ゲスト
(ka0000)
【不動】河を渡って木立を抜けて
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/21 15:00
- 完成日
- 2015/04/27 07:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「おい! そりゃ無茶だろ!」
ヴァリオスの一角、バロテッリ商会の前で男の声が響いた。声の主はこの商会の主人であるバロテッリその人である。
その前で、いつもの様に表情を変えず淡々と聞いているのはモア・プリマクラッセ(kz0066)、この商会の番頭である。
ヴァリオスという大きな街全体に響きそうな声を受けても、何も表情を変えないモアにバロテッリの声はますます大きくなる。
「いくら何でも戦場を突っ切って行くのは無茶だろ。この時期に辺境なんて行く必要ねぇだろ!」
●
現在辺境では聖地を奪還するための、怠惰の歪虚との激しい戦いが繰り広げられている。その影響は辺境から遠く離れたここ、ヴァリオスにも出てき始めていた。
辺境は基本的に痩せた土地が多く、農作物はあまり採れない。だが、それが辺境に品物が無い事を示すわけではない。辺境の人達は農作物に期待できない分、狩猟を行い飯の種としてきた。そこで捕れる肉に関しては辺境の人々の胃袋に収まるわけだが、動物は肉を無くしても革を残す。同盟、特にヴァリオスではこの革を仕入れ、加工を施して高級な鞄やコートとして販売していた。
だが、今辺境と取引をしようと思えば戦場を突っ切って行く必要があるため、どんどん辺境産の品物は手に入らなくなっていった。すると当然価格が上がる。そこで辺境から革を持って帰れれば大儲け。こういう算段が立つが、それもこれも命あってこそである。さすがにそんな無茶をする商人は駆け出しの命知らずぐらいであった。
ただ一人、確実に行けるという算段があるモアを除いては、だが。
●
「旦那様、大丈夫です。ハンターの皆さんが居ますから」
モアはハンターオフィスに自ら依頼を出し護衛役を集めていた。彼らともうすぐ落ち合う約束になっている。さすがに正面から戦うとなると不可能だが、突っ切るだけなら出来る。それがモアの考えであった。
「いくらハンターでも無茶だろ!」
「いいえ、出来ます。私はハンターの皆さんの力を知っていますから」
モアを心配しますます声が大きくなるバロテッリが見たのは、いつもと変わらない無表情ながら、強い決意に満ちた目をした彼女の姿。それを見てもはや彼女の決意が揺らがないことを悟る。
「……お前は意外と頑固なんだよな。わかったよ。信じてるぜ、ハンター諸君」
「おい! そりゃ無茶だろ!」
ヴァリオスの一角、バロテッリ商会の前で男の声が響いた。声の主はこの商会の主人であるバロテッリその人である。
その前で、いつもの様に表情を変えず淡々と聞いているのはモア・プリマクラッセ(kz0066)、この商会の番頭である。
ヴァリオスという大きな街全体に響きそうな声を受けても、何も表情を変えないモアにバロテッリの声はますます大きくなる。
「いくら何でも戦場を突っ切って行くのは無茶だろ。この時期に辺境なんて行く必要ねぇだろ!」
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現在辺境では聖地を奪還するための、怠惰の歪虚との激しい戦いが繰り広げられている。その影響は辺境から遠く離れたここ、ヴァリオスにも出てき始めていた。
辺境は基本的に痩せた土地が多く、農作物はあまり採れない。だが、それが辺境に品物が無い事を示すわけではない。辺境の人達は農作物に期待できない分、狩猟を行い飯の種としてきた。そこで捕れる肉に関しては辺境の人々の胃袋に収まるわけだが、動物は肉を無くしても革を残す。同盟、特にヴァリオスではこの革を仕入れ、加工を施して高級な鞄やコートとして販売していた。
だが、今辺境と取引をしようと思えば戦場を突っ切って行く必要があるため、どんどん辺境産の品物は手に入らなくなっていった。すると当然価格が上がる。そこで辺境から革を持って帰れれば大儲け。こういう算段が立つが、それもこれも命あってこそである。さすがにそんな無茶をする商人は駆け出しの命知らずぐらいであった。
ただ一人、確実に行けるという算段があるモアを除いては、だが。
