ゲスト
(ka0000)
ブラストエッジ鉱山攻略戦:突入編2
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/07 07:30
- 完成日
- 2015/04/15 05:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「コボルドと人間が分かり合う事は出来るのか、かい?」
シュシュの言葉を反芻するようにカルガナは繰り返す。そして苦笑を浮かべ。
「難しい問題だね。僕には何とも言えない」
「ブラストエッジのコボルド達の中には、ホロンの他にも同じように分かり合う事の出来る者がいるんじゃないかって、そう思うんだべよ」
先の突入作戦の際、シュシュ達は出会ったコボルドとほんの少しだけだが通じ合う事が出来た。
その時シュシュは思ったのだ。人間とコボルドが、侵略者と復讐者という括りを超えて、相互理解を果たすことも可能なのではないか、と。
「実際、ホロンは帝国軍に協力的だ。もう仲間と認めてあげてもいいべ?」
カルガナは難しい表情を浮かべ、コーヒーを淹れながら語る。
「シュシュ君は帝国の歴史について勉強しているかな?」
きょとんとした後、シュシュは首を横にふる。そもそも帝国の事は嫌いだったので勉強しようなんて発想自体なかった。
「それだよ。人と人との争いの歴史は不理解の歴史だ。相手を知ろうとしないから、相手を知らないから簡単に殺戮が出来る」
例えば……そう前置きして、カルガナが取り出したのは一つのマグカップだ。それはシュシュも何度かコーヒーを淹れてもらったので覚えている。
「このマグカップはもう古くていつ壊れてもおかしくない。だからここで割ろうと思う」
「えっ!?」
「なんで今、自分が驚いたのかわかる?」
首をかしげるシュシュ。もう全然何を言われているのかわからない。
「じゃあ、こっちのカップはどう? 全く君の見覚えのないこのマグカップが、道端に捨てられていたらどう思う?」
「え……? 別に、どうもこうも……」
「ではどうしてこのカップが割れると思ったら、君は“えっ?”って思ったのかな?」
カルガナはニッコリと笑い、それからカップにコーヒーを注いでシュシュへ差し出した。
「それは君が、このカップを知っていたからだ」
――それは、どんなモノにでも言える。
全くその本質が同じであったとしても、「知っているかどうか」で感情は変わる。
見ず知らずの野良猫が道端で死んでいるのと、何年も生活を共にしたペットが死んでいるのとでは話が違う。
全くどこの誰かわからない他人が事故で死んでも人は悲しまない。けれど、知り合いや友人、家族であれば話が変わる。
「君は帝国は嫌いだと言って知ろうともしなかった。その不理解が人を殺すんだ」
何も言い返せなかった。ホロンだってそうだ。今は殺したくないし彼を救いたいと考えているが、それも彼を知ったからこそ。
彼のことを何も知らずただ戦場で出会ったなら、迷いなく斧を振り下ろしていたに違いない。
「コボルドは人間をよく知らないし、人間はコボルドをよく知らない。だからお互いにとってただの敵でしかないんだ。そこを行くと、ホロンは確かに違う。彼は人間とコボルド両方を理解し、両方と共に時を過ごした。だから彼にとってはもう同族も、そして人間さえも、“見ず知らずの生き物”じゃない」
「だからホロンは……。でも、そうでないコボルドや人間達は……」
「帝国の歴史はね。そもそも侵略の歴史なんだ。領地として荒れ果てた土地を与えられたかつての王国騎士は、自らの生存圏を勝ち取る為、当時は亜人の楽園だったこの場所に侵略を行った」
国はなくとも大小様々な集落があったという。後の帝国皇帝となる騎士は、自らの騎士団を率い、王国の脅威となる、そして自らの繁栄の邪魔になる亜人を狩り続けた。
「沢山の集落が滅んで、帝国に吸収された。コボルド族も例外じゃない。コボルドにとって帝国は、もうずっとずっと昔から侵略者なんだよ」
この戦いは確かに最近始まった事だ。だがその二つの種族の憎みあう構図は、何百年も続いている。
「それを止めて、お互いを理解して、戦いを止める。それがどれだけ難しい事か、君にもわかるだろう?」
「だとしても、分かり合う努力をすれば……」
「コボルドと分かり合えたと言ったけれど、それも本当かどうかわからない」
「だけど……」
「本当だったとしても、そのコボルドは今目の前の命の危機と人間を天秤に乗せ比べ、どっちがマシか判断しただけだ。目の前の脅威を失えば、また人間と敵対するかもしれない」
そう、分かり合えた保障などないのだ。そしてそのふれあいが真実だったとしても、それが永遠とは限らない。
「いつ裏切るかわからない隣人と、どうやって平穏な未来を作ればいいのかな?」
共通の敵がいるから、人は分かり合える。身を守る為手を取り合うのは、生存本能だ。
けれど本能は残酷で、平和が訪れればまた自らの欲望から争いを求めてしまう。
世界には限りがあるから、今より幸せになりたかったらどここから切り取るしかない。
この鉱山での戦いはまるで人の業そのものだ。開拓村の人達を守る為? 帝国の、そして自分の未来の為?
