山岳猟団〜人類最前線

マスター:有坂参八

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~5人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/15 22:00
完成日
2015/04/27 06:26

みんなの思い出

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オープニング


 複雑怪奇な経緯と、幾多の思惑の交錯を経て、山岳猟団は帝国軍より独立した。
 人々の噂と憶測を他所に、猟団員達はその日の内に、次の行動を開始した。
「私を副団長に?」
 帝国軍の正規兵の最専任者……だった戦士、ガーハートは、目を丸くして眼前の老兵に問う。
 対する老兵、シバ(kz0048)は、深く頷いた。
「うむ」
「しかし私は、その……帝国軍の出だぞ。内外への影響力を考えれば、シバこそ適任だろう」
「儂はもう人の上に立つ器ではない。先は短く、また手を汚しすぎた……それに、我等が団長を支えるは正規軍隊の運用をよく知る物こそ、望ましいでな」
「団長代……いや、団長はどう思う」
 そう言ってガーハートは、山岳猟団の『団長』となった男を見やる。
 八重樫 敦(kz0056)……当初は団長代理として呼ばれたいち傭兵だが、独立にあたって彼が正規の団長となるのは、いまや猟団員満場一致の意見であった。
「副長はガーハートに任せる」
 八重樫は短く告げた。
 彼の決断は早い。迷わない。そして、理を欠く事がない。
 だからこそ、猟団員は彼に従うのだ。故郷も、人種も違う、荒くれ者の戦士達が。
 三人の男が、互いの顔を見合わせて頷いた時……シバの腰に下がった魔導短伝話から甲高い声が響いた。
『斥候の太陽猫より報告! パシュパティ砦真北より歪虚の大群が移動開始! 南進して人類領へ侵入しますにゃ!』
「敵戦力組成は」八重樫が問う。
『すっげぇ大群ですにゃ! 影喰らいの群狼が百二〇体、オーガ十八体、加えてサイクロプス級大型怠惰歪虚を一体確認!』
 男達の目の色が、変わった。
 戦が、始まる。
 人類最前線の、苛烈なる戦が。


 パシュパティ砦の中庭に並んだ猟団員は、百数十名。
 これに『即応員』と呼ばれるハンター兼任の団員を併せた総員が、猟団の全戦力である。
 その、整列した猟団員達の前にシバが現れると、彼は指揮台に上り、語り始めた。

『今日この日山岳猟団に集いし同士、そしてハンター達に礼を言う。
 我等は『歪虚を討ち、人類の守護者たらん』という理想の下に集い、闘ってきた。
 それは楽な道程ではなく、犠牲も多く払ってきた。
 ここに至るまでに多くの友が倒れ、また我等の立場も今、自ら望んで根無し草となった。
 その上で今、我等はこれまでで最も強大な歪虚の軍勢を討ち倒さねばならない。
 過酷な状況ではあるが……今一度、皆の力を、貸して欲しい。
 我等人類は窮地にある。
 いまこの地で歪虚の侵攻を止め、また退けねば、まず最初に赤き大地が滅び、次に帝国が滅ぶであろう。
 我等が為すべき事は何かは、至極単純な問に過ぎぬ。
 『力を合わせて歪虚を討つ』……ただそれだけだ。
 しかし、その純然たる目的の為に、人は戦う事はできなかった。
 帝国は自らを人類の盾と謳いながら隣人に服従を迫り、また赤き大地の部族は力持たずして自らの誇りだけを守ろうとした。
 国の違い、世界の違い、身体に流れる血の違いが、利益の違いを産み、我等の心がひとつになることを妨げた。
 だが……我等猟団を、今、ここまで歩んで来た山岳猟団を観よ。
 地の底の金剛に育てられしドワーフの子、
 真なる青き天空より来る異世界の子、
 赤き大地に生まれし森と獣の子、
 壁の向こうに文明を築いた皇帝の子、
 そのどれにさえも属さぬ依辺なき子達さえ。
 全てを捨てて、ただひとつ、人類の敵を討たんが為だけに此処に集った。
 ハンターズソサエティ以外にこれを為した組織が、未だかつて存在したか?
 だが、いつか人の魂は濁り、血は淀む。
 いつか我等の利益が矛盾し、心が離れ、道を違えるやもしれぬ。
 あるいはいつか、圧倒的なる歪虚の力の前に、無様に敗れ、死に絶えるやもしれぬだろう。
 ……だが、今日、いま、この時だけは!
 我等は、一つになって闘うのだ!
 闘い、示せ!
 人は、こころ一つに闘えると!
 全ての蟠りを捨て、ただひとつの目的の為に、共に闘い、勝ち抜けると!
 それこそが、歪虚という強敵を討ち果たし、我等人類が生き抜く為の、唯一無二の道であると!
 天上天下の人類に教えてやれ!
 我ら山岳猟団の意義は、そこにある!
 違うか、我が友たちよ!』

