ゲスト
(ka0000)
美容のために
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/02 12:00
- 完成日
- 2015/04/05 18:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ヴィッド・スプーレンという名を、魔術師のマーナは聞いたことあった。今住む町に関連する貴族の夫人、という認識であり、特に縁があるようには思えなかった。
ヴィッドが持つ趣味に合うわけでもなく、貴族でもないマーナが出会うときは厄介な事件な時だろうとも。
この日、マーナは久しぶりに帰宅しようと転移門をくぐった、留守番している弟子用に土産を2つも買って。ハンターズソサエティの支部を笑顔で出た直後、ヴィッドの使者に遭遇した。
その使者が言うには「奥さまが火急の用があるとのこと」だったため、話だけでも聞いてやろうと向かった。土産がかさばる上に、1つは動くから面倒くさいのだが、平和な生活のためには仕方がないと割り切った。
そして、スプーレン家の居間にてヴィッドと対面している。
(それにしても……ここの男たちはムキムキ)
マーナは困惑を通り越して、平静になっていた。
使者も長身で筋肉質な体型で、上着など不要とばかりにシャツだけだった。現在、ヴィッドの後ろに控える執事っぽい人もやはり筋肉質な男性だ。
マーナに茶を持ってきた侍女は、そこらへんにいそうな少女だった。
「単刀直入に問うわ、あなたはどんな化粧品を使っていらっしゃるの?」
ソファーに難儀そうに座る、鏡餅みたいな女性であるヴィッドが尋ねる。
「化粧水とオイルじゃな」
隠す必要もない。ただ、呼ばれた理由がはっきりとまだしていない。
「それらはどこで購入していらっしゃるの?」
「基材を業者からついでに購入しておる」
「キザイ?」
「材料じゃな。魔術の徒としていろいろ研究するゆえ」
「教えてちょうだい! どんな材料で、どういう風に作るの!」
ヴィッドはたゆたゆと体を揺らし、身を乗り出す。
マーナは彼女をよく見る。泣きはらしたように瞼が赤くなっているのに気付いた。不幸でもあったのか、政治がらみの何かなのか?
(いや、政治がらみで化粧品はなかろう。いや、何かの隠語か?)
マーナは考えるが、すぐに自分の考えを否定する。
御年48で美容大好きと噂に聞くヴィッドにそちらは関係ないだろう。
「わしが呼ばれた火急の用とは、化粧品を作れかえ?」
「う、そうですわね。そうよね……つらいけれどきちんと話さないとならないわね。セバス、説明を」
後ろに控えていたムキムキの男性セバスが咳払い一つ後説明を始めた。
「奥方様の美しくしみ一つなく、滑らかで弾力性があるお肌の事でございます。奥方様が昨日の朝起きられた後、いつものように確認されていた所、肌の荒れが発見され、吹き出物が一つできておりました。すでに大事をとり、医師にも診せましたが、触らなければ良いという一言で終わってしまいました。その後の奥方様のお嘆きようと言ったら……というわけで、美魔女として名高いマーナ殿のお知恵を拝借しようと言うことになりました」
マーナは慇懃な言葉の長文を聞き、頭を抱える。
(吹き出物くらいで騒ぐな! そもそも美魔女ってどうなんじゃ! 魔術師としての腕はまったく関係ないではないか!)
心の中で絶叫しているうちに、マーナは落ち着いて来た。今度は、ここに連れてこられたばかばかしさに腹が立ってくる。
角を立てず、何か面白くできないかと考えた。
閃いた瞬間、内心で笑う。
「分かった。わしができる限りのことを教えよう」
マーナは神妙な顔で、いかにも同情しているという顔を作る努力をする。
「ほ、本当」
「ああ、まあ、教えることは教えるがの、後はあなた次第じゃ」
「わ、解りましたわ」
「ハンガリー王妃の水またの名を若返りの水の作り方を教えよう」
ヴィッドはごくりと唾を飲み込む。
「若返り……」
「まあ、伝承があっての。リアルブルーの話でな、ハンガリーという国で王妃が治めていたとき、高齢だったこともあり体の節々が痛む病にかかっておったそうじゃ。それを見かねた修道士がの、ローズマリーを中心に使った薬を作って王妃に贈ったそうじゃ」
「それで?」
