ゲスト
(ka0000)
時を越えて
マスター:松尾京

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/05 19:00
- 完成日
- 2015/04/13 01:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●とある村で
「おい、トニがまた嘘ついてるぜ」
「飽きないなあ、そんな作り話して」
「作り話なんかじゃない!」
のどかな農村の一角で、同い年の少年に囲まれながら――トニは、目に涙を溜めて言い返していた。
「僕のおじいちゃんは……歪虚と戦って世界中を旅していた、立派な戦士だったんだ!」
少年達は、小馬鹿にしたように、トニの話を聞いている。
「だったら、証拠でもあるのかよ? じいちゃんが戦士だったっていうさ。いつも口先ばかりで」
「……」
トニは……その言葉に言い返すことが出来なかった。
●心の英雄
トニは物心ついた頃から、祖父についての話を聞いて育った。
生まれた頃にはもう祖父はいなかったけれど……自分の祖父がかつて勇敢な覚醒者で、戦士であったという話を、トニは目を輝かせながら聞いたものだった。
歪虚を倒し、世界を巡り……この村を守ったこともあるという。
父の話す祖父のその物語は楽しくて爽快で、それはそのままトニの自慢となった。
だが、その話をすると、同年代の子供から最近、馬鹿にされるようになった。
彼らの言うとおり証拠もないし、気弱なトニから出る英雄譚を疑わしく思うだけの知恵を、子供達は身につける年齢にもなっていたのだ。
トニにとって、祖父のことは心の中に確かに存在する事実だ。
でも、手に触れられるものは何もなかった。
「お父さん。おじいちゃんは、本当に戦士だったの?」
その晩、トニは父に聞いた。トニにとってつらい質問だった。
意外そうな父に事情を説明すると……父は答えた。
「そうさ、親父は確かに、立派な戦士だった。それは嘘じゃない」
「じゃあ、そうわかるものがないのは何で? それに、おじいちゃんは今、どこにいるの? おじいちゃんは……最後に、どうなったの?」
トニは父から、祖父は死んだ、とは聞かされていた。
だが、どこでかは知らない。
村にも、墓はなかった。
いろんな話はしてきたのに、父は、祖父の最期を語ったことがなかったのだ。そしてそれは意図的にされてきたものだった。
父は……ふむ、と髭を触りながら言った。
「そうだな。お前には、話しておこうか」
●最期の話
それは村の北方に位置する、洞窟の話だ。
あるほら穴の最深部から、狭い縦穴を下った地中に、大きな洞窟がある。
当時、そこで『巨大な蛇の化け物を見た』という目撃談が上がったとき――退治に出たのが、戦士として活躍していた若い頃の祖父であった。
だが――祖父は、洞窟に行ったきり、二度と帰ることはなかった。
「親父は本当に、強い戦士だったんだ。そんな親父が帰らないことを……しばらくは、誰も認めなかった」
いつかは帰ってくるだろう。死んでなどいない。
父自身もそう思ったままに、年月は過ぎていったという。墓がないのも、そのためだ。
祖父は家に戦士としての私物も置かなかった。だからそのまま、祖父の存在は消えてしまった。
それから、祖父ですら帰って来られなかったその場所のことは――事情を知る人間の間でも、ある種の禁忌として語られなくなっていった。
●依頼
トニは、悲しい思いに駆られた。
「じゃあ、おじいちゃんは、そのままずっと放っておかれるの?」
このまま、子供達にも戦士だと信じられないままに。
父は、物思うように天井を見上げた。それからトニの頭にぽんと手を乗せた。
「いや。俺も今、思ったんだ。……親父のことを、考えるときかも知れないって」
きょとんとしたトニに、父は言った。
「親父はもう、死んでいるだろう。でも洞窟に何か、形見になるものが残っていないとも限らない。俺も、親父の遺品があるなら、見てみたい」
「洞窟に行くの?」
「いいや。残念だけど、俺やトニは、親父みたいに強い戦士じゃない」
「じゃあどうやって……」
「でも――俺たちの代わりに戦士になってくれる人が、いる。きっと、親父と同じくらい強い人達が」
「おい、トニがまた嘘ついてるぜ」
「飽きないなあ、そんな作り話して」
「作り話なんかじゃない!」
のどかな農村の一角で、同い年の少年に囲まれながら――トニは、目に涙を溜めて言い返していた。
「僕のおじいちゃんは……歪虚と戦って世界中を旅していた、立派な戦士だったんだ!」
少年達は、小馬鹿にしたように、トニの話を聞いている。
「だったら、証拠でもあるのかよ? じいちゃんが戦士だったっていうさ。いつも口先ばかりで」
