森の遺跡に羽ばたく不穏

マスター:紡花雪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/16 22:00
完成日
2015/04/24 03:33

みんなの思い出

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オープニング

●怪しげな老人
 夜を突くような雨風に、雷電が轟く。
 闇色の空が白く弾け、山でも割れたかのような音が響いた。
 翌朝、雨が上がって木こりたちが森に入ると、森の奥へと続く唯一の細い道が倒木により完全に塞がれていた。昨夜の落雷が原因である。まだ辺りには、樹木の焦げた匂いが残っていた。
「……おい、どうする?」
「どう、って……今この奥には、あの遺跡しかないだろ。……まったく、迷惑なもんだ」
 あの遺跡――木こりの男が、苛立った様子で言ったのには理由がある。木こりたちの住まう村では、この森の奥にある小さな遺跡を大切にしてきた。来歴は定かではなく、これまで調査の対象にもなったことのないが、村にとっては信仰の対象となるような大事な遺跡である。
 だが、数年前より、この遺跡に無断で住み着いた者がいるのだ。
「あの爺さんのせいで、遺跡に供え物もできやしねェ」
 遺跡の隣に小さな小屋を建て、そのまま居着いてしまったのは、一人の老人であった。その老人は土地の者ではなく流れ者で、家族や友人がいる様子ではなく、村の者ともまったく関わらない変わり者だ。低めの背丈に少し曲がった腰、そして大きな鷲鼻とぎょろりと飛び出した大きな目という容姿が、その怪しさに拍車をかけている。
「そういやァ、あの爺さん、何日か前に出かけてったきり戻ってねェのか」
「あァ、また動物の死骸やら骨やら、調達しに行ってるんだろう。魔法の研究だか何だか知らないが、下手に関わるとこっちが呪われそうだ」
 村のある者は、老人の家に怪しげな魔法の本が並んでいるのを見たとか、軒先に吊るされた動物の死骸を見たとか、庭に勝手に入って遊んでいた子供が斧で追い回されたとか、様々な噂が流れている。いつしか村人たちは、その怪しい老人に関わることを恐れて近づかないようになり、結果として不法な居住であるはずの老人のことを領主に告発する者はいなかった。
「まァ、俺たちが除けてやることもないさ。また、家に勝手に近付いたって仕返しされるぞ」
「そ、そうだよな……」
 なるべくならば関わりなくない。放っておけばいい。木こりたちはそう思った。だが状況が変化したのは、倒木から一ヶ月が経った頃である。


●ざわつく森
 森が騒がしい。
 そのことに気が付いたのは、先日の木こりの男二人である。
 依然として、森の奥へ続く道の倒木はそのまま、例の奇妙な老人も出かけたきり戻っていない様子だった。だが、その倒木の向こう、生い茂った樹木の奥で何かが起こっていた。
 がさがさ、ばさばさ、と鳥が羽ばたいて木々を揺らすような音が続けざまに響いている。
「な、何だ……? 怪我した鳥でもいるのか?」
「いや、一羽二羽の話じゃない。そんなにたくさん、鳥がいたか?」
 木こりたちは顔を見合わせて、首を傾げた。彼らはこの森のことを良く知っているが、ここまで騒がしいことは今までなかった。だが、例の奇妙な老人が家畜を残したままだった可能性もある。それは、この倒木に閉ざされた遺跡にある棲家へ行ってみなければわからない。
 木こりたちは意を決して、倒木の解体作業に取り掛かった。
 この奥は、老人が住み着いて以来、木こりたちも近付くことが許されなかった。そのせいか樹木の手入れも行き届いておらず、伸び放題、茂り放題で視界は深い緑に閉ざされている。まだ昼過ぎだというのに、時間や方向の感覚が奪われてしまいそうだ。
 がさがさ、ばさばさ、とそこかしこで音がしている。草木を鎌で切り倒しながら進んでいると、一人が足元に落ちているものに気が付いた。
「ん……? これは……紙か?」
 木こりが手にしたのは、破れた紙片。文字がびっしりと刷られた、古いものだ。暗い中、森を見渡してみると、枝葉のいろいろなところに同じような紙片が引っかかっている。
 老人の棲家が眼前に迫るが、鳥や家畜の姿はない。木こりたちは注意深く、老人の家を観察した。窓が開け放たれている。それに気付いた瞬間のこと――

 がさがさがさ、ばさばさばさ――!

