ゲスト
(ka0000)
【不動】少年、艶やかに微笑む
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/08 12:00
- 完成日
- 2015/04/11 21:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●終焉
背後は崖があり、谷や緑によって隠されている集落。
こもっているから安全、とその部族は信じていた。
そこで育つオルトもそう考える。
部族を守るのは地形だけでなく、戦士たちもいる。
年頃の少年ともなれば、戦う彼らにあこがれ、将来なりたいものは戦士と子らは言う。
線が細く体力が劣るオルトは戦士になることは諦め、大人の勧めに従い薬草について学ぶことになった。
残念だが仕方がない。勉強も嫌いではなかったので楽しかった。
いつも変わらぬ生活。
歪虚の侵攻があっても、ここは平穏だった。
だから、CAMの話も聞いても現実味がない。オルトは、見てみたいという好奇心はあった。
そこから商人がやってきた。グラズヘイム王国からやってきて、CAMの実験場を足掛かりに辺境を探索しているという。無謀であるというか、将来を見越した勇気と言うかは評価は割れよう。
ただ、オルトの好奇心は商人に向かった。少しでも話したいと願う。
話す機会はやってきた。商人が泊まるということで、オルトの家が選ばれたからだ。
商人は若く、デリクと名乗った。オルトとは年の離れた兄と弟のように打ち解けた。
王国の風土とここまでの道のりに、オルトは興味がそそられた。デリクは仕入れたい植物のことをあれこれ聞いてきた。
夜が遅くなっても二人は話した。
寝る頃には外からは、見張りが点けている松明や衣擦れの音しかしなかった。
このまま眠りに落ちて朝が来る……はずだった。
「誰だ、お前たちは! ぎゃっ」
オルトがうつらうつらしていると外から断末魔が聞こえた。
オルトの父は武器を持つと、他の部族の男たちと同様、対処に向かうために外に出た。
オルトとデリクは戸の隙間から外を見る。
集落の中心に向かい悠然と歩く二つの影が見えた。
二人が着ているのはグラズヘイム王国の貴族の平服であり、このようなときに妙に軽装で、デリクは違和感を覚えた。
少年の澄んだよく通る声が届く。
「余の名はプエル。レチタティーヴォ様の元で……」
「……プエル様、そこでどうして黙るんですか」
「う、うん」
少年は何かしっくりこないのか首を傾げている。
オルトはすぐに解決すると楽観していたが、隣で聞いていたデリクは青くなっている。
「まさかと思うけど……雑魔? いや、歪虚?」
デリクは知識を総動員し、分析する。彼らは人間にしては奇妙で、雑魔にしては意志がはっきりしている。
無数の松明に照らされて赤く染まる少年の頬、妙にきらめく紫の瞳。丹精に作られた人形のような容姿、闇の息吹で動く人形。
「レチタティーヴォ様は君たちを所望だ。演目の小道具として……」
プエルは背負っている大剣の柄に手を掛ける。
「その命を差し出せ」
屈むように一気に大剣を引き抜き、一閃する。
集まっていた者たちの幾人かは巻き込まれ血の華を咲かす。深紅の花びらを散らし倒れた。
悲鳴が起こり、戦力を持たない者たちは散り散りに隠れる。
一方で武器を持った戦士たちは怒号と共に踏み込んだ。
「私の大切なプエル様に触れさせることはしません。このエクエス、剣を手に盾となりましょう」
二振りの剣を振るい、戦士たちを牽制する。鋭い突きに、巻き込まれ倒れる者もあった。
「母さんたちは隠れて」
オルトは言うと武器を手に外に向おうとする。
「駄目だ、馬があるから、うまく外に行って助けを求めないと」
「何故!」
「あの二人が歪虚なら、もっと人がいる」
デリクは「部族の戦士では太刀打ちできない」という言葉を飲み込んでいた。不意打ちの一閃だったとはいえ、確実に命を奪う。
「デリクだけ行けばいい」
「駄目だ、馬があるところまで行っても、見つからないように外に行くには、集落に詳しい人がいないと」
妹を逃がすこともオルトは考えるが、母親を見ると「行きなさい」と小さく口を動かしている。
「分かった」
二人はこっそり出る。短時間でこれほど血の匂いが漂うのかと恐怖に身がすくむ。
デリクが乗ってきた馬は怯えているが、何とかなりそうだである。
無事、集落の出口まで来た。
「僕はここに残る」
オルトにデリクは声を掛けようとした瞬間、オルトの背中がぱっくりと口を開き血を吐き出した。
デリクは倒れるオルトを抱きしめ、攻撃元を見る。エクエスの金色の瞳が見つめ返しており、口元は楽しそうに歪んでいる。
攻撃はしてこず、別の者に剣を振う。
逃げられるなら逃げてみろという風にとらえ、デリクは馬に乗った。意識がないオルトを抱きしめて。
●妬心
プエルが剣を振るった分だけ、命は消え、死体が積み重なった。
一息ついて、これでいいのかなと思案するように首をかしげた。
家屋の中にはまだ生きている人間がいるし、それに用があるのは死体だから。