「……」
トニは……その言葉に言い返すことが出来なかった。
●心の英雄
トニは物心ついた頃から、祖父についての話を聞いて育った。
生まれた頃にはもう祖父はいなかったけれど……自分の祖父がかつて勇敢な覚醒者で、戦士であったという話を、トニは目を輝かせながら聞いたものだった。
歪虚を倒し、世界を巡り……この村を守ったこともあるという。
父の話す祖父のその物語は楽しくて爽快で、それはそのままトニの自慢となった。
だが、その話をすると、同年代の子供から最近、馬鹿にされるようになった。
彼らの言うとおり証拠もないし、気弱なトニから出る英雄譚を疑わしく思うだけの知恵を、子供達は身につける年齢にもなっていたのだ。
トニにとって、祖父のことは心の中に確かに存在する事実だ。
でも、手に触れられるものは何もなかった。
「お父さん。おじいちゃんは、本当に戦士だったの?」
その晩、トニは父に聞いた。トニにとってつらい質問だった。
意外そうな父に事情を説明すると……父は答えた。
「そうさ、親父は確かに、立派な戦士だった。それは嘘じゃない」
「じゃあ、そうわかるものがないのは何で? それに、おじいちゃんは今、どこにいるの? おじいちゃんは……最後に、どうなったの?」
トニは父から、祖父は死んだ、とは聞かされていた。
だが、どこでかは知らない。
村にも、墓はなかった。
いろんな話はしてきたのに、父は、祖父の最期を語ったことがなかったのだ。そしてそれは意図的にされてきたものだった。
父は……ふむ、と髭を触りながら言った。
「そうだな。お前には、話しておこうか」
●最期の話
それは村の北方に位置する、洞窟の話だ。
あるほら穴の最深部から、狭い縦穴を下った地中に、大きな洞窟がある。
当時、そこで『巨大な蛇の化け物を見た』という目撃談が上がったとき――退治に出たのが、戦士として活躍していた若い頃の祖父であった。
だが――祖父は、洞窟に行ったきり、二度と帰ることはなかった。
「親父は本当に、強い戦士だったんだ。そんな親父が帰らないことを……しばらくは、誰も認めなかった」
いつかは帰ってくるだろう。死んでなどいない。
父自身もそう思ったままに、年月は過ぎていったという。墓がないのも、そのためだ。
祖父は家に戦士としての私物も置かなかった。だからそのまま、祖父の存在は消えてしまった。
それから、祖父ですら帰って来られなかったその場所のことは――事情を知る人間の間でも、ある種の禁忌として語られなくなっていった。
●依頼
トニは、悲しい思いに駆られた。
「じゃあ、おじいちゃんは、そのままずっと放っておかれるの?」
このまま、子供達にも戦士だと信じられないままに。
父は、物思うように天井を見上げた。それからトニの頭にぽんと手を乗せた。
「いや。俺も今、思ったんだ。……親父のことを、考えるときかも知れないって」
きょとんとしたトニに、父は言った。
「親父はもう、死んでいるだろう。でも洞窟に何か、形見になるものが残っていないとも限らない。俺も、親父の遺品があるなら、見てみたい」
「洞窟に行くの?」
「いいや。残念だけど、俺やトニは、親父みたいに強い戦士じゃない」
「じゃあどうやって……」
「でも――俺たちの代わりに戦士になってくれる人が、いる。きっと、親父と同じくらい強い人達が」
リプレイ本文
●潜入
ほこらの中、七人は縦穴をのぞく。一人通るのがやっとという狭さだが――凹凸に富み、手足だけで降下できそうではあった。
「酸素があるかどうかは、確認した方がいいの。洞窟に入るなら必須の心得なの」
暗闇を観察しながら、佐藤 絢音(ka0552)は冷静に言った。
シグレ・キノーレル(ka4420)が、その言葉にたいまつを取り出す。
「俺はライトも持っているから。やってみよう」
シグレが投げ込んだ火は、洞窟の底に落ちても赤々と燃えていた。それを見て皆は頷き合い――順に縦穴を降りていった。
洞窟内部は、一方向に道が長く続いていた。
七人は纏まって、湿った地面を進む。照明の光量は充分であったが、いまだ最奥は見えない。周囲には何もなく、静かだ。
視線を走らせながら、逢見 千(ka4357)はぽつりと呟いた。
「まだ、何もない――けど。見つかるといいね、おじいさんの形見」
「見つけるさ。あの坊主と約束したからな」
シュタール・フラム(ka0024)は、辺りを警戒しながらもそう口走る。
任せておけ、と。そして、爺さんが立派な戦士だったと信じるなら胸を張っていろ、とトニに言ったことを、思い出していた。
「何とか、それをわかるものを見つけてあげたいね――」
