タングラムVSタングラム

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/02 07:30
完成日
2014/07/05 07:09

みんなの思い出

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オープニング

●恥多き人生
「えっ? 私を逮捕する?」
 唖然とするタングラムに無慈悲に手錠が装着された。
 帝都バルトアンデルスの中心、バルトアンデルス城。いつものように呼び出されたタングラム(kz0016)であったが、突然オズワルド(kz0027)に捕えられてしまった。
 皇帝に無理難題を押し付けられるのはいつもの事なのでさほど驚きもしないのだが、流石にこれは度肝を抜かれた。
「ちょっ、おまっ……私が何をしたというのですか!? 罪状を読み上げろ、罪状を!」
「窃盗及び傷害の容疑で逮捕だ」
「私がいつどこで何を盗んで誰を傷つけたというのですね!?」
「いつどこでって、おまえがそれを言うのか?」
 腕を組んだ姿勢のままジト目を向けるオズワルド。タングラムは暫し自らの過去に思いを馳せてみる。
 すると出てくる出てくる軽犯罪の数々。あの頃はまだ若かった、と言っても許されない罪。いや、“勝って”しまえば称賛されて然るべきだが、それはそれ。
「確かに自分で言うのもなんですが、胸を張って無罪とは言えない生い立ちなのですね……」
「だろ?」
「いや、それとこれとは別ですよ? 一体何があったのですか?」
 葉巻に火をつけながらオズワルドは説明を始める。それはとある盗人の噂であった。
 ここ数か月間、帝国領内の貴族を狙った窃盗事件が多発していた。貴族狙いの窃盗そのものはさほど珍しくもないが、問題はその犯人が腕利きの覚醒者であると言う事だ。
「目撃情報によれば、犯人はエルフの女。セミロングの金髪で、仮面をつけて素顔を隠しているらしい」
「……まあ、確かに私が疑われるのもわかるですが、ワルちゃんも随分長い付き合いでしょう? 何故私を疑うですかね?」
「犯人が自分で“私の名前はタングラム、正義の怪盗だ”と言っているからだ」
 派手にずっこけるタングラム。慌てて跳び起きるとオズワルドに掴みかかる。
「それを鵜呑みにしたのですか!? アホですか!? 何で盗みを働いて自分の名前を言い触らすわけがあるんですかねぇ!」
「だってよォ、自称してるんだからしょうがねェだろ……。おまえはただでさえ有名なんだからよ……一応調べないわけにはいかねェわな」
「私は無実なのです!」
「それを証明してくれるヤツはいンのか?」
 たらりと冷や汗が一筋。普段誰にも行き先を告げずに勝手に出歩いているのが災いした。犯行時刻、タングラムにアリバイはなかった。
「ユニオンリーダーの癖に単独行動しまくるからこうなるんだよ、バーカ」
「ぐ、ぐぬぬ……。しかし確かにその特徴、私くらいにしか当てはまる奴はいないですが……模倣犯ですかね?」
「この場合模倣犯って言葉であってるか? まあ、おまえは色々と有名だからなぁ……。特にはねっかえりのエルフには名が知れてるだろうよ」
「今ふと思ったのですが、そいつもしかして“ゼナイド”じゃないですか?」
「まあ確かにどちらかというとお前よりはあいつに近い物がありそうだがな。自己顕示欲的な意味で。だが戦闘スタイルが違いすぎる。どちらかというとこの犯人はエルフハイム流だ。それも守備隊の体術に近い」
 無言で手を引き背を向けるタングラム。オズワルドは紫煙を吐き出し、窓の向こうへ目を向けた。
「もし本当に守備隊なら、元同僚かもしれねェだろ? それに今は、エルフハイムとの間にいざこざは御免だ」
「何とか丸く収めろって事ですか」
「相手が本当に“それ”かはわからんがな。ま、どちらにせよ汚名は自分で返上するこった。少なくとも向こうはおまえを知ってるんだ。ファンには応えてやるのが有名人の義務ってやつだろ?」
 肩を落とし、溜息を一つ。何にせよ無罪は証明されなければならないし、罪は裁かれなければならない。それがどんな正義を後ろ盾にしても。
「じゃあ、さくっと捕まえてくるのでこの手錠を外してほしいのですね」
「ダメだ」
 再びずっこけるタングラム。そしてまた飛び起きてオズワルドに掴みかかった。
「おいこらじじい? いくら温厚な私でもそろそろ怒るですよ?」
「だから疑いが晴れるまでだって。お前一人だと何するかわからんしな。犯人を暗殺とかしたら問題だぞ」
「しねーよ!? 私の事なんだと思ってるですか!?」
「見張りも兼ねてハンターにでも依頼すりゃいいだろ? 目撃者が中立のハンターなら、証言も信用するぜ」
 取り出した鍵を指先ではじいて空中に打ち出すオズワルド。タングラムは落ちてくる鍵を受け取り、深々と溜息を吐いた。
「依頼が終わったら勝手に外せ。んじゃ、あとは頼んだぜ」
 ふんと鼻を鳴らし立ち去るタングラム。その背中を見送り、オズワルドはどっかりと椅子に腰かけた。


