ゲスト
(ka0000)
【不動】双剣
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/20 22:00
- 完成日
- 2015/05/01 23:58
このシナリオは4日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「フクロウかな」
それらしい鳴き声がした。
運転席の左右に見えるのは、黒い壁のように並んだ森の木々ばかりだ。
正面を向けば、ヘッドライトで黄色く照らされた騎馬の後ろ姿。
夜半、加工済鉱物性マテリアルを積んだ魔導トラック10台の車列が、
針葉樹林帯の中に切り拓かれた輸送道路をゆっくりと進んでいく。
帝国軍は辺境の戦線に、魔導アーマーその他の最新の機導兵器を投入していたが、
鉱物性マテリアル等の動力源がなければ、それらも無用の鉄の塊に過ぎない。
激戦により急速に消耗していく燃料を補うべく、補給部隊があらゆるルートから前線を目指していた。
「攻撃を受けた部隊もあるってな」
ハンドルを握りながら、運転手が隣の整備士に言う。
帝国軍輸送線の各地点で、この機に便乗した帝国領内の歪虚――四霊剣が続々と姿を現している。
「こっちにも、何か来るか……」
「縁起でもねぇよ」
トラックには1台につきふたり、銃騎兵の護衛が就いているが、当てにはならない。
輸送路は長い1本道で逃げ場がなく、敵対的亜人や雑魔程度なら兎も角、
四霊剣のような歪虚の本格的な襲撃を受ければ、ひとたまりもないだろう。
だが、より強力な部隊やハンター戦力は大きな拠点や前線に割かれていて、
決して最新鋭ではない、ごく普通の魔導トラックだけで構成された、
補給線の一端に過ぎないこの部隊につけられる兵数はたかが知れていた。
他のルートに比べて、狭いながらも山岳部の起伏が少なく、輸送に要する時間も短いのが唯一の救いだ。
敵に嗅ぎつけられる前に、運び終えてしまえば良いが――
●
森から飛び出した細身の影が、隊列中央、5番目の車両に軽々と乗り上がる。
後続車のライトに煌々と照らし出されたのは、1体の動く骸骨。
護衛の銃騎兵2名が、慌てることなく魔導銃を掲げ、撃つ。
大口径の弾丸が、黄色く変色した人骨を粉々に打ち砕いた。
「何だ!?」
背後からの発砲音に、運転手がハンドルに手をかけたまま振り返る。銃騎兵が、
「雑魔だ! 倒したが、まだ近くに隠れているのがいるかも――」
トラックの荷台、燃料ペレットの詰まった麻袋の上に散らばった人骨の破片が、
見えない糸に引かれるように、ひとりでに動いて寄り集まっていく。
銃弾を受けて何枚にも割られた頭骨は、ジグソーパズルのように正確に組み合わさり、
継ぎ目が見えないほどぴったりと、元通りの髑髏を形作る。
脊髄が蛇のように空中をくねりながら、頭蓋骨へ繋がると、鎖骨、胸骨、肩甲骨、腕骨が後に続く。
最後に下肢をぶら下げた骨盤が合体し、完全に復元されたスケルトンは、空ろな眼窩の奥に鬼火を宿した。
車列は動き続けている。
「降りろだと!?」
後方の銃騎兵がランタンを振って合図するのを、ミラーで確認した。
運転手と整備士は車の動力を切りつつ、座席から飛び降りる。
必死で前の車両へ走り、荷台によじ登ると、
「ただの雑魔じゃねぇのかよ!?」
たった今まで自分たちが運転していた車両の上に、スケルトンが立っている。
乗り手を失った車は惰性で進みながら、やがて停まった。
一方、停止車両を挟んで前方の車両4台は、速度を上げて敵襲からの退避を図る。
去り際、取り残された車両上から、銃声に似た破裂音が響き渡る。
●
不死身のスケルトン――剣魔・クリピクロウズ。
瞬時の判断で車列をふたつに分けさせた銃騎兵だったが、自らが撤退することは叶わなかった。
車両上の剣魔が踊るような身振りをして、骨に食い込んでいた魔導銃の弾丸を『撃ち返す』。
輸送路の道幅では、停止車両を素早く回避して道を進むのは難しい。
後方の5台はギアをバックに入れ、全速後退を始める。
6番車の風防ガラスに、銃騎兵たちの返り血が飛び散った。
『敵歪虚を剣魔と認識! 6番車から10番車は全力でポイント13まで撤退せよ!』
車両搭載の魔導短伝話越しに、指揮官の怒号が飛ぶ。
剣魔の情報は、既に帝国軍内部で共有されている。
しかし、有効な撃退手段は未だ確立されていない。唯一可能なのは、覚醒者をぶつけること。
『ポイント13で待機中のハンターに、出動要請を行った!』
ハンターが間に合うが早いか、車両が全滅するが早いか。
幸い、剣魔は燃料に気を取られているようで、停止車両の荷台に這いつくばったまま動かない。
紫色の妖気が、遠ざかりつつある暗闇にたなびく。
前方4台は剣魔を置き去りに、次の待機地点へ急いだ。
そこまで逃げ切れば、ハンターを含む大規模部隊と合流できる。
別車両の荷台に乗った運転手は、
「剣魔は他の、剣機だとか剣妃とは連携してないんだよな?」
神出鬼没の剣魔だが、他の四霊剣と共同戦線を張った事例はない。
「アレがいるなら、他の歪虚は攻撃を恐れて寄りつかないかも知れん……逃げ切ってしまえば」
整備士が言いかけたところで、車列が一斉に速度を落とす。
「くそっ」
先頭の1番車が何かに行き当たったようだ。
●
「嘘だろ」
スケルトンがもう1体、逃げ道を急いでいた前方車列の行く手を塞ぐ。
護衛の銃騎兵は、それを避けて道なりに逃げていく。彼らでは勝ち目がない。
先頭のトラックの乗組員も、すぐに車を捨てて森へ走った。
今更抵抗は無意味と知っていたし、敵は燃料に惹かれて、人間たちには目もくれなかった。
『2体目』の剣魔は、やはり車両の荷台へ飛び乗ると、麻袋の山へ覆いかぶさって咆哮する。
マテリアルの吸収が始まると、古びた人骨で構成されたその身体から、妖気が炎のように激しく立ち昇る。
敵は高純度の燃料ペレットから、急速にマテリアルを摂取している。
2番車の運転手が、逃げ出す際で伝話に向かって叫んだ。
『剣魔は2体いる! 繰り返す、剣魔は2体だ!
