• 不動

【不動】ダイヤモンド・ゲーム

マスター:藤山なないろ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/04/16 22:00
完成日
2015/04/28 20:21

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 月の満ち欠けを4度ほど遡った昨年の暮れ。
 王国を蹂躙し、先王を死に至らしめた災厄──黒大公ベリアルが、遂に目覚めた。
 黒大公の再来により、グラズヘイム王国はまたも深い傷を負い、数え切れない命を失ってしまう。
 王国西方に位置するグリム領を統治していたグリムゲーテ家の当主ゲイル侯爵も、この戦いで喪われた一人。
 これは、侯爵亡き後の王国貴族グリムゲーテ家と娘のユエルを襲う、ある事件の物語──。

●ダイヤモンド・ゲーム

 侯爵亡き後、国のため、民のためにと復興を志す嫡子ユエルは、その意に賛同する騎士達の力もあり、王都復興に力を尽くしてきた。順調に進む復興は一定の目処がたち、騎士達もグリム領へ帰還していった……そんなある日のことだった。

 グリムゲーテ家に一通の書状が届く。それは、円卓会議開催の報せだった。
 円卓会議とは、王国の最高意思を決定する会議。出席者は王女システィーナ・グラハムを始め、大司教セドリック・マクファーソン、騎士団長エリオット・ヴァレンタイン、侍従長マルグリッド・オクレール、聖堂戦士団長ヴィオラ・フルブライト、王族の一としてヘクス・シェルシェレット。そして、大公マーロウ家を筆頭とする国の有力貴族を含めた“王国首脳陣”によって運用される会議体。
 グリムゲーテ家先代当主のゲイル侯爵は、この円卓会議の末席にいた人物。しかし、既に侯爵は王国軍の指揮する作戦において落命している。報せの意図を慮り、少女は嘆息した。
 ──当家は、未だこの会議に出ることを許されているのでしょうか。
 先代までの功績により築かれた信頼ゆえのことだろう。それほどにグリムゲーテは王国に忠義を尽くしてきた。だが、グリムゲーテの領地本邸に暮らす少女の母は未だ侯爵死亡の心労で伏せっており、会議に出ることは適わないのだと言う。
 ──ならば、グリムゲーテはこの開催通知に応えないと? それは、果たして父の望むところなのだろうか……。
 少女は首を振った。一度作った実績は決して消せない。これは、前領主亡き後の最初の招待状にして、今後グリムゲーテが政治と関わりを持つ気か否か、覚悟を問う唯一の判断材料になるだろう。たかが出欠席の返答だとしても、事の重大さは少女も十分理解している。迷いも悩みも不安もある。少女の小さな肩には過大すぎるほどに。それでも、円卓会議開催通知の翌日、少女は“円卓会議への出席”を決意した。
 これが少女の運命を大きく変えることになるとも知らず──。



 グラズヘイム王城、円卓会議において卓を囲む面々を見回し、王女システィーナが宣言する。
「いま再び、辺境より協力要請がありました。“怠惰を討ち、聖地を奪還する”……と」
 其々思惑を抱えた大人たちの中、末席に座す少女ユエルが目にしたもの。それは──
「そうですな。……“先日派遣した戦力の派遣継続”、でいかがだろうか」
「それは“追加戦力は送らない”ということですか?」
「派遣した戦力は、いずれも我が国が誇る有数の戦士たちばかり。十分な協力姿勢は、示せているかと」
「はい。優秀な方々が向かわれたと聞いております。ですが……」
「……王女殿下、恐れながら」
 ──国の命運を背負う少女が、善悪入り乱れた思想の針山で懸命に“戦う”姿だった。
「黒大公は今なお彼の島にあり、いつ何時その災厄が降り注ぐとも知れぬ……私は、増援派兵には賛同致しかねる」
 貴族の多くは、まるで示し合わせたかのように増援派兵に反対する有力貴族マーロウ家大公の意に賛同を示している。無論そうでない者もおり、ユエルもそのうちの一人だ。だが……
「まぁ、それならそれでいいんじゃない? “王国としては”これ以上の派兵をしない。騎士団も、戦士団も、僕達貴族の『王国軍』も動かさない……そのほうが今の僕らにはベターだろうし、ね」
 ユエルは、会議場において最後まで“王女に援軍を出す”ことはかなわなかった。一言も、発することができなかったのだ。
「もし我が国の、そして王女殿下の御為、はたまた隣人の為に義勇を以って“貴族の誰かさんが個人的に出兵する”、なんかは夫々の自己責任……ということでいいんじゃない?」
 最後のシャルシェレット卿の助け船は、間違いなく王女にあてたものだったはず。
 けれど……それに救われた想いがしたのは、王女だけではなかったようだ。