●???
「装備は万全ッスね。さーて、今回もいっちょすぱぱーんと華麗に盗んでやるッス!」
 “本物”と行動を共にしていたのはもう随分前になる。
 あの頃はまだ帝国内のエルフに対する風当たりは今よりもずっと強く、行き場をなくした少女に人間達はとても恐ろしく見えた。
 生きていく術を教えてやると、人間に捕まっていた少女の手を取り、颯爽と闇を駆けたあの人に憧れたのだ。
 困っている人々を救い、悪を挫く流浪のエルフ。時にその行いは法にも触れたが、間違いなくその全ては正義の為にあった。
「ユニオンだかなんだか知らないッスけど、姉御はそんな所で丸くなってるような人じゃないッス」
 最も鋭く、最も強く、最も美しかった彼女は仮面など必要としていなかった。会いたいのは今の彼女ではない。あの頃の彼女だから。
 少女はあえて偽物の仮面を被り笑みを浮かべた。あの頃の自分とは違う、確かな技術を握り締めて――。

リプレイ本文

●罠
 怪盗は予告通りに屋敷を訪れた。月を背後にシルエットを浮かび上がらせ少女は華麗に塀を超えて庭に着地し……そこで思わず足を止めた。
 見れば庭には簡単なトラバサミのような罠が幾つも仕掛けられていたのだ。怪盗は冷や汗を流しながら普通に避けて歩く。
 普通に屋敷に入り、地下へ続く通路……にも誰もいなかった。代わりに道中にあからさまに怪しい箱が置いてあるが、見なかった事にした。
「ここまであからさまだと逆に何が入ってるのか気になるッスね……」
 順調に地下へ進む怪盗。途中また何か箱やロープの罠があったが、全てスルーしてきた。もしかしてバカにされているのかと心配になってきたその時、銃撃が怪盗の足を止めた。
「そこまでだ。……あんたが噂の怪盗タングラムか?」
 銃を手に姿を見せたネグロ・ノーチェ(ka0237)。更にルア・パーシアーナ(ka0355)と詐欺屋さん(ka0541)が怪盗を包囲する。
「私達が一生懸命作った罠を掻い潜ってくるとは、只者ではありませんね!」
「……驚愕」
 目を見開きびしりと指差すルア。詐欺屋さんは無表情に頷く。
「仮面に金髪のエルフか。実はAPVのリーダーのタングラムだったりしてな」
 ネグロの反応は怪盗にとって喜ぶべき事だった。同時に彼らが覚醒者である事を悟り、覚醒と同時に飛び出した。
 飛びかかるルアをかわし、ネグロの脇をすり抜けて地下へ走る。三人のハンターは追跡を開始するが、怪盗の足の速さに追いつけない。
「うわっ、早いです!? このままじゃ剣が盗まれちゃう……って、二人ともなんでそんなに悠長に走ってるんですか?」
 驚いて左右を見るルア。ネグロも詐欺屋さんも無表情にテクテク走っている。
「……迅速」
「ネグロさん、もっと銃で撃ってください!」
「そのつもりだが、装飾品を壊して賠償させられたくねーしな」
 ジト目で銃を構え引き金を引くネグロ。だがその弾丸は怪盗を捉えるには至らない。
 予想通り警備しているハンターは大した相手ではない。そう確信した怪盗は一気に地下への道をぶっちぎる。
 道中に罠はなし。あってもすぐに反応できる自信があった。ニイっと口角を持ち上げ地下への扉を開け放……たず開けると同時に半歩身をずらし罠を警戒する。
 案の定扉が開くと仕掛けられていた小麦粉がどっさり零れ落ちたがやり過ごす事が出来た。他に罠がないと見るや、悠々と内部に侵入する。
「おいっす」
 予想通り中には待ち伏せがあった。が、所詮相手は三流。これまでもハンターの警備など余裕で突破してきた。自信から腰の短剣に手を伸ばし――気づく。
「……えっ!? 何故……!?」
 ――何故、本物のタングラムがそこにいるのか。
 ついでに言えば何故手錠しているのか。しかもなんで当たり前のように挨拶しているのか。
 頭の中が疑問で埋め尽くされた時、警戒心と反応速度は低下する。更に踏み出した足が糸に引っかかった時、怪盗は初めて自らが罠にかけられた事を知った。


