ゲスト
(ka0000)
無花の望樹
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/12 09:00
- 完成日
- 2015/04/20 18:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
街道を見下ろす丘の上に立つ老桜。
高さもさることながら、枝ぶりがよく丘の天辺を覆うような広がり、幹に至っては自分の両手を5回使っても回り切れない太さであった。
春になったらきっと一面を桜吹雪にしてくれるのではないかとミネアは期待しつつ街道を往来していたものだが。
その樹は今になってもまだ葉も花も、それどころか蕾すらつけていなかった。
遠くに見える森の木々がもう新緑に覆われ、ぽつぽつと優しい色合いの花をつけているのにも関わらず。
「枯れてるのかな……」
今日は仕事を休み、のんびり花見でもして心安らかに過ごそうと決めていた商人のミネアだったが、老桜を見上げて胸を切るような気持ちにさせられた。一目見ただけの間柄なのに、涙が毀れそうになるのはどうしてなのか。
ミネアはただ一人、桜の根本に腰をおろし、その背を預けることしかできなかった。
「何とも立派な樹だ。加護に感謝する」
不意に背中から声がした。
振り返ってみてみると、一人の男が先頭に立ち、桜に対して直立すると、胸に手を当て深々と一礼していた。
その後ろでは同じように30人ほどの老若男女が同様に敬礼をしている姿が見える。彼らは一様にこの帝国では見られない獣皮と独特の紋様で彩られた衣装を纏っていたことから、辺境から来た人間であることはすぐ理解した。
ミネアは彼らと背にしていた大木を交互に見やった後、祈りの終えるのを見計らって、族長らしき先頭に立つ男に声をかけた。
「あの……この樹、枯れてると思うんですけど、精霊って宿っていらっしゃるんですか?」
「もちろんだ。死んでいるようみえたか?」
生きているの?
だが、春風に揺られる緑すらないと、そうは実感できない。
「樹はお前を呼んだろう?」
「いえ、わたしは……前から気になっててお花が咲くころに花見に来ようって思って。別に呼ばれたとかそういうわけじゃ」
「それを呼ばれた、という」
族長の男は無精ひげいっぱい顔をくしゃっとして満面の笑みを浮かべた。精悍で古傷だらけの身体は怖そうに見えたが、どことなしに愛嬌のある笑顔だった。
「精霊と直接話ができるのはごく一部。それ以外は『気になる』。この樹はお前に何かを果たしてもらいたい、と思っているのだろう」
何かって。
ミネアはどうにも困ってしまった。覚醒者でもないミネアには頼まれたってどうしようもできない。現に先ほどまでぼんやり座っていることしかできなかったのだから。
悩むミネアに赤子を背負った女が語り掛けてきた。
「この樹を、どう思った?」
「可哀想だな……ですかね。何かしてあげたいけれどわからないから、とりあえず座ってて……」
「それが答え。一緒にいて欲しい、見てててほしい、だと思うわ」
教えてくれる女の横で、巨漢の戦士が樹を見上げて言った。彼は覚醒者らしく身体を輝かせていた。
「まだマテリアルの流れを感じる。生きてるぞ。まだ生きている。だが枝も伸ばせぬ、葉も生やせぬ。だが生きてるが死んでると思われる。寂かろうな」
ああ、なるほどね。
なんとなくだが、『樹が呼んでいる』という意味がほんの少しだけわかった気がした。
この樹はもう新芽を生やすことすらできないほどに老いたけれど、まだ咲きたいと思っている。
共にあって喜びを分かちたいと願っている。
「娘よ。君には色んな人の匂いがする。樹もそれを感じたのだろう」
族長は教えてくれた。辺境に伝わる花見の言い伝え。
桜の下で花見をするのは古来から行われてきた。
それは桜がとてもマテリアルに敏感なのだからという。祭りの活気が正のマテリアルとなり、また来年美しく咲く力となる。
桜は知っている。だから人を呼ぶのだと。代わりに彼らは邪気を払い私達を守ってくれるのだと。
「花見をすればいいわけ、かな?」
花のないところで花見をする。変な話だ。
だが、雲に隠れた月を想って月見を楽しむのが風流だとか言った人もいたな。
ミネアはそんなことを想いだすと、立ち上がった。
「ハンターさんに声かけてみます。依頼として出したら樹の好きな人とか、何はなくとも祭り好きな人とか、少しは集まってくれるかも!」
「それがいい。我々も少しばかりここで花見を楽しむとしよう」
族長はそう言って手を差し出してくれた。ゴワゴワの硬い手だったが、ほんのりと土と草の優しい香りがした。
高さもさることながら、枝ぶりがよく丘の天辺を覆うような広がり、幹に至っては自分の両手を5回使っても回り切れない太さであった。
春になったらきっと一面を桜吹雪にしてくれるのではないかとミネアは期待しつつ街道を往来していたものだが。
その樹は今になってもまだ葉も花も、それどころか蕾すらつけていなかった。
遠くに見える森の木々がもう新緑に覆われ、ぽつぽつと優しい色合いの花をつけているのにも関わらず。
「枯れてるのかな……」
今日は仕事を休み、のんびり花見でもして心安らかに過ごそうと決めていた商人のミネアだったが、老桜を見上げて胸を切るような気持ちにさせられた。一目見ただけの間柄なのに、涙が毀れそうになるのはどうしてなのか。
ミネアはただ一人、桜の根本に腰をおろし、その背を預けることしかできなかった。
「何とも立派な樹だ。加護に感謝する」
不意に背中から声がした。
振り返ってみてみると、一人の男が先頭に立ち、桜に対して直立すると、胸に手を当て深々と一礼していた。
その後ろでは同じように30人ほどの老若男女が同様に敬礼をしている姿が見える。彼らは一様にこの帝国では見られない獣皮と独特の紋様で彩られた衣装を纏っていたことから、辺境から来た人間であることはすぐ理解した。
ミネアは彼らと背にしていた大木を交互に見やった後、祈りの終えるのを見計らって、族長らしき先頭に立つ男に声をかけた。
「あの……この樹、枯れてると思うんですけど、精霊って宿っていらっしゃるんですか?」
「もちろんだ。死んでいるようみえたか?」
生きているの?