 ……時間にしてみれば長くはない訓示。
 しかしそれは、シバの隠し続けた真意であり……猟団員達の持つ理念そのものを、言い表していた。
 熱狂とともに出撃準備を始める団員達を尻目に、シバは指揮台を降りる。
 そして、吐血し、ふらりと蹌踉めいた。
 その身体を、八重樫が支える。
「シバ」
「…………大丈夫じゃ。少し、少し気を入れすぎただけよ」
「……俺は、お前の理想には興味が無い。俺がお前に協力するのは……」
「判っておる。お前さんは、それでええ。そうでなくてはならん」
「……」
 シバは、泣いていた。その涙の意味を問う流儀を、傭兵は持たない。
 八重樫はシバを自力で立たせると、団員達に向き直った。
「作戦伝達! 団員の内、重装歩兵を含む主戦隊は俺と共に正面突撃を行う。ガーハートは騎兵を率いて側面攻撃。シバは別働隊と共にサイクロプスを撃退しろ!」
『了解ッ!』
 団員達の唱和の中で、ガーハートは団長八重樫に向き直った。
「サイクロプスか、大物だぞ。やれるか?」
「所詮、命がある敵だ。まず目を潰す。次に足を潰す。最後に、殺す。それで終わりだ」
「ふむ。ハンターは、どうする?」
 ガーハートは最後に、自分の背後に並んだハンター達を指差した。
 これまで猟団の数奇な運命を、変え続けた存在。
「各自に判断を任せる。遊撃して戦況を有利にしろ」
 八重樫を知る者でなければ、その淡々とした指示が、信頼ありきのものであると気づけまい。
 だが……ハンターもまた、当初から猟団の、確かな戦力の一部だったのだ。
 あらゆる立場、あらゆる人種が集い共に闘う、山岳猟団の。

リプレイ本文

 歪虚の群は、人間の姿を見るや、それを蹂躙せんと散開し始めた。
 山岳猟団もまた、歪虚の動きに呼応して、即座に行動を開始した。
 晴天の下、戦士達は吼え、駆ける。
 ただ、境なく、目的を一つに。

(猟団が掲げているのは理想……そう、唯の『理想』だ。だが、それが出来なければ、いずれ俺達は負ける)
 騎乗したラスティ(ka1400)は、猛る戦士達の姿に視線を送りながら、心中で呟いた。
 シバの言葉には納得しつつも、その熱狂には微かな違和感と不安を覚えながら。
「八重樫、雇われから、個人じぎょーぬしになった、です? 猟団もいろいろ大変そー、です」
「元々がフリーランスだ。元鞘に納まるだけだ」
 八城雪(ka0146)の問に、八重樫は表情を変えず答えた。
 無骨そのものの傭兵の顔を、雪はしばらく見つめーー
「……ま、オレは戦えるなら、それでいー、です」
 やがて、やることを思い出したかの様に、歪虚へと向き直る。
「御託は興味ねえし、小難しい話もしたくはねえもんだ」
 そのやりとりを聞いてか聞かずか、アーヴィン(ka3383)が、抑揚も薄く嘯く。
 彼が求めるのは歪虚との闘いそのもの。猟団の行く末に多少の関心こそあれど、その心情に興味は無い。
 そして、それぞれの持場へと移動するアーヴィンや、雪。
 彼等の背を見て、ラスティもすぐに続いた。
「そうだな。とりあえず、目の前の連中をぶっ潰す。それくらいがシンプルで良い」
 今は、まだ。
 そう、小さく唱えて。

