ゲスト
(ka0000)
【不動】陽炎の支配者
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/15 19:00
- 完成日
- 2015/04/16 04:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「これはこれは、ヴィルヘルミナ陛下。このようなお時間に公務ですかな?」
深夜のバルトアンデル城に男の声が響き渡る。
「ゴドウィンか。貴様こそこんな時間にどうした」
「ここは我々の仕事場。私が居るのはそうおかしな事ではありませぬ」
バルトアンデルス城に幾つか存在する書庫。そんな中でも、特に軍事に関する記録を保管する場所がある。
帝国は軍国主義であり、国軍が政府よりも力を持つ。だが政府が存在しないわけではなく、政府は六つの課に別れる。
財務、外務、内務、司法、技術、そして軍事。ここ、軍事課の書庫に軍事課副課長のゴドウィン・グルッフェルが居るのは確かにおかしくはない。
むしろここにヴィルヘルミナがいる事の方が珍しいのだ。ゴドウィンはランプを机に置きながら腕を組む。
「それは……辺境への補給記録ですかな? 何か気がかりな事でも?」
「うむ。実はな、辺境の部隊の中に補給物資を受け取っていない部隊があると聞いたのだ。まさかそんな事はあるまいと調べたが、間違いなく補給物資手続きされていたよ」
「でしょうな。兵站は戦線保持の生命線ですから」
粗雑な綴りの本を閉じ、女は小さく息を吐く。
「ゴドウィン。山岳猟団という、辺境の部隊を知っているか? 正規兵と傭兵、そして現地部族からなる混成部隊だと聞く」
「勿論。厄介者が多いと聞きますな」
目を細める女。男は穏やかで、しかし強かな眼差しを返す。
「御身はこの世を統べる器であらせられる。聞けば先の巨人との戦いで負傷なされたとか。瑣末事は我らに任せ、休養されるべきかと」
「言われずともそうする。だが、前線ではあの弟も含め、多くの者達が命の危険に晒されているのだ」
「歪虚を殲滅し、人類の生活圏を取り戻す。此度の聖地奪還は部族の提案が発端。彼らも至上命題を前に本望でありましょう」
男は背後で手を組み、月明かりの差し込む窓辺に立つ。
「命には優劣があります。王の命と兵の命とでは比べるべくもなし。陛下は先代の後を継ぎ、人の世を一つにすると誓った筈。散り行く命もまた、理想の魁で御座いましょう」
「確かに私は親父殿の夢を継ぐと誓った。全ての総意の器として、この世を統べ導く王になると」
女は握り締めた拳を開き、背にした月明かりが作る自らの影に目を凝らす。
「親父殿は人類一丸となって歪虚に挑まねばいずれ滅びが来ると確信した。だから人を一つにする為に血を厭わず革命を成し遂げたのだ。ゴドウィン、貴様もその一員であったな」
光に影を引くゴドウィンに右足はない。杖をついた男は、革命戦争末期にその足を失ったという。
嘗ては革命軍として先代皇帝に仕えた英雄の一人。彼は今、帝国の軍事を支え記録する立場の役人として活躍していた。
「お父上は、いずれは王国も同盟も一つとなり、歪虚と戦う巨大な枠組みが必要と考えておられた。支配を望んだわけではありませんでしたが、“支配者”なくして人が導けぬのなら、それに成り代わる事も」
「確かに人は愚かで弱く、未熟な生き物だ。強靭な力による支配、それが人を一つにする……私も同感だ」
「その通り。この世界の全てが、貴女様の掌に」
「この世界は全てが私の物だ。だからこそ、私は私の所有物が勝手にされる事を許さん。どんなに小さな命であったとしても、それは全て私の一部だ」
ゆっくりと振り返る男を顧みず、女は歩き出す。
「心配せずとも大人しくしている。“膝に矢を受けてしまってな”。貴様こそ夜道に気をつけよ。反政府組織に狙われているのだからな」
皇帝ヴィルヘルミナが前線へ向かわなかったのには二つの理由がある。
一つは先日のナナミ河での無理が祟っての負傷と体調不良。そしてもう一つが、反政府組織と目されるヴルツァライヒの存在だ。
ヴルツァライヒは帝国首脳陣の手配書を作り、高額賞金をつけている。それがどこまで本気かは不明だが、皇帝につけられたふざけた金額に一念発起する輩が居ないとも限らない。
そしてそうした不安定な世情において前線へ指導者が向かう事が、国民の二次的な不安に繋がる可能性があり、ヴィルヘルミナは城にて養生する事になった……のだが。
「各地で起きている反政府活動の視察を行う事にした。諸君らにはその護衛を依頼したい」
バルトアンデルス城の一室に呼び出されたハンター達を前に皇帝は変装した格好で告げる。
長い髪をポニーテールに括り、冒険者風の服装、そして変装用眼鏡をかけている。
「表向きの目的は政治不安を抱えた国民への鼓舞と労いだが、本題は別にある。今回の視察は大々的に告知を行うつもりだ。当然だが、反政府組織の襲撃を受けるだろう」
あっけらかんと言う皇帝だが、実際彼女は視察に出れば必ず襲われると言っていいくらいで、もう慣れっこである。
「金に困った悪漢や熱の入った旧体制派もそうだが、今はヴルツァライヒが気になる。尻尾を出すとも思えないが、捕らえた者の中に情報源が居ないとも限らない」
それから女は咳払いを一つ。
「……と、これも更に建前だ。諸君らはハンター、完全中立の存在だ。それを見込んで頼みがある」
