ゲスト
(ka0000)
乙女の想いは歌に抱かれて天へ往く
マスター:あまねみゆ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~12人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2014/07/03 19:00
- 完成日
- 2014/07/29 14:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
吟遊詩人がとある町にふらりと立ち寄ると、丁度町をあげてのお祭り騒ぎの最中だった。聞けば町長の娘がどこぞの下級貴族に見初められ、後妻として嫁入りするらしい。町長は多額の支度金と貴族と縁続きになれることを喜んで、町を上げて祝わせているのだという。
丁度よい機会だと町中で歌っていた吟遊詩人だったが、町長に呼ばれて町長宅で歌声を披露した。披露した祝いの歌は町長のお気に召したらしく、多めの報酬をもらって宿屋に戻ろうとした時、引き止められた。嫁ぐ予定の娘が、眠りにつくまで吟遊詩人に歌を歌って欲しいのだと。
少女の兄を同席させることを条件に、町長は娘の最後のわがままとしてそれを許した。
町長は町の者達と夜通し祝い酒を飲みにでかけ、町長夫人も夫の給仕や介抱の為に付き添って出かけていった。町長の子どもたちしか残っていない家の中、娘の部屋に呼ばれた吟遊詩人は予想外のお願いをされたのである。
「吟遊詩人様、どうか、私とイザイヨの恋を、私の想いを歌にしてください。
嫁ぐことには了承しています。けれどもこのままでは、私の、私達の想いがかわいそうで……。
名を伏せて、名を変えてでも、私達の恋が吟遊詩人様の歌の中だけでも成就してくれるのなら、私に思い残すことはありません」
涙ながらに語る娘の名はフィオレ。付き添う兄もこの恋については知っているのだろう、フィオレとともに頭を下げてきた。
聞けばこっそり育んできた愛は貴族の元へ嫁ぐことに決まった時に両親の知るところになり、イザイヨは町を追い出されてしまったのだという。
娘の側から見れば不憫な話ではあるが、吟遊詩人にはそれを覆す力はない。承諾して、二人の恋の物語を記憶に刻むことしかできなかった。
そしてフィオレは豪奢な馬車に出迎えられて、貴族の元へと嫁いでいったのである。
これは数日前の出来事。
* * *
「え? 狙われてる……?」
「はい」
この日ハンターオフィスを訪ねてきたのはエルフの男性だ。長い髪を軽く結って垂らしている。聞けば、吟遊詩人として旅をしているとのこと。
「何か心当たりは……というか、なにかやったんですか?」
まさか、と訝しげな表情を浮かべる職員に、彼、クリストフェル――クリスは苦笑しつつ首を振った。
「視線を感じるようになったのは、王都に入ってからなんです。幸い人通りの多い場所を歩くようにしていましたし、部屋をとっている宿の1階の食堂兼酒場で歌わせてもらってるので、夜道を出歩くこと無く済んでいたのですが……やはり、視線を感じるんです。見張られているような……狙われているような」
「うーん、旅をなさっているんでしたよね。次に王都に向かうこと、誰かに話しました?」
職員の問いに少し考えるように首を傾げるクリス。頭に巻いた飾り布についている石がふれ合って、しゃらりと音を立てた。
「ああ、ここに来る前に寄った町を出る時に、宿屋の方に次は王都へ向かうつもりですとお話しましたね」
「ふむふむ……その町から誰か追いかけてきたんですかね? でもだったらすぐにクリスさんの前に姿を現せばいいだけですよね。なのに……ちょっと気持ち悪いですねぇ」
「ええ、だから、囮になるつもりです。あちらがもし私を狙っているのでしたら、少人数で野宿をしている時に仕掛けてくると思うのです」
クリスもハンターではあるが、相手の数も目的もわからない状態で一人で対峙する愚かさはない。自分の力量がそれほど高くないことも自覚している。複数の相手に一人で対処できるとも思えないから、依頼をしに来たのだろう。
「私と一緒に見えない敵をおびき出してくれる人を探しています。 相手が油断するよう、野宿がてら歌と演奏を披露しようと思います。もし歌や演奏、踊りなど得意な方がいらっしゃるなら、披露してくださると嬉しいです」
* * *
「ああ、フィオレとイザイヨの事が万が一バンデラス様のお耳にでも入ったら! 離縁されるだけでなく支度金を返せと言われるかもしれない! まさか、フィオレが吟遊詩人に話すとは……」
あの夜、忘れ物をとりに家へ戻ってきた町長夫人は扉の外から偶然話を聞いてしまったのだった。すぐに夫に報告しなかったのは娘の気持ちもわかるからであったが、やはりなにか起こってからでは遅いと判断し、夫に報告した。しかし吟遊詩人――クリスはすでに旅立った後。
