ゲスト
(ka0000)
俺を英雄にしてくれ!
マスター:秋風落葉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/18 09:00
- 完成日
- 2015/04/24 07:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●少年と少女
「ライお兄ちゃん、ライお兄ちゃん。また、おはなし聞かせて? 冒険のおはなし」
「おお、いいぜ!」
王都イルダーナ近くの名も無い村。
そこに一人の少年と少女がいた。少年の名はライ。少女の名はイリスという。
親しい二人の年齢はそれなりに離れている。ライはすでに大人の面影を帯びつつあったが、イリスはその体形も、ライに対する接し方もまだまだ子供のそれだった。
「……ある日、俺は仲間と一緒に大きな洞窟に向かった……」
ライはイリスに語って聞かせる。ハンターである自分がどんな冒険に出て、どう活躍したのかを。
イリスはあまり体が丈夫ではなく、村の外にも出たことはない。一方、ライは数年前に村を出て自活していた。たまに村にライが帰ってくると、イリスはきまって彼におはなしをせがむ。
イリスはライが聞かせてくれる冒険の話が何よりも好きだった。ライも、妹のように大切なイリスが喜んでくれるならと、村に帰ってきた時は必ず少女の下を訪れ、武勇伝を聞かせるのである。
「……その時、雑魔が俺に牙を剥いて襲い掛かってきた……! でも俺はそれをひらりとかわし、剣を叩き込んでやったのさ! こんな感じにな!」
「すごいすごい! さっすがライお兄ちゃんだね!」
ライの身振り手振りを使った熱演の冒険譚。
イリスは無邪気に手をぱちぱちと叩き、目の前の男を誉めそやす。ライは上機嫌のままに己の手柄話をいろいろと聞かせてやるのだった。
●事件は突然に
「ライお兄ちゃん! ライお兄ちゃん!」
「ん? どうした?」
次の日。
村長に力仕事を頼まれ、その作業を行っていたライの下にイリスがやって来た。急いで来たのか少し息を切らしている。
「えっとね! 村の近くに雑魔が出たんだって! すっごくたくさん!」
「な、なに? そりゃやべえな、早く村長に知らせないと……」
「え? どうして?」
ライの言葉にイリスは首をかしげた。
「どうしてって……強い人を呼んで雑魔を倒してもらわないと村が危ないだろ?」
「なに言ってるの、お兄ちゃん。強い人ならちゃんとこの村にもいるじゃない」
「へ?」
ライはイリスの顔をまじまじと見る。少女の瞳はキラキラと輝き、目の前の少年をまっすぐに見上げていた。
ライの心に、暗雲がわきあがる。
まさか……まさか……。
「雑魔をやっつけてよ! ライお兄ちゃん! いつも聞かせてくれるおはなしのように!!」
やっぱりかあああああああああああああああああ!?
「あたし、村のみんなにも話して回っちゃった♪ ライお兄ちゃんがすぐに退治してくれるって!」
何だとおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
「最初はみんなライお兄ちゃんが強いことを信じてくれなかったけど、あたしが必死に話したら、それならライに任せてみるか、って言ってくれたの♪」
逃げ場なしいいいいいいいいいいいいいいいいい!?
「あたし、ライお兄ちゃんが格好良く戦うところを見たいな♪ お兄ちゃんはあたしの英雄(ヒーロー)だもん!」
ライは袋小路に追い詰められたネズミのような心境でイリスを見る。しかし、そこにいたのは爪を研ぐ肉食獣ではなく、一人の可憐な少女であった。頬を上気させ、潤む瞳で彼を見つめるイリス。
もちろんイリスはライを追い込みたいのではなく、彼が強いと心から信じているのだ。いや、これがもし演技だったら正直言って末恐ろしいが。
ライは背中に冷たい汗をびっしょりとかきながらも何とか笑顔を作り、少女へと話しかける。もちろん、彼の頭はこの危機を乗り越えるためにフル回転していた。
「ま、まて、イ、イリスよ。たしかにお兄ちゃんは強い。しかしだな、やはり一人では限度というものがある。ほ、ほら、いつも言ってるだろ? ハンターってのは強敵にはみんなで協力して戦うって」
「えー? ライお兄ちゃん一人じゃ駄目なの?」
不満そうに口を尖らせるイリス。格好良く敵を倒すお兄ちゃんの姿を見たいらしい。ライは辛抱強く言って聞かせた。内心を必死に隠して。
――このままだと俺死んじゃう! 絶対!
「あ、ああ。ほら、いくら俺が強いっていっても、やっぱり一人じゃな! 俺の手のとどかないところから襲ってくるかもしれないだろ?」
「……うん。わかった」
納得したのかイリスはこくりと頷く。ライは内心、ほっと安堵の息をつきながらさらにまくし立てた。
「だ、だからさ。俺ちょっと街で仲間を集めてくる! 今すぐにな!」
「うん! 頑張ってねお兄ちゃん! あたし待ってるから!」
笑顔のイリスに見送られ、ライは急ぎ足で家へと向かった。
●一体どうすれば?