だが、春風に揺られる緑すらないと、そうは実感できない。
「樹はお前を呼んだろう?」
「いえ、わたしは……前から気になっててお花が咲くころに花見に来ようって思って。別に呼ばれたとかそういうわけじゃ」
「それを呼ばれた、という」
族長の男は無精ひげいっぱい顔をくしゃっとして満面の笑みを浮かべた。精悍で古傷だらけの身体は怖そうに見えたが、どことなしに愛嬌のある笑顔だった。
「精霊と直接話ができるのはごく一部。それ以外は『気になる』。この樹はお前に何かを果たしてもらいたい、と思っているのだろう」
何かって。
ミネアはどうにも困ってしまった。覚醒者でもないミネアには頼まれたってどうしようもできない。現に先ほどまでぼんやり座っていることしかできなかったのだから。
悩むミネアに赤子を背負った女が語り掛けてきた。
「この樹を、どう思った?」
「可哀想だな……ですかね。何かしてあげたいけれどわからないから、とりあえず座ってて……」
「それが答え。一緒にいて欲しい、見てててほしい、だと思うわ」
教えてくれる女の横で、巨漢の戦士が樹を見上げて言った。彼は覚醒者らしく身体を輝かせていた。
「まだマテリアルの流れを感じる。生きてるぞ。まだ生きている。だが枝も伸ばせぬ、葉も生やせぬ。だが生きてるが死んでると思われる。寂かろうな」
ああ、なるほどね。
なんとなくだが、『樹が呼んでいる』という意味がほんの少しだけわかった気がした。
この樹はもう新芽を生やすことすらできないほどに老いたけれど、まだ咲きたいと思っている。
共にあって喜びを分かちたいと願っている。
「娘よ。君には色んな人の匂いがする。樹もそれを感じたのだろう」
族長は教えてくれた。辺境に伝わる花見の言い伝え。
桜の下で花見をするのは古来から行われてきた。
それは桜がとてもマテリアルに敏感なのだからという。祭りの活気が正のマテリアルとなり、また来年美しく咲く力となる。
桜は知っている。だから人を呼ぶのだと。代わりに彼らは邪気を払い私達を守ってくれるのだと。
「花見をすればいいわけ、かな?」
花のないところで花見をする。変な話だ。
だが、雲に隠れた月を想って月見を楽しむのが風流だとか言った人もいたな。
ミネアはそんなことを想いだすと、立ち上がった。
「ハンターさんに声かけてみます。依頼として出したら樹の好きな人とか、何はなくとも祭り好きな人とか、少しは集まってくれるかも!」
「それがいい。我々も少しばかりここで花見を楽しむとしよう」
族長はそう言って手を差し出してくれた。ゴワゴワの硬い手だったが、ほんのりと土と草の優しい香りがした。
リプレイ本文
「へえ、これが……」
ルキハ・ラスティネイル(ka2633)は風のたなびく丘の上で、自らの髪と眼鏡を抑えながら桜を見入った。花も葉もない。だけどなんだろう。迎え入れられているような温かな空気。
「これでけでも素敵ですけれど、咲いたらもっと素敵でしょうね」
ルキハが初めて見る桜に言葉を失う様子に椿姫・T・ノーチェ(ka1225)がそっと語り掛けた。
「おっはよーございますぅぅぅ。あさですよーーーっ」
胸につけていたカウベルを手にしてカラコロカラコロ、音を鳴らして挨拶するのはベル(ka1896)。そしてそれにツッコミを入れているのはリュー・グランフェスト(ka2419)だ。
「挨拶するにしてももうちょっと静かにしろよ」
「あいさつは元気よく!」
ベルが詰め寄るとやっぱりカラコロカラコロ。リューは辟易として耳を塞いだ。まったく怪我にも悪い騒音だ。
「まあまあ、元気なことはいいことではありませんか。きっとこの桜にも良い影響を与えると思います」
ルネッタ・アイリス(ka4609)が二人のやりとりをくすくすと笑ってなだめると同時に腕に下げていたバスケットを布巾をとった。色鮮やかなマカロンにワインに、ミルク。言い争っていた二人も、ちらりと見えたバスケットの中身に思わず視線が移動する。