頬につく血に気付いて、プエルは袖でぬぐった。
「駄目です」
エクエスがハンカチを取り出してしゃがむと、プエルの頬をかいがいしくぬぐう。
プエルは思い出したことがあり、乱暴にエクエスの手を払いのける。
「お前、逃がしただろう」
「逃がしたわけではありません」
エクエスはいけしゃあしゃあと言いながら、プエルを見つめる。
プエルは唇をとがらせて睨み付けているが、エクエスにとってみれば可愛らしくて怯える要素は全くない。
溜息をついてプエルは背中の鞘に剣を戻す。
「レチタティーヴォ様のために僕はやらないと。こいつら滅ぼすなら、ちゃんとやらないと。人間なんていても仕方がないもの。すぐに僕の大切なものを奪うから」
エクエスはプエルが震えているのが分かった。
「わたくしが参りましょうか?」
エクエスは肩を抱いて耳元でささやく。
プエルは微笑をエクエスに向けるが、エクエスは苛立ちをおぼえずにはいられない。
「余が行く。すぐに戻ってくるよ。馬があっても遠くまでは行ってはおらぬだろう? お前は生き残っている奴らを全て狩れ」
「並行して、死体に関しては進めておきます」
プエルは軽やかに集落の外に向かった。
●絶叫
背中から流れる血は止まらない。
きちんと手当するには馬を止めないとならない。
「デリク……僕はいい」
「駄目だ、早く、行けば聖導士もいるんだ、確実に治る」
ずり落ちる彼を支える為、馬は遅々として進まない。
「追いかけてくるよ」
呼吸は荒く、しゃべるのが辛いはずだ。
「部族の戦士が倒しているさ」
デリクの言葉に、オルトは小さく笑った。
「うん、そうだね。だから、置いて行って」
このままだと助けを求めに出た意味がない。
デリクは馬を止めると、上着を脱ぎオルトの傷を隠すように着せ、茂みに彼を隠した。
「すぐに迎えに来るから」
「うん、待ってる」
デリクは必死に馬を駆った。
馬の足の遅さに、いらだちが募る。
実験場が見えた。
デリクは叫ばずにいられなかった。
「助けてくれ! 早く! 集落が消える! オルトが死んでしまう!」
背後は崖があり、谷や緑によって隠されている集落。
こもっているから安全、とその部族は信じていた。
そこで育つオルトもそう考える。
部族を守るのは地形だけでなく、戦士たちもいる。
年頃の少年ともなれば、戦う彼らにあこがれ、将来なりたいものは戦士と子らは言う。
線が細く体力が劣るオルトは戦士になることは諦め、大人の勧めに従い薬草について学ぶことになった。
残念だが仕方がない。勉強も嫌いではなかったので楽しかった。
いつも変わらぬ生活。
歪虚の侵攻があっても、ここは平穏だった。
だから、CAMの話も聞いても現実味がない。オルトは、見てみたいという好奇心はあった。
そこから商人がやってきた。グラズヘイム王国からやってきて、CAMの実験場を足掛かりに辺境を探索しているという。無謀であるというか、将来を見越した勇気と言うかは評価は割れよう。
ただ、オルトの好奇心は商人に向かった。少しでも話したいと願う。
話す機会はやってきた。商人が泊まるということで、オルトの家が選ばれたからだ。
商人は若く、デリクと名乗った。オルトとは年の離れた兄と弟のように打ち解けた。
王国の風土とここまでの道のりに、オルトは興味がそそられた。デリクは仕入れたい植物のことをあれこれ聞いてきた。
夜が遅くなっても二人は話した。
寝る頃には外からは、見張りが点けている松明や衣擦れの音しかしなかった。
このまま眠りに落ちて朝が来る……はずだった。
「誰だ、お前たちは! ぎゃっ」
オルトがうつらうつらしていると外から断末魔が聞こえた。
オルトの父は武器を持つと、他の部族の男たちと同様、対処に向かうために外に出た。
オルトとデリクは戸の隙間から外を見る。
集落の中心に向かい悠然と歩く二つの影が見えた。
二人が着ているのはグラズヘイム王国の貴族の平服であり、このようなときに妙に軽装で、デリクは違和感を覚えた。
少年の澄んだよく通る声が届く。
「余の名はプエル。レチタティーヴォ様の元で……」
「……プエル様、そこでどうして黙るんですか」
「う、うん」
少年は何かしっくりこないのか首を傾げている。
オルトはすぐに解決すると楽観していたが、隣で聞いていたデリクは青くなっている。
「まさかと思うけど……雑魔? いや、歪虚?」
デリクは知識を総動員し、分析する。彼らは人間にしては奇妙で、雑魔にしては意志がはっきりしている。
無数の松明に照らされて赤く染まる少年の頬、妙にきらめく紫の瞳。丹精に作られた人形のような容姿、闇の息吹で動く人形。
「レチタティーヴォ様は君たちを所望だ。演目の小道具として……」
プエルは背負っている大剣の柄に手を掛ける。
「その命を差し出せ」
屈むように一気に大剣を引き抜き、一閃する。
集まっていた者たちの幾人かは巻き込まれ血の華を咲かす。深紅の花びらを散らし倒れた。
悲鳴が起こり、戦力を持たない者たちは散り散りに隠れる。
一方で武器を持った戦士たちは怒号と共に踏み込んだ。
「私の大切なプエル様に触れさせることはしません。このエクエス、剣を手に盾となりましょう」