●主力部隊〜1
 主力を正面からぶつけ、戦局を見ながら左翼を下げる形の『斜線陣』を提案したのは、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)だった。
「陣形を斜めにすることにより敵側面の密度を下げ、騎兵部隊による敵陣突破・撃破を容易と、サイクロプスへの強襲を容易とします」
「……」
 八重樫の回答に間が空き、戦場で沈黙が流れる。
「陣を動かすタイミングは指揮官頼みにならざるを得ませんが……」
「いや。最初から斜線の陣形を組み進軍する」
「最初から?」
「そうだ」
 今の猟団員は『さがる』事ができまい、と八重樫は言う。
 積み重なった感情がある。一年近く続いた抑圧が解けて漸く純然と戦える、その昂揚の絶頂にある集団だ。
 それを交戦中に後退させ、精密な陣形変更を行うことは難しいであろうと。
「……判りました。後は、専門職にお預けしましょう」
 アデリシアは、八重樫の判断を呑む。
 結果、ハンターの一部と八重樫含む猟団最精鋭が、最も突出する主力部隊の右翼側についた。
 主力部隊の東からは別動隊がサイクロプス級へ。西側からは、騎兵隊が回りこんだ。
「進軍開始!」
 八重樫の号令。戦が、始まる。
 最前列の重歩兵達の背を追いながら、イチカ・ウルヴァナ(ka4012)とシャルティナ(ka0119)は、それぞれの得物を抜き、手に構えた。
「やぁ、シバの爺ちゃん熱いなァ。ウチもいい感じに火ぃついたし、がんばろかな!」
「私達はただ脇役、主役は山岳猟団の皆さんです。さぁ、しっかり援護しますよ」
 迫り来る、歪虚の群れ。
 先頭を進む『影食らいの群狼』達は、斜線陣構築の為に密集した猟団主力部隊を見るや広く散開。
 側面を包み込む様に移動し始めた。
「アイツら、ウチらを囲もうとしとる……!」
 群狼の動きは速く、主力は左右を挟まれかけつつあった。
 だが突如、青白い霞が敵の進路を阻む。六体程の狼が、後続の狼を巻き込み足を止めた。
 スリープクラウド……ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)の放った、先制の一手だった。
「好きに、させるか……!」
 ハンターの中で、山岳猟団に最も共振する想いを抱えるのは、この魔術師の青年だった。
 歪虚、討つべし。一念を宿して放たれた魔術の煙は、確実でなくとも広範囲の群狼を、眠りへと引きずり込む。
 更にもう一撃、今度は右翼に回り込もうとする一群へ。
「上手く行ったかな。敵さん足並みが乱れて、動きがバラついとるね」
 イチカが僅かに湾曲した八角棍を大きく振るい、一番手に掛かってきた黒狼の頭を横薙ぎに払う。
 その隙を狙うかのようにイチカへ迫る後続の群狼を、シャルティナの白閃が切り裂いた。
「……躾のなってない狼さんはお仕置きですよ?」
 真一文字に刀を振り下ろす、スラッシュエッジ。
 群狼は頭から切り伏せられるが、すぐに他の群狼達がシャルティナを、周囲の猟団員達を襲う。
「行くぞ、我らに戦神の加護や有る!」
 今度はアデリシアが高らかに叫び、ホーリーセイバーを帯びた鞭を振るって団員を守る。
 その次は更に別の群狼が、アデリシアを襲う。
 すぐに戦況は……乱戦へともつれ込んだ。