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「旦那様、大丈夫です。ハンターの皆さんが居ますから」
モアはハンターオフィスに自ら依頼を出し護衛役を集めていた。彼らともうすぐ落ち合う約束になっている。さすがに正面から戦うとなると不可能だが、突っ切るだけなら出来る。それがモアの考えであった。
「いくらハンターでも無茶だろ!」
「いいえ、出来ます。私はハンターの皆さんの力を知っていますから」
モアを心配しますます声が大きくなるバロテッリが見たのは、いつもと変わらない無表情ながら、強い決意に満ちた目をした彼女の姿。それを見てもはや彼女の決意が揺らがないことを悟る。
「……お前は意外と頑固なんだよな。わかったよ。信じてるぜ、ハンター諸君」
リプレイ本文
●
「改めて聞くとすごい依頼だよねぇ……商売は命がけってことかな? 命賭けるのあたしたちだけど」
テトラ・ティーニストラ(ka3565)は準備をしながら、そう文句を言っていた。しかし彼女が不満を漏らすのも仕方ない。
「わざわざ戦場を突っ切るなんざ、思い切ったことをする嬢ちゃんだねぇ。おっさんみたいな年取りにゃあちょいときついぜ」
鵤(ka3319)の言うとおり、それは正気の沙汰とは思えない行動だ。
「良いんじゃね? 商売のために戦場横断、自由都市の商人ぽくてよ」
だが、そんな二人にジャック・エルギン(ka1522)は逆の意見を述べる。ジャックは自由都市同盟の出身。だから考えることがよく分かるし、納得できる。
「鉄は熱いうちに打て、ってことさ」
「……ま、ちゃんと依頼料分は働きますけどぉ?」
鵤は肩をすくめながら返した。
「一見無謀とも思えるが、ある意味では理に適ってはいるか。商いってヤツは他がやらねぇ事をやってこそ……ってな面もあるからな」
一方、ナハティガル・ハーレイ(ka0023)は愛馬を撫でながら、そう独りごちた。その言葉にテリア・テルノード(ka4423)も反応する。
「ええ、歪虚との戦いの最前線に商品の仕入れに向かうだなんて、一瞬目を疑ったけれど、物流は止まらないに越した事は無いからね。護衛が必要とあらば、受けて立つのがハンターってものかな」
それを聞いて、頷きながら三鷹 璃袈(ka4427)も思いを語る。
「無茶を承知で押し通すのが、あたし達のお仕事ですもんね~。巨人の群だって突き抜けちゃいましょう!」
そしてハーレイはモアにこう尋ねた。
「命と儲けを秤に掛けて尚、やる価値があると判断したんだろ?」
だが、モアは首を振って否定した。
「いいえ、命を天秤にはかけていません。皆さん方なら必ず送り届けてくれるでしょう?」
その決意のこもった声に仙道・宙(ka2134)は、
「商魂逞しくて良い事だね。それが僕らハンターへの信頼からくるものとあれば尚更だ」
と少し呆れつつも同意を示す。そしてハーレイは、
「……なら、絶対に成功させないとな?」
そう強く決意する。
「仕方ないなぁ……受けちゃったからには宅配屋として完遂させなくちゃ」
そしてテトラも決意を固め、自分を奮い立たせるため鬨の声を上げた。
「がんばれ美少女テトラちゃん! おーっ!」
●
手早く方針を確認したハンター達は馬に乗り、あるいは馬車に乗り込み配置につく。やがて車輪が転がり、一行は目的地へ向けて進み始めた。
Uisca Amhran(ka0754)とハーレイが馬車の前を先導するように馬に乗って進む。イスカの馬には何やら荷物らしきものがついている。
「念のための保険……ですよ」
出発直前、イスカは何やら作業をしていた。手にした浮き輪に布を巻き、馬に括りつける。これが荷物のように見えたものの正体だ。これを使う時が来なければいいと思いつつ、緊張感を持って馬を進める二人。特にイスカはエルフならではの鋭敏な感覚で持って蟻一つ見逃さないとばかりに進んでいた。
「この辺りは主戦場から距離はありそうだが……どうなるかね」
そんなイスカへ、馬車の後ろに位置取ったジャックが声をかける。一歩ずつ進むたびに血の匂いが濃くなっていく気がした。間違いなく自分たちは戦場の方へ向かっている。手綱を持つ手が汗にぬれる。だが、そんな緊張感をジャックは心のどこかで楽しんでいた。
一方、三人の間にある馬車、その左右にはテトラとテリアが歩みを合わせて進んでいた。そしてモアと仙道、鵤、それに璃袈の四人が馬車の中に入る。ジャックの言う通りここはまだ戦場から離れている。だが、それとトラブルがやってくるかは別の話だ。
