ゲスト
(ka0000)
私のフランソワ
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/16 12:00
- 完成日
- 2014/06/16 23:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「失礼。こちらで依頼の斡旋を行っていると聞いたのだが、間違いないだろうか」
突如としてハンターズソサエティ本部の門を潜った1人の女性。彼女は真っ直ぐに受付らしき場所に向かうと、小さな麻袋を取り出して規則正しい動きで差し出した。
「……一体、何のご用でしょう?」
「そう警戒するな。噂によるとハンターとはどんな依頼もこなすらしいな。私はそんな彼等に頼みたい事がある」
受け取れ。そう言わんばかりに差し出された袋を一瞥すると、職員は笑顔を崩さないままに麻袋を押し返した。
「確かにハンターはどんな依頼もこなします。けれどそれは『ハンターが必要と見なされる依頼』にのみ適応する事です。失礼ながら、何の情報もない今、安易に貴女の依頼をお引き受けする事は出来ません」
毅然と言い返される言葉は、ハンターズソサエティでは常識的な事。それを知らないと言う事は本当に噂を聞き付けてやって来たと言う事だろうか。
「ふむ。気分を害したならすまない。だがそうか……何でも引き受ける訳ではないのだな」
思案気に目を伏せた女性の身なりは悪くない。清潔感漂う髪も、サラリと揺れる髪も話し方と態度同様に毅然としている。だが如何にも1つ気になる事があった。
(……何か、臭う……?)
クンクンと鼻を鳴らす職員に、女性の目が向かう。そして少しばかりバツの悪い表情を浮かべると、自身の体を見下ろした。
「身なりを整えてきたつもりだが、やはり臭うか……」
ポツリ。零された声に職員が慌てて手を横に振る。
「と、とんでもないです! 臭うなんて! ちょっと臭いだけで――あ」
「ふふ。構わない。実際、私は臭いからな」
女性はフッと口角を上げると手にしていた麻袋をカウンターに置いて腕を組んだ。
「実は大事な家畜が逃げてしまってな。その捕獲を頼みたく参じたのだ」
「え、家畜……ですか?」
「ああ、家畜だ」
どう見ても軍属か何かだと思っていた女性の思わぬ言葉に職員が言葉を失う。
けれど女性は真剣な様子でこう続けた。
「昨日の事だが、羊のフランソワを放牧した所行方が分からなくなってしまってな」
そう語る彼女は十数体の羊を飼う羊飼いで、昨日放牧を終えた羊を集めた所、どう数えても1体足りなかったと言うのだ。
「フランソワは賢いのだ。名前を呼べば傍に寄り、待てと命令すれば日が暮れるまでその場で待機する。だが……」
不意に表情を曇らせた彼女に職員の目が吸い寄せられる。
「だが……何でしょう?」
「フランソワは甘い物に目がなくてな。もしかすると果実でも見つけたのかもしれん。その結果群れからはぐれ戻れなくなったのだろう」
額に手を当てて項垂れる彼女は、心底羊を心配しているようだった。とは言え、今の所ハンターでなければいけない依頼でもない。
「……やはり自分で探す他ないだろう。少し危険だが崖下も見るべきか。すまなかったな、青年」
そう言って女性が踵を返そうとした時だ。
「崖下って、何だってそんな場所」
「見ていないのはそこだけなのだ。故にフランソワの居る可能性が高い」
「待って待って!」
職員は勢い良く立ち上がると、彼女が取り上げようとした麻袋を奪い取った。
「一般の人が崖下まで行くなんて危険です。この依頼を引き受けますから無茶をしないで下さい!」
突然の剣幕に女性の目がパチクリと瞬かれる。そして何とも言えない笑みを唇に浮かべると、向けかけた背を戻して職員に向き直った。
「情に脆いな、青年。だが依頼を引き受けてくれた事は感謝しよう」
言って彼女は、羊が居るであろう崖下の情報を話し始めた。
「先程も言ったが、フランソワは『名前を呼べば近付いてくる』他、『待てと命じれば待機を貫く』と言う羊離れした性格だ。崖下にははぐれの羊がいる可能性もある。くれぐれもフランソワを連れてくるよう、頼む」
崖下へ向かう迂回路は存在せず、直接崖を降りる他に向かう方法は無いらしい。
女性は縄を垂らして降りるつもりだったらしいが、その辺はハンターの行動に一任するつもりらしい。
「ハンターの中には身のこなしが素晴らしい者や、動物と相性の良い者も多くいると聞く。どうかその特技を生かして私のフランソワを捕獲してくれ。よろしく頼む」
そう言い終えると、彼女は優雅な一礼を職員に向けた。
突如としてハンターズソサエティ本部の門を潜った1人の女性。彼女は真っ直ぐに受付らしき場所に向かうと、小さな麻袋を取り出して規則正しい動きで差し出した。
「……一体、何のご用でしょう?」
「そう警戒するな。噂によるとハンターとはどんな依頼もこなすらしいな。私はそんな彼等に頼みたい事がある」
受け取れ。そう言わんばかりに差し出された袋を一瞥すると、職員は笑顔を崩さないままに麻袋を押し返した。
「確かにハンターはどんな依頼もこなします。けれどそれは『ハンターが必要と見なされる依頼』にのみ適応する事です。失礼ながら、何の情報もない今、安易に貴女の依頼をお引き受けする事は出来ません」
毅然と言い返される言葉は、ハンターズソサエティでは常識的な事。それを知らないと言う事は本当に噂を聞き付けてやって来たと言う事だろうか。
「ふむ。気分を害したならすまない。だがそうか……何でも引き受ける訳ではないのだな」
思案気に目を伏せた女性の身なりは悪くない。清潔感漂う髪も、サラリと揺れる髪も話し方と態度同様に毅然としている。だが如何にも1つ気になる事があった。
(……何か、臭う……?)
