ゲスト
(ka0000)
デュニクス騎士団 第一篇 『邂逅』
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/12 19:00
- 完成日
- 2015/04/20 05:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
平素より大変お世話になっております。
何の冗談か疾影士三人で始まったデュニクス騎士団ですが、あっという間に2カ月が経ちました。ゲオルギウス様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
突然ですが、私たちの愉快な仲間達を紹介したいと思います。
●
と、レヴィンが出す予定のない手紙を書いていた時のこと。
「オォォォイ!! 腹から声だせェェェ!!!」
「「「「オォォス!!!!」」」」
「聞こえんわァァァ!!!」
「「「「ヴォォォォォォォォォス!!!!」」」」
窓の外から野太い咆哮が届いた。元王国騎士団の騎士であったというボルクスと、愉快な戦闘員達――デュニクスの元チンピラ達――の怒声である。ボルクスは老齢とは思えない程の声量と筋力を有する古強者である。優れた教官である、のだが……。
「やってますなぁ」
微笑ましそうに言うポチョムに、レヴィンは苦笑を返した。彼らのお陰でデュニクス騎士団は小さな事務所から追い出され、デュニクス郊外の廃農家へと居を移すことになった。その事は少なからずレヴィンの五臓六腑にダメージを与えている。
「ボル「声ェェェェ!!!」おかげで「「「「オォォォス!!!」」」りに「ヨォォシ盾、構えェェ!!!」ってきま「「「「オォォォス!!!」」」」らね」
「クク」
何処からともなく、声。ヴィサンが笑ったようだった。
――いたんですね……。
レヴィンは全然気付かなかった。余談だが、仕事と指導をサボる為にポチョムの目から逃れるようになってから、ヴィサンの隠行スキルは急上昇している。
「……アレで耳が遠くなければ……な……」
ポチョムは落胆と共に、そう言った。ボルクスの声の大きさや威圧的な態度はその殆どが加齢による難聴のせいだったと知ったら、戦闘員の子たちはどう思うだろうか。レヴィンは息を吐いた。
●
軽いノックの音が、二つ。
「それでは、私は指導に」「……さらばだ」
唐突にポチョムとヴィサンは席を立った。そのまま二人は執務室の窓から音も無く去っていく。冷や汗を流すレヴィンは「ど、どうぞ」とだけ言って、入室を促した。
「失礼します」
声の主は長い金髪に蒼眼の少女だった。顔立ちは美しく、陶器のような肌には育ちの良さが伺える。
「『マリーベル』さん、ど、どうされました?」
「今月の予算について、お話が」
マリーベル、と呼ばれた少女は手元の資料を示しながら、続けた。
「ヴェルド様への支払いが、先月比で4倍になっています」
「そ、それは」
ヴェルドはデュニクス騎士団付きの鍛冶師である。故郷が心配で帰って来た所に面接が掛かり採用となった。元々はグラズヘイム・シュバリエの職人とのことで腕は確かなのだが、生憎本格的な工房の調達はできなかったためデュニクス内の鍛冶場を間借りしている。必要な資材はそこを通して購入する都合上、彼への支払いは他と比しても膨らみがちである。
「皆様の装備用――にしては、多すぎます。何か、別の案件でも依頼しているのですか?」
「あ、え、あー……はい、そうです。そうなんです」
マリーベルは聡い。会話が滞りがちなレヴィンと効率よくコミュニケーションを取る為に、事前に想定してからこうして尋ねてくるようになって久しい。簡単な確認事項を除けば、彼女の『質問』は結論は決まっている事が多くなった。
レヴィンのせい、といえばその通りなのだが。
「……そろそろ、始まるのですか?」
「……あー」
どこか、曇った表情でマリーベルは言う。レヴィンは言葉を探すが、体裁の良い言葉が見当たらずに。
「えーと、その、なんといいますか最大限前」
「そう、ですか……」
お茶を濁そうとして、失敗した。
●
出発当日。デュニクスの外縁。
「アプリちゃん!」「俺、ぜってェ帰ってくるから!」「アプリちゃんのご飯が食えなくなるなんて辛い死にたい」「お米、向こうでも炊くね。アプリちゃんを思って炊くからね!」
愁嘆場だった。荷馬車にアレヤコレヤと積み込んで身軽になった戦闘員達が、デュニクス騎士団の家事担当のアプリちゃんを取り囲んで別れを惜しんでいた。
「あ、はい、気をつけてくださいね……プロテインばっかり食べたらダメですよ?」
困り顔のアプリは、東方系の顔立ちの少女であった。メイド服を着てはいるが、『体調や衛生管理を担う人員が採用されたら相応の権限を』という事でデュニクス騎士団所属の戦闘要員で彼女に逆らうものはいない。怒らせると献立の内容にダイレクトアタックは当たり前。部屋掃除のチェックは埃一つでも指摘され、穴が開いていようものなら可愛らしいアップリケが付けられる事になる。
だが、彼女はプロフェッショナルだった。畏れ以上の何かが、戦闘員達に芽生えるくらいには。
「……そんな女よりアタシのほうが綺麗なのに」
一人、ふてくされているのは身長185cmに届こうという、大柄の人物だ。線は細いし色も白い。どちらかというと顔立ちは幼い作りのマリーベルやアプリと違って、美女と言っても過言はない。
だが、男だ。
スネゲもウデゲもない。ヒゲもない。他の毛はワカラナイ。怪しい魔法薬の成果らしい。名はキャストン・グレイ。通称キャシー。何のために覚えたかは詳らかにされては居ないが、マッサージが得意だという、酒場の看板娘(?)である。
