• 不動

【不動】慟哭の叙唱 悪性開花し、人は惑う

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/04/02 22:00
完成日
2015/04/09 21:06

みんなの思い出

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オープニング

 敵の発見から僅か十数分。ダンテの微塵の迷いも無い指示により、王国連合軍は歪虚の群に突撃した。接触と同時に部隊は二つに分かれる。ダンテ自ら率いる血路を開く部隊と、敵の群の中央に位置するフレッシュゴーレムを狙う部隊だ。中央に向かった部隊の半分は途上現れた骸の壁に阻まれたものの、ジェフリー・ブラックバーン率いる残り半分は、敵陣中央へと激しく切り込んだ。群の中央。巨人達の輪の中にぽっかりと開いた空間に鎮座するのは、グロテスクな肉の塊であった。それは人の形をしていた。怠惰の巨人達よりも横に太く、どちらかといえば平均的なドワーフをそのまま巨大にしたようなシルエットだった。巨人は肉厚な曲刀と身を覆い隠すほどの盾で武装しているが、武器の凶悪さが霞むほどにその肉体が異様であった。ジェフリーが最初に連想したのは紐で固く縛ったハムであった。人の形をした入れ物に、むりやり人間の肉を押し込んだような外見だった。巨人の指は、一本一本が大人の腕でできていた。足は人の胴や腿を組み合わせてできている。そして体の至る所に生気を失った人の顔が埋め込まれていた。ジェフリーはフレッシュゴーレムを知識では知っていたが、過去の資料と比べても飛びぬけて趣味の悪い材料の使い方をしていた。
「副長、あれは…」
 騎士の1人が巨人の上方を指す。本来頭があるべき場所は平坦で何もなく、頭の代わりに人が足を組み腰掛けていた。いや、人ではない。逆光で見えなかったが、その人物は服を着た骸骨であった。王国貴族の華やかな正装をまとい、金のかつらを被ったしゃれこうべ。眼窩には青い光を灯し、地上を悠然と見下ろしている。騎士達の視線に気づいたのか。髑髏の人物は立ち上がり、シルクハットを取って優雅な仕草でお辞儀をした。
「紳士淑女の皆々様、ようこそおいでくださいました! 私はラトス・ケーオと申します。偉大なるレチタティーヴォ様の元で「作曲家」を務めております」
「レチタティーヴォ……だと」
 嫌な名前だ。阮妙純(グェン・ジェウ・トゥアン)ら、リアルブルー出身のハンターは怪訝な顔をしているが、王国の騎士達は揃って怒気を露にしていた。レチタティーヴォは王国で歪虚が起こした幾つかの少なくない事件の黒幕として名が挙がる人物だ。その被害は深刻であり、王国は何年もこの歪虚を追っているが足取りすら掴むことができていない。彼の部下は目の前のラトスのように決まって彼の名前を高らかに謳いあげるが、本人が現場に現れることが無いために未だに正体不明のままである。
「演目の開幕を飾りますのは、我らが楽団の歌い手達による合唱でございます。極上の痛みと嘆きに彩られた旋律、どうぞ心行くまで御堪能くださいませ!」
 口上が終わると同時に銃声が響いた。撃ったのはトゥアンであった。怒りで目が据わっており、正面に立てば大の大人でも竦むような鬼気迫る顔をしている。ラトスの衣装に穴は開いたが、本人は欠片もダメージを受けた気配は無い。
「おい、てめえ……」
「はい、如何いたしましたか?」
「なんだそのでかぶつは……! なんでテッドの顔がついてやがんだ!? あぁっ!?」
 表情の無いはずのラトスに相貌に、喜悦の色が見える。膨れ上がる怒りの気配に高潮すらしているようだった。眼窩に光る青い光が妖しく揺らめいている。
「これはこれは……。そちらのお嬢さんの御友人でしたか。この歌い手達はマギア砦にて御招待申し上げました」
「マギア砦だと……」
 言われてジェフリーは付いている顔の一つ一つを見た。そこには確かにマギア砦に出陣し、帰って来なかった者の顔が浮かんでいた。トゥアンが指しているのもハンターの仲間の者だろう。
「上等だクソが! もう一度死にてえってんならそうしてやる!!」
 トゥアンは切れた事を隠しもせず、赤の隊顔負けの手の早さで弾が尽きるまで撃ち続けた。しかし、ラトスに変化はない。ラトスはトゥアンが銃を撃つのを止めるまでたっぷりと待ち、そこから手を翻した。
「皆様、暖かい拍手をありがとうございます! それでは楽団による合唱をお聞きください。曲の演奏は私、ラトス・ケーオが行います」
 言ってラトスが引き出したのは、人の大腿骨で出来た悪趣味な笛であった。ラトスが笛を吹くと響き渡る重低音がマテリアルに干渉し、重圧となって騎士達に圧し掛かる。何か来ると構えていた騎士とハンターだが、思わず武器を取り落とす者さえ居た。
「ぐぅっ……!」
 笛の音に重ねるように巨人の肉塊についた頭もそれぞれが不協和音となる陰鬱な声を発し始める。巨人に近い者ほどその波動に苦しめられた。
「!?」
【歌】を歌いながらもゴーレムは動き始めていた。頭を抑えて苦しむトゥアンに、肉塊は肉厚の曲刀を振りかぶる。間一髪。側にいたアーノルドがトゥアンを突き飛ばした。
「! アーノルド!!」
 突き飛ばしたアーノルドは曲刀を盾で弾いていたが、衝撃に耐え切れず鎧ごと腕がひしゃげていた。片手で斧を構えるアーノルドだが、既に戦力は半減している。出血が多く、長くは立っていられないだろう。
「散開!」
 ジェフリーは命じながらハルバードを振りかぶり太股を狙う。単調で直線的ながらも必殺の速度で振るわれたそれは、しかし振り返った巨人の盾で防がれる。
「ちっ……」
 木偶かと思えばなかなかどうして武芸達者だ。だがここまで来て引き返せるわけもない。こいつはここで殺さねばならない。でなければこの進路に住む村民は、この醜悪な巨人と同じ末路に成り果てるだろう。
「仕留めるぞ! 続けぇ!!」
 再びハルバードを構え、ジェフリーは巨人へと攻めかかる。包囲したハンター達は遅れじとその攻勢に続いた。

