ゲスト
(ka0000)
【不動】無くしてはいけないものだから
マスター:稲田和夫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/15 07:30
- 完成日
- 2015/04/27 01:15
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「『前略 愛しいハインリッヒ。遠い辺境の地で、あなたはご無事なのでしょうか。貴方のいない夜は余りに長く、貴方の事を想うと不安で、食事も喉を通りません。ああ、早く帰って来て私の愛しい人……』なーんて事が書いてあるのかナ~?」
ゾンネンシュトラール帝国第五師団ヒンメルリッターの一人、小鷲は自身の駆るグリフォンの背で一人けらけらと笑い転げた。
いや、本当に転がったら危ない。
彼は今グリフォンに乗って、辺境の要塞ノアーラ・クンタウへ向かって飛んでいるのだから。
「もっとゆっくり飛んでいいヨ、イェンロン。重いデショ~」
小鷲のグリフォンが吊り下げているのはコンテナであった。
中身の重さを含めてギリギリグリフォンが運んで飛べるような重さに計算されたそれは、軽量ながらも堅固な素材で作られている。
「家族や恋人……良いよネ。確か、第五師団の家族宛のも何通かある筈だヨ」
小鷲の口調は、単にリアルブルーに家族や知人が残っているから、というのとも違うニュアンスを含んでいた。
それはさておき、彼がわざわざ空輸しているコンテナの中身は郵便物。
現在の「最前線」である辺境で戦う兵士やハンターたちへの、家族や知人から手紙である。
機導術が発達したクリムゾンウェストにも様々な通信手段が存在しているが、コストや設備と速さを天秤にかけた場合、これは有効な手段であった。
まして、現在の帝国は他国の戦争である聖地奪還に数多くの兵士を送り出している。
当然、実際最前線で命を危険に晒す兵士たちの家族や知人の心情は察するに余りある。そういった状況で、帝国の誇るグリフォンライダーに郵便屋をやらせるというのは、帝国は兵士の福利厚生を決してないがしろにしない、という良い宣伝にもなるのだ。
「ロマンのあるんだかないんだか解らない話だヨ~……」
欠伸をする小鷲だったが、直後いきなり表情を変えて叫んだ。
「イェンロン、上!」
グリフォンが鋭く鳴いて、身体を傾けた瞬間、その真横を頭上から放たれたガトリングの砲火が掠めた。
攻撃して来た敵を見定めようとした小鷲は驚愕した、彼の頭上を巨大な黒い影が複数飛んでいるのだ。
「……量産型リンドヴルム?!」
●
「外したようであるな……むぐむぐ」
その、高空を征く屍機竜の背にて、フードを目深に被った男が呟いた。
「フフ~ン♪ キルゼムオールすればノォプロブレム~♪」
別の竜の背に乗った、何かのヘルメットを被った男が鼻歌交じりに呟く。
「けどさー、なーんかデッカイの大切そーに運んでんよね。 ジュウヨウキミツ、みたいな? ヤっちゃわね? きゃははは」
真紅のドレスを纏った女が竜の背で笑う。とはいえ彼女も人の事は言えない。何故なら、彼女の乗る竜は巨大な鉄塊……アイアンメイデンを一緒に運ばされているのだから。
「いや、護衛もついていない以上、恐らく只の軍需物資だ。それも大した量ではあるまい」
青白い顔に陰気な表情を浮かべた男はそう首を振ると、ひゅんっと手にした鞭を振るう。
直後、編隊の一番下を飛んでいたリンドヴルムが編隊を離脱し眼下のグリフォンへと向かっていく。それを見てヘルメットの男も立ち上がった。
「急なビズィネスを思い出しマシタ~。グッバーイ、ミスター♪」
「あれ、飛び降りちゃった。きゃはははっ、キョーチョーセーとかなしかよ、マジウケるー。……つーか、シカトするようなことゆっといて、やっぱヤッちゃうワケ?」
「作戦行動中だ。目撃者は消した方が良い。……それに」
相手はグリフォンライダーだからな、と男は聞こえないように付け足した。
「我らにもお互い事情がある、ということである」
フードの男はそう言うと、齧り終えた林檎の芯を無造作に放るのであった。
●
林檎の芯は、全くの偶然ながら降り注ぐ銃弾を必死に交わす小鷲のぶつかった。
「……」
小鷲の唇がひくっと引きつる。
「今、四人くらいからコケにされたような気がして来たヨ……?」
確認のために頭上を見上げれば、編隊は遥か彼方に飛び去ってしまっていた。
「撃墜も確認しないでいっちゃうんだ……? ふーん……解ったヨ」
突如、自分の背中に発生した強烈な殺気にグリフォンは不安げな鳴き声を上げた。
直後、ロープが切断され、コンテナは遥か眼下にひろがる森へと落下していった。
「運んだままじゃ逃げ切ることも出来ないヨ。でも、後で必ず……」
みるみる小さくなっていくコンテナを眺める小鷲であったが、次の瞬間冷たい目で叫んだ。
「黒鳳凰公司の凶鸞を舐めやがって! 九族まで八裂きにしてやる! 殺(シャー)!」
●
「遅いな……」
ノアーラ・クンタウに臨時に設けられた仮設陣地にて、師団長のロルフ以下、今回の遠征に参加していた第五師団のメンバーは、心配そうに顔を寄せ合っていた。
