ゲスト
(ka0000)
鉱山とスライムと謎の白猫
マスター:蒼かなた
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/09 12:00
- 完成日
- 2015/04/17 06:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●謎の白猫
冒険都市リゼリオ。その沿岸部にある倉庫街には海路によって運ばれる、または運ばれてきた荷物が沢山保管されている。
時刻は深夜。街が月と星の明りだけで照らされる時間になった頃に倉庫街に揺れる光が二つ。
「夜の倉庫街……相変わらず薄気味悪いな」
「そうか? 俺は静かで好きだがな」
そこにはカンテラとライトをそれぞれ手にした男が二人、軽くお喋りをしながら歩いている。
「というかこの辺の巡回なんて本当に必要か?」
「あのな。この仕事のおかげでお前も飯食えてるんだろ?」
やけにやる気のない男に対して、真面目な男は溜息混じりに声を出す。
倉庫によっては一週間経てば満杯だった中身が総入れ替えになるような場所もある。
「……んっ? 今なんか音がしなかったか?」
「音ー? 気のせいじゃないか?」
「いや、確かにした。こっちだ」
真面目な男はライトで道を照らしながら倉庫と倉庫の間にある細道を進んでいく。
やる気のない男はやはり面倒臭そうな表情を浮かべているが、これも仕事とその後に着いていった。
二人の男が細道を抜け、海辺より少し離れた内陸側の倉庫の前にやってくる。
「この辺りのはずだな」
「この辺って確か長期保管用の倉庫だよな」
その時、何かの物音がした。何の音か分からないが、確かに何かの音がした。
男二人は顔を見合わせる。
「おいおい、マジかよ」
「とりあえず見に行くぞ。静かにな」
音のしたのは男達の近くに居た倉庫の中から聞こえてきた。
その倉庫に近づいてみるが、正面の大扉には特に変わった様子は無い。
ならばと側面にある小扉を見に行ってみると、そこには壊された錠前が地面に転がっていた。
二人の男はもう一度顔を見合わせて頷き合い、小扉をそーっと開ける。
倉庫の中は真っ暗で、あちこちに木箱が積み重ねられており視界は悪い。
男達は慎重に倉庫内を探してみたが、人影はおろか荷物を荒らされた様子も無い。
「……誰もいないみたいだな?」
「おかしいな。確かに音がしたはずなんだが……」
とその時、男達の背後でまた物音がした。二人は慌てて振り返り明りを向けるがそこには誰も居ない。
いや、正確にはやはり居たが見えていなかった。ただ照らす高さが上過ぎただけだったのだ。
――ニィ
「……猫、だな」
「ああ、白猫だな」
そこに居たのは白い毛並みをした猫だった。
それを見たと単に男二人は溜息を吐きながら脱力した。
「こーゆーのなんていうんだっけか。大山鳴動して猫一匹だったっけか?」
やる気のない男は笑いながらそう口にする。だが、その冗談に真面目な男は返事をしない。
「おいおい、ノリが悪いな。そこはちゃんと突っ込んでもらわ――」
「ごめんね」
男が振り返ろうとしたその時、体に激しい痺れを感じると同時にその意識がブラックアウトした。
●ハンターオフィス
ここはリゼリオにあるハンターオフィス。その職員達の間でとある噂話が流行っていた。
「また出たんだってな、噂の白猫」
「ああ、これで4件目だったかな?」
その始まりはとある泥棒事件が始まりだった。
とある夜、アクセサリーショップの主人が店のほうで物音がしたので確認に向かった。
すると店が荒らされており、いくつかの商品が盗まれていたのだ。
それから数日後、今度は商人が宿に預けていた馬車から。さらに数日後にはとある富豪の屋敷にある蔵から彫像が盗まれたのだ。
それでよくよく調べてみると、その全てがマテリアル鉱物であることが判明。さらに目撃情報として現場で白猫が目撃されていたのだ。
「それで今回は倉庫からか」
「と言っても、また微妙な量らしいがな」
実はこの泥棒事件にはいくつかの不思議な点があった。
一つ目は何故マテリアル鉱物なのかだ。それぞれの現場には他にもっと金目のものがあったにも関わらず何故かマテリアル鉱物、またはそれで出来たものだけ盗まれている。
二つ目はその量。特に4件目の倉庫には帝国へ送られる予定になっている大量のマテリアル鉱物が保管されていたのだが、盗まれたのは十数キロ分程度だったらしい。
三つ目は盗み腕の稚拙さ。とりあえず人の少ない夜を狙ってはいるが、巡回の時間にかち合ったり、物音をたてて人に気づかれてしまっていたりする。
そして最大の謎が、何故か毎度現れる白猫の存在だ。
「それの調査の依頼とか来てないのか?」
「事件としては微妙だからな。ハンターに頼るほどのことじゃないだろ」
それもそうかと職員の一人は頷く。
「それより新しい依頼が来てたな。えーっと、鉱山に現れたスライム退治か」
職員はその情報を入力していき依頼票を作っていく。
「鉱山での依頼か。そこってマテリアル鉱物が採れるのか?」
「んっ? ああ、そうみたいだな。少量だが出るらしいぞ」
暇そうな職員に声をかけられ、情報を入力しながらそう答える。
「そっか。ならもしかするとそこにも例の白猫が現れるかもな!」
「ははっ、そんなまさか。そんな偶然早々あるわけないだろ?」
そんな笑い話が行われる中で一つの依頼がハンターオフィスに張り出されることになった。
●???