「あの吟遊詩人は王都へ行くと言っていたそうだ。なんとかヤツの口を封じなくては……」
「あなた……」
「人を雇おう。ちょっと出てくる」
「あなたっ……!」
乱暴に扉を閉める夫の背を見つめ、夫人は自分のしたことが正しかったのだろうかと自問自答したのだった。
丁度よい機会だと町中で歌っていた吟遊詩人だったが、町長に呼ばれて町長宅で歌声を披露した。披露した祝いの歌は町長のお気に召したらしく、多めの報酬をもらって宿屋に戻ろうとした時、引き止められた。嫁ぐ予定の娘が、眠りにつくまで吟遊詩人に歌を歌って欲しいのだと。
少女の兄を同席させることを条件に、町長は娘の最後のわがままとしてそれを許した。
町長は町の者達と夜通し祝い酒を飲みにでかけ、町長夫人も夫の給仕や介抱の為に付き添って出かけていった。町長の子どもたちしか残っていない家の中、娘の部屋に呼ばれた吟遊詩人は予想外のお願いをされたのである。
「吟遊詩人様、どうか、私とイザイヨの恋を、私の想いを歌にしてください。
嫁ぐことには了承しています。けれどもこのままでは、私の、私達の想いがかわいそうで……。
名を伏せて、名を変えてでも、私達の恋が吟遊詩人様の歌の中だけでも成就してくれるのなら、私に思い残すことはありません」
涙ながらに語る娘の名はフィオレ。付き添う兄もこの恋については知っているのだろう、フィオレとともに頭を下げてきた。
聞けばこっそり育んできた愛は貴族の元へ嫁ぐことに決まった時に両親の知るところになり、イザイヨは町を追い出されてしまったのだという。
娘の側から見れば不憫な話ではあるが、吟遊詩人にはそれを覆す力はない。承諾して、二人の恋の物語を記憶に刻むことしかできなかった。
そしてフィオレは豪奢な馬車に出迎えられて、貴族の元へと嫁いでいったのである。
これは数日前の出来事。
* * *
「え? 狙われてる……?」
「はい」
この日ハンターオフィスを訪ねてきたのはエルフの男性だ。長い髪を軽く結って垂らしている。聞けば、吟遊詩人として旅をしているとのこと。
「何か心当たりは……というか、なにかやったんですか?」
まさか、と訝しげな表情を浮かべる職員に、彼、クリストフェル――クリスは苦笑しつつ首を振った。
「視線を感じるようになったのは、王都に入ってからなんです。幸い人通りの多い場所を歩くようにしていましたし、部屋をとっている宿の1階の食堂兼酒場で歌わせてもらってるので、夜道を出歩くこと無く済んでいたのですが……やはり、視線を感じるんです。見張られているような……狙われているような」
「うーん、旅をなさっているんでしたよね。次に王都に向かうこと、誰かに話しました?」
職員の問いに少し考えるように首を傾げるクリス。頭に巻いた飾り布についている石がふれ合って、しゃらりと音を立てた。
「ああ、ここに来る前に寄った町を出る時に、宿屋の方に次は王都へ向かうつもりですとお話しましたね」
「ふむふむ……その町から誰か追いかけてきたんですかね? でもだったらすぐにクリスさんの前に姿を現せばいいだけですよね。なのに……ちょっと気持ち悪いですねぇ」
「ええ、だから、囮になるつもりです。あちらがもし私を狙っているのでしたら、少人数で野宿をしている時に仕掛けてくると思うのです」
クリスもハンターではあるが、相手の数も目的もわからない状態で一人で対峙する愚かさはない。自分の力量がそれほど高くないことも自覚している。複数の相手に一人で対処できるとも思えないから、依頼をしに来たのだろう。
「私と一緒に見えない敵をおびき出してくれる人を探しています。 相手が油断するよう、野宿がてら歌と演奏を披露しようと思います。もし歌や演奏、踊りなど得意な方がいらっしゃるなら、披露してくださると嬉しいです」
* * *
「ああ、フィオレとイザイヨの事が万が一バンデラス様のお耳にでも入ったら! 離縁されるだけでなく支度金を返せと言われるかもしれない! まさか、フィオレが吟遊詩人に話すとは……」
あの夜、忘れ物をとりに家へ戻ってきた町長夫人は扉の外から偶然話を聞いてしまったのだった。すぐに夫に報告しなかったのは娘の気持ちもわかるからであったが、やはりなにか起こってからでは遅いと判断し、夫に報告した。しかし吟遊詩人――クリスはすでに旅立った後。
「あの吟遊詩人は王都へ行くと言っていたそうだ。なんとかヤツの口を封じなくては……」
「あなた……」
「人を雇おう。ちょっと出てくる」
「あなたっ……!」
乱暴に扉を閉める夫の背を見つめ、夫人は自分のしたことが正しかったのだろうかと自問自答したのだった。
リプレイ本文
●
道中は、晴れ晴れとした陽気に相応しい賑やかなものとなった。晴天の下、それに勝るとも劣らない晴れやかな声が響く。
「クリスさん、あなたの依頼は名探偵であるこの私が解決してみせます! 事件の裏にいる黒幕を暴き、その邪悪な企みを阻止します!」