柔らかな物腰で語るクィーロ・ヴェリル(ka4122)だったが……一瞬、はっとする。
暗闇に、動く影があったのだ。それはすぐに見えなくなったが……。
「な、何かがいるかも……。静かにしてみて、ください」
ミュオ(ka1308)は少しばかりおどおどしつつも、小石を投げ、地に耳を当ててみる。
そして、すぐ顔を上げた。それは、いる、という合図だ。
「杞憂ってわけじゃなさそうだね」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が眼を細めたその時。ちき、ちき、という爬虫類の口から漏れる音がした。
直後……びしゅうっ! 両側の壁の割れ目から、何かが飛び出した。
体をバネのようにして跳躍した――歪虚化した小蛇。
左に一匹、右に二匹。それは強襲だった、が――ざんっ! 左の一匹が瞬く間に、ナイフで断ち切られる。
手早く攻撃を繰り出した、シュタールだ。
「――警戒していないとでも思ったか?」
「や、やられませんっ! えい!」
逆側で、ミュオも対応している。とっさに振り抜いた剣で、一匹を切り裂き、消滅させた。
プロミネンスのような火を武器から発し、最後の一匹を見定めていたのは、千だ。そのハルバードをくるりと回すと――ずんっ、と刃先を突き刺し、絶命させた。千は見回す。
「三匹は倒した……けど。まだ終わりってわけじゃなさそうだね」
洞窟の中、反響する蛇の音は、まだ消えていない。
瞬く間に、天井、そして後方の壁からの二匹が出現した。
落ちてくる蛇を、しかし上方を注意していたシグレは、既に狙っている。
「さて、ここから……お仕事だね」
紫のグラデーションがかかりはじめた青髪の先が、ふわりと浮き上がる。赤い瞳で照準を合わせ――拳銃で一撃。吹き飛ばすように小蛇を消し去った。
後方へは、絢音が弓を引いていた。
「こっちは任せるの。――あやねの戦闘姿、見せてあげるの」
絢音が光に包まれると……幼い姿が十二歳ほどの少女へ変身。幻影を纏った衣服は、少女趣味的できらびやかなものへと変わっていた。
絢音に放たれた矢は、狙い違わず小蛇をつらぬいた。
小蛇が見えなくなると、一瞬だけ、静寂が戻ってくる。
だが、誰も武器を下げない。今度は、闇の奥、洞窟の道からやってくるものを見たからだ。
うごめく無数の影。光る目。小蛇の――群れ。
●鳴動
見える限りで十匹以上。七人へと、向かってきていた。
「蛇は獲物の熱を捉えるって聞いたことがあるが……何にせよ、おびき寄せちまったかな」
シュタールはそう言って、たいまつを置く。他の皆も迎撃態勢を取った。
先陣を切るのは、アルト。
その体に纏うのは炎色のオーラ。同色に染まる髪は、腰の長さで翻る。思うのは、ただ戦うことだ。
「どれだけ多勢が現れようが――望むところだ」
瞬脚で接敵したアルトは、ずん、と振動刀の強烈な一撃で小蛇を真っ二つにした。
一方、特に素速い一匹が、クィーロに飛びかかる。
が、クィーロはあえて防御態勢を取らない。噛みつく小蛇にさせるがままにしておいて、至近から太刀を振りかぶる。
「そんなんじゃあ……まだまだ、痛くないよ」
ざんっ! クィーロになぎ払われた小蛇は、身もだえながら吹き飛ばされ、闇に消えた。
と、ミュオが奥を見て動きを止めた。
「みなさん! とても大きな何かが……います」
ずる、ずる、と這い出るようにしてくるものがあった。
それは――七人を見下ろす、巨大な蛇。通路を塞がんばかりの、大蛇の歪虚であった。
千は武器を手に見上げた。
「話にあった大蛇……とうとうお出まし、だね」
「じゃあ、ここから分担しようか。俺は、まずは小蛇をやらせてもらうよ」
どうっ! シグレが射撃。近づく小蛇の一匹が穿たれて、消えた。
他の面々も即座に動き出す。
千も、小蛇を狙っていた。足場は悪いが、最近は洞窟ばかり行っているせいか、気にはならない。
敵を前に、楽しむように、ハルバードを握っていた。
「うん。この重量感、手になじむ感覚。やっぱり、良いなぁ」
ずさっ! そのまま払うようにして小蛇を切り裂き、息の根を止める。
ミュオは壁際に陣取り……向かってくる小蛇を迎え撃つ態勢を取っている。
シャッ、と小蛇が跳び上がってくると――待ち構えていたように、剣での強打。ずん、と直撃させ、小蛇を消滅させた。
「おじいさんの遺品を探すためにも……まずは蛇さんをみんな、やっつけないとですね」
「もちろんさ。……さて、たかが拳銃と舐めるなよ。こいつの一撃は、痛いぜ!」
シュタールが眼前の小蛇に向けるのは、魔導拳銃。
ぼっ! 強烈な弾丸が貫くと、その小蛇の体は一瞬にして散り散りだ。衝撃に、近くの小蛇がわななくような音を上げる。
次々に小蛇が減る中、絢音も後方から、小蛇を狙っていた。