リプレイ本文

 不穏の気配は収まる気配なし。乾いた空気の中、ケタケタと耳障りな髑髏の笑い声が響く。しかし人の生を呪う歌声は、既に戦士の耳には届かなくなっていた。
「哀れな。死ぬことも生きることも出来ぬあれこそ哀れの極みだ」
 薬師神 流(ka3856)が刀を抜き放つと、刀は武者震いするように低い音を放つ。周りの者も次々と武器を抜き放つ。鳴神 真吾(ka2626)は悠然と構えたままのラトスを見据え、まっすぐに指差した。
「ラトス・ケーオ! ただ玩ぶことだけを目的とする貴様だけは許せるものか!」
「これは心外な。出番を終えた者達に再び光を当てているのです。我が主に感謝していただきたいところですよ」
「御託は良いんだ。さっさと始めようぜ」
 慇懃無礼に挑発を繰り返すラトスにトゥアンの怒りは抑えがたい所まで来ていた。エリス・ブーリャ(ka3419)は1人で突っ込もうとするトゥアンの肩に手をかける。
「グエンちゃんが怒るのもわかるけどさこのままテッドさんのゴーレムが人を襲うのも悲しくない?」
 怒りに水を差されたトゥアンは殺意の篭った眼差しのままエリスに振り返った。
「ここはエルちゃんに任してさ、弔いの意味も持ってやっつけちゃおうよ」
 このまま突出させては危ない。それは彼女なりの気遣いだったが、通じるような相手ではなかった。
「黙れ。てめえが先でも構わねえんだぞ?」
「トゥアン!」
 騎士アーノルドの声が響く。アーノルドはアティ(ka2729)のヒールを受けているが、片腕は元に戻すほどの時間はなさそうだ。トゥアンはアーノルドにちらりと目線をやると、いつの間にか抜き放っていた銃を舌打ちと共に懐に収めた。声が遅れていれば本気で仲間を撃ったかもしれない。
「時間がもったいない。その怒りはこのままぶつけたほうが良い」
 ジュード・エアハート(ka0410)は馬上で弓を構えなおす。
「それに……」
 頭に来てるのは彼だけではない。誰もが多少の差異はあれ、醜悪な蛮行に抑えがたい怒りを抱いていた。
「アティさん、援護を!」
「わかりました」
 先制攻撃とばかりに飛び込む日高・明(ka0476)にアティはプロテクションをかける。
「ジェフリー殿、奴を包囲し波状攻撃を!」
「おう!」
 ユナイテル・キングスコート(ka3458)と入れ替わり、ジェフリー・ブラックバーン(kz0092)は馬に飛び乗った。攻勢が始まるやいなや、ラトスも笛を構えて先程と同じ重低音を響かせた。前列に立った日高やシエラ・ヒース(ka1543)、ユナイテルはそれだけで意識が霞むのを感じた。
「耳栓ではどうにもならんな」
 薬師神は試しに耳を指で塞いでみるが、ラトスの音波攻撃が弱まったようには感じなかった。媒介するものが音であり、受信装置となる耳が影響を受けやすいのは確かだが、人体の別の部位に音が到達していないわけではない。こうなれば当初の予定通りより大きな音で誤魔化す他ない。
「行くわよ。音には音ね」
 シエラは腕を振るう。腕にとりつけたハンドベルから涼やかな音色が響く。
「それじゃあ私も!」
 距離をとったエリスは大きく息を吸い込み、朗々とした口調で歌を歌い始めた。二つの音色が戦場に涼やかな気配を運んでくる。しかし…。
「これは! なんと美しい音色でしょう。私達も負けてはおれませんよ。さあさあさあ!」
 ラトスが指揮するように腕を振ると、ゴーレムの顔が更に大きな声で禍々しい音を発し始めた。音の勢いはすさまじく、シエラの鈴もエリスの歌もたちまち聞こえなくなった。しかもゴーレムには余裕があり、まだ動き出していない頭部すらあった。楽団と名乗ったのは伊達ではない。二人の小さな抵抗は呆気なく塗り替えられていく。だがハンター達は、まだ全ての札を切ってはいなかった。円形に囲むハンターの後方より突如閃光が走り、轟音と共に飛ぶ光る矢がラトスのマントを切り裂いた。音の正体は、ジュードの持つ大弓「吼天」の咆哮だった。
「我が弓は天に吼ゆる光の弓。禍々しい一切を打ち払い討ち落とす!」