二振りの剣を振るい、戦士たちを牽制する。鋭い突きに、巻き込まれ倒れる者もあった。
「母さんたちは隠れて」
オルトは言うと武器を手に外に向おうとする。
「駄目だ、馬があるから、うまく外に行って助けを求めないと」
「何故!」
「あの二人が歪虚なら、もっと人がいる」
デリクは「部族の戦士では太刀打ちできない」という言葉を飲み込んでいた。不意打ちの一閃だったとはいえ、確実に命を奪う。
「デリクだけ行けばいい」
「駄目だ、馬があるところまで行っても、見つからないように外に行くには、集落に詳しい人がいないと」
妹を逃がすこともオルトは考えるが、母親を見ると「行きなさい」と小さく口を動かしている。
「分かった」
二人はこっそり出る。短時間でこれほど血の匂いが漂うのかと恐怖に身がすくむ。
デリクが乗ってきた馬は怯えているが、何とかなりそうだである。
無事、集落の出口まで来た。
「僕はここに残る」
オルトにデリクは声を掛けようとした瞬間、オルトの背中がぱっくりと口を開き血を吐き出した。
デリクは倒れるオルトを抱きしめ、攻撃元を見る。エクエスの金色の瞳が見つめ返しており、口元は楽しそうに歪んでいる。
攻撃はしてこず、別の者に剣を振う。
逃げられるなら逃げてみろという風にとらえ、デリクは馬に乗った。意識がないオルトを抱きしめて。
●妬心
プエルが剣を振るった分だけ、命は消え、死体が積み重なった。
一息ついて、これでいいのかなと思案するように首をかしげた。
家屋の中にはまだ生きている人間がいるし、それに用があるのは死体だから。
頬につく血に気付いて、プエルは袖でぬぐった。
「駄目です」
エクエスがハンカチを取り出してしゃがむと、プエルの頬をかいがいしくぬぐう。
プエルは思い出したことがあり、乱暴にエクエスの手を払いのける。
「お前、逃がしただろう」
「逃がしたわけではありません」
エクエスはいけしゃあしゃあと言いながら、プエルを見つめる。
プエルは唇をとがらせて睨み付けているが、エクエスにとってみれば可愛らしくて怯える要素は全くない。
溜息をついてプエルは背中の鞘に剣を戻す。
「レチタティーヴォ様のために僕はやらないと。こいつら滅ぼすなら、ちゃんとやらないと。人間なんていても仕方がないもの。すぐに僕の大切なものを奪うから」
エクエスはプエルが震えているのが分かった。
「わたくしが参りましょうか?」
エクエスは肩を抱いて耳元でささやく。
プエルは微笑をエクエスに向けるが、エクエスは苛立ちをおぼえずにはいられない。
「余が行く。すぐに戻ってくるよ。馬があっても遠くまでは行ってはおらぬだろう? お前は生き残っている奴らを全て狩れ」
「並行して、死体に関しては進めておきます」
プエルは軽やかに集落の外に向かった。
●絶叫
背中から流れる血は止まらない。
きちんと手当するには馬を止めないとならない。
「デリク……僕はいい」
「駄目だ、早く、行けば聖導士もいるんだ、確実に治る」
ずり落ちる彼を支える為、馬は遅々として進まない。
「追いかけてくるよ」
呼吸は荒く、しゃべるのが辛いはずだ。
「部族の戦士が倒しているさ」
デリクの言葉に、オルトは小さく笑った。
「うん、そうだね。だから、置いて行って」
このままだと助けを求めに出た意味がない。
デリクは馬を止めると、上着を脱ぎオルトの傷を隠すように着せ、茂みに彼を隠した。
「すぐに迎えに来るから」
「うん、待ってる」
デリクは必死に馬を駆った。
馬の足の遅さに、いらだちが募る。
実験場が見えた。
デリクは叫ばずにいられなかった。
「助けてくれ! 早く! 集落が消える! オルトが死んでしまう!」
リプレイ本文
●焦燥
歪虚による集落の襲撃の報を聞き、居合わせたハンターたちは最短で準備をした。
デリクが申し出た同行に関しては否はなく、オルト発見が早くなる利点と考えた。
「人型の歪虚が二体……一体何の目的で? 気にはなるけれど、今はオルト君と集落の人たちが心配だ。ことは一刻を争う、急ごう」
誠堂 匠(ka2876)は逸る気持ちを抑え、仲間を馬上で待つ。
「なんにせよ、歪虚は殲滅しねぇとな。奴らをのさばらせる理由はない」
トマーゾ・ヴェント(ka3781)は怒りをにじませる。
「立ち止まって考える暇はねぇ。飛ばしていくぜ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は野営地の外に馬の首を向ける。
ハンターたちは自己紹介もそこそこに馬を走らせた、移動しながらでも話はできる。
「襲撃はどんな状況だったんだ?」
アーサー・ホーガン(ka0471)は馬を駆り始めからデリクに尋ねる。
「正面から堂々と来たようです。わざと俺たちを逃がしたのか……と思うと不安です」
集落の地形の事、襲撃者の事をデリクは必死に語った。
「天然の要塞ってのは、入られると弱いよな。まさに牢獄だ」
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は集落の地形を聞き、眉をひそめる。