「何がおこるかわからない以上、注意は怠らない様にしないとね」
仙道はそう自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
●
「あの一つ目はサイクロプスか……。マトモにやり合える相手じゃ無えな」
「っと、お出ましか。巨人ってのは、発見は楽なんだがなっ」
前にいるハーレイにはもちろん、後ろにいるジャックにもわかる。視界の先に見えたのはサイクロプス、怠惰の軍勢の一員だ。だが、幸いまだ敵に気づかれていない。迂回すれば交戦は避けられる。ならば……
「おっきいですねぇ~……けど、今日はお相手している余裕は無いのです。また今度、遊びましょうねっ」
璃袈のその言葉を残して、先を進む。
だが、やがて選択肢は無くなっていった。距離的にここを抜ければ、目的地までそう遠くはない。だが、左に行っても右に行っても崖の下。前に進めばサイクロプス達。だがここで後ろに戻る、という選択肢は無い。ならば。
「ここを突破するしかないのなら、突っ切るまでですっ」
イスカはその声とともに馬に拍車をかけると一気に走りだした。
「まずはこれね」
モアも併せて馬車を加速させようとしたその時、テリアが聖句を唱え始める。左手で手綱を握ったまま、右手で左手に受けられた腕輪を触れる。すると淡い光が彼女の右手を包んだ。そして聖句を完成させると同時に右腕を振るう。
すると振るった手から放たれた光が馬車を包む。包まれた光はそのまま保たれ、馬車に襲い来る危害から守る。
その時、サイクロプスが投げつけてきた石……いや、この大きさでは岩と呼ぶべきか。それが馬車に向かって飛来した。岩は山なりの機動を描き馬車に向かって飛んでくるが、わずかに逸れ馬車とジャックの間に落ちた。
「ひゅう、危ねーな! ハハッ、さすがにアレは受けらんねーわ」
後ろに控えるジャックは進路を少し反らせ岩をかわす。
だが、攻撃はどんどん激しくなっていった。次々と降り注ぐ岩。多くは離れた位置に落ちるが、その内何個かが馬車に襲いかかる。
そこで仙道は意識をぐっと集中する。そして岩がもうぶつかる、そう思えた時窓から身を乗り出し、杖を持った右腕を突き出す。するとマテリアルによって形成された火が岩に向かって飛んでいき、ぶつかった瞬間その軌道をもう一度跳ね上げた。
高く飛び上がった岩は馬車の上を越え、既に通り過ぎた場所に落ちる。ほっと胸を撫で下ろす仙道。だがその時彼が見たものは、もう一度こちらに飛んでくる岩であった。
ぶつかる。そう思った時黒い塊が背中越しに飛来した。それはそのまま岩にぶつかり、それを砕く。バラバラと小さな石つぶてが馬車に辺り音を立てるが、傷ついた様子はない。
この黒い塊を放ったのはイスカだった。上手く行った事を確認すると、彼女はさらに馬を加速させ前へと出て行く。
「敵の攻撃なんて無視無視! 一目散に駆け抜けちゃえーっ!」
そしてイスカに張り合うかのように、テトラも馬を走らせる。もちろん右側にも岩は向かってくる。だが彼女はスピードに任せてかわす、というか岩を置き去りにすると、サイクロプスの目めがけ手裏剣を投げつけた。
手裏剣は空を切り巨人に向かう。だが、さすがにこれだけの距離は届かない。しかし、巨人も自分に向けられた悪意に黙っているわけではなかった。
その時、璃袈は飛んで来る岩の量がぐっと減ったことを感じた。その理由は程なくしてわかる。馬車から見て右側にいるサイクロプス達は、岩を馬車ではなくテトラの方へと集中させていたのだ。ならば左側からくるものと流れ弾に注意する。そのため、まず璃袈は盾を取り出した鵤へマテリアルを流し込んだ。すると鵤の体が淡く光る。
「馬車の揺れとか彼我の動きとか、不安要素は多いですけれど……だ、大丈夫です、計算は機導士の十八番ですって!」
そして彼女は構えた魔導銃のトリガーを引いた。銃口から発射された弾丸は岩の雨を貫くように飛び、一つの岩の中心にピンポイントでヒット。ややあって岩は爆発するように砕け散った。
そして飛んできたもう一発の岩に対しては、馬車の後方から身を乗り出した鵤が対処する。まず籠手に埋め込まれたデバイスのキーを叩くと、うっすらと光るガラス板の様なものが展開される。そこに唸りを上げて飛んでくる岩。そのままガラス板にぶつかると、板は一瞬で砕け散った。だが、岩もその勢いを落とす。後は鵤が盾を構え岩を受け止める。
