ゲスト
(ka0000)
こけだま
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/17 15:00
- 完成日
- 2015/04/19 00:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある日森の中
その親子は病気の祖母のために薬草を採りに森に入った。
必死に薬草を探す母親と、早くもそれに飽きてしまった息子。
少年は母親の手から離れ、1人森の中を探索する事にした。
一歩踏み出せば逃げていく蛇を追いかけ、木の枝に頬をかすめながら奥へと入っていく。
すると、大きな樹の根元に、自分の背丈ほどの丸い物体があった。
それは緑色でふかふかと柔らかそうに見えた。
少年はそっとそれに近寄ると、恐る恐る触れてみた。
ちょっと湿っているが、想像通りのふかふかとした感触に、楽しくなってぽんぽんと叩いてみたり顔を埋めてみたり。
すっかりコレが気に入って、夢中で遊び始めた。
一方で母親は無事薬草を手に入れてほぅ、と息を吐いた。
「最近、鳥の鳴き声がしなくなったから、何か起こっているのかもしれない」
気をつけるようにと村の友人から言われていたが、特に変わりは無いように見えた。
「もぅ、大げさなんだから。……坊、帰るよ」
母親が声をかけたが、息子の姿が見えない。
「坊? 何処へ行ったの? 坊!」
木々をへし折りながら無理矢理通った箇所を見つけて、母親は必死にその跡を追った。
――母親の声が聞こえた気がして、ふかふかから顔を上げた。
「ここだよー!」
母の声に応えて大きく叫ぶと、よいしょ、とふかふかから身体を離そうと両手を突っ張った。
その両手に、しゅるしゅるっと蔦がまとわりついてきて、少年は小さな悲鳴を上げた。
「え? 何? 何なの?」
その蔦は意思があるように少年の両腕に絡まっていき、少年がどれほど暴れてもびくともしない。
「やだ、おっかぁ、おっかぁっ!!」
「坊!」
母親がやっとの思いで息子の姿を見つけた時、少年の身体は絡められた蔦により宙に浮いていた。
そして、後ろの巨大な苔玉のようなモノがぱかっと中央から左右に割れると少年はその中へと放り込まれた。
「坊!!」
母親は、反射的にその巨大な苔玉に駆け寄ると、苔玉を叩いて、割ろうと両手をかけて叫んだ。
「坊! 坊!!」
苔玉の向こうで、息子の声が聞こえた。
「あつい……いたいよ……おっかぁ、たすけておっかぁ!!」
「坊! 今助けるからね、助けるからね!」
母親は持っていた草刈り鎌で苔玉の表面を削り、先ほど割れた部分をこじ開けようと刃先を突き刺したが、苔玉はびくともしない。
「おっかぁ……あつい……いたいよぉ……たすけて……おっかぁ……」
高かったはずの陽はすっかり傾いて、間もなく夜の闇がやってくる頃。
息子が飲まれてから、ずっと母親は取り返そうと、自分が身代わりになるからと叫びながら、その苔玉に鎌を突き立て続けた。
ずっと、自分と息子の声だけが聞こえていたのに、いつからか自分の嗚咽だけになった。
「お願い……返事をしてぇ……」
泣き崩れる母親だけが、夜になり心配して駆けつけた村人達によって救出された。
●とある魔術師
「動かない雑魔なら、僕1人でも遠距離からの攻撃で何とかなるだろう。よし、行ってみよう」
たまたま近隣の村にハンターがいる、ということで村人総出でその男の元へ詰め寄り、退治を依頼したところ、男はあっさりとそれを引き受けた。
村人に案内され、雑魔の姿を視認したところで、男は村人を帰すと魔導銃を取り出した。
十分な距離を空け、狙いをすませてトリガーを引く。
しかし、マテリアルの弾丸が発射されると同時に蔦が本体に届く前に撃ち落とした。
「……偶然か?」
男はもう一度木の陰から狙いを付けて銃を放つ。
本体に吸い込まれるようにして命中したと同時に、蔦が届く範囲をめちゃめちゃに鞭打ち始めた。
「……わぉ」
男はさらに3発の弾丸を放ったが、その全てを撃ち落とされたため、銃での攻撃を諦めた。
次いで風を呼び集め雑魔へと放つが、雑魔はそれを蔦を集めてガードする。
切り刻まれた蔦は塵となって消えたが、またすぐに新たな蔦が生え蠢き始めた。
「ふむ。じゃぁコレは?」
素早く移動して距離を縮めると、燃え盛る炎の矢を放った。
一瞬にして雑魔を火だるまにして沈火する。
蔦は消し炭となって消え、本体も真っ黒になったが、またすぐに新たな蔦が生え蠢き始め、本体も緑色を取り戻し、ふさふさと表面の苔状の部分が揺れた。
「効いてない……わけじゃなさそうかな」
しかし、自分の魔力が尽きるのが先か、敵の体力が尽きるのが先かはわからない。
『あまり、得意じゃ無いんだが』と独りごちてから、腰元からナイフを引き抜くと、素早く駆け寄り蔦の合間を縫って本体へと突き立てた。
喩えるなら毛糸玉に刃を立てたような、そんな感触が男の手に伝わり、近接攻撃が有効である事を把握する。
蔦の反撃を受けながらも再び距離を取ると、雑魔は追撃せずに警戒するように蔦をうねらせる。
「感情が読めない敵っていうのはやっかいだね」
攻撃を受けた右腕を見る。腕にはミミズ腫れが出来ていたが、骨には異常なさそうだった。
