ゲスト
(ka0000)
【不動】軍人であるということの、意味
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/20 22:00
- 完成日
- 2015/05/18 12:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
それは、辺境での戦いに帝国軍を派遣することが決まった、少し後のことであった。
兵営に戻り、自室に引き取ったグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)は、机に肘を突きじっと一点を見つめて考え込む。
「……今まで、考えたこともありませんでしたわ……」
じじ、と獣脂のランプが音を立てる中、少女の呟きは夜闇に溶けて行った。
「近いうちに、またライブを開催してもらいたい」
そうヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)から直々に言われて、グリューエリンは了解いたしました、と頷く。
「辺境にても歪虚との大きな戦が行われるとのこと、私の歌がお役に立てますならば」
「うむ。もちろんその戦いとも関係することなんだが……」
そう、いつもと同じ微笑を浮かべて皇帝が口にしたのは、グリューエリンが思いもよらぬことであった。
「そもそも今回の辺境への派兵は、反対の方が多いんだ」
「……なにゆえ、ですか? 帝国の理念は、歪虚に対する人類の盾。であれば、帝国軍が今回の戦いに行かぬ理由はございませんのに」
「理想を言えばね」
真っ直ぐなグリューエリンの瞳を、ヴィルヘルミナも真っ直ぐに見つめ返す。
「もちろん、辺境への派兵は私も必要だと思っている。けれど、『自国の兵士を殺して自国以外を救うことに意味があるのか』とか、『国内の統治も行き届かない面があるのに派兵している暇があるのか』という声は確かに存在するんだ」
そう、市井に響く反対の声をはっきりと口にする皇帝に、グリューエリンは言葉も返せずにぎゅっと唇を引き結んだ。
「政治に対する批判の声もあるし、そういうことをしている組織も存在する。だからこそ、そういう派兵に対する不安を抱えている国民から、不安を取り除くことは大事なんだ」
「わかりました。人々の不安を取り除くようなライブを行えばいいのですね」
そう言ったグリューエリンに、けれどヴィルヘルミナは頷かなかった。
「グリューエリン、この機会に君も考えてみるといい」
「え……?」
「なぜ、帝国は。軍人は。そしてアイドルであり軍人である君は、歪虚と戦うんだい?」
「それは」
「歪虚と戦うのが帝国の存在意義だから? ならば、その存在意義は何のためにある?」
動こうとしたグリューエリンの唇が、ぴたりと止まる。
その様子に皇帝は、柔らかに笑って立ち上がり、ぽんとグリューエリンの肩を叩いた。
「そろそろ君も、そういうことを考えてみるべきだ。君は、アイドルとして兵士達を鼓舞し、ある意味では導く存在なのだからね」
その言葉にグリューエリンは、ただ頷くことしかできなかった。
――あれから、考え続けている。
けれど、わからない――己が、帝国が、戦う理由。
いや、ないわけではないのだ。けれど。
己が戦う理由は、『戦場に背を向けて逃げ出した父と同じにならないため』。
帝国が戦う理由は『そのために帝国は生まれたのだから』。
それ以上に、考えが進まない。
ライブの期日はもう決められている。それまでに……!
「……1人で焦っても仕方ありませんわ」
結局、グリューエリンは考えを打ち切って立ち上がり、勢いよく部屋を出た。
行く先は、ハンターズソサエティ。
「一緒に、考えてほしいのです。私だけでは、この壁を超えられないと思うのです」
そう言ってグリューエリンは、集まったハンター達に頭を下げた。
兵営に戻り、自室に引き取ったグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)は、机に肘を突きじっと一点を見つめて考え込む。
「……今まで、考えたこともありませんでしたわ……」
じじ、と獣脂のランプが音を立てる中、少女の呟きは夜闇に溶けて行った。
「近いうちに、またライブを開催してもらいたい」
そうヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)から直々に言われて、グリューエリンは了解いたしました、と頷く。
「辺境にても歪虚との大きな戦が行われるとのこと、私の歌がお役に立てますならば」
「うむ。もちろんその戦いとも関係することなんだが……」
そう、いつもと同じ微笑を浮かべて皇帝が口にしたのは、グリューエリンが思いもよらぬことであった。