●騎兵部隊〜1
 一方、ラスティとアーヴィンは騎兵部隊に随伴し、戦場を回り込む。
「王国の軍馬も悪かねえな。良い子じゃねえか」
 と、アーヴィン。二人の跨る軍馬ゴースロンは、巨人の群れを前にしても恐れる事無く駆けていく。
 精鋭の固まった主力部隊中央〜右翼は五分五分の戦況だが、戦力寡少となる左翼側は接敵直後から苦戦し始めていた。
「急げッ! 早く加勢してやらないと、左翼は長く保たないぞ!」
「判っとる!」ラスティに、ガーハートが呼応した。
「サイクロプスはどうする。もう別働隊が攻撃を始めるぞ。挟撃してヤツの投石を妨害すると、事前に言ったはずだ」
 次いでアーヴィンが告げると、ガーハートは逡巡する。
「……だが、本隊を見捨てるのか!?」
 サイクロプス一体と、主戦力側歪虚の、どちらを撹乱するか。
 ハンター側からの提案が同時に出されたことで、指揮者に迷う時間が生じてしまった。
「……本隊左翼を支援する。騎射開始、重装騎兵はこのままつっこめ!」
 短い沈黙を挟み、ガーハートが号令を下す。
 時間にして一分近い判断の遅れ。それを取り戻すべく、ラスティは馬首を反転、鐙の上でアサルトライフルを構える。
「軍学生時代にゃバイクを乗り回したモンだが……まさか異世界で、竜騎兵をやるとは思わなかったぜ」
 突撃していく猟団の重装騎を援護するように、その進路へ向けて発砲。
 『will to power』の文面が刻まれた銃身は、強烈な閃光を放って歪虚へ弾丸を叩き込む。
 遠方で、スリープクラウドが歪虚を包むのが見えた。ラシュディアが機を合わせたのだろう。
 続く重装騎兵は、足の止まった群狼達を蹴散らし、敵陣に突破口をこじ開ける。
「次だ、サイクロプスへ向かえ!」
 ガーハートが叫ぶ。
「間に合うか……!」
 だが、アーヴィンはサイクロプスを見て、舌打ちした。
 咄嗟、その背を目掛けて弓を引く。既に射程内だが、問題は止められるかどうか。
 サイクロプスが、巨大な岩を握って振りかぶりーー
 
