ゲスト
(ka0000)
嗚呼! いとしのアマーリエ!
マスター:朝海りく

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/07 07:30
- 完成日
- 2015/04/14 21:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●幸せなひととき
男は、街道の端に荷馬車を停めていた。
荷車を埋め尽くす食料品や酒、織物に焼物、土産物の数々を、彼、ルスタンは目じりにシワを刻んで満足げに眺めていた。少しばかり遠出をして仕入れてきた各地の名産品は、商売を営む彼にとっては戦利品とも言える。
これだけ揃えられたなら、相当な儲けが出るだろう。頭の中で数字をはじき出しながら、彼は、自身のために仕立てた質のいい上着から葉巻を取り出した。
ふと横を見ると、アマーリエが草むらの中に咲いた一輪の花を、興味深そうに眺めている。
「春の匂いがするだろう、アマーリエ」
彼の言葉に、アマーリエの瞳がきらきらと輝く。踊るように駆け出した。
「あまり遠くへ行ってはいけないよ」
ルスタンを横目にくるくると走り回るアマーリエに、彼は、取り出したばかりの葉巻をふたたびポケットにしまいこんだ。追いかけっこに興ずるように、緩やかな走りでアマーリエの後ろに続く。
「はは、こら。待ちなさい、アマーリエ」
あははうふふと響く幸せな笑い声が、雲ひとつない青空に広がっていく。
ゆっくりと流れる時間、幸せなひととき。彼は幸福感に包まれていた。ゆえに、気付かなかったのだ。
荷馬車に近付く、ゴブリンたちの影に。
●ソサエティ支部
オフィスの扉が、勢いよく開いた。
衣服を泥だらけにし、髪を振り乱した一人の男が飛び込んでくる。ルスタンだった。
彼はわき目も振らずに一直線に受付へと進むと、その机上に思いきり手をついた。
「助けてくれ! 気高く美しいアマーリエが、低俗なゴブリンどもにさらわれた!!」
「……え、ええと……依頼のお申し込み、ですね」
男の形相とその勢いに驚いた受付嬢は、少々身を後ろに引きながらも、かろうじて笑顔を向ける。途端にずいっと男の顔が近づいてきた。
「ひっ……」
「頼む、アマーリエを助けてくれ!」
息をのむ受付嬢にすがる、顔面蒼白の男。響き渡る悲愴感に満ちた彼の声に、その場に居合わせた幾人かが顔を向ける。
「そ、その方は、その、ご家族の方でしょうか」
「アマーリエは私の命だ!!」
不意にルスタンの身体から力が抜けた。膝からくずれ落ちた彼は、机上に腕を残したまま打ちひしがれている。
「ああ、愛しのアマーリエ。今ごろ恐怖に怯え、その小さな身体をふるわせているのだろう……君をこの手で助けられない無力な私を許しておくれ……」
「……あの……緊急のようですので、すぐに手続きをいたしますから……経緯と、アマーリエさんの特徴を……」
受付嬢が腰を浮かせて男を覗き込むと、男が顔を上げた。いきなり立ち上がる。
「ひっ」
「アマーリエは美しい。黒曜石のようなつぶらな瞳に、上向いた愛嬌のある鼻。しなやかな曲線を描くその美しい身体は見る者を魅了する。血色の良い桃色の肌。後ろ姿がとてつもなく愛らしい」
突然流れるように喋り出したルスタンの言葉を、受付嬢が慌てて書き留める。
「は……はぁ、なるほど。……それで、経緯は……」
受付嬢が先を促そうと顔を上げた時、彼はすでに目の前にはいなかった。
「君! 私のアマーリエを助けてくれないか!! 君! 頼む、アマーリエを救い出してくれ! 君は……ああ、依頼を出しに来たのか、すまない。……君!!」
室内に居る面々に片っ端から声を掛け、手を握り、ひたすら懇願し続ける男の姿を、受付嬢は唖然としたまま見つめることしか出来なかった。
男は、街道の端に荷馬車を停めていた。
荷車を埋め尽くす食料品や酒、織物に焼物、土産物の数々を、彼、ルスタンは目じりにシワを刻んで満足げに眺めていた。少しばかり遠出をして仕入れてきた各地の名産品は、商売を営む彼にとっては戦利品とも言える。
これだけ揃えられたなら、相当な儲けが出るだろう。頭の中で数字をはじき出しながら、彼は、自身のために仕立てた質のいい上着から葉巻を取り出した。
ふと横を見ると、アマーリエが草むらの中に咲いた一輪の花を、興味深そうに眺めている。
「春の匂いがするだろう、アマーリエ」