●本物の使い方
「成程、偽物のタングラムさんが盗みを働いてタングラムさんが大ピンチなんですね。状況はわかりました。それにしても……」
 口元に手をやり、溜息を零す叫谷 恋思(ka0805)。
「犯行予告をしてくるあたり、馬鹿なのか自信があるのか……。まあ、馬鹿ですよね。どれほど能力があっても、危険性は低いほどいい筈ですから」
 また随分とアホな依頼を受けてしまったハンター達。明るいうちに屋敷に集合し打ち合わせをするが、そこはかとなく呆れた空気が漂っていた。
「リーダーと同じタングラムを名乗るなんて、恨まれでもしたか?」
「うーん。人に恨まれるような事は……ありすぎてわからんですね」
「俺は冗談で言ったんだが……ただの自業自得なんじゃねーか?」
「呆れ……」
 肩を竦めるネグロ。詐欺屋さんも首を横に振って溜息を零している。
「帝国の偉い人との初対面が手錠で容疑者なんてシチュエーションだとは思っていませんでした」
 苦笑を浮かべるルア。恋思も同じく笑いつつ話を続ける。
「ですが、ネグロさんの仰る通り。これだけバレバレな偽物もそう居ませんから、名前を出すからには何か理由があると決まっています」
 ハンター達の視線がタングラムに収束する。本物は慌てて繋がれた両手を振った。
「申し訳ないのですが、本当に心当たりはないのです……」
「だ、大丈夫ですよ。どんな理由があっても罪を人に押し付けるのはいけない事です。義賊と言っても泥棒は泥棒ですし」
「――その通りだ! 賊に良いも悪いもあったもんじゃねぇ。他人様の物をブン取っちまう時点でそいつぁタダの犯罪者だ」
 ルアの言葉を遮り、壁際に腕を組んで立っていたジャック・J・グリーヴ(ka1305)が顔を上げ、そしてゆっくりと指差し宣言する。
「正義を名乗る事で自らを正当化させ様とする、俺様が嫌うタイプのクソ野郎だぜ。……ブッ飛ばしてやらねぇと気がすまねぇなあ!」
「……あの? どこに向かってキメてるんですか?」
「ど、どこに向かってキメようが俺様の勝手だぜ。俺様がキメる、そこが世界の中心だからな……!」
 不思議そうに顔を寄せるルアから逃れつつ白い歯を輝かせるジャック。ルアが追うので、その場で二人はくるくるしていた。
「あら、仲良しですわね? ……確か強奪品は何処に行ったか分からないとの事。尚更、義賊なのか怪しいですわね」
 頬に手を当て穏やかに微笑むロジー・ビィ(ka0296)。それから人差し指を立て、僅かに首を擡げる。
「とりあえず捕まえて、それから何が目的だったのか訊いてみましょう。それが一番すっきりする筈ですわ」
「ああ、まずは犯人を捕まえねぇとな。その上で気が向いたら話を聞いてやってもいい。俺様は紳士的だからな!」
「問題はどうやって捕まえるか、ですよね」
「全員タングラムさんに変装して待ち構えると言うのはどうでしょうか」
「斬新だな」
 真顔で瞳を輝かせる恋思。ネグロは腕を組み、率直な感想を口にするに留めた。
 結局作戦はシンプルになった。まずあからさまな罠を仕掛け、こちらの力量を見誤らせる。そして地下室へ追い込み……。
「ドアの目の前にタングラムさんを立たせておきます」
「……本当、斬新だよ、あんた」
 タングラムを移動させながらにっこりほほ笑む恋思。タングラム対面取り押さえ作戦が実施される運びになったのである。