●別働隊〜1
 シバを始めとする別動隊に随伴したのは、雪に加えて、ウィンス・デイランダール(ka0039)、ティーア・ズィルバーン(ka0122)、天竜寺 舞(ka0377)の四人。
「シバさん、血吐いてたけど大丈夫なの?」
「問題ない。この程度は」
 眉を顰めた舞に、シバは答えた。
「こんな所で死なないでよ」少しぶっきらぼうな言葉に、老兵が頷く。
 ウチの妹がえらく心配してたし……と続く言葉を、舞は寸前で呑み込んだ。その妹の関心が、自分以外に向いた事が、引っかかって。
 気持を切り替えて、舞は囮となるべく、別働隊の先頭へと躍り出る。
「こいつは……また狩りがいのある戦いになりそうだな」
 巨大な影を見上げながら、ティーアは構えたアックスブレードを、乱戦に備えて剣の形状へと組み替えた。
「放った必殺の矢の勢いを殺すわけにゃいかねぇぜ……!」
 目標のサイクロプス級は、敵陣後方に控えている。
 騎兵の突撃に乗じて反対側から回り込んだ別動隊の距離は近いが、それでも周囲には十数体の歪虚が取り巻いていた。
 サイクロプスが、巨大な岩を握って振りかぶりーーウィンスを見た。
「上等だ」
 真っ先に対処に動いたのは、ウィンス自身。
 駆けながらウィンスは、魔導拳銃を頭上に掲げ、銃口をサイクロプス級の巨大な目に向けた。
 敵は銃の射程外、しかしその銃身にはLEDライトが括りつけられている。閃光で目を眩まし……
「……ッ!」
 瞬間、衝撃がウィンスを、ハンター達を、別働隊の猟団員を襲った。
 大質量の巨岩が、着弾点を中心に榴弾の様に礫をまき散らす。
 後続のシバら数名の団員が、ばらばらの方向に吹き飛ばされていくのが見えた。
 敵の狙いは、恐らくは僅かに逸れたのだろう。隊伍の中心が直撃を受ける事は避けたが、しかし攻撃を防ぐにも、被害を絶つにも至らなかった。
「……まず目を潰せ。投石を封じないと話にならん!」
 ウィンスが、仲間に叫んだ。
 全員が頷く一方、無慈悲にもサイクロプスが、オーガ達が別働隊へと群がってくる。
 その数、八体。
「……こんな時に、邪魔くせー奴らです」
 雪が不機嫌そうに溜息一つ、隊伍を離れてオーガへと向かった。
「アイツらは、オレが引き受ける、です。皆はさっさとあのデカブツを仕留める、です」
 背中越しに言い残し、雪は駆けた。
 出会い頭、大槌を振りかぶり踏込と共に振り下ろす。鬼頭が、粘土じみてぐしゃり潰れる。
 その直後他のオーガ達は雪に惹き寄せられ殺到、彼女の小さな身体は、群れる巨体に埋もれ見えなくなった。
 
●主力部隊〜2
「……五分と五分、ですか」
 隣に膝を付いた猟団員にヒールを唱えながら、アデリシアは戦場を見渡した。
 サイクロプスとオーガの半数は別働隊へ向いた。
 騎馬隊の撹乱はやや遅れたものの、効果は十分。
 雁行陣を取った主力部隊は、機動力に勝る狼歪虚群に半包囲されつつ、必死の応戦を続けていた。
「くっ、もう魔法が幾らも……!」
 ラシュディアは炎の矢を放って前列の狼を焼き、食いつかれていた団員を救う。
 スリープクラウドは大なる効果を上げたが、とうに撃ち尽くしている。彼の表情には微かな焦りが浮かんでいた。
 一方シャルティナはランアウトで敵陣を駆け、その連携を乱しつつ、負傷者を隊の後方へと運んでいた。
「もう少しです、頑張ってください」
 息絶え絶えのドワーフに肩を貸し、意識を落とさぬ様声を掛ける。
 乱戦の中で治療が行き届かず、倒れる者が既に何人も出始めていた。中には、もう、一切動かない者も。
「まだ……まだ、生きて下さい」
 シャルティナは、ドワーフに呼び掛け続けた。
 動きの鈍ったシャルティナの背後に迫る群狼に、今度はイチカが割って入る。
 背面から大包丁を抜き放ち、クラッシュブロウを放って狼を吹き飛ばす。
「……やっぱ、突出した右翼側が劣勢かな。左は騎兵隊が掻き回してる分持ち直しとるけど」
 反動でズリ落ちた眼鏡をくいと上げ、戦況を分析するイチカ。
 最右翼の団員達が、三方を狼とオーガに囲まれているのが見える。
 次いで、前方のサイクロプスを見上げた。あれが倒れれば、別働隊との挟撃が成立するのだが……
「こりゃ、根比べやねぇ」
 誰にともなく、呟く。
 休む間も無く、狼達が彼女に襲いかかった。

