ゲスト
(ka0000)
スライムが!!
マスター:秋風落葉
- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
- 500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/03 07:30
- 完成日
- 2015/04/08 01:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●事件は唐突に
「たたたたた、大変ですっ!!」
古都アークエルスのハンターオフィス。今日は特に事件も無く、ゆったりと流れていた時間を突然の少女の悲鳴が打ち砕いた。
カウンターにいた受付嬢、ベアトリスは目を丸くしてモニターを見る。
「エルマじゃない。どうしたの?」
外部との通話が可能なそれに映っていたのは、ベアトリスの後輩にあたる少女の泣きだしそうな顔だった。エルマは昔、ベアトリスと同じオフィスで働いていたものの、先日アークエルス郊外の小さな街へと異動することになり、今ではその街のハンターオフィスを一人で切り盛りしている。
「たたたたた、助けてください先輩っ!!」
目に涙を浮かべ、エルマは懇願する。
「とりあえず落ち着きなさい。何があったの?」
エルマは元々よく泣く性質であり、受付嬢は昔を思い出しながらも、かつてのように少女の気を落ち着かせようと優しい声をかけた。
その言葉でエルマは少し冷静になったのか、喋りながら手元の機械を操作する。
「とと、とりあえずこれを見てください! 大変なんです! 敵が! スライムがこの街に向かってるんです!」
「スライム? なんだ。それならどうってことないじゃない。シグニードにいるハンター達でどうにでもなるでしょ?」
ベアトリスはエルマが常駐している街の名前を口にした。しかし、エルマは首を激しく左右に振る。
「違うんです! とにかく見てください! 今映像を送ります!」
エルマが送信したそれをベアトリスが見た時、彼女の口はぽかんと開いた。そこにあった光景が、あまりに予想外のものだったからだ。
遠くから映しているのか、リアルタイムで這い寄るスライムの映像。そのスライムの高さは、周りの景色から判断するに30メートルはある! それが周囲を覆う木々を飲み込みながらゆっくりと進んでいるのだ。おそらくエルマがいる街へと!
「ちょっ……何これ大きすぎ!!」
ベアトリスはようやくそれだけを口にできた。再び画像が切り替わり、エルマが大声でわめく。
「だから大変ですって言ったじゃないですか!! ハンターを! ハンターを至急よこしてください!! できる限りたくさん!!」
「わかったわ! そっちでもお願いね!」
「やってます!!」
半泣きのエルマの顔を最後に、映像は途切れた。
ベアトリスの様子でただ事ではない事態が起きていることが分かったのだろう。屋内のハンター達は騒然としている。
ベアトリスは彼らを見回し、緊迫感を滲ませながら声高に叫ぶ。
「一人でも多くの人手が欲しいの! もし今動けるならすぐにシグニードに向かって! 巨大なスライムが攻めてくるわ!」
「たたたたた、大変ですっ!!」
古都アークエルスのハンターオフィス。今日は特に事件も無く、ゆったりと流れていた時間を突然の少女の悲鳴が打ち砕いた。
カウンターにいた受付嬢、ベアトリスは目を丸くしてモニターを見る。
「エルマじゃない。どうしたの?」
外部との通話が可能なそれに映っていたのは、ベアトリスの後輩にあたる少女の泣きだしそうな顔だった。エルマは昔、ベアトリスと同じオフィスで働いていたものの、先日アークエルス郊外の小さな街へと異動することになり、今ではその街のハンターオフィスを一人で切り盛りしている。
「たたたたた、助けてください先輩っ!!」
目に涙を浮かべ、エルマは懇願する。
「とりあえず落ち着きなさい。何があったの?」
エルマは元々よく泣く性質であり、受付嬢は昔を思い出しながらも、かつてのように少女の気を落ち着かせようと優しい声をかけた。
その言葉でエルマは少し冷静になったのか、喋りながら手元の機械を操作する。
「とと、とりあえずこれを見てください! 大変なんです! 敵が! スライムがこの街に向かってるんです!」
「スライム? なんだ。それならどうってことないじゃない。シグニードにいるハンター達でどうにでもなるでしょ?」
ベアトリスはエルマが常駐している街の名前を口にした。しかし、エルマは首を激しく左右に振る。
「違うんです! とにかく見てください! 今映像を送ります!」
エルマが送信したそれをベアトリスが見た時、彼女の口はぽかんと開いた。そこにあった光景が、あまりに予想外のものだったからだ。
遠くから映しているのか、リアルタイムで這い寄るスライムの映像。そのスライムの高さは、周りの景色から判断するに30メートルはある! それが周囲を覆う木々を飲み込みながらゆっくりと進んでいるのだ。おそらくエルマがいる街へと!
「ちょっ……何これ大きすぎ!!」
ベアトリスはようやくそれだけを口にできた。再び画像が切り替わり、エルマが大声でわめく。
「だから大変ですって言ったじゃないですか!! ハンターを! ハンターを至急よこしてください!! できる限りたくさん!!」
「わかったわ! そっちでもお願いね!」
「やってます!!」
半泣きのエルマの顔を最後に、映像は途切れた。
ベアトリスの様子でただ事ではない事態が起きていることが分かったのだろう。屋内のハンター達は騒然としている。
ベアトリスは彼らを見回し、緊迫感を滲ませながら声高に叫ぶ。
「一人でも多くの人手が欲しいの! もし今動けるならすぐにシグニードに向かって! 巨大なスライムが攻めてくるわ!」
リプレイ本文
「ホントに大きいわね。後片付けも大変になりそうだけど、がんばらなくちゃね」
腕を組み、前方に迫る巨大スライムを見据えて呟く天川 麗美(ka1355)。しかし、なぜかその全身は、まるごとうさぎという、うさぎの着ぐるみに覆われている。スライムの粘液で服を汚したくないというのがその動機であるらしい。
「ヴォイドめ、なんと巨大な……負けん、負けんぞ!! この背に背負う町の人々のためにも、ここで倒してみせる!!」
リアルブルーに存在する特撮番組『機導特査ガイアード』のスーツアクターだった青年、鳴神 真吾(ka2626)。今、彼の五体はそのスーツを彷彿とさせるような全身鎧に包まれている。
彼の言う通り、ハンター達の背にはシグニードの街がある。高さ30メートル、直径60メートルほどのスライムが街に到達したら、ただごとでは済むまい。
真吾の隣では、スーパー(ロボ)モデルである屋外(ka3530)が首飾りに手を重ねている。彼は「……行きます」と小さく呟いた後、顔を正面へと向け、声を張り上げた。
「凱句応、起動!」
言葉と共に覚醒した屋外もやはり、まるごとでゅみなすという、リアルブルーのCAM「デュミナス」を模した着ぐるみをまとっていた。
「まるで祭だな……」
ウィンス・デイランダール(ka0039)が配置に付きながら呟いた言葉は、彼らのことを指していたのか、それとも巨大な敵を迎え撃つために集まった大勢のハンターを指していたのか、それは定かではない。
ハンター達はスライムを迎撃する為、即席の陣形を組もうと動きだす。
その頃、一人のハンターが古都アークエルスの転移門へと向かっていた。
「大きなスライムね……一匹相手に随分と沢山があつまってるみたいだけど。一体どれほどの大きさなのかしら」
彼女、慈姑 ぽえむ(ka3243)はこの依頼を受けた最後のハンターである。アークエルスでハンターが集められていることを知り、応募したのだ。
「まぁ……見れば分かるか。よし気合入れていこう!」
ぽえむは転移門でシグニードの街へと瞬時に飛ぶ。ハンターオフィスから一歩を出た時、遠くに見える青い山のような物体に気付いた。
「はい? でか……いや、大きすぎよ。うぅ、確かにこんなの町に来たら大変だわ。一気に片付けよう」
一瞬怖気づいたものの、報酬を受け取るために戦場へと駆け出すぽえむであった。
●
「……大きいですね……無駄に。どこで発生したのでしょうか……とにかく急を要するようですし、全力で攻撃するとしましょう」
「まるで山ではないですか。こんなものが街に襲い掛かっては大惨事です」
アレグラ・スパーダ(ka4360)とアーリフラヴィア・エクスドミナ(ka4484)が移動を開始しながらそれぞれの感想を漏らした。
「射撃系の人いたら合わせるから、同行させてくださーい!」
そんな中、天王寺茜(ka4080)が散開していくハンター達の中を駆けながら叫ぶ。アレグラとアーリフラヴィアの二人が茜に手を振り、彼女に同行の意思を伝える。
アレグラはイェーガー、アーリフラヴィアはマギステルだ。機導砲で戦うつもりの茜と同じ、距離を取って戦うタイプである。
彼女達は他のハンターと共に、後衛の右翼を構成する羽となる。
「……規格外のサイズだな、厄介にも程がある」
対崎 紋次郎(ka1892)は馬を駆り、右翼側に移動しながら巨大な青い物体を見やり、呟いた。
「街を守る、敵も倒す……両方同時にやらなくちゃあな」
スライムに対しては機導砲による攻撃、スライムが飛ばしてくるという粘液に対しては防御障壁による援護。
そのどちらもこなしてみせるつもりの紋次郎だった。
●
反対側の後衛左翼では、Uisca Amhran(ka0754)が前方にいる星輝 Amhran(ka0724)にホーリーセイバーを使用した。星輝はそれに太刀を掲げる形で応え、そのまま愛馬「成金(ナルカネ)」に跨って駆けていく。
なぜか、星輝の体と馬の全身は戦闘の邪魔にならない部分を除き油まみれであった。巨大スライムが水の属性を備えていると見切っての作戦らしい。天然策士の二つ名にふさわしい結果が得られるかどうかは現状では不明だ。
Uiscaは星輝と同じように器用に愛馬の「エポナ」を操り、魔法を行使するに適した位置へと移動する。
「うっわ……超デカいんですけどー?!」
「正にデカいわね」
「でもぷるぷるしてて、ちょっと可愛いってカンジぃ? ね。レイナちゃん?」
「っていうか、気持ち悪いわよっ! はるな、目が腐ってるわ!!」
「もーレイナちゃんはビビりなんだからぁ」
「び、ビビってないわよっ! 所詮、た、たかがスライムよ! サクッと倒すわよっ!
