ゲスト
(ka0000)
【偽夜】大正ロマンVS怪盗スライム男爵
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/08 15:00
- 完成日
- 2015/04/16 18:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする。
開国から幾年月が経ち、東京の装いもレンガ造りのモダンな建物が増えた。
馬車をひく馬の蹄の音が、銀座の街によく響く。
「石倉さん、これ見てください。大きく取り上げられてますよ」
「知ってるよ。いちいち、騒ぐんじゃない。見っともない」
二人の男が馬車に揺らされていた。
服装を見るに、石倉が上司、もう一人が部下であるらしい。
部下の男は新聞を広げ、読み上げる。
「天下の怪盗スライム男爵、今度は大江戸美術館の秘宝を狙うと宣言!」
「だから、知ってるっての」
「警察の無能っぷりって書かれちゃってますよ。黙ってていいんですか?」
新聞をたたんで、部下は石倉の顔を覗き見る。
石倉は仏頂面を更に、石像のように硬くしていた。
「丸橋、それは……事実だ。だから、私達はあそこへ向かっているのだからな!」
吐き捨てるように、石倉はいう。
丸橋と呼ばれた部下は、ですねぇと気の抜ける声で答えていた。
五日前、最後のチャンスと長官から達しがあった警備に石倉達は当たっていた。
スライム男爵が狙ったのは、とある富豪が持つ「七色に輝く蹄鉄」だった。
猫一匹入れない覚悟で、出せる人員を総動員した。
石倉自身も、娘の誕生日会を泣く泣く諦めたという経緯がある。
だからこそ、捕まえたかった。そして、それを誕生日プレゼントのように誇ってやりたかった。
だが、娘に言われた言葉はこれだ。
「お父様……不甲斐ない」
最新鋭のライトまで揃えたというのに、スライム男爵はぬるりぬるりと現れたのだ。
光をまるで、自分への照明のように思っている節すら感じられた。
「あら、今日はパーティでもあったのかしらん?」
甘ったるい嗄れた声で、男爵は石倉たちを見下す。
大壇上から、降り立ったスライム男爵を十人の警官が一斉にとりかかるも、奴の姿はなかった。
代わりに一匹のスライムが警察と大立ち回りを演じていた。
その間に、蹄鉄を盗み出したスライム男爵を、石倉と丸橋は追いかけた。
やつを行き場のない袋小路にまで追い詰めることができたのだ。
「もう逃げられんぞい!」
にやりと石倉が笑った時、スライム男爵はところがどっこいと声を上げた。
次の瞬間、二人の目の前でスライム男爵は身体を溶かし、スライム状になって壁を這い登ったのだ。
あまりの出来事に、呆然とする二人をよそに壁を上りきった男爵は笑い声をあげていた。
「ほーっほほほ。おばかさん」
あの声を思い出すだけで、石倉の額に青筋が立つのだった。
●
「アポイントメントはございますか?」
「アポ……なんだ? よくわからんが、警察庁の石倉だ。所長いるんだろ?」
「アポなしですかー。所長お忙しいのですがー」
受付の少女はぽわんとした表情で、石倉の言葉を受け流す。
そういえば、こういう奴だったと思い出しながらグッと拳を堪える。
「石倉が来たと伝えろ」
「しかたないですねー。今度は袖の下用意しやがれー」
「ほざけ」
ここは、銀座の裏通り。表から外された、寂れた建物の中の一つだ。
半田探偵事務所と表看板を掲げる、怪しげな赤レンガの建物である。
「どうぞー」
少女に呼ばれ、石倉達は玄関から奥に設けられた応接室へ向かう。
呪符やら奇妙な絵画やら……骨まで飾られた悪趣味な廊下を抜け、扉を開ける。
「おおきに。今日はどんなご用件で?」
半田所長が、手もみして待っていた。
口止め料が上乗せされるため、実入りがいい警察からの依頼は好んで受ける。
金さえ払えば、神すら見極め断じると豪語する男である。
「実は……」と硬いソファに腰掛け、石倉は早速本題に入った。
「そういう依頼やったら、うちの肝入を何人かお貸ししまっせ」
話が早くて済むが、石倉の胃は痛かった。
一体、どれだけの額が請求されるというのだろうか。
「ほい、ではコレ請求書。どや?」
ちらりと額を見て見ぬふりをする。
長官からは捕まえるための額は惜しまないと言われていたが、これはひどい。
どうせ、長官のクビが飛ぶだけだと高をくくって書状を預かる。
「では……頼むぞ」
最後の最後まで渋面を崩さなかった石倉に、半田は満面の笑みを浮かべた。
「おおきにぃ~」
●
石倉たちが帰った後、半田は受付嬢を呼ぶ。
「梅ちゃん、電報とお使い頼んでもええかー」
「いいですとも」と石倉への態度とは一変、ハキハキと梅は動く。
招聘されるのは、半田探偵事務所所属の探偵たち。そして、協力者だった。
スライム男爵がいかなる怪異だとしても、彼らには構うまい。
「ヘマせなんだらやけどなぁ」
少し不吉なつぶやきをしながら、半田はパイプから煙を蒸すのだった。
散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする。