ある程度距離を取ると攻撃してこない事を確認して、男は「戦略的撤退」と呟くと雑魔に背を向けた。
●ある日ハンターオフィスの中
「依頼です。苔玉のような外見をした雑魔を退治して来て下さい」
こけだま。と聞き慣れない言葉に首を傾げるハンター達に、説明係の女性は咳払い一つした後、図解を見せた。
「このように、直径1.3~1.5m程の球状の雑魔です。全身を緑の苔のようなモノで覆っています。複数の蔦状の触手を持っています。これが鞭のようにしなり、攻撃・防御・巻き付きなどを行います」
ボードには、緑の丸から、うねうねと緑の線が幾本も引かれた。
「この雑魔は球体の本体は動きません。ひたすら、その場に留まり、獲物が来たら蔦で絡め取って捕食しているようです」
そして、捕食したものが消化されるまでは、次の獲物を捕る事もしないようだ。
「子どもが1人、被害に遭いました。母親は心神喪失状態で、話しを聞く事は困難でしょう」
村の男が、要領を得ない母親の話を聞きまとめ、たまたま居合わせたハンターに討伐を依頼したが、「あれは1人じゃ無理だね」とオフィスへ依頼するよう助言を残し去ってしまったという。
しかし結果、その希有な特色がわかった、という事だった。
なお、現在は村の男達が交代で雑魔を見張っているが、やはり動く様子はないそうだ。
「母親に対しては何の攻撃も反撃もしなかったそうですが、ハンターの攻撃ともなれば、やはり雑魔もやり返してくるそうです。どうか、油断ならさず、討伐して来て下さい。……母親のためにも」
いつになく沈痛な面持ちで女性は深々と頭を下げた。
その親子は病気の祖母のために薬草を採りに森に入った。
必死に薬草を探す母親と、早くもそれに飽きてしまった息子。
少年は母親の手から離れ、1人森の中を探索する事にした。
一歩踏み出せば逃げていく蛇を追いかけ、木の枝に頬をかすめながら奥へと入っていく。
すると、大きな樹の根元に、自分の背丈ほどの丸い物体があった。
それは緑色でふかふかと柔らかそうに見えた。
少年はそっとそれに近寄ると、恐る恐る触れてみた。
ちょっと湿っているが、想像通りのふかふかとした感触に、楽しくなってぽんぽんと叩いてみたり顔を埋めてみたり。
すっかりコレが気に入って、夢中で遊び始めた。
一方で母親は無事薬草を手に入れてほぅ、と息を吐いた。
「最近、鳥の鳴き声がしなくなったから、何か起こっているのかもしれない」
気をつけるようにと村の友人から言われていたが、特に変わりは無いように見えた。
「もぅ、大げさなんだから。……坊、帰るよ」
母親が声をかけたが、息子の姿が見えない。
「坊? 何処へ行ったの? 坊!」
木々をへし折りながら無理矢理通った箇所を見つけて、母親は必死にその跡を追った。
――母親の声が聞こえた気がして、ふかふかから顔を上げた。
「ここだよー!」
母の声に応えて大きく叫ぶと、よいしょ、とふかふかから身体を離そうと両手を突っ張った。
その両手に、しゅるしゅるっと蔦がまとわりついてきて、少年は小さな悲鳴を上げた。
「え? 何? 何なの?」
その蔦は意思があるように少年の両腕に絡まっていき、少年がどれほど暴れてもびくともしない。
「やだ、おっかぁ、おっかぁっ!!」
「坊!」
母親がやっとの思いで息子の姿を見つけた時、少年の身体は絡められた蔦により宙に浮いていた。
そして、後ろの巨大な苔玉のようなモノがぱかっと中央から左右に割れると少年はその中へと放り込まれた。
「坊!!」
母親は、反射的にその巨大な苔玉に駆け寄ると、苔玉を叩いて、割ろうと両手をかけて叫んだ。
「坊! 坊!!」
苔玉の向こうで、息子の声が聞こえた。
「あつい……いたいよ……おっかぁ、たすけておっかぁ!!」
「坊! 今助けるからね、助けるからね!」
母親は持っていた草刈り鎌で苔玉の表面を削り、先ほど割れた部分をこじ開けようと刃先を突き刺したが、苔玉はびくともしない。
「おっかぁ……あつい……いたいよぉ……たすけて……おっかぁ……」
高かったはずの陽はすっかり傾いて、間もなく夜の闇がやってくる頃。
息子が飲まれてから、ずっと母親は取り返そうと、自分が身代わりになるからと叫びながら、その苔玉に鎌を突き立て続けた。
ずっと、自分と息子の声だけが聞こえていたのに、いつからか自分の嗚咽だけになった。
「お願い……返事をしてぇ……」
泣き崩れる母親だけが、夜になり心配して駆けつけた村人達によって救出された。
●とある魔術師
「動かない雑魔なら、僕1人でも遠距離からの攻撃で何とかなるだろう。よし、行ってみよう」
たまたま近隣の村にハンターがいる、ということで村人総出でその男の元へ詰め寄り、退治を依頼したところ、男はあっさりとそれを引き受けた。
村人に案内され、雑魔の姿を視認したところで、男は村人を帰すと魔導銃を取り出した。
十分な距離を空け、狙いをすませてトリガーを引く。
しかし、マテリアルの弾丸が発射されると同時に蔦が本体に届く前に撃ち落とした。
「……偶然か?」
男はもう一度木の陰から狙いを付けて銃を放つ。
本体に吸い込まれるようにして命中したと同時に、蔦が届く範囲をめちゃめちゃに鞭打ち始めた。
「……わぉ」
男はさらに3発の弾丸を放ったが、その全てを撃ち落とされたため、銃での攻撃を諦めた。