「あらよっとぉ! ……ったく、派手な攻撃してくれるねぇ。おっさん腰やられちまうぜ」
そう愚痴をこぼしながら鵤の体には傷ひとつついていない。三つの力が岩を完全に受け止めてみせた。
「モアさんのしようとしている事は、人に物を届けるだけでなく、人と人を繋ぐ大事な仕事……」
そしてイスカはさらに加速していた。そこに向けても岩は飛んでくるが、彼女の盾がその軌道を反らし馬車に近づけさせない。降り注ぐ雨に対して傘を差すように、岩の雨を突き破っていく。
「だから、必ず守ってみせます!」
そこに出来た隙間を馬車が駆け抜ける。岩は決して彼らを傷つけることはなかった。
「やはー! あたし今、風になってるの! 誰もあたしに追いつけないのさ!」
一方右側に張り出したテトラの元にも、また岩が殺到していた。だが、岩すらも追いつかない。あとはこの一帯を抜けるだけ。そう思った時だった。サイクロプスの投じた会心の一投がテトラの右足を捉えた。テトラはなんとか馬を守りぬくが、強烈な衝撃にバランスを崩す。そして、そこにもう一つの岩が飛んできた。
ばっと血飛沫が飛ぶ。その岩はもろにテトラの頭部に衝突した。視界に流れ込む血。朦朧とする意識。だが、彼女が守った馬はスピードを落とすこと無く走り続け、何とかイスカに追いついた。
●
状況に気づいたイスカはすぐさま精霊に祈りを捧げる。すると柔らかな光がテトラの体を包み、傷を塞いでいく。流れ落ちる血が止まり、体勢を立て直したテトラ。だが、その目に映ったものはもうひとつの災厄だった。
「……ったく、一難去ってまた一難。新手がおいでなすったぜ……!」
そう漏らすハーレイの先に居たのはオーガが4体。3体が横に並び馬車の行く先を塞いでいる。これをかわして進もうにも、そうすればまたも岩の雨の中に逆戻り。ならば、やることは一つしか無い。
覚悟を決めたハンター達が動く。まずイスカは馬を止め、ダミーの荷物を取り外して投げつける。オーガ達は単純に、人間共を皆殺しにして荷物を全部奪う、そう思っていたようだがそれでも一瞬気を取られる。
それだけあれば十分だ。テリアは経典のページを素早くめくり、そこに記された聖句を読み上げる。
「マギア経典第2章34節、『汝己の道を塞ぐ者に出会ったなら、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす』」
そして彼女が右手を振るうと、ハーレイが手にした槍が光を帯びる。それを受けて彼は馬を走らせ、
「――悪ィな? 追い剥ぎにくれてやるモンなんざぁ、何も無いんだよ」
そのまま渾身の力で目の前のオーガに槍を突き刺した。ブスリと土手っ腹を貫く槍。だが敵も怠惰の歪虚、それだけで倒れず、殺到してきた残りの二体と共にハーレイに襲いかかる。ハーレイは一撃目を交わし、二撃目と三撃目を腕と脚で受け止める。その馬鹿力を活かした一撃は彼の体を深く傷つけるが、しかしまだ倒れない。
一方馬車の後方では、鵤がまだ襲い来る岩達をときには盾で受け止め、時には銃弾で反らした。もうすぐ進めば岩の射程から外れる。そこまであと少し。前でオーガを攻め立てる者達を信じて、ひたすら耐え抜いた。
一方前方で攻撃を受けたハーレイは一旦退く。それに呼吸を合わせる様にテリアが再び聖句を唱えると、ハーレイの受けた傷が癒やされていく。
そして再び飛び出し繰り出されたハーレイの槍は今度こそオーガの急所を捉えた。中央に構えていたオーガの体が倒れていく。
仲間がやられたことに怒りを露わにして、馬車から見て左側に居たオーガが突っ込んでくる。その大きな体で持って、テリアを弾き飛ばしながら馬車に体当たりを食らわせようという算段だ。
「ハッハー! しつこい客引きはご遠慮くださいってか」
だが、そこに後ろからジャックが飛び出してきた。マテリアルを武器に込め、そのまま一気に振り下ろす。
剣の直撃を受けたオーガに仙道が追い打ちのファイアアロー。それは頭に直撃し、のたうち回らせる。
そしてそんな敵の横を黒い塊が飛んで行く。イスカが放ったそれは一直線に走り、後ろで待ち構えていたオーガに衝突。さすがによろめくオーガ。
その時、馬車の右側では璃袈がしっかりと狙いを定めていた。一気に倒すのなら眉間の間を通すような一発。それを確実に叩きこむ。だが、これは1ミリでもずれれば失敗する。
