ゲスト
(ka0000)
【不動】鋼鉄の馬
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/17 22:00
- 完成日
- 2015/04/24 03:04
みんなの思い出
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オープニング
●
辺境、ノアーラ・クンタウへと続く輸送路。
聖地奪還を巡る戦いに、ゾンネンシュトラール帝国は引き続き、量産型魔導アーマーの大量投入を決定。
今日も帝国領より、新たな機体が続々と送り込まれているのだが、
「こりゃ、ひと仕事だな」
錬魔院スタッフ・クリケット(kz0093)は、
とある中継基地の駐機場に並べられた魔導アーマー6台を見上げた。
基地の周囲は起伏が激しく岩だらけの、険しい山岳地帯。
まともな道もなく、馬車や魔導トラックではとても越えられない地形だ。
しかし、多脚歩行のアーマーであれば――
「走破性を生かした直接輸送って訳か。
でも、こんなとこ歩かせて、戦場に着く前にへたっちまわないか?」
「アーマーの整備性は、少しずつですが改良されてはいますし。何とかなるでしょ。
大きな輸送路は、既に渋滞を起こしかかってますからねぇ。
剣機襲来から間もなく辺境での実験場建設、それから歪虚の立て続けの攻勢。
屈強精鋭の帝国軍も、いい加減くたびれてきてるんじゃないでしょうか」
錬魔院院長、ナサニエル・カロッサ(kz0028)が、
1台のアーマーのコクピットに潜って計器のチェックを行っている。
クリケットを護衛代わりに、魔導アーマーの輸送状況を視察に訪れていたのだが、
「あんたもそういう情勢とか、一応心配するんだな?
珍しく『機体を自分で動かしてみたい』なんて言い出したのも、それで……」
「別に、何となくですよぉ。気が向いただけ。
それにですねぇ、このタイプの機体はもう散々人を乗せて動かしてきたじゃないですか」
「うん?」
「誰も実地で試したことがない機械なんて、危なっかしくて、絶対乗りたくないじゃないですか」
「……」
ナサニエルは計器を調べてひとりでに頷くと、用意していた防塵ゴーグルをかけ、革の手袋をはめる。
エンジンに火を入れれば、たん、たん、たんとリズムを刻んで、機体が震え始めた。
「じゃ、ちょっと散歩でもしてきましょうかねぇ」
「院長自ら、大事な機体をぶっ壊したりするなよ」
クリケットがからかうが、ナサニエルは意外にも、淀みない手つきで操縦をこなしてみせた。
機体を駐機場の外へ出し、地面に転がる小石を踏み砕きながら、基地を巡回していく。
ここは整備の進んでいない小さな基地で、敷地のあちこちに大きな岩や起伏が残っているのだが、
ナサニエルの機体はそれら障害物を器用にかわしていく。クリケットは腕を組み、
「いやに慣れたもんだな。あいつ、見えないとこでこっそり練習してたりするのか?」
「まさか! 院長はいつも、ご自分の研究で忙しいですからね」
いつの間にか、錬魔院の技術者がひとり、隣で一緒に見物していた。
「そういう人なんですよ。
設計図ひとつ読めば、あの人にはその機械の扱い方が全部分かってしまいます」
●
山岳に砲声が轟く。
一瞬の後、野営の天幕に砲弾が落ち、大穴を空けた。
技術者が頭を庇って地面に伏せる。クリケットも身を低くしつつ、頭を巡らせ、
「どっからだ……!」
基地を見下ろす、針葉樹に覆われた斜面の中腹からだった。
木々の中から白煙が立ち昇っている。
「敵襲!」
砲撃を受けた天幕の中から、ばらばらと兵隊たちが飛び出してきた。
あまり人数が多くない。最初の砲撃で傷を負い、脚を引きずっている者もいる。
彼らはアーマー6台の随伴歩兵として、最低限の人数しか揃えられていなかったし、
山岳地帯ということで、装備も軽量のものが中心だ。火力が足りない。
「アーマーを使うっきゃねぇ。正規のパイロットはどこだ!?」
クリケットが技術者に尋ねると、
「南側、奥の天幕に。
それとアーマーの出発に併せて中継地点の防衛力維持の為、ハンターを呼んでいた筈ですが」
砲撃は続く。やはり斜面から、2発の砲弾が敷地内へ飛来した。
(何故、接近に気づけなかった!?
あの斜面は角度も急だし、大砲を引っ張って下りるのは骨が折れる筈だ。
歪虚なら疲労なんざ気にもしないだろうが、それだって山を登って降りて、
で相応の時間はかかるし、その間にこちらが襲撃を察知することもできたろう。
歩兵の輸送スピードじゃ無理だ。空輸か? 量産型リンドヴルムのコンテナで……、
いや、あのサイズの歪虚が飛んでりゃ、後方基地のどっかで捉えられて通報が来る。
どうなってんだ? ――ああ、いや。兎に角、剣機で多分間違いない。新型だ)
●
斜面から砲撃を行っていたのは、量産型リンドヴルム。
ドラゴンの死体から造られた剣機だが、基地を襲った3体は背中の翼を切除されている。
代わりに長い砲身を持つ大砲2門を装備の上、
手足で山中を這い歩き、木々に紛れて基地へと接近したようだった。
魔導アーマーの搭乗者たちが詰めていた天幕へ、
甲冑を着込んだ機械仕掛けの屍兵たちが押し寄せる。
エルトヌスと呼ばれるゾンビ兵で、こちらは少数部隊が侵入。
基地の警戒線ぎりぎりに隠密し、リンドヴルムの攻撃開始に合わせて接近した。
駐機場へ駆けつけようとしたパイロットたちを、取り囲んで長剣で切り刻んでしまう。
