ゲスト
(ka0000)
【不動】ブリとライジンジャー
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/17 12:00
- 完成日
- 2015/04/25 04:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●???
「フンフンフ~ン、フフフ~ン♪」
遠くに森を臨む山中に響く明るい鼻歌。到底戦場が近くにあるなど思えない音の発信源を伺う事は出来ない。
ただ確実なのは、音が徐々に戦場を離れている、と云う事だ。
「ライジィン~イズ~ナンバ~ワァン~♪ ハハハァ~ン♪ フフ~ン♪」
鼻歌は次第に歌へと変わり――唐突に動きが止まった。そして懐から数珠のような物を取り出すと、その中の数玉と黒の布、そして数本の刀を放った。
「ボーイ&ガールズ、カモ~ン♪」
僅かに空気が揺れ、森の中に全身黒タイツを纏う亡霊形の歪虚が現れる。彼等は男が放った刀を携えると、彼に向かって跪いた。
「ユーたちにオーダーをプリーズします。リサーチ……OK?」
声の主は未だ見えない。それでも現れた黒装束たちは声に向かって一礼を向けて動き出と森の中に消えて行った。
その姿に声が「アァ」と笑って言葉を添える。
「アブスタクルは殺してOKデス。キルできなかったらミーがヤリマース♪」
OK? 声は楽しげに囁き、再び鼻歌を紡ぎ出す。そうして徐々に森の中へと消えると、音は完全に途切れた。
●邪魔者登場
「ぬあぁぁあああっ!!」
怪しい声が途切れた場所から僅かに離れた場所でブリジッタ・ビットマンは大声を発して、跨る馬の鬣に顔を埋めていた。
「なんなのよなんなのよなんなのよさー……うぷっ」
「ブリ助ちゃん、馬酔い酷いなら少し休憩する?」
「うっさ――……おえぇぇ!!!」
心配そうに声を掛けたリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)の助手ペリドを含め、ブリジッタの護衛に同行したハンター達の顔に苦笑が浮かぶ。
彼女は今、錬魔院の指示で帝国要塞を出発してノアーラ・クンタウに向かっている。目的は戦地に導入されている魔導アーマーの追加と調整だ。
「……っ、あたしの騎士が使えないんじゃ……意味、なぃ……うええええええっ」
今回導入を頼まれたのはブリジッタが直に開発している魔導アーマーではない。本当なら試作品でも良いのでオリジナルの魔導アーマーを実戦で使いたかったのだが、ナサニエルとリーゼロッテの双方に止められてしまった。
故に彼女が現在輸送しているのは、実戦投入可能な魔導アーマー。つまりナサニエルが主に関わって作り上げた物だ。
「ワカメェ……の、あぼぉぉえええ……ッ!」
「ブリ助ちゃん、喋るか吐くかどっちかにした方が良いと思うよ。ほら、お馬さんも可哀想だよ……」
各方面で動いている輸送部隊と経路を別にする事で敵の目を避けた形なのだが、更に気を使うために馬を使ったのが拙かったらしい。
ご覧の通りブリジッタはグロッキー、馬は完全にやる気をなくして足を止めている。ハッキリ言ってこのままでは作戦開始までに魔導アーマーを届ける事が出来なくなってしまうかもしれない。
「今からでも遅くないよ。魔導トラックに乗り換えよう?」
そうペリドが呟いた時、彼女の目が頭上を捉えた。
「――ブリ助ちゃん、飛んで!」
「ほあ?」
ドゴォォオオオオンッ!
間一髪だった。
声と同時に馬から飛び移ったペリドが、ブリジッタを抱えて地面に転がり込む。と直後、彼女の騎乗していた馬が転げ、何かの衝撃によって大地が抉れた。
「ほ、ほおおおああ……」
今まで戦場に何度か足を運んだ事があるので危険は意識していたが、こう直接的に狙われたのは初めてだ。
思わず頬を伝う汗に息を呑み、ブリジッタはペリドの肩越しに目を向けた。
未だに昇る煙。その向こうに5つの影が見える。
「……なん、なのよ……さ?」
目を凝らして見えて来たのは全身黒タイツの5人組だ。彼等はブリジッタの視線に気付くと、思い思いの奇怪なポーズを取り始めた。
そして中央の人影が腕に抱えた機械らしき物のボタンを押すと――
『稲妻戦隊ライジンジャー参上!』
機械から響き渡った声と同時に昇った煙。どうやら左右の2人が煙玉を投げたようだ。
そうして再びポーズを取ると、ペリドが何かに気付いた様に声を零した。
「アレ、人間じゃないよ!」
言われて見てみると、黒タイツの顔面は完全に塞がれており、布の向こうから赤い光らしき物が漏れている。
もし人間ならあの状況で前を判断する事は不可能に近い。となれば話は早い。
「ブリ助ちゃん、下がってて!」
言うが早いか、ペリドは一気に駆け出すと黒タイツの1体に向かって鉤爪の形をした魔導機械を振り上げた。
ジャキッ!
