【偽夜】蕎麦屋黄玉堂の夢

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2015/04/08 19:00
完成日
2015/04/16 23:34

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 賑やかな街を抜けて、隣町への街道に静かに佇む蕎麦屋が1軒。
 蕎麦処黄玉堂。ひび割れて禿げ掛かった看板にはそう書かれている。
 一見すると開いているのか分からない程静かで古めかしいが、染め抜いた暖簾の藍地の色は鮮やかだ。表の腰掛けと、6畳程の座敷。客は馴染みの商人ばかり。彼等に蕎麦と一時の憩いを提供する。この店の中は酷く穏やかな時が流れているという。
 店主は老齢と言ってよく、その店主に代わって、前の夏に夫を亡くして出戻っていた孫娘の百合が喪服のままで厨に立っている。
 彼女の湯がく蕎麦は美味いが、汁は不味いと評判だ。
 彼女の代わりに出汁と醤油を扱うのは、前の店主と同じく老齢の、某。
「お百合、おい、お百合」
 某の声が煩く呼ぶ。
「何ですか、そんなに何度も呼ばなくたって、聞こえてますよ」
「客だよ」
 打ち粉の付いた包丁を手にしたまま、百合はいらっしゃいと微笑んだ。


 客と呼ばれたのは2人ずれのまだ幼い姉と弟。
 乾物を売る母親に手を引かれ、時折紅玉堂で見かけていた。祖父の頃からの得意客だ。
「あら、いらっしゃい。今日はお母さんと一緒じゃないのね」
 包丁を置き2人分の蕎麦を茹でながら座敷に通す。2人は手を繋いだまま畳みの隅にぺたりと座った。
「あの、母さま、ここに来なかった?」
「山向こうまで行くから、昨日までお留守番だったのだけど」
 つるつると蕎麦を食べて、姉はまだ箸を上手く使えない弟の世話を甲斐甲斐しく焼きながら、百合を見上げた。
 百合は首を傾がせた。
 2人の母親が1人で店に来ることは間々あることだ。山を越えて商いに向かう時は、幼い2人に留守を任せていたらしい。いい子で留守番をしてくれるのだと褒めていたことも覚えている。
 百合はもう一度首を傾がせて、某を振り返る。
 閑散とした表を眺めていた彼も見ていないと首を横に揺らした。
「昨日の昼には戻って来るはずだったのだけど、今日まで待っても帰ってこなかったから」
「迎えに行こうと思ったの。でも、街から先の道を知らなくて」
 なるほど、と百合は頷いた。確かに隣町から先へ行く山は大人の足でも骨が折れる。
「化生に襲われでもしていたらっておもったら」
「夜も怖くて眠れなかったから。せめて街まで行ってみようと思ったのだけど」
 それでここにも顔を見せたのか、と百合は頷いたが、2人の向かいに屈むとごめんねと首を揺らした。
「ここには寄ってないわ。隣まで見に行ってみる?」
 姉ははいと頷くが、弟は隣までかと不満げに袖を弄っている。
「山道まで見に行くのは危ないから」
「でも、母さまが心配……姉さまは心配じゃない?」
 心配だと姉が拗ねる。
 百合も困ったように肩を竦めた。流石に店を放り出して付いていくと言うわけにもいかない。


 山の中の下り道、まだ街の見えない辺り。
 月のない道を急いだが、そんな夜には化生の声が賑わう。
 野犬の声かと思えば、その犬の面が人の顔をしていたり、提灯の火に旅人か商人かと振り向けば、そこには提灯しかなかったり。
 赤茶けた肌の鬼や、青ざめた肌の動く骸に追い回されて、気付けば足を挫いて気を失っていた。
 目覚めると日は昇っており、夜露に湿気った着物が冷たく肌に張り付いていた。懐に小さな守刀を抱き締めて足の痛みが引くのを待った。そしてまた、日が暮れていく。
 日没前に枝を括って添え木に、ふらつきながらも歩けるまでに回復すると道に戻る。せめて少しでも街に近付いておこうと思った。

