ゲスト
(ka0000)
群れたる裸の猿たち
マスター:トーゴーヘーゾー

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/05 09:00
- 完成日
- 2014/07/12 04:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「お前、温泉って知ってるか?」
「どっかで聞いた気もするが……、なんだったかな?」
「なんでも、地面を掘ると熱いお湯が出てくるらしいんだよ。皇帝陛下のご意向であちこち掘り返しているという噂なんだ」
「お湯なんて沸かせば済むだろ。……いや!? もしかして、薪を集める必要が無くなるってわけか!?」
「そうだったら、薪拾いをせずに楽できるんだがなぁ。実際には、手で触るとちょっと熱い程度らしい」
「おいおい。そんなんじゃ、飲むには温いし、掃除にも不向きだぞ。なんだってそんな温いお湯が欲しいんだ?」
「その湯に浸かるんだと」
「浸かるってのは?」
「お湯を溜めて、入るんだと」
「泳ぐのか?」
「ただ、入るだけだ」
「熱いんだろ? 汗をかくじゃないか」
「そりゃあ、かくだろうな」
「なんのために汗をかくんだ?」
「汗をかきたいからだろ」
「なぜ、汗をかきたいんだ?」
「俺に言われてもわからねえよ。不思議に思って、お前に話してるんだから」
「お偉いさんて、わかんねぇなぁ。仕事で汗をかくんだし、水を被ってすっきりするもんだろ? 何を好きこのんで汗をかくんだ?」
「もしかすると、もっと北の寒い地方だと、お湯の方がいいのかもしれないぞ」
「……ああ。そういう話ならわかるわ。こっちで水浴びするようなもんか。寒い土地だと逆になるんだな」
「それで、思ったんだけどよ」
「なんだ?」
「山の奥に湯気の立っている泉があるだろ? あれって温泉じゃないのか?」
「……そういや、あったな。それがどうした?」
「あれを国に教えれば報償とかもらえないかな」
「そりゃ、無理だ。寒いところだから温泉はありがたいんだろ? 俺達が川で水浴びしてんのに、わざわざ温いお湯で汗をかくなんて誰がするんだ?」
「この際それは誰でもいいんだよ。とにかく、国で温泉を欲しがってるなら、教える事でなんかの見返りももらえると思うんだよ」
「ん~。まあ、どうせ元手はかかってないしな」
「そうそう」
「……待てよ!? あの温泉はまずいだろ。あいつらが居座ってるじゃないか!」
「あ~。そう言えばあいつらがいたなっ!」
「ま、俺等が苦労したわけでもないし、諦めろって」
「いや。それを言うなら、知らせるだけ知らせてみよう。帝国が諦めるって言うならそれでいいし、対策するつもりなら帝国でなんとかするだろ」
天然の温泉に関する知らせが届いた帝国内務課では、この対処をハンターズソサエティに丸投げする。
主旨は大まかに言ってふたつ。
ひとつ目は、温泉周辺を縄張りとする猿の群れの一掃。
ふたつ目は、村人達に入浴の文化を教える事だ。
「どっかで聞いた気もするが……、なんだったかな?」
「なんでも、地面を掘ると熱いお湯が出てくるらしいんだよ。皇帝陛下のご意向であちこち掘り返しているという噂なんだ」
「お湯なんて沸かせば済むだろ。……いや!? もしかして、薪を集める必要が無くなるってわけか!?」
「そうだったら、薪拾いをせずに楽できるんだがなぁ。実際には、手で触るとちょっと熱い程度らしい」
「おいおい。そんなんじゃ、飲むには温いし、掃除にも不向きだぞ。なんだってそんな温いお湯が欲しいんだ?」
「その湯に浸かるんだと」
「浸かるってのは?」
「お湯を溜めて、入るんだと」
「泳ぐのか?」
「ただ、入るだけだ」
「熱いんだろ? 汗をかくじゃないか」
「そりゃあ、かくだろうな」
「なんのために汗をかくんだ?」
「汗をかきたいからだろ」
「なぜ、汗をかきたいんだ?」
「俺に言われてもわからねえよ。不思議に思って、お前に話してるんだから」