彼の言葉に、アマーリエの瞳がきらきらと輝く。踊るように駆け出した。
「あまり遠くへ行ってはいけないよ」
ルスタンを横目にくるくると走り回るアマーリエに、彼は、取り出したばかりの葉巻をふたたびポケットにしまいこんだ。追いかけっこに興ずるように、緩やかな走りでアマーリエの後ろに続く。
「はは、こら。待ちなさい、アマーリエ」
あははうふふと響く幸せな笑い声が、雲ひとつない青空に広がっていく。
ゆっくりと流れる時間、幸せなひととき。彼は幸福感に包まれていた。ゆえに、気付かなかったのだ。
荷馬車に近付く、ゴブリンたちの影に。
●ソサエティ支部
オフィスの扉が、勢いよく開いた。
衣服を泥だらけにし、髪を振り乱した一人の男が飛び込んでくる。ルスタンだった。
彼はわき目も振らずに一直線に受付へと進むと、その机上に思いきり手をついた。
「助けてくれ! 気高く美しいアマーリエが、低俗なゴブリンどもにさらわれた!!」
「……え、ええと……依頼のお申し込み、ですね」
男の形相とその勢いに驚いた受付嬢は、少々身を後ろに引きながらも、かろうじて笑顔を向ける。途端にずいっと男の顔が近づいてきた。
「ひっ……」
「頼む、アマーリエを助けてくれ!」
息をのむ受付嬢にすがる、顔面蒼白の男。響き渡る悲愴感に満ちた彼の声に、その場に居合わせた幾人かが顔を向ける。
「そ、その方は、その、ご家族の方でしょうか」
「アマーリエは私の命だ!!」
不意にルスタンの身体から力が抜けた。膝からくずれ落ちた彼は、机上に腕を残したまま打ちひしがれている。
「ああ、愛しのアマーリエ。今ごろ恐怖に怯え、その小さな身体をふるわせているのだろう……君をこの手で助けられない無力な私を許しておくれ……」
「……あの……緊急のようですので、すぐに手続きをいたしますから……経緯と、アマーリエさんの特徴を……」
受付嬢が腰を浮かせて男を覗き込むと、男が顔を上げた。いきなり立ち上がる。
「ひっ」
「アマーリエは美しい。黒曜石のようなつぶらな瞳に、上向いた愛嬌のある鼻。しなやかな曲線を描くその美しい身体は見る者を魅了する。血色の良い桃色の肌。後ろ姿がとてつもなく愛らしい」
突然流れるように喋り出したルスタンの言葉を、受付嬢が慌てて書き留める。
「は……はぁ、なるほど。……それで、経緯は……」
受付嬢が先を促そうと顔を上げた時、彼はすでに目の前にはいなかった。
「君! 私のアマーリエを助けてくれないか!! 君! 頼む、アマーリエを救い出してくれ! 君は……ああ、依頼を出しに来たのか、すまない。……君!!」
室内に居る面々に片っ端から声を掛け、手を握り、ひたすら懇願し続ける男の姿を、受付嬢は唖然としたまま見つめることしか出来なかった。
リプレイ本文
●
晴れやかな春の午後。暖かくなり始めたばかりの風が草花を優しく揺らし、広い街道を撫でていく。
その柔らかな風を切り、駆け抜ける影が五つ。ハンター達だ。
「……この辺かな」
ルピナス(ka0179)が足を止める。分岐の多い街道だったが、事前にルートを確認していた彼の先導により、迷うことなく件の現場へと辿り着くことが出来た。
そのすぐ後ろでしゃがみこんだ無限 馨(ka0544)が、地面に刻まれた幾つかの轍の中から新しいひとつを指でなぞる。
「これを辿れば、美しきアマーリエ嬢をさらったゴブリン達に追いつけるはずっすよ」
「アマーリエ嬢、か」
前方を見据えた城戸 慶一郎(ka3633)がぽつりと呟いた。
「悪い魔物に美女がさらわれた。こんな事件、男として見過ごせないっすよ!」
親指を立てる無限に対し、慶一郎の心内は複雑だ。
この世界に来てからというもの、物事が額面通りだったことなどほとんどない。過去に関わってきた事件を思い起こせば、そんな横文字の名前など判断材料にもならなかった。
しかし慶一郎は、その疑念を口にするつもりはないようで。
「……そうだな」
そう短く答えると、再び前へと目を向けた。
ゴブリンを追跡するべく、無限が駆けだす。それに続く面々を横目に、ルピナスがふう、とひとつ溜息をついた。
「うん、まぁ最近引きこもりがちだったし、たまには外で運動も悪くないよね」
妹に半ば引っ張り出された形となったルピナスは、そう独りごちることで自分を納得させ、仲間たちに続いた。
それからしばらく轍を頼りに進んでいくと、ふと、三宮ひかり(ka4595)の目が光沢のある焦げ茶色の塊を捉える。
