ゲスト
(ka0000)
戦場(いくさば)の続き
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/21 09:00
- 完成日
- 2015/04/26 16:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●辺境において、マギア砦籠城戦が行われた頃の事
貴族が一人、馬に乗って駆けていた。
「なんで……なんで、今頃になって!」
歪虚が襲来してきた事実を聞かされたのは、先刻の事だ。
王国騎士団ではなく、近隣の貴族に呼び掛けて応援の使者を出したが、応じるかどうかはまだわからない。
わかっているのは、例え、騎士団が動いても、既に手遅れという事だ。
「どうすりゃいいんだ……」
この貴族の領地は王国でも西部に位置する。
先の歪虚侵攻時もひどい損害を出した。
「このままでは、領地を奪われる!」
歪虚にではない。
確かに、彼の領地は一時的に歪虚に占拠されただろう。
だが、王国騎士団は健在である。ハンター達も侮りがたい戦力だ。
時期に取り返される。彼にとって『問題』なのは、奪還した後だ。当然、彼の領地であるので、彼の手元には返ってくるはずである。
それでも、他から力を借りたとあれば、その影響力を無視するわけにはいかない。最悪、他の貴族に吸収される可能性もある。
「と、とりあえず、身の安全から……」
今は生死の境に居るのは確かな事だ。
王国騎士団には、自己解決するからと釘を刺しておいた。
その間になんとかすればいいだけだ。
「ここは……ここは、僕のモノなんだ!」
領民を捨てて逃げる貴族は、遥か遠くで燃え盛る村の熱を感じて振り返った。
「土地と僕が生きていれば、再建はいくらでもできるんだから!」
自分に言い聞かせるように宣言すると、彼は、再び馬を走らせた。
===フレッサ領が歪虚に占拠され、一ヶ月以上が経過した===
●王国騎士団本部騎士団長室にて
「出撃……ですか?」
ソルラ・クート(kz0096)が思わず繰り返す。
彼女の目の前にいるのは、エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)だ。
「先の『円卓』でのことは、聞いているか?」
「はい……ある程度は、父から聞いております」
辺境への派遣戦力はそのままであり、王国に残る兵力は国を守る方針になったとソルラは父から聞いていた。
同時に父からは、『貴族間で動きがあるから、気をつけろ』とも忠告を受けている。
「黒大公の撤退以降、歪虚の襲来が無いわけでなかった。だが……」
団長が言葉のトーンを落とす。
歪虚の一団がフレッサ領と呼ばれる領地に攻め寄せた。
突然の襲来に貴族は領民を見捨てて逃亡。今もって、その貴族は行方不明である。
「復興から立ち上がりつつある国を、乱すわけにはいかない」
窓の向こう、王都の街を見下ろしてエリオットが呟く。
「本来であれば、フレッサ領の領主が責任を持つべきでは」
「その通りだろうな。だが、今はその貴族が務めを果たしていないのだろう? 王国としては捨てておく事はできない」
なんとも無責任な話だと心の中でソルラが呟く。
その貴族はもはや領地経営する資格はないだろうとも思う。
「いくつかの貴族が私兵を持って制圧すると申し出があるが、騎士団も治安維持に尽力してもらう」
「……わかりました。アルテミス小隊、フレッサ領へ出撃します」
貴族が、自勢力拡大の為に影響力を行使するつもりなのだろうか。
この領地に住む人々が、貴族同士の政争の道具にはさせないと力強く誓うソルラであった。
●フレッサ領のある廃村
「だ、ダメだ~」
兵士達が逃げ出していた。
制止するべき隊長も、もはや、諦めていた。
「振り帰らずに、逃げろ!」
逃げる兵士達。
彼らは、廃村の様子を確認しに来たのだ。
廃村の状況は芳しくなかった。歪虚は居なかったが、ゾンビと化した無数の村人やら、犬の形をした雑魔が占拠している地獄と化していたからだ。
「た、隊長! 追いつかれる!」
「いいから、とにかく走れ!」
ゾンビの追手からは逃れられた。
だが、犬の形をした雑魔は執拗に追いかけてくる。
襲われるのは時間の問題だ。そして、雑魔と戦っている間に、ゾンビにも追いつかれるだろう。
「イヤだ! 死にたくない!」
一人の兵士が隊列から離れて走って行く。
「バカ! 戻れ!」
隊長は叫んだが、その兵士は止まらずに走っていく。
追いかけてくる犬の雑魔も気がついた様だ。まるで、獲物を定めたかのように、数匹がスピードをあげてその兵士に襲いかかった。
こうなると、もう成す術もない。
「くっ! い、今のうちにできるだけ、離れるんだ!」
可哀想だが、囮にするしかない。
だが、貴重な時間を使っても、すぐに追いつかれる。
「あ、あれ、ハンター達じゃ?」
「ほ、ほんとだ! た、助けてくれぇ!」