こちらも襲撃を受けた。1番から4番車を放棄、退避を最優先する!』
他の人員も皆、燃料を諦めて森の中へ逃げ込んだ。
最初に現れた剣魔は、5番車積載分からの吸収を粗方終えたらしい。
連続する破裂音と共に、荷台の麻袋が弾け飛び、燃料ペレットが辺り一面にばら撒かれた。
そうして底に残っていた燃料まで露出させると、いよいよ吸収を完了した剣魔は、
トラックを降り、バックで逃走中の後方4台に向かって走り出す。
中途半端な抵抗は効果がないどころか、事態を悪化させかねない――
剣魔の特徴のひとつは、自身に対する攻撃の模倣と無力化である。
事実、1体目の剣魔は既に魔導銃による攻撃を『学習』し、
走りつつも、骨片で代用された弾丸を逃走車両へ発射してみせた。
犠牲者の血に塗れた6番車の風防へ、更に骨の弾丸が食い込む。
突如、2体もが出現した剣魔に対し、帝国軍補給部隊に成す術はもはやなく。
ただ、ハンターの救援が間に合い、撤退が叶うことを祈るばかりだった。
「フクロウかな」
それらしい鳴き声がした。
運転席の左右に見えるのは、黒い壁のように並んだ森の木々ばかりだ。
正面を向けば、ヘッドライトで黄色く照らされた騎馬の後ろ姿。
夜半、加工済鉱物性マテリアルを積んだ魔導トラック10台の車列が、
針葉樹林帯の中に切り拓かれた輸送道路をゆっくりと進んでいく。
帝国軍は辺境の戦線に、魔導アーマーその他の最新の機導兵器を投入していたが、
鉱物性マテリアル等の動力源がなければ、それらも無用の鉄の塊に過ぎない。
激戦により急速に消耗していく燃料を補うべく、補給部隊があらゆるルートから前線を目指していた。
「攻撃を受けた部隊もあるってな」
ハンドルを握りながら、運転手が隣の整備士に言う。
帝国軍輸送線の各地点で、この機に便乗した帝国領内の歪虚――四霊剣が続々と姿を現している。
「こっちにも、何か来るか……」
「縁起でもねぇよ」
トラックには1台につきふたり、銃騎兵の護衛が就いているが、当てにはならない。
輸送路は長い1本道で逃げ場がなく、敵対的亜人や雑魔程度なら兎も角、
四霊剣のような歪虚の本格的な襲撃を受ければ、ひとたまりもないだろう。
だが、より強力な部隊やハンター戦力は大きな拠点や前線に割かれていて、
決して最新鋭ではない、ごく普通の魔導トラックだけで構成された、
補給線の一端に過ぎないこの部隊につけられる兵数はたかが知れていた。
他のルートに比べて、狭いながらも山岳部の起伏が少なく、輸送に要する時間も短いのが唯一の救いだ。
敵に嗅ぎつけられる前に、運び終えてしまえば良いが――
●
森から飛び出した細身の影が、隊列中央、5番目の車両に軽々と乗り上がる。
後続車のライトに煌々と照らし出されたのは、1体の動く骸骨。
護衛の銃騎兵2名が、慌てることなく魔導銃を掲げ、撃つ。
大口径の弾丸が、黄色く変色した人骨を粉々に打ち砕いた。
「何だ!?」
背後からの発砲音に、運転手がハンドルに手をかけたまま振り返る。銃騎兵が、
「雑魔だ! 倒したが、まだ近くに隠れているのがいるかも――」
トラックの荷台、燃料ペレットの詰まった麻袋の上に散らばった人骨の破片が、
見えない糸に引かれるように、ひとりでに動いて寄り集まっていく。
銃弾を受けて何枚にも割られた頭骨は、ジグソーパズルのように正確に組み合わさり、
継ぎ目が見えないほどぴったりと、元通りの髑髏を形作る。
脊髄が蛇のように空中をくねりながら、頭蓋骨へ繋がると、鎖骨、胸骨、肩甲骨、腕骨が後に続く。
最後に下肢をぶら下げた骨盤が合体し、完全に復元されたスケルトンは、空ろな眼窩の奥に鬼火を宿した。
車列は動き続けている。
「降りろだと!?」
後方の銃騎兵がランタンを振って合図するのを、ミラーで確認した。
運転手と整備士は車の動力を切りつつ、座席から飛び降りる。
必死で前の車両へ走り、荷台によじ登ると、
「ただの雑魔じゃねぇのかよ!?」
たった今まで自分たちが運転していた車両の上に、スケルトンが立っている。
乗り手を失った車は惰性で進みながら、やがて停まった。
一方、停止車両を挟んで前方の車両4台は、速度を上げて敵襲からの退避を図る。
去り際、取り残された車両上から、銃声に似た破裂音が響き渡る。
●
不死身のスケルトン――剣魔・クリピクロウズ。
瞬時の判断で車列をふたつに分けさせた銃騎兵だったが、自らが撤退することは叶わなかった。
車両上の剣魔が踊るような身振りをして、骨に食い込んでいた魔導銃の弾丸を『撃ち返す』。
輸送路の道幅では、停止車両を素早く回避して道を進むのは難しい。
後方の5台はギアをバックに入れ、全速後退を始める。
6番車の風防ガラスに、銃騎兵たちの返り血が飛び散った。
『敵歪虚を剣魔と認識! 6番車から10番車は全力でポイント13まで撤退せよ!』
車両搭載の魔導短伝話越しに、指揮官の怒号が飛ぶ。
剣魔の情報は、既に帝国軍内部で共有されている。
しかし、有効な撃退手段は未だ確立されていない。唯一可能なのは、覚醒者をぶつけること。
『ポイント13で待機中のハンターに、出動要請を行った!』
ハンターが間に合うが早いか、車両が全滅するが早いか。
幸い、剣魔は燃料に気を取られているようで、停止車両の荷台に這いつくばったまま動かない。
紫色の妖気が、遠ざかりつつある暗闇にたなびく。
前方4台は剣魔を置き去りに、次の待機地点へ急いだ。
そこまで逃げ切れば、ハンターを含む大規模部隊と合流できる。
別車両の荷台に乗った運転手は、
「剣魔は他の、剣機だとか剣妃とは連携してないんだよな?」
神出鬼没の剣魔だが、他の四霊剣と共同戦線を張った事例はない。
「アレがいるなら、他の歪虚は攻撃を恐れて寄りつかないかも知れん……逃げ切ってしまえば」
整備士が言いかけたところで、車列が一斉に速度を落とす。
「くそっ」
先頭の1番車が何かに行き当たったようだ。
●
「嘘だろ」
スケルトンがもう1体、逃げ道を急いでいた前方車列の行く手を塞ぐ。
護衛の銃騎兵は、それを避けて道なりに逃げていく。彼らでは勝ち目がない。
先頭のトラックの乗組員も、すぐに車を捨てて森へ走った。
今更抵抗は無意味と知っていたし、敵は燃料に惹かれて、人間たちには目もくれなかった。
『2体目』の剣魔は、やはり車両の荷台へ飛び乗ると、麻袋の山へ覆いかぶさって咆哮する。
マテリアルの吸収が始まると、古びた人骨で構成されたその身体から、妖気が炎のように激しく立ち昇る。
敵は高純度の燃料ペレットから、急速にマテリアルを摂取している。
2番車の運転手が、逃げ出す際で伝話に向かって叫んだ。
『剣魔は2体いる! 繰り返す、剣魔は2体だ!