「あ! あれ、奪われた荷馬車じゃないですか!?」
「あれか……!」
徐々に近付くゴブリン達の後ろ姿。睨み付ける希崎 十夜(ka3752)の瞳が紅い輝きを放ち、なびく髪先が同色へと変わっていく。疾影士として持てる力のすべてを発揮するため、自身を覚醒状態へと導いた。
その直後、五人の鼓膜を打つ雄々しい声。
馬に跨った蒲公英(ka3795)が凛々しい雄叫びを上げ、前方からゴブリンの群れに突っ込んでいく。敵を目前に躊躇し乗用馬の足が鈍る。そのタイミングを見計らい蒲公英が強く手綱を引いた。驚いたようないななきと共にその長い前足が持ち上がる。
「ギャアッ!?」
突然の奇襲に、ゴブリン達は驚きと戸惑いの悲鳴を上げた。
●
敵が怯んだのを好機とし、瞬脚により仲間たちの中から躍り出たルピナスと無限が、左右に散る。無限は左側で縄を引っ張る二体のゴブリンへ、ルピナスは中央前方で先導していた槍を持つゴブリンへと、一直線に進む。
十夜もそれに続いた。刀を構え、ランアウトで突っ込んでいく。
三人を援護するように、慶一郎が魔導拳銃を、ひかりがワンドを構えた。マテリアルを強く込めて放たれた弾丸、晴天下でもまばゆい光を放つ矢。それらが空を切り、先行する三人の横を駆け抜ける。
光の矢が馬の手綱を引いていたゴブリンの背中を焼き、銃弾がアマーリエを引っ張る一体のゴブリンの腕に食い込んだ。
隣で慌てふためくゴブリンが振り返る。その背後に迫っていた無限は、即座にメイル・ブレイカーを振り下ろした。狙ったのはゴブリンの手元、拘束されたアマーリエへと繋がる縄だ。
「もう安心っすよ。俺達が来たからには、ヤツらには指一本触れさせないっすから!」
アマーリエを背後にかばい、安心させるべく声を掛ける。キラーンと輝かんばかりの笑顔で振り返った彼の表情が、固まった。
「無限さん!?」
ゴブリンが反撃に出るよりも早く、十夜の刀がその肩に食い込み皮膚を切った。そのまま、無限の視線を追いかけて振り返る。
「……って……」
無限と十夜、二人の声が重なった。
こちらを見上げてくるつぶらな瞳。短い足に、どっしりとした体。目印だと伝えられていた、耳の後ろの白い花飾り。それは、彼らが想像していた麗しき娘などではなく。
「……豚かよ!!?」
「……豚かよ!」
今度は十夜と、後方でその姿を確認した慶一郎の声が見事にシンクロした。
一方その頃、前衛に向かったルピナスは、蒲公英と共に槍を持つ敵と対峙していた。
ルピナスの動きに反応するように回避を試みたゴブリンだったが、その刃は、思わぬ方向からその横腹を斬りつける。
戦闘慣れしていない乗用馬に騎乗したままでは危険を伴う。即座にそう判断した蒲公英は、軽やかな身のこなしで飛び降りた。呻くゴブリンの頭に鉄製のパイプを振り下ろす。
「私の手が届く限り! 荷も! アマーリエ様も! たとえそこの豚であっても! 何一つ奪わせはしない!!」
ガンッと音を立ててゴブリンの脳天を直撃する。
その直後に響き渡る、仲間たちの驚きの声。
「豚って……、え……あれ……?」
「俺が思ってたよりは美味しそうだったね」
アマーリエを人間と信じて疑わなかった蒲公英をよそに、人形程度にしか思っていなかったルピナスは驚きこそすれ動じた様子はない。
そんな中、ひかりだけはその瞳を輝かせていた。
「ダンディなおじさまでしたけど、人は見かけによりませんね」
自身も特殊な嗜好を持つひかりは、シンパシーすら感じるほどだった。そんな彼女が目指すはハッピーエンド、それに向かって行動を起こそうとする。しかし。
「プギィッ、プギイィィッ」
積もり積もった恐怖が爆発したのか、突如高らかな鳴き声を上げたアマーリエは横へと向かって一直線に走り出した。一体で、尚かつ肩を負傷したゴブリンにはその巨体は制御できない。その手から縄が離れた。
「あ、アマーリエさんがっ……!」
「一瞬でも動きを止められれば平気か?」
慌てた様子でルスタンから預かってきた小袋に手を入れるひかりの横で、元々疑念を抱いていた慶一郎が、餌代わりに用意していたポテトチップスを取り出した。その袋を叩き割る。
中の空気が弾けるような大きな音に、慶一郎の目の前をのしのしと通過しようとしていたアマーリエが一瞬その足を止めた。アマーリエの進行方向に、放るようにポテトチップスを落とす。
それにアマーリエが反応した。と同時に上向いた鼻がひくひくと動き出す。