 矢が放たれるたびに音はかき消される。全てではないが笛の音から来る苦しさは軽減されていた。矢が直撃する度にゴーレムに植えられた顔が苦悶の声を上げる。ジュードはその声を聞きながら、ぎりと歯を噛みあわせた。あれは自分が背負うべき魂達だ。このままになどしてはおけない。ジュードは力の限り矢を引き絞った。
「さっさと終曲にしてあげるよ、糞作曲家」
 ジュードは間髪入れずに次々と矢を放つ。目に見えて笛の音の効果は弱まっていた。
「よし、仕掛ける!」
 日高の合図でアティが道を譲る。日高は助走して勢いをつけながら槍を構えてゴーレムに迫る。他方、ユナイテルも槍を構えて別方向から迫った。ランスチャージは命中すればそれだけですさまじい衝撃だ。通常のゴーレムであれば回避も難しいだろう。しかしこの巨人は機敏だ。軽やかな動きでユナイテルの突進をかわし、曲刀をふるって日高の突進を受け流す。それだけではなくラトスは至近距離から音波攻撃を仕掛けてくる。笛の音を聞いたと思った次の瞬間には、日高は体に強い痛みと痺れを感じていた。
「ぐっ……」
 危うく槍から手を離すところだったが、側にいたジェフリーに支えられ武器を取り落とすことはなかった。敵は素早い。鈍重なゴーレムと思い攻めては何度やっても結果は変わらないだろう。まずは足止めが必要だった。
「俺に任せろ」
 近接武器から間合いをとっていた鳴神が銃撃を開始した。他の仲間と違い攻撃は単調で狙いも胴体中央ばかり。巨大な盾で容易に防ぐことが出来る。結果、盾の動きが止まった。
「なるほど! 真吾ちゃん頭良い!」
「ちゃん!?」
 驚いた鳴神の抗議をエリスは無視。距離を保ちながら機導砲を撃ち確実にダメージを与えていく。その間、シエラは空白となった反対方向からゴーレムへ突撃した。彼女の烈光旋棍が威力を発揮するのは密着する距離だ。
(それに、盾の裏側に入りさえすれば…向こうはやりづらいはず)
 シエラは思惑通り盾の内側に飛び込んだ。そして 烈光旋棍を振り下ろすが……。
「!!」
 目の前に膝があった。狭い場所でかわすこともできず、シエラはゴーレムの膝蹴りで突き飛ばされた落馬したそこは変わらずゴーレムの殺傷範囲だ。シエラが意識を取り戻すよりも早く、巨人はシエラを容赦なく踏みつけた。
「…………!!!」
 肺を圧迫され声も出ない。ゴーレムの素材が石や鉄であればこの時点で絶命してもおかしくなかったかもしれない。
「シエラちゃん!!」
 エリスは続けざまに機導砲を撃つ。ゴーレムの体は確実に削れているが怯む様子は無い。焦るエリスだが、その横を薬師神が駆け抜けた。
「ならばこれでどうだ!」
 薬師神は動かないのをこれ幸いにと、オートMURAMASAを太い足目掛けて横薙ぎに振るった。肉が抉れ血がしぶく。痛覚など無いかのように振舞っていた巨人が、慌てて薬師神を追い払うように曲刀を振るった。足があがり巨人が後退すると、ユナイテルがシエラを引き上げる。逃がすまいとゴーレムは曲刀を振りおろすが…。
「させません!」
 ユナイテルはカイトシールドを構え、曲刀を受け止める。衝撃は殺しきれなかったがユナイテルは姿勢を崩すことは無く、足であるゴースロンは衝撃に耐え切った。
「どこを見ている。それっ!」
 向き直った薬師神はオートMURAMASAを切り替えし、曲刀を振りぬいた巨人の手首を狙った。巨人は素早く手を引っ込めその一撃は回避したものの、一歩下がった為に体勢が崩れて鳴神の銃弾を受けた。直撃した部位から体液が飛び散った。
「やはり手足を失うのは怖いか」
 武術において「如何に殺すか」という命題は、如何に戦闘力を奪うかという方法論につながる。この巨人に腱はない為に腕を切ったから即座に腕が使えなくなるという事は無いが、切り落としてしまえば同じことである。幸い人間の肉を多用されたゴーレムの防御力は大したことはなく、薬師神の振るった刀はいとも簡単に肉を抉った。素材を修復をする術も持たないため、ダメージを受けた箇所はそのまま醜く体液を撒き散らすだけだ。
「何のことは無い。皆、足と腕を狙え!」
「了解だ!」