とある鉱山。そこに作られた坑道の入り口の前。
いつもは人が多くいるはずなのに、今日に限っては誰もいない。何でも雑魔が出たとか何とか。
そんな人のいない坑道の前に小さな人影が一つ。
「……行こう」
小さな人影は、それよりももっと小さな影と共に坑道の中へと入っていった。
冒険都市リゼリオ。その沿岸部にある倉庫街には海路によって運ばれる、または運ばれてきた荷物が沢山保管されている。
時刻は深夜。街が月と星の明りだけで照らされる時間になった頃に倉庫街に揺れる光が二つ。
「夜の倉庫街……相変わらず薄気味悪いな」
「そうか? 俺は静かで好きだがな」
そこにはカンテラとライトをそれぞれ手にした男が二人、軽くお喋りをしながら歩いている。
「というかこの辺の巡回なんて本当に必要か?」
「あのな。この仕事のおかげでお前も飯食えてるんだろ?」
やけにやる気のない男に対して、真面目な男は溜息混じりに声を出す。
倉庫によっては一週間経てば満杯だった中身が総入れ替えになるような場所もある。
「……んっ? 今なんか音がしなかったか?」
「音ー? 気のせいじゃないか?」
「いや、確かにした。こっちだ」
真面目な男はライトで道を照らしながら倉庫と倉庫の間にある細道を進んでいく。
やる気のない男はやはり面倒臭そうな表情を浮かべているが、これも仕事とその後に着いていった。
二人の男が細道を抜け、海辺より少し離れた内陸側の倉庫の前にやってくる。
「この辺りのはずだな」
「この辺って確か長期保管用の倉庫だよな」
その時、何かの物音がした。何の音か分からないが、確かに何かの音がした。
男二人は顔を見合わせる。
「おいおい、マジかよ」
「とりあえず見に行くぞ。静かにな」
音のしたのは男達の近くに居た倉庫の中から聞こえてきた。
その倉庫に近づいてみるが、正面の大扉には特に変わった様子は無い。
ならばと側面にある小扉を見に行ってみると、そこには壊された錠前が地面に転がっていた。
二人の男はもう一度顔を見合わせて頷き合い、小扉をそーっと開ける。
倉庫の中は真っ暗で、あちこちに木箱が積み重ねられており視界は悪い。
男達は慎重に倉庫内を探してみたが、人影はおろか荷物を荒らされた様子も無い。
「……誰もいないみたいだな?」
「おかしいな。確かに音がしたはずなんだが……」
とその時、男達の背後でまた物音がした。二人は慌てて振り返り明りを向けるがそこには誰も居ない。
いや、正確にはやはり居たが見えていなかった。ただ照らす高さが上過ぎただけだったのだ。
――ニィ
「……猫、だな」
「ああ、白猫だな」
そこに居たのは白い毛並みをした猫だった。
それを見たと単に男二人は溜息を吐きながら脱力した。
「こーゆーのなんていうんだっけか。大山鳴動して猫一匹だったっけか?」
やる気のない男は笑いながらそう口にする。だが、その冗談に真面目な男は返事をしない。
「おいおい、ノリが悪いな。そこはちゃんと突っ込んでもらわ――」
「ごめんね」
男が振り返ろうとしたその時、体に激しい痺れを感じると同時にその意識がブラックアウトした。
●ハンターオフィス
ここはリゼリオにあるハンターオフィス。その職員達の間でとある噂話が流行っていた。
「また出たんだってな、噂の白猫」
「ああ、これで4件目だったかな?」
その始まりはとある泥棒事件が始まりだった。
とある夜、アクセサリーショップの主人が店のほうで物音がしたので確認に向かった。
すると店が荒らされており、いくつかの商品が盗まれていたのだ。
それから数日後、今度は商人が宿に預けていた馬車から。さらに数日後にはとある富豪の屋敷にある蔵から彫像が盗まれたのだ。
それでよくよく調べてみると、その全てがマテリアル鉱物であることが判明。さらに目撃情報として現場で白猫が目撃されていたのだ。
「それで今回は倉庫からか」
「と言っても、また微妙な量らしいがな」
実はこの泥棒事件にはいくつかの不思議な点があった。
一つ目は何故マテリアル鉱物なのかだ。それぞれの現場には他にもっと金目のものがあったにも関わらず何故かマテリアル鉱物、またはそれで出来たものだけ盗まれている。
二つ目はその量。特に4件目の倉庫には帝国へ送られる予定になっている大量のマテリアル鉱物が保管されていたのだが、盗まれたのは十数キロ分程度だったらしい。
三つ目は盗み腕の稚拙さ。とりあえず人の少ない夜を狙ってはいるが、巡回の時間にかち合ったり、物音をたてて人に気づかれてしまっていたりする。
そして最大の謎が、何故か毎度現れる白猫の存在だ。
「それの調査の依頼とか来てないのか?」
「事件としては微妙だからな。ハンターに頼るほどのことじゃないだろ」
それもそうかと職員の一人は頷く。
「それより新しい依頼が来てたな。えーっと、鉱山に現れたスライム退治か」
職員はその情報を入力していき依頼票を作っていく。
「鉱山での依頼か。そこってマテリアル鉱物が採れるのか?」
「んっ? ああ、そうみたいだな。少量だが出るらしいぞ」
暇そうな職員に声をかけられ、情報を入力しながらそう答える。
「そっか。ならもしかするとそこにも例の白猫が現れるかもな!」
「ははっ、そんなまさか。そんな偶然早々あるわけないだろ?」
そんな笑い話が行われる中で一つの依頼がハンターオフィスに張り出されることになった。
●???