同じく後衛左翼で岩波レイナ(ka3178)とはるな(ka3307)の二人が改めてスライムの感想を口にする。街から遠目に見た時から分かってはいたことだが、距離を詰めてみるとその巨大さにはあきれ返るばかりだ。
「大きい……あれが全部食べ物だったらいいのに」
ピオス・シルワ(ka0987)は山のようなスライムを見てそうつぶやいた。たしかに、ほんの少しだけ大きなデザートに見えなくもない。色は食欲を無くしそうな青だが。
ペル・ツェ(ka4435)も足を動かしながら心の中でため息を吐いた。あのでっかいぶよぶよはいったいどうやって移動してきたんだか、と考えているのだ。
(味方も多いわけですし頑張りますよ)
素早く心を切り替え、彼もワンドを手に魔法の行使に適した場所へと移動した。
●
「チッ……またスライムかよ。スライムGだの男の服を溶かすスライムだの、最近どうも多くねぇか?」
斧を手にボルディア・コンフラムス(ka0796)はそう愚痴る。確かに昨今、様々なスライムがハンター達によって討伐されているという話を良く耳にする。
「わふぅ……とっても大きくてぽよんぽよん、です」
ミュオ(ka1308)もボルディアと同じく大きなスライムの正面に立ち、武器を構えている。
「スライムといえども、これだけデカければ なかなかの強敵よな」
バルバロス(ka2119)は眼前にそびえる青い山を見ながら感慨深げに呟いた。
彼の隣に立つ男も内心思う。
(こんだけでかい敵だ、町の人間にも目にとまるだろ。不安に思う筈)
手にはアックス「アルディナ」が握られている。それを肩に担ぎながら男は叫んだ。
「なら、さっさと消さなくっちゃなあ!」
騎士目指す者として、リュー・グランフェスト(ka2419)は豪語する。
彼らを含むハンター二十名ほどがスライムに接近し、間近で武器を振るう選択肢を取った。
前衛組も一部は右翼、左翼とわかれ、スライムを取り囲む。
「おー、凄く大きいスライムなのだー♪ でも斬りまくればきっと小さくなるよねー? と、言うわけで突貫するのだ♪」
左翼に回り込み、斧を携えて突っ込もうとするネフィリア・レインフォード(ka0444)。ブリス・レインフォード(ka0445)がそんなネフィリアを一旦制止する。
(ネフィ姉様、油断するとすぐ突撃しちゃうから……)
彼女の心配通り、ネフィリアは突貫する気満々である。
「何としても、アレを倒すのよ。でも無理はしないように、良いわね?」
フローレンス・レインフォード(ka0443)は二人へと囁いた。彼女達は姉妹である。
「ネフィ、突出し過ぎては駄目よ。ブリス、貴女も気をつけて」
「ふに? フロー姉、そんな心配しないでもきっと大丈夫なのだ♪ ブリスちゃん、支援よろしく頼んだのだー♪」
ブリスはうなずき、ウィンドガストを彼女に用いる。緑に輝く風がネフィリアの周囲を覆った。
今度こそ、ネフィリアはスライムに向かって突進する。
それとほぼ同時に敵を射程内に捉えた後衛メンバーの魔法や射撃が順次開始される。ついに、巨大な敵との戦いが始まったのだ。
●
「あの山の様な奴が街に入ったら大変な事になるもん、あそこで暮らす人々の為にも、こいつを放っておくなんてざくろには出来ないから!」
時音 ざくろ(ka1250)は後衛に攻撃が及ばないように、機導砲を撃ってスライムの気を引きながら距離を詰める。
「物理ダメージ半減? だからなに?」
スライム系の相手に良く見られる特徴をものともせず、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は巨大スライム撃破の為に突き進む。
「力を込めて物理で殴っちゃうよ!」
男らしい発言と共に、クラッシュブロウを用いて斧を叩きつける。それは予想外の手ごたえであり、彼の考えよりも大きな亀裂をその胴体に生む。
「時間が惜しいです! 外れる事は無いでしょうから思い切りいきますよ!!」
リリティア・オルベール(ka3054)は瞬脚とランアウトを併用し、正面から突っ込んだ。友人である鹿島 雲雀(ka3706)も彼女の後を追い、走る。
「よっしゃ、まずは速攻――って追い付けねーぞオイッ」
スキルの差もあってか、先に敵の懐に飛び込んだのはリリティアであった。彼女はスラッシュエッジを繰り出す。刃は見事一閃し、スライムの肉を抉る。そこに雲雀が追いつき、リリティアが傷つけた場所を狙って斧を振り下ろす。雲雀の渾身撃がスライムの傷をさらに深いものとした。
「細切れにしてバリューセットにすんぞ、この野郎!」
巨大なスライムを初めて目にした時、「ありゃXLサイズのサービスデーか何かか?」と思った雲雀らしい啖呵の切り方である。
その言葉に応えてか、スライムは全身を大きくゆらし、取り囲むハンター達を狙って一部の体を触手のように振り回した。同時に体の上部からは、他のハンター達目掛けていくつかの粘液が吐き出される。
ハンター達の幾人かはそれを回避したが、その攻撃を身に受けてしまったものが多い。前線で戦うゾファル・G・初火(ka4407)もその中の一人だ。
「これこれ、こういう戦いを求めてたじゃーん」
痛みと敵の巨大さにまったく臆さず、むしろ嬉々として再び距離を詰めるゾファル。
「こんだけでかきゃはずすめー。くらえ、俺様ちゃんの絶技」
言葉の通り彼女の斧はスライムの胴体に叩き込まれる。
その近くではバルバロスも斧を振り下ろしていた。
――攻撃こそ最大の攻撃なり、先に叩き潰せば防御などそもそもに不要なのだ。
彼の戦いの理論を示すかのように、バルバロスも敵の攻撃を受けていたが、特に気にした様子もなく、クレーターを作るかのような勢いで得物を振り回している。一撃の威力だけなら誰にも負けない自信があるという、彼なりの戦い方だった。
●
後衛に位置するレイン・レーネリル(ka2887)は周囲のハンター達に『攻性強化』を順次行使している。それが終わったら機導砲での攻撃にシフトする構えだ。
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)は、幼馴染である彼女の隣でシャドウブリットをスライムへとぶつけていた。前衛の味方の邪魔にならないように気遣い、もしくは声をかけながら。
その側を、流鏑馬をしているかのように弓を片手に馬を駆る少女が一人。
「ぜったいに、止めなきゃ……!」
ゴースロンを足だけで操り、空いた両手で弓を構えて矢を番えるのは鏡 優真(ka0294)。
「弓、あんまり効かないと思うけどがんばる……!」
言葉と共に、限界まで引き絞られたコンポジットボウから矢が放たれ、敵の巨体へと吸い込まれていく。
アルケミストである真吾もここにいた。敵の弱点を探しつつ、機導砲による援護射撃を行う。彼が放つエネルギーの光は、かつての特撮番組を思い起こさせるような、そんな光線であった。残念ながら、大きなスライムはその一撃で倒れるようなことはもちろんなかったが。
榎本 かなえ(ka3567)もその隣で機導砲を放つ。
スライムの体にうっかり飲み込まれてしまったら、溶かされてしまうのだろうかという疑念が彼女の頭をよぎる。それが現実のものとならないよう、彼女は次の機導砲の準備に入る。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)はこの一群の中で比較的に前に立ち、盾と銃を構えている。
銃で適宜攻撃を行いつつ、守りの構えを用いて盾で後衛への攻撃をシャットアウトしようという考えである。
(おいおい、いくらなんでもデカすぎだろ)
と呆れながらも、レイオスは銃の引き金を引いた。
「おばあちゃんから危ないことはしちゃ駄目って言われてるけど、お使いの仕事に行った先で巻き込まれちゃったのは仕方ないよねー。不可抗力なんだよー」
木島 順平(ka2738)はそう呟きながら、スライムと距離を取りつつ魔法の準備にとりかかる。彼が行使しようとしているのはアースバレット。スライムの色が青なので、ひょっとすると水の属性を持っているのではないかと考えたのだ。
集中し、魔法の威力を増幅する順平。
彼をはじめとしたマギステルは、皆その可能性を考慮していたのか、一度はアースバレットを試すつもりであった。
綿密な打ち合わせをしていたわけではないが、戦場に散っているマギステル達はほぼ同時期にアースバレットの準備に入る。
もちろん狙うは青いスライムだ。
●
「やれやれ……ちょっとした丘だね、こりゃ」
嘆息まじりに言葉を吐き出し、八島 陽(ka1442)は馬から飛び降りると、その尻を軽く叩いて逃げるように促した。彼の愛馬は指示に従い、戦場を離れていく。
「颯におまかせですの!」
陽の側を八劒 颯(ka1804)が疾風のように駆けていった。彼女は軍馬としても使われるゴースロンを操り、そのまま騎兵のように突撃を敢行する。
勢いに任せ、颯の持つ魔導ドリルはスライムの体を深く穿つ。
「びりびり電撃どりるぅ~!!!!」
颯はその体勢でエレクトリックショックを用い、敵の体内を焼いた。
陽も彼女の隣でスライムに向かってエレクトリックショックを放つ。
雷撃により麻痺をするということはなかったが、二人の攻撃はそれなりのダメージとなっているようだ。
「これだけ巨大だと、ダメージが通る気がしないが。まあ、俺達前衛組の役目は後衛の仲間が思う存分働ける場を提供することだからな。きちんと役目を果たすことにしよう」
二人と同じく前衛の右翼にいる榊 兵庫(ka0010)はそう口にしながら、渾身撃の込められた片鎌槍を振るう。傷は与えることはできるが、たしかに彼の言う通りそれがどれだけ効果があるかはわからない。しかし、全くの無駄というわけでもないはずだ。