 鳴神が再び単調な射撃を開始する。先ほどと同じ流れだがゴーレムにこれを回避する術は無かった。ラトスの笛の音が響くが、10秒に1発の間隔で放たれるジュードの矢が悉く無効化していく。至近距離ならば笛の効果もあるが、もはや恐れるほどの効果は発揮していない。ハンター達は短い時間でゴーレムを追い詰めつつあった。ゴーレムは素材の脆弱さを大型の盾・足の速さ・主であるラトスの妨害によって補っていたが、その全てが封じられてしまっている。対してゴーレムはハンターを追いかけることが出来ずに狙いが定まらない。ラトスは状況を見て顎に手を当てる。楽曲を妨害されるのは流石に堪えたらしい。
「いやはや……。音楽を解さぬ無粋なお客様が居られるようです。退場頂かなければなりませんね! そうでしょう、楽団の皆さん!」
 ラトスに答えて満身創痍の巨人は一際に大きな咆哮を上げた。何かあると周囲の者は身構えるが、巨人の狙いは周囲のハンターではなかった。巨人は大きく曲刀を振りかぶるとたった一つしかない武器をジュード目掛けて遠投した。
「!?」
 反応する間もあればこそ。緩やかに回転して飛ぶ曲刀はジュードの上半身に直撃した。咄嗟に大弓を防御に使うが受けきれるものではなく、軌道を逸らして致命傷を避けるので精一杯だった。白い鎧の丸みは刀を弾くが、凄まじい衝撃で鎧は砕ける。左腕がもげなかったのが不幸中の幸いだったろうか。ジュードは衝撃で馬から転げ落ちる。仲間を助けるべくアティが馬を走らせるが、巨人のほうが一歩早かった。巨人は追いすがるほかのハンターを完全に無視し、最も目障りだったジュード目掛けて一直線に進んでくる。
(……死ぬのか?)
 武器は無いとは言っても、拳が直撃すれば命はないだろう。逃げるか? いや、それも難しい。ラトスが笛を構えながらこちらを見ている。音波と拳、両方をかわすのは不可能だろう。明確な死のビジョンがジュードの心を冷やしていく。せめて弓が健在なら。そう思った刹那、大弓「吼天」の放つ轟音が響き渡り、光る矢がゴーレムの肩口に直撃した。
「!?」
 流石のラトスも驚いたようで動きが止まる。既にその武器は封じたはず。一体誰が?ラトスが見たのはクロフェドが壁を作った側、100m向こうでは骨の壁を抜けたハンターの1人が、大弓を構えていた。気づいた時には既に光を放つ第2撃が迫っていた。轟音が再び鳴り響く。ゴーレムは盾でその矢を弾くが、完全に足を止めていた。
「ジュードさん!!」
 アティが馬上から手を差し伸ばす。ジュードはその腕を掴み、勢いに引きずられるままアティの後ろへと飛び乗った。アティとジュードを乗せた馬が走り去った後、遅れてゴーレムの拳が地面を抉る。
「もうこれ以上好き勝手させないんだから!」
 背を向けていたゴーレムに追いついたエリスが機導砲を放つ。光が背中を焼き、ゴーレムの上体が傾いだ。既に片手を地面についており、盾の取り回しも間に合わない。ここが好機と日高とユナイテルは再びランスチャージを敢行した。
「これで終わりだ!」
「覚悟するのですね!」
 2本の槍はゴーレムの左右の足を捉えた。槍は深く肉を抉り突き抜ける。抜けなくなった槍を放棄して2人が離脱する頃には、両の足が根元から折れ始めていた。
「これは……!」
 ラトスの驚愕の声が聞こえる。再び妨害に笛の音を奏でようとするが、吼天が彼を狙い続けているため思うように演奏ができない。倒れた巨人はまだ立ち上がろうとするが、ハンターがそれを許すことはなかった。
「もう終わりだ!」
 鳴神は馬から飛び降りると立ち上がろうとするゴーレムの胸に痛烈な蹴りを見舞った。体勢の整わないゴーレムは再び地に伏す。鳴神はゴーレムの前に立ち、右手の銃を高く掲げた。銃を媒介にマテリアルは光になり、伸びた光は剣となった。
「眠れ、死者達よ! マテリアル……セイバァァァァッ!!!」
 振り下ろされた光はゴーレムの体を真っ二つに断ち割る。そこに何らかの仕掛けがあったのか、半分に断ち割られたゴーレムは動き出すことはなかった。
「嗚呼。歌い手の声が枯れてしまいました。本日はこれにて閉幕のようです」