とある鉱山。そこに作られた坑道の入り口の前。
いつもは人が多くいるはずなのに、今日に限っては誰もいない。何でも雑魔が出たとか何とか。
そんな人のいない坑道の前に小さな人影が一つ。
「……行こう」
小さな人影は、それよりももっと小さな影と共に坑道の中へと入っていった。
リプレイ本文
●スライム退治
先頭を歩く柏部 狭綾(ka2697)は手にしたハンディLEDライトで暗闇の先を照らす。
「本当に真っ暗ね。アンデッドでも出てきそうだわ」
「確かに。スケルトンやゾンビが出てきてもおかしくない雰囲気です」
今回の依頼で狭綾とペアになった屋外(ka3530)も足元や天井を交互に見ながらそんな感想を零す。
その後に続くのはnil(ka2654)とネムリア・ガウラ(ka4615)だ。先頭を行く二人の見逃しがないかを視線をあちこちに向けながらスライムを探す。
「……ん、ランタン発見」
nilは壁に下がっているランタンを見つけ中に油が残っているのを確認すると火を点す。
ネムリアもnilの行動に習い、ランタンを見つけたら光源確保の為に火をつけている。
暫くその行動を繰り返し坑道を進むが、一向にスライムは姿を見せない。
「そういえば、最近鉱物泥棒がでるんだって。その現場には毎回白猫が現れるらしいよ」
何となく、ここが鉱山だからとふと思い出してネムリアは謎の白猫事件のことについて口にする。
「白猫さんですか?」
ネムリアの後ろにいた蜜羽(ka4585)がきょとんとした顔で首を傾げる。
「その話は聞いたことがある。もしかするとここで縁があるかもしれないな」
巷を騒がせる噂は十文字 勇人(ka2839)の耳にも入っていた。
「白猫、見つけたら撫でたい」
「あ、ミツハも抱っこしたいのです」
ビギナーの二人はそんな話をしてくすりと笑う。
「……ネムリア、前を見て。集中」
「わわっ、うん。集中だね」
nilに注意をされてネムリアは意識をスライム探しへと戻す。
「あう、ミツハもごめんなさいなのです」
「はははっ、次から注意だな。お喋りはスライム退治が終わった後だ」
思わずぺこりと頭を下げてしまう蜜羽に勇人は笑って諭しながら先へ進むことを促す。
そして最後尾。殿を務める二人は奇妙な掛け合いをしていた。
「しかし異世界転移後初の依頼がスライム退治とは……いやぁ僕もテンプレ主人公コースまっしぐらですね!」
「そうかもね」
ハイテンションな加茂 忠国(ka4451)にネリー・ベル(ka2910)は淡々とした声で返事を返しながら時たま後ろを振り返って敵がいないことを確認する。
「てかスライムですよスライム! 溶解液を飛ばしてくるんですって! それはつまり……ドゥフフ!」
「そうね」
何か邪なことをイメージしているらしい忠国にネリーはやはり淡々と返す。
「そうだ。このお仕事終わったら一杯どうです? 美味しいお店知ってるんです」
「そう」
「何だかとっても素っ気無い……だがそれもいい!」
ほぼ一方的に思える会話だが、忠国はそれでもいいらしく嬉しそうだ。
そんなこんなの会話をしつつ、ハンター達は坑道の奥へと進んでいく。
「そろそろ広場に着くころです」
歩いた距離的に事前に聞いていた広場に出るはずだと屋外は告げる。
彼の言う通り、少し進むとこれまでと違い壁がなくなっている部分が見えてきた。
「っ! 何か動いたわ」
動くものを目にした狭綾が声を上げて止まり、ハンドガンを正面へ向ける。
ハンター達が身構えるとほぼ同時に、行動の暗闇の奥から転がるようにして1匹の赤い粘着質な物体――スライムが現れた。
「やっとお出ましね。退治してあげるわ」
その姿が見えたところで狭綾はすぐに引き金を引く。放たれた弾丸は真っ直ぐに飛び、スライムに着弾するとその一部が弾ける様にして辺りに散る。
「ブロークンッナックル!」
さらに野外が掛け声と共にスライムに向けた腕から金属製のナックルが発射される。射出された拳はスライムのど真ん中を捉え、まるで爆竹が破裂したかのような音と共に辺りにその体を四散させた。
「あら、予想以上に弱いのね」
たった二回。スキルを使ったわけでもなく然程威力の高い攻撃でもなかったにも関わらずスライムは死んでしまったようだ。
「弱いならそれに越したことはないさ。ただ油断なくな」
「分かってるわ。さあ、先に進みましょう」
勇人の言葉に狭綾は応えながら広場へと足を進めていった。
ハンター達が広場に出ると、そこはちょっとしたホールのような広さがあった。壁際には幾つもの木箱が積み重ねられ、働き手達の休憩所らしき場所には簡易ながらベンチとテーブル代わりらしい木箱が並べてある。
そして、各所に光を当てれば何やら動いている影が壁に映し出された。
「まずは広場の確保が必要ね」
最後に広場へと入ってきたネリーは手のひらサイズの拳銃を握り動く影の数を数える。見えるだけで3つ。もしかすると明りが当たっていない場所に潜んでいる可能性もある。
「……ネムリア、行ける?」
木箱の陰から現れた一匹を指してnilがネムリアへ視線を向ける。