次いで風を呼び集め雑魔へと放つが、雑魔はそれを蔦を集めてガードする。
切り刻まれた蔦は塵となって消えたが、またすぐに新たな蔦が生え蠢き始めた。
「ふむ。じゃぁコレは?」
素早く移動して距離を縮めると、燃え盛る炎の矢を放った。
一瞬にして雑魔を火だるまにして沈火する。
蔦は消し炭となって消え、本体も真っ黒になったが、またすぐに新たな蔦が生え蠢き始め、本体も緑色を取り戻し、ふさふさと表面の苔状の部分が揺れた。
「効いてない……わけじゃなさそうかな」
しかし、自分の魔力が尽きるのが先か、敵の体力が尽きるのが先かはわからない。
『あまり、得意じゃ無いんだが』と独りごちてから、腰元からナイフを引き抜くと、素早く駆け寄り蔦の合間を縫って本体へと突き立てた。
喩えるなら毛糸玉に刃を立てたような、そんな感触が男の手に伝わり、近接攻撃が有効である事を把握する。
蔦の反撃を受けながらも再び距離を取ると、雑魔は追撃せずに警戒するように蔦をうねらせる。
「感情が読めない敵っていうのはやっかいだね」
攻撃を受けた右腕を見る。腕にはミミズ腫れが出来ていたが、骨には異常なさそうだった。
ある程度距離を取ると攻撃してこない事を確認して、男は「戦略的撤退」と呟くと雑魔に背を向けた。
●ある日ハンターオフィスの中
「依頼です。苔玉のような外見をした雑魔を退治して来て下さい」
こけだま。と聞き慣れない言葉に首を傾げるハンター達に、説明係の女性は咳払い一つした後、図解を見せた。
「このように、直径1.3~1.5m程の球状の雑魔です。全身を緑の苔のようなモノで覆っています。複数の蔦状の触手を持っています。これが鞭のようにしなり、攻撃・防御・巻き付きなどを行います」
ボードには、緑の丸から、うねうねと緑の線が幾本も引かれた。
「この雑魔は球体の本体は動きません。ひたすら、その場に留まり、獲物が来たら蔦で絡め取って捕食しているようです」
そして、捕食したものが消化されるまでは、次の獲物を捕る事もしないようだ。
「子どもが1人、被害に遭いました。母親は心神喪失状態で、話しを聞く事は困難でしょう」
村の男が、要領を得ない母親の話を聞きまとめ、たまたま居合わせたハンターに討伐を依頼したが、「あれは1人じゃ無理だね」とオフィスへ依頼するよう助言を残し去ってしまったという。
しかし結果、その希有な特色がわかった、という事だった。
なお、現在は村の男達が交代で雑魔を見張っているが、やはり動く様子はないそうだ。
「母親に対しては何の攻撃も反撃もしなかったそうですが、ハンターの攻撃ともなれば、やはり雑魔もやり返してくるそうです。どうか、油断ならさず、討伐して来て下さい。……母親のためにも」
いつになく沈痛な面持ちで女性は深々と頭を下げた。
リプレイ本文
●
「そう。そのハンターはもう去って行ってしまったんだ……」
「でもあんた達がやっつけてくれるんだろ? あんなおっかないバケモノが住み着いてからは鳥も見なくなっちまって、山菜採りもできなくて困っとったんだ」
霧雨 悠月(ka4130)の提案により、件のハンターの道案内をしたという村人に、雑魔までの道案内をしてもらったのだが、結局オフィスで仕入れた情報以上の事は何も分からなかった。
「あとは、真っ直ぐ行けば丸い緑の球体が見える」と村人は言うと、見張りをしていたもう1人の村人と共に6人に別れを告げ山を下りていく。帰りは教えてもらった目印を頼りに下りれば迷う事もないだろう。
それにしても不気味なほどに静かな森だった。生物の気配が途絶えた森というのはこんなにも静かなのかと悠月は柳眉を寄せた。
「食べられたらどうなっちゃうんだろう……?」
「……人を飲み込む食肉植物か。蔦が少々厄介だが、その辺は俺の腕次第、か。その母親の無念を晴らす為にもきちんと退治しなくてはならないな」
下級雑魔の討伐に参加した事はあれど、こうして現場に赴いて戦うのが初めての水無月 凛音(ka4638)が怯えたように呟くと、前を行く榊 兵庫(ka0010)が顎をさすりながら、凛音を励ますように、また自己を鼓舞するように応えた。
「ファッキンクソ雑魔の退治ねー。オッケー、塵一つ残さず消してやんよ」
聴く人によっては軽薄な口調ではあるが、さらにその前を行くダガーフォール(ka4044)の表情は真剣そのものだ。
そしてその口調に凛音は少し心が軽くなって「頑張らなきゃ」と両拳を握り締めた。
●
6人が茂みを分け進むと、ぽっかりと開けた原っぱに出た。その中央に鎮座する大きな樫の木の切り株の根元に1.5m程の球体は忽然と存在していた。
「子供を食ったのか……私が一番不愉快なのは女、子供……戦う力の無い者を一方的に襲う奴だ。弱い者全般を守りたくて騎士になったが……すでに間に合わなかったのなら、せめてかたきは取ろう」
ゲルト・フォン・B(ka3222)が剣を抜くと同時に、その背後に同じように剣を抜く天使の精霊が浮かび、白く輝く。
悠月も黒から銀の髪へと変え、戦いに備えて動物霊の力を呼び寄せる。
「こ、子供を食べるなんて……許せないです……」
その後ろで、今まで無言だったバナディアン・I(ka4344)がぼそりと呟くと、自分でも良くわからない激情に突き動かされ、両手にパイルバンカーを持って走り出した。