「お偉いさんて、わかんねぇなぁ。仕事で汗をかくんだし、水を被ってすっきりするもんだろ? 何を好きこのんで汗をかくんだ?」
「もしかすると、もっと北の寒い地方だと、お湯の方がいいのかもしれないぞ」
「……ああ。そういう話ならわかるわ。こっちで水浴びするようなもんか。寒い土地だと逆になるんだな」
「それで、思ったんだけどよ」
「なんだ?」
「山の奥に湯気の立っている泉があるだろ? あれって温泉じゃないのか?」
「……そういや、あったな。それがどうした?」
「あれを国に教えれば報償とかもらえないかな」
「そりゃ、無理だ。寒いところだから温泉はありがたいんだろ? 俺達が川で水浴びしてんのに、わざわざ温いお湯で汗をかくなんて誰がするんだ?」
「この際それは誰でもいいんだよ。とにかく、国で温泉を欲しがってるなら、教える事でなんかの見返りももらえると思うんだよ」
「ん~。まあ、どうせ元手はかかってないしな」
「そうそう」
「……待てよ!? あの温泉はまずいだろ。あいつらが居座ってるじゃないか!」
「あ~。そう言えばあいつらがいたなっ!」
「ま、俺等が苦労したわけでもないし、諦めろって」
「いや。それを言うなら、知らせるだけ知らせてみよう。帝国が諦めるって言うならそれでいいし、対策するつもりなら帝国でなんとかするだろ」
天然の温泉に関する知らせが届いた帝国内務課では、この対処をハンターズソサエティに丸投げする。
主旨は大まかに言ってふたつ。
ひとつ目は、温泉周辺を縄張りとする猿の群れの一掃。
ふたつ目は、村人達に入浴の文化を教える事だ。
リプレイ本文
●入浴しに行きたいか?
「今帝都を中心に、俄かに流行の兆しを見せ始めているもの、……それが『オンセン』!」
「温泉って、入った事ないですけど、いいものなんですか?」
力説していたメリエ・フリョーシカ(ka1991)が、素朴な疑問を受けてコーネリア・デュラン(ka0504)を振り向く。
「入るものなんですか? ……そもそも、オンセンってなんです?」
メリエの知識は、どうやらコーネリアよりも乏しかった。
「地面から湧き出るお湯を溜めて肩まで浸かる文化! それが温泉! ……かつて読んだ温泉漫画にそうあった」
補足したJyu=Bee(ka1681)までもが、聞きかじりの知識であった。
「はぁ……、お湯に浸かる? リアルブルーって寒い所なんですか?」
鉱山都市出身のメリエは風呂の習慣がないため誤解しているが、風呂や温泉はリアルブルー限定の文化ではない。
現に、ドワーフのウルカ(ka0272)が口にするのは実体験によるものだ。
「温泉! 風呂はいいよな! ふにゃーっと浸かりながら、お酒をぐいーって呑むのがたまらないな!」
露天風呂に慣れているのか、ウルカは虫除け用に紙巻煙草も持参していた。
「折角あるんだから、利用しないの勿体ないです。まずは使えるようにする所から、頑張りますね」
と、コーネリアもやる気を見せる。
「猿のお墨付き温泉……、これはいいキャッチフレーズになるで!」
「そう! それも風呂漫画にあった!」
淵東 茂(ka1327)の発案に、思いのほか食いつくJyu=Bee。
ちなみに、ルナ・クリストファー(ka2140)の場合は依頼内容そのものよりも、非常に個人的な理由から発奮していた。
「ようやく最初の依頼ですね。失敗しないよう、気を引き締めていかなければ……。冷静かつ的確に状況を見極め、臨機応変に判断して行動すべし」
「村人に温泉の良さを教えるお仕事だね。そのためには温泉を縄張りにしている猿達を、どうにかしないといけないわけだ……。さてさて」
超級まりお(ka0824)が依頼の主旨を口にすると、アナスタシア・B・ボードレール(ka0125)の目がどこか冷たく光った。
(依頼である以上は全力を尽くしますが……、依頼人の身勝手とも思えますね。単に力のある者に頼めば良いという怠慢。いずれ、後悔することでしょう)
村で直接尋ねてみても、依頼人は猿に関する情報をほとんど持っておらず、アナスタシアとしてはビジネスライクな対応にならざるを得なかった。