「そもそも今回の辺境への派兵は、反対の方が多いんだ」
「……なにゆえ、ですか? 帝国の理念は、歪虚に対する人類の盾。であれば、帝国軍が今回の戦いに行かぬ理由はございませんのに」
「理想を言えばね」
真っ直ぐなグリューエリンの瞳を、ヴィルヘルミナも真っ直ぐに見つめ返す。
「もちろん、辺境への派兵は私も必要だと思っている。けれど、『自国の兵士を殺して自国以外を救うことに意味があるのか』とか、『国内の統治も行き届かない面があるのに派兵している暇があるのか』という声は確かに存在するんだ」
そう、市井に響く反対の声をはっきりと口にする皇帝に、グリューエリンは言葉も返せずにぎゅっと唇を引き結んだ。
「政治に対する批判の声もあるし、そういうことをしている組織も存在する。だからこそ、そういう派兵に対する不安を抱えている国民から、不安を取り除くことは大事なんだ」
「わかりました。人々の不安を取り除くようなライブを行えばいいのですね」
そう言ったグリューエリンに、けれどヴィルヘルミナは頷かなかった。
「グリューエリン、この機会に君も考えてみるといい」
「え……?」
「なぜ、帝国は。軍人は。そしてアイドルであり軍人である君は、歪虚と戦うんだい?」
「それは」
「歪虚と戦うのが帝国の存在意義だから? ならば、その存在意義は何のためにある?」
動こうとしたグリューエリンの唇が、ぴたりと止まる。
その様子に皇帝は、柔らかに笑って立ち上がり、ぽんとグリューエリンの肩を叩いた。
「そろそろ君も、そういうことを考えてみるべきだ。君は、アイドルとして兵士達を鼓舞し、ある意味では導く存在なのだからね」
その言葉にグリューエリンは、ただ頷くことしかできなかった。
――あれから、考え続けている。
けれど、わからない――己が、帝国が、戦う理由。
いや、ないわけではないのだ。けれど。
己が戦う理由は、『戦場に背を向けて逃げ出した父と同じにならないため』。
帝国が戦う理由は『そのために帝国は生まれたのだから』。
それ以上に、考えが進まない。
ライブの期日はもう決められている。それまでに……!
「……1人で焦っても仕方ありませんわ」
結局、グリューエリンは考えを打ち切って立ち上がり、勢いよく部屋を出た。
行く先は、ハンターズソサエティ。
「一緒に、考えてほしいのです。私だけでは、この壁を超えられないと思うのです」
そう言ってグリューエリンは、集まったハンター達に頭を下げた。
リプレイ本文
帝都バルトアンデルスの広場にて準備が進められる野外ステージ。グリューエリンは軍服姿でその作業を遠巻きに眺めていた。
「こんにちは! また会えたわね」
ヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)の明るい呼び声に少し間を置いてグリューエリンは振り返った。
「お久しぶりですわ。本日も宜しくお願い致します」
「ええ、久しぶりね♪ でも、何かお悩みのようだけれど」
クレア グリフィス(ka2636)の質問に僅かに俯き、視線をステージへ向けながら少女は語り出した。
今日はいつものようにライブの手伝いを依頼したいのは勿論の事だが、皇帝から投げかけられた言葉の答えを得る為にハンターを呼び出したという側面もあると。
「……そうか。皇帝がそんな事を」
興味深そうにスピノサ ユフ(ka4283)が呟く。グリューエリンは少しだけ申し訳なさそうに。
「思えば私は何かあれば皆様に頼り、その言葉を借りてここまでやってきたように思います。陛下にはっきりと答えを出せなかったのも、私の不徳の致す所ですわ」
「悩みを打ち明ける事は、決していけない事ではないわ。迷いは誰でも抱く物だもの」
「最も愚かしいのは、思考を止めてしまう事だ。私も戦いについては考える事が多い。容易く答えを得られる物ではないが、大切なのはそれと向き合う事にあるのだと思うよ」
優しく笑いかけるケイ・R・シュトルツェ(ka0242)に続きスピノサも微笑む。
「ご迷惑とは存じますが、一緒に、考えてほしいのです。私だけでは、この壁を超えられないと思うのです」
「……問題ない。私達はその為に来たのだからな。それに今のグリューエリンについては、私にも責任の一端がある」
腕を組み頷く蘇芳 和馬(ka0462)。青年はそのままグリューエリンに話を促し。
「まずは今の自分の考えを聞かせて欲しい。纏まっていなくても構わない」
こうして広場に集まった一行にグリューエリンは語り出した。
勿論、理由がないわけではないのだ。だがそれは「戦場から逃げた父と同じになりたくない」という、言わば受動的な動機だ。
そもそも理由が必要なのだろうか? 帝国軍は人類の守護者であり、歪虚と戦うのは当然の筈。
「成る程。そこでループしている、というわけか」
納得したように頷く和馬。ヴィンフリーデは苦笑を浮かべ。