こちらも襲撃を受けた。1番から4番車を放棄、退避を最優先する!』
他の人員も皆、燃料を諦めて森の中へ逃げ込んだ。
最初に現れた剣魔は、5番車積載分からの吸収を粗方終えたらしい。
連続する破裂音と共に、荷台の麻袋が弾け飛び、燃料ペレットが辺り一面にばら撒かれた。
そうして底に残っていた燃料まで露出させると、いよいよ吸収を完了した剣魔は、
トラックを降り、バックで逃走中の後方4台に向かって走り出す。
中途半端な抵抗は効果がないどころか、事態を悪化させかねない――
剣魔の特徴のひとつは、自身に対する攻撃の模倣と無力化である。
事実、1体目の剣魔は既に魔導銃による攻撃を『学習』し、
走りつつも、骨片で代用された弾丸を逃走車両へ発射してみせた。
犠牲者の血に塗れた6番車の風防へ、更に骨の弾丸が食い込む。
突如、2体もが出現した剣魔に対し、帝国軍補給部隊に成す術はもはやなく。
ただ、ハンターの救援が間に合い、撤退が叶うことを祈るばかりだった。
リプレイ本文
●
「貴方の相手は他の方々です。それでは失礼」
真田 天斗(ka0014)はIED(即席爆発装置)の材料となる榴弾を担ぎながら、
迫り来る剣魔を軽々かわして、4人の仲間と共に奥の車列へと急いだ。一方、
「この場は引き受けたのじゃッ!」
剣魔に接近するカナタ・ハテナ(ka2130)を、アルファス(ka3312)が機導砲で援護した。
リリア・ノヴィドール(ka3056)も、フラメディア・イリジア(ka2604)を伴って、前衛のカナタに加わる。
カナタとリリアは対剣魔戦の経験者、敵の手の内はおよそ承知していたが、
(あらゆる攻撃を模倣、無効化する怪物。手数が追いつかなければ、いずれ押し負けるでござるな)
藤林みほ(ka2804)は、全速で後退する魔導トラックを見送りつつ道具を広げた。
即席の罠を使うことで、攻撃手段にバリエーションを持たせる作戦だ。
隣では、魔獣装甲で全身を覆ったアルファスが騎馬を降り、
「燃料が気になるようだね。遊びを邪魔された子供って感じだ」
剣魔はカナタら前衛と対峙しながらも、頭を巡らし、撤退中のトラックを追う素振りを見せた。
対するカナタは、雌豹を思わせるしなやかな動きで敵の行く手を阻みつつ、
「剣魔どんにも、お色気は通じるかのぅ?」
挑発的なポーズを見せるや否や、唐突に素手で打ちかかった。
パンチを受けた剣魔の骨格は脆くも崩れる――瞬時に修復、再び骸骨の身体で立ち上がる。
射撃の間合いではないと判断したか、剣魔はカナタの格闘を模倣し反撃した。
リリアがダガーで敵の拳を打ち払うと、後ろに控えていたフラメディアが、
「ふむ? まだ、単なるスケルトンと大差ないように思えるの」
「今はまだ、ね」
リリアが注意を逸らした隙で、槍に持ち替えたカナタが剣魔の胴を払った。
泣き別れになった上半身が落下を始める間もなく、即座に再生。
同時に腕骨を槍状に変形させ、振り向きざまの鋭い横振りでカナタに襲いかかる。
後退するカナタ。彼女と組んで敵を前後に挟み込みながら、リリアは思う。
(こんなのが2体なんて、反則なのよ!)
目前の敵を退けたとて、前方車列にはもう1体の剣魔が控えている。
1体につき5人のハンターで、果たして剣魔を打倒できるものか――
●
停止車両の荷台に立ち、ハンターたちを睥睨する2体目の剣魔。
「貴方とはこれで3度目の対戦ね。この因果関係も、ケリをつけさせてもらうわ!」
アイビス・グラス(ka2477)。
アーサー・ホーガン(ka0471)と壬生 義明(ka3397)との3人で、剣魔を足止めする。
後方ではマッシュ・アクラシス(ka0771)が、作業中の天斗を援護していた。
(後ろのトラックへは道すがら、空地まで撤退するよう言っておいたのですが。
こちらは運転手全員、逃げてしまいましたね)
「車両を動かします。そのほうが、敵の行動をコントロールし易い」
天斗がトラックの運転席に乗り込み、3台を1箇所へ移動させようとする。護衛のマッシュは、
「剣魔が寄って来たら、お知らせしますよ」
そう言って、盾の裏に隠しておいたガントンファーを掲げてみせた。
(ですが、爆弾はあくまで止め。それまでは我々で撃退するしか……)
接近するハンターに反応し、荷台から飛び降りた剣魔。
既に燃料のマテリアルを吸収し終えていたようだが、アイビスの肘打ちであっさりと崩れ落ちる。アーサーが、
「噂通りの強さでいてくれよ?」
言うが早いか、剣魔は形を取り戻して起き上がると、掴みかかろうとするアーサーの顎を鋭い肘打ちで狙う。
「へっ、早速かい」
「では、おっさんの出番かな」
義明が魔法の木槍・ミストルスティンで、剣魔の頭骨を首から突き落とした。
アーサーが時間を稼ごうと、ハンターマントを手に、再生を始めた敵の上へのしかかるが、
相手はずるり、とマントの下から這い出てしまった。
直後、不可視の力で引き寄せられそうになり、アーサーはマントを手放す。
剣魔は頭骨を元通りに首へ乗せ、奪い取ったマントをかき寄せた。
(動きが嫌に人間じみてるぜ。これも『学んだ』ことかね?)