風に乗って漂う紫煙。主人の、葉巻の匂いだった。
「大丈夫ですよ、アマーリエさん。私達はご主人に頼まれて、あなたを助けにきたんです」
アマーリエを恐がらせないように武器をしまったひかりがゆっくりと近付いた。やわらかな声音に優しい言葉を乗せる。その手には、ルスタンの葉巻があった。
●
突然始まった戦闘に驚いたのは、アマーリエだけではなかった。荷馬車を引いていた馬もまた、興奮した様子でいななき、地を踏み鳴らす。
それを横目に捉えたルピナスがワイヤーウィップを横に振るった。鞭がしなってその車輪に絡みつき、一時的にその動きを封じる。
「どうせなら、君たちも、荷馬車も、無事に主人のもとに帰してあげるよ」
「グウゥ」
威嚇するようにゴブリン達が低く唸った。徹底抗戦の構えを見せる。
ゴブリンの持つ槍が強く突き出され、その切っ先が、馬上の蒲公英の腕に食い込んだ。
アマーリエの正体にどこか釈然としないものを感じながらも、蒲公英は、救出、討伐に専念するべく槍を持つゴブリンにその武器を振り下ろし、応戦する。
一方、無限は今にも頭を抱え込みそうになっていた。
「ぶた……ぶたっすか……!?」
真相を知ってしまえば、先程まで浮かれていた自分が恥ずかしい。どこかに身を隠して引きこもりたいくらいだったが、ゴブリンを前にして帰るわけにはいかない。
「……覚悟するっす!」
顔を上げ、キッと目の前のゴブリンを睨み付ける。
その隣では、十夜もまたやるせない思いを抱えていた。依頼人から思いを預かり、『想い人』の救出に全力で応えようとしていた矢先に知った、その事実。
「……相手が何であれ! 何であれだ!! あぁ、そうだ。ペットも『家族』に変わりないって事だ!」
気を取り直すべくゴブリンに向き直ってみるが、しかし納得しきれない。
「あぁとりあえず……この憤りを、ゴブリン、代わりに受けやがれ!」
普段温厚な彼もまた荒っぽい口調に変わっているのは覚醒状態ゆえのことだ。
対峙した二体のゴブリンの目は、それでもアマーリエへと向けられている。
一体が棍棒を振り下ろした。無限はするりと身をかわして鞭を振るう。それはゴブリンの身体に絡みつき、自由を奪った。
その隙を突くように、もう一体がアマーリエに向かって駆け出した。しかし十夜がそれをさせない。すれ違いざまにロープを首に引っ掛け、そのままランアウトでもって全力で引きずり戻す。
抵抗の術を失ったゴブリンを睨み付けた十夜は、その勢いに任せて飛燕からのスラッシュエッジで畳みかける。溜めこんでいた思いの全てを、叩きつけるように解き放った。
「『アマーリエ』って……豚の名前かぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ノーモーションから繰り出された強烈な一撃が、その身体を裂いた。
すっきりした顔を見せる十夜の横で、無限もまた八つ当たりよろしく鞭を振るっていた。
「これは恐い思いをしたアマーリエの分!」
びし!
「これは必死で助けを求めたルスタン氏の分!」
びしばし!
「そしてこれが、やり場のない想いを抱えた俺の分っす!!」
力の限り振るわれた赤い鞭が大きくしなり、ゴブリンにとどめの一撃を与えた。
その様子を呆然と見ていたひかりは、はっと我に返るとアマーリエへと目を向けた。
「あ、安心してくださいね。みんな、悪いゴブリンたちからあなたを守ってくれてるんですよ」
アマーリエの前にしゃがんで目線を合わせるひかりの声は、穏やかなものだった。疲労し、怯えているだろうアマーリエを刺激しないように気遣う。それが功を奏したか、その体の緊張はずいぶんと解けていた。ふと、ブギ、と鳴いたアマーリエが鼻先でひかりの手にする小袋をつついた。
「あ、これ、アマーリエさんの大好きなおやつが入ってるんですよね。食べますか?」
人間として扱いながらもその本能に訴えかけるように、ひかりは小分けされたドライフルーツを取り出し、そっと撒いた。がふがふと食べ始めるアマーリエは、普段食べる機会のないポテトチップスもまた気に入った様子である。
そんな和やかな空気が流れる後方とは対照的に、仲間を撃破されて不利と見た残る二体のゴブリン達が一斉に駆け出す。
後衛で援護に徹していた慶一郎は、逃走するゴブリンを深追いするつもりはないようだった。それでも、いつ仕掛けてくるとも分からない反撃に備えて草むらへと逃げ込む一体に銃口を向けて照準を合わせる。
