ゲスト
(ka0000)
【不動】王国の軋み
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/18 07:30
- 完成日
- 2015/04/24 19:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「“王国としては”これ以上の派兵をしない。けど、我が国の、そして王女殿下の御為、はたまた隣人の為に義勇を以って“貴族の誰かさんが個人的に出兵する”、なんかは夫々の自己責任……ということでいいんじゃない?」
聖地奪還を図る辺境に対して増派の是非を問う王国の円卓会議は、シャルシェレット家当主ヘクスのその言葉を結論として閉会されると、会議の参加者の一人、ベルムド・ダフィールド侯爵は苦虫を噛み潰したようなその表情を隠さなかった。
王国がまだ一地方都市国家『イルダーナ』であった頃、現在の王国北東部に存在した『アルマカヌス共和国』── ダフィールド家はそのアルマカヌス共和国時代から連なる有力者の系譜であった。共和国が王国に併呑された後は王国でも古参の貴族として権勢を誇ってきたが、それも代を重ねる内に失われていき…… 今では暗愚な当主の頭の上に由緒ある家名のみが、何の重みもなくただ軽薄な輝きを放つだけの存在となっていた。
とは言え、それでも円卓会議に名を連ねる有力貴族の一翼としてその政治的影響力は無視し得るものではなく、ベルムドの周りにはいつも取り巻きの小貴族が大勢いた。
その日も議場から出るや否や、ベルムドは取り巻きたちに囲まれた。外見的には何ら特徴のない、中肉中背の中年男である。装飾過剰な豪華な礼服と、やたらと威張りくさって見える口髭だけが必要以上に目立っている。
「冗談ではない」
ベルムドは取り巻きたちに会議の内容を伝えると、不機嫌そうにそう吐き捨てた。
本来であれば、今回の会議は貴族たちの主張である『増派無し』で決定するはずだった。それがヘクスの一言で自主派遣に引っくり返った。……或いは中央は、事あるごとに我ら貴族の兵力と財力をすり潰していくつもりでないか? そんな疑念すら浮かんでくる。
「わしは派兵せぬぞ」
ベルムドがそう言うと周りの貴族たちもまた同調した。その決断を誉めそやされて、ようやくその機嫌も直る。
「流石ですね」
と、若い貴族の一人がベルムドを持ち上げた。
王女の呼びかけに応じて兵を派遣する貴族が出れば、王国のあちこちで兵力のバランスが崩れ、穴が開く。それは歪虚の侵略を招くほどのものではないが…… 貴族たちの力関係、その天秤が揺らぐ一因にはなる。
ベルムドは内心、ハッとした。正直、そこまで考えていたわけではなかったが…… 確かに、自家の勢力伸張の好機となり得る。
ベルムドはそんな内心をおくびにも出さず、ただニィッと笑って見せた。貴族たちもまた息を呑むと、おべんちゃらでもってベルムドに追従した。
円卓会議の決定を受け、王国から各地へ布告がなされた。
それを受け、ある者たちは派兵を決めた。王家への忠義の為。或いは尚武の家系ゆえ。中には中央で権勢を振るう(と見る者もいる)大司教に取り入り、近づく為に。
ある者たちは静観を決め込んだ。派兵に利を見出せぬが為に。或いは、他家の動向を見極めなければならぬが故に。
増派の兵が王国を発って暫くして…… 王国の各地の貴族の間で小さな諍いが頻発するようになった。
王国騎士団長エリオット・ヴァレンタインはその脳裏にヘクスの顔を思い描いて苦虫を噛み締めながら。頭を抱えつつも各地へ巡察官の派遣を決めた。
●
王国北東部、山間部に近いとある小さな街──
依頼を受けたハンターたちが集合場所に指定されたその酒場は、街道沿いのどこの町にでもあるような、ごく普通の宿屋を兼ねた酒場であった。即ち、旅人や行商人がよく利用するような、そんな店だ。
依頼人が来るまでの間、ハンターたちが時間を潰していると、そんな彼らの噂話が嫌でも耳に入ってきた。それは、この道の先──スフィルト家が所有する一部の領地に、隣接するダフィールド家が一方的に兵と役人とを送り込んできた、というものだった。
元々、その地域はスフィルト家とダフィールド家、双方の長年にわたる係争地であったのだが、両家は代々、問題にはせずに上手くやって来た。だが、スフィルト家が辺境へ兵を派遣したことを機に、ダフィールド家がその地を押さえた。スウィフト家の抗議に対し、ダフィールド家当主ベルムドはこう答えたという。
この地がアルマカヌスと呼ばれていた時代から、かの地は我がダフィールド家の領地であった、と──
とりあえず、自分たちには関係のない話題だとハンターたちが聞き流している内に、ようやく依頼人と名乗る男がかの酒場に現れた。
旅人や商人たちの噂話に眉をひそめ、場所を変えましょう、と二階へ上がり。ハンターたちの為に取ったという宿の一室にて話を切り出す。
「森と山と湖とが広がるこの王国北東部には、街道からちょっと奥に入れば、怪物と呼ばれるような大型生物が生息しているようなところがごろごろあります。中には森から出てきて人に害を与えるものもいます」
その様な個体の退治をお願いしたいのだ、と依頼人はハンターたちに告げた。
「退治をお願いしたい個体は角オオトカゲ── 頭部に巨大な角を生やした大型の爬虫類です。長大な野太い尻尾と強靭な鱗を持ち、ある学者などは、飛竜のように竜種の眷属とかその流れを汲む亜種なのではないか、と言うものもいます」
眉唾ものですけどね、と笑いながら、依頼人は話を続けた。
「ともあれ、そんな大物を相手にハンターさんたちだけで何とかしてくれとは言いません。領主も大規模な討伐隊を編成しています。ハンターさんたちは森の中の巣にいる角オオトカゲを攻撃し、怒らせて森の外まで連れ出してください。広い所に誘き出せれば、後は討伐隊が弩と長槍で片をつけます」
