• 不動

【不動】報酬と、尊厳と、ときどき、嘔気と

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
3日
締切
2015/04/14 22:00
完成日
2015/04/23 09:41

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「…………」
 シュリ・エルキンズは耐えていた。油断は即ち、社会的な死に繋がり兼ねない。
 でも、このハンドルとやらを握る必要がある。死にたい。
 ――高額報酬の理由が解った。吐きそうだ。


「――これが」
 少年――シュリは周囲を見渡し、呟いた。足元には瓦礫が山のように積み重なっており、見回す先も似たようなものだ。家屋は崩れ、砦を囲む防壁も損壊が目立つ。
 マギア砦だ。奪還が成ったばかりであり激戦の痕が生々しく残る。
「……」
 シュリは、眼前の戦禍に、呑まれていた。
「ずいぶんと酷い事になったな……あの腐れ巨人共、随分と勝手をしやがった」
 いつの間にか隣に来ていた赤の隊所属のおっさん騎士だ。鎧は外し、軽装となった騎士は皮手袋についた砂塵を払う。
「……前は、もう少しましだったんですか?」
 騎士は、マギア砦防衛戦にも参加していたという。撤退間際の光景を、かつて語ってくれた事を思い出した。
「ああ」
 眼を細めたおっさん騎士は、続ける。
「俺たちはギリギリまで残っていたが、そん時ぁまだ此処まで荒れちゃあ居なかった。死者を置いていく有り様だったが、な」
「あ……」
 想起されたのは――レチタティーヴォの配下を名乗る”操骸道化”クロフェド・C・クラウンと、”紅凶汲曲”ラトス・ケーオと共に現れた、肉巨人、フレッシュゴーレムだ。人肉を寄せ集めて作った、背徳の異形。
 改めて見まわすと、マギア砦は――なぜだろう、先ほどと違って見えた。
「そう、か」
 マギア砦で、人類は――それが予定通りとはいえ――敗退、撤退していたのだ。想像していたのは、血肉が散る酸鼻な光景だった。だが、今は、それがない。
「……思っていたより、綺麗、かもしれないですね」
「あのクソ忌々しい道化たちが掃除していったんだろうが」
 同じことを考えていたのだろう。おっさん騎士はそう頷くと。
「巨人に喰われた方が、……いや……」
「……」
 怨々と猛り歌っていた肉巨人を思い出す。あまりにもおぞましく、あまりに無残な姿を。過日の戦場で、ハンター達が弔っていた光景を、思い出し――首を振って、あの光景を振り払った。

 その後、砦の中を散策したが、『遺体は、唯の一つもありはしなかった』。
 ご苦労な事だ、と。一緒に見て回ったおっさん騎士は忌々しげに言っていた。
 シュリは何も言えなかった。
 この戦争における死者は――騎士にとっては戦友だった。その成れの果てを知っていたからこそ、掛けるべき言葉が、見つからなかった。

「お」
「……どうしたんです?」
「いや、アイツをみろ」
 示した先には、防壁があった。内側から大きくへこみ、軋んでいる防壁だ。 
「聖堂戦士団の聖女ヴィオラ・フルブライト様がブチ抜いた巨人が壁に叩きつけられて弾けた結果がアレだ」
「え……?」
「世の中、逆らっちゃいかんやつが居る。女と、自分より強いやつだ。あとは……分かるな?」
「あっ、はい」
 その言葉には、素直に頷けたシュリであった。


 さて。ハンター兼学生のシュリがなぜこの砦にいるかというと、依頼がでていたから、だ。
 貧乏学生のシュリにとって、”高額時給”は不変の正義だった。

 でも、それだけではない。初めてのことだった。はっきりと人格を持ち、悪意を振りまく歪虚を見たのは。そして、それと対話し、真っ向から抗う人間――ハンターを見たのは。
「……」
 何かが、シュリの中に落ち込んでいったのは事実だ。王立学校の騎士科に属する少年にとって、新しい何かが。それ故に彼は今、辺境にいる。