「みるくー!」
「お酒ー!!」
ベルはミルクに食らいつき、お酒に食らいついたのはリーラ・ウルズアイ(ka4343)。本人もやたらにお酒は持ち込んでいたがやはり他人の酒も気になる。
「わ、かわいいマカロン。私も作って来たんです。後で交換しませんか?」
お菓子に興味を持ったのはセツァルリヒト(ka3807)。彼女も同じように重箱にマカロンを作っているのを見せてくれた。マカロン、されどマカロン。形も違うし、中身の味付けは千差万別。食べ比べが一番楽しみなお菓子である。
「あれ、ひーふーみー……一人足りない」
そんな中、依頼人のミネアは参加してくれたメンバーの数を指さし確認して首をかしげていた。依頼不参加の人でも出てきたかしら。
「お、ミネアさんいらっしーい。先に始めてるよー」
ああ、先に着てたのね。と、ミネアは振り返ったが、ボラ族の人間が賑やかにやっているばかり。
……あ、いた。
辺境独特の模様が編まれた衣装を着込んだアーシュラ・クリオール(ka0226)はもう本当に見分けがつかなかった。確か転移してきたはずなのに、見事なまでに辺境ナイズされている。
「それでは花見はっじめよー!」
アーシュラが盃を掲げて乾杯の音頭を取った。
●
「広げておきますから、お好きなだけ食べてくださいね。遠慮はいりませんよ?」
椿姫がどーんと紹介したのはミネアが用意した敷物がそれ全て埋まるのではないかと言うほどのサンドイッチ。ハムにチキンに卵にツナ、ピーナッツクリーム、野菜、チーズにドライカレー……そして、リス並に頬がぱんぱんのベル。
「はやっ」
「いただきましゅひ……んがんぐっ!?」
喉詰めたな。
「ド阿呆。急ぎすぎなんだよ。そんなんだからガキなんだよ」
呆れた顔でリューがミルクを差し出したのをぐびーっと飲み干してからベルは抗議した。
「ガキじゃないもん。ミルク飲んだらねー、リューよりおっきくなるんだからね!」
「オレもミルク飲むからな。永遠に追い越せねーよ」
なにおうっ、と突如始まるミルク一気飲み競争。方々からやんややんやと煽り文句が飛び始める。
「あわわわ、あのちょっと、落ち着いて……」
大人数での行動があまり慣れていないセツァルリヒトは右へおろおろ左へおろおろ。ああ、隅っこでほのぼのさせてほしい。
「いいのよ、あれで」
慌てふためくセツァルリヒトの肩をぽんぽんと叩いてルキハは人差し指を唇に当ててウィンクした。
「今日は積極的に楽しむ。その楽しさを満喫する心が桜を喜ばせるんだって、あの子は分かってるのよ」
なるほど。言われてみてセツァルリヒトは頷いた。相手がどう思っているとか、どう振る舞おうかとか、そういうのはこの裸の桜には要らない事なのかもしれない。
人見知りが出てしまうセツァルリヒトにとってなんだか為になる話であった。
「よし、それじゃ私も……」
思い切ってボラ族の人に話してみよう。話に花が咲く、とも言うしっ。
と振り返ったセツァルリヒトの目に映ったのは。空のバスケットだった。
「ハンターは料理上手が多いな!」
ボラ族30余名。椿姫のサンドイッチを取り合うようにして食べている。
「うまい! ほっぺ落ちる!!」
「俺も! 俺も!」
子供か、お前ら。と突っ込みたくなるやり取りを大人が繰り広げている。
「あ、あの。私の作ったクッキーとか……い、いかがで」
「「「「食べる!!!」」」
言い切る前には、もうその手が伸びていた。
「ちょっとー、食べるのもいいけど、そっちのも何か提供してよね。世の中ギブアンドテイク!」
結局、桜色マカロン一つしか手に取れなかったリーラが呆れてそう言った。
「だってねぇ」
「美味しいから、つい」
そんな風にして顔を見合わせるボラ族の面々に族長の男が重々しく言った。
「彼女の言い分はもっともだ。私たちの宴の食べ物を提供しよう」
族長の一言で、ボラ族が差し出したのは……牛だった。モォ、と鳴くほどまだ元気。
「乳も飲める」
直飲み!? しかも食べるんだよね!!?
