第四師団(海賊退治中)VS幽霊船!?

マスター:旅硝子

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/06 22:00
完成日
2015/04/14 05:52

みんなの思い出

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オープニング

 冬に勃発した十三魔との、そして突如現れた新型剣機との戦いで傷ついた高速小型艦の1隻が修理を終えたのは、春の兆しが見えようという頃であった。
「修理ドックもちゃんと役目を果たしてくれたわね。良かったわ」
「修理機具がかなり古いものですから、将来的には入れ替えて行った方がいいとは思いますけど。今まであまり使われていなかったのが、逆にありがたかったですね」
 再び水上に戻った船の姿に目を細める、第四師団長ユーディト・グナイゼナウ(kz0084)の言葉に副師団長エムデンが頷く。
「その辺りはおいおい、といったところね……ともあれ」
「ええ、準備は整ってます」
 ようやく春の色を帯びつつある空と海に向かって、ユーディトは笑んだ。
「海賊退治に繰り出せそうね」

 その頃。
 もう1人の副師団長リーリヤ・ローレライは、珍しく訓練場に姿を見せていた。
 もちろん個人の鍛錬を欠かすことはないのだが、彼女が武術指南を行うのは滅多にない事だ。
「とにかく人間の急所の位置を、頭に叩き込むこと。そしてそこに的確に一撃を入れること。武器で殺すのだって技量が必要だけれど、素手で無力化しようと思ったらそれ以上に洗練された動作が必要ですからね」
「はいっ!」
 リーリヤが責任者となっている部署には、税関が含まれている。主に同盟からやって来た人間を受け入れるための事務と同時に、危険な薬物や保護された幻獣などの密輸を行おうとする者を即座に無力化するのも税関担当の仕事の1つだ。
 その責任者であるリーリヤも素手格闘、それも対人戦に於いては第四師団で右に出る者はないほどの腕前である。
 それゆえに、今回の海賊退治に赴く師団員達の指導を任されたのだ。他の仕事も多いから1日1時間という約束で。
「では、今日はこれで。ちゃんと練習しておいてくださいね!」
「ありがとうございました!」
 頭を下げる師団員達に頷き、汗をぬぐいながらリーリヤは訓練場を後にする。
 約束通り、きっちり1時間の指南を終えて、廊下には窓から夕陽が差し込みつつあった。
「……確かに、海賊は生かして捕らえる方が効果的だわ。情報提供も見込めるし、ある程度は温情をかけた方が他の海賊団の投降も見込める……」
 ふと窓の向こうに目をやれば、修理を終えた船とそれを見つめるユーディトとエムデンの姿が目に入る。
「ユーディト師団長……さすがは、元海賊と言うべきかしら」
 言葉だけならば嘲るようにも思えるその呟きは、けれど棘や敵意の感じられぬ口ぶりであった。

 ハンターズソサエティに『帝国第四師団の海賊退治への協力依頼』が貼りだされたのは、翌日のこと。
「今回は、師団員達に実戦訓練を積ませる意味合いもあるから、お願いしたいのはアドバイスとか……数の多い相手や、歪虚絡みのことが起きたときは戦いに協力してもらう形かしらねぇ」
 そうユーディトが最初に説明した通り、ベルトルードから出港した高速小型艦4隻の船団に乗り込んだハンター達は、遭遇した海賊と戦い捕らえたり本拠地と目される場所を襲撃したり、捕らえた海賊達を一度各地の港に立ち寄って待機していた師団員に引き渡したりと忙しいスケジュールの中、割合に心地良く過ごしていた。
「おっ、ハンターさん。今日はいい魚がかなり獲れたから、フライにするって聞いたぜ」
「ねぇねぇ、アタシあんまし射撃得意じゃないからさ、この魔導銃の撃ち方教えてくれない?」
 親しげに声を掛けてくる師団員も多い。元々海賊の出身者も多く、また彼らを受け入れて来ただけあって――そしてそもそも誰でも来てくれたら嬉しいというほどの人材不足なので――帝国兵としては、かなりハンター達に好意的であった。
 海賊を捕らえて、今後の処遇を餌に情報を引き出せば、新たな海賊の存在や活動領域がわかることも多い。そうやって戦いの旅路を続けているうちに。
 捕らえた海賊の一団が、奇妙な話を口にした。