自分の家に着いたライは、扉を開けてそそくさと中に入った。帰ってくる途中、彼は何人もの知人から声をかけられた。
もちろん、がんばれよ! とか、ライがそんなに強いなんて知らなかった! とかいう声援である。ある意味イリスの根回しは完璧だった。
「どうするんだ……どうするんだよ俺……」
閉じたドアの背にもたれたまま、ライは顔を青くしながらぶつぶつと声を漏らしている。
……ライはハンターではない。もちろん覚醒者でもない。
ライが村の外に出ている理由も、あくまで近隣の街に住み、そこで仕事をしているだけにすぎない。決して世界を冒険して回っているわけではなかった。
ライはのろのろと足を動かすと、部屋の隅に置いてある箱を開けた。中にあったのはやや古びた剣と盾。これはライの私物である。
たしかに、彼がハンターにあこがれた時期はあった。この武具はその時の名残である。
しかしその夢はいつしか諦め、今では時々手に取って眺めるだけの思い出の品にすぎない。
このまま逃げてしまおうか、とライは考える。しかし、自分を信じている少女の瞳が脳裏にちらついた。子供の頃からずっと一緒に遊んでいた大事な女の子。それに、自分が逃げ出したらこの村はどうなる? 皆、ライがどうにかしてくれると思っているのだ……。
ライは腕を伸ばし、剣を手に取る。
幸い、ライは力仕事に従事していた。膂力だけは人並み以上にある。
「やるしか……ねえか……」
剣の柄を強く握り締め、ライは呟いた。
●こうするしかねえ!
剣と盾を身につけたライは王都イルダーナにいた。村の人間から集めたハンター達への依頼金を持って。
ライはハンターオフィスへと足を運ぶ。もちろん、入ったことなど一度もない。まさか、こんな形でこの扉をくぐることになるなど、夢にも思ったことはなかった。
ライは深呼吸すると扉を開ける。そしてハンターらしき一団の側へ駆け寄ると、頭を下げ、力一杯叫んだ。
「た、頼みがある! 俺を一日だけでいいから英雄(ヒーロー)にしてくれ!!
「ライお兄ちゃん、ライお兄ちゃん。また、おはなし聞かせて? 冒険のおはなし」
「おお、いいぜ!」
王都イルダーナ近くの名も無い村。
そこに一人の少年と少女がいた。少年の名はライ。少女の名はイリスという。
親しい二人の年齢はそれなりに離れている。ライはすでに大人の面影を帯びつつあったが、イリスはその体形も、ライに対する接し方もまだまだ子供のそれだった。
「……ある日、俺は仲間と一緒に大きな洞窟に向かった……」
ライはイリスに語って聞かせる。ハンターである自分がどんな冒険に出て、どう活躍したのかを。
イリスはあまり体が丈夫ではなく、村の外にも出たことはない。一方、ライは数年前に村を出て自活していた。たまに村にライが帰ってくると、イリスはきまって彼におはなしをせがむ。
イリスはライが聞かせてくれる冒険の話が何よりも好きだった。ライも、妹のように大切なイリスが喜んでくれるならと、村に帰ってきた時は必ず少女の下を訪れ、武勇伝を聞かせるのである。
「……その時、雑魔が俺に牙を剥いて襲い掛かってきた……! でも俺はそれをひらりとかわし、剣を叩き込んでやったのさ! こんな感じにな!」
「すごいすごい! さっすがライお兄ちゃんだね!」
ライの身振り手振りを使った熱演の冒険譚。
イリスは無邪気に手をぱちぱちと叩き、目の前の男を誉めそやす。ライは上機嫌のままに己の手柄話をいろいろと聞かせてやるのだった。
●事件は突然に
「ライお兄ちゃん! ライお兄ちゃん!」
「ん? どうした?」
次の日。
村長に力仕事を頼まれ、その作業を行っていたライの下にイリスがやって来た。急いで来たのか少し息を切らしている。
「えっとね! 村の近くに雑魔が出たんだって! すっごくたくさん!」
「な、なに? そりゃやべえな、早く村長に知らせないと……」
「え? どうして?」
ライの言葉にイリスは首をかしげた。
「どうしてって……強い人を呼んで雑魔を倒してもらわないと村が危ないだろ?」
「なに言ってるの、お兄ちゃん。強い人ならちゃんとこの村にもいるじゃない」
「へ?」
ライはイリスの顔をまじまじと見る。少女の瞳はキラキラと輝き、目の前の少年をまっすぐに見上げていた。
ライの心に、暗雲がわきあがる。
まさか……まさか……。
「雑魔をやっつけてよ! ライお兄ちゃん! いつも聞かせてくれるおはなしのように!!」
やっぱりかあああああああああああああああああ!?
「あたし、村のみんなにも話して回っちゃった♪ ライお兄ちゃんがすぐに退治してくれるって!」
何だとおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
「最初はみんなライお兄ちゃんが強いことを信じてくれなかったけど、あたしが必死に話したら、それならライに任せてみるか、って言ってくれたの♪」
逃げ場なしいいいいいいいいいいいいいいいいい!?
「あたし、ライお兄ちゃんが格好良く戦うところを見たいな♪ お兄ちゃんはあたしの英雄(ヒーロー)だもん!」
ライは袋小路に追い詰められたネズミのような心境でイリスを見る。しかし、そこにいたのは爪を研ぐ肉食獣ではなく、一人の可憐な少女であった。頬を上気させ、潤む瞳で彼を見つめるイリス。
もちろんイリスはライを追い込みたいのではなく、彼が強いと心から信じているのだ。いや、これがもし演技だったら正直言って末恐ろしいが。
ライは背中に冷たい汗をびっしょりとかきながらも何とか笑顔を作り、少女へと話しかける。もちろん、彼の頭はこの危機を乗り越えるためにフル回転していた。
「ま、まて、イ、イリスよ。たしかにお兄ちゃんは強い。しかしだな、やはり一人では限度というものがある。ほ、ほら、いつも言ってるだろ? ハンターってのは強敵にはみんなで協力して戦うって」
「えー? ライお兄ちゃん一人じゃ駄目なの?」
不満そうに口を尖らせるイリス。格好良く敵を倒すお兄ちゃんの姿を見たいらしい。ライは辛抱強く言って聞かせた。内心を必死に隠して。
――このままだと俺死んじゃう! 絶対!
