ゲスト
(ka0000)
実験畑の研究日誌4頁目―畑編―
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/31 12:00
- 完成日
- 2015/04/09 00:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ハンターの案内人を自称するハンターオフィスのとある受付嬢は、広場の片隅の無垢材のベンチに座り、春先の空を眺める。
隣にはモナ・カルヴィーノ。ここ、農業魔術研究機関、通称、実験畑で特に「ルーベンさんの実験畑」と呼ばれるオーナーのルーベン・ジェオルジが手を掛けている畑の研究助手が座っていた。
彼が関わった研究に、炎を防ぐ綿花がある。
先日、その綿花の移送と護衛の以来を案内人が仲介した縁があり、実験畑で「ちょっとした依頼にも、ハンターさんの手を!」と、宣伝活動に励む彼女とは、休憩時間に並んでお茶を飲む程度の友人となっていた。
「ふぁぁ、やっぱりここのお茶は、美味しいですねー。温かくて、ほっとしますよー」
「そう言って頂けると、育て甲斐があります」
柔和に微笑んだモナは白衣の袖で隠す口許で嬉しそうに笑った。
その腕には分厚い紙の束とバインダーが抱えられている。
「新しい研究ですか?」
「――ええ、あの綿花は、とても希な成功例です。紡績をお願いしましたが、それで終わりというわけにもいきませんので。……生産性の向上と、弱点の克服。やることは、沢山です」
飲み終えたカップを手に立ち上がり背を反らす。机に向かってばかりで固まった体がぱきぱきと解れていく。お疲れさまです、と案内人が笑って、モナも肩を竦めて眦を垂れた。
●
休憩を終えた2人が宣伝活動――ポップな書体でカラフルに描いたポスターを所構わずに貼る――と、研究に戻ろうと広場を出た瞬間。
きぃんと耳を劈く悲鳴のような警鐘が鳴り響いた。
「っ、何ですか? この音!」
「……緊急の、緊急事態が、起きた時の…………」
モナは書類を抱えて走り出した。
案内人が急ぎその後を追う。
警鐘に驚いた研究者や彼等の助手、職員達が建物から出てきている。それぞれの畑で作業をしていた彼等も、何事かと騒いでいた。
実験畑の敷地は広い。
両手を広げて走り回れる程の畑が何枚も、全てをよく見て回るには一日では足りない程だ。
それぞれの畑に管理棟と、区画ごとに研究棟が点在し、案内人とモナが休んでいた広場の先、南の外れには全てを統括している本部棟が置かれている。
どこかで何等かの緊急事態が発生し、それが本部へ伝わって、敷地全てで警鐘が鳴らされた。
「皆さん、落ち着いて下さい! 本部の方は、何があったかを彼女に」
モナに促され、オフィスの制服を纏った案内人が前に出ると、職員の1人が青ざめた顔で告げた。
西の区画で歪虚の姿が確認された。
最寄りの畑は、「ルーベンさんの実験畑」。
モナと彼の師が先日綿花を送り出したあの畑だ。
ばさりと音を立ててモナの腕から紙が落ち、不意の突風に散らばっていった。
本部からハンターオフィスへ連絡を入れ、モナと案内人は西の畑へ走った。道中の畑や管理棟で人影を見つけると、屋内への退避を促しながら急ぐ。
「畑は収穫を終えていますが、管理棟には何人か詰めていて……種も資料も、全て」
息を上げながら話していたモナの言葉が止まる。
遠目には巨大な甲虫のような形をした2匹の歪虚が既に畑の上を旋回して、1匹は管理棟を眺めていた。
畑を迂回するように管理棟へ。息を殺して近付いていく。
●
西門が開き招集されたハンター達には畑と管理棟の場所が伝えられた。
案内人は畑の中央に佇んだ人影に足を止め。モナも慌てて振り返った。
「アラアラアラァ、空っぽ。じゃァ、無いノ? 草むしり、ノ、お仕事、だった筈なのニ」
桑の実を潰したような鮮やかな紫色のローブを纏い、深く顔を隠したその影は、継ぎ接ぎしたような歪な声で何かを喋り、大袈裟に耳を澄ますような所作を取った。
「アラアラァ、もう、行っちゃったノ。そう。じゃあ、僕も、行かないとっト、邪魔する、何かの足音、ですネ」
硬い動きで見回して、2人の方へ体を向ける。
歪んだマテリアルの底冷えする悪寒が背に走った。
歪虚、と身構えた瞬間、それはローブを翻し、何かを放り投げて煙と共に姿を眩ませた。
淀んだ風が吹き抜けていった背後でがさりと何かが蠢く音が聞こえた。
管理棟の中に取り残された研究者達がそれを指して悲鳴を上げた。