既に、予定の時刻はとっくに過ぎていた。
「師団長、誰かを捜索に出すべきでは?」
堪り兼ねたように団員の一人が言い出す。
「随分とお困りのようですわね?」
と、そこに第十師団長ゼナイドが割って入る。
「わたくしの第十師団から兵士をお貸しても良くてよ? 地上からも捜索した方が効率は良いでしょう」
「ゼナイドさん。お気持ちは嬉しいですが、今回彼が運んでいたのは軍の書類ではなく、民間人からの手紙です。そこまで師団の兵力を割くわけには……」
ロルフがそう応じた時、ずっと空を眺めていた兵士の一人が叫んだ。
「戻って来ました!」
「グリフォンだけ……? しかも、この傷……」
ロルフは考え込んだ。戻って来たのは乗り手を載せておらず、更に手紙を収めたコンテナも持っていないグリフォンだけであった。
ふと、ロルフはグリフォンの鞍に紙片が挟まれていることに気付く。
「これは……彼の字か」
血で書かれた読みにくい字を見ていたロルフの表情が険しくなる。
「リンドヴルム型……!」
それを聞いていたシュタークが口を挟んだ。
「新手か? ……あたしたちがここを動くより、ハンターに頼んだ方が良いかもな」
●
暗い森の中、断末魔の悲鳴が上がった。
リンドヴルムは、翼は勿論、全身をバラバラにされ胴体だけで蠢いていた。
その頭に無造作に戟を振り下ろして止めを刺した小鷲は、ようやく気が済んだのか大きく息を吐いた。
「もう死にやがった……つまんない……」
量産型リンドヴルムは、用途に応じて強化の度合いが異なるようで、今回のものは、輸送に特化した戦闘能力の低い個体だったようだ。
また、小鷲がリアルブルー時代の経緯からか、年齢不相応に戦闘慣れしていたことも、彼が勝利できた要因だろう。
「……なんて、こんな事やってる場合じゃないヨ!? 早く手紙を探さないとだヨ~!」
慌てて駆けだした小鷲は、近づくハンターたちに気付かなかった。
ゾンネンシュトラール帝国第五師団ヒンメルリッターの一人、小鷲は自身の駆るグリフォンの背で一人けらけらと笑い転げた。
いや、本当に転がったら危ない。
彼は今グリフォンに乗って、辺境の要塞ノアーラ・クンタウへ向かって飛んでいるのだから。
「もっとゆっくり飛んでいいヨ、イェンロン。重いデショ~」
小鷲のグリフォンが吊り下げているのはコンテナであった。
中身の重さを含めてギリギリグリフォンが運んで飛べるような重さに計算されたそれは、軽量ながらも堅固な素材で作られている。
「家族や恋人……良いよネ。確か、第五師団の家族宛のも何通かある筈だヨ」
小鷲の口調は、単にリアルブルーに家族や知人が残っているから、というのとも違うニュアンスを含んでいた。
それはさておき、彼がわざわざ空輸しているコンテナの中身は郵便物。
現在の「最前線」である辺境で戦う兵士やハンターたちへの、家族や知人から手紙である。
機導術が発達したクリムゾンウェストにも様々な通信手段が存在しているが、コストや設備と速さを天秤にかけた場合、これは有効な手段であった。
まして、現在の帝国は他国の戦争である聖地奪還に数多くの兵士を送り出している。
当然、実際最前線で命を危険に晒す兵士たちの家族や知人の心情は察するに余りある。そういった状況で、帝国の誇るグリフォンライダーに郵便屋をやらせるというのは、帝国は兵士の福利厚生を決してないがしろにしない、という良い宣伝にもなるのだ。
「ロマンのあるんだかないんだか解らない話だヨ~……」
欠伸をする小鷲だったが、直後いきなり表情を変えて叫んだ。
「イェンロン、上!」
グリフォンが鋭く鳴いて、身体を傾けた瞬間、その真横を頭上から放たれたガトリングの砲火が掠めた。
攻撃して来た敵を見定めようとした小鷲は驚愕した、彼の頭上を巨大な黒い影が複数飛んでいるのだ。
「……量産型リンドヴルム?!」
●
「外したようであるな……むぐむぐ」
その、高空を征く屍機竜の背にて、フードを目深に被った男が呟いた。
「フフ~ン♪ キルゼムオールすればノォプロブレム~♪」
別の竜の背に乗った、何かのヘルメットを被った男が鼻歌交じりに呟く。
「けどさー、なーんかデッカイの大切そーに運んでんよね。 ジュウヨウキミツ、みたいな? ヤっちゃわね? きゃははは」
真紅のドレスを纏った女が竜の背で笑う。とはいえ彼女も人の事は言えない。何故なら、彼女の乗る竜は巨大な鉄塊……アイアンメイデンを一緒に運ばされているのだから。
「いや、護衛もついていない以上、恐らく只の軍需物資だ。それも大した量ではあるまい」
青白い顔に陰気な表情を浮かべた男はそう首を振ると、ひゅんっと手にした鞭を振るう。
直後、編隊の一番下を飛んでいたリンドヴルムが編隊を離脱し眼下のグリフォンへと向かっていく。それを見てヘルメットの男も立ち上がった。
「急なビズィネスを思い出しマシタ~。グッバーイ、ミスター♪」
「あれ、飛び降りちゃった。きゃはははっ、キョーチョーセーとかなしかよ、マジウケるー。……つーか、シカトするようなことゆっといて、やっぱヤッちゃうワケ?」
「作戦行動中だ。目撃者は消した方が良い。……それに」