そうしていとも簡単にアーマーの乗り手を全滅させると、今度は歩兵たちへ、横陣を組んで行進していく。
基地の近くを走る細い谷の底から、巨大なコウモリの怪物が飛び立った。
気流に乗って軽々と高度を稼ぐと、基地上空に4体が到達。
新型剣機『ファウエム』。金切り声を上げつつ、リンドヴルムを上回る飛行速度で飛び回った。
砲撃とゾンビの奇襲に混乱する兵たちを、はぐれた者からひとりひとり、
急降下からの鉤爪による攻撃で仕留めていく。
「ナサニエル!」
大型魔導銃『オイリアンテ』を背負ったクリケットが、
斜面に向け大盾を構えながら横歩きしていたナサニエル機を呼び止め、その手足をよじ登った。
彼が必死で座席まで這い上がると、ナサニエルは涼しい顔をしてハンドルを握り、
「来ちゃいましたねぇ、剣機。
CAM強奪事件のときに結構叩いたと思ったんですが、またですか」
「機体の装備は!?」
「見ての通り、盾とクローくらいですねぇ」
「応射するか接近させるかしねぇと――」
リンドヴルムの砲撃が、アーマーの盾を直撃した。
凄まじい衝撃に、機体と座席上のふたりが激しく揺さぶられる。
が、ナサニエルが咄嗟に4本の脚で機体を踏ん張らせ、どうにか転倒を避けた。
「やぁ、中々大変ですねぇパイロットってのも……、
って、そんな物騒なモノ、私のそばで使わないで下さいよぉ」
「お前が作ったもんだろが!」
クリケットが補助座席に腰を下ろし、大型魔導銃を肩に担いで発射する。
「ハンターが来るまで、敵の大砲だけでもこっちで引きつけるぞ!」
「え? 何ですか? 耳がキーンってなっちゃって良く聴こえない」
辺境、ノアーラ・クンタウへと続く輸送路。
聖地奪還を巡る戦いに、ゾンネンシュトラール帝国は引き続き、量産型魔導アーマーの大量投入を決定。
今日も帝国領より、新たな機体が続々と送り込まれているのだが、
「こりゃ、ひと仕事だな」
錬魔院スタッフ・クリケット(kz0093)は、
とある中継基地の駐機場に並べられた魔導アーマー6台を見上げた。
基地の周囲は起伏が激しく岩だらけの、険しい山岳地帯。
まともな道もなく、馬車や魔導トラックではとても越えられない地形だ。
しかし、多脚歩行のアーマーであれば――
「走破性を生かした直接輸送って訳か。
でも、こんなとこ歩かせて、戦場に着く前にへたっちまわないか?」
「アーマーの整備性は、少しずつですが改良されてはいますし。何とかなるでしょ。
大きな輸送路は、既に渋滞を起こしかかってますからねぇ。
剣機襲来から間もなく辺境での実験場建設、それから歪虚の立て続けの攻勢。
屈強精鋭の帝国軍も、いい加減くたびれてきてるんじゃないでしょうか」
錬魔院院長、ナサニエル・カロッサ(kz0028)が、
1台のアーマーのコクピットに潜って計器のチェックを行っている。
クリケットを護衛代わりに、魔導アーマーの輸送状況を視察に訪れていたのだが、
「あんたもそういう情勢とか、一応心配するんだな?
珍しく『機体を自分で動かしてみたい』なんて言い出したのも、それで……」
「別に、何となくですよぉ。気が向いただけ。
それにですねぇ、このタイプの機体はもう散々人を乗せて動かしてきたじゃないですか」
「うん?」
「誰も実地で試したことがない機械なんて、危なっかしくて、絶対乗りたくないじゃないですか」
「……」
ナサニエルは計器を調べてひとりでに頷くと、用意していた防塵ゴーグルをかけ、革の手袋をはめる。
エンジンに火を入れれば、たん、たん、たんとリズムを刻んで、機体が震え始めた。
「じゃ、ちょっと散歩でもしてきましょうかねぇ」
「院長自ら、大事な機体をぶっ壊したりするなよ」
クリケットがからかうが、ナサニエルは意外にも、淀みない手つきで操縦をこなしてみせた。
機体を駐機場の外へ出し、地面に転がる小石を踏み砕きながら、基地を巡回していく。
ここは整備の進んでいない小さな基地で、敷地のあちこちに大きな岩や起伏が残っているのだが、
ナサニエルの機体はそれら障害物を器用にかわしていく。クリケットは腕を組み、
「いやに慣れたもんだな。あいつ、見えないとこでこっそり練習してたりするのか?」
「まさか! 院長はいつも、ご自分の研究で忙しいですからね」
いつの間にか、錬魔院の技術者がひとり、隣で一緒に見物していた。
「そういう人なんですよ。
設計図ひとつ読めば、あの人にはその機械の扱い方が全部分かってしまいます」
●
山岳に砲声が轟く。
一瞬の後、野営の天幕に砲弾が落ち、大穴を空けた。
技術者が頭を庇って地面に伏せる。クリケットも身を低くしつつ、頭を巡らせ、
「どっからだ……!」
基地を見下ろす、針葉樹に覆われた斜面の中腹からだった。
木々の中から白煙が立ち昇っている。
「敵襲!」
砲撃を受けた天幕の中から、ばらばらと兵隊たちが飛び出してきた。
あまり人数が多くない。最初の砲撃で傷を負い、脚を引きずっている者もいる。
彼らはアーマー6台の随伴歩兵として、最低限の人数しか揃えられていなかったし、
山岳地帯ということで、装備も軽量のものが中心だ。火力が足りない。
「アーマーを使うっきゃねぇ。正規のパイロットはどこだ!?」
クリケットが技術者に尋ねると、
「南側、奥の天幕に。
それとアーマーの出発に併せて中継地点の防衛力維持の為、ハンターを呼んでいた筈ですが」
砲撃は続く。やはり斜面から、2発の砲弾が敷地内へ飛来した。
(何故、接近に気づけなかった!?