「猿かー。戦うのは苦手だけど、終わった後温泉入れるなら頑張るかー」
およびごしのウルカに、まりおが応じる。
「要は『人間の方が強い』って事を学習させればいいんだし、一発ガツンとかませばあっさり終わるかもね」
●銭湯のための戦闘
「さすがに温泉の中で戦うのは、まずい……ですよね」
「そうだね。温泉を汚すわけにもいかないから」
問いの形を口にしたルナだが、Jyu=Beeの返答も予測できていた。
「戦闘に入るタイミングはみんなに任せるからな」
「では、さっそく……」
ウルカに促される形で、Jyu=Beeが猿の集団へ石を投げ込んだ。
「当たると痛いですよ」
ワンドを構えたルナが、マジックアローを撃ちこんでいく。
「キッ!? キーッ!」
猿達が騒々しい悲鳴を上げる。
前衛を受け持つ茂が、ランアウトで群れの正面で迎え撃つ。殺傷を避けるために、足や尻に狙いをしぼって、スキルを発動させる。
「無礼とは思いますが。ここは譲り渡してもらいます」
茂に向けて、アナスタシアが運動強化を使用して補佐に回った。
「こいよサル! 木の枝なんか捨ててかかってこい! 丸腰だ! お前でも勝てるぞ!」
メリエの意外な口調にハンター達は困惑するが、驚く理由を持たない猿はかまわず襲いかかる。
「おらぁ! ぬぁあ! でりゃあ!」
流れるような動作で、ウェスタン・ラリアットから、ジャイアントスイングにつなぎ、キャメルクラッチで固める。メリエが言うところの『父から学んだドワーフ技』だ。
「次はどうしたサル! ……怖いのか?」
「キーッ!」
新たな猿を相手に、彼女の物理的ネゴシエイションが炸裂する。
どちらが獣かわからないという感想が幾人かの頭に浮かんでいた。
「間違って当てないように注意しないと……」
ルナが自戒したのは、決して悪意からではない。
銃を手にしたまりおも、威嚇射撃が中心だった。
「音だけで退いてくれれば、平和でいいんだけどね」
そうもいかず、まりおは猿の動きを牽制するために引き金を引き続けた。仲間には悪いが、直接戦闘は全てお任せという形だ。
「さってと。貴方達に恨みは無いけれど。温泉のためなら容赦は無しよ。去るものは追わず、けれど邪魔をすると言うのなら、この美少女侍ジュウベエちゃんが、貴方達の根性を調教してあげるわ!」
Jyu=Beeの武器は日本刀。しかし、鞘に納めたまま鈍器として使用していた。
「斬って血を流すわけにもいかないしね」
ウルカもまた、武器に使用制限をかけていた。
「さすがにドリルを使うわけにいかないしな」
そこで、攻性強化や運動強化による支援に専念している。組み付かれた場合も、素手で払いのけている状況だ。
ウルカの背中に跳びかかった猿へ、コーネリアの鞭が飛ぶ。
この鞭の動きが変則的なためか、猿達は集団戦の中で『コーネリアの攻撃』とは把握していないらしい。
敵意の薄いアナスタシアも攻撃の対象から外れているようで、彼女が回避しているのも『流れ爪』程度であった。
「じゃあ! でぇあ!」
プロレス技を連発していたメリエに、やがて挑戦者も絶える。
「うぃーっ!」
勝利のポーズで勝ちどきの声を上げるメリエ。
野生の猿ごときでは、ハンター相手の戦闘はやはり力量差がありすぎたのだ。
思いのほか早く終わって、ウルカの声が弾む。
「猿退治が終わったし、次は温泉だなっ!」
「かつて読んだ温泉漫画の知識を今こそ見せる時! 温泉の良さを広めるために使いやすく整備してみせるわ!」
使命感に燃えるJyu=Beeが、高らかに宣言するのであった。
●温泉開発事業
「僕は温泉を猿用エリアと人間用エリアとに分けてしまいたいんだ!」
まりおの提案に、茂やアナスタシアが強く賛同する。
「うむ。見晴らしを活かす露天、猿を活かす動物治療、がコンセプトやな!」
「猿の生活圏を残すためにもいい案だと思います」
「それじゃあ、垂れ流しじゃ色々ダメなんですよね?」
まりおが猿用の浴槽を掘り始めたので、メリエは源泉からの流れを分岐することにした。