「あっ、はい! 行きます!」
ネムリアはそれに応え、木製の杖を構えてスライムへと駆けた。距離はすぐに縮まる。だが、ネムリアが攻撃に移ろうとするより早く、それまで鈍重な動きだったスライムの体が収縮し、弾ける様にして地面から飛び上がりネムリアへと飛び掛ってきた。
「わわっ!」
それに慌てたネムリアは咄嗟に杖を体の前に構えると、スライムはそれにぶつかってまるでボールのように跳ね返り地面へと落ちる。
さらにスライムの体が震え、何か行動に移す素振りを見せたところでその体に矢が突き刺さる。その瞬間にスライムの体から何か液体が吹き出るが、それは近くにあった木箱に掛かった。木箱はじゅうっと小さな音を立て酸に侵され腐食していく。
「……ネムリア、トドメを」
「はいっ!」
nilの声にネムリアは大きく返事し、振りかぶった杖でスライムを思いっきり叩く。スライムはその衝撃で潰れ、風船が破裂したような音と共に地面に粘着質な体液が広がった。
「さあ、スライム。俺が相手だ!」
戦闘体勢に入った勇人がスライムと対峙する。スライムは勇人の声に反応するように体を収縮させ、弾けるようにして勇人目掛けて飛び上がった。
「はぁっ!」
それに合わせるように勇人はマテリアルを籠めた拳を握り、飛び上がったスライムを殴りつけた。
それはまるで柔らかいゼリーでも殴ったかのような感触で、拳を振りぬくとスライムは吹き飛んで壁に向かい、弾ける音と共に液体が壁の一部に広がった。
「勇人さま、お強いのです」
勇人の後ろで明りを確保していた蜜羽は、勇人の勇姿を見てぱちぱちと拍手をする。
「これで広場のスライムは片付いたかしら?」
スライムに数発弾丸を撃ち込み、弾倉を交換しながら狭綾は周囲の皆に確認を取る。
「こっちにはもういないわね」
「こちらも排除完了しています」
ネリーと屋外もそれぞれ一匹ずつスライムを倒し、他に残っていないことを確認する。
「いやー、皆さんお強いですね。僕は何もする暇もありませんでした!」
一連の戦闘を後ろで眺めていた忠国は煙管を手元でくるくる回しながら笑っている。
その姿を一部ハンターが白い目で見るが、すぐに無視されて次の行動へと移る。
「……地図によると。むこうとむこう、それとこっち」
坑道の地図を手にしたnilが指差す方向にはまたぽっかりと穴が3つほど空いている。採掘用の穴で、情報によればその奥にもスライム達がいるはずだ。
「それじゃあ予定通り班分けして探索ね」
それぞれの穴に2人ずつ、そして残った2人がもしもの時の為にこの広場に残る。
「気をつけて」
ネリーの言葉に見送られ、それぞれの穴をハンター達は進んでいく。
「nil、さっきはありがとう」
「……構わない」
坑道を進むネムリアとnilは周囲に視線をめぐらしながら言葉を交わす。
入り口から広場まで続いていた穴とは違い、壁はほぼむき出しの岩肌で、あちこちに小さな岩の破片が落ちている。
「次はわたしだけでも倒せるよう頑張るよ」
「……なら、期待している」
ぎゅっと杖を握りしめたネムリアに、nilは視線を合わせて応えた。
そしてそろそろ坑道の奥に辿り着こうとしたところで、暗闇の奥で何かが這いずるような音が聞こえる。
「……行ける?」
「うん。大丈夫!」
nilの言葉にネムリアは応え、nilは頷いて返し明りを向けた。そこには壁に向かってゆっくりと進んでいるスライムの姿がある。
それを見たネムリアは杖を正面に構えて走る。その足音に反応したのかスライムは動きを止めた。
スライムの体が震えだすが、その瞬間にネムリアの振るった杖が打ち上げるようにしてスライムの体を叩きつけ、スライムを側面の壁に叩きつけた。
「うっ、痛っ」
潰れたスライムは弾けて体液と、吐き出そうとしていた溶解液を辺りに撒き散らす。それを少し腕に浴びたネムリアの腕に小さな火傷の様な傷が出来た。
そこにnilが近づき、首にしていたマフラーを外してネムリアに着いた液体を拭いとる。
「……退治完了。お疲れ様」
「あっ、うん。ありがとう、nil」
一方、勇人と蜜羽が向かった奥の道でもスライムを発見していた。
だが、少し困ったことになっているようで、二人は少し高くなった天井を見上げている。
「あー、あの位置だと俺の拳も届かないな」
天井に張り付いたスライムが下りてこないのだ。そこでたまに溶解液を降らせてくるのだが、狙いが下手なのか的外れな場所でじゅうじゅう地面を溶かしている。
「えっとえっと、そ、それならミツハが……」
勇人の後ろから顔を覗かせた蜜羽がメイスを握り締め、そして何か小さく詠唱してからゆっくりとそれをスライムに向ける。
「ほ、ホーリーライトー」
蜜羽の手にしたメイスから光の弾が発射され、それは見事スライムに命中する。その拍子にスライムは天井から剥がれ落ちて地面へと転がった。
「おっ、ナイスフォロー!」
そして落ちてきたスライムに勇人の拳が振り下ろされ、あっさりとトドメをさされた。
「お、お役に立ちました……?」