そんな綺麗事の言い訳がコボルドに通じるものか。これまで死んでいった者達の無念が、そんな正義で癒されるものか。
「だけど君は知っている筈だよ。生きるという事は、何かを奪うという事だと」
部族として辺境で育った時、まだシュシュは幼かった。狩りをして動物の命を奪い、肉を得る事。それに罪悪感を抱いた事など無かった。
当たり前だったからだ。当たり前。人は何かの命を奪って当たり前。
「それが、少し大きな規模になっている。ただ、それだけの事なんだよ――」
ブラストエッジ鉱山内、イヲの集落。
その中心にある溶鉱炉では今日もせっせとイヲ族達が掘り出した鉱石を溶かし、鉄を作っていた。
「もっともっと働くのよぉ~ん。ノルマ分を納品するまで食事も抜きよぉ~ん」
そこへ巨大な鉱山獣に跨った大型のコボルドがやってくる。コボルドは鞭を振るい、小さなイヲ族達を打ち付ける。
「ぴぃ! お腹ぺこぺこでもう動けねぇ!」
「ぺこぺこ! ぺこぺこ!」
「うるさいのよぉ~ん。文句言う奴は溶鉱炉に放り投げちゃうのよぉ~ん」
鞭の音に怯えて逃げ惑うコボルド達。
「ぴぃぴぃ! ポポル様、お許しを!」
「許してー! 許してー!」
大型のコボルドは甲冑を鳴らしながら大地へ降り立つ。その巨体を支える程大きな鉱山獣を撫でまわし、頬ずりしながら叫ぶ。
「あたちの可愛いゲジゲジちゃ~ん。ご飯をあげるから待ってなさぁ~い」
しかし普段は餌が置かれている祭壇のような場所には何もない。
「ちょっと~エサ係はどうしたのぉ~ん?」
見ればそこには二匹のコボルドが倒れていた。既に息はない。
連日続く過剰な労働と空腹が二人を殺したのだ。その亡骸の傍には人間からもらった小さな食べ物の袋が残っていた。
「ゴミはかたずけてよねぇ~ん」
合図と共に鉱山獣はその長い身体を振るい、死体を隅っこに吹き飛ばす。
その死体を片付ける為に集まってきたコボルド達は、ぴぃぴぃと泣きながら溶鉱炉を後にした。
シュシュの言葉を反芻するようにカルガナは繰り返す。そして苦笑を浮かべ。
「難しい問題だね。僕には何とも言えない」
「ブラストエッジのコボルド達の中には、ホロンの他にも同じように分かり合う事の出来る者がいるんじゃないかって、そう思うんだべよ」
先の突入作戦の際、シュシュ達は出会ったコボルドとほんの少しだけだが通じ合う事が出来た。
その時シュシュは思ったのだ。人間とコボルドが、侵略者と復讐者という括りを超えて、相互理解を果たすことも可能なのではないか、と。
「実際、ホロンは帝国軍に協力的だ。もう仲間と認めてあげてもいいべ?」
カルガナは難しい表情を浮かべ、コーヒーを淹れながら語る。
「シュシュ君は帝国の歴史について勉強しているかな?」
きょとんとした後、シュシュは首を横にふる。そもそも帝国の事は嫌いだったので勉強しようなんて発想自体なかった。
「それだよ。人と人との争いの歴史は不理解の歴史だ。相手を知ろうとしないから、相手を知らないから簡単に殺戮が出来る」
例えば……そう前置きして、カルガナが取り出したのは一つのマグカップだ。それはシュシュも何度かコーヒーを淹れてもらったので覚えている。
「このマグカップはもう古くていつ壊れてもおかしくない。だからここで割ろうと思う」
「えっ!?」
「なんで今、自分が驚いたのかわかる?」
首をかしげるシュシュ。もう全然何を言われているのかわからない。
「じゃあ、こっちのカップはどう? 全く君の見覚えのないこのマグカップが、道端に捨てられていたらどう思う?」
「え……? 別に、どうもこうも……」
「ではどうしてこのカップが割れると思ったら、君は“えっ?”って思ったのかな?」
カルガナはニッコリと笑い、それからカップにコーヒーを注いでシュシュへ差し出した。
「それは君が、このカップを知っていたからだ」
――それは、どんなモノにでも言える。
全くその本質が同じであったとしても、「知っているかどうか」で感情は変わる。
見ず知らずの野良猫が道端で死んでいるのと、何年も生活を共にしたペットが死んでいるのとでは話が違う。
全くどこの誰かわからない他人が事故で死んでも人は悲しまない。けれど、知り合いや友人、家族であれば話が変わる。
「君は帝国は嫌いだと言って知ろうともしなかった。その不理解が人を殺すんだ」
何も言い返せなかった。ホロンだってそうだ。今は殺したくないし彼を救いたいと考えているが、それも彼を知ったからこそ。
彼のことを何も知らずただ戦場で出会ったなら、迷いなく斧を振り下ろしていたに違いない。
「コボルドは人間をよく知らないし、人間はコボルドをよく知らない。だからお互いにとってただの敵でしかないんだ。そこを行くと、ホロンは確かに違う。彼は人間とコボルド両方を理解し、両方と共に時を過ごした。だから彼にとってはもう同族も、そして人間さえも、“見ず知らずの生き物”じゃない」
「だからホロンは……。でも、そうでないコボルドや人間達は……」
「帝国の歴史はね。そもそも侵略の歴史なんだ。領地として荒れ果てた土地を与えられたかつての王国騎士は、自らの生存圏を勝ち取る為、当時は亜人の楽園だったこの場所に侵略を行った」
国はなくとも大小様々な集落があったという。後の帝国皇帝となる騎士は、自らの騎士団を率い、王国の脅威となる、そして自らの繁栄の邪魔になる亜人を狩り続けた。
「沢山の集落が滅んで、帝国に吸収された。コボルド族も例外じゃない。コボルドにとって帝国は、もうずっとずっと昔から侵略者なんだよ」
この戦いは確かに最近始まった事だ。だがその二つの種族の憎みあう構図は、何百年も続いている。
「それを止めて、お互いを理解して、戦いを止める。それがどれだけ難しい事か、君にもわかるだろう?」
「だとしても、分かり合う努力をすれば……」
「コボルドと分かり合えたと言ったけれど、それも本当かどうかわからない」
「だけど……」
「本当だったとしても、そのコボルドは今目の前の命の危機と人間を天秤に乗せ比べ、どっちがマシか判断しただけだ。目の前の脅威を失えば、また人間と敵対するかもしれない」
そう、分かり合えた保障などないのだ。そしてそのふれあいが真実だったとしても、それが永遠とは限らない。
「いつ裏切るかわからない隣人と、どうやって平穏な未来を作ればいいのかな?」
共通の敵がいるから、人は分かり合える。身を守る為手を取り合うのは、生存本能だ。
けれど本能は残酷で、平和が訪れればまた自らの欲望から争いを求めてしまう。
世界には限りがあるから、今より幸せになりたかったらどここから切り取るしかない。
この鉱山での戦いはまるで人の業そのものだ。開拓村の人達を守る為? 帝国の、そして自分の未来の為?
