ゲスト
(ka0000)
【不動】特機隊隊員ディアナ大尉の憂鬱
マスター:えーてる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/05 19:00
- 完成日
- 2015/04/14 04:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
同盟陸軍・特殊機体操縦部隊、通称「特機隊」。この世界初のCAM操縦専用部隊である。ここは彼らに割り当てられた一室だ。
ディアナ・C・フェリックス(kz0105)は開けたワインのコルクを弄びながら、香りの抜けていく瓶の先を睨んでいた。端的に言って、非常に不機嫌であった。
何故か同席させられているジーナ・サルトリオ(kz0103)はびくびくしながら彼女の奇行を見ていた。
「あ、あのー、ディアナ大尉?」
「なに、ジーナ軍曹」
声はまるで刃物のようだ。元気印のジーナもちょっと怯えるくらいに。
「ひっ、その、ワイン飲まないんですか?」
「勤務中に酒に浸るほど落ちぶれたように見えるかしら。それとも年増の相手なんてさせるなって?」
「そ、そうですよね! 仕事中は飲めませんよね! ……じゃあなんで開けたんですか?」
ディアナは暫くワインの口を睨みつけた後、唐突にジーナに視線を向けた。
「これね、王国の百年ものなんだけど」
「はぁ」
「いくらしたと思う」
「ええ?」
古いワインが高いことくらい、ジーナでも分かる。
「……一万Gくらいでしょうか」
「はずれ」
彼女は小さく首を振って、ぼそりと答えた。さらりと告げたその金額に、桁を聞き間違えたかとジーナは聞き返した。
彼女が答えた数字は、少なくともジーナの想像の及ぶ額ではなかった。
「ええっ!? ちょっ、すっごい高級品じゃないですか! ももも勿体無いですよ!」
「そんな高額品が無残に価値を失っていくのがいいんじゃない……退廃的でしょ」
「意味が分かりません、大尉……」
「無意味だからいいのよ」
ディアナは口が悪い。ジーナの目には、年がら年中不機嫌なように見える。
普通にしていれば美人なのに、いつも目つきが苛立たしげで、誰に対しても刺々しい。三白眼なのも近寄りがたい印象に拍車をかける。そのくせ奇行が目立つ。
特機隊二番隊員であるヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)ともたまに衝突する。まぁ、普段はわりと意気投合している節があるけれど。
作戦中の落ち着いた印象とは大違いだ。淡々と作戦を進めていくあの姿とは。
いつもあんな風なら少しは接しやすいんだけどな、とジーナはなるべく顔に出さないように心中呟いた。一度そのようなことを口にして、氷河もかくやといった視線を貰ったからだ。
「浪費癖は相変わらずだねぇ」
なるべく刺激しないようにと思っていたジーナの目の前で、ディアナは一段と不機嫌になった。間が悪すぎる、とジーナは呻く。
「鴉さん、再評価試験の結果だ」
部屋の入り口で、同盟軍の昼行灯こと特機隊隊長ダニエル・コレッティ(kz0102)が、幾つかの書類を片手にへらへら笑って立っていた。
「こんな時ばっかり仕事するのは嫌味のつもり、昼行灯さん」
「なぁに言ってんの、俺いつも仕事してるじゃない?」
ディアナは返答の代わりに彼の持つ書類をひったくった。
ダニエルとディアナは、陸軍の養成機関である黒狐塾の同期なのだと聞いている。その頃から仲が悪い、というかディアナが一方的に毛嫌いしているのだとか。
「移動B、射撃A+……A+って見たことないです、隊長」
「比べるのも馬鹿馬鹿しいってこと。百発百中って意味さ」
「ええ?」
なんだそれは、とジーナは驚いた。
「ちなみに軍曹は射撃評価Dだから、再訓練だよ」
「ええー!?」
悲鳴をあげるジーナに目もくれず、ディアナは書類を親の敵でも見るように睨んでいた。気になったジーナが続きを読み上げる。
「えー、工作C、戦術B、格闘――E-?」
ジーナは顔を上げた。
「E-も見たことないです、隊長」
「比べるのも馬鹿馬鹿しいってこと。ちょっと複雑な動作させると、不格好に踊りだすってとこかな?」
「ええ……」
引き気味の声を出したジーナを、ディアナが睨みつけた。首をすぼめたジーナから視線を移し、彼女は今度はけらけら笑うダニエルを睨んだ。
「再訓練よね?」
「そうなるけど、正直CAMの格闘訓練は、普通の訓練じゃ意味ないんだよね。時間の浪費は望むところじゃないし」
ダニエルの指摘にディアナは苦い顔で頷いた。そういう所は素直なんだなとジーナは思った。
そもそもディアナ自身は(足の負傷故に使えないが)軍隊格闘術は修めているし、護身用にと杖術も嗜んでいる。
彼女が苦手なのは、コマンド入力だった。
「君、存外に不器用だったんだねぇ」
言い返せない。舌打ちと共に顔を背けた。咄嗟に細かな作業をするのは苦手だ。
「てなわけで君、に特別訓練だ。教官はジーナ軍曹」
「はぁ」
「はい!」
「で、器材はこれ。じゃーん」
ダニエルは鞄からそれを取り出した。
「……CAMの、コントローラー?」
「ぶっぶー。これはね」
ダニエルが伝手で手に入れた、リアルブルーの娯楽の一つだ。
「ビデオゲームって言うんだ」
つまりこうだ。
咄嗟のコマンド入力を上達させるために、リアルブルーの各種ゲームをやらせよう、という。
対戦相手はジーナ。互いに知らない遊びで教えるもクソもあるか、そもそも遊びで訓練とはどういうことだと食って掛かったディアナだが、ダニエルは飄々とそれらを受け流し、まず2Dの格闘ゲームを始めさせた。