「……は、はい」
立ち上がり、胸を張って言った月詠クリス(ka0750)の声だ。『自称』名探偵の彼女は、秘された真実に興奮しているよう。
「うん、この際だからすっきりさせましょう!」
ソナ(ka1352)もほんのりと笑みを返しながら、続けた。
「クリスさん、何か心当たりはありますか?」
「それが、王都で何かした覚えは無いんです」
記憶をたどりながら、困り顔のクリストフェル。
「前の町でも、何も?」
「……ふむ」
ソナの重ねての問いに、クリストフェルは僅かに考えこんだ。
「確証は、ありませんが」
そうして、逡巡した後に話し始めた。
一つの恋の、終わりの物語を。
●
「歌の中だけでも想いを添い遂げたい……か。愛し合っている二人を引き裂くなんて、神様は時に残酷です」
二人の失恋と、そこから生まれた願いを聞き終えると、藤宮 真悠(ka1877)が言う。
切り揃えられた前髪が心中を描くように、揺れる。ソナの表情もどこか、憂いの色を含んでいた。
「報われなかった恋、か」
霧雨・秋人(ka2016)の呟きは小さく、彼の足元に落ちた。秋人は恋に疎い。だが、その尊さは分かる。彼の顔見知りである所の真悠、そしてソナの様子からもそれが解った。
――護ろう。
言葉にはせずとも、秋人はそう思った。こうやって生まれる悲しみを祓うために自らの剣を振るおうと。
そこに。
「ふむ……まだ、情報が足りないですな」
神妙な声が響いた。月詠だ。深く思索しながらの言葉であった。
「……えっ?」
それまで我関せずと歩いていた少年――レイン(ka2287)が小さく驚きを返した。眼を包帯で覆ってはいるが、その奥で瞳が見開かれている気配が零れた。他の面々も程度の差はあれ、一様に驚きを隠せないようであった。
「月詠さん?」
「しかし、予感はあります……この事件、私が必ずや解決してみせましょう!」
「……凄いですね」
小さく溜息を付くソナと陽気に胸を張る月詠に対して、ルシア・ヴァンハイム(ka2023)は微笑んだ。
月詠の背をそっと撫でながら、
「何故狙われるのか、囮が成功すればその答えも分かるでしょう……」
そう言って、場を締めた。
●
一同はそのままゆるゆると歩き、野営にお誂えな場所にたどり着いた。陽は緩やかに傾きつつあり、緑々とした大地が、ゆっくりと朱色に染められていく。
黄昏時、だ。
「陽のある内に仕度しましょうか」
伸びた影が平野に刻まれるのを見て、ルシアはそう言った。
「私は食事の仕度をしますね。よろしければどなたか一緒に手伝っていただけませんか?」
真悠が笑んでそう言うと、秋人は小さく眼を逸らした。
「……すまんが、俺は見張りに専念しよう」
「それでは、私も食事のお手伝いを」
くすくすと笑んで、ルシアが言えば。
「……野宿、と料理……したことない」
ぽつ、と。言葉が落ちる。レインの声だった。儚くて、何処かに消えてしまいそうな声。
眼を合わすまいと顔は伏せられており、その表情は読み取れなかったが。
――言の葉から、その色は知れた。
「レインさんも、一緒に作りましょうか」
真悠がそう言えば、ルシアも頷いている。
「……いいの?」
「ええ、もちろん」
おずおずと見上げるレインに対して、ルシアが言葉を継いだ。
「……缶詰とかしか……食べたことないよ? 作ったこと、無いよ……?」
「大丈夫ですよ。誰にだって、初めてはありますから……ね?」
少年は、逡巡しているようだった。彼にとって、周囲へと手を伸ばすことは怯えを伴う。
でも。
「……うん」
レインは、そう言って、小さく頷いた。
●
各々に分かれて野営の準備中。
「月詠さん、結構手馴れてるんですね?」
ソナは傍らで作業をする月詠の手際を見て、言った。手際よく火を起こし、草葉を寝かして空間を整えている。クリストフェルも月詠の意外な一面に少しばかり驚いているようであった。
「私も旅慣れていますが……月詠さんも、よく旅をされているのですか?」
「ふふ、それはね、きみ。仕事が無い時の嗜み、だよ」
「あぁ……」
困窮していた過去でもあるのか、現在進行形かは解らないが、いずれにしても言葉の端々から悲しい経緯が滲み出ていた。
ソナとクリストフェルが返す言葉に悩んでいる間にも、野営の準備は進んでいく――。
「これで……いいの……?」
「ええ、その大丈夫ですよ」
干し肉を食べやすい大きさに切り揃えたレイン。ルシアが出来上がりを見て頷き、手元の鍋を示すと干し肉をそこに入れた。
「僕のおやつの、ナッツも…使える…?」
「……それは、単品で味わいましょうか」
そっと差し出されたナッツ。レインの配慮を傷つけないようにルシアは微笑みを絶やさずに小皿に移した。それを見届けるでもなく、いそいそとレインは鍋へと視線を落とす。
「もう、出来上がり……?」
「もう少しだけ、待ちましょう。その方が美味しくなりますよ」