「マリーは妬かないの?」
「私は、別に……」
「気合入れろヨォォォォォォォォ!」
「「「「押忍!!!!!!!」」」」
ボルクスの怒声に、戦闘員一同は反射で起立し、返答している。
「……ああいうのは、ちょっと、苦手で」
「あら。こういう時に悔しそうな顔をするほうが男は引っ掛けやすいのよ?」
「……そういうのも、ちょっと……」
困り顔のマリーベルは同道する『ハンター達』に視線を向けた。
「……あの人達のこと、よろしくおねがいしますね」
●
黒大公ベリアルの動乱の折、北西部は戦禍に巻き込まれた。その時のことだ。王国北西部の村々をゴブリン達が襲撃したのは。尤も、その殆どはすでに避難した後の事だった為、人的被害は少なかった。しかし、だ。
「このゴブリン達が、問題でしてね」
説明役のポチョムが、言う。
「聖堂戦士団の司祭とハンターの皆さんの交戦歴がある、のですが。その際に目撃されたゴブリン達は騎兵が2匹いました。中々強者のゴブリンもいたそうです、が――最近、ゴブリンの大集団が複数目撃されています」
つい、と太い指を立てて、言う。
「最初に目撃された彼らは、哨戒役に過ぎなかった。それが、私達の結論です」
総数は不明。所在は探索中。だが、いくらかの小集団は目撃されている。
「北西部は雑魔も多く、民が不在な地も多いため、未開の地といっても過言ではありません」
――我々の当座の目標は、この地のゴブリンを駆逐することです、と。ポチョムは告げる。そして。
「……彼らの訓練も、兼ねて居ますがね」
と、そう結んだ。
平素より大変お世話になっております。
何の冗談か疾影士三人で始まったデュニクス騎士団ですが、あっという間に2カ月が経ちました。ゲオルギウス様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
突然ですが、私たちの愉快な仲間達を紹介したいと思います。
●
と、レヴィンが出す予定のない手紙を書いていた時のこと。
「オォォォイ!! 腹から声だせェェェ!!!」
「「「「オォォス!!!!」」」」
「聞こえんわァァァ!!!」
「「「「ヴォォォォォォォォォス!!!!」」」」
窓の外から野太い咆哮が届いた。元王国騎士団の騎士であったというボルクスと、愉快な戦闘員達――デュニクスの元チンピラ達――の怒声である。ボルクスは老齢とは思えない程の声量と筋力を有する古強者である。優れた教官である、のだが……。
「やってますなぁ」
微笑ましそうに言うポチョムに、レヴィンは苦笑を返した。彼らのお陰でデュニクス騎士団は小さな事務所から追い出され、デュニクス郊外の廃農家へと居を移すことになった。その事は少なからずレヴィンの五臓六腑にダメージを与えている。
「ボル「声ェェェェ!!!」おかげで「「「「オォォォス!!!」」」りに「ヨォォシ盾、構えェェ!!!」ってきま「「「「オォォォス!!!」」」」らね」
「クク」
何処からともなく、声。ヴィサンが笑ったようだった。
――いたんですね……。
レヴィンは全然気付かなかった。余談だが、仕事と指導をサボる為にポチョムの目から逃れるようになってから、ヴィサンの隠行スキルは急上昇している。
「……アレで耳が遠くなければ……な……」
ポチョムは落胆と共に、そう言った。ボルクスの声の大きさや威圧的な態度はその殆どが加齢による難聴のせいだったと知ったら、戦闘員の子たちはどう思うだろうか。レヴィンは息を吐いた。
●
軽いノックの音が、二つ。
「それでは、私は指導に」「……さらばだ」
唐突にポチョムとヴィサンは席を立った。そのまま二人は執務室の窓から音も無く去っていく。冷や汗を流すレヴィンは「ど、どうぞ」とだけ言って、入室を促した。
「失礼します」
声の主は長い金髪に蒼眼の少女だった。顔立ちは美しく、陶器のような肌には育ちの良さが伺える。
「『マリーベル』さん、ど、どうされました?」
「今月の予算について、お話が」
マリーベル、と呼ばれた少女は手元の資料を示しながら、続けた。
「ヴェルド様への支払いが、先月比で4倍になっています」
「そ、それは」
ヴェルドはデュニクス騎士団付きの鍛冶師である。故郷が心配で帰って来た所に面接が掛かり採用となった。元々はグラズヘイム・シュバリエの職人とのことで腕は確かなのだが、生憎本格的な工房の調達はできなかったためデュニクス内の鍛冶場を間借りしている。必要な資材はそこを通して購入する都合上、彼への支払いは他と比しても膨らみがちである。
「皆様の装備用――にしては、多すぎます。何か、別の案件でも依頼しているのですか?」
「あ、え、あー……はい、そうです。そうなんです」
マリーベルは聡い。会話が滞りがちなレヴィンと効率よくコミュニケーションを取る為に、事前に想定してからこうして尋ねてくるようになって久しい。簡単な確認事項を除けば、彼女の『質問』は結論は決まっている事が多くなった。
レヴィンのせい、といえばその通りなのだが。
「……そろそろ、始まるのですか?」
「……あー」
どこか、曇った表情でマリーベルは言う。レヴィンは言葉を探すが、体裁の良い言葉が見当たらずに。
「えーと、その、なんといいますか最大限前」
「そう、ですか……」
お茶を濁そうとして、失敗した。
●
出発当日。デュニクスの外縁。
「アプリちゃん!」「俺、ぜってェ帰ってくるから!」「アプリちゃんのご飯が食えなくなるなんて辛い死にたい」「お米、向こうでも炊くね。アプリちゃんを思って炊くからね!」