「あ、ああ。ほら、いくら俺が強いっていっても、やっぱり一人じゃな! 俺の手のとどかないところから襲ってくるかもしれないだろ?」
「……うん。わかった」
納得したのかイリスはこくりと頷く。ライは内心、ほっと安堵の息をつきながらさらにまくし立てた。
「だ、だからさ。俺ちょっと街で仲間を集めてくる! 今すぐにな!」
「うん! 頑張ってねお兄ちゃん! あたし待ってるから!」
笑顔のイリスに見送られ、ライは急ぎ足で家へと向かった。
●一体どうすれば?
自分の家に着いたライは、扉を開けてそそくさと中に入った。帰ってくる途中、彼は何人もの知人から声をかけられた。
もちろん、がんばれよ! とか、ライがそんなに強いなんて知らなかった! とかいう声援である。ある意味イリスの根回しは完璧だった。
「どうするんだ……どうするんだよ俺……」
閉じたドアの背にもたれたまま、ライは顔を青くしながらぶつぶつと声を漏らしている。
……ライはハンターではない。もちろん覚醒者でもない。
ライが村の外に出ている理由も、あくまで近隣の街に住み、そこで仕事をしているだけにすぎない。決して世界を冒険して回っているわけではなかった。
ライはのろのろと足を動かすと、部屋の隅に置いてある箱を開けた。中にあったのはやや古びた剣と盾。これはライの私物である。
たしかに、彼がハンターにあこがれた時期はあった。この武具はその時の名残である。
しかしその夢はいつしか諦め、今では時々手に取って眺めるだけの思い出の品にすぎない。
このまま逃げてしまおうか、とライは考える。しかし、自分を信じている少女の瞳が脳裏にちらついた。子供の頃からずっと一緒に遊んでいた大事な女の子。それに、自分が逃げ出したらこの村はどうなる? 皆、ライがどうにかしてくれると思っているのだ……。
ライは腕を伸ばし、剣を手に取る。
幸い、ライは力仕事に従事していた。膂力だけは人並み以上にある。
「やるしか……ねえか……」
剣の柄を強く握り締め、ライは呟いた。
●こうするしかねえ!
剣と盾を身につけたライは王都イルダーナにいた。村の人間から集めたハンター達への依頼金を持って。
ライはハンターオフィスへと足を運ぶ。もちろん、入ったことなど一度もない。まさか、こんな形でこの扉をくぐることになるなど、夢にも思ったことはなかった。
ライは深呼吸すると扉を開ける。そしてハンターらしき一団の側へ駆け寄ると、頭を下げ、力一杯叫んだ。
「た、頼みがある! 俺を一日だけでいいから英雄(ヒーロー)にしてくれ!!
リプレイ本文
●
「話は聞かせてもらった! 弱きを助け! 強きを挫く! 俺もそんな行動に憧れる一人さ!」
ハンターオフィスにてライの話を聞いたテンシ・アガート(ka0589)は椅子から立ち上がる。
「まぁ理由はどうあれ……男が英雄になりたいって言ってんだ。俺はそいつを応援するぜ?」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)もライの依頼を受けることに決めたようだ。ライに近寄り、その肩に手をのせる。
「オイラに出来る事は、精一杯手伝うんよ~」
ラプ・ラムピリカ(ka3369)もライの目的に協力する気だ。
「英雄にしてくれ、ねぇ……事情は聞いたからライさんが「ヒデオ」呼ばわりされたいわけじゃないのは理解してるから♪ じゃぁ1日村ヒーロー作戦ガンバローか!」
朗らかに笑う、超級まりお(ka0824)。
ここに、ライを一日だけ英雄にする為のチームが結成されたのだった。
●
王都イルダーナを出発したハンター達。
クロード・インベルク(ka1506)はライから彼の村の周辺の地理を教わっていた。もちろん村が戦場になった際、それを生かすためである。
(善意の嘘でも、個人的に嘘はあまり感心しないけどね。けど、村も守らないとだし、ここは頑張らないとね)
今回の事件は、ライが彼の妹のような存在であるイリスに嘘をついていたことが発端であり、クロードはその件に関しては肯定的ではなかったが、それでもライに花を持たせてあげたいと考えていた。
ラプも、ライがイリスにどんな武勇伝を披露していたかを聞き出す。
「嬢ちゃんが、どんな英雄を見たいんかそれで分かるかもしれんし」
ライがイリスにしてあげたのは、自分が剣で雑魔をやっつける、という展開がほとんどであった。
「カッコよく戦う為の準備はしとかんとなぁ」
ラプの呟きに、仲間達はそれぞれ頷いた。
その日の昼過ぎ。
ハンター達は早くも野営の準備に入る。
英雄になりたいというライの希望を叶えるため、彼に稽古をつけるつもりなのだ。
来未 結(ka4610)は今日の食事作りや雑用などを一身に引き受け、ライと仲間達が修行に専念できるようにバックアップする心づもりだ。
(初仕事で不安だけど……頑張ろう!)