兵士達は、街道を歩くハンター達を見つけて、大声をかけた。
きっと、なにかの依頼の帰り道なのだろう。
「ハンターの方々、どうか、我らを守っていただきたいぃぃぃ!」
隊長の大声が、ハンター達の耳にも届いたのであった。
貴族が一人、馬に乗って駆けていた。
「なんで……なんで、今頃になって!」
歪虚が襲来してきた事実を聞かされたのは、先刻の事だ。
王国騎士団ではなく、近隣の貴族に呼び掛けて応援の使者を出したが、応じるかどうかはまだわからない。
わかっているのは、例え、騎士団が動いても、既に手遅れという事だ。
「どうすりゃいいんだ……」
この貴族の領地は王国でも西部に位置する。
先の歪虚侵攻時もひどい損害を出した。
「このままでは、領地を奪われる!」
歪虚にではない。
確かに、彼の領地は一時的に歪虚に占拠されただろう。
だが、王国騎士団は健在である。ハンター達も侮りがたい戦力だ。
時期に取り返される。彼にとって『問題』なのは、奪還した後だ。当然、彼の領地であるので、彼の手元には返ってくるはずである。
それでも、他から力を借りたとあれば、その影響力を無視するわけにはいかない。最悪、他の貴族に吸収される可能性もある。
「と、とりあえず、身の安全から……」
今は生死の境に居るのは確かな事だ。
王国騎士団には、自己解決するからと釘を刺しておいた。
その間になんとかすればいいだけだ。
「ここは……ここは、僕のモノなんだ!」
領民を捨てて逃げる貴族は、遥か遠くで燃え盛る村の熱を感じて振り返った。
「土地と僕が生きていれば、再建はいくらでもできるんだから!」
自分に言い聞かせるように宣言すると、彼は、再び馬を走らせた。
===フレッサ領が歪虚に占拠され、一ヶ月以上が経過した===
●王国騎士団本部騎士団長室にて
「出撃……ですか?」
ソルラ・クート(kz0096)が思わず繰り返す。
彼女の目の前にいるのは、エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)だ。
「先の『円卓』でのことは、聞いているか?」
「はい……ある程度は、父から聞いております」
辺境への派遣戦力はそのままであり、王国に残る兵力は国を守る方針になったとソルラは父から聞いていた。
同時に父からは、『貴族間で動きがあるから、気をつけろ』とも忠告を受けている。
「黒大公の撤退以降、歪虚の襲来が無いわけでなかった。だが……」
団長が言葉のトーンを落とす。
歪虚の一団がフレッサ領と呼ばれる領地に攻め寄せた。
突然の襲来に貴族は領民を見捨てて逃亡。今もって、その貴族は行方不明である。
「復興から立ち上がりつつある国を、乱すわけにはいかない」
窓の向こう、王都の街を見下ろしてエリオットが呟く。
「本来であれば、フレッサ領の領主が責任を持つべきでは」
「その通りだろうな。だが、今はその貴族が務めを果たしていないのだろう? 王国としては捨てておく事はできない」
なんとも無責任な話だと心の中でソルラが呟く。
その貴族はもはや領地経営する資格はないだろうとも思う。
「いくつかの貴族が私兵を持って制圧すると申し出があるが、騎士団も治安維持に尽力してもらう」
「……わかりました。アルテミス小隊、フレッサ領へ出撃します」
貴族が、自勢力拡大の為に影響力を行使するつもりなのだろうか。
この領地に住む人々が、貴族同士の政争の道具にはさせないと力強く誓うソルラであった。
●フレッサ領のある廃村
「だ、ダメだ~」
兵士達が逃げ出していた。
制止するべき隊長も、もはや、諦めていた。
「振り帰らずに、逃げろ!」
逃げる兵士達。
彼らは、廃村の様子を確認しに来たのだ。
廃村の状況は芳しくなかった。歪虚は居なかったが、ゾンビと化した無数の村人やら、犬の形をした雑魔が占拠している地獄と化していたからだ。
「た、隊長! 追いつかれる!」
「いいから、とにかく走れ!」
ゾンビの追手からは逃れられた。
だが、犬の形をした雑魔は執拗に追いかけてくる。
襲われるのは時間の問題だ。そして、雑魔と戦っている間に、ゾンビにも追いつかれるだろう。
「イヤだ! 死にたくない!」
一人の兵士が隊列から離れて走って行く。
「バカ! 戻れ!」
隊長は叫んだが、その兵士は止まらずに走っていく。
追いかけてくる犬の雑魔も気がついた様だ。まるで、獲物を定めたかのように、数匹がスピードをあげてその兵士に襲いかかった。
こうなると、もう成す術もない。
「くっ! い、今のうちにできるだけ、離れるんだ!」
可哀想だが、囮にするしかない。
だが、貴重な時間を使っても、すぐに追いつかれる。
「あ、あれ、ハンター達じゃ?」
「ほ、ほんとだ! た、助けてくれぇ!」
兵士達は、街道を歩くハンター達を見つけて、大声をかけた。
きっと、なにかの依頼の帰り道なのだろう。
「ハンターの方々、どうか、我らを守っていただきたいぃぃぃ!」
隊長の大声が、ハンター達の耳にも届いたのであった。