すると不意に振り返ったゴブリンが、牽制するかのように石を投じた。その瞬間、慶一郎は躊躇なくその引き鉄を引く。命中率の上がった強弾に胸部を撃ち抜かれたゴブリンが、草むらの中に倒れ込んだ。
飛んできた石にいち早く気付いた蒲公英が、身を翻してそれをかわす。
その横をすり抜けようとする槍を持つゴブリンを、蒲公英は逃がすつもりはなかった。その腹を打ち付ける。
「民を危険にさらす存在を見過ごすとあっては騎士の名折れ!」
「一度上がった舞台だ、幕が降りるまではちゃんと踊りなよ?」
怯んだゴブリンの足を狙ったルピナスが、低い姿勢から刀を振るい腱を断つ。
二人が地を蹴り、尚も逃走を試みるゴブリンを挟み撃つ。
飛び上がった蒲公英が振り下ろしたパイプがその頭に直撃し、さらに胴を薙ぎ払うようにルピナスの刃がきらめく。二人の攻撃を受けたゴブリンは前方へと倒れ、そのまま動かなくなった。
●
ハンター達が町へ戻ると、その入口には膝を抱えてうずくまるルスタンの姿があった。
御者を買ってでた蒲公英が瞬くと共に荷馬車を止める。
「……ルスタン様? まさか、ずっとここで待っていたのですか?」
蒲公英の声に顔を上げたルスタンが、ハンター達を見るなり勢いよく立ち上がった。
「おぉ、ハンター殿! いや、どうにも落ち着かなくてな。それで、アマーリエは……」
「ブギィっ」
ルスタンの声を遮るように、アマーリエが鳴いた。
「アマーリエ!!」
「ブギ、ブギィ」
駆け出したアマーリエが両腕を広げるルスタンの胸に飛び込む。その重量にルスタンの体が後ろへと傾いたが、彼は慣れた様子で踏ん張った。
感動の再会である。あるのだが。
「なんでしょうか……なにか、釈然としないものがありますね……」
「リオ。気を落とすなよ、これはこれで民の為でしょ」
「そう、ですね、兄さん。ゴブリンも討伐出来ましたし」
なんとか納得しようと頷く妹、蒲公英を励ますルピナス自身も、内心では苦笑するばかりである。
慶一郎にとっても豚にここまで入れ込む気持ちは理解しがたいものだったが、ルスタンにとって大切なものであることには代わりないのだろう。助けを求めていた時のあの悲壮感は、この世界に来た当初の自分に似ているのかもしれない。
「……生姜焼き定食が懐かしい。カツもしばらく食べてないな」
考えをめぐらせる中で、心の声がつい口をついて出た。
それを耳にした十夜も、複雑な心境のまま溜息をつく。
(……コレ食用だったとか口走ったらハリセンでぶん殴る所だよ……)
しかし幸いなことに、アマーリエに注がれるルスタンの眼差しは唯一無二の存在であることを物語っていた。
「良かったですね。アマーリエさん、とってもいい子にしてましたよ」
「普段は私がいなければすぐに逃げ出してしまうんだが……そうか、きっと優しく接してくれたんだろう。感謝するよ。……ん?」
顔を上げたルスタンの目が、ふと荷馬車へと向けられた。
「なんと、私の荷まで奪い返してくれたのか!」
「うん、まぁもののついでだよ」
さらりと返したルピナスの手を、ルスタンは感激した様子で握り締めた。「ああ、なんと礼を言ったらいいか!」
「いや……馬が引いて逃げないようにしただけだからさ……」
間近に迫る初老の男の顔に思わず身を引く。
ルスタンはそのまま、全てを成し遂げたハンター達の手を一人一人握っていく。
「ありがとう。このような短い言葉では伝えきれないほど感謝している。他の商人も、これで一安心だろう。何より私の荷と、麗しきアマーリエを救ってくれたこの恩は、絶対に忘れることはない」
「ブギ」
まるで同意するように鳴く、『麗しきアマーリエ』。無限の口から乾いた笑い声がこぼれる。
「ははは……、とりあえず俺は酒でも飲んで寝て、今日のことは忘れるっすよ」
「酒? ああ、それならばこれを持っていくといい。希少な種のワインだ、味は私が保証しよう。……感謝の気持ちだ」
ルスタンは、荷馬車から取り出したワインの小瓶を全員に振舞った。
そんな彼と、彼の愛するアマーリエに見送られたハンター達は、橙色に染まり始めた空のもと帰路につくのだった。
晴れやかな春の午後。暖かくなり始めたばかりの風が草花を優しく揺らし、広い街道を撫でていく。
その柔らかな風を切り、駆け抜ける影が五つ。ハンター達だ。
「……この辺かな」
ルピナス(ka0179)が足を止める。分岐の多い街道だったが、事前にルートを確認していた彼の先導により、迷うことなく件の現場へと辿り着くことが出来た。