開国から幾年月が経ち、東京の装いもレンガ造りのモダンな建物が増えた。
馬車をひく馬の蹄の音が、銀座の街によく響く。
「石倉さん、これ見てください。大きく取り上げられてますよ」
「知ってるよ。いちいち、騒ぐんじゃない。見っともない」
二人の男が馬車に揺らされていた。
服装を見るに、石倉が上司、もう一人が部下であるらしい。
部下の男は新聞を広げ、読み上げる。
「天下の怪盗スライム男爵、今度は大江戸美術館の秘宝を狙うと宣言!」
「だから、知ってるっての」
「警察の無能っぷりって書かれちゃってますよ。黙ってていいんですか?」
新聞をたたんで、部下は石倉の顔を覗き見る。
石倉は仏頂面を更に、石像のように硬くしていた。
「丸橋、それは……事実だ。だから、私達はあそこへ向かっているのだからな!」
吐き捨てるように、石倉はいう。
丸橋と呼ばれた部下は、ですねぇと気の抜ける声で答えていた。
五日前、最後のチャンスと長官から達しがあった警備に石倉達は当たっていた。
スライム男爵が狙ったのは、とある富豪が持つ「七色に輝く蹄鉄」だった。
猫一匹入れない覚悟で、出せる人員を総動員した。
石倉自身も、娘の誕生日会を泣く泣く諦めたという経緯がある。
だからこそ、捕まえたかった。そして、それを誕生日プレゼントのように誇ってやりたかった。
だが、娘に言われた言葉はこれだ。
「お父様……不甲斐ない」
最新鋭のライトまで揃えたというのに、スライム男爵はぬるりぬるりと現れたのだ。
光をまるで、自分への照明のように思っている節すら感じられた。
「あら、今日はパーティでもあったのかしらん?」
甘ったるい嗄れた声で、男爵は石倉たちを見下す。
大壇上から、降り立ったスライム男爵を十人の警官が一斉にとりかかるも、奴の姿はなかった。
代わりに一匹のスライムが警察と大立ち回りを演じていた。
その間に、蹄鉄を盗み出したスライム男爵を、石倉と丸橋は追いかけた。
やつを行き場のない袋小路にまで追い詰めることができたのだ。
「もう逃げられんぞい!」
にやりと石倉が笑った時、スライム男爵はところがどっこいと声を上げた。
次の瞬間、二人の目の前でスライム男爵は身体を溶かし、スライム状になって壁を這い登ったのだ。
あまりの出来事に、呆然とする二人をよそに壁を上りきった男爵は笑い声をあげていた。
「ほーっほほほ。おばかさん」
あの声を思い出すだけで、石倉の額に青筋が立つのだった。
●
「アポイントメントはございますか?」
「アポ……なんだ? よくわからんが、警察庁の石倉だ。所長いるんだろ?」
「アポなしですかー。所長お忙しいのですがー」
受付の少女はぽわんとした表情で、石倉の言葉を受け流す。
そういえば、こういう奴だったと思い出しながらグッと拳を堪える。
「石倉が来たと伝えろ」
「しかたないですねー。今度は袖の下用意しやがれー」
「ほざけ」
ここは、銀座の裏通り。表から外された、寂れた建物の中の一つだ。
半田探偵事務所と表看板を掲げる、怪しげな赤レンガの建物である。
「どうぞー」
少女に呼ばれ、石倉達は玄関から奥に設けられた応接室へ向かう。
呪符やら奇妙な絵画やら……骨まで飾られた悪趣味な廊下を抜け、扉を開ける。
「おおきに。今日はどんなご用件で?」
半田所長が、手もみして待っていた。
口止め料が上乗せされるため、実入りがいい警察からの依頼は好んで受ける。
金さえ払えば、神すら見極め断じると豪語する男である。
「実は……」と硬いソファに腰掛け、石倉は早速本題に入った。
「そういう依頼やったら、うちの肝入を何人かお貸ししまっせ」
話が早くて済むが、石倉の胃は痛かった。
一体、どれだけの額が請求されるというのだろうか。
「ほい、ではコレ請求書。どや?」
ちらりと額を見て見ぬふりをする。
長官からは捕まえるための額は惜しまないと言われていたが、これはひどい。
どうせ、長官のクビが飛ぶだけだと高をくくって書状を預かる。
「では……頼むぞ」
最後の最後まで渋面を崩さなかった石倉に、半田は満面の笑みを浮かべた。
「おおきにぃ~」
●
石倉たちが帰った後、半田は受付嬢を呼ぶ。
「梅ちゃん、電報とお使い頼んでもええかー」
「いいですとも」と石倉への態度とは一変、ハキハキと梅は動く。
招聘されるのは、半田探偵事務所所属の探偵たち。そして、協力者だった。
スライム男爵がいかなる怪異だとしても、彼らには構うまい。
「ヘマせなんだらやけどなぁ」
少し不吉なつぶやきをしながら、半田はパイプから煙を蒸すのだった。
リプレイ本文
●
「スライム、ねぇ。あぁ、ナメクジみたいなもんだと思っておけばいいのか」
銀座裏通り、半田探偵事務所。
一階ロビーのソファに、クロード・インベルク(ka1506)は腰掛けていた。
資料を読む彼の前に、トレンチコートとハンチングを身にまとった青年が姿を現した。
「半田さんに呼ばれたのですが、俺に頼みですか?」
「ラシュディアさんも呼ばれたのか」