「陛下らしいわね。一人一人に戦いの意義を問うなんて」
「ヴィルヘルミナ陛下は、グリューエリンなりに“導く者”としてのビジョンを示せと仰りたいのではないか?」
首を傾げるグリューエリンに和馬は続ける。
「この問題はアイドルであり軍人である者にとって、いずれぶつかる壁だ。良い機会だろう」
「戦う理由……守りたいものがあるから……それだけではダメなのかな?」
フノス=スカンディナビア(ka3803)はぽつりと呟く。
色々と考えてみたが、フノスにはそうややこしい問題には思えなかった。
「勿論、私も守りたいと考えています。この街も、この国も、そこに暮らす人々も。しかし、陛下への答えとしてこれは適切なのでしょうか?」
「どうして? 守る為に戦う……素敵な理由じゃない」
微笑むケイ。ヴィンフリーデも頷き。
「少なくともあたしはそうよ。家族と自分自身の誇りを保つ為にはこうするしかなかった」
「己が身と大事なモノを守るため……それは生き物としてごく当然の動機だ」
和馬の言う通り、人でも動物でもそれは変わらない。身を守る為に戦う。歪虚と人間の戦いは、規模は違えどそういう事である。
「私も誇りを守る為に戦っています。であるのなら、私も同じ理由で戦っているのでしょうか?」
「ふむ。冷静に分析ができているにしては、納得が行かない様子だね?」
スピノサの指摘通り、いまいちしっくりこない。納得はしている。しかし霧が晴れるような感覚はなかった。
「では、少し考えを掘り進めて見てはどうだろう。守る、という事柄について」
「守るという事は、軍人であるということの意味にも通じていると思わない?」
そう語りかけながらケイは広場の周囲に視線を向ける。
町中を歩く人々。ステージの準備を進めるスタッフ。会場を警備している軍人と、ここからでも様々な人が見える。
「軍人が守るのは、戦う術を持たない者を守る為。守ると言っても色々な方法、対象があるわ。貴女達の言う誇りもそうだけれど、中でも軍人は直接的な危害から民を守る為にある」
ふっと息を吐き、ケイは問う。
「ねぇ、グリューエリン。貴女の目の前で戦う力を持たない妊婦さんと子供が襲われそうになっていたら?」
「当然、助けますわ」
「そうよね。それは国の為なのかしら?」
それは違う。例えばその弱者の前提が帝国民ではなかったとしても、行動は変わらない。
「国の為に戦う……それが軍人なのかもしれない。けれど、あたしはそんな小さな命を守る事が根源にあるのだと、そう思うわ」
「“軍”というのは“役割”なのよ。使命と言い換えてもいいわ。そして軍人の使命は無力な人々を守る事」
続けるようにヴィンフリーデは語り出す。
「農民が安心して畑を耕せるように、彼らの代わりに剣を取り盾を持つ。鍬を持つ手が、糸を繰る手が、剣を取らなくてもいいようにね」
「そうね。そういう意味じゃ、フノスの言うように“守りたいから”という答えが沢山積み重なったものが、“軍”なのかもしれないわね♪」
「……個の思いは軍人、総意は軍と成り、帝国の礎となる」
そんなクレアと和馬の言葉にもグリューエリンの顔色は晴れない。むしろ悩みが深まったかのように見える。
スピノサはそんなグリューエリンの苦悩に想いを馳せる。
少女は素直で、そして聡い。ハンターの言葉が理解出来ないのではない。むしろその逆……。
「……どうだろう。少し街を歩いてみては? 民の不安を和らげたいと思うなら、あなたも民の事を知らなくては」
軍服姿のグリューエリンは至極地味であり、歩いた所で誰に声をかけられるでもなかった。
「流石は帝都、様々な人種、職種の人々が行き交っている。これだけの在り方が許容された中で、一つ限りの正しさを定めるのは愚かしいと思わないか?」
歩きながらスピノサは語る。
「この国は戦いのために産まれた。確かに、今もそうだ。だが総ての命ある者がそうであるように、国には多様な心を持った人が住む。だから、現に革命が起きた。革命の前後で、民やあなたの心に、何の動揺も無かったろうか」
「それは……」
「民の不安は不穏な未来への物。家族が出兵する人もいる。戦いが長引けば税はどうなるか……何れも生活に根差した不安だ」
「その不安を取り除く為に、グリューエリンちゃんも歌っているんでしょ?」
フノスの問いには答えられなかった。そのつもりだが、即答できない。スピノサは目を細め。
「正直な所、私にも正解はわからない。もう随分そんな事を探求してきたが、もしかしたらわからなくて良い事なのかもしれないね。結局私達に出来るのは、己の心に正直になる事……ただそれだけだ」
「皆そうやって“闘って”いるのよ。“たたかい”には二種類あるわ。物理的な戦いと、精神的な闘いよ」
「精神的な闘い……?」