 森の木々が騒々しく葉を揺らしたかと思うと、その緑の闇の奥から何かが飛び出してきて木こりたちを襲った。
「鳥か……ッ」
 燕のような大きさから、鷲のような大きさまで、様々なものが不穏に羽ばたいて空を切る。
「違うぞッ、これは鳥じゃないッ……バケモノだ!」
 いきなり襲いかかられ、木こりたちはその正体を確認する間もなくその場から逃げ出した。
 どうにか村へ戻った木こりたちは、鳥に突かれたのとはまったく違う、すっぱりと鋭く浅く切れた傷を全身に負っていた。
 ――ああ、こういう時こそ、遺跡で祈りを捧げたいというのに。
 村人たちは、かつての慣習が行えなくなっていることを改めて実感し、歯噛みした。
 依然、襲ってきたものの正体はわからないが、斧や鎌だけで特別な力を持たない村人たちだけでは対処が難しい。それに、いつ森を越えて村を襲ってくるかわからない。
 これは、ハンターに退治を請うしかないだろう――。

リプレイ本文

●森に潜む
 深緑の闇が、ぱっくりと口を開けていた。
 まるで、森の入口に立つ者を呑み込んでしまいそうだ。
 決して湿った雰囲気を持っているわけではないが、材木として切り出されるために立派に育った樹木が立ち並んでいることもあり、圧迫感は大きい。
 森に入る前に、ハンターたちは森の内部や例の老人の小屋について村人に確認しておくことにした。
「この森と、遺跡周辺の地図はあるのか? あれば、貰えるとありがたい」
 しっかりと武装を固めた筋肉質の男性、龍崎・カズマ(ka0178)が、村長に声を掛けた。すると村長は、古い手書きの地図を懐から取り出した。そこには、簡略化された森の内部の様子が描かれており、ほぼまっすぐに走る道が段々と細くなり、バツ印が記されている先に遺跡の絵が配置されている。
「このバツ印は……倒木があった位置なのかな?」
 長身にして痩身、草食系の雰囲気を持った男性、ネイハム・乾風(ka2961)がゆがけを嵌めた指先を地図に乗せる。すぐさま村長は、その通りだと答えた。倒木は木こりによって解体されているが、村人にとっては、このバツ印より奥は近寄りがたい領域なのだろう。
「その老人と、一ヶ月前の雷、何か関係がありそうだけど……」
 そう呟いたのは、小柄なエルフの男性、ミューレ(ka4567)である。それに対して村長は、老人が何らかの方法で落雷を察知して家を出て行った可能性はあるが、直接的に彼が関与しているかどうかは、現地に行ってみないとわからない、と答えた。
 そしてハンターたちが、謎の敵の襲撃を受けた木こりの話を聞きたいと村長に頼んだところ、まだ少し包帯を巻いた姿の木こりの男二人がやってきた。彼らの回復は良好で、鋭い傷口は負傷時には痛んだが治りも早く、今では、逃げる際に枝に引っ掛けたり岩にぶつけたりした傷のほうが残っているようだ。
「『謎の敵』が飛んできた具体的な方向は覚えているか?」
 質問を投げかけたのは、水晶レンズの飾り気のない黒縁眼鏡をかけた細身の男性、久延毘 大二郎(ka1771)である。だが、当時の木こりたちは混乱状態にあったらしく、主に遺跡と小屋の方角から襲ってきたと思うとだけ答えた。
 また、小屋の窓以外に気付いたことがあったかどうか、最後に見た老人の様子で気になることはなかったか、などを質問をした。老人の家の様子については、そもそもあまり近寄ったことがなく変化はわからないが、動物の死骸や骨は見えるところにはなかったらしい。最後に見かけた老人の様子はというと、ただの物資調達にしては大荷物だったようにも思える、とのことだ。
「悪いんだけど、水筒か何か、借りられない? 水を持って行きたいんだ」
 森の遺跡と老人の小屋、そして敵の情報が多く出揃ったところで、迷彩服にジーンズというとても行動的な恰好の女性が声を掛けた。ショウコ=ヒナタ(ka4653)である。彼女が所望している水は、飲み水というよりは、攻撃に使うためのものだ。村長が付き人に声を掛けると、水が汲まれた木の水筒が彼女に手渡された。
 そして、五人のハンターたちが熱意をこめて話し合いをしている後ろで、全身鎧「ソリッドハート」に身を包んだ男が地面に座り込んでいた。ヒースクリフ(ka1686)である。しかも、尻の下にはしっかりと自前のハンカチが敷かれている。やる気があるのかないのか、全身鎧では表情もわからないが、それが彼の平常時の振る舞いのようだ。
 それから武器の調整や諸々の準備を終え、ハンターたちは、彼らを待つ深緑の闇に向き合ったのである。