相手はグリフォンライダーだからな、と男は聞こえないように付け足した。
「我らにもお互い事情がある、ということである」
フードの男はそう言うと、齧り終えた林檎の芯を無造作に放るのであった。
●
林檎の芯は、全くの偶然ながら降り注ぐ銃弾を必死に交わす小鷲のぶつかった。
「……」
小鷲の唇がひくっと引きつる。
「今、四人くらいからコケにされたような気がして来たヨ……?」
確認のために頭上を見上げれば、編隊は遥か彼方に飛び去ってしまっていた。
「撃墜も確認しないでいっちゃうんだ……? ふーん……解ったヨ」
突如、自分の背中に発生した強烈な殺気にグリフォンは不安げな鳴き声を上げた。
直後、ロープが切断され、コンテナは遥か眼下にひろがる森へと落下していった。
「運んだままじゃ逃げ切ることも出来ないヨ。でも、後で必ず……」
みるみる小さくなっていくコンテナを眺める小鷲であったが、次の瞬間冷たい目で叫んだ。
「黒鳳凰公司の凶鸞を舐めやがって! 九族まで八裂きにしてやる! 殺(シャー)!」
●
「遅いな……」
ノアーラ・クンタウに臨時に設けられた仮設陣地にて、師団長のロルフ以下、今回の遠征に参加していた第五師団のメンバーは、心配そうに顔を寄せ合っていた。
既に、予定の時刻はとっくに過ぎていた。
「師団長、誰かを捜索に出すべきでは?」
堪り兼ねたように団員の一人が言い出す。
「随分とお困りのようですわね?」
と、そこに第十師団長ゼナイドが割って入る。
「わたくしの第十師団から兵士をお貸しても良くてよ? 地上からも捜索した方が効率は良いでしょう」
「ゼナイドさん。お気持ちは嬉しいですが、今回彼が運んでいたのは軍の書類ではなく、民間人からの手紙です。そこまで師団の兵力を割くわけには……」
ロルフがそう応じた時、ずっと空を眺めていた兵士の一人が叫んだ。
「戻って来ました!」
「グリフォンだけ……? しかも、この傷……」
ロルフは考え込んだ。戻って来たのは乗り手を載せておらず、更に手紙を収めたコンテナも持っていないグリフォンだけであった。
ふと、ロルフはグリフォンの鞍に紙片が挟まれていることに気付く。
「これは……彼の字か」
血で書かれた読みにくい字を見ていたロルフの表情が険しくなる。
「リンドヴルム型……!」
それを聞いていたシュタークが口を挟んだ。
「新手か? ……あたしたちがここを動くより、ハンターに頼んだ方が良いかもな」
●
暗い森の中、断末魔の悲鳴が上がった。
リンドヴルムは、翼は勿論、全身をバラバラにされ胴体だけで蠢いていた。
その頭に無造作に戟を振り下ろして止めを刺した小鷲は、ようやく気が済んだのか大きく息を吐いた。
「もう死にやがった……つまんない……」
量産型リンドヴルムは、用途に応じて強化の度合いが異なるようで、今回のものは、輸送に特化した戦闘能力の低い個体だったようだ。
また、小鷲がリアルブルー時代の経緯からか、年齢不相応に戦闘慣れしていたことも、彼が勝利できた要因だろう。
「……なんて、こんな事やってる場合じゃないヨ!? 早く手紙を探さないとだヨ~!」
慌てて駆けだした小鷲は、近づくハンターたちに気付かなかった。
リプレイ本文
「行方不明になっていた小鷲さんでしょうか……背格好も似ているし、間違いは無さそうですね」
夕暮れの迫る森の中、シュネー・シュヴァルツ(ka0352)はそう判断すると、相手に声をかけるべく一歩踏み出した。
だが、その瞬間突然シュネーの背中に冷たいものが走る。それは目の前の少年が放った殺気だった。
咄嗟に戦闘態勢をとるシュネー。
振り向いた小鷲の手には、投擲用の飛刀があった。
「小鷲さん! 良かった、無事だったんだね! イェンロンが傷だらけだったから心配したよ……!」
その緊迫した雰囲気を壊したのは、レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)の嬉しそうな声だった。
「……あれ、お姉さんの顔、どこかで見たような気がするヨ~」
ふっと、いつも通りの表情に戻る小鷲。
「忘れちゃったの? ほら、前にマーフェルスからグリフォンに乗せてもらったよね?」
「思い出したヨ! 確か、聖禽に乗ってた人だよネ」
「怪我、ちょっと見せてもらってもいい? 応急手当くらいなら、ボクでもできるから。向うで他のみんなが、野営の準備をしているんだ」
「これぐらい平気だヨ~、でも、綺麗なお姉さんに手当てしてもらえるのは嬉しいヨ~」
「もう!」
くすくすと、笑い合う二人。
しかし、シュネーは見逃さなかった。
レホスと小鷲がそれぞれ後ろ手に隠した飛刀と拳銃を、お互い、相手に気付かせないようこっそりしまうのを。
●
「レホスさん、彼も転位者だったのですよね?」
小鷲と合流した一行は、森の中の適当な場所で野営し、翌朝からコンテナを探すことにしていた。
手紙自体は大切なものだが、軍事的なものと違い緊急性は高くない。
夜明けを待って探した方が良い、という判断である。
そして、一行は野営中二組ずつ交代で番をすることにしていた。
今起きているのは、レホスとシュネーの組である。
「うん。そう聞いているけど」