「日々、あたし達は……歪虚達だけとではなく、自分自身とも闘っているのではない? グリューエリン。貴女が今、迷いを持っているのも“闘い”だと思うわ。そうして、この帝国内でも派兵問題や不安、憤り……これもきっとそう」
誰もが皆、闘っている。そんなケイの言葉にグリューエリンは人々を見つめる。
雑踏の中で立ち止まった背中は、アイドルという華やかな言葉とは裏腹に、迷子のように小さかった。
時は平等に流れ続ける。悩む者もそうでない者にも夕暮れは訪れる。
夜に開かれるライブまで間もなく。衣装に着替えたグリューエリンは舞台裏で空を見上げていた。
「今、ケイが前座で舞台に上がったわ。もう少しで出番だけど……」
声をかけ、ヴィンフリーデは腰に片手を当て。
「アイドルがそんな浮かない表情でいいのかしら?」
「そんな顔をしていましたか?」
舞台に上がったケイは一礼しつつ思う。客入りが少ないと。
こんな時期のライブだ、当然と言えば当然かもしれない。動揺する必要はない。グリューエリンに繋げる為にも、場を温めなければ。
「皆様のお話をお伺いして、納得したのです。しかし陛下はきっと、私個人の理由を訪ねていたように思えるのですわ」
すっと息を吸い込み、ケイはマイクに唇を寄せる。真っ白なドレスに風が吹き込み、裾を僅かに揺らした。
「――小さな花、小さな命、小さなしあわせ。どこにでもある優しい愛しい時間……」
「……その、個人の理由が見つからないと?」
壁に背を預けて聞いていた和馬の声にグリューエリンは頷く。
「民を守る事、国の為に戦う事、軍人として誇らしくある事……嘘ではございません。ですが、どの願いも私の胸の内から産まれ出た物ではないのです」
アイドルになったのだって、別にアイドルになりたかったからではない。
たまたま目の前にそういう手段があり、提示されたから飛びついただけ。
軍人としての誇りも、守るべき物も、全ては与えられたに過ぎない。
「それも……全ては、あの父から与えられたというように……思えてならないのですわ」
「ほらアナタの近くにも……ほらアナタの遠くにも、それは等価値、同じように大切な美しさ」
「――グリューエリン・ヴァルファーは忌まわしい過去に生かされている。その事実から逃げ込んだ先が、アイドルなのだとしたら……」
しっとりとした歌声が響く中、少女は胸に手を当てる。
「あたしだって同じような物よ。着飾って社交界で笑ってる自分が嫌で飛び出した。だけど後悔も悲観もしてないわ。逃げ出したのではなく、自分で選んだのだと胸を張って言えるから」
真っ直ぐにグリューエリンを見つめ、ヴィンフリーデは笑う。
「ねえ、貴女の事エリーって呼んでもいい?」
「え?」
「お友達になりましょう。私の事もフリーデって呼んで頂戴な」
「ねぇ 手を取り護りましょう。ねぇ 魂と共に歌いましょう。小さな花、小さな命、小さな幸せ。何処にでもあるそこに届くように――」
差し伸べられた手。少女はぎこちなく握り返す。
「あたしね、お裁縫もお掃除も苦手なの。だからあたしはあたしの得意な“戦う”って事で役割を果たす。精一杯生きるってそういう事だと思うから」
それが仮に、消極的な選択肢だったとしても。
「エリーにも、エリーにしかできない事、あるでしょう?」
ステージから歓声が聞こえる。ケイの歌が終わったのだ。ヴィンフリーデは槍を担ぎ。
「場は持たせてあげる。ちゃんと笑って上がって来なさい!」
去っていく背中に声をかけられないグリューエリン。和馬は肩を並べ。
「……スピノサが言っていたな。帝国は戦う為に生まれてきたと。しかし、先人達全員が戦う為に生まれてきたのか?」
否。人は多様性の生き物だ。それを説かれたばかりではないか。
「どのような状況下でも、生き抜く事とは戦いだ。逃げる事すら、自身との“闘い”になるだろう。しかし多くの者は何かを守り、明日に繋げる為に己が命を盾とし、剣としたのではないか?」
「それは……」
父も、と言いたいのか。
「グリューエリン。そこに何を見出す? 何を掲げ民を導く?」
自らの心の闇と、葛藤と向き合うのは困難を極める。
アイドルと言えども彼女はまだ少女だ。がむしゃらで居れば覗きこまずにいられた闇も、気づいてしまえば果てしない。
「……スピノサはこうも言っていたな。“己の心に正直になるしかない”と。私もそう思う。これに正しい結論など無い」
「では、私は何を信じれば良いのでございますか? 陛下にどのような答えを返せば……」
「大事な事は唯一つ、掲げた結論を貫き通す事だ。どの様な結論を掲げるのであれ、私はそれを支えよう」
ある意味において突き放すような言葉に少女は戸惑う。
きれいな理由は沢山ある。正義と呼ぶべき、きらきらとした光。けれどそれだけに殉じられる程、少女は強くはない。
「私は……」
ハンター達の言葉を思い返し。そしてフノスの言葉を過ぎらせる。
守りたいものがある。それだけじゃダメなのか?