「そう、随分立派な船だったけど、1隻だけだったから襲おうとしたのさ、海賊同士だってライバルだ。けど……」
「奴ら、みぃんなゾンビだったんだよ!」
「俺たちゃ他の海賊相手ならちっとは腕が立つ自信はあったが、ゾンビなんかにゃ敵うわけないし、慌てて逃げて来たんだが……」
 トライデントを背負うように話を聞いていたユーディトは、ふむ、と眉を寄せる。
「嘘とも思えないわねぇ……こんな嘘、ついても仕方ないし」
 ねぇ、と同意を求めたのは、ハンター達に対してだ。
 幽霊船、と誰かが呟いた。そうね、とユーディトは頷く。
「ともあれ、放っておくわけにはいかないわねぇ……」
 のんびりとした口調ながらはっきりと言って、老女はにっこりと縛り上げた海賊達に微笑んだ。
「それじゃ、どの辺りでその幽霊船を見かけたのか、ちょっと案内してもらおうかしら」
「え、お、俺達がですか」
「マスケンヴァルの刑期は長いわよぉ。ちゃんと良い子に案内してくれたら、そうねぇ。半分くらいはあたしの口利きで融通が利くかもしれないわねぇ」
「喜んで!」
 そのやりとりを眺めながら、ハンター達の後ろでエムデンが、海賊達には聞こえないような声で。
「まぁ、彼らは結構あくどいこともやってるから、半分になっても100年近いだろうけどね……」
 苦笑いと共に、呟いた。

 改めて情報を集めたところ、幽霊船の目撃証言はとある島の周囲に集まっていた。
 海図にすら載っていない小さな無人島である。
「どうやら本格的にあなた達の力を借りることになりそうね」
 ここまでの事態は想定していなかったのだけれどねぇ、と言いながらも、ユーディトは楽しげだ。
「あの剣機の襲撃も潜り抜けた兵士達だから肝は据わってるでしょうけど、ゾンビと直接戦った経験はないはず。なるべく被害を出さない形で実戦経験を積ませられたらいいけれど……その辺りの作戦については考えてもらえたら嬉しいわ。なんせあたしとエムデンと、あと闘狩人が2人に、あなた方。それで覚醒者は全部ですからね。でも」
 ふふと笑ってユーディトは、トライデントの柄をぽんと肩の上で弾ませる。
「ここまで骨のある相手もいなかったことだし、いっそ何だか楽しみな気分ねぇ」
 そうあっけらかんと言い放ち、目を細めるおばあちゃんであった。