再び格闘戦を挑むアーサー。
放り投げられたマントで視界を塞がれたかと思うと、骨の槍が頬をかすめた。
義明が横から切り込むが、剣魔は変形させた腕骨で彼の槍を打ち落とす。
「大したモンだねぇ、ホント」
●
「じゃが、真似ばかりすると却って都合の悪いこともあるんじゃよ?」
1体目の剣魔の『槍』を、カナタが自前の長槍・シュテルンシュピースで受け止めた。
双方の武器に込められた光の魔法が、攻撃の威力を相殺する。
アルファスが前衛に追いついた。
力強く踏み込んだかと思えば、震脚からの強力な掌底で、剣魔の肩甲骨を叩き割る。
(魔獣装甲の改造、良い感じだ。大分動き易くなってる)
崩れ落ちるなり、糸で釣られたかのようにひとりでに動き出す骨の山。
フラメディアが、咄嗟に骨盤へ手を伸ばして懐に忍んだ。
「さぁ、大事な部品を盗られて、おまえは一体どうするかいの?」
骨盤の欠けた骨格が、紫の発光と共に、周囲のハンターたちへ向けて強力な吸引を開始。
引きずり込まれる寸前、ハンターたちは手持ちの石や投擲武器をなげうった。
でたらめに集められた部品は、剣魔の下腹部で軋みを上げながら凝縮され、新たな骨盤へと変形する。
「はっはっは、つくづく面白い奴じゃ」
仲間たちと剣魔を取り囲みながら、カナタは不思議に思う。
(如何なる材質も、自在に武器や身体へ変化させられるのなら)
剣魔はカナタの槍を現状、最も有効な攻撃手段と判断したらしく、腕部の変形を維持しつつ反撃を試みる。
その攻撃の全ては、カナタが引き受け、受け止めた。
(何故、そうまでしてヒトの形にこだわるんじゃろう?)
カナタが敵に隙を作り、リリアとアルファスが繰り返しその隙を突いて仕留める。
同じ攻撃手段は2度通用しない。何度も武器を持ち替え、技を変えていく。
●
(ビデオゲームか、ソリティアでもやってるような気分だぜ)
戦いの中で、剣魔の動作は次第に最適化されていく。
新たな武器の具合を確かめるぎこちなさが消え、攻撃は鋭さを増した。
防御も的確だ。アーサーのオーバーハンドパンチは、槍状の腕で軽々と弾かれた。
「もう素手は通用しねぇ!」
アーサーが叫ぶと、義明はガントレットを嵌めた手で牽制のパンチを放つ。
本命は、相手が引いて反撃に移る一瞬。突き出した拳から、機導剣の光条が敵を貫いた。
再生からほとんど間を置かず、剣魔が義明へ突進。
咄嗟に展開された防御障壁を貫通し、黒い炎の剣――模倣された機導剣が義明の太腿を焼いた。
「義明さん!」
アイビスが後ろ回し蹴りで敵を転がした。アーサーが、倒れ込んでしまった義明を抱き起すと、
「私が足止めする……逃げて!」
ハンターがひとりでも戦闘不能に陥った時点で、攻撃手段は激減する。
義明を抱えたアーサーを下がらせると、アイビスはワイヤーウィップを振るい、剣魔の突進を食い止めた。
機導剣はバックステップでかわし、間合いを離す。
合わせるように飛んできた衝撃波は、腰に提げた手裏剣を落として身代わりとした。
(貴方の『技』は、こっちだって憶えてる!)
天斗は車両の移動を終えると、爆弾の設置を急いだ。
(この世界での車両爆破は初めてです)
勝手が違えば時間もかかる。その上、勝負は1度。
1回の爆発で確実を止めを刺すのでなければ、剣魔を余計に強化するだけに終わってしまう。
「おや、負傷ですか?」
「面目ないねぇ……」
マッシュの傍へ、義明がアーサーの手で担ぎ込まれる。
魔法による治癒があればまだ戦える程度の傷だが、
たったひとりの聖導士であるカナタは、今も1体目の剣魔に応戦中だ。
●
みほが罠を完成させた。仲間たちは一斉に後退し、剣魔を誘き寄せる。
即席の落とし穴へ剣魔を見事誘い込むが――
(このままでは避けられる!)
敵の身のこなしが予想以上に素早い。みほはすかさず口笛を吹いた。
茂みに伏せさせておいた柴犬が飛び出して、剣魔に吠えかかる。
強力な歪虚の気配に犬は怯え、直接攻撃することはできなかったが、
犬が作った隙でみほが敵の背後に回り、体当りで穴へと突き落とした。
穴の底に仕込まれていた杭が、剣魔の骨の隙間に刺さって身動きを取れなくする。
みほが稼いだ一瞬を使って、カナタは防御し切れなかった傷を法術で回復する。
他の4人は落とし穴を取り囲み、中から剣魔が飛び出すなり、
「そろそろ片づけたいとこなの!」
リリアがフレイルで打つが、ばらばらになった骨格は、宙を舞う半ばで再生する。
元通りに組み立てられた骸骨から突如、どす黒い妖気が立ち昇ったかと思うと、
リリアは何かを『吸われる』感覚を覚えた。全身から不意に力が抜け、膝をつきそうになる。
仲間たちも、一瞬ながら体勢を崩す。それを見たリリアは、
「……相手はきっと、そろそろ限界なの!」
見覚えのある行動だった。剣魔の蓄えていたエネルギーが、戦闘によって枯渇しかけている。
ここが正念場と見て、ハンターたちは一気に攻撃の手を進めた。
舞いのような動きから放たれるアルファスの機導剣。剣魔は袈裟切りにされるが、再生。
みほが鎖鎌を取り、分銅で手足を絡め取る。引きずり倒して、頭を踏みつけたが、これも再生された。
衝撃波を伴って、後方のトラックを追おうと飛び出す剣魔。
フラメディアが戦槍を大上段に構え、真っ向から振り下ろす。
砕け散った剣魔の破片が、彼女の着込んだ金属鎧に当たって甲高い音を立てた。
「次の手を!」
フラメディアの求めで、みほが駆け出す。
逆手に刀を持ち、復活した剣魔が動き出すより速く切りつける。
斜めに切り落とされた剣魔の上半身は、そのままがらがらと崩れ落ちた。
下半身もばらばらに分解し、再び繋がろうとする気配もない――
「確かに、殺ったでござるな」
みほが剣魔の残骸を足蹴にする。ただの、乾いた骨の山だ。
カナタはトランシーバーで、もう1体と戦っている筈の義明に連絡していた。
タイミングを合わせて2体同時の撃破を目論んだのだが、
「まだ、あちらは動いているようじゃ」
しかしどうやら、模倣能力の共有は行われていないらしい。