ならば……璃袈は照準をすっと下げ、オーガの膝に向けた。狙いがあったら迷いなくトリガーを引く。響く銃声。そして放たれた銃弾は正確無比に狙いを捉えた。膝から血を吹き出し、崩れる様に転がるオーガ。
「今だ! 行くぜ!」
その瞬間を見逃さず、ジャックは馬を加速させた。倒れたオーガの間を抜け、奥に待つ敵の元へ走るジャック。奥に居た奴も視界を取り戻し、向かってくるジャックを待ち構える。
そして両者がぶつかる、そう思われた時だった。曲芸の様に馬から身を乗り出しつつ一気に進行方向を90度曲げるジャック。そのまま遠心力を使って剣を地面すれすれで振るう。その刃は思い切りオーガの足を払い綺麗に転倒させた。
「あーばよ、巨人ども! 次の機会にゃトコトンやろーぜ!」
起き上がろうともぞもぞと動くオーガが見たのは走り去るジャックの背中だった。そのさらに先には馬車の姿。ジャックの仕掛けにまんまと引っかかり、無残にも置き去りにされるオーガ達が残されていた。
●
オーガ達を抜ければあとはあっさりとしたものだった。何事も無く目的地に付き、素早く取引を終え帰り道につく一行。行きとは違い、多少の遠回りはしたものの何事も無く戦場を抜ける。あとは街道にそって馬を進めれば終わる。
「……よ! お疲れさん。気分はどうだ?」
葉巻を燻らせながらハーレイはそうモアに尋ねる。
「安心でしたよ。信じていましたから」
それに対するモアの答えはあっさりとしたものだ。
「も、モアさんが信じるのは勝手だけど、やっぱり命がけはあんまりやりたくないかも!」
その言葉を聞いて、思わず本音を漏らすテトラ。
「辺境の品が高く売れるんでしたっけ……」
「お馬さん達もよくがんばってくれたね、ありがとう 」
一方璃袈がおみやげを確認したりイスカが馬を撫でている最中、
「そういやモア、今回えらく報酬を弾んでもらってるけどよ。この取引でどれぐらい儲けが出るのか、こっそり教えてくんね?」
ジャックはそう、モアに尋ねた。
「それは秘密ですね。ただ、皆さん方に報酬を払っても黒字になるということですよ」
そう返すモアの言葉に大体の額面を把握し、
「まあそうだよな」
そうニヤリと笑うジャックであった。
「改めて聞くとすごい依頼だよねぇ……商売は命がけってことかな? 命賭けるのあたしたちだけど」
テトラ・ティーニストラ(ka3565)は準備をしながら、そう文句を言っていた。しかし彼女が不満を漏らすのも仕方ない。
「わざわざ戦場を突っ切るなんざ、思い切ったことをする嬢ちゃんだねぇ。おっさんみたいな年取りにゃあちょいときついぜ」
鵤(ka3319)の言うとおり、それは正気の沙汰とは思えない行動だ。
「良いんじゃね? 商売のために戦場横断、自由都市の商人ぽくてよ」
だが、そんな二人にジャック・エルギン(ka1522)は逆の意見を述べる。ジャックは自由都市同盟の出身。だから考えることがよく分かるし、納得できる。
「鉄は熱いうちに打て、ってことさ」
「……ま、ちゃんと依頼料分は働きますけどぉ?」
鵤は肩をすくめながら返した。
「一見無謀とも思えるが、ある意味では理に適ってはいるか。商いってヤツは他がやらねぇ事をやってこそ……ってな面もあるからな」
一方、ナハティガル・ハーレイ(ka0023)は愛馬を撫でながら、そう独りごちた。その言葉にテリア・テルノード(ka4423)も反応する。
「ええ、歪虚との戦いの最前線に商品の仕入れに向かうだなんて、一瞬目を疑ったけれど、物流は止まらないに越した事は無いからね。護衛が必要とあらば、受けて立つのがハンターってものかな」
それを聞いて、頷きながら三鷹 璃袈(ka4427)も思いを語る。
「無茶を承知で押し通すのが、あたし達のお仕事ですもんね~。巨人の群だって突き抜けちゃいましょう!」
そしてハーレイはモアにこう尋ねた。
「命と儲けを秤に掛けて尚、やる価値があると判断したんだろ?」
だが、モアは首を振って否定した。
「いいえ、命を天秤にはかけていません。皆さん方なら必ず送り届けてくれるでしょう?」
その決意のこもった声に仙道・宙(ka2134)は、
「商魂逞しくて良い事だね。それが僕らハンターへの信頼からくるものとあれば尚更だ」
と少し呆れつつも同意を示す。そしてハーレイは、
「……なら、絶対に成功させないとな?」
そう強く決意する。
「仕方ないなぁ……受けちゃったからには宅配屋として完遂させなくちゃ」