そんな綺麗事の言い訳がコボルドに通じるものか。これまで死んでいった者達の無念が、そんな正義で癒されるものか。
「だけど君は知っている筈だよ。生きるという事は、何かを奪うという事だと」
部族として辺境で育った時、まだシュシュは幼かった。狩りをして動物の命を奪い、肉を得る事。それに罪悪感を抱いた事など無かった。
当たり前だったからだ。当たり前。人は何かの命を奪って当たり前。
「それが、少し大きな規模になっている。ただ、それだけの事なんだよ――」
ブラストエッジ鉱山内、イヲの集落。
その中心にある溶鉱炉では今日もせっせとイヲ族達が掘り出した鉱石を溶かし、鉄を作っていた。
「もっともっと働くのよぉ~ん。ノルマ分を納品するまで食事も抜きよぉ~ん」
そこへ巨大な鉱山獣に跨った大型のコボルドがやってくる。コボルドは鞭を振るい、小さなイヲ族達を打ち付ける。
「ぴぃ! お腹ぺこぺこでもう動けねぇ!」
「ぺこぺこ! ぺこぺこ!」
「うるさいのよぉ~ん。文句言う奴は溶鉱炉に放り投げちゃうのよぉ~ん」
鞭の音に怯えて逃げ惑うコボルド達。
「ぴぃぴぃ! ポポル様、お許しを!」
「許してー! 許してー!」
大型のコボルドは甲冑を鳴らしながら大地へ降り立つ。その巨体を支える程大きな鉱山獣を撫でまわし、頬ずりしながら叫ぶ。
「あたちの可愛いゲジゲジちゃ~ん。ご飯をあげるから待ってなさぁ~い」
しかし普段は餌が置かれている祭壇のような場所には何もない。
「ちょっと~エサ係はどうしたのぉ~ん?」
見ればそこには二匹のコボルドが倒れていた。既に息はない。
連日続く過剰な労働と空腹が二人を殺したのだ。その亡骸の傍には人間からもらった小さな食べ物の袋が残っていた。
「ゴミはかたずけてよねぇ~ん」
合図と共に鉱山獣はその長い身体を振るい、死体を隅っこに吹き飛ばす。
その死体を片付ける為に集まってきたコボルド達は、ぴぃぴぃと泣きながら溶鉱炉を後にした。
リプレイ本文
「投降しろですって? いきなり現れて何言ってんのかしら~?」
レイス(ka1541)はコボルドの言葉を話せない。故に会話はホロンが通訳する。
「帝国軍は殲滅戦の準備を進めている。ここが襲撃を受けるのも時間の問題だ」
「それが何か~?」
「わからないの? ここの戦力で人間に勝てるわけない。皆殺しにされるんだよ?」
「イヲの集落はどうせいい石も取れないし、どいつも弱くて使えないコボルドだけど、時間稼ぎ位にはなるでしょ~?」
天竜寺 舞(ka0377)の問いに兜の下からくぐもった笑い声を放つポポル。言葉は分からないが、それが嘲笑である事くらいはわかる。
「ポポルくんさぁ……なんでそんな酷い事が出来るわけ? 仲間じゃないの?」
「コボルドの中でもイヲという同じ集落に暮らす同族なのに……」
テトラ・ティーニストラ(ka3565)とイェルバート(ka1772)に睨まれてもポポルは怯まない。
「生物には優劣があるわぁ。特にコボルドはそう。弱者は強者に使役される為だけに存在するのよん」
「勝てると本気で思っているのか……人間に?」
目を細めるレイスにポポルは意味深な笑みを返す。同時に鞭を鳴らし、部下を呼び寄せた。
溶鉱炉付近はイヲの領域全体に通路をつなげている。無数の連絡路から鉱山獣やコボルドが続々と集結する。
「人間を呼び込んだ魂胆はわかるけど、残念ねぇ。コボルドと人間が分かり合う事なんて不可能なのよぉ」
そしてポポルが攻撃の合図を出そうとしたその時。レイスが真上に向けた銃の引き金を引いた。
すると何故か鞭を振り上げたポポルの腕が貫かれる。驚くコボルド達の視線の先では、高所に位置する通路で銃を構えた近衛 惣助(ka0510)の姿があった。
纏っていたボロ布はコボルドから借りた物だ。鼻の良いポポルも、コボルドの服を纏えば騙す事が出来る。
「コボルドにも人にも感情があり、心がある」
それはホロンの口から出た、人ではない言葉。
「分かり合えないかどうか、試してみるか?」
通路を疾走する何かが大きく跳躍し、ハンター達の頭上を飛び越える。
それはブラストエッジ鉱山特有の謎の生物、鉱山獣に乗り込んだハンター達の姿であった。
「バカな……鉱山獣はコボルドにしか懐かない!」
しかし良く見れば鉱山獣を操っているのは同じコボルドだ。三体の鉱山獣が乱入し、その背にはハンター達と物資を載せている。
再び惣助の銃撃にポポルがゲジゲジの後ろに隠れると、鉱山獣に乗ってきた神楽(ka2032)は笑みを浮かべ、手持ちの食料を盛大にばら撒いた。
「ここに食料があるっす! 早い物勝ちだから早くしないとなくなるっすよ~!」
極限まで腹を空かせたコボルド達はポポルの命令を無視し食料に駆け寄る。
だが勿論そうではない個体もいる。裏切りを邪魔しようとする個体には神楽も銃を向けた。
「今丁度いい所なんすよねぇ。邪魔はさせないっすよ?」
襲いかかるコボルドを斧に変形させたアックスブレードで纏めて吹っ飛ばすヒースクリフ(ka1686)。
「飯食ってるヤツ以外を狙えばいいんだろ。楽な仕事だ」
「怖がらせちゃってごめんね? あたしたちは貴方たちを助けにきたの!」
テトラは両腕を広げ、受け入れるように笑顔を作る。