「遺体を集めてどうするのでしょうか……。犠牲者を冒涜する行為、阻止します」
メル・ミストラル(ka1512)は眦を決する。
「そうだな。殺された挙句、利用されるなんて最悪だ」
クルス(ka3922)は苛立ちを抑えきれない。
「被害は甚大、敵の情報は皆無、此方の戦力は最少。それならば、それ相応の動き方がある。作戦目標は被害拡大の抑制……行くぞ」
君島 防人(ka0181)は二手に分かれて行動することを提案した。
荒野の道だが、集落が近くになるにつれて緑が濃くなる。その入口付近で一行は別れる。
そこはオルトを隠した所であり、追手が隠れている可能性も否定できない場所であった。
●激怒
一人は手負いだからすぐに見つかると思っていた。
二人で逃げたのか、一人は置いて行ったのか、分からないから困る。
途方に暮れ帰りたくなるが、レチタティーヴォのためと思うとぎりぎりまで粘る。
木陰にいると道を馬が疾駆していくのと、近付いてくる明かりが見えた。
プエルは微笑み、大剣を引き抜いた。
防人、アーサー、メルそしてトマーゾは、一秒でも早く集落に着くため馬を疾駆させるが、襲撃されることも警戒する。
木陰に少年の姿を認め、アーサーは振り返るとあらん限りの声で叫んだ。
「奴がいる!」
リカルド、レイオス、匠とクルスはデリクと共に歩く、オルトを救出するため。
先行隊の忠告の叫びが届いたのは、デリクが指差し走り出そうとしたときだった。
「あ、あの木のあたりです」
匠は手裏剣を抜くと、直感で問答無用で投げつける、負傷していたオルトが立っているはずはないから。
リカルドとレイオスも武器を抜きかまえ、クルスはデリクをかばう。
「こんな近くにいたんだね」
傲慢そうな口ぶりの少年の声が響く。
一気に仕掛けるにしても茂みが邪魔で見えない。
茂みからオルトが転がる、胸を貫く大剣の切っ先と共に。
「う、うわああ」
デリクから悲鳴が上がった。
「おかげで仕事が終わったよ、ありがとう」
ピクリとも動かないオルトから大剣を引き抜き、プエルが現れる。優しげな微笑みをたたえながら優雅にお辞儀をした。
隙を見せている今を逃す手はなかった。
「男のクセに保護者がいなきゃ、けが人しか襲えないのかよ?」
レイオスはあざけるように言い、銃の引き金を絞る。手ごたえはあるが、プエルは不快な顔をしているだけだった。
「保護者?」
リカルドと匠がこの隙に回り込んで近づく。まだ攻撃を仕掛けるには距離がある。
後方にいるクルスは前に出た二人にプロテクションを掛けていく。
「集落にいるらしいじゃないか」
レイオスは会話を畳み掛けたが、プエルは笑った。
「ああ、あれは余の友であり、部下だ」
プエルは大きく踏み出すと大剣を薙ぎ払うように振るう。
リカルドと匠は風圧と共に、無数の刃を見た。とっさに回避をして難を逃れる。
レイオスはプエルと近接する二人を縫うように銃弾を放つが、うまく当たらない。
「コッチの方が数は多いんだ。とりあえず退いた方がいいんじゃないのか?」
リカルドがプエルの右側に回り込むように、二振りの刃を振るう。護りの構えを崩さず、フェイントしつつ隙をつこうと距離を取る。
「歪虚でも、頭を割られればタダでは済まないだろう?」
匠は刀を大上段から振るうふりをし、無防備な状況を作りたかったが刃は回避される。
プエルは回避のために後方に飛ぶようにステップを踏み、そのまま再び大剣で薙ぎ払う。
匠は腕に、リカルドは脚に無数の傷ができる。
「そろそろ行くけれど?」
レイオスはプエルに銃口を向けたまま下せない。
クルスはヒールを掛けるために仲間に近づきたいし、デリクを抑えるのに必死でもある。
「止めるさ」
レイオスは銃とバックラーを捨て、刀を抜くとともに全力で移動する。まったく動かないがオルト保護もしたい。
リカルドと匠が今一度攻撃を仕掛ける。しかし、受けた傷が響き、思うように攻撃ができない。
「ふーん、そう」
プエルは大剣を大上段から振り下ろす。
動きが大きくなるプエルに対し、一か八かでリカルドは踏込、渾身の一撃を食らわせる。
プエルが回避したところに、匠とレイオスが切り込むが、紙一重で当たらない。
「余も暇ではないんだ」
手元にも戻すと同時に振るわれた刃をかろうじて避けた匠は、硬直した。喉元に切っ先が当てられている。
動けば殺す、無言の圧力が加わる。
どうすれば起死回生できるか。
「レチタティーヴォ様との約束もあるから、帰らないと……。残念だけど生かしてあげるよ?」
プエルはあっさりと大剣を鞘にしまう。
「君には歩いてもらうのがいいのか、それとも?」
オルトの服を掴むと引きずって歩き出す。
「や、やめろ!」
デリクが悲鳴を上げて走り出すのを、足を止めてプエルは微笑みながら見ている。
「行くな」
クルスが羽交い絞めにしてデリクを止めた。
「楽しんでくれたなら幸いだよ?」
プエルは楽しそうに鎮魂歌を口ずさみ、立ち去った。
●疑義
集落が見えたところで、防人たちは馬から降りる。
近付くにつれて静けさが耳に響き、生臭さが鼻に届く。
どれだけの命が奪われたのか?