●揺れる森の不穏
 森の中は、風が枝葉を揺らす音と、遠くに聴こえる小鳥の声が静かに響いていた。
 村に近いあたりは樹木の生育が管理されているせいか、見通しの悪さはなく、木漏れ日も暖かく感じられた。だが地図と照らし合わせながら進むうちに、森の緑が深みを増し、例のバツ印が記されていた場所を境に、落雷により黒炭化した木片が落ちていたり、樹木が乱立していたりする様子が見られるようになった。いつ間にか天は鬱蒼とした枝葉に閉ざされ、陽光が漏れる隙もない。
 視界と歩行の不自由さを感じたショウコは、荷物から取り出したランタンに灯りを点し、最低限動けるように刀で草木を刈り取っている。ハンターたちは、ショウコとミューレが隊列の先頭を、その後ろにヒースクリフとカズマ、そして最後尾を大二郎とネイハムが守って歩いていた。木こりたちが証言していたように、枝葉に引っかかった紙片が確認できるようになり、そのひとつをカズマが手に取った。古い紙片には水に滲んだ文字が並んでおり、解読は難しいが、この紙片単体が何らかの意思を持って攻撃を仕掛けてくる、ということはなさそうである。
「小屋だ」
 紙片に意識を写していた仲間たちの後ろから、大二郎が前方を指し示した。生い茂った木の向こう側に開けた場所があり、古板造りの小屋がうっすらと姿を現した。
「さぁて、何が出ることやら、っと」
 早速、と小屋へ近付いていくのは、カズマだ。また大二郎も、興味津々に小屋へと足を向ける。ショウコはオートマチックピストルで遠射の構えを見せ、ミューレも周囲への注意を強めていた。そしてネイハムは、あえて小屋とは距離を置いて、いざというときに援護射撃ができる態勢を整え、ヒースクリフは小屋に興味がなさそうな振りをしてはいるが、しっかりと敵の襲撃を迎え撃とうとしている。
 そのとき、森が渦巻くように、ざざざざぁ、と音を立て始めた。ハンターが戦闘への昂まりに身を投じた瞬間、鳥の羽ばたきのような――それよりは少し重たい音が、ハンターたちを取り巻いて空気を切り裂いた。
「あれは、本……!」
「フム……やはりな」
 敵との遭遇に声を上げたのは、依頼を受けた当初より敵の正体が書物ではないかと推測していたミューレと大二郎である。
 敵は、背表紙を中心に、表紙とページ部分をばさばさと羽ばたかせる複数の書物――大判辞典一冊、中型書籍二冊、文庫版書籍六冊――で、一番素早く飛び回る文庫版書籍六冊が、二手に分かれて、ミューレと大二郎を襲った。古いはずの書籍だが、そのページの紙は研ぎ澄まされた薄い刃物のようで、ミューレは回避に跳び退ったあとの足にその斬りつけを受け、大二郎は腕に飛びかかってきたものをマギステルグローブで辛うじて防ぎ、白い小太刀の霊刀「小狐丸」を振るって距離を取った。
 そして中型書籍のうち一冊が、カズマに狙いを定めて、その胴を切り裂こうと飛び込んでくる。ぴしり、と空気を鳴らしたが、しっかりと武装を固めたカズマの胴には傷ひとつ付けることはできない。わずかに、すれ違った衝撃を感じたのみだ。
 中型書籍のもう一冊は、ハンターたちの頭上を覆う枝葉の中から現れ、ネイハムの頭部を掠めた。
「……ッ」
 ネイハムは、左耳にわずかな痛みを感じた。敵が頭部を掠めたその一瞬で、浅く鋭い切り傷が刻まれていたのだ。
 最後に、びゅん、と重みのある音で、大判辞典が滑空し、そのままの勢いでショウコの脇腹に突っ込んでいく。ショウコは慌てず回避姿勢をとったが、シャツを纏っただけの胴部に、大判辞典の重量はそれなりの衝撃を伴ってすれ違った。