結も実はこれが初めて受ける依頼であった。しかし、逃げずに戦うライの気持ちに応えたい、という意気込みでは誰にも負けていない。
腕まくりをする結の背後で、エヴァンスとフィーサ(ka4602)をはじめとするハンター達が、手に薪を持ってライの側に集まってきた。
まずは、薪割りの要領で剣を振るうのに慣れてもらおうという考えである。
「男を見せたいお前の気持ち……確かに受け取った! 傭兵として生きてきたこの俺の教練でお前を漢にしてやる!」
エヴァンスはライに宣言する。その横でフィーサが薪を手ごろな位置に立てた。彼女は鞭を手に取りライに向き直る。
「とりあえず一太刀で連続100本は割ってもらおうかなー。怠けたら鞭が風を切る事になるよーうふふー」
イルミナルウィップでピシリと地面を打つフィーサ。なにやら楽しそうである。
100本!? と思ったライであったが、彼女が持つ鞭を前に反論することはなく、ショートソードを手に薪割りを開始する。
エヴァンスはライの動きを観察し、彼が武器をどの程度扱えるのかを見極めようとしている。
その隣で同じように彼の動きをじっと見つめているのは、巨大な三角錐型のクローズヘルムを被る一人の男。
(……ライを英雄にできるかどうかは分からない。でも、ライと一緒に彼の村を雑魔から守ることはできる……)
男――No.0(ka4640)は心の中で呟く。
(まずはライが真っ直ぐ剣を振れるようにしないとな……話はそこからだ……)
訓練がひと段落した後の休憩時間、ライの側にラプが近寄る。
ラプは、ライの緊張や恐怖心を少しでも和らげられないかと考えたのだ。
話しかけてきたラプに応えるライ。やはり、ライの瞳は不安の色が混じっていた。
「誰でも、怖い時はあるんよ。けど、それに逃げないだけでオイラはライの事をすごいと思う」
「……本当は今からでも逃げたいんだけどな……」
内心を吐露したライに笑みを見せるラプ。
「ライはオイラ達が守るから。安心していいんよ? 一緒に戦うなら、仲間なんよ」
「……ありがとな。俺も足を引っ張らないように頑張るぜ」
ラプの言葉に気負いが取れたのか、ライは小さく笑った。
●
休憩が終わり、訓練の場へとやって来たライ。エヴァンスは荷物の中からある物を取り出す。
「奴らの弱点は炎だと俺は考えている。少しでも有効打を与えてぇなら、こいつを使いこなしてみろ」
雑魔が樹木型だと聞いていた彼は、用意していた一本の剣を鞘ごとライに手渡した。
ライが恐る恐る引き抜いた刀身は炎のように赤い。武器の名はバーンブレイド。火属性を持つ一品だ。
「うおおお!? これ凄いな!」
「……それに、炎の剣を使いこなす姿を見て、女の子がカッコいいと思わない訳がねぇ」
ひそひそとライに耳打ちするエヴァンス。ライの顔はたちまちにやけた。
「確かに……っていや、イリスはあくまで妹みたいな存在でだな!?」
「その子の為に、なんてなんか妬けちゃうねーこのこのー」
フィーサもライを軽く小突いて囃し立てる。
そんな中、No.0がクレイモアを手にゆらりとライの前に出た。
「俺が練習台になってライの正面打ちを受ける……」
No.0は異形の兜を被る自分の外見がライの精神的鍛錬にもなると睨んでいた。覚醒状態になっているのか彼の瞳は青くなり、兜の奥からは薄暗い光が漏れている。
彼の目論見通り、その姿にライはびびっていたが、フィーサが鞭で地面を打つと、ライは涙目になりながらもNo.0の正面でバーンブレイドを構えた。
赤い剣は何度もNo.0のクレイモアを打ち、その度に火花が空に散る。
野営地に剣戟の音が響き渡る中、一通りの準備を終えた結は満足気な顔だ。料理の心得を活かし、元気の漲る食事を全員に振舞うことが出来そうである。
そんな結の目に、剣を必死に振るライと彼を鍛えようとするハンター達の姿が映る。
(わたしの戦闘経験はライくんと似たようなものですし、話相手くらいには……ううん、一緒に勉強しよう!)
結は彼らの側に近寄ると正座をし、ライが受ける戦闘訓練を自分の糧にしようと真摯な瞳で見つめ始めた。
●
「生き残れるようにしないとね! 二階級特進とかは無しで!」
テンシの言葉にまりおが頷く。
「ボクとしてはとにかくバックラーの使い方だけは今日中にしっかり覚えて欲しいところかな。どんなにボクらが全力でフォローをしていても万が一の事態は有り得るからだよー」
そう言うまりおの視線の先にはライが身につけている小型の盾がある。
「バックラーは相手の攻撃を受け止めるのでは無く、自分から相手の剣とかに当てていく使い方だよ。だから、相手の姿をよく見る事が重要だよ! これを忘れずに!」
テンシの説明を聞くライは真剣な表情だ。
「構えを確認! 相手に左肩を見せるように横向きに立ち、バックラーと剣は胸の前で肘を曲げて祈るように持つ」
テンシはそう言いながら、剣と盾を持つライの側に立つ。
「左肩と背中ががら空きだと思わせ攻撃を誘い、叩き落すようにバックラーで防御し、同時に剣で水平に斬りつけるって事だね!」
テンシがライの腕や胴体に手を添えて体勢を変えさせる。やがてテンシがライの側を離れた後、ライの構えはいっぱしのものになっていた。口元に笑みを浮かべるライ。
「な、なるほど……さすがハンターだ!」
「って本に書いてあった!」
「本かよ!?」
「さぁ弾きの練習だ! 俺が相手になるよ!」
ライの突っ込みは無視し、テンシは木の枝を手に取る。ライは慌てて先程の構えを維持した。
テンシ、まりおが交代でライに得物を打ち込む。最初は及び腰だったライも、いつしか余裕を持って盾で受けられるようになっていた。
「……過去に努力してたのかな? 少し慣れてる感じがするね」