すぐに操作を覚えたジーナが、ディアナをボコボコにした。
「くっ……」
「操作自体はCAMより楽だろ」
ディアナは悔しげに呻くのみ。ダニエルは満足気に頷くと、ジーナの頭をぽんと撫でた。
「てわけで、小生意気な上官をボコにしてあげて」
「や、そんな」
「『てめー後輩だろうが敬意を払え!』くらい言ってもいいから。じゃーねー」
「あっ隊長、ちょっと!」
引きとめようとしたジーナを置いて、ダニエルはさっさとその場を去った。残された彼女は、隣でテレビ画面を睨みつけるディアナを見て、気まずい空気に身震いした。
階級も年齢もディアナが上だ。得意分野も近接と射撃でまるきり違うし、かたや新人かたやベテランである。
私これどうしたらいいの、と呻くジーナの前で、ディアナはぽつりと呟いた。
「次」
「はひっ」
「やりましょう」
先程とは違うモノを秘めた彼女の視線を受けて、ああこの人負けず嫌いの体育会系だった、とジーナは嫌な事実に気付いた。
丸一日訓練が続いた。
●
「……というのが昨日のあらまし。へばったジーナ軍曹の代わりにディアナ大尉を伸して欲しいんだよね」
かつてこれほど下らない依頼があっただろうか。軍からの依頼で「ゲームをしてくれ」などと言われた時は目を剥いた。
ダニエルはへらっと笑って彼らを件の部屋に連れてきた。
「まぁこんな依頼を受けるくらいだからそれなりにゲームに造詣は深いと思うし、もしかしたら色々思い入れがあるかもしれないけど、正直何も知らない俺が見ても酷い腕前だから期待はしないでね」
彼は軽いノリでハンターたちを送り出した。
「あ、ジーナはこっちで回収するから気にしないで。じゃーよろしく」
同盟陸軍・特殊機体操縦部隊、通称「特機隊」。この世界初のCAM操縦専用部隊である。ここは彼らに割り当てられた一室だ。
ディアナ・C・フェリックス(kz0105)は開けたワインのコルクを弄びながら、香りの抜けていく瓶の先を睨んでいた。端的に言って、非常に不機嫌であった。
何故か同席させられているジーナ・サルトリオ(kz0103)はびくびくしながら彼女の奇行を見ていた。
「あ、あのー、ディアナ大尉?」
「なに、ジーナ軍曹」
声はまるで刃物のようだ。元気印のジーナもちょっと怯えるくらいに。
「ひっ、その、ワイン飲まないんですか?」
「勤務中に酒に浸るほど落ちぶれたように見えるかしら。それとも年増の相手なんてさせるなって?」
「そ、そうですよね! 仕事中は飲めませんよね! ……じゃあなんで開けたんですか?」
ディアナは暫くワインの口を睨みつけた後、唐突にジーナに視線を向けた。
「これね、王国の百年ものなんだけど」
「はぁ」
「いくらしたと思う」
「ええ?」
古いワインが高いことくらい、ジーナでも分かる。
「……一万Gくらいでしょうか」
「はずれ」
彼女は小さく首を振って、ぼそりと答えた。さらりと告げたその金額に、桁を聞き間違えたかとジーナは聞き返した。
彼女が答えた数字は、少なくともジーナの想像の及ぶ額ではなかった。
「ええっ!? ちょっ、すっごい高級品じゃないですか! ももも勿体無いですよ!」
「そんな高額品が無残に価値を失っていくのがいいんじゃない……退廃的でしょ」
「意味が分かりません、大尉……」
「無意味だからいいのよ」
ディアナは口が悪い。ジーナの目には、年がら年中不機嫌なように見える。
普通にしていれば美人なのに、いつも目つきが苛立たしげで、誰に対しても刺々しい。三白眼なのも近寄りがたい印象に拍車をかける。そのくせ奇行が目立つ。
特機隊二番隊員であるヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)ともたまに衝突する。まぁ、普段はわりと意気投合している節があるけれど。
作戦中の落ち着いた印象とは大違いだ。淡々と作戦を進めていくあの姿とは。
いつもあんな風なら少しは接しやすいんだけどな、とジーナはなるべく顔に出さないように心中呟いた。一度そのようなことを口にして、氷河もかくやといった視線を貰ったからだ。
「浪費癖は相変わらずだねぇ」
なるべく刺激しないようにと思っていたジーナの目の前で、ディアナは一段と不機嫌になった。間が悪すぎる、とジーナは呻く。
「鴉さん、再評価試験の結果だ」
部屋の入り口で、同盟軍の昼行灯こと特機隊隊長ダニエル・コレッティ(kz0102)が、幾つかの書類を片手にへらへら笑って立っていた。
「こんな時ばっかり仕事するのは嫌味のつもり、昼行灯さん」
「なぁに言ってんの、俺いつも仕事してるじゃない?」
ディアナは返答の代わりに彼の持つ書類をひったくった。
ダニエルとディアナは、陸軍の養成機関である黒狐塾の同期なのだと聞いている。その頃から仲が悪い、というかディアナが一方的に毛嫌いしているのだとか。
「移動B、射撃A+……A+って見たことないです、隊長」
「比べるのも馬鹿馬鹿しいってこと。百発百中って意味さ」
「ええ?」
なんだそれは、とジーナは驚いた。
「ちなみに軍曹は射撃評価Dだから、再訓練だよ」
「ええー!?」
悲鳴をあげるジーナに目もくれず、ディアナは書類を親の敵でも見るように睨んでいた。気になったジーナが続きを読み上げる。
「えー、工作C、戦術B、格闘――E-?」
ジーナは顔を上げた。
「E-も見たことないです、隊長」
「比べるのも馬鹿馬鹿しいってこと。ちょっと複雑な動作させると、不格好に踊りだすってとこかな?」
