【偽夜】碧の宮と桜の宴

マスター:四月朔日さくら

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/08 12:00
完成日
2015/04/18 21:46

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング


 ――まだ肌寒さの残る卯月の朝。いとけない少年が、うとうとと夢うつつのなかにいた。
 そこへ、十二単を纏った女性が、そそくさと現れ、声をかける。
「宮様、宮様。お起き下さいまし。桜が美しゅうございます」
 その声に、宮様と呼ばれた少年はぱっと飛び上がる。
「そうか、そう言えば今日は夜桜の宴であったな!」
 わずかに甲高い少年の声で、彼はわくわくとそう言った。

 ここは内裏の内、『蒼の殿舎』と呼ばれるところ。
 この殿舎の主は時の帝の愛息子にして『碧の宮』と呼ばれる元服前の少年だった。

「そう言えば、今日は新参の童殿上のものもやってくるとか。宴ともなれば、さらに多くの人びとが、参られることでしょう」
 そんなことを言うのは宮の乳母、名前を群青と呼ばれている年かさの女性である。
「うむ、童殿上の子には挨拶をしておきたいのう。宮が元服した暁には、その右腕となってもらうものもいるであろうし」
 為政者の子どもともなれば、幼いうちからそのための知識を詰め込むことになる。しかしそれと同時に、同年代の子どもと触れ合ってみたいという素直な欲望もあった。
「宮様は元気であらしゃられるから、それこそ仲の良い童ができるのは良いことと存じます」
 少年の言葉に群青もこくりと頷く。
「ああ、そう言えば――今宵の宴は多くの客がいらっしゃることと存じます。ゆめ失礼のないように」
「ああ、それは承知している」
 少年が笑んだ。きれいな弧を描いた、美しい笑みだった。

リプレイ本文

――紺碧の 空にけぶるは 桜花――


 後宮の一角にある、『碧の宮』の対屋は、朝から賑やかだ。
 年のころは十ほど、言ってみれば腕白盛りの若宮に、振り回される女房や下男は数知れず。
 今日も宴が楽しみらしく、にまにま笑いながら服装を整えていると、
「今日も学問、それに新参の殿上童もおりますので、そのにやけた顔はそろそろ引っ込めなさいませ」
 乳母の群青に、しっかりたしなめられてしまった。
「わかっておるよ。ただ、これだけ晴れがましい日に、喜ぶなという方がどだい無理であろう?」
 若宮はそう言って、見過ごしに空を見る。青い青い空には、雲一つ無い。
「たしかにそうではございますがね、若様。ご自分がゆくゆくは帝におなりあそばされるやも知れぬやんごとない方だという自覚をもうすこしおもち下さいませ」
 若宮はまだ日嗣の御子ではない。これは諸々の公達の思惑あってのことではあるのだが、彼としてはそのほうがいっそ気楽でいいと思っている。しかし彼をいずれ帝に、と推す声は当然ある。ゆえ、学問もしっかりとたたき込まれているのだ。
「そういえば、先日やってきた童。あれはどうなさいますか」
 あれ、というのは脇でひたすら頭を低く下げている少年、いや少年のなりをしている少女――金刀比良 十六那(ka1841)――である。新参と言うことで群青が『十六夜』と名付けてやったのだが、どうにもこうにもよくわからないことの多い子どもであった。とりあえず殿上童としてのたしなみ一般を身につけてはいるが、どうにも正体の読めない感じがあるのは仕方が無い。
「……まあ、十六夜は俺が拾った子猫のようなものだ。本人も居場所のなさそうな瞳をしていたし、このまましばらくは様子見だろう」
「ありがとうございます……」
 十六夜は消え入りそうな声で、そう応じた。


 朝餉を終え、まずは新参の目通りがある。
 御簾の前には少年が一人、頭を垂れて伏せていた。
「萌黄ともうします」
 そう名乗った少年――シメオン・E・グリーヴ(ka1285)――は、さらりとやわらかそうな金の髪を揺らして、顔を上げる。
「四人兄弟の末弟で、既に兄たちは出仕しております。兄たちのおかげで、一通りのことは教わっております、よろしくお願いします」
 礼儀正しい萌黄のあいさつに、ほうっと女房たちからため息がこぼれる。若宮とは雰囲気のちがう美少年で、見惚れるなという方が無理というものだ。
「気軽に萌黄とお呼び下さい」
 にこっと笑んだその顔も、まだ幼さを残しつつも元服をした暁にはみごとな若人になるのだろうというのがわかるそれだ。
「ふむ、萌黄か。俺のことももっと気軽に呼んでかまわぬゆえ、仲良くしようぞ」
 若宮は脇息にもたれかかりながら、にやりと口元に笑みを浮かべる。悪戯好きな若君の、よいおもちゃ――もとい遊び相手の登場に、喜びを持たないわけがない。
「滅相もない。ですが、同年代の友が出来るのは宮様にも、私にも、嬉しいことです。よろしくお願いいたします」
 萌黄はもう一度、深々と礼をした。