「やらせはしないの。あやねの矢からは、逃れられないの」
しゅうっ! ロングボウから放たれた矢は、吸い込まれるように飛び――大蛇へと向かう仲間のすぐ近くの小蛇を穿った。
クィーロは大蛇の近くへたどり着いていた。敵の攻撃を無視しているため、奥から出た小蛇に、今も牙で攻撃をされていたが……。
「いいね、ようやく……面白くなってきたと思うよ」
ざすっ! クィーロは太刀で払い、一撃で退治する。髪は銀色に、瞳は胸の刺青に呼応するように緋色に染まっていた。
アルトも、大蛇の至近に来た。瞬脚で接近し、既に振動刀を振り上げている。
遙かな威容を誇る大蛇の化け物に、ひるむでもなく、ただ戦意が溢れた。
「強さのある覚醒者でも、敵わなかった敵。――ならば相手に、不足はない」
見舞うのは、重い斬撃。大蛇は体液をしたたらせ、ぎしゃっ、と声をあげた。
だが、さすがに倒れない。逆に、びしゅっ!と毒を吐き出してきた。
アルトはしかし、身を翻してかわす。その間に、クィーロが攻めの構えから、強打を叩き込んだ。
それでも大蛇はまだ平然としていたが――アルトが、背後に回った時だ。
はっと、それを発見した。
大蛇の尾が、何者かに断ち切られたように短くなっている。
そしてそこから見える体内に、きらりと剣の一部が光っていた。
●闘争
「誰かとの戦闘の跡……か」
クィーロもそれを見つけて、呟く。
と、その間にも、大蛇は身を返してアルトとクィーロに向くが――
どすっ、と大蛇の頭に矢が刺さり、それを妨害した。絢音の攻撃だ。
「どうかしたなの?」
二人が発見したものを伝えると、皆は目を向ける。
「それが俺たちの捜し物かどうかは――倒してみれば、わかることだね」
「そ、その通り、です! 皆さん協力して、頑張りましょう」
シグレが言うと、ミュオも頷き――剣を構え直す。
そしてミュオは孤立している小蛇に距離を詰め、強打。一撃で消滅させた。
大蛇の影に隠れるようにしている小蛇も、シグレとシュタールの銃弾が逃さない。ぼっ、ぼっ、と銃口から光が爆ぜると即座に二匹が塵となった。
ぶおん、とハルバードを回す千が、そのまま壁際の小蛇を切り裂けば……目に見える範囲の小蛇は全滅した。
千は残る強敵を見上げる。
「小さい蛇の相手が終わったら次は、大きな蛇だね」
この間、大蛇は矢を受けつつも暴れ出し、胴体を振り回して攻撃していた。
だがその不規則な殴打を、アルトは軽々とよけている。
「鈍重な攻撃だ。私には、当たらない」
大蛇の背に回ったアルトは、一閃。尾の部分を、振動刀でさらに断ち切った。
シャアァッ! 大蛇は苦悶するかのようにうごめき……眼下のクィーロを頭部で打つ。
クィーロはしかし、それすらよけない。
命を削って生を感じることに、喜びを覚えていた。
「はははは! いいぜいいぜ! この感覚だ! このまま殺し合おうぜ!」
そのまま懐に飛び込み、太刀を大蛇に突き刺した。
大蛇は身震いして、クィーロに巻き付こうと胴体を鳴動させる。だが――ばぁん! 大蛇の目が狙撃されると、その動きが止まった。
シュタールの放った銃弾だ。
「こっちは終わった。加勢するぜ」
小蛇の対応をしていた五人が、武器を構えて大蛇に向いていた。
大蛇は鋭い鳴き声を発しながら、シュタールに首を伸ばす。
猛烈な頭突き、だが……ぱぁん! 光の防御壁がその威力を軽減。シュタールにダメージはない。
絢音の防御障壁だ。
「あやねのばりあーは気休めではないのよ」
サンキューな、とシュタールが絢音に言うその横で――ミュオは大蛇の横合いに回り込んでいる。
攻めの構えから――ずんっ! 剣による渾身撃を直撃させた。
「あっ。大きな蛇さんの動きが鈍ってる……?」
「もう少し、かな。このまま行こう」
千が言いながら、たん、と跳躍。ハルバードを振りかぶると、強打。
ごっ、という衝撃に大蛇は揺らめくような動きを見せる。
シグレの射撃に頭部を撃ち抜かれると……大蛇は一度頭を地につけた。
だが直後、ずおっ! 残った力で起き上がり、ただがむしゃらに体を振り回してくる。
しかし、シグレは既に身を引いていた。
「まだ生きてたみたいだね。でも――」
「ははっ! これで、終わりだぜ!」
クィーロが正面から、至近に迫っている。踏込から強打をその体に叩き込んだ。
同時、アルトも大蛇を両断していた。
もっと強く、という思いを乗せたような苛烈な剣撃は――クィーロの攻撃と同時に、大蛇の命を切り裂いた。
空気に溶けるように大蛇の体が消えていくと……からん、とそれが落ちる。
大蛇の体の内に突き刺さっていた、一振りの大剣。
千がそれを見てあっと気付いた。
「銘が、刻まれてるよ」
それはジェフという、一人の戦士の名だ。
●証