「ええ……」
引き気味の声を出したジーナを、ディアナが睨みつけた。首をすぼめたジーナから視線を移し、彼女は今度はけらけら笑うダニエルを睨んだ。
「再訓練よね?」
「そうなるけど、正直CAMの格闘訓練は、普通の訓練じゃ意味ないんだよね。時間の浪費は望むところじゃないし」
ダニエルの指摘にディアナは苦い顔で頷いた。そういう所は素直なんだなとジーナは思った。
そもそもディアナ自身は(足の負傷故に使えないが)軍隊格闘術は修めているし、護身用にと杖術も嗜んでいる。
彼女が苦手なのは、コマンド入力だった。
「君、存外に不器用だったんだねぇ」
言い返せない。舌打ちと共に顔を背けた。咄嗟に細かな作業をするのは苦手だ。
「てなわけで君、に特別訓練だ。教官はジーナ軍曹」
「はぁ」
「はい!」
「で、器材はこれ。じゃーん」
ダニエルは鞄からそれを取り出した。
「……CAMの、コントローラー?」
「ぶっぶー。これはね」
ダニエルが伝手で手に入れた、リアルブルーの娯楽の一つだ。
「ビデオゲームって言うんだ」
つまりこうだ。
咄嗟のコマンド入力を上達させるために、リアルブルーの各種ゲームをやらせよう、という。
対戦相手はジーナ。互いに知らない遊びで教えるもクソもあるか、そもそも遊びで訓練とはどういうことだと食って掛かったディアナだが、ダニエルは飄々とそれらを受け流し、まず2Dの格闘ゲームを始めさせた。
すぐに操作を覚えたジーナが、ディアナをボコボコにした。
「くっ……」
「操作自体はCAMより楽だろ」
ディアナは悔しげに呻くのみ。ダニエルは満足気に頷くと、ジーナの頭をぽんと撫でた。
「てわけで、小生意気な上官をボコにしてあげて」
「や、そんな」
「『てめー後輩だろうが敬意を払え!』くらい言ってもいいから。じゃーねー」
「あっ隊長、ちょっと!」
引きとめようとしたジーナを置いて、ダニエルはさっさとその場を去った。残された彼女は、隣でテレビ画面を睨みつけるディアナを見て、気まずい空気に身震いした。
階級も年齢もディアナが上だ。得意分野も近接と射撃でまるきり違うし、かたや新人かたやベテランである。
私これどうしたらいいの、と呻くジーナの前で、ディアナはぽつりと呟いた。
「次」
「はひっ」
「やりましょう」
先程とは違うモノを秘めた彼女の視線を受けて、ああこの人負けず嫌いの体育会系だった、とジーナは嫌な事実に気付いた。
丸一日訓練が続いた。
●
「……というのが昨日のあらまし。へばったジーナ軍曹の代わりにディアナ大尉を伸して欲しいんだよね」
かつてこれほど下らない依頼があっただろうか。軍からの依頼で「ゲームをしてくれ」などと言われた時は目を剥いた。
ダニエルはへらっと笑って彼らを件の部屋に連れてきた。
「まぁこんな依頼を受けるくらいだからそれなりにゲームに造詣は深いと思うし、もしかしたら色々思い入れがあるかもしれないけど、正直何も知らない俺が見ても酷い腕前だから期待はしないでね」
彼は軽いノリでハンターたちを送り出した。
「あ、ジーナはこっちで回収するから気にしないで。じゃーよろしく」
リプレイ本文
●
「一夜漬けのように只々詰め込んだって、この先まで体が覚える訳ねーだろ」
至極正論だ。
龍崎・カズマ(ka0178)は、ディアナ・C・フェリックス(kz0105)が脱ぎ捨てたままの寝袋を回収する。
「ちょっと」
「没収だ。異論は聞かん」
脇に置いてあったスナック各位も回収すると、伸ばされた手をするりとかわした。
まぁゲームのやり過ぎは体に良くない。撤退していくジーナ・サルトリオ(kz0103)の様子を見れば、それは分かる。
「身体に無理かけたって集中力を欠いて詰まらねーミス繰り返すのがオチだ」
「そんなに柔に見えるかしら。一線退いて長いせいね」
「ゲーム片手でなけりゃマシな台詞だがなぁ」
ディアナはぐうの音も出ない。
ナナミ川の一件で活躍した時とはまるで違う様子に、一同苦笑いしか浮かばない。神経質で気性が荒く怠惰。加えて今はゲーム廃人である。実は別人と言われたら信じるだろう。というか、大丈夫なのか特機隊。
不機嫌そうに睨んだ画面では、某世界的キノコゲームのヒゲが栗に当たって死んだ。
「普通に寝床で寝て、まともな食事をとれ。面倒なら家事はやっといてやる。……だが洗濯は自分でしろ、せめて」
返答は鋭い舌打ちである。
「思春期の男子とお母さんみたいねぇ」
沢城 葵(ka3114)は呆れた顔で呟いた。
「先ず休め。こっちも打ち合わせだ」
渋々といった様子で部屋へと戻っていくディアナを見送り、ハンターたちは顔を突き合わせた。
ひとまず一時間半毎に休憩となった。
●
欠伸しながら戻ったディアナの、最初の相手はエルバッハ・リオン(ka2434)だ。
「初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください。よろしくお願いします」
「ディアナ・フェリックスよ」
簡潔に答える彼女に対し取り出したのは対戦系の落ち物パズルゲーム。ぷよんぷよんの方だ。
エルの助言を受けて、ディアナは興味深そうにチュートリアルを済ませる。勝手に落ちるブロック。三つ繋ぐと消える。排出口が塞がったら負け。
「連鎖や妨害を勘案しながら、落ちてくるパズルを素早く操作することが有効な訓練になると判断しました」
頷くディアナをよそに、エルは早速対戦を選択した。
「では、最初は二連鎖まで・落下加速なしでお相手します。ハンデは都度緩めますが、勝率は二割程度を目安に」