バナディアンの突然の行動に驚いた一同が止める間もなく、パイルバンカーの射程まで一気に駆け寄ると、バナディアンは躊躇なく引き金を引いて杭を発射した。
その攻撃は雑魔にとっても不意打ちだったのだろう。杭は見事に本体を貫通。衝撃に四本の蔦が周囲を鞭打ち始めた。その様子は己を攻撃したバナディアンの姿を探しているようにも見えた。
そして、回避やガードもせずに特攻を仕掛けたバナディアンは、ついに捉えられた。
「!!」
バナディアンはレーザーナイフを手に取ろうとしたがその手を蔦に絡み取られ、想像以上の力で引き寄せられていく。
「バナディアン!!」
「バナディアンさん!!」
兵庫と悠月が蔦を切り落とそうと走り込むより早く、雑魔は縦に大口を開けてバナディアンを放り込んだ。
バナディアンの全身を酸が焼く。その痛みに思わずバナディアンは絶叫した。
「っく!」
「オラァ、離せよ!」
ゲルトがメイルブレイカーに持ち替え、ダガーフォールがウィップでそれぞれ救出しようと動くが、蔦に阻まれ近付く事が出来ない。切り落としても切り落としてもその再生能力の方が早いのだ。
「個々で攻撃してもダメだ! 連携しなければ」
兵庫がゲルトを捉えた蔦を切り落とし、一旦距離を取らせる。
「っ、やっかいだな」
思わず悠月が悪態を吐く程には、とても狙いにくい状況だった。
各自自分が喰われた場合や、喰われる前の捕らわれた場合なら幾らでも対策は考えていたのだが、仲間が、となると咄嗟に対策が思いつけない。
「お、落ち着いてください! 内側は攻撃で破れそうですか?」
凛音は後衛から機導砲を打ち込もうとしたが、バナディアンの飲み込みきれなかった足首から先が見え、貫通の可能性がある以上狙いづらい。
しかし凛音が声をかけたことでバナディアンは冷静さを取り戻し、ナックルにマテリアルを込め、内側から獣の顎で食い千切るように殴りつけた。そこは先ほど自身が杭を打ち込んだ部分でもあり、その傷口を一層大きくする事に成功する。
その衝撃にぶわっと雑魔が大きく揺れると、四本の蔦を使ってバナディアンを吐き出した。
「バナディアンさん!」
ランアウトを駆使してダガーフォールがバナディアンを救出に走る。それを凛音が機導砲で援護し、それでも追ってくる蔦は兵庫と悠月が切り落とした。
「すまない……」
バナディアンは足首以外の肌の露出していた部分が焼き爛れていたが、命には別状なさそうだった。
このチーム唯一の聖導士であるゲルトに回復を任せると、当初の予定通り雑魔を囲んで叩くべく、兵庫、悠月、ダガーフォールはそれぞれ目標ポジションへと走った。
雑魔を中心としてゲルト、バナディアン、凛音が東側、北側に兵庫、西側にダガーフォールが付き、悠月は南側に立つとウィップを構えた。
「じゃぁ、始めようか」
悠月は射程いっぱいから鞭打つと、2本の蔦を自分側に引き付ける事に成功する。
実は悠月の正面には切り株があり、その向こうに雑魔がいるという状態だったが、攻撃する分には有利にも不利にもなりえない事を同時に確認する。
悠月の攻撃後、兵庫とダガーフォールが同時に攻撃を仕掛けに行くが、ダガーフォールが一手早くウィップを放つ。
一本が攻撃を受けて消え、一本はダガーフォールの腕に巻き付く。
2人の連携によりがら空きになった本体へ兵庫は強く踏み込むと、渾身の一撃を叩き込む。炎を孕んだその刃により、雑魔全てが一瞬炎に包まれ、蔦と表面が黒く焦げる。
そこに凛音の機導砲が追い打ちをかけるように命中する。しかし、すぐに焦げは自然落下し、また緑色の表面があらわになり、再生した蔦が現れる。
蔦から放たれたダガーフォールは一歩下がり、本体が火属性の攻撃を受けると蔦まで消えるという現象を目の当たりにして、ほくそ笑んだ。
「しぶといねぇ。兵庫さん、オレが引き付けるからガンガンその斧でやっちゃって!」
右前の悠月を見ると、彼もダガーフォールを見て小さく頷き、ウィップから日本刀へと武器を持ち替えた。
「凛音さん、援護よっしくー」
深刻さを感じさせない口調にも、「はい!」と真面目な凛音の返事を聞いて、ダガーフォールはついに楽しそうに笑った。
そして猛攻が始まった。
●
「っく!」
三本の蔦に脚を取られて転ばされた悠月に駆け寄り、ゲルトはその蔦を切り飛ばした。
「遅くなってすまない」
「自分は後衛からの援護に徹します」
ある程度傷が塞がったところでバナディアンが後衛に復帰すると、防御に自信があるゲルトは、更に全身を光で覆い自身の防御を強化して前衛へと躍り出た。
「大丈夫ですか?」
凛音がバナディアンの痛々しい傷を見て心配そうに声をかけるが、バナディアンは小さく頷いて……しかし視線は雑魔から離す事なく言った。
「敵は動きません。蔦の射程外から攻撃する分にはもう十分回復していただきました」
「……では、一緒に頑張りましょう」
2人は武器を構えて、同時に機導砲を撃ち放った。
2本の蔦が消滅したところを、ダガーフォールが鞭打ちながら他の二本を引き付ける。
再生して現れた蔦にゲルトが斬り込み、一本は自身の首へと巻き付いた。
兵庫が斧を振り下ろし、全ての蔦ごと炭へと変え、その一瞬を狙って悠月が日本刀を大きく振り抜く。