 母親が憔悴した体で山を下り始めた頃、
 黄玉堂で姉弟と出会った何某かが数人、街で母親の話を聞いて山へ入った頃、

 ざわざわとまた新たな化生がぬうと顔を覗かせた。

リプレイ本文


 仄暗い山道を慎重に降りていく。腐った葉や濡れた石を踏む度に転びそうになりながら、辺りの木に掴まって少しずつ麓へ向かっていく。
 母親の行く手で、ぽっといくつかの明かりが浮かんだ。
 その明かりは列を成して行く先を照らすようにさえ見えたが、その1つが持ち手のいない破れた提灯の本性を晒しながら、瞼の無い目で母親を見下ろした。
 生温い風が吹き抜けていく。
 悲鳴を上げた母親は、思わずその場に座り込んだ。

 その頃、蕎麦屋を出た姉弟に連れられて街へ入った帯刀の巫女と侍、剣客達。参道の入り口で尚も着いていこうとする2人を柊琥珀之丞――Anbar(ka4037)の腕が制する。
「俺が山を見に行ってやる。お前らは母者が戻ってくるのをおとなしく待っているんだな」
「うぅん……お母さん心配なのね。ここはあたし、敏腕美人巫女の鶴星さんにお任せなの!」
 鶴星――アルナイル・モーネ(ka0854)が、2人の前に屈んで視線を合わせた。2人がこくりと頷くと、烏を象った式神を肩に羽ばたかせ、山を仰ぐ。
 黒百合の鬼斬り於ぢよ――ジオラ・L・スパーダ(ka2635)が、腰に帯びた刀の柄に手を掛ける。白い単にあしらわれた黒百合を背負い、山道へ歩を進める。
「母は心して護る」
 肩越しに2人を振り返り、静かな声で告げた。
「母君の名を教えて貰えますか?」
 鬼啼里 鎮璃(ka4057)が子ども達に尋ねた。連れて行くのは危ないという仲間の言葉に頷き、代わりに呼んで探してこようと。尚も着いていこうとする弟の手を姉が握って引き留め、不安げな目で鬼啼里を見上げた。
「そうだな、見目の特徴も聞いておきたい。どんな格好して出てったんだ?」
 柊が尋ねると弟を抑えながら、姉が長着の色と抱えていた風呂敷の色を答える。
 それを聞いていたシャルティナ(ka0119)も頷いて促し、姉弟は麓近くの家に預けられた。
 姉弟に見送られた5人が山道へ入っていく。その背後にひた、ひたと迫る影があった。

 緋袴を翻しシャルティナは軽快な足で山道を進んでいく。小柄な身に帯びた刀も危なげなく、日の落ちた道を急ぐ。
 振り返り麓が霞んできた辺りで鬼啼里が母親の名前を呼んだ。
「――近くに居たら返事してくださーい!」
 声は返らないが、代わりに木木が煩くざわめいた。烏の羽ばたきか、獣の足音か、山の木々が騒がしい。
 再度呼ぼうとした口を一旦噤んで言い直す。
「危ないから、近くなかったら返事しないでくださいねー!」
 袴に降る枯れ葉を払い、先へ進む。
 晒した右肩を風が嬲ることも構わず、於ぢよは彼等の後に続く。
 怜悧な双眸が見詰める先、目と耳を研ぎ澄ませて母親を探す。
「まだ、先のようだ」
 柊への返事も無ければ、人の気配も感じられない。呟くと於ぢよは駆るように足を急がせる。
 いつもとは違う桜色の着物に深い紫の袴を穿いた休日だが、放っておけないの、と鶴星は山道を行く。
「漆、空から探してほしいの」
 式神が空に舞い上がると、彼女自身は山道を探そうと周囲をくるりと見回して仲間の後に続いた。
「姉弟の母者を見つけるのが俺の役目だ」
 柊は木木の隙間から覗う気配に向かって静かに告げる。
 じっとりと覗うような気配はやがて、顔を見せることもなく遠のいていった。
 今は戦っている暇は無いとばかりに、柊は歩き慣れた草履で地面を蹴る。
 山道を進む彼等の背後を不審な影が追っていた。
 人の丈よりもやや大柄な黒白、牙と鰭を持った綿入りの体に、その上から単を着流している。
 大振りな尾を揺らしながら、それは彼等の背後に腕を伸ばし――
 びたん。
 派手な転倒。
 着ぐるみの白い部分の汚れを払って、鯱――Orca(ka4396)は共に姉弟の母親を探しに向かった仲間を追いかけた。