 そして。
「……」
「何か質問はありますか?」
 シュリはヴィオラ・フルブライト(kz0007)の姿に、緊張を強いられていた。物理面で畏怖を覚え、話はさっぱり頭に入ってこなかった。
「はーい」
 だから、気安くそんな声が上がった時は、驚いた。
「……ヘクス卿」
「現状はこう、だね。砦を奪還したものの、『この砦には余りにも備蓄がなかった』。火薬も、装備も、糧食も、水も」
 指折り数えながら、ヘクス・シャルシェレット(kz0015)は続けた。悪戯っぽく笑う視線は――何故か、シュリを見つめている。
「騎士団は周囲の掃討に忙しく、戦士団は補修に忙しい。だからハンター達にはCAM実験施設から該当する物品を運んでほしい――と」
「その通りですが……敢えて繰り返したのは何故ですか?」
「いや、君に見惚れて聞いてなかった子が居たみたいだから――」
「えっ! は、ッ、ええッ!?」
 ヘクスの視線を辿ったヴィオラに、動転するシュリ。ヴィオラは不満気に目を細めるとヘクスを見た。
「ヘクス卿…………お戯れも程々にしてください」
「はーい」
 軽い言葉にヴィオラは深い溜息を吐いたようだった。


「はーい、注もーく」
 所変わって、マギア砦から南西のCAM実験施設。早馬を飛ばして戻ったヘクスはハンター達を集めると朗らかにそう言った。隣に居る男は、目元を押さえてどこか辛そうにしている。
「というわけで、今回君たちには物資の移送をしてもらうわけだけど……」
 に、と。ヘクスは笑った。稚気に溢れた笑みだった。
「間にナナミ河があるのと、こないだ怠惰の歪虚がボコボコにしてくれたせいで、何回も往復するには不便なんだよね。運ぶべき資材も多い。そこで――」
 ヘクスが話している間、シュリはヘクスの後ろの『それ』が気になって仕方がなかった。大きい。横幅は10メートル。奥行きは5メートルくらいか。縦にも4メートルくらいの大きさがある。荷馬車のようだ、とシュリは感じた。最前、どうも御者台のような何かがある。後方には同じような大きさの――荷台のようなものが、三台程連なっていた。

「ふふ……! すごいだろう! これこそ……フライング・ヘクス号! さ!!」
「……単純に言うと、馬のいない荷馬車だ。馬のかわりに最前部の車輪が魔術で動き、荷台を引く」
「……アダム……君ってやつは……」
 豪快に言い放ったヘクスをまるで無視して、アダム・マンスフィールドは低い声で告げた。
「利点は一点だけ。1往復だけで済むことだ。当座必要な資材を運ぶのには十分な巨体だからな」
「ハンター諸君の意見を受けてさ。使い勝手の良さそうなモノから試してみようということで、作ってたんだよね。刻令術のいいところは有り合わせのものでぱぱっと出来る所だから、RBの技師に色々聞きながら、試作品を、とね。まさかこんなに速く役立つとは思わなかったけど……」
「役立つかどうかは――甚だ疑問、だがな。まず、乗り心地が最悪だ。操縦用の舵は覚醒者じゃ無ければ動かせないくらいに重いくせに、どんなに根性が在るやつでも五分も乗れば音を上げる」
 ――そして、と。アダムは続けた。
「今回、こいつを一回で運ぶ為に、とっておきの”核”を使っている。こんな欠陥品でも車体も貴重だ。必ず、無事で返してほしい」
 言って、アダムは目を伏せた。
 ――詫び入るように。

リプレイ本文


「……車酔いする性質ではなかったから大丈夫、だと、思いたい、けど……」
 シグレ・キノーレル(ka4420)は荷台の荷を紐解きながら、建材等を連結させた荷箱の隙間に並べてそう言った。刻令術のファンタジーさが視覚的に突き刺さる。
「一度に済むのなら――仕方ないのかな」
「……大丈夫。極めたらきっとなんでもスタイリッシュになれるはず」
 慨嘆したシグレに、大胆不敵に笑みを返して見せたJyu=Bee(ka1681)。ハンターの装いは奇天烈な者も多いが、今日のJyu=Beeは一味違った。蝶仮面にダウンキャップ。RB産の合理的なフォルムのベストに、二つずつ揃えた聖書にランプを腰に吊るす。