「ダメじゃない……」
単純な事でも、積み重ねて行く事に意味がある。
「今の私に出来る事……」
それしか出来なかったとしても、考え方一つ。逃げたと思うのか。それでも選んだのか。
「逃げたくありません。私はただ……まだ、どこにも逃げたくはないのですわ」
「なら、逃げるな。最後まで逃げずに、戦場に立ち続けろ」
力強く肩を叩く和馬に少女は頷き返す。逃げたくない。だから戦う。色々あるが、一番の気持ちはそれだけ。
ただの負けず嫌いで理由をぶっちぎる。そんな結論があったって、誰も否定出来る筈もない――。
「どうやら目指すモノが見えてきたみたいね?」
くすりと笑いながら背後から声をかけるクレア。至近距離で向き合っていた二人は一歩ずつ交代し。
「出番だよ、グリューエリンちゃん!」
「え、ええ。出番でございますね。そ、それでは参りましょうか」
「あ、ああ」
フノスに手招きされややぎこちなく歩き出す二人。
「ステージに上がる理由はそれぞれ違ってても、目的の達成に繋がるものがあるなら、歌い続ける事に価値はあるんじゃないかな」
並んで歩きながらフノスは頷く。
「……歌おう! それぞれの抱える理由の為に!」
「どうやら、正直になれたようだね」
ライブステージに集まる人集りを隔てた後方、スピノサはビラの束を片手に微笑む。
少しでも集客を高めようとビラを配り歩き、ステージに集まるように呼びかけていた。ケイやヴィンフリーデのステージもあり、舞台はいつも通りに盛況である。
しかし実際に街を歩いていたスピノサだからわかる。このライブへの反応は両極端であり、立ち寄るどころか疎ましく思う者もいるのだと。
ビラを受け取るどころか絡んでくる者までいた。それを思えば、やはり彼女の歩く道は単純ではないし、簡単でもないのだろう。
「一曲だけでも、ちゃんと聞かせて貰おうか」
まだ配るべきビラは残っているが、今はその手も足も止めて。
ステージに上がった、燃えるように真っ赤なドレスを纏った少女に心の中で声援を贈ろう。
少しだけ、胸の奥の闇と向き合った少女は、真っ直ぐに観客と向き合って。マイクを手に取り、息を吸う。
今はただ、この戦場に立つ事。それが答えだと、まだ遥か遠くに立つ皇帝に、答えを返すように――。
(代筆:神宮寺飛鳥)
「こんにちは! また会えたわね」
ヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)の明るい呼び声に少し間を置いてグリューエリンは振り返った。
「お久しぶりですわ。本日も宜しくお願い致します」
「ええ、久しぶりね♪ でも、何かお悩みのようだけれど」
クレア グリフィス(ka2636)の質問に僅かに俯き、視線をステージへ向けながら少女は語り出した。
今日はいつものようにライブの手伝いを依頼したいのは勿論の事だが、皇帝から投げかけられた言葉の答えを得る為にハンターを呼び出したという側面もあると。
「……そうか。皇帝がそんな事を」
興味深そうにスピノサ ユフ(ka4283)が呟く。グリューエリンは少しだけ申し訳なさそうに。
「思えば私は何かあれば皆様に頼り、その言葉を借りてここまでやってきたように思います。陛下にはっきりと答えを出せなかったのも、私の不徳の致す所ですわ」
「悩みを打ち明ける事は、決していけない事ではないわ。迷いは誰でも抱く物だもの」
「最も愚かしいのは、思考を止めてしまう事だ。私も戦いについては考える事が多い。容易く答えを得られる物ではないが、大切なのはそれと向き合う事にあるのだと思うよ」
優しく笑いかけるケイ・R・シュトルツェ(ka0242)に続きスピノサも微笑む。
「ご迷惑とは存じますが、一緒に、考えてほしいのです。私だけでは、この壁を超えられないと思うのです」
「……問題ない。私達はその為に来たのだからな。それに今のグリューエリンについては、私にも責任の一端がある」
腕を組み頷く蘇芳 和馬(ka0462)。青年はそのままグリューエリンに話を促し。
「まずは今の自分の考えを聞かせて欲しい。纏まっていなくても構わない」
こうして広場に集まった一行にグリューエリンは語り出した。
勿論、理由がないわけではないのだ。だがそれは「戦場から逃げた父と同じになりたくない」という、言わば受動的な動機だ。