剣魔はあくまで、その場で応戦したハンターからコピーした攻撃のみを使うようだ。
●
剣魔が2本の指で、アイビスの投げつけた手裏剣を受け止めてみせた。
(残りの武器は、もうこれっきり)
アイビスは剣魔と睨み合いながら、衝撃拳・発勁掌波を腕に嵌める。
これ以上下がれば、天斗の仕掛けた車両爆弾はもう間近だ。
敵に限界が見えない内は、ここで何としても食い止める。
「お手伝いしますよ。もうじき、別班の方々もいらっしゃるようですし」
マッシュが盾を構えて、アイビスの背後から現れる。
「片づいたの……もう1体は!」
「そのようで。貴方も無理なさらず」
敵の機導剣をマッシュが盾で受けると、
「こいつは真似できねぇだろ!」
戦線復帰したアーサーが、剥き出しの肋骨に神楽鈴をねじ込み、相手の動きを抑える。
「まだ効くかな!?」
追いついたばかりのリリアが止めを引き受け、ダガーで剣魔の頭を叩き割った。
カナタを除く他の面々も加わり、皆で剣魔を包囲する。
「ありがとう、楽になったよ」
カナタが義明の治療を終えた。後ろでは天斗が、爆破準備の最終段階に取りかかる。
「爆弾が止めになれば良いのですが……」
「何、あちらの剣魔どんもそろそろ限界じゃろうて。
ぎりぎりまで追い込んで、後はドカンと1発かませば」
しかし、何度倒してもまたこうして出現するのでは、
どれだけハンターが対処に慣れたとて、根本的解決は見い出せそうもない。
(ちょっとした思いつきじゃが……)
回復した義明とふたり、仲間たちの応援へと向かいながら、カナタは用意していた魔導短伝話を小脇に抱える。
●
剣魔が、防御担当のマッシュの盾を蹴り上げた。
代わってガントンファーで応戦するも、これまでの戦闘で力を増した剣魔には通用しない。
マッシュの胸に機導剣が刺さる。
「済みません、1度回復を……」
倒れ咳き込むマッシュを、フラメディアが庇った。
槍で横殴りにすると、剣魔は何度目かの復活を果たしつつ、長槍へと変形した腕で彼女を突き倒す。
敵の間合いが広がったことで、周囲のハンターたちは容易に接近できなくなった。
(短剣じゃ届かない!)
リリアもダガーを諦め、背負っていたフレイルを取ろうとする。
が、その瞬間を狙い澄ましたかのように、剣魔が吹き飛ばしの能力を使った。
(しまった!)
剣魔の槍の切っ先が、フレイルを奪われ丸腰のリリアを切りつける。
入れ替わりにアーサーが前進し、狼牙棒で剣魔を打ち砕くも、瞬時に再生してしまう。
みほが投げた鎖鎌の分銅も左腕で易々弾かれ、反撃の右腕が肩口に深々と刺さった。
すかさず助けに入るアーサーだったが、その攻撃は全て、正確無比のタイミングで打ち返された。
「畜生、タネ切れだ! これ以上は手加減できねぇ!」
アーサーをかわした剣魔は、トラック目がけて突進を開始する。アルファスが剣を抜いて挑みかかるが、
(速い! 単純な模倣だけじゃない、総合的な能力の上昇まで――)
突き出された2本の槍を、煌めくマテリアルの障壁で防御するが、
光の壁に打ち当たった剣魔は、口腔から更に機導剣を放出。
間近から顔面に魔法を受けてアルファスが倒れると、フラメディアが次いで剣魔の進路へ出る。
が、敵は巨大なハンマーによる1撃をすい、と脇に避け、瞬速の回し蹴りで彼女を蹴倒した。
3人目――アイビス。
(私たちは、幾つもの経験や戦いで強くなっていくの)
2本の槍を腕で払い除けた。剣魔はそのまま身体ごとぶつかって、口部からの機導剣を試みる。
(それを嘲笑うように模倣していく貴方に、負ける訳には行かないのよッ!!)
アイビスの掌底が、髑髏の顎を粉々に打ち砕く。衝撃でひっくり返る剣魔だったが、黒いオーラ――
周囲からのマテリアル吸収――を放ちながら、なおも再生する。
一瞬の眩暈に襲われるアイビス。その身体に薄緑の淡い光をまとうと、
「これが私の覚醒者として得た、持てる力よ……受けなさいッ!!」
剣魔が腕部の変形を解く。直前に受けた衝撃拳を模倣し、掌底打ちを放つ。
アイビスが剣魔の胸にマテリアルを込めた正拳を打ち込めば、双方同時、互いの胸に互いの技が突き刺さる。
●
衝撃で後ろに吹き飛ばされるアイビス。
だが剣魔もまた、彼女の渾身の正拳に上半身を丸ごと砕かれていた。
再生しかけた剣魔の脚を、全身にマテリアルをみなぎらせたリリアがフレイルで払う。
動きのもつれたところへ、
「お返しじゃ」
剣魔の2度の攻撃を耐えたフラメディアが、ハンマーで吹き飛ばす。
倒れた相手を、更にアーサーが全力の1撃で殴り飛ばせば、
敵はばらばらになったまま、道の端まで転がっていった。
(どうにか間に合いました)
天斗が車列を離れる。前衛たちは、それぞれ隠し玉の全力攻撃を使い果たしていた。
「これで駄目ならお手上げだねぇ」
復活しつつ一目散にトラックへ駆け込む剣魔を、義明とカナタがかわした。
敵はこちらに見向きもしない。いよいよ限界と見える。
「爆破します!」
剣魔が車両の荷台へ上がると同時に、天斗がロケットナックルを発射。
撃ち出された手甲には縄で松明が括りつけられ、周囲に撒かれたオイルへ点火する――
剣魔は荷台に這いつくばり、燃料からのマテリアル吸収を始める。
その足下に燃え上がった炎は車両に積まれた砲弾に着火、トラック1台が剣魔ごと丸々吹っ飛んだ。
ハンターたちが眺めていると、辺り一面に降り注ぐ燃料ペレット、トラックの部品、砲弾の破片、
そして立ち昇る白煙は、やがて見えない力に引かれて竜巻を巻き始める。
渦の中から絶叫が響き渡れば、突然カナタが飛び出し、伝話機を放り投げた。
伝話機が竜巻に巻き込まれるのを確認して、彼女は別の伝話機に顔を寄せる。
「何をしたんだい?」
義明が尋ねると、
「訊いてみたいことがあっての。剣魔どんがマテリアルを求めるのは、食事じゃろう。
では、ソレを充分に得た上で成したい想いとは何じゃ?
何度も蘇り彷徨うというのは余程のことじゃ。良ければ教えてもらえぬかの?