「その薬を塗ったところ、たちどころに痛みは消え、肌は若返り、なんと隣国の若い王子が求婚しにくるほど若返ったというのじゃ」
「ほ、欲しいわ」
マーナが心のなかで「あてにならん伝承だがの」と言っているのはもちろん伝わらない。
「まあ、本当かどうかはともかく、完全なレシピはわしも持っておらぬ。主の様子を見て、ローズマリーから抽出したエキスを混ぜて調合しよう。
マーナが材料を述べると、セバスがメモを取っていく。
大仰に言ったわりには大したことがないために、ヴィッドはつまらなそうな顔になっている。
「これが重要なんじゃが、水はアニマニュの泉という我が町の近くにある泉から、使う本人がとってこないとならないのじゃ」
マーナはにこりと笑う。
「な、なんですって!」
「そう、あなたがとりに行かねばならぬのじゃ」
「う、仕方がありませんね」
「わしの家が近くだから、採りに行ったら他の材料と共によればよい。しばらく、家にとどまっておるのでの」
「あなたの好意は身に染みました。すぐに手配します」
ヴィッドは護衛のためにハンターを至急雇うよう指示した。
マーナは弟子が待つ家に急いだ。小さい嘘をついたが、それをヴィッドが実践するのか、見届ける人員がいないことに気付いた。
「ふむ、ハンター雇ってものぉ。土産を餌にあやつを動かした場合のリスクも考えると……」
袋の中から土産用のフェレットが脱出して顔をのぞかせている。フェレットの顔が弟子の抜けた顔に見えてきて、自分で林に入って監視するしかないかと溜息を漏らした。
ヴィッドが持つ趣味に合うわけでもなく、貴族でもないマーナが出会うときは厄介な事件な時だろうとも。
この日、マーナは久しぶりに帰宅しようと転移門をくぐった、留守番している弟子用に土産を2つも買って。ハンターズソサエティの支部を笑顔で出た直後、ヴィッドの使者に遭遇した。
その使者が言うには「奥さまが火急の用があるとのこと」だったため、話だけでも聞いてやろうと向かった。土産がかさばる上に、1つは動くから面倒くさいのだが、平和な生活のためには仕方がないと割り切った。
そして、スプーレン家の居間にてヴィッドと対面している。
(それにしても……ここの男たちはムキムキ)
マーナは困惑を通り越して、平静になっていた。
使者も長身で筋肉質な体型で、上着など不要とばかりにシャツだけだった。現在、ヴィッドの後ろに控える執事っぽい人もやはり筋肉質な男性だ。
マーナに茶を持ってきた侍女は、そこらへんにいそうな少女だった。
「単刀直入に問うわ、あなたはどんな化粧品を使っていらっしゃるの?」
ソファーに難儀そうに座る、鏡餅みたいな女性であるヴィッドが尋ねる。
「化粧水とオイルじゃな」
隠す必要もない。ただ、呼ばれた理由がはっきりとまだしていない。
「それらはどこで購入していらっしゃるの?」
「基材を業者からついでに購入しておる」
「キザイ?」
「材料じゃな。魔術の徒としていろいろ研究するゆえ」
「教えてちょうだい! どんな材料で、どういう風に作るの!」
ヴィッドはたゆたゆと体を揺らし、身を乗り出す。
マーナは彼女をよく見る。泣きはらしたように瞼が赤くなっているのに気付いた。不幸でもあったのか、政治がらみの何かなのか?
(いや、政治がらみで化粧品はなかろう。いや、何かの隠語か?)
マーナは考えるが、すぐに自分の考えを否定する。
御年48で美容大好きと噂に聞くヴィッドにそちらは関係ないだろう。
「わしが呼ばれた火急の用とは、化粧品を作れかえ?」
「う、そうですわね。そうよね……つらいけれどきちんと話さないとならないわね。セバス、説明を」
後ろに控えていたムキムキの男性セバスが咳払い一つ後説明を始めた。
「奥方様の美しくしみ一つなく、滑らかで弾力性があるお肌の事でございます。奥方様が昨日の朝起きられた後、いつものように確認されていた所、肌の荒れが発見され、吹き出物が一つできておりました。すでに大事をとり、医師にも診せましたが、触らなければ良いという一言で終わってしまいました。その後の奥方様のお嘆きようと言ったら……というわけで、美魔女として名高いマーナ殿のお知恵を拝借しようと言うことになりました」
マーナは慇懃な言葉の長文を聞き、頭を抱える。
(吹き出物くらいで騒ぐな! そもそも美魔女ってどうなんじゃ! 魔術師としての腕はまったく関係ないではないか!)