クンクンと鼻を鳴らす職員に、女性の目が向かう。そして少しばかりバツの悪い表情を浮かべると、自身の体を見下ろした。
「身なりを整えてきたつもりだが、やはり臭うか……」
ポツリ。零された声に職員が慌てて手を横に振る。
「と、とんでもないです! 臭うなんて! ちょっと臭いだけで――あ」
「ふふ。構わない。実際、私は臭いからな」
女性はフッと口角を上げると手にしていた麻袋をカウンターに置いて腕を組んだ。
「実は大事な家畜が逃げてしまってな。その捕獲を頼みたく参じたのだ」
「え、家畜……ですか?」
「ああ、家畜だ」
どう見ても軍属か何かだと思っていた女性の思わぬ言葉に職員が言葉を失う。
けれど女性は真剣な様子でこう続けた。
「昨日の事だが、羊のフランソワを放牧した所行方が分からなくなってしまってな」
そう語る彼女は十数体の羊を飼う羊飼いで、昨日放牧を終えた羊を集めた所、どう数えても1体足りなかったと言うのだ。
「フランソワは賢いのだ。名前を呼べば傍に寄り、待てと命令すれば日が暮れるまでその場で待機する。だが……」
不意に表情を曇らせた彼女に職員の目が吸い寄せられる。
「だが……何でしょう?」
「フランソワは甘い物に目がなくてな。もしかすると果実でも見つけたのかもしれん。その結果群れからはぐれ戻れなくなったのだろう」
額に手を当てて項垂れる彼女は、心底羊を心配しているようだった。とは言え、今の所ハンターでなければいけない依頼でもない。
「……やはり自分で探す他ないだろう。少し危険だが崖下も見るべきか。すまなかったな、青年」
そう言って女性が踵を返そうとした時だ。
「崖下って、何だってそんな場所」
「見ていないのはそこだけなのだ。故にフランソワの居る可能性が高い」
「待って待って!」
職員は勢い良く立ち上がると、彼女が取り上げようとした麻袋を奪い取った。
「一般の人が崖下まで行くなんて危険です。この依頼を引き受けますから無茶をしないで下さい!」
突然の剣幕に女性の目がパチクリと瞬かれる。そして何とも言えない笑みを唇に浮かべると、向けかけた背を戻して職員に向き直った。
「情に脆いな、青年。だが依頼を引き受けてくれた事は感謝しよう」
言って彼女は、羊が居るであろう崖下の情報を話し始めた。
「先程も言ったが、フランソワは『名前を呼べば近付いてくる』他、『待てと命じれば待機を貫く』と言う羊離れした性格だ。崖下にははぐれの羊がいる可能性もある。くれぐれもフランソワを連れてくるよう、頼む」
崖下へ向かう迂回路は存在せず、直接崖を降りる他に向かう方法は無いらしい。
女性は縄を垂らして降りるつもりだったらしいが、その辺はハンターの行動に一任するつもりらしい。
「ハンターの中には身のこなしが素晴らしい者や、動物と相性の良い者も多くいると聞く。どうかその特技を生かして私のフランソワを捕獲してくれ。よろしく頼む」
そう言い終えると、彼女は優雅な一礼を職員に向けた。
リプレイ本文
柔らかな風が吹き抜ける草原を、ハンターたちは歩いていた。その視線の先には放牧されている羊の姿がある。
「へぇ、けっこう広い場所なんですねぇ!」
放牧出来るだけの場所なのだからそれなりの広さはあると思っていたが、予想以上に広大な景色にルア・パーシアーナ(ka0355)が感嘆の声を漏らす。これに同意を示したのはフラヴィ・ボー(ka0698)だ。
「ああ。これだけ広いと放した羊を集めるのも大変そうだ」
そう苦笑気味に零して先を見据える。その視線の先には先行して依頼場所に向かうラルス・コルネリウス(ka1111)とエルフィ・ウルリーケ(ka1116)の姿がある。
「足を止めてるね。あの辺りに崖があるのかな……って、ラウィーヤちゃん大丈夫?」
振り返ったルアの声に、バスケットを携えたラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)が微笑む。そうして頷きを返すと、彼女はおっとりとした様子で辺りを見回し表情を綻ばせた。
「……ふわふわもこもこ羊さん。かわいい羊は谷の底……あれ?」
今回の依頼を思い返して何かが引っ掛かった。けれどそれを振り返る間もなく、彼女の視界に影が差す。
「お嬢さん、お手をどうぞ」
言って差し出された手を辿って見上げるとウィル・フォーチュナー(ka1633)の顔が飛び込んで来た。
「目的地は目と鼻の先ですが、宜しければお手伝いしましょう」
「あ……ありがとう、ございます」
おずっと差し出したバスケットがウィルの手に渡る。と、その時、前方から声が届いた。
「皆様、こちらですわ」
遠慮気味に手を振りながら皆を招くエルフィは既に目的地に着いたのだろう。持参したロープを取り出しながら、崖下を伺っているラルスに何やら声を掛けている。