悪いことでなければ、次に会った時は……」
語りかけるが、伝話機が返したのは凄まじいノイズばかり。
「無駄、じゃったかな」
諦めかけた、そのときだった。
ノイズの奥底からたったひと言、ざらざらとした声で、誰かが何かを言ったような気がした。
その言葉は、はっきりとは聞き取れなかったが――
「成長して、何かに『生まれ』たがっているのか、それとも核もない希薄な亡霊の複合霊とか造魔とか?」
剣魔の魔法で焼け焦げた兜を脱いで、アルファスが呟く。
彼と並んで、消えつつある竜巻を見つめながらリリアが言う。
「何にせよ、本当にもう2度と現れないでほしい、なの~……」
だが、恐らくはこれが最後ではなかろう、とも予感していた。
竜巻の完全に消えた後。残されたのはトラックの残骸と散らばる燃料のみで、
2体目の剣魔を構成していた人骨、そして伝話機は、跡形もなく消えてしまっていた。
「貴方の相手は他の方々です。それでは失礼」
真田 天斗(ka0014)はIED(即席爆発装置)の材料となる榴弾を担ぎながら、
迫り来る剣魔を軽々かわして、4人の仲間と共に奥の車列へと急いだ。一方、
「この場は引き受けたのじゃッ!」
剣魔に接近するカナタ・ハテナ(ka2130)を、アルファス(ka3312)が機導砲で援護した。
リリア・ノヴィドール(ka3056)も、フラメディア・イリジア(ka2604)を伴って、前衛のカナタに加わる。
カナタとリリアは対剣魔戦の経験者、敵の手の内はおよそ承知していたが、
(あらゆる攻撃を模倣、無効化する怪物。手数が追いつかなければ、いずれ押し負けるでござるな)
藤林みほ(ka2804)は、全速で後退する魔導トラックを見送りつつ道具を広げた。
即席の罠を使うことで、攻撃手段にバリエーションを持たせる作戦だ。
隣では、魔獣装甲で全身を覆ったアルファスが騎馬を降り、
「燃料が気になるようだね。遊びを邪魔された子供って感じだ」
剣魔はカナタら前衛と対峙しながらも、頭を巡らし、撤退中のトラックを追う素振りを見せた。
対するカナタは、雌豹を思わせるしなやかな動きで敵の行く手を阻みつつ、
「剣魔どんにも、お色気は通じるかのぅ?」
挑発的なポーズを見せるや否や、唐突に素手で打ちかかった。
パンチを受けた剣魔の骨格は脆くも崩れる――瞬時に修復、再び骸骨の身体で立ち上がる。
射撃の間合いではないと判断したか、剣魔はカナタの格闘を模倣し反撃した。
リリアがダガーで敵の拳を打ち払うと、後ろに控えていたフラメディアが、
「ふむ? まだ、単なるスケルトンと大差ないように思えるの」
「今はまだ、ね」
リリアが注意を逸らした隙で、槍に持ち替えたカナタが剣魔の胴を払った。
泣き別れになった上半身が落下を始める間もなく、即座に再生。
同時に腕骨を槍状に変形させ、振り向きざまの鋭い横振りでカナタに襲いかかる。
後退するカナタ。彼女と組んで敵を前後に挟み込みながら、リリアは思う。
(こんなのが2体なんて、反則なのよ!)
目前の敵を退けたとて、前方車列にはもう1体の剣魔が控えている。
1体につき5人のハンターで、果たして剣魔を打倒できるものか――
●
停止車両の荷台に立ち、ハンターたちを睥睨する2体目の剣魔。
「貴方とはこれで3度目の対戦ね。この因果関係も、ケリをつけさせてもらうわ!」
アイビス・グラス(ka2477)。
アーサー・ホーガン(ka0471)と壬生 義明(ka3397)との3人で、剣魔を足止めする。
後方ではマッシュ・アクラシス(ka0771)が、作業中の天斗を援護していた。
(後ろのトラックへは道すがら、空地まで撤退するよう言っておいたのですが。
こちらは運転手全員、逃げてしまいましたね)
「車両を動かします。そのほうが、敵の行動をコントロールし易い」
天斗がトラックの運転席に乗り込み、3台を1箇所へ移動させようとする。護衛のマッシュは、
「剣魔が寄って来たら、お知らせしますよ」
そう言って、盾の裏に隠しておいたガントンファーを掲げてみせた。
(ですが、爆弾はあくまで止め。それまでは我々で撃退するしか……)
接近するハンターに反応し、荷台から飛び降りた剣魔。
既に燃料のマテリアルを吸収し終えていたようだが、アイビスの肘打ちであっさりと崩れ落ちる。アーサーが、
「噂通りの強さでいてくれよ?」
言うが早いか、剣魔は形を取り戻して起き上がると、掴みかかろうとするアーサーの顎を鋭い肘打ちで狙う。
「へっ、早速かい」
「では、おっさんの出番かな」
義明が魔法の木槍・ミストルスティンで、剣魔の頭骨を首から突き落とした。
アーサーが時間を稼ごうと、ハンターマントを手に、再生を始めた敵の上へのしかかるが、
相手はずるり、とマントの下から這い出てしまった。
直後、不可視の力で引き寄せられそうになり、アーサーはマントを手放す。
剣魔は頭骨を元通りに首へ乗せ、奪い取ったマントをかき寄せた。
(動きが嫌に人間じみてるぜ。これも『学んだ』ことかね?)
再び格闘戦を挑むアーサー。
放り投げられたマントで視界を塞がれたかと思うと、骨の槍が頬をかすめた。
義明が横から切り込むが、剣魔は変形させた腕骨で彼の槍を打ち落とす。
「大したモンだねぇ、ホント」
●
「じゃが、真似ばかりすると却って都合の悪いこともあるんじゃよ?」
1体目の剣魔の『槍』を、カナタが自前の長槍・シュテルンシュピースで受け止めた。
双方の武器に込められた光の魔法が、攻撃の威力を相殺する。
アルファスが前衛に追いついた。
力強く踏み込んだかと思えば、震脚からの強力な掌底で、剣魔の肩甲骨を叩き割る。
(魔獣装甲の改造、良い感じだ。大分動き易くなってる)
崩れ落ちるなり、糸で釣られたかのようにひとりでに動き出す骨の山。
フラメディアが、咄嗟に骨盤へ手を伸ばして懐に忍んだ。
「さぁ、大事な部品を盗られて、おまえは一体どうするかいの?」
骨盤の欠けた骨格が、紫の発光と共に、周囲のハンターたちへ向けて強力な吸引を開始。
引きずり込まれる寸前、ハンターたちは手持ちの石や投擲武器をなげうった。
でたらめに集められた部品は、剣魔の下腹部で軋みを上げながら凝縮され、新たな骨盤へと変形する。
「はっはっは、つくづく面白い奴じゃ」
仲間たちと剣魔を取り囲みながら、カナタは不思議に思う。
(如何なる材質も、自在に武器や身体へ変化させられるのなら)
剣魔はカナタの槍を現状、最も有効な攻撃手段と判断したらしく、腕部の変形を維持しつつ反撃を試みる。
その攻撃の全ては、カナタが引き受け、受け止めた。
(何故、そうまでしてヒトの形にこだわるんじゃろう?)