あの斜面は角度も急だし、大砲を引っ張って下りるのは骨が折れる筈だ。
歪虚なら疲労なんざ気にもしないだろうが、それだって山を登って降りて、
で相応の時間はかかるし、その間にこちらが襲撃を察知することもできたろう。
歩兵の輸送スピードじゃ無理だ。空輸か? 量産型リンドヴルムのコンテナで……、
いや、あのサイズの歪虚が飛んでりゃ、後方基地のどっかで捉えられて通報が来る。
どうなってんだ? ――ああ、いや。兎に角、剣機で多分間違いない。新型だ)
●
斜面から砲撃を行っていたのは、量産型リンドヴルム。
ドラゴンの死体から造られた剣機だが、基地を襲った3体は背中の翼を切除されている。
代わりに長い砲身を持つ大砲2門を装備の上、
手足で山中を這い歩き、木々に紛れて基地へと接近したようだった。
魔導アーマーの搭乗者たちが詰めていた天幕へ、
甲冑を着込んだ機械仕掛けの屍兵たちが押し寄せる。
エルトヌスと呼ばれるゾンビ兵で、こちらは少数部隊が侵入。
基地の警戒線ぎりぎりに隠密し、リンドヴルムの攻撃開始に合わせて接近した。
駐機場へ駆けつけようとしたパイロットたちを、取り囲んで長剣で切り刻んでしまう。
そうしていとも簡単にアーマーの乗り手を全滅させると、今度は歩兵たちへ、横陣を組んで行進していく。
基地の近くを走る細い谷の底から、巨大なコウモリの怪物が飛び立った。
気流に乗って軽々と高度を稼ぐと、基地上空に4体が到達。
新型剣機『ファウエム』。金切り声を上げつつ、リンドヴルムを上回る飛行速度で飛び回った。
砲撃とゾンビの奇襲に混乱する兵たちを、はぐれた者からひとりひとり、
急降下からの鉤爪による攻撃で仕留めていく。
「ナサニエル!」
大型魔導銃『オイリアンテ』を背負ったクリケットが、
斜面に向け大盾を構えながら横歩きしていたナサニエル機を呼び止め、その手足をよじ登った。
彼が必死で座席まで這い上がると、ナサニエルは涼しい顔をしてハンドルを握り、
「来ちゃいましたねぇ、剣機。
CAM強奪事件のときに結構叩いたと思ったんですが、またですか」
「機体の装備は!?」
「見ての通り、盾とクローくらいですねぇ」
「応射するか接近させるかしねぇと――」
リンドヴルムの砲撃が、アーマーの盾を直撃した。
凄まじい衝撃に、機体と座席上のふたりが激しく揺さぶられる。
が、ナサニエルが咄嗟に4本の脚で機体を踏ん張らせ、どうにか転倒を避けた。
「やぁ、中々大変ですねぇパイロットってのも……、
って、そんな物騒なモノ、私のそばで使わないで下さいよぉ」
「お前が作ったもんだろが!」
クリケットが補助座席に腰を下ろし、大型魔導銃を肩に担いで発射する。
「ハンターが来るまで、敵の大砲だけでもこっちで引きつけるぞ!」
「え? 何ですか? 耳がキーンってなっちゃって良く聴こえない」
リプレイ本文
●
野営の帝国軍兵士たちは、武装したゾンビ・エルトヌスの一群に追跡されている。
相手の足は鈍いが、上空をコウモリ型剣機・ファウエム4体が旋回していて、
おまけに斜面から砲弾が飛んできている。易々と逃げられる状況ではない。
砲撃のほうはナサニエルの魔導アーマーが囮に引き受けたが、クリケットの応射は距離が遠くて命中しない。
「ジリ貧だな」
「あちらは性能の良い砲を使ってますねぇ」
盾に砲弾が当たるたび、凄まじい音と衝撃に揺さぶられる。ナサニエルが言った。
「私の手が白蝋病になる前に、交替してくれませんか」
ハンターは到着後真っ先に、エルトヌスに追われている兵士たちを援護する。
八島 陽(ka1442)とノアール=プレアール(ka1623)の射撃が、ゾンビの背中を打った。
ゾンビたちがびくり、と動いて振り返ると、
「よし、そのままこっちに来い!」
「あらあら数が多いわねー。でも、あなたたちに構っている場合でもないのよ」
「こっち、こっちなの! あーまーを動かすのを手伝ってほしいの!」
佐藤 絢音(ka0552)が駐機場から手を振って、兵士たちを誘導した。高崎 晴(ka3364)も、
「動ける奴は一緒に来い、大砲を使う!」
絢音と晴、他4人のハンターが待機中の魔導アーマーへ乗り込む。
上空のファウエムは手頃な獲物が見つからず、未だ空中に留まっている。
エルトヌスは囮に惹かれ、兵士たちの追跡を諦めたようだ。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)と八劒 颯(ka1804)のふたりが、対エルトヌスの前衛に立った。
「よっしゃぁ、来い!」
「颯におまかせですの!」
ふたりはそれぞれ武器を構え、横陣を組むゾンビたちへ突進していく。反撃開始。
●
「OK、乗ったよ」
実妹の遠藤・恵(ka3940)が1機に乗り込むと、日高・明(ka0476)も後から座席へよじ登った。
操縦席に就いた明がレバーをばたばたと動かして、エンジンを起動させる。
目前では、ナサニエル機が砲撃に晒されている真っ最中だ。
「あの中に突っ込むのか……お兄ちゃん、死ぬ時は一緒だよ」
後部座席の恵が言うも、明はかぶりを振って、
「僕とお前の間にそういう重いの似合わないから。無事に戻ることだけ考えてれば良いよ、恵ちゃん」
機体の装備はシールドと大砲。大砲は急造仕様で、専用の装填手なしではまともに使えない。
対するリンドヴルムは射撃間隔が短く、狙いもまとまっている。不利な状況だが、
「こっちは盾の扱いには慣れてんだよ! 死なせやしないさ!」
扁平に広がっていたアーマーの脚がすっくと伸び上がり、歩き出す。
後から、装填手として帝国軍兵士ひとりずつを乗せた絢音、晴の機体が続く。
「我々も前に出るぞ!」
「喧嘩を売りに来たことを、後悔させてやろうじゃないか」
クリスティン・ガフ(ka1090)とエドガー・ブレーメ(ka1808)の機体は接近戦仕様で、エルトヌス駆逐に向かう。
ゾンビ兵たちは陣形を保ったまま、痙攣するような独特の動きでじりじりと、徒歩のハンターたちへ迫っていく。
まずは颯が魔導ドリルを腰だめに、敵へぶつかっていった。
(横陣を組んで行進……どこかに指揮を執っている敵がいるなら、探し出して倒してしまった方が良いですね)
だが、指揮者らしき存在は近くに見当たらない。
少数での陣形構成くらいは、単独で可能な程度の知能を持っているのだろうか。
(こうも固まっていると……!)
射撃班ふたりと敵との距離を保つ為にも、ここらで1度行進を食い止めておきたかった。しかし、
「!?」
エルトヌスの列は全員同時に左手の盾を上げ、颯がドリルを突き立てる隙間も空けない。
突撃を弾かれ怯んだ颯に、工業機械のような正確なリズムで大剣が次々振り下ろされる。
すかさず防御に転じる颯だったが、全ては受け切れず、引き足に深手を負ってしまった。
「良いかお前ら、絶対に魔導アーマーの傍から離れんじゃねぇ――」
ボルディアは、背後を行く兵士たちの最後尾に怒鳴った。
「負傷者は誰か手を貸して基地の奥へ退避。
ヤバくなったらさっさとハンターの誰かを呼べ、我慢すんじゃねぇぞ!」
早口にまくし立てると、戦斧を掲げて颯の援護に向かった。
颯と入れ替わりながら、横薙ぎに敵の剣を弾き返す。
敵は全員同時に左足を引いて、なおも剣を持つ手を振りかぶるが、
「――!」
覚醒したボルディアが、獣の声で吼えた。
牙が伸び、犬の耳が生え、獣相が表れると共に、全身が筋肉の隆起で盛り上がる。
戦斧を縦横無尽に打ち振るう姿は、さながら小さな竜巻のようだ。
鎧をまとった敵の腕が、剣や盾を掴んだまま飛んでいく。敵群は押し返され始めた。
●
明、絢音、晴の3機体が砲撃戦に入った。
(敵からは撃ち下ろしの恰好だな。盾の位置に気をつけねぇと)
盾で慎重に機体を守ろうとする晴。他2機も防御を固めて、射撃体勢に入るが、
(思ってたより狙い辛いの!)