「初めての依頼ですわね……緊張しますが、精一杯頑張りましょうね」
過去に自分を助けてくれ、今では相方として共に行動しているラルスとの初依頼。本来であれば、初依頼はもっと緊張したかもしれない。でも実際にはそこまで緊張していないのは、きっとラルスと言う存在があるからだろう。
「ああ。お前も無理はしないようにな」
依頼である以上多少の危険は致し方ない。それでも心配するのは相方ゆえだ。
ラルスはエルフィに笑みを向けてから、近くに生える木に目を留めた。
「結構な深さだけど、1本で足りるか?」
ヒョイッと覗き込んだ崖はかなりの深さだ。とは言え、覚醒者である彼等にとっては何て事の無い高さでもある。
フラヴィはラルスが木に巻き始めたロープに自身のロープを足すと、崖下に下りるに足るだけの長さのロープを作り始めた。
「器用ですわね。私ももう少しサバイバル能力があればお手伝い出来るのですけど……」
「得手不得手は誰にでもあるものですよ」
私だって何も出来てないです! と親指を立てる彼女に小さく笑うエルフィは、ふと近くで首を傾げるラウィーヤに気付いて目を向けた。
「どうなさいましたの?」
「あ…えっと……素敵な香りの谷底へ行った、羊さんのお話……昔、何かで読んだ、なって……」
言い辛そうに紡ぐ言葉に、ルアがぽんっと手を叩く。
「ああ、食いしん坊の羊の話だね。確かラウィーヤちゃんに借りた本に書いてあったんだよ」
数年前からの知り合いで、今では友達同士の彼女達。本の貸し借りも行っているらしく、その中で今回の羊に似た羊を見たのだと言う。
「きっとお2人の友情に相応しい、素敵な本なのでしょうね」
ラウィーヤのバスケットを木の根に置き、ウィルが崖を覗き込む。見た所、既に数体の羊が見えるが、ここからではどれがフランソワかわからない。
「羊であろうと助けを必要としている方が居れば手を貸さない訳にはいかないでしょう」
誰かを倒すのではなく助ける仕事。それも一般人に手を貸す仕事となれば紳士としては対応せずにはいかない。
ウィルは全員の顔を見回すと、優雅な仕草で崖の下を指差し、そして微笑んだ。
「さあ、準備が出来次第参りましょう」
●
「うっひゃー高ぇな、手滑らせて落ちないようにしないと」
改めて崖の底を見たラルスは、何処か楽しげな声を零してロープを掴んだ。そうして一歩ずつ降りるのだが、ふと目線が上に動いた――瞬間。
「ラルス様……気を付けて――っ、上を見ないで下さいな!」
ガンッと頭に受けた衝撃は…まあ、置いておこう。
ゆっくりとロープを下りながら、安全の為に岩壁の様子も確認してゆく。そうして最後に崖下へ降りたウィルの足が地に着くと、誰ともなく「わぁ!」と言う歓声が上がった。
太陽の光に晒されてキラキラと輝く小川と色鮮やかな若葉たち。その周囲には、チラホラとだが白い小さな花が咲き、辺りには甘い香りが漂っている。
「想像以上に綺麗な場所だね」
素直な感想を零したフラヴィに、他の面々も頷く。そうして辺りを見回すと、早速だが問題を発見した。
「野生の羊って、こんなにいるんですね」
小川の水を飲みに来ているのか、それとも草が目的なのか、薄汚れた羊がひのふのみ……ざっと数えても十数頭はいるだろうか。
驚くラウィーヤは胸の前で手を結ぶと、フランソワの事を思って瞼を伏せた。
「怪我してないと、良いな…」
今降りてきた崖の高さを考えると無傷と言うのは厳しいだろう。だが祈らずにはいられないのも確かだ。
「大勢いてもフランソワには特徴があるからな。それを試してみれば良いんだろうが……」
お願い出来るか? そうラルスが振り返った先には、女性陣の姿が。まあこう云った場合、女性を頼るのは悪くない。
「確か名前を呼べば良いんですよね?」
ルアの声に頷いたエルフィは、少しだけ距離を置いて声を上げる。
「フランソワさん? どこですのー?」
「フランソワ、ご主人が探している。家に帰ろう」
次々と上がるハンターの声に、集まっていた羊が顔を上げる。中には驚いて逃げ出す羊も居たが、明らかに興味を抱いている羊の方が多い気がした。
「これは困りましたね。複数の羊が反応しているようですが……」
「いや、大丈夫だろ。フランソワにはもう1つ特技があった筈だからね」
眉を寄せて呟くウィルに、フラヴィは平然と答えてフランソワを呼び続ける。そうして暫くした頃、数頭の羊がハンターの前まで歩み寄って来た。
薄汚れた羊に、明らかに毛がすり減った羊、なんだか知らないけど真っ白い羊、それに所々に怪我らしき物がある羊の計4頭だ。
3頭はそれぞれ「なに? なに?」と興味津々で近付いてくるのだが、その姿が異様に可愛い!