心の中で絶叫しているうちに、マーナは落ち着いて来た。今度は、ここに連れてこられたばかばかしさに腹が立ってくる。
角を立てず、何か面白くできないかと考えた。
閃いた瞬間、内心で笑う。
「分かった。わしができる限りのことを教えよう」
マーナは神妙な顔で、いかにも同情しているという顔を作る努力をする。
「ほ、本当」
「ああ、まあ、教えることは教えるがの、後はあなた次第じゃ」
「わ、解りましたわ」
「ハンガリー王妃の水またの名を若返りの水の作り方を教えよう」
ヴィッドはごくりと唾を飲み込む。
「若返り……」
「まあ、伝承があっての。リアルブルーの話でな、ハンガリーという国で王妃が治めていたとき、高齢だったこともあり体の節々が痛む病にかかっておったそうじゃ。それを見かねた修道士がの、ローズマリーを中心に使った薬を作って王妃に贈ったそうじゃ」
「それで?」
「その薬を塗ったところ、たちどころに痛みは消え、肌は若返り、なんと隣国の若い王子が求婚しにくるほど若返ったというのじゃ」
「ほ、欲しいわ」
マーナが心のなかで「あてにならん伝承だがの」と言っているのはもちろん伝わらない。
「まあ、本当かどうかはともかく、完全なレシピはわしも持っておらぬ。主の様子を見て、ローズマリーから抽出したエキスを混ぜて調合しよう。
マーナが材料を述べると、セバスがメモを取っていく。
大仰に言ったわりには大したことがないために、ヴィッドはつまらなそうな顔になっている。
「これが重要なんじゃが、水はアニマニュの泉という我が町の近くにある泉から、使う本人がとってこないとならないのじゃ」
マーナはにこりと笑う。
「な、なんですって!」
「そう、あなたがとりに行かねばならぬのじゃ」
「う、仕方がありませんね」
「わしの家が近くだから、採りに行ったら他の材料と共によればよい。しばらく、家にとどまっておるのでの」
「あなたの好意は身に染みました。すぐに手配します」
ヴィッドは護衛のためにハンターを至急雇うよう指示した。
マーナは弟子が待つ家に急いだ。小さい嘘をついたが、それをヴィッドが実践するのか、見届ける人員がいないことに気付いた。
「ふむ、ハンター雇ってものぉ。土産を餌にあやつを動かした場合のリスクも考えると……」
袋の中から土産用のフェレットが脱出して顔をのぞかせている。フェレットの顔が弟子の抜けた顔に見えてきて、自分で林に入って監視するしかないかと溜息を漏らした。
リプレイ本文
●林の外
アニマニュの泉が本当にあるのか。
ペル・ツェ(ka4435)は林に行く途中、町に寄って情報を集めるが、人々は首を傾げ質問してくる状況で、エクラ教の司祭に聞いてみればとなった。
教会に行くと穏やかそうな司祭が出迎えてくれた。
「アニマニュの泉ですか。良くご存知ですね。隣に住んでいる魔術師の弟子が付けた名前ですよ」
「なぜ、アニマニュという名前なんですか?」
司祭はちょっと憐憫のある目になる。
「もし私が言うなら、アニマルの泉です」
「……発音」
泉に動物が集まるからそう呼んだそうだ。
柏部 狭綾(ka2697)はこの依頼に関わる魔術師が、人をからかい遊ぶ良くない人間に思えて仕方がない。何せ、依頼人の婦人を見ると、行動的な方には見えない。
「今回は奥様の手伝いをさせていただきます、よろしくお願いします」
狭綾が丁寧に頭をさげるとヴィッドはうなずく。
「ところで、奥様みたいな誰しもの目を奪うような方がこのようなところに足を運ばれるなんて、どうされたのですか?」
恭しく言うと「実は」とヴィッドは困ったように告げる。
「化粧水を作るのに水を自分で取りに行かないというのですよ」
つまり、真偽は分からぬが自分で動こうと努力した結果らしい。
狭綾は何か仕掛けられているかもしれないと十分に警戒することを心に決めた。
Non=Bee(ka1604)は集合場所に来た瞬間、駕籠係の男たちに目が釘つけになる。
「なによすごく……あたし好みの厚い胸板のイイ男じゃなぁい!」
いくつもハートが飛ぶような独り言が漏れる。駕籠係は従者然と待機していてNon=Beeの方をちらりとも見ない。それはそれで硬派に感じられ、振り向かせるための楽しみが増える。
「マダム、ご機嫌いかがかしら。リアルブルーの美の妙薬なんてステキ。作る時もご一緒させていただきたいわ」
「……わたくしは寛大なので最後まで付きあわせてあげましょう」
ヴィッドはNon=Beeを観察後、美に対する意欲は同類と認めた。
「レディヴィッド、霧島エストレラ(ka4261)と言います。エストと呼んでやって下さい。本日は宜しくお願いしますね」
恭しくお辞儀し、手を取るエストラに鷹揚にうなずくヴィッド。
「今日は素敵な方達と一緒でココロはずむなぁ。ハンターの皆さんもきれいだし、レディヴィッドの美に対する気持ちもきれい。楽しい一日になりそうだな」
エストレラは満面の笑みで同道の面々を見る。
「フェリル・L・サルバ(ka4516)だ。奥方、そんなにすごい化粧品なのか?」
フェリルは問われたヴィッドは真顔でうなずく。
「もちろん、まだ実際見てはいないのだけど。若返りの薬と言われたのだから、きっとすごいに違いないわ」