そのすぐ後ろでしゃがみこんだ無限 馨(ka0544)が、地面に刻まれた幾つかの轍の中から新しいひとつを指でなぞる。
「これを辿れば、美しきアマーリエ嬢をさらったゴブリン達に追いつけるはずっすよ」
「アマーリエ嬢、か」
前方を見据えた城戸 慶一郎(ka3633)がぽつりと呟いた。
「悪い魔物に美女がさらわれた。こんな事件、男として見過ごせないっすよ!」
親指を立てる無限に対し、慶一郎の心内は複雑だ。
この世界に来てからというもの、物事が額面通りだったことなどほとんどない。過去に関わってきた事件を思い起こせば、そんな横文字の名前など判断材料にもならなかった。
しかし慶一郎は、その疑念を口にするつもりはないようで。
「……そうだな」
そう短く答えると、再び前へと目を向けた。
ゴブリンを追跡するべく、無限が駆けだす。それに続く面々を横目に、ルピナスがふう、とひとつ溜息をついた。
「うん、まぁ最近引きこもりがちだったし、たまには外で運動も悪くないよね」
妹に半ば引っ張り出された形となったルピナスは、そう独りごちることで自分を納得させ、仲間たちに続いた。
それからしばらく轍を頼りに進んでいくと、ふと、三宮ひかり(ka4595)の目が光沢のある焦げ茶色の塊を捉える。
「あ! あれ、奪われた荷馬車じゃないですか!?」
「あれか……!」
徐々に近付くゴブリン達の後ろ姿。睨み付ける希崎 十夜(ka3752)の瞳が紅い輝きを放ち、なびく髪先が同色へと変わっていく。疾影士として持てる力のすべてを発揮するため、自身を覚醒状態へと導いた。
その直後、五人の鼓膜を打つ雄々しい声。
馬に跨った蒲公英(ka3795)が凛々しい雄叫びを上げ、前方からゴブリンの群れに突っ込んでいく。敵を目前に躊躇し乗用馬の足が鈍る。そのタイミングを見計らい蒲公英が強く手綱を引いた。驚いたようないななきと共にその長い前足が持ち上がる。
「ギャアッ!?」
突然の奇襲に、ゴブリン達は驚きと戸惑いの悲鳴を上げた。
●
敵が怯んだのを好機とし、瞬脚により仲間たちの中から躍り出たルピナスと無限が、左右に散る。無限は左側で縄を引っ張る二体のゴブリンへ、ルピナスは中央前方で先導していた槍を持つゴブリンへと、一直線に進む。
十夜もそれに続いた。刀を構え、ランアウトで突っ込んでいく。
三人を援護するように、慶一郎が魔導拳銃を、ひかりがワンドを構えた。マテリアルを強く込めて放たれた弾丸、晴天下でもまばゆい光を放つ矢。それらが空を切り、先行する三人の横を駆け抜ける。
光の矢が馬の手綱を引いていたゴブリンの背中を焼き、銃弾がアマーリエを引っ張る一体のゴブリンの腕に食い込んだ。
隣で慌てふためくゴブリンが振り返る。その背後に迫っていた無限は、即座にメイル・ブレイカーを振り下ろした。狙ったのはゴブリンの手元、拘束されたアマーリエへと繋がる縄だ。
「もう安心っすよ。俺達が来たからには、ヤツらには指一本触れさせないっすから!」
アマーリエを背後にかばい、安心させるべく声を掛ける。キラーンと輝かんばかりの笑顔で振り返った彼の表情が、固まった。
「無限さん!?」
ゴブリンが反撃に出るよりも早く、十夜の刀がその肩に食い込み皮膚を切った。そのまま、無限の視線を追いかけて振り返る。
「……って……」
無限と十夜、二人の声が重なった。
こちらを見上げてくるつぶらな瞳。短い足に、どっしりとした体。目印だと伝えられていた、耳の後ろの白い花飾り。それは、彼らが想像していた麗しき娘などではなく。
「……豚かよ!!?」
「……豚かよ!」
今度は十夜と、後方でその姿を確認した慶一郎の声が見事にシンクロした。
一方その頃、前衛に向かったルピナスは、蒲公英と共に槍を持つ敵と対峙していた。
ルピナスの動きに反応するように回避を試みたゴブリンだったが、その刃は、思わぬ方向からその横腹を斬りつける。
戦闘慣れしていない乗用馬に騎乗したままでは危険を伴う。即座にそう判断した蒲公英は、軽やかな身のこなしで飛び降りた。呻くゴブリンの頭に鉄製のパイプを振り下ろす。
「私の手が届く限り! 荷も! アマーリエ様も! たとえそこの豚であっても! 何一つ奪わせはしない!!」
ガンッと音を立ててゴブリンの脳天を直撃する。
その直後に響き渡る、仲間たちの驚きの声。
「豚って……、え……あれ……?」