顔面を覆う布が剥ぎ取られ、皆の前に顔面が晒される。そうする事で見えたのは、霧状の雲が小さな雷と共に蠢く姿だ。
その中央には赤い玉のような物が浮いている。
「……『核』?」
口に、自分に迫る衝撃に気付いた。咄嗟に飛び退こうとするも気付くのが遅かった間に合わない。
想像以上の速さで迫る腕がペリドの体を吹き飛ばした。
「――ッ、は……ぁ!」
衝撃と共に木に打ちつけられて呼吸と視界が揺れる。咽るように息を吐き出して、涙目で黒タイツの顔を見詰めた。
「……核……を、壊せ……ば……」
ペリドは揺らぐ足を叱咤して立ち上がると、もう1度黒タイツに向かって走り出そうとした。
その腕をブリジッタが掴む。
「黙るのよさ!」
「……ブリ助、ちゃ……」
「別に、あんたなんて怪我しても良いのよ。でも、ボインに叱られるのは嫌なのよさ……!」
ギュッと腕を掴む手に力が篭る。と、新たな音声が響き渡った。
『悪を気取る愚か者め、我々が成敗してくれるっ! いざ尋常に勝ぶ――』
「うっさいわ、ボケェ!」
黙れクソバカ!! そう怒鳴り散らして眉を吊り上げたブリジッタは、呆然とするハンターを振り返った。
「あったま来たのよさ! あんたたち、やっておしまいなのよ!!」
行け! そう前面を指差すと、自分は安全地帯にと、ペリドを連れて茂みの中に隠れた。
「フンフンフ~ン、フフフ~ン♪」
遠くに森を臨む山中に響く明るい鼻歌。到底戦場が近くにあるなど思えない音の発信源を伺う事は出来ない。
ただ確実なのは、音が徐々に戦場を離れている、と云う事だ。
「ライジィン~イズ~ナンバ~ワァン~♪ ハハハァ~ン♪ フフ~ン♪」
鼻歌は次第に歌へと変わり――唐突に動きが止まった。そして懐から数珠のような物を取り出すと、その中の数玉と黒の布、そして数本の刀を放った。
「ボーイ&ガールズ、カモ~ン♪」
僅かに空気が揺れ、森の中に全身黒タイツを纏う亡霊形の歪虚が現れる。彼等は男が放った刀を携えると、彼に向かって跪いた。
「ユーたちにオーダーをプリーズします。リサーチ……OK?」
声の主は未だ見えない。それでも現れた黒装束たちは声に向かって一礼を向けて動き出と森の中に消えて行った。
その姿に声が「アァ」と笑って言葉を添える。
「アブスタクルは殺してOKデス。キルできなかったらミーがヤリマース♪」
OK? 声は楽しげに囁き、再び鼻歌を紡ぎ出す。そうして徐々に森の中へと消えると、音は完全に途切れた。
●邪魔者登場
「ぬあぁぁあああっ!!」
怪しい声が途切れた場所から僅かに離れた場所でブリジッタ・ビットマンは大声を発して、跨る馬の鬣に顔を埋めていた。
「なんなのよなんなのよなんなのよさー……うぷっ」
「ブリ助ちゃん、馬酔い酷いなら少し休憩する?」
「うっさ――……おえぇぇ!!!」
心配そうに声を掛けたリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)の助手ペリドを含め、ブリジッタの護衛に同行したハンター達の顔に苦笑が浮かぶ。
彼女は今、錬魔院の指示で帝国要塞を出発してノアーラ・クンタウに向かっている。目的は戦地に導入されている魔導アーマーの追加と調整だ。
「……っ、あたしの騎士が使えないんじゃ……意味、なぃ……うええええええっ」
今回導入を頼まれたのはブリジッタが直に開発している魔導アーマーではない。本当なら試作品でも良いのでオリジナルの魔導アーマーを実戦で使いたかったのだが、ナサニエルとリーゼロッテの双方に止められてしまった。
故に彼女が現在輸送しているのは、実戦投入可能な魔導アーマー。つまりナサニエルが主に関わって作り上げた物だ。
「ワカメェ……の、あぼぉぉえええ……ッ!」
「ブリ助ちゃん、喋るか吐くかどっちかにした方が良いと思うよ。ほら、お馬さんも可哀想だよ……」
各方面で動いている輸送部隊と経路を別にする事で敵の目を避けた形なのだが、更に気を使うために馬を使ったのが拙かったらしい。
ご覧の通りブリジッタはグロッキー、馬は完全にやる気をなくして足を止めている。ハッキリ言ってこのままでは作戦開始までに魔導アーマーを届ける事が出来なくなってしまうかもしれない。
「今からでも遅くないよ。魔導トラックに乗り換えよう?」
そうペリドが呟いた時、彼女の目が頭上を捉えた。
「――ブリ助ちゃん、飛んで!」
「ほあ?」
ドゴォォオオオオンッ!
間一髪だった。
声と同時に馬から飛び移ったペリドが、ブリジッタを抱えて地面に転がり込む。と直後、彼女の騎乗していた馬が転げ、何かの衝撃によって大地が抉れた。
「ほ、ほおおおああ……」
今まで戦場に何度か足を運んだ事があるので危険は意識していたが、こう直接的に狙われたのは初めてだ。
思わず頬を伝う汗に息を呑み、ブリジッタはペリドの肩越しに目を向けた。
未だに昇る煙。その向こうに5つの影が見える。
「……なん、なのよ……さ?」
目を凝らして見えて来たのは全身黒タイツの5人組だ。彼等はブリジッタの視線に気付くと、思い思いの奇怪なポーズを取り始めた。
そして中央の人影が腕に抱えた機械らしき物のボタンを押すと――
『稲妻戦隊ライジンジャー参上!』
機械から響き渡った声と同時に昇った煙。どうやら左右の2人が煙玉を投げたようだ。
そうして再びポーズを取ると、ペリドが何かに気付いた様に声を零した。
「アレ、人間じゃないよ!」
言われて見てみると、黒タイツの顔面は完全に塞がれており、布の向こうから赤い光らしき物が漏れている。
もし人間ならあの状況で前を判断する事は不可能に近い。となれば話は早い。
「ブリ助ちゃん、下がってて!」
言うが早いか、ペリドは一気に駆け出すと黒タイツの1体に向かって鉤爪の形をした魔導機械を振り上げた。
ジャキッ!