翌日、ハンターたちは宿を引き払い、依頼人の案内に従って街道から森へと入った。途中、何度か長爪猿や熊系との遭遇戦闘をやり過ごし…… 想定よりもずっと深い場所まで森を奥へと進む……
「……あれです」
途中、野生動物の水飲み場と思しき湧き水の泉の池で、日向で眠る巨大な有角のトカゲを指差し、依頼人が言う。気配に気づき、頭を上げてこちらを見つめる角オオトカゲ。警戒したままジッと動かぬそれにハンターたちは頷き合うと一斉射を浴びせかけ…… KyshaAaaa……! と吼え声を上げるそれから整然と離脱する。
「伏兵はこっちでいいのか?!」
威嚇するように襟巻きを広げ、二本足で立ち上がって猛追して来る角オオトカゲから本気で逃げ走りながら、誘導役たる依頼人に大声で尋ねるハンターたち。
森を抜ける。いつの間にか依頼人はいなくなっていた。
目の前には兵はなく。その場にいたのは騎馬の2人と徒歩の従者が数人だけ──
「何ものか! 我々を王国の巡察官と知っての狼藉か!」
「巡察官!? 領主の伏兵は!?」
予想外の突発事態に混乱する巡察官とハンターたち。背後の森の切れ目から、激怒した角オオトカゲが雄叫びを上げ、見境もなく暴れ始めた。
聖地奪還を図る辺境に対して増派の是非を問う王国の円卓会議は、シャルシェレット家当主ヘクスのその言葉を結論として閉会されると、会議の参加者の一人、ベルムド・ダフィールド侯爵は苦虫を噛み潰したようなその表情を隠さなかった。
王国がまだ一地方都市国家『イルダーナ』であった頃、現在の王国北東部に存在した『アルマカヌス共和国』── ダフィールド家はそのアルマカヌス共和国時代から連なる有力者の系譜であった。共和国が王国に併呑された後は王国でも古参の貴族として権勢を誇ってきたが、それも代を重ねる内に失われていき…… 今では暗愚な当主の頭の上に由緒ある家名のみが、何の重みもなくただ軽薄な輝きを放つだけの存在となっていた。
とは言え、それでも円卓会議に名を連ねる有力貴族の一翼としてその政治的影響力は無視し得るものではなく、ベルムドの周りにはいつも取り巻きの小貴族が大勢いた。
その日も議場から出るや否や、ベルムドは取り巻きたちに囲まれた。外見的には何ら特徴のない、中肉中背の中年男である。装飾過剰な豪華な礼服と、やたらと威張りくさって見える口髭だけが必要以上に目立っている。
「冗談ではない」
ベルムドは取り巻きたちに会議の内容を伝えると、不機嫌そうにそう吐き捨てた。
本来であれば、今回の会議は貴族たちの主張である『増派無し』で決定するはずだった。それがヘクスの一言で自主派遣に引っくり返った。……或いは中央は、事あるごとに我ら貴族の兵力と財力をすり潰していくつもりでないか? そんな疑念すら浮かんでくる。
「わしは派兵せぬぞ」
ベルムドがそう言うと周りの貴族たちもまた同調した。その決断を誉めそやされて、ようやくその機嫌も直る。
「流石ですね」
と、若い貴族の一人がベルムドを持ち上げた。
王女の呼びかけに応じて兵を派遣する貴族が出れば、王国のあちこちで兵力のバランスが崩れ、穴が開く。それは歪虚の侵略を招くほどのものではないが…… 貴族たちの力関係、その天秤が揺らぐ一因にはなる。
ベルムドは内心、ハッとした。正直、そこまで考えていたわけではなかったが…… 確かに、自家の勢力伸張の好機となり得る。
ベルムドはそんな内心をおくびにも出さず、ただニィッと笑って見せた。貴族たちもまた息を呑むと、おべんちゃらでもってベルムドに追従した。
円卓会議の決定を受け、王国から各地へ布告がなされた。
それを受け、ある者たちは派兵を決めた。王家への忠義の為。或いは尚武の家系ゆえ。中には中央で権勢を振るう(と見る者もいる)大司教に取り入り、近づく為に。
ある者たちは静観を決め込んだ。派兵に利を見出せぬが為に。或いは、他家の動向を見極めなければならぬが故に。
増派の兵が王国を発って暫くして…… 王国の各地の貴族の間で小さな諍いが頻発するようになった。
王国騎士団長エリオット・ヴァレンタインはその脳裏にヘクスの顔を思い描いて苦虫を噛み締めながら。頭を抱えつつも各地へ巡察官の派遣を決めた。
●
王国北東部、山間部に近いとある小さな街──
依頼を受けたハンターたちが集合場所に指定されたその酒場は、街道沿いのどこの町にでもあるような、ごく普通の宿屋を兼ねた酒場であった。即ち、旅人や行商人がよく利用するような、そんな店だ。
依頼人が来るまでの間、ハンターたちが時間を潰していると、そんな彼らの噂話が嫌でも耳に入ってきた。それは、この道の先──スフィルト家が所有する一部の領地に、隣接するダフィールド家が一方的に兵と役人とを送り込んできた、というものだった。
元々、その地域はスフィルト家とダフィールド家、双方の長年にわたる係争地であったのだが、両家は代々、問題にはせずに上手くやって来た。だが、スフィルト家が辺境へ兵を派遣したことを機に、ダフィールド家がその地を押さえた。スウィフト家の抗議に対し、ダフィールド家当主ベルムドはこう答えたという。
この地がアルマカヌスと呼ばれていた時代から、かの地は我がダフィールド家の領地であった、と──
とりあえず、自分たちには関係のない話題だとハンターたちが聞き流している内に、ようやく依頼人と名乗る男がかの酒場に現れた。
旅人や商人たちの噂話に眉をひそめ、場所を変えましょう、と二階へ上がり。ハンターたちの為に取ったという宿の一室にて話を切り出す。
「森と山と湖とが広がるこの王国北東部には、街道からちょっと奥に入れば、怪物と呼ばれるような大型生物が生息しているようなところがごろごろあります。中には森から出てきて人に害を与えるものもいます」
その様な個体の退治をお願いしたいのだ、と依頼人はハンターたちに告げた。