「更衣室には少し小さいでしょうか?」
「利用者が増えた時の事は、村人に任せていいと思うよ」
テントの設置を終えたルナとJyu=Beeが、今度はスコップを握って温泉に入る。
「こっちは後で広げるのが難しいけどね」
「源泉あっつ!」
耳に届いたのは、支流との接続を行ったメリエの声だ。
他にも、村から借り受けた工具やもらってきた木材などで、金槌や鋸が奏でる作業音も響いている。
「……できたっと。こっちのサイズのスノコはいくつ作るのかな?」
「あと3つ、ってとこやな」
「わかった」
日曜大工を得意とするウルカが茂の作業を手伝っていた。
「気分良く入浴するためにも、土の上は歩きたくないもんなぁ」
「うん。それ大事」
こくこくとウルカが頷いた。
浴槽の拡張工事を終えたJyu=Beeは、ナッツをちらつかせて猿達を招き寄せていた。
「人間は怖くて偉い生き物だからね。忘れたらだめだよー。あんた達の温泉はこっちだからね」
「キーッ。キーッ」
「危ない、危険……分かりますか? 貴方達には悪いですが。あの温泉はいただきたいのです」
「キーッ。キーッ」
猿を相手に、アナスタシアが熱心に躾ている。言葉だけでは通じるはずもなく、身体を押さえつけて、温泉近くではおとなしくするよう教え込む。
数が揃ったようで、茂やウルカがテントから温泉までの動線にスノコを配置し、ルナやメリエが平らにした浴槽の底にもスノコを沈めていく。
茂が、持ち帰るべき宿題をひとつ思いついた。
「帝国に泉質調査依頼しておいた方がいいかもな」
コーネリアやまりおが見守る中、温泉を濁らせていた土がゆっくりと沈んでいく。
「……このくらい澄んでいれば大丈夫でしょうか?」
「うん。やっと、入浴できそうだね」
●温泉へようこそ
「やっぱり、これは必要ですよね」
それぞれのテントの入り口に、コーネリアが2色の布を垂らす。
「赤を女性用、青を男性用にしましょう」
茂ひとりがのけ者にされ、女性達がテントでかしましい声を上げていた。
「水着? んなもんねぇよ。……といいますか、ミズギってなんです? 水で出来た服ですか?」
「水着って言うのはアナスタシアが着ているような、水に入るための服だよ」
向けられた視線に、アナスタシアが平坦な口調で応じる。
「……? なにか。変な物でも見ましたか?」
「水着を見ていただけです」
言葉少なにメリエが応じる。着替える前に比べて胸が膨らんでいると感じたものの、『水着とはそういうものだ』と彼女は考えた。逆に、ウルカの『正直な』水着姿に疑問を抱いたくらいである。
かくて、ささいな誤解のおかげで、アナスタシアの見栄と誇りは守られた。
「先に行くね」
全裸となったまりおが唯一身につけているのは、リボルバー「シルバーマグ」のみ。
「まりおはその姿で行くんですか?」
「って、銃を持ってくの?」
ルナやウルカの疑問に、彼女はあっけらかんと答える。
「風呂は裸で入るものだし、銃は猿の威嚇用にね」
「色々と問題がありそうですから、私はタオルぐらい巻くことにします」
メリエの言葉を聞いて、ルナも倣うことにしたものの、なかなか踏ん切りがつかないようだ。
「ハンターとして依頼を受けた以上は、先に入ってみせる必要が……ありますかね。仕方ありません」
先行する仲間を、ルナも慌てて追いかける。
男性ひとりの着替えに時間がかかるわけもなく、一番風呂の栄誉に浴したのは茂だ。水面下で見えないが、きちんと水着も着用している。
「他は、若い女の子ばかりやしなぁ」
溌剌とした少女達の訪れを目にして、寄る年波を実感してしまう茂であった。
「猿と人間の風呂は完全に分けた方が、いいんと違うか?」
茂の指摘に、猿用温泉へ向かったまりおの足が止まる。
「……その方が猿を誤解させずに済むかもね」
そう思い直して、まりおもハンター仲間と同じ同じ温泉に身を浸す。
相変わらず銃を手にしており、猿がこちらへ来るようなら、威嚇射撃で応じるつもりだ。