ゼンマイ仕掛けの玩具のような中途半端に浮き上がったそれは、目玉のような球体をぐるぐると蠢かせて管理棟を、そこへ向かおうとする2人と彼等を助けに来たハンター達を眺めていた。
ハンターの案内人を自称するハンターオフィスのとある受付嬢は、広場の片隅の無垢材のベンチに座り、春先の空を眺める。
隣にはモナ・カルヴィーノ。ここ、農業魔術研究機関、通称、実験畑で特に「ルーベンさんの実験畑」と呼ばれるオーナーのルーベン・ジェオルジが手を掛けている畑の研究助手が座っていた。
彼が関わった研究に、炎を防ぐ綿花がある。
先日、その綿花の移送と護衛の以来を案内人が仲介した縁があり、実験畑で「ちょっとした依頼にも、ハンターさんの手を!」と、宣伝活動に励む彼女とは、休憩時間に並んでお茶を飲む程度の友人となっていた。
「ふぁぁ、やっぱりここのお茶は、美味しいですねー。温かくて、ほっとしますよー」
「そう言って頂けると、育て甲斐があります」
柔和に微笑んだモナは白衣の袖で隠す口許で嬉しそうに笑った。
その腕には分厚い紙の束とバインダーが抱えられている。
「新しい研究ですか?」
「――ええ、あの綿花は、とても希な成功例です。紡績をお願いしましたが、それで終わりというわけにもいきませんので。……生産性の向上と、弱点の克服。やることは、沢山です」
飲み終えたカップを手に立ち上がり背を反らす。机に向かってばかりで固まった体がぱきぱきと解れていく。お疲れさまです、と案内人が笑って、モナも肩を竦めて眦を垂れた。
●
休憩を終えた2人が宣伝活動――ポップな書体でカラフルに描いたポスターを所構わずに貼る――と、研究に戻ろうと広場を出た瞬間。
きぃんと耳を劈く悲鳴のような警鐘が鳴り響いた。
「っ、何ですか? この音!」
「……緊急の、緊急事態が、起きた時の…………」
モナは書類を抱えて走り出した。
案内人が急ぎその後を追う。
警鐘に驚いた研究者や彼等の助手、職員達が建物から出てきている。それぞれの畑で作業をしていた彼等も、何事かと騒いでいた。
実験畑の敷地は広い。
両手を広げて走り回れる程の畑が何枚も、全てをよく見て回るには一日では足りない程だ。
それぞれの畑に管理棟と、区画ごとに研究棟が点在し、案内人とモナが休んでいた広場の先、南の外れには全てを統括している本部棟が置かれている。
どこかで何等かの緊急事態が発生し、それが本部へ伝わって、敷地全てで警鐘が鳴らされた。
「皆さん、落ち着いて下さい! 本部の方は、何があったかを彼女に」
モナに促され、オフィスの制服を纏った案内人が前に出ると、職員の1人が青ざめた顔で告げた。
西の区画で歪虚の姿が確認された。
最寄りの畑は、「ルーベンさんの実験畑」。
モナと彼の師が先日綿花を送り出したあの畑だ。
ばさりと音を立ててモナの腕から紙が落ち、不意の突風に散らばっていった。
本部からハンターオフィスへ連絡を入れ、モナと案内人は西の畑へ走った。道中の畑や管理棟で人影を見つけると、屋内への退避を促しながら急ぐ。
「畑は収穫を終えていますが、管理棟には何人か詰めていて……種も資料も、全て」
息を上げながら話していたモナの言葉が止まる。
遠目には巨大な甲虫のような形をした2匹の歪虚が既に畑の上を旋回して、1匹は管理棟を眺めていた。
畑を迂回するように管理棟へ。息を殺して近付いていく。
●
西門が開き招集されたハンター達には畑と管理棟の場所が伝えられた。
案内人は畑の中央に佇んだ人影に足を止め。モナも慌てて振り返った。
「アラアラアラァ、空っぽ。じゃァ、無いノ? 草むしり、ノ、お仕事、だった筈なのニ」
桑の実を潰したような鮮やかな紫色のローブを纏い、深く顔を隠したその影は、継ぎ接ぎしたような歪な声で何かを喋り、大袈裟に耳を澄ますような所作を取った。
「アラアラァ、もう、行っちゃったノ。そう。じゃあ、僕も、行かないとっト、邪魔する、何かの足音、ですネ」
硬い動きで見回して、2人の方へ体を向ける。
歪んだマテリアルの底冷えする悪寒が背に走った。
歪虚、と身構えた瞬間、それはローブを翻し、何かを放り投げて煙と共に姿を眩ませた。
淀んだ風が吹き抜けていった背後でがさりと何かが蠢く音が聞こえた。
管理棟の中に取り残された研究者達がそれを指して悲鳴を上げた。
ゼンマイ仕掛けの玩具のような中途半端に浮き上がったそれは、目玉のような球体をぐるぐると蠢かせて管理棟を、そこへ向かおうとする2人と彼等を助けに来たハンター達を眺めていた。
リプレイ本文
●
実験畑に到着したハンター達は、管理棟周辺と畑の二手に分かれてそれぞれに武器を取った。