「彼は……何者でしょうか? あの殺気……リアルブルーにいた頃から、荒事に慣れていたとしか思えません。だから、レホスさんも銃を……握ったのでしょう?」
シュネーもレホスもかつては軍属であった。
だからこそ、シュネーはレホスに尋ねたのだろう。
「私ね。手紙が一杯溜まっちゃってるんだ。リアルブルーの家族や知り合いへの手紙。いつ出せるか解らないんだけど」
レホスは直接にはシュネーの疑問に答えなかった。
「その話を夕食中に小鷲さんにしたら、何だか凄く寂しそうな顔してた……」
「リアルブルーから……来られた方です。色々な事情が……おありなのでしょう……」
唐突に口を挟んだのは、交代のために起きたメトロノーム・ソングライト(ka1267)であった。
「でも、悪い方では……ないと思います。イェンロンさんが、あんなに心配そうにしていたのですから……」
メトロノームは、出発前に見た小鷲のグリフォンの様子を思い出していた。
――『頼むから、落ち着いてくれ! お前のご主人はそう簡単に死ぬタマじゃない!』
兵士が必死に宥めているにもかかわらず、グリフォンは猛り狂い、今にも飛び上りそうな勢いだった。
メトロノームは可能ならイェンロンも連れて行きたいと頼んだのだが、まだ怪我の具合を詳しく調べていないのと、騎手のいないグリフォンを飛ばすのはリスクが大きい、と申し訳なさそうに第五師団から却下されたのだ。
『あの、大丈夫でしょうか……』
心配そうにするメトロノームに兵士は答える。
『こいつは、昔、気性が荒くてね。小鷲が入隊するまでは、騎乗用になれるかどうか怪しかったんだが、それを小鷲が……おい、余り近づくとあぶないぞ!』
だが、メトロノームは優しくグリフォンを宥めた。
『必ずご主人を連れて帰ります……だから、待っていてください』
メトロノームの思いが通じたのか、イェンロンはようやく大人しくなったのだった。
「そうだね……手紙を書く人が誰もいないのなら……それは凄く悲しいことだと俺も思うな」
メトロノームに続いて起き出してきた鈴木悠司(ka0176)が同意した。
「でも、本当に誰もいないのかな?」
と悠司。
「少なくとも、私は小鷲さんの気持ちもわかります。故郷を失う気持ちが……」
メトロノームが目を伏せながら答える。
「ごめんね! そんなつもりじゃなかたんだけど……」
慌てて謝る悠司。しかし、それでも彼はこう付け加えた。
「だけど、手紙の役目って……それだけじゃ無い筈だよ」
不思議そうに首を傾げる三人に、悠司は笑ってみせるのだった。
●
そして、夜が明けた。
当初、ハンターたちは固まって行動していた。
確かに、これはある意味で正解であった。途中で遭遇した数体のエルトヌスを苦も無く排除出来たのだから。
しかし、肝心のコンテナは、地形図や小鷲が教えた飛行ルートを元に探しても一向に見つからず、ハンターたちは決めてあった通り予定通り二手に分かれていたのだ。
「遠くにいる大切な人に出すだけが手紙じゃない……か。ファンレターとかもそうなのかもな」
鳴神 真吾(ka2626)は、悠司から昨晩の話を聞いてそう呟いた。
「『ふぁんれたー』とはなんでしょうか?」
コーネリア・デュラン(ka0504)が尋ねる。
「どこから説明するかな……俺はリアルブルーで、まあこっちでいう演劇の役者みたいなことをやっていたんだ。その時に、その劇を見た人から『ガイアードの活躍を見て勇気が湧いて来ました』っていうお礼の手紙を受け取ったことがあった」
「私には、リアルブルーの演劇の知識はありませんけど……お気持ちはわかります。私も、自分の音楽を始めて人に褒めてもらった時、凄く嬉しかったことを覚えていますから……」
「そうだよね。俺もバンドやってたから、そういの凄く分かるよ」
悠司も目を輝かせる。
「でも、俺の言いたかったことと……ちょっと違うかな?」
そう言ってまた悪戯っぽく笑う悠司に、今度は真吾とコーネリアが首を傾げるのであった。
●
メトロノーム、レホス、シュネーの三人は灌木の茂みに隠れ、様子を伺っていた。
コンテナは、丁度空き地になった一帯に落下していた。
「やっぱり、コンテナが壊れちゃってるね。手紙がそんな広範囲に散らばったわけじゃないみたいだけど」
レホスの言う通り、回収自体にそれほど困難はなさそうであった。
問題は、彼女たち三人が潜む茂みの背後に、丁度北から順に、コンテナ、ハンターたち、そしてゾンビという位置になるように一体のエルトヌス型が徘徊しているという事実だ。
「三対一なら排除自体は容易ですが、この位置だとコンテナが巻き込まれてしまいますね」
シュネーも難しい顔をする。このままエルトヌスを攻撃すれば、エルトヌスの銃撃で背後のコンテナが巻き込まれることは目に見えていた。
ならば、ハンターたちの取るべき手段は一つ。
「私が囮になります」
シュネーの言葉に、メトロノームは喉まで出掛った制止の言葉をぐっと飲み込む。
この三人の能力を考慮すれば、シュネーが最もその役に向いているのは明らかだ。
「どうか……お気をつけて……」
「ぐずぐずしていたら、他のゾンビが寄って来るかもそれないもんね……シュネーさん、援護は任せて!」