「こ、これは……っ」
「……かわいい、ですね……」
「首を傾げてる姿が特に愛しさを漂わせてますわね」
「全部持って帰りたくなるな」
「いや、流石に拙いだろ」
女性陣の感想に突っ込みを入れ、ラルスは羊らに向き直った。
そして取って置きの技を披露する。
「『待て』だフランソワ」
ピクッ。
近付いていた4頭の内の1頭が止まった。
そこかしこに怪我を負った羊は歩みを止めると「なんで? なんで?」と不思議そうにつぶらな瞳を向けくる。
「……そんな目で見るなよ」
こっちが悪い事をしている気分になる。そう零して目を逸らしたラルスだが、これでどの羊がフランソワなのかハッキリした。
「あぁ。良かった……もう大丈夫ですわ」
驚かせないように近付きながらフランソワの背を撫でる。そうして体に出来た傷を確認すると、エルフィは僅かに眉を潜めてルアを振り返った。
「大きな怪我はありませんけど、足を少し擦っているみたいですわ」
「添え木は必要無さそうですけど、洗う必要はありそうですね」
でも。と言葉を切ったルアが水辺とフランソワを見比べた時だ。2人の目の前に濡れたバンダナが差し出された。
「さっきまで巻いてたものだからどうかと思うけど……使えそうかな?」
小川で洗って来たのか、冷たい水に濡れたそれは応急処置をする上で使えそうだ。
「助かりますけど、よろしいのですか?」
傷に巻くと言う事は血が付くと言う事だ。下手をすれば洗っても落ちなくなる可能性が高い。
けれど彼女は言う。
「気にする程の事じゃないよ。ボクにとっては、フランソワが歩けなくなる方がよっぽど困る」
照れくさそうに笑って紡ぐ言葉は本心だろう。その事に「ありがとうですわ」と返し、エルフィはルアと共にフランソワの応急処置にあたった。
そしてフランソワが応急処置を受けている間、ラウィーヤは川辺に咲く花に目を向けていた。
「……美味しそうな、香り……」
手に取って鼻を寄せれば更に強くなる香りは、まるで果実の様だ。
「もしかして……これを、果実だと思って……?」
羊が果実と勘違いしたのがこの花だとしたら、依頼人に届ければ今後の助けになるだろう。
「持って帰るのか?」
花を摘み上げたラウィーヤに問い掛けたのはフラヴィだ。彼女もまた花を摘んでいるのだが、何やら様子が違う。
「器用ですね。花冠でしょうか?」
迂回路がないか探っていたウィルが戻って来たようだ。彼はフラヴィの作る物に興味を持つと、ほぼ出来上がっている造形に顔を寄せた。
彼女が作っていたのは甘い香りの花冠だ。白の花とそれを繋ぐ茎が、色のバランスとしても綺麗で可愛らしい。
「……他の羊との区別にと思って作ったんだ。それにこの香りが好きそうだったから……仲良くなれるかと思って、さ」
最後の方はボソボソと呟いていたがしっかりラウィーヤやウィルには聞こえていた。
微笑む彼女等に密かに耳を染め、フラヴィは最後の仕上げに取り掛かる。それを見た後で、ラウィーヤは真剣な表情で自身の摘んだ花を見詰めた。
「花冠があれば、お花、いらないでしょうか……でも、持って帰って花茶として、お店に出せるかも……?」
構想を練り出したら止まらないのは読書好きな彼女の性格ゆえかも知れない。あれもこれもと考え出して止まってしまった彼女の元に、パタパタとした足音が響いてくる。
「準備できたよー……って、ラウィーヤちゃん止まってる?」
「可愛らしい思考の真っ最中です。もう少しだけ待って差し上げましょう」
そう言ってウインクをしたウィルに、ルアは「?」と首を傾げたのだった。
●
羊さん、不思議な草食べもこもこふわふわ
気がついたら身体が浮いて
気がついたら崖の上
気がついたら山の上