「俺が思ってたよりは美味しそうだったね」
アマーリエを人間と信じて疑わなかった蒲公英をよそに、人形程度にしか思っていなかったルピナスは驚きこそすれ動じた様子はない。
そんな中、ひかりだけはその瞳を輝かせていた。
「ダンディなおじさまでしたけど、人は見かけによりませんね」
自身も特殊な嗜好を持つひかりは、シンパシーすら感じるほどだった。そんな彼女が目指すはハッピーエンド、それに向かって行動を起こそうとする。しかし。
「プギィッ、プギイィィッ」
積もり積もった恐怖が爆発したのか、突如高らかな鳴き声を上げたアマーリエは横へと向かって一直線に走り出した。一体で、尚かつ肩を負傷したゴブリンにはその巨体は制御できない。その手から縄が離れた。
「あ、アマーリエさんがっ……!」
「一瞬でも動きを止められれば平気か?」
慌てた様子でルスタンから預かってきた小袋に手を入れるひかりの横で、元々疑念を抱いていた慶一郎が、餌代わりに用意していたポテトチップスを取り出した。その袋を叩き割る。
中の空気が弾けるような大きな音に、慶一郎の目の前をのしのしと通過しようとしていたアマーリエが一瞬その足を止めた。アマーリエの進行方向に、放るようにポテトチップスを落とす。
それにアマーリエが反応した。と同時に上向いた鼻がひくひくと動き出す。
風に乗って漂う紫煙。主人の、葉巻の匂いだった。
「大丈夫ですよ、アマーリエさん。私達はご主人に頼まれて、あなたを助けにきたんです」
アマーリエを恐がらせないように武器をしまったひかりがゆっくりと近付いた。やわらかな声音に優しい言葉を乗せる。その手には、ルスタンの葉巻があった。
●
突然始まった戦闘に驚いたのは、アマーリエだけではなかった。荷馬車を引いていた馬もまた、興奮した様子でいななき、地を踏み鳴らす。
それを横目に捉えたルピナスがワイヤーウィップを横に振るった。鞭がしなってその車輪に絡みつき、一時的にその動きを封じる。
「どうせなら、君たちも、荷馬車も、無事に主人のもとに帰してあげるよ」
「グウゥ」
威嚇するようにゴブリン達が低く唸った。徹底抗戦の構えを見せる。
ゴブリンの持つ槍が強く突き出され、その切っ先が、馬上の蒲公英の腕に食い込んだ。
アマーリエの正体にどこか釈然としないものを感じながらも、蒲公英は、救出、討伐に専念するべく槍を持つゴブリンにその武器を振り下ろし、応戦する。
一方、無限は今にも頭を抱え込みそうになっていた。
「ぶた……ぶたっすか……!?」
真相を知ってしまえば、先程まで浮かれていた自分が恥ずかしい。どこかに身を隠して引きこもりたいくらいだったが、ゴブリンを前にして帰るわけにはいかない。
「……覚悟するっす!」
顔を上げ、キッと目の前のゴブリンを睨み付ける。
その隣では、十夜もまたやるせない思いを抱えていた。依頼人から思いを預かり、『想い人』の救出に全力で応えようとしていた矢先に知った、その事実。
「……相手が何であれ! 何であれだ!! あぁ、そうだ。ペットも『家族』に変わりないって事だ!」
気を取り直すべくゴブリンに向き直ってみるが、しかし納得しきれない。
「あぁとりあえず……この憤りを、ゴブリン、代わりに受けやがれ!」
普段温厚な彼もまた荒っぽい口調に変わっているのは覚醒状態ゆえのことだ。
対峙した二体のゴブリンの目は、それでもアマーリエへと向けられている。
一体が棍棒を振り下ろした。無限はするりと身をかわして鞭を振るう。それはゴブリンの身体に絡みつき、自由を奪った。
その隙を突くように、もう一体がアマーリエに向かって駆け出した。しかし十夜がそれをさせない。すれ違いざまにロープを首に引っ掛け、そのままランアウトでもって全力で引きずり戻す。
抵抗の術を失ったゴブリンを睨み付けた十夜は、その勢いに任せて飛燕からのスラッシュエッジで畳みかける。溜めこんでいた思いの全てを、叩きつけるように解き放った。
「『アマーリエ』って……豚の名前かぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ノーモーションから繰り出された強烈な一撃が、その身体を裂いた。
すっきりした顔を見せる十夜の横で、無限もまた八つ当たりよろしく鞭を振るっていた。
「これは恐い思いをしたアマーリエの分!」
びし!
「これは必死で助けを求めたルスタン氏の分!」
びしばし!