リプレイ本文

「幽霊船、幽霊船、幽霊船!」
 雨音に微睡む玻璃草(ka4538)――フィリア・フィラフィリアが歌うように笑んだ。雨傘がくるりくるると回る。空は晴れていても、彼女の耳にはいつも『雨音』が聞こえているから。
「白磁の骨は艶やかに、纏う果肉は熟して香り。刃を片手に謳うは凱歌――ヨーホー!」
 ね? そうでしょ、おばあちゃん。
 フィリアの言葉にユーディト・グナイゼナウ(kz0084)はふふと笑んで。
「ゾンビとの憂鬱な戦いも、麗しく感じられちゃうわ。是非とも華麗に凱歌を上げたいところねぇ」
「ええ、でもずっと海の上なんて『片足立ちの眠り鼠』だって、きっとフラフラになっちゃうわ」
 柔らかで楽しげなユーディトの言葉に、フィリアは軽やかなステップと共に雨傘を回してにっこり笑う。
「幽霊船! 良い響きだわ!」
 舳先に足を乗せたアルビルダ=ティーチ(ka0026)が、跳ねる波と同じ銀に輝く髪を揺らして目を細める。
「おうアルビルダのねーちゃん、頼りにしてるぜ!」
「ええ! 楽しくなりそうねっ」
 武器を準備しながらニヤと笑った兵士達に、アルビルダは頷いて満面の笑みを返す。積極的に語らったり仕事を手伝ったりしたことで、兵士達とアルビルダは随分仲良しになっていた。
「ゆ、ゆゆ、ゆーれいせん……!」
 楽しげな彼らとは対照的に、エテ(ka1888)はぶるりとその身を震わせる。
「相手がわかっているとしても、怖い響きです……」
 絵本や昔話で囁かれる話も、今回の討伐対象が元なのかもしれない、と考えつつ、震える体と心は止まらない。
「冒険にリスクは付き物ですが……、の、呪われたりとか、しないかな……ぁ……?」
 自分で言ってて恐ろしくなってきました、と呟いて、抱き締めるようにマギスタッフを握るエテである。
 でもってこれまた対照的に。
(船を描いた名画は多々あれど、幽霊船を描いた絵は早々無いわ!)
 海の彼方へと向けた鋭敏な赤い瞳を、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)はきらきらと輝かせた。
(描かなきゃ!!)
 胸に宿すのは期待と使命感。スケッチブックをぎゅっと抱きしめたエヴァは――
(幽霊船を描……お、お仕事します)
 アレグラ・スパーダ(ka4360)の視線に、慌ててそう言いたげに瞳を彷徨わせながら笑んだ。
 その様子にアレグラはそっと優しげに目を細める。けれど、すぐにまた訪れる戦いに意識を向けて。
「久々の水上戦、勘が鈍っていなくてよかったですが、今度は幽霊船ですか」
 ユーディト様も何やら楽しそうですね、とちらと目を向けた先には、船べりでレベッカ・アマデーオ(ka1963)や兵士達と笑顔で話すユーディトの姿。
「船の数は有利だけど、一発は向こうの方が重いらしいんだよね。なら……」
 集めた情報から推測した幽霊船の性能を元に、レベッカはそう考えた作戦を口にする。
「……なるほどね。船の動かし方はそんな感じとして……やってみる価値はありそうね」
「付け焼刃の戦術だけどね。ついでにゾンビ減らせりゃ後が楽になるしさ。ってわけで、どう? ばーちゃん」
「ええ、それじゃ各艦のみんなに連絡を取ってみましょう。ありがとね、レベッカちゃん」
 そう頷くユーディトに、ぱっとレベッカの表情が輝く。それを眺めつつ、アレグラは。
「状況を楽しみつつ、船員様方に経験を積んでもらいつつ、被害は最小に抑えつつ、ですね」
 言葉にしてみれば盛りだくさんの戦いである。が――、
「少し欲張りな気もしますが、善処しましょう」
 そう頷いて、魔導銃を手にする。
 各々が準備を終えようとした、その時――、

「船影発見! ……甲板にゾンビの姿複数確認!」
 見張りに出ていた兵士の声が響き、すぐさま通信機を通じて伝達される。
「じゃ、作戦通り行きましょう……縦陣にて航路を塞ぎ、直ちに包囲に移る、動きを止めないように!」
 ユーディトが告げたのは、レベッカが伝えた通りの作戦。
「冒険にリスクは付き物ですが……の、呪われたりとか、しないかな……ぁ……?」
 自分で言ってて、恐ろしくなってきました、と身を震わせるエテの肩が、ぽんと叩かれる。
 顔を上げれば、そこには穏やかな笑顔を浮かべる青年――副師団長エムデン。
「大丈夫だよ。幽霊船とは言っても、乗っているのは結局単なる暴食の歪虚だし、呪いの力は持たないさ」
「なら、安心……で、出来ないですけど、頑張ります!」
 強くマギスタッフを握るエテに、一緒に頑張ろうね、とエムデンは微笑みと共に頷いた。