「……ま、ちょっとだけな」
「そうか。最後にこれだけは言っておくよ。『残心』を忘れずに!」
リアルブルーに伝わる武道の心得を口にし、テンシはそう締めくくる。
「たとえ敵に止めを刺せなくても最後まで戦闘を続けられれば英雄に見えるから。今のライさんなら大丈夫だよ」
まりおはライに、笑顔でそう伝えた。
●
ライ達が村に到着した時、村内は騒然としていた。
「イリス!」
「!? お、お兄ちゃん! 良かった!」
名を呼ばれた少女はライの胸元に飛び込み、抱きついた。
「ライか! ぞ、雑魔がすぐそこに!」
「あ、ああ……」
「どうすりゃいいんだ!? あんな化け物……!」
すでに雑魔が近づいてきているらしい、パニックを起こしている村人達。
クロードはライの側に近寄り、あることを耳打ちする。
「そ、そうだな……」
ライは息を大きく吸い込んだ。
「こ、ここは俺達に任せてくれ!」
クロードの助言に従い、村人達が戦闘に巻き込まれないような発言を行うライ。その声は明らかに上ずっていたが、幸い村人達は誰もそれに気付かない。
「カッコいい、お兄ちゃん!」
イリスはライの勇姿に目を輝かせている。そのやりとりのおかげか、村人達の動揺もわずかに収まった。
ラプも村人達が戦場に出てこないよう、注意を促す。
「ライの気が散らない為に必要さね。皆が大事だったら、気にするべな」
「た、確かに……では後はお願いします皆さん! ライも頼んだぞ!」
「お、おうよ!」
ライ達は村の中央へと駆け出した。丁度、前方から歩く樹木としか形容できない雑魔が柵を乗り越え、押し寄せてきている。数は十五体。
(必ずライくんを英雄にしてみせます! 村も無事に救ってみせますっ)
結の意思が込められたプロテクションがライにかかる。
(後詰めを任せたライへの見取り稽古になればいい……)
No.0はそう考えながら、訓練中ライにそうさせたように、『真っ直ぐ踏み込んで真っ直ぐ剣を振り下ろ』した。
雑魔は彼のクレイモアに断ち切られる。ライがやった薪割り訓練のように。
エヴァンスも敵へと距離を詰め、得物を上段から勢い良く叩き付けた。雑魔はその斬撃を避けられず、一刀で消滅する。
クロードも敵に囲まれないように気をつけつつ武器を振るう。
「光輝く魔の矢よ……我の敵を貫き滅せよ……!」
ラプの詠唱に応えるように、光の矢が彼のワンドから生まれ、敵を目掛けて迸る。それは見事に雑魔へと命中し、木の魔物は倒れた。
――おおおおおおおお!
という喚声が彼らの背後からあがる。もちろん遠巻きに見守っている村人達のものだ。イリスも、おそらくその中に混じっているだろう。
テンシはあまりライに構いすぎるのも不自然かと考え、ライの側から離れてワイヤーウィップで一体の雑魔を狙う。
まりおは『瞬脚』と『ランアウト』を駆使して動きまわり、敵を翻弄しつつ刀を振るった。
フィーサもライの近くで鞭を操る。
しかし数だけは多い雑魔達。一体がライをめがけて突っ込んでくる。
「くっ……」
ライは剣と盾を構えるが、その姿勢は訓練の事を全て忘れているかのように、素人そのものであった。
そんな彼と雑魔との間に結が割って入り、ホーリーシールドをかざして敵の攻撃からライを庇う。
「大丈夫です! 私達が付いてます!」
盾で枝を受けとめた結はライを不安にさせないように、小さいながらも力強い声で囁いた。
「あ、ああ……」
ライはその言葉で少しだけ落ち着きを取り戻す。
クロードはそんなライへ『防性強化』をかけた。
まりおもライをフォローするため、彼を囲もうとしていた敵の一体を切り伏せる。
エヴァンスはライがしり込みしないよう、傭兵の男気を見せんと雑魔へと駆け寄り、剣を振った。
テンシは一体の敵をワイヤーで絡め取り、動きを封じる。彼はライの方を意味ありげに見た。
No.0は『攻性強化』をライへとかける。振り返るライ。
兜の奥から青く光る目が覗いている。ライなら必ず雑魔を倒せると言いたげに。
「う、うわあああああ!!」
彼らの意思に背を押されるように、もしくは自分を見つめる光から逃げるかのように、ライは叫び声をあげながら敵へと向かい、バーンブレイドを思い切り振るう。薪割り、打ち込みの訓練を思い出しながら。
熟練の戦士には程遠い動きではあったが、彼の剣は雑魔へと叩きつけられる。
借り物の剣は本来の威力を発揮できてはいない。しかし火に弱い雑魔だったのか、赤い刃は致命傷となる一撃を木の魔物へと負わせた。
斬撃を受けた雑魔はよろめき、消滅する。
最初、何が起きたか分かっていなかったライだが、その顔にやがて小さな笑みが浮かんだ。
背後から村人達の喝采があがる。今度はイリスの黄色い声も聞こえてきた。
敵はまだ残っているが、もはや誰もが勝利を確信していた。
一体の雑魔がライへと枝を伸ばすが、ライはそれをバックラーで何とか受け流した。これも訓練の賜物であろう。
ハンター達も皆、それぞれ得物を操り敵を次々と撃破していく。やがて雑魔は最後の一体を残すのみとなった。
クロードの斬撃により、枝を数本叩き折られた雑魔がよたよたとフィーサの下へと近づいてくる。遠目にイリスの姿を見かけたフィーサは、避けられたはずの雑魔の攻撃をその身に受け、地面へと倒れ込んだ。彼女の大きな胸がたゆん、と揺れる。その際、別の意味での喚声があがったような気もする。
「きゃーらいくんたすけてー」
フィーサが倒れたまま発した声は明らかに棒読みであったが、そのことに気付けたのはおそらくこの場のハンター達だけであったろう。
ライは踏み込み、剣を上段から切り下ろす。
赤い刀身はわずかに残った生命力を削り取り、見事に雑魔を無に帰したのであった。
●
「お兄ちゃーーん!」