「ああ、助かったぜ」
不安顔の蜜羽。それに勇人のサムズアップを見せると、蜜羽もほっとした溜息と共に笑顔を返した。
●白猫と少女
ガンガンと、坑道内で音が響く。その音の元を辿れば、汗水垂らしながらツルハシを振るう忠国の姿があった。
「まさかスコップが役に立たないとは。しかし、それで諦める僕じゃないんですよこれが!」
何を思ったのか、一心不乱に地面の岩肌を掘っている。いや、明確な理由はあるのだが彼の表情を見る限り邪まなことが目的なのは明白であろう。
そんな忠国の隣で我関せずとネリーは魔導短電話から聞こえる声を聞く。
「そう、分かったわ。気をつけて戻って」
スライム撃破の報を受けてネリーは短く返事を返す。3つの横穴の探索はこれにて終了。スライム撃退の任務はこれで完了だろう。
そう思い一息吐いた所で暗がりの中に何か光が動くのを感じた。
「誰かしら?」
ネリーは闇の向こうへと問う。
広場の中はあちこちにランタンが下げられ闇に隠れている部分は半分程度だ。そしてまた途切れ途切れの陰から陰へ何かが動く。
「あれ、どうかしましたか?」
ツルハシを肩に担いだ忠国が不思議そうな顔をする。
その時、壁際に人よりも遥かに大きな影が現れた。四本の足で立つ獣の姿だ。
「えっ? 化け猫でもでました?」
忠国が驚いている間にネリーは走る。押さえるべきはまず出入口。そこに到達したところで振り返り、陰の伸びるその先を見る。
――ニィ
そこには噂どおりの白猫がいた。短い毛並みに汚れ一つない白い体。そして金色の瞳がネリーの赤い瞳と交じり合う。
「いるのは雑魔だけと聞いているのよ」
ネリーは猫に視線を向けたまま、どこかの暗闇へ向けて話しかける。暫く待っても暗闇から返事はない。
仕方なしとネリーは手にした銃を白猫に向けようとしたところで、電撃音が広場に響いた。
「うぎゃあっ! 痛っ。めっちゃくちゃ痛い!」
見るとそこには首筋を押さえながら地面を転がる忠国と、随分と背の低い少女が立っていた。
少女の肌はこの洞窟が暗がりだからというわけではなく少し浅黒い。それとは対照的にその髪は明るい茜色をしていた。そして銀に近い鈍色の瞳は大きく見開かれ、誰が見ても驚いたような表情をしている。
「……凄い、耐えられた」
向けている視線から見るに、どうやら忠国が気絶しなかったことを驚いているようだ。
「私達はここでスライム退治をしているの。邪魔だから帰ってくれるかしら?」
ネリーの呼びかけに少女はかくりと小さく首を傾げる。
「攻撃してこないの?」
「何故攻撃しないといけないの?」
その返しに少女は少し考え、近くに木箱を漁りだす。
と、その瞬間。瞬く光と共に銃声が広場に響く。それに反応するように少女は手にしていた剣を振るうと何かが弾ける音がした。
「あなたが鉱物泥棒の黒幕ね」
横穴から戻ってきた狭綾が発砲したのだ。その横には屋外の姿もあるが、彼は敵意は見せず荷物からマグカップを取り出す。
「ふむ、とりあえず。喉が乾いてないですか?」
その問いに少女は困惑したような表情をした。突然攻撃され、その後にお茶に誘われたらそうもなるだろう。
「あわわ、えっと、話せば分かると思うのですー」
さらに別の穴から戻ってきた蜜羽が見知らぬ少女と仲間達の状況を見て慌てて声をかける。
「ふむ、少女よ。何で鉱物を集めているんだい?」
「お願いされてるから」
少女は勇人の問いに素直に答える。嘘を言っている様子も無い。
「……どういう状況?」
「戦闘には、なってないみたいだね」
さらにnilとネムリアも広場に戻ってくる。それを確認した少女が木箱の上に乗っていた白猫の元まで行くと、白猫は少女の足元へと寄り添う。
「逃がさな――きゃっ!?」
逃げると判断した狭綾が一歩踏み出したところで何故かその場で転んでしまう。見ればそこには布を被せられ偽装された穴が掘られていた。
「よし、美少女が落ちた! お嬢さん、大丈夫ですか?」
「何してるのよ、この馬鹿!」
思わずガッツポーズをしてから手を差し伸べてくる忠国に、狭綾がその頭を引っぱたく。
少女はそれを一瞥して出口へと向かおうとするが、その前に勇人が一声かける。
「なあ、君とあとそのにゃんこの名前はなんて言うんだい?」
少女は一度振り返り、少し考えた後に答えた。
「シャル、セイン」
少女は自分、それから白猫の順に指差してそう答えた。それだけ言うと少女は駆け出し、ネリーの傍をすり抜けて走り去る。
「謎の泥棒の正体は少女でしたか」
「……ええ。妖精ではなかったわ」
屋外とnilはそれを見送る。ハンターの視点から見ても随分と足が速い。今から追っても追いつけないだろう。
「猫、撫でたかったな」
「ミツハも抱っこしたかったですー」
「まあ、縁があればまた会えるんじゃないか?」
スライム退治の現場で鉢合わせた小さな縁。その不思議な出会いにハンター達はそれぞれの想いを胸に秘めた。
先頭を歩く柏部 狭綾(ka2697)は手にしたハンディLEDライトで暗闇の先を照らす。
「本当に真っ暗ね。アンデッドでも出てきそうだわ」