蔦から逃れたダガーフォールとゲルトは再生する蔦を再び引き付けるために攻撃を繰り出す。
切り落として消滅させても、すぐに再生する蔦に弾かれる。それよりは誰かが捕らわれれば、その分本体への攻撃が届きやすくなる。
そのからくりに気付いた6人の連携は上手くはまり、順調に雑魔へと攻撃し続けることに成功した。
――が。
「っつ! しまった!」
兵庫の攻撃を一本の蔦が防ぐ。焼失しなかった蔦は捉えていたダガーフォールから手を引き、再生した蔦と共にゲルトを捉え、大口の中へと引き摺り込んだ。
「ゲルトさん!」
凛音は悲痛な叫びと共に、拳銃へと持ち替えて蔦を引き付ける。
足首が出ていたバナディアンと違い、ゲルトは放り込まれる瞬間に受け身を取り、しゃがみ込んだ状態で飲み込まれていた。
そして自身が飲まれた場合も想定していたため、全身鎧の隙間からも侵入してくる酸に全身を焼かれながらも、冷静にシャインで内部を照らして観察していた。
そしてメイルブレイカーを手にとると、一番大きな傷――バナディアンが貫き引き裂いた傷――に刃を突き刺し、柄を両手で握り締めて全力でその傷を切り開いた。
その間も、5人は中に居るゲルトを傷付けないよう気をつけつつ攻撃をしていたが、現れた刃先に一旦攻撃を止め距離を取った。
本体は大きく内側から切り開かれ、蔦はでたらめに周囲を鞭打つ。
大きく口を開き、中に居るゲルトを排除しようと全ての蔦が口の中へと向かうのを見て、悠月は日本刀を構えて走り寄った。
「覚悟は良いかな。……この刀の刃音は、お前を闇路へと葬る狩人の遠吠えだ」
四本の蔦に捕らわれたゲルトがずるりと外へと引き摺り出された瞬間を狙い、渾身の力を込めてクラッシュブロウで斬り込んだ。ブチブチと繊維の切れる感触に悠月は眉を顰めながらも、返す刀でもう一撃放ち、飛び退くと、再び刀を構えた。
しかし、雑魔はもう動く事は無かった。静かに音も無く、蔦の先から跡一つ残さず消失したのだった。
●
雑魔が完全に消失したのを見て、兵庫は亡くなった子どもを想って黙祷を捧げた。
「遺体はまだ中にありますか……せめて埋葬だけでもしてあげましょう」
痛む身体を引き摺るバナディアンの提案に異を唱える者など誰もいなかった。
ゲルトとバナディアンの手当を凛音は行うこととし、悠月と兵庫、ダガーフォールは周囲を探し始めた。
雑魔の消えた跡はクレーター状にえぐれており、樫の木の切り株の根も半分ほどがむき出しになっていた。その根と根の間。キラリと光る物を見つけて、ダガーフォールが手を伸ばす。
それは丸く、紐が通る程の穴の空けられた手の平大の硝子だった。よく見るとその表面には名前が刻まれており、親が子の成長を願って贈るお守りである事を知る。
「骨一つ拾ってやれないのか」
悔しそうに呟く兵庫。
「動物の骨と人骨の区別つけられるんだけどね、オレ。どっちもなきゃ、どうしようもないね」
ダガーフォールは切り株の根元に膝を付けたまま、至って軽い口調で言う。だがその手に握られた硝子のお守りを、指先が白くなるほど強く握り締めている事に気付いて、悠月も唇を噛む。
もっと早く駆けつけられていたら? あのハンターが退治する事を諦めていなかったら? 母親がすぐに助けを求め下山していたら?
……どの可能性も限りなく低い。内部の酸は強く、ハンターでさえ自己回復では間に合わないほどの傷を負ったのだ。
ここに来る前。先んじて母親の様子を見てきた悠月は、深い哀しみの中にいる彼女を見て、同じヒトとして無念を晴らしてあげたいと思ったのを思い出す。
「日が落ちる前に帰ろう? 無事に討伐できた事を伝えなくちゃ」
「……そうだな」
悠月の呼びかけに兵庫が立ち上がり、バナディアンとゲルトに怪我の具合を尋ねる。
2人とも自力で山を下りるぐらいの体力は回復したらしい。
凛音はダガーフォールや悠月と入れ違いに、初めて雑魔のいた場所――切り株の傍まで来た。大きな雑魔だった。自分が近付いていたら多分飲まれていただろう。しかし敵は動かず、自分は後衛にいたため助かったのだという事実に今更ながら身震いがする。
「おーい、行くぞー」
兵庫の声に「はい」と返事をした後、兵庫に倣ってリアルブルーでやっていたように両手を合わせて子どもの冥福を祈ると、皆の後を追うべく走り出した。
●
怪我人のバナディアン、ゲルトを先に宿屋で休ませるために凛音に任せると、悠月、兵庫、ダガーフォールの3人は母親のいる家へと向かった。
被害に遭った子どもの祖母だという憔悴しきった老女に案内された部屋には、悠月が出発前に見た光景と変わらず、ぼんやりと視線を自分の手元に落とした女がベッドの上に座っていた。
「……俺にはこれくらいのことしかできないから、な」
兵庫は白い布に包んだ物を女の手に渡すが、女が開く様子を見せないので、さらにその布を開いて中を見せた。
女の目がそれを――硝子のお守りを捉えると、大粒の涙が次から次へと頬を伝わり、シーツの上へとしみを作っていく。
「…………」
かける言葉を見つけられなかった兵庫は、後頭部を乱暴に掻いて女から離れた。
入れ替わるようにダガーフォールが女へ近付くと、しゃがみ込んで女の目を見た。
「誰が悪いって、それもこれも雑魔が悪い。アンタのせいじゃない。子供はさ、一足先に大精霊のとこに行くことになっちゃったけど、アンタがちゃんと送ってやるんだ。いつかまた会えるように、子供が迷わないように。そして、酷だろうけどアンタはしっかり生きてくれ」