クィーロ・ヴェリル(ka4122)もその傷を狙い、黒漆太刀の刃先を食い込ませる。
「僕に出来る事をやるまでだよ」
一箇所に攻撃を集中させたほうがより効果的であろうとの判断に基づいてのことだ。
「塵も積もれば山となる、か。塵に戻すのは面倒だけどね」
やや手薄となっていた右翼側に参加したアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。そう呟きながら、彼女は二本の刀を順次振るう。
「こっち、かな」
彼女は試作雷撃刀「ダークMASAMUNE」の方により手ごたえを感じ、今回はこれを用いることに決めた。
イレス・アーティーアート(ka4301)もミラージュグレイブを手に巨大な敵へと立ち向かう。
(スライムに押しつぶされて死亡。スライムに飲み込まれて死亡。どちらも勘弁願いたいものですわ)
敵に飲み込まれないように気をつけつつ、彼女は巧みに得物を操り、スライムに手傷を負わせた。
●
こちらは前衛の左翼側である。
「さぁ刻んでやるぜスライム野郎。俺の剣圧はそこらじゃ味わえねぇ威力だぜ!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)はギルドの団長である経験を生かし、大規模戦の勢いにのまれて動けないハンターがいた場合は指示を飛ばそうと考えていたが、ハンター達は皆機敏かつ適切な行動を取っていた。
「早々にやつの弱点を見つけろ! そいつを中心に火力を叩き込む!」
エヴァンスも今は一人の剣士として剣を振るう。とはいえ、敵の弱点属性を見極め、それを仲間達に伝える腹積もりであった。
彼の剣は風の属性を帯びており、その一撃は確かに属性を帯びていない武器よりも効果があるようだったが、弱点だと判断するに至るほどではなかった。
柊 真司(ka0705)もその隣で機導剣による白い刃を突き刺す。
「出し惜しみは無しだ! 一気に畳み掛けるぜ!」
彼は言葉の通り、機導剣による攻撃を限界まで続けるつもりである。
フローレンスは妹のネフィリアにプロテクションをかけ、ネフィリアは姉妹の援護を背に受けてスライムをがすがすと切り付けていた。しかし、やはり彼女が与えた傷もスライムに対してあまり大きな効果をあげてはいないようだ。
少しの時間を置き、ブリスの魔法が発動した。ちょうどその辺りで、マギステル達の放ったアースバレットが飛来する。ブリスのそれも同じようにスライムめがけて襲い掛かった。
数多の石つぶてがスライムの巨体を叩く。その際のスライムの挙動をエヴァンスは見逃さない。魔法が穿った傷痕は大きく、また、その治りも遅いようだ。
「お前ら! こいつの弱点は土属性だ!」
エヴァンスが大声で叫ぶ。
水属性を持つ者は土属性による攻撃に弱い。このスライムはおそらく水属性ということだ。
そこに、愛馬に跨った星輝が突っ込んできた。
もちろんその全身に油をまとわせて、である。水と油は相性が悪い。これでスライムの攻撃をある程度逸らせるのでは、と考えたのだ。スライムが水属性であることを予期していたらしい、星輝会心の策であった。
「多くの人命の前に手前の身なんぞ気にしておる場合ではないでの? この身この刃折れるまで只死合うのみよ!」
口上をあげ、ホーリーセイバーにより白く輝く太刀を手に馬を駆る星輝。そこにスライムの全体攻撃が振るわれた。
スライムの体が一部触手となり、ハンター達を襲う。もちろん、星輝も例外ではない。
「ふ、わしの策をもってすればおぬしの攻撃など……へぶっ!?」
スライムの触手は星輝にクリーンヒットした。
残念ながら、彼女の目論見は外れた。確かにスライムは水の属性を持っていたが、それが彼女の油による皮膜によって逸らされることはなかったのである。むしろ、その油のせいで自分の動きが鈍り、攻撃が避けられなかったような気がしなくもない。
馬上から彼女はふっとび、地面へと落下した。幸い愛馬は無事で星輝の元へと戻ってくる。
それを見たUiscaは慌てて駆け寄り、彼女を助け起こす。どうやら命に別状はないようである。
ちょうどその近くにいたセリス・アルマーズ(ka1079)が星輝にヒールをかける。セリスは後衛を粘液から守る為、やや前衛よりに立っていたことが功を奏した。
(エクラの教え故に
歪虚は滅ぼす
雑魔は滅ぼす
存在していてはいけない)
ヒールを行使し終えたセリスは己の目的を達するため、再びホーリーライトによる攻撃に戻る。
敵の弱点らしきものが判明したとはいえ、スライムの進行速度に変化はない。まだまだ戦いは終わりそうになかった。
●
「……あんなに大きなスライムにファリスの魔法、効くのかな? でも、何もしないで後悔するのはいやなの。だから、最後まで諦めないで攻撃するの!」
後衛、右翼側に立つファリス(ka2853)が魔術具を手にアースバレットを行使する構えを取る。
敵の弱点はすでに分かっている。あとは全身全霊で魔法を叩き込むのみだ。
その近くで翡翠(ka2534)は痛みに顔をしかめながら、ホーリーライトを放った。彼は先程のスライムの遠距離攻撃をその身に受けていた。
クルセイダーであり、回復のためのスキルも身につけている彼であったが、今は回復に使う時間が惜しいと判断してのことだ。
「回復はいつだって出来る……今はこの敵を……倒す……!」
巨大な敵を見据えながら、翡翠は決意の言葉を吐き出した。
隣に立つマナ・ブライト(ka4268)も同様だ。
「街への被害が迫っている以上、ここで仕留めなくては……時間との戦いですね」
彼女も翡翠同様に負傷していたが、回復を後回しにし、今はホーリーライトを放つ。
「光の裁きを!」
マナは攻撃を終え、前にいるファリスをちらりと見た。自分の傷は後回しにしているが、アースバレットを使用できる彼女が傷ついたら即座に癒しの力を使うつもりであった。
同じく後衛にいるクレール(ka0586)はスライムの挙動をじっと見つめている。
(あいつの飛び道具、粘体分離……つまり、着弾の瞬間にそこを分離されると、被害を小さくされる……なら、狙いは……分離直後、本体側の分離点!)
ちょうどその時、スライムが周囲に体の一部を撒き散らす。瞬間、クレールは機杖「ピュアホワイト」を突きつけ、叫んだ。
「連続分離しなければ! 私の全力の機導砲でぇっ!! くたばれぇぇぇーーーっ!!」
杖の先端から一条の光が迸る。それは見事に先程スライムが粘液を吐き出した場所へと命中した。
馬を駆ってスライムの側を駆けつつ、絶妙の間合いでバスタードソード「フォルティス」を振っていたジャック・エルギン(ka1522)。彼は白い光がスライムに命中したとき、にやりと笑った。
「クレールか! スライムの気は引いてやっからガンガン撃ってけよ!」
友人の名を呼びながら、彼もクレール達後衛組を支援すべく、新たに剣を振り下ろし、スライムへ斬撃を見舞った。
●
「わぁ、ネバネバするー! うう、気持ち悪い……」
飛んできた粘体を一部受けてしまったピオス。不快感を覚えながらもめげずにマジックアローを本体に向けて撃ち返す。
ペルもその隣で集中し、ひたすらにマジックアローを放ち続けている。
(最後まで倒れず攻撃を放ち続ける、それがボクの目標です)
彼はワンドを振りかざし、次の光の矢を射出する準備に入る。巨大な青いスライムを見据えながら。
「時間もあんまりないみたいだし一気にいくわよ~」
リーラ・ウルズアイ(ka4343)もアースバレットを撃つために精神を集中させる。敵の弱点である土属性による攻撃をひたすらに繰り返せば、あの巨大な姿もやがて崩れ去るはずだ。
(被害が出る前に片付けないと)
リーラがそう決意している隣で、とある二人組のやりあう声がする。
「ちょ、レイナちゃん……っ! 何かちょっと強くなった気分なんですけどぉ」
レイナにあらかじめ攻性強化をかけてもらい、さらに弱点属性だったアースバレットが思った以上の効果をあげているのを見て、はるなは自信満々の表情だ。
そんなはるなの側には不機嫌そうなレイナがいた。レイナは先程敵に近寄り、わざわざナックルで殴りつけてきたのだが……。
「全然攻撃効かないじゃないの! 何アイツ! あーぶよぶよしてて気持ち悪いっ!! もう自分では攻撃しないっ!」
レイナはぷいっとそっぽを向く。
「魔法の方が効いてるみたいだから、はるな、頑張りなさいよ!! 私も、機導砲で援護するわっ」
それでも一応後方からの援護は続けるつもりらしい、レイナであった。
●
「うおおおおお!!」
リューは斧を手に叫び、渾身撃による一撃を上段から振り下ろす。アックス「アルディナ」は土属性だ。先程エヴァンスが戦場に周知したのとほぼ同時に、彼も敵の弱点に気付き、仲間達に知らせる為に声を張り上げていた。
今は率先して敵の懐に飛び込み、得物を自在に操る。
「消し飛ばしてやるよ!」
彼の一撃は確かに重い。しかし、それでもスライムの動きが鈍る様子はまだない。
その近くでボルディアも斧を振るい、スライムの巨体の端を叩き切っていた。本体と分離したその粘体へと、彼女はさらに一撃を見舞う。
「塵も積もれば山となるの逆だなぁ。山も削れば塵になる、ってか?」
言葉通り、少しずつこの青い山を削っていくつもりらしい。彼女の独白は、偶然にも右翼で戦うアルトが先刻呟いた言葉と似ていた。
「しかし雑魔退治というより山の掘削工事だな、こりゃ」
彼女は迫る巨体に怒涛の連打を繰り出す。もちろんボルディアもさきほどからスライムの攻撃に巻き込まれているのだが、まだまだ武器を振るう速度は落ちていない。