青年の名は、ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)。探偵小説の影響を受け、学業そっちのけで事件に首を突っ込みたがる留学生である。この格好は、学校の着こなしだが探偵っぽいと思っていたりする。
オカルトがらみの事件で、呼ばれることが多い。
「やれやれ、難事件のようですね」
資料を受け取り、目を通す。
ラシュディアが来たということは、一緒に回れということかとクロードは考えていた。
推理モノの文学好きのクロードと、同じく愛好家のラシュディアは時に見解の相違はあれど、同好の士だ。
そのため半田から半ば強制的に、コンビを組まされることが多い。
「行こうか」
「行くって、どこへ?」
「情報集め、それと人員確保かな」
二人が出て行った後、応接室から少女が飛び出してきた。
「スライム、ねぇ」
彼女は半田のライバルを名乗る探偵、紅緒(ka4255)である。
かつて女流名探偵と謳われた深泥ヶ淵蓮子の孫だ。
「面白そうね。あたしも手を貸してあげるわ」
半田のいる部屋へ視線を送り、尊大に宣言した。
手だけ出した半田が、勝手にやってくれとばかりに手を振る。
それを確認し、紅緒は思案顔で事務所を後にする。
「スライム相手なら、何が必要かしら」
「……」
彼女の後ろにうっすらと在りし日の蓮子が見えた。
蓮子が一礼したのに合わせて、半田も手指で幸運を祈るのだった。
●
「スライムねぇ」
道すがら呟くのは春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)、武士上がりの警官である。
このご時世に、女性警官は珍しい。彼女は見合うだけの実力があるのだ。
「で、鬼百合。お前も来んですかぃ」
「行くに決まってんでしょ。悪いやつはごようなんでさ!」
紫苑を見上げて啖呵を切るのは、鬼百合(ka3667)、ちびっこ探偵である。
小さいとはいえ、陰陽師の家系を継ぐ、術の使い手だ。
「仕方がないねぇ……角を曲がって」
お、と地図から顔を上げた先に二つの人影があった。
「なんでい、出揃ったてわけかい」
「あなたたちも来たのね」
人影の一つ、八原 篝(ka3104)が紫苑たちを見とめていう。
もう一人、紅屋・玄珠(ka4535)は「待っていました」と告げた。
「警察がいたほうが、通りがよいでしょう?」
「それは……そうね」
ちらりと紫苑を見上げたのは、
「お父上にはいいやしません。いつものことですねぃ」
篝は代々警察の家系。エライさんの父には首を突っ込んでいると、知られたくないのだ。
「よし、入りましょう」
ひと通りやりとりが終わり、玄珠がドアベルを鳴らした。
「あらん、かわいいお客様ねぇ」
嗄れた声で女ことばを操る優男、衆来を前に紫苑は背中を撫で付けられるような、嫌悪感をぐっと押さえる。
「アポも取らずにすいやせん。このがきんちょがどうしてもスライムについて聴きてぇって言うから」
「衆来のおっちゃ……おねえさん。いろいろ教えてくだせぇ!」
心持ち、紫苑は鬼百合をかばうような仕草を見せる。
そして鬼百合の物言い。
衆来は研究者という肩書だが上流階級らしい。
すかさず玄珠が割って入り、おべっかを使う。
「日本国一のスライム専門家として話をお聞きしたいと思いまして」
「あらそぅ。いいわよん」
衆来の色目に、笑顔を崩さず玄珠は礼を述べる。
財閥の御曹司だけあって、礼節作法に玄珠は秀でていた。
「で、すらいむって何?」
あけすけに篝が聞き、玄珠は胃が痛みそうになる。
「失礼。スライムの習性、特性等教えてもらえますか?」
引き受けた手前、衆来は学説から持論まで細かく説明をしてくれた。
「流石衆来先生です」
そして、スライムへの陶酔っぷり、この口調や仕草……。
もしやと思いつつ、玄珠はかまをかける。
「どうでしょう、先生にも警備に加わっていただいては?」
「そうさねぇ」
警官である紫苑は考えるそぶりを見せた。即座に申し訳ないけど、と衆来は断りをいれた。
「その日は用事があるから行けないの」
そうですか、とあっさり玄珠は引き下がる。
代わりに、鬼百合が質問をする。
「せめて知恵だけでも……スライム化した男爵、手っ取り早く捕まえる方法ってぇありませんかねぃ?」
「スライム化する人間は初めて聞きましたし、新種のスライムではないかとも」
あれこれと話し始める中、篝が立ち上がる。
「そろそろ、わたしはおいとまするわ」
「俺もちょっとお手洗い借りてもいいですかね?」
合わせて、紫苑も立ち上がる。話は続けていいと告げて、退席する。
「あの人が、スライム男爵ね」
謎はすべて解けたといいたげな顔で、篝は宣言する。
紫苑も先ほどの協力要請の態度で、疑心を確信へと変えていた。
「わたしは石倉刑事に会いに行くわ」
元気よく去っていく篝を見送り、紫苑は探りに入る。
(盗んだものをおいてる場所とかも、どっかにありそうなもんですがねぇ……)
と思っていたところへ、スライムが姿を見せた。