「温泉と言えばこれだよねぇ、ミゲル?」
ブランデーを掲げるウルカに、茂も笑顔で応える。
「ウルカはんはわかっとるなぁ。ビールとピーナッツもあるで」
ハンター達が入浴を楽しんでいると、Jyu=Beeが都合のついた村人を20名ほど連れてきた。
「……貧血や更年期障害、リューマチや関節痛など、身体に良く効くんだよ。怪我人やお年寄りにも、負担は少ないからお勧めなんだから」
「疲れた身体にはありがたい。農作業の汗や汚れを流すには一番だろうな」
くつろぎながら、茂からの援護射撃。
「あぁ、それにしても気持ちいいですねぇ。癖になりそうです」
その気にさせる演出というよりも、それはメリエの本心だろう。
「そうですね。みなさんもどうですか? 向こうで猿達も堪能しているみたいですよ」
「帝国政府もまた入浴の習慣が根付く事を望んでいるようですから」
コーネリアやルナも、温泉から村人に訴える。
「温泉の良さは入れば分かる! 入らなければわからない! 入れば女の子達ともお近づきになれる!」
ウルカが茂とともに乾杯して見せた。
「温泉の噂が広まれば、ハンターとかが村の外からでも入浴に来るんじゃないかな! 頑張って広めた方がいいよ!」
「ワインも準備してるから、入浴希望者には配るよ。慣れるまでは水着でもいいからね」
Jyu=Beeが流れ作業のように、村人達をテントに押し込んでいく。
突然、銃声が響いて、皆の視線がまりおへ集中した。
「ごめんね。猿も躾ている最中なんだ。温泉の利用者に被害が出るとまずいしね」
村人の目も気にせず、完全に裸なのは彼女だけである。だが例によって謎の光によって恥部は完全に遮断されているぞ。
猿が撃退され、アナスタシアは少しだけ落胆する。
(例の依頼人に、報いがあると思っていたのですが……)
彼女の予測とは異なり、『幸運にも』そんな事態は起こらずに終わりそうだ。
(それにしてもアレですね。ずっと浸かっていると……妙にぼうっとしますねぇ……)
聞こえたはずの銃声に、メリエはなんの反応も示さなかった。
「ああっ、のぼせてる!? 衛生兵! 衛生兵を呼んでーっ!」
ウルカ本人も慌てたのか、血の巡りが加速しすぎたのか、混乱しているようだ。
ハンター仲間がうろたえる中、Jyu=Beeはそのドタバタ劇を注意事項に付け加えた。
「この様に、あまり長湯をすればのぼせるから気をつけてね」
神妙に頷く村人達に、彼女は自信満々に告げる。
「ここが整備されれば、きっと村に観光客も呼べるようになるわよ。この温泉マスタージュウベエちゃんの言葉に間違いはないわ」
「今帝都を中心に、俄かに流行の兆しを見せ始めているもの、……それが『オンセン』!」
「温泉って、入った事ないですけど、いいものなんですか?」
力説していたメリエ・フリョーシカ(ka1991)が、素朴な疑問を受けてコーネリア・デュラン(ka0504)を振り向く。
「入るものなんですか? ……そもそも、オンセンってなんです?」
メリエの知識は、どうやらコーネリアよりも乏しかった。
「地面から湧き出るお湯を溜めて肩まで浸かる文化! それが温泉! ……かつて読んだ温泉漫画にそうあった」
補足したJyu=Bee(ka1681)までもが、聞きかじりの知識であった。
「はぁ……、お湯に浸かる? リアルブルーって寒い所なんですか?」
鉱山都市出身のメリエは風呂の習慣がないため誤解しているが、風呂や温泉はリアルブルー限定の文化ではない。
現に、ドワーフのウルカ(ka0272)が口にするのは実体験によるものだ。
「温泉! 風呂はいいよな! ふにゃーっと浸かりながら、お酒をぐいーって呑むのがたまらないな!」
露天風呂に慣れているのか、ウルカは虫除け用に紙巻煙草も持参していた。
「折角あるんだから、利用しないの勿体ないです。まずは使えるようにする所から、頑張りますね」
と、コーネリアもやる気を見せる。
「猿のお墨付き温泉……、これはいいキャッチフレーズになるで!」
「そう! それも風呂漫画にあった!」