管理棟へ走った4人は歪虚が迫りきる前に、その脆い壁を守るように立つ。
ケイルカ(ka4121)はすぐに視線を走らせて、畦に取り残されたモナと案内人を探す。持参のトランシーバーを握って、それを届けるルートを探りながら、バトンのようにくるりと杖を回した。
ファンシーな色と装飾の流線が光を伴って描かれ、足下には猫の幻影が現れる。
「何か目的があって、管理棟を狙ってる? 避難の準備も必要よね」
モナにトランシーバーを届けようと、ケイルカが走り出す。幻影はその肩に飛び乗って、髭を風に戦がせる。
ケイルカの奔る道を空けるように束ねたロープが投じられた。
「捕縛を試す!」
ロープが巻き起こした土埃の向こう、ヒースクリフ(ka1686)の落とした声が響く。
IX(ka3363)がすん、と鼻腔をひくつかせ、尖った耳を澄ます。弱視を薄い瞼が覆い、桃色の睫が頬に陰る。対峙する気配は、匂いよりも音の方が濃い様だ。
からからと、かちかちと幾重にも重なる機械音を聞き分けて、距離を測り鞭を取る。
瞼を上げると、その頭上に長い耳の幻影が浮かぶ。束ねた鞭をはらりと解いて、曖昧な視界で聞こえた音の1つ方向へ、目線を合わせた。
アレグラ・スパーダ(ka4360)が背後の壁を一瞥する。こちらを伺いながら酷く怯えた気配を感じる。
「倒壊は避けたいところですね」
一歩、歪虚の側に進む。
押せば容易く崩れそうなほど脆い壁から、それを狙う大型の甲虫へ、黒い静かな視線を向ける。
銃を取る。マテリアルが走り視界に浮かんだ幻影が、左右それぞれ7発の装填を示した。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)とマーロン・劉(ka3059)は管理棟を外れ、真っ直ぐ畑へと走る。
畑の上を漂うように旋回していた2匹の歪虚が彼等を見つけ、濁色の眼球を向けた。一抱え程有りそうな大粒の歪な球体が2人を検分するようにぎょろりと蠢く。
マーロンは手にした拳銃の射程を測り、畑の端で足を止める。
「種を守るのが飯の種になるってか……くくく……」
大きく張った腹をさすり、唇の端を舐める。視界の端に管理小屋を見つけると、ひとつ呟いた。
体に巡るマテリアルが熱を帯びるのに比例しるように、空腹感が募っていく。幻の食欲が穏やかだった目をぎらつかせ、思考を研ぎ澄ませていく。
マーロンを背に庇う様に、レイオスは畑の中まで走り込んでいく。
「そこらの雑魔より骨がありそうだ」
対峙した2匹の虚ろな視線を向けられながら肩を聳やかし剣を抜き払う。収穫を終えたばかりのまだ柔らかな土を踏みしめて、最初の獲物へ狙いを定めた。
●
肉薄したレイオスに向かって、2匹の歪虚から緑色の粘液が放たれる。1つは足を掠りもせずに畑へ落ちたが、もう一つがレイオスの片足を鎧の上から捕まえて土の上に貼り付かせた。
2匹共が自身を狙う状況にレイオスは口角を上げる。これなら、この歪虚は管理棟の方へは向かわないだろう。
「よし、……まずは」
強く地面を踏みしめて、その足を止めた歪虚に剣を突き付ける。映り込んだ陽光にコアを煌めかせ、強くマテリアルを込めた一撃を甲羅に覆われた頭に叩き込んだ。その衝撃に、ぽん、と外れた目玉は地面に落ちる。それは畑に一度弾んで爆ぜ、黒く淀んだ煙を霧散させながら小さな歯車をまき散らした。
歯車はすぐにその形を無くして畑の土に紛れ、頭に罅を入れられた歪虚が残ったもう片方の目でレイオスを眺めた。
「こいつを、撃てばいいんだな」
罅の入った甲羅に照星を据えてリアサイトを睨む。マテリアルの衝撃を乗せて放たれる鉛玉がその罅を更に叩いた。別方向からの攻撃に体を揺らした歪虚と、もう1匹が濁った目玉でマーロンを見る。
その歪虚がレイオスを迂回して畑の上をゆらゆらと進み、マーロンの足へ緑の粘液を放った。
罅の入ったもう1匹は、足を止めたままのレイオスに向かって爪の鋭い脚を伸ばし、食いちぎろうと牙を向ける。
頭の傷から黒い液体を血のように滴らせながら向けた頭が、盾によって阻まれた。
「捕まえたのは、俺の方だぜ」
盾に牙を取られた歪虚の傷に向かって重たい一撃を振り下ろした。罅が広がり深く割れて甲羅の砕けていく感覚が手に伝う。
頭を割られた歪虚は浮いていた体を地面に落とし、その割れ目から黒い液体を拭き上げ、発条と歯車を散らす。片方残っていた目玉が、畑の土に転がった。仰向けで足を蠢かせながら、藻掻く度に罅が広がっていく。
粘液が消え、レイオスはもう1匹を振り返る。