戦いを終えたハンター達の下へ真っ先に駆け込んできたのはイリス。少女はそのままライの胸へと抱きついた。
「ははっ……良かった、お前も、村の皆も無事で……」
イリスを抱きしめるライ。
村人も全員、ライとハンター達を囲み、礼と賛辞を口々に述べた。
「ライはどうだった?」
「うん! すごくカッコよかった!」
尋ねたラプに満面の笑顔で答えるイリス。
結もライを労わりながら、イリスとおしゃべりに興じている。
No.0はイリスの注意が逸れている間に、ライへと囁いた。
「友達を喜ばせるためだったとはいえ、作り話をしてしまったことはちゃんと謝らないといけない……今回は俺達が協力できた……次も同じとは限らない……その時に困るのはライと友達と村の人だからな……?」
「……そうだな。一歩間違えたら、皆無事じゃなかったんだからな……」
ライは抱きしめている少女の頭を優しく撫で、ひと段落したら皆に真実を告げようと心に決めた。
「話は聞かせてもらった! 弱きを助け! 強きを挫く! 俺もそんな行動に憧れる一人さ!」
ハンターオフィスにてライの話を聞いたテンシ・アガート(ka0589)は椅子から立ち上がる。
「まぁ理由はどうあれ……男が英雄になりたいって言ってんだ。俺はそいつを応援するぜ?」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)もライの依頼を受けることに決めたようだ。ライに近寄り、その肩に手をのせる。
「オイラに出来る事は、精一杯手伝うんよ~」
ラプ・ラムピリカ(ka3369)もライの目的に協力する気だ。
「英雄にしてくれ、ねぇ……事情は聞いたからライさんが「ヒデオ」呼ばわりされたいわけじゃないのは理解してるから♪ じゃぁ1日村ヒーロー作戦ガンバローか!」
朗らかに笑う、超級まりお(ka0824)。
ここに、ライを一日だけ英雄にする為のチームが結成されたのだった。
●
王都イルダーナを出発したハンター達。
クロード・インベルク(ka1506)はライから彼の村の周辺の地理を教わっていた。もちろん村が戦場になった際、それを生かすためである。
(善意の嘘でも、個人的に嘘はあまり感心しないけどね。けど、村も守らないとだし、ここは頑張らないとね)
今回の事件は、ライが彼の妹のような存在であるイリスに嘘をついていたことが発端であり、クロードはその件に関しては肯定的ではなかったが、それでもライに花を持たせてあげたいと考えていた。
ラプも、ライがイリスにどんな武勇伝を披露していたかを聞き出す。
「嬢ちゃんが、どんな英雄を見たいんかそれで分かるかもしれんし」
ライがイリスにしてあげたのは、自分が剣で雑魔をやっつける、という展開がほとんどであった。
「カッコよく戦う為の準備はしとかんとなぁ」
ラプの呟きに、仲間達はそれぞれ頷いた。
その日の昼過ぎ。
ハンター達は早くも野営の準備に入る。
英雄になりたいというライの希望を叶えるため、彼に稽古をつけるつもりなのだ。
来未 結(ka4610)は今日の食事作りや雑用などを一身に引き受け、ライと仲間達が修行に専念できるようにバックアップする心づもりだ。
(初仕事で不安だけど……頑張ろう!)
結も実はこれが初めて受ける依頼であった。しかし、逃げずに戦うライの気持ちに応えたい、という意気込みでは誰にも負けていない。
腕まくりをする結の背後で、エヴァンスとフィーサ(ka4602)をはじめとするハンター達が、手に薪を持ってライの側に集まってきた。
まずは、薪割りの要領で剣を振るうのに慣れてもらおうという考えである。
「男を見せたいお前の気持ち……確かに受け取った! 傭兵として生きてきたこの俺の教練でお前を漢にしてやる!」
エヴァンスはライに宣言する。その横でフィーサが薪を手ごろな位置に立てた。彼女は鞭を手に取りライに向き直る。
「とりあえず一太刀で連続100本は割ってもらおうかなー。怠けたら鞭が風を切る事になるよーうふふー」
イルミナルウィップでピシリと地面を打つフィーサ。なにやら楽しそうである。
100本!? と思ったライであったが、彼女が持つ鞭を前に反論することはなく、ショートソードを手に薪割りを開始する。
エヴァンスはライの動きを観察し、彼が武器をどの程度扱えるのかを見極めようとしている。
その隣で同じように彼の動きをじっと見つめているのは、巨大な三角錐型のクローズヘルムを被る一人の男。
(……ライを英雄にできるかどうかは分からない。でも、ライと一緒に彼の村を雑魔から守ることはできる……)
男――No.0(ka4640)は心の中で呟く。
(まずはライが真っ直ぐ剣を振れるようにしないとな……話はそこからだ……)
訓練がひと段落した後の休憩時間、ライの側にラプが近寄る。
ラプは、ライの緊張や恐怖心を少しでも和らげられないかと考えたのだ。
話しかけてきたラプに応えるライ。やはり、ライの瞳は不安の色が混じっていた。
「誰でも、怖い時はあるんよ。けど、それに逃げないだけでオイラはライの事をすごいと思う」
「……本当は今からでも逃げたいんだけどな……」
内心を吐露したライに笑みを見せるラプ。
「ライはオイラ達が守るから。安心していいんよ? 一緒に戦うなら、仲間なんよ」
「……ありがとな。俺も足を引っ張らないように頑張るぜ」
ラプの言葉に気負いが取れたのか、ライは小さく笑った。
●
休憩が終わり、訓練の場へとやって来たライ。エヴァンスは荷物の中からある物を取り出す。
「奴らの弱点は炎だと俺は考えている。少しでも有効打を与えてぇなら、こいつを使いこなしてみろ」
雑魔が樹木型だと聞いていた彼は、用意していた一本の剣を鞘ごとライに手渡した。