その言葉に、女は声を上げて泣き始めた。
子の名前を呼び、お守りを握り締め、しゃくり上げながら、泣き続けた。
兵庫と悠月はダガーフォールのまっすぐな思いが、彼女の心に届いたのを感じた。
2人はそっと退室し、部屋の外で静かに泣いていた祖母を見つけた。
発端はこの祖母が病に倒れたため、薬草を採りに行った事だったと思い出した兵庫が「他に手伝える事があれば」と声をかけたが、彼女は静かに首を横に振って「そのお気持ちだけで十分です」と頭を下げた。
「退治するだけでなく、孫の形見まで……皆さんのお心遣いのおかげで、あの子も、わたしも救われました……本当にありがとうございました」
涙ながらに伝えられた言葉に2人は頷くと、暫くして出てきたダガーフォールと共に家を出た。
その時、名前も知らない小さな鳥の群れが、山へと向かって飛んで行くのが悠月の目に映った。
静かすぎる森にも、また、生物の気配が戻るだろう。
時間はかかれど、山も人も生きているのだから。
「そう。そのハンターはもう去って行ってしまったんだ……」
「でもあんた達がやっつけてくれるんだろ? あんなおっかないバケモノが住み着いてからは鳥も見なくなっちまって、山菜採りもできなくて困っとったんだ」
霧雨 悠月(ka4130)の提案により、件のハンターの道案内をしたという村人に、雑魔までの道案内をしてもらったのだが、結局オフィスで仕入れた情報以上の事は何も分からなかった。
「あとは、真っ直ぐ行けば丸い緑の球体が見える」と村人は言うと、見張りをしていたもう1人の村人と共に6人に別れを告げ山を下りていく。帰りは教えてもらった目印を頼りに下りれば迷う事もないだろう。
それにしても不気味なほどに静かな森だった。生物の気配が途絶えた森というのはこんなにも静かなのかと悠月は柳眉を寄せた。
「食べられたらどうなっちゃうんだろう……?」
「……人を飲み込む食肉植物か。蔦が少々厄介だが、その辺は俺の腕次第、か。その母親の無念を晴らす為にもきちんと退治しなくてはならないな」
下級雑魔の討伐に参加した事はあれど、こうして現場に赴いて戦うのが初めての水無月 凛音(ka4638)が怯えたように呟くと、前を行く榊 兵庫(ka0010)が顎をさすりながら、凛音を励ますように、また自己を鼓舞するように応えた。
「ファッキンクソ雑魔の退治ねー。オッケー、塵一つ残さず消してやんよ」
聴く人によっては軽薄な口調ではあるが、さらにその前を行くダガーフォール(ka4044)の表情は真剣そのものだ。
そしてその口調に凛音は少し心が軽くなって「頑張らなきゃ」と両拳を握り締めた。
●
6人が茂みを分け進むと、ぽっかりと開けた原っぱに出た。その中央に鎮座する大きな樫の木の切り株の根元に1.5m程の球体は忽然と存在していた。
「子供を食ったのか……私が一番不愉快なのは女、子供……戦う力の無い者を一方的に襲う奴だ。弱い者全般を守りたくて騎士になったが……すでに間に合わなかったのなら、せめてかたきは取ろう」
ゲルト・フォン・B(ka3222)が剣を抜くと同時に、その背後に同じように剣を抜く天使の精霊が浮かび、白く輝く。
悠月も黒から銀の髪へと変え、戦いに備えて動物霊の力を呼び寄せる。
「こ、子供を食べるなんて……許せないです……」
その後ろで、今まで無言だったバナディアン・I(ka4344)がぼそりと呟くと、自分でも良くわからない激情に突き動かされ、両手にパイルバンカーを持って走り出した。
バナディアンの突然の行動に驚いた一同が止める間もなく、パイルバンカーの射程まで一気に駆け寄ると、バナディアンは躊躇なく引き金を引いて杭を発射した。
その攻撃は雑魔にとっても不意打ちだったのだろう。杭は見事に本体を貫通。衝撃に四本の蔦が周囲を鞭打ち始めた。その様子は己を攻撃したバナディアンの姿を探しているようにも見えた。
そして、回避やガードもせずに特攻を仕掛けたバナディアンは、ついに捉えられた。
「!!」
バナディアンはレーザーナイフを手に取ろうとしたがその手を蔦に絡み取られ、想像以上の力で引き寄せられていく。
「バナディアン!!」
「バナディアンさん!!」
兵庫と悠月が蔦を切り落とそうと走り込むより早く、雑魔は縦に大口を開けてバナディアンを放り込んだ。
バナディアンの全身を酸が焼く。その痛みに思わずバナディアンは絶叫した。
「っく!」
「オラァ、離せよ!」
ゲルトがメイルブレイカーに持ち替え、ダガーフォールがウィップでそれぞれ救出しようと動くが、蔦に阻まれ近付く事が出来ない。切り落としても切り落としてもその再生能力の方が早いのだ。
「個々で攻撃してもダメだ! 連携しなければ」
兵庫がゲルトを捉えた蔦を切り落とし、一旦距離を取らせる。
「っ、やっかいだな」
思わず悠月が悪態を吐く程には、とても狙いにくい状況だった。
各自自分が喰われた場合や、喰われる前の捕らわれた場合なら幾らでも対策は考えていたのだが、仲間が、となると咄嗟に対策が思いつけない。
「お、落ち着いてください! 内側は攻撃で破れそうですか?」