皇帝が取り出したトランクには服とカツラが収められていた。それは皇帝が普段公務で着用しているサーコートそのものだ。
「いや本物ではなく、ナサニエルに作らせた“まるごとルミナちゃん”というひみつ道具で、城を脱走する時その辺の兵士に着せようと思っていた……まあそんな事はどうでもいい。これを着て、君達には私のフリをして視察を行ってもらいたいのだ」
突飛過ぎる依頼に驚くハンター達。皇帝は腕を組み。
「私は今、自由には動けない。師団長にもカッテにも国外に出るなと言われているし、監視もつく。だが、国中を視察する私を常に把握する事は不可能だ。その間に私は国外脱出を試みる」
まさか遊びに行くんじゃ……。
「案ずるな。私事ではあるが、仕事でもある。どうしても確認したい事があってな。辺境へ……最前線へ単独で向かうつもりだ」
戦いに行くわけではない。ただ、会って話をしたい者がいる。それは皇帝という立場とこの状況からして、普通ならば実現不能な事だ。
「だが、どいつもこいつも私を城に閉じ込めるというのならそれを逆手に取る。君達には“陽動”を依頼したいのだ」
しかし変装グッズがいかによく出来ていようとも、皇帝に成り切れるものだろうか……。
「大丈夫だ。民は毎日私を見ているわけではない。この派手な髪と派手な服装と、派手な言葉だけで私を認識している。私が本物かどうかなど、彼らにとっては大した問題ではないのだ」
そう言いながら女は苦笑し、肩を竦める。
「……軽蔑するかね? だが、それが現実だ。王とは偶像なのだよ。されど私はそれに収まっているつもりはない。どうか、力を貸して欲しい」
まっすぐに、そして熱を帯びた言葉で女はハンターの手を取った。
「――頼れるのは、君達だけなのだ」
深夜のバルトアンデル城に男の声が響き渡る。
「ゴドウィンか。貴様こそこんな時間にどうした」
「ここは我々の仕事場。私が居るのはそうおかしな事ではありませぬ」
バルトアンデルス城に幾つか存在する書庫。そんな中でも、特に軍事に関する記録を保管する場所がある。
帝国は軍国主義であり、国軍が政府よりも力を持つ。だが政府が存在しないわけではなく、政府は六つの課に別れる。
財務、外務、内務、司法、技術、そして軍事。ここ、軍事課の書庫に軍事課副課長のゴドウィン・グルッフェルが居るのは確かにおかしくはない。
むしろここにヴィルヘルミナがいる事の方が珍しいのだ。ゴドウィンはランプを机に置きながら腕を組む。
「それは……辺境への補給記録ですかな? 何か気がかりな事でも?」
「うむ。実はな、辺境の部隊の中に補給物資を受け取っていない部隊があると聞いたのだ。まさかそんな事はあるまいと調べたが、間違いなく補給物資手続きされていたよ」
「でしょうな。兵站は戦線保持の生命線ですから」
粗雑な綴りの本を閉じ、女は小さく息を吐く。
「ゴドウィン。山岳猟団という、辺境の部隊を知っているか? 正規兵と傭兵、そして現地部族からなる混成部隊だと聞く」
「勿論。厄介者が多いと聞きますな」
目を細める女。男は穏やかで、しかし強かな眼差しを返す。
「御身はこの世を統べる器であらせられる。聞けば先の巨人との戦いで負傷なされたとか。瑣末事は我らに任せ、休養されるべきかと」
「言われずともそうする。だが、前線ではあの弟も含め、多くの者達が命の危険に晒されているのだ」
「歪虚を殲滅し、人類の生活圏を取り戻す。此度の聖地奪還は部族の提案が発端。彼らも至上命題を前に本望でありましょう」
男は背後で手を組み、月明かりの差し込む窓辺に立つ。
「命には優劣があります。王の命と兵の命とでは比べるべくもなし。陛下は先代の後を継ぎ、人の世を一つにすると誓った筈。散り行く命もまた、理想の魁で御座いましょう」
「確かに私は親父殿の夢を継ぐと誓った。全ての総意の器として、この世を統べ導く王になると」
女は握り締めた拳を開き、背にした月明かりが作る自らの影に目を凝らす。
「親父殿は人類一丸となって歪虚に挑まねばいずれ滅びが来ると確信した。だから人を一つにする為に血を厭わず革命を成し遂げたのだ。ゴドウィン、貴様もその一員であったな」
光に影を引くゴドウィンに右足はない。杖をついた男は、革命戦争末期にその足を失ったという。
嘗ては革命軍として先代皇帝に仕えた英雄の一人。彼は今、帝国の軍事を支え記録する立場の役人として活躍していた。
「お父上は、いずれは王国も同盟も一つとなり、歪虚と戦う巨大な枠組みが必要と考えておられた。支配を望んだわけではありませんでしたが、“支配者”なくして人が導けぬのなら、それに成り代わる事も」
「確かに人は愚かで弱く、未熟な生き物だ。強靭な力による支配、それが人を一つにする……私も同感だ」
「その通り。この世界の全てが、貴女様の掌に」
「この世界は全てが私の物だ。だからこそ、私は私の所有物が勝手にされる事を許さん。どんなに小さな命であったとしても、それは全て私の一部だ」
ゆっくりと振り返る男を顧みず、女は歩き出す。
「心配せずとも大人しくしている。“膝に矢を受けてしまってな”。貴様こそ夜道に気をつけよ。反政府組織に狙われているのだからな」
皇帝ヴィルヘルミナが前線へ向かわなかったのには二つの理由がある。
一つは先日のナナミ河での無理が祟っての負傷と体調不良。そしてもう一つが、反政府組織と目されるヴルツァライヒの存在だ。