顔面を覆う布が剥ぎ取られ、皆の前に顔面が晒される。そうする事で見えたのは、霧状の雲が小さな雷と共に蠢く姿だ。
その中央には赤い玉のような物が浮いている。
「……『核』?」
口に、自分に迫る衝撃に気付いた。咄嗟に飛び退こうとするも気付くのが遅かった間に合わない。
想像以上の速さで迫る腕がペリドの体を吹き飛ばした。
「――ッ、は……ぁ!」
衝撃と共に木に打ちつけられて呼吸と視界が揺れる。咽るように息を吐き出して、涙目で黒タイツの顔を見詰めた。
「……核……を、壊せ……ば……」
ペリドは揺らぐ足を叱咤して立ち上がると、もう1度黒タイツに向かって走り出そうとした。
その腕をブリジッタが掴む。
「黙るのよさ!」
「……ブリ助、ちゃ……」
「別に、あんたなんて怪我しても良いのよ。でも、ボインに叱られるのは嫌なのよさ……!」
ギュッと腕を掴む手に力が篭る。と、新たな音声が響き渡った。
『悪を気取る愚か者め、我々が成敗してくれるっ! いざ尋常に勝ぶ――』
「うっさいわ、ボケェ!」
黙れクソバカ!! そう怒鳴り散らして眉を吊り上げたブリジッタは、呆然とするハンターを振り返った。
「あったま来たのよさ! あんたたち、やっておしまいなのよ!!」
行け! そう前面を指差すと、自分は安全地帯にと、ペリドを連れて茂みの中に隠れた。
リプレイ本文
「ブリジッタさん、それは悪役の台詞だ!」
一目散に茂みに隠れたブリジッタに思わず叫んだ那月 蛍人(ka1083)は、浮かんだ苦笑いをそのままに前方を見る。
敵と味方の距離は僅か。5体の歪虚――自称雷神社は、いそいそとラジカセを足元に置いて戦闘準備を始めている。その様子に秋桜(ka4378)が零す。
「ま、まさかこの世界にも戦隊モノがあったなんて……」
リアルブルーからこの地に飛ばされた自分等ならまだしも、こんな訳の分からない歪虚にまで浸透している事が不思議でならない。そう眉を寄せるのも一瞬、彼女の目が細められた。
「しかし、全員がストライダーの様な能力とは個性がありませんね。これでは打ち切りになってしまいます。せめて、紅一点のピンク位は用意せねば……あとカレーのイエロー?」
「男のピンクやイエローは色んな意味で危険だよ」
思案する秋桜にちゃっかりツッコミを入れるエハウィイ・スゥ(ka0006)。そして2人の視線が黒タイツの下方へ移動し欠けた所で大きな咳払いが響いた。
視線を向ければ、ロニ・カルディス(ka0551)が何処かバツが悪そうに眉を寄せているではないか。彼は女性2人の視線を受けると、もう一度咳払いをして雷神社を見た。
「あー……どうにも、酔狂な輩が出て来たものだな。それに妨害も都合よく来た感がある」
「それなんですけど、ブリジッタさんは恨みを買っていたりするんじゃないでしょうか? 街道を嘔吐物で汚した事が許せなかったり? それなら、ブリジットさんが全面的に悪くなりますけど……お掃除だけで丸く収まったりはしませんよね~」
「いや、ここ街道じゃないし、流石にそれはないと思うよ?」
秋桜の言葉に否定しながら、蛍人はそれでも汚れた地面を草で隠すように動く。その姿に天竜寺 詩(ka0396)も枯れ木で嘔吐物を隠して言う。
「何だか関わり合いになりたく無さそうな雑魔が出て来たけど、ブリちゃんはぜったいに守るからね!」
くるりと振り返って宣言する詩。そんな彼女にブリジッタは感激――は、していなかった。
「確かに色が揃えば臨場感があるのよさ。でもそうなるとあたしが悪ってことになって色々と困る……ん? どうしたのよさ?」
「うぅ、なんでもないよぉ」
ぐすんっと鼻を啜って背を向ける。
そもそもいつぞやの依頼で無事(?)オタクとなったブリジッタにとって、この手のシチュエーションはある意味ご馳走なのだろう。
さっきの恐怖心はどこへやら、今は妄想の真っ只中にその身を投じているらしい。
「意外と余裕があるみたいで安心しました。でも、SFロボ談義の続きは暫しお預けみたいですね」
直接殺意を向けられた事への恐怖心から竦んでいるかと思ったが、やはり普通の子ではないらしい様子に守原 有希弥(ka0562)の口元に笑みが浮かぶ。
「それでは此方も参りましょうか」
「あ、待って!」
ストップを掛けたのはエハウィイだ。彼女は言う。
「てかさ、歪虚が戦隊ヒーローを名乗るとかちゃんちゃらおかしいっての。だからさ、そっちがその気なら乗っかってやろうじゃん」
「えっ、名乗り返すんだ!?」
思わず叫んでハッと口を押える蛍人。彼は雷神社を振り返って「あぁ」と納得した。
(なんか知らないけど待ってる。なんか待ってる)
ハハッと乾いた笑いを零して視線を泳がす。
「まぁその、元気があっていいんじゃないかな」
俺はやらないけど。そう言外に告げて一歩下がった。これにエハウィイが前に出る。
「では一番手! 聖なる光が闇を討つ。正導士、天龍寺詩だよ!」
「同じく、BL大好き怪人エハウィイだーヒーロー共を脳内で掛け算しちゃうぞフハハハー」
「同じく、遍く弥久に我は希望を有らしめる、守原有希弥!」
「3人そろって悪の錬魔院結社三人衆、参上!!」
「「「おぉぉおい!!!」」」