「オレを無視して行けると思うなよ!」
マーロンに迫る歪虚に向かってそう叫んだ。
マーロンは膝下を強く叩いた粘液の衝撃に片膝を突きながら、銃身を真っ直ぐにその歪虚に向けている。地面に捕らわれさえしなかったが、回復させなければ痛みに足を引き摺りそうだ。
「……だが、この程度で倒れると思うか?」
マテリアルを込めて引鉄を引く。故郷の仕事で幾度となく繰り返してきた動作、銃身を抜ける鉛の熱、頬の横を掠める薬莢の微風。
放たれた銃弾は接近していた歪虚の目玉を弾いて、中空に歯車を散らした。そして、もう一発。
次の瞬間、振り下ろされた剣が、その歪虚の胴に振り下ろされた。
「こっちだっつってるだろ」
腹を叩かれた歪虚が傾いた体で向きを変えて、6本の足の先で光る爪をレイオスに向けて伸ばした。
噛み付こうと開く口の動きを見切り、盾を逸らして剣を差し伸べる。
「口の中まで殻みたいに硬いか、確かめて試してやるぜ!」
牙と爪を鎧に受け止めながら、歪虚の腑を貫いた剣を圧し下げて。内側から腹を捌いた。
地面に張ったその歪虚は傷口を広げながら地面に藻掻き、爪を振りかざした。
「まだ動くってか」
マーロンが立ち上がりその歪虚へ鉛玉を叩き込む。
2匹の歪虚に留めを刺して2人は管理棟を振り返る。危ないようなら、とレイオスは柄を握り直した。
●
大蛇のように地面を這い、縄が引き戻される。ヒースクリフが投じた二度目の縄は歪虚の足に弾かれながらその目玉を捕らえ、絡め取って地面に叩き落とした。
声を上げてマテリアルを巡らせ、更に前進して得物を構える。縄が掛からなくとも、捕らえる方法がある、と青い瞳が対峙する歪虚を見据えた。
長い耳の幻影を揺らし、腰にふわりと尻尾の幻影を浮かばせて、ココノは鞭を揺らす。ヒースクリフの位置と、彼が手元にデバイスを探る挙措を揺らぐ視界に捕らえると、その意図に合わせて鞭を撓らせて手近な1匹を誘う。祖霊の加護を感じながら、鞭の先で空間を薙ぎ、向かってきた歯車の音と歪んだ気配に鞭とナイフを構え直した。
アレグラの指が撃鉄を倒して引き金に掛かる、狙う歪虚に利き手側のフロントサイトを据えて放つ。
ハンマーが雷管を殴って放たれた鉛が、空気を裂いて細い脚を1つ弾き飛ばした。
金属の様な艶を持ったそれが中空で回転し、空気を引っ掻きながら関節を自壊させ、爪と脚繋いでいたゴムを弾く。散乱したパーツは地面に落ちる前に形を無くし土塊に代わって地面に溶けた。
次弾を構え背後の管理棟を庇う位置を保ちながら、歪虚が狙いを定める前にアレグラはその場を退く。
眼球を落とされた歪虚がヒースクリフをもう片方の目玉で眺める。続けて二度繰り出された爪の1つは鎧に阻まれたが、もう1つが頬に掠めて細く裂いた。
「捕まえた」
対峙する相手もそう思ったであろうことを呟き、デバイスに指を立てた。
鞭が薙ぐ音に煽られたように迫った1匹がココノの脚に粘液を吐く。鞭を大きく迂回し至近に迫ったその歪虚に、片足を捕らわれたココノもナイフを構えて口元を綻ばす。
「そうそう……相手はこっちよ~……?」
誘うようにしなを作り、黒い刀身のナイフを伸ばす。
脚1つを飛ばされ残りの脚を地面に這わせた最後の1匹は、土を掻くように迫り爪で空気を掻く。体2つ程届かない距離に歪な目玉が他の獲物を探して蠢いた。
「……っ、こちらです!」
アレグラの前方に浮く幻影、示された残弾が更に減る。自身への狙いを逸らさぬように放たれる銃弾が厚い甲羅に罅を入れた。
その裂け目から黒い液体と煙が零れ、ぱりん、と鳴った割れ目から歯車がこぼれ落ちた。
「やはり、腹部を狙った方が良さそうですね……」
その傷を介ず目玉を蠢かせる様子の歪虚から狙いを外さすに、管理棟との位置取りと距離を保って素早く横に移った。
アレグラの動きに合わせるように歪虚の目玉もそちらへ傾いた。
ココノの手元でナイフが揺れる。切っ先で何かを描くように弄びながら、細い指は歪虚の甲羅へと伸ばされる。
「こっちは、壊れそうにないわねぇ~……」
その指に擽られながら繰り出される鋭い爪を柔らかく体を傾がせて躱し、反った背を起こしながら伸びた腕の先でナイフが甲羅を捕らえた。
片足を地面に止められたままで、黒いナイフを甲羅の継ぎ目に突き立てる。
「でも……、こっちならどうかしらねぇ~」
刀身の半ばまでねじ込んだナイフを更に捻りながら引き抜く。傷口からじわと黒い靄が零れてきた。
ヒースクリフは正対しその体を捕らえた歪虚に得物を据え、電撃に転換したマテリアルの衝撃をぶつける。大袈裟な程藻掻き、暴れるさまにパーツのいくつかが散った歪虚が動きを止めると、残りの歪虚を抑える2人を振り返った。