 本人がどう思っているかはしらないが。
 既に、スタイリッシュだった。


「わりィな、余分が無くて、な」
「あ……」
 こなすべき段取りに身体の方が足りなそうな程に精を出す十 音子(ka0537)に、現場の技師が悲しげに顔を顰めながらロープ諸々の資材を差し出した。明らかに、依頼した分よりも少ない。
 ――あー……。
 中継地点を担っているとはいえ、決して潤沢な環境ではない。辺境とは、そういう場所だった。それでも、彼らが物資を捻り出し供したのは、音子に協力するためなのだろう。足早に去っていった技師に礼をする。
「あ、音子さん……」
 シルヴァ グラッセ(ka4008)が、音子を呼び止めた。手には地図。CAM実験施設からマギア砦までを描いたそれを示すと、
「聞ける限りで、聞いてみたんですけど……」
 と、言った。地図には、ゴブリンやコボルドといった亜人達の目撃情報が記されている。
「精度の方は宛にはなりませんが……安全域はある程度参考になりそうかな、と……」
「あ、ほんとですね!」
 シルヴァが作った地図を眺めながら音子は、なんとしても積み荷を安全に運ぶべく決意を新たにするのだった。

「……ッシ」
lol U mad ?(ka3514)は用意してきたゴムボートの上に壊れ物を設置し終えると、ぱぱん、と両手を鳴らす。
「しっかし、でっけェトラックだなァ……こっち来てからめっきり見なくなったよなー」
「そうだね……」
 手伝っていたアルファス(ka3312)がどこか嬉しげに笑みを返す。見た目は木組みの謎車体だが、乗り物、となると話は別だった。横目に見たロルはにひ、と下卑た笑みを浮かべると。
「……なんだアルファス、やけに気合入ってンじゃねーか」
「結構、楽しみなんだ」
 微笑みを返した青年は、これからの道行きに思いを馳せたようだ。



 いやに風通しがよくなった御者台にまず乗り込んだのは、Jyu=Beeとロル。トラックの足元にいるアダムが御者台に言葉を投げる。
「準備はいいか?」
「ええ」
「モチロンだ」
 随分と手狭な御者台になっていた。ゴムボートを緩衝材に、座布団やクッション代わりの毛布など、思い思いのものが敷き詰められたパーフェクト御者台。余談だが、ゲr――エチケット袋はすぐ手が届く位置に完備されている。
「よし」
 アダムが車輪の近くに備えられた宝石”達”に魔術を紡ぐ、と。太く重い木製の車輪が、砂礫を踏み鳴らす音と共に、進み出した。地面の凹凸が、二人がかりで握るハンドルとお尻から伝わってくる。
「……いやァ」
 伝わって、という言葉が生温くなってくるまで、さして時間はかからなかった。刻令術トラックが最高速度に至るまで一分余り。重い車体と積み荷を引きずって十分な加速を得る”前に”、ロルの視界がゴリゴリとシェイクされる。
「ッハ! ッベェな!」
「中々の暴れ馬ね……右!」
 少しでも平坦な道を進めるように二人がかりでハンドルを切る。全力を籠めて。必死に。
「うぉぉぉぉぉッ……マジッ『ベェ』……!」
「えっ!? 何!! 何か言った!?」
 縦揺れと鈍重な横Gに揺さぶられながら苦悶の声を上げるロルに、傍ら、Jyu=『Bee』は名前を呼ばれた気がして問いかけるが、返事はない。ロルは既に、戦っていたのだった。自らの裡から這い寄るそれは、一度自覚するとみるみるうちにロルから抵抗する気力と余力を奪っていく。