3人の後ろで堂々と付け足したブリジッタに叫んだ所でロニが再び咳払いを打つ。
「……そろそろいいか?」
「そもそもなにが同じくだったんでしょう?」
「細かいことは気にしない、気にしない」
秋桜の声に応える蛍人は呆れと笑いを含ませて囁く。その声を耳にしてか否か、エハウィイは「くそぉ!」と拳を握って前を見た。
そして折角決めたポーズを崩して雷神社を指差す。
「こうなったら、こうじゃ! 尋常なる勝負を望むならば1人ずつ参られーい!!」
こうなればヤケだ。この言葉で1人ずつ乗って来ればしめたもの。けれど現実はそう上手くはいかなかった。
「全員来たな……行くぞ」
ロニは溜息を吐いたあと歩き出すと、気持ちを引き締めるように目を細めて槍を構えた。
●
森の中と言う視界の悪い状況の中、有希弥は周囲を探る様に視線を巡らせた。
「動きは確かに早い。けど消えている訳じゃない以上予測は可能……」
雷神社と名乗った歪虚はそれぞれ飛び出し森の中に身を潜めている。その影響か、他の仲間も有希弥同様に足を止め、周囲を伺っていた。
(戦闘開始と同時に2体が右、3体が左へ行った……速度と方角から移動場所を予測して……)
忙しなく動く瞳が一定の角度で止まる。
「そこか」
駆け出すと同時に、進行方向に向けて石の礫が放たれた。チラリと目を向けると、秋桜が援護にアースバレットを放ったらしい様子が見える。
「援護するのです」
「感謝」
マテリアルを得た加速で一気に接近。秋桜の攻撃で飛び出した敵に向かって一気に刀を振り上げる。そうして敵のタイツを裂くと、有希弥の目は次を捉えた。
「攻撃目標はココだ!」
振り抜いた勢いのまま、もう一歩踏み込む。そして刃を反すと、ペリドが暴いて見せた核目掛けて刃を突き入れた。
パリィィインッ。
核が砕ける音と同時に、タイツだけが地面に崩れ落ちる。それを見止め、次に移ろうとした時、彼の足が止まった。
「ッ、く……!」
腕を掠めた痛みに眉を潜めるも、目だけは存在を捉えていた。
「守原さん、下がってください!」
目に捉えた雷神社を視界に、有希弥は声に従って飛び退くと、1本の矢が敵の肩に突き刺さった。
「よしっ!」
全体状況に注意を払っていた詩は、有希弥の危機を目撃して矢を放った。それが彼の危機を救い、トドメを刺すまでに至った事に安堵の息が漏れる。
「ブリちゃん、後で酔いに効くツボを押してあげるね」
「ほえ?」
「ヒールで乗り物酔いは治せないから」
ごめんね。そう苦笑いを見せた彼女の頭上で何かが光った。
「詩、上なのよ!」
「! 光の加護を――」
振り返った瞬間に迫った雷神社に急いでプロテクションを掛ける。だがこれはブリジッタに掛けたものだ。自身へはまだ掛けていない。
それでも彼女は茂みに飛び込んでブリジッタを抱き込んだ。
「な、なにしてるのよさッ! そこにはあたしのゲ――」
「ブリ助は黙ってな! 私だって傍にいたら同じことする。知り合いを傷付けられて黙っていられる程出来の良い性格してないしね!」
「エハ何とか!!」
「エハウィイだぁーー!!」
くっそ、この場面でその仕打ち! 思わず涙目になりそうだが、折角カッコ良く詩と雷神社の間に入ったのだ。退く訳にはいかない。
エハウィイは盾で雷神社の刀を受け止めると、刃を側面に流すように盾を動かした。
滑る様に盾を抜ける刃。それが彼女の傍を抜けると、流す勢いのまま盾を相手の体に押し付ける。
「詩、やっちゃえ!」
「っ、うん!」
体勢を崩した今がチャンス。
声を上げたエハウィイに頷き、詩が弓を媒体にマテリアルを上昇させる。そうして聖なる玉を出現させると、彼女は矢を射るような体勢でそれを放った。
「おぉ……キレーなのよ……」
向けられる背に浮かんだ金色の片翼。それに目を奪われているブリジッタの延長線上で、敵は上体を崩して倒れ込んだ。
そこに容赦ない攻撃が加わる。
「タコ殴りじゃいッ!」
次々とメイスを顔面に叩き込む。これにより敵の核は消滅。タイツのみとなった存在に安堵の息を吐いたのも束の間、突如雷のような音が響き渡った。
「なに?」
振り返った先には若干焦げた木が。そしてその傍には蛍人の姿もある。
「強烈な光、っ……」
目が眩みそうな雷遁の光に金色に変化した瞳が細められる。けれど相手から目を逸らす事はしなかった。
素早い相手から目を逸らせば必然的に隙を作る事になる。それだけは絶対に避けなければいけない。
「次は、こっちから行くよ!」
雷撃に痺れる腕を叱咤し、剣に光を宿して突っ込む。
(雷みたいな体に剣が通るかは微妙だけど、これなら確実にいけるはず)
「必殺――……体当たりッ!」
剣はどこへ? 思わずツッコミが来そうだが、蛍人は迷うことなく盾ごと突っ込んだ。
これに敵は反応するなく倒れ込む。と言うか、体当たり自体が予想出来ていなくて反応できなかったのだろう。
「さあ、今の内に!」
敵に圧し掛かったまま振り返った蛍人に、ロニが「あ、あぁ」と頷く。
そんな彼の目の前には既に討伐を終えた歪虚の抜け殻――黒タイツがあるのだが、そこはまあ、置いておこう。
「少し腰を据えたらどうだ……そう思っていたが、まさか本当に腰を据えるとはな」