レホスも同意する。
シュネーは二人に向かって頷いてみせると、茂みから立ち上がり、敵の射線をずらすように、つまり真横に向かって一直線に駈け出した。
生者を刈り取るべく生み出されたゾンビは動きは鈍くとも、即座に反応。機関銃をシュネーに向かって発射する。
弾丸が木の幹や地面を抉るが、脚部にマテリアルを集中させ、輝く光跡と共に疾走するシュネーを補足することは叶わない。
「あれは誰かの大事なもの……だから傷つけちゃ駄目……です」
もどかしくなるほど鈍い動きながらも、ゾンビはシュネーを追って手紙を巻き込まない位置へと徐々に動いていく。
後は、隠れている二人が機を見てエルトヌスを倒せばそれで終わり――の筈であった。
「なっ……!?」
シュネーの眼が驚愕に見開かれる。
よりにもよって、レホスとメトロノームが姿を現した直後、コンテナの向こう側の木立の中からもう一体のエルトヌスが出現したのだ。
無論。レホスとメトロノームもすぐに気付く。しかし、二人は攻撃出来ないでいた。
「家族からの手紙……故郷をなくしたわたしには、望むべくもないもの……」
魔法を放とうとする姿勢のまま固まったメトロノーム。普段は表情の乏しいその額に汗が浮かぶ。
失われる辛さを知っているから、何としても守りたいからこそ、メトロノームは撃てなかった。この距離で魔法を使えば確実にコンテナを巻き込んでしまうから。
だが、ゾンビにはそんなことなど関係ない。無造作に構えた銃口が二人とその背後のコンテナの方に向けられる。
、次の瞬間、誰もが銃弾に貫かれた手紙が紙屑と化して舞う光景を想像し、悲鳴を上げかける。だが、その時銃声が響き武器に弾丸を受けたエルトヌスはぐるりとそちらに顔を向けた。
「間に合ったか……前線で命を張ってる人々の支え、貴様らヴォイドの手で汚させてたまるか! 機導特査! ガイアードッ! 見参!」
ペンタグラムを構えた真吾……いや、ガイアードがポーズを決めた。
「遅くなってすまない……! シュネーから通信があった時点で結構離れてたんだ」
真吾が現れたのは、新たに出現したエルトヌスの真横だった。これなら、コンテナを巻き込むことはなくなる。
そして、その真吾の真横からコーネリアが一直線に飛び出す。
「ここで慎重に攻めては、大切な手紙が傷ついてしまう……ならば、大胆に行きます!」
ツヴァイシュトースツァーンを構えて突撃するコーネリアに、エルトヌスは容赦なく機関砲を浴びせる。
しかし、当たらない。
そう、コーネリアは敢えて木々の立ち並ぶ場所を駆け抜け、エルトヌスの弾丸を防いでいたのだ。
「この距離なら!」
見る見るうちに距離を詰めたコーネリアは、頃合を見計らってランアウトを発動、一気にエルトヌスの懐へと迫る。
しかし、エルトヌスの方も、この時には銃を投げ捨て、両手の拳に装備した山刀(マシェット)を伸長させ、コーネリアを迎え撃つ。
直後、コーネリアのブレードとエルトヌスのブレードがぶつかり合い激しく火花を散らした。
「くっ……」
武器を弾かれて交代したコーネリアが呻く。
初戦を制したのは、パワーで優れるエルトヌスの方であった。
「コーネリアっ!」
しかし、そのまま攻撃しようとするエルトヌスに真吾が弾丸を発射する。狙いはエルトヌス本体ではなく、その武器だ。
「これは……真吾さん、ありがとうございます!」
コーネリアは、鈍い音と共にエルトヌスのマチェットにヒビが入ったのを見逃さなかった。
ツヴァイシュトースツァーンは剣と斧二つの形態を持つ。コーネリアは斧に変形させた武器を、遠心力を利用して思いっ切りエルトヌスに叩きつけた。
エルトヌスは今度もそれをマシェットでがっきと受け止める。
しかし、真吾の攻撃で出来たヒビが、衝撃に耐え切れず広がっていき、ほどなくして斧は山刀を砕いてそのままエルトヌスの頭部を切断した。
「やったね、コーネリアさん! ……後は任せて!」
エルトヌスはなおも動こうとしていたが、そこに悠司と真吾、小鷲が集中攻撃を加え、やがて、死者は今度こそ動かなくなる。
その頃には、最初の一体もレホスとシュネーの攻撃によって、もはやその動きを止めようとしていた。
「不浄な存在を滅する青き炎よ……!」
メトロノームの放った炎の矢を受け、コンテナで輸送されていた最後のエルトヌスはゆっくりとあるべき姿へと帰っていった。
●
エルトヌスを倒したハンターたちは手紙を師団から貸し出された背嚢に詰め替え始めた。
この背嚢は真吾が頼んで師団から貸してもらったものである。
勿論、誰一人として手紙の内容を意図的に見ようとはせず、最低限汚れていないかなどを確かめながら手早く作業を進めていく。
だが、作業も終わりに近づいた時、ある手紙を手に取った悠司の手が止まった。
「悠司さん……?」
シュネーが尋ねる。それに気付いた悠司は頭を掻きつつ苦笑した。
「ごめんね。……実はこれ、俺の手紙なんだ」
他の仲間たちは一斉に悠司の方を見た。
「手紙って、遠い所にいる人や、普段会えない人にだけ出すものじゃないと思う。俺も、レホスさんと同じで大事な大事な家族に送れたら……とは思うけど、リアルブルーまで手紙は運べない。だから、別の奴に出してみたんだ。……うん、この後きっと失笑されるだろうけど」