「退治をお願いしたい個体は角オオトカゲ── 頭部に巨大な角を生やした大型の爬虫類です。長大な野太い尻尾と強靭な鱗を持ち、ある学者などは、飛竜のように竜種の眷属とかその流れを汲む亜種なのではないか、と言うものもいます」
眉唾ものですけどね、と笑いながら、依頼人は話を続けた。
「ともあれ、そんな大物を相手にハンターさんたちだけで何とかしてくれとは言いません。領主も大規模な討伐隊を編成しています。ハンターさんたちは森の中の巣にいる角オオトカゲを攻撃し、怒らせて森の外まで連れ出してください。広い所に誘き出せれば、後は討伐隊が弩と長槍で片をつけます」
翌日、ハンターたちは宿を引き払い、依頼人の案内に従って街道から森へと入った。途中、何度か長爪猿や熊系との遭遇戦闘をやり過ごし…… 想定よりもずっと深い場所まで森を奥へと進む……
「……あれです」
途中、野生動物の水飲み場と思しき湧き水の泉の池で、日向で眠る巨大な有角のトカゲを指差し、依頼人が言う。気配に気づき、頭を上げてこちらを見つめる角オオトカゲ。警戒したままジッと動かぬそれにハンターたちは頷き合うと一斉射を浴びせかけ…… KyshaAaaa……! と吼え声を上げるそれから整然と離脱する。
「伏兵はこっちでいいのか?!」
威嚇するように襟巻きを広げ、二本足で立ち上がって猛追して来る角オオトカゲから本気で逃げ走りながら、誘導役たる依頼人に大声で尋ねるハンターたち。
森を抜ける。いつの間にか依頼人はいなくなっていた。
目の前には兵はなく。その場にいたのは騎馬の2人と徒歩の従者が数人だけ──
「何ものか! 我々を王国の巡察官と知っての狼藉か!」
「巡察官!? 領主の伏兵は!?」
予想外の突発事態に混乱する巡察官とハンターたち。背後の森の切れ目から、激怒した角オオトカゲが雄叫びを上げ、見境もなく暴れ始めた。
リプレイ本文
今にして思えば最初から胡散臭い依頼人ではあったのだ── 宿屋の一室で依頼の説明を受けた時の事を思い返しながら、クオン・サガラ(ka0018)は瞬間的にその様なことを考えていた。
「私も案内役に過ぎません。詳しくは分かりかねます……」
戦いを共にするはずの隊の規模や指揮官の名などを尋ねるクオンに、『依頼人』が明確な回答を避けていた事を思い出す。その時は気にしなかった。ソサエティで見た依頼書の内容にも特に齟齬などはなかったと記憶していたから。だが……
「何ものか! 我々を王国の巡察官と知っての狼藉か!」
その瞬間、ハンターたちはからくりを理解した。この状況が偶然の産物などと考える間抜けはハンターにはいない。
「王国の巡察官!? そうか、酒場で聞いたあの噂……!」
「嵌められた、ってことだね。巡察官の排除が狙いか。人間同士で争っている場合じゃないだろうに……!」
歯噛みするヴァルナ=エリゴス(ka2651)と誠堂 匠(ka2876)の横で、クオンは手にした得物を地面へ捨てた。巡察官からしてみれば、抜刀した集団(自分たちだ……)がいきなり森から飛び出して来た形となる。ややこしい事になる前に、まずは自分たちが敵ではないことを態度で示す必要があった。
「落ち着いてください。我々はハンターです。現在、依頼の遂行中で……」
「ともかく敵対する意思はない! この埴輪に誓って!」
言い切るアルト・ハーニー(ka0113)の背後に浮かぶ巨大なオーラ。浮かび上がった埴輪の手にはなぜか竹輪が握られている。
そうこうしている間に、現在の状況を問答無用で納得させる存在がその場に現れた。
周囲の木々を薙ぎ倒しながら森から飛び出して来る角オオトカゲ── その咆哮に巡察官が乗っていた馬が暴れだし。棹立ちになった馬から振り落とされた巡察官を、間一髪、足から滑り込んだシレークス(ka0752)が地面ギリギリで受け止める。
「ふぅ……! 怪我はありませんか、巡察官どの? 私は聖堂教会のシスターです。聖印は、えーと、あった、はい」
巡察官を抱き止めたまま、開いた胸元から(何かにぽよんと)挟まっていた聖印を取り出し、身分を示すシレークス。
ヴァルナもまた剣を鞘に収めると、一瞬、逡巡しながらも、そこに刻まれた紋章を示すことで己の身の証とした。
「エリゴス家当主が一子、ヴァルナ=エリゴスと申します。身の証を立てるには不足と存じますが、今はこの家紋に懸けて私たちを信じてくださいませんか……?」
巡察官たちは顔を見合わせ、コクコクと頷いた。選択肢はなかった。悩んでいる時間もなかった。森から飛び出して来たトカゲは止まらず、尻尾を器用に使って2本足で走りながらただ一目散にこちらへ突っ込んで来ていた。
「ともかく、この場は危険だ。仲間が『アレ』を惹き付けてる間に、早く安全な場所に!」
倒れた巡察官に手を貸しながら言うアルトのその言葉に、匠とリアン・カーネイ(ka0267)は顔を見合わせた。
「……それしかないか。嵌められたとは言え、俺たちがアレを街道へ誘き出してしまったのは事実」
「まずは皆の生存が最優先です。後で何をするにしても、生き残ってからの話ですから」
リアンの言葉を受け、依頼人を思い浮かべながらシレークスがポツリと呟く。
「……あの(ピー!)野郎。覚えてやがれです」
「え?」
「なんでもありませんわ、巡察官殿!」
リアンが簡潔に作戦を立てる。──班は2つ。今、巡察官側にいる4人が巡察官たちを南西へと誘導。他の4人はトカゲを足止め、北東側へと誘引する。その際、隊形は半包囲。目的は撃破ではなく森へ追い返す事なので、北側の包囲は開けておく。
「話は済んだな? では反転するぞ」
方針が固まるや否や、鹿島 雲雀(ka3706)は全長3mはあろうかという巨大な戦斧を構えてトカゲ目指して突っ込んでいった。
リリティア・オルベール(ka3054)がそれに並び行く。──いずれ竜に挑む身なれば、大物狩りの経験は積んでおきたい。好都合、とまでは言わぬが、自らの手であのトカゲを倒せるのであればそれこそ望むところ──!