「……うん」
その姿を幸せそうに見つめながら、真悠は微笑んでいた。そうして傍らに立つ秋人に対して、言う。
「……なんだかいいですね。ああいうの」
「そうだな」
話しながら真悠は干し肉やチーズをパンで挟み、焚き火から少し離した所で炙っていた。チーズが溶けるか溶けないかという絶妙の遠間である。
じきに、塩気混じりの香ばしい香りが立ち始める。
そうして――宴の頃合いとなった。
●
簡素な食事ではあるが、それ故に特別な宴席である。
クリストフェルを中心に、囲むようにハンター達は座った。そうして、それぞれに舌鼓を打ちながら、歓談をしている。
――尤も、周囲を伺いながら、ではあるが。
傍から見れば、年若い少年少女が吟遊詩人を囲む席としか見えなかったであろう。厳しい顔つきの秋人も、目付役の兄貴分といった趣がある。
「……あなたの歌を聞かせて欲しい。先の町での、恋の歌を」
暫し周囲を伺っていた秋人であったが、折りを見てそう言った。
「もう、できているんですか?」
「ええ」
ソナが青い瞳に期待を滲ませて続くと、クリストフェルは頷きを返した。
「……強い想い、でしたから」
彼はそう言って器を置くと、楽器を手にする。そっと鳴らし、調律を確認して――。
一音。平野に余韻を残して、消える。
次いで、重ねて二音。音律と和音が生まれ、切ない情感が生まれた。
その予感を曳いて、前奏が始まった。緩やかな三拍子。旋律に、和音が寄り添う。哀しいだけではない。確かに幸せだった、その時間を受け入れる、優しい響き。
――そこに、歌が、乗った。
恋人が、まだ恋人であった頃を謳う。
次いで、望まぬ結婚。別れの予感が、謳われる。
男は故郷を出ざるを得ず、女は町へ残り、悲しみに暮れた。
節回しを覚えたか、真悠が旋律を口ずさみ始めた。
クリストフェルは歌いながら笑み、そのまま歌った。
町に残った女は、受け容れられなかった。男を追って、女は町を離れる。
自らの恋に向けた、乙女からの手向けの歌。それを、吟遊詩人である男は謳う。
――そうして、知らぬ町で、二人は幸せになる。
最後の詩節の余韻を残し……クリストフェルは一礼。聴衆であるハンター達から、拍手が返った。
そこに。
ドン、と。土踏む音が響いた。すわ襲撃かと秋人が腰を落とすや否や。
「なるほど!!!」
声が響いた。
「この歌が、クリスさんが襲われる原因ですね。名探偵の私の直感が告げています!!」
月詠の声である。月詠の興奮は計り知れない。可愛らしく拳を掲げながら、続けた。
「事件の黒幕は!」
掲げられた拳から、人差し指がにゅっと生えた。そして、歌い終えたクリストフェルを指さし――。
「この歌に出てくる! 『街を追い出された若者』だと!!」
言った……言ってしまった……。
「「「「「「えっ」」」」」」
迷探偵誕生の瞬間であった。
●
宴はまだ続く。気を取り直したソナが、重苦しい空気を払拭すべく他の曲を希望すると、クリストフェルは明るい雰囲気の曲を奏でた。
大層晴れやかな気分の月詠は機嫌よく身体を揺らし、知った曲だったか、ルシアも歌い始めた。優しく、伸びやかな歌声が夜闇に響く。
「ふふ、楽しい……っ!」
重ねられる音にソナはふわふわと陽気な心地になって立ち上がると、リズムに合わせて踊り始める。
それをみて、そわ、と。真悠の気持ちが湧いた。
そのまま食事を摂っている秋人の耳元に口を寄せると、
「あの……秋人さん、私と一緒に踊ってもらえませんか?」
と、言った。
「……」
秋人は、目に見えて逡巡しているようだった。真悠の赤らんだ頬や真剣な眼差しを見返す事が出来ないのか、そっぽを向いた秋人は口を開けたり閉じたりとせわしない。
その仕草の一つ一つで、真悠の胸中も掻き乱される。
「……恥をかかせないようには、善処しよう」
言った瞬間に生まれた、晴れやかな表情を秋人は見ることは出来なかったが。
すぐに、目の当たりにすることになった。
(……正直、彼女のような美しい女性に誘われること自体は悪い気はしないが)
戸惑うように、胸中で言葉を吐いた。
至近から届く潤んだ視線に、足並みが乱れる。不慣れなのだ、仕方がないだろうと内心で呟く。
そこに。
「……が、好き、です……秋人さん」
言葉が、落ちた。音楽に紛れそうな、微かな言葉だった。
秋人はそれを確かに聞いた。
「……」
彼はぎこちなく微笑みを返した。今は応じることができないが故の微笑。その意味を察したか真悠は小さく俯いて――間もなく。
「……あ。来たよ」
宴の最中も集中を切らしていなかったレインが、そう言った。瞬間。一同に緊張が生まれるが、それとなく気配を確認すると直ぐにそれも消えた。それと悟らせぬようにだ。
近づいてくる気配を感じながら、レインは頬を釣り上げた。それまでの戸惑うような表情とは、違う。
(子供の、僕……最初に狙ってくれたら……一番槍、いただきなんだけど、な……)