「ここから逃げるにも戦うにも、立ち止まってるだけじゃ何にもならない。さぁ! あたし達で自由を勝ち取りに行こうよ!」
「懐柔ですってぇ……!?」
「当たり前でしょ? あたし達が特別な事をしたんじゃない。全てはあんたの自業自得よ!」
舞の言葉に激昂したように咆哮するポポル。雷撃を迸らせるゲジゲジちゃんに跨がり、大地を疾走する。
作戦は簡単だった。なにせ一度成功している策だ。
クズ石置き場にやってきたコボルドを捕らえ、鉱山獣を停止させる。鉱山獣を多少ボコってしまったが、頑丈なので死んではいない。
「急の非礼を詫びよう。これは友好の印だ」
クリスティン・ガフ(ka1090)が蜂蜜を差し出すと、コボルド達はペロペロ舐め始めた。なんかもうこれだけで彼女は満足気だ。
ハンター達はそれぞれ持ちよせた食料を分け与えた。腹を空かせたコボルドからするばとんでもないご馳走である。
「よほど腹が減っていたんだな」
「これからポポルを懲らしめに行くから、巻き込まれたくなかったらそれまで安全な所に避難しててね」
コボルドに語りかける惣助と舞。クリスティンはホロンの両耳をもふもふしながら真顔で考える。
「この鉱山獣を借り受ける事は出来ないだろうか?」
「鉱山獣ハコボルドデナイト操レナイ」
するとコボルド達は顔をあげ、何かをホロンに語りかける。
「鉱山獣ヲ使ウナラ、手ヲ貸スト」
「あっさり裏切られる辺り、ポポルの人柄が知れるね」
溜息を零すイェルバート。しかしシュシュは嬉しそうに、
「でも、これで余計な戦いを避けられるかもしれないべ」
「命を救うって事は救った命のその後だけじゃなく本来死ぬ筈の命が生きる事で生じる結果全てに責任を持たねばなんねっす。その覚悟があるっすか?」
そんな神楽の言葉でシュシュはかくりと肩を落とす。
「また神楽はそうゆうこと言う……」
「命ってのは重いんす。気分で助けていいモンじゃねっすよ。第一、追い出したコボルドはどこで生活するんすか? 綺麗事で命を奪わずとも、もっと酷い末路を迎える可能性だってあるっす」
正直な所、シュシュには命への責任も覚悟もまだない。救いたいのは事実だが、状況を逆転させる力もない。
「弱い俺達は自分だけ助けてればいいんすよ。自分だけで精一杯なんっす」
「命ノ責ヲ持ツ……ソノ考エガ傲慢ナノダ」
応えは意外な所から出た。ホロンはシュシュの傍らに立ち、神楽を見上げる。
「人モ自然ノ一部。人モコボルドモ同ジ。救済モ罪モ、貴殿ラガ勝手ニ作ッタ」
多くの動物達の中で、人だけが罪と罰を抱く。
そしてまるで自分達が世界の中心であり、他の生物の運命を左右出来ると考える。
「命ハ個ニオイテ弱者。貴殿ハ正シイ。故ニ、人が生物以上ニナル必要ハナイ」
「……そっか。確かにコボルドからしてみれば、救うとか救わないとか、そういう物言いが上から目線なんだよね」
イェルバートは口元に手をやり頷く。
「異種族で分かり合うのは至難の業だって思った。だけど、ある意味においてコボルドは人間よりも正直で純粋なんだ」
自分にとっての理を単純に考えて、ポポルを裏切り人間に着く。それは果たして罪なのか?
「シュシュにはまだ覚悟なんてないんよ。だけど、今を必死に生きるホロンを見てると、助けたいって思う」
目を逸らしていい事ではない。だからこそ、甘い覚悟の中で、弱い生き物のままで、この戦いに身を投じていく。
「弱い命が寄り添って、擦れ違いながら生きていく。それが、世界って物なんじゃないかな」
ゲジゲジちゃんが放つ無数の雷撃が岩場を抉る。レイスとテトラはその中を自在に掻い潜る。
「やはー! この程度の攻撃が美少女のテトラちゃんに当たると思ってるのかなー?」
空中を回転しながらウィンクし、手裏剣を投擲する。
「ポポルくんみたいな悪い子には……やはっ♪ 飴玉あげちゃおうかなっ!」
鉱山獣で防御するポポル。更にレイスが飛び込み、鉱山獣の甲殻の隙間に戦槍を突き入れる。
鞭を振るうポポル。惣助は走って移動して角度を変えると再び狙撃を仕掛ける。
「コボルドに無用な犠牲は出したくないんでな……速攻で決めさせて貰う!」
銃撃を受けたポポルは衝撃でゲジゲジの上から転倒。操舵主を失ったゲジゲジは停止し、落ちたポポルを探す。
一方、食べ物に釣られなかったコボルド達も動き出していた。イェルバートは銃を向け、直撃させずに威嚇する。
「いい子だから近づかないで。直ぐに終わらせるから……!」
「ごめん、後で謝るから!」
横にしたクレイモアでコボルドを叩きのめす舞。命さえあれば、傷は癒やす事が出来る。
コボルドにはコボルドの社会的な苦しみがある。その全てを解決する事は出来なくても、これ以上痛めつけるのは忍びない。
背後から襲いかかる鉱山獣にアックスブレードを打ち付けるヒースクリフ。そこへ寝返ったコボルドが加勢に現れ、一斉に鉱山獣に取り付いた。
雷撃で吹っ飛ぶコボルドだが、隙だらけだ。ヒースクリフは渾身の一撃で鉱山獣の首を撥ね飛ばした。
「おいおい、生きてるか……?」
「諦めて殺せっす! 可能性に殺されるっすよ! 全てを助けるなんて綺麗事棄てちまえっす!」
コボルドに狙われたシュシュに神楽が叫ぶ。しかしシュシュは構えた二対の片手斧で近づくコボルドを瞬く間に撃退してしまった。
だが命を奪ったわけではない。放置すればいずれは起き上がってくるだろう。