カナタが敵に隙を作り、リリアとアルファスが繰り返しその隙を突いて仕留める。
同じ攻撃手段は2度通用しない。何度も武器を持ち替え、技を変えていく。
●
(ビデオゲームか、ソリティアでもやってるような気分だぜ)
戦いの中で、剣魔の動作は次第に最適化されていく。
新たな武器の具合を確かめるぎこちなさが消え、攻撃は鋭さを増した。
防御も的確だ。アーサーのオーバーハンドパンチは、槍状の腕で軽々と弾かれた。
「もう素手は通用しねぇ!」
アーサーが叫ぶと、義明はガントレットを嵌めた手で牽制のパンチを放つ。
本命は、相手が引いて反撃に移る一瞬。突き出した拳から、機導剣の光条が敵を貫いた。
再生からほとんど間を置かず、剣魔が義明へ突進。
咄嗟に展開された防御障壁を貫通し、黒い炎の剣――模倣された機導剣が義明の太腿を焼いた。
「義明さん!」
アイビスが後ろ回し蹴りで敵を転がした。アーサーが、倒れ込んでしまった義明を抱き起すと、
「私が足止めする……逃げて!」
ハンターがひとりでも戦闘不能に陥った時点で、攻撃手段は激減する。
義明を抱えたアーサーを下がらせると、アイビスはワイヤーウィップを振るい、剣魔の突進を食い止めた。
機導剣はバックステップでかわし、間合いを離す。
合わせるように飛んできた衝撃波は、腰に提げた手裏剣を落として身代わりとした。
(貴方の『技』は、こっちだって憶えてる!)
天斗は車両の移動を終えると、爆弾の設置を急いだ。
(この世界での車両爆破は初めてです)
勝手が違えば時間もかかる。その上、勝負は1度。
1回の爆発で確実を止めを刺すのでなければ、剣魔を余計に強化するだけに終わってしまう。
「おや、負傷ですか?」
「面目ないねぇ……」
マッシュの傍へ、義明がアーサーの手で担ぎ込まれる。
魔法による治癒があればまだ戦える程度の傷だが、
たったひとりの聖導士であるカナタは、今も1体目の剣魔に応戦中だ。
●
みほが罠を完成させた。仲間たちは一斉に後退し、剣魔を誘き寄せる。
即席の落とし穴へ剣魔を見事誘い込むが――
(このままでは避けられる!)
敵の身のこなしが予想以上に素早い。みほはすかさず口笛を吹いた。
茂みに伏せさせておいた柴犬が飛び出して、剣魔に吠えかかる。
強力な歪虚の気配に犬は怯え、直接攻撃することはできなかったが、
犬が作った隙でみほが敵の背後に回り、体当りで穴へと突き落とした。
穴の底に仕込まれていた杭が、剣魔の骨の隙間に刺さって身動きを取れなくする。
みほが稼いだ一瞬を使って、カナタは防御し切れなかった傷を法術で回復する。
他の4人は落とし穴を取り囲み、中から剣魔が飛び出すなり、
「そろそろ片づけたいとこなの!」
リリアがフレイルで打つが、ばらばらになった骨格は、宙を舞う半ばで再生する。
元通りに組み立てられた骸骨から突如、どす黒い妖気が立ち昇ったかと思うと、
リリアは何かを『吸われる』感覚を覚えた。全身から不意に力が抜け、膝をつきそうになる。
仲間たちも、一瞬ながら体勢を崩す。それを見たリリアは、
「……相手はきっと、そろそろ限界なの!」
見覚えのある行動だった。剣魔の蓄えていたエネルギーが、戦闘によって枯渇しかけている。
ここが正念場と見て、ハンターたちは一気に攻撃の手を進めた。
舞いのような動きから放たれるアルファスの機導剣。剣魔は袈裟切りにされるが、再生。
みほが鎖鎌を取り、分銅で手足を絡め取る。引きずり倒して、頭を踏みつけたが、これも再生された。
衝撃波を伴って、後方のトラックを追おうと飛び出す剣魔。
フラメディアが戦槍を大上段に構え、真っ向から振り下ろす。
砕け散った剣魔の破片が、彼女の着込んだ金属鎧に当たって甲高い音を立てた。
「次の手を!」
フラメディアの求めで、みほが駆け出す。
逆手に刀を持ち、復活した剣魔が動き出すより速く切りつける。
斜めに切り落とされた剣魔の上半身は、そのままがらがらと崩れ落ちた。
下半身もばらばらに分解し、再び繋がろうとする気配もない――
「確かに、殺ったでござるな」
みほが剣魔の残骸を足蹴にする。ただの、乾いた骨の山だ。
カナタはトランシーバーで、もう1体と戦っている筈の義明に連絡していた。
タイミングを合わせて2体同時の撃破を目論んだのだが、
「まだ、あちらは動いているようじゃ」
しかしどうやら、模倣能力の共有は行われていないらしい。
剣魔はあくまで、その場で応戦したハンターからコピーした攻撃のみを使うようだ。
●
剣魔が2本の指で、アイビスの投げつけた手裏剣を受け止めてみせた。
(残りの武器は、もうこれっきり)
アイビスは剣魔と睨み合いながら、衝撃拳・発勁掌波を腕に嵌める。
これ以上下がれば、天斗の仕掛けた車両爆弾はもう間近だ。
敵に限界が見えない内は、ここで何としても食い止める。
「お手伝いしますよ。もうじき、別班の方々もいらっしゃるようですし」
マッシュが盾を構えて、アイビスの背後から現れる。
「片づいたの……もう1体は!」
「そのようで。貴方も無理なさらず」
敵の機導剣をマッシュが盾で受けると、
「こいつは真似できねぇだろ!」
戦線復帰したアーサーが、剥き出しの肋骨に神楽鈴をねじ込み、相手の動きを抑える。
「まだ効くかな!?」
追いついたばかりのリリアが止めを引き受け、ダガーで剣魔の頭を叩き割った。
カナタを除く他の面々も加わり、皆で剣魔を包囲する。
「ありがとう、楽になったよ」
カナタが義明の治療を終えた。後ろでは天斗が、爆破準備の最終段階に取りかかる。
「爆弾が止めになれば良いのですが……」
「何、あちらの剣魔どんもそろそろ限界じゃろうて。
ぎりぎりまで追い込んで、後はドカンと1発かませば」
しかし、何度倒してもまたこうして出現するのでは、
どれだけハンターが対処に慣れたとて、根本的解決は見い出せそうもない。
(ちょっとした思いつきじゃが……)
回復した義明とふたり、仲間たちの応援へと向かいながら、カナタは用意していた魔導短伝話を小脇に抱える。
●
剣魔が、防御担当のマッシュの盾を蹴り上げた。
代わってガントンファーで応戦するも、これまでの戦闘で力を増した剣魔には通用しない。
マッシュの胸に機導剣が刺さる。
「済みません、1度回復を……」
倒れ咳き込むマッシュを、フラメディアが庇った。
槍で横殴りにすると、剣魔は何度目かの復活を果たしつつ、長槍へと変形した腕で彼女を突き倒す。
敵の間合いが広がったことで、周囲のハンターたちは容易に接近できなくなった。
(短剣じゃ届かない!)