「確かに。スケルトンやゾンビが出てきてもおかしくない雰囲気です」
今回の依頼で狭綾とペアになった屋外(ka3530)も足元や天井を交互に見ながらそんな感想を零す。
その後に続くのはnil(ka2654)とネムリア・ガウラ(ka4615)だ。先頭を行く二人の見逃しがないかを視線をあちこちに向けながらスライムを探す。
「……ん、ランタン発見」
nilは壁に下がっているランタンを見つけ中に油が残っているのを確認すると火を点す。
ネムリアもnilの行動に習い、ランタンを見つけたら光源確保の為に火をつけている。
暫くその行動を繰り返し坑道を進むが、一向にスライムは姿を見せない。
「そういえば、最近鉱物泥棒がでるんだって。その現場には毎回白猫が現れるらしいよ」
何となく、ここが鉱山だからとふと思い出してネムリアは謎の白猫事件のことについて口にする。
「白猫さんですか?」
ネムリアの後ろにいた蜜羽(ka4585)がきょとんとした顔で首を傾げる。
「その話は聞いたことがある。もしかするとここで縁があるかもしれないな」
巷を騒がせる噂は十文字 勇人(ka2839)の耳にも入っていた。
「白猫、見つけたら撫でたい」
「あ、ミツハも抱っこしたいのです」
ビギナーの二人はそんな話をしてくすりと笑う。
「……ネムリア、前を見て。集中」
「わわっ、うん。集中だね」
nilに注意をされてネムリアは意識をスライム探しへと戻す。
「あう、ミツハもごめんなさいなのです」
「はははっ、次から注意だな。お喋りはスライム退治が終わった後だ」
思わずぺこりと頭を下げてしまう蜜羽に勇人は笑って諭しながら先へ進むことを促す。
そして最後尾。殿を務める二人は奇妙な掛け合いをしていた。
「しかし異世界転移後初の依頼がスライム退治とは……いやぁ僕もテンプレ主人公コースまっしぐらですね!」
「そうかもね」
ハイテンションな加茂 忠国(ka4451)にネリー・ベル(ka2910)は淡々とした声で返事を返しながら時たま後ろを振り返って敵がいないことを確認する。
「てかスライムですよスライム! 溶解液を飛ばしてくるんですって! それはつまり……ドゥフフ!」
「そうね」
何か邪なことをイメージしているらしい忠国にネリーはやはり淡々と返す。
「そうだ。このお仕事終わったら一杯どうです? 美味しいお店知ってるんです」
「そう」
「何だかとっても素っ気無い……だがそれもいい!」
ほぼ一方的に思える会話だが、忠国はそれでもいいらしく嬉しそうだ。
そんなこんなの会話をしつつ、ハンター達は坑道の奥へと進んでいく。
「そろそろ広場に着くころです」
歩いた距離的に事前に聞いていた広場に出るはずだと屋外は告げる。
彼の言う通り、少し進むとこれまでと違い壁がなくなっている部分が見えてきた。
「っ! 何か動いたわ」
動くものを目にした狭綾が声を上げて止まり、ハンドガンを正面へ向ける。
ハンター達が身構えるとほぼ同時に、行動の暗闇の奥から転がるようにして1匹の赤い粘着質な物体――スライムが現れた。
「やっとお出ましね。退治してあげるわ」
その姿が見えたところで狭綾はすぐに引き金を引く。放たれた弾丸は真っ直ぐに飛び、スライムに着弾するとその一部が弾ける様にして辺りに散る。
「ブロークンッナックル!」
さらに野外が掛け声と共にスライムに向けた腕から金属製のナックルが発射される。射出された拳はスライムのど真ん中を捉え、まるで爆竹が破裂したかのような音と共に辺りにその体を四散させた。
「あら、予想以上に弱いのね」
たった二回。スキルを使ったわけでもなく然程威力の高い攻撃でもなかったにも関わらずスライムは死んでしまったようだ。
「弱いならそれに越したことはないさ。ただ油断なくな」
「分かってるわ。さあ、先に進みましょう」
勇人の言葉に狭綾は応えながら広場へと足を進めていった。
ハンター達が広場に出ると、そこはちょっとしたホールのような広さがあった。壁際には幾つもの木箱が積み重ねられ、働き手達の休憩所らしき場所には簡易ながらベンチとテーブル代わりらしい木箱が並べてある。
そして、各所に光を当てれば何やら動いている影が壁に映し出された。
「まずは広場の確保が必要ね」
最後に広場へと入ってきたネリーは手のひらサイズの拳銃を握り動く影の数を数える。見えるだけで3つ。もしかすると明りが当たっていない場所に潜んでいる可能性もある。
「……ネムリア、行ける?」
木箱の陰から現れた一匹を指してnilがネムリアへ視線を向ける。
「あっ、はい! 行きます!」
ネムリアはそれに応え、木製の杖を構えてスライムへと駆けた。距離はすぐに縮まる。だが、ネムリアが攻撃に移ろうとするより早く、それまで鈍重な動きだったスライムの体が収縮し、弾ける様にして地面から飛び上がりネムリアへと飛び掛ってきた。
「わわっ!」
それに慌てたネムリアは咄嗟に杖を体の前に構えると、スライムはそれにぶつかってまるでボールのように跳ね返り地面へと落ちる。