こちらはお手洗いじゃないといいたげに、紫苑を案内しようとする。
「すいやせん、道に迷いやした」
紫苑は内心、抜け目がないようでさぁと毒づくのだった。
「侵入経路は予想できますか?」
「こっちかしら」
「……ということは、こっちのけーびを厚くしといた方がいいかもしれませんねぃ」
紫苑が戻ったとき、地図を広げて話し合いをしていた。
鬼百合が衆来に近づき過ぎないよう、間に入り紫苑も加わる。
「こっちの通気口が抜け道になっちまいますけど……仕方ないでさぁ」
軽妙な物言いで、鬼百合は嘘情報を流し込む。
「それにしても、美しいスライムですね。欠点など無いように思えます……」
さらに、さきほど紫苑を案内したスライムを見て玄珠が聞く。
「そうねぇ。そういってもらえると嬉しいのだけれど」
調子よく情報を引き出す交渉力の見せ所であった。
●
一方その頃、クロードとラシュディアはというと……。
「あ~、どうしていつもこうなるんですっ!? ホームズ的なクールな探偵になるはずですのに~!」
文明の街、東京にもスラム街が存在する。
ラシュディアは足元のゴロツキから、視線を天に移してなげいていた。
隣のクロードは、これもまた探偵っぽいけどなと思っていた。
二人の思いが微妙にずれているところへ、
「俺の獲物を取るとは一体何処の……」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が姿を現す。
クロードらを見て、ボルディアはため息をつくのだった。
「あ? 協力?」
クロードからあらましを聞き、ボルティアは露骨な表情を見せた。
「めんどくせぇ」と舌打ちするが、あきらめているらしい。
「わーってるよ、手伝う」
「それは、そうでしょうね」
ラシュディアの言葉に、ボルティアは髪をかき乱す。
「俺ぁてめぇらに協力しねぇと警察に突出されちまうからな、逆らわねえよ」
「素直じゃないね」
「あ?」
クロードの言葉に、ボルティアは凄むが言った本人はどこ吹く風だ。
ボルティアに裏の情報蒐集を頼み、クロードたちは去っていく。
「俺達は次へ行く。当日は頼むよ」
「わかったよ。さっさと、行きな」
ボルティアの出身は、南蛮。彼女は犬化し強力な力を発揮するが、その能力ゆえ故郷を追われた身だ。
東京でとある事件の際に、半田探偵事務所に捕えられた過去がある。
クロードらとは、そのときからの付き合いだ。
「さて、思う存分、力を使ってやるぜ」
彼女は、今の環境を気に入っていた。
能力を遺憾なく発揮できる半田探偵事務所は、まさしく自分の居場所だと思えるのだ。
●
「これだけ人員がいれば、安心ね」
「これだけ人員がいて、今まで逃げられているんだけどな」
並み居る警察の群れに、満足げな篝へ石倉刑事が水を差す。
睨まれたが、事実だとしかいいようがない。
「でも、それも今日までよ」
自信ありげに笑みを浮かべる篝の側で、紅緒が樽や長持ちを転がしていた。
「紅緒さん、それは?」
「お祖父様に頼んで用意してもらったの。とにかくどついて、押し込めてやるわ」
クロードの問いに、樽を足蹴にしながら答える。
紅緒の祖父は、任侠の初代を担った人物である。紅緒もその血を濃く受け継いでいた。
「スライムっつうのは、要はナメクジみてぇなもんでしょう」
「講義を聞いている限りでは、そうとも言い切れませんが」
塩をまく紫苑へ、玄珠が苦笑する。
しかし、衆来は言葉を濁していた。何かあるのだろうと思わなくはない。
それぞれ、効果的と思える罠を仕込む。
ボルティアは、とりもちを入り口出口に仕掛けていたりと、多種多様な出迎えだ。
「油断大敵、といいます。これだけの警備、罠ですが、決して侮らずにいきましょう」
この玄珠の言葉は、果たして、すぐに現実のものとなる。
カラカラカラ……。
「こいつぁ、オレの鳴子の音かい?」
四方から聞こえる音に、鬼百合が身構える。
我慢できない警察達が、どこだと叫びを上げながら走り回る。
「おい。そんなに動くと」
ボルティアが声をかけるが、すでに悲鳴に変わっていた。
「とりもち……遅かったか」
肩をすくめつつ、周囲を見渡す。
この状況、どこからスライム男爵が現れてもおかしくない。
「動くなっ」
そんな中、ラシュディアが一つの影へと疾走する。
視線の先のまるっこい体は、まさしく資料通りのスライム。
「動けば我が魔術の奥義を……ああ、こら、無視するな!」
だが、そのスライムはラシュディアを無視して中央の宝へ向かおうとする。
すぐさま詠唱をこなし、ラシュディアはスタッフを振るう。
「喰らえっ! ファイアアロー!」
射出された炎の矢が、スライムに襲いかかる。
その光景に警察関係者は肝を冷やし、スライムは焔に穿たれて蒸発した。
ラシュディアは魔術師の系譜を引いているのだ。
「げ、殺した……わけではないですよね」
狼狽するラシュディアをあざ笑うかのように、複数のスライムが姿を現す。
どうやら、これが囮スライムであるらしい。
「ぶっ飛べ!」
紅緒がすかさずスライムへと強撃を仕掛ける。