リプレイ本文
●帰途の遭遇
兵士達が救援を求めながら駆け寄ってくる姿は、雑魔退治から戻る途中のハンター達からハッキリと見えた。
必死な形相の兵士達の後ろに犬の形をした雑魔数体と、更にその後ろに、ゾンビの集団が迫る。
「やれやれ。仕事帰りにまた雑魔とは……縁があるなあ」
シギル・ブラッドリィ(ka4520)が弓を構えて言った。
嫌な縁ではあるが、声をかけられた以上、無視してしまうのは、さすがに、寝覚めが悪い。できるだけの事はしようと思う。
「おい! こっちだ!」
兵士に呼び掛けた。幾人かが安堵した表情で向かってくる。
だが、後ろから雑魔が猛烈な勢いで追いかけてきていた。
「あれは……雑魔? なれば、見過ごすわけにはまいりませんね……参ります」
そう言いながら、煌剣を振り回す少女は、観那(ka4583)だ。
闘う事以外、できる事はないとばかりに、兵士達に向かって走り出す。
そんな彼女よりも、もっと少女の様な子が1人。
「足場が悪いのぅ……皆の衆気持ち早めに動くのじゃぞ?」
言い回しが、見た目と変わって古風で色っぽい星輝 Amhran(ka0724)だった。
手裏剣を構えて走り出す。が、いつもの様な俊敏な動きができない。
星輝の言う通り、ぬかるみで足場はぐちょぐちょだった。
もともとは広大な畑だったのだろうが、今は耕作する者がいなくなって放置された影響からか、ひどい状況だ。
「兵隊さん達の……殿。私の、できる……事……」
シェリル・マイヤーズ(ka0509)が痛む身体をゆらりと動かした。
『Lovers』によって消化されかけた脚はまだ、癒されていない。
それでも、自分で出来る事は頑張ると強く決意していた。
「シェリルさん、無理のない程度に、殿をお願いします」
瀬織 怜皇(ka0684)が心配する表情をシェリルに向けた。
そして、拳銃を構えて、彼も走り出す。まずは、この足場の悪い中でも、スピードを落とさずに追いかけてくる犬の形をした雑魔を倒すつもりだ。
走り出した怜皇の後ろを両手を突きだしながらヨロヨロと歩いていくのは、田中 月子(ka4536)だ。
「お゛ー、お゛ぁ゛ー……似てますか。似てますか」
しかし、誰も月子の行動にツッコミを入れなかった。
今は……迫ってくる雑魔をどうにかしないといけないからだ。
●戦端
小柄な星輝の腕の短さを補うように鞘の改造を施された長大な太刀を抜き放つ。
追いかけてくる先頭の雑魔の頭を吹き飛ばした。
「ふむ……もう少し、微調整しても良いかの」
星輝は体勢を移し変えながら、太刀を振り上げて、そんな感想をついた。
見れば雑魔は頭を吹き飛ばされながらも、まだ動けるようだった。
追撃をしようと思うよりも先に、踊る様に雑魔が跳ねると、ボロボロに崩れていく。
「キララ、援護するよ」
雑魔にトドメを差したのは、怜皇の銃撃だった。
足場が悪い事もあり、仲間との連携重視している彼は、確実に一体一体撃破する事を考えていた。
なぜならば、雑魔の後ろからは多数のゾンビが向かってきているからだ。
ざっと見ただけで30体以上は確実にいる。雑魔に気を取られているうちに囲まれては危険だ。
「まずは、雑魔を殲滅です」
観那が低い体勢で走りつつ、胴体を無様に見せている雑魔に迫る。
わずかに身体を捻った瞬間に勢いと体重移動で大剣を振り上げ、その勢いのまま振り下ろす。
クルっと半回転すると、別の雑魔からの攻撃を分厚い刃で受け止める。
その雑魔の首元に矢が深く突き刺さった。シギルが放った物だ。
「足を止めるなよ」
逃げる兵士達に声をかけながら、意識は雑魔に集中させている。
隊長と思わしき人物が横を通過した。
「まったく……柄でもない人助けなんかさせやがって。高くつくぜ?」
「それは、誠に申し訳なかった。報酬は上司に掛け合う事を約束する……逃れられればの話だがな」
冗談まじりに声をかけたつもりだったのに、隊長は生真面目に答えた。
視線の先、ゾンビの群れが迫っている事は一目で分かる。
囲まれれば、いかにハンターとはいえ、危険なはずだ。
犬の形をした雑魔に月子が魔導鋸を駆動させながら向かっていく。
「うおー、ロメロッ、ロメロッ」
やる気のない演者の台詞の様に、棒読み感がハンパない彼女の一撃は、それでも、的確に雑魔の首下に入った。
ガリガリと深いな音をたてた後に、首がポロリ……といかず、首の皮で繋がっているが首がブラブラしている。
トドメは他に任せ、月子の視線は低い唸り声をあげて向かってくるゾンビに向けられていた。
不気味な雰囲気を纏いながら、魔導鋸の回転数を上げると、まるで仲間達を庇うように最前列に立つ。
「兵士達を一度下がらせるのじゃ」
星輝が自分らを無視して兵士達を追いかける雑魔に手裏剣を投げつける。
士気が崩壊した兵士が寄り集まっても烏合の衆にしか過ぎない。
「ここから先は、俺が行かせませんよ」
雑魔の進行上に立ちはだかる怜皇。