「あれ? じゃあその相手って……」
レホスが尋ねる。
「そうだよ。まあ、驚きはするよね。でも、彼もリアルブルー人だし、コッチに来てるし、直接話してるしね」
「じゃあ、何でわざわざ書いたんだヨ?」
「手紙だと暖かさが違うから、かな」
静かに笑う悠司。その言葉にはっとなったのは小鷲だけではなかった。
シュネーも、そしてメトロノームも。
彼女たちが思い浮かべたのは、恐らくもっと身近な人々。普段ハンターとして共に戦い、共に生きるのが当たり前になっていて、手紙を書くなど思いもよらなかった人々の顔だ。
「友人にそれは無用……かな?」
照れ隠しで笑う悠司。
だが、小鷲は少しだけ、だけど本当に楽しそうににこっと笑った。
「そうだネ……考えてみれば第五師団配属になってから、あんまりお会いする機会も無かったし……陛下や副長に、久しぶりに挨拶でもしてみるヨ」
転位直後のヴィルヘルミナとエイゼンシュテインとの出会いを回想する小鷲。
「怪我が軽い割に、何だか元気が無さそうで心配してたんだが……良かったな、小鷲」
真吾がそっと呟く。
……この後、実際に何人が手紙を書いたのかは解らない。だが、小鷲が運んでいた手紙は全て無事に回収され、前線の帝国兵たちから歓声をもって迎えられたのだった。
夕暮れの迫る森の中、シュネー・シュヴァルツ(ka0352)はそう判断すると、相手に声をかけるべく一歩踏み出した。
だが、その瞬間突然シュネーの背中に冷たいものが走る。それは目の前の少年が放った殺気だった。
咄嗟に戦闘態勢をとるシュネー。
振り向いた小鷲の手には、投擲用の飛刀があった。
「小鷲さん! 良かった、無事だったんだね! イェンロンが傷だらけだったから心配したよ……!」
その緊迫した雰囲気を壊したのは、レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)の嬉しそうな声だった。
「……あれ、お姉さんの顔、どこかで見たような気がするヨ~」
ふっと、いつも通りの表情に戻る小鷲。
「忘れちゃったの? ほら、前にマーフェルスからグリフォンに乗せてもらったよね?」
「思い出したヨ! 確か、聖禽に乗ってた人だよネ」
「怪我、ちょっと見せてもらってもいい? 応急手当くらいなら、ボクでもできるから。向うで他のみんなが、野営の準備をしているんだ」
「これぐらい平気だヨ~、でも、綺麗なお姉さんに手当てしてもらえるのは嬉しいヨ~」
「もう!」
くすくすと、笑い合う二人。
しかし、シュネーは見逃さなかった。
レホスと小鷲がそれぞれ後ろ手に隠した飛刀と拳銃を、お互い、相手に気付かせないようこっそりしまうのを。
●
「レホスさん、彼も転位者だったのですよね?」
小鷲と合流した一行は、森の中の適当な場所で野営し、翌朝からコンテナを探すことにしていた。
手紙自体は大切なものだが、軍事的なものと違い緊急性は高くない。
夜明けを待って探した方が良い、という判断である。
そして、一行は野営中二組ずつ交代で番をすることにしていた。
今起きているのは、レホスとシュネーの組である。
「うん。そう聞いているけど」
「彼は……何者でしょうか? あの殺気……リアルブルーにいた頃から、荒事に慣れていたとしか思えません。だから、レホスさんも銃を……握ったのでしょう?」
シュネーもレホスもかつては軍属であった。
だからこそ、シュネーはレホスに尋ねたのだろう。
「私ね。手紙が一杯溜まっちゃってるんだ。リアルブルーの家族や知り合いへの手紙。いつ出せるか解らないんだけど」
レホスは直接にはシュネーの疑問に答えなかった。
「その話を夕食中に小鷲さんにしたら、何だか凄く寂しそうな顔してた……」
「リアルブルーから……来られた方です。色々な事情が……おありなのでしょう……」
唐突に口を挟んだのは、交代のために起きたメトロノーム・ソングライト(ka1267)であった。
「でも、悪い方では……ないと思います。イェンロンさんが、あんなに心配そうにしていたのですから……」
メトロノームは、出発前に見た小鷲のグリフォンの様子を思い出していた。
――『頼むから、落ち着いてくれ! お前のご主人はそう簡単に死ぬタマじゃない!』
兵士が必死に宥めているにもかかわらず、グリフォンは猛り狂い、今にも飛び上りそうな勢いだった。
メトロノームは可能ならイェンロンも連れて行きたいと頼んだのだが、まだ怪我の具合を詳しく調べていないのと、騎手のいないグリフォンを飛ばすのはリスクが大きい、と申し訳なさそうに第五師団から却下されたのだ。
『あの、大丈夫でしょうか……』
心配そうにするメトロノームに兵士は答える。
『こいつは、昔、気性が荒くてね。小鷲が入隊するまでは、騎乗用になれるかどうか怪しかったんだが、それを小鷲が……おい、余り近づくとあぶないぞ!』
だが、メトロノームは優しくグリフォンを宥めた。
『必ずご主人を連れて帰ります……だから、待っていてください』
メトロノームの思いが通じたのか、イェンロンはようやく大人しくなったのだった。