ヴルツァライヒは帝国首脳陣の手配書を作り、高額賞金をつけている。それがどこまで本気かは不明だが、皇帝につけられたふざけた金額に一念発起する輩が居ないとも限らない。
そしてそうした不安定な世情において前線へ指導者が向かう事が、国民の二次的な不安に繋がる可能性があり、ヴィルヘルミナは城にて養生する事になった……のだが。
「各地で起きている反政府活動の視察を行う事にした。諸君らにはその護衛を依頼したい」
バルトアンデルス城の一室に呼び出されたハンター達を前に皇帝は変装した格好で告げる。
長い髪をポニーテールに括り、冒険者風の服装、そして変装用眼鏡をかけている。
「表向きの目的は政治不安を抱えた国民への鼓舞と労いだが、本題は別にある。今回の視察は大々的に告知を行うつもりだ。当然だが、反政府組織の襲撃を受けるだろう」
あっけらかんと言う皇帝だが、実際彼女は視察に出れば必ず襲われると言っていいくらいで、もう慣れっこである。
「金に困った悪漢や熱の入った旧体制派もそうだが、今はヴルツァライヒが気になる。尻尾を出すとも思えないが、捕らえた者の中に情報源が居ないとも限らない」
それから女は咳払いを一つ。
「……と、これも更に建前だ。諸君らはハンター、完全中立の存在だ。それを見込んで頼みがある」
皇帝が取り出したトランクには服とカツラが収められていた。それは皇帝が普段公務で着用しているサーコートそのものだ。
「いや本物ではなく、ナサニエルに作らせた“まるごとルミナちゃん”というひみつ道具で、城を脱走する時その辺の兵士に着せようと思っていた……まあそんな事はどうでもいい。これを着て、君達には私のフリをして視察を行ってもらいたいのだ」
突飛過ぎる依頼に驚くハンター達。皇帝は腕を組み。
「私は今、自由には動けない。師団長にもカッテにも国外に出るなと言われているし、監視もつく。だが、国中を視察する私を常に把握する事は不可能だ。その間に私は国外脱出を試みる」
まさか遊びに行くんじゃ……。
「案ずるな。私事ではあるが、仕事でもある。どうしても確認したい事があってな。辺境へ……最前線へ単独で向かうつもりだ」
戦いに行くわけではない。ただ、会って話をしたい者がいる。それは皇帝という立場とこの状況からして、普通ならば実現不能な事だ。
「だが、どいつもこいつも私を城に閉じ込めるというのならそれを逆手に取る。君達には“陽動”を依頼したいのだ」
しかし変装グッズがいかによく出来ていようとも、皇帝に成り切れるものだろうか……。
「大丈夫だ。民は毎日私を見ているわけではない。この派手な髪と派手な服装と、派手な言葉だけで私を認識している。私が本物かどうかなど、彼らにとっては大した問題ではないのだ」
そう言いながら女は苦笑し、肩を竦める。
「……軽蔑するかね? だが、それが現実だ。王とは偶像なのだよ。されど私はそれに収まっているつもりはない。どうか、力を貸して欲しい」
まっすぐに、そして熱を帯びた言葉で女はハンターの手を取った。
「――頼れるのは、君達だけなのだ」
リプレイ本文
「ははは。良く似合ってるじゃないか」
帝都を出て暫く移動した平野でヴィルヘルミナは辺境へ向かう事になった。
変装したエステル・L・V・W(ka0548)は腕を組み、ジト目で笑う皇帝を見ている。
「私直筆の命令書もある。いざとなったらこれを見せると良い」
「ありがてえ。その分、こっちの事は任せてくれ!」
劉 厳靖(ka4574)は今回の依頼に関する公的文書を受け取った。これで万が一第一師団に追われても言い逃れは出来る。
「今回は直ぐお別れかー。残念だけど仕方ないよねー……」
「そうだな。無事に戻ったら、また飲みに行こう」
ラン・ヴィンダールヴ(ka0109)に笑いかける皇帝。男は頷き、ひらひらと手を振る。
「道中気をつけて。俺は頑張る人は応援したい性質なんだ。皇帝だからとかじゃなくて、その努力が実る事を祈ってるよ」
ジュード・エアハート(ka0410)に頷く皇帝。Charlotte・V・K(ka0468)は神妙な面持ちで、
「しかしルミナくん自らが、か。これまで点と点だった事件が、線になるのかねぇ……」
「それを確かめに行くのだ。君から得た情報は無駄にしない。大事になる前に、可能ならば処理したい」
「そういえば、カルステンくんは今どうしているんだい?」
「あれはバルトアンデルス城の地下に投獄されているぞ」
「女に騙された挙句投獄とは無残な……」
「えっ? なになに、女の子に騙されたお話ー?」
「何で食いついてきたの?」
ぱっと笑顔を作ったランにジュードが怪訝な目を向ける。
「これ、渡しておくね。お守り代わりに懐に入れとくと致命傷避けられるかもよ」
キヅカ・リク(ka0038)が差し出した護符をしっかりと受け取る。
「なんだか凄く嫌な予感がするんだ。本当に気をつけて」
「ありがたく預かろう。君もあれだ。命は惜しめよ」
冷や汗を流すキヅカ。なんか要らんフラグが無駄に立ってる予感はする。
皇帝は護符を上着の胸ポケットに仕込むと、颯爽とバイクに跨った。
「ヴィルヘルミナ・ウランゲル! こちらは心配無用ですわ!」
びしりと指差し、エステルは声を上げる。
「あなたに出来た事だもの! わたくしにだってできないはずがないわ!」
防塵ゴーグルを装備した皇帝は優しく微笑んで手を振ると、鋼鉄の馬を嘶かせ辺境の地へと旅立って行った。
こうしてハンター達による、影武者の視察が始まった。