 ――内裏には数多くの公達が仕事をしている。
 その中の一つである主計寮の若き頭、通称主記殿――壬生 義明(ka3397)――は、算盤と筆を交互に持ちながら、仕事を着々とこなしていく。
「主記殿は相変わらず仕事がお早い」
 同じ文官装束の若者たちが、羨望の眼差しで彼を見つめる。
「いや、言われたままのことをやっているまでですよ」
 主記殿は、そう言って小さく笑う。年齢よりもやや年かさに感じられるたたずまいの青年だが、それが彼を尚更『出来る官人』と見せているのかも知れなかった。実際のところは、それほど真面目というわけでもないはずなのにと本人は思っている節があるが、それは本人しかわからないことである。

 いっぽう雅楽寮の一角では、今宵の宴の為にと最後の調整をしている楽師たちが数多くいた。篳篥、笙の笛、龍笛といった笛に、琵琶、琴のような弦楽器、それに数多くの打楽器。
 それらが音調を整えるように、あちらこちらで音を鳴らしている。
 雷の楽師と呼ばれる青年――トルステン=L=ユピテル(ka3946)――もまた、得意楽器である琵琶の調弦をしている。
 彼が雷の楽師なんていうどこか恐ろしげな二つ名を貰っているのには二つの理由がある。
 一つは、音楽表現の派手さ。
 そしてもう一つは、その見た目に反するまでの癇癪持ちな性格ゆえである。
(変な夢を見ていた気もするが……ま、気にすることはないか)
 楽師は昨夜の夢をぼんやりと思い返しながら、首をゆるゆると横に振る。もともと楽師を輩出する一族の出身と言うこともあって、幼い頃からそれらの心得はあった。ただ独特の感性を持っているせいか、出仕をするようになってからは何かと周囲とぶつかることが多い。伝統を重んじる雅楽寮の中では、やや異端児という扱いを受けている。
 そこへふらりとやってきたのは、武官装束に身を包んだ、小柄な少年であった。
 いや、正確にはちがう。
 青嵐の君――ミコト=S=レグルス(ka3953)――と呼ばれるその人物、実は女性なのだ。自身の性別とは逆に弓馬の道を好み、女性としての嗜みなどをほとんど知らぬまま育った結果、両親に呆れられはしたものの、現在は開きなおって武官の一人として出仕をしている。女性と言うことで、流石に近衛や衛門府は……と両親に泣きつかれたため、今のような立場に身を置いている。
 確か姫宮のところにも、武の道に秀でた女官がいるとは聞いているが、幸か不幸かまだ出会ったことはない。
 ただ女官としての扱いはほぼないに等しい為、内裏の中をふらふら歩いていてもそれほど違和感はないらしい。武官装束も一役買っているのだろう。
「……青嵐の。そなた、わざわざここに来る用事でも?」
 楽師が問えば、青嵐はにまっと笑う。
「いや、今は少し手すきでね。今宵の仕度をしているだろう霹靂の君の様子を見に来たのだけれど」
 なるほど、若宮たちも楽しみにしているとは聞いていたので妙に納得できる話ではある。青嵐自身も、霹靂と呼んだ彼の音を好んでいた。むしろ一方的に友人だと思っている。楽師の方はといえば、結構な癇癪持ちであることもあって、にこにこと笑顔を浮かべている青嵐に小さく苛立ちを持ってしまう。
「……見ての通り今は集中しているのでね。というか見てわかれ」
 なるべく口調をおさえて、しかしどこか棘をはらんだ口調でそうたしなめると、青嵐の君は仕方ないなぁ、という表情を浮かべてまた若宮の元へと戻っていく。こうみえてもやはりやることが多いのが若宮づきの舎人という訳なのだ。