そしてテトラも決意を固め、自分を奮い立たせるため鬨の声を上げた。
「がんばれ美少女テトラちゃん! おーっ!」
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手早く方針を確認したハンター達は馬に乗り、あるいは馬車に乗り込み配置につく。やがて車輪が転がり、一行は目的地へ向けて進み始めた。
Uisca Amhran(ka0754)とハーレイが馬車の前を先導するように馬に乗って進む。イスカの馬には何やら荷物らしきものがついている。
「念のための保険……ですよ」
出発直前、イスカは何やら作業をしていた。手にした浮き輪に布を巻き、馬に括りつける。これが荷物のように見えたものの正体だ。これを使う時が来なければいいと思いつつ、緊張感を持って馬を進める二人。特にイスカはエルフならではの鋭敏な感覚で持って蟻一つ見逃さないとばかりに進んでいた。
「この辺りは主戦場から距離はありそうだが……どうなるかね」
そんなイスカへ、馬車の後ろに位置取ったジャックが声をかける。一歩ずつ進むたびに血の匂いが濃くなっていく気がした。間違いなく自分たちは戦場の方へ向かっている。手綱を持つ手が汗にぬれる。だが、そんな緊張感をジャックは心のどこかで楽しんでいた。
一方、三人の間にある馬車、その左右にはテトラとテリアが歩みを合わせて進んでいた。そしてモアと仙道、鵤、それに璃袈の四人が馬車の中に入る。ジャックの言う通りここはまだ戦場から離れている。だが、それとトラブルがやってくるかは別の話だ。
「何がおこるかわからない以上、注意は怠らない様にしないとね」
仙道はそう自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
●
「あの一つ目はサイクロプスか……。マトモにやり合える相手じゃ無えな」
「っと、お出ましか。巨人ってのは、発見は楽なんだがなっ」
前にいるハーレイにはもちろん、後ろにいるジャックにもわかる。視界の先に見えたのはサイクロプス、怠惰の軍勢の一員だ。だが、幸いまだ敵に気づかれていない。迂回すれば交戦は避けられる。ならば……
「おっきいですねぇ~……けど、今日はお相手している余裕は無いのです。また今度、遊びましょうねっ」
璃袈のその言葉を残して、先を進む。
だが、やがて選択肢は無くなっていった。距離的にここを抜ければ、目的地までそう遠くはない。だが、左に行っても右に行っても崖の下。前に進めばサイクロプス達。だがここで後ろに戻る、という選択肢は無い。ならば。
「ここを突破するしかないのなら、突っ切るまでですっ」
イスカはその声とともに馬に拍車をかけると一気に走りだした。
「まずはこれね」
モアも併せて馬車を加速させようとしたその時、テリアが聖句を唱え始める。左手で手綱を握ったまま、右手で左手に受けられた腕輪を触れる。すると淡い光が彼女の右手を包んだ。そして聖句を完成させると同時に右腕を振るう。
すると振るった手から放たれた光が馬車を包む。包まれた光はそのまま保たれ、馬車に襲い来る危害から守る。
その時、サイクロプスが投げつけてきた石……いや、この大きさでは岩と呼ぶべきか。それが馬車に向かって飛来した。岩は山なりの機動を描き馬車に向かって飛んでくるが、わずかに逸れ馬車とジャックの間に落ちた。
「ひゅう、危ねーな! ハハッ、さすがにアレは受けらんねーわ」
後ろに控えるジャックは進路を少し反らせ岩をかわす。
だが、攻撃はどんどん激しくなっていった。次々と降り注ぐ岩。多くは離れた位置に落ちるが、その内何個かが馬車に襲いかかる。
そこで仙道は意識をぐっと集中する。そして岩がもうぶつかる、そう思えた時窓から身を乗り出し、杖を持った右腕を突き出す。するとマテリアルによって形成された火が岩に向かって飛んでいき、ぶつかった瞬間その軌道をもう一度跳ね上げた。
高く飛び上がった岩は馬車の上を越え、既に通り過ぎた場所に落ちる。ほっと胸を撫で下ろす仙道。だがその時彼が見たものは、もう一度こちらに飛んでくる岩であった。
ぶつかる。そう思った時黒い塊が背中越しに飛来した。それはそのまま岩にぶつかり、それを砕く。バラバラと小さな石つぶてが馬車に辺り音を立てるが、傷ついた様子はない。
この黒い塊を放ったのはイスカだった。上手く行った事を確認すると、彼女はさらに馬を加速させ前へと出て行く。