嗜虐に富んだ、獰猛な笑みだった。
●
ならず者達四人は一同に気づかれている事など露知らず、身を伏せる事もせずにこちらへと向かってきている。
女子供の集まりと見て、一様に下卑た笑みを浮かべながら、無遠慮に宴の場へと足を踏み入れた。
「何か用か」
秋人は、それとなく真悠達を背にするように間に立つ。
「あァ? おめェじゃねェよ、すっこんでな」
――ただの、ごろつきか。
その脚さばきを見て、秋人はそう察した。まっすぐに歩んでくるならず者達、だったが。
「もう、いいよね?」
言葉と共に、座ったままのレインの指から紡がれた、一条の魔法の矢。
「なっ……!?」
加減されてはいたが、只のごろつきに耐えられようもない。弾き飛ばされ、即座に意識を失くす。
「クリスさん。下がって……」
ルシアがクリスに対して守護の魔法を施すと同時、ハンター達は動いた。
秋人が木刀をかざし、月詠がメリケンサックを御機嫌に構え、ソナはロッドを振るい、真悠もレインと同じく魔法を放った。
――もう、いいだろうか。
ただのならず者だ。覚醒者七人が相手で適うべくもない。
あっさりと仲良く気絶し、月詠が持ってきていたロープによって縛り上げられていく。
「……よわ」
レインの退屈げな声が、非常に憐れみを誘う中、戦闘とも言えぬ邂逅は終わりを告げた。
●
覚醒者七人に囲まれ、ならず者たちはあっさりと真相を暴露した。
「言いたくないならそれでも構わない。ただし二度と同じ真似が出来ないよう、腕を貰うが」
秋人がそう言って真剣を抜いたのが効いたのだろう。
兎角、真相は詳らかになった。
大方の人間は理解していたであろうが――。
「ま、まさか、町長が黒幕だったとは、この名探偵にも予想できませんでした……」
「そう、ですね」
愕然としている月詠に、ルシアが実に細やかな配慮を見せた。曖昧な微笑を抱きながら、月詠を傷つけぬように頷く。
クリストフェルも神妙な表情で俯いている。
――この歌を、歌うべきか、どうか。
そこに。声が響いた。
「……伝え、たいね」
レインの声だ。
「フィオレさん、の気持ち……お母さんたち、にきかせたい。難しい話……わからないけど、気持ち、すれ違うのが……悲しいのは、知ってる」
「レインさん……」
ソナがそっとその背を撫でた。拙い言葉に、少年の孤独が見えたからだ。
「……そうですね。私も、ご両親に、聞いていただきたいと思います」
そうして、彼女も頷いた。
このままでは、誰も幸せにはならないまま、物語は終わってしまう。どちらかだけの意志を無理矢理に押し通すようなやり方では――愁いが、残ってしまう。
それは、いやだった。
「できれば、フィオレさんにも」
ぽつ、と呟くように、言う。
「イザイヨさんにもですね! なんとかフィオレさんとイザイヨさんを一緒にしてあげたい……!」
「……関係者皆さんが聞いた方が、良いかとは思います」
月詠の言葉に、ルシアが続いた。誰もが傷つかずに済むとは思えず、その言葉はどこか苦さを孕んでいる。でも、最上の結末を望むのならばそれが最善とも思えた。
「バンデラスさんにも……」
「じゃあ私はイザイヨを探しに行くよ!!」
「……どこに?」
レインの言葉を遮るように言って、さっそく駆け出そうとした月詠。だが、レインにそう言われてすぐに足を止めた。
「そ、捜査の基本は足だからね」
「……そう」
「う、うん」
「夜も遅いですし……後のことはクリスさんにお任せしたらどうでしょうか」
困窮する月詠に、助け舟が出された。やはり、ルシアである。
「実際に歌を歌うのは、クリスさんですし……歌うのであれば、その中できっと、イザイヨさんにも歌は届く、かと」
「俺は異論は無い」
「私も、です」
様子を見守る秋人に真悠が頷き、そのまま祈りと共に空を見上げた。仄光る月が、夜闇を照らしている。
クリストフェルも、同じ月を見上げた。答えを求めるように。
どれだけの間、そうしていただろうか。
「――そう、ですね。私から出向き、歌おうと思います」
エルフの吟遊詩人は頷いて、言った。
歌は紡がれる。乙女の想いを抱き、新たな物語を紡ぐために。
彼女の願いとは違うかもしれない。だが、歌とは本来そういうものなのだろう。
聴衆の心を揺らす。その点において、歌は聴き手のためのものだ。
だから。彼女たちがその歌を聴いた時、新たな物語が紡がれる事は自然な事なのだ。
――この歌の続きは、この世界の片隅で歌われる事になるのだろう。
(代筆:ムジカ・トラス)
道中は、晴れ晴れとした陽気に相応しい賑やかなものとなった。晴天の下、それに勝るとも劣らない晴れやかな声が響く。
「クリスさん、あなたの依頼は名探偵であるこの私が解決してみせます! 事件の裏にいる黒幕を暴き、その邪悪な企みを阻止します!」
「……は、はい」
立ち上がり、胸を張って言った月詠クリス(ka0750)の声だ。『自称』名探偵の彼女は、秘された真実に興奮しているよう。