 さてその頃、若宮のいる殿舎では――
「本日は流石に市井に連れ出すわけには参りませんが、殿舎の庭で釣りというものを体験してみませんか」
 そう言うのは儒学者の家系に産まれた文学(はかせ)、雲英――静架(ka0387)――である。若いながらも若宮づきの教育係の一人に任命されている彼は当然ながら将来有望な官人だ。が、若さゆえか、時々『面白いこと』を提案しては群青にたしなめられる始末。
「宮様は市井の生活にお触れになったことがあるのですか?」
「高貴な方が市井に行かれるのは、危険じゃ……」
 出仕したばかりの萌黄はその言葉に驚くばかり。十六夜もまだまだ新参者だが、こういった話を聞くのは初めてのような気がする。
「まあ、市井にといってもちゃんと素性の確かなところにしか連れて行きませんけどね。でも、机上で書を読むだけではわからないと言うことは、山のようにあるものです」
 雲英が笑うが、そこにコホンと群青の咳払い。
「宮様を危険なところにお連れするなど、当然ながらあってはならないことですよ」
 まあ、貴い身分のものがお忍びで遊びに行くなど本来あってはならぬこと。ただこの雲英という青年は「体験することが何よりも理解を深めるのです」ともっともらしいことを言っていたりして、神経質そうな見た目とは裏腹に結構おおざっぱというか、そう言う面が垣間見られる。しかし、そう言う相手だからこそだろうか、若宮はよく懐いていた。真面目一辺倒の師なんて、腕白盛りの若宮にはうっとうしいばかりのものに違いない。
 そんなわけで、若宮はこの奔放な面を持つ師を、ずいぶんと尊敬していた。それはよこしまな理由も混じってはいるが、自分よりも広い世界を知っていて、なおかつそれを分け与えてくれようとするその姿勢を好ましく思っていたのだ。
「浅黄、雲英はとても書が流麗なのだ。あとで見せてもらうといい、父上も気に入っているようだからな」
 若宮のいう『父上』とはつまり、そう言うことで――雲英は一気に顔を赤らめて、そして平伏した。
「自分の書など、まだまだ実力不足が否めません。主上は買いかぶりすぎなのです」
 青年にも照れというのはあるらしい。
「ところで釣りともうしたが、何故釣りなのだ?」
 若宮はその尊さゆえの爛漫さで、無邪気に問いかける。
「そうですね、我慢の練習でございます。釣りというのは魚との勝負、じっと待ち続けることが肝要でございますゆえ」
 言われて、若宮も萌黄も、なるほどと頷く。しかしそんな様子を見た群青は、
「まだ春になったとはいえ、水は冷とうございます。宮様が病を拾われるわけには行きませぬゆえ、今日は」
 釘をしっかり刺す辺りは、やはり乳母としての自分の役割を認識しているわけである。
「ならばしかたない。ならば今日は、桜について何か教えてもらえぬか」
「桜……ですか。今宵は夜桜の宴でございましたな。自分は詳しい方ではありませぬが、折角ならば桜にまつわる歌などを、今日は題材にいたしましょう」
 雲英の言葉に、にかりと笑った少年たちだった。
「桜という花は春を言祝ぐ花でありますが――」
 雲英の言葉が、朗々と殿舎に広がった。