彼女が言っていることが本当ならすごい物が、そんなに都合のいい物があるのかどうかは不明だ。
「何時までも美しくありたい気持ちは、やっぱりどこかにありますよね。私だって……まあ……それでも、美しく年齢を重ねたいと思いますし」
セシル・ディフィール(ka4073)はヴィッドにあいさつする。
セシルはヴィッドを見て、吹き出物の原因についてあれこれ考える。肌の手入れの事だけではないと分析するが、どうやって告げるかに頭を悩ます。
「ボクが最後だね……。アニマニュの泉って確かにあるそうですよ。エクラ教の司祭が嘘ついているようではなかったですし。魔術師の弟子が名づけたって」
やってきたペルの視線は、駕籠係の筋肉に向かった、うらやましいと。
●泉へ
さわやかな風、優しい日差し。
林の中は歩きやすく、護衛などいらないという雰囲気。
ハンターたちは用心ため駕籠を囲むように歩き進める。
林は入ったところはまだ道幅もあり進みやすいが、進むにつれて幅は細くなり、道が悪くなる。道両脇の木々も歩く邪魔をするように手を伸ばす。
フェリルが見ていると駕籠係が大変そうだ。
「なあ、歩いた方がいいんじゃないか? 休みながらでも良いんだから」
フェリルの言葉に沈黙が返ってくる。
「そうですよ、休み休みでものんびりいけばいいんですよ」
泉が逃げるわけではないし、とペルは思う。
「ボクがエスコートするよ。レディヴィッド、歩いても気持ちいいですよ」
エストレラが駕籠の側で恭しく手を差し出す。
しばらく間があったが、ヴィッドは駕籠を下すように指示した。
「あとどのくらいなの?」
正確なことを応えられるヒトはいない。
「お昼にはたどり着いて、今日中に帰れると思います」
セシルの予定と推測を含めた抽象的な答えが正当だとハンターたちは思った。
「ところでどんな化粧水をつかっていらっしゃるの」
Non=Beeは興味もあるため、自然に話しかける。
ヴィッドを退屈させないということも重要であり、歩いてもらわないといけない。
「魔女ちゃんってそんなに美人なの」
「わたくしより年上と聞きましたが、見た目は変わらないかそれ以下ですのよ」
まだ対面していない魔術師についても尋ねてみた。
ヴィッドはかろうじて歩いてくれるが、よく立ち止まる。そして、何度か目には座り込んだ。
「ちょっとあとどのくらいなのです?」
イラッとした声が響く。
「まあ、行ってみないとあたしたちも初めての所だし」
「誰か代わりに……」
「それだとだめなんでしょ?」
「ま、まあそうね」
Non=Beeに促され、ヴィッドはしぶしぶ歩き始める。
エストレラはヴィッドの手を取り、優しくエスコートしていると目的地まであと一歩になる。
「足元、注意してくださいね」
ぬかるみを前にNon=Beeが着物の袖をたすき掛けにし、歩きやすいように裾を上げる。ちらりと見える脚線美、駕籠係へのアピールもあるが彼らは仕事で忙しいようだ。
「待って!」
狭綾はこれまで黙々と警戒しており、素早く弓を引いた。
他の者たちも、武器を構える。
狭綾が撃ったあたりをカサカサと何かが移動する音がする。
「あれ? 人?」
エストレラは人影に気付いたようである。
狭綾はしっかり見ており、魔術師に会っていないが、本人か関係者と認識した。
「ごめんなさい。雑魔かと思ったのだけど……普通の動物だったみたい」
確信がなかったエストレラは特に何も言わないし、他の者たちは気付いていないから納得した。
水場が近いため、足元がぬかるんでくる。
「服や靴が汚れても、レディヴィッドの美しさは、変わりませんから」
エストレラがしっかりと彼女の手を取り歩く。
「そうだぞ。奥方がきちんと約束守って自分で採りに行く。これで美しくならないわけがなく、楽しみですねぇ」
フェリルが天使の如く甘い言葉を掛ける。
「筋肉の衰えは即老化につながるわ。きれいになりたいなら運動、相応の努力はしないとならないわぁ」
「そうです、健康のためにも歩くことに意義があります!」
Non=Beeとセシルが励ます。
ヴィッドは最後の所で歩くのに必死だ。
最後の難関というか、泉があるだろう所に動物たちが群がっている。
「な、なによ、動物のくせに」
ヴィッドの歩いた事での疲労や不機嫌が動物に怒りとなる。
狭綾とペルが泉に近づくと、動物たちは逃げて行った。
泉は湧き出るわけではなく、岩を伝って流れる為、その注ぎ口に器を置く。
「や、やりましたわ」
ヴィッドは微笑む。
「あたしも欲しいわ」
ヴィッドが汲み終わった後、休憩も含め水をくみ飲む。
ハンターたちの休息にこの水は、冷たく、甘くおいしかった。
●魔術師
目的が半分達成され、ヴィッドは黙々と歩き、駕籠に途中からは乗った。
セシルは「ワイルドストロベリーもいいらしいですよ」と言いながら、途中で見つけたのを採取する。まだ実はないけれど、葉がある。
狭綾は帰りも念のために警戒はしていたが、林の中に自分たち以外の気配は感じられなかった。
そして、林を出たところに、年齢不詳の人間の女が一人立っていた。
「マーナ殿」
駕籠に乗っているヴィッドが声を掛けると、女はお辞儀する。
「これからあなたのご自宅にうかがうつもりだったのだけど」