体勢が崩れたところへ、さらに吹っ飛ぶような一撃を畳み掛け樽に打ち込む。
「どんどん捕まえてやるわ」
蓋をして、動けなくして次へ向かう。
「って、玄珠さん。何を!?」
クロードは、玄珠が口へ小さなスライムを入れようとしてるのに驚いて声を上げた。
ハッと我に返った玄珠は打ちのめすようにスタッフで叩き落とし、ぷしゅしゅと潰れるのを確認する。
「すいません……何も考えてませんでした」
目を逸らしながら、玄珠はいう。必死なのだ、多分。
「ふ、奴の行動などお見通しです」とまたもやラシュディアがそれらしいことをいう。
「おい、どこぇいくんでさぁ!」と紫苑が声をかけるが、廊下の方へ飛び出していった。
「あれ、誰も来ませんね……おのれ怪盗め!」
勘が外れて、慌てて駆け戻れば、状況は山場を迎えていた。
「スライム男爵……いいえ、衆来博士。あなたの悪事もここまでよ!」
篝が、向こう側に立つ紳士風の男へ拳銃を向けていた。
仮面をしているが、出で立ちは衆来にしか見えない。だが、警察はお約束のごとく、スライム男爵が出たとしかいわない。
「仮面に、魔術でもしこんでんのかよ」
ボルティアにいわれては、警察も立つ瀬がない。
「これは分が悪いわねぇ」と面子を見て、スライム男爵はあっさり撤退を決め込む。
だが、逃がす訳にはいかない。
躊躇することなく、篝は引き金を引く。もちろん、威嚇射撃である。
それで立ち止まるなら、怪盗は要らないわけで……。
「逃がしませんぜ!」
鬼百合と紫苑が追いかける。
スライム化して窓へ向かおうとすれば、クロードが油を投げつける。
水と油ならぬスライムと油。するりと滑って思うようにいかない。
「そこまでです」と玄珠が放つ光の矢は辛うじて躱す。
「テメェにオレの一撃、受けられるかよぉ!?」
突進するようにボルティアが肉薄する。
さしもの男爵も避けた先では、動きが遅れる。
技もなにもない。渾身の力で攻撃をぶちかますだけだ。
軟体の体で力を受け流しつつも、確実にダメージが入っていた。加えて、紅緒が顔面……と思しき場所へ足蹴を入れる。
「ふっ飛べ!」
ピンボールのように、スライム化した男爵が転がっていく。
「はい、逃さないよ」とクロードがすかさず電流でしびれさせた。
そこへ、紫苑が塩をまく。
「ぐ、これは……塩!? 魔力が……」
スライム細胞を活性化させるために利用している魔力が、塩の効力で抜けていく。
動きが硬くなり、スライム化が解けていく。
「さて、悪い子はねんねの時間でさぁ」
トドメとばかりに、鬼百合が眠縛の陣を放つ。
悔しそうに眠りについた姿は、衆来へと戻っているのだった。
●
「謎はすべて解けたんでさぁ!」
「謎なんてありませんぜ?」
「あれ、違う?」
鬼百合の決め言葉に紫苑がすかさずツッコミを入れる。
その目の前で紅緒が男爵こと衆来を樽へ蹴り入れていた。
「後は、塩撒いておけばいいわよね」
「おう、いいね。どんどん入れておこうぜ」
ボルティアも調子に乗って、塩を足す。
二人して塩漬けにするかのように、塩も入れていた。
紫苑も綿の布で、より抜けにくくしておく。
「ほらっ、石倉刑事。あとでお洒落なカフェでご馳走してよ?」
篝は一仕事した満足感の中、石倉を小突いていた。
こっちは忙しいんだと、いいつつ約束する刑事がそこにいた。
「これが、宝ですか」
「そうらしいよ」
玄珠の問いに、クロードが答える。
事前にこれが宝だと知っていたクロードに驚きはない。
「これを作った人は、とんだ道楽だったのでしょうね」
呆れるような物言いは、自身の血筋を思ってのことか。
目の前にあったのは、スライムを模した金塊だったのだ。
スライムマニアには、喉から手が出るほど欲しいものなのかもね、とクロードも笑みを浮かべていた。
「これでいい……」
守りぬいた宝を見つめ、ラシュディアが意味ありげに呟く。
「だが」
「だが?」
クロードが思わず、振り向く。
「この宝を狙って、いつか第二第三のスライム男爵が……!」
そして、それと戦う格好いい探偵姿を思い描いているのだろうか。
一人頷くラシュディアの肩をクロードがぽんっと叩く。
「ほら、馬鹿言ってないで半田さんへの報告を手伝ってね」
「わかってますよ」
先を行くクロードをラシュディアは追いかける。
半田探偵事務所は、怪奇事件をいつでもお待ちしております。
ご用命は、銀座裏通りレトロビルまで……。
「スライム、ねぇ。あぁ、ナメクジみたいなもんだと思っておけばいいのか」
銀座裏通り、半田探偵事務所。
一階ロビーのソファに、クロード・インベルク(ka1506)は腰掛けていた。
資料を読む彼の前に、トレンチコートとハンチングを身にまとった青年が姿を現した。
「半田さんに呼ばれたのですが、俺に頼みですか?」
「ラシュディアさんも呼ばれたのか」
青年の名は、ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)。探偵小説の影響を受け、学業そっちのけで事件に首を突っ込みたがる留学生である。この格好は、学校の着こなしだが探偵っぽいと思っていたりする。