淵東 茂(ka1327)の発案に、思いのほか食いつくJyu=Bee。
ちなみに、ルナ・クリストファー(ka2140)の場合は依頼内容そのものよりも、非常に個人的な理由から発奮していた。
「ようやく最初の依頼ですね。失敗しないよう、気を引き締めていかなければ……。冷静かつ的確に状況を見極め、臨機応変に判断して行動すべし」
「村人に温泉の良さを教えるお仕事だね。そのためには温泉を縄張りにしている猿達を、どうにかしないといけないわけだ……。さてさて」
超級まりお(ka0824)が依頼の主旨を口にすると、アナスタシア・B・ボードレール(ka0125)の目がどこか冷たく光った。
(依頼である以上は全力を尽くしますが……、依頼人の身勝手とも思えますね。単に力のある者に頼めば良いという怠慢。いずれ、後悔することでしょう)
村で直接尋ねてみても、依頼人は猿に関する情報をほとんど持っておらず、アナスタシアとしてはビジネスライクな対応にならざるを得なかった。
「猿かー。戦うのは苦手だけど、終わった後温泉入れるなら頑張るかー」
およびごしのウルカに、まりおが応じる。
「要は『人間の方が強い』って事を学習させればいいんだし、一発ガツンとかませばあっさり終わるかもね」
●銭湯のための戦闘
「さすがに温泉の中で戦うのは、まずい……ですよね」
「そうだね。温泉を汚すわけにもいかないから」
問いの形を口にしたルナだが、Jyu=Beeの返答も予測できていた。
「戦闘に入るタイミングはみんなに任せるからな」
「では、さっそく……」
ウルカに促される形で、Jyu=Beeが猿の集団へ石を投げ込んだ。
「当たると痛いですよ」
ワンドを構えたルナが、マジックアローを撃ちこんでいく。
「キッ!? キーッ!」
猿達が騒々しい悲鳴を上げる。
前衛を受け持つ茂が、ランアウトで群れの正面で迎え撃つ。殺傷を避けるために、足や尻に狙いをしぼって、スキルを発動させる。
「無礼とは思いますが。ここは譲り渡してもらいます」
茂に向けて、アナスタシアが運動強化を使用して補佐に回った。
「こいよサル! 木の枝なんか捨ててかかってこい! 丸腰だ! お前でも勝てるぞ!」
メリエの意外な口調にハンター達は困惑するが、驚く理由を持たない猿はかまわず襲いかかる。
「おらぁ! ぬぁあ! でりゃあ!」
流れるような動作で、ウェスタン・ラリアットから、ジャイアントスイングにつなぎ、キャメルクラッチで固める。メリエが言うところの『父から学んだドワーフ技』だ。
「次はどうしたサル! ……怖いのか?」
「キーッ!」
新たな猿を相手に、彼女の物理的ネゴシエイションが炸裂する。
どちらが獣かわからないという感想が幾人かの頭に浮かんでいた。
「間違って当てないように注意しないと……」
ルナが自戒したのは、決して悪意からではない。
銃を手にしたまりおも、威嚇射撃が中心だった。
「音だけで退いてくれれば、平和でいいんだけどね」
そうもいかず、まりおは猿の動きを牽制するために引き金を引き続けた。仲間には悪いが、直接戦闘は全てお任せという形だ。
「さってと。貴方達に恨みは無いけれど。温泉のためなら容赦は無しよ。去るものは追わず、けれど邪魔をすると言うのなら、この美少女侍ジュウベエちゃんが、貴方達の根性を調教してあげるわ!」
Jyu=Beeの武器は日本刀。しかし、鞘に納めたまま鈍器として使用していた。
「斬って血を流すわけにもいかないしね」
ウルカもまた、武器に使用制限をかけていた。
「さすがにドリルを使うわけにいかないしな」
そこで、攻性強化や運動強化による支援に専念している。組み付かれた場合も、素手で払いのけている状況だ。
ウルカの背中に跳びかかった猿へ、コーネリアの鞭が飛ぶ。
この鞭の動きが変則的なためか、猿達は集団戦の中で『コーネリアの攻撃』とは把握していないらしい。
敵意の薄いアナスタシアも攻撃の対象から外れているようで、彼女が回避しているのも『流れ爪』程度であった。
「じゃあ! でぇあ!」