「そこにわしの研究室があるからそこでしようと思う」
林の入口近くにある建物を指さした。
「まさか、この林あんたの所有物?」
フェリルの質問に、マーナは「町の共有財産」と答えた。
魔術師の研究室などそうそう立ち入ることもないため、緊張や好奇心を持って中に入る。
集会場と言われても納得する何もない部屋だ、大きなテーブルと三脚の椅子に流し。
「すまぬの、椅子は少ないから適当に座ってくれ」
テーブルの前にヴィッドが椅子に座り、ハンターたちは立ったまま集まる。
「なんか教師になったようじゃの」
マーナが笑う。
「喉潤すのにこれ使いませんか?」
セシルは葉と水を手渡した。
「水はありがたく使おう。葉に関しては、ひとまずお預けじゃ」
「ワイルドストロベリーは美容に効果あるって聞いたことがあります」
「生の葉がダメなのじゃ。毒素があっての乾燥させねばならぬ」
「なるほど」
マーナはテキパキと動き、実験用のランプに火を点け水を入れたビーカーを置いた。
「ところで魔女ちゃん、どんな風に作るの?」
目が輝くNoo=Beeはテーブルに身を乗り出す。
「そろそろ弟子のルゥルが薬草園から材料を持ってくるはず」
玄関の扉が開く音がして、小さい女の子が入ってくる。新品のユグディラのキグルミを着て、頭の上にパルムと肩にフェレットを乗せている。
「薬草園手伝ってきました~。先生が言っていた、ローズマリーもらってきましたよ」
弟子が重そうに籠を持っているため、エストレラは素早く寄ると手伝ってテーブルに置く。
「ありがとうです」
「いえ、大したことはしていませんよ」
弟子はお礼を言って、マーナの横に立つ。
マーナは籠から瓶をいくつか取り出す。
「今回はまず、ローズ水を使う。これはな、バラの精油を作る際にできる副産物じゃ。気軽に化粧水にも使える」
ビーカーに少し出すと、匂いを嗅がせた。
「ほんのりバラの香りがするわね」
「ちょっと生臭いかもしれないです」
Non=Beeとペルの感想にマーナはうなずく。
「どちらも正解じゃ。匂いの感覚なんて千差万別」
ルゥルが小瓶を取り出して並べる。
「チンキ剤だが……アルコール類にハーブを付けこんで成分を出したものじゃ。たとえば……この瓶に洗ったローズマリーを入れ、これを注ぎひたひたにする。そして、ふたを閉めて二週間じゃ。一日一回振るのも重要じゃ」
「なんでもできるんですか?」
セシルの問いにマーナはうなずく。
「これをアルコールではなくオイルでするのもいい。オイルに香りや植物の成分が溶け出す」
「ホホバオイルがいいと聞きました。美肌効果、皺の予防……とか」
「その通りじゃ。ただの、ほとんど流通しておらぬし、非常に高価じゃ。我らが住む地ではあまりとれぬからな」
ホホバは乾燥した気候に適しているため、クリムゾンウェスト育成が難しい。
「で、化粧水はどうするんです?」
ヴィッドに促されてマーナはローズ水に、チンキ剤を適宜入れてかき回した。
「完成じゃ」
マーナは使いやすいように瓶に詰めている、ハンターたちとヴィッドの沈黙を無視して。
「いや、ちょっと待ってくれ、その水は?」
フェリルの絶叫は全員の絶叫。
「使うぞ、もちろん、化粧水に」
一斉にほっと息を吐く。
マーナは新しいビーカーを取り出し、ヴィッドが汲んだ水を灌ぐ。そこに、チンキ剤を適宜、ラベンダー精油を数滴入れて混ぜた。
「できたぞ」
「早いですね」
「精油作るところからすれば時間かかるが、あるもの混ぜるだけならこんなモノぞ」
「……」
「一応考えてわしだって作っておる。今作ったのは荒れた肌を整えるような効果があるように」
そんなので美しくなるのだろうか?
「あなた、わたくしをからかっているの?」
「……う……」
「先生、うんと言おうとしました」
ぽそり、弟子がつぶやいた。近くにいたハンターは気付いたが黙っている。
「わしが口で言ったからと言って聞いてくれるとは思わないしの、極意を」
「何をです」
「楽しくなかったのかえ?」
「え?」
「水を採りに行く道中」
「ど、どろどろになって迷惑よ」
「そうか、それで終わりか」
マーナは溜息を洩らしハンターを見る。
「主らから見て、夫人はどうだったかの?」
「美に向かって懸命な姿は、手伝わないといけないと思ったわ」
Non=Beeの言葉に、ヴィッドははっとしたようだ。
「そうですよ、美しいものを求めるレディヴィッドは美しいかったですよ」
「一歩一歩前に踏み出すヴィッドさんは素敵です。これからも毎日、少しずつ!」
エストレアとセシルが続いた。
「……なぜ動かないとならないのですか」
「綺麗になりたいなら運動。相応の努力はしなければならないわぁ」
Non=Beeの言葉に続き、セシルがうなずく。
「体を動かすことで、体の中もきれいになるんです。食事だって重要で、野菜が多い方が体の中かきれいになれます」
これらの言葉にヴィッドは葛藤している様子だ。
「やりたくなければそれでいいんじゃないですか?」
ペルはビーカーの湯を見つつ、つぶやく。
マーナはポットにローズマリーを入れ、湯を注いだ。
「そやつらの言う通りぞ。動くことも、寝る事も美容の一環じゃ」
「動くの」