ヴォーイもひたすら斧を振るい続けている。実は、ヴォーイが手にしているのはリューと同じアックス「アルディナ」であった。つまり、土属性を帯びている。なので、彼は物理で殴っていたわけではなく、スライムに対して効果てきめんの属性攻撃を行っていたこととなる。とはいえヴォーイが取る行動はいずれにしろ変わらなかったであろう。
彼はあまり防具を身につけておらず、地を駆けるものによる身のこなしの上昇に何度か助けられていたが、もちろんそれにも限度がある。しかし、ヴォーイの傷が無視できないレベルになると、即座に彼の後ろから声が聞こえた。
「癒しの加護を……」
後衛にいるマナが前衛のメンバーを援護するために適宜ヒールを行使していた。翡翠もその隣で、負傷の目立ち始めた他の戦士達へと回復魔法を飛ばしている。
二人の支援効果もあり、前衛達はまだまだ戦うことが可能だ。
そこに粘液が飛んでくるが、ミュオがその射線に入ってそれを受けた。彼はそのままスライムの下に飛び込み、大剣を一閃させる。ミュオの持つグレートソード「エッケザックス」も土属性を持つ武器である。
「うーん。あんまり大きいからどのくらい効いてるのか分からないですね。ちょっと困っちゃいます」
属性攻撃をもってしてもその傷はやはり少しずつ再生してしまう。巨大さも相まって、敵の生命力があとどれくらいあるのか、ミュオには見当もつかなかった。
「ったく、顔も声もねーんじゃ効いてんのか分かんねーな!」
ジャックも剣を振るいながら頭上の敵を見上げ、ミュオと同じ感想を述べた。
ゾファルは、分裂しないなら半分にすれば死ぬって事さ。とうそぶきながらギガースアックスを叩きつける。踏込と渾身撃を併用した全力の攻撃は軟体を大きくへこませた。
「……兄様姉様が敵の気を引いてくれている間に一撃でも多く撃ち込むの!」
ファリスは前衛達の戦いぶりに報いるため、後方から魔法を飛ばし続けている。きっと効果はあるはず。そう信じて。
●
青い山は幾度目かの攻撃をハンター達へと浴びせる。何人かがその攻撃を受け、歯を食いしばる。戦いが始まってまだ時間はそうは経っていない。しかし、ハンター達の顔にあせりが生まれ始めていた。
スライムの進行はいまだ止まらず、ハンター達はじりじりと街の方へと押し込まれているのだ。前衛、後衛ともに移動しながら攻撃を継続する。
やや敵から距離を取って援護に努め、味方とスライムの状況を監視していたウィンスは、無理に隊形を維持することが危険につながりつつあることに気付いた。もう、クルセイダーたちの回復魔法も底を突きつつある。
「陣形が乱れつつあるぞ! 無理をするな! いざとなったら陣形が崩れたって構わない!」
彼はそう叫びつつ、消耗の激しい味方と入れ替わる形でスライムの懐に飛び込んだ。踏み込みつつ、渾身撃による斬撃を上段から見舞う。
「もっと強く、もっと速く。まだまだこんなものじゃない。銃弾にも負けない、あの青い巨人にも負けない。重く鋭い一撃を手に入れる為こいつを倒す。でかい、しぶとい? 上等だ!」
ウィンスは脳裏に全く別の敵の姿を思い描きながら、ひたすらに刃を叩き込む。
「クリスタロス! ハンマーッ!」
隣で屋外もハンマーを思い切り打ち込んだ。水属性を持つ武器は威力を殺され、まるで餅つきのように得物にスライムの体が絡むが、それを分離させるかのような勢いで激しく振り回す。
兵庫はマテリアルヒーリングで己の傷を癒し、戦いを継続する。片鎌槍の穂先がスライムの肉片を切り飛ばした。
ハンター達の努力をあざ笑うかのようにスライムは体を震わせ、またも彼らを攻撃する。街はもう近い。スライムが放つ粘体はすでに何度か街の外壁を打っていた。紋次郎の防御障壁は使用回数が尽きている。彼は街を守るために機導砲で吐き出された粘液を撃った。光線に貫かれ、青い体液は分解しながら地面へと落下する。
スライムが伸ばした触手にクィーロが激しく打たれた。片膝ついた彼を飲み込もうとするかのように、その全身に青い粘体が纏わり付く。
近くにいたアルトとイレスは狙いを定め、彼を巻き込まないようにそれぞれ武器を一閃させる。彼女達の攻撃は見事に、クィーロを拘束しつつあったスライムの触手を切り裂いた。
クィーロの傷は浅くない。しかし、彼の口元にはなぜか笑みが浮かんでいた。
「楽しくなってきた。あぁ……いいぜ……いいぜ……もっと殺し合おうぜ!」
後ろに下がることもなく、クィーロは刃を敵に向かって振るう。彼の太刀はスライムを深く抉った。
しかし、やはり敵の動きは止まらない。ハンター達の体力と疲労も限界に近づきつつある。
その時、戦場に歌声が響き渡った。Uiscaが仲間を鼓舞せんと、喉を震わせている。
彼女が歌うのは魔法でもなんでもない、ただの歌にすぎない。しかし、それがハンター達にいくばくかの力を与えた可能性は否定できない。ハンター達は新たにそれぞれの武器を握り締めた。
「止まれー! ショック!!」
スライムの根元で青白い雷撃が迸った。ざくろがエレクトリックショックを使ったのだ。しかし、スライムの動きは止まらない。
「なら、ダブルショック! トリプルショックだ!」
ざくろがエレクトリックショックを再び放つ。それに呼応するかのように、まだスキルが行使できるアルケミスト達も彼と一緒にタイミングを合わせて雷撃を食らわせた。機導砲での射撃を行っていた真吾もその中に加わっている。
スライムに飲み込まれることを恐れていたかなえも、今は距離を詰め、手に雷撃を生み出している。
「行かせません……! ここから先は、絶対に!」
行動阻害効果か、それとも別の要因か、巨大なスライムの動きがわずかに鈍る。
「さあ、このまま一気に決めちまうぜ!」
好機と見たレイオスのバトルライフルが火を吹く。戦士達も、まだ戦える者は得物を手に立ち向かった。
バルバロスはひたすらクラッシュブロウを叩きつけ、全身油まみれの星輝も背水不退の狂刃乱舞で攻立てる。
雲雀とリリティアの二人もスキルは尽きていたが、絶妙のコンビネーションで立ち向かう。
茜は最後の一発である機導砲を撃ち、アレグラも魔導拳銃をぶっぱなした。アーリフラヴィアのファイアアローが赤く迸り、青い魔物の表面を抉り弾ける。
まるごとうさぎに身を包む麗美は、友人であるUiscaをかばうように前に立ち、魔導銃のトリガーを引き続ける。
散発的に飛んでくる粘液の内の一つがリーラを襲う。しかし、ぽえむが盾でそれを防いだ。
「今のうちに……やっちゃって!」
仲間に叫びつつ、ぽえむもホーリーライトを使う準備に入る。リーラも庇ってくれた彼女に謝意を示しながら、自分は敵を倒すべく魔法を練り上げ、解き放った。
もはやエンフォーサーやマギステルといったクラスも、前衛後衛の区別もなかった。皆、全ての武器を、スキルを、持てるものをすべて振り絞り、巨大な敵に立ち向かった。
一瞬のような、もしくは永遠のような時間が続き、やがて。
スライムは動きを止めた。
ハンター達はそれに気付かず、ひたすらに攻撃を続ける。スライムは大きくぶるりと震えた。ハンターの内の幾人からは敵の異常に気付き、スライムを見上げた。
その瞬間。
スライムは突如爆発した。
いや、正確に言うと爆発四散すると同時にあたりに粘液を撒き散らしたのである。突然の豪雨のように、青い物体はハンター達へと降り注ぐ。
そこかしこで悲鳴が巻き起こる。ある者は頭からどろどろの粘液を被り、ある者は咄嗟に盾を構えて防ぐ。
「危ない!」
そんな中、ルーエルはレインを庇うために彼女を突き飛ばした。幸い、といっても言いのかどうか、レインの代わりにルーエルが粘液にまみれてしまう。
地面に倒れる二人。レインはそのまま身を起こさず、間近にいるルーエルを見ながら呟いた。
「……幼馴染みがスライムまみれってのもオツなものねー」
「え……レインお姉さん、なんで嬉しそうなの?」
赤面しながらの、ルーエルの言葉。
そんな中、街の方から喚声が沸く。慌てて立ち上がるルーエル。まだ事態を把握できていないハンター達も皆、街の方を見た。
城壁の上からこちらを見つめる人々。
街の門を開け、彼らの下へと駆け寄ってくる男女。
ハンター達は彼らの笑顔を見、喝采を聞いて、ようやく巨大な敵との戦いが終わったことを知ったのだった。
●
戦いは終わった。街の人々は老若男女、彼らの下へ集まっている。
だというのに、ハンター達はその場に座り込んだり倒れたりしたまま動こうとしない。
皆、疲労困憊で立ち上がる気力もないのだ。
全てが終わり、フローレンスがまず考えたのはお風呂に入りたいということだった。
「むー、べとべとで気持ち悪いー。帰ったらお風呂入らないといけないのだー」
ネフィリアも彼女と同じことを考え、口にだした。というか、この場でそれを考えなかった者はほとんどいないであろう。ほぼ全員、スライムの粘液のせいで体が汚れてしまっている。
「一緒にお風呂入ろうね……」
ブリスも二人の姉に囁いた。
「あー、やっと終わった! しんど……」
雲雀も力尽きたかのようにばったりと倒れたままだ。隣にいる友人の方を振り向き、声をかける。
「なー、リリティア。一緒に水浴びにでもいかねー?」
リリティアも同じことを考えていたようでその提案に頷き、街の住人に水浴びができる川などがないかどうかを尋ねた。
「やれやれ、もう疲れて動けねーぜ」
メンバーの中でも負傷が激しかったヴォーイ。
「おたくらもお疲れさん」
周囲にいるハンター達に手をあげてその健闘を讃え、彼は一休みしたいのかごろりと横になる。
翡翠は仲間達を見回し、力の合わさったハンター達の凄さを改めて感じていた。あの山のように巨大なスライム。それを、まさか本当に倒してしまうとは!