プロレス技を連発していたメリエに、やがて挑戦者も絶える。
「うぃーっ!」
勝利のポーズで勝ちどきの声を上げるメリエ。
野生の猿ごときでは、ハンター相手の戦闘はやはり力量差がありすぎたのだ。
思いのほか早く終わって、ウルカの声が弾む。
「猿退治が終わったし、次は温泉だなっ!」
「かつて読んだ温泉漫画の知識を今こそ見せる時! 温泉の良さを広めるために使いやすく整備してみせるわ!」
使命感に燃えるJyu=Beeが、高らかに宣言するのであった。
●温泉開発事業
「僕は温泉を猿用エリアと人間用エリアとに分けてしまいたいんだ!」
まりおの提案に、茂やアナスタシアが強く賛同する。
「うむ。見晴らしを活かす露天、猿を活かす動物治療、がコンセプトやな!」
「猿の生活圏を残すためにもいい案だと思います」
「それじゃあ、垂れ流しじゃ色々ダメなんですよね?」
まりおが猿用の浴槽を掘り始めたので、メリエは源泉からの流れを分岐することにした。
「更衣室には少し小さいでしょうか?」
「利用者が増えた時の事は、村人に任せていいと思うよ」
テントの設置を終えたルナとJyu=Beeが、今度はスコップを握って温泉に入る。
「こっちは後で広げるのが難しいけどね」
「源泉あっつ!」
耳に届いたのは、支流との接続を行ったメリエの声だ。
他にも、村から借り受けた工具やもらってきた木材などで、金槌や鋸が奏でる作業音も響いている。
「……できたっと。こっちのサイズのスノコはいくつ作るのかな?」
「あと3つ、ってとこやな」
「わかった」
日曜大工を得意とするウルカが茂の作業を手伝っていた。
「気分良く入浴するためにも、土の上は歩きたくないもんなぁ」
「うん。それ大事」
こくこくとウルカが頷いた。
浴槽の拡張工事を終えたJyu=Beeは、ナッツをちらつかせて猿達を招き寄せていた。
「人間は怖くて偉い生き物だからね。忘れたらだめだよー。あんた達の温泉はこっちだからね」
「キーッ。キーッ」
「危ない、危険……分かりますか? 貴方達には悪いですが。あの温泉はいただきたいのです」
「キーッ。キーッ」
猿を相手に、アナスタシアが熱心に躾ている。言葉だけでは通じるはずもなく、身体を押さえつけて、温泉近くではおとなしくするよう教え込む。
数が揃ったようで、茂やウルカがテントから温泉までの動線にスノコを配置し、ルナやメリエが平らにした浴槽の底にもスノコを沈めていく。
茂が、持ち帰るべき宿題をひとつ思いついた。
「帝国に泉質調査依頼しておいた方がいいかもな」
コーネリアやまりおが見守る中、温泉を濁らせていた土がゆっくりと沈んでいく。
「……このくらい澄んでいれば大丈夫でしょうか?」
「うん。やっと、入浴できそうだね」
●温泉へようこそ
「やっぱり、これは必要ですよね」
それぞれのテントの入り口に、コーネリアが2色の布を垂らす。
「赤を女性用、青を男性用にしましょう」
茂ひとりがのけ者にされ、女性達がテントでかしましい声を上げていた。
「水着? んなもんねぇよ。……といいますか、ミズギってなんです? 水で出来た服ですか?」
「水着って言うのはアナスタシアが着ているような、水に入るための服だよ」
向けられた視線に、アナスタシアが平坦な口調で応じる。
「……? なにか。変な物でも見ましたか?」
「水着を見ていただけです」
言葉少なにメリエが応じる。着替える前に比べて胸が膨らんでいると感じたものの、『水着とはそういうものだ』と彼女は考えた。逆に、ウルカの『正直な』水着姿に疑問を抱いたくらいである。
かくて、ささいな誤解のおかげで、アナスタシアの見栄と誇りは守られた。
「先に行くね」
全裸となったまりおが唯一身につけているのは、リボルバー「シルバーマグ」のみ。
「まりおはその姿で行くんですか?」
「って、銃を持ってくの?」
ルナやウルカの疑問に、彼女はあっけらかんと答える。
「風呂は裸で入るものだし、銃は猿の威嚇用にね」
「色々と問題がありそうですから、私はタオルぐらい巻くことにします」