愁嘆場だった。荷馬車にアレヤコレヤと積み込んで身軽になった戦闘員達が、デュニクス騎士団の家事担当のアプリちゃんを取り囲んで別れを惜しんでいた。
「あ、はい、気をつけてくださいね……プロテインばっかり食べたらダメですよ?」
困り顔のアプリは、東方系の顔立ちの少女であった。メイド服を着てはいるが、『体調や衛生管理を担う人員が採用されたら相応の権限を』という事でデュニクス騎士団所属の戦闘要員で彼女に逆らうものはいない。怒らせると献立の内容にダイレクトアタックは当たり前。部屋掃除のチェックは埃一つでも指摘され、穴が開いていようものなら可愛らしいアップリケが付けられる事になる。
だが、彼女はプロフェッショナルだった。畏れ以上の何かが、戦闘員達に芽生えるくらいには。
「……そんな女よりアタシのほうが綺麗なのに」
一人、ふてくされているのは身長185cmに届こうという、大柄の人物だ。線は細いし色も白い。どちらかというと顔立ちは幼い作りのマリーベルやアプリと違って、美女と言っても過言はない。
だが、男だ。
スネゲもウデゲもない。ヒゲもない。他の毛はワカラナイ。怪しい魔法薬の成果らしい。名はキャストン・グレイ。通称キャシー。何のために覚えたかは詳らかにされては居ないが、マッサージが得意だという、酒場の看板娘(?)である。
「マリーは妬かないの?」
「私は、別に……」
「気合入れろヨォォォォォォォォ!」
「「「「押忍!!!!!!!」」」」
ボルクスの怒声に、戦闘員一同は反射で起立し、返答している。
「……ああいうのは、ちょっと、苦手で」
「あら。こういう時に悔しそうな顔をするほうが男は引っ掛けやすいのよ?」
「……そういうのも、ちょっと……」
困り顔のマリーベルは同道する『ハンター達』に視線を向けた。
「……あの人達のこと、よろしくおねがいしますね」
●
黒大公ベリアルの動乱の折、北西部は戦禍に巻き込まれた。その時のことだ。王国北西部の村々をゴブリン達が襲撃したのは。尤も、その殆どはすでに避難した後の事だった為、人的被害は少なかった。しかし、だ。
「このゴブリン達が、問題でしてね」
説明役のポチョムが、言う。
「聖堂戦士団の司祭とハンターの皆さんの交戦歴がある、のですが。その際に目撃されたゴブリン達は騎兵が2匹いました。中々強者のゴブリンもいたそうです、が――最近、ゴブリンの大集団が複数目撃されています」
つい、と太い指を立てて、言う。
「最初に目撃された彼らは、哨戒役に過ぎなかった。それが、私達の結論です」
総数は不明。所在は探索中。だが、いくらかの小集団は目撃されている。
「北西部は雑魔も多く、民が不在な地も多いため、未開の地といっても過言ではありません」
――我々の当座の目標は、この地のゴブリンを駆逐することです、と。ポチョムは告げる。そして。
「……彼らの訓練も、兼ねて居ますがね」
と、そう結んだ。
リプレイ本文
●
「2%だな」
「へ?」
開戦に挑む、その間際。デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は髭面を獰猛に歪めてそう言い放った。
「このデスドクロ様が本気を出せば1秒で終わっちまうからな……騎士団連中に経験を積ませ、なおかつ損害を軽微に抑えるとなると……やはり、うむ。暗黒魔力の2%を開放するのが妥当……か」
持てる者の奢りを大胆にも露わにするデスドクロに、レヴィンは何も言えなかった。
「はい、これを持っておいてねん」
ナナート=アドラー(ka1668)は戦闘員に無線機を渡した。
「これは――?」
「連絡用の通信機よん。『ほうれんそう』は基本よねん?」
艶然と笑むナナートに、戦闘員のメンズは生唾を飲んだ。
「……しかし、か、数が、足りません」
「あらぁ?」
言われてみれば、ナナートが持参した無線機は二つ。一方、戦闘員はウォルター・ヨー(ka2967)の提案で六人一組に分けられている。
「だ、大丈夫です、声のデカさなら無線機にも負けねェっす!」
「あら、それじゃあ、お任せしようかしら」
頬を上気させるメンズに、微笑むナナート。アルルベル・ベルベット(ka2730)はその様子を見て、複雑そうな表情をしてみせた。
「……なに、ちやほやされずとも、一緒にいて落ち着けるのがキャシーの良さというものだ」
男たちの熱気に、思う所があったのだろう。アルルベルは戦闘員達の装備や落ち着いた空気を眺めながら。
――ふむ。騎士団の面々は概ね上手くやっているようで何より。
少しだけ満足を滲ませて、頷いた。
「魔術師のアルバです。大して力の無い魔術師なので、守りはお願いしますね」
「便りにしてるぜ!」
最前線に立つ戦闘員達にアルバ・ソル(ka4189)は痩身を折ってそう告げた。元チンピラ達の剛毅な声とは裏腹に、視線にどこか畏れが滲んでいるのはかつてハンターにボッコにされた経験故だが――閑話休題。
「……てな具合で、どうでやんしょ?」
「ふむ」
ウォルターはポチョムに戦術の提案をしていた。話を聞いたポチョムは「どうでしょうな?」とレヴィンを見た、がぎこちなく微笑む隊長から早々に見切りをつけ、言う。
「敵の出方次第、でしょうな。ハンター諸氏を踏まえても、此度の私達は先手が取れる構成ではありませんから……」
「……ふむふむ」
「成る可く、そちらの意に添うようにはしましょう」
少し考えこむ素振りを見せたウォルターに、ポチョムは丸っこい顔に笑顔を見せて頷いて見せた。
レヴィンは怯えていた。返事が滞ったのは、そのためだ。
――なぜ、見てるんです?