「敵の攻撃なんて無視無視! 一目散に駆け抜けちゃえーっ!」
そしてイスカに張り合うかのように、テトラも馬を走らせる。もちろん右側にも岩は向かってくる。だが彼女はスピードに任せてかわす、というか岩を置き去りにすると、サイクロプスの目めがけ手裏剣を投げつけた。
手裏剣は空を切り巨人に向かう。だが、さすがにこれだけの距離は届かない。しかし、巨人も自分に向けられた悪意に黙っているわけではなかった。
その時、璃袈は飛んで来る岩の量がぐっと減ったことを感じた。その理由は程なくしてわかる。馬車から見て右側にいるサイクロプス達は、岩を馬車ではなくテトラの方へと集中させていたのだ。ならば左側からくるものと流れ弾に注意する。そのため、まず璃袈は盾を取り出した鵤へマテリアルを流し込んだ。すると鵤の体が淡く光る。
「馬車の揺れとか彼我の動きとか、不安要素は多いですけれど……だ、大丈夫です、計算は機導士の十八番ですって!」
そして彼女は構えた魔導銃のトリガーを引いた。銃口から発射された弾丸は岩の雨を貫くように飛び、一つの岩の中心にピンポイントでヒット。ややあって岩は爆発するように砕け散った。
そして飛んできたもう一発の岩に対しては、馬車の後方から身を乗り出した鵤が対処する。まず籠手に埋め込まれたデバイスのキーを叩くと、うっすらと光るガラス板の様なものが展開される。そこに唸りを上げて飛んでくる岩。そのままガラス板にぶつかると、板は一瞬で砕け散った。だが、岩もその勢いを落とす。後は鵤が盾を構え岩を受け止める。
「あらよっとぉ! ……ったく、派手な攻撃してくれるねぇ。おっさん腰やられちまうぜ」
そう愚痴をこぼしながら鵤の体には傷ひとつついていない。三つの力が岩を完全に受け止めてみせた。
「モアさんのしようとしている事は、人に物を届けるだけでなく、人と人を繋ぐ大事な仕事……」
そしてイスカはさらに加速していた。そこに向けても岩は飛んでくるが、彼女の盾がその軌道を反らし馬車に近づけさせない。降り注ぐ雨に対して傘を差すように、岩の雨を突き破っていく。
「だから、必ず守ってみせます!」
そこに出来た隙間を馬車が駆け抜ける。岩は決して彼らを傷つけることはなかった。
「やはー! あたし今、風になってるの! 誰もあたしに追いつけないのさ!」
一方右側に張り出したテトラの元にも、また岩が殺到していた。だが、岩すらも追いつかない。あとはこの一帯を抜けるだけ。そう思った時だった。サイクロプスの投じた会心の一投がテトラの右足を捉えた。テトラはなんとか馬を守りぬくが、強烈な衝撃にバランスを崩す。そして、そこにもう一つの岩が飛んできた。
ばっと血飛沫が飛ぶ。その岩はもろにテトラの頭部に衝突した。視界に流れ込む血。朦朧とする意識。だが、彼女が守った馬はスピードを落とすこと無く走り続け、何とかイスカに追いついた。
●
状況に気づいたイスカはすぐさま精霊に祈りを捧げる。すると柔らかな光がテトラの体を包み、傷を塞いでいく。流れ落ちる血が止まり、体勢を立て直したテトラ。だが、その目に映ったものはもうひとつの災厄だった。
「……ったく、一難去ってまた一難。新手がおいでなすったぜ……!」
そう漏らすハーレイの先に居たのはオーガが4体。3体が横に並び馬車の行く先を塞いでいる。これをかわして進もうにも、そうすればまたも岩の雨の中に逆戻り。ならば、やることは一つしか無い。
覚悟を決めたハンター達が動く。まずイスカは馬を止め、ダミーの荷物を取り外して投げつける。オーガ達は単純に、人間共を皆殺しにして荷物を全部奪う、そう思っていたようだがそれでも一瞬気を取られる。
それだけあれば十分だ。テリアは経典のページを素早くめくり、そこに記された聖句を読み上げる。
「マギア経典第2章34節、『汝己の道を塞ぐ者に出会ったなら、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす』」
そして彼女が右手を振るうと、ハーレイが手にした槍が光を帯びる。それを受けて彼は馬を走らせ、
「――悪ィな? 追い剥ぎにくれてやるモンなんざぁ、何も無いんだよ」
そのまま渾身の力で目の前のオーガに槍を突き刺した。ブスリと土手っ腹を貫く槍。だが敵も怠惰の歪虚、それだけで倒れず、殺到してきた残りの二体と共にハーレイに襲いかかる。ハーレイは一撃目を交わし、二撃目と三撃目を腕と脚で受け止める。その馬鹿力を活かした一撃は彼の体を深く傷つけるが、しかしまだ倒れない。