大剣は回収したものの――七人はさらに捜索を続けることにしていた。
「他にも本人とわかるものがあればいいな」
シュタールは照明をかざしながら、見回す。と、そのうちに、洞窟の終わりが見えてきた。
「行き止まりみたいなの。でも、最後まではちゃんと探すの」
絢音が言うと、アルトも頷き……連れてきた犬にも手伝わせ、くまなく検分した。
と、そこで地面に、銀色の小さな光が見えた。シグレがしゃがみ込む。
「これは、埋まっているようだね」
「ちょっと待って」
千がハルバードで、ざっ、ざっ、と土を掘り起こし、それを取り出す。
見ると、鎖のついた、小さなペンダントであった。
開けると、中に小さい肖像画がある。男性と少年の、二人が描かれた図柄だ。ミュオがのぞき込む。
「この絵は……あれ? トニさんとお父さんの絵……ではなくて……」
「当時の、ジェフさんとお父さんだ。名前も書いてある――けれど、とても似てる」
クィーロが気付いて言った。
今も村にいる、あの親子そっくりの、生き写しのような絵。それは、子を大切に思う一人の人間がここにいたという証拠でもあるだろうか。
他にも、古びた小さな日記帳があった。内容は断片的にしか読めないが――内容からも、ジェフ本人のものだろうと言えた。
逆に、ジェフ以外のものと思われるものは、何もなかった。アルトは呟く。
「ジェフさんは一人で、あの大蛇と戦ったんだね」
巨大な蛇の化け物。それと戦う男の姿が少しだけ、想像された。
村に帰ると……村人が集まる中、七人はトニと父に形見を渡した。
「間違いなく、これは本人のものだろ」
シュタールが大剣の銘や日記、そして肖像画を示して見せると……トニの父は、目にうっすらと涙を浮かべて首肯した。
「確かに……これは親父に、間違いありません。久しぶりに……こうして顔を見ることが出来ました」
「すごい……!」
トニは、喜びはあったようだが、それより驚きと感動が勝っているようだ。
「おじいちゃんは、本当に、戦士だったんだ……! 見つけてきてくれて、本当にありがとう!」
顔を上げるトニにミュオは頷いて見せた。
「はい。ちゃんと持って帰ってくると約束しましたから!」
「あの大蛇は、すごく、強かったよ。でもジェフさんは、ひるまず立ち向かったんだ」
戦いの中で見たことをアルトが話すと……トニは目を輝かせていた。
それはいまだ知らない、英雄の最後の物語だ。
と、絢音は、背も年齢も上のそんな少年に、物怖じすることなく冷静に言う。
「でも……じーじが戦士だった事を言って何がしたいのなの?」
「……それは……」
「家族が立派な人だと言いたいのは分かるの。でも、それを自慢して自分が立派になる訳ではないの。……じーじのような人になりたいのなら、黙って訓練するのがカッコいいの」
トニは、少し、はっとする。それはトニの中の何かに、触れたかのようでもあった。
それから、うん、とトニは絢音にまっすぐ頷いた。トニの頭に、父もぽんぽん、と掌を乗せる。
それを見ながら、シグレは少し、思った。自分の父はどうだったろうか、と。
祖父の話を聞くほど親密ではなかっただろうか。おぼろに思い出すのは、遠い背中だった。
「どうしたんだい?」
「いや。何でもないよ。少し、家族のことを考えていた」
クィーロにシグレは答える。
クィーロは、それにはただ、微笑みを浮かべていた。自分には本名も年齢も、ルーツに関わる記憶がほとんどないことを思いながら。
あるいは……思い出さないのは思い出したくないからなのだろうか、と。
「でも、よかったね、見つかって」
千が言えば、ハンターたちは最後には、皆それぞれに頷く。
生まれて初めて祖父の存在をその目で見たトニは……。
あたたかいものに触れるように……ぎゅっと、偉大な英雄の遺品をその腕に抱いていた。
ほこらの中、七人は縦穴をのぞく。一人通るのがやっとという狭さだが――凹凸に富み、手足だけで降下できそうではあった。
「酸素があるかどうかは、確認した方がいいの。洞窟に入るなら必須の心得なの」
暗闇を観察しながら、佐藤 絢音(ka0552)は冷静に言った。
シグレ・キノーレル(ka4420)が、その言葉にたいまつを取り出す。
「俺はライトも持っているから。やってみよう」
シグレが投げ込んだ火は、洞窟の底に落ちても赤々と燃えていた。それを見て皆は頷き合い――順に縦穴を降りていった。
洞窟内部は、一方向に道が長く続いていた。
七人は纏まって、湿った地面を進む。照明の光量は充分であったが、いまだ最奥は見えない。周囲には何もなく、静かだ。
視線を走らせながら、逢見 千(ka4357)はぽつりと呟いた。
「まだ、何もない――けど。見つかるといいね、おじいさんの形見」