「うん、この際だからすっきりさせましょう!」
ソナ(ka1352)もほんのりと笑みを返しながら、続けた。
「クリスさん、何か心当たりはありますか?」
「それが、王都で何かした覚えは無いんです」
記憶をたどりながら、困り顔のクリストフェル。
「前の町でも、何も?」
「……ふむ」
ソナの重ねての問いに、クリストフェルは僅かに考えこんだ。
「確証は、ありませんが」
そうして、逡巡した後に話し始めた。
一つの恋の、終わりの物語を。
●
「歌の中だけでも想いを添い遂げたい……か。愛し合っている二人を引き裂くなんて、神様は時に残酷です」
二人の失恋と、そこから生まれた願いを聞き終えると、藤宮 真悠(ka1877)が言う。
切り揃えられた前髪が心中を描くように、揺れる。ソナの表情もどこか、憂いの色を含んでいた。
「報われなかった恋、か」
霧雨・秋人(ka2016)の呟きは小さく、彼の足元に落ちた。秋人は恋に疎い。だが、その尊さは分かる。彼の顔見知りである所の真悠、そしてソナの様子からもそれが解った。
――護ろう。
言葉にはせずとも、秋人はそう思った。こうやって生まれる悲しみを祓うために自らの剣を振るおうと。
そこに。
「ふむ……まだ、情報が足りないですな」
神妙な声が響いた。月詠だ。深く思索しながらの言葉であった。
「……えっ?」
それまで我関せずと歩いていた少年――レイン(ka2287)が小さく驚きを返した。眼を包帯で覆ってはいるが、その奥で瞳が見開かれている気配が零れた。他の面々も程度の差はあれ、一様に驚きを隠せないようであった。
「月詠さん?」
「しかし、予感はあります……この事件、私が必ずや解決してみせましょう!」
「……凄いですね」
小さく溜息を付くソナと陽気に胸を張る月詠に対して、ルシア・ヴァンハイム(ka2023)は微笑んだ。
月詠の背をそっと撫でながら、
「何故狙われるのか、囮が成功すればその答えも分かるでしょう……」
そう言って、場を締めた。
●
一同はそのままゆるゆると歩き、野営にお誂えな場所にたどり着いた。陽は緩やかに傾きつつあり、緑々とした大地が、ゆっくりと朱色に染められていく。
黄昏時、だ。
「陽のある内に仕度しましょうか」
伸びた影が平野に刻まれるのを見て、ルシアはそう言った。
「私は食事の仕度をしますね。よろしければどなたか一緒に手伝っていただけませんか?」
真悠が笑んでそう言うと、秋人は小さく眼を逸らした。
「……すまんが、俺は見張りに専念しよう」
「それでは、私も食事のお手伝いを」
くすくすと笑んで、ルシアが言えば。
「……野宿、と料理……したことない」
ぽつ、と。言葉が落ちる。レインの声だった。儚くて、何処かに消えてしまいそうな声。
眼を合わすまいと顔は伏せられており、その表情は読み取れなかったが。
――言の葉から、その色は知れた。
「レインさんも、一緒に作りましょうか」
真悠がそう言えば、ルシアも頷いている。
「……いいの?」
「ええ、もちろん」
おずおずと見上げるレインに対して、ルシアが言葉を継いだ。
「……缶詰とかしか……食べたことないよ? 作ったこと、無いよ……?」
「大丈夫ですよ。誰にだって、初めてはありますから……ね?」
少年は、逡巡しているようだった。彼にとって、周囲へと手を伸ばすことは怯えを伴う。
でも。
「……うん」
レインは、そう言って、小さく頷いた。
●
各々に分かれて野営の準備中。
「月詠さん、結構手馴れてるんですね?」
ソナは傍らで作業をする月詠の手際を見て、言った。手際よく火を起こし、草葉を寝かして空間を整えている。クリストフェルも月詠の意外な一面に少しばかり驚いているようであった。
「私も旅慣れていますが……月詠さんも、よく旅をされているのですか?」
「ふふ、それはね、きみ。仕事が無い時の嗜み、だよ」
「あぁ……」
困窮していた過去でもあるのか、現在進行形かは解らないが、いずれにしても言葉の端々から悲しい経緯が滲み出ていた。
ソナとクリストフェルが返す言葉に悩んでいる間にも、野営の準備は進んでいく――。
「これで……いいの……?」
「ええ、その大丈夫ですよ」
干し肉を食べやすい大きさに切り揃えたレイン。ルシアが出来上がりを見て頷き、手元の鍋を示すと干し肉をそこに入れた。
「僕のおやつの、ナッツも…使える…?」
「……それは、単品で味わいましょうか」
そっと差し出されたナッツ。レインの配慮を傷つけないようにルシアは微笑みを絶やさずに小皿に移した。それを見届けるでもなく、いそいそとレインは鍋へと視線を落とす。
「もう、出来上がり……?」
「もう少しだけ、待ちましょう。その方が美味しくなりますよ」
「……うん」
その姿を幸せそうに見つめながら、真悠は微笑んでいた。そうして傍らに立つ秋人に対して、言う。