離れた位置からLeo=Evergreen (ka3902)がじっとレヴィンを――その頭髪を見ていた。そこに、底知れぬ深い情念を見て取っていたのだった。
その距離故に、レヴィンには聞こえなかっただろう。レオが、
「……やぁ。やぁ。まさか小遣い稼ぎに来て駆逐対象に合うとは思わなかったですよ」
と呟いたことなど。
●
諸々の思惑はさておき、戦闘は極々自然に始まった。
互いに姿を認め――先手は、ゴブリン達が取った。刺青の荒い怒声に続いて、真正面、十本の矢と幾らかの火玉が振ってくる。緩やかな其れを前に、
「訓練通りに往くぞコルァ!」「さァさァ、俺らの近くに寄って! もっと!」「ナナートさァん!?」
「うん」
「はいですよ」
「……」
怒声と欲望に塗れた声を背に、アルバはそっと。レオは頓着せずに。アルルベルは顔を顰めながら、戦闘員の掲げた盾の壁に身を隠すようにして伏せた。矢弾の数も質も知れていた戦闘員の掲げた厚い鋼鉄に弾かれる。
「……おや」
教練の中で幾度も繰り返した動きなのだろう、とアルルベルは見て取った。中々、様になっており、不安も乏しい。
――だが。
最前衛たる自分たちの足が止まっている。当然、ゴブリン達は動いていた。二十の兵士達が、弓兵とメイジを背負って接近している。また、こちらから見て右側へと敵騎兵も動いていた。刺青は動かないが、何事かを叫んでいたようだ。アルルベルの思索が途切れる。眼前、兵士たちが突貫していた。魔導銃の間合いに入った最前の個体を撃ちぬく。悲鳴を上げて斃れた兵士が踏み抜かれる。
「目をそらさずに。ちゃんと構えて。その手にあるのはなんですか? 貴方を、そして貴方の背後にある国を護るもの。そうでしょう?」
――皆さんを、信じます。
上空に矢を認めたアルバの声に続いて、蕭、と風が鳴った。アルバの魔術が顕現し、旋風が別の兵士を撫で切る。致命には至らなかったが足が鈍った。頭上から降ってくる二度目の矢は、戦闘員が掲げた盾で弾かれる。
「一人で行動するのは危険なので、最低でも二人一組でペアにしとくのが良いと思うのですよ」
「「Kill'em Allll!」」
最接近寸前。レオの助言とゴブリン達の吠声を呑み込んだ咆哮が、戦闘開始の合図だった。
「――それじゃ。騎士団のみんな、張り切って行って行きましょうか? 頑張ったコには、ご褒美にキスしてあ・げ・る♪」
デスドクロとナナートは右翼へと回った。言い残して馬を走らせるナナートの背に、嬌声と怒号。
「横撃を狙う、か」
「そうねぇん」
泰然とそれを受け止めながら、デスドクロは言い。
「小賢しい……だが、まだまだ俺様の暗黒魔力を開放するほどではないな!」
拳を振り上げる。展開した魔導機械から光条が走った。狙いは、騎兵達。その多くを騎兵達は回避するが、鬱陶しさが募ったか、血走った目がデスドクロを射抜く。
「おお……っ!」
デスドクロが声をあげた。騎兵達全騎が、ナナートとデスドクロに狙いを定めたようだった。ある意味で大手柄、だが。
「あら……随分気に入られたみたいねん?」
何故かデスドクロは嬉しそうだが、多勢に無勢だ。ナナートは拳銃を構えながら、殺気を飛ばす。騎兵の一騎が視線に射抜かれて、勢いが鈍る中。
「本当ですなあ」
いつの間にか傍らに来ていたポチョムが、そう応じた。
「……なんで此処にいるのん?」
「あちらは、問題なさそうでしたから、な」
ナナートの問いに飄々と嘯くポチョムは槍を構え、告げた。
「ヴィサンは連れて行かれてしまったので……こちらは、私が」
「デート。デートか……クク」
生温い声がウォルターの背を撫でる。正直気持ち悪い。空いた左翼側から、ウォルター達は進んでいた。
――”刺青”へと。
「エスコートは任せる」
「あい、あい」
ポチョムの方が良かったか、と後悔は募ったが、仕方がない。
「……?」
つと、ヴィサンの気配が途絶えた。だが、振り返る事は出来なかった。眼前。”刺青”がいる。身体は肉厚で、得物もデカイ。傷は多いが、どうみても強そうだ。当然のように、ウォルターを捕捉している。見返して、不敵に笑って見せて、呟く。
「頭ァもげなくとも、軍団そのもののの危急には足並みが乱れるもんでやす。乱暴な手ではありやすが」
内心では一抹の不安を抱きながら――突っ込んだ。
●
騎兵側。デスドクロの射撃で加速は潰せたが、その突撃は、痛かった。錆びついた槍に身を切られながら、デスドクロとナナートは苦鳴を零した。応じて放たれた銃撃と拳撃に、ポチョムの一閃が連なり――漸く、一騎が落馬した。受け身も取れずに地を転がり、動かなくなる。
「……まずは一騎、ねん」
交錯は一瞬の事だったが、中々に手強い。
「俺様の力を恐れたか……!」
嬉しそうに高笑いするデスドクロ。目的は達成出来ているはずだが、どこか痛々しい。
「いやはや、狙いは果たせた、という所ですかな?」
に、と。デスドクロを見て笑うポチョム。デスドクロの人となりが余りに奇矯すぎて、一周回って常人のように扱っている。ナナートは苦笑を浮かべながら、反転して再度向かってくる騎兵達を見据えた。
「にしても、結構強いわねぇ」
騎兵突撃にしても、一打の手応えにしても。ポチョムが来なかったら――直ぐに、数の暴威に呑まれていたかもしれない。
●
「……っと、危ないのですよ」
ゴブリンに押し倒されそうになっていた戦闘員を、人々の隙間から湧いて出たレオが引きずり出す。
「ここは私が支えよう! 後退させてくれ」