オカルトがらみの事件で、呼ばれることが多い。
「やれやれ、難事件のようですね」
資料を受け取り、目を通す。
ラシュディアが来たということは、一緒に回れということかとクロードは考えていた。
推理モノの文学好きのクロードと、同じく愛好家のラシュディアは時に見解の相違はあれど、同好の士だ。
そのため半田から半ば強制的に、コンビを組まされることが多い。
「行こうか」
「行くって、どこへ?」
「情報集め、それと人員確保かな」
二人が出て行った後、応接室から少女が飛び出してきた。
「スライム、ねぇ」
彼女は半田のライバルを名乗る探偵、紅緒(ka4255)である。
かつて女流名探偵と謳われた深泥ヶ淵蓮子の孫だ。
「面白そうね。あたしも手を貸してあげるわ」
半田のいる部屋へ視線を送り、尊大に宣言した。
手だけ出した半田が、勝手にやってくれとばかりに手を振る。
それを確認し、紅緒は思案顔で事務所を後にする。
「スライム相手なら、何が必要かしら」
「……」
彼女の後ろにうっすらと在りし日の蓮子が見えた。
蓮子が一礼したのに合わせて、半田も手指で幸運を祈るのだった。
●
「スライムねぇ」
道すがら呟くのは春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)、武士上がりの警官である。
このご時世に、女性警官は珍しい。彼女は見合うだけの実力があるのだ。
「で、鬼百合。お前も来んですかぃ」
「行くに決まってんでしょ。悪いやつはごようなんでさ!」
紫苑を見上げて啖呵を切るのは、鬼百合(ka3667)、ちびっこ探偵である。
小さいとはいえ、陰陽師の家系を継ぐ、術の使い手だ。
「仕方がないねぇ……角を曲がって」
お、と地図から顔を上げた先に二つの人影があった。
「なんでい、出揃ったてわけかい」
「あなたたちも来たのね」
人影の一つ、八原 篝(ka3104)が紫苑たちを見とめていう。
もう一人、紅屋・玄珠(ka4535)は「待っていました」と告げた。
「警察がいたほうが、通りがよいでしょう?」
「それは……そうね」
ちらりと紫苑を見上げたのは、
「お父上にはいいやしません。いつものことですねぃ」
篝は代々警察の家系。エライさんの父には首を突っ込んでいると、知られたくないのだ。
「よし、入りましょう」
ひと通りやりとりが終わり、玄珠がドアベルを鳴らした。
「あらん、かわいいお客様ねぇ」
嗄れた声で女ことばを操る優男、衆来を前に紫苑は背中を撫で付けられるような、嫌悪感をぐっと押さえる。
「アポも取らずにすいやせん。このがきんちょがどうしてもスライムについて聴きてぇって言うから」
「衆来のおっちゃ……おねえさん。いろいろ教えてくだせぇ!」
心持ち、紫苑は鬼百合をかばうような仕草を見せる。
そして鬼百合の物言い。
衆来は研究者という肩書だが上流階級らしい。
すかさず玄珠が割って入り、おべっかを使う。
「日本国一のスライム専門家として話をお聞きしたいと思いまして」
「あらそぅ。いいわよん」
衆来の色目に、笑顔を崩さず玄珠は礼を述べる。
財閥の御曹司だけあって、礼節作法に玄珠は秀でていた。
「で、すらいむって何?」
あけすけに篝が聞き、玄珠は胃が痛みそうになる。
「失礼。スライムの習性、特性等教えてもらえますか?」
引き受けた手前、衆来は学説から持論まで細かく説明をしてくれた。
「流石衆来先生です」
そして、スライムへの陶酔っぷり、この口調や仕草……。
もしやと思いつつ、玄珠はかまをかける。
「どうでしょう、先生にも警備に加わっていただいては?」
「そうさねぇ」
警官である紫苑は考えるそぶりを見せた。即座に申し訳ないけど、と衆来は断りをいれた。
「その日は用事があるから行けないの」
そうですか、とあっさり玄珠は引き下がる。
代わりに、鬼百合が質問をする。
「せめて知恵だけでも……スライム化した男爵、手っ取り早く捕まえる方法ってぇありませんかねぃ?」
「スライム化する人間は初めて聞きましたし、新種のスライムではないかとも」
あれこれと話し始める中、篝が立ち上がる。
「そろそろ、わたしはおいとまするわ」
「俺もちょっとお手洗い借りてもいいですかね?」
合わせて、紫苑も立ち上がる。話は続けていいと告げて、退席する。
「あの人が、スライム男爵ね」
謎はすべて解けたといいたげな顔で、篝は宣言する。
紫苑も先ほどの協力要請の態度で、疑心を確信へと変えていた。
「わたしは石倉刑事に会いに行くわ」
元気よく去っていく篝を見送り、紫苑は探りに入る。
(盗んだものをおいてる場所とかも、どっかにありそうなもんですがねぇ……)
と思っていたところへ、スライムが姿を見せた。
こちらはお手洗いじゃないといいたげに、紫苑を案内しようとする。
「すいやせん、道に迷いやした」
紫苑は内心、抜け目がないようでさぁと毒づくのだった。
「侵入経路は予想できますか?」
「こっちかしら」