「早く行こう」
トマーゾが促した時、防人の魔導短伝話が鳴る。
「……まずは傷の手当をしてくれ」
防人の薄い表情に渋さが加わる。
「抜かれたそうだ」
「……オルトさんは?」
メルの言葉に防人は首を横に振る。
集落に生存者があるならば、なんとしても救出しないとならない。明かりの準備をして、境界をまたいだ。
エクエスは死体のなくなった集落で生存者と遊ぶ。
「あとここだけですね? 火を放ってみるというのも面白いかもしれません」
怯えるような感覚が伝わる。
最後の生存者の遺体すら残らなかった場合、プエルが怒りながら萎れるだろう。その姿を想像するだけでも楽しい。
「ぞくぞくしますね」
ニタリと笑った。
集落に入った瞬間、防人、アーサー、メルとしてトマーゾは凄惨な跡を目撃するが違和感が募る。
「短時間に運び出せるんですか?」
襲撃者が二人であるため、死体を移動させるにしても操って歩かせるかするとメルは想像していた。
「見当違いで、もっと大物がかかわっているとか?」
アーサーは強い物と戦うなら望むところでもあるが、ここにいるだろう存在も大物であるには違いない。
ガタリ。
集落の中央で音がした。
松明を手にした一人の青年が立っている。状況と服装から、殲滅対象だ。
「おや? あなた方はもう来られたのですか?」
困ったような顔をしているが、何に対してかまでは誰も判断はできない。
「遺体は……あなた方が殺した人たちは」
メルは怒りを抑えようと、冷静に行動しようと武器の鎖を握りしめる。
「ああ、出かけていただきましたよ?」
言葉が濁されており、どうやって移動させたかまでは分からない。
「依頼者から聞いた話だが、お前は人間の死体を『演目の小道具』として何に使うつもりだ」
銃を構えたまま、防人が尋ねる。
「あの商人、意外と聞いていたみたいですね?」
エクエスは冷たく笑う。
「何か大きな演目のご準備があるとのことです。私としてはどうでもいいんですが、プエル様がどうしても手伝うとおっしゃるものですから」
アーサーはこの男にやる気が全くないと読み取る。
「重ねて問う。レチタティーヴォの配下を名乗る歪虚が他の戦場にもいるが、彼は何者だ」
防人の言葉に、エクエスは目を細めた。
「事情通のようですね。何者かと問われたら、そうですね……災厄の十三魔……に数えられている方、と答えておきましょう」
語るつもりはないと告げるも同然の返答。
「そうそう、小道具を運んだのも、演目の協力者とでも言っておけばいいんですね?」
エクエスは手を叩く。
「なあ、お前、仕事する気がないなら、退かないのか? それとも、俺たちと遊ぶか? 連れが帰ってきたら、寝かしつけるのに忙しいだろう? 子供はとっくに寝ている時間だからな。生存者を見つけ……」
「それならば、面白くはありませんよ?」
エクエスは松明を家に近付ける。
「プエル様は確かにお子様で記憶力も理解力も悪いようですが、戦いとなるとまた話は別ですよ? 死んでいないといいですね? ご同胞が」
松明を家屋に投げると、エクエスは剣を抜いた。
「きゃあ」
メルは悲鳴を上げ、駆け寄ろうとするがトマーゾが止める。下手に近づけばエクエスの攻撃の餌食だ。
「冷静に」
トマーゾ自分自身にも言い聞かせるように言った。
アーサーとトマーゾが左右から回り込むようには近づく。エクエスが動こうとしている前方からは防人のライフルが狙う。メルのホーリーライトがエクエスに当たる。
「ちぃ」
エクエスは舌打ちをして剣を振るい、トマーゾを狙うが避けられる。
「こっちに来いよ、化け物」
アーサーの巨大な剣はエクエスに当たらなかった。しかし、トマーゾから意識を逸らさすことには成功している。トマーゾは火が付いている家に飛び込んだ。
防人のライフルとメルの魔法が再びエクエスに向かうが、エクエスが踏み出し前に出たため回避された。
「鬱陶しいですね、その光は」
エクエスはメルとの距離を一気に詰めた。防人は一歩下がって距離と向きを変え、エクエスを撃つ。距離を開けられたアーサーは追いかけてエクエスの背後を狙う。
攻撃を受けても気にもせず、狙うべきところにエクエスは一振り剣をつきたてた。
メルは盾で攻撃を受けようとするが、失敗し深々と胴に刺さる剣を見る。傷をふさぐように手で押さえ倒れるしかなかった。
「これで、少しは黙っていただけますよね?」
エクエスに追いついたアーサーが大剣を振るうが、怒りが強くなり過ぎたのか外した。
家に飛び込んだトマーゾは声を掛ける。
「誰かいないか返事しろ。ハンターオフィスから来たトマーゾという」
箱の陰から女性とその娘と思われる少女が現れた。
「お、お兄ちゃんが呼んできた人?」
「とりあえず、外へ」
トマーゾが二人をかばうように出るが、戦況は一転していた。
アサルトライフルをエクエスにポイントして止まる防人。
大剣を振るうタイミングを計るアーサー。
大量の血を流しうずくまるメルと剣を突きつけるエクエス。
「さて、どうしますか? 私は退きますから、武器を仕舞っていただけると良いのですが。早く手当しないとこの方、死にますよ?」
エクエスは楽しそうにしゃべる。
「なぜ、生存者がいるんだ」
集落の入口から、怒気を孕んだ少年の声が響いた。
「も、申し訳ありません、プエル様。生存者を殺そうとしましたが、この者たちが……」
エクエスは情けない声を出し、プエルに許しを請い同情を誘う。
防人は銃口をエクエスに向けたまま動かない。プエルに向けたところで、エクエスは気にしないと直感する。
「逃げた少年の方は?」
「それは解決済みだ。その二人を殺して……」
「駄目です、プエル様。お約束のお時間が……」
プエルの表情に怯えがよぎったように、注視していた者は見た。
「お遣いもできない子どもということか」
防人の呟きが届いたらしく、プエルが睨み付けてくる。