ライが恐る恐る引き抜いた刀身は炎のように赤い。武器の名はバーンブレイド。火属性を持つ一品だ。
「うおおお!? これ凄いな!」
「……それに、炎の剣を使いこなす姿を見て、女の子がカッコいいと思わない訳がねぇ」
ひそひそとライに耳打ちするエヴァンス。ライの顔はたちまちにやけた。
「確かに……っていや、イリスはあくまで妹みたいな存在でだな!?」
「その子の為に、なんてなんか妬けちゃうねーこのこのー」
フィーサもライを軽く小突いて囃し立てる。
そんな中、No.0がクレイモアを手にゆらりとライの前に出た。
「俺が練習台になってライの正面打ちを受ける……」
No.0は異形の兜を被る自分の外見がライの精神的鍛錬にもなると睨んでいた。覚醒状態になっているのか彼の瞳は青くなり、兜の奥からは薄暗い光が漏れている。
彼の目論見通り、その姿にライはびびっていたが、フィーサが鞭で地面を打つと、ライは涙目になりながらもNo.0の正面でバーンブレイドを構えた。
赤い剣は何度もNo.0のクレイモアを打ち、その度に火花が空に散る。
野営地に剣戟の音が響き渡る中、一通りの準備を終えた結は満足気な顔だ。料理の心得を活かし、元気の漲る食事を全員に振舞うことが出来そうである。
そんな結の目に、剣を必死に振るライと彼を鍛えようとするハンター達の姿が映る。
(わたしの戦闘経験はライくんと似たようなものですし、話相手くらいには……ううん、一緒に勉強しよう!)
結は彼らの側に近寄ると正座をし、ライが受ける戦闘訓練を自分の糧にしようと真摯な瞳で見つめ始めた。
●
「生き残れるようにしないとね! 二階級特進とかは無しで!」
テンシの言葉にまりおが頷く。
「ボクとしてはとにかくバックラーの使い方だけは今日中にしっかり覚えて欲しいところかな。どんなにボクらが全力でフォローをしていても万が一の事態は有り得るからだよー」
そう言うまりおの視線の先にはライが身につけている小型の盾がある。
「バックラーは相手の攻撃を受け止めるのでは無く、自分から相手の剣とかに当てていく使い方だよ。だから、相手の姿をよく見る事が重要だよ! これを忘れずに!」
テンシの説明を聞くライは真剣な表情だ。
「構えを確認! 相手に左肩を見せるように横向きに立ち、バックラーと剣は胸の前で肘を曲げて祈るように持つ」
テンシはそう言いながら、剣と盾を持つライの側に立つ。
「左肩と背中ががら空きだと思わせ攻撃を誘い、叩き落すようにバックラーで防御し、同時に剣で水平に斬りつけるって事だね!」
テンシがライの腕や胴体に手を添えて体勢を変えさせる。やがてテンシがライの側を離れた後、ライの構えはいっぱしのものになっていた。口元に笑みを浮かべるライ。
「な、なるほど……さすがハンターだ!」
「って本に書いてあった!」
「本かよ!?」
「さぁ弾きの練習だ! 俺が相手になるよ!」
ライの突っ込みは無視し、テンシは木の枝を手に取る。ライは慌てて先程の構えを維持した。
テンシ、まりおが交代でライに得物を打ち込む。最初は及び腰だったライも、いつしか余裕を持って盾で受けられるようになっていた。
「……過去に努力してたのかな? 少し慣れてる感じがするね」
「……ま、ちょっとだけな」
「そうか。最後にこれだけは言っておくよ。『残心』を忘れずに!」
リアルブルーに伝わる武道の心得を口にし、テンシはそう締めくくる。
「たとえ敵に止めを刺せなくても最後まで戦闘を続けられれば英雄に見えるから。今のライさんなら大丈夫だよ」
まりおはライに、笑顔でそう伝えた。
●
ライ達が村に到着した時、村内は騒然としていた。
「イリス!」
「!? お、お兄ちゃん! 良かった!」
名を呼ばれた少女はライの胸元に飛び込み、抱きついた。
「ライか! ぞ、雑魔がすぐそこに!」
「あ、ああ……」
「どうすりゃいいんだ!? あんな化け物……!」
すでに雑魔が近づいてきているらしい、パニックを起こしている村人達。
クロードはライの側に近寄り、あることを耳打ちする。
「そ、そうだな……」
ライは息を大きく吸い込んだ。
「こ、ここは俺達に任せてくれ!」
クロードの助言に従い、村人達が戦闘に巻き込まれないような発言を行うライ。その声は明らかに上ずっていたが、幸い村人達は誰もそれに気付かない。
「カッコいい、お兄ちゃん!」
イリスはライの勇姿に目を輝かせている。そのやりとりのおかげか、村人達の動揺もわずかに収まった。
ラプも村人達が戦場に出てこないよう、注意を促す。
「ライの気が散らない為に必要さね。皆が大事だったら、気にするべな」
「た、確かに……では後はお願いします皆さん! ライも頼んだぞ!」
「お、おうよ!」
ライ達は村の中央へと駆け出した。丁度、前方から歩く樹木としか形容できない雑魔が柵を乗り越え、押し寄せてきている。数は十五体。
(必ずライくんを英雄にしてみせます! 村も無事に救ってみせますっ)
結の意思が込められたプロテクションがライにかかる。
(後詰めを任せたライへの見取り稽古になればいい……)
No.0はそう考えながら、訓練中ライにそうさせたように、『真っ直ぐ踏み込んで真っ直ぐ剣を振り下ろ』した。
雑魔は彼のクレイモアに断ち切られる。ライがやった薪割り訓練のように。
エヴァンスも敵へと距離を詰め、得物を上段から勢い良く叩き付けた。雑魔はその斬撃を避けられず、一刀で消滅する。
クロードも敵に囲まれないように気をつけつつ武器を振るう。
「光輝く魔の矢よ……我の敵を貫き滅せよ……!」
ラプの詠唱に応えるように、光の矢が彼のワンドから生まれ、敵を目掛けて迸る。それは見事に雑魔へと命中し、木の魔物は倒れた。
――おおおおおおおお!