 円卓会議が終わってすぐのこと。卓を発つユエルに、密やかな笑い声が突き刺さる。グリムゲーテ家におけるお家騒動。嫡子の未襲名に関する疑惑。くだらないゴシップだが、退屈を持て余した貴族連中には格好の的なのだろう。彼女を慮ってか、グリム騎士団副長のテオドールが早急に少女を連れ出してゆく。
「……私だけでも、辺境へ参ります」
 人気のない城の廊下を歩みながら、少女は明確に告げた。
「そう仰ると思っていました。ですが……」
 齢40近い男は、聡明そうな顔立ちを困惑の色に染める。
「今はお爺様がいらして領の運用をしてくださっている以上、後顧の憂いはないはずです」
 確かに今、運用は血縁者の力を借りて行われている。だが、なぜそうまでして、国のために尽力するのだろうか。
 父がそうしてきたから?
 グリムゲーテが王家に認められ、引きたてられた武家であるから?
 格式ばってはいるが、いかにも優等生らしい意向は、ユエルという少女のアイデンティティだと思っていた。
 そう、今までは。
「テオドール……」
 ──今まで何を錯覚していたのだろう。
「……どうしたら、私はティナの力になれるのでしょうか」
 消え入るような呟き。「あの子を助けたいのに」……そんな願いは言葉にもならなかった。
 今にも泣き出しそうな顔をした少女は、確かに“16歳の子供”だったのだ。

●?・?・?

「どうやら、グリムのお姫様は先代の遺志を尊重する兵らと共に辺境へ赴いて行ったようだ」
「生真面目なグリムゲーテらしいが、“王国派”とはいえ国への恩売りに没頭しすぎて自滅しかねない勢いだなァ」
「……それも、彼女とグリムゲーテ家の選択でしょう」
「とはいえ、先のゲイル侯死亡以降、グリムが“王国派”の中でも目立ち始めたのは事実」
「あれ以降、侯の甥である騎士団長殿もグリムに頭が上がらねえって噂だ。随分うまくやったじゃァないか」
「ならばせめて、次の主くらい決めておいたはずでしょう。計算尽くとは考えづらい……」
「結局、実績を売ったとしても、相手はあの王女達だ。費用対効果の程が知れる」
「それに嫡子も副長も遠征で不在だろ? 領の連中も不安だろうぜ」
「……」
「貴族が“国の意向”に添うべく辺境へ出兵。その間、万一自治領を守れず被害を出したとなれば、さて?」
「放置し、自滅を待つか。利用し、取り込むか。グリムの姫は気が強いが随分器量が良いと聞く。いっそ孕ませるってのも……」
「お二人とも、おふざけが過ぎませんか。そうですね、ここは一つ……」

リプレイ本文

 ダイヤモンドゲーム。
 ダイヤモンドの光沢を模した6つの頂点を持つ星型の盤面を用いて遊ぶボードゲームのこと。国や地域によって多少ルールに差はあるが、一般的に盤面上の6つの頂点部は3つの異なる色で分けられており、盤と同じ色に塗り分けられた【王駒1個】と【子駒14個】を配置して相対する側の同一の色の頂点部に全て移動させたものが勝者となるゲームだ。