「……なんだかいいですね。ああいうの」
「そうだな」
話しながら真悠は干し肉やチーズをパンで挟み、焚き火から少し離した所で炙っていた。チーズが溶けるか溶けないかという絶妙の遠間である。
じきに、塩気混じりの香ばしい香りが立ち始める。
そうして――宴の頃合いとなった。
●
簡素な食事ではあるが、それ故に特別な宴席である。
クリストフェルを中心に、囲むようにハンター達は座った。そうして、それぞれに舌鼓を打ちながら、歓談をしている。
――尤も、周囲を伺いながら、ではあるが。
傍から見れば、年若い少年少女が吟遊詩人を囲む席としか見えなかったであろう。厳しい顔つきの秋人も、目付役の兄貴分といった趣がある。
「……あなたの歌を聞かせて欲しい。先の町での、恋の歌を」
暫し周囲を伺っていた秋人であったが、折りを見てそう言った。
「もう、できているんですか?」
「ええ」
ソナが青い瞳に期待を滲ませて続くと、クリストフェルは頷きを返した。
「……強い想い、でしたから」
彼はそう言って器を置くと、楽器を手にする。そっと鳴らし、調律を確認して――。
一音。平野に余韻を残して、消える。
次いで、重ねて二音。音律と和音が生まれ、切ない情感が生まれた。
その予感を曳いて、前奏が始まった。緩やかな三拍子。旋律に、和音が寄り添う。哀しいだけではない。確かに幸せだった、その時間を受け入れる、優しい響き。
――そこに、歌が、乗った。
恋人が、まだ恋人であった頃を謳う。
次いで、望まぬ結婚。別れの予感が、謳われる。
男は故郷を出ざるを得ず、女は町へ残り、悲しみに暮れた。
節回しを覚えたか、真悠が旋律を口ずさみ始めた。
クリストフェルは歌いながら笑み、そのまま歌った。
町に残った女は、受け容れられなかった。男を追って、女は町を離れる。
自らの恋に向けた、乙女からの手向けの歌。それを、吟遊詩人である男は謳う。
――そうして、知らぬ町で、二人は幸せになる。
最後の詩節の余韻を残し……クリストフェルは一礼。聴衆であるハンター達から、拍手が返った。
そこに。
ドン、と。土踏む音が響いた。すわ襲撃かと秋人が腰を落とすや否や。
「なるほど!!!」
声が響いた。
「この歌が、クリスさんが襲われる原因ですね。名探偵の私の直感が告げています!!」
月詠の声である。月詠の興奮は計り知れない。可愛らしく拳を掲げながら、続けた。
「事件の黒幕は!」
掲げられた拳から、人差し指がにゅっと生えた。そして、歌い終えたクリストフェルを指さし――。
「この歌に出てくる! 『街を追い出された若者』だと!!」
言った……言ってしまった……。
「「「「「「えっ」」」」」」
迷探偵誕生の瞬間であった。
●
宴はまだ続く。気を取り直したソナが、重苦しい空気を払拭すべく他の曲を希望すると、クリストフェルは明るい雰囲気の曲を奏でた。
大層晴れやかな気分の月詠は機嫌よく身体を揺らし、知った曲だったか、ルシアも歌い始めた。優しく、伸びやかな歌声が夜闇に響く。
「ふふ、楽しい……っ!」
重ねられる音にソナはふわふわと陽気な心地になって立ち上がると、リズムに合わせて踊り始める。
それをみて、そわ、と。真悠の気持ちが湧いた。
そのまま食事を摂っている秋人の耳元に口を寄せると、
「あの……秋人さん、私と一緒に踊ってもらえませんか?」
と、言った。
「……」
秋人は、目に見えて逡巡しているようだった。真悠の赤らんだ頬や真剣な眼差しを見返す事が出来ないのか、そっぽを向いた秋人は口を開けたり閉じたりとせわしない。
その仕草の一つ一つで、真悠の胸中も掻き乱される。
「……恥をかかせないようには、善処しよう」
言った瞬間に生まれた、晴れやかな表情を秋人は見ることは出来なかったが。
すぐに、目の当たりにすることになった。
(……正直、彼女のような美しい女性に誘われること自体は悪い気はしないが)
戸惑うように、胸中で言葉を吐いた。
至近から届く潤んだ視線に、足並みが乱れる。不慣れなのだ、仕方がないだろうと内心で呟く。
そこに。
「……が、好き、です……秋人さん」
言葉が、落ちた。音楽に紛れそうな、微かな言葉だった。
秋人はそれを確かに聞いた。
「……」
彼はぎこちなく微笑みを返した。今は応じることができないが故の微笑。その意味を察したか真悠は小さく俯いて――間もなく。
「……あ。来たよ」
宴の最中も集中を切らしていなかったレインが、そう言った。瞬間。一同に緊張が生まれるが、それとなく気配を確認すると直ぐにそれも消えた。それと悟らせぬようにだ。
近づいてくる気配を感じながら、レインは頬を釣り上げた。それまでの戸惑うような表情とは、違う。
(子供の、僕……最初に狙ってくれたら……一番槍、いただきなんだけど、な……)
嗜虐に富んだ、獰猛な笑みだった。
●
ならず者達四人は一同に気づかれている事など露知らず、身を伏せる事もせずにこちらへと向かってきている。