リリアもダガーを諦め、背負っていたフレイルを取ろうとする。
が、その瞬間を狙い澄ましたかのように、剣魔が吹き飛ばしの能力を使った。
(しまった!)
剣魔の槍の切っ先が、フレイルを奪われ丸腰のリリアを切りつける。
入れ替わりにアーサーが前進し、狼牙棒で剣魔を打ち砕くも、瞬時に再生してしまう。
みほが投げた鎖鎌の分銅も左腕で易々弾かれ、反撃の右腕が肩口に深々と刺さった。
すかさず助けに入るアーサーだったが、その攻撃は全て、正確無比のタイミングで打ち返された。
「畜生、タネ切れだ! これ以上は手加減できねぇ!」
アーサーをかわした剣魔は、トラック目がけて突進を開始する。アルファスが剣を抜いて挑みかかるが、
(速い! 単純な模倣だけじゃない、総合的な能力の上昇まで――)
突き出された2本の槍を、煌めくマテリアルの障壁で防御するが、
光の壁に打ち当たった剣魔は、口腔から更に機導剣を放出。
間近から顔面に魔法を受けてアルファスが倒れると、フラメディアが次いで剣魔の進路へ出る。
が、敵は巨大なハンマーによる1撃をすい、と脇に避け、瞬速の回し蹴りで彼女を蹴倒した。
3人目――アイビス。
(私たちは、幾つもの経験や戦いで強くなっていくの)
2本の槍を腕で払い除けた。剣魔はそのまま身体ごとぶつかって、口部からの機導剣を試みる。
(それを嘲笑うように模倣していく貴方に、負ける訳には行かないのよッ!!)
アイビスの掌底が、髑髏の顎を粉々に打ち砕く。衝撃でひっくり返る剣魔だったが、黒いオーラ――
周囲からのマテリアル吸収――を放ちながら、なおも再生する。
一瞬の眩暈に襲われるアイビス。その身体に薄緑の淡い光をまとうと、
「これが私の覚醒者として得た、持てる力よ……受けなさいッ!!」
剣魔が腕部の変形を解く。直前に受けた衝撃拳を模倣し、掌底打ちを放つ。
アイビスが剣魔の胸にマテリアルを込めた正拳を打ち込めば、双方同時、互いの胸に互いの技が突き刺さる。
●
衝撃で後ろに吹き飛ばされるアイビス。
だが剣魔もまた、彼女の渾身の正拳に上半身を丸ごと砕かれていた。
再生しかけた剣魔の脚を、全身にマテリアルをみなぎらせたリリアがフレイルで払う。
動きのもつれたところへ、
「お返しじゃ」
剣魔の2度の攻撃を耐えたフラメディアが、ハンマーで吹き飛ばす。
倒れた相手を、更にアーサーが全力の1撃で殴り飛ばせば、
敵はばらばらになったまま、道の端まで転がっていった。
(どうにか間に合いました)
天斗が車列を離れる。前衛たちは、それぞれ隠し玉の全力攻撃を使い果たしていた。
「これで駄目ならお手上げだねぇ」
復活しつつ一目散にトラックへ駆け込む剣魔を、義明とカナタがかわした。
敵はこちらに見向きもしない。いよいよ限界と見える。
「爆破します!」
剣魔が車両の荷台へ上がると同時に、天斗がロケットナックルを発射。
撃ち出された手甲には縄で松明が括りつけられ、周囲に撒かれたオイルへ点火する――
剣魔は荷台に這いつくばり、燃料からのマテリアル吸収を始める。
その足下に燃え上がった炎は車両に積まれた砲弾に着火、トラック1台が剣魔ごと丸々吹っ飛んだ。
ハンターたちが眺めていると、辺り一面に降り注ぐ燃料ペレット、トラックの部品、砲弾の破片、
そして立ち昇る白煙は、やがて見えない力に引かれて竜巻を巻き始める。
渦の中から絶叫が響き渡れば、突然カナタが飛び出し、伝話機を放り投げた。
伝話機が竜巻に巻き込まれるのを確認して、彼女は別の伝話機に顔を寄せる。
「何をしたんだい?」
義明が尋ねると、
「訊いてみたいことがあっての。剣魔どんがマテリアルを求めるのは、食事じゃろう。
では、ソレを充分に得た上で成したい想いとは何じゃ?
何度も蘇り彷徨うというのは余程のことじゃ。良ければ教えてもらえぬかの?
悪いことでなければ、次に会った時は……」
語りかけるが、伝話機が返したのは凄まじいノイズばかり。
「無駄、じゃったかな」
諦めかけた、そのときだった。
ノイズの奥底からたったひと言、ざらざらとした声で、誰かが何かを言ったような気がした。
その言葉は、はっきりとは聞き取れなかったが――
「成長して、何かに『生まれ』たがっているのか、それとも核もない希薄な亡霊の複合霊とか造魔とか?」
剣魔の魔法で焼け焦げた兜を脱いで、アルファスが呟く。
彼と並んで、消えつつある竜巻を見つめながらリリアが言う。
「何にせよ、本当にもう2度と現れないでほしい、なの~……」
だが、恐らくはこれが最後ではなかろう、とも予感していた。
竜巻の完全に消えた後。残されたのはトラックの残骸と散らばる燃料のみで、
2体目の剣魔を構成していた人骨、そして伝話機は、跡形もなく消えてしまっていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/15 23:59:06 |
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![]() |
仕事の時間です 真田 天斗(ka0014) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/04/20 21:52:36 |