さらにスライムの体が震え、何か行動に移す素振りを見せたところでその体に矢が突き刺さる。その瞬間にスライムの体から何か液体が吹き出るが、それは近くにあった木箱に掛かった。木箱はじゅうっと小さな音を立て酸に侵され腐食していく。
「……ネムリア、トドメを」
「はいっ!」
nilの声にネムリアは大きく返事し、振りかぶった杖でスライムを思いっきり叩く。スライムはその衝撃で潰れ、風船が破裂したような音と共に地面に粘着質な体液が広がった。
「さあ、スライム。俺が相手だ!」
戦闘体勢に入った勇人がスライムと対峙する。スライムは勇人の声に反応するように体を収縮させ、弾けるようにして勇人目掛けて飛び上がった。
「はぁっ!」
それに合わせるように勇人はマテリアルを籠めた拳を握り、飛び上がったスライムを殴りつけた。
それはまるで柔らかいゼリーでも殴ったかのような感触で、拳を振りぬくとスライムは吹き飛んで壁に向かい、弾ける音と共に液体が壁の一部に広がった。
「勇人さま、お強いのです」
勇人の後ろで明りを確保していた蜜羽は、勇人の勇姿を見てぱちぱちと拍手をする。
「これで広場のスライムは片付いたかしら?」
スライムに数発弾丸を撃ち込み、弾倉を交換しながら狭綾は周囲の皆に確認を取る。
「こっちにはもういないわね」
「こちらも排除完了しています」
ネリーと屋外もそれぞれ一匹ずつスライムを倒し、他に残っていないことを確認する。
「いやー、皆さんお強いですね。僕は何もする暇もありませんでした!」
一連の戦闘を後ろで眺めていた忠国は煙管を手元でくるくる回しながら笑っている。
その姿を一部ハンターが白い目で見るが、すぐに無視されて次の行動へと移る。
「……地図によると。むこうとむこう、それとこっち」
坑道の地図を手にしたnilが指差す方向にはまたぽっかりと穴が3つほど空いている。採掘用の穴で、情報によればその奥にもスライム達がいるはずだ。
「それじゃあ予定通り班分けして探索ね」
それぞれの穴に2人ずつ、そして残った2人がもしもの時の為にこの広場に残る。
「気をつけて」
ネリーの言葉に見送られ、それぞれの穴をハンター達は進んでいく。
「nil、さっきはありがとう」
「……構わない」
坑道を進むネムリアとnilは周囲に視線をめぐらしながら言葉を交わす。
入り口から広場まで続いていた穴とは違い、壁はほぼむき出しの岩肌で、あちこちに小さな岩の破片が落ちている。
「次はわたしだけでも倒せるよう頑張るよ」
「……なら、期待している」
ぎゅっと杖を握りしめたネムリアに、nilは視線を合わせて応えた。
そしてそろそろ坑道の奥に辿り着こうとしたところで、暗闇の奥で何かが這いずるような音が聞こえる。
「……行ける?」
「うん。大丈夫!」
nilの言葉にネムリアは応え、nilは頷いて返し明りを向けた。そこには壁に向かってゆっくりと進んでいるスライムの姿がある。
それを見たネムリアは杖を正面に構えて走る。その足音に反応したのかスライムは動きを止めた。
スライムの体が震えだすが、その瞬間にネムリアの振るった杖が打ち上げるようにしてスライムの体を叩きつけ、スライムを側面の壁に叩きつけた。
「うっ、痛っ」
潰れたスライムは弾けて体液と、吐き出そうとしていた溶解液を辺りに撒き散らす。それを少し腕に浴びたネムリアの腕に小さな火傷の様な傷が出来た。
そこにnilが近づき、首にしていたマフラーを外してネムリアに着いた液体を拭いとる。
「……退治完了。お疲れ様」
「あっ、うん。ありがとう、nil」
一方、勇人と蜜羽が向かった奥の道でもスライムを発見していた。
だが、少し困ったことになっているようで、二人は少し高くなった天井を見上げている。
「あー、あの位置だと俺の拳も届かないな」
天井に張り付いたスライムが下りてこないのだ。そこでたまに溶解液を降らせてくるのだが、狙いが下手なのか的外れな場所でじゅうじゅう地面を溶かしている。
「えっとえっと、そ、それならミツハが……」
勇人の後ろから顔を覗かせた蜜羽がメイスを握り締め、そして何か小さく詠唱してからゆっくりとそれをスライムに向ける。
「ほ、ホーリーライトー」
蜜羽の手にしたメイスから光の弾が発射され、それは見事スライムに命中する。その拍子にスライムは天井から剥がれ落ちて地面へと転がった。
「おっ、ナイスフォロー!」
そして落ちてきたスライムに勇人の拳が振り下ろされ、あっさりとトドメをさされた。
「お、お役に立ちました……?」
「ああ、助かったぜ」
不安顔の蜜羽。それに勇人のサムズアップを見せると、蜜羽もほっとした溜息と共に笑顔を返した。
●白猫と少女
ガンガンと、坑道内で音が響く。その音の元を辿れば、汗水垂らしながらツルハシを振るう忠国の姿があった。
「まさかスコップが役に立たないとは。しかし、それで諦める僕じゃないんですよこれが!」
何を思ったのか、一心不乱に地面の岩肌を掘っている。いや、明確な理由はあるのだが彼の表情を見る限り邪まなことが目的なのは明白であろう。