そもそも理由が必要なのだろうか? 帝国軍は人類の守護者であり、歪虚と戦うのは当然の筈。
「成る程。そこでループしている、というわけか」
納得したように頷く和馬。ヴィンフリーデは苦笑を浮かべ。
「陛下らしいわね。一人一人に戦いの意義を問うなんて」
「ヴィルヘルミナ陛下は、グリューエリンなりに“導く者”としてのビジョンを示せと仰りたいのではないか?」
首を傾げるグリューエリンに和馬は続ける。
「この問題はアイドルであり軍人である者にとって、いずれぶつかる壁だ。良い機会だろう」
「戦う理由……守りたいものがあるから……それだけではダメなのかな?」
フノス=スカンディナビア(ka3803)はぽつりと呟く。
色々と考えてみたが、フノスにはそうややこしい問題には思えなかった。
「勿論、私も守りたいと考えています。この街も、この国も、そこに暮らす人々も。しかし、陛下への答えとしてこれは適切なのでしょうか?」
「どうして? 守る為に戦う……素敵な理由じゃない」
微笑むケイ。ヴィンフリーデも頷き。
「少なくともあたしはそうよ。家族と自分自身の誇りを保つ為にはこうするしかなかった」
「己が身と大事なモノを守るため……それは生き物としてごく当然の動機だ」
和馬の言う通り、人でも動物でもそれは変わらない。身を守る為に戦う。歪虚と人間の戦いは、規模は違えどそういう事である。
「私も誇りを守る為に戦っています。であるのなら、私も同じ理由で戦っているのでしょうか?」
「ふむ。冷静に分析ができているにしては、納得が行かない様子だね?」
スピノサの指摘通り、いまいちしっくりこない。納得はしている。しかし霧が晴れるような感覚はなかった。
「では、少し考えを掘り進めて見てはどうだろう。守る、という事柄について」
「守るという事は、軍人であるということの意味にも通じていると思わない?」
そう語りかけながらケイは広場の周囲に視線を向ける。
町中を歩く人々。ステージの準備を進めるスタッフ。会場を警備している軍人と、ここからでも様々な人が見える。
「軍人が守るのは、戦う術を持たない者を守る為。守ると言っても色々な方法、対象があるわ。貴女達の言う誇りもそうだけれど、中でも軍人は直接的な危害から民を守る為にある」
ふっと息を吐き、ケイは問う。
「ねぇ、グリューエリン。貴女の目の前で戦う力を持たない妊婦さんと子供が襲われそうになっていたら?」
「当然、助けますわ」
「そうよね。それは国の為なのかしら?」
それは違う。例えばその弱者の前提が帝国民ではなかったとしても、行動は変わらない。
「国の為に戦う……それが軍人なのかもしれない。けれど、あたしはそんな小さな命を守る事が根源にあるのだと、そう思うわ」
「“軍”というのは“役割”なのよ。使命と言い換えてもいいわ。そして軍人の使命は無力な人々を守る事」
続けるようにヴィンフリーデは語り出す。
「農民が安心して畑を耕せるように、彼らの代わりに剣を取り盾を持つ。鍬を持つ手が、糸を繰る手が、剣を取らなくてもいいようにね」
「そうね。そういう意味じゃ、フノスの言うように“守りたいから”という答えが沢山積み重なったものが、“軍”なのかもしれないわね♪」
「……個の思いは軍人、総意は軍と成り、帝国の礎となる」
そんなクレアと和馬の言葉にもグリューエリンの顔色は晴れない。むしろ悩みが深まったかのように見える。
スピノサはそんなグリューエリンの苦悩に想いを馳せる。
少女は素直で、そして聡い。ハンターの言葉が理解出来ないのではない。むしろその逆……。
「……どうだろう。少し街を歩いてみては? 民の不安を和らげたいと思うなら、あなたも民の事を知らなくては」
軍服姿のグリューエリンは至極地味であり、歩いた所で誰に声をかけられるでもなかった。
「流石は帝都、様々な人種、職種の人々が行き交っている。これだけの在り方が許容された中で、一つ限りの正しさを定めるのは愚かしいと思わないか?」
歩きながらスピノサは語る。
「この国は戦いのために産まれた。確かに、今もそうだ。だが総ての命ある者がそうであるように、国には多様な心を持った人が住む。だから、現に革命が起きた。革命の前後で、民やあなたの心に、何の動揺も無かったろうか」