凛音は後衛から機導砲を打ち込もうとしたが、バナディアンの飲み込みきれなかった足首から先が見え、貫通の可能性がある以上狙いづらい。
しかし凛音が声をかけたことでバナディアンは冷静さを取り戻し、ナックルにマテリアルを込め、内側から獣の顎で食い千切るように殴りつけた。そこは先ほど自身が杭を打ち込んだ部分でもあり、その傷口を一層大きくする事に成功する。
その衝撃にぶわっと雑魔が大きく揺れると、四本の蔦を使ってバナディアンを吐き出した。
「バナディアンさん!」
ランアウトを駆使してダガーフォールがバナディアンを救出に走る。それを凛音が機導砲で援護し、それでも追ってくる蔦は兵庫と悠月が切り落とした。
「すまない……」
バナディアンは足首以外の肌の露出していた部分が焼き爛れていたが、命には別状なさそうだった。
このチーム唯一の聖導士であるゲルトに回復を任せると、当初の予定通り雑魔を囲んで叩くべく、兵庫、悠月、ダガーフォールはそれぞれ目標ポジションへと走った。
雑魔を中心としてゲルト、バナディアン、凛音が東側、北側に兵庫、西側にダガーフォールが付き、悠月は南側に立つとウィップを構えた。
「じゃぁ、始めようか」
悠月は射程いっぱいから鞭打つと、2本の蔦を自分側に引き付ける事に成功する。
実は悠月の正面には切り株があり、その向こうに雑魔がいるという状態だったが、攻撃する分には有利にも不利にもなりえない事を同時に確認する。
悠月の攻撃後、兵庫とダガーフォールが同時に攻撃を仕掛けに行くが、ダガーフォールが一手早くウィップを放つ。
一本が攻撃を受けて消え、一本はダガーフォールの腕に巻き付く。
2人の連携によりがら空きになった本体へ兵庫は強く踏み込むと、渾身の一撃を叩き込む。炎を孕んだその刃により、雑魔全てが一瞬炎に包まれ、蔦と表面が黒く焦げる。
そこに凛音の機導砲が追い打ちをかけるように命中する。しかし、すぐに焦げは自然落下し、また緑色の表面があらわになり、再生した蔦が現れる。
蔦から放たれたダガーフォールは一歩下がり、本体が火属性の攻撃を受けると蔦まで消えるという現象を目の当たりにして、ほくそ笑んだ。
「しぶといねぇ。兵庫さん、オレが引き付けるからガンガンその斧でやっちゃって!」
右前の悠月を見ると、彼もダガーフォールを見て小さく頷き、ウィップから日本刀へと武器を持ち替えた。
「凛音さん、援護よっしくー」
深刻さを感じさせない口調にも、「はい!」と真面目な凛音の返事を聞いて、ダガーフォールはついに楽しそうに笑った。
そして猛攻が始まった。
●
「っく!」
三本の蔦に脚を取られて転ばされた悠月に駆け寄り、ゲルトはその蔦を切り飛ばした。
「遅くなってすまない」
「自分は後衛からの援護に徹します」
ある程度傷が塞がったところでバナディアンが後衛に復帰すると、防御に自信があるゲルトは、更に全身を光で覆い自身の防御を強化して前衛へと躍り出た。
「大丈夫ですか?」
凛音がバナディアンの痛々しい傷を見て心配そうに声をかけるが、バナディアンは小さく頷いて……しかし視線は雑魔から離す事なく言った。
「敵は動きません。蔦の射程外から攻撃する分にはもう十分回復していただきました」
「……では、一緒に頑張りましょう」
2人は武器を構えて、同時に機導砲を撃ち放った。
2本の蔦が消滅したところを、ダガーフォールが鞭打ちながら他の二本を引き付ける。
再生して現れた蔦にゲルトが斬り込み、一本は自身の首へと巻き付いた。
兵庫が斧を振り下ろし、全ての蔦ごと炭へと変え、その一瞬を狙って悠月が日本刀を大きく振り抜く。
蔦から逃れたダガーフォールとゲルトは再生する蔦を再び引き付けるために攻撃を繰り出す。
切り落として消滅させても、すぐに再生する蔦に弾かれる。それよりは誰かが捕らわれれば、その分本体への攻撃が届きやすくなる。
そのからくりに気付いた6人の連携は上手くはまり、順調に雑魔へと攻撃し続けることに成功した。
――が。
「っつ! しまった!」
兵庫の攻撃を一本の蔦が防ぐ。焼失しなかった蔦は捉えていたダガーフォールから手を引き、再生した蔦と共にゲルトを捉え、大口の中へと引き摺り込んだ。
「ゲルトさん!」
凛音は悲痛な叫びと共に、拳銃へと持ち替えて蔦を引き付ける。
足首が出ていたバナディアンと違い、ゲルトは放り込まれる瞬間に受け身を取り、しゃがみ込んだ状態で飲み込まれていた。
そして自身が飲まれた場合も想定していたため、全身鎧の隙間からも侵入してくる酸に全身を焼かれながらも、冷静にシャインで内部を照らして観察していた。
そしてメイルブレイカーを手にとると、一番大きな傷――バナディアンが貫き引き裂いた傷――に刃を突き刺し、柄を両手で握り締めて全力でその傷を切り開いた。
その間も、5人は中に居るゲルトを傷付けないよう気をつけつつ攻撃をしていたが、現れた刃先に一旦攻撃を止め距離を取った。
本体は大きく内側から切り開かれ、蔦はでたらめに周囲を鞭打つ。
大きく口を開き、中に居るゲルトを排除しようと全ての蔦が口の中へと向かうのを見て、悠月は日本刀を構えて走り寄った。
「覚悟は良いかな。……この刀の刃音は、お前を闇路へと葬る狩人の遠吠えだ」