リンドヴルム3体は斜面の木々に身を隠して、少しずつ移動しながらこちらを砲撃している。
地上戦に特化した彼らは意外にも動作が機敏で、かつ低姿勢な為、投影面積も小さい。
アーマー3機が大砲を発射するも、遠距離戦では敵方に分があった。
反撃の砲弾が、晴と絢音の機体を直撃する。
被弾の瞬間、覚醒した絢音の小さな身体が光の粒子に包まれる。
砲弾が盾の角をへし折って、剥き出しの座席へ飛び込んでくると、
(防御障壁を使うの――!)
覚醒と同時に、マテリアルの光の壁をコクピット上へ展開する。
黒い鉄球が絢音の目前、機体正面に激突し、破損した装甲の破片が搭乗者を襲った。
晴の機体もコクピットに被弾、搭乗者に直接砲弾をぶつけられはしなかったものの、
「くっそ!」
激しく揺さぶられ、晴の視界に星が瞬く。
計器を覆っていたガラスが割れ、彼の手足のあちこちに突き刺さった。
「大丈夫か!?」
後部座席に伏せていた兵士が顔を出すと、
「俺は……一応な。けどよ」
計器の針が軒並み振り切れている。レバーやハンドルを操作したところ、機体は一応動くようだが、
(今のショックで、計器がみんな狂っちまった)
「射角もうちょい右! あ、いきすぎいきすぎ!」
恵の誘導で、明が再度大砲を発射するも、
「仰角、これ以上取れない!」
大砲の性能も、地の利も敵が勝っている。
損傷した仲間の2機が気がかりだ。機体を下げてカバーに入ろうとするが、
「お兄ちゃん、上から来てる!」
アーマーのダメージを嗅ぎつけたか、ファウエム2体が飛来する。
後方ナサニエル機からクリケットが魔導銃を発射、1体にかすめさせて降下ルートを逸らすも、
「恵っ!」
恵が大砲の装填を止め、自身の銃を接近中のファウエムに向けるが、
敵は機体の頭上を飛びながら、青い霧をふたりに吹きかけていった。
上を向いていた恵は、思わずその霧を吸い込んでしまう。
「おにい……ッ」
毒霧に咳き込む恵。明が彼女を気遣う間もなく、リンドヴルム3体が斜面を駆け下り、基地へ迫る。
●
「アーマーが来ますの!」
負傷し後退していた颯が叫ぶ。クリスティン、エドガーの機がエルトヌス対応に到着した。
ゾンビ兵と真っ向打ち合い、4体ほどを倒してみせたボルディアだが、こちらも斧を持つ腕に傷を負っていた。
ファウエムも1体も降下を開始している。先んじて回復すべきか。
「上から下から、もう大変ねー」
「ふたりとも下がれ! エレクトリックショックを使う!」
ファウエムの急降下に合わせて、陽が近くにいたノアールと颯を下がらせる。
自分を狙った敵の鉤爪は、さっと身を翻して避け、反撃に機導術の電撃を食らわせた。
敵は空中で痙攣、陽の足下に落下する。
「そぉれ、返り討ちよー!」
ノアールも、起き上がったばかりの敵の背中に機導砲を撃ち込んだ。
無事な帝国軍兵士を引き連れたクリスティンが、
「ブレーメ殿、ゾンビどもは任せる!」
「応!」
エドガーを先に進ませ、撤退するボルディアの支援に回すと、
自分は盾とブレード装備の機体で、徒歩の仲間を攻撃するファウエムの進路に割り込んだ。
ファウエムがアーマーに飛びかかるも、巨体で軽々と弾かれる。
だが、クリスティンが繰り出す巨大なブレードも避けられてしまい、
「動きが早い! アーマーで止めは刺せんか……」
「一斉射撃、行くわよー!」
ノアールの合図で、彼女と陽、兵士たちがファウエムを銃撃する。
敵は苦し紛れに毒霧を吐いた上、飛行し逃げようとするが、
「アレがアーマーの周りを飛び回ってると、邪魔ですの!」
颯が飛び込んだ。敵の横腹にドリルを突き刺し、地面に押し倒す。
ドリルが回転すると、装甲が火花を散らして削れていき、腐敗した肉片や体液が吹き上がる。
「びりびり電撃どりるぅ~!!!!」
駄目押しの電撃を流し込む――が、颯もファウエムを仕留めた直後、膝を折った。
脚の傷と、周囲に漂っていた毒霧の影響で、いよいよ体力が限界だ。陽が彼女を助け起こし、
「後はオレたちが引き受けた。ゾンビも残り、あと少しだ」
「お触り厳禁ってやつだ。下がりな!」
エドガーも盾でエルトヌスを押しやりながら、クローで引っかけ、薙ぎ倒す。
その間、ボルディアはアーマーの傍に就き、自己治癒能力による回復を進めた。
陣形を崩されたエルトヌスが機体へよじ登ろうとすると、
「さすがゾンビ、往生際悪いぜ」
ボルディアが斧で払い落としたところへ、エドガーが機体を進め、足下の敵を踏み潰した。
そのままゾンビを全滅させるふたりだが、残り1体のファウエムは空中に留まったままだ。
こちらが隙を見せれば、すぐにでも急降下攻撃を試みるだろう。
「毒霧がおっかねぇ、対空用の重火器が欲しくなる展開だな……後で一考願うぜ、割とマジで」
●
量産型リンドヴルム・陸戦仕様機。
背中の大砲2門の給弾機構はドラゴンの死体の腹側、生前は臓器の詰まっていた部分に仕込まれていた。
そうして保持していた砲弾を粗方吐き出してしまうと、
リンドヴルムたちは軽くなった身体で、斜面を勢い良く這い下りていく。
明は判断に迷った。
後部座席では、毒を受けた妹が苦しんでいる。一旦下がって、休ませてやりたい。
だが後方では、絢音と晴のアーマーが立ち往生している。下がる訳には行かない。
(どうする……!)