「それは……」
「民の不安は不穏な未来への物。家族が出兵する人もいる。戦いが長引けば税はどうなるか……何れも生活に根差した不安だ」
「その不安を取り除く為に、グリューエリンちゃんも歌っているんでしょ?」
フノスの問いには答えられなかった。そのつもりだが、即答できない。スピノサは目を細め。
「正直な所、私にも正解はわからない。もう随分そんな事を探求してきたが、もしかしたらわからなくて良い事なのかもしれないね。結局私達に出来るのは、己の心に正直になる事……ただそれだけだ」
「皆そうやって“闘って”いるのよ。“たたかい”には二種類あるわ。物理的な戦いと、精神的な闘いよ」
「精神的な闘い……?」
「日々、あたし達は……歪虚達だけとではなく、自分自身とも闘っているのではない? グリューエリン。貴女が今、迷いを持っているのも“闘い”だと思うわ。そうして、この帝国内でも派兵問題や不安、憤り……これもきっとそう」
誰もが皆、闘っている。そんなケイの言葉にグリューエリンは人々を見つめる。
雑踏の中で立ち止まった背中は、アイドルという華やかな言葉とは裏腹に、迷子のように小さかった。
時は平等に流れ続ける。悩む者もそうでない者にも夕暮れは訪れる。
夜に開かれるライブまで間もなく。衣装に着替えたグリューエリンは舞台裏で空を見上げていた。
「今、ケイが前座で舞台に上がったわ。もう少しで出番だけど……」
声をかけ、ヴィンフリーデは腰に片手を当て。
「アイドルがそんな浮かない表情でいいのかしら?」
「そんな顔をしていましたか?」
舞台に上がったケイは一礼しつつ思う。客入りが少ないと。
こんな時期のライブだ、当然と言えば当然かもしれない。動揺する必要はない。グリューエリンに繋げる為にも、場を温めなければ。
「皆様のお話をお伺いして、納得したのです。しかし陛下はきっと、私個人の理由を訪ねていたように思えるのですわ」
すっと息を吸い込み、ケイはマイクに唇を寄せる。真っ白なドレスに風が吹き込み、裾を僅かに揺らした。
「――小さな花、小さな命、小さなしあわせ。どこにでもある優しい愛しい時間……」
「……その、個人の理由が見つからないと?」
壁に背を預けて聞いていた和馬の声にグリューエリンは頷く。
「民を守る事、国の為に戦う事、軍人として誇らしくある事……嘘ではございません。ですが、どの願いも私の胸の内から産まれ出た物ではないのです」
アイドルになったのだって、別にアイドルになりたかったからではない。
たまたま目の前にそういう手段があり、提示されたから飛びついただけ。
軍人としての誇りも、守るべき物も、全ては与えられたに過ぎない。
「それも……全ては、あの父から与えられたというように……思えてならないのですわ」
「ほらアナタの近くにも……ほらアナタの遠くにも、それは等価値、同じように大切な美しさ」
「――グリューエリン・ヴァルファーは忌まわしい過去に生かされている。その事実から逃げ込んだ先が、アイドルなのだとしたら……」
しっとりとした歌声が響く中、少女は胸に手を当てる。
「あたしだって同じような物よ。着飾って社交界で笑ってる自分が嫌で飛び出した。だけど後悔も悲観もしてないわ。逃げ出したのではなく、自分で選んだのだと胸を張って言えるから」
真っ直ぐにグリューエリンを見つめ、ヴィンフリーデは笑う。
「ねえ、貴女の事エリーって呼んでもいい?」
「え?」
「お友達になりましょう。私の事もフリーデって呼んで頂戴な」
「ねぇ 手を取り護りましょう。ねぇ 魂と共に歌いましょう。小さな花、小さな命、小さな幸せ。何処にでもあるそこに届くように――」
差し伸べられた手。少女はぎこちなく握り返す。
「あたしね、お裁縫もお掃除も苦手なの。だからあたしはあたしの得意な“戦う”って事で役割を果たす。精一杯生きるってそういう事だと思うから」
それが仮に、消極的な選択肢だったとしても。
「エリーにも、エリーにしかできない事、あるでしょう?」
ステージから歓声が聞こえる。ケイの歌が終わったのだ。ヴィンフリーデは槍を担ぎ。
「場は持たせてあげる。ちゃんと笑って上がって来なさい!」