今日も空にはふわふわもこもこ
山の草場がお気に入り
「随分とご機嫌な歌だな? 何か意味でもあるのか?」
毛布を巻かれ、ゆっくりロープで引き上げられるフランソワを見守りながら、ラルスは隣で歌を紡いでいたラウィーヤに声を掛けた。
これに彼女の目が瞬かれる。
「ご機嫌、ですか……? えっと…これ、羊さんのお話で……少し、違う、かも……ですが」
ポツ、ポツと零される声。それに耳を傾け、ラルスの口角が上がる。
「そうなのか? まぁ、今の状況にはピッタリなのは確かだよな」
今のフランソワは空に舞い上がる羊だ。ゆっくり引き上げられるその先には、大好きな牧草が沢山ある。それこそラウィーヤが歌ったようにお気に入りの草場があるのだ。
「引き上げるのを止めて下さいませ」
崖の途中、フランソワに付き添って登っていたエルフィが声を上げた。この声に、崖上でロープを引っ張っていたフラヴィが動きを止める。
「少しお待ち下さいませ……出来るだけ、痛くはしませんわ」
器用な手捌きで、フランソワに食い込みそうになったロープを緩める。その上で添え木を付け足すと、彼女は再び声を上げた。
「大丈夫ですわ」
「フランソワ、あと少しだから頑張って!」
待て。の効果だろうか。
素直に引き上げられるフランソワに励ましの声を届け、ルアは最後の一時も油断しない様にと、注意深く成り行きを見守る。
そうしてフランソワが崖上に到着すると、全員が登りきるのを待ってラルスがロープを登って来た。
「よっ……いしょ。ふぅ、皆無事に上がってきてるかぁ?」
垂らしたロープを回収しながら見回すと、思い思いの反応を返してくる仲間が見える。
「後はフランソワを依頼主の方に届ければ終わりですね。そこまでの道中がありますから気は抜けませんが……疲れていませんか?」
フランソワに巻いた毛布を解きながら女性陣へ問い掛けるウィルに、エルフィが小さな息を吐く。
「流石に、ちょっと疲れましたわ……」
「って、ふらっふらじゃねぇか」
ロープを伝って崖を登るだけでも大仕事。それに加えてフランソワの様子にも気を配っていたのだから仕方がない。
「……あの……」
「ん? ラウィーヤちゃん、どうしたの?」
言い辛そうに進み出たラウィーヤは、手にしていたバスケットを開いて見せる。と、ルアの目が眩しい程に輝き出した。
「それ、ラウィーヤちゃんのお弁当?」
「……お口に合うと、良いですけど……」
ラウィーヤが広げたバスケットの中には、全員で食べれるだけのお弁当が入っていた。その出来は、言わずもがな。
「これは美味しそうだね。見てるだけでお腹が空いて来そうだよ」
ぐぅ。
言葉通り鳴りだしたお腹に「ね?」と笑うフラヴィ。そんな彼女にクスクス笑いながら、ラウィーヤは全員が取り易いようにお弁当を広げた。
「美味そうだな。エルフィ、口は開けられるか?」
すっかりへばり込んでいるエルフィに、ラルスがサンドイッチを摘まんで彼女の前に差し出す。それに自然と口を開けると――
「……何とも羨ましい光景ですね」
コホン。と咳払いをしてウィルが視線を逸らす。と、何故かフランソワと目が合った。
「私の顔に何か……ああ、これですね?」
ウィルの手にあるのはカットされた果物だ。どうやらこれに視線を釘付けにさせているらしい。
その様子に微笑み、それでも与えずに口を運ぶと、ルアが楽しそうに笑って自分の分の果物を差出した。
「はい、どうぞ。でも食べ過ぎたらダメだからね」
今度はお腹を壊したなんてことになったら大変だ。念の為にと釘を刺しながら、ルアは果物に夢中になっているフランソワの毛を撫でた。
「食いしん坊の羊の毛はもふもふだなぁ。毛糸で何か作りたいなぁ」
ビクンッ!