意識がもうろうとするメル、エクエスと接したままのアーサーはエクエスが一瞬笑ったのを見た。
(どっちが上かわからねぇなこいつら)
アーサーは気付いてもこの状況ではどうも動けない。
優位に立ったことを理解しているエクエスは剣を鞘に納めた。
「さて、プエル様帰りましょうか?」
ふて腐れた顔のプエルの手を取ると、集落に一礼をし、荒野に向かい姿を消した。
●憂憤
歪虚による重圧が解けた瞬間、彼らは生きていることが不思議と思えた。
何が出るか分からないため防人はライフルは構えたまま、魔導短伝話で連絡を取る。
「メル」
アーサーはメルを抱きかかえる。
「すみません」
「あの、私でよければ診ます」
救出された女性が近寄ってくる。アーサーは女性に頼むことにした。
「火を消さないと」
トマーゾは周りに燃え移らないか目を走らせていると、リカルド、レイオス、匠とクルス、憔悴しきったデリクがやってきた。
「俺が来たから大丈夫だ」
ヒールを限界まで使って来ているクルスは、疲労もあったが努め明るい表情を作りメルの傷を治す。
「ありがとうございます」
「お返しにヒールをもらいたいよ」
この軽口は生きているという実感を生じさせる。
「ひでぇな」
レイオスは眉を寄せ、朝日により鮮明になった集落を見る。
血を吸った地面。
衝撃を受けた壁。
昨日の今頃は朝の挨拶を始めていただろうが、今は死体すらない。
母娘が助かったことは運が良かったのだ。デリクと面識があるようで、話をしている。
「お兄ちゃんは?」
デリクはみるみる顔をゆがめ、号泣した。
「ごめん、ごめんなさい……。オルト君を連れていければ、連れて行っていれば……」
少女はデリクの袖をつかんでゆする。母親は表情硬くデリクに告げる。
「あなたのおかげで私たちは助かったのよ」
「違う……もっと、もっと早く助けを」
デリクの言葉に母親は首を横に振った。
「人っ子一人いない」
リカルドは集落を見て回って唇を噛んだ。
「許せない……」
匠が小さくつぶやいたのを聞き、アーサーは同意を示すように肩を叩いた。
「あんたたちはどうする?」
防人の問いかけに、母親は仮のハンターオフィスがあるところまで一緒にいきたいと言い、お礼を述べた。
これ以上の悲劇は繰り返せないと、歪虚を倒すという決意が新たにした。
歪虚による集落の襲撃の報を聞き、居合わせたハンターたちは最短で準備をした。
デリクが申し出た同行に関しては否はなく、オルト発見が早くなる利点と考えた。
「人型の歪虚が二体……一体何の目的で? 気にはなるけれど、今はオルト君と集落の人たちが心配だ。ことは一刻を争う、急ごう」
誠堂 匠(ka2876)は逸る気持ちを抑え、仲間を馬上で待つ。
「なんにせよ、歪虚は殲滅しねぇとな。奴らをのさばらせる理由はない」
トマーゾ・ヴェント(ka3781)は怒りをにじませる。
「立ち止まって考える暇はねぇ。飛ばしていくぜ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は野営地の外に馬の首を向ける。
ハンターたちは自己紹介もそこそこに馬を走らせた、移動しながらでも話はできる。
「襲撃はどんな状況だったんだ?」
アーサー・ホーガン(ka0471)は馬を駆り始めからデリクに尋ねる。
「正面から堂々と来たようです。わざと俺たちを逃がしたのか……と思うと不安です」
集落の地形の事、襲撃者の事をデリクは必死に語った。
「天然の要塞ってのは、入られると弱いよな。まさに牢獄だ」
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は集落の地形を聞き、眉をひそめる。
「遺体を集めてどうするのでしょうか……。犠牲者を冒涜する行為、阻止します」
メル・ミストラル(ka1512)は眦を決する。
「そうだな。殺された挙句、利用されるなんて最悪だ」
クルス(ka3922)は苛立ちを抑えきれない。
「被害は甚大、敵の情報は皆無、此方の戦力は最少。それならば、それ相応の動き方がある。作戦目標は被害拡大の抑制……行くぞ」
君島 防人(ka0181)は二手に分かれて行動することを提案した。
荒野の道だが、集落が近くになるにつれて緑が濃くなる。その入口付近で一行は別れる。
そこはオルトを隠した所であり、追手が隠れている可能性も否定できない場所であった。
●激怒
一人は手負いだからすぐに見つかると思っていた。
二人で逃げたのか、一人は置いて行ったのか、分からないから困る。
途方に暮れ帰りたくなるが、レチタティーヴォのためと思うとぎりぎりまで粘る。
木陰にいると道を馬が疾駆していくのと、近付いてくる明かりが見えた。
プエルは微笑み、大剣を引き抜いた。
防人、アーサー、メルそしてトマーゾは、一秒でも早く集落に着くため馬を疾駆させるが、襲撃されることも警戒する。
木陰に少年の姿を認め、アーサーは振り返るとあらん限りの声で叫んだ。
「奴がいる!」
リカルド、レイオス、匠とクルスはデリクと共に歩く、オルトを救出するため。
先行隊の忠告の叫びが届いたのは、デリクが指差し走り出そうとしたときだった。
「あ、あの木のあたりです」
匠は手裏剣を抜くと、直感で問答無用で投げつける、負傷していたオルトが立っているはずはないから。
リカルドとレイオスも武器を抜きかまえ、クルスはデリクをかばう。
「こんな近くにいたんだね」
傲慢そうな口ぶりの少年の声が響く。
一気に仕掛けるにしても茂みが邪魔で見えない。
茂みからオルトが転がる、胸を貫く大剣の切っ先と共に。
「う、うわああ」
デリクから悲鳴が上がった。
「おかげで仕事が終わったよ、ありがとう」
ピクリとも動かないオルトから大剣を引き抜き、プエルが現れる。優しげな微笑みをたたえながら優雅にお辞儀をした。