屋外も思うところがあったのか、今回の戦法について近くのハンターと話しこんでいる。どうやら今後の参考にしたいようだ。
戦闘中、どちらかというと攻撃寄りに動いていたセリスが、まだ使用可能だったヒールを仲間にかけている。側には、彼らを歓待するパーティーを開きたい、と言う街の人がいるが、セリスは少し考えて「紅茶も準備してくれる?」とお願いした。どうやら紅茶に目がないらしい。
「わふっ、スライムさん見てたらなんだかゼリーが食べたくなっちゃいました」
パーティーと聞き、ミュオがそんな言葉を漏らす。近くで座っていたピオスも最初にスライムを見た時、あれが全部食べ物だったらいいのにと呟いていたが、粘液まみれとなった今でも同じことを考えたかどうかは定かではない。
バルバロスは負傷した体を癒すため、自己治癒を使用していた。防御を省みない戦い方をしていたこともあり、その傷はまだ残っているが、動くのに支障はなさそうだ。
「私が出来るのは簡単な処置ですから、覚醒者だから大丈夫と判断せずに後でお医者様の診断を受けてくださいね」
ヒールを全て使ってしまったマナは、残る負傷者に応急手当をして回っていた。
しばらく緩やかな時間が流れた後、ハンター達はそれぞれ立ち上がり始めた。先に風呂や水浴びを希望する者がほとんどだったが、街の住人の歓待を受けない理由はない。彼らの顔は戦いを終えた満足感でいっぱいだった。
そんな中、紋次郎は座り込んだまま一人浮かない顔をしていた。彼は街の事後処理は任せ、自分はスライムの移動跡を辿って元凶が無いか、調査に向かおうと考えていたのである。
「……あんな奴を狙って創り出せたら……とんでもない驚異だ、元を絶つ必要がある」
スライムが進行してきた道筋ははっきりとしている。あの巨大な存在が生まれた場所に辿りつくことが出来る可能性は十分にあった。もちろん、その先に何が待つのかはわからないが。
そう決意する紋次郎の下に一人のハンターがやってきた。動かない彼に手を差し伸べ、笑みを浮かべる。
紋次郎も笑ってその手を取った。
なんであれ、今回の戦いには勝利したのだ。しばらくはこの余韻に浸ってもいいだろう。
彼は立ち上がり、仲間達と共に街の中へと入っていった。
危機から解放され、住人達の喝采と笑顔で溢れるシグニードの街へと。
腕を組み、前方に迫る巨大スライムを見据えて呟く天川 麗美(ka1355)。しかし、なぜかその全身は、まるごとうさぎという、うさぎの着ぐるみに覆われている。スライムの粘液で服を汚したくないというのがその動機であるらしい。
「ヴォイドめ、なんと巨大な……負けん、負けんぞ!! この背に背負う町の人々のためにも、ここで倒してみせる!!」
リアルブルーに存在する特撮番組『機導特査ガイアード』のスーツアクターだった青年、鳴神 真吾(ka2626)。今、彼の五体はそのスーツを彷彿とさせるような全身鎧に包まれている。
彼の言う通り、ハンター達の背にはシグニードの街がある。高さ30メートル、直径60メートルほどのスライムが街に到達したら、ただごとでは済むまい。
真吾の隣では、スーパー(ロボ)モデルである屋外(ka3530)が首飾りに手を重ねている。彼は「……行きます」と小さく呟いた後、顔を正面へと向け、声を張り上げた。
「凱句応、起動!」
言葉と共に覚醒した屋外もやはり、まるごとでゅみなすという、リアルブルーのCAM「デュミナス」を模した着ぐるみをまとっていた。
「まるで祭だな……」
ウィンス・デイランダール(ka0039)が配置に付きながら呟いた言葉は、彼らのことを指していたのか、それとも巨大な敵を迎え撃つために集まった大勢のハンターを指していたのか、それは定かではない。
ハンター達はスライムを迎撃する為、即席の陣形を組もうと動きだす。
その頃、一人のハンターが古都アークエルスの転移門へと向かっていた。
「大きなスライムね……一匹相手に随分と沢山があつまってるみたいだけど。一体どれほどの大きさなのかしら」
彼女、慈姑 ぽえむ(ka3243)はこの依頼を受けた最後のハンターである。アークエルスでハンターが集められていることを知り、応募したのだ。
「まぁ……見れば分かるか。よし気合入れていこう!」
ぽえむは転移門でシグニードの街へと瞬時に飛ぶ。ハンターオフィスから一歩を出た時、遠くに見える青い山のような物体に気付いた。
「はい? でか……いや、大きすぎよ。うぅ、確かにこんなの町に来たら大変だわ。一気に片付けよう」
一瞬怖気づいたものの、報酬を受け取るために戦場へと駆け出すぽえむであった。
●
「……大きいですね……無駄に。どこで発生したのでしょうか……とにかく急を要するようですし、全力で攻撃するとしましょう」
「まるで山ではないですか。こんなものが街に襲い掛かっては大惨事です」
アレグラ・スパーダ(ka4360)とアーリフラヴィア・エクスドミナ(ka4484)が移動を開始しながらそれぞれの感想を漏らした。
「射撃系の人いたら合わせるから、同行させてくださーい!」
そんな中、天王寺茜(ka4080)が散開していくハンター達の中を駆けながら叫ぶ。アレグラとアーリフラヴィアの二人が茜に手を振り、彼女に同行の意思を伝える。
アレグラはイェーガー、アーリフラヴィアはマギステルだ。機導砲で戦うつもりの茜と同じ、距離を取って戦うタイプである。
彼女達は他のハンターと共に、後衛の右翼を構成する羽となる。
「……規格外のサイズだな、厄介にも程がある」
対崎 紋次郎(ka1892)は馬を駆り、右翼側に移動しながら巨大な青い物体を見やり、呟いた。
「街を守る、敵も倒す……両方同時にやらなくちゃあな」
スライムに対しては機導砲による攻撃、スライムが飛ばしてくるという粘液に対しては防御障壁による援護。
そのどちらもこなしてみせるつもりの紋次郎だった。
●
反対側の後衛左翼では、Uisca Amhran(ka0754)が前方にいる星輝 Amhran(ka0724)にホーリーセイバーを使用した。星輝はそれに太刀を掲げる形で応え、そのまま愛馬「成金(ナルカネ)」に跨って駆けていく。
なぜか、星輝の体と馬の全身は戦闘の邪魔にならない部分を除き油まみれであった。巨大スライムが水の属性を備えていると見切っての作戦らしい。天然策士の二つ名にふさわしい結果が得られるかどうかは現状では不明だ。
Uiscaは星輝と同じように器用に愛馬の「エポナ」を操り、魔法を行使するに適した位置へと移動する。
「うっわ……超デカいんですけどー?!」
「正にデカいわね」
「でもぷるぷるしてて、ちょっと可愛いってカンジぃ? ね。レイナちゃん?」
「っていうか、気持ち悪いわよっ! はるな、目が腐ってるわ!!」
「もーレイナちゃんはビビりなんだからぁ」
「び、ビビってないわよっ! 所詮、た、たかがスライムよ! サクッと倒すわよっ!