族長のにこやかな紹介にハンター達は流石に閉口した。そりゃこんなモノが出てくるくらいなら、みんなこぞってハンターの料理に飛びつくはずだ。
「あっははは。こんな花見初めて~」
「で、でもリーラさん」
ケラケラと笑うリーラに、セツァルリヒトは困ったように言葉をかけた。セツァルリヒトには、もう花見の雰囲気どこいった。な気分である。
「いいじゃないの。花のない花見してるんだし、普通じゃなくて当然。ま、どうにかなるでしょ」
リーラの楽天家気質爆発の台詞にセツァルリヒトははぁ、としか答えられなかった。
「でも、牛の肉……」
「ふふ、お任せくださいませ。桜の伝説を鑑みますと彼らの選択は決して悪いものではございません」
ルネッタは穏やかな笑顔で包丁を手にしていた。
「伝説?」
「はい、桜は本来白い花だったとのことです。今のように淡い紅に染まったのは……血を吸ったからなのだという伝説がございます」
……まて。
花見がいつの間にやら怪談仕立てになりつつある今、ルネッタの奥ゆかしい微笑みはかえって恐ろしかった。
「それでは少々お待ちくださいませ」
もぉぉぉぉぉぉ。おふ……
断末魔と、桜の木についた黒い斑点が、一部の人にとっては忘れられなくなったとさ。
「また一つになれる。ああ、なんと甘美な調べでありましょう」
ルネッタが桜の木の向こう側で埋葬作業している間に、ボラ族代表ハンターのアーシュラが即席かまどでジャンバラヤを皆に振る舞った。
「はい、ジャンバラヤ、っと。本当は豚や魚なんだけどね」
「おいしーっ。ベル、これ好き!」
こんな時ばかりは後ろで祈りを捧げられている本体に遠慮してマズい顔して食べるより、素直に美味しいと言えるベルの精神はみんな羨ましいと思ったに違いない。
「お前、よく食うよな……うぷっ」
先ほどのミルク対決でたっぷんたっぷんになったお腹を押さえつつ、リューは寝ころんでいた。ミルク対決は勝てたものの、アーシュラの料理は一口も入る余裕はない。
寝ころんで天地が逆さまになった世界で、ルキハと椿姫がワインを手に、そして老桜を見上げていた。
「桜餅草は一面花畑のように広がっていて、とても綺麗でしたよ。香りも豊かで……草むらから見上げた空も本当に」
「それは素敵! 一度目にしてみたいものがまた増えたわねぇ」
「そうですね、私も転移して間もないですから、もっとたくさんのものを見てみたいと思いますね」
この桜も様々なものを見てきたのだろう。
嬉しいこと。悲しいこと。辛いこと。幸せな事。
椿姫はぼんやりと桜を見上げる中で、記憶を辿っていた。祖父の言葉とともに贈られた首飾りのこと。
「この地は桜を 桜はこの地を 愛している。
そのいくばかが 命尽きるその時までに 感じられれば どれだけ幸せなことだろうか」
そしてそれは、きっと他の事にも置き換えられるのね。懐かしい顔が少しだけ浮かんでは消える。
「あら、感傷的なのネ! でもね、心配ないわよ」
ルキハはそう言うと、椿姫にとんとん。と桜の幹を叩いて見せた。
「この桜はまだ死んだりしていないもの。頬を赤らめるように紅潮しているの、わかる?」
「え……?」
椿姫は驚いて桜を見つめ直した。何か違っているのだろうか。
この樹が愛を感じているのかしら?
そんな思いに至った時に椿姫は、あ、と感嘆の声を上げた。本当に小さな変化。ルキハだからわかったのかもしれない変化。
「幹が紅く……」
ここについた瞬間は、そうだ。青い空によく似合う白い樹皮だった。白樺すら想像するような。でも、今は確かに濃い色になっている。
「あたし達も嬉しくなったら、アツくなっちゃうでしょ? 桜も同じなんじゃないかしら」
「その通りです。花をつける直前、樹皮はもっとも赤くなり、全身で咲こうとするんだそうです」
まだ桜の芽吹きは目では分からない。だけど桜には気持ちが伝わっているし、そして桜も応えようとしている。
「皆のマテリアルが届くといいわね~」
ルキハはそう言うと、ワインにピュアウォーターの魔法をふわりとかけた。
「そのままじゃちょっと強いかもしれないからね。気つけと、エール♪」
少しでも届いたらいいね。
その言葉を形にするように、向こうでわぁ、と歓声が沸き上がった。
「エールといえばやっぱこれ!」
リーラはビールを天にかざした。この頃には用意したワインもブランデーもシードルも底をついてしまっていた。残っているのはビールとソフトドリンクと追加のバラエティランチ。なんということだ、ボラ族によってあれほど奪われていた料理が残っている!