「敵船の魔導銃の無力化と速やかな接舷・移乗が課題ですね」
 魔導銃を手に、アレグラがそっと目を細める。波の揺れ、風の動き、そして互いの船の速度と進行方向――全ての情報にハンターとしての力をも加え、狙うは相手の魔導銃。
「海上狙撃は難度が高いですが……やってみましょうか」
 アレグラの周囲に武器の幻影が展開され、すっと茶色の瞳が細まる。息を詰め――マテリアルを込めて伸ばした射程のぎりぎりへ、発砲!
 意図した通りの軌道を描いた弾丸は、まるで戦いの始まりを告げる喇叭のように。
 幽霊船に付けられた魔導銃の一基を、見事に爆ぜさせた。
 縦陣から包囲へと展開し、高速で水上を滑りながら攻撃。敵の魔導銃の狙いを外しながら、こちらは数を頼みに一斉射撃を放つ。
「まだよ……まだ……」
 しっかりとタイミングを計り、レベッカは弓弦を引き絞る。
「――撃ーーーーーっ! 戦闘要員は矢でも弾でもありったけ撃ち込んで!」
「おう!」
 天に吼えるかのような轟音を放つ矢を先頭に、矢玉が一気に幽霊船を襲う。
 別の船からは、小動物や植物の幻影を纏ったエテが、スタッフを振り風の刃を解き放ち――
「う、うでがとれた、うで、うでぇ……!」
 すっぱり斬られて飛んで行った腕に、悲鳴を上げる。
 兵士1人1人の射撃精度は高くないし、覚醒者ならぬ彼らの攻撃の威力もたかが知れているとはいえ、数が数だ。船べりで魔導銃を操作していたり改造された腕の銃を撃っていたゾンビ達が、少しずつ数を減らしていく。
「――!」
 エヴァが三日月の如き弓を強く引き、合図に合わせて矢を解き放つ。徐々に近づく船同士の距離に、射程に入ったとみてアルビルダがリボルバーの引き金を引く。
 向こうの魔導銃も何度も火を噴いているのだが、射手の技量がさほどでもないのか大した被害は与えて来ない。覚醒者ではない兵士達に当たりそうになった弾は、ハンター達が身を挺して庇う。
 狙撃に徹したアレグラが二挺目の魔導銃を撃ち抜き、エテのウィンドスラッシュが三挺目を両断する。レベッカの強矢が、最後の魔導銃の銃口に突き刺さって暴発を起こさせる。
「接舷!」
 ユーディトの掛け声が、通信機を通じて響き渡る。4隻の船に囲まれていては逃げることもままならず、覚悟を決めたように幽霊船からは銃持つゾンビからの威嚇射撃が飛んでくる。
 それでも船体にかすり傷こそ、船員に軽い傷を負う者こそ出たものの、航行能力や戦闘力を削がれるほどのものではない。
 最初に接舷したのは、アレグラが乗る船。船体同士がぶつかり合った瞬間、アレグラは敵の甲板に、離脱を防ぐためロープでこちらの船とつないだウォーピックを叩き込んだ。
 そしてその頭上を飛び、小さな影がゾンビ達の上にかかり――ヤードの上から飛び降りたのは、パラシュートならぬ傘を差したフィリア。
 ――だってね、上から落ちてきたら吃驚するでしょ? 『鸚鵡返しのフラミンゴ』だってギャアギャア喚くもの。
 思わず場所を開けたゾンビ達の真ん中にすとんとフィリアは降り立って――次の瞬間、少女の姿が駆けると共に、鋏がシャキリと叫びを上げた。
 悲鳴のような雄叫びのような、ゾンビの声と共に『熟して香る』腐肉の腕が落ちる。
「――では、射撃を続けて下さい」
 接舷するまで射撃についてのアドバイスを送っていた魔導銃の射手達にそう声を掛け、アレグラも魔導拳銃へと武器を持ち替えながら幽霊船へと飛び移る。次々に兵士達が続いて乗り込む中、ゾンビに集中攻撃を受けぬよう威嚇や援護にアレグラは引き金を引いて。
「さぁ、無事に終わったら無人島で一緒に宝探しをしましょうね!」
 アルビルダがそう笑って、応と叫ぶ兵士達と共に船から船へと乗り移る。
 乗り移る途中の兵士達を狙う敵には、リボルバーが火を噴いて。動物の力を借りた野生の瞳が、ぎらりと輝いて狙いを正確に定める。
「そうね。じゃあ、最後まで立っていたゾンビさん、私とお茶でもしましょうよ」
 そう軽口を叩きながらも、アルビルダは耳を澄ませる。
 探すのは、音。どのゾンビが立てるのとも違う、音。
 ――この幽霊船の首魁が立てる音。
 エヴァがくるりとワンドを回し、炎の矢をその先端に呼んで投げつけるように飛ばす。ゾンビの1体を燃やし尽くしつつも、探すのはやはりボスの姿だ。
「最初に話した組み合わせを維持して! 怪我したらどの船でもいいから退避!」
 そう声を掛けながら、レベッカが兵士達を率いるように幽霊船へと飛び移る。機動の力で威力を高めたナイフが、さらに超音波振動を纏って剣ごとゾンビを斬り捨てる。
「行くぞ! ハンターの皆さんに負けるな!」
「うおおおおおお!」
 そう気勢を上げて、兵士達も敵陣へと突っ込んでいく。孤立しないようチームを組んだ彼らは、なるべく1体のゾンビを囲んで攻撃を加え、着実に敵を倒そうとしていく。
「『雨』が降ってるけど傘も使わなくちゃ。だって海賊は一杯いるもの、片手だけじゃ足りないわ」
 片手に鋏、片手に傘、フィリアは縦横無尽に暴れ回る。
「『風食むトカゲ』がねだるから、『逆しまの本』は大張り切り。春風のジャムはどんな味がするのかしら?」
 ――ねぇ、もっと『雨音』を聞かせて?
 彼女にだけ聞こえる雨に打たれながら、舞うように刃を振るう。
 エヴァと同じように風の刃を、そして炎の矢を操ってそれを援護するのはエテ。銃を持つゾンビを特に狙い、不意の攻撃に兵士達が晒されないように。そして腰にはいざという時の為にレーザーナイフを差して。
「ま、万が一距離を詰められた時に――って」
 振り向けば、笑うかのように腐った唇から歯を剥き出しにしたゾンビが剣を振り上げていた。
「いる、いらっしゃる、すでにいらっしゃって」
 慌ててレーザーナイフを振るう――さっくり。
「え?」
 すごく綺麗に、ゾンビの首が飛んだ。
「もしかして、光の力がアンデッドに……?」
 レーザーナイフは、確かに光の力を持つ。それが、ゾンビ達に効果的だというのなら。
「……私だって覚醒者なんです、兎角全力で!」
 勇猛果敢にレーザーナイフを握ったエテは、ゾンビ達の群れに斬り込んでいく。
「レッツ、ゴーゴー! ですー!」
 勇ましい声がこだまする。けれど時折混じる悲鳴に、やっぱり可愛いなぁと思いつつ兵士達の戦意が上がるのであった。