「負けて拗ねたりはしないから、安心して」
ジーナが聞いたら嘘だと思うだろうが、彼女はベッドとの感動の再開に涙している最中だ。
開始から数手進んだ辺りで、エルは反省した。ディアナは冷静にボタンを押して向きを変え、位置を調整。
「加速って下キーよね」
「はい」
「じゃ、これで」
発火。ディアナの五ほどの連鎖が始まった。チュートリアル通りの階段積みだ。
その後数回プレイしたが連鎖のコツは把握したらしく、折り返しや不定形連鎖まで独力で組み始めた。ただし遅い。
得意げに勝利画面を見つめる彼女を見て、焦らせなければとエルは判断した。
「すみません、ハンデが緩すぎました」
落下加速を解禁し、エルは三・四連鎖程度を一定のペースで繰り出し始める。処理力を上回られた途端、覚束なくなるディアナの手つき。要求される速度の増加に合わせて荒くなる入力。
「ちっ」
設置ミスが発生して発火が遅れ、その隙にお邪魔ブロックに導火線を潰され、あえなく敗北。
「……もう一回よ」
「では同じハンデで」
後は頭と指を同期する作業だがこれが長い。時間終了まで、ついぞハンデが更新されることはなかった。
●
「さって、久々に楽しませて貰うとすっかな!」
カズマの料理を堪能し、次は清柳寺 月羽(ka3121)とヒュムネ・ミュンスター(ka4288)。
「……ギター?」
「の、音ゲーだね」
月羽が差し出したのは専用ギター型コントローラだ。
「弦ボタン四つにレバー一つ、簡単だろ?」
「数だけはね」
不機嫌そうにギターを提げる姿は不思議と似合っていた。
「とりあえず難易度は最低の一と」
操作は対応したボタンを押してレバーを弾くだけ。音符が個別に降ってくる程度なら余裕で対応出来るらしく、最後には完璧に弾き切った。
「演奏出来てる気になれて気分いいわね、これ」
お気に召したらしく、弦を無意味にぐいぐいしながらディアナは言った。
「慣れた? なら難易度上げるよ」
「突然四つくらい上げたわよね、今」
月羽はしれっと難易度五の曲を選択した。曲名は『秋風に拉致されたい』だそうだ。昭和風である。
「練習なんだから難しいのやらないと」
「好き勝手やってるだけだったりしない?」
と言いつつも専コンを構えるディアナ。
結果は散々であった。
「初めはこんなもんさ。ほら次」
なにせ階段・トリル・縦連・同時押し等基本パターンが目白押しで元々難しめな曲だ。
「焦らずに確実に、指が暴れないように。狙撃の感覚の延長でいいんだ」
「トリガーがもっと簡単に引ければそうだろうけど」
ただし今回は音ゲーに慣れるのが目的ではない。専コンはCAMの操縦桿と別種であり、訓練向きではなかった。
何曲目かの失敗を機に、見かねたヒュムネが普通のコントローラを投げ渡した。
「コイツを試してみな、訓練にゃ丁度良いと思うぜ?」
矢印に合わせてボタンを押す、ゲーセンだとパネルを踏むタイプの音ゲーだ。
両手でシビアで正確なコマンド入力をするという方向は訓練に適する。ヒュムネは手の忙しい曲を選んだ。
「ほい、ここでミスな」
「ちっ……あああ、待ちなさい、この、このっ」
案の定、一度のミスから総崩れであった。序盤から指が追い付いていない。
「ほれ、手本見してやるよ」
と言って同じ曲を始めるヒュムネ。堂々フルコンだ。悔しげに画面と手元を睨むディアナ。
踏まえての二回目は、手本のおかげか前より伸びた。
「あんた狙撃手だろ? じゃ敵の行動を予測してトリガーを引くのは得意だろ? さっき言ってたしな?」
ヒュムネの煽りに舌打ちを返しながらの三度目、惜しくも失敗。
「次はやるわよ、煽られっぱなしは性に合わないわ……」
と意気込むディアナの前にカズマがすっと割って入った。
「ちょっ」
「残念だが時間切れだ」
「おいおい空気読めよ!」
ヒュムネの抗議も虚しく、ディアナは引っ張られていった。
「よし最後にあたしが一曲」
「お前はやりたいだけだろ」
月羽も引っ張られていった。
●
次はカズマと補佐のヒュムネだ。おやつにドライフルーツを摘んでいる。
種目はFPS。動作は生身と大差ないから、操作に集中するだけだ。やはり彼女は狙撃兵。伏せてスコープを覗き、射程の長さに舌を巻いた。
「……こっちにこんな銃があればね」
感傷に浸るディアナの目の前に擲弾が投げ込まれる。
「は?」
爆発時間を調整されて空中で爆発したグレが無残にキルを奪っていった。
「ほらほら、芋ってんなよ!」
「芋って何よ、芋虫の比喩?」
「よく分かってんじゃねえか。後ろで寝そべってるお邪魔虫の事だ」
ディアナは今日最悪の表情で画面を睨んだ。
●
「こっちでこんなゲームできるなんてねぇ。あんまり気負わず緩~くやりましょっ」
オネエ口調の葵にディアナは少し眉を持ち上げたが、然程興味を見せずに画面へ顔を向ける。
「コレでも結構向こうではやる方だったのよ~。一応全国大会も経験あるわよ?」
種目はロボゲー。装甲が核で評決の日な機体組み換え系の奴だ。
「これ、向こうのCAM?」
「んーん、創作よ? こんなに無茶な機動はあまりしないわねぇ」
曰く、任務遂行の為の作業も多様で、シミュレーションになるだろうとのこと。
「まずは私が操作するのを見せるから、真似てみて」
簡単な移動やブーストから、組み合わせてジャンプ移動など、動作を徐々に複雑にしていく。
ひと通り慣れてからは、一人用モードを始めることになった。ディアナは終始難しい顔で画面を睨んでいる。
「勝手が違いすぎて、どうにもね……」