彼らはおよそ三日間という期間を設定。一日一箇所を目安に村々を訪問する事にした。
トラックを運転するキヅカとバイクを借りた厳靖は仲間達を乗せ訪問地を目指す。
辿り着いたのは地方の貧しい村。車を止めたキヅカがトラックの荷台を開くと、そこからはのしのし馬が降りてきた。
「……ってなんでですの!?」
「馬だけで長距離移動させるのもアレだし、荷台広いし」
「馬と一緒に荷台に詰められて移動する皇帝って凄いよねー」
詰め寄るエステルに両手を上げるキヅカ。ランは猛々しい馬の嘶きに笑みを浮かべる。
「というかエステル、化粧が濃ぅぐっ」
無抵抗を示していたのに肘打ちに悶絶するキヅカ。
「これはキヅカさんが悪いね!」
「そうだねー」
化粧に関してはジュードもランも結構口出ししたので、基本エステルの味方だ。
「じゃれている場合ではないよ。時間が押している、早速公務を開始しよう」
ちゃきりとブリッジを持ち上げ眼鏡を光らせるCharlotte。一行は早速村長に話をつけ、演説の場を用意させた。
「なあ。あの皇帝、小さくないか?」
「ああ。なんか……小さいな」
そんな村人のひそひそ声に厳靖は冷や汗を流す。
小さな村の小さな広場だというのに、厳靖は思い切り村人とエステルの間に距離を作っていた。村人ぎゅうぎゅうづめである。
「すまねえが、ちぃと最近物騒なんでな。安全の為だ、もっと詰めてくれ」
「おじちゃん、陛下はちっちゃくなったの?」
純粋無垢な子供の視線に男は眉をひくつかせ。
「ぼうず、遠近法っていうのがあってな……。それに馬に乗ってるだろ? 馬が大きいからそう見えるんじゃねえかなあ……」
苦しい言い訳だ。ついでに真顔で護衛に立っているジュードも苦しかった。遠近法。笑ってはいけません。
「当然と言えばそれまでだが、既に疑われているね」
馬の上に座ったエステルはどう考えても少女であり、皇帝と比べると体格が小さい。
屈強な武人で知られる皇帝なのだから、エステルはやけに可憐にすぎる。
「君の気持ちは汲もう。だが、これは正式な公務の一環。欺きは完璧でなければならない」
Charlotteの小さな声にエステルは視線を前に向けたまま耳を傾ける。
「成し遂げられないと判断した場合、その時点で降りてもらう」
キヅカもジュードも、いざとなれば騒ぎを起こしてでもエステルを隠す準備をしていた。
しかし毎日そんな事をするわけにはいかない。エステルはどうしてもここで結果を出す必要があった。
「――諸君。今日は急な来訪にも関わらず集まって貰ってありがとう」
喧騒の中、深呼吸と共に少女は口を開く。
「辺境で歪虚との大きな戦いが繰り広げられる中、我が国では昨今、治安の悪化が嘆かれている……」
治安の悪そうな場所を選んで来た。
Charlotteが行き先に提案したあの村は、大人達が捕らえられ今はもう存在しなかった。
これはヴルツァライヒへの牽制、調査も兼ねている。だからこそ、似たような場所を選んだ。
住民は一先ず大人しく話を聞いている。当然だが真正面から皇帝を襲撃するような真似をすればどうなるかはわかっている。
表立って非難はしない。だが、不満を秘めた無数の視線に晒される事は、エステルを強く緊張させた。
「生きていてくれてありがとう。死なないでくれてありがとう。頑張って戦っていてくれてありがとう。“私”と“私”の帝国は、皆の献身に、献身を持って答えることを確約しよう」
妬み、嫉み、蔑み。そんな人の渦の中で、感謝の言葉を口にする。
「“私”は、皆を見捨てない。だから、皆は“私”を助けてくれ!」
その心細さを、少女は苦く噛み締めていた。
「反応は悪くなかったんじゃないかな」
演説の後は村の上役を集めた会談。その後、宿で一泊する事になった。
エステルが泊まるぼろな、しかしこの村では最上級の部屋の前。キヅカはCharlotteと肩を並べる。
「そうだな。少なくとも影武者であるとはバレていないだろう」
「その分色々言われたけどね。皇帝陛下は?」
「部屋でご乱心だったが、少し前から静かになった。今はラン君がついている」
女は肩を竦め。
「だから私が代わると言ったのだ。影武者等、やって気持ちのいい物ではないよ」
「大怪我したり?」
キヅカの言葉にふっと笑みを浮かべる。と、そこへジュードがトレイに料理を乗せ階段を上がってくる。
「陛下にお夕飯をお持ちしましたよ。料理には立ち合わせて貰ったけど、一応毒味してね」
二人の視線がキヅカに向けられる。
「え? ここで変に緊張感高めるのやめてよ」
銀のスプーンは銀のまま。Charlotteは料理を手に部屋に入る。
「厳靖さんが宿を貸しきってくれたから、部屋で食べなくてもいいんだけどねー」
「念には念。で、その厳靖さんは?」
「情報収集にと酒場に向かいました。俺達も交代で食事にしよっか」
「陛下はまだあんな小さいのに頑張ってる。それはわかるんだけどよぉ。ずっと続く戦いで、俺達も疲れてんだ」
一方、村の酒場では厳靖がおやじ達に混じり樽ジョッキを傾けていた。
「革命からこっち、ずっと戦いだ。歪虚だけじゃねぇ、人間同士でも争ってる。そんな国ぁここだけだろうぜ」
「まあ、なんとかならぁ……とはいかんね。先が見えないってのは、中々どうして耐え難い」
厳靖は頷きながら話を聞く。
話は極端だ。ただ国が悪い、皇帝が悪いと喚く者もいる。聞けば自業自得な事も多い。