という喚声が彼らの背後からあがる。もちろん遠巻きに見守っている村人達のものだ。イリスも、おそらくその中に混じっているだろう。
テンシはあまりライに構いすぎるのも不自然かと考え、ライの側から離れてワイヤーウィップで一体の雑魔を狙う。
まりおは『瞬脚』と『ランアウト』を駆使して動きまわり、敵を翻弄しつつ刀を振るった。
フィーサもライの近くで鞭を操る。
しかし数だけは多い雑魔達。一体がライをめがけて突っ込んでくる。
「くっ……」
ライは剣と盾を構えるが、その姿勢は訓練の事を全て忘れているかのように、素人そのものであった。
そんな彼と雑魔との間に結が割って入り、ホーリーシールドをかざして敵の攻撃からライを庇う。
「大丈夫です! 私達が付いてます!」
盾で枝を受けとめた結はライを不安にさせないように、小さいながらも力強い声で囁いた。
「あ、ああ……」
ライはその言葉で少しだけ落ち着きを取り戻す。
クロードはそんなライへ『防性強化』をかけた。
まりおもライをフォローするため、彼を囲もうとしていた敵の一体を切り伏せる。
エヴァンスはライがしり込みしないよう、傭兵の男気を見せんと雑魔へと駆け寄り、剣を振った。
テンシは一体の敵をワイヤーで絡め取り、動きを封じる。彼はライの方を意味ありげに見た。
No.0は『攻性強化』をライへとかける。振り返るライ。
兜の奥から青く光る目が覗いている。ライなら必ず雑魔を倒せると言いたげに。
「う、うわあああああ!!」
彼らの意思に背を押されるように、もしくは自分を見つめる光から逃げるかのように、ライは叫び声をあげながら敵へと向かい、バーンブレイドを思い切り振るう。薪割り、打ち込みの訓練を思い出しながら。
熟練の戦士には程遠い動きではあったが、彼の剣は雑魔へと叩きつけられる。
借り物の剣は本来の威力を発揮できてはいない。しかし火に弱い雑魔だったのか、赤い刃は致命傷となる一撃を木の魔物へと負わせた。
斬撃を受けた雑魔はよろめき、消滅する。
最初、何が起きたか分かっていなかったライだが、その顔にやがて小さな笑みが浮かんだ。
背後から村人達の喝采があがる。今度はイリスの黄色い声も聞こえてきた。
敵はまだ残っているが、もはや誰もが勝利を確信していた。
一体の雑魔がライへと枝を伸ばすが、ライはそれをバックラーで何とか受け流した。これも訓練の賜物であろう。
ハンター達も皆、それぞれ得物を操り敵を次々と撃破していく。やがて雑魔は最後の一体を残すのみとなった。
クロードの斬撃により、枝を数本叩き折られた雑魔がよたよたとフィーサの下へと近づいてくる。遠目にイリスの姿を見かけたフィーサは、避けられたはずの雑魔の攻撃をその身に受け、地面へと倒れ込んだ。彼女の大きな胸がたゆん、と揺れる。その際、別の意味での喚声があがったような気もする。
「きゃーらいくんたすけてー」
フィーサが倒れたまま発した声は明らかに棒読みであったが、そのことに気付けたのはおそらくこの場のハンター達だけであったろう。
ライは踏み込み、剣を上段から切り下ろす。
赤い刀身はわずかに残った生命力を削り取り、見事に雑魔を無に帰したのであった。
●
「お兄ちゃーーん!」
戦いを終えたハンター達の下へ真っ先に駆け込んできたのはイリス。少女はそのままライの胸へと抱きついた。
「ははっ……良かった、お前も、村の皆も無事で……」
イリスを抱きしめるライ。
村人も全員、ライとハンター達を囲み、礼と賛辞を口々に述べた。
「ライはどうだった?」
「うん! すごくカッコよかった!」
尋ねたラプに満面の笑顔で答えるイリス。
結もライを労わりながら、イリスとおしゃべりに興じている。
No.0はイリスの注意が逸れている間に、ライへと囁いた。
「友達を喜ばせるためだったとはいえ、作り話をしてしまったことはちゃんと謝らないといけない……今回は俺達が協力できた……次も同じとは限らない……その時に困るのはライと友達と村の人だからな……?」
「……そうだな。一歩間違えたら、皆無事じゃなかったんだからな……」
ライは抱きしめている少女の頭を優しく撫で、ひと段落したら皆に真実を告げようと心に決めた。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 7人 |
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ライを鍛えよう No.0(ka4640) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/04/17 09:58:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/16 08:24:34 |