操縦桿の形状から操作系までまるっきり違うが、画面は似ていてやりづらい。特に瞬間的な加速が曲者だ。虚空を蹴り飛ばしながらディアナはぼやいた。
「使うボタンが多すぎるわ」
「だから選んだんじゃないの」
ぶーぶーと文句を言いつつも全くやめようとしない辺り、ディアナも大概嵌っている。それに煩雑で特殊な操作に慣れるという視点ではむしろ好都合だ。
数分後、ボボボボと無残な炎を上げながらディアナの機体が転がっていき、爆散した。
●
水城もなか(ka3532)は部屋に入るなり、敬礼を取った。
「僭越ながらジーナ軍曹に代わりまして、ディアナ大尉のお相手をさせていただく。宙軍元曹長の水城もなかです。よろしくお願いいたします!」
日も暮れかけた頃だ。ディアナは葵お手製のサンドイッチを置くと、機敏に礼を返した。
「同盟陸軍特機隊所属、ディアナ・フェリックス大尉であります。特機の先達に訓練を担当して頂けること、光栄に思います」
かたや尉官の新人CAM乗り、かたや曹長の元CAM操縦士。立場は難しい。
三秒ほど固まった後、互いに肩を落とした。
「……なしなし。ハンターと軍人、気楽にしましょう」
「そうですね……そう言って頂けると、あたしも気が楽です」
もなかは少し苦笑した。
「クリムゾンウェストの方にもCAMを使ってもらえるというのは宙軍兵士としては嬉しいものがありますね」
「そっちと違って酷いものでしょ?」
「最初は皆そうでしたよ」
等々言いつつもなかが取り出したのはロボゲーだ。ツインスティックで動かすアレだ。操縦系はCAMに近く、特に格闘周りが簡易な分ディアナは取っ付き易かろう。
角刈り軍人風のゴツい機体を二人して選び、操縦練習しつつ、もなかは言った。
「あたしも格闘……というか原隊の性質上、戦闘は得意ではないです」
「斥候よね?」
「ええ。ですがCAMパイロットして簡単に負けるわけにはいかないですから、本気でプレイさせていただきますね」
不敵に笑って操縦桿を握る熟練者に、ディアナはしばし言葉を探して、こう答えた。
「望外だわ」
さて、互いに同じ近接型故に自ずと接近戦になる。ゲーム故にかなり曲がる弾の機動などを確認しつつ、互いに接近。
「ちょっ」
「やっぱアファのCWは気持ちいいですねえ。それ」
トンファー一発で体力を半分持っていかれて焦るディアナの起き上がりにトンファーを重ね、呆気無く勝敗が決した。
「あっ、これあくまでゲームですから! CAMにこんな動作させるのは難しいですから憶えなくてもいいですからね!?」
「出来るのね?」
「まぁ回り込みとかフリップなら、こんな感じで」
もなかは格闘を振ったディアナの背後へブーストで回り込み、トンファーのなぎ払いで沈める。
ボコボコである。ただ少なくとも、不格好に踊るようなことはなかった。
その後も複雑な操作をあれこれ試しつつ、もなかにボコられているうちに休憩時間になる。
「取れるときに休憩を取るのはこれからも徹底しましょう。CAM戦闘は神経をすり減らしますから」
手も足も出ないなりに何かを見出したらしいディアナは、名残惜しげにレバーを何度か動かしつつも頷いた。
●
「はぁーい! 特訓タイムでぇーす!」
紫月・海斗(ka0788)は元気よく言う。彼とリュー・グランフェスト(ka2419)は格ゲー担当だ。
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしくな」
リューはこちら側の住人だが、蒼界の友人の紹介でゲーム自体の知識はある。プレイするのは格ゲーの王道。
「まあ、格闘の訓練だってーし」
「……了解」
嫌そうな顔だな、と二人は苦笑する。
(散々やったみたいだけど、どんなもんか見てみたいしな……)
「CAMの操縦とかもこんなの使ってやるのか?」
「専用の機器を使うけど、こっちの方が好きだわ」
そりゃあな。リューは思った。
ついでに好奇心で格闘の腕前を見た感じ、徹底して軍隊格闘を仕込まれている様子だ。
「んじゃ反復練習だな。大事なのは型を身体に覚え込ませる事だぜ」
「型か……」
「たぶん反応はできても上手く動かないってのは、基本が抜けてるからだと思うんだ」
返答代わりの竜昇撃は不発に終わった。
「別に遠慮しないでいいわ」
「え」
「歳とか階級とか気にせずどんどん指摘して。周り見てみなさい、今更よ」
ディアナはしれっと言って、竜昇コマンドに失敗した。リューは頭を掻いた。
「……斜め入力が出来てないかな」
「こう?」
画面の中で、道着に鉢巻の男が燃え上がるアッパーを放った。
「さっきから見てるけどよ、もう下手とか苦手ってレベルじゃなくて奇跡的なダメっぷりだぁな」
「今日はぐうとも言わせてくれない日ね……」
海斗はGGでACなあれを選んだ。
「これ、速度速めだし、コンボ、パターン対応といろいろ出来て良い感じな訳よ」
「で?」
「このマッチョな紳士を使ってみ。単発高威力、好みに合うと思うんだよなぁ」
格ゲーの巨漢は大体投げキャラである。彼もそうだ。ちなみに海斗の持ちキャラである。
(波動球から溜め系、追加入力、二回転と揃ってるかんなー。鍛えるには丁度良いだろ)
海斗の方針もリューと同じく反復練習だ。基本はリューの時で覚えたようだが半回転以上が覚束ない。
諸々コンボはひと通り出来るようにしたいが……。
「むりそーだね、こりゃ」
舌打ちにも勢いがない。今日一日では無理そうだ。少なくとも一番最初よりはマシで、竜昇と波動球は出るようになったが、回転とか溜めはダメそうである。