「……これならどうだ? ――大丈夫か!」
姿勢を崩しながらナイフで歪虚を掻くココノの姿に、意識を落とした歪虚を置いて救援に向かう。
畑と管理棟の2箇所の戦闘の隙、歪虚の注意がハンターに定まるのを覗って、ケイルカはあぜ道へ走った。不安げに管理棟を見詰めているモナと、モナを庇う様に立っているオフィスの受付嬢が動けずにいる。
畑からか、或いは管理棟の方からか背後に張り付くような冷たい視線を感じたが、それは仲間の銃声や剣戟に掻き消えた。地面を蹴って飛び出し、モナにトランシーバーを1つ握らせる。
「モナちゃんね、これお願い」
モナと案内人が頷く。2人への連絡手段を確保し、次は管理棟へと足を向けた。
杖を握り、幻影の猫を肩に。交戦の音が響く中を走る。流れていく視界の中、歪虚達が外にいる2人では無く、管理棟を狙う様子が目にとまる。
その様に、もしかしてと呟いて管理棟のドアに手を置いた。ドアを背に、杖を翳して警戒しながらドアを開け身を中に滑り込ませる「。
助けに来たことを伝えると研究員達の顔に安堵が浮かぶ。けれど外の音は未だ止まない。
「ここは私達が頑張って壊されないようにするけども、持ちこたえられなくなったら逃げるのよ」
避難の支度を促し、その荷物の中に綿の成った枝の束を見つけた
「もしかしてあの畑の農作物かな?」
あの歪虚達が探している物だろうかと尋ねると、研究員は畑を指して、最近まで栽培していた物だと告げた。
「ほんの少し、問題にならない程度でいいから畑側に投げてみてくれる?」
狙いがこの綿花なら、管理棟から引き離せるかも知れないと提案すると、研究員が一輪摘み取って差し出した。欠けたフラスコを錘の代わりに括り付けて細く開けたドアの隙間から畑へ投じた。
ケイルカと並んでその様子を見ていた研究員が首を横に、あの歪虚にそこまでの、建物の中の作物を狙うような、知性は無さそうだと結論づけた。
研究員に支度を促し、ケイルカは外に出て戦況を見る。良さそうならモナと案内人を呼ぼうと片手に杖を握って、トランシーバーをもう片方の手に取った。
ココノのナイフが翻り一度抉った傷を更に深く切りつける。腕まで降り注ぐ黒い液体が零れる側から煙になって流れていく。
高揚した微笑を浮かべながら、その滴りを振り払って再度黒い刀身を振り上げるが、足掻くように伸ばされた爪が、開いた腹を引っ掻き肌に食い込ませるようにココノの体を捕まえた。足を止めていた粘液が漸くその効果を無くしたが、爪から逃れようと藻掻く程深く刺さり、もう一つの脚が向けられる。
駆けつけたヒースクリフが、デバイスを介した電撃をその甲羅に叩き付けた。
「ココノ! 今助けるぞ!」
歪虚が痙攣した瞬間、緩む拘束から抜け出し、ココノは改めてナイフを払った。
「ありがと、ヒースクリフちゃん」
頷いてヒースクリフも上がった息を整える。
間に合って良かった、と安堵の表情が僅かに零れた。
電撃で寝かしつけた2匹、アレグラが片足を捕らわれながら最後の1匹へ続けざまに銃弾を撃ち込んでいく。歪虚は既に半身を土塊に変え、割れ目からぱらぱらと歯車を零している。
「十分引きつけました。こちらは、もう、安全です」
残りにマテリアルを込めた鉛を打ち込む。
●
撃ち抜かれた歪虚が完全に土塊に帰ってしまうと、畑の方で始末を終えた2人が管理棟へ向かってきた。
目覚めればいつでも寝かしつけてしまえるように、とケイルカがステッキを転がる2匹へ構えてトランシーバーからモナと受付嬢に声を掛ける。
全員が合流し、本部へ向かって避難を始める。最後尾に付いたケイルカが眠りの雲を浮かべ、レイオスが剣で甲羅を叩き割った。
全てを終えると、浮かべていた耳と尻尾の幻影を解いたココノが寝転んで丸くなり、側にいたヒースクリフが敷物代わりのハンカチを引っ張り出して、疲れた、動けない、と座り込むまでに、静かに寝息を立て始める。
「農業魔術研究って、とても興味深い! いろいろ話を聞いてみたいな」
畑に投じた枝を拾い、ケイルカがモナを見上げた。
「ありがとうございます……落ち着いたら、いずれ」
穏やかな日に、と騒ぎの跡の残る畑を見詰めてモナが微笑んだ。
実験畑に到着したハンター達は、管理棟周辺と畑の二手に分かれてそれぞれに武器を取った。
管理棟へ走った4人は歪虚が迫りきる前に、その脆い壁を守るように立つ。
ケイルカ(ka4121)はすぐに視線を走らせて、畦に取り残されたモナと案内人を探す。持参のトランシーバーを握って、それを届けるルートを探りながら、バトンのようにくるりと杖を回した。