「そうだね……手紙を書く人が誰もいないのなら……それは凄く悲しいことだと俺も思うな」
メトロノームに続いて起き出してきた鈴木悠司(ka0176)が同意した。
「でも、本当に誰もいないのかな?」
と悠司。
「少なくとも、私は小鷲さんの気持ちもわかります。故郷を失う気持ちが……」
メトロノームが目を伏せながら答える。
「ごめんね! そんなつもりじゃなかたんだけど……」
慌てて謝る悠司。しかし、それでも彼はこう付け加えた。
「だけど、手紙の役目って……それだけじゃ無い筈だよ」
不思議そうに首を傾げる三人に、悠司は笑ってみせるのだった。
●
そして、夜が明けた。
当初、ハンターたちは固まって行動していた。
確かに、これはある意味で正解であった。途中で遭遇した数体のエルトヌスを苦も無く排除出来たのだから。
しかし、肝心のコンテナは、地形図や小鷲が教えた飛行ルートを元に探しても一向に見つからず、ハンターたちは決めてあった通り予定通り二手に分かれていたのだ。
「遠くにいる大切な人に出すだけが手紙じゃない……か。ファンレターとかもそうなのかもな」
鳴神 真吾(ka2626)は、悠司から昨晩の話を聞いてそう呟いた。
「『ふぁんれたー』とはなんでしょうか?」
コーネリア・デュラン(ka0504)が尋ねる。
「どこから説明するかな……俺はリアルブルーで、まあこっちでいう演劇の役者みたいなことをやっていたんだ。その時に、その劇を見た人から『ガイアードの活躍を見て勇気が湧いて来ました』っていうお礼の手紙を受け取ったことがあった」
「私には、リアルブルーの演劇の知識はありませんけど……お気持ちはわかります。私も、自分の音楽を始めて人に褒めてもらった時、凄く嬉しかったことを覚えていますから……」
「そうだよね。俺もバンドやってたから、そういの凄く分かるよ」
悠司も目を輝かせる。
「でも、俺の言いたかったことと……ちょっと違うかな?」
そう言ってまた悪戯っぽく笑う悠司に、今度は真吾とコーネリアが首を傾げるのであった。
●
メトロノーム、レホス、シュネーの三人は灌木の茂みに隠れ、様子を伺っていた。
コンテナは、丁度空き地になった一帯に落下していた。
「やっぱり、コンテナが壊れちゃってるね。手紙がそんな広範囲に散らばったわけじゃないみたいだけど」
レホスの言う通り、回収自体にそれほど困難はなさそうであった。
問題は、彼女たち三人が潜む茂みの背後に、丁度北から順に、コンテナ、ハンターたち、そしてゾンビという位置になるように一体のエルトヌス型が徘徊しているという事実だ。
「三対一なら排除自体は容易ですが、この位置だとコンテナが巻き込まれてしまいますね」
シュネーも難しい顔をする。このままエルトヌスを攻撃すれば、エルトヌスの銃撃で背後のコンテナが巻き込まれることは目に見えていた。
ならば、ハンターたちの取るべき手段は一つ。
「私が囮になります」
シュネーの言葉に、メトロノームは喉まで出掛った制止の言葉をぐっと飲み込む。
この三人の能力を考慮すれば、シュネーが最もその役に向いているのは明らかだ。
「どうか……お気をつけて……」
「ぐずぐずしていたら、他のゾンビが寄って来るかもそれないもんね……シュネーさん、援護は任せて!」
レホスも同意する。
シュネーは二人に向かって頷いてみせると、茂みから立ち上がり、敵の射線をずらすように、つまり真横に向かって一直線に駈け出した。
生者を刈り取るべく生み出されたゾンビは動きは鈍くとも、即座に反応。機関銃をシュネーに向かって発射する。
弾丸が木の幹や地面を抉るが、脚部にマテリアルを集中させ、輝く光跡と共に疾走するシュネーを補足することは叶わない。
「あれは誰かの大事なもの……だから傷つけちゃ駄目……です」
もどかしくなるほど鈍い動きながらも、ゾンビはシュネーを追って手紙を巻き込まない位置へと徐々に動いていく。
後は、隠れている二人が機を見てエルトヌスを倒せばそれで終わり――の筈であった。
「なっ……!?」
シュネーの眼が驚愕に見開かれる。
よりにもよって、レホスとメトロノームが姿を現した直後、コンテナの向こう側の木立の中からもう一体のエルトヌスが出現したのだ。
無論。レホスとメトロノームもすぐに気付く。しかし、二人は攻撃出来ないでいた。
「家族からの手紙……故郷をなくしたわたしには、望むべくもないもの……」
魔法を放とうとする姿勢のまま固まったメトロノーム。普段は表情の乏しいその額に汗が浮かぶ。
失われる辛さを知っているから、何としても守りたいからこそ、メトロノームは撃てなかった。この距離で魔法を使えば確実にコンテナを巻き込んでしまうから。
だが、ゾンビにはそんなことなど関係ない。無造作に構えた銃口が二人とその背後のコンテナの方に向けられる。
、次の瞬間、誰もが銃弾に貫かれた手紙が紙屑と化して舞う光景を想像し、悲鳴を上げかける。だが、その時銃声が響き武器に弾丸を受けたエルトヌスはぐるりとそちらに顔を向けた。
「間に合ったか……前線で命を張ってる人々の支え、貴様らヴォイドの手で汚させてたまるか! 機導特査! ガイアードッ! 見参!」