「あの、大丈夫ですか?」
セツァルリヒトがボラ族一番の大男に声をかけた。巨人かと思うような男はリーラとの飲み対決にあっさり敗れてグデングデン。
「は、はんちゃーはひょんなつおいしゃけ のむのら(ハンターはこんな強い酒、飲むのか……)」
呂律回ってない。そんなヘタレ男どもが死屍累々としている中で、唯一元気なのは族長と外見年齢は飲んじゃいけない子供たちだけ。飲んでるのいるけど。
「こんな強い酒は、辺境にはない」
酒という黒船襲来でなすすべもなく征服されたボラ族には大食いで他人様の料理をかっさらうという特技の発動はできなくなってしまっていた。
「そうなんですか? すごく飲みそうな雰囲気でしたけど……」
「我々のいたのは辺境のかなり北、歪虚と常に戦うような場所だ。酒を造れるほど一所には留まれない。我々が酒と言えばこれだ」
「一夜酒(甘酒)かな? 桜に一夜酒かぁ。けっこう風流してるわね~」
「人それぞれに楽しみ方はある。どれも違っていてどれも受け入れる。それは辺境でも帝国でも同じ」
喧騒の中で静かにほほ笑む族長の顔は、ほんの少しだけ寂しそうに見えたのは、辛い思い出があるからかな。リーラはちらりと思ったが、特段それに触れる理由もない。
「よっし、それじゃー、ここはみんなで楽しめるのやりましょ! 歌とか踊りとか」
リーラがパンパンっと手を叩くと、それに気づいてかアーシュラも手を叩き、族長に声をかけた。
「イグ(族長の名)さーん、こういう時の踊りあるでしょ? あれ見せて」
「よし、精霊に感謝を捧げる踊りをしよう。すぐ準備しよう」
族長はそう言うと一族の人間たちに声をかけた。その様子に気づいたベルが嬉しそうにカウベルをぶんぶか振り回した。
「みんなでうたおーよ! そしたらサクラさんもねー、ぽぽぽぽーんってなるんだよ。 さっくら、ぽっぽぽーん。 ぽぽぽぽーん、ぽっぽぽーん♪」
「ぽぽぽぽーんって、お前の頭のことか?」
クスっと笑って伸びていたリューもリュートを取り出し、勢いよく弦をかき鳴らした。跳ねる弦に歌と踊りの時間が始まったと椿姫やルキハも気づく。
「あははっ、ベルちゃんの歌可愛いわねぇ」
ルキハが笑う中、ベルの荒唐無稽な歌にリューが伴奏を付けていく。阿呆だのなんだの言いながら、しっかり付き合う辺りリューの心意気が伝わってくる。
「まあ、楽しそうですね」
食べ散らかしたゴミをその間にささっと片付け終わったルネッタも調べを理解し、オカリナで追従する。
リュートとオカリナ、それからカウベル。
違う音がハーモニーを奏でる。
それから手拍子に歌声。
あさですーよ はるでーすよ♪ ぽっぽぽん ぽっぽぽん ぽんぽーん♪
そこに準備の終えたボラ族が……
アーシュラの作ったかまどを取り払い、たき火を中心にボラ族は半裸になり輪になって踊り始める。上半身をリズムに合わせて上げたり落としたり。
「んーばばば! メメラッサ!」
やっぱり帝国民には見えない。
そして傍から見たら絶対に花見じゃない。
そんな様子が可笑しくて、涙が毀れそうになる。
「違うっ、その踊りじゃないって~」
リクエストしたアーシュラ自体が抱腹絶倒し、またリーラがいいじゃんと言って輪の中に入ったり。
ひら。
笑いあって、肩組みあって。
そんな中でも花びら一枚、舞い落ちたのはみんなすぐに気付いた。
「皆さん、桜……!」
桜の枝にはついぞ花はつかなかった。
だけど私たちの思いをくみ取ってくれたのだろうか。それともマテリアルが桜の花びらに変わったのか。
幻影のように桜の花びらがどこからともなく現れ、舞い舞う。風が一吹きするごとに何百、何千。
一面花吹雪に包まれる光景を皆は肩を寄せ合って眺めていた。
ありがとう。
さようなら。
そんな風に言ってくれているような気がした。
●
ミネアはまた旅の途中、桜のあった丘に登っていた。
あれから幾日しか経っていないはずなのに、そこにあったのは見てすぐ判る程に朽ちた大木があるだけだった。この前、皆と一緒に楽しんだ時とはまるで違っていた。
ミネアは朽ちた桜の根本に膝をついた。悲しくて寂しくて。でもそれだけ近づいて初めて見えるものもあった。
朽ちた幹の元に新しい命が、根付いていた。
ルキハ・ラスティネイル(ka2633)は風のたなびく丘の上で、自らの髪と眼鏡を抑えながら桜を見入った。花も葉もない。だけどなんだろう。迎え入れられているような温かな空気。
「これでけでも素敵ですけれど、咲いたらもっと素敵でしょうね」
ルキハが初めて見る桜に言葉を失う様子に椿姫・T・ノーチェ(ka1225)がそっと語り掛けた。
「おっはよーございますぅぅぅ。あさですよーーーっ」