メリエの言葉を聞いて、ルナも倣うことにしたものの、なかなか踏ん切りがつかないようだ。
「ハンターとして依頼を受けた以上は、先に入ってみせる必要が……ありますかね。仕方ありません」
先行する仲間を、ルナも慌てて追いかける。
男性ひとりの着替えに時間がかかるわけもなく、一番風呂の栄誉に浴したのは茂だ。水面下で見えないが、きちんと水着も着用している。
「他は、若い女の子ばかりやしなぁ」
溌剌とした少女達の訪れを目にして、寄る年波を実感してしまう茂であった。
「猿と人間の風呂は完全に分けた方が、いいんと違うか?」
茂の指摘に、猿用温泉へ向かったまりおの足が止まる。
「……その方が猿を誤解させずに済むかもね」
そう思い直して、まりおもハンター仲間と同じ同じ温泉に身を浸す。
相変わらず銃を手にしており、猿がこちらへ来るようなら、威嚇射撃で応じるつもりだ。
「温泉と言えばこれだよねぇ、ミゲル?」
ブランデーを掲げるウルカに、茂も笑顔で応える。
「ウルカはんはわかっとるなぁ。ビールとピーナッツもあるで」
ハンター達が入浴を楽しんでいると、Jyu=Beeが都合のついた村人を20名ほど連れてきた。
「……貧血や更年期障害、リューマチや関節痛など、身体に良く効くんだよ。怪我人やお年寄りにも、負担は少ないからお勧めなんだから」
「疲れた身体にはありがたい。農作業の汗や汚れを流すには一番だろうな」
くつろぎながら、茂からの援護射撃。
「あぁ、それにしても気持ちいいですねぇ。癖になりそうです」
その気にさせる演出というよりも、それはメリエの本心だろう。
「そうですね。みなさんもどうですか? 向こうで猿達も堪能しているみたいですよ」
「帝国政府もまた入浴の習慣が根付く事を望んでいるようですから」
コーネリアやルナも、温泉から村人に訴える。
「温泉の良さは入れば分かる! 入らなければわからない! 入れば女の子達ともお近づきになれる!」
ウルカが茂とともに乾杯して見せた。
「温泉の噂が広まれば、ハンターとかが村の外からでも入浴に来るんじゃないかな! 頑張って広めた方がいいよ!」
「ワインも準備してるから、入浴希望者には配るよ。慣れるまでは水着でもいいからね」
Jyu=Beeが流れ作業のように、村人達をテントに押し込んでいく。
突然、銃声が響いて、皆の視線がまりおへ集中した。
「ごめんね。猿も躾ている最中なんだ。温泉の利用者に被害が出るとまずいしね」
村人の目も気にせず、完全に裸なのは彼女だけである。だが例によって謎の光によって恥部は完全に遮断されているぞ。
猿が撃退され、アナスタシアは少しだけ落胆する。
(例の依頼人に、報いがあると思っていたのですが……)
彼女の予測とは異なり、『幸運にも』そんな事態は起こらずに終わりそうだ。
(それにしてもアレですね。ずっと浸かっていると……妙にぼうっとしますねぇ……)
聞こえたはずの銃声に、メリエはなんの反応も示さなかった。
「ああっ、のぼせてる!? 衛生兵! 衛生兵を呼んでーっ!」
ウルカ本人も慌てたのか、血の巡りが加速しすぎたのか、混乱しているようだ。
ハンター仲間がうろたえる中、Jyu=Beeはそのドタバタ劇を注意事項に付け加えた。
「この様に、あまり長湯をすればのぼせるから気をつけてね」
神妙に頷く村人達に、彼女は自信満々に告げる。
「ここが整備されれば、きっと村に観光客も呼べるようになるわよ。この温泉マスタージュウベエちゃんの言葉に間違いはないわ」
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談用掲示板 ルナ・クリストファー(ka2140) エルフ|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/07/04 21:15:45 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/28 23:28:25 |