●別働隊、騎兵部隊〜2
 雪がオーガを引きつけた直後、残る別動隊はサイクロプスへ向けて突撃を仕掛けた。
 魔導銃の射程に漸く敵が収まるや、突出した舞は迷わずその目を狙い発砲し、注意を引く。
「そこの一つ目野郎! あたしをふっ飛ばせるならやってみなよ!」
 舞の銃弾は巨人の頭部に命中し、相手の視線が舞へと向けられる。
(……来る!)
 相手が振り被った瞬間、舞は腰を落とし、回避の為にその軌道を見極めようとした。
 その時だ。
「撃て!」
 戦場にあって尚、凛と響く号令。
 そして矢と銃弾が、舞の頭上を通りサイクロプスへ集中する。
 号令の主はウィンス。事前に猟団の射手と打ち合わせ、目を射つ機を狙っていたのだ。
 そして、自身も攻撃を放つ。今度は小細工の光などではなく、実弾を。
「今しかねぇ、接近するぞ!」
 ティーアが叫んだ。既にアックスブレードは、必殺を期す斧の形状に組み変わっている。
 その巨眼を傷つけられたサイクロプスは反撃の姿勢に入るが、振り上げられた腕に今度は、背後からの一撃。
 遥か遠方から、アーヴィンが放った矢だった。
 その矢は、巨人の膝の裏側に深く降り立ち、その姿勢をぐらりとよろめかせた。
 そのまま巨人は拳を振り下ろすが、舞はそれを難なく躱した。「べーっ!」と舌を出す舞の両脇を、ウィンス、ティーアが駆け抜ける。
「……獲ったッ!」
 ウィンスは巨人の股の下を深い踏込で潜りながら、ミラージュグレイブを振り抜く。
 放つは渾身撃、アーヴィンが射たのと反対の足に、深く一文字を刻み込む。
 サイクロプスはよろめき地に膝を付きーー直後、機を伺っていたティーアは、瞬脚とランアウトを同時に発動。
 一瞬の内に距離を詰め跳躍すると、サイクロプスの膝の上で再度跳躍、その顔面に迫る。
「その首ィッ!! 俺に置いてけやぁぁぁぁぁッ!!」
 唸る大斧。
 首を落とさんとした一撃だったが、危険を察したサイクロプスは身を捩り、狙いは逸れた。
 狙いが、逸れてーーその巨大な単眼に、斧が食い込む。

『ーーーーーー!』

 巨人の咆哮が、空に響いた。
「チッ、手応えが軽ぃ。仕留め損ねた……!」
「だが、目を潰した。足も、既に潰した」
 毒づきながら地に叩きつけられたティーアを、ウィンスが立ち上がらせる。
「後は……殺すだけだ」
 地にのたうつサイクロプスを見る。その瞳は……ぱっくりと、二つに割れていた。
 そこに、ウィンスが、ティーアが、舞が近づく。
 後ろからは別働隊が。そして背後からは、アーヴィンと、数人の騎兵が。
 巨人は、今や俎上の鯉も同然。
 動きを封じられ集中攻撃を受けたサイクロプスは、呆気無くとどめを刺され、肉塊と貸してしまった。

 倒れたサイクロプスが牛馬の解体の如く討たれる様を、然し離れた雪は見届ける余裕が無かった。
「流石に、捌き切れねーかも、しんねー、です」
 足止めに徹したとは言え、八体のオーガを雪一人で引きつけるには、いくらなんでも無理がある。
 ジリ貧極まる戦況に陥った時、彼女を助けたのは、戦場を真一文字に突っ切ってきたラスティら騎兵部隊だった。
「伏せろ、雪!」
 雪が咄嗟に屈んだ瞬間、銃声が響き、次いで軍馬がオーガを文字通り蹴散らす。
 サイクロプス討伐と本隊の支援を両立するため、騎馬隊は二手に分かれていた。
 ラスティは本隊を援護するべく、ガーハートらと共に主戦場の撹乱に徹したのだ。
「大丈夫か」
「ちょっと手伝ってほしー、です。こいつら、数多くてウザイ、です」
 傷だらけながら、雪は平然としていた。ラスティは鼻を鳴らし、再び銃を構える。
 視界の端に、サイクロプスを撃った別働隊が、こちらへ向かってくるのが見えた。
 戦の流れが、変わり始めていた。