胸につけていたカウベルを手にしてカラコロカラコロ、音を鳴らして挨拶するのはベル(ka1896)。そしてそれにツッコミを入れているのはリュー・グランフェスト(ka2419)だ。
「挨拶するにしてももうちょっと静かにしろよ」
「あいさつは元気よく!」
ベルが詰め寄るとやっぱりカラコロカラコロ。リューは辟易として耳を塞いだ。まったく怪我にも悪い騒音だ。
「まあまあ、元気なことはいいことではありませんか。きっとこの桜にも良い影響を与えると思います」
ルネッタ・アイリス(ka4609)が二人のやりとりをくすくすと笑ってなだめると同時に腕に下げていたバスケットを布巾をとった。色鮮やかなマカロンにワインに、ミルク。言い争っていた二人も、ちらりと見えたバスケットの中身に思わず視線が移動する。
「みるくー!」
「お酒ー!!」
ベルはミルクに食らいつき、お酒に食らいついたのはリーラ・ウルズアイ(ka4343)。本人もやたらにお酒は持ち込んでいたがやはり他人の酒も気になる。
「わ、かわいいマカロン。私も作って来たんです。後で交換しませんか?」
お菓子に興味を持ったのはセツァルリヒト(ka3807)。彼女も同じように重箱にマカロンを作っているのを見せてくれた。マカロン、されどマカロン。形も違うし、中身の味付けは千差万別。食べ比べが一番楽しみなお菓子である。
「あれ、ひーふーみー……一人足りない」
そんな中、依頼人のミネアは参加してくれたメンバーの数を指さし確認して首をかしげていた。依頼不参加の人でも出てきたかしら。
「お、ミネアさんいらっしーい。先に始めてるよー」
ああ、先に着てたのね。と、ミネアは振り返ったが、ボラ族の人間が賑やかにやっているばかり。
……あ、いた。
辺境独特の模様が編まれた衣装を着込んだアーシュラ・クリオール(ka0226)はもう本当に見分けがつかなかった。確か転移してきたはずなのに、見事なまでに辺境ナイズされている。
「それでは花見はっじめよー!」
アーシュラが盃を掲げて乾杯の音頭を取った。
●
「広げておきますから、お好きなだけ食べてくださいね。遠慮はいりませんよ?」
椿姫がどーんと紹介したのはミネアが用意した敷物がそれ全て埋まるのではないかと言うほどのサンドイッチ。ハムにチキンに卵にツナ、ピーナッツクリーム、野菜、チーズにドライカレー……そして、リス並に頬がぱんぱんのベル。
「はやっ」
「いただきましゅひ……んがんぐっ!?」
喉詰めたな。
「ド阿呆。急ぎすぎなんだよ。そんなんだからガキなんだよ」
呆れた顔でリューがミルクを差し出したのをぐびーっと飲み干してからベルは抗議した。
「ガキじゃないもん。ミルク飲んだらねー、リューよりおっきくなるんだからね!」
「オレもミルク飲むからな。永遠に追い越せねーよ」
なにおうっ、と突如始まるミルク一気飲み競争。方々からやんややんやと煽り文句が飛び始める。
「あわわわ、あのちょっと、落ち着いて……」
大人数での行動があまり慣れていないセツァルリヒトは右へおろおろ左へおろおろ。ああ、隅っこでほのぼのさせてほしい。
「いいのよ、あれで」
慌てふためくセツァルリヒトの肩をぽんぽんと叩いてルキハは人差し指を唇に当ててウィンクした。
「今日は積極的に楽しむ。その楽しさを満喫する心が桜を喜ばせるんだって、あの子は分かってるのよ」
なるほど。言われてみてセツァルリヒトは頷いた。相手がどう思っているとか、どう振る舞おうかとか、そういうのはこの裸の桜には要らない事なのかもしれない。
人見知りが出てしまうセツァルリヒトにとってなんだか為になる話であった。
「よし、それじゃ私も……」
思い切ってボラ族の人に話してみよう。話に花が咲く、とも言うしっ。
と振り返ったセツァルリヒトの目に映ったのは。空のバスケットだった。
「ハンターは料理上手が多いな!」
ボラ族30余名。椿姫のサンドイッチを取り合うようにして食べている。
「うまい! ほっぺ落ちる!!」
「俺も! 俺も!」
子供か、お前ら。と突っ込みたくなるやり取りを大人が繰り広げている。
「あ、あの。私の作ったクッキーとか……い、いかがで」
「「「「食べる!!!」」」
言い切る前には、もうその手が伸びていた。
「ちょっとー、食べるのもいいけど、そっちのも何か提供してよね。世の中ギブアンドテイク!」
結局、桜色マカロン一つしか手に取れなかったリーラが呆れてそう言った。
「だってねぇ」
「美味しいから、つい」
そんな風にして顔を見合わせるボラ族の面々に族長の男が重々しく言った。
「彼女の言い分はもっともだ。私たちの宴の食べ物を提供しよう」
族長の一言で、ボラ族が差し出したのは……牛だった。モォ、と鳴くほどまだ元気。
「乳も飲める」
直飲み!? しかも食べるんだよね!!?