そんな忠国の隣で我関せずとネリーは魔導短電話から聞こえる声を聞く。
「そう、分かったわ。気をつけて戻って」
スライム撃破の報を受けてネリーは短く返事を返す。3つの横穴の探索はこれにて終了。スライム撃退の任務はこれで完了だろう。
そう思い一息吐いた所で暗がりの中に何か光が動くのを感じた。
「誰かしら?」
ネリーは闇の向こうへと問う。
広場の中はあちこちにランタンが下げられ闇に隠れている部分は半分程度だ。そしてまた途切れ途切れの陰から陰へ何かが動く。
「あれ、どうかしましたか?」
ツルハシを肩に担いだ忠国が不思議そうな顔をする。
その時、壁際に人よりも遥かに大きな影が現れた。四本の足で立つ獣の姿だ。
「えっ? 化け猫でもでました?」
忠国が驚いている間にネリーは走る。押さえるべきはまず出入口。そこに到達したところで振り返り、陰の伸びるその先を見る。
――ニィ
そこには噂どおりの白猫がいた。短い毛並みに汚れ一つない白い体。そして金色の瞳がネリーの赤い瞳と交じり合う。
「いるのは雑魔だけと聞いているのよ」
ネリーは猫に視線を向けたまま、どこかの暗闇へ向けて話しかける。暫く待っても暗闇から返事はない。
仕方なしとネリーは手にした銃を白猫に向けようとしたところで、電撃音が広場に響いた。
「うぎゃあっ! 痛っ。めっちゃくちゃ痛い!」
見るとそこには首筋を押さえながら地面を転がる忠国と、随分と背の低い少女が立っていた。
少女の肌はこの洞窟が暗がりだからというわけではなく少し浅黒い。それとは対照的にその髪は明るい茜色をしていた。そして銀に近い鈍色の瞳は大きく見開かれ、誰が見ても驚いたような表情をしている。
「……凄い、耐えられた」
向けている視線から見るに、どうやら忠国が気絶しなかったことを驚いているようだ。
「私達はここでスライム退治をしているの。邪魔だから帰ってくれるかしら?」
ネリーの呼びかけに少女はかくりと小さく首を傾げる。
「攻撃してこないの?」
「何故攻撃しないといけないの?」
その返しに少女は少し考え、近くに木箱を漁りだす。
と、その瞬間。瞬く光と共に銃声が広場に響く。それに反応するように少女は手にしていた剣を振るうと何かが弾ける音がした。
「あなたが鉱物泥棒の黒幕ね」
横穴から戻ってきた狭綾が発砲したのだ。その横には屋外の姿もあるが、彼は敵意は見せず荷物からマグカップを取り出す。
「ふむ、とりあえず。喉が乾いてないですか?」
その問いに少女は困惑したような表情をした。突然攻撃され、その後にお茶に誘われたらそうもなるだろう。
「あわわ、えっと、話せば分かると思うのですー」
さらに別の穴から戻ってきた蜜羽が見知らぬ少女と仲間達の状況を見て慌てて声をかける。
「ふむ、少女よ。何で鉱物を集めているんだい?」
「お願いされてるから」
少女は勇人の問いに素直に答える。嘘を言っている様子も無い。
「……どういう状況?」
「戦闘には、なってないみたいだね」
さらにnilとネムリアも広場に戻ってくる。それを確認した少女が木箱の上に乗っていた白猫の元まで行くと、白猫は少女の足元へと寄り添う。
「逃がさな――きゃっ!?」
逃げると判断した狭綾が一歩踏み出したところで何故かその場で転んでしまう。見ればそこには布を被せられ偽装された穴が掘られていた。
「よし、美少女が落ちた! お嬢さん、大丈夫ですか?」
「何してるのよ、この馬鹿!」
思わずガッツポーズをしてから手を差し伸べてくる忠国に、狭綾がその頭を引っぱたく。
少女はそれを一瞥して出口へと向かおうとするが、その前に勇人が一声かける。
「なあ、君とあとそのにゃんこの名前はなんて言うんだい?」
少女は一度振り返り、少し考えた後に答えた。
「シャル、セイン」
少女は自分、それから白猫の順に指差してそう答えた。それだけ言うと少女は駆け出し、ネリーの傍をすり抜けて走り去る。
「謎の泥棒の正体は少女でしたか」
「……ええ。妖精ではなかったわ」
屋外とnilはそれを見送る。ハンターの視点から見ても随分と足が速い。今から追っても追いつけないだろう。
「猫、撫でたかったな」
「ミツハも抱っこしたかったですー」
「まあ、縁があればまた会えるんじゃないか?」
スライム退治の現場で鉢合わせた小さな縁。その不思議な出会いにハンター達はそれぞれの想いを胸に秘めた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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スライム退治+α? 柏部 狭綾(ka2697) 人間(リアルブルー)|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/04/09 05:04:13 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/05 15:46:40 |