「トドメを刺せっす! 死んだら夢は叶えられないっす! 夢の為にコボルトを切り捨てろっす!」
「それは違うよ神楽。夢っていうのは……最初から命懸けなんだ!」
嫌いだった皇帝の背中が脳裏を過る。シュシュは敵を殺さず、的確に戦闘不能に追い込んでいく。
「……そういえばアレ、強いんだったな」
過去の出来事を思い出し冷や汗を流すレイス。その横でテトラは雷撃をちょこちょこかわしている。
「やっはー! 美少女一人捕らえられんとは何事かねー?」
「ゲジゲジちゃん、パワーアップよ!」
「そうはさせないんだから!」
周囲に沢山あるマテリアル鉱石へ向かうゲジゲジの前に回り込み、舞が斬撃を放つ。
「機導砲なら……行け!」
イェルバートの構えた銃口から閃光が放たれゲジゲジを打つ。しかしまだ倒れない。
「恨みはないが、一度潰させてもらう」
鉱山獣を操るホロン。背に立ったクリスティンは指先でバーンブレイドの刀身をなぞり、マテリアルを高めていく。
「行くぞホロン、合わせろ!」
ゲジゲジが放つ雷撃は、同じ鉱山獣には無効。そして二人は盾にした鉱山獣から飛び出し、ゲジゲジへ突っ込む。
真下に潜り込んだホロンは跳躍し盾でゲジゲジの顎を打ち上げる。そうして首が真上に向いた瞬間、クリスティンが刃を放った。
赤い軌跡がゲジゲジの首を滑り、緑色の体液を吹き上げる。
「あたちのゲジゲジちゃんんんん!?」
「どうやらここまでだね」
舞がポポルに切っ先を突きつけると、抵抗していたコボルドも動きを止めるのであった。
イヲの領域での戦いは終わった。
舞はジュースの樽に汲んできた癒しの水を傷ついたコボルド達に配り、ついでに傷を応急処置する。
「あたしに出来る事なんてこれくらいだけど……さっきは殴ってごめんね」
「人間とコボルドの友好か。いつか、二つの種族が一緒に冒険できる日が来るのかもしれないな」
肩に銃を乗せ、惣助が笑う。それから溶鉱炉に目を向けた。
「この溶鉱炉はどうする? 破壊するのか?」
「帝国軍が接収すれば、成果物として我々の活動に支援を引き出せるかもしれないな」
未知の技術で作られた炉だ。答えながら調べるレイスだが、下手に触らない方がいいと判断した。
「あいつが教えてくれればいいんだがな」
「生かすも殺すも好きにしろっす~」
惣助の視線の先、神楽は簀巻きにしたポポルをイヲ族達の前に差し出す。
ポポルへの尋問は余り意味を成さなかった。ポポルは意外と口が固く、思うように情報を引き出せなかったのだ。
コボルド達は顔を見合わせ、怒りの声を上げる。そしてポポルを皆で持ち上げると、溶鉱炉の中へ投げ込んだ。
悲鳴が響き渡り、その姿は煮えたぎる炎の中へ消えていく。
「自業自得とは言え、壮絶な最期だね……」
神妙な面持ちでイェルバートが呟く。
「もうすぐ帝国軍の本隊がお前等を皆殺しに来るっす。死にたくないなら直に鉱山からでてけっす」
神楽に言われるまでもなく、この状況では他に道がなかった。皆ここでの生活には辟易していたのだ。
「周囲への略奪を行わず、事が済めばいずれはここで人間と取り引きし生活する道もあるかもしれない。それまで耐えて欲しい」
どちらにせよイヲ族は弱いコボルド。人を襲うだけの力は残っていない。それは彼らの今後が厳しい事も同時に意味しているが。
「これは……舞」
呼ばれて近づくと、そこには食べ物の袋を持ったコボルドの亡骸があった。
「助けに来るの、間に合わなかったんだ……」
「せめて、出来る限りでも埋葬してあげよう」
スコップを取り出し舞に微笑みかけるイェルバート。二人は協力し、倒れたコボルド達を埋めていく。
「カワイイって言うんだよ、カ・ワ・イ・イ♪」
「アワ?」
「アワイ?」
「何やってんだ」
岩の上に立ったテトラは集まったコボルド達に何かを仕込んでいた。
ヒースクリフが突っ込むと岩の上から飛び降り、コボルド達を眺めながら白い歯を見せ笑う。
「やは、友好の印に挨拶を教えてあげようと思ってね♪」
「アワワ」
「どうやら、一部のコボルドは今後の身の振りに迷っているようだな」
惣助は全体を眺めながら呟く。そそくさと逃げていく者が殆どだが、中にはテトラ組のような者もいる。
「カワイイ……」
「別に真似なくてもいいと思うぞ?」
「真似ではない」
真顔のクリスティンに冷や汗を流す惣助。と、そこにホロンが数体のコボルドを引き連れてきた。
「我々ニ協力ヲ申シ出タ者ガイル」
それは道中で仲間にしたコボルドを始め、十数体。
「みんな……」
「シュシュ。君が挑もうとしているのは帝国ではない。世界の構造そのものだ。これからもその道を行くと言うのなら、視野を広くし大いに学べ」
嬉しそうに笑うシュシュの肩を叩くレイス。
「そして自身で足りないのなら、周りから力を借りられるように人脈も広げておく事だ。俺も手は貸そう。――君が俺の『敵』にならない限りはな」
シュシュはまだ不安定な想いを抱えている。それが間違った方向に進む事をレイスは危惧していた。
「諦めるな、シュシュ・アルミラ。沢山の可能性を模索して、擦り合わせて。そうして歴史は紡がれてきたのだから」
「ポポルから情報は得られなかったけど、彼らなら教えてくれるかな? 僕、気になってる事があるんだけど」
イェルバートはホロンに通訳を依頼する。