動きを止めた所で、観那の大剣が振り下ろされる。
足場が悪い中、ハンター達は連携の取れた動きをみせ、犬型の雑魔はあっという間に掃討されそうだ。
「次は、あれだな」
シギルが狙いをゾンビの群れに向ける。
雑魔よりも足取りは遅いようだから、全力で逃げれば追いつかれる事はないだろう。
だが、あのゾンビの群れを残して逃げたら、後でどんな影響があるかわからない。
「わしは、兵士に喝でもいれてくるかのう。少しの合間、戦線を頼むのじゃ」
星輝の言葉に、武器を構え直す観那と怜皇。
その動きは逃げる兵士達にも見えた。
●勇気をその手に
「あの数をやろうっていうのか!」
ある程度までの距離まで逃げてきた兵士達の誰かが叫んだ。
ハンターの幾人かが雑魔を倒した後、体制を整え、ゾンビを迎え討とうとしているからだ。
「……もう、戦わないの?」
そんな兵士に向かってシェリルが訊ねる。
彼らがゾンビの追手からも逃げるように見えたからだ。
「あんな数のゾンビ、戦えるわけがないだろ!」
逃げないと危ないと兵士達は口にする。
もはや、戦い気など無いようだ。
「ねぇ……おじさん達は……何で、兵士になったの? 何の為に……戦うの?」
シェリルが傷ついた脚を庇いながら、兵士に呼び掛けた。
兵士達はシェリルの言葉と姿を見て、それでも、戦おうとする彼女に声が出ない様だった。
そこへ、雑魔を退治した星輝がやってくる。
見た目少女のはずなのだが、全身から感じられるオーラにすっかりと兵士達は怯えていた。
それはそうだろう。幼い少女とはいえ、覚醒者であり、先程の雑魔との戦い振りを見ていたら、力量の差は明らかなのだから。
兵士1人1人にニヤニヤとした視線を向けて、長い銀髪の少女は宣言した。
「三択じゃ、選べ」
一つ目はゾンビの夕飯になる事。二つ目は臆病者と罵られる覚悟で逃げる事。そして、三つ目はハンター達と協力して帰る事。
兵士達はお互い顔を見合わせる。
ゾンビが迫っているのに、誰1人として決意しない様子に、星輝が怒りの言葉を発する。
「お主ら兵士か……いや、男子(オノコ)かや!? 守るものは自分の命に非ず! 民であり、矜持であり、愛する者じゃろぅ!?」
「お、俺らは、望んで、ここに来たわけじゃねぇ!」
兵士の一人が反発する様に叫んだ。
何人かが「そうだそうだ」と賛同した。
そんな兵士達の前に傷だらけのシェリルが進み出ると、手裏剣を構えてゾンビの方に身体を向けた。
「敵は……弱った獲物を……狙う……。私といれば……とりあえずは……安心、だよ?」
兵士達を挑発しているわけではない。
「私は……護りたいから……ハンター、してる……だからちゃんと……あなた達を……護るからね……」
傷だらけでもなお諦めない少女の背に、兵士達は視線を落とす。
星輝がそんな彼らの様子を見て、もう一回喝をいれようと思った時だった。
「俺は……や、やるぞ!」
その手は震えている。
「戦うのかよ! あの数を! 正気じゃない!」
別の兵士が驚きの声をあげた。
「それでも、この子らの背に隠れるよりかはッ!」
「そうだが……」
気持ちが決められない所で、怒りを露わにしていた星輝が笑顔を向けた。
「逃げ延びて無様に生きるならば一度死んだ気でもう一度拳を挙げよ! 立つならば助力は惜しまぬ!」
その一言が、彼らを推した。
「い、いくぞ、みんな!」
兵士達は一斉に抜剣した。太陽の光が反射し合う。
「よし! わしについてまいれ!」
星輝は士気を取り戻した兵士達を引き連れ、圧倒的な数に囲まれつつある仲間達の元へ走り出した。
その光景を見ながら、本当なら一緒に行きたかったとシェリルは思う。
駆けだしていく兵士達の背中は格好良い。
「今……私ができる……最善を……」
手裏剣を構える。
ギリギリの射程から援護するつもりだからだ。
●数の暴力
引き撃ちでゾンビに損害を蓄積させていたが、圧倒的な数の前には限界があった。
「灰は灰にだ。迷わず帰れよゾンビども。寝直しとけ」
弓からレザーナイフと盾に持ち替えたシギルがゾンビの首元を斬りつける。
よろめいた所をすかさず、盾で押し倒す。
ゾンビ数体がバランスを崩して追跡の歩みが一瞬止まる。
その一瞬の隙をつき、わずかに下がりながら仲間に回復の魔法もかける。
「ひっと&あうぇい……です」
輝く大剣を背負った観那が常に低い姿勢を保ちながら、戦場を駆けまわっていた。
敵に囲まれないよう配慮した結果……編み出された戦法だった。
「聖なる大剣の威力……とくとご賞味ください」
仲間がダメージを与えたゾンビに確実にトドメを差して、大剣を振るった勢いを殺さずに、別のゾンビの側面へ向けて斬りかかる。
「一度、下がるぞ」
「わかりましたです」
シギルの呼び掛けに応じて、観那も少し下がる。
一ヶ所に留まっていると囲まれる恐れがあるからだ。
「月子さん、聞こえましたか? 後方へ移動しますよ!」
奇声を上げながらゾンビに向かって魔導鋸を自由自在に振り回す月子に怜皇が呼び掛ける。
