商人の姿を甲虫から隠すように間を詰める。盾に弾かれる爪の音が後方まで響いた。
「うん。危ないから外には顔を出さないでね」
弓月がざらりと地面を踏みしめ、その甲虫へ炎の矢を落とし、合わせるようにミオレスカも銃を構え、マテリアルを込めて放つ。
そして瞬時に振り返り、商人がその身を完全に隠していることを確かめてから、次の敵へ銃口を向ける。
「ざくろの玩具の方が楽しいよ!」
時音がきらりと剣の光を甲虫へ、その向こうのローブへと飛ばして誘う。荷馬車よりもこちらを狙えと誘い、引き付けられた1匹が爪を伸ばす。
爪を立てに受け、かたかたと鳴らしながら抑えきると、その背中に温もりを感じた。
「もう動けそうね。次は、私も叩きますよー」
粘液を引き剥がし、ノアールが杖を時音に向けて彼の攻撃を支えるエネルギーを流す。
デバイスを介し、時音の剣が強く輝いて甲虫を貫く。
ノアールは手元で杖を持ち直し、足に絡む名残を振り払うと、その切っ先を時音を狙う甲虫へ向けた。
「さてと――お邪魔虫も減ったことだし親玉狙いといくぜ」
傷を負って藻掻いていた歪虚に留めを刺し、柊は銃口を甲虫から逸らす。回りの動きを眺めながら足を運び、ひっくり返って歯車を覗かせる三日月の口へ狙いを付けた。
既に3匹の甲虫はその姿を土塊に変え、残り4匹。1匹は深手を負い、3匹とも前に出ているロニや時音を狙っているが、その盾と鎧に阻まれ、爪を弾かれている。
ここで攻勢に転じ、逃すまいとローブを睨んだ。
「随分頑丈、抜けそうニ、ない、ですネ。でも、そちらハ手薄?」
右の指をくるくると甲虫を引かせて馬車の背後を狙わせる。
その動きに抜かせまいと、ミオレスカと弓月が馬車に積めて構える。
足止めの解けたノアールと時音も、攻撃に転じる機を覗い、ロニの穂先は進んでくる甲虫をぶれずに狙う。
その中で、柊の銃口は鮮やかな紫に狙いを据える。
「アラァ、僕、ガ、狙い、ですカ。そうですカ」
ローブの歪虚が左の手を持ち上げる。作り物の指が硬い動きでローブの袖から覗き、握っていたその指を痙攣するように広げると、閃光が走り地面からその姿を覆い隠す煙が舞った。
歪虚を狙っていた柊の放った銃弾は、遮られた視界を構わず煙を裂いて突き進む。
一筋の鉛玉は逃走を謀った歪虚が深く被ったフードを破り、その頬の位置へ罅を入れながら素顔を晒させた。
「親玉だろ、逃がさねぇよ」
機械音を伴って柊へ向けた顔は人間のそれでは無く、陶器の頭の眼窩の部分にスコープと歯車をはめ込んだもの。陰っていたフードが無くなると、三日月の口の中で回る歯車がよく見えた。
次弾こそ、その頭を飛ばそうと、柊は下がり過ぎない距離を保ち狙いを付ける。金の瞳の瞳孔が殺意に竦んだ。
回り込もうとする甲虫を弾き、ロニは近くに残った1匹と正対する。
時音と対峙する手負いのものが1匹と、ノアールの方へ、馬車を守る2人の方へ迫るものがそれぞれ1匹ずつ。
ローブの歪虚が策を講じたようだが、馬車には届いていないようだ。
「こちらだ。来い」
穂先で誘い、盾でいなす。柔らかそうな腹を叩く隙を探り、爪や牙の攻撃を鎧で封じる。
「外は堅くても、内部まではそうもいくまい?」
槍を下げてマテリアルを込めた盾で殴るように脇を叩くと、藻掻いた甲虫が足を止める。槍を引き寄せて足を払い、地面に這ったそれを見下ろす。
藻掻き呻く口から粘液と唸るような音が零れた。
「これを倒したら、ざくろも前に出るよ!」
盾から滴っていた粘液も消えた。これ以上近付けまいと、時音は至近に迫って剣を据える。
「雷を纏い唸れ魔法剣……電撃ショック!」
剣の触れた瞬間、足をばたつかせて動きを止めた甲虫を置き、時音は前を睨む。柊の銃の射線を量り、剣を構えるとその歪虚を挟む位置へと走り出した。
「邪魔しないでほしいものねー」
ノアールが静かに杖を構える。歯車の装飾にマテリアルを集め、こちらに顔を向けたローブの歪虚を一瞥するが、先ずは今動きを止めた甲虫を落としきる。
叩き付けるようにマテリアルの光を落とすと、硬い殻ごと割られた甲虫が地面に腑のようなパーツを散らし黒く散っていく。
「さあ、次はどこかしらー?」
朗らかに言いながら、バトンのように回した杖の先には既に次の光が集まっている。
探る様に甲虫へ視線を向け、馬車から離すように誘って揺らす。
大きく迂回し馬車へ走った甲虫は1匹。けれど回りきる前に炎に弾かれる。
「気になるけど……ここを抜かれるわけにはいかないんだよ」
弓月が胸元に目をあしらったペンダントトップを揺らし、炎を放った剣を向ける。
「ボクのターン」
攻撃の手番。消えた炎の下で藻掻いた甲虫の爪は僅かに届かない。炎に抗う動きのままで、細い足に平たいゴムで繋がれた爪を揺らしている。