先行する2人に魔道拳銃を構えた匠も続き、リアンもまたクオンたちに頷くと、槍を手に走っていく。
「馬で逃げることは諦めてください。完全に怯え切っています。徒歩で川の浅瀬を通って南西方向へこの場を脱してください」
「まて。川の中へ、だと?!」
「……道は一応避けてください。何が潜んでいるか分かりませんから」
シレークスに反駁しかけた巡察官たちは、クオンのその言葉に声を失い、了解した。
背後に響く戦場音楽── 巡察官たちが川へ入ったのを確認して、ヴァルナもまた戦場へと踵を返す。
「この状況…… 『ドキッ! 闇狩人(と疾影士)だらけのトカゲ退治!(ポロリもあるよ!)……とか思っていたらご覧の有様だよ!』ってところかね」
アルトの呟きにギロリとアルトを睨みつけると、シレークスは巡察官たちに急ぐよう発破をかけた。
「大精霊様の加護がありやがります! 急ぎやがr……こほん。どうかお急ぎを!」
●
突進して来るトカゲを斜め前方に見やりながら、匠は銃口を下に向けた姿勢でオオトカゲに向け駆けていた。
前方には三人の仲間。敵正面に回るリアンの後ろからリリティアと雲雀が左右に分かれて加速。それぞれギリギリをすれ違う距離感で突進していく。
対するトカゲは2本足で突撃しながら頭を下げ、角を前方へと突き出した。それを迎え撃つため脚を止め、騎兵に対する槍兵の様に足と大地で槍を保持してその穂先を突き出すリアン。匠もまた支援の為に銃口を跳ね上げると、突進するトカゲへ向け立て続けに発砲する。
「仕掛けますね! 足元注意ですよ……!」
「こいつが踏切代わりだ。止まりやがれ!!」
すれ違い様に呼吸を合わせ、左右から挟む形で同時攻撃を仕掛けるリリティアと雲雀。リリティアは構えた斬竜刀を横へ薙ぎ、トカゲの後肢付け根辺りへ斬りつけた。敵がその一撃を跳びかわす事態も想定し、雲雀はその小さな身体に抱え上げた巨大な戦斧をトカゲの胸部辺りを狙って斜めに叩きつける。
角オオトカゲは、だが、止まらなかった。その身に刃を受けても怯まず、立ち塞がる何もかもをその硬い鱗と巨大な質量で以って吹き飛ばす。
激突の衝撃に跳ね飛ばされるリリティアの斬竜刀。駒の様に弾かれ倒れる雲雀。リアンが敵の脚を狙って突き構えた槍の穂先は、目標を逸れて胴へと入った。その槍ごと大きく横へと吹き飛ばされるリアンの身体。鎧の表面を角の穂先が滑り、嫌な金属音を立てる。
まさに一蹴── だが、ハンターたちの攻撃もまたトカゲに痛打は与えていた。バランスを崩して転倒し、胸部からずざざーっと滑るオオトカゲ。体勢を整え直すハンターたちに、ジタバタもがき立ち上がりながら怒りに燃えた視線を見せる。
大きく息を吸い込むトカゲ。照準の向こうに見えたその挙動に匠が気づいた直後、再び咆哮が放たれた。耳を押さえるハンターたちをよそに、トカゲのエリマキがピカピカと光を孕み…… 振り向けた角の先、とっさに防御態勢を取った雲雀へ向かって七色怪光線が放たれる。
「これは…… 何度も貰ったら危ないなぁ」
ナイフの位置をそっと右手で確認し…… リリティアは大剣を構え直して雲雀を助けるべく敵との距離を詰めにいった。
戦いは続く。
オオトカゲの突進によって一旦、隊形を崩されたハンターたちは再び半包囲態勢を作った。
アイコンタクトで左右から敵を挟みこむリリティアと雲雀。リアンは敵の正面で守備重視。高所から槍の様に突き出されるトカゲの角と激しく槍を扱き合う。
雲雀は慎重に敵との間合いを計りながら、トカゲの首を薙ぐようにその巨大な戦斧を大きく横へと振るった。激突する刃と鱗。打撃の反動、揺らぐ巨体── トカゲの視線がギョロリと向き…… 雲雀は一歩下がってトカゲを誘い、こちらへ一歩踏み出させる。
「リリティア!」
「はいです!」
対にいるリリティアにトカゲの背後が露になり。すかさずリリティアは突っ込んだ。気づいたトカゲがぶっとい尻尾をぶんぶんと8の字に振り下ろし。それを左右のステップでかわしつつ肉薄。斬竜刀による一撃を全力で後肢に叩きつける。
薙ぎ払われる怪光線。その前兆にハッと気づいた匠は身を投げ出すように横へと転がりそれをかわすと、そのまま膝射姿勢を取って支援の牽制射を撃ち放つ。
雲雀側から振り子の様にぶぅんと振り回されるトカゲの角。視界の外から来たその攻撃をリアンが槍で上へと弾き。リリティアは思わず首を竦めながらもそれを大剣で受け流し、潜るようにトカゲへ肉薄、再度後肢を打ち据える。
「まだ足りない……! あの竜と戦うなら、軽く捻るくらいでないと……!」
荒くなった呼吸を整え、口の端に笑みすら浮かべるリリティア。そちらにトカゲの視線が向いた瞬間、雲雀は再度前へ出た。ぶぅんと横へ浮かぶ戦斧。回転する雲雀の身体に遅れて振り出された戦斧はトカゲの左後肢を直撃。その巨大な質量と遠心力とが硬い鱗を破砕する……
「ヴァルナ=エリゴス。加勢いたします!」
「ありがたい!」
後方から駆けつけて来たヴァルナが包囲網に加わると、リアンは守りの構えを解いて機動戦へと移行した。
素早く視線を飛ばして彼我の状況を確認するヴァルナ。──仲間の挟撃に翻弄され、角オオトカゲはその場でクルクルと回り続けている。狙うべきはダメージが蓄積している足と尻尾か。まずは立っている状態から地面へ引き摺り下ろす……!