晴は血だらけの手でハンドルを握り、自機を立て直して絢音機に寄せた。
どちらの機も装填手の兵士は無事だが、操縦者がひどく負傷している。
(いくら機体が頑丈でも、乗ってる人間が動けなけりゃどうにもならねぇ)
前線では、殺到するリンドヴルムを前に明機が身動きできないでいる。
晴が自身と、覚醒で10代の少女へと姿を変えた絢音に、手早く回復の法術を投げた。
「助かったの……」
「最低限の治療だけどな。機体はどうだ?」
「大砲が動かないの。腕も片方おかしいみたい。脚は何とか」
「残り2機が来るまで、俺たちで明を援護するぞ!」
ふたりは機体を再び歩かせ、明のカバーに回る。
目立った損傷がないのは明機だけだ。彼を無事にしておかなければ、リンドヴルムの突撃を押さえ切れない。
クリケットが明機の頭上を飛ぶファウエムを狙った。
ぎりぎりまで溜めて引き金を引けば、どうにか命中。敵は空中で錐もみし、そのまま地面に落下した。
墜落したまま動けない敵は、前進中の晴機が踏みつけて止めを刺す。
ところが、もう1体のファウエムがナサニエル機の孤立を察知、こちらへ飛んできた。
「敵を誘き寄せちゃったんじゃないですか?」
「それならそれで。あっちはドラゴンの相手で手一杯だろ!?」
●
「弾ァ入ってるか!?」
「2発、装填済みだ!」
晴と兵士がやり取りする。明機を取り囲むリンドヴルムに接近中で、
距離的には、今が大砲を使う最後のチャンスだ。
見当をつけて正面に発射すれば、リンドヴルム1体が近距離からの砲撃にひっくり返る――
「いい加減、あーまーも良いとこ見せるの!」
絢音機が一気に前進、別の敵個体へ体当たりを仕掛けた。
敵は後ろ足で立ち上がり、反撃の爪を絢音機の盾に食い込ませる。
明と晴も、盾で機体を守りながらぶつかっていった。リンドヴルムはひたすら彼らの機体を殴打する。
「ゾンビ対応の2機と合流する。恵、まだやれるか!?」
「おにいちゃん、前!」
リンドヴルムの爪が盾を掻い潜り、明を襲うも、さっと身を伏せてかわした。屈み込んだまま操縦を続け、
「左に旋回して前進、いや後退! しっかり掴まってろよ、恵!」
エンジン全開、旋回と同時に機体の半身をリンドヴルムにぶつけて、押し退けた。
晴機が後を継いで敵を抑え込み、明機の後退を助ける。
飛行中のファウエムが、ナサニエル機を擦過する。
ナサニエルは伏せてことなきを得たが、銃を構えていたクリケットはすれ違いざま、肩の肉を持っていかれた。
「意外ととろいですねぇ」
「うるせぇな」
距離が近いと、素早い相手に大型魔導銃では照準が追いつかない。
と、そこへゾンビを全滅させたハンターとアーマー、兵士たちが戻って来る。
アーマーを盾に使いながら、ノアールと陽がファウエムを狙撃した。
兵士たちも陣形を組んで射撃を行い、後をついてきていたもう1体のファウエムを遠ざける。
「ホント、上手に飛ぶわねー……私たちもああいうの、作れたら良いのに」
「そのときは是非、腐ってない奴を頼むね!」
陽の射撃がファウエム1体を撃墜、落下したところをクリケットが『オイリアンテ』で吹き飛ばす。
ファウエム最後の1体は上空に逃れていった。ハンターと兵士たちの弾幕を前に、そう易々とは降下できない筈。
「よし、大きいのは任せた! やっつけちゃって頂戴!」
ノアールが機導術・攻性強化を2機のアーマーに使用した。
流入するマテリアルにエンジンが唸りを上げ、機体が全速前進する。
●
後退する3機の横から回り込んで、クリスティンとエドガーの機がリンドヴルムへ襲いかかった。
格闘武装のない3機だけでは残敵を仕留められない、
「悪いけど、お願いするの!」
絢音機に代わったクリスティンが、ブレードでリンドヴルムの腹を貫いた。
砲弾を使い果たしてがらんどうのドラゴンの腹部、急所ではないが、
「よもや、真っ二つにされても動けるほどではあるまい」
突き刺したままのブレードで下腹部まで切り下ろし、骨盤を叩き割った。
股を裂かれ、這いつくばるリンドヴルムを、クリスティンが機体で下敷きにする。
アーマーの重量に敵の背中の大砲はへしゃげ、全身の金属骨格がぐしゃぐしゃにされた。
エドガー機のクローも敵の腹を裂く。
なおも突進し、がっちりとアーマーの盾に組みつくリンドヴルムだったが、
「高崎、このまま伸しちまえ!」
エドガーが敵を押し出すと、晴機も背後から盾を繰り出し、挟み込んだ。
2機がそのままじりじり前進すると、圧された敵の骨格がへし折れる、甲高い音がした。
最後の1体。クリスティン機が体当たりで動きを封じた隙に、
「お兄ちゃん、真正面だよ!」
離れた位置から、明が大砲を2発立て続けに発射。砲弾は敵の頭部を直撃した。
たなびいていた砲煙が途切れ、戦果を確認すると、明は座席に深く身を沈める。心配した恵が、
「お兄ちゃん?」
「……何とか、なったね」
安堵の声と共に身を起こし、他のアーマーに搭乗した仲間たちへ手を振った。
「ありがとう、助かったよ」
「勝ったの!?」
絢音も座席から顔を出し、辺りを眺める。周囲に敵影なし――
上空にいたファウエム1体は勝ち目がないと見たか、何処かへ飛び去ってしまったようだ。
後に残されたのは、量産型剣機の残骸ばかりだ。
「つ、疲れた……」
魔導銃を下ろして、陽がこぼした。
そんな彼の後ろで、兵士たちが銃を突き上げ、歓声を上げる。
●
ハンターたちの活躍で、基地は辛うじて壊滅を免れた。
兵士たちも、到着前に砲弾の犠牲となった者以外には死者ゼロ。魔導アーマーについては、
「エンジンや主要関節部は無事そうですねぇ、これなら直りますよ」
と、ナサニエルが検分した。6機全て、外装は砲撃でできた凹みやリンドヴルムの爪痕だらけだ。
クリケットは半裸で肩に包帯を巻き、コートを羽織った姿でナサニエルと並ぶ。
アーマーを駐機場に戻し、降りてきたクリスティンへ、
「毎度、君らには世話になるな」
「アーマーがまだ使えるようで、安心した。
辺境の戦いも大詰めだからな。あちらで同じものに乗る機会があるかは分からんが」
「そういえば、先程連絡があったんですが。陛下が視察中の帝国軍キャンプにどうやら四霊剣、