「あい、任せるです」
均衡が崩れかけるが、機導剣を振るったアルルベルが間に入った。「くっそ……!」と、悔しげに引きずられていく戦闘員を尻目に眼前のゴブリンの首に機導剣を差し込んだ。
「嬢ちゃんは!」「もっと近くに!」
まだ無事な戦闘員のやかましい冗句にうんざりしながら、アルルベルは息を吐く。
――矢と魔法に加えての戦闘は経験不足の戦闘員にはまだ荷が重かった、か。
死者こそレオの手で防げていたが、負傷者は加速度的に増えていく。それでも、火力に勝るこちらが有利だ。決定打が、無いだけで。
「おや」
アルバは騎兵の動向を見極めようと右翼側を眺めて、息を吐いた。
「……どうせなら、騎兵突撃を受けて欲しかったところだけど」
デスドクロ達の奮戦もあり、こちらには向かってこなそうだ。
「なら――」
眠りの雲を顕現させる。最前。戦闘員と兵士たちが噛み合う戦場へと。抗いきれなかったゴブリンがバタバタと倒れると、同時。
「あ、えと、その」
レヴィンが盛大にどもり。
「Fireeeee!!」
レヴィンの直近の闘狩人が声を張った。折り重なるように眠るゴブリン達――を抜けて、無事な兵士達に向けて小銃で一斉に銃撃。食い潰されたゴブリンたちが倒れていく。効果は抜群だった。突然の戦果に呆気にとられていたアルバ。不意に。
「……っ」
灼熱感。肩口に、矢弾と炎の矢が突き立っていた。
「済まねえアルバさん!!」
眼前、アルバを守護していた戦闘員が声を張る。
「捌ききれねえ……ッ!」
「……そう、か」
派手に魔術を扱ったことがバレてしまったようだ。痛みを、飲み込んで。
「気にしないで」
アルバは、こう結んだ。
「優勢、だから」
●
「マジかいマジかいマジなのかい」
他方。ウォルターはこの上なく苦戦していた。
「……辞世の句でも詠みましょうかね」
戦況を反映してか、”刺青”の憎悪が真っ直ぐに突き刺さる。加速して動き回るウォルターを前に騎馬から下りた”刺青”の猛撃に、晒されていた。
「とは言え、虎穴に入らずんばなんとやら……!」
守勢に立つと死しか見えない。恨み言を飲み込んで、ウォルターは踏み込んだ。瞬後、眼前に槍。同時、左耳に灼熱と轟音、そして湿った気配。生を噛み締めて”刺青”の懐に踏み込んで、横薙ぎに剣を振るう。分厚い腹筋を、切り裂くには至らない。
「硬……っ!」
追撃を恐れて、距離を外――そうとしたところに、横殴りの柄。直撃した。
「く、っは……っ」
横隔膜が麻痺して息が詰まり、僅かな呼気に血が混じった。獰猛な気配が、振ってくる。勝ち名乗りはない、ただ、残虐な眼差しだけ。
――あー。
渺、と。音。赤く、温い血が――。
「クク……随分なヤラれっぷりだな」
”振ってきた”。苦鳴と同時に、ヴィサンの声。
「っ、……遅すぎじゃあありやせんか」
足元から届く恨みっぽい視線を受け止めたヴィサンは心底怪訝そうな顔をした。
「? 初めからそのつもりだと、思っていたが……」
言葉の後。ウォルターの頭上から、何かが降ってきた。丸く、大きな。
「へっ?!」
”刺青”の、生首が――。
「お、わ、ちょ……っ!」
合掌。
●
ポチョムが最前に立つ事でナナート達は被弾を抑える事が出来ていたが、劣勢だった。眼前、更に数を減らして三騎となった騎兵の様子が、急に慌ただしくなる。
「あら、死んだわねん」
ぽつ、と”刺青”の遺体をみて呟いたナナートの声を聞いたわけではなかろうが、騎兵達は反転して何処かへと疾走を開始。見れば、”刺青”が騎乗していたラプターも逃走しているようだった。
「……俺様の威容に恐れをなしたか……それでいい」
くつくつと笑うデスドクロはさておき、ナナートは馬首を巡らせた。
「それじゃあ、後始末をしなくちゃねん♪」
弓兵とメイジが掃討されるまで、さして時間はかからなかった。眼前からは、兵士たちを打ち倒したアルルベル達。横合いからはレオと騎馬が至り――。
「これが、肌と肉の感触なのですね」
最後の弓兵を爪で切り裂いたレオは、手元を滴り落ちるアカイロを眺めながら、ぽつりと、こう結んだ。
「ごくごく当たり前ですが、髪の方が良いのです」
●
ハンター、騎士団ともに負傷者は多かったが、死者はなかった。大勝、と言っていいだろう。
アルバは、自身の護衛を務めた戦闘員達に礼を告げた。
「護ってくれて、ありがとう」
「や」「俺らは……」
真っ向から見つめられての礼にたじろぐ元チンピラ達。心底から彼らを正しく評価するアルバの視線は、チンピラ達にとっては面映いのだろう。
彼らの困惑は。
「約束通り、功労者にはご褒美よん! 私の唇をGETする幸運児はだぁれ♪」
「俺!」「いや、お前は途中で寝てただろ!」「それだけ頑張った!」「死ね!」
ナナートの声が上がった瞬間に、暴風と喧騒にのまれて消えたようだったが。
アルルベルは世の無常を噛み締めていた。ナナートも隠している訳ではないだろうが。
「……曝け出しているのもキャシーの良さだよ、うん」
冗談交じりに、そう呟きながら、見渡す。死者、零。至近で見た戦いぶりも守勢が主とは言え堂に入っていた。そのことを、我が事のように噛み締める。
「これからが、愉しみだ」
「あァ……デスドクロ騎士団、初戦はきっちり〆られたな」
傍ら、満足気に見つめるデスドクロが、頷いていた。
「……ん?」
「まァ、わかりきってた事なんだが。もう少し力を絞っても良かったかも知れん……1%くらいでも、な」
傲岸な態度で言うデスドクロに、アルルベルは――。