「見つけるさ。あの坊主と約束したからな」
シュタール・フラム(ka0024)は、辺りを警戒しながらもそう口走る。
任せておけ、と。そして、爺さんが立派な戦士だったと信じるなら胸を張っていろ、とトニに言ったことを、思い出していた。
「何とか、それをわかるものを見つけてあげたいね――」
柔らかな物腰で語るクィーロ・ヴェリル(ka4122)だったが……一瞬、はっとする。
暗闇に、動く影があったのだ。それはすぐに見えなくなったが……。
「な、何かがいるかも……。静かにしてみて、ください」
ミュオ(ka1308)は少しばかりおどおどしつつも、小石を投げ、地に耳を当ててみる。
そして、すぐ顔を上げた。それは、いる、という合図だ。
「杞憂ってわけじゃなさそうだね」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が眼を細めたその時。ちき、ちき、という爬虫類の口から漏れる音がした。
直後……びしゅうっ! 両側の壁の割れ目から、何かが飛び出した。
体をバネのようにして跳躍した――歪虚化した小蛇。
左に一匹、右に二匹。それは強襲だった、が――ざんっ! 左の一匹が瞬く間に、ナイフで断ち切られる。
手早く攻撃を繰り出した、シュタールだ。
「――警戒していないとでも思ったか?」
「や、やられませんっ! えい!」
逆側で、ミュオも対応している。とっさに振り抜いた剣で、一匹を切り裂き、消滅させた。
プロミネンスのような火を武器から発し、最後の一匹を見定めていたのは、千だ。そのハルバードをくるりと回すと――ずんっ、と刃先を突き刺し、絶命させた。千は見回す。
「三匹は倒した……けど。まだ終わりってわけじゃなさそうだね」
洞窟の中、反響する蛇の音は、まだ消えていない。
瞬く間に、天井、そして後方の壁からの二匹が出現した。
落ちてくる蛇を、しかし上方を注意していたシグレは、既に狙っている。
「さて、ここから……お仕事だね」
紫のグラデーションがかかりはじめた青髪の先が、ふわりと浮き上がる。赤い瞳で照準を合わせ――拳銃で一撃。吹き飛ばすように小蛇を消し去った。
後方へは、絢音が弓を引いていた。
「こっちは任せるの。――あやねの戦闘姿、見せてあげるの」
絢音が光に包まれると……幼い姿が十二歳ほどの少女へ変身。幻影を纏った衣服は、少女趣味的できらびやかなものへと変わっていた。
絢音に放たれた矢は、狙い違わず小蛇をつらぬいた。
小蛇が見えなくなると、一瞬だけ、静寂が戻ってくる。
だが、誰も武器を下げない。今度は、闇の奥、洞窟の道からやってくるものを見たからだ。
うごめく無数の影。光る目。小蛇の――群れ。
●鳴動
見える限りで十匹以上。七人へと、向かってきていた。
「蛇は獲物の熱を捉えるって聞いたことがあるが……何にせよ、おびき寄せちまったかな」
シュタールはそう言って、たいまつを置く。他の皆も迎撃態勢を取った。
先陣を切るのは、アルト。
その体に纏うのは炎色のオーラ。同色に染まる髪は、腰の長さで翻る。思うのは、ただ戦うことだ。
「どれだけ多勢が現れようが――望むところだ」
瞬脚で接敵したアルトは、ずん、と振動刀の強烈な一撃で小蛇を真っ二つにした。
一方、特に素速い一匹が、クィーロに飛びかかる。
が、クィーロはあえて防御態勢を取らない。噛みつく小蛇にさせるがままにしておいて、至近から太刀を振りかぶる。
「そんなんじゃあ……まだまだ、痛くないよ」
ざんっ! クィーロになぎ払われた小蛇は、身もだえながら吹き飛ばされ、闇に消えた。
と、ミュオが奥を見て動きを止めた。
「みなさん! とても大きな何かが……います」
ずる、ずる、と這い出るようにしてくるものがあった。
それは――七人を見下ろす、巨大な蛇。通路を塞がんばかりの、大蛇の歪虚であった。
千は武器を手に見上げた。
「話にあった大蛇……とうとうお出まし、だね」
「じゃあ、ここから分担しようか。俺は、まずは小蛇をやらせてもらうよ」
どうっ! シグレが射撃。近づく小蛇の一匹が穿たれて、消えた。
他の面々も即座に動き出す。
千も、小蛇を狙っていた。足場は悪いが、最近は洞窟ばかり行っているせいか、気にはならない。
敵を前に、楽しむように、ハルバードを握っていた。
「うん。この重量感、手になじむ感覚。やっぱり、良いなぁ」
ずさっ! そのまま払うようにして小蛇を切り裂き、息の根を止める。
ミュオは壁際に陣取り……向かってくる小蛇を迎え撃つ態勢を取っている。
シャッ、と小蛇が跳び上がってくると――待ち構えていたように、剣での強打。ずん、と直撃させ、小蛇を消滅させた。
「おじいさんの遺品を探すためにも……まずは蛇さんをみんな、やっつけないとですね」