苦笑を滲ませて一気に槍を核目掛けて突き下ろす。こうして残り1体になったのだが、ここにきて全員の動きが止まった。
「木々を上手く使って隠れているのか?」
「すみません、見失いました」
敵の推定位置を考え続けていた有希弥だったが、流石に5体全ての歪虚の動きを覚えるのは至難の技だったようだ。
「どうする? 行っちゃう?」
「それもある意味ありですけど……そう言うときに限って襲って来るんですよねぇ」
エハウィイに答えた秋桜に、確かにと蛍人が頷く。そして皆が警戒を続ける中、ブリジッタは詩から酔いに効くツボを伝授してもらっていた。
「掌中央のココと、手首のココを反対の手の親指で何度か押して……」
「こうなのよ?」
嘔吐物を厭わず助けようとしてくれた詩に多少心を開いたのだろう。素直にツボを押すブリジッタに戦闘不可状態だったペリドの口元にも笑みが浮かぶ。
「まあ、警戒しながら移動すれば……ってぇ、来たぁぁあああ!」
最後まで気を抜いていなかったのは皆も同じ。けれどそれ以上に周囲に注意を配っていたエハウィイが敵の姿を発見した。
「正面から来るとは潔い」
槍を振り落すと同時にロニが放った黒い塊が、敵の上腕部を吹き飛ばす。それでも動きを止めずに突っ込んで来た敵は、瞬発的に脚力を強化して全員の間合いに飛び込んで来た。
「止まれ!」
ロニは盾を突き刺すように動かすと、敵の胴を払う様に掬い上げた。そこへ有希弥が透かさず追撃の一打を放つ。
「これで終結!」
碧眼に変化した有希弥の瞳が、自身の刀が核を貫くのを捉える。そうして敵が消え去ると、彼等はようやく肩の力を抜いた。
「ふぅ、これで一段落だね。ブリ助、おぶってあげるから急いでここを離れよ」
言って、エハウィイが背を向けた時、何処からともなく歌が響いてきた。
「ライジィン~イズ~ナンバ~ワァン~♪」
木々の間から響く声の主は伺えない。だが、歪虚が討伐された後に聞こえた声だ。警戒するに越したことはないだろう。
ロニはブリジッタの傍に控えたまま周囲に目を凝らし――発見した。
「あそこだ」
そうロニが指差したのは太い木の枝の上。そこにいたのはフルメットのようなものを被った男だ。
男は自身を見付けたハンターに気付くと、「ブラボォ~♪」と拍手を送ってヤンキー座りから立ち上がった。
「どうやら、熱烈なファンが付いているようだな」
「そうだね。ブリ助達をピンポイントで狙ってきたって事は計画的に事を進めてるって事だろうし」
チラリと視線を向け、ロニとエハウィイが警戒を見せて武器を構える。それに習って他の面々も武器を構えると、ブリジッタは納得いかなさ気に眉を寄せた。
「何であたしなのよさ……技術者を狙うなら断然ワカメだろ。ワカメ美味いぞ?」
言われてみれば魔導アーマーや物資は各方面から送られているので、わざわざブリジッタを狙う必要もない。
もし運んでいるのがオリジナルの魔導アーマーならわからないが、今回は違うのだ。
「やっぱり嘔吐物が原因なのではないでしょうかぁ?」
そう、秋桜が首を傾げた時、男から再び鼻歌が響き始めた。これに蛍人が呟く。
「なるほど、親玉からしてこういうノリか」
改めて敵の姿を確認する。
フルメットにばかり目がいきがちだが、服装も良く見れば奇抜だ。
羽織袴に下駄。背には身の丈以上の刀を背負っていて、普通じゃない様子だという事だけはヒシヒシと伝わってくる。
「でも、部下をぶつけてから出てくるなんて随分用心深いんだな」
「ノンノンノ~ン、プルーデンッツ♪」
「ぷ、ぷる?」
「用心深くはないデース。ユーたちはミーの相手には役者が不足してマース。つまりユーたちはウィーク。弱い」
言うや否や、飛び上がった男に全員が身構える。だが――
「消えた!?」
先程の歪虚とは訳が違う。一瞬にして見失った姿に焦りが浮かぶ。そして辺りを見回そうとした所で衝撃が襲った。
「――ッ、ぅ」
何が起きたのか。
唯一わかっているのは、全員が衝撃に吹き飛ばされたという事だ。
「ブリ、助……ゲロインの座は……渡さな、ぃ」
「意外とヨユーデス、ね?」
若干規制が必要な視覚の中、ブリジッタの腕を掴んだエハウィイが「うっせぇ」と視線を飛ばす。
とは言え、彼女を含めた皆が地面に突っ伏したまま動けない状態だ。その理由は全身を覆う痺れなのだが、その原因はすぐに明らかになった。
「スモール必殺技ライジング~なんちゃら~ん♪」
ジャジャーン☆ と自分で効果音を付けて男が背にある刀を抜刀する。直後、刃から電流が飛び出し、延長線上にあった木々を薙ぎ倒して魔導アーマーに直撃した。
当然魔導トラックも横転。魔導アーマーに到っては黒い煙を放ってひっくり返る始末。男は呆然とするハンターを振り返ると、おちょくるように腰をくねらせた。
「ン~ン~ン~、ユーたち雑魚いデースネー?」
「はあああ????」
確かに手も足も出なかったが改めて言われると腹が立つ。思わず言い返そうとするが、そうするよりも早く、男は「バイナラ~ン♪」と声を残して姿を消した。
後に残ったのは敵によって見せつけられた力の差、壊れた魔導アーマーの姿だった。
●後日
魔導アーマーを壊されて凹むブリジッタの元を訪れた秋桜は、彼女を元気付けるためにある提案をする。その提案とはコレだ。