一方馬車の後方では、鵤がまだ襲い来る岩達をときには盾で受け止め、時には銃弾で反らした。もうすぐ進めば岩の射程から外れる。そこまであと少し。前でオーガを攻め立てる者達を信じて、ひたすら耐え抜いた。
一方前方で攻撃を受けたハーレイは一旦退く。それに呼吸を合わせる様にテリアが再び聖句を唱えると、ハーレイの受けた傷が癒やされていく。
そして再び飛び出し繰り出されたハーレイの槍は今度こそオーガの急所を捉えた。中央に構えていたオーガの体が倒れていく。
仲間がやられたことに怒りを露わにして、馬車から見て左側に居たオーガが突っ込んでくる。その大きな体で持って、テリアを弾き飛ばしながら馬車に体当たりを食らわせようという算段だ。
「ハッハー! しつこい客引きはご遠慮くださいってか」
だが、そこに後ろからジャックが飛び出してきた。マテリアルを武器に込め、そのまま一気に振り下ろす。
剣の直撃を受けたオーガに仙道が追い打ちのファイアアロー。それは頭に直撃し、のたうち回らせる。
そしてそんな敵の横を黒い塊が飛んで行く。イスカが放ったそれは一直線に走り、後ろで待ち構えていたオーガに衝突。さすがによろめくオーガ。
その時、馬車の右側では璃袈がしっかりと狙いを定めていた。一気に倒すのなら眉間の間を通すような一発。それを確実に叩きこむ。だが、これは1ミリでもずれれば失敗する。
ならば……璃袈は照準をすっと下げ、オーガの膝に向けた。狙いがあったら迷いなくトリガーを引く。響く銃声。そして放たれた銃弾は正確無比に狙いを捉えた。膝から血を吹き出し、崩れる様に転がるオーガ。
「今だ! 行くぜ!」
その瞬間を見逃さず、ジャックは馬を加速させた。倒れたオーガの間を抜け、奥に待つ敵の元へ走るジャック。奥に居た奴も視界を取り戻し、向かってくるジャックを待ち構える。
そして両者がぶつかる、そう思われた時だった。曲芸の様に馬から身を乗り出しつつ一気に進行方向を90度曲げるジャック。そのまま遠心力を使って剣を地面すれすれで振るう。その刃は思い切りオーガの足を払い綺麗に転倒させた。
「あーばよ、巨人ども! 次の機会にゃトコトンやろーぜ!」
起き上がろうともぞもぞと動くオーガが見たのは走り去るジャックの背中だった。そのさらに先には馬車の姿。ジャックの仕掛けにまんまと引っかかり、無残にも置き去りにされるオーガ達が残されていた。
●
オーガ達を抜ければあとはあっさりとしたものだった。何事も無く目的地に付き、素早く取引を終え帰り道につく一行。行きとは違い、多少の遠回りはしたものの何事も無く戦場を抜ける。あとは街道にそって馬を進めれば終わる。
「……よ! お疲れさん。気分はどうだ?」
葉巻を燻らせながらハーレイはそうモアに尋ねる。
「安心でしたよ。信じていましたから」
それに対するモアの答えはあっさりとしたものだ。
「も、モアさんが信じるのは勝手だけど、やっぱり命がけはあんまりやりたくないかも!」
その言葉を聞いて、思わず本音を漏らすテトラ。
「辺境の品が高く売れるんでしたっけ……」
「お馬さん達もよくがんばってくれたね、ありがとう 」
一方璃袈がおみやげを確認したりイスカが馬を撫でている最中、
「そういやモア、今回えらく報酬を弾んでもらってるけどよ。この取引でどれぐらい儲けが出るのか、こっそり教えてくんね?」
ジャックはそう、モアに尋ねた。
「それは秘密ですね。ただ、皆さん方に報酬を払っても黒字になるということですよ」
そう返すモアの言葉に大体の額面を把握し、
「まあそうだよな」
そうニヤリと笑うジャックであった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/17 01:04:43 |
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相談卓 Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/04/20 01:51:25 |
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質問卓 Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/04/19 14:17:10 |