●VS
 しまった、と思った時にはもう遅い。足元に仕掛けられていた糸を使ったトラップに片足が引っかかっている。
「と、普通ならなるッスが」
 引っかかった足を止め、糸の向こうに手をついて逆立ちの状態から空中に跳躍。これは側面から飛び込んできていたジャックの斧をかわす為でもあった。
 回転しつつ空中に鞭を放り、天井からぶら下がった照明に取りつく。揺れる影の下、ジャックは空振りに終わった一撃に舌打ちした。
「あの状態から避けやがるだと……!?」
「というか、当たったら死んでたッスよ」
「大丈夫だ。ケガでもしたら、なんてタングラムは余計な心配してやがるが問題ねぇ。俺様今日は割とブチ切れでな、ちょっとの傷は痛いとは思わねぇんだ」
「いや、ケガするの私ッスから!? 痛いの私ッスからね!?」
 見れば目当ての名剣は奥にいる恋思が守っているようだ。そして既に背後からは追いかけていた三人のハンターが集まりつつある。
「でも目的果たしたッス。お会いしたかったッスよ、姉御」
 シリアスな表情で偽物を見上げるタングラム。そしてゆっくりと瑞々しい唇で言葉を紡いだ。
「やべえ、マジで誰だかわかんねえ」
「おいおい……向こうはばっちりてめぇをご存じみてぇだが?」
「そう言われても分からない物はわからないのですね」
「くっ、姉御がまだわからないというのなら……っ」
「よ、よせ! その仮面を外すんじゃねぇ!」
「なんでジャックが嫌がってるですか?」
「あれを外されたら俺様は攻撃出来なくなる気がするんだよ!」
 そんなカオスな状況に飛び込んできたルア、ネグロ、詐欺屋さん。三人とも呆けていたが、怪盗を捕まえる好機とみて武器を構える。
「……漫才」
「今なら取り押さえられます!」
 拳を握り締め跳躍するルア。怪盗はその攻撃をかわすと同時、自分が捕まっていた照明を切り落とした。
 着地と同時、鞭を振るって壁の蝋燭を吹き飛ばすと部屋の半分が闇に包まれた。急ぎ部屋に入ろうとするネグロ。しかし入り口にある罠は回避された為未発動で……。
「ん、今何かに引っかかって……」
「あっ! そこの罠、見えてるロープは囮で、その後ろに艶消しをした糸ぉっ!?」
 足元に一気に雪崩れ込んできたのは樽に入っていたリンゴの山だ。罠を仕掛けた本人のルアは回避に成功したが、後続のハンターは部屋が暗くなった事もあって避けようがなかった。
 リンゴを踏んで転ぶルア。転がる樽によろめく詐欺師さん。ネグロは悲惨な状態を冷や汗を流して見つめる。
「……俺は悪くないよな?」
「ネグロさん、そっちに向かっています!」
 恋思の声にはっとしてダガーを抜くネグロ。凄まじい速さで接近する怪盗は同じく短剣を繰り出す。ネグロはそれを弾こうとするが、うまく行かずに体勢を崩し地下室からの脱出を許してしまった。
「またお会いしましょう、姉御! 今日はこれまでッス!」
「……逃走」
「ああっ、ダメ、追いつけない……!」
 ルアの悲痛な声を背に怪盗は走り去る。後はもうただ逃げ切るだけ、全力疾走すればハンターは追いつけない。
「やれやれ、これだからハンターなんて連中は。姉御もそんな奴らとつるんでるから弱くな……ってぇ?」
 何故か軽やかなその身が空中に放り出されていた、派手に転倒するもきちんと受け身を取ったその先、突然怪盗に網が降りかかった。
「――行きと帰りは同じ道を使いますわよね。行きで罠の配置も把握しているのですから。けれども……もし行きになかった罠が帰りに増えていたら?」
 完全にしてやられたと思った。罠を仕掛け待ち伏せしていたのはロジーだ。彼女は怪盗が網から抜け出す前に駆け寄り、網の上から取り押さえにかかる。
 腕を背後に捻りあげ、胴体を使ってのしかかる。体格的にはロジーの方が有利。怪盗の機動力は圧倒的だが、組み伏せてしまえばただの腕力勝負だ。
「ぐ……っ! な……エ、エルフ!?」
 首を傾げるロジー。そう、彼女だけが今回のハンターの中でエルフである。それも怪盗には予想外な事だった。
「あら? ハンターのエルフなんて、珍しくもないですけれど……?」
「……発見」
「一人で捕まえるとは、やるじゃねーか」
「一人ではありません。皆の力、ですわ」
 追いついてきた仲間に笑いかけるロジー。怪盗は観念したように脱力するのであった。