隙を見せている今を逃す手はなかった。
「男のクセに保護者がいなきゃ、けが人しか襲えないのかよ?」
レイオスはあざけるように言い、銃の引き金を絞る。手ごたえはあるが、プエルは不快な顔をしているだけだった。
「保護者?」
リカルドと匠がこの隙に回り込んで近づく。まだ攻撃を仕掛けるには距離がある。
後方にいるクルスは前に出た二人にプロテクションを掛けていく。
「集落にいるらしいじゃないか」
レイオスは会話を畳み掛けたが、プエルは笑った。
「ああ、あれは余の友であり、部下だ」
プエルは大きく踏み出すと大剣を薙ぎ払うように振るう。
リカルドと匠は風圧と共に、無数の刃を見た。とっさに回避をして難を逃れる。
レイオスはプエルと近接する二人を縫うように銃弾を放つが、うまく当たらない。
「コッチの方が数は多いんだ。とりあえず退いた方がいいんじゃないのか?」
リカルドがプエルの右側に回り込むように、二振りの刃を振るう。護りの構えを崩さず、フェイントしつつ隙をつこうと距離を取る。
「歪虚でも、頭を割られればタダでは済まないだろう?」
匠は刀を大上段から振るうふりをし、無防備な状況を作りたかったが刃は回避される。
プエルは回避のために後方に飛ぶようにステップを踏み、そのまま再び大剣で薙ぎ払う。
匠は腕に、リカルドは脚に無数の傷ができる。
「そろそろ行くけれど?」
レイオスはプエルに銃口を向けたまま下せない。
クルスはヒールを掛けるために仲間に近づきたいし、デリクを抑えるのに必死でもある。
「止めるさ」
レイオスは銃とバックラーを捨て、刀を抜くとともに全力で移動する。まったく動かないがオルト保護もしたい。
リカルドと匠が今一度攻撃を仕掛ける。しかし、受けた傷が響き、思うように攻撃ができない。
「ふーん、そう」
プエルは大剣を大上段から振り下ろす。
動きが大きくなるプエルに対し、一か八かでリカルドは踏込、渾身の一撃を食らわせる。
プエルが回避したところに、匠とレイオスが切り込むが、紙一重で当たらない。
「余も暇ではないんだ」
手元にも戻すと同時に振るわれた刃をかろうじて避けた匠は、硬直した。喉元に切っ先が当てられている。
動けば殺す、無言の圧力が加わる。
どうすれば起死回生できるか。
「レチタティーヴォ様との約束もあるから、帰らないと……。残念だけど生かしてあげるよ?」
プエルはあっさりと大剣を鞘にしまう。
「君には歩いてもらうのがいいのか、それとも?」
オルトの服を掴むと引きずって歩き出す。
「や、やめろ!」
デリクが悲鳴を上げて走り出すのを、足を止めてプエルは微笑みながら見ている。
「行くな」
クルスが羽交い絞めにしてデリクを止めた。
「楽しんでくれたなら幸いだよ?」
プエルは楽しそうに鎮魂歌を口ずさみ、立ち去った。
●疑義
集落が見えたところで、防人たちは馬から降りる。
近付くにつれて静けさが耳に響き、生臭さが鼻に届く。
どれだけの命が奪われたのか?
「早く行こう」
トマーゾが促した時、防人の魔導短伝話が鳴る。
「……まずは傷の手当をしてくれ」
防人の薄い表情に渋さが加わる。
「抜かれたそうだ」
「……オルトさんは?」
メルの言葉に防人は首を横に振る。
集落に生存者があるならば、なんとしても救出しないとならない。明かりの準備をして、境界をまたいだ。
エクエスは死体のなくなった集落で生存者と遊ぶ。
「あとここだけですね? 火を放ってみるというのも面白いかもしれません」
怯えるような感覚が伝わる。
最後の生存者の遺体すら残らなかった場合、プエルが怒りながら萎れるだろう。その姿を想像するだけでも楽しい。
「ぞくぞくしますね」
ニタリと笑った。
集落に入った瞬間、防人、アーサー、メルとしてトマーゾは凄惨な跡を目撃するが違和感が募る。
「短時間に運び出せるんですか?」
襲撃者が二人であるため、死体を移動させるにしても操って歩かせるかするとメルは想像していた。
「見当違いで、もっと大物がかかわっているとか?」
アーサーは強い物と戦うなら望むところでもあるが、ここにいるだろう存在も大物であるには違いない。
ガタリ。
集落の中央で音がした。
松明を手にした一人の青年が立っている。状況と服装から、殲滅対象だ。
「おや? あなた方はもう来られたのですか?」
困ったような顔をしているが、何に対してかまでは誰も判断はできない。
「遺体は……あなた方が殺した人たちは」
メルは怒りを抑えようと、冷静に行動しようと武器の鎖を握りしめる。
「ああ、出かけていただきましたよ?」
言葉が濁されており、どうやって移動させたかまでは分からない。
「依頼者から聞いた話だが、お前は人間の死体を『演目の小道具』として何に使うつもりだ」
銃を構えたまま、防人が尋ねる。
「あの商人、意外と聞いていたみたいですね?」
エクエスは冷たく笑う。
「何か大きな演目のご準備があるとのことです。私としてはどうでもいいんですが、プエル様がどうしても手伝うとおっしゃるものですから」
アーサーはこの男にやる気が全くないと読み取る。
「重ねて問う。レチタティーヴォの配下を名乗る歪虚が他の戦場にもいるが、彼は何者だ」
防人の言葉に、エクエスは目を細めた。
「事情通のようですね。何者かと問われたら、そうですね……災厄の十三魔……に数えられている方、と答えておきましょう」
語るつもりはないと告げるも同然の返答。
「そうそう、小道具を運んだのも、演目の協力者とでも言っておけばいいんですね?」
エクエスは手を叩く。
「なあ、お前、仕事する気がないなら、退かないのか? それとも、俺たちと遊ぶか? 連れが帰ってきたら、寝かしつけるのに忙しいだろう? 子供はとっくに寝ている時間だからな。生存者を見つけ……」
「それならば、面白くはありませんよ?」
エクエスは松明を家に近付ける。