 最大の歪虚であるサイクロプスが討たれたことで、戦の趨勢は人類側へと傾く。
 サイクロプスを討った別働隊は、残るオーガと群狼を背後から挟撃して主力部隊を救援。
 背後を突かれた事で、歪虚側の連携は乱れ、散り散りに動き始めた。
「敵さん逃げ出しとる、もうひと押しや!」
 イチカが叫んだ。首魁を失ったせいか、特に群狼の動きが散漫になっている。
「今だ、押し返すぞ!」
 嵐の如く鞭を振るうアデリシアに呼応し、猟団の重装歩兵が再度、前に出た。
 既に無傷の者は誰一人居ないが、それは敵も一緒の状況だ。ただ、戦の勢いだけが、人類側にある。
 やがて……戦場に居た群狼は、全て討たれるか逃げるかしてしまった。
 追撃する余力のない猟団は、数体残ったオーガを集中攻撃で倒し、その日の戦闘は幕を閉じた。


「さすがにこれだけ狩るのは……しんどいな」
 最後のオーガを仕留めたティーアが大きく溜息を付き、その場にどっかと座り込んだ。
 周囲には死屍累々、その中には、残念ながら人間のものもある。
「戦死者十六名、重傷者三十九名。全力で手当はしたけど……」
「被害は……大きい、ですね」
 舞とシャルティナが、小さく溜息を付いた。シャルティナがドワーフの遺体の傍に屈み、そっと白布を掛ける。
「でも、彼等は理念に殉じました。歪虚討つべし……ただ、それだけの為に」
 ラシュディアは自分に言い聞かせる様に言った。自分の覚悟を、確かめる様に。
「これで良かったとは言い切れぬ……だが、ならばこそせめて、厚く弔おうぞ」
 複雑な面持ちでラシュディアの背を叩いたのは、自身も重傷を負ったシバ。
「理念……か。『グロウナイト』部隊長ウィンス・デイランダール。……部隊として大切なもの、とくと学ばせて貰った」
 ウィンスが呟くと、傍らの八重樫が振り返った。
「ついて来るか」八重樫が問う。
「良いチームだが、俺は加われない。理念が、あるからこそ」
 ウィンスは、淀みなく答えた。八重樫の反応は、目を細め彼を一瞥するにとどまった。
 その光景を横目に……アーヴィンは心中で、自らの思考を巡らせた。
(極端に走ればそれも歪を生む。方針の徹底と最適化は、長期的には最良の答えにならない場合も有る)
 今日は、凌いだ。だが、今後はどうか。
 この組織は、どこへ行き着くのか。
(俺の長居する場所じゃないが、な)
 見届ける価値はあるかもしれない……今日の戦は終着ではなく、出発点に過ぎないのだから。
 青年は白髪を揺らし、夕日に染まる戦場跡を見渡した。

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MVP一覧

  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音ka0746
  • all-rounder
    ラスティka1400
  • 山岳猟団即応員
    ラシュディア・シュタインバーグka1779

重体一覧

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 《臆病》な心を斬伏せる者
    シャルティナ(ka0119
    エルフ|15才|女性|疾影士
  • アックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」マイスター
    ティーア・ズィルバーン(ka0122
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • バトル・トライブ
    八城雪(ka0146
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • all-rounder
    ラスティ(ka1400
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 山岳猟団即応員
    ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779
    人間(紅)|19才|男性|魔術師

  • アーヴィン(ka3383
    人間(紅)|21才|男性|猟撃士
  • ドーントレス・トライブ
    イチカ・ウルヴァナ(ka4012
    人間(紅)|17才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
ラスティ(ka1400
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
アイコン 相談卓
ウィンス・デイランダール(ka0039
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/04/15 21:08:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/11 23:15:14