『不滅の剣豪』が現れたとか現れないとか。別所では、剣妃の出現報告も」
ナサニエルの話に、クリケットが頭を掻く。
「……陛下は国内で転地療養兼視察旅行中じゃ」
「帝国には良くあることです。段々慣れますよ」
呆れ顔のクリケットを残して、ナサニエルは技術者たちを呼びに出ていった。
「つくづく無茶な国に仕えたなぁ、俺」
クリケットの背後で話を聞いていたクリスティンは、
(『剣豪』、四霊剣最後の一角も遂に姿を現したか。
帝国における歪虚との戦いも、いよいよ激しさを増すだろう……)
一瞬、にたぁ、と満面の笑みを見せる。
が、それもすぐに消え、元の涼し気な表情に戻った。
野営の帝国軍兵士たちは、武装したゾンビ・エルトヌスの一群に追跡されている。
相手の足は鈍いが、上空をコウモリ型剣機・ファウエム4体が旋回していて、
おまけに斜面から砲弾が飛んできている。易々と逃げられる状況ではない。
砲撃のほうはナサニエルの魔導アーマーが囮に引き受けたが、クリケットの応射は距離が遠くて命中しない。
「ジリ貧だな」
「あちらは性能の良い砲を使ってますねぇ」
盾に砲弾が当たるたび、凄まじい音と衝撃に揺さぶられる。ナサニエルが言った。
「私の手が白蝋病になる前に、交替してくれませんか」
ハンターは到着後真っ先に、エルトヌスに追われている兵士たちを援護する。
八島 陽(ka1442)とノアール=プレアール(ka1623)の射撃が、ゾンビの背中を打った。
ゾンビたちがびくり、と動いて振り返ると、
「よし、そのままこっちに来い!」
「あらあら数が多いわねー。でも、あなたたちに構っている場合でもないのよ」
「こっち、こっちなの! あーまーを動かすのを手伝ってほしいの!」
佐藤 絢音(ka0552)が駐機場から手を振って、兵士たちを誘導した。高崎 晴(ka3364)も、
「動ける奴は一緒に来い、大砲を使う!」
絢音と晴、他4人のハンターが待機中の魔導アーマーへ乗り込む。
上空のファウエムは手頃な獲物が見つからず、未だ空中に留まっている。
エルトヌスは囮に惹かれ、兵士たちの追跡を諦めたようだ。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)と八劒 颯(ka1804)のふたりが、対エルトヌスの前衛に立った。
「よっしゃぁ、来い!」
「颯におまかせですの!」
ふたりはそれぞれ武器を構え、横陣を組むゾンビたちへ突進していく。反撃開始。
●
「OK、乗ったよ」
実妹の遠藤・恵(ka3940)が1機に乗り込むと、日高・明(ka0476)も後から座席へよじ登った。
操縦席に就いた明がレバーをばたばたと動かして、エンジンを起動させる。
目前では、ナサニエル機が砲撃に晒されている真っ最中だ。
「あの中に突っ込むのか……お兄ちゃん、死ぬ時は一緒だよ」
後部座席の恵が言うも、明はかぶりを振って、
「僕とお前の間にそういう重いの似合わないから。無事に戻ることだけ考えてれば良いよ、恵ちゃん」
機体の装備はシールドと大砲。大砲は急造仕様で、専用の装填手なしではまともに使えない。
対するリンドヴルムは射撃間隔が短く、狙いもまとまっている。不利な状況だが、
「こっちは盾の扱いには慣れてんだよ! 死なせやしないさ!」
扁平に広がっていたアーマーの脚がすっくと伸び上がり、歩き出す。
後から、装填手として帝国軍兵士ひとりずつを乗せた絢音、晴の機体が続く。
「我々も前に出るぞ!」
「喧嘩を売りに来たことを、後悔させてやろうじゃないか」
クリスティン・ガフ(ka1090)とエドガー・ブレーメ(ka1808)の機体は接近戦仕様で、エルトヌス駆逐に向かう。
ゾンビ兵たちは陣形を保ったまま、痙攣するような独特の動きでじりじりと、徒歩のハンターたちへ迫っていく。
まずは颯が魔導ドリルを腰だめに、敵へぶつかっていった。
(横陣を組んで行進……どこかに指揮を執っている敵がいるなら、探し出して倒してしまった方が良いですね)
だが、指揮者らしき存在は近くに見当たらない。
少数での陣形構成くらいは、単独で可能な程度の知能を持っているのだろうか。
(こうも固まっていると……!)
射撃班ふたりと敵との距離を保つ為にも、ここらで1度行進を食い止めておきたかった。しかし、
「!?」
エルトヌスの列は全員同時に左手の盾を上げ、颯がドリルを突き立てる隙間も空けない。
突撃を弾かれ怯んだ颯に、工業機械のような正確なリズムで大剣が次々振り下ろされる。
すかさず防御に転じる颯だったが、全ては受け切れず、引き足に深手を負ってしまった。
「良いかお前ら、絶対に魔導アーマーの傍から離れんじゃねぇ――」
ボルディアは、背後を行く兵士たちの最後尾に怒鳴った。
「負傷者は誰か手を貸して基地の奥へ退避。
ヤバくなったらさっさとハンターの誰かを呼べ、我慢すんじゃねぇぞ!」
早口にまくし立てると、戦斧を掲げて颯の援護に向かった。
颯と入れ替わりながら、横薙ぎに敵の剣を弾き返す。
敵は全員同時に左足を引いて、なおも剣を持つ手を振りかぶるが、
「――!」
覚醒したボルディアが、獣の声で吼えた。
牙が伸び、犬の耳が生え、獣相が表れると共に、全身が筋肉の隆起で盛り上がる。
戦斧を縦横無尽に打ち振るう姿は、さながら小さな竜巻のようだ。
鎧をまとった敵の腕が、剣や盾を掴んだまま飛んでいく。敵群は押し返され始めた。
●
明、絢音、晴の3機体が砲撃戦に入った。
(敵からは撃ち下ろしの恰好だな。盾の位置に気をつけねぇと)
盾で慎重に機体を守ろうとする晴。他2機も防御を固めて、射撃体勢に入るが、
(思ってたより狙い辛いの!)
リンドヴルム3体は斜面の木々に身を隠して、少しずつ移動しながらこちらを砲撃している。
地上戦に特化した彼らは意外にも動作が機敏で、かつ低姿勢な為、投影面積も小さい。
アーマー3機が大砲を発射するも、遠距離戦では敵方に分があった。
反撃の砲弾が、晴と絢音の機体を直撃する。
被弾の瞬間、覚醒した絢音の小さな身体が光の粒子に包まれる。
砲弾が盾の角をへし折って、剥き出しの座席へ飛び込んでくると、
(防御障壁を使うの――!)