●反撃は弱点を撃て
 がさがさ、ばさばさ、と激しく音がぶつかり、そこかしこに千切れた紙片がひらひらと舞っている。
 中型書籍の一冊と対峙するカズマは、その動きを上回ろうと脚にマテリアルを集中し、草地を蹴った。そして中型書籍とすれ違いざまに、ガントレット「ブルローネ」の掌を叩きつけた。固い装幀が一瞬閉じ、がくん、とその軌道が揺れる。
 後方のネイハムは、文庫版書籍二冊に挟み込まれていた。だが彼の視界は戦場を広く捉えており、自分だけでなく仲間たちも同様に襲われているのが見えた。仲間の援護のために威嚇射撃を考えたが、飛ぶ速度の速い文庫本は小屋に背を向けて村のほうへ向かっているように見えた。マテリアルを視覚と感覚に集中させ、文庫本の一冊に狙いを定める。重厚な雰囲気のライフル「メルヴイルM38」を構え、飛ぶ速度の緩んだ一瞬を狙って引鉄をひく。弾丸は文庫本のページに命中し、紙片を引き千切って辺りに舞わせた。がくん、と文庫本は推進力を失ったように見えたが、ぐん、と向かう方向を変えて飛び立つ。
 そのとき、ハンターたちの中央で、ヒースクリフが形態を剣に稼働させたアックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」を凛々しく構えていた。
「私からの手向けだ。受け取れ」
 彼が立ち向かうのは、重みを持って空中を旋回する大判辞典である。剣に自身のマテリアルを流し込み、攻勢を強めて斬りかかった。剣は大判辞典の背表紙を打って、その重厚な書籍は木の幹に叩きつけられたが、一瞬動きを止めたのちにまた飛び立った。
 仲間たちの後方にいる大二郎は、ウィンドガストを発動させて前衛の二人に付与する。緑の輝く風がミューレとショウコを取り巻き、彼らの回避力を高めた。
 そのミューレとショウコは、文庫版書籍四冊を同時に相手取っている。ミューレがワンドを振るって飛び交う書籍の攻勢を崩す間に、ショウコは、取り出した水筒の栓を抜き放って書籍に向かって水を振り撒いた。その間にミューレは、魔法で操った土砂を体に纏わせ、ショウコを庇うように立つ。そしてその陰を利用するように、ショウコはミューレの後ろから日本刀で斬り払った。ショウコの日本刀は、くったりとしてふらふらと飛ぶ文庫版書籍のうち二冊のページを数枚ずつ切り落としていた。
 ページをひらひらと落としながらショウコの日本刀を潜り抜けた文庫版書籍四冊は、木の枝にぶつかりながら飛んで残りの文庫版書籍二冊と合流し、大判辞典を退けたヒースクリフの腹を狙って一気に滑空する。だが、ヒースクリフは剣を軽く振るい、ひらりと避けて去なした。
 そしてミューレとショウコには、中型書籍二冊が迫っていた。中型書籍は、交互に入れ替わりながら二人に向かってきた。だが、ミューレがワンドを、ショウコが日本刀を振るって牽制し、その襲撃を退ける。
 そのときネイハムは、大判辞典の攻撃を受けていた。先ほどの文庫版書籍よりは速度の遅い大判辞典ならば、捕獲できるかもしれない。大判辞典を掴めないかと、ネイハムは手を伸ばす。装幀部分に手が触れたが、頑丈な作りらしくすぐに振りほどかれてしまった。
 ハンターたちの猛攻を受け、飛び回る書籍の勢いも衰え始めていた。
 敵に生まれた隙を、カズマは見逃さなかった。銃身が赤い金属で出来ている魔導拳銃「イグナイテッド」を構え、照準を合わせて撃ち放つ。火の精霊の力をまとった高音の弾丸は、文庫版書籍二冊を灼き貫いた。敵は力を失い、ページを焦がしながら、ぼとり、と地に落ちた。
 それに続くように、ネイハムは中型書籍の一冊に、「メルヴイルM38」の照準を合わせていた。その一冊は、前方のミューレとショウコを背後から狙っているようだった。狙いを定め、マテリアルを集中させる。そして放たれた弾丸は、ばしゅ、と表紙を貫き、中型書籍は中身のページを吐き出しながら墜落した。
 ヒースクリフは、実にゆったりと構えている。普段はやる気に欠けているように見られがちな彼だが、戦闘においては冷静でありながらも積極性を見せる。彼の目には、大二郎に向かって飛び込んでいく文庫版書籍四冊が映っていた。相手の隙を突く攻撃ならば得意である。ヒースクリフはアックスブレードにマテリアルの流れを感じながら、飛ぶ文庫本に向かって剣を振るった。すると、ざしゅっ、と小気味いい音をさせて、文庫本のうち二冊が真っ二つになって地面に落ちた。
 残った文庫本二冊は方向を変え、大二郎から遠ざかっていく。森に隠れるかと思ったが、旋回して前衛のミューレとショウコを狙っているように見えた。大二郎は黄金色のワンド「ゴールデン・バウ」を掲げ、鋭い風を撃ち出す。魔法の風は文庫本二冊を切り裂き、瞬く間に小さな紙片に変えた。
 残る敵は、大判辞典と中型書籍一冊。どちらも、小屋の上を飛びながら、ハンターたちに攻撃を仕掛けようとしていた。それらに意識があるのか定かではないが、敵意は間違いなくハンターたちに向けられている。
 ショウコが、より素早い中型書籍を仕留めようと間合いを詰めている間に、ミューレは邪魔な大判辞典に向かって、エネルギーを結集した光の矢を放った。光の矢は、ざっくりと大判書籍を貫き、その衝撃とともに地面に墜落して動きを止めた。
 素早い中型書籍への攻撃を見計らっていたショウコは、一度、日本刀を鞘に収め、ひゅん、と中型書籍が勢いをつけて滑空してきた瞬間に合わせて抜き放った。がっ、と激しくぶつかり、続く二の太刀で、ショウコは中型書籍を叩き斬った。