ファンシーな色と装飾の流線が光を伴って描かれ、足下には猫の幻影が現れる。
「何か目的があって、管理棟を狙ってる? 避難の準備も必要よね」
モナにトランシーバーを届けようと、ケイルカが走り出す。幻影はその肩に飛び乗って、髭を風に戦がせる。
ケイルカの奔る道を空けるように束ねたロープが投じられた。
「捕縛を試す!」
ロープが巻き起こした土埃の向こう、ヒースクリフ(ka1686)の落とした声が響く。
IX(ka3363)がすん、と鼻腔をひくつかせ、尖った耳を澄ます。弱視を薄い瞼が覆い、桃色の睫が頬に陰る。対峙する気配は、匂いよりも音の方が濃い様だ。
からからと、かちかちと幾重にも重なる機械音を聞き分けて、距離を測り鞭を取る。
瞼を上げると、その頭上に長い耳の幻影が浮かぶ。束ねた鞭をはらりと解いて、曖昧な視界で聞こえた音の1つ方向へ、目線を合わせた。
アレグラ・スパーダ(ka4360)が背後の壁を一瞥する。こちらを伺いながら酷く怯えた気配を感じる。
「倒壊は避けたいところですね」
一歩、歪虚の側に進む。
押せば容易く崩れそうなほど脆い壁から、それを狙う大型の甲虫へ、黒い静かな視線を向ける。
銃を取る。マテリアルが走り視界に浮かんだ幻影が、左右それぞれ7発の装填を示した。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)とマーロン・劉(ka3059)は管理棟を外れ、真っ直ぐ畑へと走る。
畑の上を漂うように旋回していた2匹の歪虚が彼等を見つけ、濁色の眼球を向けた。一抱え程有りそうな大粒の歪な球体が2人を検分するようにぎょろりと蠢く。
マーロンは手にした拳銃の射程を測り、畑の端で足を止める。
「種を守るのが飯の種になるってか……くくく……」
大きく張った腹をさすり、唇の端を舐める。視界の端に管理小屋を見つけると、ひとつ呟いた。
体に巡るマテリアルが熱を帯びるのに比例しるように、空腹感が募っていく。幻の食欲が穏やかだった目をぎらつかせ、思考を研ぎ澄ませていく。
マーロンを背に庇う様に、レイオスは畑の中まで走り込んでいく。
「そこらの雑魔より骨がありそうだ」
対峙した2匹の虚ろな視線を向けられながら肩を聳やかし剣を抜き払う。収穫を終えたばかりのまだ柔らかな土を踏みしめて、最初の獲物へ狙いを定めた。
●
肉薄したレイオスに向かって、2匹の歪虚から緑色の粘液が放たれる。1つは足を掠りもせずに畑へ落ちたが、もう一つがレイオスの片足を鎧の上から捕まえて土の上に貼り付かせた。
2匹共が自身を狙う状況にレイオスは口角を上げる。これなら、この歪虚は管理棟の方へは向かわないだろう。
「よし、……まずは」
強く地面を踏みしめて、その足を止めた歪虚に剣を突き付ける。映り込んだ陽光にコアを煌めかせ、強くマテリアルを込めた一撃を甲羅に覆われた頭に叩き込んだ。その衝撃に、ぽん、と外れた目玉は地面に落ちる。それは畑に一度弾んで爆ぜ、黒く淀んだ煙を霧散させながら小さな歯車をまき散らした。
歯車はすぐにその形を無くして畑の土に紛れ、頭に罅を入れられた歪虚が残ったもう片方の目でレイオスを眺めた。
「こいつを、撃てばいいんだな」
罅の入った甲羅に照星を据えてリアサイトを睨む。マテリアルの衝撃を乗せて放たれる鉛玉がその罅を更に叩いた。別方向からの攻撃に体を揺らした歪虚と、もう1匹が濁った目玉でマーロンを見る。
その歪虚がレイオスを迂回して畑の上をゆらゆらと進み、マーロンの足へ緑の粘液を放った。
罅の入ったもう1匹は、足を止めたままのレイオスに向かって爪の鋭い脚を伸ばし、食いちぎろうと牙を向ける。
頭の傷から黒い液体を血のように滴らせながら向けた頭が、盾によって阻まれた。
「捕まえたのは、俺の方だぜ」
盾に牙を取られた歪虚の傷に向かって重たい一撃を振り下ろした。罅が広がり深く割れて甲羅の砕けていく感覚が手に伝う。
頭を割られた歪虚は浮いていた体を地面に落とし、その割れ目から黒い液体を拭き上げ、発条と歯車を散らす。片方残っていた目玉が、畑の土に転がった。仰向けで足を蠢かせながら、藻掻く度に罅が広がっていく。
粘液が消え、レイオスはもう1匹を振り返る。
「オレを無視して行けると思うなよ!」
マーロンに迫る歪虚に向かってそう叫んだ。
マーロンは膝下を強く叩いた粘液の衝撃に片膝を突きながら、銃身を真っ直ぐにその歪虚に向けている。地面に捕らわれさえしなかったが、回復させなければ痛みに足を引き摺りそうだ。