「集められたマテリアル鉱石はマハ族に献上してたみたいだけど、何に使われているのか知ってる?」
「あの炉で鉱石を錬精していたようだが、ここには一つもなかったな」
ふと思い出したような惣助の言葉。コボルド族は顔を見合わせ相談すると、やがて答えた。
「命の石?」
「命ノ石アツメ、眠レル神呼ビ覚マス……」
――狼獣神ゾエル・マハ。かつてブラストエッジ鉱山の地下に人が封じたという、マハ族が信奉した神。
「即チ、闇ノ使徒」
「それって……歪虚って事?」
ポポルが何も語らなかったのは、既に命がないと確信したから。
それほどまでにマハを恐れ、そして人類にマハが勝利すると確信する根拠。
今この地にて、数百年前に封じられた歪虚が目覚めようとしていた。
レイス(ka1541)はコボルドの言葉を話せない。故に会話はホロンが通訳する。
「帝国軍は殲滅戦の準備を進めている。ここが襲撃を受けるのも時間の問題だ」
「それが何か~?」
「わからないの? ここの戦力で人間に勝てるわけない。皆殺しにされるんだよ?」
「イヲの集落はどうせいい石も取れないし、どいつも弱くて使えないコボルドだけど、時間稼ぎ位にはなるでしょ~?」
天竜寺 舞(ka0377)の問いに兜の下からくぐもった笑い声を放つポポル。言葉は分からないが、それが嘲笑である事くらいはわかる。
「ポポルくんさぁ……なんでそんな酷い事が出来るわけ? 仲間じゃないの?」
「コボルドの中でもイヲという同じ集落に暮らす同族なのに……」
テトラ・ティーニストラ(ka3565)とイェルバート(ka1772)に睨まれてもポポルは怯まない。
「生物には優劣があるわぁ。特にコボルドはそう。弱者は強者に使役される為だけに存在するのよん」
「勝てると本気で思っているのか……人間に?」
目を細めるレイスにポポルは意味深な笑みを返す。同時に鞭を鳴らし、部下を呼び寄せた。
溶鉱炉付近はイヲの領域全体に通路をつなげている。無数の連絡路から鉱山獣やコボルドが続々と集結する。
「人間を呼び込んだ魂胆はわかるけど、残念ねぇ。コボルドと人間が分かり合う事なんて不可能なのよぉ」
そしてポポルが攻撃の合図を出そうとしたその時。レイスが真上に向けた銃の引き金を引いた。
すると何故か鞭を振り上げたポポルの腕が貫かれる。驚くコボルド達の視線の先では、高所に位置する通路で銃を構えた近衛 惣助(ka0510)の姿があった。
纏っていたボロ布はコボルドから借りた物だ。鼻の良いポポルも、コボルドの服を纏えば騙す事が出来る。
「コボルドにも人にも感情があり、心がある」
それはホロンの口から出た、人ではない言葉。
「分かり合えないかどうか、試してみるか?」
通路を疾走する何かが大きく跳躍し、ハンター達の頭上を飛び越える。
それはブラストエッジ鉱山特有の謎の生物、鉱山獣に乗り込んだハンター達の姿であった。
「バカな……鉱山獣はコボルドにしか懐かない!」
しかし良く見れば鉱山獣を操っているのは同じコボルドだ。三体の鉱山獣が乱入し、その背にはハンター達と物資を載せている。
再び惣助の銃撃にポポルがゲジゲジの後ろに隠れると、鉱山獣に乗ってきた神楽(ka2032)は笑みを浮かべ、手持ちの食料を盛大にばら撒いた。
「ここに食料があるっす! 早い物勝ちだから早くしないとなくなるっすよ~!」
極限まで腹を空かせたコボルド達はポポルの命令を無視し食料に駆け寄る。
だが勿論そうではない個体もいる。裏切りを邪魔しようとする個体には神楽も銃を向けた。
「今丁度いい所なんすよねぇ。邪魔はさせないっすよ?」
襲いかかるコボルドを斧に変形させたアックスブレードで纏めて吹っ飛ばすヒースクリフ(ka1686)。
「飯食ってるヤツ以外を狙えばいいんだろ。楽な仕事だ」
「怖がらせちゃってごめんね? あたしたちは貴方たちを助けにきたの!」
テトラは両腕を広げ、受け入れるように笑顔を作る。
「ここから逃げるにも戦うにも、立ち止まってるだけじゃ何にもならない。さぁ! あたし達で自由を勝ち取りに行こうよ!」
「懐柔ですってぇ……!?」
「当たり前でしょ? あたし達が特別な事をしたんじゃない。全てはあんたの自業自得よ!」
舞の言葉に激昂したように咆哮するポポル。雷撃を迸らせるゲジゲジちゃんに跨がり、大地を疾走する。
作戦は簡単だった。なにせ一度成功している策だ。
クズ石置き場にやってきたコボルドを捕らえ、鉱山獣を停止させる。鉱山獣を多少ボコってしまったが、頑丈なので死んではいない。
「急の非礼を詫びよう。これは友好の印だ」
クリスティン・ガフ(ka1090)が蜂蜜を差し出すと、コボルド達はペロペロ舐め始めた。なんかもうこれだけで彼女は満足気だ。
ハンター達はそれぞれ持ちよせた食料を分け与えた。腹を空かせたコボルドからするばとんでもないご馳走である。
「よほど腹が減っていたんだな」
「これからポポルを懲らしめに行くから、巻き込まれたくなかったらそれまで安全な所に避難しててね」
コボルドに語りかける惣助と舞。クリスティンはホロンの両耳をもふもふしながら真顔で考える。
「この鉱山獣を借り受ける事は出来ないだろうか?」
「鉱山獣ハコボルドデナイト操レナイ」
するとコボルド達は顔をあげ、何かをホロンに語りかける。