「あ、ストップ」

 ロル。出発して100秒で戦略的撤退を選んだ。尤も、刻令術トラックは急には止まれない。なりふり構わず車上からダイブしなければ、加速度的に悪化する抵抗状況からブッパ間違いなしであった。


 嫌な予感しかしなかった。減速した刻令術トラックに馬上から移ったシグレは御者台に上がる過程で既に身の危険を感じていた。地面にダイブした筈のロルが「軍のハンヴィーやジープよりやべェ、まじッベェ」とか「助かった」とか「もう乗らねェ」とかやけに御機嫌なのも気になる所だ。
「行けそう?」
「……ああ、うん、まあ」
 ガタゴトと揺れる車内。既に愉しげなJyu=Beeの蝶仮面が眩し――かった訳でもないだろうが、シグレは遠くを見た。ハンドルを握ると、Jyu=Beeはブレーキから足を外した。加速するにつれて、揺れが酷くなる。
「くっ……」
 揺れの激しさについ呻いてしまったシグレだが、まだだ。まだ行ける。
 遠景。見据える先には、馬上の音子とシルヴァの姿があった。激震する世界の中で、二人の姿がシグレを現実に繋ぎ止めていた。

 ―4分経過―

 遠くの二人が、なぜだかもう見えない。疑問を覚えるよりも揺れに耐える事に専心するシグレは焦りと共に口を開いた。
「な、何か、話そう!」
「……そ、そうね!」
 飛び出たのが言葉だった事に心底安心しつつ、応じるJyu=Beeに、脂汗を浮かべたシグレは揺られながら何とか紡ぐ。
「最近、行っ、た依頼、は、何だ、い!」
「巨人退治ね。何匹斃したかは覚えてないわ!」
 外見以上に物騒なハンターだと、シグレはその時初めて気づいたようだった。そういえば、ロルが堕ちて、シグレも現在進行形で苦しんでいるのに、Jyu=Beeは全く困憊の気配を見せない。
「へ、え……なら、効率の、いい」
 会話していても気が晴れない。飴玉を舐めるが口を動かすと何かが深淵より込み上げてくる。

 ――これが、酔いか。

 自覚する頃には既に遅い、と知れた。妙な達観を抱きながら。

「……ごめん、チェンジで」
 ブレーキを、踏んだ。


『解っていたこととはいえ……その、大丈夫、ですか?』
「一応、まだ皆生きてるよ」
 哨戒と、渡河の場所を選定するために先行する音子に、アルファスは苦笑と共にそう告げた。
「……ついに僕の番か」
 徐行するトラックは既に揺れているが、期待の方が強い。準備は万全だった。飴玉OK。炭酸水OK。荒野に降り注ぐサンライト対策、OK。それらのうちいくつかはすでにシグレ達が通った道だった。

 ―30分後―

「いやあ、楽しいなぁ!」
 ノーブレーキ、ノーガードで風と揺れに身を任せるアルファスが揚々と告げた。Jyu=Beeと二人がかりでハンドルを切るのも新鮮なのだろう。
「RBの技師としては車輪をラバーで加工したり、馬車用の振動軽減装置をつけて改良したい所だけど……」
 ファンタジーで進むトラックは、機械と違って動力そのものの振動が無い。この致命的なまでに愉快な乗り心地が改善されたら相応のモノになりそうな実感が、ある。
「あとはアクセルがあればなあ……」
 と、零した、その時だ。

「シグレさん!」
「――おいマジかよ!?」
「失礼……っ!」

 眼下。車両と並走するシュリ、ロル、シグレ達の声。何が起こっているかを予想する前に、

 ――。

 音が、した。水が充満した風船を地面に叩きつけたような音。
「……」
 アルファスは空を見上げた。不吉から、反射的に目を背けて。
 瞬後だ。
「おー、なんて見事なオロロロロ」
「ロルさんまで……!」
 ビシャァ、と音がした。ロルだ。シュリの気遣わしげな声を聞いて、アルファスは無線機に向かってこう告げた。
「……二人、アウト、かな」
『あー……」
 音子からは曖昧な返答。ひょっとしたら、アルファスと同じように空を見上げたかもしれない。反射的に、清浄な何かを求めて。
 不意に、傍らを見た。先ほどと違い、額にびっしりと汗を浮かべたエルフの女は。

「……ジュウベエちゃん、被弾しちゃったかも」

『出来ちゃった風』の告白――は、兎も角。


 嘔気は、伝染する。


 次節。SAN値直送の嘔気に敗れたJyu=Beeの運命やいかに!