だが、人は皆何かに責任を押し付けたがる。それはわかりやすい方がいい。
誰かが悪かった事にしなければ気がすまない。そんな悲しみがこの国には長年積もっているのだ。
「今日は俺の奢りだ。遠慮無く飲んでくれ。……あ、帝国軍第一師団で領収書頼むな」
真夜中の宿に銃声が響き渡った。
「そして寝てる暇もないと……僕、今日も運転するんだけど」
面倒臭そうにライフルを手に廊下を走るキヅカ。時刻は既に0時を回っている。
通路の曲がり角ではジュードが拳銃で応戦中。階段の上下で銃撃戦になっていた。
「くそう。居眠り運転したらどうしてくれる」
「チンピラの装備じゃないね。この村に元々居たのか、それとも……」
黒ずくめの男達は高級な魔導銃で武装している。こんな寂れた村に用意する財力はないはずだが。
「あ。硝子の割れる音だ」
「こっちは俺がなんとかしとくよ。全く、眠れない夜になりそう」
階段を飛び降りながら二丁拳銃を連射するジュードを見送り引き返すキヅカ。その先では廊下で交戦するランの姿があった。
といっても直ぐに決着する。ランは銃撃をかいくぐり、レイピアで次々に襲撃者を倒してしまった。
「あはは、レディの寝室に忍び込もうなんて、紳士としてなってないね? 君?」
「ぐっ、死神に魅入られた化け物共が。あの女は人間ではない……!」
「ん~? そういう言い方は関心しないな~。レディをあんまり侮辱すると、僕怒っちゃうよ?」
倒れた男の腕をねじ上げながら笑みを浮かべるラン。こっちは問題なさそうなので部屋に入ると、開いた窓辺でCharlotteが発砲していた。
「おう、キヅカか」
「状況は?」
「見ての通りだ。窓から侵入しようとした輩が居たので突き落としてやったわ!」
槍を手に豪快に笑う厳靖。酒臭いです。
結論から言うと襲撃者の撃退は直ぐ終わった。非覚醒者ではどう足掻いても覚醒者集団には及ばない。
捕らえられた者達は流石に無罪放免とは行かない。軽く取り調べし、帝国軍へ引き渡す事になった。
「君に今、思うことがあるならばこんなやり方をすべきではない。改めて、今度は正しい形で“私”に声を届けたまえ。どんな意見であれ、“私”はそれを無視はしない」
縄で縛り上げられた男達の前に腰を落とし、エステルは告げる。
「革命で散々血を啜ったウランゲルの女が何を言う!」
「貴様は痛みを知らぬからそのような綺麗事を口にする! 呪われろ、怪物め!」
男達の頭にげんこつをかます厳靖。
「こいつらは俺が別室で見張っておこう。全く、大の大人がみっともねえ」
引きずられて男達は消え去った。エステルはそれを見届けゆっくり立ち上がる。
「……これで良いのでしょ? ヴィルヘルミナ・ウランゲル」
ぽつりと呟くエステルの肩をジュードが叩く。
「後の事は俺達に任せ、陛下はお休み下さい」
「そうそうー。僕らはほら、車で移動中に寝るからさー」
「え? 運転する僕は?」
「がんばってねー、キヅカ君!」
「アッハイ」
ランの無慈悲な笑顔にキヅカは肩を落とした。
護衛を除いた仲間達が退室すると、エステルは深い溜息を共にベッドに倒れこんだ。
「容赦せよ、か……」
瞼を閉じればあの女の姿が思い浮かぶ。嫌いだからこそ、認めたくないからこそ、深く脳裏に焼き付いている。
女はいつも笑っている。自らを否定されても、死と隣合わせの戦場に置いても。
許すと言った女を許した者はいるのだろうか。守るべき民に許されぬ彼女は、今……。
窓際の椅子に腰掛けたCharlotteは眼鏡を外し月を見上げる。疲れきった少女は小さく寝息を立てていた。
「やられた」
早朝、出立の時。キヅカはトラックの前でくまの出来た目を細める。
「パンクさせられてる。こういうのもあるのか……」
情けなくなったタイヤの前に屈んで溜息を零す。朝から前途多難である。
「キヅカさん、頑張って!」
親指を立てたジュードのいい笑顔に遠い目になる。ジュードはまだ寝ているエステルをランと協力し荷台に詰め込んでいる。
「どれ、手を貸そう。道具はあるか?」
「流石に想定外」
Charlotteと並んでタイヤを眺めるが、修理道具がない。
「おーい! 村で使えそうなもん借りてきたぞー!」
そこへ厳靖が手を振りながら歩いてくる。簡単な工具箱だが、騙し騙しに修理出来るかもしれない。
「どうだ。持つべきものは酒飲み仲間よ!」
「襲撃時に酔っぱらってたくせに……」
「ちゃんと任務は果たしただろう!?」
そんな二人を他所に工具箱を開くCharlotte。一方、荷台では寝ぼけているエステルがランとジュードに化粧されていた。
「こんな調子でやり遂げられるのかなあ」
昇ったばかりの朝日に手を翳し、キヅカは遠く旅立った皇帝を想う。
「大丈夫……だよね」
「ああ。なんとか修理出来そうだ」
Charlotteに言ったわけではなかったが、それはそれで。
トラックとバイクがエンジンを唸らせ、影武者と護衛達を乗せ、再び走り出した。
行く先々で彼らは政治を良く思わない者達に襲われ、それに懲りずに不満の目線を向ける民へ言葉を投げかけた。
一見すると無意味で無価値なその行いを続ける事はきっと難しい。三日間だって大変なのだ。
それでもエステルは諦めずに訴え続けた。その言葉が誰かに届く事を信じて。
そしてそうした活動の中で、皇帝に声援を向ける者もいた。向けられすぎる事もあった。
信奉にも近い、無思考な信頼をぶつけられる事は、理不尽な罵声と何が違うのだろう?