ペンタグラムを構えた真吾……いや、ガイアードがポーズを決めた。
「遅くなってすまない……! シュネーから通信があった時点で結構離れてたんだ」
真吾が現れたのは、新たに出現したエルトヌスの真横だった。これなら、コンテナを巻き込むことはなくなる。
そして、その真吾の真横からコーネリアが一直線に飛び出す。
「ここで慎重に攻めては、大切な手紙が傷ついてしまう……ならば、大胆に行きます!」
ツヴァイシュトースツァーンを構えて突撃するコーネリアに、エルトヌスは容赦なく機関砲を浴びせる。
しかし、当たらない。
そう、コーネリアは敢えて木々の立ち並ぶ場所を駆け抜け、エルトヌスの弾丸を防いでいたのだ。
「この距離なら!」
見る見るうちに距離を詰めたコーネリアは、頃合を見計らってランアウトを発動、一気にエルトヌスの懐へと迫る。
しかし、エルトヌスの方も、この時には銃を投げ捨て、両手の拳に装備した山刀(マシェット)を伸長させ、コーネリアを迎え撃つ。
直後、コーネリアのブレードとエルトヌスのブレードがぶつかり合い激しく火花を散らした。
「くっ……」
武器を弾かれて交代したコーネリアが呻く。
初戦を制したのは、パワーで優れるエルトヌスの方であった。
「コーネリアっ!」
しかし、そのまま攻撃しようとするエルトヌスに真吾が弾丸を発射する。狙いはエルトヌス本体ではなく、その武器だ。
「これは……真吾さん、ありがとうございます!」
コーネリアは、鈍い音と共にエルトヌスのマチェットにヒビが入ったのを見逃さなかった。
ツヴァイシュトースツァーンは剣と斧二つの形態を持つ。コーネリアは斧に変形させた武器を、遠心力を利用して思いっ切りエルトヌスに叩きつけた。
エルトヌスは今度もそれをマシェットでがっきと受け止める。
しかし、真吾の攻撃で出来たヒビが、衝撃に耐え切れず広がっていき、ほどなくして斧は山刀を砕いてそのままエルトヌスの頭部を切断した。
「やったね、コーネリアさん! ……後は任せて!」
エルトヌスはなおも動こうとしていたが、そこに悠司と真吾、小鷲が集中攻撃を加え、やがて、死者は今度こそ動かなくなる。
その頃には、最初の一体もレホスとシュネーの攻撃によって、もはやその動きを止めようとしていた。
「不浄な存在を滅する青き炎よ……!」
メトロノームの放った炎の矢を受け、コンテナで輸送されていた最後のエルトヌスはゆっくりとあるべき姿へと帰っていった。
●
エルトヌスを倒したハンターたちは手紙を師団から貸し出された背嚢に詰め替え始めた。
この背嚢は真吾が頼んで師団から貸してもらったものである。
勿論、誰一人として手紙の内容を意図的に見ようとはせず、最低限汚れていないかなどを確かめながら手早く作業を進めていく。
だが、作業も終わりに近づいた時、ある手紙を手に取った悠司の手が止まった。
「悠司さん……?」
シュネーが尋ねる。それに気付いた悠司は頭を掻きつつ苦笑した。
「ごめんね。……実はこれ、俺の手紙なんだ」
他の仲間たちは一斉に悠司の方を見た。
「手紙って、遠い所にいる人や、普段会えない人にだけ出すものじゃないと思う。俺も、レホスさんと同じで大事な大事な家族に送れたら……とは思うけど、リアルブルーまで手紙は運べない。だから、別の奴に出してみたんだ。……うん、この後きっと失笑されるだろうけど」
「あれ? じゃあその相手って……」
レホスが尋ねる。
「そうだよ。まあ、驚きはするよね。でも、彼もリアルブルー人だし、コッチに来てるし、直接話してるしね」
「じゃあ、何でわざわざ書いたんだヨ?」
「手紙だと暖かさが違うから、かな」
静かに笑う悠司。その言葉にはっとなったのは小鷲だけではなかった。
シュネーも、そしてメトロノームも。
彼女たちが思い浮かべたのは、恐らくもっと身近な人々。普段ハンターとして共に戦い、共に生きるのが当たり前になっていて、手紙を書くなど思いもよらなかった人々の顔だ。
「友人にそれは無用……かな?」
照れ隠しで笑う悠司。
だが、小鷲は少しだけ、だけど本当に楽しそうににこっと笑った。
「そうだネ……考えてみれば第五師団配属になってから、あんまりお会いする機会も無かったし……陛下や副長に、久しぶりに挨拶でもしてみるヨ」
転位直後のヴィルヘルミナとエイゼンシュテインとの出会いを回想する小鷲。
「怪我が軽い割に、何だか元気が無さそうで心配してたんだが……良かったな、小鷲」
真吾がそっと呟く。
……この後、実際に何人が手紙を書いたのかは解らない。だが、小鷲が運んでいた手紙は全て無事に回収され、前線の帝国兵たちから歓声をもって迎えられたのだった。
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相談卓です メトロノーム・ソングライト(ka1267) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/04/15 05:20:01 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/15 05:16:38 |