「機導兵器の動力になってる鉱物マテリアルに変わる新エネルギー。または汚染を軽減出来る方法の研究などはどうでしょうかっ? 上手くいけばあのワカメさんも一生頭が上がらなくなりますよ!」
ワカメも一生頭が上がらない。その言葉に目を輝かせたブリジッタは元気を取り戻し、技術者の任を全うすべく壊れた魔導アーマーの修理に取り掛かった。
一目散に茂みに隠れたブリジッタに思わず叫んだ那月 蛍人(ka1083)は、浮かんだ苦笑いをそのままに前方を見る。
敵と味方の距離は僅か。5体の歪虚――自称雷神社は、いそいそとラジカセを足元に置いて戦闘準備を始めている。その様子に秋桜(ka4378)が零す。
「ま、まさかこの世界にも戦隊モノがあったなんて……」
リアルブルーからこの地に飛ばされた自分等ならまだしも、こんな訳の分からない歪虚にまで浸透している事が不思議でならない。そう眉を寄せるのも一瞬、彼女の目が細められた。
「しかし、全員がストライダーの様な能力とは個性がありませんね。これでは打ち切りになってしまいます。せめて、紅一点のピンク位は用意せねば……あとカレーのイエロー?」
「男のピンクやイエローは色んな意味で危険だよ」
思案する秋桜にちゃっかりツッコミを入れるエハウィイ・スゥ(ka0006)。そして2人の視線が黒タイツの下方へ移動し欠けた所で大きな咳払いが響いた。
視線を向ければ、ロニ・カルディス(ka0551)が何処かバツが悪そうに眉を寄せているではないか。彼は女性2人の視線を受けると、もう一度咳払いをして雷神社を見た。
「あー……どうにも、酔狂な輩が出て来たものだな。それに妨害も都合よく来た感がある」
「それなんですけど、ブリジッタさんは恨みを買っていたりするんじゃないでしょうか? 街道を嘔吐物で汚した事が許せなかったり? それなら、ブリジットさんが全面的に悪くなりますけど……お掃除だけで丸く収まったりはしませんよね~」
「いや、ここ街道じゃないし、流石にそれはないと思うよ?」
秋桜の言葉に否定しながら、蛍人はそれでも汚れた地面を草で隠すように動く。その姿に天竜寺 詩(ka0396)も枯れ木で嘔吐物を隠して言う。
「何だか関わり合いになりたく無さそうな雑魔が出て来たけど、ブリちゃんはぜったいに守るからね!」
くるりと振り返って宣言する詩。そんな彼女にブリジッタは感激――は、していなかった。
「確かに色が揃えば臨場感があるのよさ。でもそうなるとあたしが悪ってことになって色々と困る……ん? どうしたのよさ?」
「うぅ、なんでもないよぉ」
ぐすんっと鼻を啜って背を向ける。
そもそもいつぞやの依頼で無事(?)オタクとなったブリジッタにとって、この手のシチュエーションはある意味ご馳走なのだろう。
さっきの恐怖心はどこへやら、今は妄想の真っ只中にその身を投じているらしい。
「意外と余裕があるみたいで安心しました。でも、SFロボ談義の続きは暫しお預けみたいですね」
直接殺意を向けられた事への恐怖心から竦んでいるかと思ったが、やはり普通の子ではないらしい様子に守原 有希弥(ka0562)の口元に笑みが浮かぶ。
「それでは此方も参りましょうか」
「あ、待って!」
ストップを掛けたのはエハウィイだ。彼女は言う。
「てかさ、歪虚が戦隊ヒーローを名乗るとかちゃんちゃらおかしいっての。だからさ、そっちがその気なら乗っかってやろうじゃん」
「えっ、名乗り返すんだ!?」
思わず叫んでハッと口を押える蛍人。彼は雷神社を振り返って「あぁ」と納得した。
(なんか知らないけど待ってる。なんか待ってる)
ハハッと乾いた笑いを零して視線を泳がす。
「まぁその、元気があっていいんじゃないかな」
俺はやらないけど。そう言外に告げて一歩下がった。これにエハウィイが前に出る。
「では一番手! 聖なる光が闇を討つ。正導士、天龍寺詩だよ!」
「同じく、BL大好き怪人エハウィイだーヒーロー共を脳内で掛け算しちゃうぞフハハハー」
「同じく、遍く弥久に我は希望を有らしめる、守原有希弥!」
「3人そろって悪の錬魔院結社三人衆、参上!!」
「「「おぉぉおい!!!」」」
3人の後ろで堂々と付け足したブリジッタに叫んだ所でロニが再び咳払いを打つ。
「……そろそろいいか?」
「そもそもなにが同じくだったんでしょう?」
「細かいことは気にしない、気にしない」
秋桜の声に応える蛍人は呆れと笑いを含ませて囁く。その声を耳にしてか否か、エハウィイは「くそぉ!」と拳を握って前を見た。
そして折角決めたポーズを崩して雷神社を指差す。
「こうなったら、こうじゃ! 尋常なる勝負を望むならば1人ずつ参られーい!!」
こうなればヤケだ。この言葉で1人ずつ乗って来ればしめたもの。けれど現実はそう上手くはいかなかった。
「全員来たな……行くぞ」
ロニは溜息を吐いたあと歩き出すと、気持ちを引き締めるように目を細めて槍を構えた。
●
森の中と言う視界の悪い状況の中、有希弥は周囲を探る様に視線を巡らせた。
「動きは確かに早い。けど消えている訳じゃない以上予測は可能……」
雷神社と名乗った歪虚はそれぞれ飛び出し森の中に身を潜めている。その影響か、他の仲間も有希弥同様に足を止め、周囲を伺っていた。