 しかし、彼は知る。
 不審な影が、彼自身の物だけでは無いことを。


 提灯の明かりが近付いてくる。その列から逃れようと地面を這って右往左往。
 母親が逃げ場を探している頃、彼女を探しに山道へ入った剣の使い手達が遠目に明かりを一つ見付けた。
 母親の耳に、己の名を呼ぶ声が届く。
 返事をしようと開いた口から零れたのは、眼前に迫った髑髏のかたかたと笑う音にかき消された、声にならない悲鳴だった。

「――今、何か聞こえたな」
 於ぢよは微かな声に足を止めた。
「見付かったのね? 漆もそうなの」
 鶴星が羽ばたきで明かりの連なる方を示した烏を手元に呼び戻す。
 遠くに見付けた小さな光に2人は走り出した。
「彼等の母上か」
 柊が確かめる様に尋ねながらすぐに続き、鬼啼里とシャルティナも追う。
 於ぢよは黒百合の意匠を翻し、開ける裾を捌きながら足場の悪い道を器用に走り抜け、鶴星も、袴の裾や袂を揺らしながら、木の根や岩を身軽に超えていく。
 見付けた光は初めこそただの一つきりだったが、次第に二つ四つと増えていき、少し開けた道に出ると、破れた提灯が両側にずらりと並んで照らす様がはっきりと見えた。
 互いに背をかばい合うように周囲を警戒し、慎重にけれど駆ける足は止めずに先を目指す。
「死にたくなければ、俺に近付くんじゃねえ!」
 柄に手を掛け鯉口を切る。
 柊の声に提灯が揺れた。道を譲るように広がっていくと、その先、蹲った母親と取り囲む様に迫った人ならざる何ものかの姿を見付ける。
 襤褸を纏った骸に骨ばかりのもの、角を得たものや、爪に牙にと大凡人の形をしていないものまで、様々に集っていた。
 それらの隙間から見えた着物の色、鮮やかな花の色は彼女の子供らに聞いたものと同じである。
 緋袴の足が地面を蹴って飛び出す。
 母親にかたかたと笑う頭骨を向けていた骨に、抜き打ちの白刃を叩き付けた。
「この子の力、存分にお楽しみ下さい」
 シャルティナはすらりと薄く軽いその一太刀で骸骨を割る。僅かに出来た隙に駆け込む柊と於ぢよが母親を庇い、集る化生の輪を抜ける。
 柊は秘して伝えられた業で地面を蹴って飛び込み、母親を抱える。於ぢよはその後を追う化生の前に立ち塞がった。
 いつの間に抜いたのか、きんと触れ合う刃が鳴いた。
「此の世で一番重きは人の命と言うが、足に纏わる枷にも同じか……だが母よ、今は子の為に身命を尽くす思いで此の場を生きよ」
 母親に背を向けながら、於ぢよは低い声で告げる。敵の刀身を弾き、黒百合を踊らせながら踏み込んで袈裟に切り伏せる。
 返す刀で横に薙ぐと、逆袈裟に切り上げる。沈黙した骸を置くと、次の敵へと狙いを据えた。
 片側の敵を於ぢよに任せ、柊は母親を追ってきた化生に切っ先を向ける。
「あんたは自分の身を守るのを最優先してくれ。ちっこいの悲しむ姿なんぞ、俺は見たくないんだ」
 手を離し蹲りながら懐に剣を探した母親に、まだ化生の手が届いていない方を指し示し逃げるように言う。
「お母さん、こっちなの! あたしに任せてっ」
 鶴星が母親の怯えた目を見詰め、構えた刀から片手を離して招くように差し伸べる。
 羽ばたいた黒鴉が濃紺の空へ舞い上がった。
 鬼啼里が1匹の化生へ飛び込むように斬り掛かり、その首を飛ばす。
「きみたちはこっちだ」
 化生の淀んだ目が一斉に鬼啼里へと集まった。
 その隙に柊が母親の背を押し、鶴星がその体を受け止める。
「このまま下がるの。切り込む時は、死角を突くのよ」
 母親の無事を見届け、柊も刀を翻して切り込んでいく。鬼啼里も派手に振り回す刀で化生の注目を引き付け、迫るものから切り伏せた。