ヴァルナは大剣を構えると正面から突進。右へ左へ向きを変えるトカゲの脚へと斬りつけた。数枚の鱗がキラキラと弾け飛び──ヴァルナはその反動を利用して剣を戻すと手首を返し、頭上から振り落ちて来たトカゲの角を斜め下へと受け流した。その間も剣身は流麗にして止まらず。流れるように弧を描いた刃を再度、先程と同じ箇所へと振り下ろし。下ろしつつ一歩退がってヒーリング。己の呼吸と傷を回復させて再び前進。フェイント交じりの剛剣でもって今度は尻尾に刃を立てる……
「まずはヤツの動きを止める。シレークス、合わせて行くぞ。ダブルハンマーだ!」
「体重の乗った軸足を潰すです。埴輪男、合わせやがれです!」
巡察官たちの避難を終え、戦場へと走るアルトとシレークス。クオンは弓に矢を番えるとトカゲの頭部を狙って引き絞り…… 敵の視線が2人を捉えたタイミングでそれを放った。弧を描き、唸りを上げて飛翔した矢が頭ではなく肩口に刺さる。再び矢を番えながら脳内で照準を修正し、再び放つ。今度は狙い過たず、矢はトカゲのエリマキを貫いた。
「っ! 咆哮、来ます!」
大きく息を吸う動作に気づいて警告を発する匠。それを聞いたリリティアは大剣を左肩に保持したまま右手でナイフを斜め上方へ投擲し。リアンもまた走りながら指に引っ掛けた戦輪をトカゲの口へと投射する。
口に異物を放り込まれたトカゲがガハッとそれを吐き出し、その隙に肉薄したシレークスとアルトが同時にハンマーを降り上げる。その拍子に、アルトの胸元から大事に仕舞っておいた筈の埴輪が零れ落ち(←ポロリ)。
「あ」 2人のハンマーがトカゲの後肢、その指の1本をグシャッと潰した。……埴輪ごと。
遂に2本足を維持できず、雄叫びと共に地面へと倒れ込むオオトカゲ。リアンはその倒れ行く巨体の下を潜って反対側──死角へ抜けるとクルリとその身を回転させて円運動により生まれた遠心力を直線運動へと変換。素早く繰り出した槍を前肢へと突き入れた。
「これだけの大きさ……懐も広い!」
手の中で柄を回し、傷口を抉りつつ槍を抜く。トカゲが振り返った時にはリアンは既に移動していた。同様に後肢を打ち貫き、尻尾による反撃を潜り抜けつつ反対側の後肢も突く。
機会であった。弾切れの銃を捨て、試作刀を鞘から引き抜く匠。内蔵されたモーターが唸りを上げ、刀身が目に見えぬほどに細かく振動する。
左右から前後へと位置を変え、挟撃で角と尻尾を打つリリティアと雲雀。避け切れなかった尻尾の先が戦斧によって切り飛ばされる。
ヴァルナは守りを捨てた構えで大剣を大きく振り上げると、リリティアが地面へ打ち下ろしたトカゲの角へ向かって渾身の力で叩き込んだ。鈍い音が響き渡り、硬い角にヒビが入る。
一気に距離を詰めた匠がそこへ振動剣を振り下ろした。高速振動する刃がチィィンッと鳴り、角の半ばまで刀身が喰い込む。切り落とすべく止まった刃を左手で押し込む匠。最後は蹴りまで入れて押し切ろうとしたが半ば以上は進まない。
「ダメかっ!?」
「離れてください!」
そこへヴァルナが再び大剣を振り被り…… 半ばまで喰い込んだ振動剣の嶺へと叩きつける。
千切れ飛ぶ大角。咆哮を上げ暴れるオオトカゲ。
バク宙で後方へと跳び退さった匠の視線の先で…… 角を失ったトカゲが戦意をなくし、その足を引き摺りながら一目散に森へと逃げていく。
「そうそう。森へお帰り!」
ドシン、と斧を地面へ下ろして、その背に雲雀が声をかける。倒し切れなかった、と名残惜しそうに見送るリリティア。
「……あのトカゲも被害者なのかもなぁ」
這う這うの体で逃げていくトカゲを見やって、雲雀は呟いた。
●
「で、謀ってくれた馬鹿はどうする?」
振り返って言う雲雀の言葉に、リアンとリリティアは顔を見合わせた。
「街の噂は本当なのかもしれません」
「今後もありますし、背後諸共厳罰を下してもらわないと、ですね」
正式な依頼書の写しがあるはず。それを巡察官に提出するのはどうだろう、とのリアンの言葉に、クオンも同意。後日、共に調べにいくことにする。
「首を洗って待っていやがれ、です」
利用してくれた相手へ復讐心を燃やすシレークス。一方、アルトは割れた埴輪に愕然と膝を落とす……
巡察官を王都まで護衛した後──
ソサエティに戻ったヴァルナは今回の依頼に関して巡察官とソサエティに提出する書類を作成し、『依頼人』に関してその詳細を記した。匠はその絵心? を活かし、人相書きを作成。提出所に添付する。