もぐもぐ動かしていた口を止め、ルアを凝視するフランソワ。2人の間に何とも言えない空気が流れ、それをルアの声が破った。
「大丈夫、フランソワの毛を刈る訳じゃないから安心してね」
ニコッと笑っているが、油断は出来ない。
何せもう直ぐ夏だ。それはつまり羊の毛刈りが近付いている証拠でもある。
再び口を動かしながら、ジリジリと後退するフランソワに笑いながら、フラヴィは自身らが登ってきた崖を見遣った。
「何にしても、この子にとっては大冒険だったんだろうな」
「そう、ですね……でも、あともう少し……フランソワを、待っている人の所へ、連れて行くまでは……」
フランソワの大冒険はあともう少し続く。
ハンターたちは一時の休息を楽しみながら、残りの道中も気を抜かずに行こう、と言葉を交わしたのだった。
「へぇ、けっこう広い場所なんですねぇ!」
放牧出来るだけの場所なのだからそれなりの広さはあると思っていたが、予想以上に広大な景色にルア・パーシアーナ(ka0355)が感嘆の声を漏らす。これに同意を示したのはフラヴィ・ボー(ka0698)だ。
「ああ。これだけ広いと放した羊を集めるのも大変そうだ」
そう苦笑気味に零して先を見据える。その視線の先には先行して依頼場所に向かうラルス・コルネリウス(ka1111)とエルフィ・ウルリーケ(ka1116)の姿がある。
「足を止めてるね。あの辺りに崖があるのかな……って、ラウィーヤちゃん大丈夫?」
振り返ったルアの声に、バスケットを携えたラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)が微笑む。そうして頷きを返すと、彼女はおっとりとした様子で辺りを見回し表情を綻ばせた。
「……ふわふわもこもこ羊さん。かわいい羊は谷の底……あれ?」
今回の依頼を思い返して何かが引っ掛かった。けれどそれを振り返る間もなく、彼女の視界に影が差す。
「お嬢さん、お手をどうぞ」
言って差し出された手を辿って見上げるとウィル・フォーチュナー(ka1633)の顔が飛び込んで来た。
「目的地は目と鼻の先ですが、宜しければお手伝いしましょう」
「あ……ありがとう、ございます」
おずっと差し出したバスケットがウィルの手に渡る。と、その時、前方から声が届いた。
「皆様、こちらですわ」
遠慮気味に手を振りながら皆を招くエルフィは既に目的地に着いたのだろう。持参したロープを取り出しながら、崖下を伺っているラルスに何やら声を掛けている。
「初めての依頼ですわね……緊張しますが、精一杯頑張りましょうね」
過去に自分を助けてくれ、今では相方として共に行動しているラルスとの初依頼。本来であれば、初依頼はもっと緊張したかもしれない。でも実際にはそこまで緊張していないのは、きっとラルスと言う存在があるからだろう。
「ああ。お前も無理はしないようにな」
依頼である以上多少の危険は致し方ない。それでも心配するのは相方ゆえだ。
ラルスはエルフィに笑みを向けてから、近くに生える木に目を留めた。
「結構な深さだけど、1本で足りるか?」
ヒョイッと覗き込んだ崖はかなりの深さだ。とは言え、覚醒者である彼等にとっては何て事の無い高さでもある。
フラヴィはラルスが木に巻き始めたロープに自身のロープを足すと、崖下に下りるに足るだけの長さのロープを作り始めた。
「器用ですわね。私ももう少しサバイバル能力があればお手伝い出来るのですけど……」
「得手不得手は誰にでもあるものですよ」
私だって何も出来てないです! と親指を立てる彼女に小さく笑うエルフィは、ふと近くで首を傾げるラウィーヤに気付いて目を向けた。
「どうなさいましたの?」
「あ…えっと……素敵な香りの谷底へ行った、羊さんのお話……昔、何かで読んだ、なって……」
言い辛そうに紡ぐ言葉に、ルアがぽんっと手を叩く。
「ああ、食いしん坊の羊の話だね。確かラウィーヤちゃんに借りた本に書いてあったんだよ」
数年前からの知り合いで、今では友達同士の彼女達。本の貸し借りも行っているらしく、その中で今回の羊に似た羊を見たのだと言う。
「きっとお2人の友情に相応しい、素敵な本なのでしょうね」
ラウィーヤのバスケットを木の根に置き、ウィルが崖を覗き込む。見た所、既に数体の羊が見えるが、ここからではどれがフランソワかわからない。
「羊であろうと助けを必要としている方が居れば手を貸さない訳にはいかないでしょう」
誰かを倒すのではなく助ける仕事。それも一般人に手を貸す仕事となれば紳士としては対応せずにはいかない。
ウィルは全員の顔を見回すと、優雅な仕草で崖の下を指差し、そして微笑んだ。
「さあ、準備が出来次第参りましょう」
●
「うっひゃー高ぇな、手滑らせて落ちないようにしないと」
改めて崖の底を見たラルスは、何処か楽しげな声を零してロープを掴んだ。そうして一歩ずつ降りるのだが、ふと目線が上に動いた――瞬間。
「ラルス様……気を付けて――っ、上を見ないで下さいな!」
ガンッと頭に受けた衝撃は…まあ、置いておこう。
ゆっくりとロープを下りながら、安全の為に岩壁の様子も確認してゆく。そうして最後に崖下へ降りたウィルの足が地に着くと、誰ともなく「わぁ!」と言う歓声が上がった。
太陽の光に晒されてキラキラと輝く小川と色鮮やかな若葉たち。その周囲には、チラホラとだが白い小さな花が咲き、辺りには甘い香りが漂っている。
「想像以上に綺麗な場所だね」
素直な感想を零したフラヴィに、他の面々も頷く。そうして辺りを見回すと、早速だが問題を発見した。
「野生の羊って、こんなにいるんですね」
小川の水を飲みに来ているのか、それとも草が目的なのか、薄汚れた羊がひのふのみ……ざっと数えても十数頭はいるだろうか。
驚くラウィーヤは胸の前で手を結ぶと、フランソワの事を思って瞼を伏せた。
「怪我してないと、良いな…」
今降りてきた崖の高さを考えると無傷と言うのは厳しいだろう。だが祈らずにはいられないのも確かだ。
「大勢いてもフランソワには特徴があるからな。それを試してみれば良いんだろうが……」
お願い出来るか? そうラルスが振り返った先には、女性陣の姿が。まあこう云った場合、女性を頼るのは悪くない。
「確か名前を呼べば良いんですよね?」
ルアの声に頷いたエルフィは、少しだけ距離を置いて声を上げる。
「フランソワさん? どこですのー?」
「フランソワ、ご主人が探している。家に帰ろう」
次々と上がるハンターの声に、集まっていた羊が顔を上げる。中には驚いて逃げ出す羊も居たが、明らかに興味を抱いている羊の方が多い気がした。
「これは困りましたね。複数の羊が反応しているようですが……」
「いや、大丈夫だろ。フランソワにはもう1つ特技があった筈だからね」
眉を寄せて呟くウィルに、フラヴィは平然と答えてフランソワを呼び続ける。そうして暫くした頃、数頭の羊がハンターの前まで歩み寄って来た。
薄汚れた羊に、明らかに毛がすり減った羊、なんだか知らないけど真っ白い羊、それに所々に怪我らしき物がある羊の計4頭だ。
3頭はそれぞれ「なに? なに?」と興味津々で近付いてくるのだが、その姿が異様に可愛い!