「そう、動くことじゃ。それ以上は言わん」
マーナはカップにハーブティーを注ぐ。
「まあ、動くことにしてもいいわ……ぽっちゃりがいいと言われるし、無理はしないわ」
「あー」
ヴィッドの消極的決心にフェリルは溜息とも何ともつかない声が出た。
「さて、ローズマリーの茶だ。すっとした飲み心地で気分が変わろうて」
さわやかな香りが立ち込める茶を勧め、煙に巻くような笑顔でマーナはしめた。
お茶を飲み一息ついたころ、マーナは狭綾に部屋の隅に呼ばれる。
「ヴィッドさんがあれなのは確かだけど、だまして、しかもそれで発生する苦労を他者に押し付けるのは感心しないわね。そのくらいの苦労は責任もって自分でかぶりなさいよ」
狭綾の言葉にマーナは笑う、怒っているのは分かっている様子だが。
「次に同じことがあったら、ぶっ飛ばすわよ?」
「怖い、怖い。今後は気を付けるようにしよう」
マーナに反省した様子はなく、狭綾は思わず矢をつがえそうになった。
アニマニュの泉が本当にあるのか。
ペル・ツェ(ka4435)は林に行く途中、町に寄って情報を集めるが、人々は首を傾げ質問してくる状況で、エクラ教の司祭に聞いてみればとなった。
教会に行くと穏やかそうな司祭が出迎えてくれた。
「アニマニュの泉ですか。良くご存知ですね。隣に住んでいる魔術師の弟子が付けた名前ですよ」
「なぜ、アニマニュという名前なんですか?」
司祭はちょっと憐憫のある目になる。
「もし私が言うなら、アニマルの泉です」
「……発音」
泉に動物が集まるからそう呼んだそうだ。
柏部 狭綾(ka2697)はこの依頼に関わる魔術師が、人をからかい遊ぶ良くない人間に思えて仕方がない。何せ、依頼人の婦人を見ると、行動的な方には見えない。
「今回は奥様の手伝いをさせていただきます、よろしくお願いします」
狭綾が丁寧に頭をさげるとヴィッドはうなずく。
「ところで、奥様みたいな誰しもの目を奪うような方がこのようなところに足を運ばれるなんて、どうされたのですか?」
恭しく言うと「実は」とヴィッドは困ったように告げる。
「化粧水を作るのに水を自分で取りに行かないというのですよ」
つまり、真偽は分からぬが自分で動こうと努力した結果らしい。
狭綾は何か仕掛けられているかもしれないと十分に警戒することを心に決めた。
Non=Bee(ka1604)は集合場所に来た瞬間、駕籠係の男たちに目が釘つけになる。
「なによすごく……あたし好みの厚い胸板のイイ男じゃなぁい!」
いくつもハートが飛ぶような独り言が漏れる。駕籠係は従者然と待機していてNon=Beeの方をちらりとも見ない。それはそれで硬派に感じられ、振り向かせるための楽しみが増える。
「マダム、ご機嫌いかがかしら。リアルブルーの美の妙薬なんてステキ。作る時もご一緒させていただきたいわ」
「……わたくしは寛大なので最後まで付きあわせてあげましょう」
ヴィッドはNon=Beeを観察後、美に対する意欲は同類と認めた。
「レディヴィッド、霧島エストレラ(ka4261)と言います。エストと呼んでやって下さい。本日は宜しくお願いしますね」
恭しくお辞儀し、手を取るエストラに鷹揚にうなずくヴィッド。
「今日は素敵な方達と一緒でココロはずむなぁ。ハンターの皆さんもきれいだし、レディヴィッドの美に対する気持ちもきれい。楽しい一日になりそうだな」
エストレラは満面の笑みで同道の面々を見る。
「フェリル・L・サルバ(ka4516)だ。奥方、そんなにすごい化粧品なのか?」
フェリルは問われたヴィッドは真顔でうなずく。
「もちろん、まだ実際見てはいないのだけど。若返りの薬と言われたのだから、きっとすごいに違いないわ」
彼女が言っていることが本当ならすごい物が、そんなに都合のいい物があるのかどうかは不明だ。
「何時までも美しくありたい気持ちは、やっぱりどこかにありますよね。私だって……まあ……それでも、美しく年齢を重ねたいと思いますし」
セシル・ディフィール(ka4073)はヴィッドにあいさつする。
セシルはヴィッドを見て、吹き出物の原因についてあれこれ考える。肌の手入れの事だけではないと分析するが、どうやって告げるかに頭を悩ます。
「ボクが最後だね……。アニマニュの泉って確かにあるそうですよ。エクラ教の司祭が嘘ついているようではなかったですし。魔術師の弟子が名づけたって」
やってきたペルの視線は、駕籠係の筋肉に向かった、うらやましいと。
●泉へ
さわやかな風、優しい日差し。
林の中は歩きやすく、護衛などいらないという雰囲気。
ハンターたちは用心ため駕籠を囲むように歩き進める。
林は入ったところはまだ道幅もあり進みやすいが、進むにつれて幅は細くなり、道が悪くなる。道両脇の木々も歩く邪魔をするように手を伸ばす。
フェリルが見ていると駕籠係が大変そうだ。
「なあ、歩いた方がいいんじゃないか? 休みながらでも良いんだから」
フェリルの言葉に沈黙が返ってくる。
「そうですよ、休み休みでものんびりいけばいいんですよ」
泉が逃げるわけではないし、とペルは思う。
「ボクがエスコートするよ。レディヴィッド、歩いても気持ちいいですよ」
エストレラが駕籠の側で恭しく手を差し出す。