皇帝は、民は自分を見ているわけではなく、皇帝というイメージを見ているだけだと言った。
その言葉の意味を確かめるように、ハンター達は限られた三日間を過ごした。
帝都を出て暫く移動した平野でヴィルヘルミナは辺境へ向かう事になった。
変装したエステル・L・V・W(ka0548)は腕を組み、ジト目で笑う皇帝を見ている。
「私直筆の命令書もある。いざとなったらこれを見せると良い」
「ありがてえ。その分、こっちの事は任せてくれ!」
劉 厳靖(ka4574)は今回の依頼に関する公的文書を受け取った。これで万が一第一師団に追われても言い逃れは出来る。
「今回は直ぐお別れかー。残念だけど仕方ないよねー……」
「そうだな。無事に戻ったら、また飲みに行こう」
ラン・ヴィンダールヴ(ka0109)に笑いかける皇帝。男は頷き、ひらひらと手を振る。
「道中気をつけて。俺は頑張る人は応援したい性質なんだ。皇帝だからとかじゃなくて、その努力が実る事を祈ってるよ」
ジュード・エアハート(ka0410)に頷く皇帝。Charlotte・V・K(ka0468)は神妙な面持ちで、
「しかしルミナくん自らが、か。これまで点と点だった事件が、線になるのかねぇ……」
「それを確かめに行くのだ。君から得た情報は無駄にしない。大事になる前に、可能ならば処理したい」
「そういえば、カルステンくんは今どうしているんだい?」
「あれはバルトアンデルス城の地下に投獄されているぞ」
「女に騙された挙句投獄とは無残な……」
「えっ? なになに、女の子に騙されたお話ー?」
「何で食いついてきたの?」
ぱっと笑顔を作ったランにジュードが怪訝な目を向ける。
「これ、渡しておくね。お守り代わりに懐に入れとくと致命傷避けられるかもよ」
キヅカ・リク(ka0038)が差し出した護符をしっかりと受け取る。
「なんだか凄く嫌な予感がするんだ。本当に気をつけて」
「ありがたく預かろう。君もあれだ。命は惜しめよ」
冷や汗を流すキヅカ。なんか要らんフラグが無駄に立ってる予感はする。
皇帝は護符を上着の胸ポケットに仕込むと、颯爽とバイクに跨った。
「ヴィルヘルミナ・ウランゲル! こちらは心配無用ですわ!」
びしりと指差し、エステルは声を上げる。
「あなたに出来た事だもの! わたくしにだってできないはずがないわ!」
防塵ゴーグルを装備した皇帝は優しく微笑んで手を振ると、鋼鉄の馬を嘶かせ辺境の地へと旅立って行った。
こうしてハンター達による、影武者の視察が始まった。
彼らはおよそ三日間という期間を設定。一日一箇所を目安に村々を訪問する事にした。
トラックを運転するキヅカとバイクを借りた厳靖は仲間達を乗せ訪問地を目指す。
辿り着いたのは地方の貧しい村。車を止めたキヅカがトラックの荷台を開くと、そこからはのしのし馬が降りてきた。
「……ってなんでですの!?」
「馬だけで長距離移動させるのもアレだし、荷台広いし」
「馬と一緒に荷台に詰められて移動する皇帝って凄いよねー」
詰め寄るエステルに両手を上げるキヅカ。ランは猛々しい馬の嘶きに笑みを浮かべる。
「というかエステル、化粧が濃ぅぐっ」
無抵抗を示していたのに肘打ちに悶絶するキヅカ。
「これはキヅカさんが悪いね!」
「そうだねー」
化粧に関してはジュードもランも結構口出ししたので、基本エステルの味方だ。
「じゃれている場合ではないよ。時間が押している、早速公務を開始しよう」
ちゃきりとブリッジを持ち上げ眼鏡を光らせるCharlotte。一行は早速村長に話をつけ、演説の場を用意させた。
「なあ。あの皇帝、小さくないか?」
「ああ。なんか……小さいな」
そんな村人のひそひそ声に厳靖は冷や汗を流す。
小さな村の小さな広場だというのに、厳靖は思い切り村人とエステルの間に距離を作っていた。村人ぎゅうぎゅうづめである。
「すまねえが、ちぃと最近物騒なんでな。安全の為だ、もっと詰めてくれ」
「おじちゃん、陛下はちっちゃくなったの?」
純粋無垢な子供の視線に男は眉をひくつかせ。
「ぼうず、遠近法っていうのがあってな……。それに馬に乗ってるだろ? 馬が大きいからそう見えるんじゃねえかなあ……」
苦しい言い訳だ。ついでに真顔で護衛に立っているジュードも苦しかった。遠近法。笑ってはいけません。
「当然と言えばそれまでだが、既に疑われているね」
馬の上に座ったエステルはどう考えても少女であり、皇帝と比べると体格が小さい。
屈強な武人で知られる皇帝なのだから、エステルはやけに可憐にすぎる。
「君の気持ちは汲もう。だが、これは正式な公務の一環。欺きは完璧でなければならない」
Charlotteの小さな声にエステルは視線を前に向けたまま耳を傾ける。
「成し遂げられないと判断した場合、その時点で降りてもらう」