「…………」
沈黙を、選んだのだった。
「どうせなら若い女子がよかった……」
大の字に斃れた傷心のウォルターは離れていく元ヤン聖導士を他所にそう言った。殆ど無傷のヴィサンは何食わぬ顔、だったが。
「ところで、クラリぃちゃんはお役にたってやす?」
ウォルターの言葉に、ぴたり、と固まった。ちらり、とヴィサンはレヴィンの方を見て――役に立たぬ、と切り捨てて、足元のウォルターを見下ろした。
「話したら、殺す」
「あい、あい」
本気の殺意に失笑を返しながら、ウォルターは。
――飯のタネになりそうな気配でやすね。
胸の内で、そう笑った。
●
一方レヴィンは――地獄にいた。
「薄毛は恥じるべきではないのです。個性です。丁寧なケアを怠って伸ばしっぱなしは」
「はい……はい……」
さめざめと涙を流しながら、レヴィンは。
「ちゃんと手入れをしないと痛むのですよ。余計禿げるのです」
「はい……」
コンプレックスを抉る精神攻撃から始まった断髪の儀式を、見届けるしかなかった――。
こうして、デュニクス騎士団の栄えある緒戦は幕を下ろしたのだった。
「2%だな」
「へ?」
開戦に挑む、その間際。デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は髭面を獰猛に歪めてそう言い放った。
「このデスドクロ様が本気を出せば1秒で終わっちまうからな……騎士団連中に経験を積ませ、なおかつ損害を軽微に抑えるとなると……やはり、うむ。暗黒魔力の2%を開放するのが妥当……か」
持てる者の奢りを大胆にも露わにするデスドクロに、レヴィンは何も言えなかった。
「はい、これを持っておいてねん」
ナナート=アドラー(ka1668)は戦闘員に無線機を渡した。
「これは――?」
「連絡用の通信機よん。『ほうれんそう』は基本よねん?」
艶然と笑むナナートに、戦闘員のメンズは生唾を飲んだ。
「……しかし、か、数が、足りません」
「あらぁ?」
言われてみれば、ナナートが持参した無線機は二つ。一方、戦闘員はウォルター・ヨー(ka2967)の提案で六人一組に分けられている。
「だ、大丈夫です、声のデカさなら無線機にも負けねェっす!」
「あら、それじゃあ、お任せしようかしら」
頬を上気させるメンズに、微笑むナナート。アルルベル・ベルベット(ka2730)はその様子を見て、複雑そうな表情をしてみせた。
「……なに、ちやほやされずとも、一緒にいて落ち着けるのがキャシーの良さというものだ」
男たちの熱気に、思う所があったのだろう。アルルベルは戦闘員達の装備や落ち着いた空気を眺めながら。
――ふむ。騎士団の面々は概ね上手くやっているようで何より。
少しだけ満足を滲ませて、頷いた。
「魔術師のアルバです。大して力の無い魔術師なので、守りはお願いしますね」
「便りにしてるぜ!」
最前線に立つ戦闘員達にアルバ・ソル(ka4189)は痩身を折ってそう告げた。元チンピラ達の剛毅な声とは裏腹に、視線にどこか畏れが滲んでいるのはかつてハンターにボッコにされた経験故だが――閑話休題。
「……てな具合で、どうでやんしょ?」
「ふむ」
ウォルターはポチョムに戦術の提案をしていた。話を聞いたポチョムは「どうでしょうな?」とレヴィンを見た、がぎこちなく微笑む隊長から早々に見切りをつけ、言う。
「敵の出方次第、でしょうな。ハンター諸氏を踏まえても、此度の私達は先手が取れる構成ではありませんから……」
「……ふむふむ」
「成る可く、そちらの意に添うようにはしましょう」
少し考えこむ素振りを見せたウォルターに、ポチョムは丸っこい顔に笑顔を見せて頷いて見せた。
レヴィンは怯えていた。返事が滞ったのは、そのためだ。
――なぜ、見てるんです?
離れた位置からLeo=Evergreen (ka3902)がじっとレヴィンを――その頭髪を見ていた。そこに、底知れぬ深い情念を見て取っていたのだった。
その距離故に、レヴィンには聞こえなかっただろう。レオが、
「……やぁ。やぁ。まさか小遣い稼ぎに来て駆逐対象に合うとは思わなかったですよ」
と呟いたことなど。
●
諸々の思惑はさておき、戦闘は極々自然に始まった。
互いに姿を認め――先手は、ゴブリン達が取った。刺青の荒い怒声に続いて、真正面、十本の矢と幾らかの火玉が振ってくる。緩やかな其れを前に、
「訓練通りに往くぞコルァ!」「さァさァ、俺らの近くに寄って! もっと!」「ナナートさァん!?」
「うん」
「はいですよ」
「……」
怒声と欲望に塗れた声を背に、アルバはそっと。レオは頓着せずに。アルルベルは顔を顰めながら、戦闘員の掲げた盾の壁に身を隠すようにして伏せた。矢弾の数も質も知れていた戦闘員の掲げた厚い鋼鉄に弾かれる。
「……おや」
教練の中で幾度も繰り返した動きなのだろう、とアルルベルは見て取った。中々、様になっており、不安も乏しい。
――だが。
最前衛たる自分たちの足が止まっている。当然、ゴブリン達は動いていた。二十の兵士達が、弓兵とメイジを背負って接近している。また、こちらから見て右側へと敵騎兵も動いていた。刺青は動かないが、何事かを叫んでいたようだ。アルルベルの思索が途切れる。眼前、兵士たちが突貫していた。魔導銃の間合いに入った最前の個体を撃ちぬく。悲鳴を上げて斃れた兵士が踏み抜かれる。
「目をそらさずに。ちゃんと構えて。その手にあるのはなんですか? 貴方を、そして貴方の背後にある国を護るもの。そうでしょう?」