覚醒と同時に、マテリアルの光の壁をコクピット上へ展開する。
黒い鉄球が絢音の目前、機体正面に激突し、破損した装甲の破片が搭乗者を襲った。
晴の機体もコクピットに被弾、搭乗者に直接砲弾をぶつけられはしなかったものの、
「くっそ!」
激しく揺さぶられ、晴の視界に星が瞬く。
計器を覆っていたガラスが割れ、彼の手足のあちこちに突き刺さった。
「大丈夫か!?」
後部座席に伏せていた兵士が顔を出すと、
「俺は……一応な。けどよ」
計器の針が軒並み振り切れている。レバーやハンドルを操作したところ、機体は一応動くようだが、
(今のショックで、計器がみんな狂っちまった)
「射角もうちょい右! あ、いきすぎいきすぎ!」
恵の誘導で、明が再度大砲を発射するも、
「仰角、これ以上取れない!」
大砲の性能も、地の利も敵が勝っている。
損傷した仲間の2機が気がかりだ。機体を下げてカバーに入ろうとするが、
「お兄ちゃん、上から来てる!」
アーマーのダメージを嗅ぎつけたか、ファウエム2体が飛来する。
後方ナサニエル機からクリケットが魔導銃を発射、1体にかすめさせて降下ルートを逸らすも、
「恵っ!」
恵が大砲の装填を止め、自身の銃を接近中のファウエムに向けるが、
敵は機体の頭上を飛びながら、青い霧をふたりに吹きかけていった。
上を向いていた恵は、思わずその霧を吸い込んでしまう。
「おにい……ッ」
毒霧に咳き込む恵。明が彼女を気遣う間もなく、リンドヴルム3体が斜面を駆け下り、基地へ迫る。
●
「アーマーが来ますの!」
負傷し後退していた颯が叫ぶ。クリスティン、エドガーの機がエルトヌス対応に到着した。
ゾンビ兵と真っ向打ち合い、4体ほどを倒してみせたボルディアだが、こちらも斧を持つ腕に傷を負っていた。
ファウエムも1体も降下を開始している。先んじて回復すべきか。
「上から下から、もう大変ねー」
「ふたりとも下がれ! エレクトリックショックを使う!」
ファウエムの急降下に合わせて、陽が近くにいたノアールと颯を下がらせる。
自分を狙った敵の鉤爪は、さっと身を翻して避け、反撃に機導術の電撃を食らわせた。
敵は空中で痙攣、陽の足下に落下する。
「そぉれ、返り討ちよー!」
ノアールも、起き上がったばかりの敵の背中に機導砲を撃ち込んだ。
無事な帝国軍兵士を引き連れたクリスティンが、
「ブレーメ殿、ゾンビどもは任せる!」
「応!」
エドガーを先に進ませ、撤退するボルディアの支援に回すと、
自分は盾とブレード装備の機体で、徒歩の仲間を攻撃するファウエムの進路に割り込んだ。
ファウエムがアーマーに飛びかかるも、巨体で軽々と弾かれる。
だが、クリスティンが繰り出す巨大なブレードも避けられてしまい、
「動きが早い! アーマーで止めは刺せんか……」
「一斉射撃、行くわよー!」
ノアールの合図で、彼女と陽、兵士たちがファウエムを銃撃する。
敵は苦し紛れに毒霧を吐いた上、飛行し逃げようとするが、
「アレがアーマーの周りを飛び回ってると、邪魔ですの!」
颯が飛び込んだ。敵の横腹にドリルを突き刺し、地面に押し倒す。
ドリルが回転すると、装甲が火花を散らして削れていき、腐敗した肉片や体液が吹き上がる。
「びりびり電撃どりるぅ~!!!!」
駄目押しの電撃を流し込む――が、颯もファウエムを仕留めた直後、膝を折った。
脚の傷と、周囲に漂っていた毒霧の影響で、いよいよ体力が限界だ。陽が彼女を助け起こし、
「後はオレたちが引き受けた。ゾンビも残り、あと少しだ」
「お触り厳禁ってやつだ。下がりな!」
エドガーも盾でエルトヌスを押しやりながら、クローで引っかけ、薙ぎ倒す。
その間、ボルディアはアーマーの傍に就き、自己治癒能力による回復を進めた。
陣形を崩されたエルトヌスが機体へよじ登ろうとすると、
「さすがゾンビ、往生際悪いぜ」
ボルディアが斧で払い落としたところへ、エドガーが機体を進め、足下の敵を踏み潰した。
そのままゾンビを全滅させるふたりだが、残り1体のファウエムは空中に留まったままだ。
こちらが隙を見せれば、すぐにでも急降下攻撃を試みるだろう。
「毒霧がおっかねぇ、対空用の重火器が欲しくなる展開だな……後で一考願うぜ、割とマジで」
●
量産型リンドヴルム・陸戦仕様機。
背中の大砲2門の給弾機構はドラゴンの死体の腹側、生前は臓器の詰まっていた部分に仕込まれていた。
そうして保持していた砲弾を粗方吐き出してしまうと、
リンドヴルムたちは軽くなった身体で、斜面を勢い良く這い下りていく。
明は判断に迷った。
後部座席では、毒を受けた妹が苦しんでいる。一旦下がって、休ませてやりたい。
だが後方では、絢音と晴のアーマーが立ち往生している。下がる訳には行かない。
(どうする……!)