族長のにこやかな紹介にハンター達は流石に閉口した。そりゃこんなモノが出てくるくらいなら、みんなこぞってハンターの料理に飛びつくはずだ。
「あっははは。こんな花見初めて~」
「で、でもリーラさん」
ケラケラと笑うリーラに、セツァルリヒトは困ったように言葉をかけた。セツァルリヒトには、もう花見の雰囲気どこいった。な気分である。
「いいじゃないの。花のない花見してるんだし、普通じゃなくて当然。ま、どうにかなるでしょ」
リーラの楽天家気質爆発の台詞にセツァルリヒトははぁ、としか答えられなかった。
「でも、牛の肉……」
「ふふ、お任せくださいませ。桜の伝説を鑑みますと彼らの選択は決して悪いものではございません」
ルネッタは穏やかな笑顔で包丁を手にしていた。
「伝説?」
「はい、桜は本来白い花だったとのことです。今のように淡い紅に染まったのは……血を吸ったからなのだという伝説がございます」
……まて。
花見がいつの間にやら怪談仕立てになりつつある今、ルネッタの奥ゆかしい微笑みはかえって恐ろしかった。
「それでは少々お待ちくださいませ」
もぉぉぉぉぉぉ。おふ……
断末魔と、桜の木についた黒い斑点が、一部の人にとっては忘れられなくなったとさ。
「また一つになれる。ああ、なんと甘美な調べでありましょう」
ルネッタが桜の木の向こう側で埋葬作業している間に、ボラ族代表ハンターのアーシュラが即席かまどでジャンバラヤを皆に振る舞った。
「はい、ジャンバラヤ、っと。本当は豚や魚なんだけどね」
「おいしーっ。ベル、これ好き!」
こんな時ばかりは後ろで祈りを捧げられている本体に遠慮してマズい顔して食べるより、素直に美味しいと言えるベルの精神はみんな羨ましいと思ったに違いない。
「お前、よく食うよな……うぷっ」
先ほどのミルク対決でたっぷんたっぷんになったお腹を押さえつつ、リューは寝ころんでいた。ミルク対決は勝てたものの、アーシュラの料理は一口も入る余裕はない。
寝ころんで天地が逆さまになった世界で、ルキハと椿姫がワインを手に、そして老桜を見上げていた。
「桜餅草は一面花畑のように広がっていて、とても綺麗でしたよ。香りも豊かで……草むらから見上げた空も本当に」
「それは素敵! 一度目にしてみたいものがまた増えたわねぇ」
「そうですね、私も転移して間もないですから、もっとたくさんのものを見てみたいと思いますね」
この桜も様々なものを見てきたのだろう。
嬉しいこと。悲しいこと。辛いこと。幸せな事。
椿姫はぼんやりと桜を見上げる中で、記憶を辿っていた。祖父の言葉とともに贈られた首飾りのこと。
「この地は桜を 桜はこの地を 愛している。
そのいくばかが 命尽きるその時までに 感じられれば どれだけ幸せなことだろうか」
そしてそれは、きっと他の事にも置き換えられるのね。懐かしい顔が少しだけ浮かんでは消える。
「あら、感傷的なのネ! でもね、心配ないわよ」
ルキハはそう言うと、椿姫にとんとん。と桜の幹を叩いて見せた。
「この桜はまだ死んだりしていないもの。頬を赤らめるように紅潮しているの、わかる?」
「え……?」
椿姫は驚いて桜を見つめ直した。何か違っているのだろうか。
この樹が愛を感じているのかしら?
そんな思いに至った時に椿姫は、あ、と感嘆の声を上げた。本当に小さな変化。ルキハだからわかったのかもしれない変化。
「幹が紅く……」
ここについた瞬間は、そうだ。青い空によく似合う白い樹皮だった。白樺すら想像するような。でも、今は確かに濃い色になっている。
「あたし達も嬉しくなったら、アツくなっちゃうでしょ? 桜も同じなんじゃないかしら」
「その通りです。花をつける直前、樹皮はもっとも赤くなり、全身で咲こうとするんだそうです」
まだ桜の芽吹きは目では分からない。だけど桜には気持ちが伝わっているし、そして桜も応えようとしている。
「皆のマテリアルが届くといいわね~」
ルキハはそう言うと、ワインにピュアウォーターの魔法をふわりとかけた。
「そのままじゃちょっと強いかもしれないからね。気つけと、エール♪」
少しでも届いたらいいね。
その言葉を形にするように、向こうでわぁ、と歓声が沸き上がった。
「エールといえばやっぱこれ!」
リーラはビールを天にかざした。この頃には用意したワインもブランデーもシードルも底をついてしまっていた。残っているのはビールとソフトドリンクと追加のバラエティランチ。なんということだ、ボラ族によってあれほど奪われていた料理が残っている!