怜皇は拳銃を撃っていたが、今は剣を持ち、直接、ゾンビを斬り伏せていた。
仲間との連携を重視して、周りの状況をよく把握し、必要な時に、機導術を行使していく。
10倍もの数をたった4人で支えられたのも、彼の役割が多い所かもしれない。
「……フルチッ! ッア゛ァ゛ー! ダン・オバノォン!」
月子が魔導鋸を振り回しながら、ぐるぐると回る。
どうやら、ゾンビを切り刻んでいくのが楽しくなってきたようだ。
怜皇の言葉が聞こえているのかいないのか、結果的にはぐるぐるまわりながら後ろに下がってくる。
「圧倒的に、戦況は不利なはず……なのですが、月子さんを見ていると緊張感がなくなりますね」
「まったくだな」
怜皇の言葉にシギルが追随した。
「あ! 月子さんの芝刈り機が、明後日の方向に飛んでいっちゃいましたね」
ぐるぐると自身も回っていたせいなのか、それとも、わざとか、観那の言った通り、月子の持つ魔導鋸が、彼女の手から離れて飛んでいった。
「オージー! オブ・ザ! デェ……」
最後まで聞き取れなかったが、なにか、大声で叫び素手で、ゾンビの大群に立ち向かっていく月子。
現実味のないその光景は、まるで映画の一幕の様だと怜皇は一瞬感じた。
が……。
「つ、月子さん!」
囲まれつつある彼女の状況を見て、我に返った怜皇が、慌てて援護に入る。
まさか、月子が、ここでゾンビにプロレス技を仕掛けるとは思っていなかったようだ。
ゾンビの両足をひっつかんで振り回している。
「突き崩させて、貰います、よ!」
怜皇は、光の防御壁を張ったり、回り込もうとしているゾンビを牽制する。
「ここまで、これば、大剣を振り回すだけです」
「仕方ねぇな」
観那とシギルもゾンビの群れに入っていく覚悟を決める。
その時、背後から雄叫びが聞こえた。
振り返ると、手裏剣を構えた星輝を先頭に兵士達が向かってくる。
「各々、打ち合わせした通り、ゆくのじゃ! 勝利はわしらの手にあるぞ!」
狙いをつけて手裏剣を放ちながら、兵士を鼓舞する。
兵士達が二人一組になって、ハンター達の援護に入る。
崩れかけた戦線は、奮起した兵士達が戦場に戻った事で持ち直すのであった。
●代償
最終的に立って追いかけてくるゾンビはいなくなった。
移動手段を失い無力化しているのもいるとは思われるが、今は生者のみが動いていた。
その生者も全員が、なにかしらの傷を負っている。
「ありました。エンジンカッター」
「無事に見つかってよかったです」
手にはどろどろとなった魔導鋸を持つ月子。すっとんでいった武器をゾンビの遺骸の中からようやく見つけ出したようだ。
観那が笑顔で彼女を迎える。
「血がドバドバでなかったのが、残念です……」
「ゾンビも色々なのですね」
サラリと恐ろしい会話の二人を眺めながら苦笑を浮かべた怜皇。
「無事に帰れそう……ですよ」
空を見上げ、遠くの誰かに呼び掛けるように呟く。
幾度か危ない場面もあったが、なんとか切り抜ける事ができた。
「このゾンビは廃村の住民……か?」
シギルが動かなくなったゾンビを観察して言った。
歪虚に占拠された所は地獄と化すのであろうか。非情な事だ。
「戦跡 骸畑に 鬼在りて 向う羅刹も ああ無情かな」
戦場の残骸の中、星輝が詠う。
ゾンビと化した村人達の苦しみは解放されただろうか。
「姐さん! ここを掘り終わりました!」
「よし、次はこっちじゃ」
八人ばかしの兵士達が遺体を埋める穴を、星輝の指示する通り掘っていた。
星輝は視線をある方向に向けた。そこにも兵士はいたからだ。
ゾンビとの戦いで深手を負った兵士の二人のうち、一人は既に絶命している。
もう一人も虫の息だ。応急手当を施しているが、それが気休めにならない事をシェリルは感じていた。
もし……別の依頼で重傷でなかったら。もし、もっと別の戦い方があったなら、この兵士は無事だったのだろうか。
「お嬢ちゃん……気にする……な」
神妙な表情だったのだろうか、息も絶え絶えに兵士が口を開く。
この兵士、最初にやるぞと声をあげた人だとシェリルは思い出す。
「無事なのか? お嬢ちゃんは……もう、目がよく見えないんだ……」
「……大丈夫……だ、よ」
「そうか、なら、良かった……」
兵士の顔を涙が流れる。
「俺には、子がいた……生きていたら、きっと、君と同じ歳位だろうか……」
泥と血が混ざった手を伸ばし、シェリルの頬を震えながら撫でる。
「今度は、守れた……ありが……と……う……」
そう言い残し兵士の手は力を失って、地面に落ちた。
勇気を出して奮起した代償なのか、それともこの兵士が歩んできた人生の清算なのか。
シェリルは見開いている兵士の瞳を、そっと閉じたのであった。
おしまい。
兵士達が救援を求めながら駆け寄ってくる姿は、雑魔退治から戻る途中のハンター達からハッキリと見えた。
必死な形相の兵士達の後ろに犬の形をした雑魔数体と、更にその後ろに、ゾンビの集団が迫る。