女子供の集まりと見て、一様に下卑た笑みを浮かべながら、無遠慮に宴の場へと足を踏み入れた。
「何か用か」
秋人は、それとなく真悠達を背にするように間に立つ。
「あァ? おめェじゃねェよ、すっこんでな」
――ただの、ごろつきか。
その脚さばきを見て、秋人はそう察した。まっすぐに歩んでくるならず者達、だったが。
「もう、いいよね?」
言葉と共に、座ったままのレインの指から紡がれた、一条の魔法の矢。
「なっ……!?」
加減されてはいたが、只のごろつきに耐えられようもない。弾き飛ばされ、即座に意識を失くす。
「クリスさん。下がって……」
ルシアがクリスに対して守護の魔法を施すと同時、ハンター達は動いた。
秋人が木刀をかざし、月詠がメリケンサックを御機嫌に構え、ソナはロッドを振るい、真悠もレインと同じく魔法を放った。
――もう、いいだろうか。
ただのならず者だ。覚醒者七人が相手で適うべくもない。
あっさりと仲良く気絶し、月詠が持ってきていたロープによって縛り上げられていく。
「……よわ」
レインの退屈げな声が、非常に憐れみを誘う中、戦闘とも言えぬ邂逅は終わりを告げた。
●
覚醒者七人に囲まれ、ならず者たちはあっさりと真相を暴露した。
「言いたくないならそれでも構わない。ただし二度と同じ真似が出来ないよう、腕を貰うが」
秋人がそう言って真剣を抜いたのが効いたのだろう。
兎角、真相は詳らかになった。
大方の人間は理解していたであろうが――。
「ま、まさか、町長が黒幕だったとは、この名探偵にも予想できませんでした……」
「そう、ですね」
愕然としている月詠に、ルシアが実に細やかな配慮を見せた。曖昧な微笑を抱きながら、月詠を傷つけぬように頷く。
クリストフェルも神妙な表情で俯いている。
――この歌を、歌うべきか、どうか。
そこに。声が響いた。
「……伝え、たいね」
レインの声だ。
「フィオレさん、の気持ち……お母さんたち、にきかせたい。難しい話……わからないけど、気持ち、すれ違うのが……悲しいのは、知ってる」
「レインさん……」
ソナがそっとその背を撫でた。拙い言葉に、少年の孤独が見えたからだ。
「……そうですね。私も、ご両親に、聞いていただきたいと思います」
そうして、彼女も頷いた。
このままでは、誰も幸せにはならないまま、物語は終わってしまう。どちらかだけの意志を無理矢理に押し通すようなやり方では――愁いが、残ってしまう。
それは、いやだった。
「できれば、フィオレさんにも」
ぽつ、と呟くように、言う。
「イザイヨさんにもですね! なんとかフィオレさんとイザイヨさんを一緒にしてあげたい……!」
「……関係者皆さんが聞いた方が、良いかとは思います」
月詠の言葉に、ルシアが続いた。誰もが傷つかずに済むとは思えず、その言葉はどこか苦さを孕んでいる。でも、最上の結末を望むのならばそれが最善とも思えた。
「バンデラスさんにも……」
「じゃあ私はイザイヨを探しに行くよ!!」
「……どこに?」
レインの言葉を遮るように言って、さっそく駆け出そうとした月詠。だが、レインにそう言われてすぐに足を止めた。
「そ、捜査の基本は足だからね」
「……そう」
「う、うん」
「夜も遅いですし……後のことはクリスさんにお任せしたらどうでしょうか」
困窮する月詠に、助け舟が出された。やはり、ルシアである。
「実際に歌を歌うのは、クリスさんですし……歌うのであれば、その中できっと、イザイヨさんにも歌は届く、かと」
「俺は異論は無い」
「私も、です」
様子を見守る秋人に真悠が頷き、そのまま祈りと共に空を見上げた。仄光る月が、夜闇を照らしている。
クリストフェルも、同じ月を見上げた。答えを求めるように。
どれだけの間、そうしていただろうか。
「――そう、ですね。私から出向き、歌おうと思います」
エルフの吟遊詩人は頷いて、言った。
歌は紡がれる。乙女の想いを抱き、新たな物語を紡ぐために。
彼女の願いとは違うかもしれない。だが、歌とは本来そういうものなのだろう。
聴衆の心を揺らす。その点において、歌は聴き手のためのものだ。
だから。彼女たちがその歌を聴いた時、新たな物語が紡がれる事は自然な事なのだ。
――この歌の続きは、この世界の片隅で歌われる事になるのだろう。
(代筆:ムジカ・トラス)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/28 20:55:09 |
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ご相談しましょう☆ ソナ(ka1352) エルフ|19才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/07/03 17:41:24 |