(戦闘開始と同時に2体が右、3体が左へ行った……速度と方角から移動場所を予測して……)
忙しなく動く瞳が一定の角度で止まる。
「そこか」
駆け出すと同時に、進行方向に向けて石の礫が放たれた。チラリと目を向けると、秋桜が援護にアースバレットを放ったらしい様子が見える。
「援護するのです」
「感謝」
マテリアルを得た加速で一気に接近。秋桜の攻撃で飛び出した敵に向かって一気に刀を振り上げる。そうして敵のタイツを裂くと、有希弥の目は次を捉えた。
「攻撃目標はココだ!」
振り抜いた勢いのまま、もう一歩踏み込む。そして刃を反すと、ペリドが暴いて見せた核目掛けて刃を突き入れた。
パリィィインッ。
核が砕ける音と同時に、タイツだけが地面に崩れ落ちる。それを見止め、次に移ろうとした時、彼の足が止まった。
「ッ、く……!」
腕を掠めた痛みに眉を潜めるも、目だけは存在を捉えていた。
「守原さん、下がってください!」
目に捉えた雷神社を視界に、有希弥は声に従って飛び退くと、1本の矢が敵の肩に突き刺さった。
「よしっ!」
全体状況に注意を払っていた詩は、有希弥の危機を目撃して矢を放った。それが彼の危機を救い、トドメを刺すまでに至った事に安堵の息が漏れる。
「ブリちゃん、後で酔いに効くツボを押してあげるね」
「ほえ?」
「ヒールで乗り物酔いは治せないから」
ごめんね。そう苦笑いを見せた彼女の頭上で何かが光った。
「詩、上なのよ!」
「! 光の加護を――」
振り返った瞬間に迫った雷神社に急いでプロテクションを掛ける。だがこれはブリジッタに掛けたものだ。自身へはまだ掛けていない。
それでも彼女は茂みに飛び込んでブリジッタを抱き込んだ。
「な、なにしてるのよさッ! そこにはあたしのゲ――」
「ブリ助は黙ってな! 私だって傍にいたら同じことする。知り合いを傷付けられて黙っていられる程出来の良い性格してないしね!」
「エハ何とか!!」
「エハウィイだぁーー!!」
くっそ、この場面でその仕打ち! 思わず涙目になりそうだが、折角カッコ良く詩と雷神社の間に入ったのだ。退く訳にはいかない。
エハウィイは盾で雷神社の刀を受け止めると、刃を側面に流すように盾を動かした。
滑る様に盾を抜ける刃。それが彼女の傍を抜けると、流す勢いのまま盾を相手の体に押し付ける。
「詩、やっちゃえ!」
「っ、うん!」
体勢を崩した今がチャンス。
声を上げたエハウィイに頷き、詩が弓を媒体にマテリアルを上昇させる。そうして聖なる玉を出現させると、彼女は矢を射るような体勢でそれを放った。
「おぉ……キレーなのよ……」
向けられる背に浮かんだ金色の片翼。それに目を奪われているブリジッタの延長線上で、敵は上体を崩して倒れ込んだ。
そこに容赦ない攻撃が加わる。
「タコ殴りじゃいッ!」
次々とメイスを顔面に叩き込む。これにより敵の核は消滅。タイツのみとなった存在に安堵の息を吐いたのも束の間、突如雷のような音が響き渡った。
「なに?」
振り返った先には若干焦げた木が。そしてその傍には蛍人の姿もある。
「強烈な光、っ……」
目が眩みそうな雷遁の光に金色に変化した瞳が細められる。けれど相手から目を逸らす事はしなかった。
素早い相手から目を逸らせば必然的に隙を作る事になる。それだけは絶対に避けなければいけない。
「次は、こっちから行くよ!」
雷撃に痺れる腕を叱咤し、剣に光を宿して突っ込む。
(雷みたいな体に剣が通るかは微妙だけど、これなら確実にいけるはず)
「必殺――……体当たりッ!」
剣はどこへ? 思わずツッコミが来そうだが、蛍人は迷うことなく盾ごと突っ込んだ。
これに敵は反応するなく倒れ込む。と言うか、体当たり自体が予想出来ていなくて反応できなかったのだろう。
「さあ、今の内に!」
敵に圧し掛かったまま振り返った蛍人に、ロニが「あ、あぁ」と頷く。
そんな彼の目の前には既に討伐を終えた歪虚の抜け殻――黒タイツがあるのだが、そこはまあ、置いておこう。
「少し腰を据えたらどうだ……そう思っていたが、まさか本当に腰を据えるとはな」
苦笑を滲ませて一気に槍を核目掛けて突き下ろす。こうして残り1体になったのだが、ここにきて全員の動きが止まった。
「木々を上手く使って隠れているのか?」
「すみません、見失いました」
敵の推定位置を考え続けていた有希弥だったが、流石に5体全ての歪虚の動きを覚えるのは至難の技だったようだ。
「どうする? 行っちゃう?」
「それもある意味ありですけど……そう言うときに限って襲って来るんですよねぇ」
エハウィイに答えた秋桜に、確かにと蛍人が頷く。そして皆が警戒を続ける中、ブリジッタは詩から酔いに効くツボを伝授してもらっていた。
「掌中央のココと、手首のココを反対の手の親指で何度か押して……」
「こうなのよ?」
嘔吐物を厭わず助けようとしてくれた詩に多少心を開いたのだろう。素直にツボを押すブリジッタに戦闘不可状態だったペリドの口元にも笑みが浮かぶ。
「まあ、警戒しながら移動すれば……ってぇ、来たぁぁあああ!」
最後まで気を抜いていなかったのは皆も同じ。けれどそれ以上に周囲に注意を配っていたエハウィイが敵の姿を発見した。