 最前線まで走ったシャルティナと於ぢよは、幾ら斬っても減らない化生に溜息を吐いた。
「脇がお留守ですよ?」
 刃紋を鮮やかに煌めかせ、シャルティナが胴を切りつければ、
「破巌一閃……」
 於ぢよが大きく振りかぶる刀身で打ち据える。
「巌をも断たん」
 声を上げて下ろされた刀が巌の様相をした化生を真二つに割った。
 柊が刀を掲げる。
 その切っ先には角の折れた鬼の首。
「死にたくなければ、近付くな。俺は……」
 あの姉弟の元へ母親を送り届けてやりたいだけだ。厳しい目で化生を睨みながら、不安そうにこちらを見詰めた2人の稚い眼を思い出す。
「まだ来るか……っ」
 止まらない化生の波、どこからか沸いては、その数で迫ってくる。
「ここは、通さないの。あっち行けー!なの」
「そうだ、こっちだ。僕を狙え……斬ってやる」
 鶴星が迫る化生を薙ぎ払い、更に爪を伸ばそうとしたその背に、鬼啼里が大振りの刀身を振り下ろす。

 混戦の中、化生の溜まりに飛び込んでくる影があった。
 鯱、人の身の上に鯱を装う不審な男。人相も不明ながら、その体は鯱を纏わずとも十分に大柄で、飛び込んだ隙に小柄な化生は飛んで避けた。
「ここは俺に任せろ!」
 着ぐるみの中から声がする。
 母親も、巫女も侍も、化生までもが呆気に取られ、剣戟の音が暫し止んだ。
 それをまず破ったのは、犬の化生。
 牙の間から血を滴らせて唸ると、着ぐるみの尻尾に食らい付いた。
 その犬の動きを機に、次々と化生が鯱を遅う。
「は、浅いなぁ……シャチの牙、受けてみるか?」
 手にした得物を掲げ、向かってくる化生に一太刀浴びせる。それを屠ると、回りの音も復活し始めた。
「――なんだ。俺の方が化生だって? っは、そうかも知れないな」
 背びれを落とされ、頭部を叩き付ける。千切れかけた尻尾で薙ぎ払う。綿を散らしながら鯱は、戦う。
 化生同士が戦うような光景だが、彼を仲間と判じた剣客達は、その場を任せて互いの相手に向き直った。

「思ってたよりも多いですね……後ろが開いてますよ?」
 シャルティナが化生の囲む中、舞うように刀を振るう。白い単が幾分か染まり、途切れることの無い斬撃に受けて躱して息が上がっていく。
 母親を庇いながら、あぶれてきた化生を切り伏せ、片手に剣をもう片方は鞘を持って戦い続ける鶴星の顔にも同様に疲れが見え始めた。
「キュウキュウニョリツリョーっなの! ……ふぅ。切りが無いの……」
「退いた方が良いか……隙があれば、だがこの数だからな」
 薙ぎ払う一撃が小さな化生を弾き、道を空ける。しかしすぐにそこを埋めるように化生が押し寄せてくる。
 大柄な鬼と対峙しながら於ぢよは道へ目を走らせた。
「全力を尽くすまでのことだ」
 柊が柄を握り直す。瞼を伏せて祈りを一つ。切っ先ごと飛び込むように化生の体を貫いた。
 切っ先を向けた先にいるのは大柄な鬼が1匹、鬼啼里はそれを見据えながら地面を蹴る。金棒を大きく薙いでくる攻撃は荒いが、守りには隙が無く体も硬い。
 鬼啼里の切り込んだ体が弾かれて、着物の鮮やかな縹色に泥の染みが滲んだ。
「次は、首です」
 払われる瞬間刀身を立てて落とした腕を放り、鬼の頭を見上げた。
 切り刻まれた鯱が指差しながら前へ倒れる。
「ぐわー! やられたー!」
 前へ、進めと言うようにぱったりと。
 大きく裂けた背中からは溢れんばかりの白い綿が覗いていた。