「やれやれ。仕事帰りにまた雑魔とは……縁があるなあ」
シギル・ブラッドリィ(ka4520)が弓を構えて言った。
嫌な縁ではあるが、声をかけられた以上、無視してしまうのは、さすがに、寝覚めが悪い。できるだけの事はしようと思う。
「おい! こっちだ!」
兵士に呼び掛けた。幾人かが安堵した表情で向かってくる。
だが、後ろから雑魔が猛烈な勢いで追いかけてきていた。
「あれは……雑魔? なれば、見過ごすわけにはまいりませんね……参ります」
そう言いながら、煌剣を振り回す少女は、観那(ka4583)だ。
闘う事以外、できる事はないとばかりに、兵士達に向かって走り出す。
そんな彼女よりも、もっと少女の様な子が1人。
「足場が悪いのぅ……皆の衆気持ち早めに動くのじゃぞ?」
言い回しが、見た目と変わって古風で色っぽい星輝 Amhran(ka0724)だった。
手裏剣を構えて走り出す。が、いつもの様な俊敏な動きができない。
星輝の言う通り、ぬかるみで足場はぐちょぐちょだった。
もともとは広大な畑だったのだろうが、今は耕作する者がいなくなって放置された影響からか、ひどい状況だ。
「兵隊さん達の……殿。私の、できる……事……」
シェリル・マイヤーズ(ka0509)が痛む身体をゆらりと動かした。
『Lovers』によって消化されかけた脚はまだ、癒されていない。
それでも、自分で出来る事は頑張ると強く決意していた。
「シェリルさん、無理のない程度に、殿をお願いします」
瀬織 怜皇(ka0684)が心配する表情をシェリルに向けた。
そして、拳銃を構えて、彼も走り出す。まずは、この足場の悪い中でも、スピードを落とさずに追いかけてくる犬の形をした雑魔を倒すつもりだ。
走り出した怜皇の後ろを両手を突きだしながらヨロヨロと歩いていくのは、田中 月子(ka4536)だ。
「お゛ー、お゛ぁ゛ー……似てますか。似てますか」
しかし、誰も月子の行動にツッコミを入れなかった。
今は……迫ってくる雑魔をどうにかしないといけないからだ。
●戦端
小柄な星輝の腕の短さを補うように鞘の改造を施された長大な太刀を抜き放つ。
追いかけてくる先頭の雑魔の頭を吹き飛ばした。
「ふむ……もう少し、微調整しても良いかの」
星輝は体勢を移し変えながら、太刀を振り上げて、そんな感想をついた。
見れば雑魔は頭を吹き飛ばされながらも、まだ動けるようだった。
追撃をしようと思うよりも先に、踊る様に雑魔が跳ねると、ボロボロに崩れていく。
「キララ、援護するよ」
雑魔にトドメを差したのは、怜皇の銃撃だった。
足場が悪い事もあり、仲間との連携重視している彼は、確実に一体一体撃破する事を考えていた。
なぜならば、雑魔の後ろからは多数のゾンビが向かってきているからだ。
ざっと見ただけで30体以上は確実にいる。雑魔に気を取られているうちに囲まれては危険だ。
「まずは、雑魔を殲滅です」
観那が低い体勢で走りつつ、胴体を無様に見せている雑魔に迫る。
わずかに身体を捻った瞬間に勢いと体重移動で大剣を振り上げ、その勢いのまま振り下ろす。
クルっと半回転すると、別の雑魔からの攻撃を分厚い刃で受け止める。
その雑魔の首元に矢が深く突き刺さった。シギルが放った物だ。
「足を止めるなよ」
逃げる兵士達に声をかけながら、意識は雑魔に集中させている。
隊長と思わしき人物が横を通過した。
「まったく……柄でもない人助けなんかさせやがって。高くつくぜ?」
「それは、誠に申し訳なかった。報酬は上司に掛け合う事を約束する……逃れられればの話だがな」
冗談まじりに声をかけたつもりだったのに、隊長は生真面目に答えた。
視線の先、ゾンビの群れが迫っている事は一目で分かる。
囲まれれば、いかにハンターとはいえ、危険なはずだ。
犬の形をした雑魔に月子が魔導鋸を駆動させながら向かっていく。
「うおー、ロメロッ、ロメロッ」
やる気のない演者の台詞の様に、棒読み感がハンパない彼女の一撃は、それでも、的確に雑魔の首下に入った。
ガリガリと深いな音をたてた後に、首がポロリ……といかず、首の皮で繋がっているが首がブラブラしている。
トドメは他に任せ、月子の視線は低い唸り声をあげて向かってくるゾンビに向けられていた。
不気味な雰囲気を纏いながら、魔導鋸の回転数を上げると、まるで仲間達を庇うように最前列に立つ。
「兵士達を一度下がらせるのじゃ」
星輝が自分らを無視して兵士達を追いかける雑魔に手裏剣を投げつける。
士気が崩壊した兵士が寄り集まっても烏合の衆にしか過ぎない。
「ここから先は、俺が行かせませんよ」
雑魔の進行上に立ちはだかる怜皇。
動きを止めた所で、観那の大剣が振り下ろされる。
足場が悪い中、ハンター達は連携の取れた動きをみせ、犬型の雑魔はあっという間に掃討されそうだ。
「次は、あれだな」
シギルが狙いをゾンビの群れに向ける。
雑魔よりも足取りは遅いようだから、全力で逃げれば追いつかれる事はないだろう。