●14の“子”駒 ─1人の領主と7人の騎士と6名のハンター─

◇マナ・ブライト(ka4268)

 王国貴族ルイス・ハワードは、困惑していた。参加を表明していた1人のハンターは、到着予定時刻を過ぎても姿が見えない。加えてもう1人……マナという名のハンターから受けた提案が驚くべき内容であったためだ。
「ハワードさん、この領の聖堂教会で2週間住み込みで働かせてもらうことはできないでしょうか?」
 少女は、続けてこう言う。「修道女として働きながらグリム領の人々と接したいのです」と。
「ええと、ですね……今回ハンターの皆さんのお力をお借りしたのは、警邏など本来であればグリム騎士団が行うであろう活動を僕たちで補填しましょうというお話で……修道女として働きながら、というのは依頼した仕事と相違が……」
 依頼の趣旨を理解してもらえていないのかもしれない。ルイスはもう一度丁寧に説明を重ねる。
「では、教会のお手伝いは手が空いた時にします。そうなると住み込みでというのは厳しそうですね」
 少女は頷き、騎士団詰所へ向かっていった。
 ──グリム領のいざこざについては、報告書や噂を耳にした程度の私が何かをするべきではありません。
 しかし、騎士団の皆さんが不在の今だからこそ動く輩もいるかもしれないから……と。
 そんな思いを秘め、この地に足を踏み入れた少女だったが、少々気持ちが逸ってしまったのだろう。

「司祭様、こんにちは。今日も何か変わったことはありませんか?」
 滞在中のある日、教会へやってきたマナはいつものように司祭とにこやかな挨拶を交わす。
「いいえ、まったく。ここのところルイスが帰ってきてくれて、街の雰囲気がいいですね」
「……ハワードさんをご存じなんですか?」
「勿論です。ルイスは昔、グリムゲーテ家の使用人だったのですよ。良く街にも買い出しに来ていましてね、商店街や街の皆とも馴染みがありました。とても気持ちのいい男で、誰からも好かれていたんですよ」

◇紫月・海斗(ka0788)

「おーおー、領を護るだけかと思ったらなーんかきなくせぇ噂があるじゃねーのよ」
 ある日の夜。警備活動をそつなくこなしてきた海斗は“出張のお楽しみはこれ”とばかりに夜の街へ繰り出していた。比較的治安のよい町にだって、“そう言った区画”はあるものだ。海斗は客引きの男を見つけては、気の向いた店に日々足を運んでいる。
「ま、広義で領を守る事にもならぁな」
 というのが彼の言い分だが、実際的に彼自身の目的は何らぶれていないのだからすごいことだ。

 ややあって中心街の外れの店の奥。個室のベッドに男と女が一人ずつ……夜も深い時間にかわされる会話は、昼間のそれとは異なる湿度を持っていた。
「そーいえばレディ。最近聞く噂じゃココの姫さんは大変らしいが実際のトコどーなのよ?」
「えー、ここで他の女の話する?」
「ごめん、って。ほら、とりあえず酒でも飲もう。な?」
 サイドテーブルに置かれたウィスキーのショットグラスを女に渡しながら、海斗は“興味半分を装い”尋ねる。
「ま、別にいいけど。ユエルちゃん、少し様子がおかしいって噂だよ」
「おかしいって、どんな?」
「昔からまじめでいい子なんだけど、最近は鬼気迫る感じっていうの? 空回りしてるっぽくて」
 ──さっすが、こーいうトコの娘さん達は情報通だよなぁ。
 海斗は内心ほくそ笑みながら、女のとりとめのない話をうまく操縦しつつ相槌を打つ。
「なるほどね。領の人たちも、皆そう思ってんのかな」
「どーだろ。私、昼間寝てるし。でも……領内には、ユエルちゃんのこと嫌いな人ってあんまりいないと思う」
 グラスを傾けた女の喉が上下する。ややあって、少し呆けた表情だった女の目が僅かに光を帯びた。
「あの子だけじゃなくて、うちの領主様一家は民を大事にしてくれるからさ。……ここ、いい街でしょ」
「はは、そうだな。お前みたいなイイ女もいるしな」
「やだ、もーっ!」
 その後も海斗は酒場等へ出入りしたが、領はルイスや覚醒者達が訪れて以降より一層治安が良くなったらしく、あやしい人物などを見つけることは出来なかった。