提出された依頼書は正式な書式に則ったものだった。記された部隊や指揮官の名もウィンパー家──騒動のあった領地の貴族だ──に実在した。ただし、封蝋の紋章は偽造──とされた。ちなみにウィンパー家はダフィールド派と目されている。
この件に関し、ダフィールド家は無関係だとの主張を貫いた。『依頼人』の男が死体で見つかると、そこで追求の糸は途切れてしまった。やがてスフィルト家は係争地に関する王家への訴えを取り下げた。なんらかの圧力があったものと思われる。
物的証拠もなしに大貴族を訴追できるほど、王家の権力基盤は磐石なものではなかった。
王国が、軋み始めていた。
「私も案内役に過ぎません。詳しくは分かりかねます……」
戦いを共にするはずの隊の規模や指揮官の名などを尋ねるクオンに、『依頼人』が明確な回答を避けていた事を思い出す。その時は気にしなかった。ソサエティで見た依頼書の内容にも特に齟齬などはなかったと記憶していたから。だが……
「何ものか! 我々を王国の巡察官と知っての狼藉か!」
その瞬間、ハンターたちはからくりを理解した。この状況が偶然の産物などと考える間抜けはハンターにはいない。
「王国の巡察官!? そうか、酒場で聞いたあの噂……!」
「嵌められた、ってことだね。巡察官の排除が狙いか。人間同士で争っている場合じゃないだろうに……!」
歯噛みするヴァルナ=エリゴス(ka2651)と誠堂 匠(ka2876)の横で、クオンは手にした得物を地面へ捨てた。巡察官からしてみれば、抜刀した集団(自分たちだ……)がいきなり森から飛び出して来た形となる。ややこしい事になる前に、まずは自分たちが敵ではないことを態度で示す必要があった。
「落ち着いてください。我々はハンターです。現在、依頼の遂行中で……」
「ともかく敵対する意思はない! この埴輪に誓って!」
言い切るアルト・ハーニー(ka0113)の背後に浮かぶ巨大なオーラ。浮かび上がった埴輪の手にはなぜか竹輪が握られている。
そうこうしている間に、現在の状況を問答無用で納得させる存在がその場に現れた。
周囲の木々を薙ぎ倒しながら森から飛び出して来る角オオトカゲ── その咆哮に巡察官が乗っていた馬が暴れだし。棹立ちになった馬から振り落とされた巡察官を、間一髪、足から滑り込んだシレークス(ka0752)が地面ギリギリで受け止める。
「ふぅ……! 怪我はありませんか、巡察官どの? 私は聖堂教会のシスターです。聖印は、えーと、あった、はい」
巡察官を抱き止めたまま、開いた胸元から(何かにぽよんと)挟まっていた聖印を取り出し、身分を示すシレークス。
ヴァルナもまた剣を鞘に収めると、一瞬、逡巡しながらも、そこに刻まれた紋章を示すことで己の身の証とした。
「エリゴス家当主が一子、ヴァルナ=エリゴスと申します。身の証を立てるには不足と存じますが、今はこの家紋に懸けて私たちを信じてくださいませんか……?」
巡察官たちは顔を見合わせ、コクコクと頷いた。選択肢はなかった。悩んでいる時間もなかった。森から飛び出して来たトカゲは止まらず、尻尾を器用に使って2本足で走りながらただ一目散にこちらへ突っ込んで来ていた。
「ともかく、この場は危険だ。仲間が『アレ』を惹き付けてる間に、早く安全な場所に!」
倒れた巡察官に手を貸しながら言うアルトのその言葉に、匠とリアン・カーネイ(ka0267)は顔を見合わせた。
「……それしかないか。嵌められたとは言え、俺たちがアレを街道へ誘き出してしまったのは事実」
「まずは皆の生存が最優先です。後で何をするにしても、生き残ってからの話ですから」
リアンの言葉を受け、依頼人を思い浮かべながらシレークスがポツリと呟く。
「……あの(ピー!)野郎。覚えてやがれです」
「え?」
「なんでもありませんわ、巡察官殿!」
リアンが簡潔に作戦を立てる。──班は2つ。今、巡察官側にいる4人が巡察官たちを南西へと誘導。他の4人はトカゲを足止め、北東側へと誘引する。その際、隊形は半包囲。目的は撃破ではなく森へ追い返す事なので、北側の包囲は開けておく。
「話は済んだな? では反転するぞ」
方針が固まるや否や、鹿島 雲雀(ka3706)は全長3mはあろうかという巨大な戦斧を構えてトカゲ目指して突っ込んでいった。
リリティア・オルベール(ka3054)がそれに並び行く。──いずれ竜に挑む身なれば、大物狩りの経験は積んでおきたい。好都合、とまでは言わぬが、自らの手であのトカゲを倒せるのであればそれこそ望むところ──!