「こ、これは……っ」
「……かわいい、ですね……」
「首を傾げてる姿が特に愛しさを漂わせてますわね」
「全部持って帰りたくなるな」
「いや、流石に拙いだろ」
女性陣の感想に突っ込みを入れ、ラルスは羊らに向き直った。
そして取って置きの技を披露する。
「『待て』だフランソワ」
ピクッ。
近付いていた4頭の内の1頭が止まった。
そこかしこに怪我を負った羊は歩みを止めると「なんで? なんで?」と不思議そうにつぶらな瞳を向けくる。
「……そんな目で見るなよ」
こっちが悪い事をしている気分になる。そう零して目を逸らしたラルスだが、これでどの羊がフランソワなのかハッキリした。
「あぁ。良かった……もう大丈夫ですわ」
驚かせないように近付きながらフランソワの背を撫でる。そうして体に出来た傷を確認すると、エルフィは僅かに眉を潜めてルアを振り返った。
「大きな怪我はありませんけど、足を少し擦っているみたいですわ」
「添え木は必要無さそうですけど、洗う必要はありそうですね」
でも。と言葉を切ったルアが水辺とフランソワを見比べた時だ。2人の目の前に濡れたバンダナが差し出された。
「さっきまで巻いてたものだからどうかと思うけど……使えそうかな?」
小川で洗って来たのか、冷たい水に濡れたそれは応急処置をする上で使えそうだ。
「助かりますけど、よろしいのですか?」
傷に巻くと言う事は血が付くと言う事だ。下手をすれば洗っても落ちなくなる可能性が高い。
けれど彼女は言う。
「気にする程の事じゃないよ。ボクにとっては、フランソワが歩けなくなる方がよっぽど困る」
照れくさそうに笑って紡ぐ言葉は本心だろう。その事に「ありがとうですわ」と返し、エルフィはルアと共にフランソワの応急処置にあたった。
そしてフランソワが応急処置を受けている間、ラウィーヤは川辺に咲く花に目を向けていた。
「……美味しそうな、香り……」
手に取って鼻を寄せれば更に強くなる香りは、まるで果実の様だ。
「もしかして……これを、果実だと思って……?」
羊が果実と勘違いしたのがこの花だとしたら、依頼人に届ければ今後の助けになるだろう。
「持って帰るのか?」
花を摘み上げたラウィーヤに問い掛けたのはフラヴィだ。彼女もまた花を摘んでいるのだが、何やら様子が違う。
「器用ですね。花冠でしょうか?」
迂回路がないか探っていたウィルが戻って来たようだ。彼はフラヴィの作る物に興味を持つと、ほぼ出来上がっている造形に顔を寄せた。
彼女が作っていたのは甘い香りの花冠だ。白の花とそれを繋ぐ茎が、色のバランスとしても綺麗で可愛らしい。
「……他の羊との区別にと思って作ったんだ。それにこの香りが好きそうだったから……仲良くなれるかと思って、さ」
最後の方はボソボソと呟いていたがしっかりラウィーヤやウィルには聞こえていた。
微笑む彼女等に密かに耳を染め、フラヴィは最後の仕上げに取り掛かる。それを見た後で、ラウィーヤは真剣な表情で自身の摘んだ花を見詰めた。
「花冠があれば、お花、いらないでしょうか……でも、持って帰って花茶として、お店に出せるかも……?」
構想を練り出したら止まらないのは読書好きな彼女の性格ゆえかも知れない。あれもこれもと考え出して止まってしまった彼女の元に、パタパタとした足音が響いてくる。
「準備できたよー……って、ラウィーヤちゃん止まってる?」
「可愛らしい思考の真っ最中です。もう少しだけ待って差し上げましょう」
そう言ってウインクをしたウィルに、ルアは「?」と首を傾げたのだった。
●
羊さん、不思議な草食べもこもこふわふわ
気がついたら身体が浮いて
気がついたら崖の上
気がついたら山の上
今日も空にはふわふわもこもこ
山の草場がお気に入り
「随分とご機嫌な歌だな? 何か意味でもあるのか?」
毛布を巻かれ、ゆっくりロープで引き上げられるフランソワを見守りながら、ラルスは隣で歌を紡いでいたラウィーヤに声を掛けた。
これに彼女の目が瞬かれる。
「ご機嫌、ですか……? えっと…これ、羊さんのお話で……少し、違う、かも……ですが」
ポツ、ポツと零される声。それに耳を傾け、ラルスの口角が上がる。
「そうなのか? まぁ、今の状況にはピッタリなのは確かだよな」
今のフランソワは空に舞い上がる羊だ。ゆっくり引き上げられるその先には、大好きな牧草が沢山ある。それこそラウィーヤが歌ったようにお気に入りの草場があるのだ。