しばらく間があったが、ヴィッドは駕籠を下すように指示した。
「あとどのくらいなの?」
正確なことを応えられるヒトはいない。
「お昼にはたどり着いて、今日中に帰れると思います」
セシルの予定と推測を含めた抽象的な答えが正当だとハンターたちは思った。
「ところでどんな化粧水をつかっていらっしゃるの」
Non=Beeは興味もあるため、自然に話しかける。
ヴィッドを退屈させないということも重要であり、歩いてもらわないといけない。
「魔女ちゃんってそんなに美人なの」
「わたくしより年上と聞きましたが、見た目は変わらないかそれ以下ですのよ」
まだ対面していない魔術師についても尋ねてみた。
ヴィッドはかろうじて歩いてくれるが、よく立ち止まる。そして、何度か目には座り込んだ。
「ちょっとあとどのくらいなのです?」
イラッとした声が響く。
「まあ、行ってみないとあたしたちも初めての所だし」
「誰か代わりに……」
「それだとだめなんでしょ?」
「ま、まあそうね」
Non=Beeに促され、ヴィッドはしぶしぶ歩き始める。
エストレラはヴィッドの手を取り、優しくエスコートしていると目的地まであと一歩になる。
「足元、注意してくださいね」
ぬかるみを前にNon=Beeが着物の袖をたすき掛けにし、歩きやすいように裾を上げる。ちらりと見える脚線美、駕籠係へのアピールもあるが彼らは仕事で忙しいようだ。
「待って!」
狭綾はこれまで黙々と警戒しており、素早く弓を引いた。
他の者たちも、武器を構える。
狭綾が撃ったあたりをカサカサと何かが移動する音がする。
「あれ? 人?」
エストレラは人影に気付いたようである。
狭綾はしっかり見ており、魔術師に会っていないが、本人か関係者と認識した。
「ごめんなさい。雑魔かと思ったのだけど……普通の動物だったみたい」
確信がなかったエストレラは特に何も言わないし、他の者たちは気付いていないから納得した。
水場が近いため、足元がぬかるんでくる。
「服や靴が汚れても、レディヴィッドの美しさは、変わりませんから」
エストレラがしっかりと彼女の手を取り歩く。
「そうだぞ。奥方がきちんと約束守って自分で採りに行く。これで美しくならないわけがなく、楽しみですねぇ」
フェリルが天使の如く甘い言葉を掛ける。
「筋肉の衰えは即老化につながるわ。きれいになりたいなら運動、相応の努力はしないとならないわぁ」
「そうです、健康のためにも歩くことに意義があります!」
Non=Beeとセシルが励ます。
ヴィッドは最後の所で歩くのに必死だ。
最後の難関というか、泉があるだろう所に動物たちが群がっている。
「な、なによ、動物のくせに」
ヴィッドの歩いた事での疲労や不機嫌が動物に怒りとなる。
狭綾とペルが泉に近づくと、動物たちは逃げて行った。
泉は湧き出るわけではなく、岩を伝って流れる為、その注ぎ口に器を置く。
「や、やりましたわ」
ヴィッドは微笑む。
「あたしも欲しいわ」
ヴィッドが汲み終わった後、休憩も含め水をくみ飲む。
ハンターたちの休息にこの水は、冷たく、甘くおいしかった。
●魔術師
目的が半分達成され、ヴィッドは黙々と歩き、駕籠に途中からは乗った。
セシルは「ワイルドストロベリーもいいらしいですよ」と言いながら、途中で見つけたのを採取する。まだ実はないけれど、葉がある。
狭綾は帰りも念のために警戒はしていたが、林の中に自分たち以外の気配は感じられなかった。
そして、林を出たところに、年齢不詳の人間の女が一人立っていた。
「マーナ殿」
駕籠に乗っているヴィッドが声を掛けると、女はお辞儀する。
「これからあなたのご自宅にうかがうつもりだったのだけど」
「そこにわしの研究室があるからそこでしようと思う」
林の入口近くにある建物を指さした。
「まさか、この林あんたの所有物?」
フェリルの質問に、マーナは「町の共有財産」と答えた。
魔術師の研究室などそうそう立ち入ることもないため、緊張や好奇心を持って中に入る。
集会場と言われても納得する何もない部屋だ、大きなテーブルと三脚の椅子に流し。
「すまぬの、椅子は少ないから適当に座ってくれ」
テーブルの前にヴィッドが椅子に座り、ハンターたちは立ったまま集まる。
「なんか教師になったようじゃの」
マーナが笑う。
「喉潤すのにこれ使いませんか?」
セシルは葉と水を手渡した。
「水はありがたく使おう。葉に関しては、ひとまずお預けじゃ」
「ワイルドストロベリーは美容に効果あるって聞いたことがあります」
「生の葉がダメなのじゃ。毒素があっての乾燥させねばならぬ」
「なるほど」
マーナはテキパキと動き、実験用のランプに火を点け水を入れたビーカーを置いた。
「ところで魔女ちゃん、どんな風に作るの?」
目が輝くNoo=Beeはテーブルに身を乗り出す。
「そろそろ弟子のルゥルが薬草園から材料を持ってくるはず」
玄関の扉が開く音がして、小さい女の子が入ってくる。新品のユグディラのキグルミを着て、頭の上にパルムと肩にフェレットを乗せている。
「薬草園手伝ってきました~。先生が言っていた、ローズマリーもらってきましたよ」