「ま、美人の指を傷付けないよーに休憩挟みながらだぁなー。いや、マジで。若い頃特訓したら指の皮剥けてひでぇ事になったし」
「これ、娯楽でしょう?」
「おいおい、訓練と称して実は目一杯遊んでるディアナちゃんも、そんな目でオジサン見る資格ないんじゃないのぉ?」
ディアナは目を逸らした。
「まぁ、美人の為だ、いくらでも付き合うぜー。接待プレイはしねぇが!」
宣言通りボコボコにされた。手くらいは出たとディアナは信じたいが、現実は非情であった。
●
一周する頃には夜になっていた。
「それじゃもう一周、さっきのパズルから……」
「夜更かしはダメダメッ! 女の子なんだからお肌とか気にしないとっ」
ディアナは今日一番に面倒臭そうな顔をして、軽く頭を掻いた。
「……まぁ、助かったわ。多分昨日よりマシだと思う。ふあ……」
欠伸を噛み殺し、ディアナは手を動かした。CAMの格闘コマンドである。もなかの見立てでは最低限入力は成功しているようだ。
休憩する度一人無心にCAMのコマンドを反復している姿を皆見かけていた。その動作は無意識だったらしく、彼女はバツが悪そうに視線を逸らした。
「また呼ぶから、訓練手伝って頂戴。一人でやるよりお互い得でしょ」
「サボれるからか?」
「やられっぱなしがムカつくからに決まってるでしょう」
ディアナは不敵に笑った。
「一夜漬けのように只々詰め込んだって、この先まで体が覚える訳ねーだろ」
至極正論だ。
龍崎・カズマ(ka0178)は、ディアナ・C・フェリックス(kz0105)が脱ぎ捨てたままの寝袋を回収する。
「ちょっと」
「没収だ。異論は聞かん」
脇に置いてあったスナック各位も回収すると、伸ばされた手をするりとかわした。
まぁゲームのやり過ぎは体に良くない。撤退していくジーナ・サルトリオ(kz0103)の様子を見れば、それは分かる。
「身体に無理かけたって集中力を欠いて詰まらねーミス繰り返すのがオチだ」
「そんなに柔に見えるかしら。一線退いて長いせいね」
「ゲーム片手でなけりゃマシな台詞だがなぁ」
ディアナはぐうの音も出ない。
ナナミ川の一件で活躍した時とはまるで違う様子に、一同苦笑いしか浮かばない。神経質で気性が荒く怠惰。加えて今はゲーム廃人である。実は別人と言われたら信じるだろう。というか、大丈夫なのか特機隊。
不機嫌そうに睨んだ画面では、某世界的キノコゲームのヒゲが栗に当たって死んだ。
「普通に寝床で寝て、まともな食事をとれ。面倒なら家事はやっといてやる。……だが洗濯は自分でしろ、せめて」
返答は鋭い舌打ちである。
「思春期の男子とお母さんみたいねぇ」
沢城 葵(ka3114)は呆れた顔で呟いた。
「先ず休め。こっちも打ち合わせだ」
渋々といった様子で部屋へと戻っていくディアナを見送り、ハンターたちは顔を突き合わせた。
ひとまず一時間半毎に休憩となった。
●
欠伸しながら戻ったディアナの、最初の相手はエルバッハ・リオン(ka2434)だ。
「初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください。よろしくお願いします」
「ディアナ・フェリックスよ」
簡潔に答える彼女に対し取り出したのは対戦系の落ち物パズルゲーム。ぷよんぷよんの方だ。
エルの助言を受けて、ディアナは興味深そうにチュートリアルを済ませる。勝手に落ちるブロック。三つ繋ぐと消える。排出口が塞がったら負け。
「連鎖や妨害を勘案しながら、落ちてくるパズルを素早く操作することが有効な訓練になると判断しました」
頷くディアナをよそに、エルは早速対戦を選択した。
「では、最初は二連鎖まで・落下加速なしでお相手します。ハンデは都度緩めますが、勝率は二割程度を目安に」
「負けて拗ねたりはしないから、安心して」
ジーナが聞いたら嘘だと思うだろうが、彼女はベッドとの感動の再開に涙している最中だ。
開始から数手進んだ辺りで、エルは反省した。ディアナは冷静にボタンを押して向きを変え、位置を調整。
「加速って下キーよね」
「はい」
「じゃ、これで」
発火。ディアナの五ほどの連鎖が始まった。チュートリアル通りの階段積みだ。
その後数回プレイしたが連鎖のコツは把握したらしく、折り返しや不定形連鎖まで独力で組み始めた。ただし遅い。
得意げに勝利画面を見つめる彼女を見て、焦らせなければとエルは判断した。
「すみません、ハンデが緩すぎました」
落下加速を解禁し、エルは三・四連鎖程度を一定のペースで繰り出し始める。処理力を上回られた途端、覚束なくなるディアナの手つき。要求される速度の増加に合わせて荒くなる入力。
「ちっ」
設置ミスが発生して発火が遅れ、その隙にお邪魔ブロックに導火線を潰され、あえなく敗北。
「……もう一回よ」
「では同じハンデで」
後は頭と指を同期する作業だがこれが長い。時間終了まで、ついぞハンデが更新されることはなかった。
●
「さって、久々に楽しませて貰うとすっかな!」
カズマの料理を堪能し、次は清柳寺 月羽(ka3121)とヒュムネ・ミュンスター(ka4288)。
「……ギター?」
「の、音ゲーだね」
月羽が差し出したのは専用ギター型コントローラだ。
「弦ボタン四つにレバー一つ、簡単だろ?」
「数だけはね」
不機嫌そうにギターを提げる姿は不思議と似合っていた。
「とりあえず難易度は最低の一と」
操作は対応したボタンを押してレバーを弾くだけ。音符が個別に降ってくる程度なら余裕で対応出来るらしく、最後には完璧に弾き切った。
「演奏出来てる気になれて気分いいわね、これ」