「もちろんさ。……さて、たかが拳銃と舐めるなよ。こいつの一撃は、痛いぜ!」
シュタールが眼前の小蛇に向けるのは、魔導拳銃。
ぼっ! 強烈な弾丸が貫くと、その小蛇の体は一瞬にして散り散りだ。衝撃に、近くの小蛇がわななくような音を上げる。
次々に小蛇が減る中、絢音も後方から、小蛇を狙っていた。
「やらせはしないの。あやねの矢からは、逃れられないの」
しゅうっ! ロングボウから放たれた矢は、吸い込まれるように飛び――大蛇へと向かう仲間のすぐ近くの小蛇を穿った。
クィーロは大蛇の近くへたどり着いていた。敵の攻撃を無視しているため、奥から出た小蛇に、今も牙で攻撃をされていたが……。
「いいね、ようやく……面白くなってきたと思うよ」
ざすっ! クィーロは太刀で払い、一撃で退治する。髪は銀色に、瞳は胸の刺青に呼応するように緋色に染まっていた。
アルトも、大蛇の至近に来た。瞬脚で接近し、既に振動刀を振り上げている。
遙かな威容を誇る大蛇の化け物に、ひるむでもなく、ただ戦意が溢れた。
「強さのある覚醒者でも、敵わなかった敵。――ならば相手に、不足はない」
見舞うのは、重い斬撃。大蛇は体液をしたたらせ、ぎしゃっ、と声をあげた。
だが、さすがに倒れない。逆に、びしゅっ!と毒を吐き出してきた。
アルトはしかし、身を翻してかわす。その間に、クィーロが攻めの構えから、強打を叩き込んだ。
それでも大蛇はまだ平然としていたが――アルトが、背後に回った時だ。
はっと、それを発見した。
大蛇の尾が、何者かに断ち切られたように短くなっている。
そしてそこから見える体内に、きらりと剣の一部が光っていた。
●闘争
「誰かとの戦闘の跡……か」
クィーロもそれを見つけて、呟く。
と、その間にも、大蛇は身を返してアルトとクィーロに向くが――
どすっ、と大蛇の頭に矢が刺さり、それを妨害した。絢音の攻撃だ。
「どうかしたなの?」
二人が発見したものを伝えると、皆は目を向ける。
「それが俺たちの捜し物かどうかは――倒してみれば、わかることだね」
「そ、その通り、です! 皆さん協力して、頑張りましょう」
シグレが言うと、ミュオも頷き――剣を構え直す。
そしてミュオは孤立している小蛇に距離を詰め、強打。一撃で消滅させた。
大蛇の影に隠れるようにしている小蛇も、シグレとシュタールの銃弾が逃さない。ぼっ、ぼっ、と銃口から光が爆ぜると即座に二匹が塵となった。
ぶおん、とハルバードを回す千が、そのまま壁際の小蛇を切り裂けば……目に見える範囲の小蛇は全滅した。
千は残る強敵を見上げる。
「小さい蛇の相手が終わったら次は、大きな蛇だね」
この間、大蛇は矢を受けつつも暴れ出し、胴体を振り回して攻撃していた。
だがその不規則な殴打を、アルトは軽々とよけている。
「鈍重な攻撃だ。私には、当たらない」
大蛇の背に回ったアルトは、一閃。尾の部分を、振動刀でさらに断ち切った。
シャアァッ! 大蛇は苦悶するかのようにうごめき……眼下のクィーロを頭部で打つ。
クィーロはしかし、それすらよけない。
命を削って生を感じることに、喜びを覚えていた。
「はははは! いいぜいいぜ! この感覚だ! このまま殺し合おうぜ!」
そのまま懐に飛び込み、太刀を大蛇に突き刺した。
大蛇は身震いして、クィーロに巻き付こうと胴体を鳴動させる。だが――ばぁん! 大蛇の目が狙撃されると、その動きが止まった。
シュタールの放った銃弾だ。
「こっちは終わった。加勢するぜ」
小蛇の対応をしていた五人が、武器を構えて大蛇に向いていた。
大蛇は鋭い鳴き声を発しながら、シュタールに首を伸ばす。
猛烈な頭突き、だが……ぱぁん! 光の防御壁がその威力を軽減。シュタールにダメージはない。
絢音の防御障壁だ。
「あやねのばりあーは気休めではないのよ」
サンキューな、とシュタールが絢音に言うその横で――ミュオは大蛇の横合いに回り込んでいる。
攻めの構えから――ずんっ! 剣による渾身撃を直撃させた。
「あっ。大きな蛇さんの動きが鈍ってる……?」
「もう少し、かな。このまま行こう」
千が言いながら、たん、と跳躍。ハルバードを振りかぶると、強打。
ごっ、という衝撃に大蛇は揺らめくような動きを見せる。
シグレの射撃に頭部を撃ち抜かれると……大蛇は一度頭を地につけた。
だが直後、ずおっ! 残った力で起き上がり、ただがむしゃらに体を振り回してくる。
しかし、シグレは既に身を引いていた。
「まだ生きてたみたいだね。でも――」
「ははっ! これで、終わりだぜ!」
クィーロが正面から、至近に迫っている。踏込から強打をその体に叩き込んだ。
同時、アルトも大蛇を両断していた。