先行する2人に魔道拳銃を構えた匠も続き、リアンもまたクオンたちに頷くと、槍を手に走っていく。
「馬で逃げることは諦めてください。完全に怯え切っています。徒歩で川の浅瀬を通って南西方向へこの場を脱してください」
「まて。川の中へ、だと?!」
「……道は一応避けてください。何が潜んでいるか分かりませんから」
シレークスに反駁しかけた巡察官たちは、クオンのその言葉に声を失い、了解した。
背後に響く戦場音楽── 巡察官たちが川へ入ったのを確認して、ヴァルナもまた戦場へと踵を返す。
「この状況…… 『ドキッ! 闇狩人(と疾影士)だらけのトカゲ退治!(ポロリもあるよ!)……とか思っていたらご覧の有様だよ!』ってところかね」
アルトの呟きにギロリとアルトを睨みつけると、シレークスは巡察官たちに急ぐよう発破をかけた。
「大精霊様の加護がありやがります! 急ぎやがr……こほん。どうかお急ぎを!」
●
突進して来るトカゲを斜め前方に見やりながら、匠は銃口を下に向けた姿勢でオオトカゲに向け駆けていた。
前方には三人の仲間。敵正面に回るリアンの後ろからリリティアと雲雀が左右に分かれて加速。それぞれギリギリをすれ違う距離感で突進していく。
対するトカゲは2本足で突撃しながら頭を下げ、角を前方へと突き出した。それを迎え撃つため脚を止め、騎兵に対する槍兵の様に足と大地で槍を保持してその穂先を突き出すリアン。匠もまた支援の為に銃口を跳ね上げると、突進するトカゲへ向け立て続けに発砲する。
「仕掛けますね! 足元注意ですよ……!」
「こいつが踏切代わりだ。止まりやがれ!!」
すれ違い様に呼吸を合わせ、左右から挟む形で同時攻撃を仕掛けるリリティアと雲雀。リリティアは構えた斬竜刀を横へ薙ぎ、トカゲの後肢付け根辺りへ斬りつけた。敵がその一撃を跳びかわす事態も想定し、雲雀はその小さな身体に抱え上げた巨大な戦斧をトカゲの胸部辺りを狙って斜めに叩きつける。
角オオトカゲは、だが、止まらなかった。その身に刃を受けても怯まず、立ち塞がる何もかもをその硬い鱗と巨大な質量で以って吹き飛ばす。
激突の衝撃に跳ね飛ばされるリリティアの斬竜刀。駒の様に弾かれ倒れる雲雀。リアンが敵の脚を狙って突き構えた槍の穂先は、目標を逸れて胴へと入った。その槍ごと大きく横へと吹き飛ばされるリアンの身体。鎧の表面を角の穂先が滑り、嫌な金属音を立てる。
まさに一蹴── だが、ハンターたちの攻撃もまたトカゲに痛打は与えていた。バランスを崩して転倒し、胸部からずざざーっと滑るオオトカゲ。体勢を整え直すハンターたちに、ジタバタもがき立ち上がりながら怒りに燃えた視線を見せる。
大きく息を吸い込むトカゲ。照準の向こうに見えたその挙動に匠が気づいた直後、再び咆哮が放たれた。耳を押さえるハンターたちをよそに、トカゲのエリマキがピカピカと光を孕み…… 振り向けた角の先、とっさに防御態勢を取った雲雀へ向かって七色怪光線が放たれる。
「これは…… 何度も貰ったら危ないなぁ」
ナイフの位置をそっと右手で確認し…… リリティアは大剣を構え直して雲雀を助けるべく敵との距離を詰めにいった。
戦いは続く。
オオトカゲの突進によって一旦、隊形を崩されたハンターたちは再び半包囲態勢を作った。
アイコンタクトで左右から敵を挟みこむリリティアと雲雀。リアンは敵の正面で守備重視。高所から槍の様に突き出されるトカゲの角と激しく槍を扱き合う。
雲雀は慎重に敵との間合いを計りながら、トカゲの首を薙ぐようにその巨大な戦斧を大きく横へと振るった。激突する刃と鱗。打撃の反動、揺らぐ巨体── トカゲの視線がギョロリと向き…… 雲雀は一歩下がってトカゲを誘い、こちらへ一歩踏み出させる。
「リリティア!」
「はいです!」
対にいるリリティアにトカゲの背後が露になり。すかさずリリティアは突っ込んだ。気づいたトカゲがぶっとい尻尾をぶんぶんと8の字に振り下ろし。それを左右のステップでかわしつつ肉薄。斬竜刀による一撃を全力で後肢に叩きつける。
薙ぎ払われる怪光線。その前兆にハッと気づいた匠は身を投げ出すように横へと転がりそれをかわすと、そのまま膝射姿勢を取って支援の牽制射を撃ち放つ。
雲雀側から振り子の様にぶぅんと振り回されるトカゲの角。視界の外から来たその攻撃をリアンが槍で上へと弾き。リリティアは思わず首を竦めながらもそれを大剣で受け流し、潜るようにトカゲへ肉薄、再度後肢を打ち据える。
「まだ足りない……! あの竜と戦うなら、軽く捻るくらいでないと……!」
荒くなった呼吸を整え、口の端に笑みすら浮かべるリリティア。そちらにトカゲの視線が向いた瞬間、雲雀は再度前へ出た。ぶぅんと横へ浮かぶ戦斧。回転する雲雀の身体に遅れて振り出された戦斧はトカゲの左後肢を直撃。その巨大な質量と遠心力とが硬い鱗を破砕する……
「ヴァルナ=エリゴス。加勢いたします!」
「ありがたい!」
後方から駆けつけて来たヴァルナが包囲網に加わると、リアンは守りの構えを解いて機動戦へと移行した。
素早く視線を飛ばして彼我の状況を確認するヴァルナ。──仲間の挟撃に翻弄され、角オオトカゲはその場でクルクルと回り続けている。狙うべきはダメージが蓄積している足と尻尾か。まずは立っている状態から地面へ引き摺り下ろす……!