キヅカもジュードも、いざとなれば騒ぎを起こしてでもエステルを隠す準備をしていた。
しかし毎日そんな事をするわけにはいかない。エステルはどうしてもここで結果を出す必要があった。
「――諸君。今日は急な来訪にも関わらず集まって貰ってありがとう」
喧騒の中、深呼吸と共に少女は口を開く。
「辺境で歪虚との大きな戦いが繰り広げられる中、我が国では昨今、治安の悪化が嘆かれている……」
治安の悪そうな場所を選んで来た。
Charlotteが行き先に提案したあの村は、大人達が捕らえられ今はもう存在しなかった。
これはヴルツァライヒへの牽制、調査も兼ねている。だからこそ、似たような場所を選んだ。
住民は一先ず大人しく話を聞いている。当然だが真正面から皇帝を襲撃するような真似をすればどうなるかはわかっている。
表立って非難はしない。だが、不満を秘めた無数の視線に晒される事は、エステルを強く緊張させた。
「生きていてくれてありがとう。死なないでくれてありがとう。頑張って戦っていてくれてありがとう。“私”と“私”の帝国は、皆の献身に、献身を持って答えることを確約しよう」
妬み、嫉み、蔑み。そんな人の渦の中で、感謝の言葉を口にする。
「“私”は、皆を見捨てない。だから、皆は“私”を助けてくれ!」
その心細さを、少女は苦く噛み締めていた。
「反応は悪くなかったんじゃないかな」
演説の後は村の上役を集めた会談。その後、宿で一泊する事になった。
エステルが泊まるぼろな、しかしこの村では最上級の部屋の前。キヅカはCharlotteと肩を並べる。
「そうだな。少なくとも影武者であるとはバレていないだろう」
「その分色々言われたけどね。皇帝陛下は?」
「部屋でご乱心だったが、少し前から静かになった。今はラン君がついている」
女は肩を竦め。
「だから私が代わると言ったのだ。影武者等、やって気持ちのいい物ではないよ」
「大怪我したり?」
キヅカの言葉にふっと笑みを浮かべる。と、そこへジュードがトレイに料理を乗せ階段を上がってくる。
「陛下にお夕飯をお持ちしましたよ。料理には立ち合わせて貰ったけど、一応毒味してね」
二人の視線がキヅカに向けられる。
「え? ここで変に緊張感高めるのやめてよ」
銀のスプーンは銀のまま。Charlotteは料理を手に部屋に入る。
「厳靖さんが宿を貸しきってくれたから、部屋で食べなくてもいいんだけどねー」
「念には念。で、その厳靖さんは?」
「情報収集にと酒場に向かいました。俺達も交代で食事にしよっか」
「陛下はまだあんな小さいのに頑張ってる。それはわかるんだけどよぉ。ずっと続く戦いで、俺達も疲れてんだ」
一方、村の酒場では厳靖がおやじ達に混じり樽ジョッキを傾けていた。
「革命からこっち、ずっと戦いだ。歪虚だけじゃねぇ、人間同士でも争ってる。そんな国ぁここだけだろうぜ」
「まあ、なんとかならぁ……とはいかんね。先が見えないってのは、中々どうして耐え難い」
厳靖は頷きながら話を聞く。
話は極端だ。ただ国が悪い、皇帝が悪いと喚く者もいる。聞けば自業自得な事も多い。
だが、人は皆何かに責任を押し付けたがる。それはわかりやすい方がいい。
誰かが悪かった事にしなければ気がすまない。そんな悲しみがこの国には長年積もっているのだ。
「今日は俺の奢りだ。遠慮無く飲んでくれ。……あ、帝国軍第一師団で領収書頼むな」
真夜中の宿に銃声が響き渡った。
「そして寝てる暇もないと……僕、今日も運転するんだけど」
面倒臭そうにライフルを手に廊下を走るキヅカ。時刻は既に0時を回っている。
通路の曲がり角ではジュードが拳銃で応戦中。階段の上下で銃撃戦になっていた。
「くそう。居眠り運転したらどうしてくれる」
「チンピラの装備じゃないね。この村に元々居たのか、それとも……」
黒ずくめの男達は高級な魔導銃で武装している。こんな寂れた村に用意する財力はないはずだが。
「あ。硝子の割れる音だ」
「こっちは俺がなんとかしとくよ。全く、眠れない夜になりそう」
階段を飛び降りながら二丁拳銃を連射するジュードを見送り引き返すキヅカ。その先では廊下で交戦するランの姿があった。
といっても直ぐに決着する。ランは銃撃をかいくぐり、レイピアで次々に襲撃者を倒してしまった。
「あはは、レディの寝室に忍び込もうなんて、紳士としてなってないね? 君?」
「ぐっ、死神に魅入られた化け物共が。あの女は人間ではない……!」
「ん~? そういう言い方は関心しないな~。レディをあんまり侮辱すると、僕怒っちゃうよ?」
倒れた男の腕をねじ上げながら笑みを浮かべるラン。こっちは問題なさそうなので部屋に入ると、開いた窓辺でCharlotteが発砲していた。
「おう、キヅカか」
「状況は?」
「見ての通りだ。窓から侵入しようとした輩が居たので突き落としてやったわ!」