◇静架(ka0387)

 その日、ルイスは招集したハンターらと共に中心地周辺の警邏に出動していた。ルイス曰く、「戦うことはできなくても、警備の目になることくらいはできますから」とのことだ。静架は男を連れて一面の小麦畑を見渡しながら歩いていく。見渡す限りの美しい田園風景に、今は何の影も見当たらない。これなら問題ないだろうと判断した静架は、雇い主の隣に行くとこんな風に切り出した。
「自分は封建社会に関して素人ですが……他の貴族へ自主的に武力派遣するのは普通なのでしょうか? 深い縁故があるとか、先方から要請があるならまだしも……武力制圧の意思有りと思われるのでは」
 心底不思議に思っているように、青年は小首傾げて尋ねる。
「世の中には『良い人』もいるんですね?」
「はは……厳しいお言葉ですね。確かに、静架さんの仰るように武力介入の意図を疑われる可能性はあるかもしれません」
 気持ちの良い真っ青な空の下、静架とルイスの心の内は既に対照的だったのかもしれない。
「疑われたのなら、僕が至らなかっただけでしょう」
「……どうしてそうまでするんです」
 静架の目が、俄かに鋭さを増す。対して男は、懐かしむように遠い空を見上げて言った。
「“いつか我らが困った時には、手を差し伸べてほしい”……僕がこの地を出る時、たった一つゲイル様と交わした約束なんです」

 それからしばし、警邏中に発見したゴブリンを鮮やかに始末した静架は、マナと海斗から得た情報と自らが得た情報を照合する。
「“他家”の為に尽力する……と、思っていましたが、どうやらハワード卿にとってこの家は“古巣”なのですね」
 しばし静架は思案気に視線を落とす。その実、彼の脳裏には自身のこれまでの生き方がぐるぐると廻っていた。
「とはいえ、依頼人が善意ある仁徳者だったとして……配下も同じとは限りません」
 彼の下した判断は、調査の続行。誰かが別の思惑で動く可能性も視野に入れねばならない。
 静架は周辺警戒の最中、戦闘の間すらもルイスの騎士らをきちんと見張り、その言動を焼きつけていた。だが、人の良いルイスに付き従いやってきた部下達も主同様気持ちの良い連中ばかりで、静架の疑念は腹の中で行き場を失ったのだった。

◇ラブリ”アリス”ラブリーハート(ka2915)