 ナナミ河を超え、一同は休憩を取ることとした。渡河含めての道程の選定に尽力していたシルヴァは今、周囲の警戒に当たっている。
「……こちらは、大丈夫ですね」
 武骨な狙撃銃『アルコル』を携えて甲斐甲斐しく働いてはいるのだが、その横顔には危ない一線を越えずに来れている事に対する安堵も強い。覚悟はある。在るのだが、出来る事なら乗りたくない。
 一方、この女は違うようだった。
「3、2、1、ハイっ!! で、ゲロを吐ける人が昔居たのよね。いやー憧れたわ」
 ぶはー、と水で口を濯いだJyu=Beeを、周りの面々は微妙な顔で見ていた。

 事後である。

「やっぱり何事もそのくらい極めないと駄目よね」
「……ハンターって、凄いんですね」
「いや、だからといってアレは例外だと思うよ……」
 唖然とするシュリに、紳士的にも目を背けていたシグレ。
 音子は騒ぎを余所に馬達に水を与える。遠出になったが、王国から貸し与えられたゴースロンは健脚ぶりもさることながら、気性がとても良い。今も、水を盛ってきた音子に感謝するように尾を振っている。
「……このコ欲しいなぁ」
 半ば本気で思いながら、辺りを見渡した。残った人数。それぞれが覚醒できる時間と、残る距離を検討する、と。
「………………」
 じっと、遠く、警戒するシルヴァを見た。そして、一人でトラックに乗ること「は」できるシュリを。
「………………」
 どうやら、覚悟を決めなくてはいけないようだった。



 Jyu=Beeとアルファスのペアは極めて快調に進んでいた。どちらも人外レベルの前庭機能の持ち主のようで、ほとんど乗り物酔いの気配を見せない。最高速度故に足が速く、先行して偵察にあたるにも急ぎ足になってしまう。音子とシルヴァは駆け足で馬を繰りながら――ついに、見つけた。
「亜人達、居ました」
『お! 行くぜ!』
『……避けられそうかい?』
 無線機に告げた音子に、馬上のロルが喝采を上げた。退屈だったのだろうか。苦笑の気配とともにシグレが続いた。
「厳しそう、です……」
 遠景には、亜人達の一団。目を細めるシルヴァ。余りに遮蔽がない荒野では、避けようもない。
「……先行して、撃ちます」
「ん……!」
 シルヴァはアルコルを構えながら馬を駆ると、音子が並んだ。後方、ロルが拳を掲げながら近づいてきている。トラックは減速しつつ、経路を少し転じたようだ。
 間合いが詰まる、と。亜人達が彼女達に気づいた。徒歩の亜人達はシルヴァ達を少数と認めたか、疾走を開始。
「侮りましたね……」
 シルヴァはアルコルを構えた。距離は十分。傍ら、音子も銃を構える。
「……っと、追いついたゼ!」
 ロルが並んだ。
「こういうの、いいよなァ。竜騎兵っつーの? 『神よ、私の手と指に――』ってな♪」
「狙撃兵のセリフですよね、それ……?」
「まァ、な」
 へら、と笑ったロルの傍ら。シルヴァのアルコルが咆哮。音子達の銃の間合いの倍からの狙撃。
 ――そう、間合いだ。そして彼らは、馬上にあった。居並ぶ、三つの銃口を前に、遠く、亜人の苦鳴が響く。亜人達がその間合いを詰めれば、それよりも速く、ゴースロンが距離を開く。人馬一体のその様は、まさに竜騎兵と言えた。
 亜人達が不利を悟って敗走するまで、さして時間はかからなかった。