●動機
「それにしても。何故、こんなことを……? 何故、タングラムを騙るんですの?」
 口元に手をやり首を傾げるロジー。その視線の先にはロープでグルグル巻きにされた怪盗が転がっている。
 勿論仮面の下はタングラムではなかった。そして顔を見れば本物は相手を思い出したようだが、神妙な面持ちで口を閉じていた。
「姉御、どうして私じゃなくてハンターのエルフなんかと仲良くしてるんスか……」
 見れば偽物はポロポロと涙を零し始めたではないか。これにはロジーもたじろいだ。
「えっと……あたしは別に、タングラムとは特別な仲ではありませんわ」
「姉御、どうして義賊をやめちまったんですか。どうして帝国の犬になっちまったんです!」
 ぎょっとした様子のタングラム。その肩をそっと恋思が叩く。
「タングラム……前から怪しいとは思っていたです」
「いいっ!? いや、それはもうずっと昔の事で……! その……昔はそういう事もあったのですよ」
 革命よりも前の時代。帝国は亜人に対して横暴な態度を取っていた事があった。
 エルフと人間の衝突は今よりずっと多く、帝国を我が物顔で歩く貴族達にとってエルフは使い道によっては金の卵でもあった。
「姉御は悪い貴族をやっつけ私を救ってくれたんス。姉御は行き場のない者の拠り所だった。なのにどうして帝国に……」
「い、今はユニオンリーダーですよ」
「同じ事ッス! ハンターなんてあてにならないッス! そいつらは無責任で、自分勝手で……金さえ払えば貴族の味方にだってなる!」
「今のタングラムさんが理解出来ない。つまり自分の理想の押付けですね」
 恋思の言葉に歯軋りする怪盗。ネグロは呆れたように。
「義賊がなんだ。結局は悪者じゃねーか。しかも人を陥れてでもしたいことがそれかよ」
「どちらにせよ。アナタの大好きなタングラム自身が困っているのですわ。それが本当にアナタの望みですの?」
 黙り込む怪盗。ジャックはその前に膝を着き語り掛ける。
「世の中っつーのは不平等に出来てやがるからよ。人間もエルフも同じ、生まれからして優劣がありやがる。だからよ、貴族には生まれ持っての責任があんだ。力持つ者は持たざる者に対して責任を持つ、ノブレス・オブリージュ、てな」
 真面目に、真剣な様子で語り掛けるジャック。偉そうに振る舞うのは虚勢ではない。偉いからこそ、偉そうにする責任があるのだ。
「全ての貴族がそうとは言わねぇ。そりゃ世の中広いからな、堕落しちまう奴もいる。けどな、俺様は違ぇ、何たって世界一カッコいい貴族様だかんな」
 立ち上がり、そして背を向ける。
「ノブレス・オブリージュはきっちり守ってやる。……だからてめぇは俺様を見ていやがれ。本物の貴族がどういうもんか教えてやっからよ」
 黙り込む怪盗。ちなみに背を向けたのはかっこつけではない。至近距離で女の顔を見るのに限界が来ただけである。
「……“ジュリ”。これが、私の新しい仲間達ですよ」
 罪を償って戻ってきたら……。タングラムはそう語り掛け、少女を抱きしめるのであった。

「私とそんなに歳、変わらないように見えるのに凄いなぁ」
 犯人は無事軍に引き渡された。盗品の場所も判明し、無事に回収される事だろう。
 手錠を外したタングラムを見つめるルア。その横顔はどこか大人びて見えた。
『だが、過去に義賊をやっていたのは事実だったようじゃな』
 びくりとして振り返ると、そこには覚醒の影響で骸骨の幻影を纏った詐欺師さんの姿が。
「しゃ、喋れたんですか?」
『必要に迫られた場合のみな。これに懲りたら放浪癖も程ほどにするのだぞ』
「お、おう……。でもそれどうやって喋ってるんですかねぇ……」
 詐欺師さんはもう覚醒を引っ込めてしまった。
「今回の一件でわかった事、それはタングラムさんが昔義賊であったという……」
「わー! もうそれはいいのです! ユニオンに帰って言い触らすのは止めるのですよー!」
 恋思に飛びつくタングラム。こうして無事、お騒がせな騒動は解決。タングラムも釈放されるのであった。

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MVP一覧

  • もふもふ もふもふ!
    ロジー・ビィka0296
  • 奇抜な策士
    叫谷 恋思ka0805

重体一覧

参加者一覧


  • ネグロ・ノーチェ(ka0237
    人間(紅)|17才|男性|猟撃士
  • もふもふ もふもふ!
    ロジー・ビィ(ka0296
    エルフ|25才|女性|闘狩人
  • Theory Craft
    ルア・パーシアーナ(ka0355
    人間(紅)|16才|女性|疾影士
  • ゴシッピー・ゴースト
    詐欺屋さん(ka0541
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 奇抜な策士
    叫谷 恋思(ka0805
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/01 04:07:49
アイコン 相談しましょう
ルア・パーシアーナ(ka0355
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/07/01 22:27:05