 ハンター達をはじめとする覚醒者達、そして兵士達の力で、ゾンビ達は徐々に数を減らしていく。
「いた……!」
 最初に音に気付いたのは、アルビルダ。すぐさま野生の瞳を輝かせながら、彼女は一気に距離を詰める。
「貴方がお頭?」
 それに答えこそしなかったが、ニィと笑ったのは明らかに体躯も武器も大きなゾンビ。
 すっとエヴァが背後に回り、そこから風の刃を放つ。エテもやや離れた方向から、それを支援するように炎の矢を叩きつける。
 振り上げたチェーンソーは、威嚇するように弾丸を放ちながら接敵するアレグラの、頭蓋をかち割る前に光の壁に止められた。
 砕け散るように消えた光の壁は、レベッカが機導の力で張ったものだ。
「わたし、お魚よりパンケーキが良いわ」
 ふ、と他のゾンビの腕を飛ばしてから、すっと踏み込んだのはフィリア。
「黄金色の蜂蜜と、バターがたっぷり乗った奴! ね、良いでしょ?」
 微笑みと共に鋏ががしゃんと鳴り、親玉ゾンビに深い傷が刻まれる。
 いくら一番強いとは言っても、やはりゾンビだ――覚醒者達は、順調に彼を追い詰めて。
「お頭同士、飲み明かしたくもあるけど……ま、それは彼の世でのお楽しみ、ということでっ」
 アルビルダがにかりと笑って、銃声と共に親玉の頭を砕くのと。
 最後のゾンビが兵士達にたこ殴りにされて倒れたのは、ちょうど同時であった。