同じく後衛左翼で岩波レイナ(ka3178)とはるな(ka3307)の二人が改めてスライムの感想を口にする。街から遠目に見た時から分かってはいたことだが、距離を詰めてみるとその巨大さにはあきれ返るばかりだ。
「大きい……あれが全部食べ物だったらいいのに」
ピオス・シルワ(ka0987)は山のようなスライムを見てそうつぶやいた。たしかに、ほんの少しだけ大きなデザートに見えなくもない。色は食欲を無くしそうな青だが。
ペル・ツェ(ka4435)も足を動かしながら心の中でため息を吐いた。あのでっかいぶよぶよはいったいどうやって移動してきたんだか、と考えているのだ。
(味方も多いわけですし頑張りますよ)
素早く心を切り替え、彼もワンドを手に魔法の行使に適した場所へと移動した。
●
「チッ……またスライムかよ。スライムGだの男の服を溶かすスライムだの、最近どうも多くねぇか?」
斧を手にボルディア・コンフラムス(ka0796)はそう愚痴る。確かに昨今、様々なスライムがハンター達によって討伐されているという話を良く耳にする。
「わふぅ……とっても大きくてぽよんぽよん、です」
ミュオ(ka1308)もボルディアと同じく大きなスライムの正面に立ち、武器を構えている。
「スライムといえども、これだけデカければ なかなかの強敵よな」
バルバロス(ka2119)は眼前にそびえる青い山を見ながら感慨深げに呟いた。
彼の隣に立つ男も内心思う。
(こんだけでかい敵だ、町の人間にも目にとまるだろ。不安に思う筈)
手にはアックス「アルディナ」が握られている。それを肩に担ぎながら男は叫んだ。
「なら、さっさと消さなくっちゃなあ!」
騎士目指す者として、リュー・グランフェスト(ka2419)は豪語する。
彼らを含むハンター二十名ほどがスライムに接近し、間近で武器を振るう選択肢を取った。
前衛組も一部は右翼、左翼とわかれ、スライムを取り囲む。
「おー、凄く大きいスライムなのだー♪ でも斬りまくればきっと小さくなるよねー? と、言うわけで突貫するのだ♪」
左翼に回り込み、斧を携えて突っ込もうとするネフィリア・レインフォード(ka0444)。ブリス・レインフォード(ka0445)がそんなネフィリアを一旦制止する。
(ネフィ姉様、油断するとすぐ突撃しちゃうから……)
彼女の心配通り、ネフィリアは突貫する気満々である。
「何としても、アレを倒すのよ。でも無理はしないように、良いわね?」
フローレンス・レインフォード(ka0443)は二人へと囁いた。彼女達は姉妹である。
「ネフィ、突出し過ぎては駄目よ。ブリス、貴女も気をつけて」
「ふに? フロー姉、そんな心配しないでもきっと大丈夫なのだ♪ ブリスちゃん、支援よろしく頼んだのだー♪」
ブリスはうなずき、ウィンドガストを彼女に用いる。緑に輝く風がネフィリアの周囲を覆った。
今度こそ、ネフィリアはスライムに向かって突進する。
それとほぼ同時に敵を射程内に捉えた後衛メンバーの魔法や射撃が順次開始される。ついに、巨大な敵との戦いが始まったのだ。
●
「あの山の様な奴が街に入ったら大変な事になるもん、あそこで暮らす人々の為にも、こいつを放っておくなんてざくろには出来ないから!」
時音 ざくろ(ka1250)は後衛に攻撃が及ばないように、機導砲を撃ってスライムの気を引きながら距離を詰める。
「物理ダメージ半減? だからなに?」
スライム系の相手に良く見られる特徴をものともせず、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は巨大スライム撃破の為に突き進む。
「力を込めて物理で殴っちゃうよ!」
男らしい発言と共に、クラッシュブロウを用いて斧を叩きつける。それは予想外の手ごたえであり、彼の考えよりも大きな亀裂をその胴体に生む。
「時間が惜しいです! 外れる事は無いでしょうから思い切りいきますよ!!」
リリティア・オルベール(ka3054)は瞬脚とランアウトを併用し、正面から突っ込んだ。友人である鹿島 雲雀(ka3706)も彼女の後を追い、走る。
「よっしゃ、まずは速攻――って追い付けねーぞオイッ」
スキルの差もあってか、先に敵の懐に飛び込んだのはリリティアであった。彼女はスラッシュエッジを繰り出す。刃は見事一閃し、スライムの肉を抉る。そこに雲雀が追いつき、リリティアが傷つけた場所を狙って斧を振り下ろす。雲雀の渾身撃がスライムの傷をさらに深いものとした。
「細切れにしてバリューセットにすんぞ、この野郎!」
巨大なスライムを初めて目にした時、「ありゃXLサイズのサービスデーか何かか?」と思った雲雀らしい啖呵の切り方である。
その言葉に応えてか、スライムは全身を大きくゆらし、取り囲むハンター達を狙って一部の体を触手のように振り回した。同時に体の上部からは、他のハンター達目掛けていくつかの粘液が吐き出される。
ハンター達の幾人かはそれを回避したが、その攻撃を身に受けてしまったものが多い。前線で戦うゾファル・G・初火(ka4407)もその中の一人だ。
「これこれ、こういう戦いを求めてたじゃーん」
痛みと敵の巨大さにまったく臆さず、むしろ嬉々として再び距離を詰めるゾファル。
「こんだけでかきゃはずすめー。くらえ、俺様ちゃんの絶技」
言葉の通り彼女の斧はスライムの胴体に叩き込まれる。
その近くではバルバロスも斧を振り下ろしていた。
――攻撃こそ最大の攻撃なり、先に叩き潰せば防御などそもそもに不要なのだ。
彼の戦いの理論を示すかのように、バルバロスも敵の攻撃を受けていたが、特に気にした様子もなく、クレーターを作るかのような勢いで得物を振り回している。一撃の威力だけなら誰にも負けない自信があるという、彼なりの戦い方だった。
●
後衛に位置するレイン・レーネリル(ka2887)は周囲のハンター達に『攻性強化』を順次行使している。それが終わったら機導砲での攻撃にシフトする構えだ。
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)は、幼馴染である彼女の隣でシャドウブリットをスライムへとぶつけていた。前衛の味方の邪魔にならないように気遣い、もしくは声をかけながら。
その側を、流鏑馬をしているかのように弓を片手に馬を駆る少女が一人。
「ぜったいに、止めなきゃ……!」
ゴースロンを足だけで操り、空いた両手で弓を構えて矢を番えるのは鏡 優真(ka0294)。
「弓、あんまり効かないと思うけどがんばる……!」
言葉と共に、限界まで引き絞られたコンポジットボウから矢が放たれ、敵の巨体へと吸い込まれていく。
アルケミストである真吾もここにいた。敵の弱点を探しつつ、機導砲による援護射撃を行う。彼が放つエネルギーの光は、かつての特撮番組を思い起こさせるような、そんな光線であった。残念ながら、大きなスライムはその一撃で倒れるようなことはもちろんなかったが。
榎本 かなえ(ka3567)もその隣で機導砲を放つ。
スライムの体にうっかり飲み込まれてしまったら、溶かされてしまうのだろうかという疑念が彼女の頭をよぎる。それが現実のものとならないよう、彼女は次の機導砲の準備に入る。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)はこの一群の中で比較的に前に立ち、盾と銃を構えている。
銃で適宜攻撃を行いつつ、守りの構えを用いて盾で後衛への攻撃をシャットアウトしようという考えである。
(おいおい、いくらなんでもデカすぎだろ)
と呆れながらも、レイオスは銃の引き金を引いた。
「おばあちゃんから危ないことはしちゃ駄目って言われてるけど、お使いの仕事に行った先で巻き込まれちゃったのは仕方ないよねー。不可抗力なんだよー」
木島 順平(ka2738)はそう呟きながら、スライムと距離を取りつつ魔法の準備にとりかかる。彼が行使しようとしているのはアースバレット。スライムの色が青なので、ひょっとすると水の属性を持っているのではないかと考えたのだ。
集中し、魔法の威力を増幅する順平。
彼をはじめとしたマギステルは、皆その可能性を考慮していたのか、一度はアースバレットを試すつもりであった。
綿密な打ち合わせをしていたわけではないが、戦場に散っているマギステル達はほぼ同時期にアースバレットの準備に入る。
もちろん狙うは青いスライムだ。
●
「やれやれ……ちょっとした丘だね、こりゃ」
嘆息まじりに言葉を吐き出し、八島 陽(ka1442)は馬から飛び降りると、その尻を軽く叩いて逃げるように促した。彼の愛馬は指示に従い、戦場を離れていく。
「颯におまかせですの!」
陽の側を八劒 颯(ka1804)が疾風のように駆けていった。彼女は軍馬としても使われるゴースロンを操り、そのまま騎兵のように突撃を敢行する。
勢いに任せ、颯の持つ魔導ドリルはスライムの体を深く穿つ。
「びりびり電撃どりるぅ~!!!!」
颯はその体勢でエレクトリックショックを用い、敵の体内を焼いた。
陽も彼女の隣でスライムに向かってエレクトリックショックを放つ。
雷撃により麻痺をするということはなかったが、二人の攻撃はそれなりのダメージとなっているようだ。
「これだけ巨大だと、ダメージが通る気がしないが。まあ、俺達前衛組の役目は後衛の仲間が思う存分働ける場を提供することだからな。きちんと役目を果たすことにしよう」
二人と同じく前衛の右翼にいる榊 兵庫(ka0010)はそう口にしながら、渾身撃の込められた片鎌槍を振るう。傷は与えることはできるが、たしかに彼の言う通りそれがどれだけ効果があるかはわからない。しかし、全くの無駄というわけでもないはずだ。
クィーロ・ヴェリル(ka4122)もその傷を狙い、黒漆太刀の刃先を食い込ませる。
「僕に出来る事をやるまでだよ」
一箇所に攻撃を集中させたほうがより効果的であろうとの判断に基づいてのことだ。
「塵も積もれば山となる、か。塵に戻すのは面倒だけどね」
やや手薄となっていた右翼側に参加したアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。そう呟きながら、彼女は二本の刀を順次振るう。
「こっち、かな」
彼女は試作雷撃刀「ダークMASAMUNE」の方により手ごたえを感じ、今回はこれを用いることに決めた。
イレス・アーティーアート(ka4301)もミラージュグレイブを手に巨大な敵へと立ち向かう。
(スライムに押しつぶされて死亡。スライムに飲み込まれて死亡。どちらも勘弁願いたいものですわ)