「プエル様は確かにお子様で記憶力も理解力も悪いようですが、戦いとなるとまた話は別ですよ? 死んでいないといいですね? ご同胞が」
松明を家屋に投げると、エクエスは剣を抜いた。
「きゃあ」
メルは悲鳴を上げ、駆け寄ろうとするがトマーゾが止める。下手に近づけばエクエスの攻撃の餌食だ。
「冷静に」
トマーゾ自分自身にも言い聞かせるように言った。
アーサーとトマーゾが左右から回り込むようには近づく。エクエスが動こうとしている前方からは防人のライフルが狙う。メルのホーリーライトがエクエスに当たる。
「ちぃ」
エクエスは舌打ちをして剣を振るい、トマーゾを狙うが避けられる。
「こっちに来いよ、化け物」
アーサーの巨大な剣はエクエスに当たらなかった。しかし、トマーゾから意識を逸らさすことには成功している。トマーゾは火が付いている家に飛び込んだ。
防人のライフルとメルの魔法が再びエクエスに向かうが、エクエスが踏み出し前に出たため回避された。
「鬱陶しいですね、その光は」
エクエスはメルとの距離を一気に詰めた。防人は一歩下がって距離と向きを変え、エクエスを撃つ。距離を開けられたアーサーは追いかけてエクエスの背後を狙う。
攻撃を受けても気にもせず、狙うべきところにエクエスは一振り剣をつきたてた。
メルは盾で攻撃を受けようとするが、失敗し深々と胴に刺さる剣を見る。傷をふさぐように手で押さえ倒れるしかなかった。
「これで、少しは黙っていただけますよね?」
エクエスに追いついたアーサーが大剣を振るうが、怒りが強くなり過ぎたのか外した。
家に飛び込んだトマーゾは声を掛ける。
「誰かいないか返事しろ。ハンターオフィスから来たトマーゾという」
箱の陰から女性とその娘と思われる少女が現れた。
「お、お兄ちゃんが呼んできた人?」
「とりあえず、外へ」
トマーゾが二人をかばうように出るが、戦況は一転していた。
アサルトライフルをエクエスにポイントして止まる防人。
大剣を振るうタイミングを計るアーサー。
大量の血を流しうずくまるメルと剣を突きつけるエクエス。
「さて、どうしますか? 私は退きますから、武器を仕舞っていただけると良いのですが。早く手当しないとこの方、死にますよ?」
エクエスは楽しそうにしゃべる。
「なぜ、生存者がいるんだ」
集落の入口から、怒気を孕んだ少年の声が響いた。
「も、申し訳ありません、プエル様。生存者を殺そうとしましたが、この者たちが……」
エクエスは情けない声を出し、プエルに許しを請い同情を誘う。
防人は銃口をエクエスに向けたまま動かない。プエルに向けたところで、エクエスは気にしないと直感する。
「逃げた少年の方は?」
「それは解決済みだ。その二人を殺して……」
「駄目です、プエル様。お約束のお時間が……」
プエルの表情に怯えがよぎったように、注視していた者は見た。
「お遣いもできない子どもということか」
防人の呟きが届いたらしく、プエルが睨み付けてくる。
意識がもうろうとするメル、エクエスと接したままのアーサーはエクエスが一瞬笑ったのを見た。
(どっちが上かわからねぇなこいつら)
アーサーは気付いてもこの状況ではどうも動けない。
優位に立ったことを理解しているエクエスは剣を鞘に納めた。
「さて、プエル様帰りましょうか?」
ふて腐れた顔のプエルの手を取ると、集落に一礼をし、荒野に向かい姿を消した。
●憂憤
歪虚による重圧が解けた瞬間、彼らは生きていることが不思議と思えた。
何が出るか分からないため防人はライフルは構えたまま、魔導短伝話で連絡を取る。
「メル」
アーサーはメルを抱きかかえる。
「すみません」
「あの、私でよければ診ます」
救出された女性が近寄ってくる。アーサーは女性に頼むことにした。
「火を消さないと」
トマーゾは周りに燃え移らないか目を走らせていると、リカルド、レイオス、匠とクルス、憔悴しきったデリクがやってきた。
「俺が来たから大丈夫だ」
ヒールを限界まで使って来ているクルスは、疲労もあったが努め明るい表情を作りメルの傷を治す。
「ありがとうございます」
「お返しにヒールをもらいたいよ」
この軽口は生きているという実感を生じさせる。
「ひでぇな」
レイオスは眉を寄せ、朝日により鮮明になった集落を見る。
血を吸った地面。
衝撃を受けた壁。
昨日の今頃は朝の挨拶を始めていただろうが、今は死体すらない。
母娘が助かったことは運が良かったのだ。デリクと面識があるようで、話をしている。
「お兄ちゃんは?」
デリクはみるみる顔をゆがめ、号泣した。
「ごめん、ごめんなさい……。オルト君を連れていければ、連れて行っていれば……」
少女はデリクの袖をつかんでゆする。母親は表情硬くデリクに告げる。
「あなたのおかげで私たちは助かったのよ」
「違う……もっと、もっと早く助けを」
デリクの言葉に母親は首を横に振った。
「人っ子一人いない」
リカルドは集落を見て回って唇を噛んだ。
「許せない……」
匠が小さくつぶやいたのを聞き、アーサーは同意を示すように肩を叩いた。
「あんたたちはどうする?」
防人の問いかけに、母親は仮のハンターオフィスがあるところまで一緒にいきたいと言い、お礼を述べた。
これ以上の悲劇は繰り返せないと、歪虚を倒すという決意が新たにした。
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【相談】ピグマリオ襲撃 君島 防人(ka0181) 人間(リアルブルー)|25才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/04/08 06:35:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/04 19:17:58 |