「今日もお勤めご苦労様」
 グリム領中心街の騎士団詰所にて、男所帯に似つかわしくない温かな香りが漂ってきた。
「はい、これ。飲むと温まるわよ」
「おう、ありがとな」
 グリム騎士団、ルイス率いる覚醒者たちに順に紅茶を振舞うラブリは、珍しくほんの少しの愛想をそこに乗せていた。
「しかし、ここんところ特に平和なもんだな」
「去年は羊型歪虚が多発したが、収まったもんだな。最近じゃ、見つかるのはゴブリンばかりときた。黒大公を連想しない分だけ気が楽なもんだな」
 温かい飲み物に、少しずつ力の抜けていく騎士たち。やがて詰所全体が柔らかい雰囲気に包まれていく中、ラブリもその話の輪にちょこんと加わっていく。
「そういえば、街で聞いた噂なんだけどルイスって元々グリムゲーテ家の使用人だったんですって?」
 ルイスが今この場に居ない隙を見計らい、少女はこんな風に切り出した。これはマナ、海斗、静架から得ていた情報だった。
「すごいわよね。街の人、皆褒めてたわ。でも使用人だった方がどうして今は貴族で領主をしているのかしら?」
「今は亡きグリムゲーテの旦那様のご厚意だそうだ。ルイス様の器量を買っておられたグリムの旦那様が、ハワード家の一人娘の婿取り話にルイス様を推薦されたのがご縁だと聞いている」
 ラブリの問いに、ルイスの騎士たちが応えた。
「ほら、なんたって器量がいいだろう? うちの旦那様は本当に出来た人だぜ。忠義に厚いしな」
「だから、グリムゲーテが大変な時にここに来たのね」
「あぁ、この間のことだよ。旦那様が血相変えて帰ってきて、ゲイル様が亡くなってグリム領が大変な話を聞いたんだ、ってさ。それからずっと、ルイス様はグリム領のことを心配しておられた」
「そうだったんですか。本当に、ありがたい」
 ラブリの話を起点として、グリム騎士団とルイスの騎士らが互いに打ちとけ合い、固く手を握り合っている。だが……少女は、誰にも見つからないように膝の上に置いた手を強く握りしめた。
 ──ここのお姫さんの為に、出来ることをしたいのに。
 グリム領の次代の主は、二人の候補者。一人は自分と歳の近い少女。もう一人は、随分幼い少年……。
 ラブリにとっては、珍しい話じゃない。何といっても“自分によく似た話”なのだ。身近すぎて忘れたくても忘れようがない。だからこそ助けたいと願った。
 しかし、ここまで特に“あやしい人物は見つからなかった”。何かがあるはずなのに。何かがおかしいはずなのに。何がおかしいのかが、少女には解らなかった。

 けれどきっと、ここでしたことは“絶対に無駄にはならないんだから”──ラブリには、そんな予感がしていた。

◇高円寺 義経(ka4362)

 グリム領への滞在も今日で2週間が経とうとしていた。
 義経はこれまで真面目に仕事をこなし、グリム騎士団、ハワード家の騎士たち、そしてルイス自身ともゆっくり交流を重ねてきていた。それは街の人々にも同様で、少年は休憩時間をもらっては「観光してくるッス」などと言い残し、身軽に街へくり出していく。滞在期間を活かした着実な交流は、確かに少年をグリムという地に溶け込ませていった。
「ルイスに質問があるッス」
 ある日の警邏中、少年が「ニッ」と人のいい笑顔を浮かべてこう尋ねた。対するルイスも穏やかに微笑み「なんですか」と応じる。まるで先生と生徒のようなやり取りに、男はどこか懐かしい心地を感じていたのかもしれない。
「なんか、街の皆がルイスが帰ってきたって喜んでたッスよ。前にここに住んでたッスか?」
「はは、嬉しいね。そうだよ、僕はこの地に長くお世話になっていたんだ」
「“世話になる”? 生まれたトコじゃないんスか」
「うん。僕は孤児でね。もとは王都の孤児院にいたんだけど……王都にいらしていた2代前の旦那様に使用人として拾って頂いたんだよ。“息子と同い年だから、遊び相手になってほしい”、ってね」
 ──なるほど、そういう関係か。
 少年は、にこりと笑いながら確かに男の言い分を心に留めてゆく。この男がなぜこの領地に介入してきたか、その真意を疑ってはいたが……これは“本当に助力のつもりである”可能性が高い。
「そうだったんスね。でも、今は立派に領主様じゃないスか。あ、そういえばルイスの領地はどこッスか? 今平気なんスか?」
「あぁ、僕の領地は王国の東部だ。と言っても何もないところで……そうだ、アークエルスを知っているかい?」
 聞き覚えのある学術都市の名前。頷く義経を見て、ルイスは嬉しそうに笑う。
「アークエルスにほど近い場所だ。よかったら今度遊びにおいで。……忙しいハンターの皆さんの中、唯一義経くんだけはこんな僕と仲良くしてくれたからね」
「もちろんッス! でも……なかなか遊びに行こうって雰囲気じゃあないッスけどね」
 義経の目は、中心地の方を向いていた。その先にあるのは、グリムゲーテ家の邸宅──それを察したルイスは優しい笑顔を少しだけ苦くする。少年の言いたいことは十分に伝わったのだろう。
「そうだね。奥様とエイルくんには少しだけご挨拶させて頂いたけど、健康は問題なさそうだった。奥様は「もう大丈夫」と言っていたけれど、エイルくんは今は大変そうだったよ」
「エイルは大丈夫じゃないッスか?」
「奥様から“跡取りとなるための勉強”をみっちり仕込まれているようだ。貴族ってのは、大変なものだね」
「ルイスも他人事じゃないッスよ。……あのさ、俺、ご挨拶出来たりしないッスか。やっぱ心配で」
「気持ちだけ伝えておくよ。ありがとう。義経は優しい子だね」