弟子が重そうに籠を持っているため、エストレラは素早く寄ると手伝ってテーブルに置く。
「ありがとうです」
「いえ、大したことはしていませんよ」
弟子はお礼を言って、マーナの横に立つ。
マーナは籠から瓶をいくつか取り出す。
「今回はまず、ローズ水を使う。これはな、バラの精油を作る際にできる副産物じゃ。気軽に化粧水にも使える」
ビーカーに少し出すと、匂いを嗅がせた。
「ほんのりバラの香りがするわね」
「ちょっと生臭いかもしれないです」
Non=Beeとペルの感想にマーナはうなずく。
「どちらも正解じゃ。匂いの感覚なんて千差万別」
ルゥルが小瓶を取り出して並べる。
「チンキ剤だが……アルコール類にハーブを付けこんで成分を出したものじゃ。たとえば……この瓶に洗ったローズマリーを入れ、これを注ぎひたひたにする。そして、ふたを閉めて二週間じゃ。一日一回振るのも重要じゃ」
「なんでもできるんですか?」
セシルの問いにマーナはうなずく。
「これをアルコールではなくオイルでするのもいい。オイルに香りや植物の成分が溶け出す」
「ホホバオイルがいいと聞きました。美肌効果、皺の予防……とか」
「その通りじゃ。ただの、ほとんど流通しておらぬし、非常に高価じゃ。我らが住む地ではあまりとれぬからな」
ホホバは乾燥した気候に適しているため、クリムゾンウェスト育成が難しい。
「で、化粧水はどうするんです?」
ヴィッドに促されてマーナはローズ水に、チンキ剤を適宜入れてかき回した。
「完成じゃ」
マーナは使いやすいように瓶に詰めている、ハンターたちとヴィッドの沈黙を無視して。
「いや、ちょっと待ってくれ、その水は?」
フェリルの絶叫は全員の絶叫。
「使うぞ、もちろん、化粧水に」
一斉にほっと息を吐く。
マーナは新しいビーカーを取り出し、ヴィッドが汲んだ水を灌ぐ。そこに、チンキ剤を適宜、ラベンダー精油を数滴入れて混ぜた。
「できたぞ」
「早いですね」
「精油作るところからすれば時間かかるが、あるもの混ぜるだけならこんなモノぞ」
「……」
「一応考えてわしだって作っておる。今作ったのは荒れた肌を整えるような効果があるように」
そんなので美しくなるのだろうか?
「あなた、わたくしをからかっているの?」
「……う……」
「先生、うんと言おうとしました」
ぽそり、弟子がつぶやいた。近くにいたハンターは気付いたが黙っている。
「わしが口で言ったからと言って聞いてくれるとは思わないしの、極意を」
「何をです」
「楽しくなかったのかえ?」
「え?」
「水を採りに行く道中」
「ど、どろどろになって迷惑よ」
「そうか、それで終わりか」
マーナは溜息を洩らしハンターを見る。
「主らから見て、夫人はどうだったかの?」
「美に向かって懸命な姿は、手伝わないといけないと思ったわ」
Non=Beeの言葉に、ヴィッドははっとしたようだ。
「そうですよ、美しいものを求めるレディヴィッドは美しいかったですよ」
「一歩一歩前に踏み出すヴィッドさんは素敵です。これからも毎日、少しずつ!」
エストレアとセシルが続いた。
「……なぜ動かないとならないのですか」
「綺麗になりたいなら運動。相応の努力はしなければならないわぁ」
Non=Beeの言葉に続き、セシルがうなずく。
「体を動かすことで、体の中もきれいになるんです。食事だって重要で、野菜が多い方が体の中かきれいになれます」
これらの言葉にヴィッドは葛藤している様子だ。
「やりたくなければそれでいいんじゃないですか?」
ペルはビーカーの湯を見つつ、つぶやく。
マーナはポットにローズマリーを入れ、湯を注いだ。
「そやつらの言う通りぞ。動くことも、寝る事も美容の一環じゃ」
「動くの」
「そう、動くことじゃ。それ以上は言わん」
マーナはカップにハーブティーを注ぐ。
「まあ、動くことにしてもいいわ……ぽっちゃりがいいと言われるし、無理はしないわ」
「あー」
ヴィッドの消極的決心にフェリルは溜息とも何ともつかない声が出た。
「さて、ローズマリーの茶だ。すっとした飲み心地で気分が変わろうて」
さわやかな香りが立ち込める茶を勧め、煙に巻くような笑顔でマーナはしめた。
お茶を飲み一息ついたころ、マーナは狭綾に部屋の隅に呼ばれる。
「ヴィッドさんがあれなのは確かだけど、だまして、しかもそれで発生する苦労を他者に押し付けるのは感心しないわね。そのくらいの苦労は責任もって自分でかぶりなさいよ」
狭綾の言葉にマーナは笑う、怒っているのは分かっている様子だが。
「次に同じことがあったら、ぶっ飛ばすわよ?」
「怖い、怖い。今後は気を付けるようにしよう」
マーナに反省した様子はなく、狭綾は思わず矢をつがえそうになった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
護衛相談所 ペル・ツェ(ka4435) エルフ|15才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/03/30 22:25:57 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/01 03:33:51 |