「鉱山獣ヲ使ウナラ、手ヲ貸スト」
「あっさり裏切られる辺り、ポポルの人柄が知れるね」
溜息を零すイェルバート。しかしシュシュは嬉しそうに、
「でも、これで余計な戦いを避けられるかもしれないべ」
「命を救うって事は救った命のその後だけじゃなく本来死ぬ筈の命が生きる事で生じる結果全てに責任を持たねばなんねっす。その覚悟があるっすか?」
そんな神楽の言葉でシュシュはかくりと肩を落とす。
「また神楽はそうゆうこと言う……」
「命ってのは重いんす。気分で助けていいモンじゃねっすよ。第一、追い出したコボルドはどこで生活するんすか? 綺麗事で命を奪わずとも、もっと酷い末路を迎える可能性だってあるっす」
正直な所、シュシュには命への責任も覚悟もまだない。救いたいのは事実だが、状況を逆転させる力もない。
「弱い俺達は自分だけ助けてればいいんすよ。自分だけで精一杯なんっす」
「命ノ責ヲ持ツ……ソノ考エガ傲慢ナノダ」
応えは意外な所から出た。ホロンはシュシュの傍らに立ち、神楽を見上げる。
「人モ自然ノ一部。人モコボルドモ同ジ。救済モ罪モ、貴殿ラガ勝手ニ作ッタ」
多くの動物達の中で、人だけが罪と罰を抱く。
そしてまるで自分達が世界の中心であり、他の生物の運命を左右出来ると考える。
「命ハ個ニオイテ弱者。貴殿ハ正シイ。故ニ、人が生物以上ニナル必要ハナイ」
「……そっか。確かにコボルドからしてみれば、救うとか救わないとか、そういう物言いが上から目線なんだよね」
イェルバートは口元に手をやり頷く。
「異種族で分かり合うのは至難の業だって思った。だけど、ある意味においてコボルドは人間よりも正直で純粋なんだ」
自分にとっての理を単純に考えて、ポポルを裏切り人間に着く。それは果たして罪なのか?
「シュシュにはまだ覚悟なんてないんよ。だけど、今を必死に生きるホロンを見てると、助けたいって思う」
目を逸らしていい事ではない。だからこそ、甘い覚悟の中で、弱い生き物のままで、この戦いに身を投じていく。
「弱い命が寄り添って、擦れ違いながら生きていく。それが、世界って物なんじゃないかな」
ゲジゲジちゃんが放つ無数の雷撃が岩場を抉る。レイスとテトラはその中を自在に掻い潜る。
「やはー! この程度の攻撃が美少女のテトラちゃんに当たると思ってるのかなー?」
空中を回転しながらウィンクし、手裏剣を投擲する。
「ポポルくんみたいな悪い子には……やはっ♪ 飴玉あげちゃおうかなっ!」
鉱山獣で防御するポポル。更にレイスが飛び込み、鉱山獣の甲殻の隙間に戦槍を突き入れる。
鞭を振るうポポル。惣助は走って移動して角度を変えると再び狙撃を仕掛ける。
「コボルドに無用な犠牲は出したくないんでな……速攻で決めさせて貰う!」
銃撃を受けたポポルは衝撃でゲジゲジの上から転倒。操舵主を失ったゲジゲジは停止し、落ちたポポルを探す。
一方、食べ物に釣られなかったコボルド達も動き出していた。イェルバートは銃を向け、直撃させずに威嚇する。
「いい子だから近づかないで。直ぐに終わらせるから……!」
「ごめん、後で謝るから!」
横にしたクレイモアでコボルドを叩きのめす舞。命さえあれば、傷は癒やす事が出来る。
コボルドにはコボルドの社会的な苦しみがある。その全てを解決する事は出来なくても、これ以上痛めつけるのは忍びない。
背後から襲いかかる鉱山獣にアックスブレードを打ち付けるヒースクリフ。そこへ寝返ったコボルドが加勢に現れ、一斉に鉱山獣に取り付いた。
雷撃で吹っ飛ぶコボルドだが、隙だらけだ。ヒースクリフは渾身の一撃で鉱山獣の首を撥ね飛ばした。
「おいおい、生きてるか……?」
「諦めて殺せっす! 可能性に殺されるっすよ! 全てを助けるなんて綺麗事棄てちまえっす!」
コボルドに狙われたシュシュに神楽が叫ぶ。しかしシュシュは構えた二対の片手斧で近づくコボルドを瞬く間に撃退してしまった。
だが命を奪ったわけではない。放置すればいずれは起き上がってくるだろう。
「トドメを刺せっす! 死んだら夢は叶えられないっす! 夢の為にコボルトを切り捨てろっす!」
「それは違うよ神楽。夢っていうのは……最初から命懸けなんだ!」
嫌いだった皇帝の背中が脳裏を過る。シュシュは敵を殺さず、的確に戦闘不能に追い込んでいく。
「……そういえばアレ、強いんだったな」
過去の出来事を思い出し冷や汗を流すレイス。その横でテトラは雷撃をちょこちょこかわしている。
「やっはー! 美少女一人捕らえられんとは何事かねー?」
「ゲジゲジちゃん、パワーアップよ!」
「そうはさせないんだから!」
周囲に沢山あるマテリアル鉱石へ向かうゲジゲジの前に回り込み、舞が斬撃を放つ。
「機導砲なら……行け!」
イェルバートの構えた銃口から閃光が放たれゲジゲジを打つ。しかしまだ倒れない。
「恨みはないが、一度潰させてもらう」
鉱山獣を操るホロン。背に立ったクリスティンは指先でバーンブレイドの刀身をなぞり、マテリアルを高めていく。
「行くぞホロン、合わせろ!」
ゲジゲジが放つ雷撃は、同じ鉱山獣には無効。そして二人は盾にした鉱山獣から飛び出し、ゲジゲジへ突っ込む。
真下に潜り込んだホロンは跳躍し盾でゲジゲジの顎を打ち上げる。そうして首が真上に向いた瞬間、クリスティンが刃を放った。