「引き上げるのを止めて下さいませ」
崖の途中、フランソワに付き添って登っていたエルフィが声を上げた。この声に、崖上でロープを引っ張っていたフラヴィが動きを止める。
「少しお待ち下さいませ……出来るだけ、痛くはしませんわ」
器用な手捌きで、フランソワに食い込みそうになったロープを緩める。その上で添え木を付け足すと、彼女は再び声を上げた。
「大丈夫ですわ」
「フランソワ、あと少しだから頑張って!」
待て。の効果だろうか。
素直に引き上げられるフランソワに励ましの声を届け、ルアは最後の一時も油断しない様にと、注意深く成り行きを見守る。
そうしてフランソワが崖上に到着すると、全員が登りきるのを待ってラルスがロープを登って来た。
「よっ……いしょ。ふぅ、皆無事に上がってきてるかぁ?」
垂らしたロープを回収しながら見回すと、思い思いの反応を返してくる仲間が見える。
「後はフランソワを依頼主の方に届ければ終わりですね。そこまでの道中がありますから気は抜けませんが……疲れていませんか?」
フランソワに巻いた毛布を解きながら女性陣へ問い掛けるウィルに、エルフィが小さな息を吐く。
「流石に、ちょっと疲れましたわ……」
「って、ふらっふらじゃねぇか」
ロープを伝って崖を登るだけでも大仕事。それに加えてフランソワの様子にも気を配っていたのだから仕方がない。
「……あの……」
「ん? ラウィーヤちゃん、どうしたの?」
言い辛そうに進み出たラウィーヤは、手にしていたバスケットを開いて見せる。と、ルアの目が眩しい程に輝き出した。
「それ、ラウィーヤちゃんのお弁当?」
「……お口に合うと、良いですけど……」
ラウィーヤが広げたバスケットの中には、全員で食べれるだけのお弁当が入っていた。その出来は、言わずもがな。
「これは美味しそうだね。見てるだけでお腹が空いて来そうだよ」
ぐぅ。
言葉通り鳴りだしたお腹に「ね?」と笑うフラヴィ。そんな彼女にクスクス笑いながら、ラウィーヤは全員が取り易いようにお弁当を広げた。
「美味そうだな。エルフィ、口は開けられるか?」
すっかりへばり込んでいるエルフィに、ラルスがサンドイッチを摘まんで彼女の前に差し出す。それに自然と口を開けると――
「……何とも羨ましい光景ですね」
コホン。と咳払いをしてウィルが視線を逸らす。と、何故かフランソワと目が合った。
「私の顔に何か……ああ、これですね?」
ウィルの手にあるのはカットされた果物だ。どうやらこれに視線を釘付けにさせているらしい。
その様子に微笑み、それでも与えずに口を運ぶと、ルアが楽しそうに笑って自分の分の果物を差出した。
「はい、どうぞ。でも食べ過ぎたらダメだからね」
今度はお腹を壊したなんてことになったら大変だ。念の為にと釘を刺しながら、ルアは果物に夢中になっているフランソワの毛を撫でた。
「食いしん坊の羊の毛はもふもふだなぁ。毛糸で何か作りたいなぁ」
ビクンッ!
もぐもぐ動かしていた口を止め、ルアを凝視するフランソワ。2人の間に何とも言えない空気が流れ、それをルアの声が破った。
「大丈夫、フランソワの毛を刈る訳じゃないから安心してね」
ニコッと笑っているが、油断は出来ない。
何せもう直ぐ夏だ。それはつまり羊の毛刈りが近付いている証拠でもある。
再び口を動かしながら、ジリジリと後退するフランソワに笑いながら、フラヴィは自身らが登ってきた崖を見遣った。
「何にしても、この子にとっては大冒険だったんだろうな」
「そう、ですね……でも、あともう少し……フランソワを、待っている人の所へ、連れて行くまでは……」
フランソワの大冒険はあともう少し続く。
ハンターたちは一時の休息を楽しみながら、残りの道中も気を抜かずに行こう、と言葉を交わしたのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/11 17:11:45 |
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相談卓 ウィル・フォーチュナー(ka1633) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/06/15 21:30:36 |