晴は血だらけの手でハンドルを握り、自機を立て直して絢音機に寄せた。
どちらの機も装填手の兵士は無事だが、操縦者がひどく負傷している。
(いくら機体が頑丈でも、乗ってる人間が動けなけりゃどうにもならねぇ)
前線では、殺到するリンドヴルムを前に明機が身動きできないでいる。
晴が自身と、覚醒で10代の少女へと姿を変えた絢音に、手早く回復の法術を投げた。
「助かったの……」
「最低限の治療だけどな。機体はどうだ?」
「大砲が動かないの。腕も片方おかしいみたい。脚は何とか」
「残り2機が来るまで、俺たちで明を援護するぞ!」
ふたりは機体を再び歩かせ、明のカバーに回る。
目立った損傷がないのは明機だけだ。彼を無事にしておかなければ、リンドヴルムの突撃を押さえ切れない。
クリケットが明機の頭上を飛ぶファウエムを狙った。
ぎりぎりまで溜めて引き金を引けば、どうにか命中。敵は空中で錐もみし、そのまま地面に落下した。
墜落したまま動けない敵は、前進中の晴機が踏みつけて止めを刺す。
ところが、もう1体のファウエムがナサニエル機の孤立を察知、こちらへ飛んできた。
「敵を誘き寄せちゃったんじゃないですか?」
「それならそれで。あっちはドラゴンの相手で手一杯だろ!?」
●
「弾ァ入ってるか!?」
「2発、装填済みだ!」
晴と兵士がやり取りする。明機を取り囲むリンドヴルムに接近中で、
距離的には、今が大砲を使う最後のチャンスだ。
見当をつけて正面に発射すれば、リンドヴルム1体が近距離からの砲撃にひっくり返る――
「いい加減、あーまーも良いとこ見せるの!」
絢音機が一気に前進、別の敵個体へ体当たりを仕掛けた。
敵は後ろ足で立ち上がり、反撃の爪を絢音機の盾に食い込ませる。
明と晴も、盾で機体を守りながらぶつかっていった。リンドヴルムはひたすら彼らの機体を殴打する。
「ゾンビ対応の2機と合流する。恵、まだやれるか!?」
「おにいちゃん、前!」
リンドヴルムの爪が盾を掻い潜り、明を襲うも、さっと身を伏せてかわした。屈み込んだまま操縦を続け、
「左に旋回して前進、いや後退! しっかり掴まってろよ、恵!」
エンジン全開、旋回と同時に機体の半身をリンドヴルムにぶつけて、押し退けた。
晴機が後を継いで敵を抑え込み、明機の後退を助ける。
飛行中のファウエムが、ナサニエル機を擦過する。
ナサニエルは伏せてことなきを得たが、銃を構えていたクリケットはすれ違いざま、肩の肉を持っていかれた。
「意外ととろいですねぇ」
「うるせぇな」
距離が近いと、素早い相手に大型魔導銃では照準が追いつかない。
と、そこへゾンビを全滅させたハンターとアーマー、兵士たちが戻って来る。
アーマーを盾に使いながら、ノアールと陽がファウエムを狙撃した。
兵士たちも陣形を組んで射撃を行い、後をついてきていたもう1体のファウエムを遠ざける。
「ホント、上手に飛ぶわねー……私たちもああいうの、作れたら良いのに」
「そのときは是非、腐ってない奴を頼むね!」
陽の射撃がファウエム1体を撃墜、落下したところをクリケットが『オイリアンテ』で吹き飛ばす。
ファウエム最後の1体は上空に逃れていった。ハンターと兵士たちの弾幕を前に、そう易々とは降下できない筈。
「よし、大きいのは任せた! やっつけちゃって頂戴!」
ノアールが機導術・攻性強化を2機のアーマーに使用した。
流入するマテリアルにエンジンが唸りを上げ、機体が全速前進する。
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後退する3機の横から回り込んで、クリスティンとエドガーの機がリンドヴルムへ襲いかかった。
格闘武装のない3機だけでは残敵を仕留められない、
「悪いけど、お願いするの!」
絢音機に代わったクリスティンが、ブレードでリンドヴルムの腹を貫いた。
砲弾を使い果たしてがらんどうのドラゴンの腹部、急所ではないが、
「よもや、真っ二つにされても動けるほどではあるまい」
突き刺したままのブレードで下腹部まで切り下ろし、骨盤を叩き割った。
股を裂かれ、這いつくばるリンドヴルムを、クリスティンが機体で下敷きにする。
アーマーの重量に敵の背中の大砲はへしゃげ、全身の金属骨格がぐしゃぐしゃにされた。
エドガー機のクローも敵の腹を裂く。
なおも突進し、がっちりとアーマーの盾に組みつくリンドヴルムだったが、
「高崎、このまま伸しちまえ!」
エドガーが敵を押し出すと、晴機も背後から盾を繰り出し、挟み込んだ。
2機がそのままじりじり前進すると、圧された敵の骨格がへし折れる、甲高い音がした。
最後の1体。クリスティン機が体当たりで動きを封じた隙に、
「お兄ちゃん、真正面だよ!」
離れた位置から、明が大砲を2発立て続けに発射。砲弾は敵の頭部を直撃した。
たなびいていた砲煙が途切れ、戦果を確認すると、明は座席に深く身を沈める。心配した恵が、
「お兄ちゃん?」
「……何とか、なったね」
安堵の声と共に身を起こし、他のアーマーに搭乗した仲間たちへ手を振った。
「ありがとう、助かったよ」
「勝ったの!?」
絢音も座席から顔を出し、辺りを眺める。周囲に敵影なし――
上空にいたファウエム1体は勝ち目がないと見たか、何処かへ飛び去ってしまったようだ。
後に残されたのは、量産型剣機の残骸ばかりだ。
「つ、疲れた……」
魔導銃を下ろして、陽がこぼした。
そんな彼の後ろで、兵士たちが銃を突き上げ、歓声を上げる。
●
ハンターたちの活躍で、基地は辛うじて壊滅を免れた。
兵士たちも、到着前に砲弾の犠牲となった者以外には死者ゼロ。魔導アーマーについては、
「エンジンや主要関節部は無事そうですねぇ、これなら直りますよ」
と、ナサニエルが検分した。6機全て、外装は砲撃でできた凹みやリンドヴルムの爪痕だらけだ。
クリケットは半裸で肩に包帯を巻き、コートを羽織った姿でナサニエルと並ぶ。
アーマーを駐機場に戻し、降りてきたクリスティンへ、
「毎度、君らには世話になるな」
「アーマーがまだ使えるようで、安心した。
辺境の戦いも大詰めだからな。あちらで同じものに乗る機会があるかは分からんが」
「そういえば、先程連絡があったんですが。陛下が視察中の帝国軍キャンプにどうやら四霊剣、
『不滅の剣豪』が現れたとか現れないとか。別所では、剣妃の出現報告も」
ナサニエルの話に、クリケットが頭を掻く。
「……陛下は国内で転地療養兼視察旅行中じゃ」
「帝国には良くあることです。段々慣れますよ」
呆れ顔のクリケットを残して、ナサニエルは技術者たちを呼びに出ていった。
「つくづく無茶な国に仕えたなぁ、俺」
クリケットの背後で話を聞いていたクリスティンは、
(『剣豪』、四霊剣最後の一角も遂に姿を現したか。
帝国における歪虚との戦いも、いよいよ激しさを増すだろう……)
一瞬、にたぁ、と満面の笑みを見せる。
が、それもすぐに消え、元の涼し気な表情に戻った。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 エドガー・ブレーメ(ka1808) 人間(リアルブルー)|28才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/04/17 20:05:15 |
|
![]() |
質問はこの卓で 八島 陽(ka1442) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/04/16 07:51:55 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/16 08:00:08 |