ヴァルナは大剣を構えると正面から突進。右へ左へ向きを変えるトカゲの脚へと斬りつけた。数枚の鱗がキラキラと弾け飛び──ヴァルナはその反動を利用して剣を戻すと手首を返し、頭上から振り落ちて来たトカゲの角を斜め下へと受け流した。その間も剣身は流麗にして止まらず。流れるように弧を描いた刃を再度、先程と同じ箇所へと振り下ろし。下ろしつつ一歩退がってヒーリング。己の呼吸と傷を回復させて再び前進。フェイント交じりの剛剣でもって今度は尻尾に刃を立てる……
「まずはヤツの動きを止める。シレークス、合わせて行くぞ。ダブルハンマーだ!」
「体重の乗った軸足を潰すです。埴輪男、合わせやがれです!」
巡察官たちの避難を終え、戦場へと走るアルトとシレークス。クオンは弓に矢を番えるとトカゲの頭部を狙って引き絞り…… 敵の視線が2人を捉えたタイミングでそれを放った。弧を描き、唸りを上げて飛翔した矢が頭ではなく肩口に刺さる。再び矢を番えながら脳内で照準を修正し、再び放つ。今度は狙い過たず、矢はトカゲのエリマキを貫いた。
「っ! 咆哮、来ます!」
大きく息を吸う動作に気づいて警告を発する匠。それを聞いたリリティアは大剣を左肩に保持したまま右手でナイフを斜め上方へ投擲し。リアンもまた走りながら指に引っ掛けた戦輪をトカゲの口へと投射する。
口に異物を放り込まれたトカゲがガハッとそれを吐き出し、その隙に肉薄したシレークスとアルトが同時にハンマーを降り上げる。その拍子に、アルトの胸元から大事に仕舞っておいた筈の埴輪が零れ落ち(←ポロリ)。
「あ」 2人のハンマーがトカゲの後肢、その指の1本をグシャッと潰した。……埴輪ごと。
遂に2本足を維持できず、雄叫びと共に地面へと倒れ込むオオトカゲ。リアンはその倒れ行く巨体の下を潜って反対側──死角へ抜けるとクルリとその身を回転させて円運動により生まれた遠心力を直線運動へと変換。素早く繰り出した槍を前肢へと突き入れた。
「これだけの大きさ……懐も広い!」
手の中で柄を回し、傷口を抉りつつ槍を抜く。トカゲが振り返った時にはリアンは既に移動していた。同様に後肢を打ち貫き、尻尾による反撃を潜り抜けつつ反対側の後肢も突く。
機会であった。弾切れの銃を捨て、試作刀を鞘から引き抜く匠。内蔵されたモーターが唸りを上げ、刀身が目に見えぬほどに細かく振動する。
左右から前後へと位置を変え、挟撃で角と尻尾を打つリリティアと雲雀。避け切れなかった尻尾の先が戦斧によって切り飛ばされる。
ヴァルナは守りを捨てた構えで大剣を大きく振り上げると、リリティアが地面へ打ち下ろしたトカゲの角へ向かって渾身の力で叩き込んだ。鈍い音が響き渡り、硬い角にヒビが入る。
一気に距離を詰めた匠がそこへ振動剣を振り下ろした。高速振動する刃がチィィンッと鳴り、角の半ばまで刀身が喰い込む。切り落とすべく止まった刃を左手で押し込む匠。最後は蹴りまで入れて押し切ろうとしたが半ば以上は進まない。
「ダメかっ!?」
「離れてください!」
そこへヴァルナが再び大剣を振り被り…… 半ばまで喰い込んだ振動剣の嶺へと叩きつける。
千切れ飛ぶ大角。咆哮を上げ暴れるオオトカゲ。
バク宙で後方へと跳び退さった匠の視線の先で…… 角を失ったトカゲが戦意をなくし、その足を引き摺りながら一目散に森へと逃げていく。
「そうそう。森へお帰り!」
ドシン、と斧を地面へ下ろして、その背に雲雀が声をかける。倒し切れなかった、と名残惜しそうに見送るリリティア。
「……あのトカゲも被害者なのかもなぁ」
這う這うの体で逃げていくトカゲを見やって、雲雀は呟いた。
●
「で、謀ってくれた馬鹿はどうする?」
振り返って言う雲雀の言葉に、リアンとリリティアは顔を見合わせた。
「街の噂は本当なのかもしれません」
「今後もありますし、背後諸共厳罰を下してもらわないと、ですね」
正式な依頼書の写しがあるはず。それを巡察官に提出するのはどうだろう、とのリアンの言葉に、クオンも同意。後日、共に調べにいくことにする。
「首を洗って待っていやがれ、です」
利用してくれた相手へ復讐心を燃やすシレークス。一方、アルトは割れた埴輪に愕然と膝を落とす……
巡察官を王都まで護衛した後──
ソサエティに戻ったヴァルナは今回の依頼に関して巡察官とソサエティに提出する書類を作成し、『依頼人』に関してその詳細を記した。匠はその絵心? を活かし、人相書きを作成。提出所に添付する。
提出された依頼書は正式な書式に則ったものだった。記された部隊や指揮官の名もウィンパー家──騒動のあった領地の貴族だ──に実在した。ただし、封蝋の紋章は偽造──とされた。ちなみにウィンパー家はダフィールド派と目されている。
この件に関し、ダフィールド家は無関係だとの主張を貫いた。『依頼人』の男が死体で見つかると、そこで追求の糸は途切れてしまった。やがてスフィルト家は係争地に関する王家への訴えを取り下げた。なんらかの圧力があったものと思われる。
物的証拠もなしに大貴族を訴追できるほど、王家の権力基盤は磐石なものではなかった。
王国が、軋み始めていた。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 6人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鹿島 雲雀(ka3706) 人間(リアルブルー)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/04/18 01:16:23 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/14 07:00:56 |