――皆さんを、信じます。
上空に矢を認めたアルバの声に続いて、蕭、と風が鳴った。アルバの魔術が顕現し、旋風が別の兵士を撫で切る。致命には至らなかったが足が鈍った。頭上から降ってくる二度目の矢は、戦闘員が掲げた盾で弾かれる。
「一人で行動するのは危険なので、最低でも二人一組でペアにしとくのが良いと思うのですよ」
「「Kill'em Allll!」」
最接近寸前。レオの助言とゴブリン達の吠声を呑み込んだ咆哮が、戦闘開始の合図だった。
「――それじゃ。騎士団のみんな、張り切って行って行きましょうか? 頑張ったコには、ご褒美にキスしてあ・げ・る♪」
デスドクロとナナートは右翼へと回った。言い残して馬を走らせるナナートの背に、嬌声と怒号。
「横撃を狙う、か」
「そうねぇん」
泰然とそれを受け止めながら、デスドクロは言い。
「小賢しい……だが、まだまだ俺様の暗黒魔力を開放するほどではないな!」
拳を振り上げる。展開した魔導機械から光条が走った。狙いは、騎兵達。その多くを騎兵達は回避するが、鬱陶しさが募ったか、血走った目がデスドクロを射抜く。
「おお……っ!」
デスドクロが声をあげた。騎兵達全騎が、ナナートとデスドクロに狙いを定めたようだった。ある意味で大手柄、だが。
「あら……随分気に入られたみたいねん?」
何故かデスドクロは嬉しそうだが、多勢に無勢だ。ナナートは拳銃を構えながら、殺気を飛ばす。騎兵の一騎が視線に射抜かれて、勢いが鈍る中。
「本当ですなあ」
いつの間にか傍らに来ていたポチョムが、そう応じた。
「……なんで此処にいるのん?」
「あちらは、問題なさそうでしたから、な」
ナナートの問いに飄々と嘯くポチョムは槍を構え、告げた。
「ヴィサンは連れて行かれてしまったので……こちらは、私が」
「デート。デートか……クク」
生温い声がウォルターの背を撫でる。正直気持ち悪い。空いた左翼側から、ウォルター達は進んでいた。
――”刺青”へと。
「エスコートは任せる」
「あい、あい」
ポチョムの方が良かったか、と後悔は募ったが、仕方がない。
「……?」
つと、ヴィサンの気配が途絶えた。だが、振り返る事は出来なかった。眼前。”刺青”がいる。身体は肉厚で、得物もデカイ。傷は多いが、どうみても強そうだ。当然のように、ウォルターを捕捉している。見返して、不敵に笑って見せて、呟く。
「頭ァもげなくとも、軍団そのもののの危急には足並みが乱れるもんでやす。乱暴な手ではありやすが」
内心では一抹の不安を抱きながら――突っ込んだ。
●
騎兵側。デスドクロの射撃で加速は潰せたが、その突撃は、痛かった。錆びついた槍に身を切られながら、デスドクロとナナートは苦鳴を零した。応じて放たれた銃撃と拳撃に、ポチョムの一閃が連なり――漸く、一騎が落馬した。受け身も取れずに地を転がり、動かなくなる。
「……まずは一騎、ねん」
交錯は一瞬の事だったが、中々に手強い。
「俺様の力を恐れたか……!」
嬉しそうに高笑いするデスドクロ。目的は達成出来ているはずだが、どこか痛々しい。
「いやはや、狙いは果たせた、という所ですかな?」
に、と。デスドクロを見て笑うポチョム。デスドクロの人となりが余りに奇矯すぎて、一周回って常人のように扱っている。ナナートは苦笑を浮かべながら、反転して再度向かってくる騎兵達を見据えた。
「にしても、結構強いわねぇ」
騎兵突撃にしても、一打の手応えにしても。ポチョムが来なかったら――直ぐに、数の暴威に呑まれていたかもしれない。
●
「……っと、危ないのですよ」
ゴブリンに押し倒されそうになっていた戦闘員を、人々の隙間から湧いて出たレオが引きずり出す。
「ここは私が支えよう! 後退させてくれ」
「あい、任せるです」
均衡が崩れかけるが、機導剣を振るったアルルベルが間に入った。「くっそ……!」と、悔しげに引きずられていく戦闘員を尻目に眼前のゴブリンの首に機導剣を差し込んだ。
「嬢ちゃんは!」「もっと近くに!」
まだ無事な戦闘員のやかましい冗句にうんざりしながら、アルルベルは息を吐く。
――矢と魔法に加えての戦闘は経験不足の戦闘員にはまだ荷が重かった、か。
死者こそレオの手で防げていたが、負傷者は加速度的に増えていく。それでも、火力に勝るこちらが有利だ。決定打が、無いだけで。
「おや」
アルバは騎兵の動向を見極めようと右翼側を眺めて、息を吐いた。
「……どうせなら、騎兵突撃を受けて欲しかったところだけど」
デスドクロ達の奮戦もあり、こちらには向かってこなそうだ。
「なら――」
眠りの雲を顕現させる。最前。戦闘員と兵士たちが噛み合う戦場へと。抗いきれなかったゴブリンがバタバタと倒れると、同時。
「あ、えと、その」
レヴィンが盛大にどもり。
「Fireeeee!!」
レヴィンの直近の闘狩人が声を張った。折り重なるように眠るゴブリン達――を抜けて、無事な兵士達に向けて小銃で一斉に銃撃。食い潰されたゴブリンたちが倒れていく。効果は抜群だった。突然の戦果に呆気にとられていたアルバ。不意に。
「……っ」
灼熱感。肩口に、矢弾と炎の矢が突き立っていた。
「済まねえアルバさん!!」
眼前、アルバを守護していた戦闘員が声を張る。
「捌ききれねえ……ッ!」
「……そう、か」
派手に魔術を扱ったことがバレてしまったようだ。痛みを、飲み込んで。
「気にしないで」
アルバは、こう結んだ。