「そしてこれが、やり場のない想いを抱えた俺の分っす!!」
力の限り振るわれた赤い鞭が大きくしなり、ゴブリンにとどめの一撃を与えた。
その様子を呆然と見ていたひかりは、はっと我に返るとアマーリエへと目を向けた。
「あ、安心してくださいね。みんな、悪いゴブリンたちからあなたを守ってくれてるんですよ」
アマーリエの前にしゃがんで目線を合わせるひかりの声は、穏やかなものだった。疲労し、怯えているだろうアマーリエを刺激しないように気遣う。それが功を奏したか、その体の緊張はずいぶんと解けていた。ふと、ブギ、と鳴いたアマーリエが鼻先でひかりの手にする小袋をつついた。
「あ、これ、アマーリエさんの大好きなおやつが入ってるんですよね。食べますか?」
人間として扱いながらもその本能に訴えかけるように、ひかりは小分けされたドライフルーツを取り出し、そっと撒いた。がふがふと食べ始めるアマーリエは、普段食べる機会のないポテトチップスもまた気に入った様子である。
そんな和やかな空気が流れる後方とは対照的に、仲間を撃破されて不利と見た残る二体のゴブリン達が一斉に駆け出す。
後衛で援護に徹していた慶一郎は、逃走するゴブリンを深追いするつもりはないようだった。それでも、いつ仕掛けてくるとも分からない反撃に備えて草むらへと逃げ込む一体に銃口を向けて照準を合わせる。
すると不意に振り返ったゴブリンが、牽制するかのように石を投じた。その瞬間、慶一郎は躊躇なくその引き鉄を引く。命中率の上がった強弾に胸部を撃ち抜かれたゴブリンが、草むらの中に倒れ込んだ。
飛んできた石にいち早く気付いた蒲公英が、身を翻してそれをかわす。
その横をすり抜けようとする槍を持つゴブリンを、蒲公英は逃がすつもりはなかった。その腹を打ち付ける。
「民を危険にさらす存在を見過ごすとあっては騎士の名折れ!」
「一度上がった舞台だ、幕が降りるまではちゃんと踊りなよ?」
怯んだゴブリンの足を狙ったルピナスが、低い姿勢から刀を振るい腱を断つ。
二人が地を蹴り、尚も逃走を試みるゴブリンを挟み撃つ。
飛び上がった蒲公英が振り下ろしたパイプがその頭に直撃し、さらに胴を薙ぎ払うようにルピナスの刃がきらめく。二人の攻撃を受けたゴブリンは前方へと倒れ、そのまま動かなくなった。
●
ハンター達が町へ戻ると、その入口には膝を抱えてうずくまるルスタンの姿があった。
御者を買ってでた蒲公英が瞬くと共に荷馬車を止める。
「……ルスタン様? まさか、ずっとここで待っていたのですか?」
蒲公英の声に顔を上げたルスタンが、ハンター達を見るなり勢いよく立ち上がった。
「おぉ、ハンター殿! いや、どうにも落ち着かなくてな。それで、アマーリエは……」
「ブギィっ」
ルスタンの声を遮るように、アマーリエが鳴いた。
「アマーリエ!!」
「ブギ、ブギィ」
駆け出したアマーリエが両腕を広げるルスタンの胸に飛び込む。その重量にルスタンの体が後ろへと傾いたが、彼は慣れた様子で踏ん張った。
感動の再会である。あるのだが。
「なんでしょうか……なにか、釈然としないものがありますね……」
「リオ。気を落とすなよ、これはこれで民の為でしょ」
「そう、ですね、兄さん。ゴブリンも討伐出来ましたし」
なんとか納得しようと頷く妹、蒲公英を励ますルピナス自身も、内心では苦笑するばかりである。
慶一郎にとっても豚にここまで入れ込む気持ちは理解しがたいものだったが、ルスタンにとって大切なものであることには代わりないのだろう。助けを求めていた時のあの悲壮感は、この世界に来た当初の自分に似ているのかもしれない。
「……生姜焼き定食が懐かしい。カツもしばらく食べてないな」
考えをめぐらせる中で、心の声がつい口をついて出た。
それを耳にした十夜も、複雑な心境のまま溜息をつく。
(……コレ食用だったとか口走ったらハリセンでぶん殴る所だよ……)
しかし幸いなことに、アマーリエに注がれるルスタンの眼差しは唯一無二の存在であることを物語っていた。
「良かったですね。アマーリエさん、とってもいい子にしてましたよ」
「普段は私がいなければすぐに逃げ出してしまうんだが……そうか、きっと優しく接してくれたんだろう。感謝するよ。……ん?」
顔を上げたルスタンの目が、ふと荷馬車へと向けられた。
「なんと、私の荷まで奪い返してくれたのか!」
「うん、まぁもののついでだよ」
さらりと返したルピナスの手を、ルスタンは感激した様子で握り締めた。「ああ、なんと礼を言ったらいいか!」
「いや……馬が引いて逃げないようにしただけだからさ……」
間近に迫る初老の男の顔に思わず身を引く。
ルスタンはそのまま、全てを成し遂げたハンター達の手を一人一人握っていく。
「ありがとう。このような短い言葉では伝えきれないほど感謝している。他の商人も、これで一安心だろう。何より私の荷と、麗しきアマーリエを救ってくれたこの恩は、絶対に忘れることはない」
「ブギ」
まるで同意するように鳴く、『麗しきアマーリエ』。無限の口から乾いた笑い声がこぼれる。
「ははは……、とりあえず俺は酒でも飲んで寝て、今日のことは忘れるっすよ」
「酒? ああ、それならばこれを持っていくといい。希少な種のワインだ、味は私が保証しよう。……感謝の気持ちだ」
ルスタンは、荷馬車から取り出したワインの小瓶を全員に振舞った。
そんな彼と、彼の愛するアマーリエに見送られたハンター達は、橙色に染まり始めた空のもと帰路につくのだった。
依頼結果
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相談卓 三宮ひかり(ka4595) 人間(リアルブルー)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/04/06 22:47:49 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/04 01:51:56 |