槍を手に豪快に笑う厳靖。酒臭いです。
結論から言うと襲撃者の撃退は直ぐ終わった。非覚醒者ではどう足掻いても覚醒者集団には及ばない。
捕らえられた者達は流石に無罪放免とは行かない。軽く取り調べし、帝国軍へ引き渡す事になった。
「君に今、思うことがあるならばこんなやり方をすべきではない。改めて、今度は正しい形で“私”に声を届けたまえ。どんな意見であれ、“私”はそれを無視はしない」
縄で縛り上げられた男達の前に腰を落とし、エステルは告げる。
「革命で散々血を啜ったウランゲルの女が何を言う!」
「貴様は痛みを知らぬからそのような綺麗事を口にする! 呪われろ、怪物め!」
男達の頭にげんこつをかます厳靖。
「こいつらは俺が別室で見張っておこう。全く、大の大人がみっともねえ」
引きずられて男達は消え去った。エステルはそれを見届けゆっくり立ち上がる。
「……これで良いのでしょ? ヴィルヘルミナ・ウランゲル」
ぽつりと呟くエステルの肩をジュードが叩く。
「後の事は俺達に任せ、陛下はお休み下さい」
「そうそうー。僕らはほら、車で移動中に寝るからさー」
「え? 運転する僕は?」
「がんばってねー、キヅカ君!」
「アッハイ」
ランの無慈悲な笑顔にキヅカは肩を落とした。
護衛を除いた仲間達が退室すると、エステルは深い溜息を共にベッドに倒れこんだ。
「容赦せよ、か……」
瞼を閉じればあの女の姿が思い浮かぶ。嫌いだからこそ、認めたくないからこそ、深く脳裏に焼き付いている。
女はいつも笑っている。自らを否定されても、死と隣合わせの戦場に置いても。
許すと言った女を許した者はいるのだろうか。守るべき民に許されぬ彼女は、今……。
窓際の椅子に腰掛けたCharlotteは眼鏡を外し月を見上げる。疲れきった少女は小さく寝息を立てていた。
「やられた」
早朝、出立の時。キヅカはトラックの前でくまの出来た目を細める。
「パンクさせられてる。こういうのもあるのか……」
情けなくなったタイヤの前に屈んで溜息を零す。朝から前途多難である。
「キヅカさん、頑張って!」
親指を立てたジュードのいい笑顔に遠い目になる。ジュードはまだ寝ているエステルをランと協力し荷台に詰め込んでいる。
「どれ、手を貸そう。道具はあるか?」
「流石に想定外」
Charlotteと並んでタイヤを眺めるが、修理道具がない。
「おーい! 村で使えそうなもん借りてきたぞー!」
そこへ厳靖が手を振りながら歩いてくる。簡単な工具箱だが、騙し騙しに修理出来るかもしれない。
「どうだ。持つべきものは酒飲み仲間よ!」
「襲撃時に酔っぱらってたくせに……」
「ちゃんと任務は果たしただろう!?」
そんな二人を他所に工具箱を開くCharlotte。一方、荷台では寝ぼけているエステルがランとジュードに化粧されていた。
「こんな調子でやり遂げられるのかなあ」
昇ったばかりの朝日に手を翳し、キヅカは遠く旅立った皇帝を想う。
「大丈夫……だよね」
「ああ。なんとか修理出来そうだ」
Charlotteに言ったわけではなかったが、それはそれで。
トラックとバイクがエンジンを唸らせ、影武者と護衛達を乗せ、再び走り出した。
行く先々で彼らは政治を良く思わない者達に襲われ、それに懲りずに不満の目線を向ける民へ言葉を投げかけた。
一見すると無意味で無価値なその行いを続ける事はきっと難しい。三日間だって大変なのだ。
それでもエステルは諦めずに訴え続けた。その言葉が誰かに届く事を信じて。
そしてそうした活動の中で、皇帝に声援を向ける者もいた。向けられすぎる事もあった。
信奉にも近い、無思考な信頼をぶつけられる事は、理不尽な罵声と何が違うのだろう?
皇帝は、民は自分を見ているわけではなく、皇帝というイメージを見ているだけだと言った。
その言葉の意味を確かめるように、ハンター達は限られた三日間を過ごした。
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エステル・L・V・W(ka0548)
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相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/04/15 22:44:04 |
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呼んでますよ、ルミナちゃん 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/04/15 05:18:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/13 23:15:48 |