「あの、大丈夫ですか?」
セツァルリヒトがボラ族一番の大男に声をかけた。巨人かと思うような男はリーラとの飲み対決にあっさり敗れてグデングデン。
「は、はんちゃーはひょんなつおいしゃけ のむのら(ハンターはこんな強い酒、飲むのか……)」
呂律回ってない。そんなヘタレ男どもが死屍累々としている中で、唯一元気なのは族長と外見年齢は飲んじゃいけない子供たちだけ。飲んでるのいるけど。
「こんな強い酒は、辺境にはない」
酒という黒船襲来でなすすべもなく征服されたボラ族には大食いで他人様の料理をかっさらうという特技の発動はできなくなってしまっていた。
「そうなんですか? すごく飲みそうな雰囲気でしたけど……」
「我々のいたのは辺境のかなり北、歪虚と常に戦うような場所だ。酒を造れるほど一所には留まれない。我々が酒と言えばこれだ」
「一夜酒(甘酒)かな? 桜に一夜酒かぁ。けっこう風流してるわね~」
「人それぞれに楽しみ方はある。どれも違っていてどれも受け入れる。それは辺境でも帝国でも同じ」
喧騒の中で静かにほほ笑む族長の顔は、ほんの少しだけ寂しそうに見えたのは、辛い思い出があるからかな。リーラはちらりと思ったが、特段それに触れる理由もない。
「よっし、それじゃー、ここはみんなで楽しめるのやりましょ! 歌とか踊りとか」
リーラがパンパンっと手を叩くと、それに気づいてかアーシュラも手を叩き、族長に声をかけた。
「イグ(族長の名)さーん、こういう時の踊りあるでしょ? あれ見せて」
「よし、精霊に感謝を捧げる踊りをしよう。すぐ準備しよう」
族長はそう言うと一族の人間たちに声をかけた。その様子に気づいたベルが嬉しそうにカウベルをぶんぶか振り回した。
「みんなでうたおーよ! そしたらサクラさんもねー、ぽぽぽぽーんってなるんだよ。 さっくら、ぽっぽぽーん。 ぽぽぽぽーん、ぽっぽぽーん♪」
「ぽぽぽぽーんって、お前の頭のことか?」
クスっと笑って伸びていたリューもリュートを取り出し、勢いよく弦をかき鳴らした。跳ねる弦に歌と踊りの時間が始まったと椿姫やルキハも気づく。
「あははっ、ベルちゃんの歌可愛いわねぇ」
ルキハが笑う中、ベルの荒唐無稽な歌にリューが伴奏を付けていく。阿呆だのなんだの言いながら、しっかり付き合う辺りリューの心意気が伝わってくる。
「まあ、楽しそうですね」
食べ散らかしたゴミをその間にささっと片付け終わったルネッタも調べを理解し、オカリナで追従する。
リュートとオカリナ、それからカウベル。
違う音がハーモニーを奏でる。
それから手拍子に歌声。
あさですーよ はるでーすよ♪ ぽっぽぽん ぽっぽぽん ぽんぽーん♪
そこに準備の終えたボラ族が……
アーシュラの作ったかまどを取り払い、たき火を中心にボラ族は半裸になり輪になって踊り始める。上半身をリズムに合わせて上げたり落としたり。
「んーばばば! メメラッサ!」
やっぱり帝国民には見えない。
そして傍から見たら絶対に花見じゃない。
そんな様子が可笑しくて、涙が毀れそうになる。
「違うっ、その踊りじゃないって~」
リクエストしたアーシュラ自体が抱腹絶倒し、またリーラがいいじゃんと言って輪の中に入ったり。
ひら。
笑いあって、肩組みあって。
そんな中でも花びら一枚、舞い落ちたのはみんなすぐに気付いた。
「皆さん、桜……!」
桜の枝にはついぞ花はつかなかった。
だけど私たちの思いをくみ取ってくれたのだろうか。それともマテリアルが桜の花びらに変わったのか。
幻影のように桜の花びらがどこからともなく現れ、舞い舞う。風が一吹きするごとに何百、何千。
一面花吹雪に包まれる光景を皆は肩を寄せ合って眺めていた。
ありがとう。
さようなら。
そんな風に言ってくれているような気がした。
●
ミネアはまた旅の途中、桜のあった丘に登っていた。
あれから幾日しか経っていないはずなのに、そこにあったのは見てすぐ判る程に朽ちた大木があるだけだった。この前、皆と一緒に楽しんだ時とはまるで違っていた。
ミネアは朽ちた桜の根本に膝をついた。悲しくて寂しくて。でもそれだけ近づいて初めて見えるものもあった。
朽ちた幹の元に新しい命が、根付いていた。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 8人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/09 07:50:09 |
|
![]() |
お花見のしおり 椿姫・T・ノーチェ(ka1225) 人間(リアルブルー)|30才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/04/12 01:24:07 |