だが、あのゾンビの群れを残して逃げたら、後でどんな影響があるかわからない。
「わしは、兵士に喝でもいれてくるかのう。少しの合間、戦線を頼むのじゃ」
星輝の言葉に、武器を構え直す観那と怜皇。
その動きは逃げる兵士達にも見えた。
●勇気をその手に
「あの数をやろうっていうのか!」
ある程度までの距離まで逃げてきた兵士達の誰かが叫んだ。
ハンターの幾人かが雑魔を倒した後、体制を整え、ゾンビを迎え討とうとしているからだ。
「……もう、戦わないの?」
そんな兵士に向かってシェリルが訊ねる。
彼らがゾンビの追手からも逃げるように見えたからだ。
「あんな数のゾンビ、戦えるわけがないだろ!」
逃げないと危ないと兵士達は口にする。
もはや、戦い気など無いようだ。
「ねぇ……おじさん達は……何で、兵士になったの? 何の為に……戦うの?」
シェリルが傷ついた脚を庇いながら、兵士に呼び掛けた。
兵士達はシェリルの言葉と姿を見て、それでも、戦おうとする彼女に声が出ない様だった。
そこへ、雑魔を退治した星輝がやってくる。
見た目少女のはずなのだが、全身から感じられるオーラにすっかりと兵士達は怯えていた。
それはそうだろう。幼い少女とはいえ、覚醒者であり、先程の雑魔との戦い振りを見ていたら、力量の差は明らかなのだから。
兵士1人1人にニヤニヤとした視線を向けて、長い銀髪の少女は宣言した。
「三択じゃ、選べ」
一つ目はゾンビの夕飯になる事。二つ目は臆病者と罵られる覚悟で逃げる事。そして、三つ目はハンター達と協力して帰る事。
兵士達はお互い顔を見合わせる。
ゾンビが迫っているのに、誰1人として決意しない様子に、星輝が怒りの言葉を発する。
「お主ら兵士か……いや、男子(オノコ)かや!? 守るものは自分の命に非ず! 民であり、矜持であり、愛する者じゃろぅ!?」
「お、俺らは、望んで、ここに来たわけじゃねぇ!」
兵士の一人が反発する様に叫んだ。
何人かが「そうだそうだ」と賛同した。
そんな兵士達の前に傷だらけのシェリルが進み出ると、手裏剣を構えてゾンビの方に身体を向けた。
「敵は……弱った獲物を……狙う……。私といれば……とりあえずは……安心、だよ?」
兵士達を挑発しているわけではない。
「私は……護りたいから……ハンター、してる……だからちゃんと……あなた達を……護るからね……」
傷だらけでもなお諦めない少女の背に、兵士達は視線を落とす。
星輝がそんな彼らの様子を見て、もう一回喝をいれようと思った時だった。
「俺は……や、やるぞ!」
その手は震えている。
「戦うのかよ! あの数を! 正気じゃない!」
別の兵士が驚きの声をあげた。
「それでも、この子らの背に隠れるよりかはッ!」
「そうだが……」
気持ちが決められない所で、怒りを露わにしていた星輝が笑顔を向けた。
「逃げ延びて無様に生きるならば一度死んだ気でもう一度拳を挙げよ! 立つならば助力は惜しまぬ!」
その一言が、彼らを推した。
「い、いくぞ、みんな!」
兵士達は一斉に抜剣した。太陽の光が反射し合う。
「よし! わしについてまいれ!」
星輝は士気を取り戻した兵士達を引き連れ、圧倒的な数に囲まれつつある仲間達の元へ走り出した。
その光景を見ながら、本当なら一緒に行きたかったとシェリルは思う。
駆けだしていく兵士達の背中は格好良い。
「今……私ができる……最善を……」
手裏剣を構える。
ギリギリの射程から援護するつもりだからだ。
●数の暴力
引き撃ちでゾンビに損害を蓄積させていたが、圧倒的な数の前には限界があった。
「灰は灰にだ。迷わず帰れよゾンビども。寝直しとけ」
弓からレザーナイフと盾に持ち替えたシギルがゾンビの首元を斬りつける。
よろめいた所をすかさず、盾で押し倒す。
ゾンビ数体がバランスを崩して追跡の歩みが一瞬止まる。
その一瞬の隙をつき、わずかに下がりながら仲間に回復の魔法もかける。
「ひっと&あうぇい……です」
輝く大剣を背負った観那が常に低い姿勢を保ちながら、戦場を駆けまわっていた。
敵に囲まれないよう配慮した結果……編み出された戦法だった。
「聖なる大剣の威力……とくとご賞味ください」
仲間がダメージを与えたゾンビに確実にトドメを差して、大剣を振るった勢いを殺さずに、別のゾンビの側面へ向けて斬りかかる。
「一度、下がるぞ」
「わかりましたです」
シギルの呼び掛けに応じて、観那も少し下がる。
一ヶ所に留まっていると囲まれる恐れがあるからだ。
「月子さん、聞こえましたか? 後方へ移動しますよ!」
奇声を上げながらゾンビに向かって魔導鋸を自由自在に振り回す月子に怜皇が呼び掛ける。
怜皇は拳銃を撃っていたが、今は剣を持ち、直接、ゾンビを斬り伏せていた。
仲間との連携を重視して、周りの状況をよく把握し、必要な時に、機導術を行使していく。
10倍もの数をたった4人で支えられたのも、彼の役割が多い所かもしれない。