 ラトスは軽快な足取りで肉の山を上ると、帽子を脱いで恭しく周囲にお辞儀をした。だが状況が終了したわけではない。ハンター達の視線は変わらずラトスを捉えている。
「まあ待て。センスの無い出し物を見せられたのだ。もう少し遊んでいけ」
「センスが無いとは酷い。しかしその評価も芸術家として甘んじて受けましょう」
「酷くはない。逆から名前を読む程度の手合いだからな」
 じりじりと間合いを詰めながら薬師神が凄んだ。しかしラトスは変わらず余裕の所作でいる。
「逃がさないぞ、ラトス・ケーオ!」
「ははは。申し訳ありませんがまだこの後も予定が残しております。それに演目はまだ始まったばかり。再び見えることもありましょう」
 ラトスは懐からステッキを取り出すと、肉の山に突き立てた。
「皆様が最高のフィナーレを迎えることができますようお祈りしております。それでは皆様ご機嫌よう!」
 突如として肉の山から血が一斉に吹き出した。さながら噴水のように血が撒かれ、ハンター達の視界を一瞬塞ぐ。霧となった血が晴れる頃には、ラトスは既に姿を消していた。後に残ったのは、素材となった大量の死体の残骸だけであった。
「胸糞悪い……ぜ」
 日高は徐々にほどけていく遺体を眺めながら強く拳を握り締めた。
「何だってむごいことを……」
「それが彼らの存在意義なのかもしれません」
 アティは馬を降りて跪き、葬送の聖句の一節を謳いあげた。朗々と響く声を聞きながら、ジュードは小さな違和感を覚えていた。
「何かがおかしい……」
「え、何が?」
「これだけの遺体を集めて、結局何がしたかったんだろうって」
 彼らの悪趣味と言ってしまえばそれまでだが、それだけではない気がする。怒りを誘うためとも考えられたが、目的は見えない上にお粗末すぎるだろう。
「……それもそうよね」
 エリスはその違和感を理解したが、正体までには思い至らなかった。ラトスは言った。これは開幕であると。ならばこれは何らかの布石であり、彼らの計画には続きが有る。
「何事も無ければ良いけど」
 他の戦線の仲間達が集まってくる。不穏な空気を抱いたまま、彼らは消えた作曲家の足跡を眺めていた。

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MVP一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハートka0410
  • ヒーローを目指す者
    鳴神 真吾ka2626
  • 歩む道に、桜
    薬師神 流ka3856

重体一覧

  • 縁を紡ぐ者
    シエラ・ヒースka1543

参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 挺身者
    日高・明(ka0476
    人間(蒼)|17才|男性|闘狩人
  • 縁を紡ぐ者
    シエラ・ヒース(ka1543
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • ヒーローを目指す者
    鳴神 真吾(ka2626
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 混沌系アイドル
    エリス・ブーリャ(ka3419
    エルフ|17才|女性|機導師
  • いつも心に盾を
    ユナイテル・キングスコート(ka3458
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 歩む道に、桜
    薬師神 流(ka3856
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ジュード・エアハート(ka0410
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/04/02 21:52:28
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/02 01:29:51