●小屋と遺跡には
「遺跡に興味はない」
 そう言い残し、ヒースクリフは早々に帰路についてしまった。
 その場に残ったハンターたちは、それぞれに老人の小屋の検分や遺跡の見学を始めていた。
 老人の小屋は、まさにがらんどう、生活用品はほとんど残されておらず、薬品棚には壊れた器具が少し、書棚にも何も並んでいない。やはり、ここに並んでいたと思われる魔導書が、先ほどハンターたちが討伐した敵だったのだろう。老人は落雷の前にすでに転居しており、荷物になるからと置いていかれた書籍が何らかの変異があったのだろうか。
「老人には反省してもらいたいよね」
 ミューレが言った。老人の自分勝手な振る舞いの結果として、村人から遺跡が取り上げられ、あまつさえ今回の事件を引き起こしてしまったのだ。
 一足先に村に戻ったヒースクリフが声を掛けたのか、遺跡の手入れのために村人が集まり始めていた。
 カズマは依然、小屋を調べており、動物の骨を庭から掘り出していた。こうした呪物的なものも、今回に事態に影響してしまったのかもしれない。
 そして、ハンターと考古学者を兼業している大二郎は、遺跡などの取り扱いに慣れている。特に興味津々な様子で、周囲を調べていた。こうした調査には特に乗り気な様子である。
「地下とかあれば面白いけど……」
 遺跡周辺の掃除に参加していたネイハムが、ふと呟いた。彼は、攻撃力を持った書籍が何を守っていたのか、それが気になるようだ。
 ショウコは、掃除された祭壇に祈る村人たちを横目に見ながら、遺跡の見学をしている。
 村人たちは、久方ぶりに取り戻された遺跡を前に、感涙を見せていた。きっとこの遺跡は、信仰としての精神の支えというだけでなく、身近な遊び場であった子供時代、恋人と誓い合った大切な瞬間、そうした思い出とともに時を刻んできたのだろう。
 ハンターたちは、村人の大切な人生の欠片を取り戻した。きっと、そういうことなのだ――。

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MVP一覧

  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎ka1771
  • 共に紡ぐ人を包む風
    ミューレka4567

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 絆の雷撃
    ヒースクリフ(ka1686
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師
  • 白狼鬼
    ネイハム・乾風(ka2961
    人間(紅)|28才|男性|猟撃士
  • 共に紡ぐ人を包む風
    ミューレ(ka4567
    エルフ|50才|男性|魔術師

  • ショウコ=ヒナタ(ka4653
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/13 20:14:00
アイコン 正体不明を討つ
龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/04/16 20:53:21