お気に召したらしく、弦を無意味にぐいぐいしながらディアナは言った。
「慣れた? なら難易度上げるよ」
「突然四つくらい上げたわよね、今」
月羽はしれっと難易度五の曲を選択した。曲名は『秋風に拉致されたい』だそうだ。昭和風である。
「練習なんだから難しいのやらないと」
「好き勝手やってるだけだったりしない?」
と言いつつも専コンを構えるディアナ。
結果は散々であった。
「初めはこんなもんさ。ほら次」
なにせ階段・トリル・縦連・同時押し等基本パターンが目白押しで元々難しめな曲だ。
「焦らずに確実に、指が暴れないように。狙撃の感覚の延長でいいんだ」
「トリガーがもっと簡単に引ければそうだろうけど」
ただし今回は音ゲーに慣れるのが目的ではない。専コンはCAMの操縦桿と別種であり、訓練向きではなかった。
何曲目かの失敗を機に、見かねたヒュムネが普通のコントローラを投げ渡した。
「コイツを試してみな、訓練にゃ丁度良いと思うぜ?」
矢印に合わせてボタンを押す、ゲーセンだとパネルを踏むタイプの音ゲーだ。
両手でシビアで正確なコマンド入力をするという方向は訓練に適する。ヒュムネは手の忙しい曲を選んだ。
「ほい、ここでミスな」
「ちっ……あああ、待ちなさい、この、このっ」
案の定、一度のミスから総崩れであった。序盤から指が追い付いていない。
「ほれ、手本見してやるよ」
と言って同じ曲を始めるヒュムネ。堂々フルコンだ。悔しげに画面と手元を睨むディアナ。
踏まえての二回目は、手本のおかげか前より伸びた。
「あんた狙撃手だろ? じゃ敵の行動を予測してトリガーを引くのは得意だろ? さっき言ってたしな?」
ヒュムネの煽りに舌打ちを返しながらの三度目、惜しくも失敗。
「次はやるわよ、煽られっぱなしは性に合わないわ……」
と意気込むディアナの前にカズマがすっと割って入った。
「ちょっ」
「残念だが時間切れだ」
「おいおい空気読めよ!」
ヒュムネの抗議も虚しく、ディアナは引っ張られていった。
「よし最後にあたしが一曲」
「お前はやりたいだけだろ」
月羽も引っ張られていった。
●
次はカズマと補佐のヒュムネだ。おやつにドライフルーツを摘んでいる。
種目はFPS。動作は生身と大差ないから、操作に集中するだけだ。やはり彼女は狙撃兵。伏せてスコープを覗き、射程の長さに舌を巻いた。
「……こっちにこんな銃があればね」
感傷に浸るディアナの目の前に擲弾が投げ込まれる。
「は?」
爆発時間を調整されて空中で爆発したグレが無残にキルを奪っていった。
「ほらほら、芋ってんなよ!」
「芋って何よ、芋虫の比喩?」
「よく分かってんじゃねえか。後ろで寝そべってるお邪魔虫の事だ」
ディアナは今日最悪の表情で画面を睨んだ。
●
「こっちでこんなゲームできるなんてねぇ。あんまり気負わず緩~くやりましょっ」
オネエ口調の葵にディアナは少し眉を持ち上げたが、然程興味を見せずに画面へ顔を向ける。
「コレでも結構向こうではやる方だったのよ~。一応全国大会も経験あるわよ?」
種目はロボゲー。装甲が核で評決の日な機体組み換え系の奴だ。
「これ、向こうのCAM?」
「んーん、創作よ? こんなに無茶な機動はあまりしないわねぇ」
曰く、任務遂行の為の作業も多様で、シミュレーションになるだろうとのこと。
「まずは私が操作するのを見せるから、真似てみて」
簡単な移動やブーストから、組み合わせてジャンプ移動など、動作を徐々に複雑にしていく。
ひと通り慣れてからは、一人用モードを始めることになった。ディアナは終始難しい顔で画面を睨んでいる。
「勝手が違いすぎて、どうにもね……」
操縦桿の形状から操作系までまるっきり違うが、画面は似ていてやりづらい。特に瞬間的な加速が曲者だ。虚空を蹴り飛ばしながらディアナはぼやいた。
「使うボタンが多すぎるわ」
「だから選んだんじゃないの」
ぶーぶーと文句を言いつつも全くやめようとしない辺り、ディアナも大概嵌っている。それに煩雑で特殊な操作に慣れるという視点ではむしろ好都合だ。
数分後、ボボボボと無残な炎を上げながらディアナの機体が転がっていき、爆散した。
●
水城もなか(ka3532)は部屋に入るなり、敬礼を取った。
「僭越ながらジーナ軍曹に代わりまして、ディアナ大尉のお相手をさせていただく。宙軍元曹長の水城もなかです。よろしくお願いいたします!」
日も暮れかけた頃だ。ディアナは葵お手製のサンドイッチを置くと、機敏に礼を返した。
「同盟陸軍特機隊所属、ディアナ・フェリックス大尉であります。特機の先達に訓練を担当して頂けること、光栄に思います」
かたや尉官の新人CAM乗り、かたや曹長の元CAM操縦士。立場は難しい。
三秒ほど固まった後、互いに肩を落とした。
「……なしなし。ハンターと軍人、気楽にしましょう」
「そうですね……そう言って頂けると、あたしも気が楽です」
もなかは少し苦笑した。
「クリムゾンウェストの方にもCAMを使ってもらえるというのは宙軍兵士としては嬉しいものがありますね」
「そっちと違って酷いものでしょ?」
「最初は皆そうでしたよ」
等々言いつつもなかが取り出したのはロボゲーだ。ツインスティックで動かすアレだ。操縦系はCAMに近く、特に格闘周りが簡易な分ディアナは取っ付き易かろう。
角刈り軍人風のゴツい機体を二人して選び、操縦練習しつつ、もなかは言った。
「あたしも格闘……というか原隊の性質上、戦闘は得意ではないです」
「斥候よね?」