「……だが、この程度で倒れると思うか?」
マテリアルを込めて引鉄を引く。故郷の仕事で幾度となく繰り返してきた動作、銃身を抜ける鉛の熱、頬の横を掠める薬莢の微風。
放たれた銃弾は接近していた歪虚の目玉を弾いて、中空に歯車を散らした。そして、もう一発。
次の瞬間、振り下ろされた剣が、その歪虚の胴に振り下ろされた。
「こっちだっつってるだろ」
腹を叩かれた歪虚が傾いた体で向きを変えて、6本の足の先で光る爪をレイオスに向けて伸ばした。
噛み付こうと開く口の動きを見切り、盾を逸らして剣を差し伸べる。
「口の中まで殻みたいに硬いか、確かめて試してやるぜ!」
牙と爪を鎧に受け止めながら、歪虚の腑を貫いた剣を圧し下げて。内側から腹を捌いた。
地面に張ったその歪虚は傷口を広げながら地面に藻掻き、爪を振りかざした。
「まだ動くってか」
マーロンが立ち上がりその歪虚へ鉛玉を叩き込む。
2匹の歪虚に留めを刺して2人は管理棟を振り返る。危ないようなら、とレイオスは柄を握り直した。
●
大蛇のように地面を這い、縄が引き戻される。ヒースクリフが投じた二度目の縄は歪虚の足に弾かれながらその目玉を捕らえ、絡め取って地面に叩き落とした。
声を上げてマテリアルを巡らせ、更に前進して得物を構える。縄が掛からなくとも、捕らえる方法がある、と青い瞳が対峙する歪虚を見据えた。
長い耳の幻影を揺らし、腰にふわりと尻尾の幻影を浮かばせて、ココノは鞭を揺らす。ヒースクリフの位置と、彼が手元にデバイスを探る挙措を揺らぐ視界に捕らえると、その意図に合わせて鞭を撓らせて手近な1匹を誘う。祖霊の加護を感じながら、鞭の先で空間を薙ぎ、向かってきた歯車の音と歪んだ気配に鞭とナイフを構え直した。
アレグラの指が撃鉄を倒して引き金に掛かる、狙う歪虚に利き手側のフロントサイトを据えて放つ。
ハンマーが雷管を殴って放たれた鉛が、空気を裂いて細い脚を1つ弾き飛ばした。
金属の様な艶を持ったそれが中空で回転し、空気を引っ掻きながら関節を自壊させ、爪と脚繋いでいたゴムを弾く。散乱したパーツは地面に落ちる前に形を無くし土塊に代わって地面に溶けた。
次弾を構え背後の管理棟を庇う位置を保ちながら、歪虚が狙いを定める前にアレグラはその場を退く。
眼球を落とされた歪虚がヒースクリフをもう片方の目玉で眺める。続けて二度繰り出された爪の1つは鎧に阻まれたが、もう1つが頬に掠めて細く裂いた。
「捕まえた」
対峙する相手もそう思ったであろうことを呟き、デバイスに指を立てた。
鞭が薙ぐ音に煽られたように迫った1匹がココノの脚に粘液を吐く。鞭を大きく迂回し至近に迫ったその歪虚に、片足を捕らわれたココノもナイフを構えて口元を綻ばす。
「そうそう……相手はこっちよ~……?」
誘うようにしなを作り、黒い刀身のナイフを伸ばす。
脚1つを飛ばされ残りの脚を地面に這わせた最後の1匹は、土を掻くように迫り爪で空気を掻く。体2つ程届かない距離に歪な目玉が他の獲物を探して蠢いた。
「……っ、こちらです!」
アレグラの前方に浮く幻影、示された残弾が更に減る。自身への狙いを逸らさぬように放たれる銃弾が厚い甲羅に罅を入れた。
その裂け目から黒い液体と煙が零れ、ぱりん、と鳴った割れ目から歯車がこぼれ落ちた。
「やはり、腹部を狙った方が良さそうですね……」
その傷を介ず目玉を蠢かせる様子の歪虚から狙いを外さすに、管理棟との位置取りと距離を保って素早く横に移った。
アレグラの動きに合わせるように歪虚の目玉もそちらへ傾いた。
ココノの手元でナイフが揺れる。切っ先で何かを描くように弄びながら、細い指は歪虚の甲羅へと伸ばされる。
「こっちは、壊れそうにないわねぇ~……」
その指に擽られながら繰り出される鋭い爪を柔らかく体を傾がせて躱し、反った背を起こしながら伸びた腕の先でナイフが甲羅を捕らえた。
片足を地面に止められたままで、黒いナイフを甲羅の継ぎ目に突き立てる。
「でも……、こっちならどうかしらねぇ~」
刀身の半ばまでねじ込んだナイフを更に捻りながら引き抜く。傷口からじわと黒い靄が零れてきた。
ヒースクリフは正対しその体を捕らえた歪虚に得物を据え、電撃に転換したマテリアルの衝撃をぶつける。大袈裟な程藻掻き、暴れるさまにパーツのいくつかが散った歪虚が動きを止めると、残りの歪虚を抑える2人を振り返った。
「……これならどうだ? ――大丈夫か!」
姿勢を崩しながらナイフで歪虚を掻くココノの姿に、意識を落とした歪虚を置いて救援に向かう。