「幽霊船で遊び終わったから、島でお散歩するの。知ってるわ、海賊は宝物を隠してるんでしょ?」
 フィリアがそう微笑んで、ふわりと船から飛び降りた。
 船1隻がようやく停泊できる程度だが、無人島であるはずのそこには簡易な港があって、誰かの――恐らくは幽霊船の手が入っていたことを感じさせる。
 順に船を泊めて、ハンター達と兵士達が無人島へと降り立っていく。アルビルダも、船旅と戦いを通じてすっかり仲良くなった兵士達と共に飲みの約束を交わしながら上陸した。
(やっぱり幽霊船が守りたい物といえば宝物かしら!)
 エヴァがスケッチブックを手に、瞳をきらきら輝かせる。
(金銀財宝? 珍しい動植物? 綺麗な景色? ……こうしちゃいられない、探検しなきゃ描かなくちゃっ)
 何が待っているのかとわくわく、足も走り出しそうだし、心の方は既に駆けている。
「呪われたゾンビが守るのは黄金の……これも御伽話でしょうか」
「あながちそうとも言えないかもしれないわねぇ」
「え?」
 エテがくるりと振り向けば、ユーディトがゆったりと微笑む。
「ちょっと幽霊船の積荷を検めたんだけど、面白いものが見つかってね」
「面白いもの?」
「黄金よりも価値があるかもしれないわ」
「ランタンは必要そうですか?」
 何かを察したのかそう尋ねたアレグラに、ええ、とユーディトは頷いて。
「……車輪の跡?」
 ふと気付いて眉を寄せたアルビルダに、「ならばそちらの方向のようね」とユーディトは頷いて。
 ――進んだ先には、大きな洞窟。そしてその中には――、

「鉄鉱山、ですか?」
「ええ、幽霊船が少し掘り出しただけで、ほとんど未採掘だけど……それだけじゃないわ」
 アレグラの疑問にユーディトが指し示したのは――ランタンの光に照らされて、僅かではあるが明らかに鉄とは違う揺らめくような輝きを放つもの。
 あれは、と言いたげに目を見張るエヴァに、ユーディトは頷いて。
「鉱物マテリアル……魔導型CAMを動かす燃料になるものよ」
「あれが……!」
 魔導型CAM。それは元々リアルブルーの技術でしか動かなかったCAMを、クリムゾンウェストで動くようにしたもの。
 だが、その燃料であるマテリアル燃料は、非常に貴重であり――、
「ありがとう、みんな。これは第四師団にとっても、帝国にとっても、またとない宝物……これ自体は画材に乏しくても、きっと新たな景色を見せてあげることができるわ」
 そう言って、ユーディトはランタンの輝きに照らされながら、とても嬉しそうに微笑んだのだった。

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MVP一覧

  • 渇望の瞳
    アルビルダ=ティーチka0026
  • 海読みの射手
    アレグラ・スパーダka4360

重体一覧

参加者一覧

  • 渇望の瞳
    アルビルダ=ティーチ(ka0026
    人間(蒼)|17才|女性|霊闘士
  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • 萌え滾る絵心
    エテ(ka1888
    エルフ|11才|女性|魔術師
  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオ(ka1963
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 海読みの射手
    アレグラ・スパーダ(ka4360
    人間(紅)|21才|女性|猟撃士
  • 囁くは雨音、紡ぐは物語
    雨音に微睡む玻璃草(ka4538
    人間(紅)|12才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
レベッカ・アマデーオ(ka1963
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/04/06 21:01:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/02 22:32:03