 気づけば、八つ時。いわゆる、おやつの時間である。
「今日の勉学はこのあたりにいたしましょうか。ところで、萌黄殿は唐菓子などはお好きですか」
 少し表情を柔和にさせた群青がやってくる。運ばれてくる高坏には、丁寧に作られた揚げ菓子――唐菓子が、食べ盛りの少年たちの為と言うこともあってずいぶんな量が用意されている。十六夜は既に食べて味を覚えているのだろう、こくりと唾を飲み込んだ。
「宮様のおやつは、どれも美味しいんです」
 十六夜はそうふわっと笑う。
「唐菓子は好きです、ありがたく頂きます」
 少年たちは嬉しそうに唐菓子に手をつける。と、そこへやってきたのは主記殿。
「おや、珍しい者が近くにおられるようですよ――主記殿!」
「はは、気づかれてしまったな。邪魔してもかまわぬのかい?」
 雲英に声をかけられ、苦笑を浮かべながら青年はそっと端近に上がってくる。
「主記殿はお暇――というわけではないのでしょうが、やはり将来を期待されているだけありますなあ」
 雲英はそんなことを言って笑みを浮かべる。
「おお、そういえばこれらは新しい殿上童でな。十六夜と萌黄という」
 すると主記殿は興味深そうな顔で、二人の顔をじっと見る。
「これはなかなかによい面構えの童たちにございますな。将来が楽しみだ」
 すると、若宮はぱっと破顔する。
「そうだろう。こやつらが来て、我の殿舎はいっそう賑やかになったのだ」
「なるほど、宮様もお気に召しておられるようですね」
 嬉しそうな若宮に、主記殿も笑顔で頷く。
「……まあ、信頼に足る臣を側に置くのは良いことと思いますよ、ええ」
 そう言いながらどっかと殿舎に戻ってきたのは青嵐。振る舞いはまるで普通の少年だ。
 青嵐が女性であることは、むろん若宮や古参女房は知っていることだが、十六夜や萌黄はそのことを知らない。普通の、若い舎人と思っている。
「青嵐もなかなか鋭いことを言うのう。しかし、その通りじゃな」
 若宮も満足げに、唐菓子を頬張る。今日のは出来がよかったようで、嬉しそうに頷いた。
「そういえば、宮中と言えば恋の話に花咲かせると聞かされておりましたが」
 萌黄が首をかしげると、その場にいた雲英は顔を真っ赤にさせる。彼に想う相手がいるらしいというのは殿舎の女房たちの間では密かな噂になっていたが、そのことに触れる者は今までほぼ皆無だったからだ。
「御簾越しの恋ですからね。……秘めたるが花と言うこともありますし」
 わかったようなわからぬようなことを青嵐が言うと、
「まあ……たしかにそうですけれど」
 いいながら雲英は詩の一節を口ずさむ。
  競ひ誇る 天下無双の艶
  独り占む 人間第一の香
「まあそうなれば良いですけれど、万事塞翁が馬、ですよ」
 そんな彼は同時に後宮の女房の幾人たちから思いを寄せられているのだが、本人は気づくよしもなく。
「宴に出れば、他の殿舎の女房たちと面識をえることもあるやもしれん。楽しみにしておれ」
 若宮は、にやりと笑った。


 夜空に、桜がぼうっとけぶる。
 今宵は朔、美しさはひときわ匂い立つがごとし。
 ざわついた会場には、多くに公達がいると見える。御簾の奥には、おそらく女房。出衣した姿は、殿方の目にいかように映るのか。
 そして少年たちも、春らしい正装でその場に臨んでいた。青嵐はこの場でも女装束ではなく御簾の外で警護をしている。
「今宵は美しい桜を愛でようではないか」
 そう言って若宮は微笑む。少年の笑みは美しく、彼こそが桜の精ではないかと思わせるほど。
 そうこうしているうちに、雅楽寮の演奏がはじまった。
 はじめは笙が目立っていたが、主旋律とともに琵琶の奏でる音も耳に心地よい。
(ああ、これは雷の――)
 顔をつきあわせればけんか腰だが、その実力は買っている。青嵐はその音色に少しうっとりした。よく見れば、かがり火の向こうに見える楽師の顔はとても楽しげだ。
「ああ、良い曲だな。いつもとは演奏順がちがうようだが」
「これはこれで一興」
 公達からこぼれる密やかな声。
 と、猫が一匹、どこぞから躍り出る。あ、と思っていると、一人の女房が其れを追うように御簾から現れ、そしてその幼さの残る女房がはっと気づいたように顔を伏せ、それからそっと扇を片手に舞い始めた。即興と思われるが、しかしその舞はなれたものという感じで、なかなか堂に入っている。
「なかなか面白いことをするな、我が妹は」
 其れが妹宮のいる御簾からと若宮はすぐに理解したのだろう、少年はくすっと笑う。
(あの女房、みたことある、ような?)
 十六夜はぼんやりとそんなことを思う。
「恋でもしたか、十六夜」
 そんな若宮の囁きも、余り耳に入っていないようだった。

 美しき宴も、夜更ければ終わる。
 若者たちは、今日の興奮を胸にとどめながら、寝所に横になった。
 また、このような宴に出会えることを、夢見ながら。

――ひと夜限りの 春の夜の夢――

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参加者一覧

  • アークシューター
    静架(ka0387
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 護るべきを識る者
    シメオン・E・グリーヴ(ka1285
    人間(紅)|15才|男性|聖導士
  • 夢の迷い子
    イザヤ・K・フィルデント(ka1841
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • Entangler
    壬生 義明(ka3397
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • Q.E.D.
    トルステン=L=ユピテル(ka3946
    人間(蒼)|18才|男性|聖導士
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルス(ka3953
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/06 22:58:53
アイコン 相談とか雑談とか
トルステン=L=ユピテル(ka3946
人間(リアルブルー)|18才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/04/07 02:20:13