 亜人トラブルが解消出来た今、快調だったのは――アルファスとJyu=Beeの覚醒が解けるまで、だった。
 一人で操縦できる、と意気込んだシュリは五分程粘ったがマーライオン一歩手前になり、馬上でゴースロンに嫌がられながら汚い花火を咲かせている。
 アルファスは存分にトラックを運転したためか満足げで、Jyu=Beeはシュリに「だーーーいじょうぶ、人間適応力が高いから割となんとかなるものよ」と謎啓蒙。その隣ではロルが銃を掲げて仕事アピールをしながら「ヨゥ、水要るか? 五万で一口な」とシュリを煽っている。「ごま……」と呻いたシュリは胃袋が限界を迎えたようで、ロルとJyu=Beeは全速離脱していた。
「……じゃあ、俺がまた乗ろうか。ただ、俺一人ではハンドルを動かせないから……」
 混沌を他所に、またも紳士的配慮≒自己犠牲を見せたシグレに、シルヴァと音子は顔を見合わせると、
「……私、いきましょうか」
「え、いいんです?」
「ええ、まあ……沢山のお金がもらえるなら、少しくらいの事は我慢します」
 シルヴァはぽつ、と言う。
「……少しくらいの、我慢?」
「はい。それに、汚れるだけで死んだりはしないですから、気楽にいけると思いますよ?」
「…………」
 今更ながら、シルヴァの業の深さに気づいた音子は二の句が継げずにいた、が。
 ふ、と。嘔気に苦しむシュリが笑った。
「高額報酬は正義ですからね……」
「シュリさんは寝ててください」
 寝言は寝て言え、と心底思った。

 まあ、結局、音子も乗る事になり、皆で苦しみを分け合うことになったのだが――それもまた、覚悟していた事ではあったので、甘んじて受け入れたのだった。



 かくして、マギア砦に無事辿り着いた頃には、アルファスとJyu=Beeとロル以外は青い顔をしていた。
 マギア砦に詰めていた聖導士達があくせく介護に回る中、積み下ろしが始まった。割れやすいものや傷みやすいものは通常かさ増しされて移送されるのが常だが、それらが丸ごと無事だったことに感嘆の声があがる。ハンター達の厳重で入念な準備が身を結んだのだろう。
 困憊で座り込んだシグレは大きな吐息とともに、言う。
「……もう、二度と乗りたくないな……」
「そうかな?」
「……」
 人間離れしたアルファスはさておいて、シグレの視線の先。戦闘を前にした兵士たちの熱気が、そこにあった。
「こんなに大きな砦なのに……」
 それだけ『物資に困窮していた』のだろうかと、茫洋と考え。
「しかしこれで、砦の備蓄が間に合うのだったね……」
 良かった、と。シグレは笑顔とともに運び込まれる物資を見つめたのだった。


「……ふむ」
「『創始工夫に限界は無い。あるとすればそれは心の限界である』……だそうですよ?」
 興味深げに熱狂を見届けていたアダムに、音子は悪戯っぽく微笑んで、そう言った。
「もっとちゃんと作れ、という事か?」
 道中の惨状を見届ける羽目になったアダムの苦笑に音子はトラックをぽんと叩いて、こう結んだ。
「もう、同じ過ちは繰り返さないでくださいね?」
 それは、冗談めかした口調だったが、
「……済まなかったよ」
 アダムは深い溜息と共に、頭を下げたのだった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 10
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • Beeの一族
    Jyu=Beeka1681
  • Two Hand
    lol U mad ?ka3514

重体一覧

参加者一覧


  • 十 音子(ka0537
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • Beeの一族
    Jyu=Bee(ka1681
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 《聡明》なる天空の術師
    アルファス(ka3312
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • Two Hand
    lol U mad ?(ka3514
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士

  • シルヴァ グラッセ(ka4008
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • ハイリョニスト
    シグレ・キノーレル(ka4420
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
Jyu=Bee(ka1681
エルフ|15才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/04/14 20:29:43
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/12 21:51:57