「……フルチッ! ッア゛ァ゛ー! ダン・オバノォン!」
月子が魔導鋸を振り回しながら、ぐるぐると回る。
どうやら、ゾンビを切り刻んでいくのが楽しくなってきたようだ。
怜皇の言葉が聞こえているのかいないのか、結果的にはぐるぐるまわりながら後ろに下がってくる。
「圧倒的に、戦況は不利なはず……なのですが、月子さんを見ていると緊張感がなくなりますね」
「まったくだな」
怜皇の言葉にシギルが追随した。
「あ! 月子さんの芝刈り機が、明後日の方向に飛んでいっちゃいましたね」
ぐるぐると自身も回っていたせいなのか、それとも、わざとか、観那の言った通り、月子の持つ魔導鋸が、彼女の手から離れて飛んでいった。
「オージー! オブ・ザ! デェ……」
最後まで聞き取れなかったが、なにか、大声で叫び素手で、ゾンビの大群に立ち向かっていく月子。
現実味のないその光景は、まるで映画の一幕の様だと怜皇は一瞬感じた。
が……。
「つ、月子さん!」
囲まれつつある彼女の状況を見て、我に返った怜皇が、慌てて援護に入る。
まさか、月子が、ここでゾンビにプロレス技を仕掛けるとは思っていなかったようだ。
ゾンビの両足をひっつかんで振り回している。
「突き崩させて、貰います、よ!」
怜皇は、光の防御壁を張ったり、回り込もうとしているゾンビを牽制する。
「ここまで、これば、大剣を振り回すだけです」
「仕方ねぇな」
観那とシギルもゾンビの群れに入っていく覚悟を決める。
その時、背後から雄叫びが聞こえた。
振り返ると、手裏剣を構えた星輝を先頭に兵士達が向かってくる。
「各々、打ち合わせした通り、ゆくのじゃ! 勝利はわしらの手にあるぞ!」
狙いをつけて手裏剣を放ちながら、兵士を鼓舞する。
兵士達が二人一組になって、ハンター達の援護に入る。
崩れかけた戦線は、奮起した兵士達が戦場に戻った事で持ち直すのであった。
●代償
最終的に立って追いかけてくるゾンビはいなくなった。
移動手段を失い無力化しているのもいるとは思われるが、今は生者のみが動いていた。
その生者も全員が、なにかしらの傷を負っている。
「ありました。エンジンカッター」
「無事に見つかってよかったです」
手にはどろどろとなった魔導鋸を持つ月子。すっとんでいった武器をゾンビの遺骸の中からようやく見つけ出したようだ。
観那が笑顔で彼女を迎える。
「血がドバドバでなかったのが、残念です……」
「ゾンビも色々なのですね」
サラリと恐ろしい会話の二人を眺めながら苦笑を浮かべた怜皇。
「無事に帰れそう……ですよ」
空を見上げ、遠くの誰かに呼び掛けるように呟く。
幾度か危ない場面もあったが、なんとか切り抜ける事ができた。
「このゾンビは廃村の住民……か?」
シギルが動かなくなったゾンビを観察して言った。
歪虚に占拠された所は地獄と化すのであろうか。非情な事だ。
「戦跡 骸畑に 鬼在りて 向う羅刹も ああ無情かな」
戦場の残骸の中、星輝が詠う。
ゾンビと化した村人達の苦しみは解放されただろうか。
「姐さん! ここを掘り終わりました!」
「よし、次はこっちじゃ」
八人ばかしの兵士達が遺体を埋める穴を、星輝の指示する通り掘っていた。
星輝は視線をある方向に向けた。そこにも兵士はいたからだ。
ゾンビとの戦いで深手を負った兵士の二人のうち、一人は既に絶命している。
もう一人も虫の息だ。応急手当を施しているが、それが気休めにならない事をシェリルは感じていた。
もし……別の依頼で重傷でなかったら。もし、もっと別の戦い方があったなら、この兵士は無事だったのだろうか。
「お嬢ちゃん……気にする……な」
神妙な表情だったのだろうか、息も絶え絶えに兵士が口を開く。
この兵士、最初にやるぞと声をあげた人だとシェリルは思い出す。
「無事なのか? お嬢ちゃんは……もう、目がよく見えないんだ……」
「……大丈夫……だ、よ」
「そうか、なら、良かった……」
兵士の顔を涙が流れる。
「俺には、子がいた……生きていたら、きっと、君と同じ歳位だろうか……」
泥と血が混ざった手を伸ばし、シェリルの頬を震えながら撫でる。
「今度は、守れた……ありが……と……う……」
そう言い残し兵士の手は力を失って、地面に落ちた。
勇気を出して奮起した代償なのか、それともこの兵士が歩んできた人生の清算なのか。
シェリルは見開いている兵士の瞳を、そっと閉じたのであった。
おしまい。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/17 08:23:03 |
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相談卓 シェリル・マイヤーズ(ka0509) 人間(リアルブルー)|14才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/04/21 00:46:20 |