「優勢、だから」
●
「マジかいマジかいマジなのかい」
他方。ウォルターはこの上なく苦戦していた。
「……辞世の句でも詠みましょうかね」
戦況を反映してか、”刺青”の憎悪が真っ直ぐに突き刺さる。加速して動き回るウォルターを前に騎馬から下りた”刺青”の猛撃に、晒されていた。
「とは言え、虎穴に入らずんばなんとやら……!」
守勢に立つと死しか見えない。恨み言を飲み込んで、ウォルターは踏み込んだ。瞬後、眼前に槍。同時、左耳に灼熱と轟音、そして湿った気配。生を噛み締めて”刺青”の懐に踏み込んで、横薙ぎに剣を振るう。分厚い腹筋を、切り裂くには至らない。
「硬……っ!」
追撃を恐れて、距離を外――そうとしたところに、横殴りの柄。直撃した。
「く、っは……っ」
横隔膜が麻痺して息が詰まり、僅かな呼気に血が混じった。獰猛な気配が、振ってくる。勝ち名乗りはない、ただ、残虐な眼差しだけ。
――あー。
渺、と。音。赤く、温い血が――。
「クク……随分なヤラれっぷりだな」
”振ってきた”。苦鳴と同時に、ヴィサンの声。
「っ、……遅すぎじゃあありやせんか」
足元から届く恨みっぽい視線を受け止めたヴィサンは心底怪訝そうな顔をした。
「? 初めからそのつもりだと、思っていたが……」
言葉の後。ウォルターの頭上から、何かが降ってきた。丸く、大きな。
「へっ?!」
”刺青”の、生首が――。
「お、わ、ちょ……っ!」
合掌。
●
ポチョムが最前に立つ事でナナート達は被弾を抑える事が出来ていたが、劣勢だった。眼前、更に数を減らして三騎となった騎兵の様子が、急に慌ただしくなる。
「あら、死んだわねん」
ぽつ、と”刺青”の遺体をみて呟いたナナートの声を聞いたわけではなかろうが、騎兵達は反転して何処かへと疾走を開始。見れば、”刺青”が騎乗していたラプターも逃走しているようだった。
「……俺様の威容に恐れをなしたか……それでいい」
くつくつと笑うデスドクロはさておき、ナナートは馬首を巡らせた。
「それじゃあ、後始末をしなくちゃねん♪」
弓兵とメイジが掃討されるまで、さして時間はかからなかった。眼前からは、兵士たちを打ち倒したアルルベル達。横合いからはレオと騎馬が至り――。
「これが、肌と肉の感触なのですね」
最後の弓兵を爪で切り裂いたレオは、手元を滴り落ちるアカイロを眺めながら、ぽつりと、こう結んだ。
「ごくごく当たり前ですが、髪の方が良いのです」
●
ハンター、騎士団ともに負傷者は多かったが、死者はなかった。大勝、と言っていいだろう。
アルバは、自身の護衛を務めた戦闘員達に礼を告げた。
「護ってくれて、ありがとう」
「や」「俺らは……」
真っ向から見つめられての礼にたじろぐ元チンピラ達。心底から彼らを正しく評価するアルバの視線は、チンピラ達にとっては面映いのだろう。
彼らの困惑は。
「約束通り、功労者にはご褒美よん! 私の唇をGETする幸運児はだぁれ♪」
「俺!」「いや、お前は途中で寝てただろ!」「それだけ頑張った!」「死ね!」
ナナートの声が上がった瞬間に、暴風と喧騒にのまれて消えたようだったが。
アルルベルは世の無常を噛み締めていた。ナナートも隠している訳ではないだろうが。
「……曝け出しているのもキャシーの良さだよ、うん」
冗談交じりに、そう呟きながら、見渡す。死者、零。至近で見た戦いぶりも守勢が主とは言え堂に入っていた。そのことを、我が事のように噛み締める。
「これからが、愉しみだ」
「あァ……デスドクロ騎士団、初戦はきっちり〆られたな」
傍ら、満足気に見つめるデスドクロが、頷いていた。
「……ん?」
「まァ、わかりきってた事なんだが。もう少し力を絞っても良かったかも知れん……1%くらいでも、な」
傲岸な態度で言うデスドクロに、アルルベルは――。
「…………」
沈黙を、選んだのだった。
「どうせなら若い女子がよかった……」
大の字に斃れた傷心のウォルターは離れていく元ヤン聖導士を他所にそう言った。殆ど無傷のヴィサンは何食わぬ顔、だったが。
「ところで、クラリぃちゃんはお役にたってやす?」
ウォルターの言葉に、ぴたり、と固まった。ちらり、とヴィサンはレヴィンの方を見て――役に立たぬ、と切り捨てて、足元のウォルターを見下ろした。
「話したら、殺す」
「あい、あい」
本気の殺意に失笑を返しながら、ウォルターは。
――飯のタネになりそうな気配でやすね。
胸の内で、そう笑った。
●
一方レヴィンは――地獄にいた。
「薄毛は恥じるべきではないのです。個性です。丁寧なケアを怠って伸ばしっぱなしは」
「はい……はい……」
さめざめと涙を流しながら、レヴィンは。
「ちゃんと手入れをしないと痛むのですよ。余計禿げるのです」
「はい……」
コンプレックスを抉る精神攻撃から始まった断髪の儀式を、見届けるしかなかった――。
こうして、デュニクス騎士団の栄えある緒戦は幕を下ろしたのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/10 22:37:41 |
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相談卓……(疾影士が多いですね リーリア・バックフィード(ka0873) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/04/12 18:58:17 |