「……ということは、こっちのけーびを厚くしといた方がいいかもしれませんねぃ」
紫苑が戻ったとき、地図を広げて話し合いをしていた。
鬼百合が衆来に近づき過ぎないよう、間に入り紫苑も加わる。
「こっちの通気口が抜け道になっちまいますけど……仕方ないでさぁ」
軽妙な物言いで、鬼百合は嘘情報を流し込む。
「それにしても、美しいスライムですね。欠点など無いように思えます……」
さらに、さきほど紫苑を案内したスライムを見て玄珠が聞く。
「そうねぇ。そういってもらえると嬉しいのだけれど」
調子よく情報を引き出す交渉力の見せ所であった。
●
一方その頃、クロードとラシュディアはというと……。
「あ~、どうしていつもこうなるんですっ!? ホームズ的なクールな探偵になるはずですのに~!」
文明の街、東京にもスラム街が存在する。
ラシュディアは足元のゴロツキから、視線を天に移してなげいていた。
隣のクロードは、これもまた探偵っぽいけどなと思っていた。
二人の思いが微妙にずれているところへ、
「俺の獲物を取るとは一体何処の……」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が姿を現す。
クロードらを見て、ボルディアはため息をつくのだった。
「あ? 協力?」
クロードからあらましを聞き、ボルティアは露骨な表情を見せた。
「めんどくせぇ」と舌打ちするが、あきらめているらしい。
「わーってるよ、手伝う」
「それは、そうでしょうね」
ラシュディアの言葉に、ボルティアは髪をかき乱す。
「俺ぁてめぇらに協力しねぇと警察に突出されちまうからな、逆らわねえよ」
「素直じゃないね」
「あ?」
クロードの言葉に、ボルティアは凄むが言った本人はどこ吹く風だ。
ボルティアに裏の情報蒐集を頼み、クロードたちは去っていく。
「俺達は次へ行く。当日は頼むよ」
「わかったよ。さっさと、行きな」
ボルティアの出身は、南蛮。彼女は犬化し強力な力を発揮するが、その能力ゆえ故郷を追われた身だ。
東京でとある事件の際に、半田探偵事務所に捕えられた過去がある。
クロードらとは、そのときからの付き合いだ。
「さて、思う存分、力を使ってやるぜ」
彼女は、今の環境を気に入っていた。
能力を遺憾なく発揮できる半田探偵事務所は、まさしく自分の居場所だと思えるのだ。
●
「これだけ人員がいれば、安心ね」
「これだけ人員がいて、今まで逃げられているんだけどな」
並み居る警察の群れに、満足げな篝へ石倉刑事が水を差す。
睨まれたが、事実だとしかいいようがない。
「でも、それも今日までよ」
自信ありげに笑みを浮かべる篝の側で、紅緒が樽や長持ちを転がしていた。
「紅緒さん、それは?」
「お祖父様に頼んで用意してもらったの。とにかくどついて、押し込めてやるわ」
クロードの問いに、樽を足蹴にしながら答える。
紅緒の祖父は、任侠の初代を担った人物である。紅緒もその血を濃く受け継いでいた。
「スライムっつうのは、要はナメクジみてぇなもんでしょう」
「講義を聞いている限りでは、そうとも言い切れませんが」
塩をまく紫苑へ、玄珠が苦笑する。
しかし、衆来は言葉を濁していた。何かあるのだろうと思わなくはない。
それぞれ、効果的と思える罠を仕込む。
ボルティアは、とりもちを入り口出口に仕掛けていたりと、多種多様な出迎えだ。
「油断大敵、といいます。これだけの警備、罠ですが、決して侮らずにいきましょう」
この玄珠の言葉は、果たして、すぐに現実のものとなる。
カラカラカラ……。
「こいつぁ、オレの鳴子の音かい?」
四方から聞こえる音に、鬼百合が身構える。
我慢できない警察達が、どこだと叫びを上げながら走り回る。
「おい。そんなに動くと」
ボルティアが声をかけるが、すでに悲鳴に変わっていた。
「とりもち……遅かったか」
肩をすくめつつ、周囲を見渡す。
この状況、どこからスライム男爵が現れてもおかしくない。
「動くなっ」
そんな中、ラシュディアが一つの影へと疾走する。
視線の先のまるっこい体は、まさしく資料通りのスライム。
「動けば我が魔術の奥義を……ああ、こら、無視するな!」
だが、そのスライムはラシュディアを無視して中央の宝へ向かおうとする。
すぐさま詠唱をこなし、ラシュディアはスタッフを振るう。
「喰らえっ! ファイアアロー!」
射出された炎の矢が、スライムに襲いかかる。
その光景に警察関係者は肝を冷やし、スライムは焔に穿たれて蒸発した。
ラシュディアは魔術師の系譜を引いているのだ。
「げ、殺した……わけではないですよね」
狼狽するラシュディアをあざ笑うかのように、複数のスライムが姿を現す。
どうやら、これが囮スライムであるらしい。
「ぶっ飛べ!」
紅緒がすかさずスライムへと強撃を仕掛ける。
体勢が崩れたところへ、さらに吹っ飛ぶような一撃を畳み掛け樽に打ち込む。
「どんどん捕まえてやるわ」
蓋をして、動けなくして次へ向かう。
「って、玄珠さん。何を!?」