敵に飲み込まれないように気をつけつつ、彼女は巧みに得物を操り、スライムに手傷を負わせた。
●
こちらは前衛の左翼側である。
「さぁ刻んでやるぜスライム野郎。俺の剣圧はそこらじゃ味わえねぇ威力だぜ!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)はギルドの団長である経験を生かし、大規模戦の勢いにのまれて動けないハンターがいた場合は指示を飛ばそうと考えていたが、ハンター達は皆機敏かつ適切な行動を取っていた。
「早々にやつの弱点を見つけろ! そいつを中心に火力を叩き込む!」
エヴァンスも今は一人の剣士として剣を振るう。とはいえ、敵の弱点属性を見極め、それを仲間達に伝える腹積もりであった。
彼の剣は風の属性を帯びており、その一撃は確かに属性を帯びていない武器よりも効果があるようだったが、弱点だと判断するに至るほどではなかった。
柊 真司(ka0705)もその隣で機導剣による白い刃を突き刺す。
「出し惜しみは無しだ! 一気に畳み掛けるぜ!」
彼は言葉の通り、機導剣による攻撃を限界まで続けるつもりである。
フローレンスは妹のネフィリアにプロテクションをかけ、ネフィリアは姉妹の援護を背に受けてスライムをがすがすと切り付けていた。しかし、やはり彼女が与えた傷もスライムに対してあまり大きな効果をあげてはいないようだ。
少しの時間を置き、ブリスの魔法が発動した。ちょうどその辺りで、マギステル達の放ったアースバレットが飛来する。ブリスのそれも同じようにスライムめがけて襲い掛かった。
数多の石つぶてがスライムの巨体を叩く。その際のスライムの挙動をエヴァンスは見逃さない。魔法が穿った傷痕は大きく、また、その治りも遅いようだ。
「お前ら! こいつの弱点は土属性だ!」
エヴァンスが大声で叫ぶ。
水属性を持つ者は土属性による攻撃に弱い。このスライムはおそらく水属性ということだ。
そこに、愛馬に跨った星輝が突っ込んできた。
もちろんその全身に油をまとわせて、である。水と油は相性が悪い。これでスライムの攻撃をある程度逸らせるのでは、と考えたのだ。スライムが水属性であることを予期していたらしい、星輝会心の策であった。
「多くの人命の前に手前の身なんぞ気にしておる場合ではないでの? この身この刃折れるまで只死合うのみよ!」
口上をあげ、ホーリーセイバーにより白く輝く太刀を手に馬を駆る星輝。そこにスライムの全体攻撃が振るわれた。
スライムの体が一部触手となり、ハンター達を襲う。もちろん、星輝も例外ではない。
「ふ、わしの策をもってすればおぬしの攻撃など……へぶっ!?」
スライムの触手は星輝にクリーンヒットした。
残念ながら、彼女の目論見は外れた。確かにスライムは水の属性を持っていたが、それが彼女の油による皮膜によって逸らされることはなかったのである。むしろ、その油のせいで自分の動きが鈍り、攻撃が避けられなかったような気がしなくもない。
馬上から彼女はふっとび、地面へと落下した。幸い愛馬は無事で星輝の元へと戻ってくる。
それを見たUiscaは慌てて駆け寄り、彼女を助け起こす。どうやら命に別状はないようである。
ちょうどその近くにいたセリス・アルマーズ(ka1079)が星輝にヒールをかける。セリスは後衛を粘液から守る為、やや前衛よりに立っていたことが功を奏した。
(エクラの教え故に
歪虚は滅ぼす
雑魔は滅ぼす
存在していてはいけない)
ヒールを行使し終えたセリスは己の目的を達するため、再びホーリーライトによる攻撃に戻る。
敵の弱点らしきものが判明したとはいえ、スライムの進行速度に変化はない。まだまだ戦いは終わりそうになかった。
●
「……あんなに大きなスライムにファリスの魔法、効くのかな? でも、何もしないで後悔するのはいやなの。だから、最後まで諦めないで攻撃するの!」
後衛、右翼側に立つファリス(ka2853)が魔術具を手にアースバレットを行使する構えを取る。
敵の弱点はすでに分かっている。あとは全身全霊で魔法を叩き込むのみだ。
その近くで翡翠(ka2534)は痛みに顔をしかめながら、ホーリーライトを放った。彼は先程のスライムの遠距離攻撃をその身に受けていた。
クルセイダーであり、回復のためのスキルも身につけている彼であったが、今は回復に使う時間が惜しいと判断してのことだ。
「回復はいつだって出来る……今はこの敵を……倒す……!」
巨大な敵を見据えながら、翡翠は決意の言葉を吐き出した。
隣に立つマナ・ブライト(ka4268)も同様だ。
「街への被害が迫っている以上、ここで仕留めなくては……時間との戦いですね」
彼女も翡翠同様に負傷していたが、回復を後回しにし、今はホーリーライトを放つ。
「光の裁きを!」
マナは攻撃を終え、前にいるファリスをちらりと見た。自分の傷は後回しにしているが、アースバレットを使用できる彼女が傷ついたら即座に癒しの力を使うつもりであった。
同じく後衛にいるクレール(ka0586)はスライムの挙動をじっと見つめている。
(あいつの飛び道具、粘体分離……つまり、着弾の瞬間にそこを分離されると、被害を小さくされる……なら、狙いは……分離直後、本体側の分離点!)
ちょうどその時、スライムが周囲に体の一部を撒き散らす。瞬間、クレールは機杖「ピュアホワイト」を突きつけ、叫んだ。
「連続分離しなければ! 私の全力の機導砲でぇっ!! くたばれぇぇぇーーーっ!!」
杖の先端から一条の光が迸る。それは見事に先程スライムが粘液を吐き出した場所へと命中した。
馬を駆ってスライムの側を駆けつつ、絶妙の間合いでバスタードソード「フォルティス」を振っていたジャック・エルギン(ka1522)。彼は白い光がスライムに命中したとき、にやりと笑った。
「クレールか! スライムの気は引いてやっからガンガン撃ってけよ!」
友人の名を呼びながら、彼もクレール達後衛組を支援すべく、新たに剣を振り下ろし、スライムへ斬撃を見舞った。
●
「わぁ、ネバネバするー! うう、気持ち悪い……」
飛んできた粘体を一部受けてしまったピオス。不快感を覚えながらもめげずにマジックアローを本体に向けて撃ち返す。
ペルもその隣で集中し、ひたすらにマジックアローを放ち続けている。
(最後まで倒れず攻撃を放ち続ける、それがボクの目標です)
彼はワンドを振りかざし、次の光の矢を射出する準備に入る。巨大な青いスライムを見据えながら。
「時間もあんまりないみたいだし一気にいくわよ~」
リーラ・ウルズアイ(ka4343)もアースバレットを撃つために精神を集中させる。敵の弱点である土属性による攻撃をひたすらに繰り返せば、あの巨大な姿もやがて崩れ去るはずだ。
(被害が出る前に片付けないと)
リーラがそう決意している隣で、とある二人組のやりあう声がする。
「ちょ、レイナちゃん……っ! 何かちょっと強くなった気分なんですけどぉ」
レイナにあらかじめ攻性強化をかけてもらい、さらに弱点属性だったアースバレットが思った以上の効果をあげているのを見て、はるなは自信満々の表情だ。
そんなはるなの側には不機嫌そうなレイナがいた。レイナは先程敵に近寄り、わざわざナックルで殴りつけてきたのだが……。
「全然攻撃効かないじゃないの! 何アイツ! あーぶよぶよしてて気持ち悪いっ!! もう自分では攻撃しないっ!」
レイナはぷいっとそっぽを向く。
「魔法の方が効いてるみたいだから、はるな、頑張りなさいよ!! 私も、機導砲で援護するわっ」
それでも一応後方からの援護は続けるつもりらしい、レイナであった。
●
「うおおおおお!!」
リューは斧を手に叫び、渾身撃による一撃を上段から振り下ろす。アックス「アルディナ」は土属性だ。先程エヴァンスが戦場に周知したのとほぼ同時に、彼も敵の弱点に気付き、仲間達に知らせる為に声を張り上げていた。
今は率先して敵の懐に飛び込み、得物を自在に操る。
「消し飛ばしてやるよ!」
彼の一撃は確かに重い。しかし、それでもスライムの動きが鈍る様子はまだない。
その近くでボルディアも斧を振るい、スライムの巨体の端を叩き切っていた。本体と分離したその粘体へと、彼女はさらに一撃を見舞う。
「塵も積もれば山となるの逆だなぁ。山も削れば塵になる、ってか?」
言葉通り、少しずつこの青い山を削っていくつもりらしい。彼女の独白は、偶然にも右翼で戦うアルトが先刻呟いた言葉と似ていた。
「しかし雑魔退治というより山の掘削工事だな、こりゃ」
彼女は迫る巨体に怒涛の連打を繰り出す。もちろんボルディアもさきほどからスライムの攻撃に巻き込まれているのだが、まだまだ武器を振るう速度は落ちていない。
ヴォーイもひたすら斧を振るい続けている。実は、ヴォーイが手にしているのはリューと同じアックス「アルディナ」であった。つまり、土属性を帯びている。なので、彼は物理で殴っていたわけではなく、スライムに対して効果てきめんの属性攻撃を行っていたこととなる。とはいえヴォーイが取る行動はいずれにしろ変わらなかったであろう。
彼はあまり防具を身につけておらず、地を駆けるものによる身のこなしの上昇に何度か助けられていたが、もちろんそれにも限度がある。しかし、ヴォーイの傷が無視できないレベルになると、即座に彼の後ろから声が聞こえた。
「癒しの加護を……」
後衛にいるマナが前衛のメンバーを援護するために適宜ヒールを行使していた。翡翠もその隣で、負傷の目立ち始めた他の戦士達へと回復魔法を飛ばしている。
二人の支援効果もあり、前衛達はまだまだ戦うことが可能だ。
そこに粘液が飛んでくるが、ミュオがその射線に入ってそれを受けた。彼はそのままスライムの下に飛び込み、大剣を一閃させる。ミュオの持つグレートソード「エッケザックス」も土属性を持つ武器である。
「うーん。あんまり大きいからどのくらい効いてるのか分からないですね。ちょっと困っちゃいます」
属性攻撃をもってしてもその傷はやはり少しずつ再生してしまう。巨大さも相まって、敵の生命力があとどれくらいあるのか、ミュオには見当もつかなかった。
「ったく、顔も声もねーんじゃ効いてんのか分かんねーな!」
ジャックも剣を振るいながら頭上の敵を見上げ、ミュオと同じ感想を述べた。
ゾファルは、分裂しないなら半分にすれば死ぬって事さ。とうそぶきながらギガースアックスを叩きつける。踏込と渾身撃を併用した全力の攻撃は軟体を大きくへこませた。
「……兄様姉様が敵の気を引いてくれている間に一撃でも多く撃ち込むの!」