 その日の夕方、領を離れていた騎士たちが明日帰還するとの報せが入った。ハンターたちは手に入れた情報や疑問を照会し合ったのだが……結果“ルイスが助力以外の意図をもってこの領地を訪れた可能性が低い”という結論に明確に至る。明日には任務終了となるため、現地騎士達に警邏を託し、ハンターたちは荷造りのため早めの時間に解散と相成った。
 それから夜も更けた頃、滞在中に世話になった自室で手紙をしたためる少年が一人──義経だ。
 曰く、得た全てを文章に纏め、ハンターオフィスへ厳重保管を依頼するのだという。
 ──いつか、何かの、誰かの為に。
 誰にあてたわけじゃない。それでも強く願って、少年は垂らした蝋へ印を押した。

●ユエルの帰還

 陽が頭上高くに昇る頃、辺境大規模作戦の遠征を終えたグリムゲーテ家長女のユエルが、騎士と共にグリム領へ帰還を果たした。少女は想定外の出迎えに少々うろたえたようだったが、やがて目を丸くして叫んだ。
「ルイス!?」
「お転婆は相変わらずですか。お嬢様、お帰りなさい」
 同時に、脇に控えていた静架が恭しく頭を下げる。
「無事の御帰還お喜び申し上げます」
 他の人の目があると思い出した少女は、口元をきゅっと結び直して綺麗な礼をした。
「お初にお目にかかります。私はグリムゲーテ家長女のユエルと申します」
「ドーモ、高円寺義経ッス」
 ルイスの隣に控えていた少年がにぱっと笑いかけると、ユエルも不慣れそうに笑みを返す。
「あんたがここの姫さんか。元気に帰ってこれてよかったな」
「ありがとう、ございます……」
 どう見ても貴族が抱える私兵のようには見えない者たちがいる。気後れするユエルに、ラブリが手を差し出す。
「私たち、ハワード卿の依頼で領の警護に当たっていたハンターよ。あ、私はラブリね。どうぞよろしく」
「こ、こちらこそ……宜しくお願い致します」
 ハンターという響きに多少ほっとした様子の少女は、ラブリの手をとり握手を交わすと改めて周囲の者を見渡した。
「此度のご配慮、私の浅慮によるものと存じます。ご苦労をおかけしたことお詫び申し上げます。また、領地の治安維持にご尽力頂きましたこと、決して忘れません」

●王駒

「ルイス、久々のグリムは如何でしたか? ぜひ、私に“土産話”を聞かせてください」

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MVP一覧

  • 現代っ子
    高円寺 義経ka4362

重体一覧

参加者一覧

  • アークシューター
    静架(ka0387
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 自爆王
    紫月・海斗(ka0788
    人間(蒼)|30才|男性|機導師
  • 淡光の戦乙女
    セレスティア(ka2691
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • ハートの“お嬢さま”
    ラブリ”アリス”ラブリーハート(ka2915
    人間(紅)|16才|女性|聖導士

  • マナ・ブライト(ka4268
    人間(紅)|16才|女性|聖導士
  • 現代っ子
    高円寺 義経(ka4362
    人間(蒼)|16才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/11 21:02:57
アイコン グリム領守備相談
高円寺 義経(ka4362
人間(リアルブルー)|16才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/04/16 21:47:18