赤い軌跡がゲジゲジの首を滑り、緑色の体液を吹き上げる。
「あたちのゲジゲジちゃんんんん!?」
「どうやらここまでだね」
舞がポポルに切っ先を突きつけると、抵抗していたコボルドも動きを止めるのであった。
イヲの領域での戦いは終わった。
舞はジュースの樽に汲んできた癒しの水を傷ついたコボルド達に配り、ついでに傷を応急処置する。
「あたしに出来る事なんてこれくらいだけど……さっきは殴ってごめんね」
「人間とコボルドの友好か。いつか、二つの種族が一緒に冒険できる日が来るのかもしれないな」
肩に銃を乗せ、惣助が笑う。それから溶鉱炉に目を向けた。
「この溶鉱炉はどうする? 破壊するのか?」
「帝国軍が接収すれば、成果物として我々の活動に支援を引き出せるかもしれないな」
未知の技術で作られた炉だ。答えながら調べるレイスだが、下手に触らない方がいいと判断した。
「あいつが教えてくれればいいんだがな」
「生かすも殺すも好きにしろっす~」
惣助の視線の先、神楽は簀巻きにしたポポルをイヲ族達の前に差し出す。
ポポルへの尋問は余り意味を成さなかった。ポポルは意外と口が固く、思うように情報を引き出せなかったのだ。
コボルド達は顔を見合わせ、怒りの声を上げる。そしてポポルを皆で持ち上げると、溶鉱炉の中へ投げ込んだ。
悲鳴が響き渡り、その姿は煮えたぎる炎の中へ消えていく。
「自業自得とは言え、壮絶な最期だね……」
神妙な面持ちでイェルバートが呟く。
「もうすぐ帝国軍の本隊がお前等を皆殺しに来るっす。死にたくないなら直に鉱山からでてけっす」
神楽に言われるまでもなく、この状況では他に道がなかった。皆ここでの生活には辟易していたのだ。
「周囲への略奪を行わず、事が済めばいずれはここで人間と取り引きし生活する道もあるかもしれない。それまで耐えて欲しい」
どちらにせよイヲ族は弱いコボルド。人を襲うだけの力は残っていない。それは彼らの今後が厳しい事も同時に意味しているが。
「これは……舞」
呼ばれて近づくと、そこには食べ物の袋を持ったコボルドの亡骸があった。
「助けに来るの、間に合わなかったんだ……」
「せめて、出来る限りでも埋葬してあげよう」
スコップを取り出し舞に微笑みかけるイェルバート。二人は協力し、倒れたコボルド達を埋めていく。
「カワイイって言うんだよ、カ・ワ・イ・イ♪」
「アワ?」
「アワイ?」
「何やってんだ」
岩の上に立ったテトラは集まったコボルド達に何かを仕込んでいた。
ヒースクリフが突っ込むと岩の上から飛び降り、コボルド達を眺めながら白い歯を見せ笑う。
「やは、友好の印に挨拶を教えてあげようと思ってね♪」
「アワワ」
「どうやら、一部のコボルドは今後の身の振りに迷っているようだな」
惣助は全体を眺めながら呟く。そそくさと逃げていく者が殆どだが、中にはテトラ組のような者もいる。
「カワイイ……」
「別に真似なくてもいいと思うぞ?」
「真似ではない」
真顔のクリスティンに冷や汗を流す惣助。と、そこにホロンが数体のコボルドを引き連れてきた。
「我々ニ協力ヲ申シ出タ者ガイル」
それは道中で仲間にしたコボルドを始め、十数体。
「みんな……」
「シュシュ。君が挑もうとしているのは帝国ではない。世界の構造そのものだ。これからもその道を行くと言うのなら、視野を広くし大いに学べ」
嬉しそうに笑うシュシュの肩を叩くレイス。
「そして自身で足りないのなら、周りから力を借りられるように人脈も広げておく事だ。俺も手は貸そう。――君が俺の『敵』にならない限りはな」
シュシュはまだ不安定な想いを抱えている。それが間違った方向に進む事をレイスは危惧していた。
「諦めるな、シュシュ・アルミラ。沢山の可能性を模索して、擦り合わせて。そうして歴史は紡がれてきたのだから」
「ポポルから情報は得られなかったけど、彼らなら教えてくれるかな? 僕、気になってる事があるんだけど」
イェルバートはホロンに通訳を依頼する。
「集められたマテリアル鉱石はマハ族に献上してたみたいだけど、何に使われているのか知ってる?」
「あの炉で鉱石を錬精していたようだが、ここには一つもなかったな」
ふと思い出したような惣助の言葉。コボルド族は顔を見合わせ相談すると、やがて答えた。
「命の石?」
「命ノ石アツメ、眠レル神呼ビ覚マス……」
――狼獣神ゾエル・マハ。かつてブラストエッジ鉱山の地下に人が封じたという、マハ族が信奉した神。
「即チ、闇ノ使徒」
「それって……歪虚って事?」
ポポルが何も語らなかったのは、既に命がないと確信したから。
それほどまでにマハを恐れ、そして人類にマハが勝利すると確信する根拠。
今この地にて、数百年前に封じられた歪虚が目覚めようとしていた。
依頼結果
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鉱山攻略戦:突入編相談卓2 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/04/07 02:20:10 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/02 19:45:52 |