「ええ。ですがCAMパイロットして簡単に負けるわけにはいかないですから、本気でプレイさせていただきますね」
不敵に笑って操縦桿を握る熟練者に、ディアナはしばし言葉を探して、こう答えた。
「望外だわ」
さて、互いに同じ近接型故に自ずと接近戦になる。ゲーム故にかなり曲がる弾の機動などを確認しつつ、互いに接近。
「ちょっ」
「やっぱアファのCWは気持ちいいですねえ。それ」
トンファー一発で体力を半分持っていかれて焦るディアナの起き上がりにトンファーを重ね、呆気無く勝敗が決した。
「あっ、これあくまでゲームですから! CAMにこんな動作させるのは難しいですから憶えなくてもいいですからね!?」
「出来るのね?」
「まぁ回り込みとかフリップなら、こんな感じで」
もなかは格闘を振ったディアナの背後へブーストで回り込み、トンファーのなぎ払いで沈める。
ボコボコである。ただ少なくとも、不格好に踊るようなことはなかった。
その後も複雑な操作をあれこれ試しつつ、もなかにボコられているうちに休憩時間になる。
「取れるときに休憩を取るのはこれからも徹底しましょう。CAM戦闘は神経をすり減らしますから」
手も足も出ないなりに何かを見出したらしいディアナは、名残惜しげにレバーを何度か動かしつつも頷いた。
●
「はぁーい! 特訓タイムでぇーす!」
紫月・海斗(ka0788)は元気よく言う。彼とリュー・グランフェスト(ka2419)は格ゲー担当だ。
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしくな」
リューはこちら側の住人だが、蒼界の友人の紹介でゲーム自体の知識はある。プレイするのは格ゲーの王道。
「まあ、格闘の訓練だってーし」
「……了解」
嫌そうな顔だな、と二人は苦笑する。
(散々やったみたいだけど、どんなもんか見てみたいしな……)
「CAMの操縦とかもこんなの使ってやるのか?」
「専用の機器を使うけど、こっちの方が好きだわ」
そりゃあな。リューは思った。
ついでに好奇心で格闘の腕前を見た感じ、徹底して軍隊格闘を仕込まれている様子だ。
「んじゃ反復練習だな。大事なのは型を身体に覚え込ませる事だぜ」
「型か……」
「たぶん反応はできても上手く動かないってのは、基本が抜けてるからだと思うんだ」
返答代わりの竜昇撃は不発に終わった。
「別に遠慮しないでいいわ」
「え」
「歳とか階級とか気にせずどんどん指摘して。周り見てみなさい、今更よ」
ディアナはしれっと言って、竜昇コマンドに失敗した。リューは頭を掻いた。
「……斜め入力が出来てないかな」
「こう?」
画面の中で、道着に鉢巻の男が燃え上がるアッパーを放った。
「さっきから見てるけどよ、もう下手とか苦手ってレベルじゃなくて奇跡的なダメっぷりだぁな」
「今日はぐうとも言わせてくれない日ね……」
海斗はGGでACなあれを選んだ。
「これ、速度速めだし、コンボ、パターン対応といろいろ出来て良い感じな訳よ」
「で?」
「このマッチョな紳士を使ってみ。単発高威力、好みに合うと思うんだよなぁ」
格ゲーの巨漢は大体投げキャラである。彼もそうだ。ちなみに海斗の持ちキャラである。
(波動球から溜め系、追加入力、二回転と揃ってるかんなー。鍛えるには丁度良いだろ)
海斗の方針もリューと同じく反復練習だ。基本はリューの時で覚えたようだが半回転以上が覚束ない。
諸々コンボはひと通り出来るようにしたいが……。
「むりそーだね、こりゃ」
舌打ちにも勢いがない。今日一日では無理そうだ。少なくとも一番最初よりはマシで、竜昇と波動球は出るようになったが、回転とか溜めはダメそうである。
「ま、美人の指を傷付けないよーに休憩挟みながらだぁなー。いや、マジで。若い頃特訓したら指の皮剥けてひでぇ事になったし」
「これ、娯楽でしょう?」
「おいおい、訓練と称して実は目一杯遊んでるディアナちゃんも、そんな目でオジサン見る資格ないんじゃないのぉ?」
ディアナは目を逸らした。
「まぁ、美人の為だ、いくらでも付き合うぜー。接待プレイはしねぇが!」
宣言通りボコボコにされた。手くらいは出たとディアナは信じたいが、現実は非情であった。
●
一周する頃には夜になっていた。
「それじゃもう一周、さっきのパズルから……」
「夜更かしはダメダメッ! 女の子なんだからお肌とか気にしないとっ」
ディアナは今日一番に面倒臭そうな顔をして、軽く頭を掻いた。
「……まぁ、助かったわ。多分昨日よりマシだと思う。ふあ……」
欠伸を噛み殺し、ディアナは手を動かした。CAMの格闘コマンドである。もなかの見立てでは最低限入力は成功しているようだ。
休憩する度一人無心にCAMのコマンドを反復している姿を皆見かけていた。その動作は無意識だったらしく、彼女はバツが悪そうに視線を逸らした。
「また呼ぶから、訓練手伝って頂戴。一人でやるよりお互い得でしょ」
「サボれるからか?」
「やられっぱなしがムカつくからに決まってるでしょう」
ディアナは不敵に笑った。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/02 01:51:14 |
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相談卓 水城もなか(ka3532) 人間(リアルブルー)|22才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/04/05 13:56:59 |