クロードは、玄珠が口へ小さなスライムを入れようとしてるのに驚いて声を上げた。
ハッと我に返った玄珠は打ちのめすようにスタッフで叩き落とし、ぷしゅしゅと潰れるのを確認する。
「すいません……何も考えてませんでした」
目を逸らしながら、玄珠はいう。必死なのだ、多分。
「ふ、奴の行動などお見通しです」とまたもやラシュディアがそれらしいことをいう。
「おい、どこぇいくんでさぁ!」と紫苑が声をかけるが、廊下の方へ飛び出していった。
「あれ、誰も来ませんね……おのれ怪盗め!」
勘が外れて、慌てて駆け戻れば、状況は山場を迎えていた。
「スライム男爵……いいえ、衆来博士。あなたの悪事もここまでよ!」
篝が、向こう側に立つ紳士風の男へ拳銃を向けていた。
仮面をしているが、出で立ちは衆来にしか見えない。だが、警察はお約束のごとく、スライム男爵が出たとしかいわない。
「仮面に、魔術でもしこんでんのかよ」
ボルティアにいわれては、警察も立つ瀬がない。
「これは分が悪いわねぇ」と面子を見て、スライム男爵はあっさり撤退を決め込む。
だが、逃がす訳にはいかない。
躊躇することなく、篝は引き金を引く。もちろん、威嚇射撃である。
それで立ち止まるなら、怪盗は要らないわけで……。
「逃がしませんぜ!」
鬼百合と紫苑が追いかける。
スライム化して窓へ向かおうとすれば、クロードが油を投げつける。
水と油ならぬスライムと油。するりと滑って思うようにいかない。
「そこまでです」と玄珠が放つ光の矢は辛うじて躱す。
「テメェにオレの一撃、受けられるかよぉ!?」
突進するようにボルティアが肉薄する。
さしもの男爵も避けた先では、動きが遅れる。
技もなにもない。渾身の力で攻撃をぶちかますだけだ。
軟体の体で力を受け流しつつも、確実にダメージが入っていた。加えて、紅緒が顔面……と思しき場所へ足蹴を入れる。
「ふっ飛べ!」
ピンボールのように、スライム化した男爵が転がっていく。
「はい、逃さないよ」とクロードがすかさず電流でしびれさせた。
そこへ、紫苑が塩をまく。
「ぐ、これは……塩!? 魔力が……」
スライム細胞を活性化させるために利用している魔力が、塩の効力で抜けていく。
動きが硬くなり、スライム化が解けていく。
「さて、悪い子はねんねの時間でさぁ」
トドメとばかりに、鬼百合が眠縛の陣を放つ。
悔しそうに眠りについた姿は、衆来へと戻っているのだった。
●
「謎はすべて解けたんでさぁ!」
「謎なんてありませんぜ?」
「あれ、違う?」
鬼百合の決め言葉に紫苑がすかさずツッコミを入れる。
その目の前で紅緒が男爵こと衆来を樽へ蹴り入れていた。
「後は、塩撒いておけばいいわよね」
「おう、いいね。どんどん入れておこうぜ」
ボルティアも調子に乗って、塩を足す。
二人して塩漬けにするかのように、塩も入れていた。
紫苑も綿の布で、より抜けにくくしておく。
「ほらっ、石倉刑事。あとでお洒落なカフェでご馳走してよ?」
篝は一仕事した満足感の中、石倉を小突いていた。
こっちは忙しいんだと、いいつつ約束する刑事がそこにいた。
「これが、宝ですか」
「そうらしいよ」
玄珠の問いに、クロードが答える。
事前にこれが宝だと知っていたクロードに驚きはない。
「これを作った人は、とんだ道楽だったのでしょうね」
呆れるような物言いは、自身の血筋を思ってのことか。
目の前にあったのは、スライムを模した金塊だったのだ。
スライムマニアには、喉から手が出るほど欲しいものなのかもね、とクロードも笑みを浮かべていた。
「これでいい……」
守りぬいた宝を見つめ、ラシュディアが意味ありげに呟く。
「だが」
「だが?」
クロードが思わず、振り向く。
「この宝を狙って、いつか第二第三のスライム男爵が……!」
そして、それと戦う格好いい探偵姿を思い描いているのだろうか。
一人頷くラシュディアの肩をクロードがぽんっと叩く。
「ほら、馬鹿言ってないで半田さんへの報告を手伝ってね」
「わかってますよ」
先を行くクロードをラシュディアは追いかける。
半田探偵事務所は、怪奇事件をいつでもお待ちしております。
ご用命は、銀座裏通りレトロビルまで……。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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設定卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/04/07 19:44:46 |
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相談卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/04/08 05:41:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/08 07:04:27 |