畑と管理棟の2箇所の戦闘の隙、歪虚の注意がハンターに定まるのを覗って、ケイルカはあぜ道へ走った。不安げに管理棟を見詰めているモナと、モナを庇う様に立っているオフィスの受付嬢が動けずにいる。
畑からか、或いは管理棟の方からか背後に張り付くような冷たい視線を感じたが、それは仲間の銃声や剣戟に掻き消えた。地面を蹴って飛び出し、モナにトランシーバーを1つ握らせる。
「モナちゃんね、これお願い」
モナと案内人が頷く。2人への連絡手段を確保し、次は管理棟へと足を向けた。
杖を握り、幻影の猫を肩に。交戦の音が響く中を走る。流れていく視界の中、歪虚達が外にいる2人では無く、管理棟を狙う様子が目にとまる。
その様に、もしかしてと呟いて管理棟のドアに手を置いた。ドアを背に、杖を翳して警戒しながらドアを開け身を中に滑り込ませる「。
助けに来たことを伝えると研究員達の顔に安堵が浮かぶ。けれど外の音は未だ止まない。
「ここは私達が頑張って壊されないようにするけども、持ちこたえられなくなったら逃げるのよ」
避難の支度を促し、その荷物の中に綿の成った枝の束を見つけた
「もしかしてあの畑の農作物かな?」
あの歪虚達が探している物だろうかと尋ねると、研究員は畑を指して、最近まで栽培していた物だと告げた。
「ほんの少し、問題にならない程度でいいから畑側に投げてみてくれる?」
狙いがこの綿花なら、管理棟から引き離せるかも知れないと提案すると、研究員が一輪摘み取って差し出した。欠けたフラスコを錘の代わりに括り付けて細く開けたドアの隙間から畑へ投じた。
ケイルカと並んでその様子を見ていた研究員が首を横に、あの歪虚にそこまでの、建物の中の作物を狙うような、知性は無さそうだと結論づけた。
研究員に支度を促し、ケイルカは外に出て戦況を見る。良さそうならモナと案内人を呼ぼうと片手に杖を握って、トランシーバーをもう片方の手に取った。
ココノのナイフが翻り一度抉った傷を更に深く切りつける。腕まで降り注ぐ黒い液体が零れる側から煙になって流れていく。
高揚した微笑を浮かべながら、その滴りを振り払って再度黒い刀身を振り上げるが、足掻くように伸ばされた爪が、開いた腹を引っ掻き肌に食い込ませるようにココノの体を捕まえた。足を止めていた粘液が漸くその効果を無くしたが、爪から逃れようと藻掻く程深く刺さり、もう一つの脚が向けられる。
駆けつけたヒースクリフが、デバイスを介した電撃をその甲羅に叩き付けた。
「ココノ! 今助けるぞ!」
歪虚が痙攣した瞬間、緩む拘束から抜け出し、ココノは改めてナイフを払った。
「ありがと、ヒースクリフちゃん」
頷いてヒースクリフも上がった息を整える。
間に合って良かった、と安堵の表情が僅かに零れた。
電撃で寝かしつけた2匹、アレグラが片足を捕らわれながら最後の1匹へ続けざまに銃弾を撃ち込んでいく。歪虚は既に半身を土塊に変え、割れ目からぱらぱらと歯車を零している。
「十分引きつけました。こちらは、もう、安全です」
残りにマテリアルを込めた鉛を打ち込む。
●
撃ち抜かれた歪虚が完全に土塊に帰ってしまうと、畑の方で始末を終えた2人が管理棟へ向かってきた。
目覚めればいつでも寝かしつけてしまえるように、とケイルカがステッキを転がる2匹へ構えてトランシーバーからモナと受付嬢に声を掛ける。
全員が合流し、本部へ向かって避難を始める。最後尾に付いたケイルカが眠りの雲を浮かべ、レイオスが剣で甲羅を叩き割った。
全てを終えると、浮かべていた耳と尻尾の幻影を解いたココノが寝転んで丸くなり、側にいたヒースクリフが敷物代わりのハンカチを引っ張り出して、疲れた、動けない、と座り込むまでに、静かに寝息を立て始める。
「農業魔術研究って、とても興味深い! いろいろ話を聞いてみたいな」
畑に投じた枝を拾い、ケイルカがモナを見上げた。
「ありがとうございます……落ち着いたら、いずれ」
穏やかな日に、と騒ぎの跡の残る畑を見詰めてモナが微笑んだ。
依頼結果
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相談卓 レイオス・アクアウォーカー(ka1990) 人間(リアルブルー)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/03/30 22:44:21 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/26 21:35:58 |