ファリスは前衛達の戦いぶりに報いるため、後方から魔法を飛ばし続けている。きっと効果はあるはず。そう信じて。
●
青い山は幾度目かの攻撃をハンター達へと浴びせる。何人かがその攻撃を受け、歯を食いしばる。戦いが始まってまだ時間はそうは経っていない。しかし、ハンター達の顔にあせりが生まれ始めていた。
スライムの進行はいまだ止まらず、ハンター達はじりじりと街の方へと押し込まれているのだ。前衛、後衛ともに移動しながら攻撃を継続する。
やや敵から距離を取って援護に努め、味方とスライムの状況を監視していたウィンスは、無理に隊形を維持することが危険につながりつつあることに気付いた。もう、クルセイダーたちの回復魔法も底を突きつつある。
「陣形が乱れつつあるぞ! 無理をするな! いざとなったら陣形が崩れたって構わない!」
彼はそう叫びつつ、消耗の激しい味方と入れ替わる形でスライムの懐に飛び込んだ。踏み込みつつ、渾身撃による斬撃を上段から見舞う。
「もっと強く、もっと速く。まだまだこんなものじゃない。銃弾にも負けない、あの青い巨人にも負けない。重く鋭い一撃を手に入れる為こいつを倒す。でかい、しぶとい? 上等だ!」
ウィンスは脳裏に全く別の敵の姿を思い描きながら、ひたすらに刃を叩き込む。
「クリスタロス! ハンマーッ!」
隣で屋外もハンマーを思い切り打ち込んだ。水属性を持つ武器は威力を殺され、まるで餅つきのように得物にスライムの体が絡むが、それを分離させるかのような勢いで激しく振り回す。
兵庫はマテリアルヒーリングで己の傷を癒し、戦いを継続する。片鎌槍の穂先がスライムの肉片を切り飛ばした。
ハンター達の努力をあざ笑うかのようにスライムは体を震わせ、またも彼らを攻撃する。街はもう近い。スライムが放つ粘体はすでに何度か街の外壁を打っていた。紋次郎の防御障壁は使用回数が尽きている。彼は街を守るために機導砲で吐き出された粘液を撃った。光線に貫かれ、青い体液は分解しながら地面へと落下する。
スライムが伸ばした触手にクィーロが激しく打たれた。片膝ついた彼を飲み込もうとするかのように、その全身に青い粘体が纏わり付く。
近くにいたアルトとイレスは狙いを定め、彼を巻き込まないようにそれぞれ武器を一閃させる。彼女達の攻撃は見事に、クィーロを拘束しつつあったスライムの触手を切り裂いた。
クィーロの傷は浅くない。しかし、彼の口元にはなぜか笑みが浮かんでいた。
「楽しくなってきた。あぁ……いいぜ……いいぜ……もっと殺し合おうぜ!」
後ろに下がることもなく、クィーロは刃を敵に向かって振るう。彼の太刀はスライムを深く抉った。
しかし、やはり敵の動きは止まらない。ハンター達の体力と疲労も限界に近づきつつある。
その時、戦場に歌声が響き渡った。Uiscaが仲間を鼓舞せんと、喉を震わせている。
彼女が歌うのは魔法でもなんでもない、ただの歌にすぎない。しかし、それがハンター達にいくばくかの力を与えた可能性は否定できない。ハンター達は新たにそれぞれの武器を握り締めた。
「止まれー! ショック!!」
スライムの根元で青白い雷撃が迸った。ざくろがエレクトリックショックを使ったのだ。しかし、スライムの動きは止まらない。
「なら、ダブルショック! トリプルショックだ!」
ざくろがエレクトリックショックを再び放つ。それに呼応するかのように、まだスキルが行使できるアルケミスト達も彼と一緒にタイミングを合わせて雷撃を食らわせた。機導砲での射撃を行っていた真吾もその中に加わっている。
スライムに飲み込まれることを恐れていたかなえも、今は距離を詰め、手に雷撃を生み出している。
「行かせません……! ここから先は、絶対に!」
行動阻害効果か、それとも別の要因か、巨大なスライムの動きがわずかに鈍る。
「さあ、このまま一気に決めちまうぜ!」
好機と見たレイオスのバトルライフルが火を吹く。戦士達も、まだ戦える者は得物を手に立ち向かった。
バルバロスはひたすらクラッシュブロウを叩きつけ、全身油まみれの星輝も背水不退の狂刃乱舞で攻立てる。
雲雀とリリティアの二人もスキルは尽きていたが、絶妙のコンビネーションで立ち向かう。
茜は最後の一発である機導砲を撃ち、アレグラも魔導拳銃をぶっぱなした。アーリフラヴィアのファイアアローが赤く迸り、青い魔物の表面を抉り弾ける。
まるごとうさぎに身を包む麗美は、友人であるUiscaをかばうように前に立ち、魔導銃のトリガーを引き続ける。
散発的に飛んでくる粘液の内の一つがリーラを襲う。しかし、ぽえむが盾でそれを防いだ。
「今のうちに……やっちゃって!」
仲間に叫びつつ、ぽえむもホーリーライトを使う準備に入る。リーラも庇ってくれた彼女に謝意を示しながら、自分は敵を倒すべく魔法を練り上げ、解き放った。
もはやエンフォーサーやマギステルといったクラスも、前衛後衛の区別もなかった。皆、全ての武器を、スキルを、持てるものをすべて振り絞り、巨大な敵に立ち向かった。
一瞬のような、もしくは永遠のような時間が続き、やがて。
スライムは動きを止めた。
ハンター達はそれに気付かず、ひたすらに攻撃を続ける。スライムは大きくぶるりと震えた。ハンターの内の幾人からは敵の異常に気付き、スライムを見上げた。
その瞬間。
スライムは突如爆発した。
いや、正確に言うと爆発四散すると同時にあたりに粘液を撒き散らしたのである。突然の豪雨のように、青い物体はハンター達へと降り注ぐ。
そこかしこで悲鳴が巻き起こる。ある者は頭からどろどろの粘液を被り、ある者は咄嗟に盾を構えて防ぐ。
「危ない!」
そんな中、ルーエルはレインを庇うために彼女を突き飛ばした。幸い、といっても言いのかどうか、レインの代わりにルーエルが粘液にまみれてしまう。
地面に倒れる二人。レインはそのまま身を起こさず、間近にいるルーエルを見ながら呟いた。
「……幼馴染みがスライムまみれってのもオツなものねー」
「え……レインお姉さん、なんで嬉しそうなの?」
赤面しながらの、ルーエルの言葉。
そんな中、街の方から喚声が沸く。慌てて立ち上がるルーエル。まだ事態を把握できていないハンター達も皆、街の方を見た。
城壁の上からこちらを見つめる人々。
街の門を開け、彼らの下へと駆け寄ってくる男女。
ハンター達は彼らの笑顔を見、喝采を聞いて、ようやく巨大な敵との戦いが終わったことを知ったのだった。
●
戦いは終わった。街の人々は老若男女、彼らの下へ集まっている。
だというのに、ハンター達はその場に座り込んだり倒れたりしたまま動こうとしない。
皆、疲労困憊で立ち上がる気力もないのだ。
全てが終わり、フローレンスがまず考えたのはお風呂に入りたいということだった。
「むー、べとべとで気持ち悪いー。帰ったらお風呂入らないといけないのだー」
ネフィリアも彼女と同じことを考え、口にだした。というか、この場でそれを考えなかった者はほとんどいないであろう。ほぼ全員、スライムの粘液のせいで体が汚れてしまっている。
「一緒にお風呂入ろうね……」
ブリスも二人の姉に囁いた。
「あー、やっと終わった! しんど……」
雲雀も力尽きたかのようにばったりと倒れたままだ。隣にいる友人の方を振り向き、声をかける。
「なー、リリティア。一緒に水浴びにでもいかねー?」
リリティアも同じことを考えていたようでその提案に頷き、街の住人に水浴びができる川などがないかどうかを尋ねた。
「やれやれ、もう疲れて動けねーぜ」
メンバーの中でも負傷が激しかったヴォーイ。
「おたくらもお疲れさん」
周囲にいるハンター達に手をあげてその健闘を讃え、彼は一休みしたいのかごろりと横になる。
翡翠は仲間達を見回し、力の合わさったハンター達の凄さを改めて感じていた。あの山のように巨大なスライム。それを、まさか本当に倒してしまうとは!
屋外も思うところがあったのか、今回の戦法について近くのハンターと話しこんでいる。どうやら今後の参考にしたいようだ。
戦闘中、どちらかというと攻撃寄りに動いていたセリスが、まだ使用可能だったヒールを仲間にかけている。側には、彼らを歓待するパーティーを開きたい、と言う街の人がいるが、セリスは少し考えて「紅茶も準備してくれる?」とお願いした。どうやら紅茶に目がないらしい。
「わふっ、スライムさん見てたらなんだかゼリーが食べたくなっちゃいました」
パーティーと聞き、ミュオがそんな言葉を漏らす。近くで座っていたピオスも最初にスライムを見た時、あれが全部食べ物だったらいいのにと呟いていたが、粘液まみれとなった今でも同じことを考えたかどうかは定かではない。
バルバロスは負傷した体を癒すため、自己治癒を使用していた。防御を省みない戦い方をしていたこともあり、その傷はまだ残っているが、動くのに支障はなさそうだ。
「私が出来るのは簡単な処置ですから、覚醒者だから大丈夫と判断せずに後でお医者様の診断を受けてくださいね」
ヒールを全て使ってしまったマナは、残る負傷者に応急手当をして回っていた。
しばらく緩やかな時間が流れた後、ハンター達はそれぞれ立ち上がり始めた。先に風呂や水浴びを希望する者がほとんどだったが、街の住人の歓待を受けない理由はない。彼らの顔は戦いを終えた満足感でいっぱいだった。
そんな中、紋次郎は座り込んだまま一人浮かない顔をしていた。彼は街の事後処理は任せ、自分はスライムの移動跡を辿って元凶が無いか、調査に向かおうと考えていたのである。
「……あんな奴を狙って創り出せたら……とんでもない驚異だ、元を絶つ必要がある」
スライムが進行してきた道筋ははっきりとしている。あの巨大な存在が生まれた場所に辿りつくことが出来る可能性は十分にあった。もちろん、その先に何が待つのかはわからないが。
そう決意する紋次郎の下に一人のハンターがやってきた。動かない彼に手を差し伸べ、笑みを浮かべる。
紋次郎も笑ってその手を取った。
なんであれ、今回の戦いには勝利したのだ。しばらくはこの余韻に浸ってもいいだろう。
彼は立ち上がり、仲間達と共に街の中へと入っていった。
危機から解放され、住人達の喝采と笑顔で溢れるシグニードの街へと。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 榊 兵庫(ka0010) 人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/04/03 02:11:29 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/31 23:55:24 |