もっと強く、という思いを乗せたような苛烈な剣撃は――クィーロの攻撃と同時に、大蛇の命を切り裂いた。
空気に溶けるように大蛇の体が消えていくと……からん、とそれが落ちる。
大蛇の体の内に突き刺さっていた、一振りの大剣。
千がそれを見てあっと気付いた。
「銘が、刻まれてるよ」
それはジェフという、一人の戦士の名だ。
●証
大剣は回収したものの――七人はさらに捜索を続けることにしていた。
「他にも本人とわかるものがあればいいな」
シュタールは照明をかざしながら、見回す。と、そのうちに、洞窟の終わりが見えてきた。
「行き止まりみたいなの。でも、最後まではちゃんと探すの」
絢音が言うと、アルトも頷き……連れてきた犬にも手伝わせ、くまなく検分した。
と、そこで地面に、銀色の小さな光が見えた。シグレがしゃがみ込む。
「これは、埋まっているようだね」
「ちょっと待って」
千がハルバードで、ざっ、ざっ、と土を掘り起こし、それを取り出す。
見ると、鎖のついた、小さなペンダントであった。
開けると、中に小さい肖像画がある。男性と少年の、二人が描かれた図柄だ。ミュオがのぞき込む。
「この絵は……あれ? トニさんとお父さんの絵……ではなくて……」
「当時の、ジェフさんとお父さんだ。名前も書いてある――けれど、とても似てる」
クィーロが気付いて言った。
今も村にいる、あの親子そっくりの、生き写しのような絵。それは、子を大切に思う一人の人間がここにいたという証拠でもあるだろうか。
他にも、古びた小さな日記帳があった。内容は断片的にしか読めないが――内容からも、ジェフ本人のものだろうと言えた。
逆に、ジェフ以外のものと思われるものは、何もなかった。アルトは呟く。
「ジェフさんは一人で、あの大蛇と戦ったんだね」
巨大な蛇の化け物。それと戦う男の姿が少しだけ、想像された。
村に帰ると……村人が集まる中、七人はトニと父に形見を渡した。
「間違いなく、これは本人のものだろ」
シュタールが大剣の銘や日記、そして肖像画を示して見せると……トニの父は、目にうっすらと涙を浮かべて首肯した。
「確かに……これは親父に、間違いありません。久しぶりに……こうして顔を見ることが出来ました」
「すごい……!」
トニは、喜びはあったようだが、それより驚きと感動が勝っているようだ。
「おじいちゃんは、本当に、戦士だったんだ……! 見つけてきてくれて、本当にありがとう!」
顔を上げるトニにミュオは頷いて見せた。
「はい。ちゃんと持って帰ってくると約束しましたから!」
「あの大蛇は、すごく、強かったよ。でもジェフさんは、ひるまず立ち向かったんだ」
戦いの中で見たことをアルトが話すと……トニは目を輝かせていた。
それはいまだ知らない、英雄の最後の物語だ。
と、絢音は、背も年齢も上のそんな少年に、物怖じすることなく冷静に言う。
「でも……じーじが戦士だった事を言って何がしたいのなの?」
「……それは……」
「家族が立派な人だと言いたいのは分かるの。でも、それを自慢して自分が立派になる訳ではないの。……じーじのような人になりたいのなら、黙って訓練するのがカッコいいの」
トニは、少し、はっとする。それはトニの中の何かに、触れたかのようでもあった。
それから、うん、とトニは絢音にまっすぐ頷いた。トニの頭に、父もぽんぽん、と掌を乗せる。
それを見ながら、シグレは少し、思った。自分の父はどうだったろうか、と。
祖父の話を聞くほど親密ではなかっただろうか。おぼろに思い出すのは、遠い背中だった。
「どうしたんだい?」
「いや。何でもないよ。少し、家族のことを考えていた」
クィーロにシグレは答える。
クィーロは、それにはただ、微笑みを浮かべていた。自分には本名も年齢も、ルーツに関わる記憶がほとんどないことを思いながら。
あるいは……思い出さないのは思い出したくないからなのだろうか、と。
「でも、よかったね、見つかって」
千が言えば、ハンターたちは最後には、皆それぞれに頷く。
生まれて初めて祖父の存在をその目で見たトニは……。
あたたかいものに触れるように……ぎゅっと、偉大な英雄の遺品をその腕に抱いていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓。 逢見 千(ka4357) 人間(リアルブルー)|14才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/04/05 18:50:13 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/31 09:49:52 |