四本の蔦に捕らわれたゲルトがずるりと外へと引き摺り出された瞬間を狙い、渾身の力を込めてクラッシュブロウで斬り込んだ。ブチブチと繊維の切れる感触に悠月は眉を顰めながらも、返す刀でもう一撃放ち、飛び退くと、再び刀を構えた。
しかし、雑魔はもう動く事は無かった。静かに音も無く、蔦の先から跡一つ残さず消失したのだった。
●
雑魔が完全に消失したのを見て、兵庫は亡くなった子どもを想って黙祷を捧げた。
「遺体はまだ中にありますか……せめて埋葬だけでもしてあげましょう」
痛む身体を引き摺るバナディアンの提案に異を唱える者など誰もいなかった。
ゲルトとバナディアンの手当を凛音は行うこととし、悠月と兵庫、ダガーフォールは周囲を探し始めた。
雑魔の消えた跡はクレーター状にえぐれており、樫の木の切り株の根も半分ほどがむき出しになっていた。その根と根の間。キラリと光る物を見つけて、ダガーフォールが手を伸ばす。
それは丸く、紐が通る程の穴の空けられた手の平大の硝子だった。よく見るとその表面には名前が刻まれており、親が子の成長を願って贈るお守りである事を知る。
「骨一つ拾ってやれないのか」
悔しそうに呟く兵庫。
「動物の骨と人骨の区別つけられるんだけどね、オレ。どっちもなきゃ、どうしようもないね」
ダガーフォールは切り株の根元に膝を付けたまま、至って軽い口調で言う。だがその手に握られた硝子のお守りを、指先が白くなるほど強く握り締めている事に気付いて、悠月も唇を噛む。
もっと早く駆けつけられていたら? あのハンターが退治する事を諦めていなかったら? 母親がすぐに助けを求め下山していたら?
……どの可能性も限りなく低い。内部の酸は強く、ハンターでさえ自己回復では間に合わないほどの傷を負ったのだ。
ここに来る前。先んじて母親の様子を見てきた悠月は、深い哀しみの中にいる彼女を見て、同じヒトとして無念を晴らしてあげたいと思ったのを思い出す。
「日が落ちる前に帰ろう? 無事に討伐できた事を伝えなくちゃ」
「……そうだな」
悠月の呼びかけに兵庫が立ち上がり、バナディアンとゲルトに怪我の具合を尋ねる。
2人とも自力で山を下りるぐらいの体力は回復したらしい。
凛音はダガーフォールや悠月と入れ違いに、初めて雑魔のいた場所――切り株の傍まで来た。大きな雑魔だった。自分が近付いていたら多分飲まれていただろう。しかし敵は動かず、自分は後衛にいたため助かったのだという事実に今更ながら身震いがする。
「おーい、行くぞー」
兵庫の声に「はい」と返事をした後、兵庫に倣ってリアルブルーでやっていたように両手を合わせて子どもの冥福を祈ると、皆の後を追うべく走り出した。
●
怪我人のバナディアン、ゲルトを先に宿屋で休ませるために凛音に任せると、悠月、兵庫、ダガーフォールの3人は母親のいる家へと向かった。
被害に遭った子どもの祖母だという憔悴しきった老女に案内された部屋には、悠月が出発前に見た光景と変わらず、ぼんやりと視線を自分の手元に落とした女がベッドの上に座っていた。
「……俺にはこれくらいのことしかできないから、な」
兵庫は白い布に包んだ物を女の手に渡すが、女が開く様子を見せないので、さらにその布を開いて中を見せた。
女の目がそれを――硝子のお守りを捉えると、大粒の涙が次から次へと頬を伝わり、シーツの上へとしみを作っていく。
「…………」
かける言葉を見つけられなかった兵庫は、後頭部を乱暴に掻いて女から離れた。
入れ替わるようにダガーフォールが女へ近付くと、しゃがみ込んで女の目を見た。
「誰が悪いって、それもこれも雑魔が悪い。アンタのせいじゃない。子供はさ、一足先に大精霊のとこに行くことになっちゃったけど、アンタがちゃんと送ってやるんだ。いつかまた会えるように、子供が迷わないように。そして、酷だろうけどアンタはしっかり生きてくれ」
その言葉に、女は声を上げて泣き始めた。
子の名前を呼び、お守りを握り締め、しゃくり上げながら、泣き続けた。
兵庫と悠月はダガーフォールのまっすぐな思いが、彼女の心に届いたのを感じた。
2人はそっと退室し、部屋の外で静かに泣いていた祖母を見つけた。
発端はこの祖母が病に倒れたため、薬草を採りに行った事だったと思い出した兵庫が「他に手伝える事があれば」と声をかけたが、彼女は静かに首を横に振って「そのお気持ちだけで十分です」と頭を下げた。
「退治するだけでなく、孫の形見まで……皆さんのお心遣いのおかげで、あの子も、わたしも救われました……本当にありがとうございました」
涙ながらに伝えられた言葉に2人は頷くと、暫くして出てきたダガーフォールと共に家を出た。
その時、名前も知らない小さな鳥の群れが、山へと向かって飛んで行くのが悠月の目に映った。
静かすぎる森にも、また、生物の気配が戻るだろう。
時間はかかれど、山も人も生きているのだから。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 霧雨 悠月(ka4130) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/04/15 22:19:06 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/13 22:52:25 |