 化生の数は多いが、確実に減ってきている。
 これだけ減らせば、下るまで、追い付かれはしないだろう。
 剣客達は視線を交わして頷いた。鯱の頭も微かに揺れた。


 鶴星と柊が母親を支え、鬼啼里が周囲を警戒しながら山道を下る。
 残りの3人、シャルティナと於ぢよ、そして倒れている鯱は追っ手を阻みながら山を下る。
 道は変わらず、提灯に照らされていた。
 走り出すとまず真っ先に犬の化生が追いかけるその素早い体を叩き斬り、シャルティナは前へと声を掛ける。
「逃げるが吉です。急いで下さい」
 母親を追いかけようとする化生を切りつけながら声を張った。
 於ぢよも化生を煽る声を上げ、誘うように白い刀身を揺らす。掛かった骸を土に返し、次を探って目を細めた。
「破巌一閃……叩き割ってやる」
 2人の隙を1匹の化生が飛び出した。
 あまり大きくは無いそれが綻んだ刀のようなものを手にしている。その刃が前を急ぎながら走ることは能わず、歩くだけでも息を切らす母親の背に迫った。
 鯱は刀を抱くように構えた体を叩き付けて、その化生を押し伏せる。その喉に躊躇わず刀身を突き立てると、着ぐるみの中、笑った。
「どうだ、出オチは?」

 何度も謝りながら母親は鶴星と柊に縋って山を下りる。
「大丈夫。もうちょっとなの」
「ちっこいの……あんたの子供らに会いたいだろ、頑張ってくれ」
 青い顔で頷いて、痛む足を急がせる。鬼啼里の目端が影を捕らえた。
「……追っ手ですか」
「きっちり、仕留めるの」
 鶴星の肩で鴉が羽ばたく。
 急ぎましょうと、鬼啼里が支えを代わり、鶴星は刀を抜いて化生に向かう。
「1匹だけだと良いのですが……」
 不安げな声を肯定するように提灯の隙間から覗く気配は暫く続きそうだ。柊も刀を抜いて、片腕で母親を支えながら、切っ先を化生へ向ける。

 幸いにも下り始めてから母親を連れた3人がそれ以上に襲われることは無く、シャルティナと於ぢよ、殿となった鯱も着ぐるみの中は無事に降りてきた。
 提灯の道を抜けると、空には満天の星が煌めいている。
 おや、と鬼啼里が自身の腕を見て首を傾げた。
 金棒で叩かれた痛みが引いている。弾き飛ばされて打った足は痛むし、袴も泥に汚れたままだが、化生の刀が振れて裂けていた場所が繕われたように、或いは端から裂けてなどいなかったように塞がっている。
 同じように刀を振るった刃こぼれも消え、皆、化生に斬られたり叩かれたりした痕は消えていた。
 鯱に至っては、散々切り刻まれた着ぐるみが元通りになっている。
「どういうことだ」
 於ぢよが振り返ると、その声に弾かれたように全員が提灯の並んでいた山道を振り返った。

 真っ暗な道には何も無く、ただ微かに獣の気配が漂っていた。


 母親を連れて山道から出ると、眠ってしまった弟を負ぶった姉が迎えに来た。
 母親が撫でると弟は目を覚まし、2人で母親にしがみつくようにその腕に抱かれて泣きじゃくっていた。
「よかったです」
 無事で、と鬼啼里が安堵の行きを零し、柊は子供の頭をそれぞれ撫でて、
「これからも母親と仲良く暮らせよ」
 穏やかな声でそう伝えた。
 於ぢよは黙っていたが、母子を見詰める目許が柔く優しい。
 3人と全員の無事にほっと胸を撫で下ろして鶴星は山を仰ぐ。
「黄玉堂でゆっくりするといいの――あ、その前にお祓いしといたほうがいいなの?」
 くるりと袴を翻し、きょとんと首を傾がせた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 《臆病》な心を斬伏せる者
    シャルティナ(ka0119
    エルフ|15才|女性|疾影士
  • ガンタのともだち
    アルナイル・モーネ(ka0854
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • ビューティー・ヴィラン
    ジオラ・L・スパーダ(ka2635
    エルフ|24才|女性|霊闘士
  • 願いに応える一閃
    Anbar(ka4037
    人間(紅)|19才|男性|霊闘士
  • 開拓者
    鬼啼里 鎮璃(ka4057
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • まな板の上の鯱
    Orca(ka4396
    ドワーフ|35才|男性|機導師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/04 01:24:15
アイコン 相談卓
アルナイル・モーネ(ka0854
人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/04/07 22:44:11