中空を掻いていたそれは地面を捕らえると、黒い目玉で彼女を眺めた。
その目玉を片方、ミオレスカの放った鉛が弾く。
ぽん、と軽く爆ぜたその中からは粘度の高い黒い液体と淀んだ霧が溢れ、地面には歯車と発条、この歪虚のパーツらしい諸々の部品が零れ落ちた。
「遠くにいるみんなも、護ってくれています」
思い出すように伏せた目をゆっくりと開き、澄んだ緑の瞳で真っ直ぐに狙いを据え、マテリアルを込めて撃ち抜く銃弾が弾く。
「……だから、負けません」
銃口から零れる煙が流れる。見回せば殆どの甲虫は沈黙し、地面に這って黒い液体や霧を吐き出すばかりになっている。
それらを従えていたローブの歪虚も不利を十分に悟り、逃走を始めていた。
●
まだ動けたらしい1匹が馬車へ走る、ロニは対峙していた甲虫を盾で抑えながら槍を翳す。胸に仕舞ったロザリオを介し、槍の穂先から影を放ち甲虫の進行を妨げる。
「こちらだと、言ったはずだ」
横目にその甲虫を睨む。2匹を抑えた足が地面に沈み膝が震えた。
槍が軋む前に放たれた炎の矢、ノアールが杖を構えて口角を上げた。
「動くのは、後1匹ですからねー」
杖を振るい、先を見詰める。
弓月とミオレスカも馬車へ迫っていた甲虫に留めを刺して、警戒しながら前へ走った。
「絶対逃がさない……」
時音がローブの歪虚に向かって剣を向ける。狙いを据えた先に向かって、マテリアルをエネルギーに変換し、その切っ先から光を放つ。
「あれは決してお前の玩具なんかじゃない!」
歪虚の口の中、音を探すように歯車が回る。
「玩具、ですヨ」
体を傾けると光は紫のローブを焦がし、その袖を僅かに焼き切った。
そして、焦げを払うように伸びた腕を、一発の銃弾が弾き飛ばした。球体の肩と肘と手首、細い鋼鉄の上腕、陶器の前腕と手、ローブを引きちぎり舞い上がった作り物の腕は、それを弾いた柊の前にぽとりと落ちた。
「ア。アラアラァ……これは、これハ、しくじりましたネ、残念。玩具、欲しかったんですガ」
罅の入った頭を傾け、集まってきたハンター達を見回して、残った腕でフードの切れ端を引っ張り上げた。そして、人形の回るように背を向けると、迫ってきた時と同じように、ゆらゆらと陽炎の様に、しかし、人が歩いているとは思えない速さで滑るように地面を駆った。
「待てっ!」
残弾が切れるまで放たれた銃弾がローブに幾つも穴を開けたが、その歩みは止まらなかった。
●
ロニは最後に残った甲虫に槍を突き立て、馬車と周囲の安全を確かめる。
盾を引き槍を構えて前へ目を向けるが、既にローブの歪虚は逃げたようだ。
逃走を図っただろう街道の先を眺めて、それから馬車を一瞥する。馬車の側に付いていたミオレスカも先を気にしているようだ。
「向こうは大丈夫だろうか?」
「研究所の方ですよね」
作物が気になると、今は言っている余裕は無さそうですがと肩を竦め、商人に声を掛ける。一先ず去ったらしい襲撃に安堵して頷きながら、商人も行き先のことを気にしているようだ。
弓月が側に戻ってくる。マテリアルを込めた名残か、ペンダントが淡く明滅していた。
「泣かせる人を作らない……だから倒したかったんだよ」
届かなかった炎の矢、柄を握り締めた剣を下ろし、唇を結び項垂れる。
「あなたに戦わせることにならなくてよかったわ……ジェオルジまでもう少しね。無事運び届けて喜ばせてあげましょー」
杖を下ろしてノアールが息を整える。行き先や逃げた歪虚を気に掛けながら、馬車に凭れて鍬を撫でる。冷たい鉄の感触に、折れなくて良かったと目を細めた。
少し経って、柊と時音が戻ってきた。
森の中を確認したがと言いながら柊は首を横に揺らす。既に歪虚の姿は無かったらしい。
「再襲撃は無さそうだが、どこに逃げやがった……っ」
負った肩から振り下ろした銃身が空気を薙ぐ。街道の先を睨みながら踏みつけた歪虚の腕だった残骸は、既に跡形無く塵となって風に土に溶けていく。
「…………待ってる人が居る……」
俯いて、足を重く引きずるように戻ってきた時音の唇から小さな声が零れた。
「商人さんの農具を待ってる人が居る……だから」
「そうだな、進むか」
盾を負い、槍を構え直してロニが街道を見据えた。
歪虚が去った今重要なのは、彼と荷を安全に届けることだと。
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【相談】歪虚撃退作戦 ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/04/03 21:06:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/29 22:15:59 |