去っていく背中に声をかけられないグリューエリン。和馬は肩を並べ。
「……スピノサが言っていたな。帝国は戦う為に生まれてきたと。しかし、先人達全員が戦う為に生まれてきたのか?」
否。人は多様性の生き物だ。それを説かれたばかりではないか。
「どのような状況下でも、生き抜く事とは戦いだ。逃げる事すら、自身との“闘い”になるだろう。しかし多くの者は何かを守り、明日に繋げる為に己が命を盾とし、剣としたのではないか?」
「それは……」
父も、と言いたいのか。
「グリューエリン。そこに何を見出す? 何を掲げ民を導く?」
自らの心の闇と、葛藤と向き合うのは困難を極める。
アイドルと言えども彼女はまだ少女だ。がむしゃらで居れば覗きこまずにいられた闇も、気づいてしまえば果てしない。
「……スピノサはこうも言っていたな。“己の心に正直になるしかない”と。私もそう思う。これに正しい結論など無い」
「では、私は何を信じれば良いのでございますか? 陛下にどのような答えを返せば……」
「大事な事は唯一つ、掲げた結論を貫き通す事だ。どの様な結論を掲げるのであれ、私はそれを支えよう」
ある意味において突き放すような言葉に少女は戸惑う。
きれいな理由は沢山ある。正義と呼ぶべき、きらきらとした光。けれどそれだけに殉じられる程、少女は強くはない。
「私は……」
ハンター達の言葉を思い返し。そしてフノスの言葉を過ぎらせる。
守りたいものがある。それだけじゃダメなのか?
「ダメじゃない……」
単純な事でも、積み重ねて行く事に意味がある。
「今の私に出来る事……」
それしか出来なかったとしても、考え方一つ。逃げたと思うのか。それでも選んだのか。
「逃げたくありません。私はただ……まだ、どこにも逃げたくはないのですわ」
「なら、逃げるな。最後まで逃げずに、戦場に立ち続けろ」
力強く肩を叩く和馬に少女は頷き返す。逃げたくない。だから戦う。色々あるが、一番の気持ちはそれだけ。
ただの負けず嫌いで理由をぶっちぎる。そんな結論があったって、誰も否定出来る筈もない――。
「どうやら目指すモノが見えてきたみたいね?」
くすりと笑いながら背後から声をかけるクレア。至近距離で向き合っていた二人は一歩ずつ交代し。
「出番だよ、グリューエリンちゃん!」
「え、ええ。出番でございますね。そ、それでは参りましょうか」
「あ、ああ」
フノスに手招きされややぎこちなく歩き出す二人。
「ステージに上がる理由はそれぞれ違ってても、目的の達成に繋がるものがあるなら、歌い続ける事に価値はあるんじゃないかな」
並んで歩きながらフノスは頷く。
「……歌おう! それぞれの抱える理由の為に!」
「どうやら、正直になれたようだね」
ライブステージに集まる人集りを隔てた後方、スピノサはビラの束を片手に微笑む。
少しでも集客を高めようとビラを配り歩き、ステージに集まるように呼びかけていた。ケイやヴィンフリーデのステージもあり、舞台はいつも通りに盛況である。
しかし実際に街を歩いていたスピノサだからわかる。このライブへの反応は両極端であり、立ち寄るどころか疎ましく思う者もいるのだと。
ビラを受け取るどころか絡んでくる者までいた。それを思えば、やはり彼女の歩く道は単純ではないし、簡単でもないのだろう。
「一曲だけでも、ちゃんと聞かせて貰おうか」
まだ配るべきビラは残っているが、今はその手も足も止めて。
ステージに上がった、燃えるように真っ赤なドレスを纏った少女に心の中で声援を贈ろう。
少しだけ、胸の奥の闇と向き合った少女は、真っ直ぐに観客と向き合って。マイクを手に取り、息を吸う。
今はただ、この戦場に立つ事。それが答えだと、まだ遥か遠くに立つ皇帝に、答えを返すように――。
(代筆:神宮寺飛鳥)
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談場所 スピノサ ユフ(ka4283) 人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/04/16 20:06:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/20 07:59:09 |