「正面から来るとは潔い」
槍を振り落すと同時にロニが放った黒い塊が、敵の上腕部を吹き飛ばす。それでも動きを止めずに突っ込んで来た敵は、瞬発的に脚力を強化して全員の間合いに飛び込んで来た。
「止まれ!」
ロニは盾を突き刺すように動かすと、敵の胴を払う様に掬い上げた。そこへ有希弥が透かさず追撃の一打を放つ。
「これで終結!」
碧眼に変化した有希弥の瞳が、自身の刀が核を貫くのを捉える。そうして敵が消え去ると、彼等はようやく肩の力を抜いた。
「ふぅ、これで一段落だね。ブリ助、おぶってあげるから急いでここを離れよ」
言って、エハウィイが背を向けた時、何処からともなく歌が響いてきた。
「ライジィン~イズ~ナンバ~ワァン~♪」
木々の間から響く声の主は伺えない。だが、歪虚が討伐された後に聞こえた声だ。警戒するに越したことはないだろう。
ロニはブリジッタの傍に控えたまま周囲に目を凝らし――発見した。
「あそこだ」
そうロニが指差したのは太い木の枝の上。そこにいたのはフルメットのようなものを被った男だ。
男は自身を見付けたハンターに気付くと、「ブラボォ~♪」と拍手を送ってヤンキー座りから立ち上がった。
「どうやら、熱烈なファンが付いているようだな」
「そうだね。ブリ助達をピンポイントで狙ってきたって事は計画的に事を進めてるって事だろうし」
チラリと視線を向け、ロニとエハウィイが警戒を見せて武器を構える。それに習って他の面々も武器を構えると、ブリジッタは納得いかなさ気に眉を寄せた。
「何であたしなのよさ……技術者を狙うなら断然ワカメだろ。ワカメ美味いぞ?」
言われてみれば魔導アーマーや物資は各方面から送られているので、わざわざブリジッタを狙う必要もない。
もし運んでいるのがオリジナルの魔導アーマーならわからないが、今回は違うのだ。
「やっぱり嘔吐物が原因なのではないでしょうかぁ?」
そう、秋桜が首を傾げた時、男から再び鼻歌が響き始めた。これに蛍人が呟く。
「なるほど、親玉からしてこういうノリか」
改めて敵の姿を確認する。
フルメットにばかり目がいきがちだが、服装も良く見れば奇抜だ。
羽織袴に下駄。背には身の丈以上の刀を背負っていて、普通じゃない様子だという事だけはヒシヒシと伝わってくる。
「でも、部下をぶつけてから出てくるなんて随分用心深いんだな」
「ノンノンノ~ン、プルーデンッツ♪」
「ぷ、ぷる?」
「用心深くはないデース。ユーたちはミーの相手には役者が不足してマース。つまりユーたちはウィーク。弱い」
言うや否や、飛び上がった男に全員が身構える。だが――
「消えた!?」
先程の歪虚とは訳が違う。一瞬にして見失った姿に焦りが浮かぶ。そして辺りを見回そうとした所で衝撃が襲った。
「――ッ、ぅ」
何が起きたのか。
唯一わかっているのは、全員が衝撃に吹き飛ばされたという事だ。
「ブリ、助……ゲロインの座は……渡さな、ぃ」
「意外とヨユーデス、ね?」
若干規制が必要な視覚の中、ブリジッタの腕を掴んだエハウィイが「うっせぇ」と視線を飛ばす。
とは言え、彼女を含めた皆が地面に突っ伏したまま動けない状態だ。その理由は全身を覆う痺れなのだが、その原因はすぐに明らかになった。
「スモール必殺技ライジング~なんちゃら~ん♪」
ジャジャーン☆ と自分で効果音を付けて男が背にある刀を抜刀する。直後、刃から電流が飛び出し、延長線上にあった木々を薙ぎ倒して魔導アーマーに直撃した。
当然魔導トラックも横転。魔導アーマーに到っては黒い煙を放ってひっくり返る始末。男は呆然とするハンターを振り返ると、おちょくるように腰をくねらせた。
「ン~ン~ン~、ユーたち雑魚いデースネー?」
「はあああ????」
確かに手も足も出なかったが改めて言われると腹が立つ。思わず言い返そうとするが、そうするよりも早く、男は「バイナラ~ン♪」と声を残して姿を消した。
後に残ったのは敵によって見せつけられた力の差、壊れた魔導アーマーの姿だった。
●後日
魔導アーマーを壊されて凹むブリジッタの元を訪れた秋桜は、彼女を元気付けるためにある提案をする。その提案とはコレだ。
「機導兵器の動力になってる鉱物マテリアルに変わる新エネルギー。または汚染を軽減出来る方法の研究などはどうでしょうかっ? 上手くいけばあのワカメさんも一生頭が上がらなくなりますよ!」
ワカメも一生頭が上がらない。その言葉に目を輝かせたブリジッタは元気を取り戻し、技術者の任を全うすべく壊れた魔導アーマーの修理に取り掛かった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 4人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/13 23:19:55 |
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残念な彼女を守るためには ロニ・カルディス(ka0551) ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/04/16 21:02:53 |